[書評]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
[書評]のメルマガ vol.639

■■------------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ                2017.10.10.発行
■■                              vol.639
■■ mailmagazine of book reviews    [クマは結局どうするのかな 号]
■■------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
■コンテンツ
----------------------------------------------------------------------

★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→田亀と参助、“男”漫画の復権

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→WEB上のクラブ やまねこ翻訳クラブ20周年

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→戦争から生還した人々の生きてきた道・・・米国人が聞いてみた

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→20年早かったインターネットサービス?の誕生

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 コアマガジンWeb事業部副編集長 稲野辺達也様より、下記の書籍を献本い
ただきました。

・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_024.html

 ちょっとびっくりしましたが、ありがとうございます!

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

----------------------------------------------------------------------
■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
----------------------------------------------------------------------
<94>田亀と参助、“男”漫画の復権

 「Bromance(ブロマンス)」という言葉を、最近知った。

 アメリカで生まれた造語で、「brother」と「romance」を組み合わせたその
言葉は、友情というよりもなお濃い信頼関係で結ばれてはいるが、その関係性
は恋愛関係ではなく、したがって肉体関係もない男同士の友人、と、まあ、平
たく言うとそんな意味らしい。

 ただ今は、かつてのいわゆる「バディ・ムービー」のいくつかが、「ブロマ
ンス・ムービー」として、再定義がなされているそうだ。

 で、我がニッポン漫画の世界で、この「ブロマンス」を、ただ今もっとも熱
く体現していると評判なのが、山田参助『あれよ星屑』だ、とネットで検索を
繰り返すうち、知った。

 作家も作品も全然知らなかったので、「どんなンかなァ?」と、電子書籍の
「試し読み」で1巻の冒頭部数十ページを読んでみた。衝撃を受けた。これま
でこの作品と作家を知らなかった不明を恥じた。

 翌日、書店へ走って、エンターブレインから出ている、その1巻を即購入。

 主人公・黒田門松は、中国戦線から復員してきた、髭もじゃでクマのような
大男。
 その黒田が復員後に立ち寄った東京の闇市で、戦時中に上官だった川島と再
会。黒田は、ふとした行きがかりから、川島の闇市での商売を手伝うこととな
り、直情型で力自慢、バイタリティ溢れる黒田と、なにやら厭世的でインテリ
な川島とのコンビは、闇市やパンパン、それらを取り仕切るヤクザ組織と関わ
りながら、戦後の混乱期を逞しく生き抜いていく……という物語だと思うのだ
が、まだ2巻までしか読んでないので、物語がこの先どういう風に流れていく
のかは、わからない。

 単行本は、ただいま6巻まで出てるそうなのだが、全巻一気に読んでしまう
よりは、1巻ずつ、じっくりあじわいつつ読もうと思い、月に2巻ずつ買うこ
とに決めたのだった。

 映画『兵隊やくざ』シリーズでの、勝新と田村高廣を彷彿する(多分、この
コンビを念頭にキャラ造形したんじゃないかな?)、黒田・川島、二人の人物像
が、まず「いい!」のだ。

 このコンビを取り囲む人々の造形もまた、そのバックボーンも含めてすごく
丁寧に緻密に作りこまれている。
 さらに、人物だけでなく、彼らがその棲家とする戦後闇市の世界もまた、ま
るで見てきたようにリアルに再現されている。

 買ってきた1巻を読み進むうち、ふと、以前この欄で触れた黒岩重吾の『さ
らば星座』と、バロン吉本『昭和柔侠伝』を思い出した。
 ともに、同じ時代とモチーフだというのもあるが、バロン吉本に関しては、
よく見ると全然似てないのだけど、やたらと「昭和」な絵柄と画面全体の空気
が、妙に似通っているのだ。

 絵柄でいうと、そのバロン吉本に「かわぐちかいじ」を混ぜ込み、「つげ義
春」の風味をつけた…と言ったらイメージしてもらえる…かな?
 変形コマと裁ち切りをほとんど使わない、とても古風でオーソドックスなコ
マ割りもまた、わしら世代の漫画読みには、とても優しい。

 その古風な構成と絵柄で、主人公である黒田・川島はじめ、男たちの造形も
見事で、黒田・川島が、勝新・田村高廣とすると、戦死した彼らの戦友の兄で、
なにかと面倒見のいいヤクザの「金子」は、さしずめ成田三樹夫か松方弘樹?

 さらに、女たちの造形がまた、ひとりひとりの個性が際立っていて、すこぶ
るにいい。
 同じく昭和の銀幕スターに喩えれば、そこには、健気な倍賞千恵子がいる。
勝ち気で男勝りな京マチ子もいれば、鉄火肌な江波杏子、生意気で小悪魔な加
賀まりこ、おきゃんな松島トモ子もいて、実に多彩なのだ。

 この漫画ではまた、黒田と川島の中国戦線での出会いや、その戦中のエピソ
ードが、折に触れ回想として語られるのだが、黒田やその兵隊仲間が、外出日
に「ピー屋(慰安所)」へ行くくだりでは、片言の日本語を操る朝鮮人と思し
き慰安婦が、大挙して押しかける兵たち相手に分刻みで客を取る様もまた、臆
面もなく描かれている。

 朝鮮人慰安婦たちが相手を務める「ピー屋」に行列する兵たちの姿は、水木
しげる『総員玉砕せよ!』でも描かれていたが、『あれよ星屑』では、中国人
捕虜の虐待もまた、作中で淡々と描かれる。
 事実を事実としてありのままに描く姿勢もまた、この漫画の骨格を逞しくし
ている、と思う。

 山田参助は、1972年生まれ。大阪芸大在学中にゲイ雑誌である「さぶ」への
投稿をきっかけとして、その後「さぶ」やその他ゲイ雑誌に漫画やイラストを
描くかたわら、自主製作映画に関わったり、風俗情報誌でのレポートや、吉本
興業のチラシのイラスト、はては児童向け絵本の作画まで手掛けていたそうだ。

 今回、この山田参助がかつてゲイ雑誌に連載した作品を集めた『十代の性典』
(太田出版)も、取り寄せて読んでみた。
 この本は、かつて同じ太田出版から『若さでムンムン』というタイトルで発
売された短編集を、『あれよ星屑』のヒットを受け、これに便乗する形で、新
作を加えて復刻したものらしい。

 帯に「これは、BLなのか…!?」との惹句が踊るその漫画は、確かに男子×男
子の恋愛を扱ってはいても、女子好みのいわゆる「BL」とはほど遠い、汗臭く、
毛むくじゃらの高校生たちが、やけにリアルなペニスからほとばしるザーメン
をまき散らしながら、想いを寄せる男子をめぐって、悶えに悶える漫画だ。

 これは、山上たつひこ、70年代の名作『喜劇新思想大系』(ご存知でしょう
か? その後の『がきデカ』の原点とも言えるギャグ作品です)のゲイ版だな、
と思ったのだった。

 毛むくじゃらで「ぽっちゃり」な大男、あるいは筋骨たくましいゲイ・キャ
ラクターを、斯界では「クマ系」と呼ぶ…というのも、いろいろ調べてるうち
に、初めて知った。

 山田参助と同じく、主にゲイ雑誌で、漫画やイラストを発表してきた田亀源
五郎は、ご本人もまた、その容貌はまさに「クマ系」で、自らゲイであること
を公言しているそうだ。

 その田亀が、初めてゲイ雑誌以外の一般誌に連載した『弟の夫』(「月刊ア
クション」連載、単行本は双葉社刊で全4巻)は、立派なエンターテインメン
トでありながら、現代の日本に、ゲイの立場から問題を提起する社会派漫画で
もある。

 主人公・弥一はバツイチで10歳の娘と二人暮らしの中年男性。10年前にカナ
ダに渡り、ほとんど音信不通だった双子の弟が亡くなり、その「夫」が彼を訪
ねてくる。弟はゲイで、かの地で男同士で結婚していたのだった。

 初めて会った「弟の夫」は、むくつけき「クマ系」白人で、ゲイである彼と、
どう接したらいいのか弥一は混乱し、悩むのだが、10歳の娘は、初対面から打
ち解け、父の弟の夫、すなわち自分にとっては「叔父さん」ということも、す
んなりと、素直に理解してしまう。

 そんな娘を見るにつけ、弥一のこころも次第に打ち解け、やがて、弟がカナ
ダへ「逃避」し、その後ほとんど音信不通になったのは、弟にゲイだと打ち明
けられた後の、自分の態度にあったのではないかと思い至るようになる。

 ゲイに対する差別や偏見は、自分では「ない」つもりではあったが、しかし、
心の奥底に確かにあったと今は思える「恐れ」を、弟は敏感に察したのではな
いか、と。

 「弟の夫」である「マイク」は、かつて弟から「日本には、ゲイに対する差
別はない」と聞かされていた、と弥一に語るのだが、それを聞いて弥一は、複
雑な感情を持つ。

 井田真木子のルポルタージュ『もうひとつの青春 同性愛者たち』(文春文
庫)に、その弥一が感じた「複雑な感情」が語られている。
 確かに、欧米と違って、同性愛が宗教的タブーだったり、犯罪だったりした
歴史は、日本にはない。

 欧米では、だから同性愛者たちは、そのタブーを打ち破り、自分たちの存在
権を主張するために立ち上がり、声をあげねばならなかったのだが、日本では
ずっと「陰」の存在として認識されていて、たとえば男同士のカップルを街で
目撃しても「見なかった」ことにされ、確かにそこに存在するのに「なかった」
ことにされる、それが一番つらい、と井田さんが取材した彼らは語っていた。

 『弟の夫』作中でも、弥一の娘「夏菜」が、「大好きな叔父さん」を仲良し
の同級生たちに紹介するために彼らを自宅に招くのだが、彼がゲイであると知
ったその母親が、婉曲に招待を断ってくる、というエピソードが描かれている。

 自分の阿呆をさらしてしまうが、実は、この漫画読むまで「ホモ」というの
が、全世界的に差別用語である、ということを知らなかった。
 でも、それは、おおかたの日本人の認識でもあると思う。

 現にどっかのテレビ局が、80年代のバラエティ番組で人気だった「ホモ田ホ
モ男」とかというキャラクターを復活させて、大顰蹙を買ってるそうだが、
「差別用語」に敏感なはずのテレビ局がこうなのだから、なにをかいわん、で
ある。

 その意味で、この『弟の夫』は、LGBTに対する入門書の趣もあり、全4巻読
んでみて、わしも少しは利口になったと思う。

 いずれにしても、田亀源五郎と山田参助、ちかごろずっと「女性勢力」に押
され気味だった漫画界に、久々に「男、おとこ」した作風、しかも妙に70年代
チックな画風の漫画が登場し、わし的にはとても嬉しい。

 この二人がともに、ゲイ雑誌から出現してきた、というのも決して偶然では
ないと思う。

 80年代、漫画専門誌ではないエロ雑誌から、新しい表現を切り開く才能が次
々と出現し、漫画に新風を吹き込んでくれた。
 あのときと同じような風が、今度はゲイ雑誌から吹き始めているのかもしれ
ない、と、妙にワクワクする今日この頃です。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

----------------------------------------------------------------------
■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
----------------------------------------------------------------------
76 WEB上のクラブ やまねこ翻訳クラブ20周年

 WEB上で活動している、やまねこ翻訳クラブをご存知でしょうか。

 http://www.yamaneko.org/

 1997年に発足し、翻訳児童書を軸にWEB上で翻訳勉強会をしたり読書会をし
たり、メールマガジンを発行するなどの活動をしているクラブです。

 私は産休時に、このクラブの存在を知り入会。
 ニフティのフォーラム時代から参加しています。
 地方にいても子どもが小さくても、自分の好きな時間にアクセスして大好
きな本の話ができる場は夢のような場所でどっぷりはまりました(笑)。

 今年2017年、やまねこ翻訳クラブは20周年を迎えました。
 私自身、メールマガジン「月刊児童文学翻訳」の編集長も2年ほど務め、
 出版社、翻訳者の方々のインタビュー、企画をたてて記事を書くことなど、
 ただ翻訳児童書好きの(翻訳者志望ではない)私にも勉強になることばかり
でした。

 いまは時間がなかなかとれず、会員らしいことができていないのですが、 
 20周年記念に今回はやまねこ翻訳クラブ会員の訳書をご紹介します。

 一冊めは、
 翻訳者も出版社もやまねこ翻訳クラブ会員によるものです。
 絵本の帯には、やまねこ20周年のロゴと共に、会員による推薦文も掲載され
います。

 『サンドイッチをたべたの、だあれ?』
 ジュリア・サーコーン=ローチ 作 横山 和江 訳 エディション・エフ

 森にすむクマが、いいにおいに誘われて、人間が収穫した木イチゴが積まれ
ているトラックに乗ってしまいます。たらふく食べてぐっすり眠って起きた場
所は森ではなく、人間の住む街でした。

 クマにとっては初めてみるものばかりの街の中、歩き回って公園にたどりつ
き、ベンチにあったサンドイッチを発見。さてさて、サンドイッチをクマは食
べたのでしょうか!?

 描かれるタッチはおてんとさまの陽射しを感じるようなあたたかさがありま
す。

 クマは結局どうするのかなと思って読んでいくと、へえ!と思うラストに、
まさにタイトルどおりと納得です。このひねり具合は、にやりとしますよ。

 さあ、はたして食べたのは誰でしょう!?

 絵も文章もアメリカ、ニューヨーク在住のジュリア・サーコーン=ローチが
描いています。学生時代はアニメーションを学び、その後絵本作家としてデビ
ュー。本書は4作目にあたり、2016年絵本作家に贈られるエズラ・ジャック・
キーツ賞の次点に選ばれています。

 訳者の横山和江さんは山形在住。読み物も絵本の訳書も出されていますが、
目利きの横山さんが刊行されるものはどれも読ませます。やまねこ翻訳クラブ
会員歴も長く、翻訳のほか、読み聞かせの活動もされています。

 刊行したエディション・エフは京都にあるひとり出版社。「手と心の記憶に
残る本づくり」をされていて、HPの会社概要は一読の価値あり。
 http://editionf.jp/about/
 
 二冊めは、

 『発明家になった女の子マッティ』
 エミリー・アーノルド・マッカリー 作 宮坂 宏美 訳 光村教育図書

 ノンフィクション絵本です。
 19世紀末のアメリカで活躍した女性発明家、マーガレット・E・ナイトを描
いたものです。

 マッティ(マーガレットの愛称)は、子どもの頃からの発明好きでした。
 2人のお兄さんのために、おもちゃや凧、そりをつくり、
 お母さんのためには、足をあたためる道具をつくりました。

 家は貧しく、マッティは小学校の教育しか受けていませんが、発明に必要な
力量を備えていたので、働きながら最終的にはプロの発明家として、22の特許
を取得し、90を超える独創的な発明を行ったそうです。

 作者は、聡明な彼女を繊細な線画で表現し、彼女の発明したものの図面も描
いています。

 女性であることの偏見をはねのけ、発明家として自立していく姿は、子ども
たちに、未来を切り開いていく具体的な力を見せてくれます。

 訳者の宮坂さんは、やまねこ翻訳クラブ創立メンバーのひとりです。マッテ
ィのように、とことん調べ物をし、やらなければならない事を的確に迅速にこ
なし、見事、翻訳家になりました。

 三冊めは、

 『クリスマスを救った女の子』
 マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本 詠美訳 西村書店

 昨年のクリスマスにご紹介した
 『クリスマスとよばれた男の子』シリーズ第2弾です。

 杉本さんの訳文はとてもふくよかです。言葉がやわらかく、読みやすく、杉
本さんが訳したものは物語の中にすっと入り込めます。なので、こういう魔法
の話はぴったりかもしれません。

 さて、物語です。
 サンタクロース(ファーザー・クリスマス)が誕生して、人間界の子どもた
ちにプレゼントを配ってから1年がたち、またクリスマスの季節がやってきま
した。

 一番最初にサンタを信じた少女アメリアは絶対に叶えてほしいクリスマスの
願い事をしてサンタクロースを待っていました。しかし、その年、サンタは誰
のところにも来なかったのです。
 サンタに大変なことが起きてしまったために……。

 クリス・モルドの挿絵は甘くなく、厳しい現実やつらい出来事も、いじわる
な人もリアルに描き、トロルやエルフまでもが絵空事ではない雰囲気を出して
います。

 マット・ヘイグのクリスマス物語は、決して型にはまったものではなく、願
うこと、望むこと、その気持ちが魔法を生む力になるというメッセージがまっ
すぐ伝わってきます。

 つらいことばかりが続くと、未来に対して前向きになるのがしんどくなりま
すが、アメリアやサンタクロースの逆境をはねのけていく姿から、願うことは
魔法の力につながると思えてくるのです。
 
「幸福。それに笑い。遊び。この三つは、人生をつくるのになくてはならない
ものだ」とサンタクロースはいいます。

 12月には少し早いですが、
 この三つを忘れずに、今年のクリスマスにはすてきな贈り物がみなさんに届
きますように!
 
(林さかな)
会津若松在住。
http://1day1book.strikingly.com/

----------------------------------------------------------------------
■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
----------------------------------------------------------------------
第94回 戦争から生還した人々の生きてきた道・・・米国人が聞いてみた

 戦後72年。戦争を経験した人々はどんどん減っている。直接の語り部が消滅
しかけている。それならば、今後は若い人がその代わりを務めなければならな
い。戦争体験者から直接聞くことは不可能でも、それを直接聞いた人から話を
聞くことは今後も可能だ。むろんその場合、聞いた人の考えや感情が入り込む。
しかしそれもよし、としなければならない。年月は容赦なく過ぎていき、すべ
ての出来事が歴史の遠い遠い彼方に去ってしまう。戦争とか災害とかそういう
ことは、忘れてしまってはいけないのだ。我々は常に戦争の惨状、災害の惨禍
を語り継ぎ、教訓にしていかなければいけない。

 そういう意味で、今回取り上げる書物はとても興味深いものである。なにし
ろ戦争体験者から聞いているのは、米国人なのだから。聞き役が勝利者の米国
人という処がとてもおもしろい。

『知らなかった、ぼくらの戦争』(アーサー・ビナード 編著)(小学館)
(2017年4月2日初版発行)

 本書は、ラジオの文化放送の番組「アーサー・ビナード『探してます』」の
うち、23名の戦争体験談を採録し、加筆・修正をして再構成したものであり、
聞き手はアーサー・ビナード氏。

 アーサー・ビナード氏は、1967年にミシガン州で生まれた。大学の時に日本
語と出会い、1990年23歳のときに単身、来日。以来27年間、日本に住み続け、
日本語で本も書いている詩人だ。

 本書には23名の“体験者”=“語り部”が登場する。全員、ビナード氏がイ
ンタビューをしている。
 軍国少女、真珠湾攻撃時の飛行士、日系米国人、北方領土在住者、兵器工場
勤労動員、BC級戦犯、戦艦武蔵の生き残り、硫黄島生き残り、海軍特別少年
兵、満州在住者、沖縄出身者、疎開せずに東京にいた噺家、広島生存者、長崎
生存者、空襲の語り部、GHQ在籍者・・・・・。

 登場するすべての人たちが、まさに輝かしい経歴を持っている。そしてこの
人たちを選んだビナード氏や関係者に敬意を表する。インタビューはおよそ2
年前の2015年に行われたものであるが、2017年9月現在、この中でもかなりの
方が鬼籍に入られた。

 ビナード氏の揺るぎない視点は、真珠湾攻撃が米国の策略で実行された、と
いうものだ。米国が連合国として第二次世界大戦に参戦するためには、米国市
民が犠牲となる何かしらの事件がなくてはならないと、米国政府は考えていた。
そしてそのために対日交渉を途中で打ち切り、日本が米国へ攻撃を仕掛けるよ
うに仕向け、実際にその試みは成功した、という視点。ビナード氏はかたくこ
の考えを信じている。そしてその意見を補完するように真珠湾攻撃に参加した
元戦闘機乗りにインタビューをして次の台詞を引き出した。曰く「空母は何隻
いたのか?」

 日本は米国太平洋艦隊の本拠地である真珠湾への奇襲攻撃を食わらしたが、
そこには戦艦が数隻しか停泊しておらず、航空母艦は一隻もなかった。もし本
当に不意打ちの奇襲攻撃だったなら、空母は必ず停泊していたはずだ、という。
米国政府は日本の攻撃を事前に察知していて、空母をすべて出港させていた。
偽装の奇襲において、さすがに空母を犠牲にするわけにはいかない、というこ
とだ。しかし、それは本当にそうなのか? 米国が参戦するために自国民を何
千人も犠牲にするのか。自国民をそんなに簡単に裏切ることができるのだろう
か。

 確かに、以後日本憎しの世論が形成され、米国民は一丸となって戦争への道
を歩み、圧倒的な物量で枢軸国に圧勝した。広島長崎も一般市民を標的にした
度重なる都市への空襲も卑怯な日本人に鉄槌を下す、という乱暴な論法で正当
化ししているし、米国に住み、米国市民権を持っている日系人を収容所に入れ
る蛮行、さらに占領した日本に対する態度など、もしかしたらすべてが米国政
府のシナリオどおりなのかもしれない。しかしそれではあまりにも悲しすぎる
し、第一に歴史を一面しか見ていないような気がするのである。

 本書はビナード氏が生存者にインタビューをして、そしてそれぞれのインタ
ビュー掲載後に彼の考えを述べているものであるが、この米国政府陰謀説をバ
ックボーンにして解釈しているのに、やっぱいすこし違和感を覚えるのだ。

 そうは云いつつも、さすがにビナード氏は詩人だけあって、ことばに対する
鋭さが違うのである。彼らの吐いた何気ないことばに反応し、それを手がかり
に想像力を働かせて戦争を表現しているのはさすがなのだ。一例を挙げる。

 BC級戦犯としてスガモプリズンに収容されていた元兵士にインタビューを
した時、ビナード氏は彼から「君は「狭間」ということばを知っているか?」
と聞かれた。そしてビナード氏は次のように応えた。

「国家がいっていることとやっていることがかみ合わない中で、自分が国を愛
してやったことが、犯罪として裁かれる。とんでもない話だと思います。責任
者の国家が責任回避に明け暮れて、飯田さん(元兵士)は個人として責任を背
負わされた。そしてそれを果たしつづけてきたんですね。」・・・・・この部
分で執筆子のわたしは泣いた。

 日本では「戦後」ということばは、1945年以降を指すことばであるが、米国
では「postwar」は必ずしも第二次世界大戦が終わってから後のことを指すわ
けではない。なぜかと云えば、その後も米国は世界中のあちこちで戦争をして
いるからだ。ビナード氏は日本に来てはじめて日本語の「戦後」に遭遇した。
米国は「戦後のない国」だから。そしてビナード氏は、この戦争体験の話がそ
の枠に収まらず、戦後をつくることにつながっていることに気づき、そして実
は彼自身の生き方にも多大な影響を与えていると、あとがきで正直に吐露して
いる。

 翻って、我が身に置き換える。戦争を知っている身内がどんどんいなくなっ
ているが、それでも若い時に祖母や伯父伯母、そして両親からさまざまな戦争
の話を聞いてきた。主に東京での戦争体験であるが、父の経験した3月10日の
東京大空襲の体験記は今思い出しても鳥肌が立つ。父が生き残ってくれたお蔭
でこの身がいまここに存在するわけで、社会の中に居場所を得て、こうして人
々に囲まれて生きているのである。そういうことに思い至ったとき、これが自
分の戦後なのか、と思わざるを得なかった。


多呂さ(総選挙ですよ。びっくり。なにが国難突破解散なんでしょうか)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

----------------------------------------------------------------------
■人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える/show-z
----------------------------------------------------------------------
20年早かったインターネットサービス?の誕生

『社長失格  僕の会社がつぶれた理由』
板倉雄一郎著 日経BP社 1998年11月

「世界の広告市場は今年、ネット広告がテレビ広告を抜く見込み」というニュ
ースが、先月の日本経済新聞朝刊に掲載されていました。なんでも、電通など
大手広告代理店が、デジタル媒体へのシフトに手間取っている間に、サイバー
エージェントをはじめとするインターネットベンチャーが力をつけ始め、、、
といった内容でした。

長らく広告といえば、テレビがその主役にありました。この10年ほどで、紙媒
体の広告なんかは、だいぶネットに置き換わってきた印象があるのですが、年
間の市場規模が2兆円(!)あるというテレビ広告にも、遂にネットが肩を並
べる時代になるとは。。。

日本におけるインターネットは、1995年に発表されたウィンドウズ95、そして
その3年後のウィンドウズ98により、急速に広まっていきました。

その当時、大学生になりたてだった僕も、自宅にパソコンが欲しくてしょうが
なかったのですが、1台20万円程度するパソコンは、時給900円のアルバイト
学生にとって高嶺の花。そこで授業の空き時間があると、大学内に1つだけあ
ったパソコンルームへとせっせと通い、パソコンをいじる日々を過ごしていま
した。

そういえば当時のインターネットって、まだ接続するのにダイヤルアップ回線
を使っていた時代です。今じゃギガなんて単位が普通に使われていますが、そ
れどころかメガにすらなっていない、キロの時代。接続クリックをすると、ま
ずパソコンから電話番号のプッシュ音が鳴って、その後に、ガガガ・・・ピー
ーって接続音がして。それが鳴りやんでから、無事につながってくれるのを、
画面を見ながらじっと待ったものです。

そんなインターネット草創期、国の規制緩和をはじめとするベンチャー優遇政
策が次々と打ち出され、日本では多くのネットベンチャー企業が生まれました。
“第三次ベンチャーブーム”として、括られる時代です。

本書は、そんなベンチャーブームが沸き起こる中で誕生した、ちょっと異色な
企業の末路までを描いたノンフィクション。ベストセラーとなった本ですので、
ご記憶に残っている方も多くいらっしゃるのではと思います。

著者であり、この物語の主人公でもある板倉氏は、1991年に株式会社ハイパー
ネットを創業。はじめは電話を利用した通信ビジネスなどを手掛けていたもの
の、95年9月“ハイパーシステム”というまったく新しい事業の構想に至りま
す。

ハイパーシステムは、ネット広告を活用した無料のインターネットプロバイダ
ー事業でした。会員ユーザーがこのサービスを使ってインターネットに接続し
ている間は、メインのブラウザとは別のところに小窓が出て、自動的に広告を
配信するシステムです。企業から1件あたりいくらの広告料を取ることで、会
員ユーザーはプロバイダーを無料で利用できるーーーそんなビジネスモデルが
脚光を浴び、96年10月には“ニュービジネス大賞”を受賞しています。

しかし日本を飛び越え、一気に米国ナスダックでの上場まで目指していたハイ
パーネットは、銀行の無担保過剰融資、その後のBIS規制による貸し渋りな
ど、当時の世相の影響をモロに受けることで、翌97年末には37億の負債を出し
て破産、板倉氏自身も自己破産に至ります。

創業者社長の視点で、事業構想の経緯、資金のやりくり、その調達先である銀
行やVCとの生々しいやりとり、そして著者の元を離れていく社員の話などが、
小説と見まがうほどリアルに描写されているのが本書最大の特長です(しかも
企業名、個人名ともにすべて実名なのがすごい・・・)。今回、久しぶりに手
に取ってみたのですが、話の展開に引き込まれ、2日間ほどで一気に読み進め
てしまいました。

で、読み終えて思ったのは、、、インターネット広告がようやくテレビ広告を
抜くほどの規模感となった今の状況を、著者はどう受け止めているんだろうか、
ということです。

ハイパーシステムが稼働し始めた96年は、インターネット広告自体、まだ黎明
期。Yahoo! JAPANが始まったのが同年のことですし、グーグルが創業するのは、
それからさらに2年後のことです(日本への進出はさらにその先)。当時多く
の起業家が、インターネットは間違いなく新しいメディアになると確信し、熱
に浮かされるような形で様々な企業、そしてサービスが生み出されたものと思
います。しかしその中で、どのくらいのスピードでインターネットが普及し、
どのくらいの規模のビジネス市場が生まれるかを、冷静に予測した起業家は皆
無だったのではないかと。

世の中でネット広告という市場自体が、これから形成されていくという時期に、
さらにそこにプロバイダーを組み合わせ、他より一歩先を行く事業を展開しよ
うとしたことは、ビジネスとして、あまりに早すぎたと言わざるを得ません。
結果的に、ネットがテレビに追いつくまでには20年かかったという事実を、
当時の起業家としてどう感じるか、気になるところです。

ただ、インターネット広告市場が成熟した現時点においても、ハイパーネット
と類似したビジネスモデルって見あたらないんですよね。ということは、市場
規模の拡大スピードを正確に予測できたとしても、ハイパーシステムは成功し
なかったかも・・・?勿論、ビジネスにタラレバの話はナンセンスではあるも
のの、事業構想とは、本当に難しいものと感じます。


show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

----------------------------------------------------------------------
■献本読者書評のコーナー(応募要項)
----------------------------------------------------------------------

 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_024.html

・『ミスなくすばやく仕事をする技術』(秀和システム)
 http://www.shuwasystem.co.jp/products/7980html/5125.html

・『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

----------------------------------------------------------------------

 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
----------------------------------------------------------------------

 10月になりましたが、暑い日も涼しい日もあり、初秋の趣です。今年もあと
3カ月、早いものです。(あ)

======================================================================
■電子メールマガジン「[書評]のメルマガ」(毎月二回発行)
■発行部数 3237部
■発行:[書評]のメルマガ発行委員会
■掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。
■COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
■ご意見・御質問はこちらまで info@shohyoumaga.net
■HPアドレス http://www.shohyoumaga.net/
■このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。
■メールマガジンIDナンバー 0000036518
■購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。
======================================================================

| バックナンバー | 17:30 | comments(0) | trackbacks(0)
SEARCH
[書評]のメルマガ
本の虫の出版業界人が<徹夜した本>や<繰り返し読んだ本>、さらに新聞記者、出版編集者、プロの書評家による気鋭の書評など、書評メルマガの決定版。
発行周期発行周期:月4回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000036518

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

フリーラーニング Free-LearninG For Your Extention コーチ募集(コーチングバンク) 灰谷孝 ブレインジムラーニング 無料 コーチング 東京新都心ロータリークラブ カーディーラー経営品質向上 相続・遺言なら新都心相続サポートセンター 夢ナビ 実践写真教室 フォトスクール「橋本塾」 無料 eラーニング CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC 「付加価値型」会計アウトソーシング−株式会社サンライズ・アカウンティング・インターナショナル
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< October 2017 >>
ARCHIVES
LINKS