[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.635

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■■ [書評]のメルマガ                 2017.8.10.発行
■■                              vol.635
■■ mailmagazine of book reviews  [恐怖の現実に対してなおも盲目 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→波平さんは、京大出身!?

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→知ること

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第一次世界大戦はいかに始まったか(その2)

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→働き方改革の実現に必要なものとは?

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 株式会社秀和システムの御担当、森千草様より、下記の献本を頂戴しま
 した。ありがとうございます!

 『ミスなくすばやく仕事をする技術』
  著者:成吉新一
  価格:本体1300円(税別)
  ISBN:978-4-7980-5125-3
  発売日:2017/7/15
  判型:四六
  ページ数:224
 http://www.shuwasystem.co.jp/products/7980html/5125.html

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<92>波平さんは、京大出身!?

 昨年あたりから、ネットの中で『サザエさん』のお父さんである波平さんや
その他のキャラクターたちの「学歴」をめぐって、「えらく盛り上がっている」
と、人から聞いたのが、つい先日。

 それによると、波平さんは「京都大学出身」、その甥のノリスケさんは「東
京大学法学部」、マスオさんは、二浪の末「早稲田大学」出身…らしい。
 さらに、サザエさんちに毎度御用聞きに回ってくる「三河屋のサブちゃん」
に至っては、なんと一橋大学商学部を卒業した後、「サントリーに勤務」、そ
の後、なぜか三河屋の御用聞きに転職した…というのだ。

 他にも、フネさんは日本女子大、タイ子さんは立教大学…等々、等々。

 これ、あちこちのサイトを覗いてみたのだけど、ひとつとして、その根拠と
なる出典が示されていない。
 おそらくは、どこかで誰かが、「こうだったら面白い」という架空の設定を
遊びで作って、それが拡散していく過程で、さらに詳細な設定が付け加えられ
ていった、というのが実情だろう。

 その中にあって、主人公のサザエさん一人、なぜか「あわび女子学園」とい
う架空の学校出身というのが「?」なのだが、架空であるが故に、信憑性(?)
も高いと考えられる。
 おそらくは、原作漫画、あるいは映画版、またはTVドラマ版のどこかに出て
きたのだと思う。

 マスオさんの「ワセダ」というのも、確かドラマで、そう紹介されるシーン
があったような…おぼろにだが、かすかに覚えているような…気がしないでも
ない。

 だいたいが、アニメ版の『サザエさん』は、その舞台となる時代が、おおよ
そ昭和50年前後のところで止められているのだ。
 なので、ノリスケは、新制の「東京大学」で矛盾しないが、波平は京都大学
ではなく「京都帝国大学」でなければ、おかしいではないか。

 フネさんだって、戦前に女子大学出身なら、超エリート女子だ。
 ちなみに、昭和50年ころ、フネさんよりも10歳ほど年下だった、うちの母親
の最終学歴は「尋常小学校」である。

 しかし、フネさんは、静岡の人である。
 その静岡から、わざわざ娘を東京の女子大学にやる…戦前という時代を考え
ると、まずあり得ない。
 フネさんの実家は、そこまで進取な家ではなかったように思える。
 せいぜいが、地元の女学校か女子高等師範だったんじゃないだろうか。

 波平さんの「京大」やノリスケさんの「東大」もまた、「ちょっとな…」だ。
 波平さんが帝国大学に進んだのなら、地元の九州帝国大学を選んだんじゃな
かろうか。
 ノリスケさんには、マスオと同じ「ワセダ」が似合ってそうだと、わしなん
か思うのだけど、どうだろう?

 サザエさん一家の磯野家が、福岡出身であるのは、広く知られている事実で
ある。
 「サザエさん」は元々、作者・長谷川町子の出身地であり、当時在住してい
た福岡で、昭和21年、地元の新聞に連載が始まった。
 その後、連載を東京朝日新聞に移すにあたり、作者と同時に一家もまた、福
岡から東京・桜新町に引っ越したのだ。

 昔、我が家にあった姉妹社版『サザエさん』には、割と若い巻数で、「東京
に引っ越します。皆さん、おせわになりました。これまでありがとう」と、正
装のサザエさんが読者に向かって挨拶する回があり、その次のページでは、
「初めまして、サザエと申します」と、新しい読者に向かって挨拶する回が収
録されていた。

 ちなみに、福岡から東京に越してきたころのサザエさんのファッションは、
割烹着に赤足袋、下駄が定番だった。

 磯野家は、サザエ、カツオ、ワカメも皆、だから福岡生まれなのだけど、そ
の前提として、福岡在住の波平さんに静岡のフネさんが嫁いでいた、というの
も、やや無理筋だと思う。
 フネさんの「静岡」は、おそらくアニメオリジナルの設定なのだろう。

 そんな磯野家の長女・サザエが東京移住後、見合いを経て結婚する相手が、
大阪出身のマスオさんだ。
 マスオさんが大阪出身とされたのは、もともとが大阪の新聞社である朝日新
聞が、地元・関西の読者に配慮した故……と、毎年、授業の中で学生たちにし
たり顔で解説しているのだが、そうですよね? 長谷川先生。

 『サザエさん』は、新聞の連載漫画だったので、キャラクターたちこそ齢を
とらないものの、その時代背景は刻々と変化して、時に時事ネタやその時々の
流行も取り上げられてきた。
 両さん以下、キャラクターたちは齢を取らないが、時代はリアルと同時進行
で進んでいく『こち亀』と同じ方式だ。

 新聞連載の中で、ちょうど「パンティーストッキング」が女性の間で普及し
始めたころのエピソードを、よく覚えている。

 来客中の波平の座敷に、お茶を盆に載せて入ってきたサザエ。
 お茶を出そうとした拍子に、履いていた巻きスカートが「はらり」と落ちる
……と、その下にはなにも着けていない(ように見える)
 「ギョッ!」として顔を赤らめる波平とお客。
 「ご心配なく。パンティーストッキングですから」
 と、しれっと言い放ち、すまし顔でスカートと盆を持ってサザエ、立ち去る。

 これ、掲載時(わしが中学生のころだ)には別段変には思わなかったのだが、
その後、パンストの実物を目にするにつけ、あのとき作者の長谷川さん自身は、
まだ「パンティーストッキング」を着用したこともなければ、実物を見たこと
すらなかったんじゃなかろか? と、思えてきた。
 おそらく、「タイツ」と混同したのだと思う。
 ご本人が「パンスト」を実際に経験していたならば、絶対にこういうネタに
はならなかった、と思うぞ。

 前にも書いたような気がするが、『サザエさん』は、わしらの世代にはアニ
メ版よりも、それ以前に放映されていた実写ドラマ版(1965〜1967の放映で、
アニメと同じフジテレビの制作だった)の方が、なじみが深い。
 テレビ版以前の映画版でも主役を務めた江利チエミは、まさに「サザエさん」
が、はまり役だった。

 清川虹子のフネさん、川崎敬三のマスオさんもまた、原作のイメージにぴっ
たりはまっていた。
 上原ゆかりのワカメが、かわいかった。

 江利チエミが歌う、「サザエさん、サザエさん、サザエさんってどんな人…」
という主題歌もパンチが効いていて、わしは今も、サザエさんの歌というと、
「お魚くわえたドラ猫」よりも、こっちを頭に思い浮かべてしまう。

 ドラマでは、家族が「福岡出身」という設定はオミットされていたようで、
作中で明言されるわけではないが、波平さんとフネさんは、東京で所帯を持ち、
サザエ以下の子供たちもまた「東京生まれ」でデフォルトされていたようだ。
 まあ、「オミット」ちゅーても、原作漫画の方でも、連載が「朝日」に移っ
て以後は、ことさらに「福岡出身」と明言するシーンはないんだが。

 ドラマ版の後を受けて、1969年から放映の始まったアニメもまた、これを踏
襲して、福岡出身の波平が、静岡出身のフネと東京で所帯を持ち、一家をなし
た、という風に設定されているようだ。

 原作漫画及びドラマ版『サザエさん』と、アニメ版を見比べると、「ワカメ」
と「フネ」のキャラクターが大きく違っている。
 アニメでは、フネは家族想いのとても優しいお母さんで、ワカメもまた、と
ても聞き分けのいい「よいこ」なのだが、原作及びドラマでは、フネはしょっ
ちゅう家族の誰かに腹を立てては大声で怒鳴りつけているし、ワカメは、カツ
オと一緒になっていたずらを仕掛けるわ、それを咎められると、聞き分けのな
いワガママな駄々っ子ぶりを発揮して、地面に転がって泣き叫ぶ、とてもイヤ
なガキなのだ。

 新聞連載の『サザエさん』は、1974年から休載になり、その後新聞紙上に復
活することはなかったので、その「時代」は、1974年で途絶えている。
 アニメ版の方では、スポンサーが東芝だったこともあり、キャラクターたち
は齢を取らないが、時代はリアルに合わせて推移し、ことに家の中の家電製品
は、時代とともにさりげなくリニューアルされていた。

 これが、1990年前後から、背景の時代を現実に沿って推移させるのは「もは
や無理」と判断され、新聞連載が終了したころの時代に固定されることになっ
たようだ。
 なので、アニメ『サザエさん』の世界には、スマートフォンはもちろんのこ
と、携帯電話もインターネットも存在しない。

 さくらももこ『ちびまる子ちゃん』は、雑誌「りぼん」で連載を開始して1
年後の春、主人公の「まる子」を、3年生から4年生に進級させるか否か、作
者と編集部とで真剣に討議した結果、キャラクターたちに齢を取らせない「サ
ザエさん方式」が採用されたんだそうだ。
 さらに、時代もまた作者・さくらが小学3年生だった「1972年」に固定され、
まる子は「永遠の小学3年生」として、もう今は存在しない「静岡県清水市」
に住み続けることになる。

 『ちびまる子ちゃん』もまた、フジテレビによってアニメ化され、奇しくも
その方式をまねた『サザエさん』の前の時間帯で放映されることとなり、日曜
日の夕方6時台に、1970年代を背景とするアニメが2本、続けて放映されるこ
ととなった。

 アニメ『ちびまる子ちゃん』では、CMに入る直前、まる子が「ウララ〜、
ウララ〜、ウラウラヨ…」と山本リンダのモノマネを披露するのだが、これが
きっかけで、70年代ヒット曲である山本リンダの「狙いうち」は、高校野球の
応援定番曲として復活した。

 高校野球ファンとしても知られた作詞家の阿久悠は、随分と昔の自作ヒット
曲が、突如「応援ソング」として復活したのを喜びつつも、「なぜなのか、そ
の理由は皆目わからない」と、戸惑いつつ亡くなってしまったようだ。

 サザエさんちの玄関にある「黒電話」や茶の間にある「卓袱台」、まる子が
大ファンの「百恵ちゃん」、そのお姉ちゃんが大好きな「西条クン」、これら
が、もはや「なんだかよくわからない」世代は、着々と増えている。

 日曜夕方6時台のアニメ2本が、ともに「時代劇」と定義される時代もまた、
近いのかもしれない。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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74 知ること

 東北も今年は遅い梅雨明けでした。
 猛暑、大雨、気候は厳しいです。
 被災された地域の方々がすこしでも健やかにこの夏を過ごせますように。


 今回は「知ること」をテーマに3冊おすすめします。
 一冊めはこの絵本です。

 『サルってさいこう!』
     オーウェン・デイビー 作 越智 典子 訳 偕成社

 テキストベースのメルマガでは絵の迫力を伝えきれないのがもどかしいです
が、洒落たデザインの表紙は目をひくサルが何匹もいます。

 デフォルメされているサルですが、特徴はしっかりつかんでいるという、絵
本を監修したサル専門家の中川教授のお墨付きです。

 現在、地球には260種のサルがいるといわれており、絵本では見開きからはじ
まり44種類のサルたちが登場します。

 そもそもサルとは何者かというところから、進化の過程、新世界ザル・旧世
界ザルについて、生態、それぞれの特徴をコンパクトにセンスのいいイラスト
で説明しています。途中でクイズなどもあり、サルについての知識が定着しや
すくなっているのも楽しい。

 イラストも文章も書いているオーウェン・デイビーはスマホゲームのイラス
トも描いているそうです。専門的なサルの生態についても、わかりやすく書い
てあり、へえ!と思わされます。

 では、ぬきんでてすごいサルをご紹介しましょう。
 「ほえ声 一等賞」にはオスのホエザル。
 霊長類一の大声は、世界じゅうの動物の中でもトップクラスだそうです。
 このホエザルは、はるか5キロ先からも響き渡るとか。
 近くに暮らすホエザルへの縄張り宣言の大声。
 聞いてみたいものです。

 日本に暮らすニホンザルも紹介されています。
 なんと、人間をのぞくと、世界一北で暮らす霊長類!
 温泉に入ったり、イモをあらったりするサルも。
 雪国のニホンザルは、雪のボールをつくって持ち運んだり、投げたりもする
そうで、それも楽しみのために! なんておもしろい。

 サルについていろいろ知ったあと、
 絵本で最後に書かれていることは、
 いまの時代はサルにとって住みにくくなっていること。
 熱帯雨林が切り倒され、破壊され、森が小さくなっているためです。

 だからこそサルの住みかを脅かすことのないよう、
 この絵本は「持続可能な森」からつくられた紙を使っています。

 サルのことを知り、森についても考える。
 自分たちにできることが促されています。


 次に「知ること」をテーマにご紹介する本は

 『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』
        フランシーヌ・クリストフ 著 河野万里子 訳 岩崎書店


 タイトルにあるように、ホロコーストを生きのびた著者が、自らの12歳の記
憶している経験を綴ったものです。

 日記を元に書かれているそれは、簡潔な文体でついさらりと読めてしまえる
ほどです。しかし、あとから気持ちが文章に追いついてくると、苦い気持ちが
あふれだします。

 6歳の時に父親が戦争捕虜となり、離ればなれになります。その後、母親と
一緒にナチス・ドイツに連行され、厳しい日々が続きます。

 それでも人の気持ちはやわらかいと思ったエピソードがあります。

 収容所に収監された場所で、出会った人が赤ちゃんを産むシーンです。


 「わたしは興奮した。ついこのあいだまで、自分はカリフラワーのなかから
生まれてきたと思っていたのだから。
 男の子はキャベツのなかから、女の子はバラの花から、そしてわたしみたい
にちょっとおてんばな女の子は、カリフラワーから生まれる。そしてユダヤ人
の赤ちゃんは、収容所で生まれるわけだ。まったく筋が通っている。」

 楽しくない場所でもいのちは生まれ、フランシーヌの心は動かされます。
 誰にとってもいのちは贈りもの。
 生まれてきた命に優劣があるはずもない、しかし狂った時代があったことは
知り続けていかねばと、そのことを書いた本を読むたびに思うのです。


 続けて読んだ本書もホロコーストが描かれています。

 『ファニー 13歳の指揮官』
        ファニー・ベン=アミ 
        ガリラ・ロンフェデル・アミット 編 伏見操訳 岩波書店

 第二次世界大戦中に、フランスとスイスで子ども時代を過ごした著者ファニ
ーの実話。ファニーから聞いた話を編者のガリラ・ロンフェデル・アミットが
書きおこしたものです。

 ナチスの手を逃れるために13歳の少女、ファニーが自分と妹、そして同じよ
うな子どもたちと力をあわせてスイスに渡るまでが臨場感をもって語られてい
ます。

 逃亡する旅の途中、リーダーの青年は突然離れてしまい、代わりに指揮官と
して11人の子どもたちの命を預かることになったファニー。
 ファニーは仲間達と一緒に生きのびるために、知恵をしぼり勇気をもってス
イスに向かいます。

 ファニーは児童救済協会の子どもの家で3年間過ごしているのですが、この
家での学びがファニーに生きのびる強さを与えています。

 そこでは、学校に通えないファニーたちに監督官の大人たちが芸術、文学、
絵などを教えてくれました。

 監督官のひとりエテルはこういいます。

「今みたいにたいへんな時代、教育の目的はひとりで生きていけるようにする
ことなの。だって、これから何があなたたちを待ちかまえているか、わからな
いからね」

 ところで、この物語にもファニーが偶然にも分娩にたちあうシーンがあり、
『いのちは贈りもの』に通じるものを感じました。

 人間の赤ちゃんが生まれてくるところを見たファニーは興奮します。

「人生で見たなかで、いちばんきれいなものだったよ……」


 編者であるイスラエルの作家ガリラ・ロンフェデル・アミットは、『心の国
境をこえて』『ベルト』『ぼくによろしく』(さ・え・ら書房)など、とても
読みごたえのある作品を書いています。


 本書の映画がこの夏公開されています。
「少女ファニーと運命の旅」
 8/11(金)より、TOHOシマズシャンテほか全国ロードショー
 公式サイト http://shojo-fanny-movie.jp/
 

 私も娘と観る予定です。
 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第92回 第一次世界大戦はいかに始まったか(その2)

 先月に引き続き、『夢遊病者たち −第一次世界大戦はいかにして始まった
か−』の下巻(2巻)を読む。2巻には事項索引と人名索引がついているから
少しは読みやすかった。

 下巻は戦前のそれぞれ列強の動きを解説し、サライエヴォでのオーストリア
皇太子夫妻の暗殺事件の様子を詳細にみて、その後宣戦布告までの1ヶ月間の
ヨーロッパの動きを丁寧に追う。

『夢遊病者たち −第一次世界大戦はいかにして始まったか−』(2巻)
(クリストファー・クラーク 著)(小原 淳 訳)(みすず書房)
(2017年1月25日発行)
『THE SLEEPWALKERS−How Europe Went to War in 1914』
(Christopher Clark)(2012)

 2巻の各章は以下の通り。

第5章 バルカンの混迷
第6章 最後のチャンス−デタント(緊張緩和)と危機 1912〜14
第7章 サライェヴォの殺人
第8章 広がる輪
第9章 サンクトペテルブルグのフランス人
第10章 最後通牒
第11章 威嚇射撃
第12章 最期の日々

 我々日本人にはあまり知られていないが、バルカン戦争という局地戦が1914
年の第一次世界大戦の前に行われていた。バルカン戦争は2度行われている。
最初の第一次バルカン戦争(1912.10−1913.05)はトルコ帝国から独立したブ
ルガリア、ギリシャ、モンテネグロ、セルビアとオスマントルコ帝国と戦争で
あり、第二次バルカン戦争(1913.06−1913.08)は第一次バルカン戦争でほと
んど一人勝ちして領土を広げたブルガリアへの不満からギリシャ、モンテネグ
ロ、セルビアがブルガリアを攻めた戦争である。

 そして翌年勃発する第一次世界大戦は、いわば第三次バルカン戦争とも云え
る。つまり、今回はアドリア海に面したボスニア・ヘルツェゴビナをオースト
リア帝国が保護領化した。このことが隣国のセルビアを大きく刺激した。セル
ビアは自国の領土を広げたいと願っていた。そこにロシアが登場する。ロシア
という列強が登場することによって英仏という列強も加わり、さらに独伊が介
入する。こうして役者が揃い、丁々発止の外交戦を戦わす。

 汎スラブ主義を標榜するセルビアはロシアを兄として慕い、是非にもオース
トリアの横暴を食い止めてほしいと願う。オーストリアはロシアに対してトル
コの両海峡の優先的な通行権を認める代わりにボスニア・ヘルツェゴビナの保
護領をロシアに認めてもらうように交渉する。ロシア内部は親セルビアか親オ
ーストリアのふたつに分かれて論争が始まる。結局、露独墺(ロシア・ドイツ
・オーストリア)の三国は皇帝をいただき、彼に主権が存する19世紀的な君主
国なのだ。したがって、同じ体制としてシンパシーを感じている人が多い。

 ロシアの野望はボスポラス・ダーダネルス両海峡を手に入れること。しかし
これにはロシア以外の国々がこぞって反対している。特にイギリスはロシアの
南下を抑えることが国是であり、外交政策の基本なのだ。その両海峡を領土に
している黄昏のオスマントルコ帝国。かの国はこの両海峡の守備をドイツに任
せようとした。ロシアで起こる大規模な反対運動。今にもロシアが攻めてくる
という不安にさいなまれるトルコ。そしてもちろん両海峡をドイツにも渡した
くないイギリス。

 一方でセルビアを海に出したくないオーストリアはそのためにボスニア・ヘ
ルツェゴビナを自国の保護領としたのだ。しかしあまりにも周囲の軋轢が大き
く自国だけではボスニア・ヘルツェゴビナを統治できないのがオーストリアの
悩みの種だった。オーストリアはどうしてもドイツに援助を依頼したくなる。
ドイツはイギリスとの海軍拡張競争をしており、積極的にはオーストリアの援
助はしたくない。しかしやはり同じゲルマン民族の国同士、オーストリアを見
放すことはできない。

 さて、フランスである。フランスの対外政策は対ドイツ包囲網を構築するこ
とにある。根強い反独意識がフランスの外交政策の基本だ。ドイツに不利益に
なることは何でもする。ドイツを挟んで東側のロシアと同盟を結ぶ(露仏協商)。
ドイツの同盟国であるオーストリアに対抗するためにバルカン半島の小国に積
極的に借款を施し投資する。この時期フランスの外交政策を決定していたポア
ンカレは、ロシアとの同盟を強化し、軍備を増強し、ドイツと徹底的に対立す
る道を選んだ。バルカン半島での対立を局地の対立にとどめたいのはイギリス
であり、ドイツであるが、それを大きな対立にしたいのはフランスであった。
バルカンにおけるオーストリアとロシアの対立を局地的なものに留めず、ドイ
ツを引っ張り出し、ドイツに一撃を与えるのが、フランスの究極の目標になっ
た。

 ドイツはロシアをフランスから遠ざけたい。皇帝が従兄弟同士なので、とて
もよい友情がふたりにある。ニッキー(ニコライ鏡ぁ砲肇Εリー(ヴィルヘ
ルム鏡ぁ砲噺討唸腓辰討い襦この皇帝同士の関係で両国関係を発展させたい
と願っている一派があるが、一方ではそれぞれ相手の国に対する根強い不信感
(対独不信と対露不信)があり、相手国の勢力を削ぐ方策を進める一派もある。
それぞれの国で政権内の権力争いが起こる。そしてふたつの勢力の間で揺れる
皇帝。

 ドイツでもロシアでも同じ様相を呈している。結局は皇帝の友情よりも帝国
主義の力学が勝り、戦争になってしまうが。ドイツはフランスとことを構えた
くないのか、フランスとの一戦も辞さず、ということなのか。バルカン半島で
はオーストリアの後押しをするが、対フランスとの戦争はかなり負担を強いら
れるのは目に見えている。フランスには強固な要塞がたくさん存在するので、
フランスに攻め込むためにはどうしても中立国のベルギーの国土を通過しなけ
ればならなくなる。そうなれば大陸での対独戦争になってときに中立を約束し
ているイギリスは確実にドイツに宣戦布告する。ドイツの決定は最後には“男
らしさ”で決まってしまったようだ。つまり、戦争を回避する女々しい方策で
はなく、断固男らしく戦争をする、という決定だった。

 そしてサライエヴォの事件が発生する。

 オーストリア皇太子夫妻がボスニア・ヘルツェゴビナのサライエヴォでセル
ビア人青年によって暗殺されたのは、1914年6月28日。オーストリアがセルビ
アに宣戦を布告したのは、7月28日。7月31日にドイツはロシアに最後通牒。
8月1日、ドイツ、ロシアに宣戦布告。8月2日、ドイツ、ルクセンブルクに
侵攻。8月3日、ドイツ、フランス、ベルギーに宣戦布告。8月4日、ドイツ、
ベルギーに侵攻。イギリス、ドイツに宣戦布告。・・・・・

 暗殺事件からすぐに戦争が始まったわけではない。この一ヶ月間、各国の首
脳はめまぐるしく仕事をしていた。本書の後半300ページは戦争までの一ヶ月
間の出来事を追っている。世界戦争は避けることができず、ついに起こってし
まった。

 本書は、なぜ戦争が始まったのか、を考察していない。いかに始まったのか、
を淡々と記述している。それは見事だ。読み終えると、戦争になったのは仕方
なかった、という気になる。なぜ戦争が始まったか、と原因を探ることは戦争
を回避するために何が足りなかったか、という視点を避けて通ることはできな
いが、本書は最初からそれをしていない。もともと『夢遊病者たち』が戦争に
至る道をすすんでしまったわけで、戦争の原因は、そういう夢遊病者がちが当
時、各国の政策決定担当者になっていたことにある、としているわけだ。

 本書の結論はこうなっている(本書832ページ)。

 “彼らは用心深かったが何も見ようとせず、夢に取り憑かれており、自分た
ちが今まさにもたらそうとしている恐怖の現実に対してなおも盲目だったので
ある。”

 何も見ようとせずに、現実に盲目だったこの戦争へ至る過程の数年間を800
ページを超える大著にまとめた筆者に最大限の敬意を表する。


多呂さ(日本は低気圧の通り道になっています。毎日不愉快な天気が続きます)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える/show-z
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働き方改革の実現に必要なものとは?

『「納品」をなくせばうまくいく』
倉貫義人著 日本実業出版社 (2014/6/12)


 今年3月、安部内閣が一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジとし
て“働き方改革の実現”を掲げ、メディアでも大きく報じられました。

 その中で、課題の1つとして取り上げられているのが長時間労働の問題。昨
年末に起こった大手広告代理店社員の自殺問題などは記憶に新しいところです
が、日本人のワークライフバランス実現のためにはまず避けて通ることができ
ない、喫緊の課題です。

 私が身を置くIT業界というところは、残念ながら長時間労働の習慣が染み
ついてしまっており、正直、あまり幸せとは言えない業界であります。

 だいぶ前に、若者が働きたくない業界や職種を“3K”という言葉で表現し、
「きつい」「汚い」「危険」の頭文字として揶揄されていた時代がありました
が、これがIT業界になりますと「きつい」「厳しい」「帰れない」だったり、
「気が休まらない」「給料が安い」「結婚できない」「キリがない」など様々
な言葉に派生していって・・・それこそキリがなくなっていたりして。

 ではなぜ、こんな状況に陥ってしまうのか。要因の1つとして挙げられるの
が、顧客との契約手法の問題です。

 日本ではシステムの受託開発を行う際、あらかじめどんなシステムを作るか
を、発注者(顧客)とIT会社が相談して事前に細部まで決め、それをもとに
開発期間や費用を見積もってからシステムの開発を開始、決められた期限まで
に納品を行う“一括請負”と呼ばれる契約形態が一般的となっています。

 しかし、システムの開発にはトラブルがつきもの。プロジェクトがスタート
してから、当初の見積もりの甘さによる人員不足の発生、仕様の変更、それに
よる追加費用の発生など、想定外のトラブルが起こるのはよくあるお話です。

 で、そのシワ寄せはすべて、現場で働くエンジニアにいくんですね。指示さ
れた通りに仕事をこなしていたはずなのに、突然業務の変更を命じられるとか、
業務量が想定以上に増えてしまうとか。しかし何が起こっても、納期を遵守し
なければならないため、結果的に長時間勤務を強いられてしまうこと、よくあ
ります。

 本来、システムエンジニアの仕事とは、働いた時間と成果・業績が必ずしも
連動しない、いわばクリエイティブなお仕事として定義されます(実際、裁量
労働制の対象職種にも規定されています)。しかしこの契約形態によりクリエ
イティブな側面は薄れ、エンジニアの仕事は顧客と決めた納期、つまり時間と
の戦いになっていくため、結果、現場は疲弊しがちです。

 それなら、エンジニアと顧客の双方が幸せになるために、この一括請負とい
う考え方、つまり最終的に“納品する”という概念自体を見直したうえで、新
たなビジネスモデルを提唱しているのが、今回の本です。

 著者が提唱する“納品のない受託開発”とは、IT会社が顧客と“顧問契約”
を結んで、顧問料を月額定額制で受け取り、契約をしている間は、システムの
開発や運用、メンテナンス、各種の相談を行い続けるというビジネスモデルに
なります。

 つまり、事前に何を完成させたらプロジェクト終了、といった取り決めは、
何も行わないんですね。最初にするのは、エンジニアが顧客のビジネスモデル
や課題を理解し、顧客と必要なシステムの認識を合わせること。つまり顧問と
して、顧客に言われたものをその通りに作ります、ということもやりませんと。

 その後、必要となるシステムの最小限の画面設計と機能開発を短期間で実施
し、顧客と定期的に打ち合わせをしながら、さらに必要な機能を追加で開発し
たり、運用を行ったりしていきます。当初に作るものの最終形や期間を設定し
ないため、途中でエンジニアの勤務に無理が生じる可能性は低く抑えられます。

 また、このやり方は顧客にとってもメリットがあります。徐々に出来上がっ
ていくシステムを見ながら、どこまでの機能を実現するかや、途中で浮かんだ
アイデアを追加で反映するかどうかなどを、都度エンジニアと相談しながら、
その時々の費用面やスケジュールを見て決定できるためです。一括請負なら、
ここまでフレキシブルな対応は当然不可能でしょう。

 ただこのやり方、数百人以上のエンジニアが動くような大規模システムの開
発案件には適用しにくい、そして開発前の時点で正確な費用を見積もることが
できないといった点がデメリットであり、このことは本書内で著者自身が言及
しています。しかし、エンジニアと顧客双方のメリットを追求したビジネスモ
デルを考案し、実際に自らの会社にて実践する著者の姿勢には感服しきりです。

 働き方改革という号令のもと、働き方の見直し、残業時間の削減というと、
まず最初に出てくるのが、会社の風土改革や、業務効率化といった観点です。
もちろん、それらも大事なポイントですが、仕事や会社の“仕組み”そのもの
から問題を考え、解決策を考案するというのは、もっとも抜本的、成果を伴う
改革に成り得ます。あるものを根底から変えるのは難しいことですが、既に常
識と思っている既成概念を疑う姿勢だけでも、常に持ち続けていたいと感じた
のでした。

show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
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・『ミスなくすばやく仕事をする技術』(秀和システム)
 http://www.shuwasystem.co.jp/products/7980html/5125.html

・『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html

・『脳疲労が消える最高の休息法 CDブック』(ダイヤモンド社)
 https://www.diamond.co.jp/book/9784478101919.html

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html


 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
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4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
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 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

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 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 ちょっと配信が遅れて、ちょうど終戦記念日になりました。誰もが悪と知り
ながらなしてしまう。平和を生み出すには、そういう人の愚かさを知った上で
のリーダーシップが必要ではないかと、最近、思います。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.634


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■コンテンツ
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『アックスマンのジャズ』

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『こども孫子の兵法』斎藤孝監修(日本図書センター刊)

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『闇ウェブ』セキュリティ集団スプラウト 文春新書

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#85『アックスマンのジャズ』

 こんなミステリーがあったら、手に取らずにいられますか?

 アックスマン、日本語で言えば斧男、と呼ばれる殺人鬼が、1919年のニュー
オーリンズで次々と残虐な殺人を繰り返す。

 いや、ここまでは、よくあるサイコスリラー。

 しかし、恐怖に震える市民に、新聞を通じてアックスマンがこんな予告をし
たとしたら?

 いわく、次の火曜日の零時15分に再びニューオーリンズに現れるが、自分は
ジャズが気に入っているので、この時刻にジャズバンドが演奏中の家にいる者
全員は見逃す。逆に言えば、ジャズを聴いていない者は、斧を食らう。

 ジャズを愛する殺人鬼!

 しかも、これは実話に基づいており、この予告が実際にあったとしたら?

 しかもしかも、探偵役が、あのディキシーランド・ジャズの帝王、ルイ・ア
ームストロングだとしたら?

 正確に言うと、まだ19歳のルイは、本書では名前をフランス風の発音に改め
ておらず、「ルイス」と呼ばれているし、既にトランペッターとして頭角を現
しつつあって、探偵役というよりも、探偵志望の幼馴染アイダのために、彼女
の助手兼ボディガード役を買って出るのだが。

 そしてもちろん、この素人探偵コンビ以外にも、当然、警察のアックスマン
事件担当警部がおり、さらに彼と過去の因縁を持つ元刑事までもが捜査に加わ
ってくるのである。

 これまでにも、探偵役が二人いて、競い合うものはあった。ドラマ『貴族探
偵』における武井咲と相葉雅紀のように。
 しかし本書で繰り広げられるのは、三つ巴の探偵レースだ。
 三組の探偵たちが次第に真相に迫りゆく過程を交互に描くことで、サスペン
スをらせん状に高めていく手法は、新人作家のデビュー作とは思えない。

 しかもしかもしかも、複雑な真相を語る上で、一人の名探偵がクライマック
スに一気に謎を解く形式だと、説明が延々と続いてしばしば退屈してしまうの
だが、本書では三者が三様に異なる角度から真相を暴いていくため、クライマ
ックスが分散して、その弊害がない。

 ある探偵は事件のそもそもの発端となる過去を暴き、別の探偵は政治家とマ
フィアとの癒着の観点から、別の探偵はマフィア内部の権力抗争の観点から、
それぞれが真相を段階的に解きほぐすので、複雑に絡み合った謎解きがスムー
スに理解される。
 この辺の手さばきもまた、ベテランのような円熟味だ。

 しかし、著者のレイ・セレスティンは本書を持って世に出たのである。それ
もアメリカ人ではなく、イギリス人。

 いくら同じ言葉を話すとはいえ、異国の作家がわざわざニューオーリンズを
舞台に選んだのは、きっとジャズが大好きだからに違いない。

 大体イギリス人という連中は、当のアメリカ人以上にアメリカのブラック・
ミュージックが大好物だ。それは、エリック・クラプトンやジェフ・ベックと
いったイギリスの若者(当時)が本国の白人に顧みられなかったブルースを
「発見」し、そこから「ロック」を生み出したことからもわかる。あるいは、
埋もれたソウルの名曲を掘り起こし、ノーザン・ソウルと称してアメリカに逆
輸入したのが、ロンドンの北に位置する街のDJたちであり、だからこそ、ノ
ーザン(北の)と呼ばれたことからも。

 しかもしかもしかもしかも、著者が単にジャズを聴くだけではなく、恐らく
自身も楽器を、それも管楽器を演奏するのでは、と思わせるのは、アックスマ
ンが殺人を予告した夜、街全体がこの素晴らしい音楽に満ち溢れる中、ルイス
がトランペット・ソロを奏でるシーンのリアリティである。

 そもそも音を言葉で表現するのは至難の技で、音楽を扱う小説において、演
奏シーンがどのように描かれているかは、その本の音楽本としての価値を決定
づけると言って過言ではない。その重要な箇所で、セレスティンは、ルイスが
それまでより一回り大きく成長した見事なソロを吹く様を、彼の子供の頃の思
い出と交錯させながら、詩的表現をちりばめて巧みに描いているのだが、それ
だけではなく、「ドラムの半小節のフィルイン」とか「スネアドラムのダブル
ストローク」とか「ストップタイム」とか「完璧で澄み渡ったハイBの音をま
る四小節分もキープ」といった、音楽用語を交えた具体的な表現をしているの
である。
 これこそ、著者に演奏経験があるのでは、と思わせるポイントだ。

 もうひとつ、音楽本としてのポイントは、1919年のニューオーリンズの音楽
状況の克明さである。

 それは、ジャズ誕生の地のイメージが強いこの街で、意外にもオペラのアリ
アが流行歌のように愛され、例えば物語の中でルイスのかけるレコードが『セ
ビリアの理髪師』だったりすることだ。

 そうした描写が、単なる蘊蓄に終わらず、事件全体の背景を支える状況の描
写にもなっているところが、また素晴らしい。

 つまり、さまざまな音楽が混沌として共存している姿を通して、この街にさ
まざまな人種が混在していることを象徴しているのである。
 そして、そうした人種状況が、事件の大元の原因である、殺人鬼アックスマ
ンの心に潜む、哀しみの源泉になっているのだ。

 ニューヨークがビッグ・アップルと呼ばれるのに対し、この街のニックネー
ムはビッグ・イージー。大いなる気楽さ。
 確かに、のんびりした一面はあるのだが、その一方で人種差別と暴力がはび
こるヘヴィな土地でもあった。
 本書はそんなビッグ・イージーの、暗黒面を切り裂いて見せている。

 大団円では、ニューオーリンズがハリケーンに襲われ、街が洪水で水没する
中、追う者と追われる者の死闘が展開される。
 昔この連載で取り上げたドロシー・セイヤーズの『ナイン・テイラーズ』。
あのクライマックスでも、村が嵐のために水浸しになったのを思い出す。恐ら
く同じ英国のミステリー作家として、著者もこの偉大な先人の残した名作を意
識したに違いない。
 あるいは、記憶に新しいハリケーン・カトリーナによる被害で、ニューオー
リンズが水没した出来事を念頭に置いているのかもしれない。

 あとがきによると、本書はイギリスでテレビドラマ化されるらしい。
 また、ラストで、主要なキャラクターの二人が、その後シカゴに移り住み、
探偵として働き始めるという、いかにも「シリーズ化しまっせ」な終わり方を
しており、実際もう第2弾『Dear man's blues』の刊行が決まったそうだ。

 シカゴかあ。
 シカゴと言えばブルース。タイトルにもちゃあんと入っている。

 何とも、楽しみなシリーズが始まってくれた。


レイ・セレスティン
北野寿美枝訳
『アックスマンのジャズ』
2016年5月10日印刷
2016年5月15日発行
早川ポケットミステリ

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
ここ半年、私生活で懸案事項があって、それが片付かないとなかなか気が晴れ
ないなあ、と思っていたのですが、先月ようやく決着し、ほっと一息。すると
待っていたかのように、仕事も順調になって、新しい案件の声がかかったり、
にわかに活気づいてきました。何事にもタイミングってあるんだな、と思う今
日この頃。

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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『こども孫子の兵法』
 斎藤孝監修(日本図書センター刊)

「強くしなやかに生きる」方法を子どもに伝授?でOK?

 子どもは大きく、孫がいないおばちゃまは、児童書売り場にはとんとご無沙
汰。
 でも、なんかのついでに行ったりするとき、最近の児童書ってなんかイヤっ
て思うことが多かったです。

 それは、ある考え方なり主義があって、そこへ誘導するような本が増えてん
じゃないの?って思ったから。実用書というより、啓発書?つまりプロパガン
ダ本ですね。戦争反対系ありいの(趣旨は間違ってません!)、もちろん、フ
ェミニズム系も来てる(趣旨は間違ってません)、恋愛至上主義系ありの、細
かいところではこどもを早く寝かせるための本とか(大事です)…。

 そんな中で、一番、「これあり?」って思ったのが「こども孫子の兵法」
(監修・斎藤孝)。とうとう出たか、こども向き自己啓発本!と思いました。

 子ども向きに孫子の兵法を説くなんて、味気ない味気ないと思ったのであり
ます。
 この本はヒットして続編として「菜根譚」やらなにやら出ていますが、どう
なんだろ〜。そう思って読んでみました。

 思ったのは、「これ合ってるの?」ってことです。孫子の兵法にくわしくな
いのでわからないんですが。たとえば「囲師には必ずかき、窮寇には迫ること
なかれ」って「相手を追いつめすぎてはいけないよ」ってあって「勝手もいつ
もと変わらない態度でいることこそ、勝ち方のマナーなんだ」ってあるけど、
ほんとにそうなの? そんなことで中国の春秋時代で生きていけてたの? こ
れってニーチェの超訳みたいなものではなくて?

 あと対象が何歳か不明ですが、「兵とは詭道なり」ってのもどうなんですか?
説明に「正々堂々は大事だけど、サッカーやバスケにもフェイントがあるよう
にかけひきも大事で、それがきみがこの世をしなやかに生きていくための方法」
って書いてあるのも大丈夫って思いました。

 詭道ってバスケのフェイントでOK? で詭道を使うことは「強くしなやか
にいきるため」ってありますが、この「しなやか」って言葉、「ずるい」をめ
っちゃくちゃいいように表現した言葉のように思えて、ライターうまいな〜っ
て思うと同時に、いいの?それほんとに、子どもに対して!って思いました。

 これは、この本にも書いてありますが、むしろお父さんのための自己啓発本
として適しているのかもしれません。
 決めるのはあくまで自分だとか、ピンチがチャンスだとか、逃げることも手
だとかのフレーズは実社会で戦っている企業人には激励になると思いました。
(孫子の兵法とは違っているかもしれませんけど)。

 でもでもでも。
 実用書もたしかに役に立っておもしろいことはおもしろい。

 でも、子どもにこそ、もっと心の底から心情を耕すことができるような、深
い本を読ませてあげたいとおばちゃまは思うのです。
 それが何かはわからないけど、子ども時代だからこそ、自己啓発より実用書
より文学的作品を読んでほしいと思ったことでした。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『闇ウェブ』セキュリティ集団スプラウト 文春新書

 ネットが様々な犯罪の舞台になっていることは、いまさら言っても誰も驚か
ないが、どこで犯罪が行われているのかご存じだろうか。

 えっちな画像にひかれてクリックしたら「入会手続き完了、二万円払ってね」
は、クリックした先に詐欺サイトがあるのはみんな知っている。しかし麻薬や
偽造パスポート、児童ポルノなど違法性が高く、持っているのがわかったら即
逮捕されるようなモノもネットで売っていると言うが、どこで売っているのか?
こういう”商品”のスパムメールは全然来ないではないか・・・

 この本は、そういう世界の解説書である。著者の名義はネットセキュリティ
のサービス会社だが、後書きによると社外の専門家の力を仮で書いている章も
ある。
https://sproutgroup.co.jp/about/

 で、どこにあるのかというと、匿名性の高いブラウザを使わないとアクセス
できない「ディープウェブ」にあるらしい。匿名性の高いブラウザとは、PC
遠隔操作事件で、いったん裁判で無罪になりながら調子に乗って自滅した某が
使っていたTorのようなブラウザである。

 Torは元々米海軍の関連組織が作り、今はオープンソースで開発が継続され
ている。このブラウザのしくみは書いてあるがここでは割愛して、そもそもな
ぜこんな匿名性の高いブラウザが作られたのかと言えば、言論の自由がない国
の人たちのためだ。

 反政府的な発言や行動を行えば命が危ない。そんな国で自由を求める人たち
の発言や通信を守らなければならない。ネットで彼らを守るのがTorなどの匿
名ツールなのだ。

 そんなツールは闇の世界の住人にとっても都合が良い。しかし、闇のWebペ
ージが興隆してきた理由はもう一つある。ビットコインの発明である。カネの
流れはいかに隠そうとも金融機関の記録には残る。ここがネットにおける違法
な商品取引の泣き所だった。そこにビットコインという匿名性の高いカネの流
通ができるしくみができたことで、この世界はとても便利になったのだ。

 もちろん犯罪を摘発する側に立つ捜査機関も、そんな状況に手をこまねいて
いるわけではない。違法サイトのアマゾンと呼ばれた「シルクロード」の摘発
など、多くの殊勲を挙げている。しかし、それは匿名化技術が破られたのかと
いうと、著者たちはどうも怪しいと見る。矛で盾を破ったから逮捕できたので
はなく、犯罪者たちがついうっかり残した手がかりに食らいついて逮捕まで持
ち込んだというのが正直なところではないかと見る。実際、シルクロード摘発
にはおとり捜査が用いられ、捜査官がシルクロードの親玉であった「恐怖の怪
物ロバーツ」ことロス・ウイリアム・ウルブレヒトのパートナー的存在にまで
なっていたので証拠を押さえることができた。これがサイバー空間のみなら起
訴できたか、筆者らには疑問らしい。

 そうした捜査機関対違法取り引き業者との攻防は読んでいただくとして、我
々に直接関わってくるのは違法マーケットで取引される個人情報だろう。日本
の場合、これまで漏れ出る個人情報と言えば詐欺に一度引っかかった人のリス
トなど限定的なモノが多かった。しかしこれからはヘルスデータが彼らのター
ゲットなるだろう。いや、もうなっている。背景にあるのは、当然 Apple Wat
chに代表される、ネットに接続されるウエラブル端末の普及とビックデータの
分析の流行が背景にある。そしてこれまで漏れ出た情報と照らし合わせれば、
たとえば自分の娘になりすました奴が「父さんへ、これいいんじゃない?」と
か書いて健康食品や薬のリンクを張ってくるなんてことが可能になる。娘なら、
父親が糖尿病を恐れていると知っている。その娘から糖尿病予防ドリンクのリ
ンクが張られたメールが来たら真面目に買うことを検討する父親は多いだろう。
さらにそうして買ったネットにつながった医療機器を暴走させて人を殺すこと
だって可能性としては考えられるのだ。

 そんな個人情報の漏洩をいかに防ぐかについては、実は妙案はない。なにせ
FBI長官の個人情報すら漏れるのが実情であるし、個人がきちんと情報を管理
しても関係する役所や会社からも漏れる。漏れないようにするのは無理である。
今で漏れていないのは運が良かっただけだと思った方がいい。ではどうすれば
いのか?それは本には書かれていない。書きようもない。

 ネット技術が進化すればするほど、その技術を使った犯罪は起こるし、その
犯罪主体も個人や犯罪者グループのみならず、国家まで参加してくる。今はそ
んな時代だと言うこと。それを少なくとも理解はしておこう。

 怖い時代になったものである。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■あとがき
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 ここのところヘッダ部分のミスが多くて恐縮ですが、前回お送りした10日号
の号数が間違っていました。正しくは、633だったのですが、なぜか635で配信
してしまいました…。

 指摘が無いので、誰も気にしてないかもですが…(笑。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.633


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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→『難波鉦異本』と、なにわ「駅便」考

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→贈り物

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第一次世界大戦はいかに始まったか(その1)

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
----------------------------------------------------------------------
<91>『難波鉦異本』と、なにわ「駅便」考

 冒頭のっけに便所の話題で恐縮だが、こんな張り紙を見つけた。

「最近、トイレを長時間占有される方をお見かけ致します。長時間に亘るご利
用は、他のお客様に大変ご迷惑となりますのでご遠慮ください。」

 阪急梅田駅のトイレの個室内にあった張り紙だ。
 張り紙では、その後に続けて、場合によっては強制的に開錠し、「ご協力を
お願い」する場合もあると告げ、「ご理解ご協力をお願いいたします」と結ん
でいる。

 これ、わしもかねてから不思議に思っていたことなのだ。

 わしは、街中での「突然の便意」が多い人なので、駅のトイレも利用するこ
とが多いのだが、通勤時間帯の朝など、個室が全て「塞がっている」というこ
とが多くて、近くに代替の便所がない場合は、そこにとどまって空くのを待つ。

 たいていは、5分程度も待てばどこかは空くのだが、中に、10分15分、時と
して30分ほども塞がったまま…という個室がままあるのである。

 鈴木大介のルポ『家のない少年たち』(太田出版)を原案とする肥谷圭介の漫
画『ギャングース』(講談社)によると、近頃あちこちで見かける「多目的トイ
レ」というのは、その広さと密室性から、「半グレ」集団や詐欺グループの
「打ち合わせ」に使われることが多いらしいのだが、多目的ではない普通のト
イレが、長時間にわたって塞がっている…というのは、いったい中でナニをし
ておるのか?

 ナニをやっているのかはわからないが、いずれにしても、最近の便所、こと
に駅をはじめとする公共トイレが「こぎれいで快適」になっているのが、その
滞留時間を長くする原因のひとつでは、あると思う。

 昔の公衆便所や駅の便所ったら、狭い、汚い、臭い、ハエや蚊やその他の虫
がぶんぶん飛び回り、這いずっているわ、壁は落書きだらけだわ、「臭い」は
すでに限界を超えて、目に染みるほどだわ……で、長逗留するどころか、一分
一秒でも「早く出たい」という場所でしたからね。

 かつてわしが実際に体験した便所で、一番衝撃的だったのは、1975年、国鉄
渋谷駅で遭遇した「すり鉢便所」。

 個室のドアを開けるとそこは、四方の壁から真ん中の「穴」に向かって、す
り鉢状に傾斜していて、真ん中の穴の左右に、コンクリートブロックほどの大
きさの四角い「島」がふたつあり、そこがすなわち足を乗せるところ。

 で、その島というか足場に乗ってしゃがみ込み、穴に向けてウンコをひり出
し、水洗レバーを引いたら、驚いた。

 四方の壁の全面全方位から、水が「ずざざざ〜〜っ」と流れだし、たちまち
個室全体が滝壺状態……に至ってようやく、「足場」の意味が理解できたのだ
が、あれには、たまげた。

 これは、ホームレス…って当時は「浮浪者」と言ったのだが、その人たちが、
一夜の宿として泊まり込むのを、防ぐために考案されたトイレだったようだ。

 しかし、やはり利用者には至極不評だったのだと思う。

 なにせ、「個室全体が便器」なわけで、たとえば不注意でポケットから何か
を落としてしまうと、たちまちそこは「便器の中」なのだ。
 渋谷駅で一度きり遭遇したすり鉢便所は、その後二度と目にすることはなか
った。

 ちなみに、近頃の「駅便」ランキング関西版…ってもわしの行動範囲に限ら
れるのだが、ダントツの一位は、総合点で大阪市営地下鉄。

 以前は、「長居したくない」トイレのダントツ一位だったのだが、橋下市政
の置き土産で、悪評高かった地下鉄売店(午後6時にはとっとと閉店する売店
だった)の全店コンビニ化とともに、トイレもまた、どの駅もピカピカトイレ
に改装された。

 シャワートイレの設置率でも、おそらくは関西圏ナンバー1だと思う。

 そして、ここもまたトイレが快適に改装された長堀鶴見緑地線西大橋駅から
ほど近くに、出版取次大阪屋の本社ビルがあった。

 かつて本屋時代に、何度か訪れたこともあったが、クラシカルな外観が特徴
的なビルで、その建物が、その昔「新町遊廓」の演舞場だったと聞かされ、
「ええ?」と驚いたのは、そもそもそこが元は遊廓だったことも知らなかった
し、辺り一帯が完全にビジネス街と化していて、「遊廓」の面影がどこにも残
ってなかったからだ。

 何年か前にたまたまこの前を通りかかったとき、そのクラシカルな建物が跡
形もなく取り壊され、仮囲いの中でタワーマンションの建設が進んでいるのを
見て、再び「ええ?」と驚いた。

 出版不況による本社ビル売却、栗田出版販売との経営統合、さらにまた新会
社への移行…と、いろいろとあったらしいとはその後に調べて知ったが、本屋
業界を離れてからこちら、全然知らなんだ。

 もりもと崇『難波鉦異本(なにわどらいほん)』は、かつての旧大阪屋本社
付近一帯が、江戸の吉原、京都・島原とともに「三大遊廓」と並び称された
「新町遊郭」だった時代の物語。

 大坂新町遊廓は、遊女に対する戒律も非常に厳しかった江戸吉原とは違って
緩やかで、遊女たちは、昼間は平服で廓の外に出かけることも許されていたし、
廓の出入り口も、吉原のように一か所だけでなく東西両側にあって、「通り抜
け」も可能だった…等々という新町遊廓とその周辺事情に関する知識もふんだ
んに盛り込まれた漫画なのだった。

 この新町遊廓で、最高級の「太夫」に次ぐ二番手の位階にある「天神」遊女
の「和泉」を主人公とし、その禿(かむろ)である「ささら」との掛け合いを
中心に、ときに実在の大作家・井原西鶴を狂言回しとして展開する、元禄大坂
色里模様。

 少年画報社の時代劇マガジン「斬鬼」に連載され、単行本も同じ少年画報社
から2巻まで発売されて、3巻の発売を今か今かと待っていたのが10と数年前
だ。

 ところが、いっかな発売されないので、もう出ないもんだと諦めていたとこ
ろ、エンターブレインから新たに3巻揃いで出ている、と知った。
 これは取り寄せねば、と検索してみると既に品切れ。とりあえず「上・中・
下」巻のうち、下巻のみを古本で探し取り寄せたのだが、以前の少年画報社版
とは判型も違うし、収録作も微妙に違っているようなので、上巻・中巻も後か
ら取り寄せた。

 少年画報社には、昔からこういう単行本の尻切れトンボが多かったと思うの
だが、この『難波鉦異本』など、手塚治虫文化賞・新生賞も受賞してんのであ
る。
 きちんと最終巻まで面倒を見ていただきたかった、と思う。

 にしても、もりもと崇の名前を、ちかごろとんと目にしない。

 検索を入れてみても、単行本は、この『難波鉦異本』の他には、『大江戸綺
人譚−のっぺら女房』『鳴渡雷神於新全伝』(いずれも小池書院)が引っかか
ってくるのみ。
 『難波鉦〜』を連載した「斬鬼」はすでに休刊しているし、小池書院は倒産
している。

 なにやら不運に見舞われているような気配だが、もしもそうならば、ぜひと
も復活していただきたいと思う。そして、新たな時代劇漫画を読ませていただ
きたい、と切に思う。

 ところで再び「駅便」だが、阪神電車も近頃頑張っていて、各駅での改装、
シャワートイレ化が進んでいる。
 JRもまた、改装が進んでいる。
 阪急も、きれいに改装されたトイレが多いのだが、その改装後のトイレが、
なんでか「和式」中心で、イマドキ、「それは、ないやろ」と思う事しきり。

 最低ランクは「京阪電車」で決まり。ことに京都市内の駅便が、未だに
「汚い」「臭い」「和式のみ」の三重苦。

 外国人観光客が、ことに京都で爆発的に増えている昨今、あれは、どないか
した方が、ええと思うんやけどな、正味。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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73 贈り物

 誕生日や記念日など、贈り物をする機会が年に何回かあります。相手のこと
を考えて喜ぶものを想像するのは、送る方にとっても楽しい時間です。

 『イードのおくりもの』
           ファウズィア・ギラ・ウィリアムズ 文
           プロイティ・ロイ え 前田君枝 訳 光村教育図書

 本書はトルコ民話をもとに書かれたインドの絵本の邦訳です。
 イードとは、ラマダン月(イスラーム暦第9月)が開けるお祝いのお祭り。
巻末の訳者のことばによると、ラマダン月の断食明けのイードはたいへんもり
あがり、日本のお正月そのものだそうです。
 また、日本にもイードを祝うイスラーム教徒の人たちがたくさん暮らしてい
るそうです。

 さて物語は、くつやのイスマトさんが家族にイードの贈り物の買い物に出か
けるところからはじまります。相手が喜びそうなものを見繕い、最後に自分の
買い物もしたイスマトさん。でも、買ったズボンはゆび4本分長いのです。

 しかし、誰もがイードのお祭り準備で忙しく、イスマトさんのズボンをなお
す時間のある人が見つけられません。そこでイスマトさんは……。

 愛情たっぷりの締めくくりに心があたたかくなりました。

 絵はイギリスのニック・シャラットさんの画風を思い起こす、ポップな楽し
い雰囲気。色がきれいです。
 
 毎日の仕事や家事に追われているとなかなか相手が喜ぶことができないもの
です。おだやかに過ごすことを心がけていても、疲れていると難しい。それで
も、相手の喜ぶ顔を想像し行動するのは大事だとこの絵本を読んで思いました。

 贈り物にぴったりのおくりもの絵本です。


 『どうぶつたちがねむるとき』
   イジー・ドヴォジャーク 作 マリエ・シュトゥンプフォーヴァー 絵
                        木村 有子 訳 偕成社

 次のご紹介する絵本はチェコの絵本です。

 我が家はみな、一日のうちで一番待ち望んでいるのは布団の中に入るときと
いいます。つつがなく一日が終わり、お風呂でゆるみ、布団で眠る至福の時間。

 この絵本は、幼児向けのおやすみなさい絵本ではなく、様々な動物たちが、
どんな睡眠をとるのかについての知識絵本です。

 ペリカン、ブダイ、マルハナバチ、ラッコ、アザラシ、シロクマ、
 フラミンゴ、ヤマネ、キリン、ネコ、ミドリニシキヘビ、キツネ、
 クジャク、ラクダ、イヌ、アマツバメ

 フロッタージュ(でこぼこした物の上に紙をおいてこする技法)を効果的に
用いて描かれた動物たちは、独特で印象深く、なにより美しい。

 上記の中でいちばん眠る動物はわかりますか。
 私は初めて知りました。
 
 キリンは2時間くらいしか眠らないこともも初めて知りました。

 動物園に行って、実際に動物たちを観察したくなります。

 子どもはもちろん、大人にもおすすめの絵本。
 洒落て美しい装幀なので贈り物にぴったりです。

 最後にご紹介するのは、写真絵本。
 
 映画『世界の果ての通学路』をご存知ですか。
 偶然テレビで子どもたちと一緒に観た映画です。

 ケニア、アルゼンチン、モロッコ、インド、それぞれの厳しい通学路で学校
に向かう子どもたち。
 4か国それぞれの過酷さにびっくりしました。

 ケニアでは野生動物がでるので襲撃にあわないよう
 アルゼンチンでは、石ころだらけの道を馬に乗って通い
 モロッコでは週初め、夜明けに起きて22kmの道を歩き週末に帰ってくる
 インドでは、オンボロ車イスに乗っている弟を兄弟たちでかついで一緒に通
う。

 学ぶことが大事だとわかっているから、このような厳しい通学を日々してい
る、その姿に子どもと一緒に感嘆しました。

 今年高校生になった娘の英語の教科書には、この映画の話がのっていて、す
ぐにあの映画だ!とわかった娘が嬉しそうに教えてくれました。

 『すごいね! みんなの通学路』
 文 ローズマリー・マカーニー 訳 西田 佳子 西村書店

 西村書店刊行の新シリーズ「世界に生きる子どもたち」第一弾の絵本。
 これもドンピシャリ、映画と同じように厳しい通学路で学校に通う子どもた
ちがうつされています。

 地形の厳しさだけでなく、自然災害などでも通学を困難にさせる子どもたち。
日本の子どももいます。
 
 どの子も学校に向かって歩いています。
 いろいろな子どもたちがいる。笑顔だけでない、危ない道なので緊張した顔、
厳しい顔。

 巻頭には日本語版限定で、ノーベル平和賞受賞のマララさんの写真も掲載さ
れています。「すべての子どもたちに教育を受ける権利を」とマララさんは訴
え、レバノンに自身の基金で女学校をつくっています。

 若いマララさんを見習って大人もまた子どもの未来をつくっていきましょう。
そんな話を読んだ人としたくなりました。

 たくさんの子どもたちと大人に贈りたい絵本です。


(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第91回 第一次世界大戦はいかに始まったか(その1)

 たいへんな本を手にとってしまった。全2巻(844ページ)の大著である。
しかも翻訳本。そして発行元は学術書を出版しているあの、みすず書房。とく
れば、どれだけ硬い本なのだ、と想像がつく。タイトルをみて、ふらふらとこ
の本に近寄ってしまった、執筆子としてはぜひこの本の書評をものにしてみた
い、という熱い思いが続いている。しかし、7月10日現在、まだ読み終わって
いないのだ。仕方がないので、あまり例はないが、本書は上下の2巻に分かれ
ているので、今回は1巻だけの紹介をしようと思う。

『夢遊病者たち −第一次世界大戦はいかにして始まったか−』(1巻)
(クリストファー・クラーク 著)(小原 淳 訳)
(みすず書房)(2017年1月25日発行)
『THE SLEEPWALKERS−How Europe Went to War in 1914』(Christopher 
Clark)(2012)

 本書は全12章からなっている。そのうち1巻は4章分になり、残りの8章が
2巻の登載である。1巻の各章は以下の通り。

第1章 セルビアの亡霊たち
第2章 特性のない帝国
第3章 ヨーロッパの分極化 1887〜1907
第4章 喧々囂々のヨーロッパ外交

 本書は19世紀の末から第一次世界大戦が勃発した1914年までのおよそ20年間
のヨーロッパの政治家たちの動きを時間(時系列)と空間(地域別)でそれこ
そ縦横無尽に表現している。そのとき、その立場にいたその人たちの発言や行
動、ひとつひとつが、1914年の大戦勃発への原因となっていく。彼らは自分の
発言と行動に責任を持たなかったので、それこそ「夢遊病者」だったわけだ。
責任を取らない政治家たち。それが大戦の悲劇を産んだ。

 第一次世界大戦では、主な戦場がヨーロッパであり、日本は遠い異国での戦
争、というイメージである。実際にこの戦争の原因がなにかは、学校でしっか
り教わった記憶がない。“一発の銃弾が大戦の引き金となった”・・・という
ような表現で、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻がサラエボにおい
てセルビア人の青年に暗殺されたことを学習した。そして当時のバルカン半島
は“火薬庫”であり、ほんの些細なことで大爆発を起こす危険がある、という
ようなことを学んだ。実際に、オスマン帝国とオーストリア=ハンガリー帝国
という、長くこの地を治めていた両帝国の勢力が弱まり、この地のさまざまな
民族が自立を願ったこと。つまりナショナリズムの台頭があり、そして墺(オ
ーストリア)と土(トルコ)以外にそこに英仏独露伊という帝国主義時代の列
強と云われる大国が自国の利益を優先させた外交政策を取り、それら列強の思
惑と自立の願うそれぞれの民族の行動が複雑に絡み合いバルカン半島をして、
火薬庫にさせしめていた。

 話は脇に逸れるが、帝国主義時代と云われるこの時代、国名を英米仏伊独露
蘭白墺土と表現するとピタッとくる。英仏露の三国協商に独墺伊の三国同盟の
ような表現だ。たくさんの国名が出てくるので漢字一文字の略称は素晴らしい
アイデアだと思う。そしてこの乱暴な当て字略称は大国の横暴とそれが結果的
に弱い者いじめになったこの乱暴な帝国主義時代を端的に表わしているように
思えるのだ。

 閑話休題。

 この1巻は、第一当事国のセルビアとオーストリアの王族や政治家たちの派
閥争いが細かく描かれている。スラブ人の名前、ドイツ系の名前が入り乱れる。
王さま、皇太子、首相、外相、陸相、参謀総長、各地の駐在大使たち。名前を
覚えることを放棄しないと読み通せない。前に進まないのだ。人名索引は2巻
にある。しかし1巻にも人名索引を付けてくれたらよかったのに・・・・・。

 そのような政策決定者たちはいかにしてこの大戦を始めてしまったのか?と
いうことを本書はテーマにしている。本書の「序」を少し長くなるが引用した
い。

 “「いかに」という問いは、一定の結果をもたらす一連の相互作用を間近で
観察するよう、我々をいざなう。対照的に「なぜ」という問いは、帝国主義、
ナショナリズム、軍備、同盟、巨額の融資、国民的名誉の思想、動員の力学と
いった、ばらばらのカテゴリー別の諸要因を分析するよう、我々をいざなう。
「なぜ」からのアプローチは一定の分析上の明確さをもたらすが、理解を歪め
る効果もある。この場合、諸々の原因が次々と上に積み重ねられ、諸々の事実
を下に押しやることになる。・・・・・本書が語る物語はこれとは反対に、何
らかの作用を及ぼした人物たちで満たされている。”

 大勢の政策決定者たちがヨーロッパを少しずつ危機に向かって進めていった。
それを本書は可能な限り描写している。

 例えば、セルビア国の首相のニコラ・パシッチの性格描写はこう書かれてい
る。「秘密主義で、こそこそしていて、うんざりするほど慎重」。・・・・・
このような人物がセルビアを動かしていた。彼は自国の利益よりも自分の利益
を優先していたきらいがある。つまり、セルビアの利益が多少損なわれても自
分の地位を保つことを最優先とした行動と発言をしていた、ということだ。

 そのセルビアは、汎スラブ主義(スラブ民族で統合しようとする立場。ナシ
ョナリズム。ロシアと友好。オーストリアと対立。)と親オーストリア派とあ
ったが、汎スラブ派が影響力を強めてきた。それは取りも直さず、戦争の危険
が迫ることに直結している。

 オーストリアは、多民族国家なので、ナショナリズムを嫌うが、そもそも複
雑な国家として巨大すぎるし、どう行動すれば、国の利益になるか、というビ
ジョンが欠けた国のようであり、その意味で老大国といってよい。

 フランスは共和制であり、イギリスの国王は政治に口を挟まない。オースト
リアとドイツ、それにロシアは皇帝をいただく帝国であり、最終決定は皇帝に
ある。それはつまり、どの派閥が王を取り込むか、ということになる。このこ
とは簡単に想像がつくし、本書はその派閥争いにほとんどのページを費やして
いる。これにあとさきを考えない血の気の多い無鉄砲なセルビア人のドタバタ
が入る。まったく大いなる人間模様が描かれているのだ。

 セルビアやブルガリア、ルーマニアなどバルカン半島の小国の立場があり、
考えがある。いかに自国に有利(領土を広げること、通商を有利な条件で行う
こと)な条件を相手に飲ませるか。また列強の立場もある。例えばロシアは例
のダーダネルスボスポラス両海峡の通行権の確保が最大の悲願。こんな風に各
国の立場をこの場で書いていたら、切りがなく、それこそ本書を読んでくださ
い。ということだ。

 本書はまさに“いかにして”第一次世界大戦が始まったのか、が細かく描写
されている本なのである。


多呂さ(今年も気の毒な自然の大災害が起こってしまいました。お見舞い申し
上げます)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
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・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
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 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 最近、ちょっと個人的に、方言好きになっております。なんていうか、温か
さを感じてしまうんですね。子どもの頃に聞いていた言葉なので、ノスタルジ
ーなのかもしれませんが。

 ただし、個人的には幼少期に聞く機会の多かった九州弁、関西弁にぐっと来
るんですが、なぜか高校時代を過ごしたはずの名古屋弁にはぐっと来ません。

 なんででしょうねぇ。(あ)

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#84『ドバラダ門』

 前回は新宿の老舗ライブハウス、ピットインの50周年記念本を取り上げたが、
1960年代当時、この店を舞台に、日本のジャズの歴史を塗りかえた一人として、
この本に名前が挙がり、登場もしている山下洋輔。

 今月は、ジャズ・ピアニストでもあり、幾多の名エッセイで文筆家としても
声望高い彼の本を紹介したいと思った。

 初めは、60年代の空気を今に伝える、処女エッセイ集『風雲ジャズ帖』にす
るつもりだったのだが、改めて読み返してみると、後のエッセイと違って、旅
の記録としての側面はあまりない。考えてみれば当然で、この本は病気療養中
の無聊を慰めるために書かれたさまざまな文章と座談会、対談から成っていて、
著者が一番旅をしていない時期のものなのでる。

 また、後に山下洋輔文化圏と呼ばれる、ジャズメンはもちろん、筒井康隆や
タモリなどを含む多彩な人脈によるバカ騒ぎの時代も、まだ始まっていない。

 したがってハナモゲラ語もまだなく、全日本冷やし中華愛好会もまだない。
ちなみに、前々回『宮澤賢治、ジャズと出会う』を取り上げた時、著者の奥成
達の名前をどこかで聞いた覚えがあるのだが思い出せない、と書いたが、この
山下洋輔文化圏の一人であった。筒井康隆か山下洋輔のエッセイに登場してい
たのだろう。

 という訳で、『風雲ジャズ帖』の中心テーマは音楽論であり、多少の譜面も
出てくる。ある程度知識と興味がないと、なかなか理解しづらく思われ、この
欄で取り上げるのにためらいが出た。

 だったら、その後の『ピアノ弾きを笑え』でも『ピアノ弾き乱入列車』でも
いいはずだが、何となくそれでは面白くない気がして、つらつら迷っていると、
ふと思いついたのが本書、『ドバラダ門』だった。

 これは、当然音楽絡みではあり、だからこそこの音楽本書評で取り上げるわ
けだが、中心的な興味は山下洋輔のルーツ探求にある。
 しかも、最後の注釈には「大体においてノンフィクション」とは書かれてい
るものの、筒井康隆によるあとがきには、「唯一の長篇小説」とあり、まあ、
そもそもジャンルを決めるのが難しくかつ無意味であるような奇書なので、ど
っちでもいいと言えばいいのだが、ある程度物語としての構成は整っているし、
読みやすいことは確かだ。うん、これがいいんじゃないかな、と思い始めた。

 そこで本棚を探してみたのだが、どうしたものか、見当たらない。
 単行本で出た当時に買った記憶は確かにあるし、もちろん内容もある程度は
覚えているのだが。
 仕方がないので、これだけの名作だ、図書館にあるだろうとホームページで
蔵書検索をかけると、あるにはあったが、なんと保存庫に眠っているではない
か!

 信じられない。あれだけの傑作なら、図書館の開架に常時君臨して、常に新
しい読者を待っていて当然。
 これはもう、ささやかながら本欄でも取り上げ、その魅力を少しでもお伝え
しておかねば、と思い、ご紹介決定となった次第である。

 とにかく、「大体においてノンフィクション」でありながら、時空はもちろ
ん、虚実も自由に飛び越えて読者を引きずり回す、途方もない「小説」でもあ
り、いやしくも文学好きは必読の一冊なのだ。

 さて、物語の発端は、事実に基づいている。
 著者が鹿児島でライブをすることになったと何気なく実家の母親に告げると、
だったら鹿児島にお祖父さんのつくった刑務所があるから見ておいで、と言わ
れるのだ。

 刑務所? つくった? なにそれ?

 その時著者も初めて知るのだが、父方の祖父、山下啓次郎は今で言う東大の、
今で言う建築科を出ており、日本が明治維新を迎え、文明開化の波に襲われる
その中で、全国五箇所に西洋式の近代的な監獄を設計、建設した人物だったの
である。
 そのひとつが、鹿児島市に、まだ現存していた鹿児島刑務所なのだと言う。

 山下洋輔は東京生まれであるが、父方のルーツは、その鹿児島だ。幕府が倒
れ、維新の世となった時、下級武士であった曽祖父、山下房親も、新しい日本
を築くべく、薩摩から東京に出た。西郷隆盛の肝煎りで始まった、近代的な
「警察」の創設に加わるためである。
 そして房親は最終的には刑務所長となるのだが、息子の啓次郎もまた、司法
省営繕課の課長として、その刑務所を建てる仕事に就く。
 そうして故郷である鹿児島にも、刑務所をつくったのだ。

 その後、紆余曲折を経て、著者は、その刑務所に出会う。
 いや、むしろその門に出会う。

 と言うのも、ゴシック様式の刑務所の、小さな城のような門がまず目に飛び
込み、住宅街の真ん中で場違いな偉容を誇るその奇観に、強く心を撃たれるか
ら である。
 これこそ、タイトルにあるドバラダ門だ。

 しかし、祖父が建てたその建物は、取り壊しの危機にあった。

 建設当時は人も通わぬ郊外だったのだろうが、現在では住宅地になっている。
その真ん中に刑務所があるのは何かとよろしくない、ということで既に中身は
移転していた。そこに在ったのは、抜け殻だったのだ。

 移転はいいとして、問題は跡地の処理である。

 鹿児島には、古くから石を使って建築する石工の技術があったため、山下啓
次郎は当時主流となっていたレンガ造りではなく、石造を採用した。
 そのため鹿児島刑務所は、今に残る石造建築として最大の規模を誇ることに
なったのである。

 ところが、鹿児島市はこのように貴重な明治時代の遺跡を跡形もなく破壊し
た上で、新たな文化施設を建設する計画を立て、市民が何も知らされない内に
議会を通し、予定通り取り壊しの準備を進めていたのだ。

 この暴挙を知って、鹿児島大学建築学部を中心に反対運動が巻き起こってい
た。「もう決まっちゃったもんね」の一点張りで、「ええい、聞く耳持たぬは
そこへ直れ」的な態度の市に、それでも果敢な保存の訴えが行われていた。

 山下洋輔は一家と共に、そうした活動の一環として鹿児島刑務所で開かれた
シンポジウムに出席。かの建築探偵、藤森照信などにも会い、祖父の遺した業
績の偉大さを今更ながら知ると同時に、「取り壊しを中止させるためなら、何
でもする。刑務所の門前でピアノを弾いてもいい」と口走る。

 もちろん、その口走りは実現に向けて動き出す。

 一方で著者はさまざまな資料に当たり、祖父の人生ばかりか、遡って曽祖父
房親の時代から、西郷隆盛なども登場する幕末、明治の激動の歴史を調べ上げ、
海外ツアーの際には、啓次郎が視察したという、ベルギー、フランス、イギリ
スの刑務所を訪れる。

 そして当局の妨害により、形を変えながら、ついに実現する、刑務所門前で
の演奏。

 と、ここまで書くと、なんだ、普通のノンフィクションじゃん、どこが奇書
やねん、となぜか関西弁の物言いがつきそうだが、これはあくまで骨組みに過
ぎない。

 この流れを主軸に、至るところに華々しい脱線が起こる。
 ふとしたセリフや、アクションをきっかけに、物語はすぐに逸脱を始める。

 その先には、生麦事件があったり、薩英戦争やら西南の役やらの戦闘シーン
があったり、ヨーロッパの監獄視察から帰った啓次郎の帰朝演説があったり、
山下一族やゆかりの人々の挿話が紛れ込んだり、いろいろな時代、場所を自由
に行き来して、シュールな場面が続出する。

 そしてもちろん、虚実も自在に飛び越える。
 歴史家でも歴史小説家でもない割によく調べているくせに、書き始めると時
代考証などどこへやら、登場人物が「この時代の人間が、こんなことは言わな
いと思うのだが」などと自分にツッコミを入れながらしゃべったり、現代の事
物が幕末に混入したりする。

 特に好きなのが、薩英戦争の場面。英国艦にヘミングウェイ軍曹という水兵
が乗っているのだが、これが釣りばかりしていて、時には老人がカジキマグロ
と死闘する白昼夢を見たりするので、要するに『老人と海』の文豪ヘミングウ
ェイなのだが、実際に同姓の水兵がいたという記録を読んでの妄想なのか、ま
ったくの虚構なのか。ちょっとしが出てこない割に印象に残る名脇役である。
『ヘミングウェイの日記』なる本からの引用もあるが、当然虚構だろう。
 それにしても、英国艦だよね。なんでアメリカの文豪?

 さらに、房親の兄が江戸で死んでいるのだが、その真相が明らかでないのを
いいことに、実は平賀源内の発明した時間航行機、すなわちタイムマシンで時
間放浪者になって、さまざまな時代に出没することにしてしまう。その姿がな
ぜか画家の山下清……と言うより、テレビで芦屋雁之助が演じた裸の大将その
ままで、単に同姓のよしみで勝手に持ち出したのか、とにかく爆笑キャラとし
て大活躍する。

 著者自身が心酔する筒井康隆ばりの、シュールなドタバタ満載の、抱腹絶倒
劇。
 そのついでに、文化をないがしろにするこの国の行政の愚昧を暴き、100年
に渡る時の流れに想いを馳せる。

 それにしても、いくらミュージシャンの作にせよ、文中にBGMが書いてあ
る 小説なんて、前代未聞ではないだろうか。

 結局、貴重な文化財である鹿児島刑務所は、市当局によって残忍に破壊され
てしまう。その描写は、短いながら哀切で痛々しい。まるで石の建築が、巨大
な生き物であるかのようだ。

 そう、それは破壊ではなく、殺戮だった。人間の歴史の殺戮である。

 ただ、唯一の譲歩として、門だけが残されたと言う……


山下洋輔
『ドバラダ門』
平成五年九月二十五日発行
新潮文庫

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
山下洋輔の実家は阿佐ヶ谷だそうで、そこはぼくが幼稚園の年長さんから結婚
して家を出るまで過ごした街。また、山下家のルーツが鹿児島なら、ぼくの父
の家は佐賀。封建的風土も共通する九州人の末裔同士。なんか、勝手に親近感
を覚えてしまいます。

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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未亡人の視線で「こころ」を読む
夏目漱石『こころ』(新潮文庫)

 久しぶりに会った高校教師(国語)の友人に、「今って教科書に何が載って
るの」と聞いたら「『こころ』は今でも掲載されているかなあ」というので興
味を持ちました。聞けば教科書に載ってるのは一部なので、夏休みの宿題とし
て全部読んで感想文を書きなさいというと結構読んで書いてくるらしいです。
「ほら、三角関係の話だったりするから高校生にも親しみがあるんじゃない」
と友人。(レベルの高い学校に勤務してるんですね)

 そこでおばちゃまも読んでみた次第。茶色くなった新潮文庫の「こころ」書
棚の隅にほこりかぶってました。

 読み始めたら大昔読んだときとはまったく違う視点から読むことになって、
我ながら「え?え?まじか」とびっくり。いやいや、だから名作は怖くて素晴
らしい! 時を経て読むとまったく別の様相が浮かび上がるんですね。

 ご存じ、「こころ」は大正3年、新聞小説として掲載された漱石の代表作で、
「金銭と恋愛をめぐる我執(エゴ)の相の洞察は鋭い」と三好行雄は解説して
います。ざっくり言うと、「私」が私淑する「先生」はかつて、「K」という
友人を裏切って下宿先のお嬢さんと結婚した。「K」は理由も言わずに自殺。
その裏切りをずっとひきずってとうとう先生も命を絶ちましたという話です。

 大昔読んだときは、「先生」の心模様ばかりに目が行ってました。たぶん、
夏休みに読書感想文書いてくる高校生も同じだと思うのですが、今回、還暦過
ぎて読んだら、まあ、この下宿の未亡人ばかりに気が行って、もう「先生も
「K」もええわって感じになりました。なので今回は未亡人目線でこの話を読
んだという話です。

 下宿の奥さまは軍人である夫を戦争(日清戦争)で亡くしています。夫は鳥
取出身で、自分は(元防衛庁のあった)市ヶ谷生まれというから、そのあたり
で見合いして結婚したんでしょうか? 夫亡きあと、広い屋敷を手放して素人
下宿を営みます。役人にでも貸したらいいかと思っていたときにやってきたの
が大学生の「先生」。この時代、大学というのはそのへんの三文大学じゃござ
んせん。東京大学のことです。

 おばちゃま、奥さんの身になって考えた。頼る人のいないシングルマザーと
娘。自分が死んだあと、娘はどうしたらいいのか。娘さんは女学校に行ってる
けれど(地理的に見て三輪田あたり?)当時、女学校を卒業したからでは地元
の信用金庫にでも就職というわけにはいきません。仕事をする女性なんていな
かったのです。ではどうするか? 結婚です。

 芥川龍之介「秋」で小説家をめざすヒロインが、父が亡くなっていたので小
説家志望の前に「縁談から決めてかかるべく余儀なくされた」時代、結婚は弱
い立場の女性のセーフティネットだったのですね。(今でもそのような意味は
消えてませんが)。

 決して広くないしもた屋に、未亡人(っていってもたぶんアラフォー)、若
い女学生、そして大学生の3人。部屋を仕切るのはふすま一枚。鍵のかかる部
屋はなかったでしょう。

 これは奥さんが意識するとしないとにかかわらず仕掛けた罠なのか、大学生
=先生はあるとき、それに気づきます。

 「利害問題から考えて見て、私と特殊の関係をつけるのは、先方に取って決
して損ではなかったのです」。

 ここで問題なのは、大学生が決して女性関係で世慣れていないということ。
恋愛未経験な大学生なのであります。(佐伯順子さんの研究では、あくまで素
人の女性に対してのみ未経験であって、プロ女性とは交際があるのが当時の常
識とされています。『近代化の中の男と女・色と愛の比較文化史』)。

 そしてさらに、先生の案内でここに「K」が加わるのです。先生はお嬢さん
に好意を寄せているのに同世代の友人を仲間に加えるなんて、恋愛で一番やっ
ちゃいけないことですが、これ、1000年前に「源氏物語」で薫大将がやってま
す。女とみたらすぐ誘い出す匂宮をグループに入れるという暴挙。こわいもの
見たさの恋愛パターンですね。

 このKは先生よりさらに女に対して奥手。一気にお嬢さんを恋して、そして
悲劇が起きるのです。

 未亡人は、どうもKよりも先生を気に入っていたようで、お嬢さんがKと仲
良くなることをどう思っていたのか、大学生は卒業が近づいてくる、同時にお
嬢さんも女学校の卒業が近い…どうするどうする・・・・・このへんは非常に
緊迫していてスリリングです。

 先生の「お嬢さんをください」プロポーズに即答して「どうぞ貰って下さい。
ご存じの通り父親のない憐れな子です」というセリフに、当時の女性の置かれ
た位置がわかります。

 未亡人が大活躍する場面がこのあとすぐに描かれています。Kが自死を遂げ
た後始末をはしはしと仕切る姿です。

 軍人の妻なのでこのへんはノウハウを知り尽くした感じ。たぶん奥さんの父
親も軍人だったと思われます。医者へ知らせ警察へ知らせ、先生が遺族に電報
を打って帰ってくるとすでに線香が立てられていたという描写に、この女性の
悲しさと強さ…そして母としてのしぶとさを感じます。

 先生とお嬢さんが結婚後、奥さんはなくなりますが病を得た奥さんを先生は
心を込めて看病するのでした。奥さんはそれをどう思ったでしょうか? どれ
だけ先生とKの関係を知っていたのか、文中には何もかかれていませんが、ぼ
んやりとでも何事かを悟っていたのではないかとおばちゃまは思うのです。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『テロリストは日本の『何を』見ているのか』伊勢崎賢治 幻冬舎新書

 伊勢崎賢治という人は、不思議な人だとと思う。彼は世界の紛争の最前線に
出張っていって、彼の地の武装勢力を武装解除して回るというものすごい仕事
をしている人だ。そんな人が、戦争の最前線のことなど知らない、あるいは単
なる感情論で平和を語る「9条教」信者みたいな人から支持されている。

 9条を高らかに評価するから支持されるのだろうけど、戦場のリアルを体で
知っていると言っても良い人が9条教徒のリアリティのなさと共鳴しているか
のように見えるのがなんとも不思議なのだ。

 で、この本は日本がテロリストに狙われないようにするにはどうすべきかを
書いてある本。最初に出てくるのは中国脅威論に対する批判である。中国が日
本を攻めてくるはずないだろ。そんな非現実な想定よりもグローバルに拡大す
るテロの脅威の方がよほど重要だとくる。

 次に言うのは原発の危険性である。原発をテロ攻撃するというと、フィクシ
ョンならミサイル撃つとか、爆弾を持ち込むとかとなるけども、彼はそんなこ
と言わない。

 福島第一発電所の事故の後、テロリストは原発を攻撃するのにミサイルも爆
弾も不要だと知った。福島第一は津波によって電源を喪失することが事故に繋
がった。すなわち原発に侵入し、従業員を脅して電源喪失に持ち込むならピス
トルや刃物で十分にテロは実行できる。

 そういう脅威から原発を守るには警備員にピストルや小銃などを持たせなき
ゃならないが、日本では警備員の武装は認められていない。そんなことで原発
テロを防げるのか?と畳みかけてくるのである。

 そこから話は「インサージェンス」を中心に進む。インサージェンスとはテ
ロリストの同義語みたいな、反体制派を意味する言葉だが「テロリスト」と区
別して使われている。ここがある意味、この本のキモだろう。反体制派をテロ
リストと言ってしまえば単なる悪者と読者に認識されて、そう認識されてしま
うと話が通じないからだ。

 テロリストの成り立ちはさまざまだが、彼らにも彼らの正義がある。タリバ
ンは元々アフガンに群雄割拠して悪さしていた軍閥に対抗する勢力として生ま
れた。タリバンは悪者として見られているが、実は軍閥はタリバンなどよりよ
ほどむちゃくちゃなことをやっていて、そんな連中を一掃することでタリバン
はアフガン国民の支持を得た。

 そうした軍閥を育てたのは、アフガン戦争でソ連に対抗しようとしたアメリ
カやアラブ諸国だ。アフガンの英雄にはオサマ・ビン・ラディンもいる。

 オサマ・ビン・ラディンはそもそもアフガン義勇兵だった。それもサウジの
金持ちのボンボンが最前線に立ったものだから多くの人が彼を支持した。イラ
クの脅威にサウジアラビアが晒されていると見るや、オサマはアフガン同様に
義勇兵を募って祖国を守るためにイラクと戦う気でいた。ソ連相手に勝った連
中だ。イラク相手に勝てる自信もあった。なのに、サウジ政府はあろうことか
アメリカに助けを認めた。そりゃオサマも怒る。

 9.11テロでアメリカが激怒してタリバンを追い出したはいいが、そうなると
また軍閥が跋扈する。ISなんてのも出てきた。そんな、新たな脅威に対抗する
ために、タリバンを「まともな敵」として育てることが必要になる・・・いや
はやこの世は複雑だ。

 なにせアフガンの武装解除を指揮した本人の言うことだ。軍閥の武装解除は、
きれい事では済まされない。何百人と虐殺した者が武装解除した途端に訴追さ
れて罰せられるとなると、彼らは絶対に武装解除に応じない。だから武装解除
後、新政府の閣僚として虐殺者の親玉を迎え入れなければならない矛盾など、
現場を仕切った人にしか分からない、えぐい話がいっぱいだ。

 そしてテロ防止策の話が来るが、注目に値するのは、テロ防止策として移民
の推進を挙げていることだろう。このあたりは人によってかなり意見が割れる
と思う。

 そして最後に来るのが在日米軍との地位協定と憲法9条の改訂を提案する。
本の最後は彼の「改憲」9条の条文になる。彼が一体何を考えてこういう条文
を持ってくるに至ったのか、それを説明するのがこの本なのだなと、最後まで
読んでやっと気がついた。

 そしてこういう考えに彼が至ったということは、彼が「改憲派」としての旗
幟を明白にしたということだ。これに対し、護憲派と呼ばれる人たちがどう反
応するのか興味深い。しかし、この本が出て8ヶ月にもなるが、特に護憲派か
ら批判されてるなんて話も聞かない。では護憲派が改憲を認めたのかというと、
それもなかろう。

 ということは、護憲派から「使えねぇ」と思われて無視されているとするの
が、当たらずとも遠からずの現状ではないかと思う。

 ま、それはともかく、イデオロギーとしての反戦平和ではなく、リアリズム
に立脚した反戦平和について考えるなら、ぜひ読んでおくべき本だと思う。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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さい。

・『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)
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・『脳疲労が消える最高の休息法 CDブック』(ダイヤモンド社)
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・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
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・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
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■あとがき
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 何を勘違いしたのか、先月の20日号の月を間違えてしまいました。正しくは
5月20日号で、今号が正真正銘の6月20日号です。

 一瞬、自分がタイムスリップしたのかと思ってしまいました…。(あ)

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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→観察の楽しさ

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→わしらが子供だったころ

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→新渡戸稲造氏の生き方

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 株式会社サンガ様、原作者の方喰正彰様より『マンガでわかるグーグルのマ
インドフルネス革命』を献本いただきました。ありがとうございます。
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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72 観察の楽しさ

 大人になってからは初めてともいえる写生会を体験してきました。
 絵は好きなのですが、描いたことはほとんどないので、学べればと思って参
加したものの、具体的な指導はなく、ただひたすら野の花や樹木を見て描いて
きました。まとまった時間じっくり観察してみると、いままで見えていなかっ
た細かなところまで見えてくるようになり、自分の眼が成長を遂げた気分を味
わいました。

 それ以来、自分の視点が確かに変化し周りの野の花だけでなく、虫や鳥もい
ままでになく視界に入ってくるようになったのです。楽しくて、歩いていると
常にきょろきょろしています。家のまわりは田んぼだらけで自然がたっぷりな
のです。

 さて、今回は虫が活発になる季節にぴったりの絵本。

 『甲虫のはなし』
 ダイアナ・アストン文/シルビア・ロング絵/千葉 茂樹訳/ほるぷ出版

 ほるぷ出版の「あたたかく美しい絵で身近な科学を紹介するシリーズ」の一
冊です。このシリーズはどれも読んでほしい!のですが、ここでは新刊をご紹
介します。

 甲虫とは、6本のあしをもつ昆虫のなかでも、とくにかたいまえばねをもつ
虫のこと。

 見開きいっぱいに、のびやかな水彩画でカラフルな甲虫が描かれています。

 たまごの甲虫は葉っぱのうらにうみつけられ、
 たまごからかえると、なんども脱皮をくりかえしながら成長します。

 1週間くらいで成虫になるサカハチテントウ。

 メダマジンガサハムシ、アカヘリミドリタマムシのいろとりどりの美しさ。

 美しい甲虫は世界のあちこちで食用にもなっています。

 国連食糧農業機関(FAO)は2013年5月に「食用昆虫 食品と飼料の安全
保障」という報告書をまとめ、昆虫食の利点を挙げており、

 この絵本でも
 インドではクワガタムシのチャツネ、パプアニューギニアでは幼虫のシチュ
ーなど、いろいろ紹介しています。(残念ながら料理の絵はありません)

 また、人間の食べるパンやドライフルーツ、中にはペットフードまで食べる
ありがたくない虫も紹介されています。

 恐竜が生きていた約3億年前から生息していたことが化石からわかっている
甲虫。長い時を経ていまにいたっている虫たちを今年は観察してみようと思っ
ています。

 シルビア・ロングの描く甲虫はとってもきれいなので、子どもだけでなく、
虫好きの大人の方への贈り物にもおすすめです。

 これを機会に既刊絵本もぜひ。

 『たまごのはなし』
 『たねのはなし』
 『チョウのはなし』
 『いしのはなし』
 『巣のはなし』


 もう一冊ご紹介。

 『子どものための美術史 世界の偉大な絵画と彫刻』西村書店
  アレグザンダー 文/ハミルトン 絵/千足伸行 監訳/野沢香織 訳 

 タイトルどおり、美術を楽しむための入門本。
 絵をきれいに描ければなあと長年思っていましたが、絵をみることも大好き
です。

 地方に住んでいるとなかなか本物をみる機会には恵まれませんが、こういう
本があると、自分の好きな時間にじっくり絵を楽しめます。

 子どものための入門書は、実は大人にとっても便利な一冊です。説明が丁寧
で、専門用語の羅列なくして、わかりやすい言葉で書いてあるので理解しやす
いからです。

 本書ではヨーロッパとアメリカの画家が中心ですが、日本人ではひとりだけ
葛飾北斎が紹介されています。

 見開きで1人の画家が紹介され、代表的な絵画1枚、どんな風に描かれてい
るか細かな注釈がついています。

 葛飾北斎では〈富嶽三十六景〉より《神奈川沖浪裏》の絵が紹介。描かれて
いる絵の、たとえば「小さいほうの浪は富士山と同じ形をしていること」など
鑑賞の一助となることが添えられています。

 また、すべてではないですが、それぞれの画家の画法についての簡単なワー
クショップが紹介されているのも魅力です。

 アンリ・マティスのページでは、「はさみでかく」切り絵のしかたを、ルノ
ワールのページでは「スクラッチアート」をというように実際に作品づくりを
したくなる工夫があります。

 実際に自分の手でアートをつくる体験をすると、本物のすばらしさをより理
解でき、また鑑賞する楽しみも深まります。ぜひ実際に描いたりつくったりし
てみてください。

 夏休みにはすこし早いかもしれませんが、自由研究の参考にもなるおすすめ
本です。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<90>わしらが子供だったころ

 この5月の下旬、とても遅まきながら、アニメ映画『この世界の片隅に』を
観てきた。
 こうの史代の原作漫画はとても好きだったので、あの独特の空気を、アニメ
でうまく再現できているのかどうか、さらに「あの時代」を、必要以上に、暗
く陰鬱で灰色というステレオタイプで描かれてたりしたら「やだな…」等々と
いう不安と疑心暗鬼で先延ばしにしていたのだが、いよいよ5月の最終週で公
開が終了する、と聞いて、重い腰をあげたのだった。

 とても良かった。
 もっと早く観に行けばよかったと後悔した。
 原作の「空気」は、きちんと再現…というよりも、さらに昇華した形で表現
されていた。

 原作漫画では、物語の背景となる当時の広島や呉の町の様子や、衣服や履物、
乗り物等々のディテールが、かなりのこだわりを持って描かれていたのだが、
これも、なお一層細かく……おそらくは綿密な取材がされたのだろう……緻密
に描きこまれていた。

 アニメ版では「音」もまた、丁寧に再現されていたように思う。
 たとえば、爆弾が至近距離で炸裂する音。あるいは、艦載機が急降下して機
銃掃射していくエンジンと機銃の爆音。
 どのシーンの音も、とてもリアルに感じられた。
 「すず」さんの嫁ぎ先のラジオからは、空襲警報を伝えるニュースが流れて
くるのだが、そのニュースを伝えるのが、「昭和20年」に至って、男性から女
性の声に代わっている……のに気づいたときには、「さすが……」と、思わず
うなってしまった。

 平日午前の上映だったのだが、公開終了間際だったせいか、客席は六分ほど
の入りだった。
 わしの隣には、わしよりやや年上と思われる男性が座っていたのだが、この
人は、映画が終わり明かりが戻った館内で、下を向いたきりしばらく立ち上が
れずに、ずっと目のあたりを押さえていた。

 映画館で立ち上がれなかった彼もそうだろうけど、わしもまた、戦争を直接
体験した世代ではない。
 しかし、わしらがモノゴコロついたころには、白い着物の「傷痍軍人」が、
切断された足を台車に載せて商店街をいざり歩いては、胸に抱えたアコーディ
オン弾いて物乞いをしていたり、空襲で崩れたままのビルがあったりと、そこ
ここにまだ痕跡や傷跡が残っていた。

 幼稚園の遠足で遊園地に行ったとき、駅からその遊園地へ行く途中、なにや
ら異様なビルの横を通ったのだった。
 錆びた鉄枠の窓はあちこちのガラスが破れ、中は薄暗くて人の気配もなく、
丸みを帯びた外壁はコンクリートが剥き出しで、その全体が鬱蒼と繁茂した蔦
に覆われてしまっている廃ビル……
 なんだか不気味なそのビルは、空襲を受けたのちに放置され、そのままにな
ってるんだ……と一人合点で思い込んだ。
 空襲受けた廃ビルと思ったそれが、実は甲子園球場だったと知るのは、それ
から数年後のことだった。

 荒れて放置された建造物、イコール、空襲を受けた、という連想は、それま
でに、親たち、あるいは学校の先生や祖父母から、何度も空襲や機銃掃射の話
を聞かされていたからだ。
 甲子園球場は、放置されていたわけではないけど、昼間で無人だったから、
そんなに思ってしまったんだろうな。今ほどきれいにメンテナンスもされてな
かったし。

 アニメ『この世界の片隅に』は、久々にあのころの記憶を呼び覚ましてくれ
る映画でもあった。

 あのころ、わしらがまだ子供だった1950年代から60年代。
 日本はまだ「先進国」ではなかった。

 長谷川町子『いじわるばあさん』に、ばあさんがアメリカ旅行をするくだり
がある。
 ばあさん、ニューヨークでお土産買って、しかもそれがとても安く買えたも
んだから「ホクホク」だったところが、ホテルへ帰ってよく見ると、その製品
に「Made in JAPAN」のタグがついていた、というオチ。

 1950年代、日本から欧米に向けて盛んに輸出されていた工業製品の筆頭は
「おもちゃ」で、そのおもちゃに代表される「Made in JAPAN」は、全世界的
に、「安かろう悪かろう」という粗悪品の象徴だったのだ。

 そのイメージは、今の中国製品よりずっと劣悪だった。

 虫プロアニメ『鉄腕アトム』の放映開始が1963年。以後、国産アニメは徐々
にテレビに増殖していくが、しかし、子供向けのアニメやヒーロードラマ、あ
るいは子供向けコメディードラマは、圧倒的にアメリカ製が多かった。

 そこに描き出される「豊かなアメリカ」なライフスタイルは、彼我のギャッ
プが大きすぎて、まるで現実のものとも思えない、まさに夢のような生活様式
だった。

 「レモネード」とか「パイ」とか「ハロウィン」とか、そのスタイルの中に
は、なんだかよくわからないものもいっぱいあった。

 『ポパイ』に出てくる「ウィンピー」が、いつも頬張ってる「ハンバーガー」
もまた、「よくわからない」物件のひとつだった。
 当時「ホットドッグ」は売っていたけど、「ハンバーガー」は、どこにも売
ってなかったのだ。
 名前と形状から、パンにハンバーグを挟んだもの、という想像はついたので、
自作してみたのは中学1年の頃。
 スーパーに売ってたハンバーグ……というか、今思うと「スパム」と「ミー
トローフ」の中間のような形状のもの…を、バンズはどこにも売ってなかった
から、食パンを代用して、キュウリを薄切りにしたのと一緒に挟んだ。味付け
は、ウスターソースとケチャップ。
 滅法、旨かった。

 後年、神戸で最初にできた「マクドナルド」に、あのときの感動を期待しつ
つ出向いたのだが……
 初体験のその味は、衝撃的に不味かった…
 ウィンピーは、こんなモンを「うまい、うまい」と食ってたのか? と愕然
としたのだった。

 「マクド」初体験のちょっと前、やはり初体験の「ケンタッキーフライドチ
キン」では、「世の中に、こんな旨いモンがあったのか!?」と感動した、その
反動もあったのだと思う。
 マクドは、その「不味さ」に徐々に慣れていったのか、味が変わったのか、
その数年後には、そんなに不味いとも感じなくなっていた。

 ところで、テレビアニメ…当時は「テレビ漫画」と呼ばれた『ポパイ』では、
「ホウレンソウの缶詰」というのも謎だったのだが、あれは、アニメの創作で、
当時も今も「ホウレンソウの缶詰」というのは存在しない、というのは、つい
最近知った。

 だろうな。
 葉物野菜の缶詰……あったとしても、とてつもなく不味そうだし……

 『ポパイ』では、どう見ても「やせぎすの老けたおばさん」にしか見えない
「オリーブ」をめぐって、大の男二人が張りあう…という構図もまた、当時子
供だったわしらには不思議なことだった。

 オリーブ、力づくでブルートにかっさらわれても、なんの抵抗もせずに「ポ
〜〜〜パ〜〜イ! た〜〜すけて〜〜!」と叫ぶだけ…なのも、子供ゴコロに
やや「イラッ」ときた。

 日曜日の夜に、8チャンネルの『ポパイ』が終わると、その直後には、「赤
とんぼ」のBGMとともに、「週刊新潮は、ただいま発売中です」という、や
やたどたどしい子供の声のコマーシャルが流れてきて、これを聞くと、「ああ、
日曜が終わってしまう…」という空虚な思いにとらわれたものですが、今で言
う「サザエさんシンドローム」ですね。

 国産アニメや漫画の中にも「不思議」はあった。
 『ハリスの旋風(かぜ)』や、『男一匹ガキ大将』で、石田国松や戸川万吉が、
肩から提げてた、白いズックの通学鞄。『夕焼け番長』でも使ってた。

 わしらが使ってた通学用の鞄は、小学校の低学年時ではランドセル、その後、
5年生くらいからは布製の手提げの学生鞄で、中学高校では革製の学生鞄、と
いうのが普通で、漫画やアニメではよく登場する、ズック製の白い肩掛け鞄、
というのは、使ったこともないし、使ってる人を見たこともないのだった。

 あれは、戦前の旧制中学的「バンカラ」をイメージさせるために敢えて登場
させてたアイテムだったのでしょうか?
 石田国松の「ハリス学園」など、なんでか戦前の中学と同じ「5年制」だっ
たし。

 映画『Stand by me』で、4人の子供たちが線路伝いに歩きながら、「マイ
ティ・マウスとスーパーマン、どっちが強い?」「バカ! マイティ・マウス
は漫画だけど、スーパーマンは本物だから、スーパーマンが強いに決まってる
だろ」と、とても子供らしい議論をするシーン、とても好きなのだが、わしら
もまた、似たような議論を、よくしておりました。

 「バットマンとスーパーマン、どっちが強い?」とか。
 『逃亡者』のリチャード・キンブルは、「名犬ラッシーと一緒に逃亡したら、
追手がきても、わんわん吠えてすぐに知らせてもらえる」とか。

 テレビで『スーパージェッター』が放映されていた時期、だからわしは小学
4年の時。
 同級生4、5人で遊んでいたら、誰かが「あ! ジェッタ―の時間や!」と
言い出したのだった。
 『スーパージェッター』は、見逃してはならん、ということで、そこから一
番近かったシブヤくんの家でテレビを見ることになった。

 シブヤくんちの居間に皆して押しかけ、わいわい言いながら『ジェッタ―』
を見ていたら、夕食の準備の手を止めたシブヤくんのお母さんが、粉末の「ジ
ュースの素」で作ったオレンジジュースを持ってきてくれた。

 皆にグラスを配ったお母さんは、しばらくテレビの『ジェッタ―』を立った
まま眺めていたのだが、やがて感慨深そうに、わしらに向かって言うのだった。
 「ジェッタ―は、えらいねえ。みんなも、ジェッタ―みたいにならんと、あ
かんよ」
 と、わしの隣にいたトシちゃんが、真剣な顔で答えて言った。
 「おばちゃん、ジェッタ―は、30世紀から来たんやで。ぼくら、20世紀の人
間やから、ジェッタ―には、なれへんわ。流星号も持ってへんしな」

 『ジェッタ―』のエンディングテーマが終わった白黒の画面では、丸美屋の
「スーパージェッターふりかけ」が賑やかにコマーシャルされていた。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第90回 新渡戸稲造氏の生き方

 新渡戸稲造、という人に興味があった。樋口一葉の前の5,000円札の人であ
る。

 昭和59年から平成16年まで流通していた。そもそもこのときに新渡戸稲造っ
て誰だか知らなかったし、『武士道』の作者だった、とか、国際連盟の事務局
次長だったとか、経歴について断片的に知ることになったけれど、その後も特
に伝記を読んだわけではなく、そのままにしていたが、やはり気になってはい
たので、これを機会に新渡戸稲造について書かれた一冊の本を手に取ることに
した。

『明治のサムライ −「武士道」新渡戸稲造、軍部と戦う−』
(太田尚樹 著)(文藝春秋社)(文春新書)(2008年)

新渡戸稲造。教育家。農政学者。
1862年(文久2年)盛岡生まれ。
1877年(明治10年)札幌農学校の二期生入学(15歳)。その後東京大学へ。
1884年(明治17年)米国ジョンズ・ホプキンス大学留学(22歳)。
1887年(明治20年)独ボン大学へ(25歳)。
1891年(明治24年)結婚(米国人メリー・エルキントン)。帰国。札幌農学校
         教授(29歳)。
1900年(明治33年)英文『武士道』出版。ヨーロッパ視察(38歳)。
1901年(明治34年)台湾総督府民生部殖産局長心得(39歳)。
1906年(明治39年)第一高等学校校長就任(44歳)。
1918年(大正7年)東京女子大学初代学長(56歳)。
1920年(大正9年)国際連盟事務次長(58歳)。
1926年(大正15年)国際連盟事務次長を退任。貴族院議員(64歳)。
1929年(昭和4年)太平洋調査会理事長(67歳)。
1933年(昭和8年)カナダ・ビクトリア市にて客死(71歳)。

 新渡戸稲造の印象。彼について現代の日本人はどれだけ知っているのだろう。

 5,000円札の肖像画の人(これでさえ、替わってからもう10年以上経ってい
る)。『武士道』の著者(このことを知っている人は多いだろうが、実際にこ
の『武士道』を読んだ人はおそらくぐっと少ないだろう)。国際連盟事務次長
(日本人にとって国際連盟の印象はあの松岡外相による脱退の情景に尽きるの
ではないだろうか)。

 いずれにしても幕末に朝敵だった盛岡の武士の家に生まれて、さまざまな所
で学び、英語が堪能で、教育家、そして有能な官吏であり、明治大正昭和を生
きた新渡戸稲造は半ば忘れられた偉人、と云っていいかもしれない。もったい
ないことだと思う。

 新渡戸稲造は、札幌農学校での課程を終えて、東京大学に入学する時の面接
で、「太平洋の橋になりたい」と述べて、面接官を驚かせた。日本と西洋。日
本の長所を西洋に紹介し、西洋の長所をどしどし輸入する、そのような橋渡し
の役をやりたい、ということだった。経歴をみると、まさしくその希望に沿っ
た人生を歩んだ、と云えるだろう。

 本書は、そんな新渡戸稲造の生涯を追いながら、彼の取った行動を彼の思想
から考察する。新書版なので、一般向けにわかりやすく書かれている。

 新渡戸稲造と云えば、『武士道』が有名である。この『武士道』を彼はなぜ
書いたのか。という疑問がある。日本人の行動様式、思想形成に大きな影響を
与えているのは、特定の宗教とではなく、武士の行動様式、武士の思想による
処が大きい。と看過したからに他ならない。英語で書かれたこの本は出版時期
が日露戦争後だった、ということも重なり、全世界で大いに読まれたらしい。

 日本人の知識層は、西洋の唯一絶対神を信じるキリスト教と対立を求めず相
対的な仏教や神道の影響を受けた日本独自の精神と、このふたつの思想が自分
の中で相克している状況であり、それは開国したときから始まって、未だにそ
のふたつを抱えている。そして新渡戸稲造がまさにその典型であるように映る。

 彼の晩年(国際連盟事務次長を退任してから。それは時代が昭和に入ったと
きと重なる)に、彼は満州事変や上海事変を起こした軍部を憎み、国内では軍
部を批判したが、外では日本の取った行動に理解を示し、日本の立場を擁護し
ている。個人の意志に反した行動を取ることは、すなわち新渡戸の中に時代の
雰囲気、時勢というようなものが反映されていたのであろう。日本の精神が誇
張され、過大に評価され、「愛国心」ということばに収斂されてしまう、結果
として一度は日本を滅ぼした思想に、新渡戸でさえ抗えなかったことの証左で
あろうと思われる。

 この晩年の新渡戸が体験した時代の雰囲気は、どこかいまの日本の雰囲気に
似ていることは、さまざまな人が警鐘を鳴らしているとおりだ。

 新渡戸稲造の生涯は、誠実に生きることの難しさを、現代の我々に教えてく
れる。

多呂さ(東京は梅雨入りと思ったら、長い梅雨の中休みに入ってしまったよう
な気圧配置です)

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★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『ジャパン・メイド・トゥールビヨン』浅岡肇編著 日刊工業出版社

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』栗原 類 著(KADOKAWA)

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→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 ダイヤモンド社様より献本頂戴しました。

・久我谷亮『脳疲労が消える最高の休息法 CDブック』
 https://www.diamond.co.jp/book/9784478101919.html

 ありがとうございます!

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#83『新宿ピットインの50年』

 前回取り上げた『宮澤賢治、ジャズに出会う』にもあったが、日本に初めて
本格的なジャズ・ブームが訪れたのが、1920年代。
 つまり、そこから現在まで大体100年が経っていることになる。
 したがって、50年といえば、その半分を占める年月であるわけだが、その長
きに渡って、日本のジャズの中心としてシーンを牽引し続けてきた老舗のライ
ブハウスがある。
 
 新宿ピットインである。
 
 この店名、ぼくはずっと不思議に思っていた。

 ピットインといえば、レースで車が給油やタイヤ交換、オーバーホールのた
めに一時停まることだ。これとジャズと、一体何の関係があるのだろう???
 もしかすると、ジャズメンの隠語か? はたまた音楽用語か?
 だが、どんな本を読んでもそんな言葉は出て来ない。

 実は、答えは気抜けするほど簡単だった。

 元々は成城大学自動車部に所属する学生が、カーマニアの溜まり場がほしい
と思い、開いた喫茶店だったからなのだ。

 だとすれば、このネーミングはまっとうすぎるくらいまっとうだ。

 その学生、佐藤良武が、両親の営む洋品店のデッドスペースを借りてピット
インをオープンしたのは、1965年、12月24日のクリスマスイブ。
 
 だが、佐藤の目論見ははずれた。

 現在のピットインは新宿二丁目にあるが、開店当初は三丁目、伊勢丹脇の裏
通りにあった。
 今でこそ「裏原宿」などと言って、表通りから少し外れた界隈がかえって注
目されたりするが、その頃はあまり人通りもない、文字通りの「裏」だったら
しい。
 そのため、狙ったような自動車好きの客はあまり来ず、代わりにBGMとし
て流していたジャズを目当てに、音楽好きの若者が集まるようになった。
 60年代の半ば、ステレオはまだまだ贅沢品であり、金のない若者にとって、
レコードを流す店は貴重な情報源だったのだ。だから、ジャズ喫茶を始め、名
曲喫茶、シャンソン喫茶、タンゴ喫茶と、各ジャンルのレコードを売り物にす
る喫茶店が軒を連ねていた。現在のカラオケボックスの先駆形態である、歌声
喫茶なんてのもあった。
 
 ともあれ、そうして集ったピットインの客の中に、ジャズメンの卵たちがい
たのである。
 彼らには演奏する機会がほとんどなく、あっても譜面通りに吹く仕事ばかり
で、自由に即興し、新しいサウンドを追求する場がなかった。
 それを知った佐藤は、当初の目的から転じ、店内にステージをつくって、ラ
イブハウスに舵を切ったのであった。

 ひとつの文化が潮流を生み出すためには、「場」というものが必要だ。
 しかし、それは往々にして人の意図を越え、偶然が偶然を呼ぶ形で形成され
ることが多いような気がする。
 新宿ピットインも、典型的にそのケースだと言える。
 もし、佐藤の目論見が当たってカーマニアが集まっていたら後のピットイン
はないし、日本のジャズも随分形を変えてしまっていただろう。
 それが、幸運にも(!)失敗することによって、ヒョウタンから駒の喩え通
り、ライブハウス、ピットインが生まれたのだ。

 もうひとつ幸いだったのは、佐藤がカーマニアであっても、ジャズマニアで
はなかったことである。

 だから彼は、音楽的なことに一切口出ししなかった。いや、出来なかった。 
 ジャズに詳しいオーナーであれば、「これはジャズではない」と拒否したか
もしれないような新しい音楽を、むしろジャズには素人で、旧来のジャズに思
い入れがない佐藤だったからこそ、オープンな態度で受け入れることができた
のである。
 
 それだけではない。タイミングも味方した。

 渡辺貞夫が人気プレイヤーの座を捨てて、単身渡米。バークリー音楽院に留
学して学んだ知識を、帰国後、惜しむことなく仲間に伝えたという、日本ジャ
ズ史に有名な美談があるが、これがちょうどその頃だったのである。
 それまでの経験的なジャズ演奏に理論的な体系が与えられた、いわば、日本
のジャズがアメリカのモダン・ジャズを消化し、その地平を越えてオリジナル
なものを創造しようとする胎動期。
 まさにその時期に、新宿ピットインが現れる。
 これを、天の配剤と言わずして何と言おう。

 かくして野心に燃えたミュージシャンがピットインに続々と集結し、さまざ
まな実験を始めた。その勢いがいかに旺盛であったかは、当時のピットインが
朝の部、昼の部、夜の部と三部制であったことからも伺い知れる。朝っぱら
(といっても、この世界のことだから、昼の12時だが)からわずかなギャラで
も演奏したいと願うミュージシャンが、それだけたくさんいたということなの
だから。
 
 しかし、演奏する者ばかりでは、「場」は成立しない。聴き手が必要だ。

 この点でも、新宿という土地柄が、味方をした。
 
 時代は、学生運動華やかなりし頃。ことに新宿には過激な学生が多く集まっ
て、ピットイン開店の数年後には新宿騒乱があり、西口フォークゲリラが出没
することになる。
 
 ぼくはまだ小学生で、後から本でこうしたことがあったのを知り、遅れて来
た世代であることを恨めしく思ったものだ。あと、10年早く生まれていれば、
この騒乱の新宿をリアルタイムで体験することができたのに、と。
 もっとももしそうだったら、過激派学生からそのまま過激派ゲリラになって、
内ゲバと呼ばれた不毛な内輪同士のテロに巻き込まれ、早々とくたばっていた
かもしれない。何とか生き延びたにしても、よど号ハイジャックにでも加わっ
ていま頃は北朝鮮に埋もれていたかもしれないので、幸いだったとも言えるが、
それはともかく。
 
 騒然とした雰囲気の中で新宿に集まった若者たちは、さまざまなセクトに分
かれていたが、既成の体制にアンチを唱える思いは同じだった。
 そしてそれは、既存のジャズに飽き足りず、音楽的冒険に挑んでいくジャズ
メンたちへの熱い共感となったのである。
 ミュージシャンとオーディエンスの、幸福な一致。

 そのシンボルとなったのが、新宿ピットインのレギュラーとして活躍した山
下洋輔だ。
 
 ドラムに森山威夫、サックスに坂田明を迎えた時代の山下トリオは、毎回全
力で音楽に没入した。森山は足が攣るまでバスドラを蹴り、坂田はのたうち回
ってブロウし、山下は拳や肘でピアノを叩き、ついには足蹴りまでかます。
 その格闘技のようなフリージャズには、これまでのジャズを破壊し、その廃
墟の上に、全く新しい音楽美を構築しようとする強烈な意志があった。
 革命を志向する学生たちだからこそ、敏感にこの音楽革命に共振できたので
ある。
 
 山下トリオが出演する夜のピットインは、満員の聴衆が詰めかけ、熱狂の坩
堝となった。演奏者と聴き手が真剣勝負で対峙する、その激しい嵐のような時
間は、いまとなっては関係者の証言からおぼろげに浮かび上がるものを想像す
るしかない。
 
 そういう意味で、その時代を体験した人たちの言葉を記録に残すことは重要
だが、しかし、その山下洋輔もいまや75歳。先輩である、渡辺貞夫は84歳。彼
らの生い立ちを含め、ピットイン黎明期の思い出を書物としてまとめておくた
めに、そう長い時間が残されているわけではない。

 そこに2015年、本書が出た。

 このタイミングの絶妙さも、ピットインという「場」が、いまもまだ「持っ
てる」証拠だろう。

 山下を始め、新宿ピットインで伝説的なパフォーマンスを繰り広げてきたミ
ュージシャン18名を、佐藤良武自らがインタビューして、半世紀に渡る歴史を
まとめた『新宿ピットインの50年』。
 監修は音楽ライター、田中伊佐資。編集は、新宿ピットイン50年史編纂委員
会。

 本書をひもとくだけでなく、いまもなお日毎、夜毎、伝説を生み出し続けて
いる新宿ピットインを、あなたも訪れてみませんか?

田中伊佐資 監修
新宿ピットイン50年史編纂委員会 編
『新宿ピットインの50年』
2015年12月24日 初版印刷
2015年12月24日 初版発行
河出書房新社

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今年のポール・マッカートニーは、ついにパス。まあ、前回の来日公演で、な
んか、堪能しきった感があり、行くとすれば武道館か、と思いつつ、とはいえ
10万はないでしょ。それに、東京ドームに比べれば、そりゃあ小ぶりな会場で
はあるが、やはり遠くに豆粒ほどのアーティストを見ることに、さほどの興奮
を感じなくなってきたのです。その点、ライブハウスはいい! アーティスト
の息遣いが伝わるような、場の一体感が違います。今回取り上げた新宿ピット
インのみならず、下北沢のシェルター、mona records、basement bar……今月
は六本木の虎寅虎で月光グリーンの2DAYSに参ります!行くぜ!R&R!

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『ジャパン・メイド・トゥールビヨン』浅岡肇編著 日刊工業出版社

 前回紹介した『100万円超えの高級時計を買う男って馬鹿なの?』をきっか
けに知った日本の独立時計師浅岡肇の名前を検索したら出てきた本。日刊工業
新聞創刊100周年記念出版である。

 独立時計師というのは、1からムープメントから何から全て自分たちの手で
時計を来る人たちで、一般にはスイスにある独立時計師アカデミーという団体
のメンバーをさす。
http://www.ahci.ch/members/

 世界トップレベルの技術力を持っている人でないと入れない組織である。そ
の中に日本人が2人いる。そのうち1人が浅岡肇氏である。腕時計の中に日本
人として初めてトゥールビヨンという機構を入れた時計を作った人。トゥール
ビヨンとは時計の姿勢差(上向き下向き仰向けうつぶせなど)によって生じる
誤差を補正する機構のこと。
 置き時計の振り子に当たるテンプと、テンプを動かす脱進機を回転させるこ
とによって姿勢差による誤差を最小限にしようとする機構で、有名な時計師ブ
レゲが発明した。

 これを腕時計に入れる試みは戦前からあって、実際に腕時計に組み入れられ
たこともあるのだが、当時の工作精度では腕時計では思ったほど精度が出ない。
そのため腕時計の権威ですらトゥールビヨンは要らないと言ったこともあると
か。

 それが1980年代になるとCADと新素材の進化によって工作精度が向上し、
本当に機能するトゥールビヨンが作られるようになり腕時計に搭載されるよう
になる。とはいえ、つくるのに高い技術力が必要なのは変わらないため、高級
時計メーカーは競うようにトールビヨン搭載の、しかも永久カレンダーやミニ
ッツリピーターのような複雑機構を組み合わせた時計を作って、自社の技術力
を誇示している。

 で、この本は浅岡氏が「PROJECT T」という時計を作っていくドキュメント
だ。もともと、普通のノンフィクションのような最後には感動する物語を読ん
でいるような感じではない。そういう要素は全くなくて、強いて言えばカタロ
グや製品の説明書に近い。カタログや製品の説明書と違うのは、熱量である。
こんな熱いカタログ、説明書は、たぶんどこのメーカーも作っていないはず。
ちなみに「PROJECT T」の価格は800万らしい。
https://www.youtube.com/watch?v=pgg6AaFD8zg
http://www.ablogtowatch.com/hajime-asaoka-project-t-tourbillon-indepedent-japanese-watch/

 で、内容だが、最初の浅岡氏のトゥールビヨンができるまでの背景説明が読
みごたえが満点。背景説明といっても書いてあるのは戦後のスイスと日本の時
計メーカーの興亡史だ。他の人の書評で、この部分を特に高く評価する人が多
いのもむべなるかな。

 戦後日本の時計メーカーはスイスに追いつこうと懸命になって生産性と精度
の向上に取り組んできた。1960年代におそらくロンジンとおぼしきスイスの時
計メーカーの社長が日本の時計工場を訪問した時に組立作業がスイスよりも進
歩していて驚愕した。大量生産システムのラインがすでにできていたのだ。こ
の頃にアメリカメーカーの多くが脱落。

 しかしスイスの時計メーカーの動きは遅く、クオーツの時代になると瞬く間
に日本製の時計が世界を席巻し、スイスの時計メーカーは窮地に追い込まれる。
クオーツの開発は当初スイスの方が進んでいたにもかかわらずだ。

 しかし、それでもスイスは当初は踏ん張っていた。スイスもクオーツを作っ
ていたし、まだクオーツは出たての技術で薄型ムーブメントやクロノグラフは
作れない。そんな時に起きたのがドルショックで、通貨の変動相場制への移行
によってスイスフランが高騰し、コストが合わなくなった。

 そのためスイスメーカーは生き残りをかけて薄いムーブメントを貴金属のケ
ースに収めたブレスレットウオッチにシフトした。ところが、そんなタイミン
グを見計らったかのように金相場のアホみたいな高騰がやってきた。これでス
イスの時計産業はとどめを刺されて壊滅的状況に追い込まれてしまう。

 しかし、機械式腕時計にはまだ生き残る場所はあった。汎用ムーブメントの
開発でコストを下げつつデザインに注力し、活路を見いだす。その典型例が有
名なオーディマ・ピゲの「ロイヤルオーク」。ステンレスケースを使って「金
(Gold)を使わずにどれだけ時計の値段を上げられるか」に挑戦する。

 またシースルーバック(裏ぶたをガラスにして内部機構を見ることができる
ようにしたもの)の開発も大きかった。そして今ではスウォッチのような大量
生産品も作るが、一部では大量生産に目を背けて恐ろしく手がかかった、少数
しか作れない、趣味性の高い、高付加価値のとれる時計にシフトすることで復
活を遂げたのである。

 なんでこんな背景説明があるのかというと、浅岡氏の作る時計は単なる日本
最初のトールビヨンであるだけでなく、日本メーカーの高度な技術力に支えら
れた、スイスの一流メーカーでもおいそれとは真似できない、革新的な設計が
されているからだ。

 そこから先は、時計の部品一つ一つの解説が続く。機械に詳しい人でないと
どれだけすごいのかは見えにくいかも知れないというか、私もちんぶんかんぷ
んな部分が多々あるが、言葉の端々に凄みは感じる。

 軸受けにボールペアリングを使うことと、ムーブメントの分割設計を挙げよ
う。腕時計の軸受けには普通ルビーが使われるが、「PROJECT T」では8箇所
にルビーの替わりに世界最小のボールベアリングを使っている。トゥールビヨ
ンは軸受けが構造的に弱くなる泣き所があり、ボールベアリングなら高性能・
高耐久が実現できる。これをいち早く採用したが、だからといって搭載はそう
簡単なことではない。

 ムーブメントの分割はゼンマイの載る動力源部分と精度を追求する調速部分
を分割している。これは動力源には高負荷に耐える機構が、調速部には繊細な
機構が求められるのに従来のムーブメントのように一体化しているのは合理的
ではないというのと、拡張性(複数の動力源と調速部の組み合わせで商品のバ
リエーションが容易に拡大できる)ことを見据えたもの。しかしこれも思いつ
くのは簡単だが、従来の高級時計程度の精度ではまともなものは作れない。

 「PROJECT T」にかかわったメーカーはメインが超精密加工を得意とする由
紀精密と、国内有数の工具メーカーであるオーエスジー。ボールベアリングは
ミネベア製だ。浅岡氏の持つスキルもすごいものがあるが、彼の構想を実現で
きるだけの、スイスの超高級時計メーカーを凌駕する技術を持つ、こうしたメ
ーカーがないと「PROJECT T」は実現できなかった。

 日本の時計メーカーは確かにクオーツで世界を制した。今でも技術力はスイ
スに勝るとも劣らないものがある。しかし製品の付加価値はどうなのか? 日
本メーカーもクオーツショックの時期のスイスメーカー同様、手をこまねいて
見ているわけではない。工芸品としての価値を訴求した1本5千万円もする腕
時計もつくっておれば、クオーツと自動巻きのいいとこ取りのスプリングドラ
イブ、世界一薄い光発電時計を開発したりもしている。着々と打つべき手は打
っている。

 しかし、腕時計以外の製品を作る、他のメーカーはどうなのか? 多くが今
なお大量生産、効率化のキーワードでくくられる旧来の鉱工業生産の延長線上
にあると言えるだろう。そうした方向性とは逆の、高い技術力を持つ人が手間
ひまをかけた、大量生産や効率とは真逆の製品にも活路はあるのではないか? 
それをこの本は問うているのだと思う。

 その意味では、日刊工業新聞社100周年記念本として、確かにふさわしい内
容をもつ本である。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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正しく理解しようよ、発達障害
『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』
栗原 類 著(KADOKAWA)

 最近、発達障害への関心が高まっていますよね。高まっているのはいいので
すが、その高まり方に違和感が少しあります。

 捉え方が曖昧で、漠然とし過ぎていると思いません?

 極論すれば、「みんな違ってみんないい」的なやさしさに満ち、「それぞれ
の個性または違いを認め合おう」的なざっくり感。

 これってホントに障害を認めたことになるのかなあ。「それって個性だよね」
と言って距離を取ってるというか、敬遠しているというか、見て見ないフリし
ているというか。

 それってどうよ?と思っていたのであります。

 が。専門的な本を読むにはハードルが高い。そこで、テレビの人気者の本か
ら始めようと思った次第です。

 栗原類は「笑っていいとも」などでネガティブだけどパリコレモデルで、タ
ロットカードが得意なタレントとして10代から登場して人気になりました。暗
いけどトップモデルというギャップ、タロットという技があるというブレーク
の条件が揃っていたのがよかったのかな? 

 最初は発達障害であることは知られていずに、今回の本でカミングアウトと
いうことになりました。それによって「類君って障害があったんだね。でもい
い人だよね。」という世間の評価が得られたわけですが、やはり仔細に読んで
みると、障害というのは本人と肉親にとって、ヘビーなことだと言わざるをえ
ず、「個性だよね」でスルーしていいものではないと感じました。

 担当医師によると障害は軽い方とのことですが、感覚が鋭敏でこだわりが強
く、注意散漫で記憶が残らず(よって学習障害がある)、人の感情が読めない。
幼稚園時代から周囲の音をうるさく感じ、学校では成績が取れず、

 具体的には、仕事で現場に行こうとするけれど、途中で場所が分からなくな
るなど、さまざま。何かいつもと違ったことがあると感情的になったり、パニ
ックに陥ったりも。

 それに対して、親はその都度、繰り返して、感情が揺れたら一度冷静になっ
て考えることや、思ったことをすぐに言葉にするのではなく、立ち止まって考
えることをアドバイスすることで、生活を支障なく過ごすことをアドバイスし
ます。

 手間と根気と努力、そして愛情が必要な子育てです。

 それらの工夫と努力のしかたを読むと、とても「個性だよね」と一言で言う
ことではないと感じます。

 障害がないとされる側もこのへんは再確認しておきたいことだと思われます。

 栗原類の母の工夫は読んでいてなるほどと納得!

 おばちゃまはここで、「母の愛を感じた」「この母が偉いよね」とかの感想
は言いません。たぶん、私も同じ立場になったら同じことをしたと思うし、で
きるかどうかは別にしてどうにかして子どもが生きる可能性を見つけようとあ
ちこちとぶつかりながらも必死になったと思うからです。おかあさんてそうい
うものだものね。

 もう1つなるほどと思ったことがあります。

 栗原類を芸能の世界で仕事をさせようとしたとき、周囲は否定的なことを言
う人が多かったそうですが、母は音楽関係のライターをしている立場からこう
言います。

「否定的なことを言う人のイメージは誰もが知っている大スター。でも主役だ
けが俳優ではないし、テレビドラマだけが俳優の仕事ではありません。舞台や
ミニシアター系の上映館数の少ない映画の脇役も俳優業で生活しています。
『俳優業で自分1人ぐらいは食べていけるぐらいにはなろうね。30歳までの間
に』」と言ったとあります。

 仕事柄、インディーズから大スターまでさまざまなビジネスの成立の仕方を
見てきたので「売れなくても食う方法はある」と知っていたのです(省)。

 そうそう、一家を養ってこそ一人前とか、スターを夢見てがんばるとかだけ
を目標にしなくてもいいんだと、ちょっと肩のチカラが抜けた感じがしました。
 
 また、障害があるとたとえばテーマパークに行っても刺激が強すぎて1時間
で疲れてしまう。そんな時はコスト(せっかくお金払って来たんだから)を考
えずにすぐ帰るほうが子どものためという記述にもはっとさせられました。

 本題以外にも、目からウロコをぽろぽろはがしてくれる記述があり、いつも
思うのですが障害のことを考えると子育て全般、また人間関係全般を顧みるき
っかけになった読書体験でした。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今月はやや遅れ、での配信となりました。

 昨日は仕事での出張のついでに、ある地方都市を訪問していました。元々は
賑わった商店街だったのでしょうが、今や見る影もなく、シャッター街と貸し
ます売りますの貼り紙だらけ…。

 ビジュアル的には「昭和ノスタルジー」で価値があると感じましたが、何せ、
人が居ない。数件、開いているお店にも、老人の姿しかおらず、戦時中にタイ
ムスリップしたかのようでした。

 普段、都心に住んでいるとわかりませんが、日本の地方のあちこちで、同じ
ようなことが起こっているのかと思うと、とてももったいない気持ちがします。

 こればかりは政治が何とかしなくてはいけないのでしょうが、有権者も施政
者も高齢化しており、もっと思い切った方法が必要な気がします。(あ)

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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→『青春の門』と『さらば星座』そして『つづり方兄妹』

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→想像もつかないこと、ありえないことから生還する方法

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→詩を日常に

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<89>『青春の門』と『さらば星座』そして『つづり方兄妹』

 五木寛之『青春の門』がこの春から「週刊現代」誌上にて、『新 青春の門』
として、23年ぶりだかで連載が再開されているそうだ。
 「そうだ」というのは、その連載をまだ一度も読んでいないからなのだが、
これ、今さら改めて連載を再開する必要が「あるのか?」というのが、このニ
ュースを聞いたときに感じた、素直な感想。

 というのも、数年前にふと、この長編小説を、わずかに「第一部・筑豊編」
と「第二部・自立編」しか読んでいなかったことを思い出し、改めて既刊すべ
てを文庫でそろえて読んでみたのだ……が、巻数を重ねるにつれ、物語はなに
やらご都合主義の行き当たりばったりの様相を強くしてゆく。
 あげく、日本を飛び出し、ひとり世界を放浪する「信介しゃん」が、ヨーロ
ッパあちこち行く先々で女とやりまくる……だけ、という、なにやら『高校生
無頼控』(小池一夫・原作/芳谷圭児・画にて、かつての「漫画アクション」
で人気を博し、映画化もされたスケコマシ漫画です)を思わせる展開に終始し
ていて、やや辟易した覚えがあるのだ。

 果たして、その続編はいかがに? と思うと、なかなか読む気になれないの
であった。

 「週刊現代」誌上で『青春の門』が連載されていたのとほぼ同時期に「週刊
ポスト」に連載されていた小説が、黒岩重吾『さらば星座』だ。
 「だ」と決めつけているけど、実を言えば黒岩重吾のそれは、天王寺の「ブ
ックオフ」にて文庫版全13巻が 100円コーナーに出ているのを見るまで、存在
も知らなかったのだけどね。
 黒岩重吾は、「西成モノ」はじめ、大阪の底辺を描いた作品が好きだったの
で、その流れの作品かな? と買って帰って解説など読むと、これが『青春の
門』と同時期に「ポスト」に連載されていた、とわかって、なにやら不思議な
偶然を感じたのだった。

 多分、「現代」誌上の『青春の門』が話題となったころ、これに対抗する連
載として、ライバル誌の「ポスト」で始まったのがこの『さらば星座』だった
んじゃないかと思う。
 時代背景もまるで同じだし、昭和戦前生まれの少年が戦後の混乱期から昭和
30年代にかけて、波乱万丈の青春を過ごしつつ成長していく大河小説、と言う
道具立ても同じだ。

 そして、筑豊生まれの「信介」も、大阪生まれの「正明」も、ともに両親を
亡くした孤児である、という点も同じ。

 が、「信介」が、両親をともに亡くしながらも、実父の後妻に実の子のよう
に育てられ、さらにその後養父となるヤクザの親分・塙竜五郎はじめ、とても
恵まれた人間関係の中で青春期を過ごすのに対して、大阪生まれの戦災孤児・
正明の運命は苛烈だ。

 住吉の家を両親もろとも空襲で失った正明は、誰も頼る者のない焼け跡で、
路上生活を重ねながら、生きるために盗み、時に手ひどい仕打ちを受けながら
も、路上や闇市で知り合った同じ戦災孤児の仲間たちのリーダーとして、裏の
社会で次第に頭角を現してゆく。

 大阪や神戸の焼け跡や闇市をはじめ、荒廃した大都会の表とその裏、そして
そこに蠢く男たち、女たちの様子が、さすが『西成山王ホテル』の黒岩重吾、
眼前にありありとその光景が浮かぶほどに活写されている。

 物語は、終戦直後からほぼ十と数年間にわたって、正明の成長とその周辺の
激動が描かれるのだが、全13巻、息をもつかせずぐいぐいと一気に読ませる力
技。
 この「物語力」というのは、とても凄まじい。

 この『さらば星座』、読んでるうちにいつの間にか、頭の中で各キャラクタ
ーをあの独特な絵柄で勝手に造形し、物語を「佐藤まさあき」の劇画世界に変
換しつつ見ておりました。
 黒岩重吾の描く大阪裏社会は、陰影の濃い画面の中で人物の顔が微妙に歪ん
でいる、佐藤まさあきの劇画タッチが実によく似合う。

 これ、文庫も現在は絶版のようだが、ぜひとも復刻してほしい。
 さらに、わしが脳内で劇画化してた佐藤まさあきはもう故人なので、その弟
子の松森正の絵で、漫画化…いや、あえて「劇画化」もしてほしいと思う。
 この大河物語は、やはり漫画ではなく「劇画」でこそ、読みたいと思うのだ。

 南シナ海や日本海方面がなにやらキナ臭い昨今だからこそ、今やすっかり忘
れられている「戦災孤児」という存在を、もう一度思い出してみるのも、悪く
ないと思うのだ。

 野坂昭如の一連の「戦災孤児もの」もまた同じ理由で、(『火垂るの墓』ば
かりではなく)もっと広く読み継がれていいんじゃないかと思う。
 わしだって直接に体験したわけではないけれど、「あの時代」があって、今
があることを、決して忘れてはならんとも、思う。

 その意味で、同じく忘れて欲しくない一冊が、『つづり方兄妹』だ。
 わしがこれを読んだのは、小学校の5年生か6年生の時…だから、1966年か
67年。
 母親の実家の本棚で見つけたそれは、当時高校生だった叔父が小学生の頃、
祖父が買い与えたものだったそうだが「ちっとも読まんと放りっぱなしや。い
るんやったら持って帰れ」と言われてもらってきた本だった。

 野上丹治、洋子、房雄という兄弟3人は、戦後の数年間で、それぞれにいく
つもの作文コンクールに入賞した経歴を持ち、彼らの作文を集めたその本は、
理論社から1958年に発売されるやたちまちベストセラーとなり、映画化もされ
た…というのは、読んだ当時は知らなかったのだが、当時の自分と同じ年代の
子供たちが書いた作文には、ただ「うまい」だけではない、なにか底の方から
訴えかけるものを感じさせられたのだった。

 上二人、丹治、洋子兄妹の文章から、彼らの弟である房雄が、わずか8歳で
亡くなっている、という事実を知り、その当の房雄の作文が、極貧の中にあり
ながら、毎日の生活や学校での出来事を活き活きと、天真爛漫に明るく綴って
いて、思わず涙もした。

 房雄の文中では、「理科のテストをかやして(返して)もらいました」、「家
へかいる(帰る)と」、「ちょっとも、しりません」とか、あるいは「ひちや
(質屋)さん」等々、大阪弁そのままの表記がそのまんまで使われていて、こ
れは少し羨ましかった。

 わしが、その少し前に宿題で提出した作文では、「人がようけおった」「べ
っちょないさかい」と書いたところが、いずれも朱筆で「たくさんいた」「だ
いじょうぶだから」と訂正されていたのだった。

 兄弟の中で唯一、父親が総督府の仕事をしていた台湾で生まれ、温暖な土地
で、現地人の女中も雇う豊かな生活を経験している長男・丹治による、その台
湾生活の思い出の記もまた、帰国後の窮乏生活とあまりに対称的で、強く記憶
に残った。
 現地で戦犯として逮捕された父親を残して母子で帰国し、父親の実家近くの
バラックに落ち着いたものの、帰国後に出産した長女と丹治二人の子供を抱え、
さらに口唇口蓋裂の障害を持って生まれた長女の治療費を稼ぐため、無理に無
理を重ねてついには病に倒れる。

 その後、ようやく帰国のかなった父親が、鋳掛屋やブリキ職人として一家の
生活を支えるが、戦前の生活を思うと、父親なりの鬱屈もあったのだろう。時
として気まぐれに仕事を放り出しては、酒におぼれること度々。
 貧乏人の子沢山を地で行くごとく、丹治、洋子、房雄の下にさらに3人、合
計6人の子供を抱え、生活はますます窮乏してゆく。

 そんな生活の中で生み出された3人の綴り方の中でも、「モスクワ国際児童
つづり方コンクール」で一等賞を受賞しながら、その知らせを受ける前に8歳
で病に斃れた房雄の作文が、貧しい生活の中での喜びや悲しみを実に素直に、
何の衒いもなくありのままに綴っていて、とても胸を打つ。
 たとえば、こんな風だ。

 お正月には
 むこうのおみせのまえに
 キャラメルのからばこ
 ひろいに行く
 香里のまちへ
 えいがのかんばん見に行く
 うらの山へうさぎの
 わなかけに行く
 たこもないけど たこはいらん
 こまもないけど こまはいらん
 ようかんもないけど ようかんはいらん
 大きなうさぎが、かかるし
 キャラメルのくじびきがあたるし
 くらま天ぐの絵がかけるようになるし
 てんらんかいに、一とうとれるし
 ぼく
 うれしいことばっかしや
 ほんまに
 よい正月がきよる
 ぼくは、らいねんがすきや
   (野上房雄『お正月』小学校2年生時)

 この、「ぼくは、らいねんがすきや」という一節が、その「らいねん」は、
とうとう来なかったのに、と思えば余計に切なく、胸に迫る。同時に、今の
子どもたちにも、皆に「らいねん」が好きでいてほしい、と思う。

 この『つづり方兄妹』に関しては、何年か前の朝日新聞紙上で、著者の一
人である野上洋子さんの近況が報じられていた。
 それによると、現在…というかその当時は、すでに結婚もされ、夫ととも
に縫製工場を経営されているとの由で、長男の丹治さんは、海外で暮らされ
ているとのことだった。

 その記事を読んで俄かに昔読んだこの本を思い出し、もう一度読み返した
くて、実家を探してみたのだが見当たらず、古本屋さんにもなくてあきらめ
たきり、忘れていた。
 今回、『青春の門』『さらば星座』から、どんなふうに連想がつながった
のか、ふとまたこの本を思い出し、ひょっとしたら、と図書館に問い合わせ
ると果たして蔵書していて、香櫨園の市立中央図書館まで出向いて借り出し
てきた。

 再読してあらためて、一家が住んでいたのが、戦前の陸軍の火薬製造保管
施設のあった場所で、現在は香里団地となっている場所であるとわかった。
 房雄たちの通っていた香里小学校は、団地ができて移転するまで、その陸
軍の施設内にあった兵舎を流用した校舎で、モスクワのコンクールで一等に
なった房雄の作文は、その小学校が、朝鮮戦争の特需から火薬工場再開の話
が持ち上がり、立ち退きの危機に瀕したことを、綴ったものだ。
 火薬工場の計画は、住民の大反対によって中止となるが、その後、今度は
同じ場所に、大規模住宅団地の計画がもたらされ、「ほんとうにこまったこ
とになりました。このごろ『おじぞうさん、どうかぼくたちの学校がひっこ
ししないように、おたすけください』といって、いのっています。」と結ば
れている。

 『つづり方兄妹』もまた、現在は絶版となっているみたいだが、権利関係
かなにか、復刻できないわけでもあるのだろうか?
 出来るならば、図書館の閉架に蔵書されるばかりではなく、これもまたぜ
ひとも復刻し、読み継がれて欲しい本だ。
 さらに欲を言うならば、漫画化もしてほしい。
 はるき悦巳なんか、絵柄的にぴったりだとも思うのだが、どうだろうか?

 ところで、香里団地最寄りは、京阪電車「香里園」駅なのだが、ここに限
らず、京阪電車沿線には、余所では見られない不思議な光景が、その駅前近
辺に展開する。
 京阪電車の駅近辺にはなんでか、私設の駐輪場…たいていは個人経営らし
い「自転車預かり所」が、どの駅にも無数にあるのだ。

 それは、たとえばしもた屋の入り口土間を解放したものだったり、元はな
にかの店だったのを仕切りや什器を取っ払い、がらんどうにしたものや、あ
るいはそれ用にわざわざ建てられた倉庫様の建物だったり…形態は様々なの
だが、いずれも入り口に小さなブースがあって、管理のおじさんやおばさん
が常駐し、1日およそ「200円」〜「300円」。月単位なら割引もあるみたい
だ。

 香里園のひと駅隣の「寝屋川市」駅など、駅前商店街のアーケード内まで
にも、数軒の「自転車預かり所」が進出していて、どことも結構な繁盛なの
である。

 我が最寄駅にも駐輪場はあるが、それは市営のもので、京阪沿線のように、
民間の駐輪場が駅周辺にやたらとある光景を、他の場所で見かけたことは、
とんとない。

 『つづり方兄妹』たちの小学校が移転した後に造成された香里団地は、我
が国最初の大規模住宅団地だったらしいが、あの施設駐輪場は、香里団地を
皮切りに、いずれも駅からやや離れた場所に団地が次々と建設された、京阪
電車沿線独自の「文化」なのかしら?

 わしが以前住んでいた神戸市北区の街も、やはり1960年代に開発された住
宅団地だったが、この最寄駅にはかつて、駅舎内に「下駄箱」が設置されて
いた…というのを、古い住人から聞いたことがある。
 団地は駅周辺に造成されていて、通勤の人々は、駅まで歩いて行くのだが、
その道がいずれも未舗装で、雨が降るとぐしゃぐしゃドロドロとなるその道
を、長靴や下駄で駅に行き、そこで「通勤用」の靴に履き替えて、帰りはま
た駅で長靴に履き替えて帰宅する…ための下駄箱だったそうだ。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第89回 想像もつかないこと、ありえないことから生還する方法

 今月はサバイバルの本。生存していくための手引書を紹介する。

 大地震、大津波、大噴火。それから大事故やテロリズム。その場に居合わせ
た人々は、否応なく巻き込まれ、死んでしまうか、はたまた幸運にも生き残れ
るか。死と生存の差はなんなのか。死者と生存者との境界線はどこに引かれて
いるのか。・・・・・・そういうことを考察しながら、死なないための方法が
書かれた本。
 書いたのはアメリカ人の女性ジャーナリストで出版された年は2008年。

『生き残る判断 生き残れない行動−大災害・テロの生存者たちの証言で判明』
(THE UNTHINKABLE Who survives when disaster strikes-and why)
(アマンダ・リプリー 著)(Amanda Ripley)(岡真知子 訳)
(光文社)
(2009年12月初版 2011年7月6刷)(2008年)

 原題が示している“想像もつかない−大災厄に襲われたとき、誰が生き残っ
たか そしてなぜなのか”という表現がそのまま日本語版の副題に適している。

 9.11、ハリケーン カトリーヌ、ドミニカに置ける米大使館占拠事件・・
・ets.
 著者は、さまざまな災厄のその現場にいた人たちにインタビューして、危機
管理や心理学の専門家に話を聞いて、本書をまとめている。
 本書は、防災の本ではない。災厄の最中に何が起きているのかを観察して、
そこから生存への行程を導き出そうとする、とても意欲に富んだ書物である。

 死の危険がそこに迫ったとき、人はどうするのか?
 著者は、そのとき人は3つの段階を踏みながら、生き抜いていく。3つの段
階を経て生還する。という。その3つの段階とは「否認」、「思考」、「決定
的瞬間」・・・と表現された現象であり、この3つの段階を経ないと生存はで
きないのではないか、と考えている。

 人は何か大きな災厄に見舞われたとき、まず「否認」するという。自分は今
とんでもない災厄の中にいる、ということ自体を否定してしまうのだ。この
「否認」の状態のままで次の段階に進めなかった人は限りなく生存の可能性は
低い。生存者は大なり小なり「否認」の段階から次の「思考」の段階へ進んで
いる。そのきっかけは、隣の人の放った発言だったり、外の風景が目に飛び込
んだりすることだったりする。そして、それによって次の「思考」段階へと移
行していく。

 異常事態の中で、脳の働きはどうなっているのだろうか。生存者の証言とさ
まざまな実験によって、いろいろ解明されてきた。人はそのとき、生存のため
に何を選択するのだろうか。その場から逃れるのか、それともそこに留まるの
か。一般的に云えば、生存のためには逃げる=避難、と考えるのであろうが、
逃げたために(動いたために)格好の標的になり、殺されてしまうこともある。
日本ではそういう事例はめったにないが、米国ではしばしば銃の乱射事件が起
こる。犯人は逃げようとしてあたふたと移動している人から殺している。そし
て“死んだふり”をして微動だにしない人が助かったのだ。死んだふりをした
人は、動いて殺さている人の様子を見て、「否認」状況から「思考」段階へと
移行して、そして助かった。
 「思考」は「回復力」と云い替えてもよいかもしれない。「否認」の段階か
ら「思考」に移行した人は、つまり脳を含めた身体が生存への欲求を取り戻し、
正常に活動し始めたと考えるとわかりやすいと思う。

 さて、危機的状況のときに、何もしない状況(否認)を抜け出してどう行動
すれば助かるか、と考えること(思考)まで達した人は、次にそれを行動に移
すばかりとなる。行動を起こすときこそが、第3段階の「決定的な瞬間」なの
だ。

 助かった人は、なぜ他の人たちよりもはるかに適切な行動を取れたのだろう
か。それをさまざまな事例を紹介して解き明かしていく。本書の核心部分とい
っていい。
 そして、それらの事例から導き出された本書に書かれている生還するために
最も大切なこと。結論を書いてしまおう。とても大切なことだから。

 あらかじめ何度も繰り返して練習すること

 これに尽きる。

 当たり前に云われていることなので、肩すかしを喰らってしまった。“適切
な事前の計画と準備は、最悪の行動を防ぐ”。・・・・・ということだが、こ
のあたり前のことができていないし、やらせる側もやる側も力を出してやって
いなし。ラジオ体操は精一杯行えば、終わったときに汗をかく。でも手と足を
適当に動かしているだけ(やったふり)では、なんにもならない。・・・・・
ちょうどそれと同じだ。

 私たちの立場で云えば、災害の避難訓練を繰り返し行いなさい、ということ
である。火災に対する避難訓練。地震に対する避難訓練。津波に対する避難訓
練。・・・・・これらの避難訓練はすべてその逃げる場所や逃げ方が違う。火
災の場合、初期消火に失敗したらとにかく逃げなくてはいけない。どこに逃げ
るかは延焼類焼状況によって異なる。そのときその場の判断である。地震の場
合は、どうすればいいか?その建物が倒壊の危険があればどこに逃げるのか。
倒壊の危険がなければ、その場に留まるのか。そして火災の危険も発生する。
災害は1つではない。津波の場合は、とにかく高いところへ。

 どれも何度も繰り返すことが大切。考えなくても身体が勝手に動く、という、
あれだ。

 自分の住んでいる場所を知り、何に対する備えをすればいいかをよく考えて
みよう。そこには活断層はあるのか。そこは地盤が緩いのか。そこは盛土では
なのか。そこは木造密集地か。そこは0メートル地帯か。・・・・・それぞれ
調査して観察して最善の備えをし、そして繰り返し助かるための練習をする。

 本書を通じて、さまざまな災厄から生還した人たちのたくさんの事例をみて
きた。そして本書の結論である「あらかじめ何度も繰り返して練習すること」
を激しく共鳴した。

 とてもいい本を読むことができた。ある意味において幸せだった。


多呂さ(今年は端午の節句が立夏でした。そして暦通り、初夏です)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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72 詩を日常に

『こうえん』
『どれがいちばんすき?』

 ジェイムズ・スティーブンソン 作/千葉 茂樹 編訳/岩波書店

 数年ぶりにがっつり風邪をひき原稿を書くのがとても遅れてしまいました。
 風邪症状があると本を読んでいても
 いつも頭に雲がかかったようになり、
 考えることそのものがめんどうになり
 まあ、いいやと
 すぐ投げやり思考になってしまうので、おとなしく過ごしていたのです。
 
 さて、今回ご紹介するのは、
 手にしたときに思わず「きゃー!!」と声がでたほどすてきな詩の絵本。
 これは大人にもつよくおすすめしたいです。

 雑誌「ニューヨーカー」の人気イラストレーターである、
 ジェイムズ・スティーブンソンによるイラストと詩を
 収録した日本オリジナルアンソロジー。

 小ぶりで背表紙の本のタイトルが幼年向け絵本の雰囲気なのですが、
 生活体験の多い大人のほうがにやっと笑ってしまう内容です。

 たとえば

 「じてんしゃにきをつけろ」

 じてんしゃは しってしまった
 じゆうに はしるよろこびを

 ちゃんと つないでおかないと
 にげだしちゃうかもしれないぞ

               『こうえん』より

 この詩のイラストは自転車が電信柱などにチェーンで固定されているもの。
 確かに逃げ出さないようになっているなと見入ってしまいます。

 スティーブンソンのイラストは、
 詩の言葉と絵を呼応させています。
 軽やかな線画に水彩の色をやわらかくのせ、
 さらにユーモアものせているのがすてきです。

 私はスティーブンソンのイラストが大好きなので
 みているだけでも、自由な気持ちになり、
 ずっとみていると、自分でも絵が描けたらなあと夢見るほど。

 「ふねのした」

 そのむかし
 あおいさかなが むれおよぎ
 イルカが からだを くねらせた
 ドロシー丸の へさきのしたで
 きんいろの いぬが ねむっている
 すずしい ひかげは きもちいいから

                『どれがいちばんすき?』より

 ドロシー丸が描かれた一枚の絵から、
 あおいさかなも、
 イルカも
 目の前に見えてくるようです。
 もちろん、
 すずしいひかげの下のきんいろのいぬの心地よさも。

 それを伝えてくれる、千葉茂樹さんの翻訳もよいのです。


 頭がつかれているなあと思う大人のみなさん、
 ぜひ2冊を手にくつろいでください。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今回は原稿待ちでちょっと遅くなりました。5月なのに寒い日があったりと
気候が何やら不安定ですね。皆様もご自愛ください。(あ)

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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『宮澤賢治、ジャズに出会う』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『100万円超えの高級時計を買う男って馬鹿なの?』

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです。

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#82『宮澤賢治、ジャズに出会う』

 引き続き、ジャズ・レコード誕生 100周年にちなんで、ジャズ史の本を渉猟
している。そんな中で「出会った」のが、本書『宮澤賢治、ジャズに出会う』
だった。

 著者は奥成達。
 この名前、どこかで見た記憶があるのだが、思い出せない。カバー見返しの
プロフィールには、詩人・エッセイスト、とある。10代の頃にこの名を知った
ような気がするから、当時ぼくが読んでいた雑誌にでもエッセイを連載してい
たのだろうか。

 それはともかく、なんともキャッチーなタイトルである。

 宮澤賢治とジャズ。一見、無関係そうな取り合わせ。

 だが、賢治の熱心な読者は、特に奇異には思わないかもしれない。
 「風の又三郎」の「どっどど どどうど どどうど どどう」のような、特
有のリズム感に溢れた言語表現はジャズのスキャットを彷彿とさせる、という
ようなこともあるし、彼が最後まで文章を彫琢し続けたという「セロ弾きのゴ
ーシュ」にも「馬車屋のジャズ」という言葉が出てきたりもするわけで。

 しかし、著者が着目するのは、大正15年、同人誌に発表された2篇の詩であ
る。
 ひとつは、「『ジャズ』夏のはなしです」
 そして、その改稿である、「岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」
 その引用から、本書は始まる。

 詩の内容は、改稿版のタイトルにある通りだ。
 つまり、岩手の田舎を駆け抜ける列車の軽やかな走行風景を、ジャズの陽気
なリズムと自由なアドリブにも似た、奔放な文体で描いているのだ。

 ここで問題なのは、大正15年という年なのである。

 実は、日本でジャズが流行し、この言葉が人口に膾炙するのは、昭和に入っ
てすぐの、いわゆるモボ・モガ時代。
 そう、昭和4年に、西条八十が出世作「東京行進曲」で、「ジャズで踊って
リキュルで更けて」と歌った、あの時代である。

 僅か数年の差ではあるけれど、東北新幹線もない時代に岩手の花巻に住んで
いた賢治が、帝都東京の流行に先んじて「ジャズ」を知っていた、というのは、
ちょっとしたミステリーだ。

 では、彼はいつ、どこで、ジャズに出会ったのだろう?

 この疑問が、著者を日本ジャズ史の旅に誘う。

 しかし、本書は詩人の手になる本だ。音楽評論家や学者のように、直線的に
筆は進まない。あちこち脱線しながら、賢治とつかず離れずで、あたかも、ジ
ャズメンが原曲のメロディを崩して演奏するフェイクのように、寄り道回り道、
くねくねと蛇行しながら進んでいく。
 そして、先に結論を言ってしまうなら、結局、賢治がいつ、どこでジャズと
出会ったのか、そしてそのジャズとは、どんなものだったのか、はっきりとは
わからないまま本書は終わる。

 しかし、それが読者をまったく失望させないのは、ジャズという音楽が日本
という異国と出会い、さまざまに解釈され、誤解もされ、それが新たなジャズ
を生み、流転していく様が、実に興味深く描かれているからである。つまり、
タイトルでは賢治が主語になっているが、真の主人公はジャズの方であって、
賢治は一種の狂言回しであるとも言える。

 まずは、遡ること1953年。ペリー来航の時、黒船に乗ってきた楽隊が、アメ
リカの音楽を侍たちの前で披露したエピソードを皮切りに、サーカスやチンド
ン屋の音楽、活動写真(そう言えば、セロ弾きのゴーシュも活動写真館の雇わ
れ楽士だった)の音楽、浅草オペラ、レビュー、ダンスホール、そして太平洋
戦争の勃発に伴い、敵性音楽として国家によって禁じられるまでの間に、アメ
リカ音楽がどのようにこの国に受容され、ジャズとして確立されていったのか
を追っていく。

 その道筋のそこかしこには、綺羅星のごとき時代の有名人の名が煌めく。

 例えば、日本に帰化して小泉八雲となる前のラフカディオ・ハーンが、ジャ
ズ草創期のニューオーリンズにいたということをあなたは知っていたか?
 はたまた、賢治とはまったく相容れない、享楽的な人生を送った中原中也が、
賢治の詩に心酔していたことを?
 さらには、ブルースの女王、タンゴの女王と言われた淡谷のり子が、実はジ
ャズ・シンガーの草分けでもあったことを?

 他にも、日本のジャズのメッカとなった浅草に魅せられた、川端康成、谷崎
潤一郎、江戸川乱歩といった作家たち。日本特有のジャズをつくりあげた、エ
ノケン、二村定一、ディック・ミネ、南里文雄らのミュージシャンたち。

 そんな人々の人生を語り、著作を引用しながら、著者は賢治とジャズの出会
いを探る。

 賢治は生涯の中で数回にわたる上京をしており、その都度、あちこちのホー
ルや演芸場を見て歩いているから、恐らくそのどこかのタイミングでジャズに
出会ったのだろうとは推測がつく。
 しかし、その時期は、やはり定かではない。

 また、ジャズと言っても、いまのわれわれが思う「ジャズ」と、賢治が出会
った「ジャズ」は、違うサウンドだったかもしれない。

 昭和3年に大ヒットした、二村定一の「私の青空」はジャズ・ソングと呼ば
れたが、いまの感覚で言うとむしろポピュラー・ソングである。だから、仮に
賢治がその少し前に、東京のどこかのホールでジャズを聴いたとしても、それ
はそうした音楽の前身に当たるものだった可能性は高い。

 チンドン屋の音楽も楽器編成はジャズ的で、後世、篠田昌巳が名盤「コンポ
ステラ」でチンドン・ジャズという道を切り拓いたけれど、しかし大正末期に
賢治が街でチンドン屋の奏でる音楽を聴いたとすれば、それはむしろいまでい
うジャズよりは、ユダヤ人の伝統音楽であるクレズマーに近しいものだったは
ずだ。

 一方、本場アメリカではディキシーランド・ジャズから、ビッグ・バンド、
そしてスイングへ、という時代である。
 賢治はオーディオ・マニアで、乏しい収入の多くをレコードに注ぎこんでい
たというから、上京の折に手に入れた輸入盤を通じて、アメリカン・ジャズを
リアルタイムで聴いていた可能性も否定できない。

 著者は明確な結論は避けているが、もし、先の2篇の詩を手掛かりにするな
ら、ぼくの推理は、後者だったのではないかと告げる。

 この詩の中に、ジャズの演奏シーンは出て来ないし、ジャズメンも登場しな
い。一回だけ出てくる「ベース」を除けば、楽器も現れない。鉄道の詩なので
ある。
 なのになぜ、賢治はタイトルに「ジャズ」という、当時はまだ多くの人が知
らなかった言葉を持ちだしたのか。

 彼の詩によく使われる、イリドスミンやディアラヂットといった地質学用語
と同じく、異化効果のある珍しいカタカナ言葉として使われたのだろうか。

 いや、それならば、本文の中にちりばめられば済んだことだろう。
 タイトルに『ジャズ』もしくは(ジャズ)と、わざわざ付けたのは、この詩
のモチーフではなく、コンセプトが「ジャズ」である、という宣言に違いない。

 先に、「ジャズの陽気なリズムと自由なアドリブにも似た、奔放な文体」の
詩だと書いた。
 つまり、一言で言えば、スイング感だ。
 それも、めちゃくちゃ高速のスイング感である。
 何しろ「とび乗りのできないやつは乗せないし/とび降りぐらゐやれないも
のは」どこまでも連れて行くという、乱暴きわまるノンストップの最終列車を
描いた詩なのだ。
 まさに、ジャズ固有のスイング感の言語化である。

 もしそれが賢治の試みようとしたことであるならば、アメリカン・ジャズの
スイング感を知っていなければ書けなかったのではないかと思うのだ。逆に言
うと、知っていたからこそ、このコンセプトを思いついたと思うのだ。
 なぜなら、二村定一やエノケンのジャズ・ソングには、そこまでのスピード
感とスイング感はないからだ。チンドン・ジャズにしても、もっとゆったりし
ている。
 しかし、アメリカのジャズには当時既に、デューク・エリントンに代表され
るような、極めて都会的なスリルに溢れるスイング感があった。
 それを聴いた賢治が、アメリカン・ジャズの本質がそこにあると見抜いたか
らこそ、この詩のコンセプトは生まれたのではないだろうか。

 それにしても、ほとんどの日本人が、まだジャズという言葉すら知らなかっ
た時代に、宮澤賢治はどうしてここまで深くジャズを理解できたのだろう。

 天才、と言ってしまえばそれまでだが、むしろそれこそが、永遠の謎なのか
もしれない。


奥成達
『宮澤賢治、ジャズに出会う』
2009年6月20日 印刷
2009年6月30日 発行
白水社


おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今月から、某カルチャースクールで文章教室の講師を始めました。生まれて初
めての体験ですが、パワポの資料を使って長々喋るのは、日頃仕事でやってい
ることなので、さほど苦にはなりません。こちょばゆいのは、「先生」と呼ば
れることです。何しろ、生徒さんのほとんどが自分より年長の方なのです。み
なさんより「後」に「生」まれたぼくが、「先生」はおかしいでしょ。でも、
他に言葉はないですしね。月に一回、とりあえず半年。このこちょばゆさを楽
しんでみようと思っています。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『100万円超えの高級時計を買う男って馬鹿なの?』
         マキヒロチ 広田雅将 シムサム・メディア

 腕時計が好きな男は多いとは言えないが、それなりにいる。定番はロレック
スやオメガなどだが、このあたりはファッションやステータスシンボルとして
つけている人も多いので本当に好きかどうかは聞いてみないとわからない。

 しかし、普通ではあまり見かけない、時計好きしか知らないようなブランド
の腕時計をつけている人は、まず間違いなく好き者だろう。

 で、これは時計雑誌の編集者たちが高級腕時計について全く知らない、興味
ない漫画家さんを引き連れて高級腕時計の世界を訪ねて行くというコミックだ。

 作品の目的は明らかで、素人に高級時計の素晴らしい世界に誘おうというも
の。監修は時計ジャーナリスト広田雅将氏。本編と続編と二冊発行されている。

 一応、タイトルでは高級時計は 100万円オーバーとしているが、実際には価
格何十万クラスの時計もネタに挙げられている。

 最初に高級時計例をカラー写真で紹介した後にコミックが始まる。
 最初のタイトルは「薄型はすごい」

 岩手県雫石町にあるセイコーの雫石高級時計工房を訪問し、高精度な部品の
加工過程を見学。なぜ薄型の時計を作るのが難しいかを知るのだが、出てくる
人は実在する本物のマイスター。桜井守氏だ。
https://www.youtube.com/watch?v=aruNiT6fsTk

 2番目のタイトルは「オーバーホールは高くない」
 機械時計は定期的にオーバーホールに出さないといけないと、実はこれ読ん
で初めて知った。このテーマではドイツの高級ブランド、ランゲ&ゾーネのメ
ンテナンス工房を訪問。ドイツ以外では世界に6人しかいない同社公認時計師
の森山治彦氏からメンテナンスの実際を見せてもらう。

 で、この二話の終わりには広田ハカセの時計コラムが入り、コミックでは描
ききれなかった解説が入る。

 薄型時計に機械式が多いのはゼンマイのトルクが電池式より強く、大きな見
やすい針を動かせるから。クオーツで同じことをやろうとすると今でも細い短
い(そして見やすくない)針しか使えないから機械式と比べてデザインに制約
がかかるそうである。

 また機械式時計は買う時よりも買ったあとのメンテナンスの方が実は大事で
買った後にもカネがかかるという解説が入る。そんな感じで三話四話も、五話
六話もセットになって進んでいく。

 私が中学に入って初めて腕時計を買ってもらった時にはもうクォーツの時代
だった。機械式は電池交換が必要ないが精度が落ちる程度の認識しかなかった。
当然メンテナンスなんか考えたことすらなかったので、「おおっ、そうなのか!」
なんて感じに驚く。

 ちなみにクオーツもオーバーホールすると長持ちするそうだ。

 一番びっくりしたのは、機械時計のカレンダーのこと。機械時計のカレンダ
ーは製品によって多少違うが21時から3時にはカレンダー合わせをしてはいけ
ない。これは機構上の問題で知らずにやると機械を故障させるリスクがある。

 そんな機構の説明も書かれているけど、それがどういうことかわからなくて
も、ネットで探せば実際にこの時間に時計のムーブメントがどんな状態になっ
ているのかビデオがアップされていたりする。今はそんな時代である。

 で、こういう大原則は、時計を買う時に店員さんが説明してくれるのだろう
けど、高級時計ともなると買う方も舞い上がっているから、ついつい忘れて、
いけない時間にカレンダー合わせをして、買った当日いきなり故障させるなん
てこともありそうである。

 クロノグラフやトゥールビヨン、脱進機、磁気のリスク(これは続巻)など
メカニズムのネタだけではなく、時計師を養成する時計学校の話や新品やアン
テークの買い方の話もある。そんな感じで続巻合わせて21話ある。この21話を
読むだけでも初心者は卒業できるくらいのレベルにはなるのではないだろうか?

 腕時計の雑誌というか、ムックの類いは何十年も前から出ている。しかし内
容はぶっちゃけ新作モデルカタログみたいなのが多く、写真に少しばかりのう
んちくが並べてある程度のものしかなかったように思う。

 なので多くの場合10冊も買えばそれ以上買わなくなる。定期的に買っていれ
ば何回もロレックス特集が組まれて、しかも内容にほとんど違いがないとわか
るからだ。だから私も20年ほど前にその手のムックは買わなくなっていた。

 しかし、いつの間にかこの分野の雑誌も進化してたようで、この作品の出典
元であるクロノスという腕時計雑誌はカタログ的側面は今もあるけども、かな
り専門的なところまで踏み込んでいく雑誌になっているようである。うんちく
のレベルが過去の雑誌よりもワンランク、ツーランク高度になっている。
http://www.webchronos.net

 そしてこの本を足がかりにして色々調べていくと、いろんなことがわかって
くる。セイコーが機械式時計のメーカーとしても世界トップクラスの実力を持
つ会社で、同レベルの機械式時計メーカーはバティックフィリップなどスイス
にも数社しかない。

 あるいはスイスの時計メーカーは、多くがスウォッチやリシュモンな企業グ
ループの傘下にあるが、スイスには独立時計師と呼ばれる個人から数人レベル
で超高級腕時計を作っている人たちがいて、トップクラスの独立時計師のグル
ープに日本人が二人もいることも今回初めて知った。

 そんな感じで、マニアには常識なのかも知れないが、初心者にはとても発見
の多い本である。時計に興味がない人には無用の本だが、ちょっとでも興味が
あるなら、読んで損はないと思う。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

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■あとがき
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 超・遅くなりました。あさってから5月ですね。

 って、先月とほぼ同じコメント…。成長がないなぁ。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.627


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■■                              vol.627
■■ mailmagazine of book reviews      [自分の命の責任をもつ 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→甲子園に湧いた雲、溢れた光と吹いた風・漫画篇

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→復刊絵本のきっかけ

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→理性的な災害対応行動をとる

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<88>甲子園に湧いた雲、溢れた光と吹いた風・漫画篇

 まずは、訂正を。
 前回の当欄で、ただ今の我が国の首相の名前を「阿倍晋三」と誤記しており
ました。
 「安倍晋三」が正解。訂正致します。
 訂正はするけど、誰に迷惑かけたわけでもないので、お詫びはしない。

 カゴイケさんが豊中につくろうとした「安倍晋三ユーゲント」は、とりあえ
ず頓挫したみたいだが、わしらが知らんうちに安倍ちゃんは、その「お友達ネ
ットワーク」を通じてあちこちに「ユーゲント」をつくる計画を進行させてい
たことも、徐々に明るみになってきた。

 この安倍ちゃんがよく口にしてた「戦後レジームからの脱却」というのは、
つまり戦前の「軍国主義回帰」だというのも、一連の騒ぎから透けて見えてき
た今日この頃。

 軍国日本は、かつてこの国から「野球」を消滅させた過去を持つ。

 戦後に復活した野球は、なので…というか、進駐軍の占領政策とも相まって、
「自由」と「民主主義」のシンボルとなったのだ。

 我が家近くの女子大では毎年、春と夏には「ようこそ甲子園へ!」と大書し
た横断幕が、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下に張り渡される。
 この渡り廊下の下の道路が、全国各地から集まってくる応援バスの指定ルー
トに当たっている故だ。

 今年もまた、センバツの季節がやってきて、球場周辺は、プロ野球のときと
はやや質を異にする熱気と喧騒で、約2週間、お祭りめいた空気に包まれる。
 ここ、西宮では…つーても南部臨海地区だけかもしれんが…センバツが、春
を告げる風物詩でもある。

 夏もそうなのだが、春にも、大会期間中に1、2度は、勤めの行き帰りなど、
ついでにかこつけては球場に足を運んで、その「お祭り」に参加したりもする。
 高校野球は外野席が無料で開放されているので、「ほんのついで」というお
手軽さで、観戦できてしまうのである。

 甲子園球場は2007年から3年がかりで大掛かりなリニューアル工事が施され
ていて、あのころとはかなり様子が違っているのだが、球場の中に身を置いて、
アルプススタンドの声援を身近に聞くと、その昔にここへ母校の応援に来たこ
となど、懐かしく思い出したりもする。
 わしの母校は中高一貫校で、1969年と70年のセンバツに出場していて、まだ
チュー坊だったわしも、応援に参加していたのである。

 応援用に学校からバスがチャーターされていたのだが、わざわざ学校まで行
くのは遠回りでめんどくさかったので、わしら…というのは神戸とか阪神在住
者は、電車で直接甲子園へ行った。
 球場に着くと、アルプス席の入り口付近にバス組が集合していて、バラバラ
と到着する電車組にも、その都度先生が入場券を渡してくれた。券面に記され
た入場料は、確か「200円」だったと記憶する。

 今年、2017年のセンバツは、史上初めてという大阪勢同士の決勝となったが、
昔…中学1年生頃まで、わしは、「選抜」というのは、夏と同じく各都道府県
の代表として選抜されるのだと勘違いしていた。(昔は夏も、奈良と和歌山が
合わさった「紀和」とか、京都と滋賀の「京滋」とか、一県一代表では必ずし
もなかったので)
 なので、その当時、毎年兵庫県から2校が出場しているのは、「開催地特典」
だと一人合点で思い込んでいた。

 1969年の大会は、だから当然、我が校は「兵庫県代表」の、その「かたわれ」
なのだと思っていたのだが、わしにとっては初めての「甲子園応援体験」でも
あり、この年には「優勝候補の一角」と目されていたこともあって、よく覚え
ている。

 初戦は、神奈川県の鎌倉高校で、これを「3−2」の僅差で振り切ると、二
回戦では千葉の銚子商業を「14−2」という大差で破ってベスト8に進出した。
 が、準々決勝、東京の堀越学園戦では、2点を先行され、途中から降り始め
た雨の中、泥まみれで1点を返したものの、再三の好機にも反撃叶わず、「1
−2」で敗れた。

 この年の対戦相手は、なぜかすべて関東の高校なのだった。
 準々決勝で負けた相手の堀越学園は、この年決勝まで進出し、相手はどこだ
っけか忘れたが、10点以上の点差がつく大敗で準優勝だったのも、よく覚えて
いる。

 この大会からしばらくして、「少年サンデー」で新連載の野球漫画が始まっ
た。
 タイトルも作者もまるで覚えてないのだが、その「第1話」が、母校対堀越
学園の、甲子園雨中の準々決勝で始まっていて、「お!」と思ったのだ。
 …が、その漫画の中でわが母校のユニホームの胸には、ローマ字で「MITA」
とネームされていて、当初の「お!」は、みるみる萎んだ。
 わが母校は、「三田」と書いて「さんだ」と読む。ユニホームのネームは、
当時も今も「SANDA」だ。

 ここ数年は、春と夏の高校野球のシーズンになると、阪神電車甲子園駅から、
球場へ至る広場、そして球場の外壁まで、「少年マガジン」連載中の『ダイヤ
のエース』のバナーや横断幕、ポスターで埋め尽くされるのが恒例となってき
た。

 さらに、一昨年の夏だったか、応援バスの駐車場近くの路上では、「少年マ
ガジン」のロゴ入りシャツを着た人たちが大きな段ボールとともに待機してお
り、ゾロゾロと長い列を作って球場からバスに向かう応援団の高校生たちに、
『ダイヤのエース』第1〜3話ほどを冊子にしたものを無料で配布していた…
のは、確か当欄にも書いた記憶がある。
 冊子には、web版のURLも記載されていて、続きが気になったら、バスの中か
らスマホでアクセスすれば、その続きが読める仕掛けになっていた。

 若者の「漫画離れ」が著しい昨今、高校生たちになんとか「漫画」に目をむ
けてもらおう、という作戦だと思うが、講談社は、毎年春夏のこの期間中に、
いったいどのくらいの広告料を甲子園周辺につぎ込んでいるのか……
 今年は、『ダイヤのエース』に加えて、同じく「少年マガジン」連載の『8
月アウトロー』のバナーも参戦していて、二本立てでアピールしている。

 『ダイヤのエース』『8月アウトロー』もそうだけど、「甲子園」は、漫画
の世界でもまた、過去から現在にわたって、数々のエピソードを生んできた。

 星飛雄馬クンは、花形満率いる、神奈川県代表・紅洋高校との決勝が雨で順
延となったのを幸い、誰にも告げず宿舎の旅館を抜け出しては、準決勝で左門
豊作と対戦した際に傷めた、利き手の左手指を治療してくれる医者を探して、
甲子園の街をあてどなく彷徨した。
 決勝を前に意気盛んなチームメイトたちであれば、なおさら負傷したことを
誰にも告げられず、密かに治療してくれる医者もまた見つからず、いたずらに
焦燥を募らせてゆく、番傘に下駄履きの星飛雄馬、十六歳の夏なのだった。

 山田太郎クンは、初戦を突破して次の対戦を待つ某日、やはり甲子園球場近
くの旅館を一人抜け出し、阪神電車で梅田に向かった。
 遊びに行ったワケではなく、電車に乗るのもまた、山田クン流のトレーニン
グの一環なのだった。
 梅田行き特急電車に乗り込んだ彼は、昼間の空いた車内なのに座ろうともせ
ず立ったまま、「なるお」「むこがわ」「あまがさきせんたーぷーるまえ」…
と、高速で通過するホームの駅名票を、次々と読んでいく。
 驚く乗客に、「動体視力を鍛えてるんです」と説明する彼は、続いてやおら、
座席と座席の間に捕手の姿勢でしゃがみ込んでは、揺れる車内で「バランス感
覚を養う」トレーニングに励み、「いやはや、さすがに、大したもんやないか
い」と居合わせた見知らぬおじさんたちから感心されるのだ。

 でもしかし、「山田式動体視力トレーニング」ですが、これ、ふと思い出し
た時に新幹線で試してみたけど、結構、読めます。フツーの視力で。

 山田クンや星クンの時代には、甲子園周辺と阪神間の旅館が、「球児の宿」
の定番だったようだが、近頃は、阪神間や神戸、大阪のビジネスホテル、とい
うのが一般的なようだ。
 かつてはたくさんあったらしい旅館も、球場周辺では今や2軒だけになって
しまったが、残った2軒はそれぞれ、鹿児島県と東京都の代表チーム定宿とし
て健在だそうだ。

 その昔の我が校もそうだったのだが、兵庫県や大阪の、甲子園からほど近い
代表校までもが、なんでわざわざ旅館やホテルに宿泊するのか、「無駄じゃな
いか」と不思議だったのだが、あれは、大会規定なのだと知ったのは、つい最
近。
 近隣、遠隔の不公平をなくし、すべてのチームを同じ条件とするために、ど
のチームにも宿泊が義務付けられているんだそうで、宿舎は各都道府県の高野
連が契約し、費用も負担してくれるらしい。
 だから、甲子園球場から直線距離で約6キロの報徳学園も、わざわざ球場か
ら20キロ以上離れた、神戸・ポートアイランドのホテルに宿泊していたのだっ
た。

 という風に、宿舎の場所まで特定できるのは、毎大会ごと、各チームの「宿
泊先一覧」が、宿舎名・住所・電話番号併記してデカデカと球場の一角に掲示
されているからなのだけど、あれは、OBなんかが差し入れしたりするためな
んでしょうか?

 大会規定といえば、球場で高校野球を見ていると、夏も春も同様に、昔は必
ずあった応援団による試合後の「エール交換」というのを、見かけなくなった
な、と思っていたら、これもまた、「スムーズな進行を妨げる」との理由でた
だ今は禁止されてるんだそうだ。
 あれは、復活させた方が「学生野球」らしくて、いいと思うんだがな…

 さそうあきら『シーソーゲーム』は、多分まだ「エール交換」のあった、19
89年から90年にかけて講談社「ヤングマガジン」に連載された。
 こちらは、作者・さそうの出身地、宝塚近辺とおぼしき阪神地方の県立校野
球部が舞台。

 東京生まれながら、中学生の頃に越してきた関西にすっかりなじんでいる主
人公は、そこそこの才能を持ちながら、サボリ癖と根性なしのヘタレで、その
才能をいたずらに腐らせているピッチャー。
 そんな彼のもとに、かつて東京のリトルリーグでチームメイトだった女の子
が転校してくる。
 なかなかの美人に成長した今も、かつてと同じく野球に情熱燃やす彼女に尻
を叩かれる形で、主人公以下ヘタレな野球部員たちが発奮し、その後紆余曲折
はありながらも、やがて……というのが、おおまかなストーリー。

 野球をメインのモチーフとしながら、サブプロットでちょっと甘酸っぱい青
春ストーリーも展開する。
 そのキャラクター設定と配置は、その後の『タッチ』に似てなくもないが、
関西風の「ボケ&ツッコミ」が頻発するところと、ヒロインの「一子」が「み
なみ」ちゃんよりもっと、野球に対して能動的積極的にかかわってくるのが、
ちょっと違っていて、わしは、断然こっちの方が好き。

 この『シーソーゲーム』には、とても「兵庫県」らしい描写がある。
 一子が野球部のマネージャーとなり、ダレダレヘタレの部員たちも俄かに発
奮したその後の「第4話」、いきなり「ばーん!」と見開きで甲子園球場の全
景があり、「オレは今」「甲子園におるんや!」と、主人公・松方銀次が、そ
のグランドに立っているのである。

 と、それは、実は夏の選手権大会兵庫県予選の「開会式」に参加しているだ
け、とすぐに明かされるのだが、これは、今はない光景。
 兵庫県以外の人には、ちょっとした「トリビア」らしいのだが、1992年まで、
兵庫県大会の開会式は甲子園球場で行われていて、予選もまた、プロ野球の日
程の合間を縫って、1回戦から10試合前後が、甲子園球場で行われていたのだ。
決勝もまた、もちろん甲子園だった。

 その後、県内に本格的な球場が相次いで建設された(「バブル」の時期には
ことに)こともあって、予選で甲子園が使用されることはなくなり、開会式も
明石球場に移ったのだが、だから、ある時期まで、兵庫県の高校野球部員でさ
えあれば、あのグランドには立てたんである。

 実際、1969年のわが母校チームの主砲…後にプロ野球某チームの監督も務め
ることになるスラッガーだったのだが…彼などは、後年のインタビューで、
 「甲子園ちゅーても、開会式やら予選やらで、1年の時から何回も行ってた
んで、選抜でも、特に感激とかは、なかったですわ」
 と、高校野球に関しての質問に答えていた。

 「漫画アクション」で連載中で、つい最近単行本の1巻が出たばかりの『ナ
ックルダウン』(磯見仁月)は、甲子園球場のある「甲子園」の街自体が主役、
とも言える漫画。
 なんでも、西宮市の甲子園近辺が出身で、現在は東京在住らしい作者が、
「甲子園生まれ」と自己紹介すると、東京ではたいてい、「あ、大阪なんです
ね」と返されたのが、この漫画を描こうとしたきっかけらしい。

 生まれたときからタイガースと高校野球がごくごく身近にあり、「野球」に
囲まれて育ちながらも、「近くて遠い甲子園」というのが、そのメインテーマ。
 しかしこの漫画、かなり「萌え」寄りな絵柄と、「甲子園」のみならず西宮
全体が「野球」を中心に回っているような、極端なカリカチュアライズが、や
や気に入らないのだけど、「甲子園を目指す」のではなく、「甲子園と、そこ
にある野球」というその着眼は、とても面白いと思う。

 確かに、日曜日に武庫川沿いなど歩くと、その河川敷グランドのあちこちで、
揃いのタテジマに身を包んだ「ちっこいタイガース」たちが、一心不乱にボー
ルを追っている。
 この近辺の少年野球チームの「タテジマ率」は、異常に高いのだ。

 ところで、「六甲おろしに颯爽と」で始まる「阪神タイガースの歌」は、あ
まりに有名なのだが、甲子園球場があるのは摂河泉平野の一角で、六甲山は見
えこそすれ、「六甲おろし」の風は、甲子園には吹いてこない…のを、皆さん
ご存知でしょうか?
 むしろ南から吹いてくる「浜風」(よく野球の実況で聞かされる、あれです)
こそが、「甲子園の風」なんだけどね。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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71 復刊絵本のきっかけ

『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』
         ヘルメ・ハイネ作 ふしみみさを 訳 朔北社

 ご紹介する本は2006年に刊行されたドイツの邦訳絵本です。
 今から10年ちょっと前ですね。

 刊行された朔北社さんは今年で出版をはじめて25周年を迎えます。

 25年を祝して173冊の玉手箱と題された「朔北社展」が4/12より赤羽の青猫
書房さんで開催されることを知り、久しぶりに再読した絵本です。

 2001年、ふしみさんが訳された『モモ、しゃしんをとる』で一目惚れななら
ぬ一読惚れした私は熱烈感想メールを送り、モモの次作『モモ、いったいどう
したの?』でますます訳文が好きになり、すっかりふしみさんファンになった
のでした。

 メールでやりとりし、直接会ってお話しもするようになり、これから訳した
い本を見せてもらったり、読んでもらったりもしました。訳もさることながら
絵本の魅力をいろんな角度から教えてもらえるので、ますます「この絵本はふ
しみ訳でどこかに出してもらわねば」と思ったものです。

 ですから次はどこの出版社だったら出してもらえるかを考えました。
 2人で一緒に朔北社さんにプレゼンに行き、絵本を何冊もみてもらい、その
時検討してもらった本は後に数冊朔北社さんから刊行される運びになりました。

 その内の一冊が『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』です。

 当時、ふしみさんは勤めていた洋書絵本の卸会社を辞めたばかりで、この絵
本は勤めていた時に見つけました。古くなってまっ黄色に焼けていたペーパー
バックの絵本を読んだら、あまりに美しくて、すぐに自分で訳し始め――実は
既に邦訳も出ていたのですが(『王さまはとびはねるのがすき』祐学社)――、
最初はそのことに気づかず、訳している途中で祐学社版を知ったそうです。

 とはいえ、朔北社さんにもちこんだ時はすでに絶版でした。

 ヘルメ・ハイネはカラフルでかわいらしい感じの絵本も日本では出ています
が、この『ボヨンボヨンだいおう〜』は風刺がきいた物語にコラージュで描き
じっくりと楽しく読める絵本です。

 試訳されたものを読み、いつかこの訳で読みたい!と願って数年。朔北社さ
んが復刊してくださることが決まったときはとっても嬉しかったです。

 ふしみさんは朔北社さんから出ている『どうぶつにふくをきせてはいけませ
ん』のようにユーモアある訳に定評がある一方、ヘルメ・ハイネの本書のよう
に古典でじっくり読ませる絵本の訳もうまいのです。

 ボヨンボヨンだいおうは、素晴らしいお城に住み、自国の民を幸せに暮らせ
るよう日々采配をふるっていました。毎日、民のことばかり考え、働いてばか
りの生活だったので、知らずのうちに心にも疲れがたまってきました。
 そこでストレス解消にあることをするようになったのですが、それが波紋を
よんでしまい……。

 お城や山や夜の闇、ろうそくの灯り、落ち着いたそれでいてカラフルでもあ
るコラージュはどれも美しく配色の妙にも唸らされます。

 心地よいラストのカタルシスは最高!

 久しぶりの再読ですっかりふしみみさをワールドを堪能しました。
 
 フランス絵本を訳すことが多く現在はフランスにお住まいのふしみさんは、
作者と実際の交流もされているのでおもしろい話をいっぱいもっています。

 一時帰国しているいま、朔北社さんの25周年イベントで野坂悦子さんとの
対談があります! 野坂さんもたくさんの魅力ある児童書を訳されているスペ
シャルな方。きっとおもしろい対談になるでしょう。

 私は残念ながらその日は子どもの学校で用事があり駆けつけられない!
 行かれた方ぜひどんな感じだったか教えてください!

【特別対談】
野坂悦子さん(オランダ語・英語・フランス語翻訳)
  ×  
ふしみみさをさん(フランス語、英語翻訳)

―二人の翻訳者、おおいに語る!―
聞かせて!翻訳のこと、絵本のこと、いろんな国と作家のこと

日時:2017年4月22日(土)14:00〜15:30 

※参加無料、要予約:20名様まで 
※朔北社、青猫書房、どちらでも受付ております。

朔北社 TEL042-506-5350
http://www.sakuhokusha.co.jp/

青猫書房 TEL03-3901-4080 営業時間11時〜19時。
http://aoneko-shobou.jp/

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第88回 理性的な災害対応行動をとる

 今月も防災本を紹介したい。

 群馬大学の片田教授は災害社会工学が専門であるが、自然災害大国である日
本においては、避難の専門家ということになっている。

 片田先生の書籍は2015年の12月に一冊紹介している。

 『子どもたちに「生き抜く力を」 釜石の事例に学ぶ津波防災教室』という
本で、東日本大震災時に岩手県釜石市の小中学生が自主的に避難して助かった
ことについて書かれた本だった。その防災指導をしたのが片田先生である。
 今回紹介する本は、この“釜石の奇跡”のこと、東日本大震災の体験だけで
はなく、広く災害一般についての災害対応行動をわかりやすく解説した新書で
ある。

『人が死なない防災』(片田敏孝 著)(集英社)(集英社新書)
(2012年3月初版)(2016年4月第5刷)

 本書をひとことで表せば、この小文の標題どおり。“理性的な災害対応行動
をとろう”ということに尽きる。災害は忘れたころにやってきて、しかもそれ
ぞれ、自分は生き残ることを前提に考える。しかもその生存の確信は何かに裏
打ちされたものではなく、限りなく楽観的期待、希望的観測に基づいている。

 日本に住んでいる以上、どこでもどんな場所でも、被災者になりうる可能性
がある。洪水・津波・土石流・噴火・豪雪・高潮・火災……。

 まずは、その自分だけは助かるに決まっている、という楽観論を捨てなけれ
ばいけない。そして自らを律して(怠けずに)、災害対応行動をとることが生
存への大前提となる。すぐには全国民がそうなる、とはいかない。“もういつ
死んでもいいから逃げないよ”とか“絶対にここは安全だからこのままここに
いるよ”ということを云う人は必ずいる。だから片田先生は子どもから防災教
育を徹底していこう、という考え方なのだ。

 本書の読者層も、高校生くらいを対象にしていると云ってもいい。実際に第
3章は震災の前年に釜石高校での講演会を書き下ろしたもの。釜石高校での講
演会の9ヶ月後に地震が起こり、津波がやってきた。

 片田先生は云う。この東日本大震災は、想定が甘かったのではなく、想定に
とらわれすぎたのだ、と。防災が進むこと(高い防潮堤や堤防の構築など)は、
自然との距離感が広がることであり、人間の脆弱性が増すことに他ならない。
具体的な例として、海がまったく見えないほど巨大な防潮堤を築いたことが、
人を災害から遠ざけてしまうひとつの要因になってしまった。ということだ。

 「想定にとらわれすぎた」ということは、どういうことだろう?

 それは行政が作成したハザードマップがいい例である。ハザードマップの危
険地域の外側に家がある人は、逃げようと思わない。そしてこの東日本大震災
では、大津波が軽々とハザードマップの危険区域を乗り越え、安全区域にまで
浸入してきたので、安全だとされた地域の多くの住民が津波に呑まれた。つま
り「津波はここまで来ない」という想定を信じて動かなかったわけだ。

 防災に関して云えば、私たちはいつの間にか行政が決めたこと、行政がやっ
ていることに盲目的に従うだけになってしまっている。100年前はそうでは
なかった。防波堤も堤防も砂防ダムもなかったから、自分たちで自分たちを守
っていた。……そういう生存本能を麻痺させるように自然を遠ざけるしくみを
私たちは行政を通じて拵えてしまった。その結果、主体性が奪われた。自分の
命を守ることに主体的でなくなったのだ。誰かが助けてくれる、のではない。

 自分の命は自分が主体的に守らなくてはいけないのだ。自分の命を主体的に
守ろうというその姿勢こそ、最も大切なことだと説いている。

 片田先生のこのことばは強烈だった。

 「災害対策基本法のもと、50年に渡って「行政が行う防災」が進められてき
た結果、このような日本の防災文化が定着してしまっている。防災に関して過
剰な行政依存、情報依存の状態にある。自分の命の安全を全部行政に委ねる。
いわば、住民は「防災過保護」という状態にあるのです。これがわが国の防災
における最大の問題なのです。」

 「津波てんでんこ」ということばがある。津波のときはてんでんばらばらに
逃げなさい、ってことだが、実際にそんなことできない。お母さんは子どもの
ことが心配でたまらないし、子どもは老いた親が気になって仕方ない。でもめ
いめいが「自分の命の責任をもつ」のであれば、そしてそれを家族が信じあう
ことができるのであれば、この「津波てんでんこ」は生きていることばになる。

多呂さ(桜が長いこと咲いている春です。何度も花見ができますよ)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 遅い時間の配信になってしまいました。深夜に届いちゃったらごめんなさい。
って、まぐまぐさん、実際のところ、配信完了までどれくらい時間がかかって
いるんでしょうね。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.626

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■■ [書評]のメルマガ                2017.03.20.発行
■■                              vol.626
■■ mailmagazine of bookreviews        [個人的にうなった 号]
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■コンテンツ
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『これがジャズ史だ』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『となりのイスラム』内藤正典 ミシマ社

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『シリーズ藩物語』(現代書館)

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#81『これがジャズ史だ』

 前回、前々回からの繰り返しになるが、今年は史上初めてジャズのレコード
が吹き込まれて100周年。

 そこで、ジャズ史の本など取り上げてみようと思ったが、これがまた掃いて
捨てるほどある。
 油井正一『生きているジャズ史』、相倉久人『新書で入門 ジャズの歴史』、
フランク・ティロー『ジャズの歴史』……

 その中から、副題が気になって選んだのが本書、岩浪洋三の『これがジャズ
史だ 〜その嘘と真実〜』である。

 ぼくが子供の頃、ジャズ評論家といえば、この岩浪洋三と油井正一。いわば、
二大巨頭といったイメージだった。
 あと、もう一人、大橋巨泉という人もいたが、子供の頃は「はっぱふみふみ
の人」もしくは「クイズダービーの司会者」というイメージで、ジャズ評論家
だったことはずっと後になって知った。ちなみに、「はっぱふみふみ」が意味
不明という方は、ググってください。これ、日本のTVCM史における、唯一
のジャズ・スキャット的コピーだと思うんだけど。

 まあ、それはさておき、岩浪洋三である。要は、ジャズ評論の大御所であっ
たわけだ。

 ところが、そんな大御所が齢75を数えて出版した本書は、まるで若手評論家
のような挑戦的スタンスで、意外だった。

 普通、大御所というのは斯界の権威であって、その意見はその筋の代表とい
うか、正統派とされるものだ。それに対して、新しいものの見方を提示してチ
ャレンジするのが、若手の仕事のはずである。

 なのに、本書における著者は、ジャズ史の定説を覆し、「その嘘と真実」を
暴く、という意気込みなのだから、まったく大御所然としていない。タイトル
からして、『これがジャズ史だ』と、従来の歴史書を否定するような気概に満
ちている。まるで新人評論家のような、チャレンジャー・スピリット。本当に
素晴らしいと思う。

 しかも中身も、その勢いに見合って、十分に刺激的なのだ。

 例えば、人種、という視点。

 従来のジャズ史では、黒人が主役だった。アフリカから奴隷としてアメリカ
に連れてこられた黒人の子孫が、白人の音楽文化を吸収、自身の文化と混ぜ合
わせ、ジャズを生んだと考えられているからだ。

 その結果、ジャズ史を彩るミュージシャンたちは、概ね黒人である。チャー
リー・パーカーも、マイルス・デイヴィスも、ジョン・コルトレーンも。
 歴史的に重要とされる白人は、ビル・エヴァンスぐらいだろうか。
 ビッグ・バンドにしても、デューク・エリントンやカウント・ベイシーのよ
うな黒人リーダーのバンドが正統派で、ベニー・グッドマンやグレン・ミラー
のような白人リーダーのバンドは、ダンス・ミュージックだったり、イージー
・リスニングという扱いで、何となく格落ちに見られる傾向があったように思
う。

 しかし、前回も書いたように、史上初のジャズ・レコードは白人ミュージシ
ャンによって録音された。
 ジャズが白人文化と黒人文化のハイブリッドであるならば、両者は同等に見
られるべきで、黒人偏重はある意味、裏返しの人種差別である。

 ことに著者は、白人の中でも、ユダヤ人とイタリア人がジャズ史において重
要な役割を演じたことに着目。特にユダヤ人について、丁寧に語り、その功績
を跡付ける。
 その結果、いまではスタンダードとなったジャズの名曲を書いたのがほとん
どユダヤ人であり、プレイヤーの中にもユダヤ人が極めて多いことが明らかに
なる。
 これには、落鱗の思いがした。
 しかも、黒人とユダヤ人は、共に差別された存在としての共通項を持ってい
る、という指摘は、ジャズの本質を照らすひとつの優れた視点だろう。

 あるいは、ルイ・アームストロングに関する、こんな主張もある。

 サッチモの愛称で親しまれた、ディキシーランド・ジャズの巨人、ルイ・ア
ームストロング。彼はよくステージで、単に演奏するだけでなく、おどけた振
る舞いをし、それが「白人に媚びている」として同じ黒人ミュージシャンやジ
ャズ・ファン、評論家から批判されてきた。

 この定説に、著者は反論する。

 そもそも奴隷時代の黒人にとって、仕事をさぼることは善であった。
 奴隷には労働に対する報酬がないので、働いて利益を得るのは白人だけなの
だ。したがって、できるだけさぼって楽をすることが黒人にとってはよいこと
だった。
 その結果、黒人英語は白人英語の逆の意味を取る、という現象が起こる。
「Good」は「Bad」の意味であり、「Lazy」や「Loose」は白人英語では「怠け
者」「だらしない」であっても、黒人英語では「いかした」「賢い」といった
ニュアンスになる。

 さぼりは、善。
 この発想は、遊びや笑いを尊ぶ価値観を生み、やがて奴隷解放によって自由
を手にした黒人は、堂々と「遊び」や「笑い」を楽しめるようになる。
 だから、その歓びを謳歌することも、ジャズという音楽の持つ重要な側面で
ある。

 ルイ・アームストロングが愛嬌を振りまくのは、そうした黒人的な感性の発
露であり、白人に媚びていやいややっているのではなく、エンターテイナーと
して、しかつめらしく音楽を演奏するのではなく、ユーモアたっぷりに陽気に
歌い、トランペットを吹くことを、自ら楽しんでいたのではないか。

 このように著者は捉えてみせる。

 そういえばロックの世界でも、70年代には「レイド・バック」という言葉が
流行った。今風に言えば「リラックス」ということだろう。ローリング・スト
ーンズの歌にも「Call me Lazy bone」(ぐうたら野郎と呼んでくれ)という歌
詞があった。しゃかりきに頑張るのではない、ゆるい生き方をよしとする価値
観は、カウンター・カルチャーだった頃のロックにも確かにあったのだ。

 では、音楽的な点で、著者はどんな新しい考えを展開しているだろう?

 ひとつは、ヴォーカルの重視である。

「モダン・ジャズは、器楽中心になって歌をないがしろにした。これがよくな
かった」
 端的に言うと、著者の主張はこれに尽きるが、意外に誰も言わなかったポイ
ントだと思う。

 モダン・ジャズ以前、例えば、デューク・エリントンの時代。
 レコードに刻まれているのが音楽だけなので、つい誤解しがちだが、エリン
トンのステージは、総合エンターテイメントだったのだ。そこでは、ダンスや
コメディと音楽が混然一体になっていて、とりわけ美しい歌姫によるヴォーカ
ルは欠かせない要素だった。
 だからエリントンの音楽づくりは、歌を非常に大切にしている。代表曲『ス
イングしなければ意味がない』も、あくまで歌として書かれているのである。

 つまり、本来のジャズは、芸術というよりは芸能だったのだ。
 サッチモの話にも通じるが、ジャズにおいて、エンターテイメント性は極め
て大切だ。それを忘れて、ビ・バップ以降のモダン・ジャズは、聴衆を置き去
りにした芸術化に走り、その結果行き詰って、フュージョンのような形で改め
て商業化せざるを得なかった。

 という主張の元に、本書は、ヴォーカルに大きなページを割いているのであ
る。

 ぼく自身もヴォーカル好きなので、これはうれしい。
 特にナット・キング・コールへの賛辞には、心から賛同する。

 この他にも、女性という視点でジャズ史を見たり、誰もが褒めまくるマイル
ス・デイヴィスを敢えて批判すべきと主張したり、目からウロコが落ちまくる、
岩浪ジャズ史。
 大御所になっても体制側に立たず、チャンレンジングな姿勢を貫く、その痛
快さ。

 こういう75歳に、ぼくもなりたい。


岩浪洋三
『これがジャズ史だ 〜その嘘と真実〜』
2008年1月25日 第1刷発行
朔北社

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
爪に悩んでいます。クラシックギターの人とか、フラメンコ・ギターの人とか
は、爪で弦を弾くため、お手入れをしたり、強化したりするんですが、ロック
・フォーク系アマチュア・ギタリストであるぼくは指弾き派ではあるものの、
そこまでの必要を感じたことがありませんでした。ところが数年前からスラム
奏法という、ボディを激しく叩きながら、爪で弦をはじく奏法に凝り、それば
っかり練習していたら、だんだん爪が欠けるようになったんです。あまり深く
欠けると、さすがに痛くて弾けなくなるので、何とかせねばと工夫中。プロは、
アロンアルファを爪に重ね塗りして強化するそうで、来日したフラメンコ・ギ
タリストも爆買いしていくらしいですが、爪が荒れそうで抵抗があるし……何
かいい手はないものかなぁ。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『となりのイスラム』内藤正典 ミシマ社

 ほんわかした表紙に帯の惹句が斎藤美奈子氏の「たぶん、これまででもっと
もわかりやすく、実践的で、役に立つイスラムの入門書だと思う」

 で、中学生にも理解できるのがウリの本。

 本にはミシマ通信という手書きを印刷したチラシと読者はがきと、しおりが
挟まっていて、親しみやすさを演出している。以前からミシマ社の本の評判は
聞いていたが、こんなところも評価される一因かと思ったりした。

 文体も柔らかで、スイスイ読んでいけるが、内容は決して軽くない。前書き
は、イスラム過激派のテロを何度もニュースで知ったあなたはイスラム教徒と
仲良くしていこうと思いますかという投げかけから始まる。

 そしてイスラムに暴力性や女性の人権を弾圧する側面がないわけではないが、
それを批判するのは正しいのか?イスラムの「我々が慣れ親しんでいる近代以
降の西欧世界から生まれた価値の体系とは、ある種、根底から違っている」こ
とを理解しない批判に筆者は疑問を唱える。

 残酷きわまりない二つの大戦を戦っていたのはどちらもキリスト教徒ではな
いか。にもかかわらずキリスト教徒の暴力性を問題にしないのはなぜだ?女性
の性を散々商品化してきた欧米が、女性の人権なんて言い出すのはちゃんちゃ
らおかしくないか?

 そして「過去、少なくとも1世紀にわたって、欧米諸国とイスラム教徒自身
が暮す国々が「イスラム的に正しく生きようとする人たちの居場所を奪い続け
てきた」ことをテロの遠因とする。

 その上で仲良くしていける、共存していく方法を探さなければならない。さ
もなければ、未来にあるのは、さらに大きな対立や殺戮だろう。そんな未来を
つくらないために、まずはイスラムを理解しようという思いで書かれた本のよ
うだ。

 序章で現在の中東をめぐる混乱を収拾できる国があるとすれば、トルコであ
ろうと簡単に触れた後、ドイツとオランダのイスラムが地域に同化しない理由
の違いの説明にまずびっくりする。著者によれば、ドイツのイスラムが覚醒す
るのはキリスト教教育に熱心なドイツの中で、イスラム教育の機会が保証され
ていないことと、トルコ人に対する差別意識が背景にあるという。

 これに対しオランダは宗教心も差別も稀薄で、マリファナも売春も不倫も何
でもありの国であるがゆえに、全ての欲望がかなえられる。それが逆に生活の
規律を宗教にあるイスラムの人には不安材料となってイスラム回帰の流れが発
生し、それがオランダ社会での孤立につながっていく・・・。ヨーロッパ出羽
守では見えない視点だ。

 そんなところから始まって、筆者はイスラム教徒という人はどんな人たちな
のかを書いていく。キリスト教やユダヤ教徒の関連やハラール認証のインチキ
さなど言及は多岐にわたるが、個人的にうなったのは人間の運命は神が全て決
定することと、子どもや年寄りを大切にするところだ。

 人間の運命は全て神が決定するので、たとえ事業に失敗してもそれは自己責
任ではない。成功したのも自分の実力ではなく神のおぼしめしだ。だから成功
したからと言って傲慢になるのはアホである。それゆえ神に感謝して喜捨しな
いといけない。日本人などから大金ぼったくって儲けたら、目の前にいる貧乏
人に儲けを分け与えるのが正しきイスラム教徒の態度なのである。

 子どもや年寄りといった弱者はみんなで助けなければならない。そうした善
行を積まなければ、おまえ死んだら地獄行きだぞとなる。具体的に言えば年寄
りを捨てる老人ホームは少ないし、子どもが票気になって医者に駆け込んでき
た親が貧乏だったり、地域の勝手が分からない外国人なら金を取ろうとしない。
それがイスラムの精神なんだとか。

 親を敬い、子どもを大切にというのは日本でも言っているが、口先だけで実
践されているとは誰も思うまい。それをイスラムの世界では本当にやろうとす
るのだという。

 ここまで書くと、著者が最初に述べた「過去、少なくとも1世紀にわたって、
欧米諸国とイスラム教徒自身が暮す国々が「イスラム的に正しく生きようとす
る人たちの居場所を奪い続けてきた」という一文の意味が見えてくる。欧米だ
けじゃない。イスラム教徒の国ですら、イスラム教徒を裏切っているというこ
とだ。

 欧米はおろか、自らの故郷ですら居場所がない。典型例が今シリアから欧米
に逃げようとしている難民たちである。欧米に逃げたところで居場所はないの
だ。そりゃ先鋭化する人も出てくる。

 シャーリーエブドを襲ったテロリストにしても、著者はテロに訴えたことは
快くは思わないものの、テロリストに同情的だ。欧米人がキリストを、日本人
がブッダをちゃかしてもいいからといって、イスラムでもそれが通用すると思
っていること自体がおかしいのではないかということだ。

 いわゆる新自由主義や自己責任などと言った時代の流行に反駁する人は少な
からずいるが、正直なところ彼らの主張に説得力はそう感じない。新自由主義
反対論者や、自己責任論に感情的反発をする人たちの本を読むより、この本を
読んだ方がよほど新自由主義や自己責任論にしいての理解が深まるのは著者の
意図したところではないだろう。

 良い本は、著者の意図以上に、著者の思っている以上に多様な読み方ができ
るものなのだ。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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「ケンミンショー」よりおもしろいのは「藩民ショー」
『シリーズ藩物語』(現代書館)

 あるとき、知人と話していて出身県の話になったとき、知人の出身県の有名
な特徴の真偽を問うたところ、「いやあ、それはないわ〜」と言うから、「そ
うですか。地域によって違いがあるんですね」と言ったところ返ってきた答え
が「そりゃそうだよ。だって殿さまが違うもの」。まだ若かったおばちゃま、
その「殿さまが違う」って言葉に「今、何時代?」とびっくり仰天した記憶が
あります。

 このシリーズが図書館に並んでいるのを見たときに、そのときのことが鮮明
に思い出されました。そう、「ケンミンショー」のさらに奥には「ハンミンシ
ョー」がある。それを理解しないと地域そして現代社会は理解できないのであ
ります。

 このシリーズとは現代書館の「シリーズ藩物語」。日本全国の藩の歴史が1
藩1冊で書かれています。現在30数冊出ているらしく、今後も続々出版される
ようで、藩に目をつけた編集者、グッジョブ!と思うばかりであります。

 まず、表2見開きに日本地図があり、「江戸末期の各藩」とあります。たと
えば、山口県なら長州藩、徳山藩、岩国藩、長府藩、清末藩と5藩あり、これ
が100年たっても地元民をして「殿さまが違う」と言わしめるわけですね。
大藩があるならいいけど、同じような大きさん藩が隣接していると、明治時代
になって県庁所在地をどこにするかでモメて今でも遺恨が残ってたりするわけ
ですね、なるほど。この地図見るだけでおもしろいです。

 で私が読んだのが「秋月藩」と「庄内藩」。秋月藩は幕末に「秋月の乱」が
起きたことで歴史に名をとどめた以外は、時代に取り残されたような九州の小
さな藩ですが、それゆえに、城跡や橋が現存されていて今、観光地として有名
になっているという。いやあ、人間も藩も何が幸いするかわからないものです
ね。

 そして「庄内藩」ですよ。時代小説が好きな人ならお待たせしました! 作
家・故藤沢周平の故郷にして彼の時代小説の舞台になった「海坂藩」のモデル
がこの庄内藩。あの故井上ひさしも大好きで小説を読んで海坂藩の地図を手作
りしていたというあの庄内藩であります。

 この本の著者(と編集者)もそのへんは理解していて、庄内藩と海坂藩の組
織の違いについてなどページをだいぶ割いてます。たとえば作中には「見習」
という役名がよく出てくるけど、庄内藩に「見習」という役はないとかね。な
るほど。
 
 庄内藩の「殿さま」は酒井家で、11代250年もの間この藩に君臨。そして
驚くべきことにその末裔は今でも鶴岡に在住しているんですよ、奥さん!
 途中で越後に転封つまり転勤しそうになるところ、領民が反対して中止にな
るという事件があり、そんなことができるんだとびっくり。江戸幕府ってけっ
こう融通が利くんですかね。

 この流れからいくと酒井の治世がすばらしかった、という流れになるところ
ですが、実は長い歴史の中には飢饉や逃散、お家騒動がいっぱいあって名君と
いうわけでもないというのが実におもしろいです。そうよ、次期藩主を巡るお
家騒動がなかったら、時代小説にならないじゃんとおばちゃま思いました。

 でもなんとか藩が維持できたのは、豪商・本間家があったから。本間家とい
えば、今はゴルフ用品メーカーになってしかも中国資本になってますが、あの
「本間さまにはおよびもないがせめてなりたや殿さまに」とうたわれたあの豪
商です。政治の欠落をカバーしたのは商業つまり経済だったんですね。そして
藩校の設立も自信になったんだそう。

 やはりいつの時代でも大事なのは経済と教育なんですね、勉強になりました! 

 あと印象的だったのがコラムに書いてあった、加藤家の話。加藤とはあの虎
退治の加藤清正を始祖とする家で、清正の息子が罪に問われてここ酒井家にお
預かりになってるんですね。罪ってのはよくわからなくて、強いていえば豊臣
側だったかららしい。いつか許されると信じていた息子ですが、とうとう庄内
で生涯を終えることになったそうです。古くから徳川の直臣だった酒井家と秀
吉子飼いの加藤家の明暗。関ケ原の勝敗が違ってたら逆の立場になってた可能
性大。あわれ! 

 その他、藩の歴史が縷々書いてあるこの本、読んでいると、まだ若い部屋住
みの若侍が道場に通う姿が目に浮かんだりします。そしてお堀端の道で中間を
連れた頭巾姿のきれいなお嬢様とすれ違うとか? または、道場仲間から読書
会に誘われたらそれが悪い家老の派閥の会合だったとか? (藤沢周平読みす
ぎですか?)

 次はどこ藩を読もうかなとわくわく。今、30数冊出ているらしいこのシリー
ズなので当分は楽しめそうです。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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■あとがき
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 超・遅くなりました。明日から四月ですね。(あ)

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