[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.625

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■■ [書評]のメルマガ                 2017.3.10.発行
■■                              vol.625
■■ mailmagazine of book reviews     [漫画でしか表現できない 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→漫画でドキュメンタリー、あるいは記録文学な漫画の可能性

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→大災害直後を生き抜く

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→昔話絵本

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→竜馬から学ぶネゴシエーションの基礎

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<87>漫画でドキュメンタリー、あるいは記録文学な漫画の可能性

 この国は、どないなっとンねん……? と思ったのは、2月初旬のニュース。
 元アイドルの女性タレント二人が、京都で踏切から線路に立ち入って写真撮
影をしてた、と、全国ネットのニュースで報じられ、その場にいなかった家族
まで巻き込んで「涙の謝罪会見」を強いられていたこと。

 線路に立ち入る、というのは、確かに法律違反に違いないとは思うが、新聞
テレビ雑誌等々の報道メディアが一斉に、競うようにして大バッシング報道を
繰り広げるほどのことかい?
 それって、「つい調子に乗っちゃいました。ごめんなさい(テヘペロ)」で
済む問題だと思うのだが、どうだろう。

 同じころに発覚した、大阪は豊中の国有地が、私立小学校建設用地として、
破格の安値で払い下げられていた、というニュースを報じていたのは、わしの
知る限り、毎日放送(MBS)だけ、しかも関西ローカルの情報ワイド「ちちん
ぷいぷい」で、だった。

 さらにその後、くだんの私立小学校が、当初は「阿倍晋三記念小学校」とい
う校名を予定していて、首相夫人が「名誉校長」に就任している、というニュ
ースをMBSが報じていたころ、遅まきながらもこの問題を取り上げた朝日新
聞やNHKでは、土地価格の不明朗さのみに終始して、「阿倍」のアの字にも
触れることはなかった。

 問題が国会で取り上げられるようになってようやく、MBS以外でも、他社
の様子を伺いながら「おずおず」と、この学校と首相周辺の関わりを報道する
ようになったが、報道機関として、その腰の引けようは「如何なものか」と思
うのは、わしだけでしょうか?

 わしの母親は、長谷川町子のファンで、実家には「サザエさん」はじめ、姉
妹社の単行本がほぼすべてあったのだが、その中の「いじわるばあさん」に、
こんなのがあった。

 公園でアベックが刃物を持った強盗に襲われてるのを目撃したばあさん、走
って交番へ駆けつけ、「おまわりさん、大変!立ち入り禁止の芝生に人が入っ
てます!」

 首相も関連した疑いのある疑獄事件には目もくれず、立ち入り禁止の線路に
立ち入った、というごくごく微罪、誰を傷つけたわけでもない、罪とは言えな
いような罪を犯した女性タレントを、バッシングして泣かせるのに汲々として
たマスコミは、これと同じじゃないだろうか。

 しかし、「国有地の格安払い下げ」という不正…というか、ただ今はまだ
「不可解な取引」ではあるが…が発覚しなければ、あるいは、当該の土地が適
正な価格で払い下げられていたのなら、この、戦前の「教育勅語」と「皇国史
観」をおおっぴらに掲げながら、保守的極右的政権を熱烈に支持し、民族主義
的ヘイト教育を行う「アベシンゾー・ユーゲント」な小学校が、堂々と開校さ
れていたわけで、それを思うと、なにやらうすら寒いものも覚える。

 先ごろ、ドイツ映画『帰ってきたヒトラー』を見た。
 1945年、陥落間近なベルリンの地下壕から21世紀にタイムスリップしてきた
ヒトラーは、当初モノマネ芸人と勘違いされ、テレビの売れっ子になるのだが、
人々は、そのアナクロな言動に笑い転げてるうち、次第次第に彼の言説にのめ
りこみ、やがては熱心な「信者」となってゆく…という結末に、アメリカのト
ランプ大統領や、今回の「アベシンゾー・ユーゲント」問題がオーバーラップ
して、とても怖いと感じたのだった。

 これから先、どういう結末を迎えるのかわからない…というか、またもや
「うやむや」のまま葬り去られる可能性も高いと思うのだが、どういう結果に
なるにしろ、この事件にかかわる一連の顛末を、できれば漫画で残しておいて
もらいたい、と思う。

 そしてその場合、吉本浩二に漫画を担当してもらいたい、とも思うのだ。

 現在、「ビッグコミックスペリオール」に連載中の吉本浩二・作『淋しいの
はアンタだけじゃない』(単行本は小学館から既刊2巻)は、作曲家・佐村河内
守氏のゴーストライター事件をきっかけに、聴覚と聴覚障害に興味を持った吉
本が、担当編集者との二人三脚で、当の佐村河内氏や、医師あるいは大学の研
究者に、聴覚障害について取材し、その取材の過程をほぼそのまま、ドキュメ
ンタリーの手法でまとめた漫画だ。

 取材の過程で吉本たちは、「聴覚障害」というものに対する自分たちの誤解
…ということはつまり、世間的な一般概念の誤りについて気づかされ、「目か
らウロコ」を次々に経験していくのだが、漫画は、取材とほぼ同時進行で連載
が進行するので、その臨場感がハンパない。

 実はわしも、ここ数年耳鳴りに悩まされていて、この漫画によって、その耳
鳴りは、程度の軽重こそあれ誰にもあるもので、その原因は難聴にある、とい
うくだりで、思わずウロコを落としてしまった。

 なんでも、「難聴」というのも個人差があって、人によって聞こえにくい音
域というのが違うらしいのだが、聞こえにくい音域を、脳がなんとか認識しよ
うと「頑張ってしまう」が故に、脳はその音域を増幅しようとして、それが
「耳鳴り」となってしまう…そうなのだ。
 代表的な漫画のオノマトペとされる「シーン」もまた、「実は耳鳴りの音か
も」というのには、思わず「はた」と膝を打ってしまった。

 上記は、この漫画のほんの一端なのだが、取材の過程を、愚直なまでに丁寧
に、「そのまま」再現しようとするこの漫画は、調査報道の域にまで達してい
ると思う。

 吉本浩二は、『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』
(秋田書店)で、元アシスタントや当時の担当編集者ほかの関係者から徹底した
取材を行い、手塚治虫の創作現場を漫画の上に再現して見せ、さらに、東日本
大震災で壊滅的な被害を受けながら、驚異的なスピードで復旧した三陸鉄道に
取材した『さんてつ』(新潮社)で、ドキュメンタリー漫画家としての地歩を固
めてきた。

 「泥臭い」とも言える朴訥な絵柄は、取材の過程をそのまま、なんの飾りも
なく伝えるのに、とても効果を発揮している。

 2006年から雑誌連載中の山本直樹『レッド 1969〜1972』(講談社)もまた、
実在の事件に取材した労作で、人物名はすべて架空の名前が充てられて、フィ
クションの形をとってはいるが、多分に「記録文学」的な作品でもある。

 『レッド』は、1〜8巻の第一部で1971年12月31日までが描かれ、これに続
く第2部の『最後の60日 そしてあさま山荘へ』は、この2月発売の4巻で、
ようやく山岳アジトを放棄する「1972年2月17日」まで時間が進んだ。
 第1部全8巻、第2部全4巻で、粛清、あるいは「総括」による死者は15人
に達し、これから始まる「第3部」では、いよいよ「あさま山荘事件」に突入
するようだ。

 吉本浩二『淋しいのはアンタだけじゃない』と山本直樹『レッド』に共通す
るのは、綿密な取材と、作品の時間軸が、実にゆっくりと、まだるっこしいま
でに「じわじわ」と進むことだ。
 この時間軸の使い方は、たとえばこれを活字でやられると、まだるっこすぎ
て途中で読むことを放棄してしまうだろうし、実写の映像では、これと同じ時
間軸を使うのは、まず不可能(たとえば、『レッド』を、漫画を忠実に再現す
る形で第1部から第2部終了までを映像化したら、おそらくは20時間かそれ以
上になると思う)だ。

 この、愚直なまでに丁寧に、ゆったりと時間を進行させながら、そこで起こ
った事実関係、取材で得た情報を、事実に即して緻密に再現しようとするドキ
ュメンタリーは、漫画でしか表現できない、と、この2作品読むとなおさらに、
思えてくる。

 『レッド』同様に、吉村昭が小説の世界で完成させた「記録文学」に迫って
いる、と思えるのは、村上もとか『フイチン再見!』(小学館・既刊9巻)と、
花輪和一『刑務所の中』だろうか。

 先月、当欄でその作品に言及した矢先に、突然の訃報を聞かされた谷口ジロ
ーもまた、伊能忠敬を主人公に据え、その彼が全国測量の旅に出かけるまでの
間、江戸の町のあちこちを逍遥する様を描いた『ふらり』(講談社)や、あるい
は先月取り上げた『坊ちゃんの時代』などで、記録文学的な手法を漫画に取り
込んできた作家のひとりだと思う。

 そうした作品をもっと読ませてほしかったのに、と訃報に接して切に思った。
 谷口ジローの若すぎる逝去は、漫画の、というよりも、日本の文化にとって、
大きな損失であるとも思う。
 とても残念ではあるが、冥福をお祈りしたい。

 ところで、漫画版『アベシンゾー・ユーゲント顛末』、これはぜひとも実現
していただきたい、と最後にもう一度、強く訴えるぞ。

 是非、ぜひ。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第87回 大災害直後を生き抜く

 日本は自然災害の多い国である。地震、台風、豪雪・・・。世界で起きてい
るマグニチュード6以上の地震の約20%が日本で発生している、という。我々
は地震多発地域で生活している、ということを自覚して、地震に向き合わなけ
ればならない運命にある。だから地震対策に関連した本は膨大に存在している。

 今回紹介する本は、従来の防災の本とは一線を画している。既存の防災関連
書は、災害の備えを充分に行うことへの啓発書であり、また、被災した後の過
ごし方の解説書である。
 しかし、この本は発災の瞬間&発災の直後に照準を合わせている本なのだ。

『震度7の生存確率』(日本防災教育振興中央会 仲西宏之・佐藤和彦 著)
(幻冬舎)(2016)

 本書は、「そのとき」の対策(=災害での自分の身の守り方、生存方法)に
特化した書籍なのだ。

 まずは、タイトル。「震度7」と地震についての本だ、ということがわかり、
次に「生存確率」というちょっと刺激的な文言が続く。震度7という揺れでは、
人はなす術がない、と本文の中では随所にいうのだ。

 そんな何もできないような強く大きな揺れの時、人はそれでもどう行動した
ら、その場で生き延びることができるか。第1章では、様々な状況の中で震度
7の地震に襲われたときの、自分の対処方法を質問形式で問いかけ、その行動
が何%の生存確率なのか、ということを示している。ここで本書が強調するの
は、震度7の揺れでは、人はうごくことができない。ということだ。

 実際に地震の揺れの等級では震度7が最高級であり、それ以上はない。震度
8はないのだ。だから、震度7は無限大の揺れ、と認識する。ただ揺れている
だけではない。物が移動し、飛び、建物が崩れる揺れが震度7なのだ。

 そんな中、人はどうやって生き抜くことができるのだろう。

 この第1章では、例えば「地下鉄に乗車中、地震に遭遇。その時、あなたは?」
という質問に対して、3択の対処方法が用意されている。1)両手でつり革に
つかまったまま、踏ん張る 2)片手をつり革から離し、離した手で頭部を防
ぐ 3)その場にしゃがみ込む
 回答では、1の生存確率は70% 2は50% 3は30%・・・。特に3(しゃ
がみ込む)のがいけないのは、地下鉄は走行中であり、まわりに多数の乗客が
いることでしゃがみ込むことは圧死の危険があるから生存確率が低くなるのだ。

 このような質問がたくさんある。都市生活においてふつうの行動時に地震に
遭遇した状況での質問なのだ。

 第2章では、さまざま危険を例示して、それに対処する方法を解説する。云
ってみれば第1章での回答の解説である。

 やっかいなことに地震は季節や時刻を選んで発生しない。真冬や真夏の過酷
な季節もあれば、夜中にも起こる。あらゆる事態を想定なないといけないのだ
が、人はそんなことはできない。どんな季節であってもどんな時刻であっても、
まずは自分の身を守る、ということを心がける。そのための方法、自分の身を
守るための基本姿勢である「ゴブリンポーズ」を紹介している。

 ゴブリンポーズ=鬼の格好である。

 それに拠ると、
1 片膝をついてしゃがむ 2 後頭部に握りしめた拳をしっかり乗せる 
3 顔を両腕で挟む 4 顎を引く・・・・・これがゴブリンポーズ。

この体勢で大きな揺れをやり過ごし、揺れが収まってから脱出=避難を開始す
る、ということだ。

 それでも大きな揺れが始まったとき(つまり揺れる前、いつもの状態の時)、
どんな場所に自分がいるか、ということを常に考えて自分の位置を決めること
が大切だ、とも云っている。入り口の近く、とか柱の脇とか、逃げやすいし押
しつぶされにくい場所を選んで行動しよう、と提案している。

 本書は大きな揺れの時、他と比較して安全な処で身の守り、そして揺れが収
まった後に、自分の力で自由に移動することができることが最も大切である。
と訴えている。

 自力で自由に移動することができることを最優先にして日々生活する、とい
うことなのだ。

 私にとってはなかなか刺激的な本なのだ。

多呂さ(お彼岸も近いというのに寒い日が続くのであります。ご自愛ください)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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70 昔話絵本

『シンデレラ』
       木村由利子 文 / 天野喜孝 絵 復刊ドットコム

『シンデレラ』のお話しはよく知られ、絵本も多数種類がでています。

 今回ご紹介する絵本はファイナルファンタジーで有名な天野さんが手がけた
ものです。

 表紙はシンデレラのウェディングドレス姿。
 見返しはシンデレラのドレスを感じるレース調になっており、目の前に美し
い花嫁がいる存在感があります。

 木村由利子さんの文章は少ない言葉でシンデレラの物語の輪郭をきわだたせ
天野さんの絵も引き立たせています。
 
 どのページの絵もそれだけでタブローとして鑑賞したくなるほどで、私が特
に好きな絵は、みすぼらしい格好で掃除をしているシンデレラです。品のよさ
がにじみでているシンデレラの美しさはため息がでます。
 
 もともとは1988年にひかりのくにで出版された絵本ですが、復刊にあたり、
本文のレイアウトも一新し、絵に文字がかからないようにし、英訳も並記され
ています。英訳をされたのは平野キャシーさん。国際アンデルセン賞を受賞さ
れた上橋菜穂子さん、荻原規子さん、湯本和樹実さんの英訳をされている方で
す。

 ゲームには疎いのですが、ファイナルファンタジーが世界的なゲームだとい
うことは子どもからも教えてもらいました。英訳もついているので、天野さん
の絵を扉にしてこの絵本が英語圏でも広がっていくといいなとワクワクしなが
ら何回も読みました。

 天野さんの絵にひかれて読んだ久しぶりのシンデレラ。他の再話も読みたく
なり、本棚から探し出しました。

 フランス、ペローの再話が日本では有名ですが、ドイツ、グリムの再話も味
わいが違います。
 
 いまは絶版になっていますが、祐学社からでていた『シンデレラ』はノニー・
ホグロギアンの淡い色彩の優しい雰囲気の絵。翻訳は矢川澄子さん。
 シンデレラが舞踏会に出かけ、その時にぬげてしまったガラスの靴を、姉た
ちの足に入らないので母親はつまさきを、かかとを切り落としなさいと姉に指
示し、姉たちは逆らいません。生々しく残酷なシーンですが、欲しいものを手
に入れる執着、欲深さがつよく感じら、現実世界のリアリティに通じるものが
あります。またシンデレラもシンデレラを探し出す王子もとても能動的に描か
れているのもおもしろいです。

 ペローの再話ではマーシャ・ブラウン『シンデレラ』(まついまさこ訳/福
音館書店)も読みごたえがあります。瀟洒に描かれたシンデレラの美しさもぜ
ひみていただきたい。残念ながらこちらも品切れ重版未定ですが図書館にはあ
るはずです。

 現役絵本も紹介せねば。
 バーバラ・マクリントックの『シンデレラ』(福本友美子訳/岩波書店)も
ペローの再話です。繊細にくっきりとした色使いで日本でも人気の絵本作家の
手によるもの。表情豊かな人物を描き、細部の描写は絵を読む楽しみに満ちて
います。


 それにしても、昔話はおもしろい。
 いまではすっかり大きくなっている子どもたち。3歳違いで3人なので、読
む絵本もひとりひとりにそれぞれだったけれど、昔話だけは3人どの年代でも
聞き入ってくれたのです。

 そんなことを思い出しました。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える/show-z
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竜馬から学ぶネゴシエーションの基礎

 年末年始に実家に里帰りした際、新装版『竜馬がゆく』の全巻が、姉の部屋
の本棚に並べられているのを見つけ、久しぶりに手にとってみました。

 時間を持て余していて、暇つぶしに読み始めたのですが、短い年末年始休み
だけでは読みきれるはずもなく。自宅に戻ってから続きが気になりだしてしま
ったので、近所のブックオフで中古本を買い揃えました。

 行き帰りの通勤電車の中で、少しづつだけど毎日、読み進めていきました。
本当は「一気に読みました」と言いたいところですが、通勤時間以外では時間
が捻出できなかったので、1か月ほどかけて本当に少しずつ。電車を降りて本
を閉じるたびに、次の展開ってどうだったっけ?と、昔読んだ記憶を思い起こ
しながらの全巻読破でした。

 この本を最初に読んだのは、20代も終わりに差し掛かった頃でして。ちょう
どその時、僕はベンチャー企業に転職したばかりでして、某インターネットサ
イトに「ベンチャーの社長が愛読する本20選」(タイトルうろ覚え)みたいな
記事があり、この本が取り上げられていたんですね。せっかくベンチャーに入
ったんだし、読んでおいてもいいかなと思って全巻読んだのが最初、と記憶し
ております。

 それまで司馬遼太郎の作品といえば、大河ドラマの影響で中学生の時に読ん
だ『翔ぶが如く』と、社会人になりたての頃に読んだ『坂の上の雲』くらい。
別に司馬作品のファンだったということではなく、有名どころなら少し読んで
ますよ、くらいのものだったんですね。

 その時に読んだ『竜馬がゆく』も、もちろん面白かったのです。幕末という
激動の時代の中、高知・土佐藩出身の竜馬が勝海舟に薫陶し、日本の未来に想
いを馳せながら活躍するストーリー。竜馬の豪放磊落でふてぶてしい性格を、
日本の起業家に重ね合わせたりもしながら、あぁ、ベンチャーを立ち上げる方
って己の私利私欲ではなく、本気で世の中を変えようとするからこそ、竜馬の
ことが好きになるのかな、なんて、考えていたのです。

 で、それから10年あまりが経過しての今回。一昨年にそのベンチャー企業を
去り、現在は某大手のグループ会社で人事になった僕は、当時とは違う感想を
持ちました。それは、竜馬の持つ理想や大志、キャラクター以上に、彼の優れ
たネゴシエーターぶりに、感心したのです。

 ネゴシエーションとは、「交渉」や「折衝」を意味する言葉ですが、ビジネ
スの現場においては、どこかこちらの主張を相手の呑ませるとか、駆け引きの
ようなイメージを持たれることがよくあります。

 しかし本来のネゴシエーションとはそうではありません。『ハーバード流交
渉術』(ロジャーフィッシャー、ウィリアムユーリー著)によると、その交渉
の方法が「賢明な合意をもたらすものであるかどうか」「効果的であるかどう
か」「当事者間の関係を改善し、少なくともそれを損なわないものであるかど
うか」の三点であると書かれています。その点で、竜馬はネゴシエーターとし
て超一流だということを、今回の読書で認識したのです。

 その竜馬のネゴシエーターっぷりが一番わかるのが、彼が薩長同盟締結に奔
走する場面。竜馬がゆくには、尊王攘夷一辺倒で過激行動を繰り返す長州藩、
幕府とは距離を置いて開国に進もうとする薩摩藩、そして、旧来体制を堅持し
ようとする佐幕派と、考えが異なる複数の集団が登場します。

 竜馬は日本を1つの国と捉え、諸外国との外交、貿易を通して豊かな国にし
ていきたいという大きな理想を持つ中で薩長同盟を発案し、考えが相容れない
両者を結びつけるため動いていくのですが、その際、自分の理想や考え方を説
明して理解させて、、、という手法を取らない。あくまで両者それぞれの実利、
軍事面や経済面でどのようなメリットがあるかを説明し、納得させたうえで、
締結にもっていくのです。

 竜馬のことを敬愛する西郷隆盛に対してさえも、国レベルでの考え、捉え方
については、何らかの誤解を与える恐れありとして、すべては説明しません。
本当なら自分の理想を理解してもらえる相手を1人でも多く増やしたいはずな
のに、最終的な目的と手段は別物と考える。これが竜馬の優れているところで
はないかと、今回思ったのです。

 このことに10年前には思いが及ばず、今回気付いたのは、おそらく僕自身の
環境変化にあります。ベンチャーという環境に身を置いていると、社内はトッ
プを中心に一枚岩になっていて、理念を共有して突き進むのが、ある意味当た
り前だったんですね。ところが現在の環境では、お恥ずかしながら一定のセク
ショナリズムが存在していて、考えが相容れない方たちが当然のようにいらっ
しゃるのです。

 そのような環境下では、何か1つのことを推し進める必要がある際、どんな
に立派な大義名分があっても、合意形成を図ることは難しい。会社全体にどん
なメリットをもたらすかについて説明するよりも、各部署、ときには個々人に
とってのメリットは何かを説かないと、進めた後にしこりが残ることも有り得
ます。

 僕は多分、ベンチャー時代とのこの感覚の違いに順応できていなくて、いろ
いろあがいている時だからこそ、今回の竜馬からネゴシエーションの基本につ
いて、気付かされたのではないかと思っております。

 そして竜馬が教えてくれた大事なことがもう1つ。どれだけうまくやったと
しても、予想だにしない人間から、突然刺されるリスクがあるということを。
。。だけど、それを恐れて何も行動できなくなるのは、それこそマズイわけで。
うーむ、組織内でのネゴは良く考え、自分から仕掛けていく必要があるものの、
悩ましいところです。


show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
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・書評アップ先の媒体予定:
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 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 原稿待ちと、編集子自身の引っ越しのために遅くなりました。個人的な話で
恐縮ですが、2011年3月から住んでいたところを引き払いました。ちょうど震
災直後、ガソリンも電気も不足している中での引っ越しでしたので、いろいろ
大変だったことを思い出しました。

 身近に被災者が居たこともあり、直接的な被災・被害ではありませんが、い
ろいろ大変な思いや不安な思いもしたなぁ、としみじみとしていました。

 ってなわけで、やはり6年も住んでいるといろいろ物があふれ、想定以上に
引っ越しは大変でした。…という言い訳でした。(あ)

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