[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.667

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■■ [書評]のメルマガ                2018.12.10.発行
■■                              vol.667
■■ mailmagazine of book reviews     [ちーがーうーだろォっ! 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<108>「箕面」問題と、あのころの「アクション」

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→90 豊かで複雑な雑多な世界

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第107回 浮世=Flaoting World・・・そのまんまの妙

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<108>「箕面」問題と、あのころの「アクション」

 2025年万博の開催地が大阪に決まった。

 1970年以来55年ぶりに再び大阪で、ということらしいが、これ…2020年の東
京オリンピックが決まったときにも、同じ感慨を持ったのだが、半世紀ほども
前に開催したのと同じ都市で、再び開催することに、果たして意味があるんで
しょうか?

 1970年の万博は、戦後の復興期を経た後、ホップ、ステップ、ジャンプで築
き上げてきた高度成長の総決算として、確かに意味があったと思う。
 1964年の東京オリンピック、70年の大阪万博を経て、ようやく世界は、日本
を「先進国」の仲間に入れてくれたのだ。
 だからこそ中国もまた、北京オリンピック、上海万博と、日本と同じ道を踏
襲して、先進国の仲間入りを果たしたのだ。

 しかし、東京オリンピックにしろ大阪万博にしろ、「二回目」に、どんな意
味があるのか、甚だ疑問だぞ……と思いながら、70年万博の会場をかすめる名
神を走っていたら、妙な表記に気がついた。

 道路の上に掲げてある案内標識に、「箕面」とある…のはいいのだが、問題
はその下。そこには英文字で「MINO」とあるではないか。
 思わず、「ちーがーうーだろォっ!」と、ハンドルを持ったまま、どこかの
元代議士のように叫んでしまった。

 その後注意して見ていると、一般道でも「箕面」には、「MINO」あるいは
「MINOH」の英文字が当てられているのに気がついた。
 これまた両方とも「違う!」と思う。

 箕面の「箕」は、一字では「み」と読む。
 「箕」とは、竹で編んだ、塵取りをでかくした形状の農具で、主に穀物を篩
うのに使用され、我が家でもそうだったが、関西では「みィ」と呼ばれること
が多い。
 「面」は「おもて」あるいは「おも」で、「箕面」ではこれを短縮して「お」
と読ませている。
 すなわち「箕面」は、「みお」、なのだが、発音しづらいので、間に助詞
「ノ」を置いて「みノお」と読むのである。「箕ノ面」なのだ。

 「箕」のつく地名は、「箕面」に限らず、「箕谷(みのたに)」「箕輪(み
のわ)」「箕島(みのしま)」等々、たいてい間に「ノ」を置いて呼称される
ので、この読みを「みの」だと誤解している人も多いが、「蓑」と混同するの
かな?
 さっき調べてみると、茨城県には、「箕町」と書いて「みちょう」という地
名もあるそうだ。

 「箕」は「み」で、「みの」ではない。
 「箕面(みのお)」の「の」は、「三宮(さんのみや)」「西宮(にしのみ
や)」の「の」と同じなのだ。
 なので、それを「MINO」と表記するのは、「西宮」を「NISHINO」と表記し
てしまうようなもの。

 同様に、「MINOH」表記もまた、水泳の池江選手を「IKEH」と表記するような
もんじゃなかろうか?
 こないだテレビ見てたら、池江選手は「IKEE」と表記されていた。

 阪急電車の箕面駅では「MINO-O」と表記してるが、これが一番正しい表記だ
と、わしは思う。

 そのMINO-Oの隣のSUITAで開かれていた万博に、3月から9月の閉会まで都
合6回ほども通ったその5年後に、月曜から土曜日までの週6日、世田谷区船
橋の下宿から千代田区鍛治町へ通っていた。
 その春に入った大学の夏休みが明けた秋から、国電神田駅近くの串焼き居酒
屋で、バイトをしていたのだ。
 結構大きな店で、一階二階あわせて100席ほどもあったろうか、近隣のサラ
リーマン、OLさんが主な客層で、夕方6時から夜11時まで、主に皿洗い、と
きにホールで接客、というのが仕事だった。

 仕事を終え、神田駅から、既に快速運転は終わって各駅停車だけになった中
央線の赤い電車に乗る。
 この電車が飯田橋駅を出ると、右手に外堀が見えてきて、その対岸には「週
刊漫画アクション」「週刊大衆」という電飾看板が、当時の双葉社のビル屋上
に煌々と、やたらとドでかく、灯っていたのだった。
 ああ、あのアクションは、ここで作っているのか…と、毎晩眺めていたのだ
が、三階建てとビル自体はちっこいくせに、やけに看板ばかりが目立つその建
物に、それから数年後に出入りすることになろうとは、当時はまだ夢にも思わ
なかった。

 神田という土地柄ゆえか、国電神田駅の前にあった雑誌スタンド…構内では
なく、外にあったから、KIOSKではなく私設のスタンドだったと思う…には、
バイトを終えて帰る時間帯になると、翌日発売の週刊誌を既に売っていて、こ
こで「漫画アクション」を買って帰ることもままあった。

 あのころの「アクション」は、社会現象にもなった『同棲時代』やアニメで
人気を博した『ルパン三世』は既に連載を終えていたが、『子連れ狼』が連載
のクライマックスを迎えていて、『がんばれタブチくん』と『嗚呼!!花の応援
団』が部数を牽引する人気作だった。
 あがた森魚が緑魔子とのデュエット曲に仕上げた、バロン吉本の『柔侠伝』
シリーズもまた、この時期の人気作だった。
 https://www.youtube.com/watch?v=irABYHEKvEA

 当時すでに「青年向け」と言われる漫画雑誌は、「ビッグコミック」はじめ
数々発売されていたが、1967年創刊の「週刊漫画アクション」は、青年向け漫
画雑誌の草分けでもあり、さらに日本で初めての「青年漫画週刊誌」だったの
だ。

 それ以前にも、「週刊漫画ゴラク」や「週刊漫画タイムス」等、「大人向け」
の漫画週刊誌、というのは存在したのだが、それらはあくまで「大人」向けで、
誌名に「漫画」と謳ってはいても、あくまで漫画は「添え物」に過ぎず、主体
は娯楽記事。
 その添え物だった「漫画」にしても、ストーリー漫画ではなく、4コマを中
心としたコマ漫画が主流だった。

 「大人」ではなく、10代後半から20代という「青年」層に向けてのストーリ
ー漫画主体の雑誌というのは、だからまったく新しい発想で、「漫画アクショ
ン」を嚆矢として、その後「ヤングコミック」(少年画報社)、「ビッグコミ
ック」(小学館)、「プレイコミック」(秋田書店)と、これに追随した各社
から、続々と創刊されることになる。

 さきに挙げた『嗚呼!!花の応援団』や『がんばれ!タブチくん』もそうだっ
たのだが、「漫画アクション」は、人気作の連載が終了し部数が落ち込んで危
機を迎えるたび、「神風」的な人気作が登場して部数を回復する、とよく言わ
れて、これ以後も、低迷を迎えるたび、『博多っ子純情』『じゃりん子チエ』
『クレヨンしんちゃん』と、神風的作品が登場して、部数低迷の危機を脱して
きた。

 モンキーパンチ、いしいひさいち、大友克洋、谷口ジロー、等々、その後の
漫画界に「革命的」影響を与える漫画家の発掘に熱心だったのも「アクション」
だ。
 もっとも、「革命的」新人漫画家を育てて売れっ子に仕立てても、最後には
その作家を大手に引っさらわれていくのが常で、「漫画アクション」は、「漫
画界の広島カープ」とも呼ばれていたのだった。

 80年代から90年代にかけては、関川夏央、呉智英、堀井憲一郎、阿奈井文彦、
村上知彦らによるコラムのページに漫画誌では異例のページ数を割き、「アク
ションは、漫画よりもコラムが面白い」と言われた時期もあった。
 ちなみにこの手法は、現在「ビッグコミックオリジナル」が、まんま真似を
している。

 が、1990年代末から2000年代に至って「漫画アクション」は、『クレヨンし
んちゃん』以後「神風」にとんと見放され、いったん休刊したのち隔週刊で復
活はしたものの、出版不況の波をもろにかぶって、部数は低迷したまま、編集
方針も二転三転しているようだ。

 その「漫画アクション」で今、とても興味深い連載作品が進行している。
 『ルーザーズ〜日本初の週刊青年漫画誌の誕生〜』、作者は、以前当欄でも
取り上げたことのある吉本浩二だ。
 「漫画アクション」初代編集長であり、後の双葉社社長でもある清水文人を
主人公として、青年漫画誌の嚆矢「漫画アクション」の誕生までとその後を描
く…らしい漫画だ。

 「らしい」というのは、ただ今発売中の1巻では、主人公・清水文人は、
「週刊大衆」の別冊的位置づけにある「大人」漫画誌「漫画ストーリー」の編
集長であり、彼が傾倒する文学を漫画の中に表現したいという野望を内に秘め
ながら、新しい漫画と漫画雑誌の方向性を模索している最中で、「アクション」
はまだ創刊されてもないから、この漫画が、どこまで「アクション」の歴史を
描いていくことになるのか、見当もつかないからだ。

 これもまた、以前の当欄で触れたことだが、日本の漫画の歴史を、漫画を使
って描く試みは、これまでさまざまになされてきているが、そのいずれもが、
作家、あるいはその作品を軸に展開されるものが殆どで、特定の「雑誌」を中
心に据えたこの視点は、とても斬新だし、「青年漫画」というジャンルにスポ
ットを当てた取り組みも、「漫画史漫画」としては、初めてではなかろうか。

 「ルーザーズ(負け犬たち)」というタイトルは、当時の双葉社が、大手出
版社への就職がかなわず、「しかたなく」ここに入社してきた編集者たち…す
なわち「敗者」の吹きだまりであったことに由来する。
 60年代末から70年代初頭という、世界的な価値観の変革期の中で、その「敗
者」たちが大手に先駆けて、それまでになかった漫画雑誌を作っていく様は、
まさにあの時代の熱気とダイナミズムを、そのままに体現する出来事だったと
思う。

 「敗者」たちが、自分たちを袖にした大手出版社への屈折した思いを胸に秘
めながら、「なにくそ」魂で新しい雑誌を作っていく物語は、吉本浩二の泥臭
い絵柄に、「ぴたり」とハマる。
 今後の展開がとても気になるのだが、この12月の末に、待望の「2巻」が発
売予定だそうで、アマゾンで予約もしてしまったのだった。

 この上は、小学館でも、「ビッグコミック誕生秘話」などを、あの「ガロ」
買収計画の顛末とともに、当のビッグコミックあたりで漫画化してくれんかな、
などと夢想するこの頃です。


太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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90 豊かで複雑な雑多な世界

 いよいよ今年最後のメルマガ記事になります。
 みなさんにとって2018年はどんな一年だったでしょうか。
 もう来月は新しい年!

 今年をしめくくる本としてどれを紹介しようかと読んでいたら、どれもこれ
もアタリばかりでうれしくなったので、できる限りご紹介します!

 トップバッターはこちら。

 『変化球男子』
 M・G・ヘネシー 作 杉田七重 訳 すずき出版

 おもしろいタイトルに惹かれて読み始めたら、ものすごい吸引力!
 ロサンゼルスの中学校に通う男子、シェーンが主人公。野球部で活躍し、ジ
ョシュという大親友もいて、学校生活をエンジョイしています。
 思春期まっただなかのシェーンには悩みもあり、それはなかなか人にはいえ
ないもので、親友にも秘密にしています。
 さて、その秘密とは――。

 シェーンの悩みとは、女の子の身体なのに、心は男の子ということ。離婚し
ている両親のうち一緒に暮らしている母親は理解しているのですが、父親は手
術を受けて身体も男の子になりたいシェーンの気持ちをまるごと受け入れるこ
とができません。悩みを軸に、家族、親との関係、友情などたくさんのことが
語られていて、シェーンの悩みはどう着地するのか。このテーマ、悩んでいる
日本の子どもたちにも届いてほしい本です。


 『明日のランチはきみと』
 サラ・ウィークス/ギーター・ヴァラダラージャン 作
 久保陽子訳 フレーベル館

 アメリカ人作家、サラ・ウィークスと、インド人でアメリカ在住の小学校教
師、ギーター・ヴァラダラージャンの2人で執筆した作品です。
 主人公のラビはインドからアメリカに引っ越してきた小学5年生。インドで
は優秀だったので、アメリカでも勉強に遅れをとることはないと思っていたの
ですが、インド式計算もクラスの先生には受け入れてもらえず、いままで優等
生のスタンスでいたがゆえに、落ちこぼれのレッテルを貼られてしまうギャッ
プに苦しみます。
 もう一人の主人公はジョー。「聴覚情報処理障害」という聴く能力に問題が
あり、自分に自信がもてず学校では消極的です。
 
 物語はこの2人のシチュエーションが交互に語られます。お互いのバックグ
ラウンドはかなり違うのですが、少しずつ打ち解けていき、一週間も過ぎると
2人はぐっと近しくなっていきます。

 文化の違う国に転校するハードルの高さ、それを超える大変さがユーモアも
交えて書かれていて読後感が爽やかです。


 『サイド・トラック
  走るのニガテなぼくのランニング日記』
 ダイアナ・ハーモン・アシャー作 武富博子訳 評論社

 主人公の少年フリードマンは「注意欠陥障害」を抱えています。運動音痴に
も関わらず、新しくできた陸上部に入り、クロスカントリー競走に挑戦するこ
とに。

 スポーツ物語とくれば、中心にすえられるのは、スポーツ得意な人物が多い
ですが、今回はそうではありません。サブタイトルにあるように、走るのニガ
テなぼくのランニング日記なのです。

 登場する人物で魅力的なのは、フリードマンを支えるのは79歳のおじいちゃ
ん。高齢者住宅〈ひだまりの里〉にいたのだが、ある事がきっかけでフリード
マンの家で同居することになるのです。フリードマンのよき理解者であるおじ
いちゃんは、クロスカントリーに挑むことを誰よりも応援します。

 そしてもう一人、転校生の女子ヘザーも、フリードマンのよき友だちになり、
2人の友情も物語の柱です。

 最初は望まなかったクロスカントリー走、フリードマンはどんな風に走るの
か、本書でぜひみてください。


 『シロクマが空からやってきた』
 マリア・ファラー 作 ダニエル・リエリー 絵 杉本詠美 訳
 あかね書房

 シロクマシリーズ第二弾。とはいえ、前巻を読んでいなくても気にしなくて
大丈夫です。

 主人公ルビーの母親は、父親と離婚して以来、仕事も手につかず、幼い弟の
世話もルビーに任せることが多くなっていました。ルビーは必死で母と弟を支
えますが、そうはいってもまだ子どもなのです。

 そんなルビーの前に、シロクマがあらわれます。たくさん食べる(つまり、
食費もかかる)体の大きなシロクマを住んでいるマンションョンに連れていく
わけにはいきません。けれど、なりゆきでマンションの下の階に住んでいるモ
レスビーさんの助けもあり、シロクマとの生活がはじまります。

 言葉は発しないシロクマですが存在感と行動力はあります。ルビーも次第に
シロクマと打ち解けていき、母親の問題も解決に向かっていきます。

 ものいわず寄り添ってくれる(静かにではないですが)シロクマの存在感が
伝わってきて、ルビーの心がほぐれていくのにほっとします。親が病気になっ
た時、子どもは大人の役目も担わされることがあります。そんな子どもたちの
ことはヤングケアラー(若い介護者)と呼ばれ、日本にも少なくない子どもた
ちが同じ立場にいます。

 物語のあったかさと子どもの問題をやんわりしっかり伝えてくれる好著です。


 さて、12月といえばクリスマス!
 贈り物におすすめの絵本、
 ストレートにクリスマスを楽しめる絵本をご紹介します。

 まずはこちらから。

 『クリスマスのおかいもの』
 ルー・ピーコック ぶん ヘレン・スティーヴンズ え こみや ゆう やく
 ほるぷ出版

 ペン画に水性の色をのせた、あたたかい雰囲気のクリスマス絵本。

 男の子のノアはママと赤ちゃんの妹メイの3人でクリスマスプレゼントの買
い出しに出かけます。

 ママは小さい子ども2人と一緒なので、ノアたちに目をくばりながら、プレ
ゼントの買い物に集中していきます。ノアは大事なオリバー(ゾウのぬいぐる
み)と一緒にメイと遊んで待っています。


 買い物が終わり、一息ついたとき、ノアは気づくのです。オリバーがいない!
大変! 買い物の次はオリバー探し……。

 オリバーの存在の大事さをママがしっかり受けとめているからこそのラスト。
クリスマスの幸福感に満ちています。


 贈り物絵本でおすすめはこちらの3冊。

 『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』
 バーブ・ローゼンストック 文 メアリー・グランプレ え 
 なかがわちひろ 訳 ほるぷ出版

 この絵本では、画家になるまえのゴッホが描かれます。子どもの頃から、夜
中に何度も目を覚ましていたこと、夜でも嵐でもひとりで散歩に出かけていた
ことを、私はこの絵本で初めて知りました。


 その時に感じた心持ちが後に夜空を描くときに塗り込められたのでしょうか。
 ゴッホの絵といえば、ひまわりもすぐ思いつきますが、夜空の絵も強い印象
を残します。我が家の高校生の娘っこにゴッホの絵で何がすぐ思いつく?と聞
いたところ、星空が独特だよね、とこたえてくれました。

 夜なかなか眠れなかったゴッホが、画家になり、「色彩をつかって夜の闇を
えがくこと」を自身の課題とし、独特な夜空を描いていく過程を本書でじっく
り楽しめます。

 『ねむりどり』
 イザベル・シムレール 作 河野万里子 訳 フレーベル館

 『シルクロードのあかい空』
 イザベル・シムレール 文・絵 石津ちひろ訳 岩波書店

 シムレールの絵本は、とにかく強いインプレッションを読み手に与えてくれ
ます。

 ひっかいたような細い線で幾重にも色を重ね、その繊細さの重なりがハッと
させる美しさにつながっているのがシムレールの絵。

 『ねむりどり』では羽毛のふわふわさが、紙の上からもリアルに感じられ、
ついつい手がのびて紙の上からなでてしまいます。

 『シルクロードのあかい空』では山裾にしずむまっかな夕陽の明るさととも
に、強い目力をもつ子どもも印象に残ります。

 贈り物にもぴったりですし、
 直接手にとって時間をかけてみて欲しい絵本です。


(林さかな)
会津若松在住。「本の雑誌」1月号より新刊めったくたガイド海外文学担当。
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第107回 浮世=Flaoting World・・・そのまんまの妙

 今月も昨年のノーベル賞作家、カズオ・イシグロの本を読む。
 先月の本、『遠い山なみの光』(『A PALE VIEW OF HILLS』)と同じ時代背
景であり、価値観がひっくり返った戦前世代と戦後世代の相克をテーマとして
いるのも同じである。

『浮世の画家』(カズオ・イシグロ 著)(早川書房)
(ハヤカワepi文庫)(2006年11月30日 文庫初版)(2015年12月25日 六刷)
  (『AN ARTIST OF THE FLOATING WORLD』(Kazuo Ishiguro)(1986))

 完全な一人称小説である。語り手の私は日本の画家であり、戦前は大勢の弟
子たちに囲まれ、政府の委員もしていたような大家である。
 奥さんはもう死んでいる。娘がふたりいて、長女は既に嫁に出し、男の子が
一人。次女は未婚で、父親の私と同居していて、彼女の婚約が解消されたあた
りからこの物語が始まる。婚約が破棄された理由が、私である父親にあるよう
な印象になっている。状況説明は一人称の私が人に語ったり、自分で呟いたり、
独白したり、思考したりしているときに、なんとなくわかるだけで、しっかり
とした説明は一切ない。終戦何年後のことか、そして舞台となっているのは、
日本のどこかもわからない。画家の私は小野益次という名前であり、長女は節
子。その夫は素一。二人の間の子は一郎。次女は紀子。戦死したと思われる長
男の名は賢治。死んだ妻の名は道子。主人公の絵の師は森山先生。私の一番弟
子は黒田という名であり、もうひとり名前を出している弟子は信太郎といい、
口論もするが終生の友人は松田という。

 物語は終始、小野益次という人間の一人称であり、彼以外の人が何を考え、
それをどう考えているのかは、我々読者は知る由もない。小野益次が考えたこ
とを我々は常になぞるだけなのだ。したがって、私である小野益次が考えない
ことは、我々も考えることができないのである。
 このような完全な一人称の世界にどっぷりはまって物語の世界に分け入って
いくのは、とても不思議な気分である。
 我々読者は、小野益次ではないので、読みながら彼の考え方に異を唱えるこ
とはできるが、しかし、読者は最後まで小野益次の考えに付き合っていかなく
てはならないのだ。小野益次に感情移入できなければ、本書を投げ出すしかな
い。したがって、ほとんどの読者は、小野益次の考え方に一定の理解を与えた
上で、嫌でも応でも彼に添っていくしかないのである。

 執筆子が最初に思ったのは、本書の題名である、「浮世」ってなんだ?とい
うことなのだが、読んでいくうちに、浮世が何かはおぼろにわかってくる。本
書で云う「浮世」とは、女性が侍る酒宴の様子であり、そこにいる自分たちの
ことなのである。それを描くのが画家の本分である、とはっきりとは書かれて
いないが、本書を読み通せば、そういうことになるようだ。

 本書の原題は『AN ARTIST OF THE FLOATING WORLD』。この「THE FLOATING 
WORLD」が「浮世」になるのだが、とても不思議な気がしたのは、「THE 
FLOATING WORLD」は「浮世」の直訳じゃん、ということだ。英語圏の人たちは
この「THE FLOATING WORLD」ということばがどういう状態のことなのか、わか
るのだろうか? 我々日本人は「浮世」がどんな意味なのかはわかる。「浮世」
とは、この世の中のことであり、儚い世の中のことであり、変わりやすい世間
のことであり、男女の享楽の世界であり、まさに今この一瞬のことである。そ
れが「THE FLOATING WORLD」ということばで英語圏の人たちにこの「浮世」が
理解されるのだろうか?
 わからないから、本書を最後まで読んで、「THE FLOATING WORLD」が何かを
理解するのだろうか? ・・・そうとしか考えられないのだが。

 ・・・・・と、ここまで考えた処で、待てよ、ちょっと調べてみよう、と
Webを覗いてみた。そうしたら、なんてことない。まったく本書で定義され
た「浮世」そのままの説明が載っているのだった。

 Wikipedia曰く。「Floating World」=“Ukiyo, the urban lifestyle, 
especially the pleasure-seeking aspects, of Edo-period Japan
 (1600-1867)”

 近世日本文化研究家の中では周知のことばなのだろう。それを理解していれ
ば、英語圏の読者は本書の敷居がずっと低くなるだろう。

 日本語を理解しない英国籍の日本人が、幼児期に過ごした日本の印象の断片
とその後に知った当時の日本の印象をつなぎ合わせて、価値が転換してしまっ
た敗戦国である日本について、老画家の目を通してときにつらく、ときに明る
く表現した作品なのだ。

 作者は、戦前の価値観を持った老画家に語らせることによって、敗戦後の価
値の転換をよりダイナミックに描こうということに挑戦しているような気がす
る。
 そこにいる自分が努力しつつも、運命に翻弄され、自分が信じていたものが、
目の前でがたがたと崩れ去ってしまう。そんな不幸な瞬間に立ち会ってしまっ
た人を描く。それがカズオ・イシグロの物語なのだ。うまく云えないが、本書
は価値の転換期を生きのびてしまった不幸な人たちの話なのである。


多呂さ(山手線の新駅が「高輪ゲートウェイ駅」だって・・・・・。ばかじゃ
ないの?と思っている人の方が圧倒的多数であることを望みます。)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
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・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
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 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
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 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 完全に時事ネタだと思うので敢えて触れておきますが、山手線の新駅の名称
が「高輪ゲートウェイ」となり、あちこちで騒ぎになっています。JRが不動
産事業に本気に乗り出した感があって、駅という公共なイメージとの違和感が
あって、心理的抵抗があるんでしょうかね。もし、名前で不動産価値が上がる
のであれば、JRさんもどんどん駅名の改名をしてくれると、路線図が面白い
ことになりそうです。

 ふと思ったんですが、「池袋ウエストゲートパーク」と言えば「池袋西口公
園」ってことですよね。ってことは、「高輪ゲートウェイ」は「高輪口道」っ
て意味なんでしょうか。あるいは、英語の「ゲートウェイ」で「入り口」とい
う意味もあるようなので、こっちを採用すれば「高輪入口」でしょうか。

 海外の人が英語で見たら、何で騒いでるのかわかんないでしょうね。

 この際、ビターバレー、ナイチンゲールバレー、ブラックアイズ、ホワイト
アイズ、アッパーフィールド、ゴッドライスフィールド、とか、他の駅名の英
語名も、漢字から訳し直しちゃえばいいんじゃないでしょうか?

 あ、そうなると新宿は、ニューホテル?(あ)

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