[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.627


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■■ [書評]のメルマガ                 2017.4.10.発行
■■                              vol.627
■■ mailmagazine of book reviews      [自分の命の責任をもつ 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→甲子園に湧いた雲、溢れた光と吹いた風・漫画篇

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→復刊絵本のきっかけ

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→理性的な災害対応行動をとる

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<88>甲子園に湧いた雲、溢れた光と吹いた風・漫画篇

 まずは、訂正を。
 前回の当欄で、ただ今の我が国の首相の名前を「阿倍晋三」と誤記しており
ました。
 「安倍晋三」が正解。訂正致します。
 訂正はするけど、誰に迷惑かけたわけでもないので、お詫びはしない。

 カゴイケさんが豊中につくろうとした「安倍晋三ユーゲント」は、とりあえ
ず頓挫したみたいだが、わしらが知らんうちに安倍ちゃんは、その「お友達ネ
ットワーク」を通じてあちこちに「ユーゲント」をつくる計画を進行させてい
たことも、徐々に明るみになってきた。

 この安倍ちゃんがよく口にしてた「戦後レジームからの脱却」というのは、
つまり戦前の「軍国主義回帰」だというのも、一連の騒ぎから透けて見えてき
た今日この頃。

 軍国日本は、かつてこの国から「野球」を消滅させた過去を持つ。

 戦後に復活した野球は、なので…というか、進駐軍の占領政策とも相まって、
「自由」と「民主主義」のシンボルとなったのだ。

 我が家近くの女子大では毎年、春と夏には「ようこそ甲子園へ!」と大書し
た横断幕が、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下に張り渡される。
 この渡り廊下の下の道路が、全国各地から集まってくる応援バスの指定ルー
トに当たっている故だ。

 今年もまた、センバツの季節がやってきて、球場周辺は、プロ野球のときと
はやや質を異にする熱気と喧騒で、約2週間、お祭りめいた空気に包まれる。
 ここ、西宮では…つーても南部臨海地区だけかもしれんが…センバツが、春
を告げる風物詩でもある。

 夏もそうなのだが、春にも、大会期間中に1、2度は、勤めの行き帰りなど、
ついでにかこつけては球場に足を運んで、その「お祭り」に参加したりもする。
 高校野球は外野席が無料で開放されているので、「ほんのついで」というお
手軽さで、観戦できてしまうのである。

 甲子園球場は2007年から3年がかりで大掛かりなリニューアル工事が施され
ていて、あのころとはかなり様子が違っているのだが、球場の中に身を置いて、
アルプススタンドの声援を身近に聞くと、その昔にここへ母校の応援に来たこ
となど、懐かしく思い出したりもする。
 わしの母校は中高一貫校で、1969年と70年のセンバツに出場していて、まだ
チュー坊だったわしも、応援に参加していたのである。

 応援用に学校からバスがチャーターされていたのだが、わざわざ学校まで行
くのは遠回りでめんどくさかったので、わしら…というのは神戸とか阪神在住
者は、電車で直接甲子園へ行った。
 球場に着くと、アルプス席の入り口付近にバス組が集合していて、バラバラ
と到着する電車組にも、その都度先生が入場券を渡してくれた。券面に記され
た入場料は、確か「200円」だったと記憶する。

 今年、2017年のセンバツは、史上初めてという大阪勢同士の決勝となったが、
昔…中学1年生頃まで、わしは、「選抜」というのは、夏と同じく各都道府県
の代表として選抜されるのだと勘違いしていた。(昔は夏も、奈良と和歌山が
合わさった「紀和」とか、京都と滋賀の「京滋」とか、一県一代表では必ずし
もなかったので)
 なので、その当時、毎年兵庫県から2校が出場しているのは、「開催地特典」
だと一人合点で思い込んでいた。

 1969年の大会は、だから当然、我が校は「兵庫県代表」の、その「かたわれ」
なのだと思っていたのだが、わしにとっては初めての「甲子園応援体験」でも
あり、この年には「優勝候補の一角」と目されていたこともあって、よく覚え
ている。

 初戦は、神奈川県の鎌倉高校で、これを「3−2」の僅差で振り切ると、二
回戦では千葉の銚子商業を「14−2」という大差で破ってベスト8に進出した。
 が、準々決勝、東京の堀越学園戦では、2点を先行され、途中から降り始め
た雨の中、泥まみれで1点を返したものの、再三の好機にも反撃叶わず、「1
−2」で敗れた。

 この年の対戦相手は、なぜかすべて関東の高校なのだった。
 準々決勝で負けた相手の堀越学園は、この年決勝まで進出し、相手はどこだ
っけか忘れたが、10点以上の点差がつく大敗で準優勝だったのも、よく覚えて
いる。

 この大会からしばらくして、「少年サンデー」で新連載の野球漫画が始まっ
た。
 タイトルも作者もまるで覚えてないのだが、その「第1話」が、母校対堀越
学園の、甲子園雨中の準々決勝で始まっていて、「お!」と思ったのだ。
 …が、その漫画の中でわが母校のユニホームの胸には、ローマ字で「MITA」
とネームされていて、当初の「お!」は、みるみる萎んだ。
 わが母校は、「三田」と書いて「さんだ」と読む。ユニホームのネームは、
当時も今も「SANDA」だ。

 ここ数年は、春と夏の高校野球のシーズンになると、阪神電車甲子園駅から、
球場へ至る広場、そして球場の外壁まで、「少年マガジン」連載中の『ダイヤ
のエース』のバナーや横断幕、ポスターで埋め尽くされるのが恒例となってき
た。

 さらに、一昨年の夏だったか、応援バスの駐車場近くの路上では、「少年マ
ガジン」のロゴ入りシャツを着た人たちが大きな段ボールとともに待機してお
り、ゾロゾロと長い列を作って球場からバスに向かう応援団の高校生たちに、
『ダイヤのエース』第1〜3話ほどを冊子にしたものを無料で配布していた…
のは、確か当欄にも書いた記憶がある。
 冊子には、web版のURLも記載されていて、続きが気になったら、バスの中か
らスマホでアクセスすれば、その続きが読める仕掛けになっていた。

 若者の「漫画離れ」が著しい昨今、高校生たちになんとか「漫画」に目をむ
けてもらおう、という作戦だと思うが、講談社は、毎年春夏のこの期間中に、
いったいどのくらいの広告料を甲子園周辺につぎ込んでいるのか……
 今年は、『ダイヤのエース』に加えて、同じく「少年マガジン」連載の『8
月アウトロー』のバナーも参戦していて、二本立てでアピールしている。

 『ダイヤのエース』『8月アウトロー』もそうだけど、「甲子園」は、漫画
の世界でもまた、過去から現在にわたって、数々のエピソードを生んできた。

 星飛雄馬クンは、花形満率いる、神奈川県代表・紅洋高校との決勝が雨で順
延となったのを幸い、誰にも告げず宿舎の旅館を抜け出しては、準決勝で左門
豊作と対戦した際に傷めた、利き手の左手指を治療してくれる医者を探して、
甲子園の街をあてどなく彷徨した。
 決勝を前に意気盛んなチームメイトたちであれば、なおさら負傷したことを
誰にも告げられず、密かに治療してくれる医者もまた見つからず、いたずらに
焦燥を募らせてゆく、番傘に下駄履きの星飛雄馬、十六歳の夏なのだった。

 山田太郎クンは、初戦を突破して次の対戦を待つ某日、やはり甲子園球場近
くの旅館を一人抜け出し、阪神電車で梅田に向かった。
 遊びに行ったワケではなく、電車に乗るのもまた、山田クン流のトレーニン
グの一環なのだった。
 梅田行き特急電車に乗り込んだ彼は、昼間の空いた車内なのに座ろうともせ
ず立ったまま、「なるお」「むこがわ」「あまがさきせんたーぷーるまえ」…
と、高速で通過するホームの駅名票を、次々と読んでいく。
 驚く乗客に、「動体視力を鍛えてるんです」と説明する彼は、続いてやおら、
座席と座席の間に捕手の姿勢でしゃがみ込んでは、揺れる車内で「バランス感
覚を養う」トレーニングに励み、「いやはや、さすがに、大したもんやないか
い」と居合わせた見知らぬおじさんたちから感心されるのだ。

 でもしかし、「山田式動体視力トレーニング」ですが、これ、ふと思い出し
た時に新幹線で試してみたけど、結構、読めます。フツーの視力で。

 山田クンや星クンの時代には、甲子園周辺と阪神間の旅館が、「球児の宿」
の定番だったようだが、近頃は、阪神間や神戸、大阪のビジネスホテル、とい
うのが一般的なようだ。
 かつてはたくさんあったらしい旅館も、球場周辺では今や2軒だけになって
しまったが、残った2軒はそれぞれ、鹿児島県と東京都の代表チーム定宿とし
て健在だそうだ。

 その昔の我が校もそうだったのだが、兵庫県や大阪の、甲子園からほど近い
代表校までもが、なんでわざわざ旅館やホテルに宿泊するのか、「無駄じゃな
いか」と不思議だったのだが、あれは、大会規定なのだと知ったのは、つい最
近。
 近隣、遠隔の不公平をなくし、すべてのチームを同じ条件とするために、ど
のチームにも宿泊が義務付けられているんだそうで、宿舎は各都道府県の高野
連が契約し、費用も負担してくれるらしい。
 だから、甲子園球場から直線距離で約6キロの報徳学園も、わざわざ球場か
ら20キロ以上離れた、神戸・ポートアイランドのホテルに宿泊していたのだっ
た。

 という風に、宿舎の場所まで特定できるのは、毎大会ごと、各チームの「宿
泊先一覧」が、宿舎名・住所・電話番号併記してデカデカと球場の一角に掲示
されているからなのだけど、あれは、OBなんかが差し入れしたりするためな
んでしょうか?

 大会規定といえば、球場で高校野球を見ていると、夏も春も同様に、昔は必
ずあった応援団による試合後の「エール交換」というのを、見かけなくなった
な、と思っていたら、これもまた、「スムーズな進行を妨げる」との理由でた
だ今は禁止されてるんだそうだ。
 あれは、復活させた方が「学生野球」らしくて、いいと思うんだがな…

 さそうあきら『シーソーゲーム』は、多分まだ「エール交換」のあった、19
89年から90年にかけて講談社「ヤングマガジン」に連載された。
 こちらは、作者・さそうの出身地、宝塚近辺とおぼしき阪神地方の県立校野
球部が舞台。

 東京生まれながら、中学生の頃に越してきた関西にすっかりなじんでいる主
人公は、そこそこの才能を持ちながら、サボリ癖と根性なしのヘタレで、その
才能をいたずらに腐らせているピッチャー。
 そんな彼のもとに、かつて東京のリトルリーグでチームメイトだった女の子
が転校してくる。
 なかなかの美人に成長した今も、かつてと同じく野球に情熱燃やす彼女に尻
を叩かれる形で、主人公以下ヘタレな野球部員たちが発奮し、その後紆余曲折
はありながらも、やがて……というのが、おおまかなストーリー。

 野球をメインのモチーフとしながら、サブプロットでちょっと甘酸っぱい青
春ストーリーも展開する。
 そのキャラクター設定と配置は、その後の『タッチ』に似てなくもないが、
関西風の「ボケ&ツッコミ」が頻発するところと、ヒロインの「一子」が「み
なみ」ちゃんよりもっと、野球に対して能動的積極的にかかわってくるのが、
ちょっと違っていて、わしは、断然こっちの方が好き。

 この『シーソーゲーム』には、とても「兵庫県」らしい描写がある。
 一子が野球部のマネージャーとなり、ダレダレヘタレの部員たちも俄かに発
奮したその後の「第4話」、いきなり「ばーん!」と見開きで甲子園球場の全
景があり、「オレは今」「甲子園におるんや!」と、主人公・松方銀次が、そ
のグランドに立っているのである。

 と、それは、実は夏の選手権大会兵庫県予選の「開会式」に参加しているだ
け、とすぐに明かされるのだが、これは、今はない光景。
 兵庫県以外の人には、ちょっとした「トリビア」らしいのだが、1992年まで、
兵庫県大会の開会式は甲子園球場で行われていて、予選もまた、プロ野球の日
程の合間を縫って、1回戦から10試合前後が、甲子園球場で行われていたのだ。
決勝もまた、もちろん甲子園だった。

 その後、県内に本格的な球場が相次いで建設された(「バブル」の時期には
ことに)こともあって、予選で甲子園が使用されることはなくなり、開会式も
明石球場に移ったのだが、だから、ある時期まで、兵庫県の高校野球部員でさ
えあれば、あのグランドには立てたんである。

 実際、1969年のわが母校チームの主砲…後にプロ野球某チームの監督も務め
ることになるスラッガーだったのだが…彼などは、後年のインタビューで、
 「甲子園ちゅーても、開会式やら予選やらで、1年の時から何回も行ってた
んで、選抜でも、特に感激とかは、なかったですわ」
 と、高校野球に関しての質問に答えていた。

 「漫画アクション」で連載中で、つい最近単行本の1巻が出たばかりの『ナ
ックルダウン』(磯見仁月)は、甲子園球場のある「甲子園」の街自体が主役、
とも言える漫画。
 なんでも、西宮市の甲子園近辺が出身で、現在は東京在住らしい作者が、
「甲子園生まれ」と自己紹介すると、東京ではたいてい、「あ、大阪なんです
ね」と返されたのが、この漫画を描こうとしたきっかけらしい。

 生まれたときからタイガースと高校野球がごくごく身近にあり、「野球」に
囲まれて育ちながらも、「近くて遠い甲子園」というのが、そのメインテーマ。
 しかしこの漫画、かなり「萌え」寄りな絵柄と、「甲子園」のみならず西宮
全体が「野球」を中心に回っているような、極端なカリカチュアライズが、や
や気に入らないのだけど、「甲子園を目指す」のではなく、「甲子園と、そこ
にある野球」というその着眼は、とても面白いと思う。

 確かに、日曜日に武庫川沿いなど歩くと、その河川敷グランドのあちこちで、
揃いのタテジマに身を包んだ「ちっこいタイガース」たちが、一心不乱にボー
ルを追っている。
 この近辺の少年野球チームの「タテジマ率」は、異常に高いのだ。

 ところで、「六甲おろしに颯爽と」で始まる「阪神タイガースの歌」は、あ
まりに有名なのだが、甲子園球場があるのは摂河泉平野の一角で、六甲山は見
えこそすれ、「六甲おろし」の風は、甲子園には吹いてこない…のを、皆さん
ご存知でしょうか?
 むしろ南から吹いてくる「浜風」(よく野球の実況で聞かされる、あれです)
こそが、「甲子園の風」なんだけどね。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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71 復刊絵本のきっかけ

『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』
         ヘルメ・ハイネ作 ふしみみさを 訳 朔北社

 ご紹介する本は2006年に刊行されたドイツの邦訳絵本です。
 今から10年ちょっと前ですね。

 刊行された朔北社さんは今年で出版をはじめて25周年を迎えます。

 25年を祝して173冊の玉手箱と題された「朔北社展」が4/12より赤羽の青猫
書房さんで開催されることを知り、久しぶりに再読した絵本です。

 2001年、ふしみさんが訳された『モモ、しゃしんをとる』で一目惚れななら
ぬ一読惚れした私は熱烈感想メールを送り、モモの次作『モモ、いったいどう
したの?』でますます訳文が好きになり、すっかりふしみさんファンになった
のでした。

 メールでやりとりし、直接会ってお話しもするようになり、これから訳した
い本を見せてもらったり、読んでもらったりもしました。訳もさることながら
絵本の魅力をいろんな角度から教えてもらえるので、ますます「この絵本はふ
しみ訳でどこかに出してもらわねば」と思ったものです。

 ですから次はどこの出版社だったら出してもらえるかを考えました。
 2人で一緒に朔北社さんにプレゼンに行き、絵本を何冊もみてもらい、その
時検討してもらった本は後に数冊朔北社さんから刊行される運びになりました。

 その内の一冊が『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』です。

 当時、ふしみさんは勤めていた洋書絵本の卸会社を辞めたばかりで、この絵
本は勤めていた時に見つけました。古くなってまっ黄色に焼けていたペーパー
バックの絵本を読んだら、あまりに美しくて、すぐに自分で訳し始め――実は
既に邦訳も出ていたのですが(『王さまはとびはねるのがすき』祐学社)――、
最初はそのことに気づかず、訳している途中で祐学社版を知ったそうです。

 とはいえ、朔北社さんにもちこんだ時はすでに絶版でした。

 ヘルメ・ハイネはカラフルでかわいらしい感じの絵本も日本では出ています
が、この『ボヨンボヨンだいおう〜』は風刺がきいた物語にコラージュで描き
じっくりと楽しく読める絵本です。

 試訳されたものを読み、いつかこの訳で読みたい!と願って数年。朔北社さ
んが復刊してくださることが決まったときはとっても嬉しかったです。

 ふしみさんは朔北社さんから出ている『どうぶつにふくをきせてはいけませ
ん』のようにユーモアある訳に定評がある一方、ヘルメ・ハイネの本書のよう
に古典でじっくり読ませる絵本の訳もうまいのです。

 ボヨンボヨンだいおうは、素晴らしいお城に住み、自国の民を幸せに暮らせ
るよう日々采配をふるっていました。毎日、民のことばかり考え、働いてばか
りの生活だったので、知らずのうちに心にも疲れがたまってきました。
 そこでストレス解消にあることをするようになったのですが、それが波紋を
よんでしまい……。

 お城や山や夜の闇、ろうそくの灯り、落ち着いたそれでいてカラフルでもあ
るコラージュはどれも美しく配色の妙にも唸らされます。

 心地よいラストのカタルシスは最高!

 久しぶりの再読ですっかりふしみみさをワールドを堪能しました。
 
 フランス絵本を訳すことが多く現在はフランスにお住まいのふしみさんは、
作者と実際の交流もされているのでおもしろい話をいっぱいもっています。

 一時帰国しているいま、朔北社さんの25周年イベントで野坂悦子さんとの
対談があります! 野坂さんもたくさんの魅力ある児童書を訳されているスペ
シャルな方。きっとおもしろい対談になるでしょう。

 私は残念ながらその日は子どもの学校で用事があり駆けつけられない!
 行かれた方ぜひどんな感じだったか教えてください!

【特別対談】
野坂悦子さん(オランダ語・英語・フランス語翻訳)
  ×  
ふしみみさをさん(フランス語、英語翻訳)

―二人の翻訳者、おおいに語る!―
聞かせて!翻訳のこと、絵本のこと、いろんな国と作家のこと

日時:2017年4月22日(土)14:00〜15:30 

※参加無料、要予約:20名様まで 
※朔北社、青猫書房、どちらでも受付ております。

朔北社 TEL042-506-5350
http://www.sakuhokusha.co.jp/

青猫書房 TEL03-3901-4080 営業時間11時〜19時。
http://aoneko-shobou.jp/

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第88回 理性的な災害対応行動をとる

 今月も防災本を紹介したい。

 群馬大学の片田教授は災害社会工学が専門であるが、自然災害大国である日
本においては、避難の専門家ということになっている。

 片田先生の書籍は2015年の12月に一冊紹介している。

 『子どもたちに「生き抜く力を」 釜石の事例に学ぶ津波防災教室』という
本で、東日本大震災時に岩手県釜石市の小中学生が自主的に避難して助かった
ことについて書かれた本だった。その防災指導をしたのが片田先生である。
 今回紹介する本は、この“釜石の奇跡”のこと、東日本大震災の体験だけで
はなく、広く災害一般についての災害対応行動をわかりやすく解説した新書で
ある。

『人が死なない防災』(片田敏孝 著)(集英社)(集英社新書)
(2012年3月初版)(2016年4月第5刷)

 本書をひとことで表せば、この小文の標題どおり。“理性的な災害対応行動
をとろう”ということに尽きる。災害は忘れたころにやってきて、しかもそれ
ぞれ、自分は生き残ることを前提に考える。しかもその生存の確信は何かに裏
打ちされたものではなく、限りなく楽観的期待、希望的観測に基づいている。

 日本に住んでいる以上、どこでもどんな場所でも、被災者になりうる可能性
がある。洪水・津波・土石流・噴火・豪雪・高潮・火災……。

 まずは、その自分だけは助かるに決まっている、という楽観論を捨てなけれ
ばいけない。そして自らを律して(怠けずに)、災害対応行動をとることが生
存への大前提となる。すぐには全国民がそうなる、とはいかない。“もういつ
死んでもいいから逃げないよ”とか“絶対にここは安全だからこのままここに
いるよ”ということを云う人は必ずいる。だから片田先生は子どもから防災教
育を徹底していこう、という考え方なのだ。

 本書の読者層も、高校生くらいを対象にしていると云ってもいい。実際に第
3章は震災の前年に釜石高校での講演会を書き下ろしたもの。釜石高校での講
演会の9ヶ月後に地震が起こり、津波がやってきた。

 片田先生は云う。この東日本大震災は、想定が甘かったのではなく、想定に
とらわれすぎたのだ、と。防災が進むこと(高い防潮堤や堤防の構築など)は、
自然との距離感が広がることであり、人間の脆弱性が増すことに他ならない。
具体的な例として、海がまったく見えないほど巨大な防潮堤を築いたことが、
人を災害から遠ざけてしまうひとつの要因になってしまった。ということだ。

 「想定にとらわれすぎた」ということは、どういうことだろう?

 それは行政が作成したハザードマップがいい例である。ハザードマップの危
険地域の外側に家がある人は、逃げようと思わない。そしてこの東日本大震災
では、大津波が軽々とハザードマップの危険区域を乗り越え、安全区域にまで
浸入してきたので、安全だとされた地域の多くの住民が津波に呑まれた。つま
り「津波はここまで来ない」という想定を信じて動かなかったわけだ。

 防災に関して云えば、私たちはいつの間にか行政が決めたこと、行政がやっ
ていることに盲目的に従うだけになってしまっている。100年前はそうでは
なかった。防波堤も堤防も砂防ダムもなかったから、自分たちで自分たちを守
っていた。……そういう生存本能を麻痺させるように自然を遠ざけるしくみを
私たちは行政を通じて拵えてしまった。その結果、主体性が奪われた。自分の
命を守ることに主体的でなくなったのだ。誰かが助けてくれる、のではない。

 自分の命は自分が主体的に守らなくてはいけないのだ。自分の命を主体的に
守ろうというその姿勢こそ、最も大切なことだと説いている。

 片田先生のこのことばは強烈だった。

 「災害対策基本法のもと、50年に渡って「行政が行う防災」が進められてき
た結果、このような日本の防災文化が定着してしまっている。防災に関して過
剰な行政依存、情報依存の状態にある。自分の命の安全を全部行政に委ねる。
いわば、住民は「防災過保護」という状態にあるのです。これがわが国の防災
における最大の問題なのです。」

 「津波てんでんこ」ということばがある。津波のときはてんでんばらばらに
逃げなさい、ってことだが、実際にそんなことできない。お母さんは子どもの
ことが心配でたまらないし、子どもは老いた親が気になって仕方ない。でもめ
いめいが「自分の命の責任をもつ」のであれば、そしてそれを家族が信じあう
ことができるのであれば、この「津波てんでんこ」は生きていることばになる。

多呂さ(桜が長いこと咲いている春です。何度も花見ができますよ)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
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・書評アップ先の媒体予定:
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 表題【読者書評参加希望】
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 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 遅い時間の配信になってしまいました。深夜に届いちゃったらごめんなさい。
って、まぐまぐさん、実際のところ、配信完了までどれくらい時間がかかって
いるんでしょうね。(あ)

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#81『これがジャズ史だ』

 前回、前々回からの繰り返しになるが、今年は史上初めてジャズのレコード
が吹き込まれて100周年。

 そこで、ジャズ史の本など取り上げてみようと思ったが、これがまた掃いて
捨てるほどある。
 油井正一『生きているジャズ史』、相倉久人『新書で入門 ジャズの歴史』、
フランク・ティロー『ジャズの歴史』……

 その中から、副題が気になって選んだのが本書、岩浪洋三の『これがジャズ
史だ 〜その嘘と真実〜』である。

 ぼくが子供の頃、ジャズ評論家といえば、この岩浪洋三と油井正一。いわば、
二大巨頭といったイメージだった。
 あと、もう一人、大橋巨泉という人もいたが、子供の頃は「はっぱふみふみ
の人」もしくは「クイズダービーの司会者」というイメージで、ジャズ評論家
だったことはずっと後になって知った。ちなみに、「はっぱふみふみ」が意味
不明という方は、ググってください。これ、日本のTVCM史における、唯一
のジャズ・スキャット的コピーだと思うんだけど。

 まあ、それはさておき、岩浪洋三である。要は、ジャズ評論の大御所であっ
たわけだ。

 ところが、そんな大御所が齢75を数えて出版した本書は、まるで若手評論家
のような挑戦的スタンスで、意外だった。

 普通、大御所というのは斯界の権威であって、その意見はその筋の代表とい
うか、正統派とされるものだ。それに対して、新しいものの見方を提示してチ
ャレンジするのが、若手の仕事のはずである。

 なのに、本書における著者は、ジャズ史の定説を覆し、「その嘘と真実」を
暴く、という意気込みなのだから、まったく大御所然としていない。タイトル
からして、『これがジャズ史だ』と、従来の歴史書を否定するような気概に満
ちている。まるで新人評論家のような、チャレンジャー・スピリット。本当に
素晴らしいと思う。

 しかも中身も、その勢いに見合って、十分に刺激的なのだ。

 例えば、人種、という視点。

 従来のジャズ史では、黒人が主役だった。アフリカから奴隷としてアメリカ
に連れてこられた黒人の子孫が、白人の音楽文化を吸収、自身の文化と混ぜ合
わせ、ジャズを生んだと考えられているからだ。

 その結果、ジャズ史を彩るミュージシャンたちは、概ね黒人である。チャー
リー・パーカーも、マイルス・デイヴィスも、ジョン・コルトレーンも。
 歴史的に重要とされる白人は、ビル・エヴァンスぐらいだろうか。
 ビッグ・バンドにしても、デューク・エリントンやカウント・ベイシーのよ
うな黒人リーダーのバンドが正統派で、ベニー・グッドマンやグレン・ミラー
のような白人リーダーのバンドは、ダンス・ミュージックだったり、イージー
・リスニングという扱いで、何となく格落ちに見られる傾向があったように思
う。

 しかし、前回も書いたように、史上初のジャズ・レコードは白人ミュージシ
ャンによって録音された。
 ジャズが白人文化と黒人文化のハイブリッドであるならば、両者は同等に見
られるべきで、黒人偏重はある意味、裏返しの人種差別である。

 ことに著者は、白人の中でも、ユダヤ人とイタリア人がジャズ史において重
要な役割を演じたことに着目。特にユダヤ人について、丁寧に語り、その功績
を跡付ける。
 その結果、いまではスタンダードとなったジャズの名曲を書いたのがほとん
どユダヤ人であり、プレイヤーの中にもユダヤ人が極めて多いことが明らかに
なる。
 これには、落鱗の思いがした。
 しかも、黒人とユダヤ人は、共に差別された存在としての共通項を持ってい
る、という指摘は、ジャズの本質を照らすひとつの優れた視点だろう。

 あるいは、ルイ・アームストロングに関する、こんな主張もある。

 サッチモの愛称で親しまれた、ディキシーランド・ジャズの巨人、ルイ・ア
ームストロング。彼はよくステージで、単に演奏するだけでなく、おどけた振
る舞いをし、それが「白人に媚びている」として同じ黒人ミュージシャンやジ
ャズ・ファン、評論家から批判されてきた。

 この定説に、著者は反論する。

 そもそも奴隷時代の黒人にとって、仕事をさぼることは善であった。
 奴隷には労働に対する報酬がないので、働いて利益を得るのは白人だけなの
だ。したがって、できるだけさぼって楽をすることが黒人にとってはよいこと
だった。
 その結果、黒人英語は白人英語の逆の意味を取る、という現象が起こる。
「Good」は「Bad」の意味であり、「Lazy」や「Loose」は白人英語では「怠け
者」「だらしない」であっても、黒人英語では「いかした」「賢い」といった
ニュアンスになる。

 さぼりは、善。
 この発想は、遊びや笑いを尊ぶ価値観を生み、やがて奴隷解放によって自由
を手にした黒人は、堂々と「遊び」や「笑い」を楽しめるようになる。
 だから、その歓びを謳歌することも、ジャズという音楽の持つ重要な側面で
ある。

 ルイ・アームストロングが愛嬌を振りまくのは、そうした黒人的な感性の発
露であり、白人に媚びていやいややっているのではなく、エンターテイナーと
して、しかつめらしく音楽を演奏するのではなく、ユーモアたっぷりに陽気に
歌い、トランペットを吹くことを、自ら楽しんでいたのではないか。

 このように著者は捉えてみせる。

 そういえばロックの世界でも、70年代には「レイド・バック」という言葉が
流行った。今風に言えば「リラックス」ということだろう。ローリング・スト
ーンズの歌にも「Call me Lazy bone」(ぐうたら野郎と呼んでくれ)という歌
詞があった。しゃかりきに頑張るのではない、ゆるい生き方をよしとする価値
観は、カウンター・カルチャーだった頃のロックにも確かにあったのだ。

 では、音楽的な点で、著者はどんな新しい考えを展開しているだろう?

 ひとつは、ヴォーカルの重視である。

「モダン・ジャズは、器楽中心になって歌をないがしろにした。これがよくな
かった」
 端的に言うと、著者の主張はこれに尽きるが、意外に誰も言わなかったポイ
ントだと思う。

 モダン・ジャズ以前、例えば、デューク・エリントンの時代。
 レコードに刻まれているのが音楽だけなので、つい誤解しがちだが、エリン
トンのステージは、総合エンターテイメントだったのだ。そこでは、ダンスや
コメディと音楽が混然一体になっていて、とりわけ美しい歌姫によるヴォーカ
ルは欠かせない要素だった。
 だからエリントンの音楽づくりは、歌を非常に大切にしている。代表曲『ス
イングしなければ意味がない』も、あくまで歌として書かれているのである。

 つまり、本来のジャズは、芸術というよりは芸能だったのだ。
 サッチモの話にも通じるが、ジャズにおいて、エンターテイメント性は極め
て大切だ。それを忘れて、ビ・バップ以降のモダン・ジャズは、聴衆を置き去
りにした芸術化に走り、その結果行き詰って、フュージョンのような形で改め
て商業化せざるを得なかった。

 という主張の元に、本書は、ヴォーカルに大きなページを割いているのであ
る。

 ぼく自身もヴォーカル好きなので、これはうれしい。
 特にナット・キング・コールへの賛辞には、心から賛同する。

 この他にも、女性という視点でジャズ史を見たり、誰もが褒めまくるマイル
ス・デイヴィスを敢えて批判すべきと主張したり、目からウロコが落ちまくる、
岩浪ジャズ史。
 大御所になっても体制側に立たず、チャンレンジングな姿勢を貫く、その痛
快さ。

 こういう75歳に、ぼくもなりたい。


岩浪洋三
『これがジャズ史だ 〜その嘘と真実〜』
2008年1月25日 第1刷発行
朔北社

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
爪に悩んでいます。クラシックギターの人とか、フラメンコ・ギターの人とか
は、爪で弦を弾くため、お手入れをしたり、強化したりするんですが、ロック
・フォーク系アマチュア・ギタリストであるぼくは指弾き派ではあるものの、
そこまでの必要を感じたことがありませんでした。ところが数年前からスラム
奏法という、ボディを激しく叩きながら、爪で弦をはじく奏法に凝り、それば
っかり練習していたら、だんだん爪が欠けるようになったんです。あまり深く
欠けると、さすがに痛くて弾けなくなるので、何とかせねばと工夫中。プロは、
アロンアルファを爪に重ね塗りして強化するそうで、来日したフラメンコ・ギ
タリストも爆買いしていくらしいですが、爪が荒れそうで抵抗があるし……何
かいい手はないものかなぁ。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『となりのイスラム』内藤正典 ミシマ社

 ほんわかした表紙に帯の惹句が斎藤美奈子氏の「たぶん、これまででもっと
もわかりやすく、実践的で、役に立つイスラムの入門書だと思う」

 で、中学生にも理解できるのがウリの本。

 本にはミシマ通信という手書きを印刷したチラシと読者はがきと、しおりが
挟まっていて、親しみやすさを演出している。以前からミシマ社の本の評判は
聞いていたが、こんなところも評価される一因かと思ったりした。

 文体も柔らかで、スイスイ読んでいけるが、内容は決して軽くない。前書き
は、イスラム過激派のテロを何度もニュースで知ったあなたはイスラム教徒と
仲良くしていこうと思いますかという投げかけから始まる。

 そしてイスラムに暴力性や女性の人権を弾圧する側面がないわけではないが、
それを批判するのは正しいのか?イスラムの「我々が慣れ親しんでいる近代以
降の西欧世界から生まれた価値の体系とは、ある種、根底から違っている」こ
とを理解しない批判に筆者は疑問を唱える。

 残酷きわまりない二つの大戦を戦っていたのはどちらもキリスト教徒ではな
いか。にもかかわらずキリスト教徒の暴力性を問題にしないのはなぜだ?女性
の性を散々商品化してきた欧米が、女性の人権なんて言い出すのはちゃんちゃ
らおかしくないか?

 そして「過去、少なくとも1世紀にわたって、欧米諸国とイスラム教徒自身
が暮す国々が「イスラム的に正しく生きようとする人たちの居場所を奪い続け
てきた」ことをテロの遠因とする。

 その上で仲良くしていける、共存していく方法を探さなければならない。さ
もなければ、未来にあるのは、さらに大きな対立や殺戮だろう。そんな未来を
つくらないために、まずはイスラムを理解しようという思いで書かれた本のよ
うだ。

 序章で現在の中東をめぐる混乱を収拾できる国があるとすれば、トルコであ
ろうと簡単に触れた後、ドイツとオランダのイスラムが地域に同化しない理由
の違いの説明にまずびっくりする。著者によれば、ドイツのイスラムが覚醒す
るのはキリスト教教育に熱心なドイツの中で、イスラム教育の機会が保証され
ていないことと、トルコ人に対する差別意識が背景にあるという。

 これに対しオランダは宗教心も差別も稀薄で、マリファナも売春も不倫も何
でもありの国であるがゆえに、全ての欲望がかなえられる。それが逆に生活の
規律を宗教にあるイスラムの人には不安材料となってイスラム回帰の流れが発
生し、それがオランダ社会での孤立につながっていく・・・。ヨーロッパ出羽
守では見えない視点だ。

 そんなところから始まって、筆者はイスラム教徒という人はどんな人たちな
のかを書いていく。キリスト教やユダヤ教徒の関連やハラール認証のインチキ
さなど言及は多岐にわたるが、個人的にうなったのは人間の運命は神が全て決
定することと、子どもや年寄りを大切にするところだ。

 人間の運命は全て神が決定するので、たとえ事業に失敗してもそれは自己責
任ではない。成功したのも自分の実力ではなく神のおぼしめしだ。だから成功
したからと言って傲慢になるのはアホである。それゆえ神に感謝して喜捨しな
いといけない。日本人などから大金ぼったくって儲けたら、目の前にいる貧乏
人に儲けを分け与えるのが正しきイスラム教徒の態度なのである。

 子どもや年寄りといった弱者はみんなで助けなければならない。そうした善
行を積まなければ、おまえ死んだら地獄行きだぞとなる。具体的に言えば年寄
りを捨てる老人ホームは少ないし、子どもが票気になって医者に駆け込んでき
た親が貧乏だったり、地域の勝手が分からない外国人なら金を取ろうとしない。
それがイスラムの精神なんだとか。

 親を敬い、子どもを大切にというのは日本でも言っているが、口先だけで実
践されているとは誰も思うまい。それをイスラムの世界では本当にやろうとす
るのだという。

 ここまで書くと、著者が最初に述べた「過去、少なくとも1世紀にわたって、
欧米諸国とイスラム教徒自身が暮す国々が「イスラム的に正しく生きようとす
る人たちの居場所を奪い続けてきた」という一文の意味が見えてくる。欧米だ
けじゃない。イスラム教徒の国ですら、イスラム教徒を裏切っているというこ
とだ。

 欧米はおろか、自らの故郷ですら居場所がない。典型例が今シリアから欧米
に逃げようとしている難民たちである。欧米に逃げたところで居場所はないの
だ。そりゃ先鋭化する人も出てくる。

 シャーリーエブドを襲ったテロリストにしても、著者はテロに訴えたことは
快くは思わないものの、テロリストに同情的だ。欧米人がキリストを、日本人
がブッダをちゃかしてもいいからといって、イスラムでもそれが通用すると思
っていること自体がおかしいのではないかということだ。

 いわゆる新自由主義や自己責任などと言った時代の流行に反駁する人は少な
からずいるが、正直なところ彼らの主張に説得力はそう感じない。新自由主義
反対論者や、自己責任論に感情的反発をする人たちの本を読むより、この本を
読んだ方がよほど新自由主義や自己責任論にしいての理解が深まるのは著者の
意図したところではないだろう。

 良い本は、著者の意図以上に、著者の思っている以上に多様な読み方ができ
るものなのだ。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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「ケンミンショー」よりおもしろいのは「藩民ショー」
『シリーズ藩物語』(現代書館)

 あるとき、知人と話していて出身県の話になったとき、知人の出身県の有名
な特徴の真偽を問うたところ、「いやあ、それはないわ〜」と言うから、「そ
うですか。地域によって違いがあるんですね」と言ったところ返ってきた答え
が「そりゃそうだよ。だって殿さまが違うもの」。まだ若かったおばちゃま、
その「殿さまが違う」って言葉に「今、何時代?」とびっくり仰天した記憶が
あります。

 このシリーズが図書館に並んでいるのを見たときに、そのときのことが鮮明
に思い出されました。そう、「ケンミンショー」のさらに奥には「ハンミンシ
ョー」がある。それを理解しないと地域そして現代社会は理解できないのであ
ります。

 このシリーズとは現代書館の「シリーズ藩物語」。日本全国の藩の歴史が1
藩1冊で書かれています。現在30数冊出ているらしく、今後も続々出版される
ようで、藩に目をつけた編集者、グッジョブ!と思うばかりであります。

 まず、表2見開きに日本地図があり、「江戸末期の各藩」とあります。たと
えば、山口県なら長州藩、徳山藩、岩国藩、長府藩、清末藩と5藩あり、これ
が100年たっても地元民をして「殿さまが違う」と言わしめるわけですね。
大藩があるならいいけど、同じような大きさん藩が隣接していると、明治時代
になって県庁所在地をどこにするかでモメて今でも遺恨が残ってたりするわけ
ですね、なるほど。この地図見るだけでおもしろいです。

 で私が読んだのが「秋月藩」と「庄内藩」。秋月藩は幕末に「秋月の乱」が
起きたことで歴史に名をとどめた以外は、時代に取り残されたような九州の小
さな藩ですが、それゆえに、城跡や橋が現存されていて今、観光地として有名
になっているという。いやあ、人間も藩も何が幸いするかわからないものです
ね。

 そして「庄内藩」ですよ。時代小説が好きな人ならお待たせしました! 作
家・故藤沢周平の故郷にして彼の時代小説の舞台になった「海坂藩」のモデル
がこの庄内藩。あの故井上ひさしも大好きで小説を読んで海坂藩の地図を手作
りしていたというあの庄内藩であります。

 この本の著者(と編集者)もそのへんは理解していて、庄内藩と海坂藩の組
織の違いについてなどページをだいぶ割いてます。たとえば作中には「見習」
という役名がよく出てくるけど、庄内藩に「見習」という役はないとかね。な
るほど。
 
 庄内藩の「殿さま」は酒井家で、11代250年もの間この藩に君臨。そして
驚くべきことにその末裔は今でも鶴岡に在住しているんですよ、奥さん!
 途中で越後に転封つまり転勤しそうになるところ、領民が反対して中止にな
るという事件があり、そんなことができるんだとびっくり。江戸幕府ってけっ
こう融通が利くんですかね。

 この流れからいくと酒井の治世がすばらしかった、という流れになるところ
ですが、実は長い歴史の中には飢饉や逃散、お家騒動がいっぱいあって名君と
いうわけでもないというのが実におもしろいです。そうよ、次期藩主を巡るお
家騒動がなかったら、時代小説にならないじゃんとおばちゃま思いました。

 でもなんとか藩が維持できたのは、豪商・本間家があったから。本間家とい
えば、今はゴルフ用品メーカーになってしかも中国資本になってますが、あの
「本間さまにはおよびもないがせめてなりたや殿さまに」とうたわれたあの豪
商です。政治の欠落をカバーしたのは商業つまり経済だったんですね。そして
藩校の設立も自信になったんだそう。

 やはりいつの時代でも大事なのは経済と教育なんですね、勉強になりました! 

 あと印象的だったのがコラムに書いてあった、加藤家の話。加藤とはあの虎
退治の加藤清正を始祖とする家で、清正の息子が罪に問われてここ酒井家にお
預かりになってるんですね。罪ってのはよくわからなくて、強いていえば豊臣
側だったかららしい。いつか許されると信じていた息子ですが、とうとう庄内
で生涯を終えることになったそうです。古くから徳川の直臣だった酒井家と秀
吉子飼いの加藤家の明暗。関ケ原の勝敗が違ってたら逆の立場になってた可能
性大。あわれ! 

 その他、藩の歴史が縷々書いてあるこの本、読んでいると、まだ若い部屋住
みの若侍が道場に通う姿が目に浮かんだりします。そしてお堀端の道で中間を
連れた頭巾姿のきれいなお嬢様とすれ違うとか? または、道場仲間から読書
会に誘われたらそれが悪い家老の派閥の会合だったとか? (藤沢周平読みす
ぎですか?)

 次はどこ藩を読もうかなとわくわく。今、30数冊出ているらしいこのシリー
ズなので当分は楽しめそうです。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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■あとがき
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 超・遅くなりました。明日から四月ですね。(あ)

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★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→漫画でドキュメンタリー、あるいは記録文学な漫画の可能性

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<87>漫画でドキュメンタリー、あるいは記録文学な漫画の可能性

 この国は、どないなっとンねん……? と思ったのは、2月初旬のニュース。
 元アイドルの女性タレント二人が、京都で踏切から線路に立ち入って写真撮
影をしてた、と、全国ネットのニュースで報じられ、その場にいなかった家族
まで巻き込んで「涙の謝罪会見」を強いられていたこと。

 線路に立ち入る、というのは、確かに法律違反に違いないとは思うが、新聞
テレビ雑誌等々の報道メディアが一斉に、競うようにして大バッシング報道を
繰り広げるほどのことかい?
 それって、「つい調子に乗っちゃいました。ごめんなさい(テヘペロ)」で
済む問題だと思うのだが、どうだろう。

 同じころに発覚した、大阪は豊中の国有地が、私立小学校建設用地として、
破格の安値で払い下げられていた、というニュースを報じていたのは、わしの
知る限り、毎日放送(MBS)だけ、しかも関西ローカルの情報ワイド「ちちん
ぷいぷい」で、だった。

 さらにその後、くだんの私立小学校が、当初は「阿倍晋三記念小学校」とい
う校名を予定していて、首相夫人が「名誉校長」に就任している、というニュ
ースをMBSが報じていたころ、遅まきながらもこの問題を取り上げた朝日新
聞やNHKでは、土地価格の不明朗さのみに終始して、「阿倍」のアの字にも
触れることはなかった。

 問題が国会で取り上げられるようになってようやく、MBS以外でも、他社
の様子を伺いながら「おずおず」と、この学校と首相周辺の関わりを報道する
ようになったが、報道機関として、その腰の引けようは「如何なものか」と思
うのは、わしだけでしょうか?

 わしの母親は、長谷川町子のファンで、実家には「サザエさん」はじめ、姉
妹社の単行本がほぼすべてあったのだが、その中の「いじわるばあさん」に、
こんなのがあった。

 公園でアベックが刃物を持った強盗に襲われてるのを目撃したばあさん、走
って交番へ駆けつけ、「おまわりさん、大変!立ち入り禁止の芝生に人が入っ
てます!」

 首相も関連した疑いのある疑獄事件には目もくれず、立ち入り禁止の線路に
立ち入った、というごくごく微罪、誰を傷つけたわけでもない、罪とは言えな
いような罪を犯した女性タレントを、バッシングして泣かせるのに汲々として
たマスコミは、これと同じじゃないだろうか。

 しかし、「国有地の格安払い下げ」という不正…というか、ただ今はまだ
「不可解な取引」ではあるが…が発覚しなければ、あるいは、当該の土地が適
正な価格で払い下げられていたのなら、この、戦前の「教育勅語」と「皇国史
観」をおおっぴらに掲げながら、保守的極右的政権を熱烈に支持し、民族主義
的ヘイト教育を行う「アベシンゾー・ユーゲント」な小学校が、堂々と開校さ
れていたわけで、それを思うと、なにやらうすら寒いものも覚える。

 先ごろ、ドイツ映画『帰ってきたヒトラー』を見た。
 1945年、陥落間近なベルリンの地下壕から21世紀にタイムスリップしてきた
ヒトラーは、当初モノマネ芸人と勘違いされ、テレビの売れっ子になるのだが、
人々は、そのアナクロな言動に笑い転げてるうち、次第次第に彼の言説にのめ
りこみ、やがては熱心な「信者」となってゆく…という結末に、アメリカのト
ランプ大統領や、今回の「アベシンゾー・ユーゲント」問題がオーバーラップ
して、とても怖いと感じたのだった。

 これから先、どういう結末を迎えるのかわからない…というか、またもや
「うやむや」のまま葬り去られる可能性も高いと思うのだが、どういう結果に
なるにしろ、この事件にかかわる一連の顛末を、できれば漫画で残しておいて
もらいたい、と思う。

 そしてその場合、吉本浩二に漫画を担当してもらいたい、とも思うのだ。

 現在、「ビッグコミックスペリオール」に連載中の吉本浩二・作『淋しいの
はアンタだけじゃない』(単行本は小学館から既刊2巻)は、作曲家・佐村河内
守氏のゴーストライター事件をきっかけに、聴覚と聴覚障害に興味を持った吉
本が、担当編集者との二人三脚で、当の佐村河内氏や、医師あるいは大学の研
究者に、聴覚障害について取材し、その取材の過程をほぼそのまま、ドキュメ
ンタリーの手法でまとめた漫画だ。

 取材の過程で吉本たちは、「聴覚障害」というものに対する自分たちの誤解
…ということはつまり、世間的な一般概念の誤りについて気づかされ、「目か
らウロコ」を次々に経験していくのだが、漫画は、取材とほぼ同時進行で連載
が進行するので、その臨場感がハンパない。

 実はわしも、ここ数年耳鳴りに悩まされていて、この漫画によって、その耳
鳴りは、程度の軽重こそあれ誰にもあるもので、その原因は難聴にある、とい
うくだりで、思わずウロコを落としてしまった。

 なんでも、「難聴」というのも個人差があって、人によって聞こえにくい音
域というのが違うらしいのだが、聞こえにくい音域を、脳がなんとか認識しよ
うと「頑張ってしまう」が故に、脳はその音域を増幅しようとして、それが
「耳鳴り」となってしまう…そうなのだ。
 代表的な漫画のオノマトペとされる「シーン」もまた、「実は耳鳴りの音か
も」というのには、思わず「はた」と膝を打ってしまった。

 上記は、この漫画のほんの一端なのだが、取材の過程を、愚直なまでに丁寧
に、「そのまま」再現しようとするこの漫画は、調査報道の域にまで達してい
ると思う。

 吉本浩二は、『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』
(秋田書店)で、元アシスタントや当時の担当編集者ほかの関係者から徹底した
取材を行い、手塚治虫の創作現場を漫画の上に再現して見せ、さらに、東日本
大震災で壊滅的な被害を受けながら、驚異的なスピードで復旧した三陸鉄道に
取材した『さんてつ』(新潮社)で、ドキュメンタリー漫画家としての地歩を固
めてきた。

 「泥臭い」とも言える朴訥な絵柄は、取材の過程をそのまま、なんの飾りも
なく伝えるのに、とても効果を発揮している。

 2006年から雑誌連載中の山本直樹『レッド 1969〜1972』(講談社)もまた、
実在の事件に取材した労作で、人物名はすべて架空の名前が充てられて、フィ
クションの形をとってはいるが、多分に「記録文学」的な作品でもある。

 『レッド』は、1〜8巻の第一部で1971年12月31日までが描かれ、これに続
く第2部の『最後の60日 そしてあさま山荘へ』は、この2月発売の4巻で、
ようやく山岳アジトを放棄する「1972年2月17日」まで時間が進んだ。
 第1部全8巻、第2部全4巻で、粛清、あるいは「総括」による死者は15人
に達し、これから始まる「第3部」では、いよいよ「あさま山荘事件」に突入
するようだ。

 吉本浩二『淋しいのはアンタだけじゃない』と山本直樹『レッド』に共通す
るのは、綿密な取材と、作品の時間軸が、実にゆっくりと、まだるっこしいま
でに「じわじわ」と進むことだ。
 この時間軸の使い方は、たとえばこれを活字でやられると、まだるっこすぎ
て途中で読むことを放棄してしまうだろうし、実写の映像では、これと同じ時
間軸を使うのは、まず不可能(たとえば、『レッド』を、漫画を忠実に再現す
る形で第1部から第2部終了までを映像化したら、おそらくは20時間かそれ以
上になると思う)だ。

 この、愚直なまでに丁寧に、ゆったりと時間を進行させながら、そこで起こ
った事実関係、取材で得た情報を、事実に即して緻密に再現しようとするドキ
ュメンタリーは、漫画でしか表現できない、と、この2作品読むとなおさらに、
思えてくる。

 『レッド』同様に、吉村昭が小説の世界で完成させた「記録文学」に迫って
いる、と思えるのは、村上もとか『フイチン再見!』(小学館・既刊9巻)と、
花輪和一『刑務所の中』だろうか。

 先月、当欄でその作品に言及した矢先に、突然の訃報を聞かされた谷口ジロ
ーもまた、伊能忠敬を主人公に据え、その彼が全国測量の旅に出かけるまでの
間、江戸の町のあちこちを逍遥する様を描いた『ふらり』(講談社)や、あるい
は先月取り上げた『坊ちゃんの時代』などで、記録文学的な手法を漫画に取り
込んできた作家のひとりだと思う。

 そうした作品をもっと読ませてほしかったのに、と訃報に接して切に思った。
 谷口ジローの若すぎる逝去は、漫画の、というよりも、日本の文化にとって、
大きな損失であるとも思う。
 とても残念ではあるが、冥福をお祈りしたい。

 ところで、漫画版『アベシンゾー・ユーゲント顛末』、これはぜひとも実現
していただきたい、と最後にもう一度、強く訴えるぞ。

 是非、ぜひ。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第87回 大災害直後を生き抜く

 日本は自然災害の多い国である。地震、台風、豪雪・・・。世界で起きてい
るマグニチュード6以上の地震の約20%が日本で発生している、という。我々
は地震多発地域で生活している、ということを自覚して、地震に向き合わなけ
ればならない運命にある。だから地震対策に関連した本は膨大に存在している。

 今回紹介する本は、従来の防災の本とは一線を画している。既存の防災関連
書は、災害の備えを充分に行うことへの啓発書であり、また、被災した後の過
ごし方の解説書である。
 しかし、この本は発災の瞬間&発災の直後に照準を合わせている本なのだ。

『震度7の生存確率』(日本防災教育振興中央会 仲西宏之・佐藤和彦 著)
(幻冬舎)(2016)

 本書は、「そのとき」の対策(=災害での自分の身の守り方、生存方法)に
特化した書籍なのだ。

 まずは、タイトル。「震度7」と地震についての本だ、ということがわかり、
次に「生存確率」というちょっと刺激的な文言が続く。震度7という揺れでは、
人はなす術がない、と本文の中では随所にいうのだ。

 そんな何もできないような強く大きな揺れの時、人はそれでもどう行動した
ら、その場で生き延びることができるか。第1章では、様々な状況の中で震度
7の地震に襲われたときの、自分の対処方法を質問形式で問いかけ、その行動
が何%の生存確率なのか、ということを示している。ここで本書が強調するの
は、震度7の揺れでは、人はうごくことができない。ということだ。

 実際に地震の揺れの等級では震度7が最高級であり、それ以上はない。震度
8はないのだ。だから、震度7は無限大の揺れ、と認識する。ただ揺れている
だけではない。物が移動し、飛び、建物が崩れる揺れが震度7なのだ。

 そんな中、人はどうやって生き抜くことができるのだろう。

 この第1章では、例えば「地下鉄に乗車中、地震に遭遇。その時、あなたは?」
という質問に対して、3択の対処方法が用意されている。1)両手でつり革に
つかまったまま、踏ん張る 2)片手をつり革から離し、離した手で頭部を防
ぐ 3)その場にしゃがみ込む
 回答では、1の生存確率は70% 2は50% 3は30%・・・。特に3(しゃ
がみ込む)のがいけないのは、地下鉄は走行中であり、まわりに多数の乗客が
いることでしゃがみ込むことは圧死の危険があるから生存確率が低くなるのだ。

 このような質問がたくさんある。都市生活においてふつうの行動時に地震に
遭遇した状況での質問なのだ。

 第2章では、さまざま危険を例示して、それに対処する方法を解説する。云
ってみれば第1章での回答の解説である。

 やっかいなことに地震は季節や時刻を選んで発生しない。真冬や真夏の過酷
な季節もあれば、夜中にも起こる。あらゆる事態を想定なないといけないのだ
が、人はそんなことはできない。どんな季節であってもどんな時刻であっても、
まずは自分の身を守る、ということを心がける。そのための方法、自分の身を
守るための基本姿勢である「ゴブリンポーズ」を紹介している。

 ゴブリンポーズ=鬼の格好である。

 それに拠ると、
1 片膝をついてしゃがむ 2 後頭部に握りしめた拳をしっかり乗せる 
3 顔を両腕で挟む 4 顎を引く・・・・・これがゴブリンポーズ。

この体勢で大きな揺れをやり過ごし、揺れが収まってから脱出=避難を開始す
る、ということだ。

 それでも大きな揺れが始まったとき(つまり揺れる前、いつもの状態の時)、
どんな場所に自分がいるか、ということを常に考えて自分の位置を決めること
が大切だ、とも云っている。入り口の近く、とか柱の脇とか、逃げやすいし押
しつぶされにくい場所を選んで行動しよう、と提案している。

 本書は大きな揺れの時、他と比較して安全な処で身の守り、そして揺れが収
まった後に、自分の力で自由に移動することができることが最も大切である。
と訴えている。

 自力で自由に移動することができることを最優先にして日々生活する、とい
うことなのだ。

 私にとってはなかなか刺激的な本なのだ。

多呂さ(お彼岸も近いというのに寒い日が続くのであります。ご自愛ください)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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70 昔話絵本

『シンデレラ』
       木村由利子 文 / 天野喜孝 絵 復刊ドットコム

『シンデレラ』のお話しはよく知られ、絵本も多数種類がでています。

 今回ご紹介する絵本はファイナルファンタジーで有名な天野さんが手がけた
ものです。

 表紙はシンデレラのウェディングドレス姿。
 見返しはシンデレラのドレスを感じるレース調になっており、目の前に美し
い花嫁がいる存在感があります。

 木村由利子さんの文章は少ない言葉でシンデレラの物語の輪郭をきわだたせ
天野さんの絵も引き立たせています。
 
 どのページの絵もそれだけでタブローとして鑑賞したくなるほどで、私が特
に好きな絵は、みすぼらしい格好で掃除をしているシンデレラです。品のよさ
がにじみでているシンデレラの美しさはため息がでます。
 
 もともとは1988年にひかりのくにで出版された絵本ですが、復刊にあたり、
本文のレイアウトも一新し、絵に文字がかからないようにし、英訳も並記され
ています。英訳をされたのは平野キャシーさん。国際アンデルセン賞を受賞さ
れた上橋菜穂子さん、荻原規子さん、湯本和樹実さんの英訳をされている方で
す。

 ゲームには疎いのですが、ファイナルファンタジーが世界的なゲームだとい
うことは子どもからも教えてもらいました。英訳もついているので、天野さん
の絵を扉にしてこの絵本が英語圏でも広がっていくといいなとワクワクしなが
ら何回も読みました。

 天野さんの絵にひかれて読んだ久しぶりのシンデレラ。他の再話も読みたく
なり、本棚から探し出しました。

 フランス、ペローの再話が日本では有名ですが、ドイツ、グリムの再話も味
わいが違います。
 
 いまは絶版になっていますが、祐学社からでていた『シンデレラ』はノニー・
ホグロギアンの淡い色彩の優しい雰囲気の絵。翻訳は矢川澄子さん。
 シンデレラが舞踏会に出かけ、その時にぬげてしまったガラスの靴を、姉た
ちの足に入らないので母親はつまさきを、かかとを切り落としなさいと姉に指
示し、姉たちは逆らいません。生々しく残酷なシーンですが、欲しいものを手
に入れる執着、欲深さがつよく感じら、現実世界のリアリティに通じるものが
あります。またシンデレラもシンデレラを探し出す王子もとても能動的に描か
れているのもおもしろいです。

 ペローの再話ではマーシャ・ブラウン『シンデレラ』(まついまさこ訳/福
音館書店)も読みごたえがあります。瀟洒に描かれたシンデレラの美しさもぜ
ひみていただきたい。残念ながらこちらも品切れ重版未定ですが図書館にはあ
るはずです。

 現役絵本も紹介せねば。
 バーバラ・マクリントックの『シンデレラ』(福本友美子訳/岩波書店)も
ペローの再話です。繊細にくっきりとした色使いで日本でも人気の絵本作家の
手によるもの。表情豊かな人物を描き、細部の描写は絵を読む楽しみに満ちて
います。


 それにしても、昔話はおもしろい。
 いまではすっかり大きくなっている子どもたち。3歳違いで3人なので、読
む絵本もひとりひとりにそれぞれだったけれど、昔話だけは3人どの年代でも
聞き入ってくれたのです。

 そんなことを思い出しました。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える/show-z
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竜馬から学ぶネゴシエーションの基礎

 年末年始に実家に里帰りした際、新装版『竜馬がゆく』の全巻が、姉の部屋
の本棚に並べられているのを見つけ、久しぶりに手にとってみました。

 時間を持て余していて、暇つぶしに読み始めたのですが、短い年末年始休み
だけでは読みきれるはずもなく。自宅に戻ってから続きが気になりだしてしま
ったので、近所のブックオフで中古本を買い揃えました。

 行き帰りの通勤電車の中で、少しづつだけど毎日、読み進めていきました。
本当は「一気に読みました」と言いたいところですが、通勤時間以外では時間
が捻出できなかったので、1か月ほどかけて本当に少しずつ。電車を降りて本
を閉じるたびに、次の展開ってどうだったっけ?と、昔読んだ記憶を思い起こ
しながらの全巻読破でした。

 この本を最初に読んだのは、20代も終わりに差し掛かった頃でして。ちょう
どその時、僕はベンチャー企業に転職したばかりでして、某インターネットサ
イトに「ベンチャーの社長が愛読する本20選」(タイトルうろ覚え)みたいな
記事があり、この本が取り上げられていたんですね。せっかくベンチャーに入
ったんだし、読んでおいてもいいかなと思って全巻読んだのが最初、と記憶し
ております。

 それまで司馬遼太郎の作品といえば、大河ドラマの影響で中学生の時に読ん
だ『翔ぶが如く』と、社会人になりたての頃に読んだ『坂の上の雲』くらい。
別に司馬作品のファンだったということではなく、有名どころなら少し読んで
ますよ、くらいのものだったんですね。

 その時に読んだ『竜馬がゆく』も、もちろん面白かったのです。幕末という
激動の時代の中、高知・土佐藩出身の竜馬が勝海舟に薫陶し、日本の未来に想
いを馳せながら活躍するストーリー。竜馬の豪放磊落でふてぶてしい性格を、
日本の起業家に重ね合わせたりもしながら、あぁ、ベンチャーを立ち上げる方
って己の私利私欲ではなく、本気で世の中を変えようとするからこそ、竜馬の
ことが好きになるのかな、なんて、考えていたのです。

 で、それから10年あまりが経過しての今回。一昨年にそのベンチャー企業を
去り、現在は某大手のグループ会社で人事になった僕は、当時とは違う感想を
持ちました。それは、竜馬の持つ理想や大志、キャラクター以上に、彼の優れ
たネゴシエーターぶりに、感心したのです。

 ネゴシエーションとは、「交渉」や「折衝」を意味する言葉ですが、ビジネ
スの現場においては、どこかこちらの主張を相手の呑ませるとか、駆け引きの
ようなイメージを持たれることがよくあります。

 しかし本来のネゴシエーションとはそうではありません。『ハーバード流交
渉術』(ロジャーフィッシャー、ウィリアムユーリー著)によると、その交渉
の方法が「賢明な合意をもたらすものであるかどうか」「効果的であるかどう
か」「当事者間の関係を改善し、少なくともそれを損なわないものであるかど
うか」の三点であると書かれています。その点で、竜馬はネゴシエーターとし
て超一流だということを、今回の読書で認識したのです。

 その竜馬のネゴシエーターっぷりが一番わかるのが、彼が薩長同盟締結に奔
走する場面。竜馬がゆくには、尊王攘夷一辺倒で過激行動を繰り返す長州藩、
幕府とは距離を置いて開国に進もうとする薩摩藩、そして、旧来体制を堅持し
ようとする佐幕派と、考えが異なる複数の集団が登場します。

 竜馬は日本を1つの国と捉え、諸外国との外交、貿易を通して豊かな国にし
ていきたいという大きな理想を持つ中で薩長同盟を発案し、考えが相容れない
両者を結びつけるため動いていくのですが、その際、自分の理想や考え方を説
明して理解させて、、、という手法を取らない。あくまで両者それぞれの実利、
軍事面や経済面でどのようなメリットがあるかを説明し、納得させたうえで、
締結にもっていくのです。

 竜馬のことを敬愛する西郷隆盛に対してさえも、国レベルでの考え、捉え方
については、何らかの誤解を与える恐れありとして、すべては説明しません。
本当なら自分の理想を理解してもらえる相手を1人でも多く増やしたいはずな
のに、最終的な目的と手段は別物と考える。これが竜馬の優れているところで
はないかと、今回思ったのです。

 このことに10年前には思いが及ばず、今回気付いたのは、おそらく僕自身の
環境変化にあります。ベンチャーという環境に身を置いていると、社内はトッ
プを中心に一枚岩になっていて、理念を共有して突き進むのが、ある意味当た
り前だったんですね。ところが現在の環境では、お恥ずかしながら一定のセク
ショナリズムが存在していて、考えが相容れない方たちが当然のようにいらっ
しゃるのです。

 そのような環境下では、何か1つのことを推し進める必要がある際、どんな
に立派な大義名分があっても、合意形成を図ることは難しい。会社全体にどん
なメリットをもたらすかについて説明するよりも、各部署、ときには個々人に
とってのメリットは何かを説かないと、進めた後にしこりが残ることも有り得
ます。

 僕は多分、ベンチャー時代とのこの感覚の違いに順応できていなくて、いろ
いろあがいている時だからこそ、今回の竜馬からネゴシエーションの基本につ
いて、気付かされたのではないかと思っております。

 そして竜馬が教えてくれた大事なことがもう1つ。どれだけうまくやったと
しても、予想だにしない人間から、突然刺されるリスクがあるということを。
。。だけど、それを恐れて何も行動できなくなるのは、それこそマズイわけで。
うーむ、組織内でのネゴは良く考え、自分から仕掛けていく必要があるものの、
悩ましいところです。


show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
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 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 原稿待ちと、編集子自身の引っ越しのために遅くなりました。個人的な話で
恐縮ですが、2011年3月から住んでいたところを引き払いました。ちょうど震
災直後、ガソリンも電気も不足している中での引っ越しでしたので、いろいろ
大変だったことを思い出しました。

 身近に被災者が居たこともあり、直接的な被災・被害ではありませんが、い
ろいろ大変な思いや不安な思いもしたなぁ、としみじみとしていました。

 ってなわけで、やはり6年も住んでいるといろいろ物があふれ、想定以上に
引っ越しは大変でした。…という言い訳でした。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.624


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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『ブルースの女王 ベッシ―・スミス』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『夫のちんぽが入らない』こだま 扶桑社

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『私が会ったビートルズとロックスター』星加ルミ子著

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#80『ブルースの女王 ベッシ―・スミス』

 前回書いた通り、今年、2017年は、ジャズのレコードが初めて録音されてか
ら、ちょうど100年と言う記念の年である。

 その歴史的録音をしたのは、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バン
ド。Youtube で聴いてみると、実に陽気な、ザ・ディキシーという感じの演奏
だ。いまの感覚からするとやや単調だが、世界中で大ヒットして、ミリオンセ
ラーになったという。

 メンバーに黒人は一人もいない。イタリア系二人、イギリス系二人、アイル
ランド系一人の白人バンドだった。
 ちなみに、その少し前にフレディー・ケッパードという黒人ジャズメンにレ
コーディングの話があったが、彼は自分の演奏が盗まれることを恐れて拒絶し
たという。
 もし承諾していれば、史上初の栄誉は黒人のものとなっていたわけだ。

 ジャズが黒人文化と白人文化の融合と相克から生まれた音楽だとするなら、
人種にこだわる必要はないのかもしれないが、時は20世紀の初め、まだまだ人
種差別が激しかった時代である。何となく黒人ミュージシャンを応援したくな
ってしまうのも人情じゃないか。

 前回の、トニ・モリスンの『ジャズ』にも、こんなくだりがあった。「でも、
わたしは、やった。救急車を呼んだ、ってこと。でも、朝まで来なかった。わ
たし、二度も電話をかけたのに。道が凍ってるからね、って言ったけど、本当
は、黒人が呼んでるからだった。ドーカス(注:黒人の少女)は、あの女性の
ベッドのシーツからマットレスまで出血して、死んだの」

 黒人が呼んでも救急車は来ない。それが1920年代の普通の風景だったのかど
うかは知らないが、1930年代に、似たような事情で命を落としたという「伝説」
を持つ、実在の黒人歌手もいる。
 それが本書の主人公、ブルースの女王、ベッシ―・スミスだ。

 話は逸れるが、テレビの衛星放送でベッシ―・スミスの伝記映画を見たこと
がある。主演は女性ラッパーの草分け、クイーン・ラティファで、これはかな
りはまり役。で、そのレコーディングの場面が、ちょっと驚きだった。
 蓄音器のラッパ型のスピーカーがあるけれど、それの超巨大なものがスタジ
オの壁一面に据え付けられていて、てっきりモニター・スピーカーだと思って
いたら、なんとベッシ―・スミスはその前に立ち、そこに向かって歌い出した
のである。
 つまりそれはスピーカーではなく、マイクロフォンなのだった。

 ある種シュールな絵だと思った。
 壁一面を占める巨大なマイクロフォン。その前に立つブルースの女王。彼女
の横にはピアノがあり、ピアニストが伴奏している。さらに後方にはスーツを
着た数人の白人ビジネスマンが並んで立って見守っている。恐らくディレクタ
ーだったり、レコード会社の人だったり、マネージャーだったりするのだろう。
今では録音ブースとディレクターたちがいるモニター・ルームは別の部屋にな
っているが、当時はひとつだったらしい。

 ところで、マイクロフォンというのは、小型フォンという意味だろう。バス
に対してマイクロバス、コンピューターに対してマイクロコンピューター(マ
イコン、とその昔は略して持て囃されたこともあった)というように、元々あ
るものが小型化された時のネーミング作法なのだから。
 つまり、マイクロフォンの前にただの「フォン」があり、その小型版が出来
た時に初めてマイクロフォンの名前が生まれたと考えられる。

 だから、この壁一面の巨大なものは、「フォン」なのだ。実際にはなんて呼
ばれていたか知らないけど。

 しかし、マイクロバスが出来てもバスはなくならなかったが、マイクロフォ
ンが出来たらもはや「フォン」は要らなくなってしまった。だから、今ではそ
の元の言葉も失われてしまったのではないか。

 というくだらない横道は措いて、本筋に戻ろう。『ブルースの女王 ベッシ
―・スミス』だ。

 著者はイレイン・ファインスタインという、イギリスの詩人である。そのた
め原文が凝った言い回しなのだろう、翻訳はあまりよくない。本としても薄く
て、音楽界に巨大な足跡を残した「女王」の伝記としては物足りない印象を与
える。
 しかし、内容は短いながら充実しており、何よりいいのは、著者が客観的に
ベッシ―・スミスを捉え、一歩引いた目で描いているところだ。

 大きな体と、大きな声。黒人としても黒い肌。男をも殴りつける強靭な拳で、
暴力沙汰とも縁が深い。バイセクシュアルで、不倫も平気。ツアーに出ればア
ルコールに溺れる、自堕落な生活。そうした人物像を描く一方で、その巧みな
ヴォーカル表現や、優れた作詞家としての才能を讃えている。

 本書の最後を締めくくる文章に、「私たちが自分自身をありのまま認めるよ
うに、ベッシ―をそのまま受け入れ、認めるのだ。」とあるが、まさにそれを
実践したのが本書であると言える。

 ところで、先に「1930年代に、似たような事情で命を落としたという「伝説」
を持つ、実在の黒人歌手」とぼくは書いた。
 わざわざ「伝説」としたのは、実際に彼女が死に至った経過がどうだったの
か、未だに明らかにされていないからである。
 著者も、「相反する証言が、このように乱れ飛んでいる状態では、真実への
道のりは遠く、その距離は縮めにくい。」と書いている。

 確かなのは、ベッシ―・スミスが交通事故に遭ったことだ。
 そして、その八時間半後に、意識不明のまま息を引き取った。

 伝説では、この八時間半の出来事を、次のように説明する。
 事故後救急車が来たものの、ベッシ―が黒人であったために白人専門病院で
治療拒否に遭い、黒人専門病院に辿り着いた時には既に手遅れで、出血多量の
ために死んだ、と。

 当時のマスコミもこれを事実として扱い、ベッシ―・スミスは南部の人種差
別の殉教者だとする論調が支配的だった。

 確かに事故現場には、ベッシーだけではなく、巻き込まれて怪我をした白人
もいた。そして到着した救急車は、白人の方を優先して病院へ運んだらしい。

 ところが、証言を丹念に追うと、救急車は他にももう一台、すぐ後に来てい
たのである。そして二台目の方はベッシ―を乗せて現場から去って行ったので、
これが治療の遅れの原因とはならない。

 治療拒否についても、ベッシ―を手当てした黒人病院の関係者は、白人病院
に行って断られた後ではなく、「事故現場から直接この病院に運び込まれ、病
室で死亡したのだ」と証言している。

 著者も、「三〇年代に、救急車の運転手が、黒人の運転手であればなおさら
だが、ベッシ―に限らず黒人を白人病院に連れて行くことなどありえない」と
書いている。

 そして、仮に治療拒否があったとしても、次の事実がある。
 白人病院と黒人病院は、僅か1マイルしか離れていなかったのである。
 もしも白人病院に行って断られたとしても、たった1マイルの遠回りが、生
死を分かつほど致命的だったのだろうか。

 一方、事故現場から救急車を呼ぶためには、電話のあるところまで10マイル
歩かなければならなかったのも事実だ。そのために、余分な時間がかかったこ
とは認めてもいいだろう。
 また、現場には白人の医師も車で通りかかり、ベッシ―の応急手当てをして
いる。この人物が救急車を待たずに、自分の車で運んでいればよかったのだが、
どうやら自分の車を黒人の血で汚したくなかったらしい、という証言もある。
 これが事実なら、病院ではなく、白人医師の人種差別により、ベッシ―・ス
ミスは命を落としたことになり、「伝説」もあながち嘘ではないということに
なる。

 いずれにせよ、タイムマシンが発明されない限り、真相が究明されることは
ないだろう。

 さて、そんな謎の死を遂げたことよりも、われわれがベッシ―・スミスを記
憶すべきなのは、その素晴らしい音楽の魅力によってだ。
 彼女のブルースが、なぜこれほどまでに、人の心を揺さぶるのか。
 詩人でもある著者は、実に的確な一言で、その本質を突いている。

「自分の不幸を語るのではなく、聴衆の心にかれらの悲惨を気づかせる、それ
がベッシ―の力の秘密だった。」

 ここには、表現というものの真髄がある。音楽でも演技でも、それがパフォ
ーマー自身の自己表現でしかないのなら、見る者に真の感動が与えられるだろ
うか。
 人種差別激しい20世紀初頭のアメリカに生まれなくても、黒人でなくても、
女性でなくても、貧困に喘いだことがなくても、誰しもが生きる中でそれぞれ
の悲惨(ブルース)を抱えている。
 ベッシーのブルースを聴く時、ぼくらは「彼女のブルース」に同情するので
はなく、心の奥にある「自らのブルース」を呼び覚まされているのだ。

 時を超え、国を超える優れた表現というものは、常に表現者と受け手の心が
共鳴する瞬間において、初めて普遍に到達し、永遠となる。そのことを、こん
なに端的に示した言葉を、ぼくは他に知らない。

イレイン・ファインスタイン
荒このみ訳
『ブルースの女王 ベッシ―・スミス』
1989年7月20日 印刷
1989年7月30日 発行
山口書店

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
インフル、やってしまいました。随分前ですが、日本の厚生労働省は製薬会社
から期限切れ寸前のワクチンを押し付けられているから、ほとんど効かないら
しい、という噂を聞いて、なあんだと思って、予防接種も受けてませんでした。
今年のは微熱が特徴だそうで、さほど高熱には苦しみませんでしたが、医者が
言うほど早くには治らず、いらいらしました。でも、人種差別もされずに病院
へ行けるのは幸せなのかもしれませんね。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
----------------------------------------------------------------------
『夫のちんぽが入らない』こだま 扶桑社

 これほど衝撃的なタイトルの本はそうなかろう。もともと14年に同人誌の即
売会「文学フリマ」に出した同人誌に収録された同名タイトルの短編が大評判
をとって、大幅に加筆して出されたノンフィクションらしい。

 装幀も書店に置いた時に作品が誤解されないようギリギリのバランスを追求
した、すばらしいものだ。その上、著者がこれはダメだろうと思っていた、こ
のタイトルで出す決断をした編集者もたいしたものだ。

 ・・・同じように後書きに少なくとも私は初めて見た、新しい工夫が凝らし
てあるのだが、こればっかりは何を狙っていたのか、私にはわからなかった。
ま、それはともかく本題に入ろう。

 彼女は北海道の相当な田舎で生まれ、初めての子育てに猛烈なストレスを感
じていた母親に育てられた彼女は、母親の機嫌を伺うことが家庭での処世術だ
った。そのせいか、人とかかわることが大の苦手になっていて、地域からも浮
いていた様子。

 こんなところから脱出したいと、彼女は大学進学をもって地元から出た。行
った大学は東北の某大学。学部は教育学部だ。貧乏だったのでボロアパートを
選んで、引っ越しの荷物を解いていると、このアパートに住む、まだ見ず知ら
ずの男がやってきてカラーボックスを組み立てた。そしてそのまま「何もしな
いから」と言って一泊していく。この時は、本当に何もしなかった。

 人付き合いが大の苦手だと自覚していた彼女の心の中に突如ズカズカと入っ
てきた、しかし乱暴者ではない彼。その彼と彼女は互いに愛するようになる。
そして肉体的に結ばれようとした時、タイトルの事件が起こった。

 その後も状況は良くならず、結ばれることなく結婚。卒業して二人とも学校
教師になった。それでも当初は静かに暮していけたが、彼女が赴任した二つ目
の学校で学級崩壊が発生し、事態は急変していく・・・

 著者は、ちょっと人付き合いが苦手なだけで、頑張り屋で優しい女性のよう
だ。人に甘える、頼ることを知らないと言うか、知らずに生きて行かざるを得
なかった。しかし、人には優しい。

 自分がどれだけつらくても、どうしても人を思いやって我慢してしまう。そ
うした生き方は、彼と結婚してからも続いた。

 そして運命のいたずらによって直面せざるを得なくなった苦闘。この時助け
が呼べたらまた状況は違っていたのかも知れないが、彼女には助けを呼ぶこと
がどうしてもできなかった。1人で苦悩を抱え込み、じたばたするしかなかっ
た。

 ちんぽが入らなかったのはなぜか、結局明らかにされたわけではない。誰に
でもできると思われたことができないということ。そして人に助けを求められ
ないということが、こんなにも人を傷つけていくものなのかと思いながら読ん
だ。

 そして思うのは、近年話題になるブラック企業と言うやつ。キツイ長時間労
働で低賃金な仕事は、バブルの時代でもあった。まして他の時代にはもっとあ
った。しかし、今のようにブラック企業としてクローズアップされることはな
かった。

 それがなぜ近年になってからクローズアップされるようになってきたのか?
昔より厳しい状況におかれる人が多くなったからかもしれないが、むしろ彼女
のような、孤立し、逃げ場がなくなっていたがゆえに壊れるようになった人が
増えたからではないか?

 昔は人間関係が濃密だった。そんな人間関係の中では、同調が重視されて同
調できない人にとって生きづらかった。だからこそ都市に出て、そういう人間
関係の煩わしい世界から脱出しようとする人も多かった。

 煩わしい人間関係から都会へ脱出することは、孤独を意味した。そんな孤独
な人たちを孤独から解放することで浸透したのが創価学会や共産党、近年なら
幸福の科学だ。都会で孤独に苦しんでいては得られない「仲間」が、こうした
団体に行けば得られた。

 こうした団体には問題もあるが、会社以外の「つながり」ができた。信頼で
きる人に悩みを相談することもできただろうし、あまりにひどい職場に勤めて
いたりしたら、転職先を紹介してくれることもあっただろう。そうやってお互
いがお互いを支えるコミュニティができていた。

 それが戦後都会でこうした宗教が躍進した理由だと私が知ったのは10年以上
前に当メルマガに書評を書いた島田裕巳氏の「創価学会」であった。

 そんな昔の創価学会や共産党に代表される、職場以外のコミュニティが今は
ないと言うことなのだろう。ネットはどうなのだと思った方、実は彼女はネッ
トにも助けを求めて失敗しているのです。

 ネットの良いコミュニティに巡り合えたら、彼女もなんとか苦境を乗り越え
る糸口を見つけられたかも知れない。ただ、彼女のスキルと知識ではネットの
荒波を乗り越えることはできなかったのです。

 昔から異業種交流会など、自分の生きるのとは別世界の人と付き合う必要性
は叫ばれていたし、今はSNSという「つながる」ツールもそこそこある。

 しかし、本当に必要なのは「つながる」ことではない。

 「ちんぽ」に気を取られて読むと、とんでもなく重いものを突きつけられる。
そんな作品である。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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昔、ミーハー、今、ヲタク。ビートルズがアイドルだったあの時代。そして
追悼!藤村俊二さん『私が会ったビートルズとロックスター』星加ルミ子著
(シンコーミュージックエンターテインメント)

 過日、藤村俊二さんが亡くなりました。タレント、俳優、バーのオーナーと
いう肩書で紹介されたものが多かったのですが、おばちゃまにとっては振付師
としての印象が強い方です。

 そこで今回の本は星加ルミ子著『私が会ったビートルズとロックスター』。
星加ルミ子さんというのはまあお若い方はご存じないと思いますが、1960年代
の洋楽専門誌「ミュージック・ライフ」の編集長として有名な方でした。

 昨年はビートルズが来日して50年経ったということですが、初来日当時、洋
楽だけを扱う雑誌というのが数誌あり、その中でも一番おしゃれとされていた
のがシンコーミュージックから発売の「ミュージック・ライフ」だったのです。
(この話のどこに藤村俊二さんが登場するのかと思うかもしれませんが最後に
はご紹介しますので少しお待ちください。)

 星加ルミ子さんは今でいえばヲタク、昔はミーハーと呼ばれましたが、音楽
とか芸能に対して熱を持っている少女の代表として、洋楽雑誌のお仕事をして、
ビートルズに始めてインタビューした編集者として有名です。

 この本、最初こそ、この本ではアーティストを支えたマネジャーについて書
く予定と言って始まるのですが、脈絡なく話はあっちへ行きこっちへ飛び、で、
最終的にはまたビートルズの話になるという、読んでいて読みにくいか読みや
すいかと言われれば前者ですが、それだけに、妙な臨場感があってそそられま
す。

 よく読むとビートルズにインタビューしたのが1965年で、その音楽にハマっ
たのが1967年「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハート・クラブ・バンド」
というからそんなにパイオニアというほどでもないんですね。

 しかし、この方は「フール・オン・ザ・ヒル」のレコーディングの時にスタ
ジオにいた!というからすごい方です、やっぱり! キモノを来て東洋から来
たキュートな女の子はビートルズのメンバーの目にはどんなふうに映ったので
しょうか。

 さて、藤村俊二さんです。この星加ルミ子編集長は土曜日の午後、放送され
ていた洋楽番組「ビートポップス」にMCとして出演していました。メインM
Cがこれ昨年亡くなった大橋巨泉さん。その横でにこにこしながら洋楽のコメ
ントを言う役割で、おばちゃま、わけもなく「編集長」という仕事にあこがれ
たものです。スタジオには50人ぐらいの若者を入れてゴーゴーを踊っていると
いうもの。(ゴーゴーって)。

 で、全員で踊るコーナーがあってその振り付けをしてたのが若いころの藤村
俊二さんでした。振付師がテレビの画面に出るこれもパイオニアですね。

 振り付けを説明してみんなで躍ってみるという今となっては妙なコーナー。
土曜は学校から急いで帰ってこの番組を見たんですね。(当時、レコーダーあ
りません。土曜日に学校ガッツリ4時限ありました。おばちゃま、テレビの前
でミリアムマケバ「パタパタ」とか踊ってた。わけもわからずに(笑)。(ち
なみに今、ウイキりました。当時もちろんウイキはありません)。

 しかし、この本で星加ルミ子さんも触れているようにその後、ベトナム戦争
があり5月革命があり、ベルリンには壁が作られという時代は激しく動いてい
ました。ミリアムマケバも反アパルトヘイトで国外退去をしています(さっき
知りましたが)。

 ミーハー精神で単身、イギリスに行ってビートルズにインタビューした著者
とか、当時としてもなんか脱力感があっておしゃれで、いい時代の犇農韻辰
さ瓩感じられた藤村俊二さん。

 なんだかなつかしくて同年齢の元同僚にメールしちゃいました。東京の遊び
人だった彼はビートポップスのスタジオで躍ってたと前に言ってたっけ。メー
ルの返事には「スタジオでは小山ルミが躍ってた」とありました。小山ルミは
ハーフタレントの走りです。かわいかったんですよね。

 おばちゃまがただひたすら子どもだったあの時代。ため息ものでございます。

 藤村俊二さんのご冥福をお祈りいたします。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
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 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
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 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
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 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 個人的な話ですが、一時期のメールの返事をする間もないほどの忙しさがひ
と段落してきました。で、今は返事できていないメールに返事を送っている状
態です。しかし、いろいろ落ち着くのは春になりそうです。

 先日、春一番が吹いたと気象庁が発表したとか。春よ来い。早く来い。

 とか書いたら、どっかの人が権利料寄こせって来るんですかね。世知辛い世
の中ですね。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.623


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■■ mailmagazine of book reviews   [どこに消えたのでしょうか? 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→漫画で読みたい! 日本近代文学史

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→Silence 神よ なぜ黙っているのですか

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→大きな絵本の大きな世界

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
----------------------------------------------------------------------
<86>漫画で読みたい! 日本近代文学史

 母さん、僕のあのマトン、どうしたんでせうね?
 ええ、夏、すき焼きをするってときに、
 うちは貧乏だからって買ってきたあのマトンですよ。

 母さん、あれは好きな肉でしたよ、
 僕はあのときずいぶんうれしかった

 ♪Mama! Do you remember…

 そう、「マトン」ですよ。
 子羊肉の「ラム」に対して、大人の羊の肉が「マトン」。

 わしが子供のころ…というのは、つまり昭和40年代…には、肉屋さんで一番
安かった肉が、この「マトン」なのだった。
 値段の序列でいうと、牛肉→豚肉→ラム→マトン。
 ラムよりも臭みが強くて少し硬いというので、世間ではやや敬遠されていた
マトンだったが、わしは、好きだった…のは、母方の祖父が猟師だったので、
猪や兎肉に慣れてたせいかもしれない。
 なので、お使いを頼まれて、「今月はちょっと苦しいから、マトンを 400グ
ラム」とか言われると、妙に嬉しかった。

 あのころは、テレビでも、「♪ニュ〜ジ〜ランド、ラ・ム!」と、軽快なコ
マソンに乗せて、ニュージーランド産羊肉を、盛んにコマーシャルしてたのだ
が、コマーシャルを「最近見ないな…」と気づいたころには肉屋の店頭からも、
羊肉は消えていた。
 気がつけば、スーパーでたまに見かける「ラム・チョップ」なんて、すっか
り高級食材となっている。

 なんで肉屋の店頭から安価な羊肉が消えたのか?
 対ニュージーランド貿易に、どこかの時点で、なんか問題が生じたんですか
ね…?

 「マトン」に限らず、ふと気がつくと、いつの間にかなくなっていた、ある
いは何かにとって変わられていた、ということがままある。

 たとえば、同じく食い物でいうと、「細長いリンゴ」。
 「印度リンゴ」とか、「キングデリシャス」といった品種名だったと思うけ
ど、かなりどぎつい濃い赤色の皮で、側面がやや凹んだ形状の、細長いリンゴ。
 ふと気がついたときには、スーパーや果物屋の店頭には「富士」に代表され
る「丸いリンゴ」ばかりで、あの細長いリンゴは、いったいどこに消えたので
しょうか?

 ♪わたなべの、ジュースの素ですもう一杯…
 とテレビで盛んに歌ってた「粉末ジュース」というのも、あっと言う間にな
くなりました。

 駅のホームでの「白線まで下がってお待ちください」のアナウンス。
 今やどことも「黄色い線までお下がりください」あるいは「黄色い点字ブロ
ックまで…」が主流。
 「黄色」いのは、「線」ではなくて確かにブロックだから、「黄色い線」と
の表現は、如何なものか、とも思うが、それはさておき、それでは「白線」は、
なんのために、未だ残されているのだ?
 面倒なので、あえて取り外されないかつての「遺構」かと思えば、新設のホ
ームにも「白線」と「点字ブロック」の両方があるぞ。なんでだ?

 大衆食堂の「めし」という平仮名で独特の書体の看板や暖簾も、いつのまに
か街から消えてしまった。

 西日本では元からなかったようだが、「蒲団の袖」というのも、東日本にお
いてはいつのまにか「消えた」ものなのか? という疑念は、夏目漱石の随筆読
んで湧いてきた。

「…寝心地はすこぶる嬉しかったが、上に掛ける二枚も、下へ敷く二枚も、こ
とごとく蒲団なので肩のあたりへ糺の森の風がひやりひやりと吹いて来る。車
に寒く、湯に寒く、果は蒲団にまで寒かったのは心得ぬ。京都では袖のある夜
着はつくらぬものの由を主人から承って、京都はよくよく人を寒がらせる所だ
と思う。」(夏目漱石『京に着ける夕』)

 『京に着ける夕』は、正岡子規とともに京都に遊んだことを記した随筆だが、
その中の、朝東京をたって後、ほぼ一日がかりでその日の夜に京都に着いて駅
から人力を雇い、底冷えのする京の冬、糺の森近くの旅館に投宿したくだりが、
上の文章。

 敷蒲団も掛蒲団も「ことごとく蒲団」というのは、しごく当たり前に思える
のだが、漱石にとっては「あり得ない」事態だったようだ。
 「袖のある夜着」とは、今日東北地方に見られる「かいまき」のことかと思
うが、上の漱石の文章では、彼は日常的にこれを使用していたようだ。
 さらに、「京都では」これを「つくらぬ」という事実を知るに及んで、やや
怒気を含んだ憤りを記している。多分、旅館の主人を呼んでねちねちとクレー
ムつけたんだと思う。クレーマー漱石、ですね。
 言われた旅館の主人も、さぞ困ったと思う。おそらくは「袖のある夜着」な
んて、見たこともなかったろうから。

 わしは、学生時代から10と数年間を東京で過ごしたのだけど、寝るときに
「かいまき」を使用する人、というのには、ついぞ出遭ったことがない。ふと
ん屋などで売ってるのを見たこともない。そもそも、「かいまき」という夜着
の存在を知ったのも、東京を離れてからだ(たまたま見た通販雑誌ではじめて
知った)。
 しかし漱石の文章では、さもそれが「当たり前」のような書きようである。
 さすれば、「袖のある夜着」というのも、漱石の時代、東京では「当たり前」
だったのが、いつのまにやら消えてしまった習俗だったのか? と思った次第。

 漱石は、人並み外れて「寒がり」だったというから、夏目家独自の習慣だっ
たかも知れないのだが、その辺、どうなんでしょうか?

 そう言えば、かつては各社が競い合うように「日本文学全集」または「世界
文学全集」あるいは「少年少女世界文学全集」はたまた「日本近代文学全集」
なんてのが、文芸系出版社各社から相次いで刊行されていて、どこの家にもど
こかの出版社が出した全集が、専用の書架にずらりと収まってたり、あるいは
その端本がその辺に転がってたりしたもんですが、あの光景も、「百科事典」
とともに、いつのまにやらご家庭からなくなってしまった。
 わしも、たとえば夏目漱石とか芥川龍之介、井伏鱒二や川端康成なんてのは、
家にあった全集の端本で読んだ記憶がある。

 文学全集は消えてしまったけれども、近代の日本の文学者とその周辺及び同
時代との係わりを、漫画で描くことが、静かなブーム…と言うほどではないが、
気を付けて見てみると、結構目立ってきているように思える。

 この分野での嚆矢であり、さらに「金字塔」とも言える存在が、「漫画アク
ション」で連載され、単行本と文庫版がともに双葉社で現在も版を重ねている、
関川夏央・作/谷口ジロー・画の『坊ちゃんの時代』から続く連作「明治五部
作」である。

 漱石と、漱石邸に出入りするその門弟たちとの関わりを中心に、「ラフカデ
ィオ・ハーン」や「仕立て屋銀次」も登場する第一部『坊ちゃんの時代』。
 森鴎外と、彼を追ってはるばるドイツから来日した「エリス」の物語を中心
に、二葉亭四迷なども登場する第二部『秋の舞姫』。
 石川啄木の放蕩とそんな彼に凝りもせず、乞われるままひたすらに経済的援
助を続ける金田一京助の日々、そしてそこに女史・樋口一葉の夭逝が絡む第三
部『かの蒼空に』。
 幸徳秋水と「大逆事件」を軸に展開する第四部『明治流星雨』。
 そして再び漱石を主人公に据え、「修善寺の大患」からの生還と、過去四部
の人々のその後を語りながら「明治」という時代の総決算としてまとめられた
第五部『不機嫌亭漱石』。

 関川夏央と谷口ジローのタッグは、この五部作で「明治」という時代を見事
に活写し、この時代の町の…ことに東京という都市の空気や、その空気の中に
棲みながら、時代を動かし、作ってきた文学者や政治家、社会活動家たちの生
活を、活き活きと描き出して見せてくれた。

 これは、漫画というメディアの特性でもあり、また谷口ジローの画力に負う
ところも大なのだが、『坊ちゃんの時代』は、漱石や森鴎外、石川啄木や樋口
一葉、等々の人物が、肖像写真や肖像画、または千円札や二千円札を通じて我
々がよく知ってる顔かたちで、キャラクターとして動くのである。
 このインパクトは大きい。

 実写映画や小説で、同様のモチーフが展開された例は過去にもあるが、彼ら
がキャラクターとなったとき、その「実在感」というのは、漫画に一日の長が
ある。
 胃痛に耐えながら、原稿用紙を前に所在無げに鼻毛を抜く漱石。
 「維新」とは決して呼ばず、明治維新を終生「瓦解」と、不機嫌に呼び続け
た漱石。
 市電で出会った金田一をこれ幸い、「君、少し用立ててくれたまえ」と悪び
れもせず借金申込み、意気揚々と女郎買いに向かう啄木。
 そのリアリティと存在感は、いずれも圧倒的だ。

 この「実在感」は、中原中也と小林秀雄…この二人の関係性って、啄木と金
田一京助の関係性にそっくりなんですね…そして中也の愛人である康子、三人
の三角関係を軸に物語が展開する、曽根富美子『含羞(はじらひ)−我が友 中
原中也−』もそうだし、芥川龍之介を主人公に、室生犀星、萩原朔太郎という
二人を狂言回しとして、大正時代に文士が多く住んだ「田端村」と大正文壇の
盛衰を描いた、松田奈緒子『えへん、龍之介。』でも、彼らは、それぞれの時
代の中で同じ存在感を有していて、なのでその時代性や背景の町や社会もまた、
とてもリアルに感じられる。

 ことに、『えへん、龍之介。』での、ハンサムで知的な風貌を持ち、人前で
はインテリ然とした振る舞いを崩さない主人公・龍之介が、ふとしたはずみに
見せる下世話でミーハーな側面が、とても秀逸。

 中原中也と小林秀雄のコンビを描いた作品としては、月子『最果てにサーカ
ス』が、最近まで「月刊スピリッツ」に連載され、単行本は全3巻で出ている。

 また、現在連載中の作品としては、倉科遼・作/ケン月影・画の『荷風にな
りたい −不良老人指南−』がある。
 こちらは、永井荷風の、若年時からの性的嗜好、ありていに言えば旺盛な性
欲が嵩じての「変態性欲」にスポットを当て、そんな彼の女性遍歴…というよ
りも性的漁色を軸に、文豪・荷風の生涯を描く取り組み。
 物語は2017年2月現在の連載では、『墨東奇譚』のあたりまで進んでいる。
 これ、絵を担当するのが、あの、エロ劇画の巨匠・ケン月影なので、電車の
中では開くのが躊躇われるページが多くて、乗り物読書には、やや不向きです。

 こちらの主人公は文学者ではないのだけど、村上もとか『フイチン再見!』
もまた、漫画家・上田としこの生涯を描くことによって、彼女と、彼女が生き
た時代とその背景を浮き彫りにしようとしている点で、上記各作と同列かとも
思う。
 こちらは、連載ではただ今1970年代。物語には、若き日の作者・村上もとか
が登場してきている。

 この分野、ひそかに期待しているのだが、まだまだ描かれてない人と時代を
発掘し、どんどん読ませていただきたい、と思う。

 たとえば……
 坂口安吾、太宰治にオダサクを絡めて、檀一雄を語り部とする「無頼派」一
党の暴れっぷり。

 あるいは、野坂昭如を主人公にして、永六輔や小沢昭一らの「中年御三家」
や雑誌「面白半分」、そして「四畳半襖の下張り」事件がからんでくる昭和元
禄浮世草紙。
 さらにそこからスピンオフする形で、上村一夫と阿久悠の交友を軸に、新宿
ゴールデン街紳士録、なんて物語。

 萩原葉子『蕁麻の家』は、世田谷代田に居を構えたばかりの萩原朔太郎一家
を、娘の視点から描いた物語だが、これも漫画で読んでみたい、とも思う。

 最近アニメ化された『この世界の片隅で』でにわかにブレークしたこうの史
代には、林芙美子の尾道時代なぞ、ぜひ描いてほしい…と思ってみたり。

 ……等々、等々、妄想は無限に膨らんでいくのだけど、上のどれか、本当に
実現しないかな。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第86回 Silence 神よ なぜ黙っているのですか

 先月は上智大学の先生でイエズス会の神父でもあるピーター・ミルワード先
生の本を紹介した。今月もイエズス会に関係のある本を紹介したいと思う。イ
エズス会宣教師の話。でもそれは小説なので、フィクション。しかしいたる処
に史実どおりのこともちりばめている小説を紹介したい。そしていま、それを
原作にした映画が劇場で上映されている。

『沈黙』(遠藤周作 著)(新潮社)(1976年(昭和41年))

 遠藤周作はクリスチャンであった。そして本書はクリスチャンである遠藤周
作が終生、心の中で問うていた問題について書いた物語であった。すなわち、
「神はなぜ黙っているのか」という疑問であり、これが本書の主題なのである。

 主(創造主=神)は慈悲深く、人々を苦しみから救ってくださる。しかし、
日本の切支丹のことはお救いにならなかった。神は沈黙したままだった。そし
て、それはもしかしたら実は神は常に沈黙したままなのかもしれない、神がな
にかをしてくれることなど今までもあったのだろうか、という疑念に信徒は苦
しむことになったのかもしれない。そしてそれはさらに恐ろしい疑念となって
いくのである。すなわち、神は本当に存在するのか。と心のどこかでおもって
しまうことになるのだ。

 この物語によると、江戸時代に切支丹の弾圧において、幕府は信者のそうい
う疑念をうまく利用して、棄教を迫ったと云える。信者の心の中の迷いに乗じ
て棄教に持っていく。神の存在を疑うこと自体が神への冒涜であり、それはす
でに疑うことによって、信者の資格はない、という論法で棄教させていく。

 また、幕府は宣教師=バテレンは処刑しない。バテレンを処刑すると、彼ら
を殉教者にしてしまい、ますます切支丹たちは信仰を深めていくことになる。
拷問し処刑するのは、百姓の切支丹たち。それをしっかりバテレンに見せて、
バテレンを苦しめ、そしてバテレンに棄教を迫るのだ。苦しむバテレンは、懸
命に神に問いかける。主よ救い給え。しかし神は答えない。神は沈黙したまま
である。バテレンの苦しみは最高潮に達する。そして神もお赦しになる、と悲
しみの中で消極的であるが重大な決心をして、転ぶ(棄教する)。

 神を信じることで、なぜこれほど苦しまなくてはいけないのか。神に問いか
けてもなぜ神は答えてくれないのか。そして、神はどこにいるのか。
 作家、遠藤周作の心の中の疑問はまさにここにあったのだろう。

 もうひとつ。遠藤周作の興味は棄教者にあった。フェレイラ師、ロドリゴ神
父、そしてキチジロー。この主要人物3名がみな、転び者なのだ。信仰を守り
続けた強い人たちは漁師たちであり百姓たちなのである。

 物語は珍しい形式となっている。まえがきとして時代背景や物語が始まるま
での経緯が長いト書きのように書かれている。そしてロドリゴ神父の手紙。リ
スボンからマカオ、そして日本の地に潜入し、布教活動の様子を細かく記した
この手紙は、ロドリゴ神父の一人称で書かれている。手紙形式の文体は、ロド
リゴ神父がキチジローの裏切りによって日本の官憲に捕らえられるまで続く。
そして第三の形式として、ロドリゴ神父の思考に沿って物語は進んでいくが、
一人称ではなく、「彼は」という主語で物語を展開させている。第二の手紙形
式は、困難な布教活動を描き、第三の客観的表現では、棄教へ至る心の変化を
描いている。棄教までの心の変化は、一人称に語らせると、必ず自己弁護にな
ってしまうから、客観的な第三者の記述表現にしたのだろうと推察する。
 遠藤は、棄教者に心を寄せている。

 さて、現在上映中の「Silence−沈黙」。巨匠 マーティン・スコセッシ監督
作品。
 原作にほぼ忠実に描いている。
 映画は監督の意志と役者の演技によって完成する。スコセッシ監督の意図を
汲んだ役者たちの演技が素晴らしい。本来はポルトガル語で表現しなければな
らないのだろうが、映画では当然のように英語が使われている。欧州の言葉で
あれば、英語でもいい。英語でも目をつぶるしかないであろう。

 本作の成功は、シークエンスの見事さもさることながら、配役の見事さに尽
きると思う。とにかく観た方がいい。できれば原作を読んでから観た方がいい。
宗教という、理解するのに少し時間のかかるものをテーマにしているので、会
話も高度に形而上学的だから、映画で初見だと、意味がわからない処がたくさ
んあると思うのだ。

多呂さ(フロリダで両首脳がゴルフをするという。遊びのゴルフかそれともゴ
ルフ場での真な交渉なのか、どちらなのだろう)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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69 大きな絵本の大きな世界

『走れ!! 機関車』
 ブライアン・フロッカ 作・絵 日暮雅通 訳 偕成社

 たくさんある絵本の中でどの本を選んで読むのか。
 翻訳絵本ですと、その基準になるひとつが、アメリカで最も権威のある絵本
賞、コールデコット賞です。
 本作は2014年の受賞作。

 大きい判型、見返しから文字がびっしり読ませます。
 でも、まずはここは後で読んでもらった方がいいでしょう。

 1869年、夏、ある家族がアメリカ大陸の東から西へ向かって、開通したばか
りの大陸横断鉄道に乗って旅をします。

 鉄の道を鉄の馬が走る。

 大きな蒸気機関車が大きな鐘の音を鳴らしながら線路を走ってきます。

 迫力満点に描かれるのは機関車だけではなく、
 機関車から発せられる音の文字も色を変えたり大きさに変化をもたらせたり、
ページ全体から動きを感じさせます。

 機関車と共に働く人たちをみせながら、
 乗客として旅の臨場感を読者にもたらせます。

 ページを繰るごとに旅はすすみ、会いたい人のもとに運んでくれます。

 ガタガタゆられながら到着した終点。

 その余韻にひたりながら、今度は見返しに書かれている説明を読む楽しみが
待っています。

 アメリカの蒸気機関車について、その歴史から、大陸横断鉄道のルートまで
絵と文字の情報はたっぷりな読みごたえです。

 蒸気機関車には一度乗ったことがあります。
 地元で時折SLが走るのですが、それにです。
 長旅ではありませんが、迫力あるボーーーッツという音に胸が高鳴りました。

 ローカル線もよく利用しますが、長旅にはイスが固かったり不便もあります。
 でも、車窓の景色が楽しみで、季節ごとに楽しんでいます。

 鉄道旅好きにはたまらない絵本なのはまちがいなし。
 読んでみてください。

 今回はもう1冊ご紹介。 
 2015年イギリスのケイト・グリーナウェイ賞受賞作です。
 この賞は作品ではなく、画家に与えられる賞で、イギリスで出版された絵本
の中でもっともすぐれた作品の画家に対して年に一度贈られます。

 『シャクルトンの大漂流』
           ウィリアム・グリル 作 千葉茂樹 訳 岩波書店

 南極大陸横断に挑戦した28人の男たちの実話。
 
 25歳の画家、ウィリアム・グリルは色鉛筆で隊員たちひとりひとり、そして
一緒に連れていった69頭の犬も含め、あたたかい色彩で繊細に描き出していま
す。

 持ち込んだ道具もすべて描いていて、数が多いものを見開きにおいているた
め、ゴマ粒のように小さいのもあるのですが、その細かさには心をつかまれま
す。小さなものすべての必要性を納得させる愛情を感じるのです。

 小さなものばかりではもちろんなく、それらを積み込む船はでーんと大きく、
荒れ狂うブリザードの海は迫力を持って描かれ、絵本の中がとにかく広くて深
い。南極の寒さまでもが伝わってくるほどに。

 実際にあった過酷な冒険が臨場感をもって迫ってくるのは、大小さまざまな
もののリアルさにあるのでしょう。

 すごいなあ、すごいなあと目をページに近づけたり遠ざけたりしながら南極
の冒険を観察する絵本。読むのにも体力を使った気分になるほどです。

 本書は絵本のつくりもとても美しく、担当編集者さんによると背に布を使っ
ていて表紙にはUV箔という贅沢な造りなのだそうです。

 美しさと厳しさを同時に鑑賞できる贅沢な一冊。
 ぜひ体感してほしいです。


(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
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・書評アップ先の媒体予定:
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 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今年は何だか正月から個人的に慌ただしい日々が続いていまして、いろいろ
メールの返事すらも覚束ない状態…。

 最近、某社では仕事のメールのやり取りをAIでサポートさせる実験が始ま
っているとか。言われてみればビジネスのメールは定型なやり取りが多く、実
用化も早そうです。

 早く実用化されて、この業務メールの山から逃れられないものかなぁ、と、
密かに祈っております。(あ)

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★「目につく本を読んでみる」/朝日山
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→ 『採ってはいけない人の見きわめ方』松下直子著(同文館出版)

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#79『ジャズ』

 ジャズ。かつて、この短い言葉は、黒い肌を喚起した。しかし、その上に流
れる汗は透明だし、その下に流れる血は赤い。ただ肌の色だけが白かったり、
黄色かったり、赤かったりするのは、一体どういう神の悪戯か。

 ジャズ。かつて、この短い言葉は、難解さとそれゆえの退屈を喚起した。高
校生の頃、マイルスの『カインド・オブ・ブルー』でさえ、最後まで聴き通す
ことが出来ず、いつもA面の終わりくらいで眠ってしまった。まだCDはなく、
LPの時代だったのだ。

 ジャズ。かつて、この短い言葉は、屋根裏部屋の埃の匂いを喚起した。祖父
や、曽祖父の世代が愛した、蓄音器のスクラッチ・ノイズ。聴くものである以
前の、踊るための音楽であった頃の、リズムの激しさと甘さ。

 そしていま、ジャズという言葉はあまりにも茫洋となりすぎて、具体的なイ
メージには収束しない。
 無調や電子ノイズといった現代音楽も、西洋とはまったく異なる規範に依る
民族音楽も、ポップスやリズム&ブルースのような隣接するジャンルの音楽も、
すべてを飲みこんで果てしなく広がっている。

 しかし、黒人女性作家として初のノーべル文学賞に輝いたトニ・モリスンの
小説『ジャズ』が意味するジャズは、もっと時代を遡った、1920年代のジャズ
だ。

 スイングしなけりゃ意味がない。
 デューク・エリントンが大きな体を揺すりながら、大編成のバンドを煽り、
ピアノを叩き、当時としては轟音と言える強烈なサウンドで、ニューヨークを
興奮の坩堝に巻きこんだ、あのスイングとビッグ・バンドのジャズ。南部では
まだ黒人たちが奴隷的境遇のままコットンを摘んでいたのに、ここでは同じ黒
人たちが洒落たスーツを着こなす都会人に変貌して、その名もコットン・クラ
ブに夜ごと集り、踊り狂った。

 むろん、黒人たちだけではない。アメリカ全体が好景気に沸き、やがて大恐
慌が来るとも知らず、いつ果てるともない饗宴にうつつを抜かしていた時代だ
った。ボクシングの世界選手権のラジオ(!)放送を聞いていて、興奮の余り
心臓麻痺で死ぬ人まで出た、咆哮の時代だった。それをスコット・フィッツジ
ェラルドがいみじくも「ジャズ・エイジ」と名づけたのは、その狂乱のイメー
ジに、ビッグ・バンドの激しいスイングが余りにもぴったりだったからだろう。

 そんな1926年。50歳の黒人男性が、18歳の黒人少女に恋をし、彼女を独占す
るために射殺、男性の妻が、少女の葬儀に現れ、棺の中の遺体にナイフで切り
つけるという事件が起こる。

 このゴシップめいた犯罪を核とした小説が、なぜ『ジャズ』というタイトル
なのか?
 少女を殺した男がジャズメンなのか? いや、彼は化粧品のセールスマンだ。
少女が歌手なのか? いや、彼女はごく平凡な女子高生だ。男の妻も美容師で
あって、ジャズとは無縁である。
 物語の主題も、不倫と殺人であり、直接音楽について語られることはない。

 もちろん、ジャズ・エイジが舞台であるから、随所に音楽はちりばめられて
いる。
 例えば、あちこちのビルの屋上で、さまざまな人たちが楽器を鳴らし、いつ
しか街全体が音楽に包み込まれる印象的な描写がある。
 あるいは、主人公の黒人夫婦が、どこかの家から聴こえてくる蓄音器の音楽
に合わせてダンスするシーンも忘れがたい。

 しかし、訳者である大社淑子(おおこそ・よしこ)はあとがきの中で、文体
こそがその理由である、と説明している。

 物語はいくつかのパートに分割されていて、登場人物の一人がそのパートの
視点人物、つまり語り手になるのだが、その文体は、他人に向かって順序だて
て話をしているのではなく、自分の心に浮かんだ想いを脈絡なく呟いている感
じなのだ。
 だから、射殺事件にまつわる事実を語ったかと思うと、その人の子ども時代
の思い出話になり、当時出会った人のエピソードになったかと思うと、また射
殺事件に戻ったりする。
 このように即興的に時空を自在に飛び越える語りの手法が、まさにジャズの
アドリブのようだ、というわけだ。
 逆にいうと、著者のトニ・モリスンは、意識的にジャズのアドリブの方法論
で小説を書いてみようと考えた、だから、本書を『ジャズ』と呼んだのだろう
と言うのである。

 まあ、それもあるかもしれない。

 しかし、ぼくはその語りのスタイルに、さほど強い即興性は感じなかった。
一人称小説なら、この程度の脱線や飛躍はよくある気がする。
 それに、「語り」というには、その文体は詩的にすぎると思う。
 ことに、後半に行くにしたがって、判じ物めいた箇所が多くなるようだ。

「女の子にはそれができる。男の舵をとって死から救い出すこともできるし、
まっすぐ死に追いやることもできる。眠りから引き出すこともできる。男は木
の下の地面の上で目を覚ます。だが、その木は二度とけっして見つからない。
男は迷子になったからだ。ひょっとして、その木が見つかっても、同じではな
い。ひょっとすると、その木は内側から割れているかもしれないし、それぞれ
の生き方をしなければならない地を這う生きものから穴をあけられているかも
しれない。こうして這われ、ひだをつけられ、噛まれ、穴を穿たれて、ついに
は、それが他に及ぼす営みの結果、全体が穴だらけになってしまう。あるいは、
木がひとりでに倒れてしまう前に、人々が伐り倒してしまうかもれない。子供
たちがじっと見つめる大きな暖炉のための薪になっているかもしれない。」

 この迷宮的な表現の中から、ストーリーはおぼろげに立ち上がって来る。そ
の味わいは、何かを思い出させた。それは多分、ラテン・アメリカのマジック
・リアリズムの文体だ。ガルシア・マルケスが『百年の孤独』で描いた村の姿
の味わいに、トニ・モリスンの描く、恐らくニューヨークと思われる大都会
<シティ>や、ヴァージニア州の片田舎、ヴェスパー・カウンティの味わいは
よく似ている。

 しかし、だとしても、詩的な文体が、本書を『ジャズ』と名づけた理由では
ないだろう。

 ぼくは、パートごとに、視点人物が入れ換わるところも、ひとつのポイント
ではないかと思う。

 射殺事件と、少女の葬儀での事件だけでなく、登場人物の思い出話も、パー
トが変わる度に、別の視点から語り直される。
 少女を撃った男の目から語られる射殺事件と、撃たれた少女の友人の目から
語られる射殺事件と、男の妻の目から語られる射殺事件と、少女を育てていた
叔母の視点から語られる射殺事件。
 繰り返される度にエピソードは重層的になり、立体的になっていく。

 人物についても、同じことが言える。
 男の目から見た少女と、友人の目から見た少女は異なり、妻にとっての少女
も異なる。妻の目から見た男も、少女の叔母から見た男も、少女の友人から見
た男も異なる。
 そのように、同じ人物が多様な視点にさらされることで、その描写は深まり、
リアルになっていく。

 一方、1920年代のスイング・ジャズから、恐らく1960年代のモダン・ジャズ
まで、多くの曲では、まず全員でテーマ・メロディを演奏し、その後、そのコ
ード進行を使って一人一人が順番にソロを取って行く構成を採用している。そ
して、あらかじめ作曲されたテーマよりも、それを素材として新しいフレーズ
やリズム、和声感の表現を生む自由なアドリブこそが重要なのである。

 ここで大切なのは、「自由な」と言っても、アドリブは無制約ではない、と
いうことだ。
 その楽曲の持つコード進行に則らなければならないし、そのテーマ・メロデ
ィが持つ特性に準じる場合もある。
 つまり、何らかの接点を、元の楽曲と持っていなければならない。楽曲が持
っているポテンシャルを引き出す、と言ってもいい。

 裏返しに言えば、多様なアドリブを重ねることで、ジャズ・メンたちは楽曲
に秘められた性格を浮き彫りにし、より豊かにしているのである。
 これはまさに、他視点の語りを重ねることで、出来事や人物を深堀している
本書の戦略と合致する。
 だからこそ、この小説は、『ジャズ』と名づけられたのではないだろうか。

 とはいえ、多視点という手法自体もまた、さほど斬新というわけでもない。
特にミステリーには、一人の犯罪者の実像がいろいろな人の証言によって浮き
彫りにされるようなものが数多くある。
 それをわざわざ『ジャズ』と名付けたのは、ごくごく単純に考えた方がいい
のかもしれない。
 例えば、これも訳者のあとがきにあるのだが、トニ・モリスンの家族にはミ
ュージシャンが多く、その文体は非常に音楽的であるが、残念ながら翻訳では
表現しきれない、のだそうだ。
 つまり、音楽好きの家に生まれた作家が、『ジャズ』という本を書いた。た
だ単純にそれだけのことだ、と。
 まあ、それも自然には見える。

 ともあれ、こうしたジャズ的(?)手法を通して、少女を殺した男と、その
妻とが、最終的にどうなるのかを見出した時、われわれが得るものは、結局、
「愛」というものの正体なのである。

 このことは、はっきりと明示されている。小説のラストで、「愛」について
語られているからだ。

「ああ、愛を示したいと切望した……(中略)しかし、わたしはそれを声に出
して言うことはできない。」

 また、あのお馴染みの「愛」なのか、と思われるかもしれない。
 しかし、ここで指示されるものは、何か甘ったるい、感傷的なものではない。
 それは傷ついて、歪んでしまった、いびつな心の作用であって、その傷をつ
けたのは、一義的には人種差別的社会なのだが、その本質は「奴隷性」という
べきものであって、それは1920年代アメリカの黒人ではなく、21世紀日本の黄
色人種であるわれわれにも、決して無縁のものではないだろう。

 さて、トニ・モリスンという作家、実はぼくは本書で初めて知った。
 きっかけは、この欄で、「ジャズ」に関する本を取り上げたいと思い、図書
館の資料検索に「ジャズ」と打ち込んで、ダーッと上がって来る長いリストを
漫然とスクロールしている時、そのものずばりの『ジャズ』というタイトルを
見つけ、しかも小説らしいとわかって興味を惹かれたことだった。
 では、なぜ、「ジャズ」に関する本を取り上げたいと思ったのか?

 今年、2017年は、ジャズのレコードが初めて録音されてから、ちょうど100
年と言う記念の年だからである。

 本年もよろしくお願いします。

トニ・モリスン
大社淑子 訳
『ジャズ』
1994年11月20日 初版印刷
1994年11月30日 初版発行
早川書房

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
亡父はシナリオ・ライターでした。元々は映画の仕事から始めて、後にテレビ
ドラマに転身。本人は時代劇が好きでしたが、ぼくにはやはりアニメ作品の印
象が強く、『ルパン三世』や『天才バカボン』、『アタックNo.1』などをよく
覚えています。それに仕事が終わると原作の漫画本が払い下げられ、自由に読
むことができるのもアニメ作品を手がけた時の特典で、これが子供の頃はとっ
ても嬉しかったなぁ。そんな父の遺したシナリオを、この度アーカイブのため
寄贈することになりました。テレビのシナリオは国会図書館へ、映画のシナリ
オはフィルムセンターへ送られ、保管されることになるそうです。100年前の
史上初のジャズ・レコードがいまでは貴重な文化遺産であるように、ずっとず
っと先には、これも貴重な資料になるのでしょうね。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『自然のしくみがわかる地理学入門』水野一晴 ベレ出版

 グランフロント大阪に入っている紀伊国屋書店で見つけた本。タイトルの通
り地理学の入門書でサブタイトルは「『なぜ?』がわかる地理学講義」。私は
地理学って学問があるのは知っていたが、どんな学問なのか全く知らない。で
「なぜ新宿に高層ビルが集まっているのか」という帯の文句に魅かれて手に取
った。

 いやはや、地理学って面白いんですね。ベレ出版という出版社は初めて知っ
たのですが、社会人のための「やり直しの教科書」をコンセプトにした本を出
している。同社ホームページを引用すると

「多くの日本人は、小中高と12年間も学問を学びながら、単に大学受験や入社
試験の手段に終わっています。とても惜しい話です。いわゆる文化人やエリー
トのためではなく、ごく普通の人々のための「やりなおしの教科書」があれば、
大変喜ばれると思います」

という考えで文系理系問わず多くの本が出されている。
https://www.beret.co.jp

 要は大人になっても学問の面白さを忘れないでねっ!というわけ。たまたま
今回私のセンサーに引っかかったのが地理学の本だっただけの話。

 で、内容はと言うと、

・日本の土は黒いのに、テレビで見るアフリカの土はなぜ赤いのだろう?
・なぜ大阪駅は階段やスロープが多いのか?
・なぜ日本で最も雪が降るのが新潟で、北海道ではないのだろうか?
・日本アルプスには氷河が削ったすり鉢状の地形カールがあるのに、なぜ富士
 山にはないのか?

 といった風に、そう言われればなぜでしょうね?みたいな疑問に答える形。
全部読めば自然のしくみに関する地理学の全体像を把握できるようにしてある。

 専門家にとっては自明かも知れないが、地理学を専門にしていた人はそうそ
ういないと思うので、次から次へと「へぇ〜」が続く。

 たとえば、大阪駅に階段やスロープが多いのは地盤沈下が激しくて、不均等
に沈下していくものだから高さ調整が必要だからだとか、

 北国では雪が降るが、そうなる原因は北西から吹いてくる季節風が日本の山
脈にぶつかって雪を降らすくらいは学校で習ったことがあるけれど、北西風は
本来湿気を含まない。しかし日本海を渡っているうちに対馬海流から出てくる
湯気を吸って湿気を含む。季節風が最も長い距離の海を渡るのが新潟だから、
新潟の降雪量が一番多くなるとか

 アフリカの土が赤いのは、気温が高く岩石鉱物が分解して鉄が分離し赤い酸
化鉄になるのに加えて、暑い分微生物の活動が活発で、落ち葉など日本なら腐
植となって残るところを全て分解してしまうから。腐植が形成されないから栄
養分は残らないので熱帯の赤土は農業生産に適さないとか、ページをめくるご
とに勉強になる。

 所々に挟まれる著者の体験談も面白い。デート中に話題に困って東京を地理
学的に語った時の笑える顛末とか、カールを滑って危うく死にかけた話とか、
雲仙普賢岳の火砕流に巻き込まれた火山学者の悲劇のエピソードとか、話題に
事欠かない。

 世界50カ国を訪れただけでなく、多くの同業者・関連業者の本も読んでいる
のだろう。知っていることは全て書こうとしているのは読んでいたらわかる。
最近の本には珍しく、最初のところにカラー写真が16ページ、100点くらい
写真が載っているのもポイントが高い。

 そんな情報というか知識が盛りだくさんな本なわけだが、それだけに編集に
は苦労したようだ。内容が地理になるので図版の使用が多くなり、きちんと必
要箇所に持ってこれないことがままある。中には参照する写真が何十ページと
離れたところにあったりする。
 それと、紹介される日本の地域についてそこそこ土地勘がないと一見して理
解しづらいところもある。たとえば冒頭の「なぜ新宿に高層ビルが集まってい
るのか」あたりは、東京在住者とか、東京に土地勘のある人なら「うむうむ」
言いながらすらすら読めるだろう。

 しかし渋谷や池袋など23区の地名の位置関係や雰囲気があやふやな人にとっ
ては、読み進めるのに土地勘が働かないから苦労する。私の場合、駅の位置に
ついて述べられた箇所で、駅が地上にあるのか地下にあるのかといった知識が
ほとんどなかったため、wikipediaに載っている駅の写真を検索しまくった。

 そんな感じなので、もともと地理に疎い人は手元に地図帳も用意しておいた
方がいいかも知れない。

 著者はほかにも『人間の営みがわかる地理学入門』という本も出している。
おそらくこの2冊を読めば、一通りの地理学の姿が概観できるのだろう。

 とはいえ、地理学なる学問にさして関心もなかった私のような人が読んで面
白かったのは確かだし、知的好奇心を満足させられた上に地理学の基本を学べ
たのだ。大人のための「やり直しの教科書」の役目は十分に果たされている。

 地理学なんて難しそうだし関心無いしという方も、一度手に取って読んでみ
るといい。これは面白いと、自分が知らなかった地理学の目が開かれるかも知
れないですよホント・・・。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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人事の本を読んで謙虚な気持ちになりました
『採ってはいけない人の見きわめ方』松下直子著(同文館出版)

 新聞の広告で見て「おもしろそう」とカンが働いて購入したこの本。カンが
見事的中! といってもおばちゃまはフリーランス。人事なんてまったく関係
ない場所にいるのですが、お出入りの業者を長く営んでおりますと、社員の方
から「ほんとうちの役員って女子を顔で採るんだから〜」とか「新人を学歴で
採るからたいへんだよ、使えないヤツばかりで」なんというグチを聞かされる
わけですよ。そのしくみを知りたくて読んでみました。

 著者はメーカーで採用、育成から労務管理まですべての人事を経験して独立
した人事コンサルタント。「採ってはいけない人の見極め方」という講座を主
催して「40人くればいいかあ」と思っていたらすぐさま 100席が埋まり、追加
追加で半年に14回の講座を開いたそう。この著者のブレイク話もおもしろいん
です。たしかに冒頭の「人間は人間をわかろうとすることしか、受け入れるこ
としかできないと感じています」って書いてあって、この方のただ者ではない
感じと、人事の奥深さを知ることができます。

 例も豊富で、思わず、適性テストを鉛筆持ってやってしまったおばちゃま。
(フリーランスには関係ないってば)。

 例えば、見るからヤンキーな子がいて、一方で真面目で人当たりのいい学生
がいる。当然、就活で有利なのは後者ですが、たとえば次のような言葉に続く
フレーズを出してもらうと、前者が内面がまっすぐでいざというときに頼りに
なる人物であるとわかるのに対して、後者は内面に大きな闇を抱えていて時に
は人を責める性格であることがわかるなどなど。震撼しましたよ私。
(その言葉とは (1)私はよく人から (2)争い (3)私がきらいなのは (4)壁にぶ
つかると私は (5)もう一度やり直せるなら・・・続きは本を買ってね)

 また昨今の傾向として人事担当者からの質問で多いのが、アスペルガー症候
群など発達障害の人を見ぬく方法であるというのも現代的だと感じました。

 これに対してもむやみにレッテルを貼らず、その人を見て対処するのが賢明
というお答えで、この答え方にも著者の良心を感じて好感がもてました。

 いやリクルートとか就活など受ける立場でしか考えてこなかったけれど、企
業の立場から見ると別の味方があってたいへんおもしろかったです。

 わかったことは人事は深いということと、人は成長できるということ。「ダ
イヤモンドはダイヤモンドの粉でしか磨かれない」との言葉も感慨深い。この
本を読んで、世の中、不安材料はたくさんあるけれど、それはそれとして自分
を低くして、日々努力したいと思ったおばちゃまでした。人事本は人を謙虚に
しますね。今年もがんばります!

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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さい。

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
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・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
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・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
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 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 新年早々、めちゃめちゃ遅くなりました。危なく月内に発行できないところ
でした。

 実は身内に不幸があり、いろいろなことに追われておりました。それだけで
も大変なのに、これから相続関係の手続きもあります。

 しかし、相続税と贈与税と所得税って、ややこしいですねって、そうだ、自
分の確定申告もしなければ…。

 私は会社員ではないですが、会社員なら忌引き休暇ってのは一か月くらい必
要だろうなぁ、と思いました。

 なかなか当事者になってみないとわからないこと、ありますね。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.621

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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→野球四コマ、ボブ、そしてくま夫婦

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→シェイクスピア講義(大学の授業風に)

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→『ノッポさんがしゃべった日』高見映 扶桑社文庫

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→初笑い

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<85>野球四コマ、ボブ、そしてくま夫婦

 皆様、あけましておめでとうございます。
 本年もまた、相も変らぬ駄文ではございますが、どうぞよろしく愛想尽かさ
ず、お付き合いのほどをお願い申し上げます。

 しかし、「正月らしさ」というのが、年々歳々薄くなって……というのは、
昨年も一昨年も書いたような覚えがあるのだが、元旦に、近所のスーパーへ普
段通りに買い物行って、また改めて思ってしまったことだった。

 学生時代、バイトの都合でだっけか年末年始を東京で過ごすことになった元
旦の朝。
 飯を食おうと思って外に出たのだが、開いてる店がどこにもなくて、当時は
もちろんコンビニなんてないし、「げげ」と焦りながら電車で新宿まで行くと、
ようやく開いてる喫茶店を見つけて、正月料金でバカ高いスパゲティ(確か、
1500円くらいだった)で一息ついた1977年の記憶が、もはや懐かしい。

 あ、「コンビニがなかった」というのは、正しくないかもしれない。
 あるにはあったのだが、今のようにそこらに掃いて捨てるほどにはなくて、
ぽつぽつとあった店も、「24時間営業」はまだしてなかったと思う。

 友人のTくんの江古田の下宿近くにはその前年、「セブンイレブン」が開店
して、Tくんはこれを「ちっちゃいスーパー」と呼び、「朝7時から晩の11時
まで開いとって、便利やねん」というのが、ちょっと羨ましかった。
 「コンビニエンスストア」という呼称もまた、まだ一般的ではなかった…と
言うよりも、その呼称自体がまだなかったんだっけか?

 以前、上のような話を学生にしたついでに、

 当時のデパートは、全国どこでも閉店時間が夕方の6時で、毎週、たいてい
は水曜か木曜に定休日が設定されていた。

 と話すと、一様に「ウソでしょ」「信じられん」という声が飛んだ。

 今の学生たちには、日本中どこでも、1日24時間稼働しているコンビニがあ
る風景、というのは、生まれたときから既にある「当たり前」の光景であり、
デパートが「年中無休」なのもまた、「当たり前」なのですね。

 もう1年も前ではあるが、京都のコンビニで見た光景が忘れられない。
 それは、2016年も明けて間もない1月の四条烏丸某コンビニでのこと。

 入り口を入ってすぐの新聞スタンドには、各スポーツ紙がそれぞれ見出しを
出した形で陳列されていたのだが、スポニチ、ニッカン、サンスポ、報知の4
紙は一様に一面では、前夜のNHKニュースでも報じられた「スマップ解散(の
噂)」をでかでかと報じていた。

 が、ひとり「デイリー」のみは、「我関せず」とばかり、「正捕手の条件」
「矢野コーチ激白」と、当時就任間もない矢野コーチが語る、春のキャンプで
の課題が一面で、世間でナニが起ころうが、一番重要なことは「タイガース」
という、この新聞の面目躍如。

 周知の通り、春先こそ若手の積極起用で瞬間風速的に「お!」と思わせたタ
イガースだが、夏場以降はずるずると後退。振り返ってみれば、2016年のプロ
野球の話題は、もっぱら広島カープと大谷に終始した感があるとはいえ、その
最中にも決してブレることなくタイガースを追い続けたデイリーの姿勢をこそ、
見倣いたいものである。

 タイガースを語りだすと、またもや脱線しそうなのでこれくらいにするが、
イチローはじめ日本人選手がメジャーリーグでプレーする機会も増え、今や新
聞やテレビのスポーツニュースで彼らの活躍が伝えられるのもまた、当たり前
となった昨今、スポーツニュースを眺めながら、ふと思い出した漫画があった。

 1990年代の半ばに、「ビッグコミックスピリッツ」に連載されていた、パン
チョ近藤・作『ボブとゆかいな仲間たち』である。
 正確に言うと、1994年8月から、翌95年10月まで…というのが、今回取り寄
せた単行本の奥付にあった記載。

 『ボブとゆかいな仲間たち』は、ひと言で言ってしまうと、「メジャーリー
グ版『がんばれ!タブチくん』」だ。

 当時の近鉄バファローズを自由契約となった野茂英雄が、メジャーのロサン
ゼルスドジャースに入団し、その活躍が日本でも華々しく報じられるようにな
ったのが、1995年からその翌年にかけて。

 それまで、アメリカのメジャーリーグというのは、日本人にとって馴染みが
ないどころか、どこか遠いところでやってる「なんだか日本よりもかなり凄い
らしいプロ野球リーグ」という、未知のアンドロメダ星雲のようなSF的存在
だったのを、ぐっと身近に引き寄せたのが野茂英雄だったのだけど、野茂がメ
ジャーリーガーとして頭角を現す前に連載が始まったこの漫画は、いかんせん
登場が早すぎたか、一年とちょっとで連載が終了してしまった。

 実在のプロ野球団や選手をパロディキャラクターとする「野球四コマ」は、
前述のいしいひさいち『がんばれ!タブチくん』のヒットを皮切りに、70年代
後半から80年代にかけて、それこそ雨後の竹の子状態で次から次へと出現し、
その勢いは90年代に入っては増々加速、ついには専門誌まで出現するに至る。

 その中にあって、アメリカのメジャーリーグの架空の球団「ロサンゼルス・
アースクエイクス」を舞台としたこの漫画は、異色中の異色でもあった。

 アースクエイクスは、一応メジャーチームではあるのだが、かなりの弱小チ
ーム。
 その弱小チームの「四番・DH」に座る主人公・ボブ・ホフマンは、「打て
ない、守れない、走れない」の三拍子揃った「迷」選手である。
 そのボブを中心としたアースクエイクスの面々が、メジャーとはとても思え
ないへっぽこ野球を、毎回4ページにわたって繰り広げるのが、この漫画だっ
た。

 連載当時は大した人気もなく、だから1年とちょっとで連載終了と相成った
のだろうが、わしは、この4ページが醸し出す、どうしようもなくぬるくてゆ
るい雰囲気が、なんだかとても好感持てて好きだった。

 当時は書店をやっていたので、毎週月曜に入荷する「スピリッツ」は、梱包
解いたらまずこの漫画を読んでから、棚出ししてたもんです。

 一番大笑いしたので、鮮烈に覚えていたのは、こんなエピソード。

 走者を貯めてしまったところに、リーグ屈指のスラッガーを迎えて、脂汗を
流し怖気づくピッチャー。審判にタイムをかけ、キャッチャーがマウンドに駆
け寄る。

 「ヘイ! 心配すんな。こいつの弱点は俺がしっかり調査済みだ」
 「お、さすが女房役。助かったぜ」
 「ああ、まかせとけ。こいつはな、 100マイルの速球には、からきし弱いん
だ、そいつで行こう!」
 「……」
 「ヘイ! わかったのかい!? 100マイルのストレートだぜ」
 「あ……ああ、わかったよ。わかったけど、その 100マイルを、いったい誰
が投げるんだい?」

 と、覚えていたのだが、今回、懐かしさに駆られて取り寄せた単行本で再読
すると、若干シチュエーションが違っていた。

 さらに、『ボブ』は、2009年から「月刊IKKI」で『ボブとゆかいな仲間たち
2009』として連載が再開され、ここでは、ボブとその仲間たちは、アースクエ
イクスから「ブルドッグシティ・ブルワーズ」に「一対四」の大型トレードで
移籍して、ボブは、へっぽこぶりにさらに磨きをかけて、「併殺打製造機」の
異名も頂戴しているらしい。

 という情報もまた、単行本の巻末の広告で知ったのだけど、わしが取り寄せ
たこの単行本も、連載再開に合わせて復刊されたものだったようだ。

 改めて読み返してみると、リリーフピッチャーが日本プロ野球みたいに「リ
リーフカー」に乗って登場したり、「全米高校野球選手権」があったりと、と
きおりディテールに妙なところも混じるのだが、それもまた含めての、のった
り、まったりが、この漫画の「味」。
 ぬるくてゆるい空気を満喫いたしました。

 「IKKI」は既に休刊となってしまったが、ボブたちのブルワーズでの活躍は、
『ボブとゆかいな仲間たち めざせ!ワールドシリーズ!!』として単行本化さ
れてるそうで、これも取り寄せようと思っている。

 この漫画を思い出し、も一度読み直そうと思ってから調べてわかったのだけ
ど、作者のパンチョ近藤氏は、現在は北海道在住。
 どうやら、「スピリッツ」での連載が終わったあたりから、漫画ではなく別
の仕事に就いて、結婚もされたようだ。
 ところが、結婚生活を続ける中で、ご本人がアスペルガー症候群であったこ
とが判明。

 さらに、奥さんもまた、パンチョ氏がアスペルガーであったがゆえに、「カ
サンドラ症候群」というアスペルガーの配偶者に生じる身体的精神的不調を患
ってしまったのだった。

 以上のことは、その奥さんが、「熊田くまこ」の名で開設したブログで知っ
た。

「クマ夫婦のなんでだろ?」
 http://ameblo.jp/kumada-kumako7/

 ブログには、「くまこ」さんの筆になる四コマ漫画で、夫婦が知り合ってか
ら結婚するまでの経緯や、その後の日常生活が詳しく綴られており、こちらも
また、2007年に幻冬舎から書籍化されている。

 今回、『ボブ』の復刻版とともに、この奥さんの漫画も取り寄せてみた。

 単行本は、熊田くまこではなく「中央ヤンボル」との名義で、タイトルは
『くま夫婦』。

 単行本に収録された漫画は、アスペルガーやカサンドラのエピソードではな
く、夫婦そろってアル中にはまり込んでいく「酒とバラの日々」的日常がメイ
ン……なのだけど、「だ、大丈夫か? おい……」と、ギャグ漫画のはずなの
に、どうにも笑えない、どっちかつーとヒイてしまうようなエピソードが満載
だった。

 単行本の結末では、どうにか夫婦でアル中状態を脱し、仲良く前向きになっ
ているようだが、実際は、好不調の波がその後も続いたろうと思う。
 実際、上記のブログの更新も、昨年の夏から途絶えているようだし。

 決して無理はしてほしくはないが、できるだけ発信し続けて欲しいと思う。
 そして、パンチョ氏の漫画もまた、どこかで続けてほしいと願ってやまない。
 あのぬるさ、ゆるさ、というのは、昨今のウェブマガジンには「ぴったり」
はまると思うのだけど、「ボブその後」、どこかでやってくれないかな。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第85回 シェイクスピア講義(大学の授業風に)

 上智大学の先生でイエズス会の神父でもあるピーター・ミルワード先生の授
業がそのまま本になったような書物が出版された。

 第一部がピーター・ミルワード先生の講義録で、第二部が教え子であり訳者
でもある橋本修一先生のシェイクスピア入門編とも云える教養講座になってい
る本。

『ミルワード先生のシェイクスピア講義』
 (ピーター・ミルワード 著)(橋本修一 訳)
 (フィギュール彩)(彩流社)(2016年)

 ミルワード先生の専門はまさにシェイクスピア。そして本書ではシェイクス
ピアの悲劇に登場するヒロインたちについて考察している。

 第一講 ジュリエット(ロミオとジュリエット)
 第二講 オフィーリア(ハムレット)
 第三講 デズデモーナ(オセロ)
 第四講 マクベス夫人(マクベス)
 第五講 コーデリア(リア王)

 ミルワード先生は、シェイクスピアの悲劇のヒロインたちを“超自然的な存
在”という。

 すなわち、悲劇のヒロインたちは“すべてを超越した特別な存在”として描
かれている、というのだが、実は執筆子には、その意味がよくわからない。こ
の文章を読んだとき、なんとなく聖書というか、キリスト教的な匂いを嗅ぎ取
った。ミルワード先生はイエズス会の神父さんである。

 読み進めていくうちに、シェイクスピアの戯曲には聖書からの引用や聖書の
本歌取りがとても多い、ということがわかるのである。シェイクスピアを聖書
の文言と対比した本に初めて出会った。王族にも貴族にも、一般民衆にも聖書
のことばが普及していた、ということにあらためて驚く。日本人が超えられな
い大きくて分厚い壁を感じる。

 シェイクスピアの悲劇に登場するヒロインは、終始女性のままだ、という指
摘がとても新鮮だった。つまり、シェイクスピアの喜劇に登場するヒロインた
ちは男装する。「十二夜」のヴァイオラ。「ヴェニスの商人」のポーシャ。
「お気に召すまま」のロザリンド。

 ところが、ここに紹介される5つの悲劇のヒロインは、男装することはなく、
登場してから、死んでしまうまで、ずっと女性のままなのだ。

 それは、なぜか? シェイクスピアの時代では、声変わり前の少年が女性を
演じていた、という。つまり、ボーイッシュな女性こそ、最も登場させやすい
キャラクターだった訳で、だからいわゆる喜劇というジャンルの作品群には、
男装した女性がたくさん見られる、というからくりである。

 しかし、悲劇ではそうはいかない。ヒロインたちは主人公を支えながら、愛
に生き、そして行動し、死んでいく。そこには騙りは必要ない。男装する理由
はないのだ。

 ヒロインをしっかりと描くことで、主人公が浮かび上がり、そして人間の喜
怒哀楽を表現し、人の心に染み込む芝居になるのだ。

 シェイクスピアが、没後400年経っても依然として世界中で上演されてい
るのは、それが理由だ。人類の普遍的なテーマを扱っているからに他ならない。

 あらためてシェイクスピアの偉大さがよくわかる良書である。

多呂さ(一年で一番寒い季節です。ご自愛ください)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える/show-z
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意外な人から採用のスタンスを学ぶ
『ノッポさんがしゃべった日』高見映 扶桑社文庫

 新たな年を迎えました。僕ですが、勤務している会社の年末年始休暇が短か
ったこともあり、今年はあまりゆっくりする間もなく、仕事始めを迎えていま
す。

 新年を迎えた直後、人事には本格的に動き出す大きな仕事があります。それ
は、新卒の採用活動です。

 新卒採用はここ数年、学生の“売り手市場”が続いておりまして、特に僕が
身を置いている情報通信業(IT業界)は、あまり学生から人気のある業界と
はいえないためか、毎年、採用数を確保すべく各社が躍起になります。

 かくいう僕も、昨年の採用活動を振り返ってみますと、いろいろ事前準備し
て臨んだはずのセミナーにまったく人が集まらなかったり、合格通知を出した
後に他社へ逃げてしまう学生が数名いたりと、想定外のことがいろいろありま
したよ。まぁ、どんな状況になろうとも、自社に合う採用予定人数を確保する
のがお仕事なので、あの手この手で何とかしてしまうのですが。

 そんな毎年バタバタの新卒採用ですので、今年度の反省を踏まえ、次年度に
どのような戦略を組み立てていくかは重要なポイントです。学生集客のために
利用するウェブサイトはどこの会社のものを使おうかとか、どんな学生が集ま
る採用イベントに参画しようかとか、採用予算とにらめっこしながら、検討し
ていくのです。

 しかしどんな戦略を立て、どんなツールを利用するか以前に、採用の最終的
な成否を分ける要素があります。それは、学生に対する人事の対応そのものと、
僕は考えています。

 もし利用したツールがうまく当たって、自社の応募者数が増加したとしても、
採用を担当する社員が、学生に少しでも悪い印象を与えてしまったらその時点
でアウト。学生はその会社に見切りをつけ、離れていきます。特に最近は、採
用に関する口コミサイトが多数存在しているので、こちらがヘタな対応をとっ
てしまうと、ネット上に情報が流れることだってあるのです。

 悪印象を与えないためには、丁寧な対応、清潔感、親しみやすさ・・・など
など、人事として常に気をつけておくべきことはいくつもあるのですが、本当
に重要なのは学生の心をつかむこと。たとえば、学生に「またこの会社を訪問
したい」とか、「この採用担当とまた会いたい」と思わせることが、重要では
ないかと思うのです。

 それを実現するためには、人事が1人1人の学生のことを理解しようと努め、
心を通わせる関係性が築けるよう、努力を続けることが必要です。会話の際に
は決して上から目線にならず、相手に目線を合わせる。そのうえで、相手が話
すときはしっかりと傾聴し、有益な情報を丁寧に伝えていく・・・。僕はコー
チングをかじっているため、世の中の他の企業人事に比べれば、コミュニケー
ション面においてはアドバンテージがあるよなと思っていたのですよ。

 ところが、ところがです。そんな私のスタンスに警鐘を鳴らす考え方に出く
わしました。その主は、NHK教育テレビ(今のEテレ)で24年間にわたり
放映された人気番組「できるかな」で有名なノッポさんなのでした。

 ノッポさんから言わせると、「目線を下げる」という表現自体がおかしい。
大人のほうが上、という前提があって成り立つ以上、その考えは誤りであると
のこと。むむ、確かに。

 実はノッポさん、子供のことを「小さい人」と呼んで決して子供扱いせず、
まるで大人と接するように付き合い、会話するのを基本スタンスとされていま
す。

 なんでもノッポさんが5歳のとき、大人が自分を見て、子供だからわからな
いだろうと心の中で思っているのを、すべて見抜いていたとのことなんですね。
その原体験から、「小さい人」はとてつもなく賢く、大人になった今でも、接
するときは真剣にならなければならないと仰っています。

 この本はそんなノッポさんが初めて書いた自伝エッセイです。「できるかな」
最終回のエンディングで、初めて声を出してしゃべった話から始まり、番組誕
生の経緯、スタッフたちとのエピソード、実は手が不器用という裏話、元芸人
だったという父親との記憶、そして番組終了後、本名の「高見映」になってか
らの活動などが、ノッポさん自身の言葉で、語られていきます。

 若者にも、共演者にも、番組スタッフにも、時には偉いプロデューサーのよ
うな人に対しても、決して自分のスタンスを崩さず、常にご自身の感情に素直
に、本音で向かいあうノッポさん。言ってしまえばノッポさん自身が、心は
「小さな人」のまま、体だけ大きくなっただけなのかもしれません。

 あらためて、これまで学生対応はうまいほうだと自負していたのは、完全に
驕りだったなと気付かされたのです。

 売り手市場とはいえ、学生の立場に立ってみれば、海のものとも山のものと
も分からない、はじめての就職活動。そこで出会う大人たちが、何を考えてい
るのかを、実は彼らは見透かしていて、だけど早く内定を得たいから、媚びを
売って印象をよくしようとしていたりとか。

 だけどそんな彼らの本心を僕なんかは見抜くことができず、あの学生はきっ
と、うちの会社への志望度合いは高いはず、なんて思っていたら、他社に決ま
って辞退されちゃったりとか。生半可な心持ちで学生と会話をしているからで
すね、きっと。

 とにもかくにも今年の採用活動は、あとしばらくの準備期間を経て、3月に
は広報が解禁されます。今年はどんな学生に出会えるか、そして僕自身がどこ
まで彼らと本音でぶつかれるか。今から楽しみです。

show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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68 初笑い

『いいにおいのおならをうるおとこ』
 ジル・ビズエルヌ 文 ブルーノ・エッツ 絵 ふしみ みさを 訳
                            ロクリン社

 新しい年がはじまりました。
 今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 2017年最初にご紹介するのは笑顔になる絵本です。

 はなさかじいさんを彷彿させる民話風のはなしに、
 のびやかな線画がいい味わいです。

 両親が亡くなったので兄と弟で財産をわけることになりました。
 兄は宝石やら使えるウマやらいいものばかりをとり、
 弟には老いぼれ犬だけ。
 それでも弟は「あいよ」と一言残して犬をもらって帰りました。

 ところがこの犬が案外よく働くのです。
 あっという間に畑を耕し、それを見た兄は犬をとりあげたあげく返しません。

 犬の次に手に入れたもので弟はまたうるおうのですが
 同じ事を兄がしても、すべてがぐちゃぐちゃになるばかり。

 とうとう最後には、あれまあ!というオチで笑ってしまいます。

 お正月に子どもたちにも読んだら、
「タイトルで笑いをとるなと思ったけど、やっぱり笑っちゃうよ」と大受けし
ていました。

 欲張りな人と無欲な人の対立は民話ではよく語られる構図。
 人間社会の中にある欲を物語の中でくっきり浮かび上がらせます。

 この作品はジル・ビズエルヌの創作ですから民話そのものではありませんが、
ヒントを得ていることは間違いないでしょう。

 さて、この絵本をより楽しむのには作者紹介も熟読すべし。

 ふしみみさをさん翻訳絵本は、どれも作者、画家、訳者紹介によみごたえが
あるのです。絵本を楽しんだあとは、大人の楽しみで、どんな人が書いたのか、
描いたのか、訳したのかを知ってから読み返すのも楽しいです。

 文章を書いたジル・ビズエルヌは、「旅とお話しを愛する生粋のストーリー
テラー。子供や大人に向けて、舞台の上でストーリーテリングをすることもあ
る」と紹介。

 画家のブルーノ・エッツは「18歳の時、イタリアで暮らそうと決心し、自転
車にのって出かけたが、南フランスが気に入り、足をとめた。以来そこで暮ら
している」
 ね、なんだか興味がわく画家さんではないですか。

 訳者のふしみさんは「絵本を好きになったきっかけは、子どもの頃、父親が
自分や近所の子どもを主人公にして漫画付きのお話しをしてくれたこと」
 ふしみさんのお父さんにまで思いを馳せます。

 紹介のおかげでこの作家、画家、訳者の絵本をまた読みたくなります。

 ところで、この絵本は第9回日本タイトルだけ大賞(*1)作品にノミネート
されていたのをご存知でしょうか。

『いいにおいのおならをうるおとこ』は夢眠ねむ賞(*2)を受賞!

 タイトル秀逸ですものね。

 いろんな角度から楽しめる絵本。
 子どもはもちろん、大人にプレゼントしても喜んでもらえる一冊です。


(※1)日本で出版されている書籍の、内容の優劣を問わず、タイトルのみの
コピー、美しさ、面白さが際立つ書籍を表彰し、出版広告だけでなく、タイト
ルそのものの重要性を発信していくために創設するものです。
(公式サイトより)https://www.sinkan.jp/pages/title_only_9th/index.html

(※2)読書好きとして知られ、書籍メディアで本にまつわる連載を持っている
ほか、多摩美術大学卒業の経歴から美術家としての活動も広げているアイドル
グループ・でんぱ組.incのメンバー夢眠ねむさんの個人賞)
夢眠ねむさんの紹介はこちらのサイトから引用しています。
https://www.sinkan.jp/news/7424?page=1 


(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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  界は変わる。』(SCICUS)
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・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
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 新年早々、発行遅れました。でも、原稿4本が揃って充実感があります。

 本年もよろしくお願い致します。(あ)

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#78『蝉丸』

 

 前回書いたように、オカルト好きで音楽好きなぼくは、「音楽神秘主義」な
んて言葉を見かけたら、もうほってはおけない。

 どこでそんな言葉を見かけたかと言うと、今回紹介する『蝉丸 陰陽師の音』
の目次である。
 東雅夫の解説の副題に、この言葉があった。もっとも実際に読んでみると、
解説自体はごく短いもので、少々当てが外れた。ノヴァーリスの文章を引いた
りもしているが、ぼくとしてはまず連想したのは、むしろジョン・ケージであ
る。

 

 だが、ちょっと先走りすぎた。まず本書の内容について、紹介しておこう。

 

 平安時代のオカルト思想、陰陽道と、その象徴たる安倍晴明。このマニアッ
クな存在を一気にメジャーにしたのが、夢枕獏の小説『陰陽師』シリーズであ
る。

 

 もっともぼくは、岡野玲子の漫画版と、野村萬斎主演の映画版しか知らない。
 しかし原作の小説はいまも続いており、長短合わせて100話越え。今年2016
年に、なんと30周年を迎えた大河シリーズで、その記念として制作されたのが
本書である。

 

 ちなみに、「書かれた」ではなく「制作された」としたのは、本書がCDブ
ックだからだ。副題にあるように、テーマは「陰陽師の音」なので、この形態
は必然的なものと言えよう。

 

 では、陰陽道と音には、どんな関係があるのか?

 

 実は、陰陽道の故郷である中国には、礼楽思想というものがある。ここで言
う「楽」とはすなわち「音楽」であり、音楽は世の中を平和に治めるために非
常に重要である、と説かれている。

 

 その根底には、森羅万象が陰と陽の気によって成立しているとする陰陽二元
論があり、そのバランスを整えるものこそ音楽だと考えられたのである。

 

 そのためか、『陰陽師』には、主人公、安倍晴明の親友で、一種のワトソン
役を務める源博雅という人物が登場するのだが、この人、実は笛の名手として
名高い。

 

 映画版だと伊藤英明が演じており、どうも海猿イメージが強くてピンと来な
いのだが、それはもう、生まれた時には天上から妙なる音楽が鳴り響いたとか、
少年時代には彼の吹く笛を慕って動物たちがぞろぞろ後をついて来たとか、長
じては鬼と夜通し笛の合奏を楽しんだとか、幾多の伝説に彩られたミュージシ
ャンなのだ。

 

 かくも音楽と縁の深い『陰陽師』。
 そこで30周年記念作品として、その世界観にインスパイアされたオリジナル
の音楽を制作し、書き下ろしの新作短編と合わせてCDブックをつくろう、と
いうのは極めて自然な流れだろう。

 

 とはいえ、夢枕獏による新作短編、『蝉丸』に、安倍晴明は出て来ない。
 主人公は、タイトルにあるように、蝉丸という盲目の琵琶法師である。唐の
国から秘曲を伝えた、というこれまた実在の琵琶の名手で、百人一首にも作が
入っている歌人でもあった。

 

 さて、月の冴えたある夜、虫の声や風の音に誘われて庭に下りた、蝉丸。
 初めは、こんな風に自然が美しい音を奏でるのなら、自分が琵琶を弾こうが
弾くまいが、どちらでもよい、と感じる。
 しかし、どちらでもよいのなら、弾いてもまたよいことに気が付き、興に乗
って、自らも琵琶を弾き始める。
 そして、「こんな夜には、音楽をわかる人物と語り明かしたいものだ」と呟
くと、その述懐に召喚されるように、一人の若者が庭の一隅の闇から姿を現す。
 これが、源博雅なのである。
 彼は名手の名も高い蝉丸が、請われて演奏するのではなく、心の内から湧き
上がる感興のままに、ごく自然に演奏を始めるのを聴きたいと、何日も庭の木
陰に潜み、その時が来るのを待っていたのだった。

 二人は音楽の達人同士、ごく自然に合奏を始める。

 

 ストーリーはただ、それだけだ。

 

 この物語の眼目は、随所にちりばめられた、自然の音と楽器の音を表す、巧
みなオノマトペである。

 かつて、カルト的な人気のあった雑誌『びっくりハウス』が、エンピツ大賞
という一般公募のコンペティションを催し、夢枕獏の『ネコ弾きのオルオラネ』
という幻想短編が優勝したことがあった。
 ぼくはその号を読んでいるのだが、ネコが楽器のように演奏されるシーンで、
オノマトペがタイポグラフィカルに表現されていたのを思い出した。
 いわば、キャリアの出発点にあった手法を、『陰陽師』30周年に当たって、
夢枕獏は意識的に再現したのかもしれない。

 

 しかし、音楽本書評の立場から一層興味深いのは、蝉丸が琵琶を弾き始める
前、虫の音や風の音に惹かれた彼が、自然の音楽の素晴らしさに深く感動する
点にある。
 その発想が、アメリカの作曲家、ジョン・ケージに極めて近いと思うからだ。
 
 ケージの最も有名な作品は『4分33秒』というピアノ曲だろう。これは、ピ
アニストがピアノの前に座って、きっかり4分33秒の間、「何もしないでただ
座っている」、という作品である。
 当然だが、初演の時は観客が怒って大騒ぎになったらしいが、ケージの意図
は、ピアノを弾かなくても、会場の中にさまざまな音がある、空調の微かな唸
り、隣の人の衣擦れ、身じろぎする人の椅子の軋み、咳払い、息遣い……そう
した音を聴こう、というものだった。

 このように音楽の概念を途轍もなく拡大したケージは、自然の音についても
同様に鑑賞の対象とした。

 

 特に森は、彼にとって、自然が音楽を奏でるコンサート・ホールだった。と
言うのも、彼は音楽と同じくらいキノコに情熱を傾け、キノコ料理にも夢中だ
ったし、キノコの生態にも興味深々だった。それでよく、森の中をキノコを探
してさまよっていたからだ。

 

 しかも、蝉丸は自然の音に耳を傾けるうちに、自分自身の中にも、あるビー
トが刻まれているのを感じるのだが、それは心音……自分の心臓の鼓動の音だ
った。

 そしてケージもまた、ある種の研究所には無響室という、完全に無音の部屋
があると知って、真の沈黙を体験するべく入ったことがある。しかし、そこで
彼が出会ったのは沈黙ではなかった。外界に一切の音がないのに、なぜか一定
のリズムを刻む音が聞こえたのだ。
 不思議に思ったケージは、やがてそれが自分の心臓の音だと悟った。これに
より、この世に全き沈黙は存在しない、と彼は確信したのである。

 

 夢枕獏が、ケージのエピソードを知っていたかは定かではない。仮に知らな
かったとしても、学生時代のケージが鈴木大拙の講義に触れ、日本の禅の思想
に深く共鳴していたことを思えば、このシンクロニシティには納得がいく。

 

 一方、蝉丸とケージには、ひとつ決定的な違いもある。

 それはケージが、自然の音も、人間が出す衣擦れも、機械が発する空調音も、
すべて音という、耳に聴こえる物理的な「現象」として捉えているのに対し、
蝉丸は自然の音と楽器の音の奥に潜む、霊的な存在を感じている点だ。
 いや、むしろ蝉丸にとって音は、単なる空気の振動ではなく、木や大地や風
や、楽器のような「もの」の背後に潜む霊的な気配、つまりは、「もののけ」
を呼び覚ますヴァイブレーションなのである。

 

 夢枕獏は、そのような音への感性が、縄文時代に由来する、と考えている。
 ここで、随分前に紹介した土取利行の『縄文の音』を思い起こすのもいいだ
ろう。あの本は、パーカッショニストである著者が縄文時代の土器を再現し、
打楽器として使って演奏した記録であった。
 それは野外で、深夜から未明にかけて行われた。だから土取もまた、夜の風
に吹かれ、虫の音に耳を傾けながら、自身の心の内から湧き上がる霊性に導か
れるままに演奏したことだろう。

 

 そしてこのCDブックにも、まさに『縄文』と題された曲が収録されており、
それは辻祐(つじ・たすく)の太鼓による打楽器曲なのである。
 縄文的な音楽感性の源には、メロディでもなく、ハーモニーでもなく、リズ
ムこそがある、ということなのか?
 それとも、原初的な音楽は、世界中どこでもリズムから始まった、というこ
となのか?

 

 これもまた興味深い視点だが、ともあれ、話の流れ上、辻の名が先に出て来
てしまったけれど、このCDブックの音楽をつくる中心となったのは、ジャズ
・ピアニスト、スガダイローであることを最後に明記しておこう。

 

 以前、新宿のピットインで、ドラマーと二人、まるで戦っているかのような、
猛烈な即興演奏を聴いたことがある。
 ところが、音ノ刃というプロジェクトでは、泉鏡花や京極夏彦の小説を朗読
と演奏で楽しむイベントを行っていたりもするらしい。その時のメンバーには
鼓奏者もいるので、妖艶な幻想小説とも、和楽器とも、馴染みはあるわけだ。
 その経験が買われたのか、この『陰陽師』30周年の記念作に参加することと
なったスガダイローは、むしろしっとりとした平安の闇の底にたゆたうような、
美しい旋律を奏でている。

 

 クリスマスが終わると、暮れから正月にかけて、一気に日本人に戻るぼくら。
 この季節に、平安の都の音楽に想いを馳せるのもいいと思う。

 

音楽 スガダイロー 小説 夢枕獏
『蝉丸 陰陽師の音』
Cloud/SPACE SHOWER MUSIC

 

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
先日、ボーカルスクールの発表会で、かみさんが『花摘み歌』を歌いました。
これは以前当欄で取り上げた、松田美緒の『クレオール・ニッポン』というC
Dブックに入っていた曲。長崎に古くから伝わる、キリシタンの歌だそうです。
松田バージョンはアカペラですが、沖縄の三線(さんしん。蛇皮線とも言う)
で弾き語りました。これが、とてもよかった! それまで何度も練習を聴いて
はいたのですが、だんだんよくなって、人前でやる時にピークを迎えたようで
す。翌日、録音を聴いた時も、思わず涙ぐんでしまいました。妻の歌に、ここ
まで感動するなんて。

 

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
----------------------------------------------------------------------
『仁義なきキリスト教史』架神恭介 筑摩書房

 

古今東西最大のベストセラーは聖書であるとよく言われる。まぁその通りなの
だろう。高校生の頃だったか、それで聖書を読もうとしたが出だしで挫折した。

 

1:1アブラハムの子であるダビデの子、イエス・キリストの系図。
1:2アブラハムはイサクの父であり、イサクはヤコブの父、ヤコブはユダとそ
の兄弟たちとの父、 1:3ユダはタマルによるパレスとザラとの父、パレスはエ
スロンの父、エスロンはアラムの父、 1:4アラムはアミナダブの父、アミナダ
ブはナアソンの父、ナアソンはサルモンの父、 1:5サルモンはラハブによるボ
アズの父、ボアズはルツによるオベデの父、オベデはエッサイの父、 1:6エッ
サイはダビデ王の父であった。
http://bible.salterrae.net/kougo/html/matthew.html

 

こんな出だしで読む気になるかw?何が世界最大のベストセラーだw!

 

というわけで、時々目にする聖書の内容とおぼしき物語の断片を読む程度で、
聖書の通読はしたことがなかった。今でも通読するつもりはない(笑)のだけ
ど、『仁義なきキリスト教史』というタイトルにはピピピときたw。だいぶ前
に単行本が出ていたが、最近文庫化されて再び話題になったようで、それが私
の情報網に引っかかったのだ。

 

内容は、キリスト教二千年の歴史を果てしなきヤクザ抗争と解釈して小説化し
たもの。磔られたキリストの最後の叫びが「おやっさん、おやっさん、なんで
わしを見捨てたんじゃ〜!」と言う具合。入信も「杯を交わす」だし、「おど
りゃ、黙って聞いてりゃどこまで逆上(のぼ)せ上がる気じゃい!」なんてセ
リフがいっぱい出てくる。ベースは広島弁らしい。

 

キリスト磔られたところから、パウロの伝道、ローマ帝国の国教化やカノッサ
の屈辱に代表される叙任権をめぐる闘争、東ローマを攻めた第四回十字軍、ル
ターの宗教改革にナチスの容認と、歴史的に重要な場面の連作集になっている。

キリスト教文化圏でこんな本出したら非難殺到だろうけど、日本人はそんなこ
と気にしないと言うか、日本のキリスト教徒の人でもゲラゲラ笑って読んでい
そうである。日本の表現の自由に関する懐の深さに感謝したい。

 

キリストの死はこんな感じだ。

誰も見たことがない大親分ヤハウェが支配するユダヤ地方ガラリアでイエスが
ヤハウェから直盃をもらっていると評判が立ち、ヤハウェ親分の威光をかさに
きてシノギをしているユダヤ組系パリサイ組、サドカイ組などから警戒され対
立が深まる。

そしてイエスはエルサレムに行ってサドカイ組が両替や露天商と言ったシノギ
をしている神殿で大批判をぶってサドカイ組を敵に回し、対処に困ったサドカ
イ組はイエスを排除することに決定し、イスカリオテのユダを密かに呼んで・
・・という感じ。

 

有名な最後の晩餐のシーンなんかも、ちゃんとあるが、こうやってかいつまん
でみても面白さはわからないね。1章分くらい立ち読みしてから、映画「仁義
なき闘争」ばりのセリフがバンバン出てくる文体が自分の好みに合うかどうか、
考えてから買うべきかも知れない。

 

それはそれとして誰が見てもこの小説はパロディなのだけど、1章ごとに作者
の解説がついていて、資料を読み込んでどう解釈したかが書かれている。その
解釈が正しいかどうかは横に置いておくとしても、実際のキリスト教の歴史を
リアルに描くなら、確かにこんな感じだったのかもと思えてくる。

 

この世に新しい思想が出てきて、その思想が社会に伝播していく過程はいろい
ろあるけれど、宗教、ないしは宗教のたぐい扱いされる思想は、伝播の過程で
既存の思想との軋轢が生じる。軋轢に負けないことが、新思想の初期の成功を
左右すると思うが、軋轢に負けない人ってのは批判や反論に対し「やかましい
!」と断じて、社会に溶け込もうとせず、我が道を行く人だと思う。

 

以前紹介したことがあるインドの仏教徒を束ねる日本人、佐々井秀嶺師などヒ
ンズー教徒からさまざまな妨害を受けてきている。佐々井師がそんな妨害にめ
げているような人では、信者が一億人を超えたと言われるインド新仏教運動な
ど成立しない。ましてやカーストの廃止などできるわけがない。いざと言う時
には戦わねばならぬ。

 

そんな人たちがぶつかり合うから簡単に矛を収めることはないわけで、そうな
ると闘争が発生するのは自然の理。で、そうした人がどんな人かと想像すれば、
その筆頭として出てくるのは、日本人ならやっぱヤクザを最初に想像するので
はないか?

 

そう考えれば、パロディ、ジョークの範疇に入る小説ではあろうけど、現実の
歴史はこんな感じだったのだろうな程度のリアリティは間違いなくあると思う。

 

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

 

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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人はだれも残り半分を埋めるべく生きまどうのか
『半席』(青山文平著・新潮社)

 

 人生には三つの坂がある、上り坂と下り坂、そして「まさか」。

 その、まさかなことが次々に起きた2016年も終わり近く。こんな時はしみじ
みと時代小説が読みたくなりますなあ。いつものようにもう何度も読んでる藤
沢周平作品を、飴玉を口に転がすように読むのをやめ、読んだことのない作家
の時代小説を読もうと手に取ったのがこの作品です。

 

 主人公は片岡直人という26、7歳の幕府職員。徒目付という役職で、これ
は今でいえば公安? また人事とか総務みたいなこともするみたいです。徒目
付にいて功績を上げると旗本になれる。片岡家は父の代にもうちょっとで旗本
になれるはずだったのになれず、直人はどうにかして出世して、永代の旗本に
なるという切なる願いを持っているんですね。この中途半端な状態を半席とい
う、やきもき感がこの小説のキモ。「状況設定、よ〜し」って感じですね。

 

 なのに、上司の内藤っていう人が出世にはまったく関係のない余計な裏仕事
を持ってくる。それを解決するのがこの小説のストーリーですが、直人君はそ
んなことをかまっている場合ではないのに、強引なこの上司に引きずられて役
に立たない裏仕事にはまっていく、そして人の深さに惹かれて大人になってい
くわけです。「キャラ設定、よ〜し」ですね。

 

 裏仕事というのが、事件を起こした下手人がどうしてその罪を犯したのか探
ること。
 すでに科は決まっていてあとは執行を待つだけ。でも犯罪の本当の理由がわ
からない。
 「科人はそれぞれの理由で、なぜをあの世まで持っていこうと気を張ってい
る。とはいえ、どこかに、すべてを明かしてみたいという欲もある。見抜かれ
ることによって、一気に貼り詰めたものが解け、その口からなぜが洩れ出てく
る。的を外さぬ仮設をできうる限りすみやかに立てることこそが、頼まれ御用
のすべてだ」。

 つまり、罪を犯した人のカウンセリングをして事件の心理的な真実を明かす
のがこの時代小説のキモです。時代性、よ〜し!

 

 プラス、この上司の内藤さんていう人がグルメで、片岡直人君に仕事を頼む
時はいつもうまいものを食べさせる釣り好きオーナーのやっている居酒屋に誘
って、食事なんておなかがいっぱいになればいいと思っていた直人君をグルメ
に開眼させるという、池波正太郎先生以来の日本時代小説の本流的アイテムも
完備しています。グルメ、よーし!

 

 ほろ苦くてしみじみした結末の短編が6つ。読み終わるたびに、おばちゃま、
「だよな〜」って独り言を言ってしまいました。

 

 たとえば、ネタばれしない程度に書くのがたいへんですけども、「真桑瓜」
というお話。
 幕府に精勤している高齢者の宴席で、それまで和気あいあいとしていた座の
最後になってやおら1人の老人がこの日の幹事役に切りかかった。この2人は
長年の友人で特にトラブルを起した形跡はない。どうやら、宴席の最後に出た
デザートの真桑瓜が原因とまではわかったけれど……。この老人が長年、心に
溜めていた思いとは何?

 

 この本で印象的だったのは人は運命には逆らえないという部分。いい悪いじ
ゃない、努力したとかしないとかではない、この世の不合理の波に抗いながら
流されながら、必死に生きる人たちの姿はまさに激動の2016年を生きた私たち
そのものではないでしょうか?

 

 完璧なんてな〜い♪と知りつつも、あとの半分を求めて生きるのは、人はベ
ターハーフを求めて生きるとされたギリシャはプラトン以来の渇望なのか、未
来には理想の自分がいてそこに向かって生きるのが宿命なのか、その答えは大
世戸の雑踏の中にあるのか、ないのか。

 

 話が進むにつれて、直人は出世よりも上司の持ってくるまったく得にならな
い仕事に魅力を感じてきます。おばちゃま、「直人! 若いうちはわがままで
いいからとりあえず出世してよ。カウンセリング仕事なんて50歳からやっても
間に合うし。若いうちしかできないことってあるからね。」なんてつぶやきつ
つ読み終わりました。(リアル過ぎる?)

 

 この世は不合理、人はだれもあとの半分を求めて生きるけれど、それは見果
てぬ夢であり、半分を埋めようとしても残りたった1%が埋められずに行きま
どう人もいる。でもその過程で違う理想郷に出会うこともあり、それを運命と
呼ぶのだと感じました。

 

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

 

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■あとがき
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 誰が決めたか、あっという間に今年もおしまいですねー。振り返ると、今年
は何も仕事をしていないような気が…。

 

 せっかくの年末年始、山のような締め切り仕事を片付けるべく、前向きに取
り組みたいと思います。

 

 皆様もすっきりよい年をお迎えくださいませ。(あ)

 

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[書評]のメルマガ vol.619


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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→「聖地」がいっぱい

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→反面教師としてのフォールスタッフ

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→喜びと親切を大事に

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<84>「聖地」がいっぱい

 ジジイになると、なんやかやと出費を強いられることも増えてくるのだが、
その「なんやかや」のひとつが、医療費。
 確定申告のために、医療費をexcelで年ごとにまとめているのだが、これが、
今年は11月にして既に昨年の倍(!)になってしまった。

 これまでも、毎年およそひとつずつアレルギー引き起こす食い物が増えてい
ったり、痛風になったり、突如アレルギー性鼻炎に襲われたりしておったので、
徐々に医療費は増加していた。
 それが今年は、昨年来の「歩け歩け運動」の甲斐なく、夏の健康診断では、
体のあちこちに、もはや猶予ならざる「要治療」の結果を突きつけられ、挙句
に癌の疑いまでかかってきてしまったのだった。

 で、投薬治療にかかったり、再検査したり、精密検査を仰いだり……なんだ
りかんだりやってたら、みるみる医療費が膨らんでいったのだった。ああ、一
割負担のころが懐かしい……

 精密検査のために紹介された病院は、うちからだと阪神電車でひと駅隣の
「鳴尾」が最寄。
 家から歩いても大したことはないので、病院まで歩いてMRI検診を受け、
その後勤めに出るため、最近高架化されたばかりの鳴尾駅に赴くと、午前の遅
い時間、人気がなくがらんとした構内で、ふと改札横のガラスの壁に人影が…
 誰かと思えば、それは、ガラス面に貼られた等身大「坂本」クンのステッカ
ーなのだった。
 駅の近くに女子大があるのを意識してか、坂本クンは、「Lady First」との
文字の横で、恭しくも、胸に手を当てる執事風のお辞儀で、電車から降りてく
る人々を迎えていた。なぜか、その足元には猫も居たりするのである。

 漫画『坂本ですが?』は、たまたまこの少し前に全4巻のうち1〜3巻を読
んでいたのだが、そのキャラクターが「何故ここに…?」と思ったら、この4
月にアニメ化されていたのだった。

 しかし、なぜそれが鳴尾の駅に? という疑問は、駅構内に展示してあった
アニメのシーン集のパネルとパンフレットによって判明した。
 このアニメ…というか、原作の漫画も、ここ阪神鳴尾界隈が舞台で、各エピ
ソードの背景として、このあたりの風景がふんだんに出てくるらしい。

 そしてただ今は、地域活性化イベントとして、阪神電車と西宮市がタッグを
組み、アニメ『坂本ですが?』をモチーフとして、様々なイベントや企画が進
行中らしいのだ。
 そう言えば、電車の中でも坂本君の中吊りポスターを見かけたな、と思い出
す。

 http://www.hanshin.co.jp/company/press/detail/1759

 上が、そのイベントの概要らしいのだが、鳴尾駅で展示されていたパネルは、
「シナリー・オーバーラップス」展と題された、アニメのシーンと実際の風景
を重ねあわせて見る趣向なのだった。
 その他、作中に登場する「西宮市貝類館」でのイベントや、「聖地巡礼マッ
プ」の配布等々が、来年(2017年)の3月まで続けられるらしい。
 「聖地」では、『涼宮ハルヒ』の阪急沿線に遅れをとった阪神が、同じグル
ープ内とはいえ、負けてはならじと素材を探し、かたや「二匹目の泥鰌」狙い
の西宮市とタッグを組んだ…ということか?

 もう少し調べてみると、『坂本ですが?』原作漫画の作者、佐野菜見さんが、
西宮のこのあたりの出身で、漫画の舞台となる「学文高校」は、これも作者の
出身校、兵庫県立鳴尾高校がモデルなんだとか。
 そうか、そうだったのか、と納得。
 鳴尾高校の所在地は「西宮市学文殿町」で、お隣には「西宮市立学文中学校」
があるのだった。

 その気で漫画を読み返してみたらば、なるほど、ページのそこここに、見覚
えのある風景が散見される。
 坂本くんが不良グループと決闘するのは、国道2号「武庫川大橋」下の、わ
しの散歩コースでもある武庫川河川敷だし、久保田くんのお母さんが買い物に
立ち寄ったスーパーは、これまたよく利用するビデオ屋の向かいのスーパーだ。

 さらに精査していくと、「第12話」のトビラページの歩道橋…おおおっとこ
れは!?
 我が家からすぐのところにある、いつもドラッグストアへ行くのに利用する、
あの歩道橋ではないか。

 自分ちの近所とか馴染みの場所が、こういう風に「聖地」化してるのは、な
んだか嬉しい。
 『君の名は。』現象に顕著なのだが、「聖地」は、近頃やたらに乱発され、
これに企業や行政が乗っかってショーバイ化するには、とかくの批判もあるよ
うだが、わしは、そう目くじら立てるほどではないと思う。

 どころか、企業や行政にはPRや広告の効果があり、元ネタとなった漫画や
アニメもまた、グッズやキャラクター使用のロイヤリティのみならず、それに
よって知名度が増し、本やDVDがさらに売れるとあれば、結構なことではな
いか、とも思う。

 とはいえ、我が西宮市には、聖地としては老舗中の老舗である「甲子園球場」
が存在する。
 先日、その聖地の前を通りかかったところ、11月だというのに、球場内から
歓声が聞え、ブラスバンドの音も響いてくる。
 入場無料でバックネット裏が解放されていたので、「なんだろ?」と思って
入ってみたら、「マスターズ甲子園」の、その熱戦真っ盛りなのだった。

 グラウンドでは、かつての高校球児たちが、薄い髪を振り乱し、さてまた突
き出した腹を揺すりながら、実に楽しげにプレーしていた。
 スタンドでは、彼らの家族らしき人たちが熱心に応援し、小さな女の子の
「パパ! がんばれ〜〜っ!」という声も響いている。
 彼らにとって、「聖地」といえば、まさにここなのだな、と実感した。
 目の前では、「島根県代表」のOBチームと「神奈川県選抜」チームの試合
が繰り広げられており、ふとスコアボードをみやると、なんと大差で島根が神
奈川を圧倒(!)という、現役甲子園ではまずあり得ない光景が繰り広げられて
いたのであった。

 このマスターズ甲子園をモチーフにした映画『アゲイン 28年目の甲子園』
は、まだ未見だったのだけど、DVDが出てるようだし、見てみようかな。
 原作が重松清、ということで、「あざといんじゃないかな?」と敬遠してた
のだけどね。

 あ、MRIでの癌検診の結果は、癌じゃなくて単なる炎症と判明。ただいま
投薬治療中、なのでした。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第84回 反面教師としてのフォールスタッフ

 現在、新国立劇場では12月22日まで、シェイクスピアの『ヘンリー四世』が
上演されている。
 『ヘンリー四世』は1部と2部に分かれていて、長尺だからなかなか上演機
会がない。また登場人物が多岐にわたっているので、役者を揃えなければなら
ないし、主役級の役者が最低でも4人いなければ芝居が成立しない。だからこ
の企画は国家からの補助金が潤沢にあるであろう新国立劇場だからこそできる
企画かもしれない。

『ヘンリー四世 第一部&第二部』(シェイクスピア 著)(小田島雄志 著)
(1983年)(白水∪ブックス)(白水社)

 シェイクスピアの芝居は、主役がタイトルになっていることがとても多い。
『マクベス』『リヤ王』『ロミオとジュリエット』『リチャード三世』・・・。
この『ヘンリー四世』も、当のヘンリー四世は主役級には違いない。その息子
の皇太子ヘンリーも主役であると思う。反乱軍の指導者であるヘンリー・パー
シーもまた主役級だ。しかしながら、この『ヘンリー四世』においては、実は
本当の主役は彼ら王の親子ではなくまた反乱軍の将軍でもない。真の主役は騎
士「フォールスタッフ」なのだ。

 フォールスタッフは皇太子ヘンリーの悪い友達である。『ヘンリー四世』第
一部では、前半、皇太子ヘンリーは父王ヘンリー四世の心配をよそに放蕩三昧。
落語の与太郎。だめな若旦那役に徹している。そして放蕩王子ヘンリーをそそ
のかして悪いことを教えるのが悪友フォールスタッフ。しかしながら、このフ
ォールスタッフ。なかなか含蓄のある台詞を吐くし、それが真実と思う瞬間を
感じる。それは脚本を読んだだけではわからない。いい役者が演じてこそフォ
ールスタッフの台詞が生きてくるし、フォールスタッフはいわゆる“キャラが
立っている”役なのだ。・・・脚本を読むだけではなく、芝居を観ないとわか
らない役は、シェイクスピアの芝居でいえば、『オセロ』のイヤーゴがその代
表と云えるが、このフォールスタッフはイヤーゴと双璧をなす役柄かもしれな
い。

 芝居の筋は簡単だ。イングランドに内乱が起こる。王は反乱軍を討伐すべく
兵を集めるが、肝心の皇太子は行方不明。どこでどうしているのかわかない。
皇太子ヘンリーはそのころフォールスタッフをはじめとした悪友たちと悪だく
みと悪行三昧。しかし父王に呼ばれた皇太子はころりと簡単にいい皇太子に変
身し、反乱軍を討伐し敵の大将を討ち取る。その間フォールスタッフはうまく
立ち回り、何もやっていないにもかかわらず、強い武者としての名声を上げる
(第1部)。反乱軍を討伐したヘンリー四世であるが、その残党が挙兵し、再
び内乱が起こる。改心したはずの皇太子は、酒場で悪友たちとつまらないこと
をしている。そして父王の臨終。死の床についている父、ヘンリー四世の前で
再びころりと改悛する皇太子。そして父ヘンリー四世の死。ヘンリー五世とし
て即位。その席でフォールスタッフに引導を渡す新王。「私を昔のままの私だ
と思うと大間違いだぞ」(第2部)。

 ストーリーとして幼稚なほどわかりやすいが、単純すぎるその筋書きに半畳、
つっこみ、だめだしを入れたくなるのはむしろ当然のことなのだ。あれだけ遊
んでいた皇太子が反乱軍を前にころりと勇猛果敢な皇太子になる。しかもその
後、ふたたび遊びほうける皇太子に逆戻り。いつも悩んでいる父王、ヘンリー
四世。悩んでいるなら早いこと長男のヘンリーから皇太子の座を取り上げて次
男に与えてしまえばいいのに。ヘンリー四世には長男ヘンリーの下に、トマス、
ジョン、ハンフリー、と3人も弟王子たちが控えているのだ。

 とは云え、この『ヘンリー四世』はしぶとく名作として評判を21世紀になっ
ても勝ち得ているのはなぜか。その最大の理由は、とりもなおさず、フォール
スタッフにあるのだ。

 フォールスタッフ。愛しい太っちょおっちょこちょい嘘つき気弱打算的エロ
グロ騎士。およそ人間の、人類の弱さと醜さをそのまま体現し、弱点という弱
点をすべて身につけたこのフォールスタッフこそ、この芝居の核心なのだ。フ
ォールスタッフを理解してはじめて『ヘンリー四世』が理解できるのである。

 “名誉ってなんだ? ことばだ。その名誉ってことばになにがある? 空気
だ。結構な損得勘定じゃないか! その名誉を持っているのはだれだ? こな
いだ死んだやつだ。やつはそれにさわっているか? いるもんか。聞こえてい
るか? いるもんか。じゃあ名誉って感じられないものか? そうだ、死んじ
まった人間にはな。じゃあ生きている人間には名誉も生きているのか? いる
もんか。なんでだ? 世間の悪口屋が生かしておかんからだ。だからおれはそ
んなものはまっぴらだと云うんだ。名誉なんて墓石の紋章にすぎん。”(第5
幕第2場)

 ・・・・・このせりふなぞ、フォールスタッフの性格をよく表している代表
的なせりふだと思う。そして脚本で読んだだけではわかりにくい。というか、
このせりふは抜粋しているので、前後に膨大なほかのせりふが控えている。読
むときには集中力を欠き、飛ばしてしまう危険もある。しかしながら、いい役
者がこのせりふを語るとき、われわれ観客を心が締め付けられるような共感と
感動を与えられるのだ。

 この『ヘンリー四世』はフォールスタッフだけが素晴らしい。と云っている
ことにまあ、間違いはない。ただし、読み方を間違えてはいけない。
 この『ヘンリー四世』は皇太子ヘンリーの成長物語なのだ。そして初めは鏡
のように同じ姿で向き合っているヘンリーとフォールスタッフは、いつしかそ
の役目を変え、フォールスタッフはヘンリーの反面教師としての役割に変わっ
ていくのである。実にヘンリーはフォールスタッフの良くない処を参考にして、
王になるべく成長するのだ。

 シェイクスピアは『ヘンリー四世』でフォールスタッフをほぼ殺してしまう。
しかしこの芝居でフォールスタッフの熱狂的なファンが黙っておらず、シェイ
クスピアは次作『ウィンザーの陽気な女房たち』に登場させた、という話だ。

 ちなみに、いま上演中の新国立劇場『ヘンリー四世』の配役。
 ヘンリー四世:中嶋しゅう/皇太子ヘンリー:涌井健治/フォールスタッフ
:佐藤B作

 ・・・です。

多呂さ(お寒うございます。どうかお風邪など召しませんよう。良いお年をお
迎えください)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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67 喜びと親切を大事に

『クリスマスとよばれた男の子』
       マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本 詠美 訳
                              西村書店

 子どもたちが大きくなり、
 家の中にクリスマス飾りをしなくなりましたが
 去年は家族どうしの贈り物の交換をしました。

 もらってくれる人が喜びそうなことを想像して贈り物を選ぶのはとても楽し
く、今年もプレゼント交換しようねと話をしているこの頃。
 この時期は贈り物に思いをめぐらすときでもありますね。

 今年のクリスマス本では『クリスマスとよばれた男の子』がおもしろかった
です。

 サンタクロースといえば、もくもくとしたヒゲを蓄え、たっぷりとしたおな
か。すっかり大人になっているサンタクロースのイメージしかなかったので、
子ども時代を想像したことはありませんでした。たしかに、いっきに大人には
ならない。ではどんな子どもだったのか。
 
 この物語はそんなサンタクロースの子ども時代のことが書かれています。

 少年の名前はニコラス。木こりの息子として誕生しました。
 お母さんはニコラスが6歳の時に亡くなり、お父さんとの2人暮らし。
 生活は貧しく、お父さんはお金のために家を離れて仕事に出ることになりま
す。ニコラスはまだ11歳。ひとりで生活するには小さいので、カルロッタおば
さんがやってきて面倒をみることになりました。

 ところが、このカルロッタおばさんが昔話にでてくるよな典型的ないじわる
おばさん。ニコラスはこれだったら一人で暮らした方がよっぽどマシな毎日を
送ることになります。

 ここからも昔話を下敷きにしたような展開で、ひとりぼっちのニコラスの冒
険がはじまります。

 荒唐無稽な冒険ではありません。どちらかというと地味にひとつずつ問題を
クリアし、善行を重ねるニコラス。

 読後感は堅実な夢物語です。

 信じていればきっと叶う魔法は、
 信じるに足るだけの日々の行動があってこそ。
 とはいえ、決して道徳的すぎることはありません。

 表紙のイラストも甘くなく、がりがりの少年がいったいどうしてサンタさん
になるのだろうとそそられます。
 
 相手が喜ぶことを考え気持ちをそえる行為、
 そうしてもらえたらうれしいことを、サンタさんはしているのだと
 あらためて思いました。

 何もかもすっとばして夢にたどりつかない物語のリアリティ。
 地に足が着いています。

 さあ、今年のクリスマス、
 周りの人に親切にしよう。贈り物をしよう。
 そして自分にも同じことをしてみよう。

 メリークリスマス!
  

(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
15巻は絶賛発売中! ★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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 皆さんのご応募、お待ちしております。

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1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
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 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

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■あとがき
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 発行がエラく遅れてしまいました。反省しております。反省だけならサルで
もできる…そういえば、今年はサル年でした。振り返ると、今年はサル年にふ
さわしく、サル芝居的な事件が多かったような気がします。敗者はサルのみ、
引っかくのみ。来年こそ、皆様の信頼をトリ返そうと思っております。トリ年
だけに。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.617

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<83>『こち亀』のころ、そして再び下北沢あのころ

 前回取り上げた『東北沢5号』の、全3巻を読み終えた。
 2巻あたりにも、そんな予感というか空気は孕んでたのだが、物語は3巻に
至って、「え!?」と言うような意外かつヘビーな展開になだれ込みつつ、最後
は大団円で終わり、読み終えたときには思わず「ほろり」としてしまった。
 物語の時間軸は、1巻冒頭から3巻結末までに数年が経過しており、最終話
では、東北沢5号を含む踏切も既に工事によって消えつつあるのであった。

 この漫画、下北沢という街の空気を実によく体現していて、わしがここに住
んでいたのは、この漫画よりもずっと昔だけど、あのころのあれやこれやら、
あそこでなにがどないして、とかイロイロと思い出すことしきりだった。

 小田急経堂の、四畳半台所トイレ共用風呂なし家賃月額9千円の下宿から、
「むらさき」での稼ぎをつぎ込んで、下北沢……と言っても住所は「代田」の、
5畳半台所付きだがトイレは共用、風呂もちろんなし、家賃2万3千円のアパ
ートに越したのは、大学2年の春。今からかれこれ40年前だった。
 下北沢駅北口から徒歩約10分、井の頭線でひと駅吉祥寺寄りの新代田駅から
なら5分ほど。
 新宿や渋谷に出るときは下北沢駅、吉祥寺へは新代田と使い分けていた。

 下北沢はその少し前から、ライブハウスや小劇場や、あるいは若向けのバー
やらカフェやらブティックとか雑貨屋とか、様々な店やスポットがこの街に集
まり始めてもいた。
 経堂時代から、ここへはよく遊びや買い物に来てたのだけど、街の域内に2
車線より広い道路は一切なく、X字型に交差する二本の線路を囲むように、狭
い通りが縦横に走るこの街は、アップダウンも結構あって立体的で、ふらふら
とうろつくのには、実に按配のいい街だった。
 駅前に「大丸ピーコック」があるのも、心強かった。「東京の関西人」は、
身近に「関西物件」があると落ち着けるのだ。

 ちなみに小田急の電車にも、「神戸 川崎重工」という川重兵庫工場製を示
すタグプレートがついていて、電車も同じ神戸生まれという愛着が、小田急沿
線を好もしく思う一因でもあった。

 ピーコックの向かいにあった市場も、トタン屋根に覆われた薄暗い通路の両
側に、小汚い飲み屋やジーパン屋やらアメリカンポップな服屋やスニーカー中
心の靴屋やらが並んで、神戸の高架下商店街を思わせる雰囲気なのが気にいっ
た。

 遊びも買い物も、狭いこの街の中で全て賄えて、とても居心地のいい街だっ
たので、ヒマがあると、狭い通りから通りへとうろついては、ふらふらとお店
に入ったりひやかしたり、飲んだくれたりバカ騒ぎしたり、していた。

 「一番街」の端っこには、鈴木翁二の直筆壁画のあるロック喫茶(という呼
び名が、当時はまだあったのだ)があった。

 茶沢通りの交番前踏切(東北沢4号、ですね)近く、線路沿いの木造家屋二
階にあったジャズ喫茶には、建物が木造でボロだったせいか、どすどす歩くと
床が揺れてレコードの針が飛ぶので「静かに歩け」という張り紙があった。

 そのジャズ喫茶の隣には、「蜂屋」という中華食堂があって、ここは「ラー
メン100円」「チャーハン150円」「かつ丼200円」等々、学食よりも安かった
ので、フトコロの寒いときには、随分とお世話になった。

 南口駅前ビルの地下にあった「とんかつ太郎」という豚カツ屋が滅法うまく
て、あづま通りには「本店」もあったのだけど、本店よりもこの駅前地下店の
方が断然旨かった。
 やたらと分厚いロースカツは、揚げるに際して温度の違う二つの油鍋を順に
潜らせて、切り口はピンクという絶妙の揚げ加減で、わしは、いまだにこれよ
り旨い豚カツを食ったことがない。

 「広島風お好み焼き」というのを知ったのも下北沢で、最初鎌倉通りの住宅
街にぽつんとあった、とても美人なおばさんが一人で切り盛りしてた店は、そ
の後南口に引っ越して、そのころには人も大勢使って、たいそう繁盛していた。

 南口をかなり下った辺りに「ロフト」が開店したのは、住み始めて2年目く
らいだったか。ここには、「鈴木慶一とムーンライダーズ」が出演してたりも
した。
 「ロフト」は、当時新宿と中央線の西荻とにあって、下北沢の店は3軒目だ
ったと思う。

 本多劇場はまだなくて、その「建設予定地」と記された広い空地には、状況
劇場の紅テントが度々かかって、何度か足を運んだ。
 小林薫と根津甚八が二枚看板で、トップ女優はもちろん李礼仙(麗仙)。不
破万作や十貫寺梅軒などが脇を固めていた。
 なんの公演だったか、終幕、クライマックスを迎えたところで、舞台背面の
テントが「バーン!」と開かれ夜空が見えたと思うと、その空に浮かぶように、
明るい窓の列を煌めかせた井の頭線の電車が土手上の線路を駆け抜けて、あの
演出には度肝を抜かれた。

 街のあちこちで、「下北マンボ」と呼ばれる派手なプリント柄の細身のパン
ツを履いた女の子たちを見かけた。
 「下北マンボ」は、北口の横浜銀行近くにあった「ENNY」という店のオリジ
ナルで、この店でしか買えないのだった。

 住んでいた代田のアパートから、一旦坂を下ってまた坂を昇って成徳女子学
園の横を過ぎると、一番街の端っこが鎌倉通りと交差する角で、そこに小さな
市場があり、その市場の隣に喫茶店があった。カウンターだけの小さな店で、
カウンターも十席ほどだったと思う。
 当時よくあった、いわゆる珈琲専門店で、メニューは、種類が選べるコーヒ
ーと他は紅茶のみで、食べ物は…トーストくらいはあったっけ?
 ここに週に何度か、主に昼間に通っていたのは、置いてある漫画雑誌を読む
ためだった。

 少年マガジンとサンデー、ジャンプ、それからビッグコミックと週刊漫画ア
クション、その最新号が、発売日には毎号きちんと揃っていて、それらの発売
日に合わせて通っていた。

 店をやっていたのは、三十過ぎに見える女性で、いつもカウンターの中の椅
子に掛けて、なにか本を読んでいた。
 注文のコーヒーを出すとまた椅子に座って読書に戻り、客になにか喋りかけ
るということもなく、客もまた喋らない。
 店内には音楽もなく、実に静かな店だった。

 わしもまた、店に入るとブレンドコーヒーを注文し、あとは何も喋らず、置
いてある雑誌を順繰りに読んでいく。
 そのうちに、店に入って座るだけで、なにも言わずにブレンドコーヒーが出
てくるようにもなった。
 わし以外の他の客も同様で、わしは、ついぞあの店で、注文とそれを受ける
以外の会話を聞いたことがなかった。
 会話がなく、ゆえに他の客のお喋りを聞かされることもなく、余計な音楽も
またなくて、そこは、とても居心地のいい店だった。

 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』という、やたらと長いタイトルの漫画が
始まったのを知ったのも、この店で読んだ「少年ジャンプ」でだった。
 やたらと拳銃をぶっぱなすデタラメで破天荒、かつ自分の欲求に忠実なおま
わりさんは、赤塚不二夫のおまわりさんと、当時大ヒットしていた『がきデカ』
を組み合わせた? と思えたのは、作者の名前が、『がきデカ』の作者「山上
たつひこ」をもじったらしい「山止たつひこ」というペンネームだったから。

 そんな破天荒なおまわりさんの生息地を、「葛飾区亀有」という下町に特定
して……はは〜〜ん、これは、赤塚・おまわりさん+がきデカ+フーテンの寅、
を狙ったな。おもろいことを考えるやないかい。と、弱冠ハタチのわしは、分
析したのでありました。

 にしても、その後作者の名前を本名に戻したこの漫画が、40年も連載を続け
るとは、当時は露も思わなかったのだった。
 作者や編集部もそう考えてたようで、当初の「山止たつひこ」というふざけ
たペンネームも、長くとも連載は1年くらいだからと、軽いノリで使っていた、
とは連載終了時の後日譚で知った。

 代田のアパートは、途中、部屋は置いたまま中央線界隈をふらふらとしたこ
ともあったが、学生時代から、その後就職してからも、数年間をそこに住んだ。
 結婚してから住まいがまたもや小田急経堂になったのだが、電車で下北沢ま
で行って、下北沢始発のバスに乗り換えるという通勤経路だったので、相変わ
らずこの街は馴染みで、休日に夫婦で訪れることも多かった。

 その後日常の移動手段がクルマになると、この街は車にはやたらに不便だと
気がついて、やや遠ざかりもしたのだけど、会社の同僚たちと勤め帰りに飲む
のもなぜかこの街が多くて、先月の当欄で触れたUさんの店などに、わしが同
僚たちを案内することも度々だった。

 そんなこんなで、学生時代の1975、6年から、神戸へ引っ越すまでの十と数
年間、この街の推移を眺めてきたのだけど、今回、『東北沢5号』を読んで、
郷愁とノスタルジーを滅法刺激されてしまった。
 あの街の、あのころをモチーフに、なにか物語を紡いでみたいな、とも思う
今日この頃。

 10年ほど前に公開された映画『男はソレを我慢できない』は、竹中直人が、
この下北沢という街が都市開発の波に飲まれてゆくのに危機感を感じて製作し
た映画だと聞く。
 その映画の惹句にあったと思うのだけど、下北沢という街は、映画、音楽、
演劇、そして漫画、等々の若い人材が、交差し、混じりあう場であった、のは
確かだ。
 今の、そしてこれからの下北沢は、どう変化していくのか。遠く離れたとは
いえ、妙に気になってしまう。

 会社員時代、「劇画村塾」という私塾に、事務方として係わっていた。
 その塾生だった、たなか亜希夫のデビュー作が、やはりこの街を舞台にした
『下北フォービートソルジャー』という作品だった。
 掲載誌は「漫画アクション」。
 入塾するまで「絵は描いたことがない」という彼が、その同期生の中では一
番早くデビューしたと記憶する。
 彼もまた、この下北沢という街に思い入れが強かったようで、主人公である
若きジャズプレーヤーの卵は、下北沢の街を根城に、鬱屈や屈託を抱えながら
煩悶したり、いきがったり怯えたり、ときに性欲を爆発させたり・・・しなが
ら、仲間とともに街を彷徨し這いずり回る、というような漫画だった。

 あれもまた、もう一度読んでみたくなって、ただいまはアマゾンを渉猟中、
なのだった。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第82回 “この世は舞台”とシェイクスピアは云った。

 河合祥一郎はシェイクスピアを研究している大学の先生だ。彼はわかりやす
い言葉で次々とシェイクスピアの入門書を書き発行しているが、今回俎上に乗
せる本は、まったくシェイクスピアを知らない人向け、というものではなく、
少なくともシェイクスピアの四大悲劇といくつかの喜劇を観ている、という人
向けの本のような気がする。シェイクスピアの生涯を辿り、彼が生きた時代を
理解して、作品が表現している人間の喜怒哀楽を丁寧に解説してくれる。そし
て最終章ではシェイクスピアの戯曲から生き方や哲学を解析してみせている。

『シェイクスピア −人生劇場の達人−』(河合祥一郎 著)(2016年)
(中央公論新社)(中公新書)

 新書は、専門的な問題を一般の人向けに解説する書籍。という定義だと理解
しているが、本書はまさにその定義どおりの解説書になっている。とにかくわ
かりやすい。

 本文が7章ある本書を大きく3つのテーマに分けるとしたら、1章から3章
までがシェイクスピアの生涯を辿る道のり。4章から6章は、シェイクスピア
の作品をうまく解説している内容であり、最終の7章は「シェイクスピアの哲
学」というタイトルでシェイクスピアが影響を受けたであろう思想や哲学を戯
曲のセリフから分析し解説している。

 最初のシェイクスピアの生涯をみたとき、本書は単なる事実と推測の羅列に
終わらず、誰と出会い、どんなことを考えていたかを推測し、彼の戯曲を分析
する後半の内容につなげている。さらにシェイクスピアが生きていた時代を世
界規模で俯瞰してみる。シェイクスピアの活躍した時代はエリザベス朝と重な
っているのは皆に周知のことであるが、そのエリザベス朝において、当時世界
最強とされていたスベインの無敵艦隊を打ち破ったこと、そして遙か極東の日
本においては信長秀吉家康の時代であることは、あらためて指摘されないと気
づかない。初めて日本に来たイギリス人は、三浦按針の日本名で知られたウィ
リアム・アダムスであり、彼はシェイクスピアと同い年であった。しかもファ
ーストネームも同じウィリアムである。イギリスのウィリアムは女王陛下のた
めに芝居をつくり、女王のために尽くした。日本に来たウィリアムは徳川家康
のために船をつくり外交顧問として活躍していた。なんだか、とても興味深い
歴史の偶然なのである。いい話だ。

 シェイクスピア演劇は日本の狂言と似ている。まず、精巧なセットではない。
また上演する舞台には幕がない。太郎冠者は舞台上を一周りして田舎から都に
上る。同じようにシェイクスピアの登場人物は舞台を一周りして宮廷から鬱蒼
とした森に辿り着く。ひとつの舞台で時間と空間を飛び越えてしまう。そこで
は役者の力量も試されるが、観客の想像力も柔軟にしておかなくては芝居の進
行についていけなくなる。そこでは自由に時と場所を移動することができるの
で、自由な発想が許される。『オセロ』では舞台はベネチアからあっという間
にキプロスに移動する。近代演劇では舞台がひとつのセットでおこなわれるこ
とが多いので、場所の制約はシェイクスピア演劇とは比べられない。とは云い
つつも、現代に生きるわれわれは、このような舞台上においてひとつのセット
で、登場人物が入れ替わり立ち替わり出入りして進行していく芝居に慣れてお
り、舞台演劇と云えば、そういうスタイルを思い浮かべるのである。今ではシ
ェイクスピア演劇が異端と考えてよさそうだ。制約が多いほうが濃密な演劇に
なる、と思う人は多いだろう。この観点から演劇論を試みる書物は多い。

 シェイクスピアの悲劇と喜劇の違いは何か。本書ではそれを上手に表現して
いる。すなわち“悲劇の世界を《To be,or not to be》(=あれかこれか)と
するなら、喜劇のせかいは《To be and not to be》(=あれでもあり、これ
でもある)と規定できる”と云っている。悲劇ではひとりの主人公が悩み、彼
の価値観が唯一正しいとされるが、喜劇ではたくさんの登場人物があれこれ能
弁におしゃべりをして価値観もたくさん存在し、すべて肯定される。

 シェイクスピアの喜劇は混乱が生じてそれを解消していく物語だ。混乱は解
消され大団円で芝居が終了する。その混乱の中で主人公は自分を見失う。そし
てそれが収束して解消されていく過程で主人公は今までの殻を破り、新しい個
性を手に入れる。

 一方の悲劇はどうか。主人公がもともと持っている強靭な精神は変化するこ
となくそのままで最後には死が待っている。自分の価値観からはずれたものを
否定するのであるが、それは逆に自分に災いが降り掛かってきてしまうのだ。
主人公は神の替わりに判断する。それを“ヒューブリス”というらしい。シェ
イクスピアの悲劇の主人公は皆がそのように、「神に成り代わって運命を定め
ようとする傲慢さ」を持っている、という。ハムレットもオセローもマクベス
もリヤ王も。皆、神に替わって正義を行おうとしてそして自滅するのだ。この
4つのタイトルロールがシェイクスピアの四大悲劇に数えられる。

 同じように主人公が死んでしまう悲劇に『ロミオとジュリエット』があるが、
これが四大悲劇に入らない理由は何かと云えば、ロミオもジュリエットもヒュ
ーブリスがないからだ。神に代わって運命を定めようとはしていない。彼らが
死んでしまうのはまったく運が悪かったことに尽きる。

 シェイクスピア演劇、特に悲劇を考えるときに“世界劇場”という概念はと
ても重要である。『お気に召すまま』の有名なセリフ。「世界はすべて一つの
舞台。男も女も、みな役者にすぎぬ。」というあれである。人生は芝居であり、
人間は役者である。・・・ということは自分自身を客観視する必要がある。自
分を客観視するとき人は冷静になる。自分自身を判断するのだ。そして死へと
一直線に進んでしまうのだろう。世界劇場の概念は悲劇に結びついているのだ。

 最終章の「シェイクスピアの哲学」には「心の目で見る」という副題がつい
ている。物事は一方からだけでみるのではない、いろいろな方向からみなけれ
ばならないし、時には見えないものも心の目で見なければならないのだ。自分
の心の中で真実だと思える何かを感じられなければ見たことにならない。事実
は客観的なものであり、真実は主観的なもので、人によって違ってくる。つま
り自分の人生は自分で切り拓くために自分の真実を感じなければならない。シ
ェイクスピア演劇には、その真実を感じる方法がふんだんに盛り込まれている。

 演劇を通して真実をみつけるために、自分の中の「信じる力」を頼りにする。
それが自分は何を信じるか、自分の信じる力で真実をみつけるのだ。それこそ
が演劇の大きな力であり、「信じる力」こそが人生を切り拓く手段であろう。
これが今回の結論なのだ。


多呂さ(季節は暑い夏と寒い冬しかなくなりましたね。快適な春と秋がどんど
ん短くなっているような気がしませんか)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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66 生きる希望

『スマート キーラン・ウッズの事件簿』
 キム・スレイター 作 武富博子 訳 評論社

 YA(ヤングアダルト)小説です。


 青を基調としたさわやかな表紙。
 ですが、はじまりは少々刺激的です。
 キーラン少年が川で死体をみつけたところから、物語ははじまります。

 キーランはこの死体が事故ではなく事件にまきこまれたのだと直感します。
 しかし調べに来た警察官からは事故として片付けられ、
 関わらないように注意を受けるのですがそれではおさまりません。

 調査用のノートを作成し、
 テレビドラマの事件解決をなぞるように、自ら調査を続けます。

 キーランは母親の再婚相手に時に虐待され家で安心できる時間をなかなかも
てず、学校でも学習補助のクレーン先生と一緒にいることで他の子どもたちか
らしょっちゅうからかわれています。

 家でも学校でもキーランには平穏なときがなかなかありません。
 
 長田弘さんの「ぼくの祖母はいい人だった」という詩にこういうくだりがあ
ります。

 無限につづく平日にあっては、悲しみも祭日である。

 キーランの平日もそうです。

 謎解きがメインでも、虐待の悲惨さが声高に語られるわけでもなく、淡々と
物語はすすみます。殺人や虐待も日常の延長線上に起きていることが伝わって
きます。

 キーランが殺人事件の謎をどう解くのか、
 義父や義弟との関係はどうなるのか、
 薬物やホームレスなど社会問題も交えながら、はたしてどう着地する物語な
のか最後まで引き込まれました。

 デビュー作でこれだけの物語を書き上げた作者の力量に次作の期待もふくら
みます。二作目は既にイギリスでは刊行されているので早く邦訳されますよう
に! 
 

 もう1冊ご紹介。こちらも語り口が印象的です。

 『青空のかけら』
     S・E・デュラント 作 杉田七重 訳 すずき出版

 「この地球を生きる子どもたち」のシリーズ通算30冊目の本書。
 このシリーズは子どもに生きる希望や夢を伝えたいという版元のつよい思い
が一冊一冊に感じられ、出る本の期待を裏切られたことはありません。
 
 シリーズ本どれにも挟まれているちらしに「この地球が抱えている様々な問
題に立ち向かう子どもたちを応援します!」という言葉があります。これを読
むたびに版元の心意気を再確認するのです。

 さて、本書は児童養護施設に姉弟で入ることになってしまったミラとザック
の物語です。ふたり一緒に引き取ってくれる里親がなかなか見つからず、施設
では古株になっていきます。

 施設での暮らしの描写、自分たちを求めてくれる人を待ち焦がれる気持ち、
どの描写も先に紹介した『スマート』と同じく、語り口が繊細で声高ではあり
ません。

 悲しいこと、うれしいこと、日々の小さな出来事ひとつひとつが精密に言葉
でデッサンされ、文章を絵でみているかのようでした。

 とくにミラが絵をかいたり文章をかいたりすることで、気持ちが落ち着く様
子は心に残ります。

 生きている中で嫌なことやうまくいかないことは常です。
 そんな時、どうしたら自分をいい状態にもっていけるかを知っているのはと
ても大事です。ミラはそれをよく知っていました。

 読後の余韻は深いものがあります。

 本書も作者のデビュー作品。

 掘り出し物の2冊はどちらの装画もすてきです。
 『スマート』は祖敷大輔さん、
 『青空のかけら』は中のイラストもすべて原書と同じくケイティー・ハーネ
ットさん。こちらは読後カバーをはずしたときのお楽しみもあります。
 

(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
15巻は絶賛発売中! ★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
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 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
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 皆さんのご応募、お待ちしております。

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1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
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 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

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 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 ここ数日、肩や背中が凝っているというか、固くなっていて、しかも眠気が
半端ない状態が続いています。これはなんか病気なのか、はてまた単なる老化
現象なのか、とりあえず今日、血液検査に行って来ました。結果は3日後だそ
うです。次回のこの欄で発表…って別に興味ないですね(w(あ)

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