[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.671

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■■ [書評]のメルマガ                2019.02.10.発行
■■                              vol.671
■■ mailmagazine of book reviews     [世の中、そうは甘くない 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<110>『ウーパ!』は、昭和的中高年オトコのアコガレ体現漫画

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→92 本はいいよ

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第109回 歴史は繰り返し、結局人は学ばない

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→すいません、ほぼ日の経営。(2018/10/22 川島蓉子著 日経BP社)

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<110>『ウーパ!』は、昭和的中高年オトコのアコガレ体現漫画

 二月だというのに、温かい日が続いている。

 天気予報でも、「四月上旬並み」とか「三月中旬の暖かさ」という文言をよ
く聞く今日この頃。
 温暖化ってやつですか? 冬なのに、こうも温かい日が続くと、ホンマに地
球は大丈夫なんかいな、とかなり本気で北極のシロクマさんが心配になってき
たり。

 以前住んでいた神戸市北区は、神戸市内唯一の「積雪区」で、この冬にも既
に何度か雪が積もったようだが、それでも、せいぜいが2〜3センチの積雪で、
以前に比べると格段に積雪量は少なくなっている。

 神戸市北区は、わしの故郷でもあるのだが、わしが小学生から中学生のころ
…だから昭和の30年代末から40年代ころには、雪が積もる日というのは、ひと
冬の間に、今よりもっと頻繁にあったし、毎年1回〜2回ほどは「大雪」も記
録して、積雪量は30センチほどに達したりもした。

 その小学生のころ、家の裏手を流れていた川は、冬になると「凍る」のが当
たり前で、浅い流れの上に白くて薄い氷が幾層にも重なるそれは、さながらミ
ルフィーユのようで、これを足で蹴って割ると、「しゃくしゃく」ととても小
気味よかった。

 裏山を少し入ったところにあった落差3メートルほどの滝は、冬には全体が
凍りつき、あちこちにつららを下げた氷瀑となった。
 この氷柱に石を投げて突き崩すのも、冬の子どもの遊びの定番だった。
 大きいものでは直径30センチほどだったか、上下がつながった氷柱を、石を
投げたり棒でたたいては突き崩し、「戦利品」の先のとがった氷柱を持ち帰っ
ては、得意げにそれを舐めていると、「汚い!」と母親にどつかれた。
 確かに、滝の上流には集落があって、その生活排水もそこには流れ込んでい
るのだった。

 山の棚田の中にあった溜池にも、冬になると厚い氷が張って、その厚さを足
で踏んでは確かめつつ、向こう岸まで氷の上を歩いて渡るのも、男の子の冒険
遊びの定番だった。
 経験的に、池の縁に近い方は氷が厚く、真ん中に行くほど薄くなるのは知っ
てたので、慎重に足で探りながら、踏み出した足の先で「ピシッ」とか「メキ
ッ」という音が聞えたら、急いで撤退するのもまた、男の子の勇気なのだ。

 昭和40年代、神戸市北区には、相次いで団地や新興住宅地が開発された。そ
こへ神戸や西宮の街場から越してきた子どもたちは、初めて体験する冬の雪や
氷に興奮するのか、溜池に張った氷に、おそるおそる乗ってみると、これが割
れないのをいいことに、「わ〜〜い!」と一気に走っては、真ん中あたりで
「ずぼん」と池に落ち、氷の下で水死する…というような事故も、幾度か報告
された。

 が、この近年…って、ずっと住んではなかったので、何年前くらいからなの
かはわからないのだが、雪が積もっても30センチにもなることはまずないし、
川も凍らず、池に氷は張っても、とてもそこに乗ろうとは思えない、薄い氷で
しかない。

 滝が凍る様も、この何十年か、地元では見たことがない。

 小学生のころ、雪が積もると山の中で、立木や灌木を「柱」にして、雪で壁
と天井を造った「かまくら」風の、当時わしらの間では「いえ」と称していた
秘密基地をつくるのが楽しみだった。
 自作の竹スキーやそり遊びに興じた後、持ち寄った食い物を「いえ」で分け
合って食ったり、持ち込んだ漫画を読んだり。

 冬でなくとも、「いえ」は常に仲間で作っていた。
 やはり山の中で、立木を中心として笹や灌木を周りに立てかけた原始時代竪
穴住居風のものやら、川が崖を穿った窪みを砦風に仕立てたもの、休耕田をひ
たすらに掘っては、灌木や笹で屋根を拭いた上にカモフラージュの土をかぶせ
たトーチカ様のものとか、果ては電車の線路わきに積んであった枕木と、製材
所から失敬してきた材木を使って、ツリーハウスを建設しようと試みたことも
あった。

 山の中などを徘徊中に、自分たち以外が作った「いえ」を発見すると、これ
は徹底的に破壊するのが「掟」でもあったので、わしらの「いえ」も、完成か
ら数週間、早い時には数日後には、たいてい誰かによって破壊されるのが常だ
った。

 「いえ」すなわち「秘密基地」遊びは、かつて男の子だった人なら、だれに
も経験があると思うのだが、これを大人になってから再びやってしまった顛末
記が、先ごろ「モーニング」での連載を終えた、守村大『ウーパ!』である。
 この漫画、「まんが新白河原人」とのサブタイトルのとおり、元は同じ「モ
ーニング」に連載された絵付きコラム、「新白河原人」が好評につき、その漫
画版として連載がスタートしたもの。

 2005年、連載作品を完結させた守村が、次の作品の構想を練るうち、自身が
疲れ果てていることに気づき、「モノ、カネに縛られる生活は、もうイヤだ!」
と一念発起。家族の反対を押し切り、福島県白河に買った山林で、自給自足の
生活を始める。ときに守村大、47歳。

 自力で山林の樹木を伐採し、開墾した土地にやはり自力の見様見真似でログ
ハウスを建設し、そこを拠点として畑を造り、鶏を飼っては卵と肉を確保した
り、炭焼き小屋を造っては燃料の炭を焼いてみたり、ゲストハウスのツリーハ
ウスやサウナ小屋まで自作してしまったり、震災で瓦礫と化していた大屋石を
譲り受けては、パン焼き窯まで自製してしまったり。

 もちろん、すべてがすんなりと運んだわけではなく、その過程は失敗と挫折
と試行錯誤の連続で、当初の完全時給自作の目標も、電気や水洗トイレはやは
り必要、と現実と妥協してみたり、なのではあるが、その生活の中での様々な
人たち…炭焼きを教えてくれた地元の爺さんや、猪肉を分けてくれるやはり地
元の猟師さん、あるいは守村が「師匠」とも「親分」とも呼ぶ、釣りとその釣
竿及びルアー作りの名人、等々…との出会いと交流が、読んでいるととても羨
ましく思えてくる。

 それを現実に実行できるかどうかは別にして、『ウーパ!』は、男子なら誰
しも、「いいなあ…」という羨望と共に、ガキのころのノスタルジーを掻き立
てられる漫画なのだ。

 と思っていたら、ふと立ち寄った本屋で、これまた男の子の「秘密基地」願
望を著しく刺激する漫画を見つけてしまって、本稿ではこれにも言及する予定
だったのだけど、今月はちょっと野暮用が混んでいて時間がない。
 なので、そちらは、また来月のココロ、なのだった。


太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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92 本はいいよ

『ぼくは本を読んでいる。』
 ひこ・田中 講談社

 タイトルが物語すべてを表しています。
 そう、これは「ぼく」が本をひたすら読んでいるお話です。

 「ぼく」(ルカという少年です)の家には両親が「本部屋」と呼んでいる部
屋があり、そこには、壁一面に本棚があり、テーブルとイスも置いてある、読
書には最適の部屋です。

 ルカはかつて幼い頃はそこでよく絵本を読んでもらっていましたが、
 小学5年生になったいまは、もう親に本を読んでもらう年齢ではありません。

 そうして、いつのまにか「本部屋」に入らなくなっていたのですが、
 ひょんなことから、久しぶりに入ったその部屋で、
 ちょっとそそられる本をみつけました。
 
 本の奥付をみると、どうやら両親のどちらかが子どもの頃に読んでいた本ら
しく、ルカは親に内緒でその本を読みたくなります。

 その本は岩波少年文庫の『小公女』。

 タイトルがわかったとき、思わず興奮してしまいました。
 子どもの頃、私も大好きだった本なのです。
 最初に読んだのはいつだったかは思い出せないのですが、
 おそらく小学生だったように思います。

 ルカの読書を追っていくのは、e.o.プラウエンの『おとうさんとぼく』に描
かれているコマ漫画のようです。それは、ぼくが読んでいる本をおとうさんが
背中越しに読んでいるうちに、おとうさんの方が夢中になって、いつのまにか
二人が交代している内容で、私もまさにその状態になっているおとうさんの気
持ちでした。

 ルカが『小公女』に夢中になったおかげで、転校生の読書好き少女カズサと
も仲よくなり、好きな本について語れる仲間がいる喜びも伝わってきます。

 この物語は子ども時代の楽しさが、熱量高すぎず、さらりと書かれており、
その適温は大人にも読みやすいものになっています。

 現役の小学生に、図書館や学校の図書室で出会って欲しい物語です。


 次にご紹介するのは絵本です。
 
 『数字はわたしのことば 
    せったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』

      シェリル・バードー 文 バーバラ・マクリントック 絵 
                    福本友美子訳 ほるぷ出版

 実在した数学者ソフィー・ジェルマンの伝記絵本です。

 ソフィーは幼い頃から勉強することが大好きでした。
 少女時代、パリはフランス革命さなかだったため、外は危ないと家の中で過
ごす時間が多くありました。
 その時間を使って、ソフィーは数学の勉強をし続け、気づくのです。
 

   ”数学者が数字をつかうのは、詩人がことばをつかうのと同じだ、
   とソフィーは気づきました。”


 ソフィーは数学者になりたい、数学を自分の言葉にしたいと強く思うように
なります。

 時代的に女性が勉強を志すのは難しく、教授も女性に教えようとは思わない、
それでも、ソフィーはあきらめず、大学の数学の課題を入手できたときは、男
性名でレポートを送るなど、粘り強く自分の学問を深めていきました。

 あきらめないソフィーの強さを、バーバラ・マクリントックは繊細に描き、
見ごたえがあります。特に勉強に集中しているソフィーの眼差しは印象に残り
ました。

 学ぶことが大変な時代に、穴をこじあけていくのは、数学が好きだという強
い気持ち。進学などで将来を考えている中高校生にもおすすめしたい絵本です。

 最後にブックガイドをご紹介します。

 『スポーツするえほん』中川素子 岩波書店

 絵本研究の第一人者による、スポーツを描いた絵本60冊を様々な切り口で紹
介しています。

 目次をみてみましょう。

 体を動かす楽しさ
 動きの美しさ
 運動会からオリンピックまで
 コミュニケーションが生まれる
 自分にうちかつ
 伝統の力
 運動の技術
 スポーツに必要なこと
 スポーツと社会
 スポーツ・ファンタジー
 
 登山やバレエなど、スポーツを広くとらえ、ゆるやかなくくりになっている
ところがおもしろいガイドになっています。

 このメルマガでもご紹介した絵本も数冊入っていて、なるほど、スポーツと
いう枠で読むとみえてくるものに新鮮なものを感じました。

 読みたいと思っている一冊は、このガイド本の著者である中川素子さんの絵
本。

 『スタシスさんのスポーツ仮面』(岩崎書店)はリトアニア生まれでポーラ
ンド在住のアーティスト、スタシス・エイドリゲーヴィーチュスが絵を描いて
いて、スポーツを「深く多様に」紹介しているようで興味津々です。

 絵本の世界も広い。
 ガイドを読んでいるだけで、スポーツしたくなってきます。
 

(林さかな)
会津若松在住。「本の雑誌」新刊めったくたガイド海外文学担当。
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第109回 歴史は繰り返し、結局人は学ばない

 カズオ・イシグロはいったん休憩にしよう。でも、いまもまだしっかり読ん
でいるので、来月以降になるが、小欄で紹介していこうと思っている。
 今月は、楽に行こう。すぐ読めてしまう本を紹介する。それでも表題の如く、
テーマは重たい。重たいけど、どうしようもないと思わずに、なんとかしよう
と前向きに考えていきたい。それができていれば、人類はとっくに争いのない
世界を構築しているのだけど・・・・・・。
 明治時代について考えて、現代を見つめ直す、という作業をするための本。

『行きづらい明治社会 −不安と競争の時代』(松沢裕作 著)(岩波書店)
(岩波ジュニア文庫)(2018年9月20日 第1刷)

 本書は、「ジュニア文庫」というくらいだから、読者層を小中学生向けにし
てあるが、大人も読める本である。むしろ大人が読むべき本である。書いてあ
る内容が経験値のあるなしで、理解の速度が速くなるかゆっくりになるか・・
・。自分にも当てはまることが書かれていれば、理解は早い。歴史学とは過去
を研究し、現代に生かす学問であるならば、本書は明治時代を研究して、それ
を我々が生きている今、現代と比較しているわけで、さまざまなことを既に経
験している大人にこそ読んでほしい本になっている。

 四民平等、殖産興業、富国強兵等々のスローガンの下、明治維新という革命
を経て、まったく新しい政府を作り、近代化に邁進し、日清日露とふたつの対
外戦争に勝ち、ほぼすべての制度や様式がアジア初となり、国際的にも重要な
地位に上った日本という国家が、明治という時代である。いまを生きている我
々にとって100年以上前になってしまった明治時代とは、明るく元気な印象
があり、若さ溢れるまさに青春の時代であろう。坂の上の雲。

 しかし、本書では、明治時代とは決して明るい時代ではなかった、というこ
とを伝えている。題名が、『行きづらい明治社会』なのだ。

 著者は、まず明治時代の社会を想像する。そして、長く続いた江戸時代と比
較して、明治時代とは、社会が不安定であり、ひとりひとりはとても不安を持
って生活していたのではないか、と仮説を立てる。江戸時代までの封建社会で
は、身分が固定され、生まれた社会から逸脱することはできなかった。決めら
れた範囲の中で生きていくしかできない社会だった。百姓の子は決して武士に
はなれない。現代の我々からみれば、それは不合理であり、理不尽なことと映
るかもしれない。しかし、想像をすこしたくましくしてみれば、それは逆に生
きやすい社会であるのではないか。つまりある一定の範囲で生きていけばいい
わけで、血のにじむような努力をしなくてもよかったということだろう。

 明治維新後、日本は身分制が取っ払われた。百姓の子も大臣や博士、大将に
なれる。立身出世。末は博士か大臣か。・・・という社会が、曲がりなりにも
実現された。人々は努力が奨励され、頑張ることが推奨される。

 努力すれば、必ずそれが報われるのであれば、何の問題もない。しかし世の
中、そうは甘くない。頑張っても報われないことの方が多いかもしれない。

 著者は、この“頑張れば報われる”ということが、実はある種の「わな」=
罠、であると云い切る。
 “頑張れば報われる。報われずに貧乏のままでいるのは、その人の努力が足
りない”という考え方が、明治以降の日本を覆う。それを歴史学の世界では
「通俗道徳」と呼んでいるそうだ。勤勉に働くこと、倹約をすること、親孝行
をすること、そういうことを実践すれば、必ず報われるという。明治の人たち
はその“通俗道徳のわな”に嵌まってしまっていた、というわけだ。しかしこ
れが妄想であることは、その後の歴史が実証している。我々は努力しても必ず
しも報われないことをよく知っている。

 明治時代は、現代のように、生活保護の制度はない。さらに国民皆保険制度
もない。病気や怪我で働けなくなったら、それでおしまい。ゲームオーバー。
また低賃金で貯蓄の余裕もない働いて働いて働いても最下層民たちは貧民窟か
ら抜け出せない。
 末は博士か大臣か、という言葉はある一定の階層以上の人たちだけに云える
ことであり、大多数の人々は義務教育である尋常小学校が終了すれば、社会に
出て働かざるを得ない。それ以上の学校へ行こうと思えば、膨大な学費がかか
る。下層階級にその余裕はない。
 明治という時代は実はとても生きづらい社会だったわけだ。

 明治時代は、近代化を急ぐ過程において、そうした下層階級から意図的に目
をそむけていた節がある。財源は国家を建設する設備(道路鉄道港湾学校軍隊
など)に廻さなければならなかった。貧民対策をしている余裕はない。病気に
なったり運悪く財産をなくしてしまったりしたときに、それに助ける施策、困
っている人に手をさしのべることは、世の中全体として許されることではなか
った。まさに、お国のために、であり、滅私奉公の社会であった。

 翻って現代はどうだろう。

 我々は、弱い人たちを助けているだろうか。立派な憲法を持ち、それに基づ
き生活保護制度が完備され、国民皆保険制度が充実している。しかし、「自己
責任」という言葉で弱き者たちや一定の道から外れてしまった人たちを区別し
ていないだろうか。

 よくわかっているように現代も明治時代に劣らず、不安定な社会となってい
る。それは誰もが認めている。みんな生きていくことにとても不安なのだ。
 人が生きていくことにそれほど不安を覚えずに生活するためにどうすればい
いのだろうか。100年前の明治時代に学び、我々は何をどう考えて、実行し
ていけばいいのだろうか。

 ますます、考え込んでしまう一冊だった。


多呂さ(あれだけの不祥事を抱えていて、どうして誰も責任を取らないのでし
ょうか。安倍内閣は。云いたい放題で無責任な副総理がその原因なのでしょう
か)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
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すいません、ほぼ日の経営。(2018/10/22 川島蓉子著 日経BP社)

 私がいる会社では、昨年末に採用ホームページのリニューアルが決定し、現
在、企画制作が進んでいます。リニューアルの最大の目的は、売り手市場が進
む新卒採用対策です。うちの会社はIT系企業なのですが、現時点でITに興味の
ない学生でも、業界や会社に興味を持つきっかけとなるような、そしてそこか
ら応募につながるようなページづくりを目標に、企画がスタートしました。

 検討の開始当初、企画の参考にするため、他社の採用ホームページを何社も
見ていたのですが、とある業務用機器のメーカーさんのページで、これはとい
うものを見つけました。

 その会社の採用ホームページでは、「部門紹介」というページが設けられて
いるんですね。開いてみますと、製品が工場内でどのような人の手を経て作ら
れているか、そして社内のどのような部署がそれに関与して、最終的にお客さ
んの元へと届くのか、すべて流れ図をつかって説明されていたのです。

 図の所々には、部署の名前や社員の写真が表示されており、そこをクリック
すると、社員のインタビューがでてきます。つくっているのが業務用機器とい
うこともあり、一般消費者にはまったく馴染みのない商品なのですが、これな
ら予備知識がない学生でも、その会社のイメージがつかめるなと感じたのです。

 そうとなれば、この方法を自社でも応用できないか、さっそく試作してみる
ことにしました。私が勤めているのは、いわゆるシステムインテグレーター。
顧客企業の業務を理解してシステムを提案し、実際につくり、運用する、とい
った一連の流れをすべて手掛けています。そこで、会社にある部署をすべて紙
に書きだし、それらの部署が仕事でどのように繋がっているかを、実線で結ん
でいったのですが・・・これがなかなか難しい。

 たとえば「システムをつくる」と言っても、その中には開発する部署の他に、
インフラを構築する部署や、セキュリティをチェックする部署、品質を担保す
る部署など、様々な組織が絡みあっています。また1つの部署=1つの役割、
ではないため、結ぶ線の数も、その分増えていくのです。なんとか完成させた
図を見てみると、部署間の関係性を正確に表現しようとしたあまり、パッと見
て複雑で、この上なくわかりにくいシロモノに。。。

 もっと簡略化した図にできないかと思い、誰かにヒントをもらおうと、現場
の部署の方にも相談してみたところ、意外にも「いいじゃん、これ」という反
応が。ただ、新たな課題も提示されてしまいました。本来の組織図は、すべて
の部署が同列になっているんだから、この図もそのへん気を遣ってよ、とのこ
と。つまり、システム開発の会社を図にすると、どうしても開発をやる部門が
真ん中に配置されてしまい、間接部署は脇に追いやられてしまうんですね。開
発が偉いわけじゃないんだから、それをどうにかしろと。

 いきなり妙案が浮かぶわけでもなく、あれこれと考えていた時、仕事帰りに
立ち寄った書店で、なんとなく手にとったのが本書でした。最初はまったく買
う気はなかったのですが、目次の中に「人体模型のような組織図」という項目
があり釘付けに。その項を立ち読んだ後、すぐレジに持っていったのでした。

 この本は、かの有名なコピーライターでもある糸井重里氏が設立し、ジャス
ダック上場も果たしている「株式会社ほぼ日」についての解説本です。著者の
川島氏と糸井氏の対談形式で、話は進んでいきます。

 さて、人体模型のような組織図とは何ぞや?と申しますと、ほぼ日で社内向
けに作っているという、ヒトの内臓を模した組織図のことなのです。人間の体
内には様々な臓器があるけれど、すべてがつながって初めて人体になっている
から、腎臓より心臓のほうが偉いということはない。それは会社でも同じで、
どの部署がえらい、さらにどの役職がえらいということもないから、人体を模
した組織図を作っている・・・と。公表されていませんが、実際の組織図には
社員の名前も明記されているらしいのです。

 よく「フラットな組織づくり」を標榜する会社は、特にベンチャーに多いで
すが、経営層も含め全社員がフラットな状態を目指そうとする組織は、なかな
かないのではと思います。

 この件も含め本書の読後に抱いた感想は、ほぼ日という会社(というか糸井
重里という経営者)は、自らがどうありたいかというポリシーを明確に持って
いるんだなということ。そして、それを社内外の人たちに、いかにわかりやす
く伝えるか、表現するかを追求しているんだなということでした。

 本書はほぼ日における、事業、人、組織、上場、そして社長という全5章で
構成されています。対談形式なので、肩の力を抜いて読むことはできるのです
が、すべての項において企業の、または社長としてのポリシーがはっきりとし
ているんですね。とてもじゃないけど、糸井氏がまともな就職をしたことがな
いという話が信じられないくらいに。
 
 また、会社運営にコピーライターとしての技量を発揮されているのも面白い
と感じた点です。中でも、「やさしく、つよく、おもしろく」というほぼ日の
行動指針がどのような経緯で生まれ、今に至っているかが書かれていた件。社
長が理念や指針を作っても、それが浸透しなければ意味がないわけですが、何
度も言葉を紡いで出来上がったという話はリアリティがありました。社員が本
当に、この言葉を大事にしながら仕事してるんだろうなと。

 正直なところ、第4章で語られる、ほぼ日が株式を上場した理由のところだ
けは、読み手により賛否両論ありそうだなとは思いましたが、会社にとっての
ステークホルダーに対してのスタンスが明確で、世の中においてどのような存
在でありたいかまでをわかりやすく語る糸井氏は、「すいません」と謝る必要
がないくらい、立派な経営者であると思ったのでした。

 さて、自分の会社の組織を、知らない人にどう表現していくか。ほぼ日の真
似をして、人体模型のような図を書くこともできるんでしょうけど、結局、そ
れをもって何を伝えたいのかがわからないと、意味がないですね。自社の存在
意義や価値とは何か。根本的なところが明確に表現できれば、組織の表現方法
のヒントも出てきそうな気がしています。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 配信遅くなりました。ある程度まで発行準備が出来たところで外出したら、
その間にパソコンの更新がかかり、それまでの作業がフイになってしまいまし
た。それで、しばし、脱力してました…。

 まあ、保存してなかったのが悪いんだけどさ。

 二度目の作業なので、きっとクオリティアップでお送りしております。……
多分。(あ)

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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #102『カセットテープ少年時代』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『鮨職人 VS 堀江貴文』堀江貴文 ぴあ

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『愛し続ける私』(十朱幸代著・集英社刊)

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#102『カセットテープ少年時代』

 テレビで見る有名人と、街中で偶然出くわしたりすると、やっぱりちょっと
驚きますよね。
 でも、知人とか友人が、たまたま見たテレビ番組に出ているのを見た時の方
が、何倍もびっくりしません?

 いや、実は昨年そういう経験をしたんですよ。
 何気なく見ていたBS12チャンネル。日曜の夜でした。
『超ムーの世界』という、超常現象やらUFOやらを扱うオカルト番組を見て
いて、終わってからもそのままチャンネルを変えずにいたら、『ザ・カセット
テープ・ミュージック』という音楽番組が始まったんです。

 と言ってもミュージシャンは出て来なくて、スタジオにおじさん二人が座っ
てくっちゃべってる。アシスタントに元アイドリングの女子が一人ついてまし
た。失礼ながらいかにもBSな感じのチープなつくりの絵面。
 でもまあ音楽番組らしいので、見るともなしに流していました。

 すると、どうもおじさんたちの声に聞き覚えがあるんですね。
 ちょっと高い声の方は、あ、これ、マキタスポーツかな、と思って、画面を
見たら、そう、確かにマキタスポーツでした。
 そしたら、もう一人の方は?

 よくよく見ると、あれ、この眼鏡の風貌、低めの関西弁……ってこれ、会社
の後輩じゃん! と気がついたわけです。
 厳密に言うと去年の三月で早期退職したので、「かつての後輩」なんですけ
ど。

 と言っても、それほど密に仕事をしていたわけではなく、何かの折にちょっ
と一緒になったぐらいだった気がする。
 プライヴェートでは、会社の先輩が組んでいるバンドのライブで顔を合わせ
たことがあったっけ。ぼくが前座で出て、彼もゲストとしてそのバンドと一緒
に2曲ほど演奏していました。テレキャスを弾いてたな、確か。

 だから彼が、実は音楽評論家としても著書を何冊も上梓しているとは露知ら
ず、ましてテレビで活躍しているとはねぇ、のスージー鈴木であったのです。
あ、そう言えば彼、会社でもスージーって呼ばれてました。

 内容はいたってシンプルで、回ごとにテーマがあり、それに即してスージー
とマキタスポーツがそれぞれ選曲。カセットテープに録音して持ち寄ったもの
を聴きながら、その曲を選んだ理由をあれこれしゃべる、というだけ。ちなみ
に元アイドリングの女子は、ラジカセのボタンを押す係で、後はおっさん二人
に音楽的無知を突っ込まれる無邪気なボケ役です。
 もともと深夜枠で放送されていたものが、日曜9時台にのし上がったらしい。

 その深夜時代の内容が、なんと書籍化までされていると知ったのは、ちょう
ど番組を偶然見て暫く経った頃。紀伊国屋書店笹塚支店で、ひっそりと棚に眠
っているのを発見しました。
 それが本書、マキタスポーツ×スージー鈴木『カセットテープ少年時代』な
んです。

 早速、購入。

 番組のタイトルは先述の通り『ザ・カセットテープ・ミュージック』なんで
すが、本の方はなぜか『カセットテープ少年時代』になっており、サブタイト
ルもついてまして、こちらは『80年代歌謡曲解放区』です。

 といっても取り上げる音楽はかなりアバウトで、必ずしも歌謡曲に限らず、
当時ニューミュージックと呼ばれていたフォーク、ロック系までを含めた日本
のポピュラー・ミュージック全般。時代も80年代が中心ではあるものの、60年
代から90年代くらいまでOKにしている模様。

 マキタスポーツには既に『すべてのJ−POPはパクリである』という挑戦
的なタイトルの著書があって、音楽的に細かい楽曲分析をする人であることは
知っていました。
 その曲のコード進行はどうなっているか、それはなぜか、あるいは何を表現
したかったからなのか、歌詞との関係は、など、かなり専門的に突っ込んで調
べていくのが楽曲分析ですが、ここにスージー鈴木がさらに深い考察を加えて
いくのが、最大の特徴でしょうね。

 それに、マキタスポーツはもっぱらメロディやコード進行に着目するのに対
し、スージーはより歌詞へのこだわりを見せる。
 この二人のコンビによって、分析が立体的になり、より面白くなっている所
以です。

 ジャズとかクラシックでは当たり前に行われている楽曲分析。それがニュー
ミュージックはまだしも、歌謡曲に対して行われることはあまりなかったんじ
ゃないかな。
 ややもすると、音楽的には軽視されがちなジャンルですし。
 って言うかぼくも若い頃は洋楽志向で、軽視してました……ってことは前回、
山口百恵のところでも書きましたね。

 楽曲分析である以上、音楽用語は頻出します。
 番組内でもマキタスポーツが時々「メジャーセブンスとかディミニッシュと
か平気で出てくる音楽番組、ないよ」と言っていますが、確かにその辺容赦な
い。

 しかし怯む必要はありません。
 この二人が独特な言語感覚で、わかりやすく翻訳してくれるからです。これ
が従来のくそまじめな楽曲分析になかった画期的な面白さですね。

 また、よく泣くんです。
 初めてその曲を聴いた時の感動が蘇ったりして。
 年を取ると、脳の中の感情を抑制する機能が衰えるので、涙もろくなったり
笑い上戸になったり怒りっぽくなったりするそうですが、まさにおっさんなら
ではの味。
 なので、気楽に楽しめて、ちょこっと音楽理論もわかった気になれるという、
実にお得な一冊なんですよ、奥さん(ここ、マキタスポーツ調)。

 ところで、彼ら及び番組スタッフには、音楽的評価という点でこれまでスポ
ットライトが当たってこなかったアーティストに光を、という気持ちが強いよ
うで。

 例えば日本語ロックの創始者ははっぴいえんど、といのがほぼ定説で、日本
のロック史では彼らばかりに光が当たっている。
 しかし、そういう点ではサザン・オールスターズの貢献ももっと語られるべ
きではないか、という問題意識(?)のもと、本書ものっけからサザンに一章、
つまり番組で言えば一回分を割いています。
 ついで、その衝撃的な歌唱力についてあまり触れられない松田聖子が一章。
音楽的な深さについてあまり語られないチェッカーズにも一章。てな具合。

 既存の音楽史を先入観念としない、その自由さたるや良し。

 この番組に遭遇してから、ほぼ毎週見ております。
 新春一発目は「あけましておメジャーセブンス」という素晴らしくくだらな
いテーマで、メジャーセブンスというモダンでおしゃれなコードがいかに日本
のポピュラー音楽に取り入れられ定着していったかを歴史的に振り返るという、
新年と何ら関係ないんですが、非常に濃い内容でした。

 本書ともども番組の方も強くご推薦しまして、新年のご挨拶に代えさせてい
ただきます。

 本年もよろしくお願い申し上げます。


マキタスポーツ×スージー鈴木
『カセットテープ少年時代』
2018年6月1日 第1刷発行
KADOKAWA

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
「平成最後」という言葉が乱舞した年末でしたが、別に「平静」な気分のわた
くし。ただ、今年還暦なので、「新元号元年=60歳」ですから、少なくとも向
こう十年間は自分の年齢の下一桁に1を足せばよいので、いままでのように
「あれ、今年って平成何年だっけ?」と混乱することはなさそうです。ただし、
自分の年齢を忘れなければ、ですが(笑)。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『鮨職人 VS 堀江貴文』堀江貴文 ぴあ

 その昔、ホリエモンが、寿司職人が何年も修業するのはバカだとだと言って
話題になった。寿司職人をバカにしていると捉えた人も多かったようで、この
意見の賛成派、反対派のやり取りもそれなりに興味深かった。
https://www.j-cast.com/2015/11/02249615.html?p=all

 それから三年、今ごろになってこんな本が出た。

 ホリエモンが、全国の若手の寿司職人にインタビューしていく内容で「すし
屋に修業は必要か?」と来るから、いかにも面白そうではないか。帯について
いるキッチコピーの「この本は本当に面白い!」は余計だけどもw

 一読して思ったのは、件のホリエモン発言は元々寿司職人をバカにした発言
ではなさそうだということ。上記J-castの記事から引用すると、もともと

「今時、イケてる寿司屋はそんな悠長な修行しねーよ。センスの方が大事」
「そんな事覚えんのに何年もかかる奴が馬鹿って事だよボケ」

 という発言から始まったようだ。しかし、そうした発言が出てくる背景には、
若手のセンスのよい寿司職人を何人も知っていて、彼らを見ていての発言であ
ったように思えた。というのも、ホリエモン、ここに出てくる寿司職人さんの
店に何度も通ったり、一緒に海外に行ったりといった付き合いをしているよう
なのだ。いつ初めて店に行ったかは書いてはないのだけども、おそらく3年以
上の付き合いはあるのだろう。

 要するに、若手の寿司職人の姿を見て、寿司職人の世界も変って来つつある
のだということを言いたかった。それがホリエモンだとああいう言いかたにな
ったということだ。

 そんなわけで、都合8人の新進気鋭の寿司職人にホリエモンがインタビュー
している。だいたい15,000円から30,000からスタートする高級店である。東京
の店が多いが、福岡や札幌の店もある。職人さんたちの年齢は30〜40代で、昔
の、入っても何年も寿司を握らせてもらえない、しごきを知る最後の世代であ
るとのこと。今では、そういうことを続けていると誰も入ってこない・・・要
は、とうの昔に寿司職人の世界は変っていた・・・なるほどね。

 その上、彼らはインスタグラムなど、ネットも使いこなしている。宣伝ツー
ルとして使うのはもちろんだが、仕入れのツールとしても使う。LINEで業者か
ら写真を送ってもらい、これはという魚をLINEで注文したりする。実物見ない
で大丈夫かと思うが、魚の目利きに自信があるからこそできることなのだろう。
もちろん他の職人の仕事を見ることもできるから勉強にもなる。

 そして、自分の店や寿司に対するこだわりも人一倍あるのである。たとえば
普通飲食店をやろうとすると人通りの多いにぎやかなところでやろうとするの
が定石だと思うが、あえて人通りがほとんどないところを選んで店を開いたり
する。店を出た時「現実に引き戻されない静かな場所」でないと、食べた後の
余韻が良くないという判断だろう。

 またカウンターのL字だと客に自分たちの足が見えてしまうのは良くないだ
ろうとI型のカウンターの店にするとか、従業員の修業用に個室カウンター
(個室で職人がついて寿司を握る)を作るとか、人によっていろいろなこだわ
りがある。

 もちろん苦労話もあって、客が来ないのに10年握り続けていた人には驚いた。
他にも最初から客の機嫌が悪いことを察知して今日入っている魚の最高の部位
出すとか全力を傾けてもてなしたのに、食べログで酷評されてムダに終わって
凹んだとか・・・あ〜あるよな、こんなこと。

 そんなコネタも書いてあるけども、読んで一番思ったのは、修業よりも「セ
ンスの方が大事」だということはこういうことかと・・・。もちろん努力を否
定するわけではないけども、寿司職人としての適性のある人がやってこそ成功
するんだろうなと。それがこの本のメインの主張なのだろう。

 魚を見る目が典型的なのだけど、良い寿司職人はセンスがいい。魚を見ただ
けで、これが良い魚かどうか分かる。その、良いか、悪いかの基準がべらぼう
に高い。だから安い魚を使った寿司でも、高い。だって安い魚でも、良いもの
は高いのだから。

 海外の寿司屋で働いていた人の話も興味深かった。かつてアメリカの初期の
寿司ブームの際、ネタはアメリカで水揚げされていたものだった。日本と違っ
て昔から魚を捕っていた国じゃないので、日本では乱獲されてほとんどいなく
なっているようなよい魚がアメリカでは容易な手に入ると報道されていたのを
覚えている。

 しかしここに出てくる方の話を聞くと、日本から持ってくるネタの方がいい
らしい。とはいえアメリカだと日本から空輸している間に鮮度が落ちるから、
やはりおいしい寿司を食えるのは日本だという。

 そんなわけで、本当に美味い寿司を食いたい外国人は、どうしても日本に来
て食べざるを得ないのだそうだ。だから寿司目当てに日本に来る人もいる。も
てなす方もがんばってる・・・そんな感じで、ホリエモンは日本の寿司業界の
未来を楽観的に見ている。

 最後に思ったこと。ネットの炎上案件を見て尻馬に乗ることがいかに愚かな
ことか・・・この本を読むと、それがよくわかる。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)


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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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十朱幸代という生き方がカッコイイ!
『愛し続ける私』
(十朱幸代著・集英社刊)

 昨年、西城秀樹さんが亡くなって、メディアで彼の人生を振り返ることが多
く、そのときに決まって耳にしたのが女優、十朱幸代さんの名前でした。

 西城秀樹さんの未亡人が手記を出版した直後に十朱幸代さんも自らの半生を
綴った本を出版。一部では、西城秀樹未亡人本にかぶせてきたと言われました
が、まあ出版社的にそれもあるかと思います。

 ただ、十朱幸代さんを西城秀樹と熱愛した女優とだけくくってしまうのは、
もったいなく、彼女は女優としても女性としても豊富な半生を過ごしてきたと
思います。なので、隠れ十朱ファンのおばちゃま、思わず、1700円+税の高い
本をポチってしまいましたとさ。

 十朱幸代さんの女優としての功績は置いておいて(置いておくんかい!)、
恋愛遍歴で忘れてはいけないのがは西城秀樹ではなく、歌手、小坂一也です。
小坂一也、WHO?と言う人がほとんどかも。昭和は遠くなりにけり。(もう
じき平成も遠くなりにけりだけど)。ロカビリー全盛時代、ステージで紙テー
プだらけになりながら歌う彼(昔は舞台で歌う歌手に紙テープを投げてた。目
にあたって負傷した歌手がいたことから廃れていった)をテレビで見た記憶が
あるっておばちゃまもどんだけ、遠くなりにけり?(なんなら、十朱幸代デビ
ュードラマ「バス通り裏」もリアタイで見ております)。

 今でいうアイドルの彼と隠れもせずに堂々とつきあっていたのが十朱幸代さ
んで、これは約50年前はすごく新しいことでした。

 覚えているのは、「私は彼の家に行っても掃除や洗濯はしないの。それは奥
さんの仕事だから。私は彼の恋人なので家事はしないの」と言っていたこと。
当時は女性は家事をする女中みたいな位置づけだったから、これは新鮮で新鮮
で、この男女の対等な恋愛という感覚は今でもおばちゃまの恋愛観の基本にな
っておりますよ。

 残念なことに、小坂一也さんとの恋愛の思い出の中に、この「家事はしない」
は書かれてなかったのですが、17歳から始まって32歳で相手の心変わりで終わ
った大恋愛は読みごたえありました。彼が出て行った後にやはり苦しくて「1
日だけでいいから戻ってきて」と電話して拒否されるなんてリアルな話も書か
れていて、正直すぎると思う一方で、この恥も外聞もなく恋人にあたっていく
姿は感動的と思いました。

 で、32歳で小坂と別れてからは濃い恋愛をたくさんするんですね。そのあた
りの男性名はイニシャルで紹介されていますが、

「恋愛って魂と魂がぶつかりあうような感じですよね。そのときの気持は本人
にしかわからない。」
「私はいつも結婚を申し込まれるたびに女優という仕事のほうを選んでしまう。
たいていはそこでお別れがきてしまいます」

 カッコイイ!

 そんな後、40代で出会ったのが12歳年下の西城秀樹ですね。
 私が覚えているのは、彼女が公演中、劇場に併設されたホテルに彼が泊まっ
て、翌朝、突撃インタビューを受けたけど、堂々と、
「わかっていることは今、僕は十朱幸代さんに夢中だということです」
って堂々と宣言していたことかなあ。堂々と宣言させる女性なんですね、十朱
幸代さんて。

 そして、もう婚約会見寸前というところまで行って破局するわけですよ。
「迷いを振り切ってでも結婚するという覚悟が私にないと知って彼は去ってい
ったのです」と書いてありますが、その覚悟は彼のほうにもなかったのかもし
れません。その後、秀樹は十朱幸代との結婚に反対していた実姉がおぜん立て
した女性と結婚して子どもができるわけですね。
 子どもが生まれたとき、「こんな幸せが自分に待っているとは思わなかった」
というコメントを覚えていますが、数々のヒットに恵まれ、栄光に輝く歌手で
さえ、こう思うわけですから、結婚とか出産って男にとって重いのだなあと感
慨深いです。

 恋愛したのもよかったし、別れたのもお互いにとってよかったとおばちゃま
は思いますよ(あんた、だれ?)。

 現在76歳。この本の出版プロモーションを兼ねているのか、最近、バラエテ
ィ番組への出演が増えている十朱さん。ある番組を見てたら、30代の国民的ア
イドルの1人ともほどよく絡み、アイドルの行動に素直に驚き褒め、腕を組ん
で見せてもいやらしくなく、可愛いことこの上なし! で、アイドルの方もま
んざらじゃない感があってすごかった! ちょっとドキドキしましたね。
「私は独り身ですし、親兄弟がみんな逝ってしまいましたので、誰にも気兼ね
がありません。だから思い切り自由です。そして孤独です。孤独と自由は背中
合わせ。セットになっているんです。その現実をどう受け止めるかで、今の自
分は決まるのではないかしら」

 最後に。こんな声に触れると、よく言われるのが「こんな76歳になりたい」、
ってフレーズですが、バカ言うなと言いたい。なれるわけがないだろうと言い
たい! 一般人とは顔も形も姿勢も生き方もちがうんですよ。一般人はそのへ
んで、適当な男となりゆき&妥協でくっついたのを愛だとすり替え、適当な仕
事をして生きていけばいいの! おばちゃまはこんな76歳にはなれないとわか
っているので、そこは潔く、身の丈に合った老後を送ることにします(って何
の宣言?)。

 今年もよろしくお願いいたします。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ─ 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510


 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今日はセンター試験2日目だそうで、受験生の皆様、頑張ってくださいね。
(ってこれ読んでちゃダメだけど。)

 私は一浪しているので、試験は2回受けたはずなんですが、ほとんど記憶に
残っていません。大学入試の記憶はちらほらと残っているんですけどね。

 不思議です。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.669

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■■ mailmagazine of book reviews   [平和な一年になりますように 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<109>川勝徳重とその他若干を中之島で「発見」した夜のこと

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→91 見える世界を広げよう

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第108回 伝統あるイギリスの執事が最も大切にしていること

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<109>川勝徳重とその他若干を中之島で「発見」した夜のこと

 皆様、新年あけましておめでとうございます。
 本年もまた、本や漫画のことやら、はたまた全然関係ない愚痴や駄法螺を、
ここで披露させていただきますが、どうぞ懲りずにお付き合いくださいますよ
う、よろしくお願い申し上げます。

 で、新年早々の愚痴を、まずイッパツ。

 京都の大学から帰宅する際、たいていいつもは嵐電‐阪急−阪神なのだけど、
ごく時たま、JR嵯峨野線の嵯峨嵐山駅から京都駅まで出て、そこからJR京都線
で大阪まで、というルートを使って帰ることがある。

 その際にいつも感じるのが、JR嵯峨野線…かつての山陰線は、京都駅の中で、
一番オミソにされている、ということ。

 京都駅は、烏丸口の改札を入ったところが「0番線」ホームで、そこから南
に向かって整然と2〜10番線ホーム、それぞれがびわこ線、京都線、奈良線と
並んでいて、各ホームは地下道と橋上デッキで連絡し、その先、デッキよりも
一段高い高架に上がった11番から14番線までが新幹線。
 ちなみに「1番線」にはホームが無くて線路だけ、というのは、よくクイズ
にもなる「京都駅トリビア」なのだった。

 このように、0番線から14番線までは北から南に向かって、きれいに整列し
てるのだが、ひとり嵯峨野線だけは、駅の北西の隅っこ…「え?ここって、も
う駅の外なんじゃ…?」とも思えてしまう端っこの方に、「端頭式」というら
しい行き止まりのホームが、「おまけ」のように、ひっそりと佇んでいるのだ。
 その疎外感たるや、ちょっと半端ない。
 京都駅にあっては、嵯峨野線のホームにだけは、なぜか「31〜34番線」とい
う番外地のような番号が振られているので、ますます疎外感。

 なので、このホームから他の線に乗り換えようとすると、もう大変。
 電車を降りると、出口及び乗換口は端頭式ホームのその先にしかないので、
降りた乗客が一斉に同方向に流れ出す。狭いホームは一時的に人であふれて、
なかなか進まない。
 このホームが、なぜか昼間でも妙に薄暗いので、進まない行列に、余計イラ
イラする。

 やっとホームの端にたどり着き、広いコンコースに出るのだが、ここから乗
り換えのための2階デッキにあがる階段が、またけっこう遠い…しかも、そこ
もまた列車を降りたばかりの人で、いつも込み合う。
 ようやくデッキにあがって、京都線下りの5番線ホームに着くまで、かれこ
れおよそ10分ほどでしょうか?
 一番南の端で、さらに高架上の新幹線なんかだと、もっと時間がかかること
になる。

 その昔の国鉄時代にも、当時の「山陰線」を利用したことがあるのだが、あ
のころも今と同じ場所にホームはあって、やはり「なんで?」と思った記憶が
ある。

 調べてみると、後の国鉄山陰線は、元は「京都鉄道」という私鉄で、国鉄京
都駅の隅っこに「間借り」する形で、終点のホームが作られたらしい。
 その後国有化された後も、そのホームはそのままに残されて、なので、この
ような変則的な配置になった由。

 「なるほど」と分かったのだが、しかし、ですね…
 京都駅は90年代に、奇抜なデザインで景観論争を巻き起こした駅ビルを筆頭
とする、大規模リニューアル工事をやらかしている。
 その際に、誰が見ても不便な場所にある山陰線のホームを、もっと便利な場
所に移転しようとはしなかったのか?
 リニューアルされた駅ビルには、デザインが奇抜なだけに「無駄」とも思え
るスペースもいっぱいあって、やろうと思えば、山陰線のホームをここらに持
って来ることもできたろうに、と思うのだが…

 やはり、山陰線…ただ今の嵯峨野線は、仲間外れのオミソにされている、と
しか思えない。

 昨年12月の某日、そのオミソの嵯峨野線から、在来線では一番遠い奈良線に
乗り換え、東福寺で京阪電車に乗り換えて、大阪は渡辺橋駅まで行った。
 そんなややこしい経路を辿らずとも、地下鉄東西線で三条京阪まで行き、そ
こで乗り換えた方が簡単だし早かった、と気づいたのは、京阪電車に乗ってか
らだった…。

 地下3階にホームがある京阪中之島線・渡辺橋駅の地下1階には、「アートエ
リアB1」というコミュニティー&ギャラリースペースがある。
 ここで大阪大学主催の「マンガカフェ」というトークイベントが定期的に開
催されていて、この日はこれに参加するために、わざわざやいこしー経路で行
ったのだ。

 「マンガカフェ」では例年、「今年のマンガ界をふり返るぞ!」というテー
マのイベントを年末に開催していて、カフェマスターの大阪大・金水敏教授が、
精華大学と京都国際マンガミュージアムの研究者たちをパネリストに招き、そ
れぞれの「今年の一冊」について、大いに語り合うのが恒例なのだ。

http://artarea-b1.jp/

 パネリストたちが「今年の一冊」を発表の後、会場の参加者たちの銘々が
「一冊」を披露して、わしも、当欄でも取り上げたことのある2点、2018年に
シリーズを完結させた山本直樹『レッド』シリーズ全巻を「平成の一冊」とし
て、吉本浩二『ルーザーズ』を「今年の一冊」として、それぞれ発表させて頂
いた。

 パネリストの一人、京都国際マンガミュージアムの研究員・雑賀忠宏さんが
紹介したのが、川勝徳重『電話・睡眠・音楽』(リイド社)だった。

 川勝徳重の名は、webマガジン「トーチ」を通して以前から知っていたし、
その「トーチ」に発表された(単行本表題作でもある)『電話・睡眠・音楽』
も読んでいたのだが、そのフランスのBD(バンド・デシネ)風の世界観と作品
全体を覆う不安というか、読む者の頭の隅っこをなにやら「かりかり」とひっ
かいていくような不条理な何か、が妙に気になってはいたのだが、告知されて
いる単行本を買おうという気にまでは、正直至っていなかった。

 が、雑賀さんが話しながら見せてくれたその単行本で、その作風が、70年代
「ガロ」風…すなわち、つげ義春や安部慎一、鈴木翁二や菅野修らの模倣から
出発していると知って驚いた。

 聞けば川勝は「1992年生れ」という。
 リアルタイムの「ガロ」を知らない世代が、70年代「ガロ」的世界に憧れて、
その作風を模倣し、自分の中に取り込もうとしている、のが嬉しくて、その翌
日、早速に手に入れたのだ、『電話・睡眠・音楽』定価1300円+税。
 同時に、単行本の発売に合わせて「トーチ」に掲載されていた斎藤潤一郎と
の「特別対談」を読んだのだけど、なんと川勝徳重、元は「架空」同人にして、
西野空男の後を継いで、編集責任者にもなっていたと知り、不明を恥じました、
はい。

 改めて単行本をじっくりと読んでみるにつけ、これは、川勝徳重という作家
の、変遷の軌跡だ、と気づいた。
 70年代「ガロ」風から始まって、次第に変化しながら、「トーチ」編集長に
「ヌーヴェル・ヴァーグをやる」と、宣言して描いたのが『電話・睡眠・音楽』
だったそうだ。
 BD風に左綴じで描かれたこれ、単行本でもこの作品だけが「左から右」に読
むようになってるんだが、これ、すごい。

 若い一人暮らしの女…といっても、どうやら本人は「もうそんなに若くない」
のを自覚している風でもある女が、風呂とシャワーで身支度を整えて夕方から
街に出かけて、行きつけらしいクラブで一夜を遊び、翌朝、朝の白けた街の中
を帰っていく…それだけなのだけど、全体を覆う気だるさの中に、なにかわけ
のわからない焦燥や鬱屈が、そこここから垣間見え、不穏な読後感に襲われる
…そんな作品だ。

 川勝徳重、70年代的「ガロ」から出発して、このBD風の作風が終着点か、と
いうとそうでもなくて、同じ単行本収録作で、発表順で言えば、これよりも新
しい『冬の池袋、午後5時から6時まで』など読むと、『電話〜』よりもさらに
進化していると見て取れる。
 これからまた、どんな風に「進化」を遂げていくのか、とても楽しみなのだ。

 「ガロ」つながりでは、精華大学の吉村和真教授が紹介した、Q.B.B『古本
屋台』(集英社)もまた、「お! メモメモ!」の一冊だった。
 こちらは、当初「彷書月刊」に連載され、同誌の休刊後は「小説すばる」に
掲載誌を移して連載を継続し、2018年に単行本化。
 東京都内らしきあちこちに出没する屋台の古本屋をめぐる、一話2ページの
漫画。

 「屋台の古本屋」というのは、これ以前にも、森元暢之が「ガロ」に発表し
た漫画に登場するのだけど、久住昌之・卓也兄弟のQ.B.B.が作り出す、独特の
「間」が、とてもいい。
 古本屋ながら、「一杯限り」とのお約束で、芋焼酎・さつま白波のお湯割り
も出す古本屋…わしも出会ってみたい、と思うぞ。

 吉村さんは、毎晩、一杯のお湯割り焼酎(もちろん、「白波」だそうだ)の
アテとして、この漫画を一話ずつ、じっくりと味わいながら読むと、これがま
た味わい深い! と力強く宣言されていたが、それ、わしも本を入手してから
真似させていただきました

 わしの場合は、焼酎が苦手なので燗酒なのだけど。

 「彷書月刊」に連載されていたゆえか、岡崎武志さんや荻原魚雷さんなど、
古本界の有名人がキャラクターとして登場するのもまた、Q.B.B.ならでは。

 12月の「マンガカフェ」では、この他にも、ゴトウユキコが漫画化したこと
でも話題の『夫のちんぽが入らない』は、「おとちん」と略すと、人までも口
にできる、ということや、豊中市の阪急岡町駅周辺でただ今、手塚治虫生誕地
として「手塚治虫ロード」を造ろう、という機運が高まりつつある、という情
報も得たり、非常に有意義な一夜を過ごすことができた。
 良かった、良かったと頷きながら、折から「光の饗宴」と銘打ったイルミネ
ーションイベント真っ最中の中之島を、後にしたのだった。

 ところで、「Q.B.B.」という久住兄弟のユニット名。この名を初めて「ガロ」
に見たとき、当時は兄弟のユニット名だとは知らなかったので、この人は「神
戸出身?」と思ってしまった。
 「Q.B.B.」は、神戸に本社がある「六甲バター株式会社」のブランド名で、
ことにチーズが有名だけど、神戸近辺のスーパーならどこでも置いてあるし、
神戸の小学生なら、給食のパンに必ず「Q.B.B.」のマーガリンがついてきたの
を覚えているはずだから、そこから採ったペンネームかな? と思ったのだっ
た。


太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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91 見える世界を広げよう

 年が明けました。
 2019年がもどうぞよろしくお願いいたします。
 平和な一年になりますように。


 『ジュリアが糸をつむいだ日』
  リンダ・スー・パーク 作
  ないとうふみこ 訳 いちかわなつこ 絵 徳間書店

 2002年『モギ ちいさな焼きもの師』(片岡しのぶ訳/あすなろ書房)でニ
ューベリー賞を受賞したリンダ・スー・パークが書いた物語です。

 主人公のジュリアは7先生。親友のパトリックと一緒に、〈楽しい農業クラ
ブ・プレーンフィールド支部〉略して「楽農クラブ」に入りました。一年に一
度、クラブの生徒たちは自由研究のテーマを決め、半年ほどかけて研究し、発
表します。優秀な生徒は州の品評会で発表することができるので、それを目標
にみな頑張ります。

 2人はジュリアのお母さんの提案もありカイコの飼育をテーマにするのです
が、ジュリアはあまり気乗りがしませんでした。しかし一緒に研究するパトリ
ックと共に、カイコの飼育がはじまると、だんだん愛着が増してきます。生き
物を育てる楽しみに目覚めるジュリアです。

 カイコを飼育された方なら、カイコの魅力をご存知でしょう。私もその一人。
卵から成長していくカイコの姿にずっと寄り添っていると、かわいらしくてた
まらなくなります。

 餌となる桑の葉を集めるのは飼育の柱です。しかし、ジュリアたちが探すも
簡単には見つかりません。ようやく、桑の木のある家のディクソンさんと関わ
りをもてるようになるのですが、ディクソンさんとの出会いは、カイコの事だ
けではなく、ジュリアたちの世界をも広げるきっかけになります。

 ジュリアがカイコの飼育を通して視野が広がっていく成長物語は、
 カイコ好きにとって(私です・笑)たまらない物語です。


 『ぼくたちは幽霊じゃない』
 ファブリツィオ・がッティ 作 関口英子 訳 岩波書店

 ティーンの喜びや悩みをつづった作品シリーズであるSTAMP BOOKSの一冊。

 物語は実際の体験談がもとになったもので、アルバニア人のヴィキがイタリ
アに渡り、どのような暮らしをしていたかが描かれています。

 苦労してイタリアに渡ったものの、難民のヴィキたち家族は、滞在許可証が
おりるまでは不法滞在なため、町なかを歩くときは警察の職務質問を受けずに
すむよう注意が必要です。ヴィキは母親にイタリアに行けばいい暮らしができ
るって言ってたじゃないかと問うのですが、状況がすぐに変わることはありま
せんでした。

 訳者あとがきによると、イタリアには「学校はすべての人に開かれる」と憲
法に明記されているそうです。だからこそ、ヴィキたちも、公立小学校に通っ
ている間は、イタリアに住んでいても、いないものと扱われる幽霊扱いではな
く、一人の人間として勉強を教わり学び続けることができます。

 丹念に描かれる泥地でのバラック生活や日々の不安定さは物語の最後まで続
き安易なカタルシスで終わっていません。

 それでも、未来への希望をもって毎日を生きるヴィキと出会うことで、知ら
なくてはならないことをまた一つ教わります。


 次に紹介するのは絵本です。

 『キツネのはじめてのふゆ』
  マリオン・デーン・バウアー 作 リチャード・ジョーンズ 絵
  横山和江 訳 すずき出版

 親から離れてはじめての冬を迎えたキツネ。冬がきたら何をしたらいいのか、
さまざまな動物たちに教えてもらいます。

 けむし、カメ、コウモリ、リス、ガン、カンジキウサギ、クロクマ。

 たとえばカメはこう教えてくれました。

 「しっぽを そらにむけて、あたまから とびこむんだ。
 みずの そこへ むかってね。
 それから、ひんやりした どろに からだを つるりと うずめるのさ」

 キツネと動物たちのやりとりは、
 言葉は詩的で、暖色系の絵は言葉をつつみこむようにやわらかです。

 しかし、いろいろ教えてもらっても、キツネにはピンときません。

 そんなキツネが最後に出会ったのは――。
 
 絵本にはめずらしく訳者あとがきがついていますが、それがキツネの行動を
よく理解させてくれます。

 冬の季節に親子で楽しめる絵本です。


 もう一冊絵本をご紹介します。

 『ぼくはなにいろのネコ?』
 ロジャー・デュボアザン さく 山本まつよ やく 子ども文庫の会

 1974年にニューヨーク科学アカデミーの児童書部門賞を受賞した作品。

 版元紹介によると「(印刷に)使える色数が少なければ少ないほど、力を試
される」と語るデュボアザンが、さまざまに混ざり合っている美しい色の世界
を子どもにわかりやすく伝えるものになっています。

 黄色、青、緑などそれぞれの色が自分たちの色がいかにすばらしいか彩りを
みせて読者に語りかけます。そこに子ネコのマックスが、色に対して意見をは
さみ、色への理解を深める助けをしてくれます。

 一つの色での美しさ、重なり合うことによる美しさ。色のもたらす不思議さ
がわかりやすく描かれ、科学の絵本としてもおすすめです。 


(林さかな)
会津若松在住。「本の雑誌」新刊めったくたガイド海外文学担当。
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第108回 伝統あるイギリスの執事が最も大切にしていること

 今月もノーベル賞作家、カズオ・イシグロの本を読む。カズオ・イシグロの
本は小欄においてこれで4作目となる。

 先々月の本『遠い山なみの光』、先月の本『浮世の画家』は戦後間もない日
本が舞台であるが、今回の本は英国が舞台となっている。そして我々、英国人
ではない、外国人が英国をみて、最も英国的なる制度だと思われている、貴族
と屋敷と執事に代表される使用人の物語なのだ。

『日の名残り』(カズオ・イシグロ 著)(土屋政雄 訳)(早川書房)
(ハヤカワepi文庫)(2001年5月31日 文庫初版)
  (『THE REMAINS OF THE DAY』(Kazuo Ishiguro)(1989))

 本書は、カズオ・イシグロの第3作目の長編小説である。そして、本書は英
国出版界における権威ある賞、ブッカー賞を受賞している。

 主人公は大邸宅の執事。おおよそ執事とは最も英国的な職業と云えるかもし
れない。執事がなんたるかを知らなかった人も執事がどのような仕事をするの
か、本書を読めばよくわかる。執事とは、使用人のトップであり、主人に対し
て言葉を交わせる唯一の使用人であり、他の使用人の任免権を持っている使用
人なのだ。男性の使用人はおしなべて皆、執事をめざす。使用人の最高ポスト
たる執事は庶民の出世のあがりとなる。使用人がご主人の立場になることはで
きない。英国は完全な身分制なのだ。執事の下に副執事がいるし、従者がいる。
そして下僕がいる。他に庭師や運転手がいる。これらは男性の仕事。女性たち
はどうか、女性使用人の最高ポストは女中頭。他に厨房を任された料理長がい
るし、女中たちがいる。女中の任免権も執事にあるが、執事も女中頭の意見は
無視できない。ご主人一家にすがたを見せることがない女中もいる。彼女たち
は最も下層の女中である。主人と同じ階級の来客があり、その時の給仕は男性
の仕事であり、食器の管理も男性の仕事になっている。使用人のスペースは使
用人だけのフロアと食堂がある。使用人の食堂の主人は執事であり、食事の合
図は執事が取り仕切る。

 長々と書いたが、これほど本書の中に使用人の説明があるわけではない。実
を云えば、これらは本書よりもむしろ、TV番組の「ダウントン・アビー」が
ネタ元なのだ。およそこの「ダウントン・アビー」ほど、英国の上流階級と使
用人階級のことがよくわかる物語はない。

 閑話休題。
 「日の名残り」である。
 主人公はダーリントン・ホールという大きなお屋敷で執事をしているスティ
ーブンス。

 時代は1950年代であり、やや老いたスティーブンスが1930年代の最も屋敷が
華やかだった時代を回想して進む。50年代のスティーブンスは、ひとり車で旅
に出る。この旅で、昔を回想するのだ。物語は現在(50年代)と過去(30年代)
を行きつ戻りつしながら話が進む。このあたりは前二作同様、主人公の心と思
考が自由に動き回っている。カズオ・イシグロの物語の大きな特徴だ。

 スティーブンスは、常に“よき執事とは何か?” “偉大な執事とは何か?”
を探究している。その命題を考えるとき、必ず立ちふさがる難問は、何か? 
それこそが、主人との関係にある。スティーブンスはそうは云っていないが、
彼を悩ます問題は最終的には、いつもこの“主人との関係”に行き着く。すな
わちそれは、主人に対する忠誠心であり、その忠誠心の発露はどのような場合
に発揮されるのか、ということを考察している。本書を読みながら、誠にステ
ィーブンスことが、よき執事であり、偉大な執事であろうと、読者は皆感じる
はずなのだ。

 過去の時代が30年代で、現在が50年代、というその時代に注目してほしい。
第二次世界大戦の前と後である。英国は戦勝国であるが、戦争の影響は甚大な
のだ。ダーリントン・ホールの主人である、ダーリントン卿は外交問題に熱心
に取り組んでいる。30年代のヨーロッパにおける最大の外交問題とは、まちが
いなく対ドイツ問題であり、ナチス・ドイツに対してどう接するか、に尽きる。
ダーリントン卿は時のチェンバレン首相や外相ハリファックス卿たちと同じく
ドイツに対する宥和政策を推進する立場で行動している。

 我々読者は、歴史を知っている。対ドイツ宥和政策は破綻し、ヒトラー率い
るナチスにヨーロッパが蹂躙されることになってしまった。

 戦後のダーリントン卿の立場は推して知るべし。具体的にはあまり書いてい
ないが、人々に罵られながら失意のうちに死んだ。そしてスティーブンスの職
場であるダーリントン・ホールはアメリカの富豪の所有となり、スティーブン
スはその富豪ファラディ氏に仕えることになった。気取らずおおらかなアメリ
カ人を主人にいただき、スティーブンスの心も少し融ける。

 主人のファラディ氏から車を借りてスティーブンスは、30年代にダーリント
ン・ホールで女中頭をしていたミス・ケントンに会いに行く旅に出る。
 本書は人間ドラマであるが、恋愛ドラマなのだ。スティーブンスはミス・ケ
ントンに好感情を抱いている。しかしそれ以上にミス・ケントンがスティーブ
ンスに恋をしているのが読者はよくわかる。スティーブンスの回想の中でも、
ミス・ケントンとの場面は偉大な執事について考える場面と双璧をなす程、多
くを割いて書かれている。スティーブンスを前に虚勢を張ったり、ヒステリッ
クに振る舞ったり、あるいはとてもやさしくしてみたり。概ね女性の方が積極
的なのだ。30年代の英国では、おそらく感情を表に出す女性が珍しい存在なの
は文脈からわかる。執事のスティーブンスはミス・ケントンに翻弄されながら
も、彼女の高い能力によって屋敷の運営がうまくいっていることもよく理解し
ている。過去の回想では、ふたりの関係は概ねそのように進んでいった。

 50年代の旅をするスティーブンスは、彼がミス・ケントンに恋をしているこ
とは、読者にもあからさまではないにしろ、隠していないようにみえる。英国
人の気質をよく表しているスティーブンスはまったく、愛だの恋だのというよ
うな言葉も態度もないのだが、行間からミス・ケントンへの想いがよくわかる。
30年代の英国では、使用人があからさまな態度に出ることはタブーだったが、
50年代ではそれが緩んできたようだ。それにスティーブンスの主人は今や自由
なアメリカ人なのだ。

 スティーブンスとミス・ケントンが何十年ぶりに邂逅して会話して別れる。
もちろん劇的なことは何も起こらない。読者はこのふたりの恋愛が何の進展も
なく終わってしまったことに深い失望と淡い安堵を持ちながら、物語を読み終
わるのだ。

 カズオ・イシグロの前二作の長編と同様に、本書もまた価値観の転換につい
ていけない者たちの物語だった。スティーブンスは感情のおもむくまま行動す
ることなく、偉大な執事として過ごし、ミス・ケントンもまた、冒険をしない
英国の20世紀の女性使用人だった。
 この物語は、ふたりの出逢いと別れの物語なのである。

 本書は映画化されている。1993年イギリス映画。ジェームズ・アイヴォリー
監督作品。主演はアンソニー・ホプキンス(スティーブンス)、エマ・トンプ
ソン(ミス・ケントン)。とても素晴らしい映画であり、本書と併せて観るこ
とを勧める。


多呂さ(あっという間に一年がめぐり、大相撲初場所が始まります。稀勢の里
さま。頑張ってください。よい結果になることをお祈りしております)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

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(あ)

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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #101『宵待草殺人事件』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『「右翼」の戦後史』安田浩一 講談社新書

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#101『宵待草殺人事件』

 前回は#100に因もうとあれこれ悩んで、山口「百」恵に到達したわけだが、
実はもうひとつアイデアがあった。
 100年前、という切り口である。

 いまから100年前、音楽的には何があったのか調べてみたのだ。こういう段
になると、ネットというのは本当に便利ではある。

 100年前といえば、1918年。

 この年ロシアでは、前年に起こった革命の結果、ストラヴィンスキーが財産
の殆どを失った。彼はヨーロッパに逃れたが、そこでもまだ第一次世界大戦が
戦われていた。戦乱の中、社会全体が音楽どころではなく、経済的にも逼迫し
ていたため、最小限のキャストと舞台装置で上演できるという条件でつくった
のが、音楽劇『兵士の物語』だったそうだ。あのストラヴィンスキーでさえ、
低予算に苦しみながら作曲したことがあったんだなあ。親近感。

 同じロシアの作曲家プロコフィエフは、この年ペトログラードで『束の間の
幻影』を自らのピアノで初演しているが、やはりアメリカへの亡命を決意し、
まず日本へ渡った。そしてアメリカ行きの船を待つ間に、この曲を披露。おか
げで世界初演と日本初演が同年という珍しい事態となった。

 フランスでは女流作曲家のブーランジェが亡くなり、スペインではインフル
エンザが猛威を振るい、スペイン風邪と呼ばれた。イギリスでは大陸からドー
バー海峡を隔てていたためか、戦争や伝染病の猛威を横目に、ホルストが組曲
『惑星』を発表する余裕があった。

 さらに大西洋を渡ったアメリカでも、自国の兵士をヨーロッパに送り込んで
いたものの、戦禍遥かに遠く、大分ゆとりがあったと見える。まさに対岸の火
事。そのおかげか、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で、イタリアのオペ
ラ王プッチーニが一幕物三作を一晩で一気に上演する試みを行っており、これ
は後に『三部作』と通称されることになった。

 そのアメリカを代表する作曲家ガーシュインも、この年『ザ・リアル・アメ
リカン・フォークソング』を初演している。

 この辺り、やはり第一次世界大戦があったため、非常にドラマチックな時代
で、探せばいい本もありそうな気配がするが、その前にわが日本の状況を見て
おこうと思った。

 1918年は大正7年に当たる。社会的事件として米騒動が筆頭に挙げられる暗
い時代。調べてみると、ベートヴェンの第九の日本初演が行われていた。しか
し当欄でもこれまでに第九絡みの本は幾度か取り上げている。
 そこでクラシックを離れ、当時の巷で、どんな歌が流行ったかを見てみた。

 そもそも蓄音機が日本で普及するのは1920年以降。ラジオ放送が始まるのが
1925年だから、まだ流行歌と言ってもメディアではなく、口から口を通じて伝
えられた素朴な時代である。それだけに売る側のプロモーション戦略などでは
なく、本当に人心を捉えた曲ばかりだったと言えるかも知れない。

 そんな純粋ヒット曲として、『新深川節』、『ノンキ節』、『ディアボロの
唄』、『森の娘』、『女心の唄』などがあった。
 またこの年には、児童文学の新しい潮流を生み出した雑誌『赤い鳥』が創刊
されていて、今日に残る名作童謡の数々がここから生まれている。

 しかし、あ、これがこの年の流行歌だったのか、とぼくの目に止まったのは
『宵待草』であった。

待てど暮らせど来ぬ人の
宵待草のやるせなさ

 竹久夢二作詞のこの歌ほど、「やるせなさ」を蠱惑的に表現した音楽を他に
知らない。
 これだ、と思って、関連する本を探してみると、なかなかの珍品が釣れた。
 本書、近藤富枝『宵待草殺人事件』である。

 そこで今回は、#101ではあるけれど、前回に引き続き「100」に因んで、こ
の本をご紹介したい。

 著者は一昨年、93歳で没したというから、生まれは1922年、東京。『宵待草』
のヒットから4年の後である。
 民族衣裳文化普及協会という団体の理事だったそうで、着物や布に関するエ
ッセイが文筆の仕事の中心であるが、一方、明治・大正文学の調査研究も行っ
ており、その余技のような形で、当時の文学者たちが活躍するミステリー短編
をいくつもものした。それを集めたのが本書である。

 そのタイトルを眺めるだけで、わくわくしてしまう。曰く、

 宵待草殺人事件
 たけくらべ殺人事件
 あこがれ殺人事件
 枕草子殺人事件
 葵の上殺人事件

 『たけくらべ』はもちろん樋口一葉が探偵役。『あこがれ』は石川啄木の処
女歌集のタイトルで、その出版に奔走する彼を襲う陰謀譚。本格ではないが軽
快なテンポで物語が疾駆し、好みから言えばこれが一番いい。そして残りは平
安時代が舞台で、『枕草子』はもちろん清少納言、『葵の上』は紫式部がヒロ
インである。

 実在した歴史上の人物を主人公にするミステリーには、内外を問わず多くの
先例がある。ドイツ留学中の森鴎外を探偵役にした海藤英祐『伯林一八八八年』、
イギリス留学中の夏目漱石がシャーロック・ホームズと共に怪事件に挑む島田
荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』、シオドア・マシスンの『名探偵群像』に
なると短編集で、それぞれアレクサンダー大王、ダ・ヴィンチ、セルバンテス、
クック船長、ナイチンゲールなどなど、錚々たるメンツが探偵になる。

 しかし、先人たちの作品群を超える本書の最大の美点は、その文体にある。
 大正の終わりから昭和の初めにかけて、主に雑誌『新青年』に発表された探
偵小説。あの雰囲気が横溢した文体なのである。
 とても1984年に発行されたとは思えない、いい意味でのアナクロニズム。こ
れがあの頃の探偵小説を偏愛する、ぼくのような人間の頬を緩ませる。

 そう、「探偵小説」!
 戦後、「偵」の字が当用漢字から外されたのをきっかけに、戦前の探偵小説
が持つおどろどろしさを払拭し、近代的な合理精神の表現という新しいイメー
ジを前面に出そうと、木々高太郎が「推理小説」というネーミングを提唱した。
これが受け入れられ、以後「探偵小説」は消えた。

 それと同時に、江戸川乱歩や久生十蘭、小栗虫太郎、夢野久作らの諸作に通
底する、あの独特なロマンの匂いが失われてしまった。
 島田荘司を嚆矢とし、綾辻行人の登場をもってブームとなった新本格にはそ
の名残があるものの、やはり文体は近代的に乾いている。
 ところが、独特に湿ったあの探偵小説の文体が、バブル期の始まりの日本に
奇跡のように蘇っていたのだ。知らなかったなぁ。

 ただ、悪い意味でも、あの頃の探偵小説に似たところがある。
 それは、解決の慌ただしさだ。

 当時の探偵小説は短編が中心だった。その短さという制約の中で、犯人が誰
か容易に悟られまいとすると、登場人物が多くなってしまう。一人一人の書き
込みも、どうしても浅い。筋立ても物語の規模の割に錯綜しているので、最後
に謎が解かれても、誰が誰やらいまひとつピンと来なかったり、解決に多少の
無理を感じたり、何より複雑な謎が一気に解決されるので、説明自体がややこ
しくなりがち。
 『宵待草殺人事件』にも、ややその弊を見る。が、しかし、好きというのは
不思議なもので、そうした欠点すら何やら愛おしく思えてしまうのである。

 さて、このタイトル作。探偵役は実のところ竹久夢二ではない。
 文豪、谷崎潤一郎である。
 殺人事件が起こる舞台は本郷菊富士ホテルで、ホテルと言いながら実質は下
宿屋。客は旅人ではなく、ここを定宿として一定期間住む者が殆どだった。そ
のメンバーの中に夢二がおり、谷崎がいた。

 ちなみにこの本郷菊富士ホテルは実在し、その経営者の長男の嫁が著者の叔
母にあたる。また、著者は『本郷菊富士ホテル』という本も上梓。これによっ
て日本文芸大賞を受賞した。

 このホテルのすぐ傍に長泉寺という寺がある。その境内でカフェーの女給が
殺され、犯人としてホテルの従業員・源ちゃんが警察に引っ張られるのが発端。
ところが、被害者が夢二の描いた枕絵、いわゆる春画を持っていたため、彼も
また事件との関連を疑われる。さらに、事件の前後に現場近くで源ちゃんが聞
いたというのが『宵待草』で、陰陰滅滅たる女の低い声だったという。この辺
の怪談じみた趣向も、やはりあの時代の探偵小説を彷彿とさせるが、ともあれ
警察の疑いはますます夢二に傾く。

 そこへ、源ちゃんが殺されかける事件が起こり、偶然その急場を助けたのが
谷崎潤一郎だった。当時の彼は、後に乱歩がインスパイアされて名作『赤い部
屋』を書くことになるミステリー的短編『途上』を発表したばかり。その流れ
で強い探偵的興味を持つ人物として、事件の解決に乗り出す。
 さすがに時代考証はしっかりしており、当時のいわゆる高等遊民のライフス
タイルが克明に描かれ興趣は尽きない。

 あの時代の探偵小説は、日本独特の文化である。
 クリスマスが過ぎると誰もが急に日本人らしくなる、年末年始。この季節に
似つかわしい一冊だと思う。

近藤富枝
『宵待草殺人事件』
一九八四年一月二十六日 第一刷発行
講談社

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今月は2日に学生時代の音楽サークルのOBOGライブ、9日にヴォーカル・
スクールの発表会。共に3曲ずつではありますが、アマチュア・ミュージシャ
ンにしては多忙な前半。このメルマガが配信される頃には、またぞろ月光グリ
ーンのライブを見に、札幌へ行っているはず。なんか、すごい雪みたい。みな
さんもよいお年を!

----------------------------------------------------------------------
■「目につく本を読んでみる」/朝日山
----------------------------------------------------------------------
『「右翼」の戦後史』安田浩一 講談社新書

 右翼という人たちは、左翼の反対なのだろうが、よく分からない人たちだと
思うのは私だけだろうか?

 左翼は、マルクス・レーニンを源流とする点で共通し、理論をどう解釈する
か、現実とどう付き合うかで流派が別れてきたのは知っている。これに対し、
右翼はマルクス・レーニンに相当する源流があるのか、実はよく知らない。

 すなわち、右翼には理論がないように見える。なので、読んでみようと思っ
た。著者は「ネットと愛国」の安田浩一氏である。

 まずは戦前史から。大アジア主義を唱えていた玄洋社が源流のようだが、右
翼イメージを作り上げてきたのは、血盟団事件だとする。特に血盟団の親玉で
あった井上日召という満鉄出身で茨城県大洗町の立正護国寺の住職の「国家改
造」がある。私利私欲に走る支配階級の打倒と万民平等社会を目指す。

 これは当時の左翼も目指していたことだが、井上は左翼の階級闘争史観
(「人類の歴史は階級闘争の歴史である」とする共産党宣言の言葉)を否定し、
闘争を目的としていると批判する。

 自分たちの運動は天皇を取り巻く独裁体制を打破して、天皇親政による国家
主義体制を目指した。そのためには自分が犠牲となっても腐敗した支配階級の
要人を殺し多くの民を救う「一殺多生」を唱えた。

 これは当時の庶民の信条に寄り添ったもので、それなりの支持を得たが、テ
ロリズムの頻発も招いて、自由にものを言えない不自由な社会体制を作り上げ
ることにもなった。そして反共の旗印に呼応して国家権力と共に左翼の弾圧に
協力していた右翼も、最後には弾圧されるのである。

 戦後、天皇の人間宣言が右翼に衝撃を与え、ぼう然としているうちにGHQは
右翼潰しを行い、有力な人は公職追放され、右翼団体の多くは解散命令を受け
て消滅した。

 そこから戦後右翼の歴史が始まるのだが、最初に来るのは、戦前右翼の壊滅
である。

 終戦直後から徹底抗戦を唱えて、愛宕山に篭城し、警官隊が突入したら手り
ゅう弾をお互いに投げて自決した尊攘同志会。尊攘同志会に触発され島根県松
江でクーデターを起こそうとして失敗した皇国義勇軍など、戦前右翼は次々と
壊滅していく。

 しかし、戦後の混乱期、共産党の伸長を警戒した政府やGHQは右翼にも生き
る場所をあたえ、共産党に対する防波堤として使った。そんな中、協和党とい
う石原莞爾直系の、今ではリベラルがやりそうな理想を掲げた団体が注目され
たが、不発に終わる。

 以来、右翼の世界は政治や暴力団と結びつき、そこからの反発として新右翼
が出現し、「背広を着た右翼」である日本会議の登場を経て、現在はネトウヨ
が跋扈する。

 そうした戦後史の記述には、児玉誉士夫や三島由紀夫、町井久之など、大物
が続々と登場し、鈴木邦男のような今も現役の人も出てくる。どのような歴史
的経緯で、彼らがどう動いたのかが書かれているので、彼らがどんな歴史のポ
ジションにいるのかもよくわかる。個人的にはココが一番の収穫だった。

 最後に出てくるのは、ネトウヨで、中でも代表的なのは在特会だ。安田氏は
「ネットと愛国」の著者でもあり、ここに一番力を注ぐであろうと思えたが、
意外とあっさりした感じである。そうなるのは、在特会の力が衰えたというの
もあるのだろうけど、それ以上に日本の右翼化が進んでいるという認識に立っ
ているからだ。

「もう、在特会なんか要らない。社会の一部は充分に極右化している。右翼の
主体は街宣車を走らせる右翼でもなれば、在特会でもない。極右な気分に乗せ
られた一般人なのだ」

 個人的にはそうかなぁ?と思う。確かにヘイトスピーチなどが完全に撲滅さ
れたわけではないが、そんなもの撲滅しようとしても無理な話だし、影響力を
殺ぐことができればそれで充分ではないかと思う。

 また、この世が右傾化しているというより、実際は左翼が弱体化しているだ
けではないかといった疑問もある。

 それはともかく、これが結論なのかと思っていると、最後には右翼の希望も
見えてくる。なかなかよい読了感を与える本である。

 かくも良い右翼の本を書く安田氏には、ぜひ日本の左翼というか、リベラル
についても書いてもらいたい。左翼は安田氏にとって勝手知ったるフィールド
だし、自身もヘイトスピーチのカウンターたちと密な関係にあるのはよく知ら
れていることだ。

 現在の左翼やリベラルといわれる人たちの評判も、かつての在特会ほどとは
言わないが、あまりよくない。そして天皇や国体をどう見るか以外は、右翼も
左翼もイデオロギーにそう大きな違いはない。

 そのせいか、右翼も左翼も行動は似通っている。時には「この人が右翼(左
翼)なのかと驚くほどそっくりなこと言うこともある。言い換えれば、右翼の
美点や問題点は、そのまま左翼の美点や問題点に通じるのだ。

 そのあたりの突っ込みをできる人はそう多くないが、安田氏ならできるので
はないか・・・そんなことを思った。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
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 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 いよいよ年末年始モード。今年はいつもより慌ただしい感じがするのは気の
せいでしょうか?

 平成最後の年末、あっという間に過ぎそうです。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.667

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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<108>「箕面」問題と、あのころの「アクション」

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→90 豊かで複雑な雑多な世界

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第107回 浮世=Flaoting World・・・そのまんまの妙

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<108>「箕面」問題と、あのころの「アクション」

 2025年万博の開催地が大阪に決まった。

 1970年以来55年ぶりに再び大阪で、ということらしいが、これ…2020年の東
京オリンピックが決まったときにも、同じ感慨を持ったのだが、半世紀ほども
前に開催したのと同じ都市で、再び開催することに、果たして意味があるんで
しょうか?

 1970年の万博は、戦後の復興期を経た後、ホップ、ステップ、ジャンプで築
き上げてきた高度成長の総決算として、確かに意味があったと思う。
 1964年の東京オリンピック、70年の大阪万博を経て、ようやく世界は、日本
を「先進国」の仲間に入れてくれたのだ。
 だからこそ中国もまた、北京オリンピック、上海万博と、日本と同じ道を踏
襲して、先進国の仲間入りを果たしたのだ。

 しかし、東京オリンピックにしろ大阪万博にしろ、「二回目」に、どんな意
味があるのか、甚だ疑問だぞ……と思いながら、70年万博の会場をかすめる名
神を走っていたら、妙な表記に気がついた。

 道路の上に掲げてある案内標識に、「箕面」とある…のはいいのだが、問題
はその下。そこには英文字で「MINO」とあるではないか。
 思わず、「ちーがーうーだろォっ!」と、ハンドルを持ったまま、どこかの
元代議士のように叫んでしまった。

 その後注意して見ていると、一般道でも「箕面」には、「MINO」あるいは
「MINOH」の英文字が当てられているのに気がついた。
 これまた両方とも「違う!」と思う。

 箕面の「箕」は、一字では「み」と読む。
 「箕」とは、竹で編んだ、塵取りをでかくした形状の農具で、主に穀物を篩
うのに使用され、我が家でもそうだったが、関西では「みィ」と呼ばれること
が多い。
 「面」は「おもて」あるいは「おも」で、「箕面」ではこれを短縮して「お」
と読ませている。
 すなわち「箕面」は、「みお」、なのだが、発音しづらいので、間に助詞
「ノ」を置いて「みノお」と読むのである。「箕ノ面」なのだ。

 「箕」のつく地名は、「箕面」に限らず、「箕谷(みのたに)」「箕輪(み
のわ)」「箕島(みのしま)」等々、たいてい間に「ノ」を置いて呼称される
ので、この読みを「みの」だと誤解している人も多いが、「蓑」と混同するの
かな?
 さっき調べてみると、茨城県には、「箕町」と書いて「みちょう」という地
名もあるそうだ。

 「箕」は「み」で、「みの」ではない。
 「箕面(みのお)」の「の」は、「三宮(さんのみや)」「西宮(にしのみ
や)」の「の」と同じなのだ。
 なので、それを「MINO」と表記するのは、「西宮」を「NISHINO」と表記し
てしまうようなもの。

 同様に、「MINOH」表記もまた、水泳の池江選手を「IKEH」と表記するような
もんじゃなかろうか?
 こないだテレビ見てたら、池江選手は「IKEE」と表記されていた。

 阪急電車の箕面駅では「MINO-O」と表記してるが、これが一番正しい表記だ
と、わしは思う。

 そのMINO-Oの隣のSUITAで開かれていた万博に、3月から9月の閉会まで都
合6回ほども通ったその5年後に、月曜から土曜日までの週6日、世田谷区船
橋の下宿から千代田区鍛治町へ通っていた。
 その春に入った大学の夏休みが明けた秋から、国電神田駅近くの串焼き居酒
屋で、バイトをしていたのだ。
 結構大きな店で、一階二階あわせて100席ほどもあったろうか、近隣のサラ
リーマン、OLさんが主な客層で、夕方6時から夜11時まで、主に皿洗い、と
きにホールで接客、というのが仕事だった。

 仕事を終え、神田駅から、既に快速運転は終わって各駅停車だけになった中
央線の赤い電車に乗る。
 この電車が飯田橋駅を出ると、右手に外堀が見えてきて、その対岸には「週
刊漫画アクション」「週刊大衆」という電飾看板が、当時の双葉社のビル屋上
に煌々と、やたらとドでかく、灯っていたのだった。
 ああ、あのアクションは、ここで作っているのか…と、毎晩眺めていたのだ
が、三階建てとビル自体はちっこいくせに、やけに看板ばかりが目立つその建
物に、それから数年後に出入りすることになろうとは、当時はまだ夢にも思わ
なかった。

 神田という土地柄ゆえか、国電神田駅の前にあった雑誌スタンド…構内では
なく、外にあったから、KIOSKではなく私設のスタンドだったと思う…には、
バイトを終えて帰る時間帯になると、翌日発売の週刊誌を既に売っていて、こ
こで「漫画アクション」を買って帰ることもままあった。

 あのころの「アクション」は、社会現象にもなった『同棲時代』やアニメで
人気を博した『ルパン三世』は既に連載を終えていたが、『子連れ狼』が連載
のクライマックスを迎えていて、『がんばれタブチくん』と『嗚呼!!花の応援
団』が部数を牽引する人気作だった。
 あがた森魚が緑魔子とのデュエット曲に仕上げた、バロン吉本の『柔侠伝』
シリーズもまた、この時期の人気作だった。
 https://www.youtube.com/watch?v=irABYHEKvEA

 当時すでに「青年向け」と言われる漫画雑誌は、「ビッグコミック」はじめ
数々発売されていたが、1967年創刊の「週刊漫画アクション」は、青年向け漫
画雑誌の草分けでもあり、さらに日本で初めての「青年漫画週刊誌」だったの
だ。

 それ以前にも、「週刊漫画ゴラク」や「週刊漫画タイムス」等、「大人向け」
の漫画週刊誌、というのは存在したのだが、それらはあくまで「大人」向けで、
誌名に「漫画」と謳ってはいても、あくまで漫画は「添え物」に過ぎず、主体
は娯楽記事。
 その添え物だった「漫画」にしても、ストーリー漫画ではなく、4コマを中
心としたコマ漫画が主流だった。

 「大人」ではなく、10代後半から20代という「青年」層に向けてのストーリ
ー漫画主体の雑誌というのは、だからまったく新しい発想で、「漫画アクショ
ン」を嚆矢として、その後「ヤングコミック」(少年画報社)、「ビッグコミ
ック」(小学館)、「プレイコミック」(秋田書店)と、これに追随した各社
から、続々と創刊されることになる。

 さきに挙げた『嗚呼!!花の応援団』や『がんばれ!タブチくん』もそうだっ
たのだが、「漫画アクション」は、人気作の連載が終了し部数が落ち込んで危
機を迎えるたび、「神風」的な人気作が登場して部数を回復する、とよく言わ
れて、これ以後も、低迷を迎えるたび、『博多っ子純情』『じゃりん子チエ』
『クレヨンしんちゃん』と、神風的作品が登場して、部数低迷の危機を脱して
きた。

 モンキーパンチ、いしいひさいち、大友克洋、谷口ジロー、等々、その後の
漫画界に「革命的」影響を与える漫画家の発掘に熱心だったのも「アクション」
だ。
 もっとも、「革命的」新人漫画家を育てて売れっ子に仕立てても、最後には
その作家を大手に引っさらわれていくのが常で、「漫画アクション」は、「漫
画界の広島カープ」とも呼ばれていたのだった。

 80年代から90年代にかけては、関川夏央、呉智英、堀井憲一郎、阿奈井文彦、
村上知彦らによるコラムのページに漫画誌では異例のページ数を割き、「アク
ションは、漫画よりもコラムが面白い」と言われた時期もあった。
 ちなみにこの手法は、現在「ビッグコミックオリジナル」が、まんま真似を
している。

 が、1990年代末から2000年代に至って「漫画アクション」は、『クレヨンし
んちゃん』以後「神風」にとんと見放され、いったん休刊したのち隔週刊で復
活はしたものの、出版不況の波をもろにかぶって、部数は低迷したまま、編集
方針も二転三転しているようだ。

 その「漫画アクション」で今、とても興味深い連載作品が進行している。
 『ルーザーズ〜日本初の週刊青年漫画誌の誕生〜』、作者は、以前当欄でも
取り上げたことのある吉本浩二だ。
 「漫画アクション」初代編集長であり、後の双葉社社長でもある清水文人を
主人公として、青年漫画誌の嚆矢「漫画アクション」の誕生までとその後を描
く…らしい漫画だ。

 「らしい」というのは、ただ今発売中の1巻では、主人公・清水文人は、
「週刊大衆」の別冊的位置づけにある「大人」漫画誌「漫画ストーリー」の編
集長であり、彼が傾倒する文学を漫画の中に表現したいという野望を内に秘め
ながら、新しい漫画と漫画雑誌の方向性を模索している最中で、「アクション」
はまだ創刊されてもないから、この漫画が、どこまで「アクション」の歴史を
描いていくことになるのか、見当もつかないからだ。

 これもまた、以前の当欄で触れたことだが、日本の漫画の歴史を、漫画を使
って描く試みは、これまでさまざまになされてきているが、そのいずれもが、
作家、あるいはその作品を軸に展開されるものが殆どで、特定の「雑誌」を中
心に据えたこの視点は、とても斬新だし、「青年漫画」というジャンルにスポ
ットを当てた取り組みも、「漫画史漫画」としては、初めてではなかろうか。

 「ルーザーズ(負け犬たち)」というタイトルは、当時の双葉社が、大手出
版社への就職がかなわず、「しかたなく」ここに入社してきた編集者たち…す
なわち「敗者」の吹きだまりであったことに由来する。
 60年代末から70年代初頭という、世界的な価値観の変革期の中で、その「敗
者」たちが大手に先駆けて、それまでになかった漫画雑誌を作っていく様は、
まさにあの時代の熱気とダイナミズムを、そのままに体現する出来事だったと
思う。

 「敗者」たちが、自分たちを袖にした大手出版社への屈折した思いを胸に秘
めながら、「なにくそ」魂で新しい雑誌を作っていく物語は、吉本浩二の泥臭
い絵柄に、「ぴたり」とハマる。
 今後の展開がとても気になるのだが、この12月の末に、待望の「2巻」が発
売予定だそうで、アマゾンで予約もしてしまったのだった。

 この上は、小学館でも、「ビッグコミック誕生秘話」などを、あの「ガロ」
買収計画の顛末とともに、当のビッグコミックあたりで漫画化してくれんかな、
などと夢想するこの頃です。


太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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90 豊かで複雑な雑多な世界

 いよいよ今年最後のメルマガ記事になります。
 みなさんにとって2018年はどんな一年だったでしょうか。
 もう来月は新しい年!

 今年をしめくくる本としてどれを紹介しようかと読んでいたら、どれもこれ
もアタリばかりでうれしくなったので、できる限りご紹介します!

 トップバッターはこちら。

 『変化球男子』
 M・G・ヘネシー 作 杉田七重 訳 すずき出版

 おもしろいタイトルに惹かれて読み始めたら、ものすごい吸引力!
 ロサンゼルスの中学校に通う男子、シェーンが主人公。野球部で活躍し、ジ
ョシュという大親友もいて、学校生活をエンジョイしています。
 思春期まっただなかのシェーンには悩みもあり、それはなかなか人にはいえ
ないもので、親友にも秘密にしています。
 さて、その秘密とは――。

 シェーンの悩みとは、女の子の身体なのに、心は男の子ということ。離婚し
ている両親のうち一緒に暮らしている母親は理解しているのですが、父親は手
術を受けて身体も男の子になりたいシェーンの気持ちをまるごと受け入れるこ
とができません。悩みを軸に、家族、親との関係、友情などたくさんのことが
語られていて、シェーンの悩みはどう着地するのか。このテーマ、悩んでいる
日本の子どもたちにも届いてほしい本です。


 『明日のランチはきみと』
 サラ・ウィークス/ギーター・ヴァラダラージャン 作
 久保陽子訳 フレーベル館

 アメリカ人作家、サラ・ウィークスと、インド人でアメリカ在住の小学校教
師、ギーター・ヴァラダラージャンの2人で執筆した作品です。
 主人公のラビはインドからアメリカに引っ越してきた小学5年生。インドで
は優秀だったので、アメリカでも勉強に遅れをとることはないと思っていたの
ですが、インド式計算もクラスの先生には受け入れてもらえず、いままで優等
生のスタンスでいたがゆえに、落ちこぼれのレッテルを貼られてしまうギャッ
プに苦しみます。
 もう一人の主人公はジョー。「聴覚情報処理障害」という聴く能力に問題が
あり、自分に自信がもてず学校では消極的です。
 
 物語はこの2人のシチュエーションが交互に語られます。お互いのバックグ
ラウンドはかなり違うのですが、少しずつ打ち解けていき、一週間も過ぎると
2人はぐっと近しくなっていきます。

 文化の違う国に転校するハードルの高さ、それを超える大変さがユーモアも
交えて書かれていて読後感が爽やかです。


 『サイド・トラック
  走るのニガテなぼくのランニング日記』
 ダイアナ・ハーモン・アシャー作 武富博子訳 評論社

 主人公の少年フリードマンは「注意欠陥障害」を抱えています。運動音痴に
も関わらず、新しくできた陸上部に入り、クロスカントリー競走に挑戦するこ
とに。

 スポーツ物語とくれば、中心にすえられるのは、スポーツ得意な人物が多い
ですが、今回はそうではありません。サブタイトルにあるように、走るのニガ
テなぼくのランニング日記なのです。

 登場する人物で魅力的なのは、フリードマンを支えるのは79歳のおじいちゃ
ん。高齢者住宅〈ひだまりの里〉にいたのだが、ある事がきっかけでフリード
マンの家で同居することになるのです。フリードマンのよき理解者であるおじ
いちゃんは、クロスカントリーに挑むことを誰よりも応援します。

 そしてもう一人、転校生の女子ヘザーも、フリードマンのよき友だちになり、
2人の友情も物語の柱です。

 最初は望まなかったクロスカントリー走、フリードマンはどんな風に走るの
か、本書でぜひみてください。


 『シロクマが空からやってきた』
 マリア・ファラー 作 ダニエル・リエリー 絵 杉本詠美 訳
 あかね書房

 シロクマシリーズ第二弾。とはいえ、前巻を読んでいなくても気にしなくて
大丈夫です。

 主人公ルビーの母親は、父親と離婚して以来、仕事も手につかず、幼い弟の
世話もルビーに任せることが多くなっていました。ルビーは必死で母と弟を支
えますが、そうはいってもまだ子どもなのです。

 そんなルビーの前に、シロクマがあらわれます。たくさん食べる(つまり、
食費もかかる)体の大きなシロクマを住んでいるマンションョンに連れていく
わけにはいきません。けれど、なりゆきでマンションの下の階に住んでいるモ
レスビーさんの助けもあり、シロクマとの生活がはじまります。

 言葉は発しないシロクマですが存在感と行動力はあります。ルビーも次第に
シロクマと打ち解けていき、母親の問題も解決に向かっていきます。

 ものいわず寄り添ってくれる(静かにではないですが)シロクマの存在感が
伝わってきて、ルビーの心がほぐれていくのにほっとします。親が病気になっ
た時、子どもは大人の役目も担わされることがあります。そんな子どもたちの
ことはヤングケアラー(若い介護者)と呼ばれ、日本にも少なくない子どもた
ちが同じ立場にいます。

 物語のあったかさと子どもの問題をやんわりしっかり伝えてくれる好著です。


 さて、12月といえばクリスマス!
 贈り物におすすめの絵本、
 ストレートにクリスマスを楽しめる絵本をご紹介します。

 まずはこちらから。

 『クリスマスのおかいもの』
 ルー・ピーコック ぶん ヘレン・スティーヴンズ え こみや ゆう やく
 ほるぷ出版

 ペン画に水性の色をのせた、あたたかい雰囲気のクリスマス絵本。

 男の子のノアはママと赤ちゃんの妹メイの3人でクリスマスプレゼントの買
い出しに出かけます。

 ママは小さい子ども2人と一緒なので、ノアたちに目をくばりながら、プレ
ゼントの買い物に集中していきます。ノアは大事なオリバー(ゾウのぬいぐる
み)と一緒にメイと遊んで待っています。


 買い物が終わり、一息ついたとき、ノアは気づくのです。オリバーがいない!
大変! 買い物の次はオリバー探し……。

 オリバーの存在の大事さをママがしっかり受けとめているからこそのラスト。
クリスマスの幸福感に満ちています。


 贈り物絵本でおすすめはこちらの3冊。

 『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』
 バーブ・ローゼンストック 文 メアリー・グランプレ え 
 なかがわちひろ 訳 ほるぷ出版

 この絵本では、画家になるまえのゴッホが描かれます。子どもの頃から、夜
中に何度も目を覚ましていたこと、夜でも嵐でもひとりで散歩に出かけていた
ことを、私はこの絵本で初めて知りました。


 その時に感じた心持ちが後に夜空を描くときに塗り込められたのでしょうか。
 ゴッホの絵といえば、ひまわりもすぐ思いつきますが、夜空の絵も強い印象
を残します。我が家の高校生の娘っこにゴッホの絵で何がすぐ思いつく?と聞
いたところ、星空が独特だよね、とこたえてくれました。

 夜なかなか眠れなかったゴッホが、画家になり、「色彩をつかって夜の闇を
えがくこと」を自身の課題とし、独特な夜空を描いていく過程を本書でじっく
り楽しめます。

 『ねむりどり』
 イザベル・シムレール 作 河野万里子 訳 フレーベル館

 『シルクロードのあかい空』
 イザベル・シムレール 文・絵 石津ちひろ訳 岩波書店

 シムレールの絵本は、とにかく強いインプレッションを読み手に与えてくれ
ます。

 ひっかいたような細い線で幾重にも色を重ね、その繊細さの重なりがハッと
させる美しさにつながっているのがシムレールの絵。

 『ねむりどり』では羽毛のふわふわさが、紙の上からもリアルに感じられ、
ついつい手がのびて紙の上からなでてしまいます。

 『シルクロードのあかい空』では山裾にしずむまっかな夕陽の明るさととも
に、強い目力をもつ子どもも印象に残ります。

 贈り物にもぴったりですし、
 直接手にとって時間をかけてみて欲しい絵本です。


(林さかな)
会津若松在住。「本の雑誌」1月号より新刊めったくたガイド海外文学担当。
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第107回 浮世=Flaoting World・・・そのまんまの妙

 今月も昨年のノーベル賞作家、カズオ・イシグロの本を読む。
 先月の本、『遠い山なみの光』(『A PALE VIEW OF HILLS』)と同じ時代背
景であり、価値観がひっくり返った戦前世代と戦後世代の相克をテーマとして
いるのも同じである。

『浮世の画家』(カズオ・イシグロ 著)(早川書房)
(ハヤカワepi文庫)(2006年11月30日 文庫初版)(2015年12月25日 六刷)
  (『AN ARTIST OF THE FLOATING WORLD』(Kazuo Ishiguro)(1986))

 完全な一人称小説である。語り手の私は日本の画家であり、戦前は大勢の弟
子たちに囲まれ、政府の委員もしていたような大家である。
 奥さんはもう死んでいる。娘がふたりいて、長女は既に嫁に出し、男の子が
一人。次女は未婚で、父親の私と同居していて、彼女の婚約が解消されたあた
りからこの物語が始まる。婚約が破棄された理由が、私である父親にあるよう
な印象になっている。状況説明は一人称の私が人に語ったり、自分で呟いたり、
独白したり、思考したりしているときに、なんとなくわかるだけで、しっかり
とした説明は一切ない。終戦何年後のことか、そして舞台となっているのは、
日本のどこかもわからない。画家の私は小野益次という名前であり、長女は節
子。その夫は素一。二人の間の子は一郎。次女は紀子。戦死したと思われる長
男の名は賢治。死んだ妻の名は道子。主人公の絵の師は森山先生。私の一番弟
子は黒田という名であり、もうひとり名前を出している弟子は信太郎といい、
口論もするが終生の友人は松田という。

 物語は終始、小野益次という人間の一人称であり、彼以外の人が何を考え、
それをどう考えているのかは、我々読者は知る由もない。小野益次が考えたこ
とを我々は常になぞるだけなのだ。したがって、私である小野益次が考えない
ことは、我々も考えることができないのである。
 このような完全な一人称の世界にどっぷりはまって物語の世界に分け入って
いくのは、とても不思議な気分である。
 我々読者は、小野益次ではないので、読みながら彼の考え方に異を唱えるこ
とはできるが、しかし、読者は最後まで小野益次の考えに付き合っていかなく
てはならないのだ。小野益次に感情移入できなければ、本書を投げ出すしかな
い。したがって、ほとんどの読者は、小野益次の考え方に一定の理解を与えた
上で、嫌でも応でも彼に添っていくしかないのである。

 執筆子が最初に思ったのは、本書の題名である、「浮世」ってなんだ?とい
うことなのだが、読んでいくうちに、浮世が何かはおぼろにわかってくる。本
書で云う「浮世」とは、女性が侍る酒宴の様子であり、そこにいる自分たちの
ことなのである。それを描くのが画家の本分である、とはっきりとは書かれて
いないが、本書を読み通せば、そういうことになるようだ。

 本書の原題は『AN ARTIST OF THE FLOATING WORLD』。この「THE FLOATING 
WORLD」が「浮世」になるのだが、とても不思議な気がしたのは、「THE 
FLOATING WORLD」は「浮世」の直訳じゃん、ということだ。英語圏の人たちは
この「THE FLOATING WORLD」ということばがどういう状態のことなのか、わか
るのだろうか? 我々日本人は「浮世」がどんな意味なのかはわかる。「浮世」
とは、この世の中のことであり、儚い世の中のことであり、変わりやすい世間
のことであり、男女の享楽の世界であり、まさに今この一瞬のことである。そ
れが「THE FLOATING WORLD」ということばで英語圏の人たちにこの「浮世」が
理解されるのだろうか?
 わからないから、本書を最後まで読んで、「THE FLOATING WORLD」が何かを
理解するのだろうか? ・・・そうとしか考えられないのだが。

 ・・・・・と、ここまで考えた処で、待てよ、ちょっと調べてみよう、と
Webを覗いてみた。そうしたら、なんてことない。まったく本書で定義され
た「浮世」そのままの説明が載っているのだった。

 Wikipedia曰く。「Floating World」=“Ukiyo, the urban lifestyle, 
especially the pleasure-seeking aspects, of Edo-period Japan
 (1600-1867)”

 近世日本文化研究家の中では周知のことばなのだろう。それを理解していれ
ば、英語圏の読者は本書の敷居がずっと低くなるだろう。

 日本語を理解しない英国籍の日本人が、幼児期に過ごした日本の印象の断片
とその後に知った当時の日本の印象をつなぎ合わせて、価値が転換してしまっ
た敗戦国である日本について、老画家の目を通してときにつらく、ときに明る
く表現した作品なのだ。

 作者は、戦前の価値観を持った老画家に語らせることによって、敗戦後の価
値の転換をよりダイナミックに描こうということに挑戦しているような気がす
る。
 そこにいる自分が努力しつつも、運命に翻弄され、自分が信じていたものが、
目の前でがたがたと崩れ去ってしまう。そんな不幸な瞬間に立ち会ってしまっ
た人を描く。それがカズオ・イシグロの物語なのだ。うまく云えないが、本書
は価値の転換期を生きのびてしまった不幸な人たちの話なのである。


多呂さ(山手線の新駅が「高輪ゲートウェイ駅」だって・・・・・。ばかじゃ
ないの?と思っている人の方が圧倒的多数であることを望みます。)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

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 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
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 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 完全に時事ネタだと思うので敢えて触れておきますが、山手線の新駅の名称
が「高輪ゲートウェイ」となり、あちこちで騒ぎになっています。JRが不動
産事業に本気に乗り出した感があって、駅という公共なイメージとの違和感が
あって、心理的抵抗があるんでしょうかね。もし、名前で不動産価値が上がる
のであれば、JRさんもどんどん駅名の改名をしてくれると、路線図が面白い
ことになりそうです。

 ふと思ったんですが、「池袋ウエストゲートパーク」と言えば「池袋西口公
園」ってことですよね。ってことは、「高輪ゲートウェイ」は「高輪口道」っ
て意味なんでしょうか。あるいは、英語の「ゲートウェイ」で「入り口」とい
う意味もあるようなので、こっちを採用すれば「高輪入口」でしょうか。

 海外の人が英語で見たら、何で騒いでるのかわかんないでしょうね。

 この際、ビターバレー、ナイチンゲールバレー、ブラックアイズ、ホワイト
アイズ、アッパーフィールド、ゴッドライスフィールド、とか、他の駅名の英
語名も、漢字から訳し直しちゃえばいいんじゃないでしょうか?

 あ、そうなると新宿は、ニューホテル?(あ)

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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #100『山口百恵は菩薩である』

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『医者が教える食事術』(牧田善二著 ダイヤモンド社)

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 今回はお休みです

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#100『山口百恵は菩薩である』

 というわけで、今回が#100。

 せっかくだから何か100に因んだ本を、と思ったのだが、まず浮かんだのは
ベスト100系のディスク・ガイド。これはいろいろ出ている。
 しかしディスクの紹介なので資料としての側面が強く、書評するというもの
でもない。そのCD入れるなら、むしろこっちだろ、みたいな盤の選択に難癖
つけるくらいが関の山だ。
 ちょっと変わった切り口のディスク・ガイドというものもあって、例えばウ
チには『ひとり』という本があり、これは一人で聴くのに相応しいディスクば
かりを集めた本。このタイプならそのコンセプトが評価の対象にもなるけれど、
残念ながら特に100にこだわっていなかったりする。

 あるいは、100年、というのもある。
 同じく手元にある本だと、まさに『日本レコード100年史』というタイトル
が目につくのであるが、これも資料的には面白いけれど、本としてどうか、と
言われると疑問がある。

 そこでふと、100を「百」と漢字にしてみた。すると!

 われわれ世代の必然により、するすると「百恵」という名前が浮かんでくる。
もちろん、山口百恵である。

 そうか、この手があったか、と山口百恵に関する本を思い起こせば、やはり
本人の自伝『蒼い時』もしくは、本書、平岡正明『山口百恵は菩薩である』に
止めを刺すだろう

 平岡正明は、左翼思想家であり、ジャズ評論家であった。
 ぼくが中高生の頃にはまった筒井康隆の交友圏内におり、ジャズ・ピアニス
ト山下洋輔やタモリらと共に、さまざまな活動をしていた。とりわけ全日本冷
やし中華連盟・略称、全冷中が印象深い。
 真冬に中華屋へ入った時、誰かがふと冷やし中華が食いたい、と言い出した
が、もちろん夏しかやってないと断られ、ならば冬でも冷やし中華を食える日
本にせねばならぬ、と決起され、やがて冷やし中華の歴史的研究だの、冷やし
中華における階級闘争だの、と暴走、拡大、ついには日比谷の野外音楽堂で全
冷中の大会まで開くに至った、まだ学生闘争の余塵くすぶるあの時代ならでは
の壮大なムーヴメントであった。

 また、以前当欄で、急死の報に触れて取り上げた音楽評論家・中村とうよう
の主宰した雑誌『ニューミュージックマガジン』後に改称して『ミュージック
マガジン』でも、平岡正明の名を見ることがあった。
 ごりごりのモダン・ジャズを信奉し、六十年代の学生運動の熾火を永遠に燃
やし続けた硬派の論客の文章は、異彩を放っていた記憶がある。

 その平岡正明が、山口百恵を論ずる、というより礼賛する本を出した。1979
年のことである。『山口百恵は菩薩である』という刺激的なタイトルであった。

 けれど、読むには至らなかった。
 十代の小僧にとって仏教は敷居が高いというか、正直抹香臭くて縁遠く、ま
た山口百恵は時代のスーパースターであり、いくつかの歌は好きだった上に、
「プレイバックPart2」が入ったアルバムを持っていたにも関わらず、そこま
で真剣に聴き込む対象とも思えなかったからである。
 まあ、あれはテレビで見るもんでしょ、という歌謡曲軽視、ロック重視の若
気の至りだ。
 結局、未読のままいまに至った。

 だが、こちらもいい加減大人になって仏教にも多少の関心を持ち、歌謡曲の
すごさも理解できるようになっている。そろそろ本書を読んでもいい頃だろう
と思い探してみると『山口百恵は菩薩である 完全版』というものが出ていた。

 原著の出版は先述の通り1979年。この時まだ山口百恵は現役で、最新シング
ルは「しなやかに歌って」であった。
 文庫版は1983年。この時はもう三浦友和と結婚、芸能界からすっぱり身を引
いており、その引退フィーヴァーまでの期間に発表された原稿が増補されてい
る。
 しかし、それ以降も平岡正明の百恵熱は去らなかったと見え、さらにいくつ
かの文章を書き、対談もしていた。それらを四方田犬彦の編集で網羅したのが、
この完全版なのだという。
 弁当箱のように分厚い本だが、この容積こそ、平岡正明の言葉の熱量を収容
するのに相応しい。

 冒頭いきなり著者は、108もの数に上る、山口百恵に関するテーゼを読者に
突きつけてくる。

 その結論はタイトル通り、「山口百恵は菩薩である」なのだが、重要なのは、
ここで言う菩薩が「地涌(じゆ)の菩薩」であることだ。
 天から降臨するのではなく、文字通り地面から涌いて出てくる菩薩。末法の
世には、無数の菩薩が地から現れ、衆生を救済するという教えがあるのだそう
だ。
 山口百恵は母子家庭に育ち、生活保護を受けながら貧しい暮らしを送ってい
た。つまり、プロレタリアート階級の生まれである。14歳でオーディションに
応募し、歌手を目指した動機も、明確に生活のためだった。
 この階級を、著者は「地」になぞらえ、そこから出現した山口百恵が、いま
や自らの生活を支えるだけでなく、その優れた歌で同じプロレタリアート大衆
の魂を浄化し、救済していると主張する。
 ゆえに、山口百恵は「地涌の菩薩」なのである。

 このことを著者は理論で積み上げたのではなく、直感した。だから、本書の
冒頭は証明を省き、断定のみを列挙するテーゼのスタイルで書かれているのだ。
ライプニッツの『モナド』やヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』と同じ
形式である。

 そしてそれに続く章で、詳細な音楽的分析や歴史的な検証を後から施し、テ
ーゼを裏付けていくのであるが、舌を巻くのはその視野の広さだ。

 まず空間的に、グローバルな認識がある。
 世界革命の戦略が論じられていた時期だからか、取り上げられる歌手は日本
国内に留まらず、韓国・香港・台湾と東アジア全域に及んでいる。

 さらに時間的には、戦前戦後の歌謡史を一望している。
 大雑把にまとめるなら、中山晋平らによる大正演歌の時代の後、韓国メロデ
ィーを導入した古賀政男による艶歌の時代が訪れ、それが美空ひばりを得て戦
後の歌謡界を支配するのだが、その後を襲うはずだった西田佐知子と李成愛が
道半ばにして結婚引退、その空白を埋めるように山口百恵が登場して歌謡界の
新たな女王となった、という流れである。

 また、同時代認識も周到だ。
 山口百恵のライバルとしてピンク・レディーを措定し、彼女たちのことも詳
細に分析している。結構ピンク・レディーの、それもケイちゃんのファンであ
ったりもする。しかし、かつて古賀政男と組んだ美空ひばりが、服部良一と組
んだブギの女王・笠置シズ子との対決に勝利したように、百恵はピンク・レデ
ィーに勝利する、と捉えている。
 さらに、70年代当時を「女性原理の時代」と見て、こうした時代に男はどう
あるべきかというと、もう三枚目になるしかない、として、その意味でサザン
オールスターズは大きな可能性を秘めていると見抜いている。

 音楽的にも実に多様なジャンルに言及している。
 そもそもの本領であるジャズからは、ジョン・コルトレーンのシーツ・オブ
・サウンド奏法を引き合いに出し、これが山口百恵の唱法と同じだと断じる。
 いくつかの曲のアレンジや曲想が、ジョン・レノンも注目したジャマイカの
レゲであることに注目し、ひばりのマンボに対し百恵はロックンロールを完璧
に消化しているとも述べている。

 とはいえ、左翼革命思想を歌謡曲論に重ね合わせる独特の論法は、やはりあ
の時代ならではのもので、古臭さを感じるのは確かだ。
 例えば、当時歌謡曲が芸能界の体制派だったのに対し、フォークやロックの
世界から反体制として現れたのがニューミュージックだったと思うのだが、こ
れを著者は、中産階級のプチブル的自己欺瞞として切って捨てている。オフコ
ースのコピーに結構な時間を費やしたぼくの青春はどうしてくれる、と言いた
い。
 大体ぼく自身は中産階級の生まれであり、プチブルであって、貧しきプロレ
タリアートにしか優れた表現が出来ないのだとすると立つ瀬がない。やたら闘
争的なものの考え方も相容れない。だから、当時から階級論には必ずしも共感
しなかった。

 にもかかわらず面白いと思ったのは、「I CAME FRON 横須賀」という曲の分
析で、これは四方田犬彦の解説にも触れられている。百恵自身と思われる横須
賀に住む少女が東京へ恋人に会いに行く、その車中を歌っているのだが、さて
この時、彼女は何線に乗っていたか、と著者は問うのだ。
 自由が丘、田園調布がある東横線だろうか? いや、それは中産階級の乗り
物だ。鎌倉、由比ガ浜などかつての別荘地を通る横須賀線? それじゃ特権階
級だ。東海道線なら中立だが、やはりプロレタリアートの菩薩である以上、百
恵は京急線を使ったに違いない。これが著者の結論である。
 なぜなら京急線は歴史の最も古い私鉄で、運賃が安いからだ。これこそがつ
ましいプロレタリアートの少女のお小遣いに相応しい乗り物である。

 なるほど!と唸らざるを得ない。もっともこの後百恵は、「いい日旅立ち」
で国鉄のキャンペーンを担うんだけどね。

 いまはとんとお目にかからなくなった、階級なる言葉。それが、あの頃はま
だ生き残っていた。
 そして続く80年代。
 なんとなくクリスタルになった日本人は、バブルに向かって好景気を貪る内
に、いつか忘れていった。

 しかしいま、世の中は格差社会だという。
 はっきり階級社会だという声もある。
 海の向こうのアメリカでも、反トランプ陣営に、これまで社会主義的として
拒絶されてきた国民皆保険などの政策を掲げる政治家が登場しているという。

 かくて時代は巡った。年が明ければ、1月生まれの「山口百恵は還暦である」。

平岡正明
四方田犬彦・編
『山口百恵は菩薩である 完全版』
二0一五年六月九日 第一刷発行
講談社

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
来月、ヴォイストレーニング教室の発表会があるんですが、そこで「いい日旅
立ち」を歌う生徒さんがいて、ギターの伴奏を頼まれました。不思議に山口百
恵づいているこの頃です。ちなみにこの曲、平岡正明の評価も高いです。「秋
桜」はぼろくそだけど。

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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健康本を読むためには「読者リテラシー」が必要
『医者が教える食事術』(牧田善二著 ダイヤモンド社)

 前からうすうす思っていたのですが、一般人は医者という言葉に弱くないで
すか? 権威に弱いのは衆生の常。現在、衆生がひれふす権威をあげるなら、
そうねえ、IT、AI、東大、そして医者かな。テレビを見ていると健康番組
で白衣を着た医者がやれヨーグルトを食えとかオリーブオイルを垂らせとか言
ってますが、「ほんまかいな」とおばちゃまは思うの。同じ油なのに、なんで
菜種はだめでオリーブならいいのかさっぱりわかりません。同じ砂糖なのに茶
色はいいもんで白は悪魔・・・なんでやねん!

 医者の健康常識を疑うようになったのは、ある医者と雑談していて、次の2
つを聞いたから。1つめは「エビデンスなんて作れるんですよ」というもの。
最初からこのデータが欲しいと思ってそのように実験したら、欲しいデータは
出てくるものだとそのドクターは言いました。そうなん? 

 もう1つが「医者は栄養の知識はないんですよ」という別のドクターの発言。
「医学部の授業に『栄養学』はありませんからね」。そういえばそうかも。み
なさん試しにどこでもいいから医学部のHPを開いてカリキュラムを見てごら
んさい。英語から解剖までびっしりですが、栄養学はない(健康科学はある)。
それに医者ってたいてい進学校出身だから家庭科なんて適当に履修しているで
しょ? もしかすると元良妻賢母系の女子校で高3になっても家庭科系の科目
を週3で取ってたおばちゃまよりも、栄養の知識って無いんじゃない?と疑っ
てしまいます。

 さて、それで読んだのが「医者が教える食事学」といいうベストセラー。
「ちまたの健康情報はうそだらけ。生化学×最新医療データ×統計データから
医学的エビデンスに基づいた本当に正しい食事法を1冊に網羅」(帯より)し
て60万部突破。

 最初に言いますが、これは嘘くさい本ではありません。著者は糖尿病が専門
のドクターなので、「血糖値」を手がかりにして病気や健康を考えるというス
タンス。カロリーや脂質を軸にした考え方とは別のアプローチをしていて、そ
のへんを読むと説得力があり「なるほどね」と納得できます。ここの軸がしっ
かりしてるから60万いったのね。

 病気になる原因の9割は血糖値にあるから血糖値が高かったり、急激に上下
すると体にダメージを与えるそうです。ふむふむ。

 しかし、食事学を網羅しようとするあまり、本の後半になると、おばちゃま
のほんまかいなを刺激する文章が続々出てきます。

 その1つが白ワイン。「白ワインはやせる」という論文が2004年にドイツで
出てそれは白ワインには酒石酸がたくさん含まれているからで、「私も夕食時
には白ワインをのんでいるが翌朝の血糖値がかなり低くなることは私自身が実
感としてわかっています」とまさかの1人エビデンスを展開。このあたりにな
ると専門外のネタ(ネタって・ww)が混在してきて「ほんまかいな」です。
でもこれは、たくさんの情報を網羅したいという編集側のもくろみでしょうけ
れどね。わかるよ、わかるよ。

 この本を読んでわかったことは、血糖値を上げることと上下させることはよ
くないこと、缶コーヒーやジュースを過剰に摂るのはよくないことなどの健康
情報が1つ。
 そして、多くの健康情報の中から、納得できるものだけを選んで実行するリ
テラシーが読者にも必要ということです。

 この本の最終章で著者は、いいことを言っています。それは患者にもリテラ
シーが必要ということ。
・腕のいい料理人とそれほどでもない料理人がいるように、医者もピンキリ。
・糖尿病医なのにアルブミンの検査をしないのはありえないように、外科や内
科も広い視野で判断することが今は必要。
・大きな病院にいい医者がいるとは限らない。大学病院には研修医がいっぱい。
ほんとにそのとおりです。

 これそのまま、健康本にも言えます。

 患者と同じように、読者も本に書いてあることをうのみにしないで、何がホ
ントで何が嘘くさいかを取捨選択する「読者リテラシー」が必要。この本で実
感しました。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 ここ1年くらい、あるメンバーでオンラインの読書会をやっているのですが、
これがなかなか面白い。先日は知人の著者を招いて行いました。

 オンライン読書会はひとりでは絶対読み切れそうにない本を読めるのと、ネ
タ切れにならないのが良いところですね。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.665

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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<107>すべての「中」は、秘境である

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→89 芸術の贈り物

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第106回 英国と長崎。パラダイムの違いを考える小説

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

・ワック株式会社 営業部 武田善様より、下記の本を献本いただきました!

 渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

 ありがとうございます!

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<107>すべての「中」は、秘境である

 のちに映画化もされ、第五回“手塚治虫文化賞辞退作”でもある花輪和一
『刑務所の中』は、著者自身の「獄中記」漫画である。
 単行本が青林工藝舎から発売されたとき、そのオビには、この漫画の舞台で
ある刑務所を指して「ニッポン最後の秘境」という文字が躍っていた。
 本が刊行された2000年当時は、「なるほどな…」と思った惹句だった。

 が、この度、各務葉月『食品工場の中の人たち』(KADOKAWA/エンターブレ
イン)を読んで、刑務所のみならず、すべての「中」あるいは「現場」という
のは、たいていの人にとって「秘境」なのではないか? と思えてきた。

 『工場の中の人たち』は、著者の各務さんが、実際に食品工場…デパ地下で
店舗展開する洋菓子工場だったそうだ…で現場の作業員としてして働いた、そ
の体験を事細かなルポ漫画に仕立てて、これをコミティアなどの同人誌イベン
トで販売していたところ、出版社の目にとまり、改めて加筆、描き下ろしを加
えて一冊にまとめられたもの。

 各務さんは、おそらくは女性だと思うのだけど、その各務さんの「分身」で
ある主人公は、なぜか「市井くん」という男性。
 市井くんは、在学中に就職が決まらず、その後アルバイトでも不採用が続き、
とりあえずの「無職」脱出のために、「他人が応募しなさそう」かつ「きつく
なさそう」なアルバイトを物色した結果、洋菓子の製造工場に応募し、採用さ
れる。

 「とりあえず」のつもりで選んだ職場だったのだが、そこでのルールや価値
観は…ことに「衛生管理」と「安全」に関しての、過剰とも思える規則が事細
かに取り決められており、まるで別世界。
 実は、わしも1日単位で計5回ほどだが、某コンビニチェーンの弁当及び惣
菜を製造する工場に派遣で入ったことがあるので、読み進めるうちに、「そう
そう、そうなのよ」「あ〜〜、やっぱり」と共感する部分がとても多かったの
だった。

 市井くんが、工場に入ってまず戸惑ったのが、服装。
 上下真っ白の制服にエプロン、頭にはネット付きの帽子、足元は消毒済みの
白長靴、作業場に入ったらマスクは絶対にはずせない。
 わしが経験した工場も、これと同様だった。
 まあ、そのまま街を歩くには、ちょっと勇気のいる恰好で、市井くんは、
「この服で作業するんだよな…」と若干へこんだようですが、わしは、それ以
前にもっと「変」な制服の現場を経験してたので、割と平気だった。

 わしが経験した中では、食品工場や製粉工場の、穀物や粉のサイロを専門に
清掃する業者…そもそもそんな業種があるのも、派遣で行って初めて知ったの
だけど、そこの「制服」が凄かった。
 よくテレビのコント番組で見るボディタイツのような、真っ白の身体にぴっ
ちりした上下。足元はこれまた真っ白なズック靴で、頭にはやはりネット付き
帽子で、これも白。
 高所に昇るときには、これに白いヘルメットを被って、腰に安全帯を装着す
る。
 サイロへの梯子を昇りながら、「暗黒舞踊かよ…」と思っていたのだった。

 サイロ内部には、ロープと「ブランコ」と呼ばれる器具を使って入る。もち
ろん、わしら派遣にはそんな危険な作業は割り振られなかったが、ここでもや
はり、安全管理は徹底していて、サイロやタンクの中に入る前には、必ず測定
器を下ろして、酸素濃度を確認してから入っていた。
 現場の工場に着くと、作業に入る前に工具や器具を全てシート上に並べ、一
点ずつホワイトボードに記載して、作業終了後には再び工具と器具を並べて、
ホワイトボードと照らし合わせ、紛失や忘れ物がないか確認してから引き揚げ
ていて、これまた安全管理の一環。とにかく徹底していた。

 ここの職人さんに聞いた「一番しんどかった現場」というのは、チョコレー
ト工場のカカオのタンクだそうで、全身ドロドロになった上に、帰ってシャワ
ーを浴びた後も、全身からチョコレートの匂いが発散してたそうだ。

 某有名製粉会社の巨大な工場では、やや天井が低く、その階全体が一室とい
うだだっ広いフロアがあって、その広い室内いっぱいに、直径50センチから1
メートルほどのパイプが縦横ナナメうねうね曲がりくねって絡み合い、その内
部を穀物や粉が高速で流れる音が「ごーーーっ」「がーーーっ」「ずざざざ〜
〜〜っ」と空気を震わせながら轟きわたっていて、なんだか、巨大な生物の内
臓を見ているようだった。

 この工場の内部も、かなり広いうえにどの階のどの部屋も同じような景色で、
何度か迷ったのだが、「市井くん」もまた、勤め始めた当初は、工場内でよく
迷ったみたいだ。
 わしが経験したコンビニの総菜工場でも、それぞれ一日だけの勤務だったこ
ともあり、休憩に出たのち、元の作業場がどこだかわからなくなって焦る…と
いうことが、一再ならずあった。

 「市井くん」も当初は戸惑ったようだが、作業場へ入室する際の「手洗い」
「消毒」「粘着クリーナー(コロコロ)」「エアシャワー室」という手順も、食
品工場に独特だ。
 「市井くん」の工場では、エアシャワー室では「体を4回転」というルール
もあったようだが、わしが経験したところでは、そこまでの取り決めはなかっ
た。

 「トイレ」もまた、食品工場では厳密に管理されていて、トイレに入る際に
は、「前室」でまず長靴を脱ぎ、専用の履物に履き替えるのは当然なのだが、
用を足し、手を洗っていざ出ようとすると、ドアが開かない。
 押しても引いてもびくともしなくて焦る間に、トイレのドアを内部から開け
る際には、備え付けの消毒スプレーを手に噴霧してからでないと「開かへんか
らね」と言われていたのを、ようやく思い出した。
 消毒スプレーを作動させるのが、ロックの解除スイッチになってるのですね。
 「市井くん」の工場でも同様だったようで、どうやらこの仕様は、食品工場
ではスタンダードのようだ。

 衛生管理では、「市井くん」の工場では、毎月2度の「検便」が義務付けら
れていたようだが、わしの場合はいずれも1日限りだったので、これはなかっ
たけど、長期契約になると、やはり同じように義務付けられていたかと思う。
 わしが経験した工場では、着替えが終わって作業場に入る前、廊下の一隅に
机を構えた係員によるチェックがあった。
 服装がきちんとしているか点検された上で、手に出血を伴う怪我が無いか確
認される。
 作業では必ず手袋をするのだが、それでも、怪我をした手で作業をするのは
NGらしくて、手に傷があるのが理由で、その場から帰された人もいた、とは、
同じく派遣で入った人から聞いた。

 わしの場合、ここでいつも引っかかっていたのが「ヒゲ」だった。
 わしは、口髭と顎髭を伸ばしているのだが、これは本来なら「NG」だそう
で、毎回、「う〜〜〜ん…」と難しい顔をされながら、1日限りだから、とい
うことで「マスクは絶対に外すな」という条件付きでOKをもらっていた。

 『食品工場の中の人たち』の序文で、作者の各務さんは、

 「総菜工場勤務の方からは、「こんなになまやさしくない!」と思われるか
もしれません」

 と書いていたが、確かに、各務さん…「市井くん」が勤務した工場は、夜勤
もなく、製品が「ケーキ」ということもあるのか、かなり優し気な雰囲気だっ
たようだ。
 わしが経験した総菜工場は、24時間体制の交代制で、ことに深夜勤などの場
合、工場のあちこちから、なにやら「ぴりぴり」「ぎすぎす」という空気が流
れてきた。

 「市井くん」の工場にも、「日本語のわからない」労働者がある程度いたよ
うだが、わしが行った工場は、むしろ日本人より外国人の方が多い職場だった。
 最寄りの駅から送迎バスで工場へ行くのだが、そのバスの中からすでに、各
種の注意事項がすべて「日本語」「中国語」「ポルトガル語」併記で書かれて
いて、これは工場内でもそうだった。
 バスに乗っている人たちのほとんどは、中国語あるいはポルトガル語らしき
言葉で声高に喋っていて、日本語はどこからも聞こえてこない。

 ある時、わしが「ここに入って」と言われた弁当のラインは、主に中国人の
グループに任されていて、そのリーダーらしき人から、「あんた、中国語、わ
かるか?」と訊かれ、「いいえ…」と答えると、「ち」と小さく舌打ちされた。

 注意して見てみると、どうやらラインごとに、中国人だけ、ブラジル人だけ、
という風に割り振られていることが多いようで、その方がお互いのコミュニケ
ーション面からも、作業効率が高いんだろう。
 が、「民族間対立」もあるようで、ことに深夜の時間帯など疲れからくるイ
ライラもあるのだろう、お互いの作業の進め方をめぐって、中国人グループと
ブラジル人グループの間で、言い争いから殴り合いにまで発展することもある
…とは、やはりわしと同じ会社から派遣されていて、過去に何度もここに入っ
ている人から聞かされた。

 やはり食品関係なのだけど、神戸港内にある倉庫会社…主に輸入品および国
産の野菜や果物を扱っていたが、ここが持っていた保税倉庫の中で、中国から
輸入した生姜の「土を落とす」という作業にも、従事した。
 1000ケース以上は倉庫内に積み上げられていたと思うのだが、この生姜は食
用ではなく「種生姜」で、中国で船積みされる前に洗浄されてケースに詰めら
れたのだが、その洗浄が不十分で、「土が付いている」と、全ケースが検疫所
から差し戻された品なのだった。

 周知のとおり、「土」を国外から持ち込むのは、量の多少にかかわらず防疫
法により絶対的NGで、なので、法的にはそこはまだ「国内」ではない保税倉
庫内で作業する必要があったのだった。
 しかし、保税倉庫内とは言え、この生姜にこびりついた土を水で洗い流して
しまうと、その土は下水から国内に「不法侵入」することとなり、できない。

 で、どうしたかと言うと、5台ほど並べた作業台にクダンの生姜を、段ボー
ルのケースからどさっと広げて、1台の作業台あたり5〜6人が取り付いては、
ひたすら生姜の土を、手にはめた軍手で拭って落とす。
 生姜ってのはでこぼこで、あちこち出っ張ったところの隙間に土が入り込ん
でいるので、これは「ぱきっ」と折ってこする。
 ぱきりと折って擦る、折っては擦る、をひたすら繰り返す。
 食用ではない種生姜なので、小さく折っても全然問題ないのだった。

 生姜は、作業が終わったものからケースに戻していき、全部の生姜を処理し
終えると、ケースをガムテープで封印し、次のケースにかかる。
 作業台の上に落とした土は、作業に使った軍手ともどもかき集め、ビニール
袋に封入して、これも生姜とともに後日検疫所に提出する。

 わしは毎日通っていたわけではないが、人海戦術で都合5日間ほどもかかっ
て、すべてのケースを処理し終えたようだった。
 一緒に行った派遣の同僚は、一日目が終わった時点で「もう、生姜の匂いを
嗅ぐのも、イヤ…」と言っていたが、わしは、普段まず入れない保税倉庫の中
をあれこれ見られて、結構面白かった。

 この倉庫会社では、こちらは国産だったが、玉ねぎを、ひたすら3個ずつの
ネット詰めにしては段ボールに詰めていく…という作業もやったが、これは、
かなりきつかったです、はい。
 3個入りネットが…あれはいくつくらい入っていたのか、とにかく入るだけ
詰め込んだ段ボールは、かなり重くてパレットに摘むのも一苦労だし、しかも
その量が半端ないんだ……
 特大の段ボールに箱詰めされた玉ねぎは、パレット20台以上だったと思うの
だけど、某大手スーパーに納品されたそうだ。

 倉庫会社では、段ボールの大きさと形状から、一番適切なパレットへの積み
方を、一目見ただけで「ぱぱっ」と決めていく社員の人たちを、「プロやなあ
…」と眺めていたのだが、いずれの職場でも、その職場独自の「プロの技」と
いうのがあって、派遣のおかげでいろいろな職種でそれぞれの「技」を垣間見
ることができて、いちいち感心もしたのだった。

 前回に言及した曽根富美子の『レジより愛をこめて』しかり、また『いちえ
ふ』しかり、そして各務葉月さんもまた、そんな「技」に新鮮な驚きを感じた
のが、それを漫画化しようとするきっかけになっているのだと思う。

 我々が、普段何気なく使ったり食ったりしている量産品は、その裏側で過剰
とも思える厳密な衛生管理と安全管理のもとに製造されていて、それこそが、
いわゆる「ニッポンのモノ造り」を支える原点なんじゃないか、とも思えてき
た。
 大量生産の、その製造現場というのは、日本最大の「秘境」であるのは、間
違いない。
 その「現場」をルポするお仕事漫画、これはもっといろんな業種のそれを、
読んでみたいぞ。

 ちなみに、わしが経験した「現場」では、宇宙ロケットや原子力発電プラン
トも製造している財閥系造船所での経験も、なかなかに興味深かったのだが、
こちらはまた別の機会に語らせていただきたい、と思う次第であります。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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89 芸術の贈り物

 『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』
  エイミー・・ノヴェスキー 文 イザベル・アルスノー 絵
  河野万里子 訳 西村書店

 イラストレーター、イザベル・アルスノーの作品をひとめみたときから、こ
れは追いかけて読みたい絵本作家だと注目してきました。グラフィック・ノベ
ル『ジェーンとキツネとわたし』も2015年にメルマガで紹介しています。

 今回の絵本は彫刻家ルイーズ・ブルジョワの生涯を描いたもので、エイミー
・ノヴェスキーが文章を書いています。

 芸術家の評伝と絵本はとても相性がよく、ルイーズの芸術の本質が別のアー
ティストによって違う色彩で輝き、印象づけられます。

 母親はタペストリーの修復を仕事としており、ルイーズは12歳になると、母
親の仕事をおぼえはじめ、修復の線や下絵を描くようになります。修復が必要
なタペストリーのすその部分だったので、必然的にすその部分――人の足を描
くのが上手になったそうです。

 母と一緒に修復の作業をしたことは、ルイーズの原点となり、大学では数学
を専攻したにもかかわらず、母親が亡くなったあとは、修復する――つなぎあ
わせ、完全なかたちにもどす――ことを仕事にしていきます。

 しかし、母の死はルイーズの未来を変えました。

 絵を描き、織物を織っても、母に会いたい気持ちはおさまらず、
 彫刻でそれはそれは大きなクモをつくるようになります。
 ブロンズや鉄など様々な素材でクモをつくり、題を「ママン(おかあさん)」
とつけました。

 32歳のときにタペストリーの個展をひらき、6年後に初の彫刻作品を発表。
71歳のときに、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で開催した回顧展でとう
とう世界的に認められたのです。

 ルイーズは子ども時代の思い出が、創作におけるインスピレーションの源と
語っており、なぜ「クモ」を題材にしているかも絵本で紹介されています。

 アートを強く感じる本書は子どもにも大人にも刺激を受ける一冊としておす
すめです。


 『せん』
  スージー・リー 岩波書店

 そぎ落とされたシンプルな線で描かれた絵本。
 スージー・リーは、デッサンの線から豊かな物語を絵で語りかける作家です。

 赤い帽子をかぶった少女はスケートでリンクに美しい線をつけていきます。

 見開きの白いページで少女はすべるのですが、あら、スケートリンクだと思
っていたのは紙??と疑問符がよぎる、少しトリッキーな展開のあとは「せん」
のもたらす妙味に唸らされるのです。

 サイレントムービーのように言葉なく「せん」のみで描く少女のスケート世
界の豊かさに、みているだけで満足感がこみあげます。


 最後にご紹介するのは、うれしい復刊絵本。

 『オレゴンの旅』
  ラスカル 文 ルイ・ジョス 絵 山田兼士 訳 らんか社

 セーラー出版で刊行されていた『オレゴンの旅』が復刊です。
 (ご存知と思いますが、らんか社は2013年にセーラー出版から名前が変更に
なった版元です)

 星のサーカス団でデュークはオレゴンという名のクマと友だちになります。
 オレゴンはデュークに大きな森に連れていってほしいとお願いします。

 デュークはクマのオレゴンが口をきけることに驚くものの、願いをかなえる
べく、ふたりでサーカス団を離れることに同意します。

 デュークはピエロでした。そしてピエロの恰好のまま、オレゴンと旅をしま
す。

 ヒッチハイクをしたとき、運転手のスパイクはデュークになぜ赤いハナつけ
おしろいをぬっているのかたずねます。


 「顔にくっついてとれないんだ。小人(こびと)やってるのも楽じゃないん
だよ…」 
 「じゃあね、世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい?」


 どのページもタブローのような完成度で、
 少しもの悲しさをただよわせる旅の空気感がリアルです。

 オレゴンとの約束を果たしたあとのデュークがとてもかっこいいので、見て
ほしい。

 10代の本棚におすすめしたいとらんか社さんからのメッセージなので、我が
家の高校生の娘っこと一緒に読んだところ、

 「かっこいいー!」

 オレゴンの旅の絵本が放つメッセージをひとりの高校生には伝わったようで
す。


(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第106回 英国と長崎。パラダイムの違いを考える小説

 昨年のノーベル賞作家の本を読む。カズオ・イシグロ。彼の本は何年か前に
小欄で『私を離さないで』を取り上げた。今回は彼の長編処女作。
 読んでいる最中、どう読んでいいのか、わからなかったし、読み終わった今、
どう読んだのか、これまたよくわからない。不思議な作品だった。

『遠い山なみの光』(カズオ・イシグロ 著)(早川書房)
(ハヤカワepi文庫)(2001年9月15日 文庫初版)
(2015年12月25日 九刷)
  (『A PALE VIEW OF HILLS』(Kazuo Ishiguro)(1982))

 原爆投下と敗戦の傷も癒えぬ戦後の長崎と豊かで静かな現代の英国の田園地
帯を行ったり来たりして物語が進行している。

 常に一人称で語られており、その一人称の悦子さんは戦後の長崎で生活して
る悦子さんであり、現代の英国に住んでいるエツコさんであり、同じ人物であ
ることが、読んでいてもどうしてもつながらないのだ。

 それは、あまりにも環境が違い過ぎているからなのだが、長崎で日本人とし
て生きている身重の悦子さんと英国の田園地帯で子どもも成長している英国籍
になっているであろうエツコさんが重ならない。

 一人称で語る物語なので、なぜ長崎にいた日本人の悦子さんが年を経て英国
で英国人として生きているのか、わからない。周辺情報がすくない。

 長崎での悦子さんには日本人の緒方二郎という夫がいる。しかし英国でのエ
ツコさんには夫がいる様子はない。おそらくエツコさんの夫は英国人であり、
死別か離別しているのだろう。

 むろん長崎の悦子さんも二郎と死別か離別した後、英国人と結婚し、その間
に生まれたハーフの女の子、ニキ。英国サイドで登場するのは、エツコとニキ
だけ。

 そして、ニキの上にもうひとり娘がいて、彼女の名前が景子。日本人。

 ということは、景子は緒方二郎との間の子であり、長崎サイドでは悦子さん
のお腹の中にいた子、ということになる。

 しかも驚くべきことに景子は、英国で引きこもりから自殺してしまった。ニ
キは景子の妹。ニキが景子のことをどう思っているかは、注意深く読まないと
わからない。姉として肉親の情愛は感じているだろうが、なにか他人行儀なと
ころがある。

 それは母親のエツコさんにも云えるのだ。娘の死、しかも自死した娘に対し
てエツコさんは冷静すぎる。

 英国のエツコさんは物事の見方が斜めであり、ニヒリズム的なのだ。

 長崎の悦子さんは、本当に日本の女性を感じさせる。一歩下がり夫と義父を
立てる日本の女性。

 長崎サイドでは、悦子さんの傍らにふたりの女性が登場する。佐和子と万里
子。佐和子は母であり、万里子は娘。この母娘が不思議な母娘であり、万里子
の父親は誰なのかは語られていない。戦後の日本だから、夫は戦死しているか
もしれない。

 いずれにしても英国のエツコさんと同様に佐和子は夫と死別か離別かしてい
て夫がいない。叔父の家で居候するか、アメリカ人のボーイフレンドと一緒に
アメリカに行くか、迷っている佐和子は悦子さんに比べるとよほど行動的では
あるし、戦後の一時期の日本女性のひとつの典型であろう。誤解を恐れずに書
いてしまえば、佐和子はパン助なのである。

 本書を読み進めて、最終盤にかかる頃、たぶん読者は誰でもこう思うだろう。

 もしかしたら、長崎の佐和子は英国のエツコであり、自死した景子は、万里
子なのではなかろうか、と。

 そう考えるとすべての辻褄が合う。英国のニヒルなエツコは、長崎の佐和子
のものだし、精神的に不安定な万里子は、物語の中で最後まで、外国に行きた
くない、と云っていた。そして孤独な景子は英国で自殺した。

 そうなると、悦子さんは誰なのか? エツコさんの創作なのか、それともエ
ツコさんこそが佐和子による創作なのか。なにがなんだかわからなくなる。

 しかし、あくまでもエツコさんは悦子さんだったわけで、佐和子とは別人と
して物語は終わるのだ。

 戦争と敗戦で、日本の中で価値観が変わった。きのうの価値はきょうの無価
値になる。まして、原子爆弾で何もかもすっかりなくなってしまった長崎では、
過去のものは何もかもなくなってしまった。1945年に日本は大きなパラダイム
の変換が行われた。それが本書の主題なのだろうと思う。

 英国籍を取得した長崎生まれの著者は、ニキなのか、それとも景子なのか。
自分の意志で英国に渡ったわけではない、カズオ少年は英国に行った当初、ど
んなにか心細かったことか。負け戦の日本、しかも原爆で丸裸になってしまっ
た長崎の記憶を胸に幼いカズオ少年は何を思っていたのだろう。そしてどうい
う気持ちでこの物語を紡いだのだろう。

 ますますカズオ・イシグロという作家に興味が湧いてくる一冊だった。


多呂さ(日曜日から九州場所が始まりますね。モンゴルの二横綱が休場する今
場所では、稀勢の里はどんな成績でしょうか? 優勝は誰になるでしょうか? 
もしかして栃ノ心かな? いずれにしても興味が尽きない納めの場所になりま
すね。)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
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 表題【読者書評参加希望】
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 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

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■あとがき
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 ここのところ一日の寒暖差が大きいですね。乾燥も気になる年頃です。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.664

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■■ [書評]のメルマガ                2018.10.20.発行
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■■ mailmagazine of book reviews    [世の中どうなっとるんや〜 号]
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■コンテンツ
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『燃える男』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『トラクターの世界史』藤原辰史 中公新書

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ どうしたニッポン!キャバ嬢の著作が揃ってベストセラーに

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#99『燃える男』

 多くの方にとってどうでもいい話ではありますが、実は前回も、#99でした。
なんで#99回が2回続くのかといえば、今回で#100だと思って、念のためこれま
でのファイルを確認していたら、なんと#54が飛ばされていたのです。

 #52『音の力 沖縄』#53『禁じられた歌』と来て、#55『風の歌を聴け』とな
っている。
 理由は定かではありませんが、まあ、単純なミスですね。
 ということで、キリ番の#100が2回続くのも、と思い、#99を2回にして、次
から気持ちも新たに#100とさせていただきます。

 さて、今月の本題。
 ぼくの好きな作家に、スコットランドのイアン・バンクスという人がいる。
彼のユニークな点は、一作ごとにジャンルをまったく変えるということだ。

 デビュー作の『蜂工場』は、この題で邦訳があり、日本ではサイコ・ホラー
の秀作として紹介された。主人公は、無人島で父と二人暮らしの少年。だが、
彼には兄がおり、精神病院に入れられている。その脱走を報じるニュースが入
って、次第に狂った兄が島へ近づいてくる予感に怯える物語だ。

 しかし、その後に同じ傾向のものはない。
 昔ながらの自給自足を旨とする新興宗教。その信者だけが住む、田舎のコミ
ューンで生まれ育った少女が、単身ロンドンに派遣されることになり、初めて
見る文明に驚くミステリー仕立ての冒険物語。
 ロック・バンドが成功を収め、スターになり、ドラッグやら三角関係やらで
凋落していく姿を描いた音楽青春小説。
中世を舞台にした歴史戦争物。
 世界的な大企業の重役たちが繰り広げる権力闘争を描いたビジネス小説。
 どこからどこに架かっているのかすらわからないほど巨大な橋の上で、人が
一生を送る異世界を舞台にしたシュールなSF。
 さらに、イアン・M・バンクスという微妙に紛らわしい別名義で、なぜかこ
ちらは壮大なスペース・オペラばかりを書いている。

 この人もぜひ紹介はしたい作家なのだが、残念ながら翻訳が殆どない。

 そこで、本書の著者A・J・クィネルの登場となった。
 この人も、冒険小説というジャンルの枠内ではあるものの、作品ごとに作風
を大きく変えているからである。

 KGBとCIAが対決する本格的なスパイ小説があるかと思えば、実際に起
こった軍事的事件を描いたノンフィクション・ノベルがあり、遭難した息子の
生存を信じる母親が決死の搜索に乗り出す海洋冒険小説がある。

 そしてデビュー作『燃える男』は、傭兵あがりの男とマフィアの壮絶な死闘
を描いている。

 原書は1980年に発表されているので、物語の舞台となるのは1970年代後半と
思われるイタリアである。
 この国では当時、赤い旅団という極左テロ組織が、爆弾テロなど、一連の事
件を引き起こし、国際的にも有名になっていた。いまで言えばアルカイダとか
イスラム国に当たる存在である。特に、彼らによる要人誘拐事件が、日本でも
盛んに新聞紙面を賑わせた記憶がある。

 しかし、誘拐事件の中には、政治目的ではなく、身代金目当ての営利誘拐も
少なくなかった。
 マフィアによる、金持ちの子弟の誘拐である。

 本書では、そんな背景を受けて、富豪の一人娘ピンタに、傭兵あがりのクリ
ーシィというボディガードがつくところから幕が開く。

 この主人公クリーシィの設定がユニークなのは、50歳という年齢にある。
 若い頃に傭兵稼業に身を投じ、以来各地の戦争を転々として、一度も家庭を
持ったことがない孤独な男。
 それが、自分の生き方にふと虚しさを感じ、傭兵を辞めてしまうのである。
 これまでの稼ぎが潤沢にあり、生活には困らない。とはいえ、他にするべき
ことも、したいことも、ない。

 そう、冒険小説の主人公には珍しく、中高年鬱の状態にある人物なのだ。

 ぼく自身も50代。欝とまではいかないし、既に会社は早期退職しているもの
の、クリーシィの心境にはいちいち思い当たるところがある。
 正直言って冒険小説の主人公に、中高年の読者が、かっこいいなとは思って
も共感することはあまりないと思うのだが、本書はそこが違うのである。

 そんなクリーシィにも、同じ傭兵として長年コンビを組んできた唯一の親友
がおり、無聊を持て余す彼を見かねて、ボディガードの仕事を紹介する。
 かくして、クリーシィはピンタのお守役となった。

 ボディガードというロマンチックな存在に興味津々の少女は、この無口で無
骨な中年男に質問の嵐を浴びせるが、無愛想な拒絶に会ってへそを曲げてしま
う。
 しかし、ピンタの明るい好奇心はその程度のことでは怯みもせず、少女らし
い策略をもって、クリーシィの心を開こうとする。

 徐々にピンタと打ち解け始め、生まれて初めて愛情というものを経験するク
リーシィの驚き。
 過酷な戦場を生き延び、人間の暗黒面を見すぎた男が、その対局にある、人
間の明るい日差しを浴びた部分だけを持つ無邪気な少女によって、大きく人生
観を変えていくさまが、清新な感動をもって描かれていて、読む者の胸に忘れ
がたい刻印を残す。

 そうしたクリーシィの、心の変化を象徴するのが、音楽なのだ。

 テネシー州出身のアメリカ人であるクリーシィは、久しぶりに懐かしいカン
トリー・ミュージックを聴き始めるのである。
 いくら傭兵でも、生まれた時から裏切りと殺戮の生活を送っていたわけでは
ない。将来自分がそんな風になるとは、まだ夢にも思わない思春期の頃には、
人並みに音楽に心を預けた時間があったのだ。そのことを、ピンタとのふれあ
いが彼に思い出させた。
 クリーシィはラジカセを手に入れ、一日の仕事を終えて自室でくつろぐ時に
音楽をかけるようになる。それが、ジョニー・キャッシュであり、ドクター・
フックであり、リンダ・ロンシュタットの『ブルー・バイユー』なのだった。

 単にカントリーというだけなく、この三人の名前が繰り返し現れる。
 しかも、他の二人についてはアーティスト名だけなのに、リンダ・ロンシュ
タットだけが曲名を指定されているのが気になる。

 理由のひとつは、この曲が収録されたアルバム『夢はひとつだけ』のリリー
スが1977年で、物語の時代に近いからだろう。

 しかし、それだけだろうか?

 バイユーは流れの遅い小川のことで、アメリカ南部の低湿地帯に多く存在す
る。そこに生息するザリガニは、南部料理の代表的な食材だ。
 歌の主人公は、そのバイユーに、いつの日か帰ることを夢見る、孤独な放浪
者なのである。

 ♪あたしは寂しく、不安におののいている
  恋人を水青きバイユーに置き去りにしてしまってから、ずっと
  日が暮れるまで働き、小銭を貯めて、いつかバイユーに帰るわ
  愛しい人がいて、楽しい人々が集っている、あのバイユーに

 リンダ・ロンシュタットの鼻にかかった声で歌われる、懐かしい故郷アメリ
カ南部。バイユーはその象徴として、クリーシィの心の中をたゆたうように流
れていく。
 そこで過ごした、まだ戦場という地獄を知らず、人間らしい心を失っていな
かった頃の優しい感情が、ピンタの無邪気な愛らしさとこの歌を通して蘇る。

 クリーシィがカセットテープで聴くこの歌を、ぼくも偶然、本書を読む少し
前によく聴いていた。残念ながらウチにあるラジカセは随分前に壊れて、カセ
ットを聴く術がないので、CDではあるのだが。
 そして改めて本書を読んだ後に『ブルー・バイユー』をかけてみると、目に
浮かぶのはアメリカ南部ではなく、物語の主要な舞台となる南イタリア。かつ
て二度ほど訪れたことがある、ナポリやシチリアの情景であった。

 果たしてクリーシィは、少女ピンタをマフィアの魔手から守れるのか。
 ぜひ本書をお楽しみください。


A・J・クィネル
大熊栄訳
『燃える男』
昭和59年7月25日 第一刷
集英社文庫

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
学生の頃、音楽サークルに所属していました。ある日部室へ練習に行くと、前
のバンドがまだ練習中で、リンダ・ロンシュタットの『It’s so easy』をや
っていたのですが、ヴォーカルの女性がめちゃくちゃ上手くてびっくりしまし
た。その後何年もして、テレビから彼女の歌声が流れてきたのです。ドラマ
『金曜日の妻たちへ』の主題歌『恋に落ちて』でした。そう、あの女性は小林
明子さんだったんですね。やはり上手い人はアマチュアの頃からレベルが違い
ます。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『トラクターの世界史』藤原辰史 中公新書

 サブタイトル「人類の歴史を変えた『鉄の馬』たち」ということで、珍しい
トラクターの歴史の本である。トラクターはどんな形態の農業でも使えること
が多い。それゆえ農業の機械化のシンボルになる存在感を持っている。

 トラクターの機構そのものは単純である。エンジンに走行装置とPTO(Power 
Take-Off)と呼ばれるエンジン駆動力をとりだす口ががあるだけである。しか
しPTOから取り出せる力はロータリーなどを動かして田畑を耕したり、脱穀機
などを動かす動力になる。もちろん作物や肥料なども運べる。要するに万能機
だ。

 当初は蒸気機関で開発が行われ、実際に使われることもあったが、蒸気機関
では使うこと自体が大変だった。しかし内燃機関(エンジン)を動力源にする
と使い物になるようになった。

 日本では時々しか見かけない履帯(りたい。キャタピラ、クローラともいう)
で駆動するトラクターもできていて、これが元になって世界最初の戦車が作ら
れる。言い換えれば、トラクターと戦車は技術的に同根で、トラクターを作れ
る工場は戦車の生産に切り替えるのは容易なのだ。

 そんな解説をしておいたあと、各国史に入る。まずは大国アメリカである。
ジョン・フローリッチという人が1892年に最初の内燃機関トラクターを開発し
たがほとんど売れなくて会社は潰れた。しかし再建された会社がそこそこ成功
し、農機具メーカー「ディア」社が買収するのだが、これがアメリカでよく見
かける緑のトラクター「ジョン・ディア」の始まりだ。

 競合社もいろいろ出てきたが、ディアとインターナショナル・ハーベスター
社(IH社)がぬきんでてきたところに、自動車の巨人フォードが大量生産シス
テムをひっさげて「フォードソン」トラクターで参入してくる。

 貧農出身のフォードとしては、子供の頃から農家の仕事がラクになるものを
作りたいという願望があった。クルマよりもこちらをメインにやりたかったの
だろうが、クルマ事業が大きくなったのでそうもいかなかったのだろう。自動
車同様、フォードが値段をガクンと下げてきたことでトラクターの普及が進ん
だのは間違いない。

 しかし他のメーカーも黙ってみていない。IH社が先に挙げたPTOを開発、フ
ァーモールと呼ばれる中耕に適した設計思想のトラクターをつくれば、ディア
は農家のフィードバックを得てより使いやすいものにしたし、新参メーカーの
アリス・チャルマーズという会社がゴムタイヤのトラクターを作ってトラクタ
ーの乗り心地を改善した。

 そんな他メーカーの攻勢で、しばらく歯が立たなかったフォードは革新的な
3点リンクで逆襲する。3点リンクとは地面の情況によって油圧制御で自動的
に作業機を上げ下げする機構のこと。たとえば波打った農地でも均等に同じ深
さで耕作できるようにする。いや〜読んでたらこのまま「トラクター戦争」と
か歴史ドキュメントができそうだ。

 そんなトラクターもよいことばかりではなかった。当時の技術ではエンジン
の音も振動も大きく、乗り心地が最悪で使うと相当疲れる代物であった。だか
ら乗り心地をよくすることが大変な競争力を持ったのだ。

 また馬のように毎日エサをやらなくていい代わりに堆肥は取れないし、燃料
を買えないとトラクターは動かせないので石油会社の動向に農業が左右される
こともあった。そして驚いたのが、トラクターの普及が戦車乗務員の育成につ
ながったということ。

 考えれば当たり前のことだが、戦車もトラクターも設計が同じようなものだ
から運転の方法も似ている。だから農家を集めたら戦車兵の大量育成がやりや
すかったのだ。そしてトラクターによってより少ない人数で、あるいは高齢者
や女性農地を回せるようになれば、たくさんの農民は要らないから、国家は工
業化を行う上で充分大量の労働者を確保できた。これはそのまま日本の三ちゃ
ん農業ではないか。

 当然そうした変化には逆らいたくなる人たちも多いわけで、そのあたりは読
んでのお楽しみということにしよう。特に土壌の流亡関係は注目だ。

 アメリカのほかにもソ連やドイツなどにも多くのページが割かれている。ポ
ルシェもフォルクスワーゲンならぬ「フォルクストラクター」作ってたなんて、
この本読んで初めて知った。

 また、こうした国ほどではないが他の国の状況も一生懸命調べてある。この
あたりの記述が少ないのはまあ仕方がない。ただ、個人的には各国でトラクタ
ーが受け入れられ、普及していく過程がそれぞれ違ってて興味深かった。お国
柄と言ってしまえばそれまでかも知れないが、農業の多様性も背景にあるのだ
ろう。

 そして最終章が日本だ。アメリカのトラクターの歴史に匹敵する、多大な努
力が日本でも払われてきたのがよくわかる。特に岡山県は日本トラクターのふ
るさとみたいなとこらしい。そんな豆知識もつくというか、トラクター以外に
も岡山で開発された農機具って存在感のあるのがあったりもするんだよなぁな
どと「あの機械も岡山のメーカーのだっよな」なんて思い出しながら読んだ。

 トラクターなど農家以外は普通関心を持つとは思えないが、こういう本を読
むと確かにトラクターは人類の歴史を変える機械である。トラクターを見る目
が、ちょっと変わる。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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どうしたニッポン!
キャバ嬢の著作が揃ってベストセラーに

 愛沢えみり、門りょう、小川えり、進撃のノア、・・と聞いてこれらが何の
名前なのかがすぐにわかったら、あなた、遊び人またはバブルリッチまたは超
のつくヲタクです。

 これらはすべて、今、人気のキャバクラ嬢の名前。愛沢えみりが東京・歌舞
伎町、門りょうと進撃のノアが大阪は北新地、小川えりが名古屋の錦と現代ニ
ッポンの主な繁華街を代表するキャバ嬢が、少し前ぐらいから続々と本を出し
ていてそれがみなベストセラーになっているという、世の中どうなっちゃって
るねんなトレンドなわけです。

 本が売れているということはですよ、その前提として各地を代表する繁華街
にカリスマと呼ばれるキャバ嬢が出現したということになります。

 これまでも、立花胡桃なんていうキャバ嬢がテレビで政治文化の領域までコ
メントするということはあったにせよ、4人出てきているというのが昨今の特
徴で、これってやっぱり景気がいいの?アベノミクスが成功しているの?と勘
違いしそうな傾向です。

 おばちゃまの調査によると、愛沢えみりは東京の地の利を生かして深夜番組
のアシスタントとしてテレビ出演、門りょうはタカビーキャラと全盛期に寿引
退するという離れ業をして女子を胸キュンさせていて、進撃のノアは若さとそ
のネーミングと留学経験というなんかお嬢様なの?という妄想を掻き立ててや
はり女子ファンをつかんでいます。この3人がピアス、派手メーク、カラコン
というキャバ嬢の装備をフル完備しているのに対し、ピアスもネイルも整形も
カラコンもしないでありのままな30歳と実質本位な接客を前面に押し出してい
るのが名古屋の小川えりというように、各地の県民気質を反映されているのが
おもしろいですね。

 で、肝心の本の内容です。愛沢えみり著『キャバ嬢社長愛沢えみりとしての
生き方』、門りょう著『ナンバーワンキャバ嬢の仕事と男とお金のホンネ』、
小川えり著『日本一売り上げるキャバ嬢の指名され続ける力』、進撃のノア著
『好かれる力』と勢ぞろいですが、はっきり言ってどれも、似たり寄ったりで、
接客術や恋愛観、これまでの人生を語っていて特にどれがすごいということは
ありません。読者は圧倒的に女子が多いというのもゲンダイっぽいです。

 あと、こっちはホストですが歌舞伎町にローランドというカリスマが出現し
ていて、こっちも太い女客が一晩で数百万円単位のお金を使ってます。

 ほんま世の中どうなっとるんや〜。風俗業界が活気あふれるばかりというこ
とは日本経済も元気いっぱいなのでしょうか。

 やっぱり消費税を10%にしても自民党は安泰なのかもね〜。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『ヒューマン ─ 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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 表題【読者書評参加希望】
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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
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 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

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2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

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 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
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 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 『燃える男』と「トラクター」は偶然の一致です。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.663

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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<106>私漫画、エッセー漫画、ルポ漫画、そして「お仕事漫画」

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→88 移動する、その先にあるもの

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる 採用ブランディング

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第105回 演技をする、とは自分を知るための探索の旅である

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<106>私漫画、エッセー漫画、ルポ漫画、そして「お仕事漫画」

 先月紹介した山本直樹の『レッド あさま山荘の10日間』を読み終えた後、
その余韻が残るうちに、と桐野夏生『夜の谷を行く』も読んだのだった。

 『レッド』が描いたのと同じ連合赤軍事件の山岳アジトから、「総括」を逃
れるために逃亡し、その後逮捕された女性が主人公。
 今は刑期を終えて出所し、世間から隠れるようにひそやかに暮らしていた彼
女が、永田洋子の獄死を機として、事件当時のことを聞かせてほしいという女
性ライターから執拗に迫られ、忘れようとしていた事件と向き合っていくこと
になる物語。

 主人公の女性は、どうやら完全な架空の人物のようだが、彼女が過去と向き
合う過程で再会することになる当時の関係者は、あくまで架空の人物として描
かれてはいても、『レッド』と併せ読むと、これはあの人、こっちはこの人、
とモデルが特定できる。

 「東電OL事件」をモデルに描いた『グロテスク』や、谷崎潤一郎と佐藤春夫
の間にあった「細君譲渡事件」に翻弄された娘の視点から、二人の父親とその
家族を描いた短編『浮島の森』(短編集『アンボス・ムンドス』所収)も、桐野
作品では『夜の谷を行く』と同じ系譜の作品かと思う。

 おそらく、なのだけど、桐野夏生は、これらのモデル小説を書くにあたって、
文献的資料は集めたと思うのだが、当事者をはじめ関係者に会って取材する、
ということはせず、あくまで想像力の中で人物を構築し、その心情を探ってい
ったのだと思う。

 そして、あくまで“フィクション”として小説を構成した…にも関わらず、
これらの中の人物像は、リアリティと実在感に満ちている。
 「東電OL事件」については、いくつかのノンフィクションも読んだのだけど、
それらノンフィクションよりも、桐野が想像で描いた(フィクションであるは
ずの)『グロテスク』の方が、実際の人物像と事件の真相に迫っているんじゃ
…と思わせる力があった。

 『夜の谷を行く』では、物語中に直接的に登場しない関係者はすべて実名が
使われていたが、山本直樹の『レッド』では、関係者名はすべて仮名で通され
ている。
 なので、読み進めるにあたって、わしは、漫画の人物名に実際の事件の人物
名を当てはめる「一覧」を自作し、時折これを参照しながら読んでいた。

 桐野夏生の小説は、実際の事件や人物に取材してはいても、あくまでフィク
ションの「モデル小説」であるのに対して、山本直樹『レッド』は、知りえた
事実ひとつひとつを積み重ねることによって、当事者たちの心情を、その事実
の隙間から絞り出すように描いている。
 小説で言えば吉村昭の手法に近いんではなかろうか。
 なので、登場人物すべて「仮名」であっても、これは記録小説的漫画である、
と断言できると思う。

 事実に即して描く、ということで言えば、「私小説」という文芸のジャンル
が、この国ではある時期から盛んになって、日本独自の文学世界を醸成してき
た。

 永島慎二『漫画家残酷物語』は、この私小説の手法を、漫画に最初に取り入
れた嚆矢じゃないかと思うが、私小説的漫画「私漫画」はその後、自身、葛西
善三や正宗白鳥、宇野浩二らの私小説世界に傾倒していたつげ義春から、主に
「ガロ」誌上で、安部慎一、鈴木翁二らに受け継がれていった。

 小説の世界で私小説が下火になるのと軌を一にして、漫画の世界でもこの分
野はしぼんでいくのだけど、漫画界においては、「私漫画」を親としてその後
に生み出されたのが「エッセイ漫画」だ、とこれは我が自説。

 以前、ここで取り上げた、細川貂々『ツレがうつになりまして』や『日帰り
旅行は電車に乗って』、さらに、やはり以前取り上げた矢部太郎『大家さんと
僕』などが、このエッセイ漫画の範疇に入る。

 私小説、あるいは活字のエッセイがそうであるように、私漫画やエッセイ漫
画でも、必ずしも事実そのまま、ありのままに書かれるとは限らず、ある程度
の脚色あるいは創作が挿入されるのは許容範囲だ。
 ことにネットで、たまに見かけるのだが、活字にしろ漫画にしろ、エッセイ
に書かれたことが「事実と違う」と目くじら立てるのは、だから完全なスジチ
ガイである、とわしは思う。
 昔、山口瞳が「週刊新潮」に連載していた名エッセイ『男性自身』を愛読し
ていたのだけど、あれにしても、かなりの「創作」が入っていると、これは当
時から思っていた。
 エッセイだって「創作」の一形態なのだ。

 その意味では、その昔に滝田ゆうが文芸雑誌に連載し、その後単行本にまと
められた『泥鰌庵閑話』(現在はちくま文庫で読めます)は、実に楽しい私漫
画であり、同時にエッセイ漫画でもあった。

 さらに近年では、エッセイ漫画から派生した一形態として、ルポルタージュ
を漫画で著す、というのも、決して珍しいことではなくなってきた。
 取材で得た事実をそのままに伝えるルポなればこそ、ビジュアルを使える漫
画には、活字よりもより正確、具体的に伝える力があるようだ。

 また、取材ではなく、漫画家本人が(主に生活のために)就いた仕事のこと
を、事細かにルポ風に描いた漫画は「お仕事漫画」として、既にいちジャンル
として定着しているようだ。

 1992年発表の、故郷・北海道室蘭の遊廓の女たちを描いた漫画「親なるもの
 断崖」が最近になって電子書籍でリバイバルヒットしたことで話題になった
曽根富美子は、数年前に、漫画の収入が落ち込んで逼迫した生活の打開策とし
て、自宅近くのスーパーでレジ係としてアルバイトを始めた。
 いつも買い物に利用しているスーパーだから…という気安さと、明言はされ
てないが、「(スーパーのレジくらいなら)できるだろう」という、軽くナメ
た気持ちも、おそらくはあったのだろう。
 が、普段「客」として見ていた職場は、その反対側に回ってみると、まるで
世界が違っていて、何から何まで「初めて」尽くし。

 これ、わしもずっと昔だけど、学生時代に、普段友人たちとよく通っていた
居酒屋に、「知ってる店だから気安いや」とノーテンキに構えてバイトで入っ
たところが、そのあまりのきつさと覚えることの多さに愕然とした覚えがある
のだが、曽根富美子もまた、同じ思いをしたようだ。

 ともかく、50歳を超えてレジデビューした曽根富美子は、その覚えることの
あまりの多さと煩雑さ、慣れないレジスターや周辺機器の操作に振り回されな
がら、ふた回り以上年下の「教育係」の薫陶を受けつつ、しかし、年齢ゆえの
覚えの悪さ、体の融通の利かなさから失敗を重ねながらも、一人前のレジ係と
して成長していく。
 50歳を超えて初めて体験したスーパーのレジと、その体験を通して見た、そ
れ以前は客として何気なく通っていた店の、その裏側の世界が、彼女にはとて
も新鮮かつ驚きに満ちたものだったのだろうことは、想像に難くない。
 その体験と顛末をそのままに漫画にして、雑誌「モーニング」に連載してし
まったのである。
 タイトルは『レジより愛をこめて 〜レジノ星子〜』。
 現在は単行本で読むことができる。

 これと同じころに、同じ「モーニング」に連載された、竜田一人『いちえふ』
もまた、著者自身が体験した福島第一原発の廃炉作業に従事した体験を、見聞
きしたことそのままを漫画にしたもので、当欄でも以前に取り上げたことがあ
るのだが、これもまた、ルポ漫画、あるいは「お仕事漫画」の範疇に入るもの
だろう。

 活字の世界ではかつて、取材の一環として、つまり、その後にルポルタージ
ュ、あるいはノンフィクションとして原稿化するために、特定の職場に身分を
偽って入り込む、ということがよくあったようだが、これら「お仕事漫画」は、
漫画を描くために仕事に従事したわけでは決してなく(『いちえふ』の場合は、
その色気も若干はあったようだが…)、まずは「(生活のための)仕事ありき」
である。

 したがって、その仕事を描く作業は、作者自身の「生活」を赤裸々に描き出
すことでもある。
 となると、これは「私漫画」ともいえるのではないか…とふと思ってしまっ
たりも、するのである。

 などと考えていたところに、先日、ネットを通じて、思い切り「私漫画」的
な「お仕事漫画」を見つけてしまったのだ。
 作者は、各務葉月、漫画のタイトルを『食品工場の中の人たち』というそれ
に、ふと興味を惹かれて早速読んでみた。
 すると、読み進めるうち、「ああ、そうだったよなあ…」「そうそう、そう
なのよ」と、わしもかつて「派遣」で経験したあちこちの職場での様々な経験
が、鮮明に蘇えってきたのである。

 この漫画と、わしがかつて経験した職場の相関については、次回にまた詳細
を語らせていただきたい、と斯様に思う次第でありまして、今回は、これまで、
とさせていただきまする。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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88 移動する、その先にあるもの

 『ジャーニー 国境をこえて』
 フランチェスカ・サンナ 作
 青山 真知子 訳
 きじとら出版

 描かれているのは、
 どこの国かを特定せずに、
 戦争がきっかけで、自分の国から「安心してくらせる」よその国へ旅に出る
 親子。

 夏になると家族そろって海を楽しんでいた暮らしは、戦争でかきけされ、め
 ちゃくちゃにされました。

 デフォルメされた中間色の絵の中で、戦争の暗い影だけは濃い黒でぬられ、
 その色をもってして残酷さが際立ちます。

 黒い影の手から離れるために、
 親子を含め多くの人がいままでの暮らしを後ろに残して、
 本当は望まない長い長い旅に出なくてはならない状況を絵が訴えます。

 絵本では「安心してくらせる」よその国にたどりつくところは描いていませ
 ん。たどりつこうと動いている進行形がそこにあるだけです。

 帯の言葉を書いているのは、自分の国を離れて8歳のときに日本にきた女優
 のサヘル・ローズさん。
 育ての親と2人で来日してからも生活はすぐに軌道にのらず、きびしい生活
 が長く続いたそうです。

 サヘル・ローズさんが帯に書かれた言葉には体験の重みを感じます。


   「ただいま」といえる故郷はありますか?
   戦争が奪うのは命だけじゃない、笑顔も居場所も奪った。
   それでも彼らは、そして私も生きようとしている。


 絵本を刊行したきじとら出版では、本書を題材にして人権を学べるように、
 ワークシートをHPで公開していますのでぜひ下記を参照ください。

 http://kijitora.co.jp/
 「本のご紹介」>「ジャーニー 国境をこえて」からダウンロード

 次にご紹介するのは、自分たちの土地で野菜を育てる絵本です。

 『ソフィーのやさいばたけ』
 ゲルダ・ミューラー 作 ふしみ みさを 訳  BL出版

 オランダ生まれ、現在はパリで生活しているゲルダ・ミューラー。彼女の描
 く自然に私はとても惹かれます。花や野菜についている土がリアルに感じる
 からです。

 87歳の絵本作家が描いたのは、夏休みに田舎の祖父母宅に遊びに行ったソフ
 ィーです。ソフィーは祖父から、畑道具と、自分の好きなものを植えていい
 畑をもらいます。

 虫がいるおかげで、花は実をつけることを、ソフィーは祖母に絵をかいても
 らいながら教えてもらいます。
 
 お日様の下にある畑だけでなく、夜空の下でも育っている野菜、
 夏からはじまり、秋、冬、春と季節がめぐる様子、
 
 作者ゲルダ・ミュラーは、ソフィーの祖父母のように、私たち読者に野菜の
 育ちみせてくれます。

 キャベツ、エンダイブ、ズッキーニ、ケール、パセリ、トマト、
 セイヨウミツバチ、クマバチ、オニグモ、ヨトウガ、かたつむり。

 生き物がたくさんいる畑の豊かさが絵本に満ちています。

 最後に紹介する絵本にもおばあちゃんが登場します。

 『わたしたちだけのときは』
  デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン 文
  ジュリー・フレット 絵 横山和江 訳 岩波書店

 遊びにきた孫娘が祖母にいろいろ質問します。

 「ねえ、どうしてそんなにきれいないろの、ふくをきてるの?」
 「どうして、かみの毛をながくのばしているの?」

 「それはね……」

 子どもの頃は自分の好きな服が着られず、みな同じ服を着なければいけなか
 ったこと等、先住民族の同化政策を、孫娘にとどく言葉で語ります。

 それは、どれほど同化政策を押しつけても、心は自由と幸せを求めていた祖
 母の言葉でした。

 深みのある色合いで、時代に抵抗することの厳しさを超えて、自由にくらせ
 るいまを生きている祖父母たちが描かれ、余韻が長く残りました。


 『ジャーニー 国境をこえて』の親子が、ソフィーや『わたしたちだけのと
 きは』の祖父母や孫娘のように安心してくらせる所にいつか落ち着けますよ
 うに。


(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
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「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる 採用ブランディング
(深澤了著 幻冬舎 2018/1/16)

 経団連が新卒採用において、会社説明会や面接の解禁時期などを定めた、い
わゆる“採用ルール”を廃止するというニュースがメディアで報じられました。

 現在、大学生の就職活動の解禁日は3年次の3月1日、選考開始日が大学4
年次の6月1日となっているのを、2020年卒の学生の代を最後に、廃止すると
の内容です。

・・・とはいえ、ここ数年、着々とルールの形骸化が進んでいたと感じます。

 大学3年次の夏休み期間に、あきらかに採用活動を見越したインターンシッ
プ(就業体験)を開催する企業が増加した他、外資系やIT系企業を中心に、
6月を待たずにフライングで選考を開始するところも多く存在していますので、
経団連ルールもいつかはなくなる日が来るんだろうな、とは思っていたのです。

 今後は政府主導の下で新たなルールを策定し、経団連もその決定に従うと報
じられていますが、そこで決定した新ルールもどれだけの企業が守ろうとする
のやら。。。就職活動の形が今後どうなるか、まったく先が読めません。

 この問題、これから就職活動に臨もうとする学生さん側に一定の影響が出る
のは必至ですが、同じように困るのが、私のような知名度のない企業の人事担
当者です。

 新卒採用という仕事は、終わりのない、いや切れ目のない仕事だと思います。

 たとえば10月という今の時期ですと、活動のピークは過ぎているものの、夏
に開催した大学3年生向けインターンシップの総括をしつつ、次は冬のインタ
ーンシップの企画や準備を進めながら、今年の内定者(現4年生)のフォロー
活動として、内定者事前研修などを同時並行で実施したりしています。今から
4年生に内定辞退でもされたら、たまったものじゃないですからね(笑)。

 これが春夏の活動ピーク時になりますと、本当に大変です。

 売り手市場と言われる中、学生から知名度のない会社はWebの求人広告な
どに馬鹿にならないコストを投下して、1人でも多くの応募者を集めなきゃい
けない、集めた学生を様々な角度から選考していかなきゃいけない、そして、
一定の内定辞退者がでることを見越して、内定者数を多めに出すなどコントロ
ールもしなきゃいけない。ちなみにこのコントロールに失敗すると、今の時期
でも採用活動を継続しなきゃいけません(私の会社は今年はセーフ)。毎日神
経をすり減らしながら、あっという間に時が流れていく、それが人事視点で見
た新卒採用活動であると感じます。

 経団連によるルール撤廃、政府による新ルール策定の結果を受けて、世の採
用活動の動向は変化しますので、その中で自社はどんな戦略を立てて今後活動
していく必要があるのか、結構気が気ではなかったりするのです。

 人事にとっては、かけるパワーが大きい新卒採用活動ですから、それに関連
する書籍で気になったものは、一通り目を通すようにしています。その中で、
特に印象深かった一冊が、今回の本「採用ブランディング」です。

 著書が元々CMプランナーなどを経験している方なので、メディアの活用の
仕方など、採用におけるハウツーが書いてあるのかなと思って読み進めたので
すが、内容はまったく想定外のものでした。

 本書の中で著者は、「採用の基本は『理念への共感』である」と述べていま
す。

 企業には必ず理念があり、自分達が実現したい理念を達成するために、共感
してくれる人を採用し、共に歩んでいく必要があると。つまり企業の理念に共
感してくれた人を採用するという発想を根底に持つべきであり、応募者の母集
団形成も「ただ人を集める」のではなく、「理念に共感してくれる人を集める」
ことが重要で、採用フローの組み立ても、その視点から行われるべきであると
。。。なるほど。

 今回の経団連指針の撤廃に限らず、採用環境は日々変化します。スケジュー
ルが変わることで、当然打つべき施策は変化しますが、それ以前にやるべきこ
とがあるだろうと、本書の中で筆者は説いています。スケジュール云々以前に、
日本は少子高齢化が進みますので、これまでと同じ方法で応募者が集められる
時代ではなくなっていると。

 私などがそうなのですが、採用活動がピークの時期って、常に応募者を何人
集められているか、その中で現在選考ラインに乗っている学生が何人いるかな
ど、人事は数ありきで考えてしまうクセがついているんですね。

 数打ちゃ当たるの感覚で多数の応募者を集めるのに労力を使うのではなく、
自社に共感してもらうためのメッセージを明確化して打ち出し、学生から選ん
でもらえる企業になるかを考えていく。そして、選考の過程の中でより共感度
を高めていくほうが、選考もスムーズになるし、辞退数も減る可能性が高い。
まずはこの感覚を身につけることが重要になりそうです。

 つい先日には、スマホのフリマアプリで急成長しているメルカリが、国内の
IT系学生の獲得競争が激しい中、インドのIT系学生32名を新卒採用したと
いうニュースが報じられていました。スケジュール以外にも、採用環境の変化
を物語る出来事は数多く起こっていますが、それら1つ1つのニュースに惑わ
されず、まずはじっくりと足場固めからと思っております。

show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第105回 演技をする、とは自分を知るための探索の旅である

 なぜ、いまこの本を選んだか、それを忘れてしまった。読んで発表しようと
思っている本は、数ヶ月まえから、なんとなく決めているが、今月のこの本に
ついては、いつ、どのような状況で読もうと思ったのか、すっかり忘却してし
まった。ただ、夏は執筆子の中では、シェイクスピアの季節。シェイクスピア
の芝居はなぜか夏に多い気がする。今年も7月8月9月と3ヶ月間シェイクス
ピアの芝居を観に行った。
 それで、今月はシェイクスピアの『リア王』が主役の本なのだ。

『俳優のノート』(山崎努 著)(文藝春秋)(2013年10月10日 文庫新装版)

『リア王』(松岡和子 訳)(ちくま文庫)(筑摩書房)
(1997年12月4日第1刷発行)

 シェイクスピアの作品『リア王』が新国立劇場のこけら落としとして1998年
1月に上演される。そのときの脚本は、松岡和子さんが書き下ろしで訳したも
のだった。書き下ろしの脚本は脚本が完成したその直後(1997年12月)に文庫
で本になっている。この新国立劇場こけら落としでは、この松岡版『リア王』
を使用して、鵜山仁・演出、山崎努・主演で上演された。

 主演(リア王)の山崎努は、準備期間中から、独自の公演日記をつけている。
山崎努は舞台や映画を問わず、覚えのノートを作っている、という。この「リ
ア王」でも山崎はノートをつけていて、それは1997年7月14日の役者、演出家、
制作、主演が揃うミーティングから始まる。以後、公演の千秋楽の1998年2月
3日まで、綿密な記述が続く。この個人的なノートを印刷して本にしてしまっ
た。怪優と云われ、演技力に定評があり、さまざまな監督や演出家から声が掛
かる、一代の名優、山崎努の演技のノート。若い役者にとってはまさに教科書
となり、執筆子のような演劇好きの好事家にとっては演劇という世界をさらに
知り、ますます観劇が楽しくなるための一冊となること請け合いなのだ。

 本書は、松岡版『リア王』(ちくま文庫)も併せて読むことを薦める。とい
うか、役者なら別かもしれないが、一般人はこの松岡版『リア王』が手元にな
いと、山崎努の『俳優のノート』はほとんど意味がない。1998年1月に新国立
劇場で上演された『リア王』の“俳優のノート”だから、その脚本がないと
『俳優のノート』は理解できない。脚本がないと、本書を読んでいてもおもし
ろくない。

 まずは『リア王』を読む。その後『俳優のノート』を読む。『俳優のノート』
を読みながら『リア王』を参照する。だから読み終わるのに結構時間が掛かる。
それでも『リア王』があるとないとでは内容の理解が違う。両書籍を読むこと
についての、欠点をひとつだけ挙げるとすれば、それはこの1998年の『リア王』
を観ることができなかったことに尽きる。読み終わった今、あの芝居を観るこ
とができなかった悔いだけが残った。

 さて、『俳優のノート』である。冒頭にこんな一節がある。長くなるが引用
する。

“俳優にとって、技術の蓄積は貴重である。しかし、その技術が、訳を表現す
る上で障害になることもある。よく通る声、巧みなせりふ廻し、華麗な動きは
たしかに心地よいが、さて役の人物はというと、何も見えてこない。舞台の上
には、得々と演技を披露している俳優がいるだけ、ということがよくある。し
かし観客が見たいのは、俳優ではない。観客は、劇場という非日常の世界で、
今、正にそこに生き生きと息づいている劇中の人物が観たいのだ。”

 俳優とは演技が巧けりゃいいってもんじゃあない、・・・・・らしい。その
俳優は、劇中のその人物になりきらないといけない。あの俳優が演じているん
だ、と観客に思わせてはいけない、と云っている。古今東西、さまざまな巨匠
や伯楽が同じようなことを云っているが、執筆子は本当にそうなのか、と常々
感じていた。しかしながら、現役の俳優が、そう云っているし、この文章は、
なんと早くも本文の2ページ目に書かれているのだ。どうやら、本当のことで、
嘘ではないらしい。

 しかし、それが難しいことは、観客の我々にだってよくわかる。その俳優が
演じているのではなく、劇中のその人がそこに現れていなくてはいけない。我
々観客は俳優にそんなことまで、要求をしているのだろうか。執筆子は、そう
ではない、と思っている。

 我々観客は、あの人の○○が観たい、という出発点があるのだ。わかりやす
い例として、歌舞伎がある。歌舞伎では、その劇中人物を何人もの俳優が演じ
る。そして演じるその俳優によって演じる際の型が違っていたりして、少しず
つその役の印象が違ったものになる。團十郎の大星由良之助がよい人もいれば、
吉右衛門の由良之助を贔屓にしている人もいる。だから歌舞伎は劇中の登場人
物はむろん大切だが、より大切なのは、誰が演じたか、ということだと思うの
だ。実際に執筆子は歌舞伎ではそういう見方をしている。

 一方、歌舞伎ではない演劇(新劇と云ってもいいし、最近はその枠に収まら
ない演劇が多いので歌舞伎以外、というべきか)では、演出家や俳優によって、
演出方法や演じ方がまったく違ってしまうし、伝えるテーマが異なってしまう
場合だってあるわけだ。人はよく「化学反応」という言葉で変化することを表
現する。人が変われば同じ芝居でも変わる。A氏とB氏の会話もB氏の替わり
にC氏になれば、同じ会話でも違った印象になる。そういうのを「化学反応」
というのだろうと思うが、まさにその「化学反応」なのだろう。相手が違えば
リアの演技も違ってくるだろう。ゴネリルやリーガンが范文雀と余貴美子でな
かったら、山崎リアも違ったリアになるに違いない。

 そんなことを思いながら、本書を読み進めていく。

 山崎努は、12月から始まる稽古を前にたっぷりと時間を取って、リアと向き
合い、リアを噛みしめている。饒舌と云ってもいいほど、さまざまな思いを書
き連ねいている。

“リアは捨てていく男である”

“演技すること、芝居を作ることは、自分を知るための探索の旅をすることだ
と思う”

“リアは耄碌しているのだ。・・・順を追ってリアは狂ってゆくが、実は最初
から耄碌しているのである”

“俳優が役を作るときに犯す間違いは、キャラクターに統一をとろうとするこ
とである。辻つまを合わそうとすることである。老人リア・・・、その心の動
きは、かなり脈絡のないものなのである。・・・我々はどうしようもなく統一
のとれない存在なのだ”

“役を生きることで、自分という始末に負えない化け物の正体を、その一部を
発見すること”

“唯我独尊のリアは、長い旅の中で他者を発見し、人が「生まれ落ちる」こと
の悲惨さ、世界の脈絡のなさを知った”

“「牢へ行こう。二人きりで―」とコーディリアと再び一体化することでリア
の旅は終わるのだ”

“しかし、―リアはにたりと笑った。馬鹿め、「何か」なんてあるわけがない
だろう。「何もない」(nothing)。俺は振り出しに戻っただけだ。”

・・・・・

 山崎努は、リアをして、何もないところから始まらせ、そしてあれこれ加え
させしめたが、それもどんどん捨させ、最後はまた何もなくならしめた。そん
なリアを表現してみたのだ。

 本書には、たくさんの人たちが登場する。共演者、制作スタッフ、家族、友
人知人・・・。登場するすべての人たちが山崎努を中心にした同心円状に存在
している。そしてそれら数多の人たちはむろん、それぞれその人の同心円があ
り、それらが互いに影響しあいながら、それぞれを支え合っている。芝居は、
人生は、ひとりでは作れない、ということが執筆子の読後最初の感想だった。

 俳優が、繊細で感受性が豊かで語彙が豊富な人たちだ、ということはよく知
っていた。本書はとても鋭い。人間の営みを月のひかりにもきらっと輝くよう
な鋭利な大鎌で一刀両断にスパッとやってしまい、その本性をむき出しにさせ
てしまうような、そんな鋭さが本書にはある。人間を観察し尽くし、自分の肉
体を使って、人間の本性を白日の下に晒してしまう、俳優という仕事の恐ろし
さをあらためて知った。


多呂さ(輪島が逝ってしまいました。本当に昭和の大相撲が終わってしまった、
そんな感慨に浸っています。)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
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 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
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 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
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 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
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2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 最近、書評の魅力ってなんじゃろな、と考えていたのですが、やはりそれは、
自分がこれまで関心の無かった世界に触れるきっかけになるのかな、と思った
りしました。

 本でもいいのですが、いきなり全く知らない世界の一冊を選んで読むという
のは抵抗があります。

 今回のメルマガでは、今まで触れる機会のなかった演劇の世界に興味を持ち
ました。シェイクスピアの戯曲は、戯曲として本では読んだことがありました
が、舞台はそういえば、『真夏の世の夢』のアレンジ入ったバージョンしか観
たことがなかったなぁ、と。しかも大学生の頃ですから、ほぼ20年前…。

 特に今回、取り上げられている『リア王』は、黒澤映画「乱」のイメージが
強すぎて、原典もあまり覚えていない状態です。

 ばたばたと仕事ばかりの毎日ですが、再読、あるいは舞台を見る機会をつく
れば、自分も「リア充」になれるかな、とちょっと思いました。(ちがう?)
(あ)

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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『ぐうたら人間学』

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『ごはん通』(嵐山光三郎著・平凡社・平凡社ライブラリー)

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『東大教授の「忠臣蔵」講義』 山本博文 角川新書

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#99『ぐうたら人間学』

 中学の同窓に、詩人・谷川俊太郎氏の長男がいる。現在ジャズ・ピアニスト、
作曲家として活躍しているようだ。
 当時、彼とぼくに後もう二人を加えた四人、小説の好きな連中が、もそもそ
と中学生男子らしく集まって、くだらないことを話したり、やったりしていた。

 二年生の夏休みだったか。このメンバーで、軽井沢にある谷川家の別荘にお
邪魔することになった。
 その行きか帰りかは忘れたが、電車の旅のつれづれに「小説の定義とは何か」
という、これまた実に中坊らしいややこしい論議が始まったのである。
 諸説入り乱れた後に、一人が、これでどうだ、という決定打を放った。それ
がどんな定義だったかも覚えていないが、みんなそれにほぼ納得した。いい加
減疲れてめんどくさくなっていたのかもしれない。
 ところがそれを発案した本人が、「あ、でも、これだと狐狸庵エッセイが小
説になっちゃう」と言い出して、ふりだしに戻ってしまった。

 いまはもう、「狐狸庵エッセイ」で通じるのも、ぼくから上の世代だけにな
ったのだろうか。
 小説家・遠藤周作が、雅号を狐狸庵と称し、身辺雑記や回想を綴ったエッセ
イのことである。

 ところが、エッセイと銘打ちながら、かなりの確率でフィクションが混ざる。
というか、嘘が多いのだ。
 そもそも、狐狸庵という人物が、等身大の遠藤周作というよりは、多分に誇
張されたキャラクターなのである。その証拠に、表紙のイラストに描かれた狐
狸庵先生は、白髪白髯、和服の老人として描かれており、どこか横丁の隠居の
風情で、ご本人より大分年長に見える。
 それで、エッセイと言いながら、半ば小説のような部分があって、定義が難
しかったわけだ。

 七十年代に大人気を博して、シリーズ化。タイトルに「ぐうたら」という言
葉がキーワードとして使われていたが、それがまさに六十年代の「モーレツ」
に疲れきった時代の気分にマッチしていた。
 田舎道をヒッピーたちがガス欠のクルマを押して歩く石油会社のCMで流れ
た「♪のんびり行こうよ 俺たちは 焦ってみたってむだなこと」という歌や、
「狭い日本 そんなに急いでどこへ行く」というスローガンが人の口の端に上
っていた頃である。

 いま、某カルチャースクールで文章教室の講師をやっていて、今期は随筆を
テーマに、いろいろな本を分析しているのだが、その一冊として、懐かしい
『ぐうたら人間学』を再読した。

 しかし、遠藤周作といえば、エッセイストというよりまず小説家である。
 少し前にマーチン・スコセッシが監督した映画『サイレンス』。その原作で、
江戸時代のキリシタン弾圧に材を取った小説、『沈黙』の方が、読んだのは狐
狸庵エッセイより先だったと思う。

 中学の時、『ジーザス・クライスト・スーパースター』と『ゴッドスペル』
というロック・ミュージカル映画が同時期に公開され、ロック少年でもあった
ぼくは大変な衝撃を受けた。どちらもイエス・キリストの生涯を描いているの
だが、「いや、イエスってかっこいいなぁ」と思ったのである。
 そんな流れで興味を持ったのか、『沈黙』もこの頃に読み、タイトルの意味
を知って深い感動を覚えた。

 その後、『白い人』『黄色い人』『海と毒薬』などを読み、その一方で狐狸
庵エッセイがベストセラーになって、ネスカフェ・ゴールドブレンドのCMに
「違いのわかる男」として作者本人が登場するに至った。

 『沈黙』の遠藤周作と、エッセイやCMの遠藤周作は、とても同一人物には
思えないが、ぼくはあまり違和感がなく、素直に受け入れていたように思う。
 しかし、著者はこの二重人格的な行動の意図について、『ぐうたら人間学』
の中で、若干言い訳っぽく触れている。
 いわく、三年に一度くらいのペースで、深刻かつ小難しい小説を書いている
ので、作者本人もさぞ哲学的でさまざまな問題に悩んでいる人間と思われがち
だが、実際にはくだらないことに喜んでいる俗な男であって、そのことを読者
に知らせたいと思い、狐狸庵エッセイを書き始めたのだそうだ。

 そんな『ぐうたら人間学』であるが、音楽本としては、ふたつのエッセイが
該当する。

 ひとつめは、「私と唄」。
 自分がひどい音痴であることから語り起こし、三浦朱門と組んで唄をつくる
話が紹介されている。

 作家の三浦朱門が作曲をする、というのも意外だったが、もっと驚いたのは、
その歌をつくるきっかけだ。
 狐狸庵先生、ある時テレビを見ていると、「素人が作詩、作曲したものをプ
ロが歌って、それを採点する番組」なるものをやっていて、審査委員に旧知の
曽野綾子が出ていたので、彼女に電話したという。「ぼくも応募しようかなあ」
と言ったら曽野綾子に、「しなさいよ。そして作曲はうちの亭主(三浦朱門)
がしたら面白いわよ」とけしかけられたのだそうだ。

 素人の作った曲をプロが歌う。そんな番組があったのだ。
 シンガーソングライターというものが登場して、職業作家のつくる唄とは違
う、シンプルな音楽がヒットしたことを受けての企画だったのではないだろう
か。
 プロの作詞家や作曲家は、さぞ不愉快だったと思う。
 時代を非常に感じる企画である。

と言いながら、実はいまも、こうしたことは普通に起こっている。インターネ
ットの登場で、素人の楽曲が流通し、そこから新しいソングライターが生まれ
ているからだ。
 その典型が、ボカロPである。

 ボカロは、以前紹介した初音ミクの本にも出てきたが、ボーカロイドの略。
歌詞とメロディを入力してやると、合成音声で歌ってくれるソフトウエアだ。
作曲や編曲はやりたいが自分の歌には自信がないという人のために開発された。
これを使って曲を作り、ネットで公開する人たちを、プロデューサーのPをつ
けて、ボカロPと呼ぶ。
 彼らの中から、AKBに代表されるアイドルたちに楽曲を提供する作家が次
々に現れた。
 いつの時代も、アマチュアからスタートし、プロに育っていく回路は存在す
るのだろう。

 さて、ふたつめは、「パンツの話」である。
 このタイトルから音楽に関係するエッセイとはとても思えないが、実はこの
パンツ、ビートルズのパンツなのである。

 ビートルズが来日した時、ぼくはまだ小学生でまったく関心がなかったが、
ぼくの上のいわゆるビートルズ世代で、武道館に行った人はいまでもそれを自
慢にしている。
 そして、意外なことに、遠藤周作もまた、あの時武道館の客席にいた一人だ
ったのだ。

 もっとも彼はビートルズ・ファンでも何でもない。新聞社から切符をもらっ
て行ったのだ。流行作家というものには、こんな余録があるんだなぁ。
 ただ、このエッセイによると、遠藤周作は自らをミーハー体質と認じ、もし
自分が女だったら、日劇ウエスタンカーニバルに行って、キャーキャーわめき、
テープを投げていたと思う、と書いている。このテープを投げるというのにも、
時代を感じる。

 だが、男に生まれた狐狸庵先生が、武道館で注目したのはビートルズではな
く、ファンの女の子たちだった。
 彼女たちが、始まる前から汗をかき、それが化粧の匂いと混じって眩暈がし
そうなほどだったこと。その汗を拭くのが、「あのトランプの王さまのような
連中(引用者注;ビートルズのこと)の似顔をかいたハンカチ」であること。
ライブが始まるや、女の子たちは「おのが髪をひっぱり、目をつりあげ、もう
精神病院にいる感じだった」こと。終演後も立てない子たちが続出したが、そ
れは興奮のあまりおしっこを洩らしたからであったこと。
 作家の観察力で事細かに見ているが、ビートルズにも演奏にも一言も触れて
いない。

 その後、某新聞に『ビートルズを見る』という随筆を書いた狐狸庵先生は、
ちょっとしたいたずらを仕掛けておく。文末に「私はビートルズたちの泊った
ホテルのボーイと親しいので彼等からビートルズが部屋に忘れたパンツをもら
った。もらったものの、私としては始末に困っている」と書いたのである。も
ちろん、真っ赤な嘘。

 案の定、数日して女の子から電話がかかってきた。

「あの……」
 蚊の鳴くような声で彼女は言った。
「そのパンツ、わたしたち欲しいんですけど」

 狐狸庵先生がどう答えたか。
 それは本書に譲る。


遠藤周作
『ぐうたら人間学』
1976年2月15日第1刷発行
2010年5月14日第53刷発行
講談社文庫

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
先日フェイスブックに、学生時代所属していた音楽サークルの先輩が、「谷川
俊太郎氏に会った」と投稿していました。お元気のようでなにより。息子の方
も元気かな。話は違いますが、ある企業の就職試験で、学科があり、多分40年
ぶりぐらいに割り算を筆算(!)でやりました。目眩がするほど懐かしかった。
きっと計算間違いしてると思うけど。でも、このスキル、いま、要る?

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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糖質制限時代だから読みたい
炭水化物礼賛本
『ごはん通』
(嵐山光三郎著・平凡社・平凡社ライブラリー)

 最近、おばちゃまが嘆いていること、それは糖質制限。

 テレビの健康番組ではどこも「糖質を減らしてダイエットしましょう」って
言ってる。糖質の代表がなぜか炭水化物になっていて、ご飯を減らせば痩せら
れると本でも雑誌でも言ってます。

 (前にも言ったかもしれませんが)、あのねえ、昔、私たちは狩りにいって
イノシシや兎をしとめて食べてたんぱく質を摂り、どんぐりや栗を拾って炭水
化物を摂って命をつないでいたんですよ。でも、それは不安定な栄養摂取で、
弥生時代になって安定して栄養が摂れるようになったのは稲作のおかげと小学
校で習わんかったんかい!

 それがたった2000年たった今、もう食物が溢れかえっているせいか、お米を
食べないようにしようだって。この恩知らずめが!

 だいたい、生活をしていくことを「糊口をしのぐ」と言いますね。「口に糊
する」とも。この糊とは何あろう、ご飯(お粥)のことなんですね。貧乏でも
やっとお粥が食べられれば生きていけた、その象徴がご飯=炭水化物=糖質な
んですよ。糖質制限なんて言ってるヤツはそのうちバチがあたる・・・・
そんなときに目にしたのがこの本です。

 作者は嵐山光三郎さん。
 嵐山光三郎さんはこの本を出版した平凡社の元社員だそうです。凱旋本って
言っていいのかな?

 昭和軽薄体の代表である嵐山さんが書くご飯の本なので、きっと、「ごはん
がおいしいのでR」なんて軽い感じでご飯のおいしさについて述べているのか
なと思ったんですが、いやいや、本100冊を持って山形の秘湯旅館に泊まり込
んで書いただけあって、内容は「どの米がうまいか」「おにぎりとおむすびの
違い」「粥と雑炊の違い」「ピラフとパエリア」など話がワールドワイドにも
なってて、意外に社会学的っていうか読んでためなり知識が増える系の作品で
した。

 また、よくあるグルメエッセイみたいに、銀座のどこどのの寿司がうまいと
かそこの主人はこういう偉い人だみたいなうんちくも書いてないので、だれで
もラクに読めます。

 ちなみに著者は、「おにぎり」という言い方より「おむすび」が好きで、

「おむすびは、神結びから来た言葉で、人間が両手に米粒を持って、それを心
をこめて結ぶものなのである。むすびの中に霊魂が入り、むすびの中で自然神
と人はむすばれた。(略)それを食する人の身の安全を日本古来の自然神に祈
ったものである」

 そうそう、その通り。おむすびはただの携行食ではなくて、一粒一粒に食べ
る人の愛が込められた魂の食べ物なんですよね。
 だから、母がつくるおむすびはありがたくも、かしこいものなんですよね。

 だから、お米でつくる食品を軽んじたり、制限したりしてはいけないんです
よ。わかったか、現代の日本人!

 「日本人は米の微妙な味がわかる世界有数の民族である。このことは先祖に
感謝しなくてはならない。また、世界一うまい米を生産する民族である。
 ごはんを炊いて蓋を取ると、ふんわり湯気が立ち上り、ほのかに甘く、かぐ
わしい香りがする」

 まあ、1996年発刊の本なのでこのころはまだ、日本にたくさんの外国人が住
んで米食をしていなかったためか、多少、民族主義的な匂いがするのはしかた
ありません。

 しかし、ごはんに関するおもしろい話がたくさん入っているので、もうね、
ぜひ読んで炭水化物に感謝して、炭水化物ダイエットはやめて、明日からごは
んをたっぷり食べていただきたい!とおばちゃまは思うのでした。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『東大教授の「忠臣蔵」講義』 山本博文 角川新書

 20年以上前、朝によく泉岳寺にある赤穂浪士の墓に参っていた。東京出張の
定宿にしていたホテルがすぐ近くだったので、朝ホテルを出て行くときについ
でに参っていたのである。

 そこで知ったのは「赤穂浪士の墓には線香の煙が絶えることがない」と言わ
れるのがウソだと言うこと。朝早く出て行くことが多かったからかも知れない
が、線香の煙はよく絶えていたw

 ということで、この本である。帯のタイトルは「時代劇はウソだらけ」「大
石内蔵助は敵をあざむくために祇園遊びをしたのか?」とか、赤穂浪士の討ち
入りの真相を教えますというもの。忠臣蔵が実話を元にして脚色された作品な
のは誰でも知っているが、どこまで真実なのかを知ろうとするのに良い感じの
本である。

 著者の山本氏は東京大学史料編纂所の教授で、江戸時代が専門のようだ。史
料の信頼性も踏まえて書かれていて、おそらく学術的にもこれが定説になって
いるのだろう。

 また、浅野内匠頭が切腹したのは今の新橋四丁目のここだとか、討ち入った
吉良邸と赤穂浪士の監視所であった美作屋善兵衛(神崎与五郎)の店は両国の
ここですよとか、忠臣蔵の重要シーンが行われた場所を地図入りで書いてある
ので、忠臣蔵の名跡を訪ねるのにも便利だ。

 もっとも一部の人には、帯にある「あなたの『忠臣蔵』観がガラリと変わる」
というのは、少々誇張に見えるかも知れない。忠臣蔵が大好きで、忠臣蔵をテ
ーマにした文学作品や映画、テレビ番組をたくさん読んで、見ている人には
「いや、それくらい知ってるよ」と言いたくなるようなところもそれなりにあ
るだろう。

 というのは、忠臣蔵作品をいろいろ見ていると、この本を参考にしているの
ではないかと思える作品がいくつか思い浮かぶからだ。あとがきによると、も
ともと2003年に中経出版から出ていた「忠臣蔵のことが面白いほどわかる本」
の全面的に改稿した本だと書いてある。ここ15年ほどの忠臣蔵が、この本の影
響を受けていても不思議ではない。

 とは言うものの、忠臣蔵を何度も見ている人でも内容の半分くらいは初めて
知ることも多いのではないか?ここを突っ込めば今までとは違う忠臣蔵が描け
るだろうとおぼしきことが少なからず書いてあるのだ。

 個人的に、忠臣蔵で史実とは違う内容として知られているのは、

・浅野内匠頭は名君ではなかった。むしろ吉良の方が慕われていた。
・増上寺の畳替えや垣見五郎兵衛のエピソードなどは史実ではない。
・討ち入り当日に雪は降っていなかった

など・・・他にもいくつかはあると思う。

 しかし、たとえば名君ではなかったと言っても、家臣から嫌われていたなん
て初耳である。江戸家老すら松の廊下の話を聞いて、内匠頭に会いに行こうと
しなかった。だから内匠頭切腹の折、江戸家老は出てこなくて、下っ端の側用
人である片岡が忠臣蔵に出てくるのである。

 内匠頭辞世の句も、でっち上げらしい・・・。んなバカなと思うが、史料を
精査するとそうなるようだから、たぶんこれが正しいのだろう。何よりびっく
りするのは、討ち入りが忠義のためではなかったと言うところだろう。

 当時の武士は太平の世であったとは言え、まだヤクザみたいな気風が残って
いた。赤穂城明け渡しで揉めたのは内匠頭への忠誠心が高かったからではなか
った。

 別に忠義をつくすふりをして再就職を有利にしようとしたとか言うのではな
い。単に武士のメンツを潰されたことに怒っていた。武士たる者、メンツを潰
されて黙っていられるか。たとえ負けるとわかっていたところで戦うしかなか
ろう。相手が幕府?上等だ!とことん暴れて死んでやるわ!

 幕府も淺野家の家臣たちがそんなことを思っているだろうと容易に想像でき
たのだろう。だから赤穂城明け渡しには浅野家の親類にあたる大名を差し向け
ている。他の大名を差し向けたら、血の雨が降るとわかっていたわけだ。

 ほかにも内蔵助の祇園遊びが芸者遊びではなく単なる花見程度のものであっ
て、別に女遊びをしていたわけでもなかったというのも初耳だ。したがってス
パイを欺そうと放蕩していたというのも事実に反する。

 とはいえ大石内蔵助はやはり優秀な家臣であったのは確かなようで、一度と
った血判状をバラバラにして「討ち入りはあきらめた」とウソ言って、怒った
者だけ信用して本当のことをしゃべるとか、芸が細かい。

 そして、なぜあのタイミングで討ち入りをしたのかの言及は、「○○忠臣蔵」
みたいな作品が出るときに使えるだろうなんて妄想したりする・・・誰か書き
ませんかね?

 ま、それはともかくとして、こういうの読むと、忠臣蔵一つをとっても、ま
だまだいろんな解釈ができて、いろんな忠臣蔵を書く余地があるのだとわかる。

 赤穂浪士のやったことは、単なるテロである。赤穂浪士はテロリストである。
忠臣蔵はテロリストを美化しすぎなのかも知れないけども、それはそれで大衆
の琴線に触れるものがあったから今日まで廃れずにいる。

 そんな作品の素材となった人たちの実際について知ることは、ある種自分の
願望を否定されることかも知れない。等身大の赤穂浪士は、自分たちとそれほ
ど変わらない人たちだったのだ。それがわかるようになるだけでも、読む価値
はあろう。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『ヒューマン ─ 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

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 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 急に気温が下がったのか、室内着を長袖長ズボンに切り替えました。暑さ寒
さも彼岸まで、と言いますが、彼岸を待たずにこれから寒くなるのでしょうか。

 庭では咲き残った朝顔達が、困っている様子です。(あ)

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