[書評]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
[書評]のメルマガ vol.788

■■------------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ                2024.03.10.発行
■■                              vol.788
■■ mailmagazine of book reviews     [「ザックバラン」な精神 号]
■■------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
■コンテンツ
----------------------------------------------------------------------

★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<169>トンカちゃんのこと

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→150 伝えること

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです。

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

----------------------------------------------------------------------
■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
----------------------------------------------------------------------
<169>トンカちゃんのこと

 “トンカちゃん”が、去年の五月に亡くなっていた、と知ったのは、この二
月半ばだった。
 久しぶりに神戸で時間が取れそうだったので、これまでまだ未訪問だった新
しいお店へ、寄ってみようかな、とネットで場所を再確認するつもりで検索し
て、その逝去を知った。
 享年44。あまりに早い。早すぎる。その事実を知ってしばらくは、呆然とな
った。

 トンカちゃんとは、神戸・元町の裏通りにある古書店「森花書林」の店主
(だった)森本恵さんのこと。
 彼女を知ったのは、今の場所に店名変更して移転する以前、元町山手のトア
ウェストにあった「トンカ書店」時代だった。

 もう20年ほど前だ。当時仕事場を借りていた山手からほど近いトアウェスト
に、ある日「ザックバランな古本屋 トンカ書店」との看板を見つけた。
 なんだ? と、ビルの二階のその店へ入ってみたところが、本やら雑誌やら
雑貨やらを雑然と並べた店内のカウンターに座って、にこにこと微笑んでいた
のが彼女だった。

 店は、まさしく「ザックバラン」を体現するかの如く、ジャンルも何も関係
なく、本に雑誌に雑貨モロモロが、所狭しと積み上げられ、片隅には、当時ま
だ製造が細々と継続されていた、神戸ローカル飲料「ネーポン」を飲ませるコ
ーナーもあった。
 ネーポンの製造所は兵庫にあって、高齢のおばちゃんが一人で製造を続けて
いたそこまで、週に一度、自転車で仕入れに行く、と言っていた。
 ネーポンのコーナーの傍ら、ソファが据えられた一角は、小さなギャラリー
スペースになっていて、その時は、写真家の永田収さんの写真が何枚か掲げら
れていた。

 「トンカ書店」との店名がとても珍しかったので、「どういう意味?」と訊
いたら、「わたしの名前です」と笑って答えてくれた。
 当時はまだ結婚前で、「頓花恵」さんなのだった。
 商品である本も雑貨も、基本、お客からの買い取りで賄っていたらしいが、
古本修業は、学生時代の元町「ちんき堂」での店番だった、というだけあって、
昭和というか、70年代テイストがあちこちに感じられる店内だった。

 そんな店内はとても魅力的で、それ以後、近くを通るたびに寄るようになっ
た。
 積み上げてある本や雑誌の中から、思わぬ「お宝」が出てくることもままあ
った。
 今、手元にあるものでは、昭和39年発行の「なかよし別冊・リボンの騎士」
や、同じく昭和39年の「カッパ・コミクス 鉄腕アトム」、「少年マガジン」
の1970年2月1日号
、「ヤングコミック」1973年3月14日号、等々は、この当時にトンカ書店で手
に入れたものだ。
 それ以外にも、特に漫画やサブカル系では、「元・ガロ少年」の琴線に触れ
るブツが、よく見つかる店でもあった。

 そんな店の店主だったトンカちゃんは、当時はまだ二十代だったが、笑顔が
素敵なとても気立てのいい子で、お客の、ことに「昭和」なおっさん達にはフ
ァンが多くて、自分もその一人だった。
 2冊しかない自分の著書も、「置きますよ」と気軽に委託扱いで置いてくれ
て、定価で販売してくれた売上金を律儀に封筒に入れ、店に行くたび渡してく
れた。

 トアウェストのトンカ書店は、2017年だったかに、入っていたビルが老朽化
のため建て替えとなり、今の元町裏路地に移転した。
 当時すでに結婚して名字も変わっていたので、新規に「花森書林」として再
オープンしたそこへは、いつか行こうと思いながら、なかなか時間が合わず、
行けずにいた。
 そして今年2月の某日、所用で神戸に行く用事ができて、時間が取れそうだ
から「寄ってみるかな」と、店の場所を再確認するためにネットで調べたとこ
ろが、そこで彼女の逝去を知ったのだった。

 花森書林は、トンカちゃんの生前から手伝っていた弟さんが店を引き継ぎ、
現在も営業を続けている。
 2月某日、訪れてお悔やみを述べてきた。
 彼女の存命中に新しい店に行けなかったのが、返す返すも残念だったのだが、
弟さんによると、病気のことは誰にも告げず、死の、かなり間際まで店に立ち
続けていたらしい。

 お店の様子は、以前の「トンカ書店」そのままだった。
 そして弟さんもまた、生前の彼女と同じように、肩ひじ張らずに無理もせず、
ごく自然体でもって、店をやっておられるようにお見受けした。

 神戸は、東京・神田に次いで、古本屋の密集度の高い街だ、とは、1970年代
の野坂昭如のエッセイにあった一節だ。
 しかし、かつては三宮・元町近辺のそこここにあった古本屋は、次々と廃業
し、三宮に限って言えば、今や古書店は「1軒きり」という状態だ。
 しかし、この「花森書林」のような「ニューウェーブ系」の古本屋もまた、
ぽつぽつと出現してきている。

 花森書林には是非ともに、肩ひじ張らない遊び精神でもって、トンカちゃん
の「ザックバラン」な精神を引き継いでいってもらいたい、との思いを強くし
ながら、小雨の元町を後にしたのだった。


太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。

----------------------------------------------------------------------
■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
----------------------------------------------------------------------
150 伝えること

 今年の冬はことのほか雪が少なかったので、少し降るだけでも冬はまだ存在
すると安心してしまうほどでした。私の住んでいるところでは、2月より3月
の方が雪が降っていると感じるほど、ここ最近は冬らしい天気が続いています。

 とはいえ、復旧途中の場所では寒さはこたえます。能登の復旧がすこしでも
すみやかにすすみますように。


 さて、先日オンラインでおもしろいトークイベント『科学を伝える絵本の舞
台裏』に参加しました。

「科学」「絵本」と、気になるワードが2つも入っているのですから、そそら
れます。オンラインでも参加できたのはうれしいことで、コロナによってオン
ラインがかなりすすんだおかげです。

 イベント主催は、科博SCAのワーキンググループ。
 科博SCAとは、国立科学博物館サイエンスコミュニケータ・アソシエーション
のこと。国立科学博物館サイエンスコミュニケータ養成実践講座の修了者有志
によって構成されています。同講座の「人々に知を伝え、人々の知をつなぎ、知
を社会に還元する」を共通の理念とし、修了生の実践活動をサポートすることを
目的に結成された会と、HPに紹介されていました。国立科学博物館とは独立
した団体です。

 https://kahakusca.edoblog.net/aboutus

 福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を3人の子どもたちが小さいときか
ら読んでいて、いまも私は読み続けているわけですが、それは書かれている内容
が大人でも興味深く、おもしろいからです。

 今回のトークイベントでも、「たくさんのふしぎ」の著者、編集者も参加され
ているとあったので、よけいに聞きたかったのです。

 最初の登壇者は、農学博士のイラストレーター、きのしたちひろさん。
「たくさんのふしぎ」では『なぜ君たちはグルグル回るのか、海の動物たちの謎』
のイラストを担当されています。

 自身が子どものときから生き物、特に海の生き物が好きで、博士にまでなった
きのしたさん。イラストは、海の生き物たちのことを伝えるすぐれたツールだと
いうお話をされていました。
 研究者ということで、あれこれ伝えたいことをもりこみすぎてしまうところを
編集者の客観的な指摘で整理されながら、『なぜ君たちはグルグル回るのか、〜』
が完成されていった話とともに、指摘前、指摘後の絵を実際にみせてくださり、
興味深く見入りました。

 次の登壇者は鈴木俊貴さん。動物言語学、とくにシジュウカラ科の鳥類の鳴き
声の意味や文法構造を研究され、絵本『にんじゃ シジュウカラのすけ』(世界
文化社)を監修されています。
 実際のシジュウカラの鳴き声を聞かせていただき、その文法を解説いただい
たのですが、本当に鳴き声が伝えたいことによって変わっていて、驚きました。
研究をもとに、絵本がつくられていて、ぜひ読まねばと思っています。

 最後の登壇者は福音館書店で「たくさんのふしぎ」を編集されている、北森芳
徳さん。きのしたさんの『なぜ君たちはグルグル回るのか〜』も編集されたそう
です。著者らとともに、様々な場所で一緒にいろいろ考えてつくられていくこと
をお話しくださり、なかでも印象に残っている作品として『うんこ虫を追え』
(舘野鴻)をあげられていました。本書は5月に、たくさんのふしぎ傑作集の一
冊として単行本で刊行されるようです。

 それぞれのお話の後、質問コーナーもあり、どんな子ども時代だったのかとい
う質問では、みなさん、ちょっと変わっていた、好きなことにとことん集中する
タイプだったそうなので、好きを追求していまの仕事をされているのだなと、過
去と現在がつながっていることが素直にすごいと思いました。

 編集の北森さんが、「たくさんのふしぎ」では写真絵本も多いのですが、写真
はやはり現地に行かれてのものなのでとても力があると仰っていて、実は私も購
入するものは、写真ものが多かったのですが、今回きのしたさんのお話や絵を拝
見して、さっそく取り寄せてみました。イラストだからこそ、細部まで紹介でき
ることもあると仰っていたきのしたさんの言葉は、絵をみるととても納得でした。

 続けてご紹介するのは、一般書ではありますが、鳥好きの方なら高校生くらい
からでも楽しめる本です。

『鳥が人類を変えた 世界の歴史をつくった10種類』
       スティーブン・モス 宇丹貴代実 訳 河出書房新社

 世界を変えた10の鳥として、
 ワタリガラス、ハト、シチメンチョウ、ドードー、ダーウィンフィンチ類、
 グアナイウ、ユキコサギ、ハクトウワシ、スズメ、コウテイペンギンがとりあ
げられ、人間と鳥の関係において、世界の歴史をつくっていったことが紹介され
ています。

 驚きます。

 特にグアナイウの糞を肥料として利用するために農業手法が劇的に変わり、す
さまじい影響をもたらせたことに、読んでいて思わず「え!」と声が出たほどで
す。
 個人的に鳥の糞といえば、上からぺちゃっと落ちてきて、車を汚すというくら
いのイメージだったのが、グアナイウの糞は、国家レベルであり、もたらす富と
ともに、採掘した中国人労働者の悲惨さには言葉がみつからないほどです。

 まさにタイトル通りの世界の歴史をつくった鳥たち。
 最後を締めるコウテイペンギンではきびしい環境危機が伝えられます。

 読んで終わりではなく、歴史を知りこれからどう行動していくことが未来につ
ながるのかを考え続ける本です。


 ノンフィクションが続いたので、物語もご紹介。


 『ナイチンゲールが歌ってる』
 ルーマー・ゴッデン 作 脇 明子 訳 網中いづる 絵
 岩波少年文庫

 以前、偕成社から『トウシューズ』(渡辺 南都子 訳)というタイトルで刊
行されていたものの、新訳です。

 ゴッデン自身もバレエの経験があり、バレエ教室も開いていたので、その経
験も下敷きになっているのでしょう。

 ひとりの才能ある少女ロッティの成長物語を起伏たっぷりに描きます。
 寄宿制の王立バレエ学校に入ることが決まってから、かわいらしい子犬と出
会うロッティ。しかし、その子犬と出会ったきっかけは、人に話せるものでは
ありません。プリンスと名づけたその子犬は、ロッティに光と影を与えます。

 バレエ学校での切磋琢磨の日々、一緒に学校に入ったアイリーンとの関係、
同じくバレエ・ダンサーを目指すサルヴァトーレとの出会い。

 小さなハプニングあり、大きな事件もあり、ゴッデンの緻密なストーリー展
開にひきこまれました。

 子どものときの欲しいものを手に入れたい執着心も思い出しました。
 欲しい、でも手に入れることはふつうだったら難しい。
 じゃあ、どうすれば手に入れられるのか。
 それはたいてい、よくない方法になってしまう。
 ゴッデンはそういう強い気持ちを丁寧に描いています。

 網中いづるさんの挿絵もどれもすてきでした。


 
(林さかな)
https://1day1book.mmm.page/main

----------------------------------------------------------------------
■献本読者書評のコーナー(応募要項)
----------------------------------------------------------------------

 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
 https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html

・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
 https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

----------------------------------------------------------------------

 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
 *送付先が変わりました!*

 〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
       一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
----------------------------------------------------------------------

 確定申告終わりました。しかし毎年毎年、ぎりぎりに大変な思いをしていて、
とはいえ、ちゃんとお金の管理をしようと思うのはこの時期だけですね。困っ
たもんです。(あ)

======================================================================
■電子メールマガジン「[書評]のメルマガ」(毎月二回発行)
■発行部数 2521部
■発行:[書評]のメルマガ発行委員会
■掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。
■COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
■ご意見・御質問はこちらまで info@shohyoumaga.net
■HPアドレス http://www.shohyoumaga.net/
■このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。
■メールマガジンIDナンバー 0000036518
■購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。
======================================================================

| バックナンバー | 07:23 | comments(0) | -
SEARCH
[書評]のメルマガ
本の虫の出版業界人が<徹夜した本>や<繰り返し読んだ本>、さらに新聞記者、出版編集者、プロの書評家による気鋭の書評など、書評メルマガの決定版。
発行周期発行周期:月4回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000036518

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

フリーラーニング Free-LearninG For Your Extention コーチ募集(コーチングバンク) 灰谷孝 ブレインジムラーニング 無料 コーチング 東京新都心ロータリークラブ カーディーラー経営品質向上 相続・遺言なら新都心相続サポートセンター 夢ナビ 実践写真教室 フォトスクール「橋本塾」 無料 eラーニング CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC 「付加価値型」会計アウトソーシング−株式会社サンライズ・アカウンティング・インターナショナル
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2024 >>
ARCHIVES
LINKS