[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.659

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■■ [書評]のメルマガ                2018.08.10.発行
■■                              vol.659
■■ mailmagazine of book reviews     [例年になく暑さが厳しく 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<104>「関西りゃくご」についての一考察

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→86 空は高く青く、夜空には星がまたたく

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第103回 読書をする意味。人はなぜ読書をしなければならないのか。

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→人事の超プロが明かす評価基準(西尾太著 三笠書房 2015/11/18)

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 人間総合科学大学 金子様、井上様より、下記の書籍の献本を頂戴しました。

 久住眞理/久住 武・著『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』
 (発売:紀伊國屋書店  発行:人間総合科学大学)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<104>「関西りゃくご」についての一考察

 年年歳歳、夏という季節への「イヤ!」度が増してくる。
 「夏」とか「夏休み」というフレーズに胸躍らせ、ワクワクしていた時代も、
確かにあった。確かにあった…が、それはすでに遠い昔の記憶だ。

 いつごろからですかねえ? 夏が、一年で一番イヤな季節になったのは……

 今年はまた、例年になく暑さが厳しく、最高気温「40℃超」という地域が続
々と出現しているし、京都では、「最高気温38℃以上」という日が、7日間に
わたって続くという異常事態が出来した。
 大阪でも神戸でも、天気予報で「猛暑日」のマークがつかない日はない、と
いうこの7月から8月。

 ふと思い出してみたのだが、わしらが幼少のみぎり、気温が30℃を超えると、
「ふえ〜〜〜っ! 30℃!」と皆でたまげていたのだ、確かに。
 あの頃は、30℃が「暑さの限界点」で、それを超えて「35℃」とかになると、
それはもう限界を超えた「異常な暑さ」と認識されていた、と思う。

 「日射病」というのはあったが、「熱中症」というのは、認識されてなかっ
たし、そもそもそんな「病名」すらも存在しなかった…と思うのだけど…あっ
たのかな?

 その暑いさなかに、今年もまた甲子園では夏の高校野球が開幕した。
 今年は「100回記念大会」とのことで、史上最多56校が出場して、賑々しく
も始まった開会式では、式典の途中で「熱中症対策」もとられていたようだ。
 しかし、わざわざ式を中断して「給水タイム」設けるくらいなら、壇上での
お偉方の挨拶をこそ、短縮、あるいは省略してやれよ…と思ったのは、わしだ
けでしょうか。

 その開会式があった日に、甲子園駅で電車を待っていた時のこと。
 「あの、三宮へ行きたいんですが?」
 と、関東イントネーションで駅員に問う男性がいた。
 「三宮やったら、次の次の直通特急が一番早いです」
 と駅員は、ホームの屋根からぶら下がっているディスプレイを指して答える。
 「ああ、この姫路行き、ですか?」
 「え……? あ、そうです、それに乗ってください…」

 この会話で、最後の駅員の答えが、「え?」と一拍間が空いたのは、関東お
じさんの「姫路」が、一瞬わからなかった故だ。
 全国から人が集まってくる高校野球のこの時期、この「姫路」は、駅で電車
で、実によく耳にする。

 関東の人に多いのだけど、「姫路」を、標準語の「姫」につづけて「ジ」と
発音する。
 すなわち「ヒめじ」、竹久夢二の「夢二」、または「テレビ」と同じアクセ
ントで発音するので、駅員もまた「え?」となるのだ。

 「姫路」は、「ひメじ」と、「しめじ」「夢路」と同じアクセントで発音す
るのが、正しい。

 70年代にスマッシュヒットした↓この曲、歌詞に「姫路」が出てきますが、
きちんと「ひメじ」と発音されています。

 https://www.uta-net.com/movie/215520/

 この東西でのアクセントの違いは、会話の中で思わぬ誤解を生むこともある。
 東京時代、同僚と二人、車で仕事先に向かっていたときのこと。
 「雲が出てきたなァ…」と、フロントガラスから空を見上げてつぶやいたわ
しに、「どこ…? おいおい、蜘蛛なんてどこにもいねーよ!」と、板橋生ま
れの彼は返すのだった。

 学生時代、あれは国語国文学の授業でだっけか、壇上の先生が「この中に関
西出身の人、います?」と言うので手を挙げた。
 「じゃ、あなた、これを読んでみて」
 と先生が黒板に書いたのは、「雲」「蜘蛛」「橋」「箸」。
 先生はさらに、東京出身者を指名して、わしと交互に「くも」「くも」「は
し」「はし」と読ませると、わしの「蜘蛛」は彼の「雲」だし、彼の「橋」は、
わしの「箸」なのだった。

 と、上記同僚との車中で、そんなことを唐突に思い出したりも、した。

 日本全国画一化が言われて久しいが、関東・関西の間には、まだまだ深い川
がある。

 やはり70年代、わしが学生の頃なのだけど、何かの雑誌で、誰だか忘れたけ
ど、近頃…って、つまりその頃の、東京におけるある風潮を憤っている文章に
接したことがある。

 彼が憤っていたのは、そのころ開通した「環状七号線」「環状八号線」とい
う道路の略称だった。
 既に一般に浸透していた「環七(かんなな)」「環八(かんぱち)」という呼称
を、彼は「東京らしくない!」と、激しく憤っていて、それを「関西の悪い影
響だ」と断定していた。

 言われてみれば確かに、「かんなな」「かんぱち」は、「うえろく(上本町
六丁目)」、「てんろく(天神橋筋六丁目)」、「たによん(谷町四丁目)」、
「がもよん(蒲生四丁目)、等々に通じる、大阪的な略し方かな? とも思え
る。

 その文章では、「正統的な東京風略称」では、「環状七号線」「環状八号線」
は、それぞれ「環状線」あるいは「七号線」「八号線」と略されなければ「な
らない」と断じているのであった。

 さらに彼は、伝統的な東京風地名省略形として、「新宿=ジュク」、「池袋
=ブクロ」、「渋谷=ブヤ」、「新宿二丁目=二丁目」というのを列挙してい
たのだけど、わしは、十と数年間東京に住んでいて、「二丁目」はともかく、
「ジュク」「ブクロ」、あるいは「ブヤ」と呼称する人には、とんと遭遇の機
会を得なかった。

 東西の略称の違いとしてよく提示されるのが、「マクドナルド」と「ユニバ
ーサル・スタジオ・ジャパン」だ。
 すなわち、東の「マック」「USJ」に対して、西の「マクド」「ユニバ」。

 これについては、先日、偶然見ていたテレビで、言語学者の金田一秀穂氏が、
実に明確な解説をしてくれていて、おもわず「なるほど!」と膝を打ってしま
ったのだった。

 それによると、関西弁というのは「母音をはっきり発音する」言語で、だか
ら「まァくゥどォ」「ゆゥにィばァ」ならしっくり発音できるのだけど、間に
促音や長音の入る「マック」「ユーエスジェー」では、「まァッく」「ゆゥう
えすじェえ」と、とても発音しづらい、なので、「マクド」「ユニバ」で定着
した、というのである。

 言われてみれば、「長音省略」もまた、伝統的な関西的略語の方法だ。
 「天王寺」→「てんのじ」や、「阪神高速」の省略形である「阪高」を、
「はんこ」と呼ぶのもまた、その一例だろう。
 落語の笑福亭松鶴一門の芸名には、この長音省略形が多用されている。
 「松鶴」→「しょかく」が、そもそもそうだし、「鶴光」→「つるこ」、
「鶴瓶」→「つるべ」等々。

 昔、鶴光や鶴瓶らが東京へ進出したころ、大阪のラジオでキダ・タローが、
東京のテレビが彼らの名を「つるこう」「つるべい」と呼ぶのを、「ちゃんと
呼んだらんかい!」と、かなり激しく憤っていたのを、聴いた覚えもある。

 ちなみに、阪神高速の略称「はんこ」は、「判子」ではなく、「鶴光(つる
こ)」と同じアクセントである。

 やや変則的な略語としては、「中間音省略→促音+拗音化」というのがあっ
て、「松屋町=まっちゃまち」、「一番=いっちゃん」などが、これにあたる。

 「略語」ではないのだけど、語調を整えるための「撥音挿入」という例は、
「馬場町(ばんばちょう)」などの読みに見られる。
 明石の「魚の棚商店街」は、表記にわざわざ平仮名の「の」が入っているに
も関わらず、もっぱら「うおンたな」と読まれている。

 そんな関西弁を文字表記する際、そのままで表記すると、やたらと「もっさ
り」してしまうのである。
 たとえば、「めっちゃおもろうて、わろたわろた」とすべて平仮名で表記す
ると、なにやらそれは狂言のようで、妙に間延びがするし、ひらがな表記では、
イマイチ意味が通じにくい。

 なので、わしの場合は、これを、「面白ォて」とした上で、「おもろ」とル
ビを打ち、「笑ろた笑ろた」と表記するようにしている。
 「笑うた」と表記すると、ますます「狂言」になってしまって、テンポのい
い関西弁になってくれないのである。

 田辺聖子は、関西弁を文字表記する際、「なにしとんねン」「あかんねン」
と、カタカナの「ン」表記で、「もっさり」を抑止してテンポのいい関西弁を
表現している。

 先日、西加奈子の小説『ふる』(河出文庫)を読んだのだ。
 西加奈子は、『こうふく みどりの』(小学館文庫)を読んだとき、そのリ
アル版「じゃりんこチエ」的世界観の中で、大阪弁、それも「もっさり」では
ない、とてもテンポのいい大阪弁の表現が「うまいな」と感心したのだけど、
今回読んだ『ふる』は、大阪出身でただ今は東京に暮らす「池井戸花しす(28
歳)」が主人公。

 小学生のころのあだ名が「どォやん」で、現在は、東京の小さな会社で、ア
ダルトビデオの女性器にモザイクをかける仕事をしている現在は、「イケちゃ
ん」とか「池井戸さん」と呼ばれる彼女は、東京でも相変わらず大阪弁を喋っ
ていて、そんな彼女が人に感謝を示すときに発する言葉が、「ありがとう」で
はなく、「ありがとぉ」と表記されるのだ。

 この表記を見たとき、「おおっ!」と思った。
 「ありがとう」ではなく、「ありがとぉ」と表記すると、「アりがとう」と
いう標準語イントネーションではなく、「ありがトォ」という、尻上がりの関
西イントネーションに、ごくごく自然に読めてしまうではないか。

 黒川博行もまた、関西弁のニュアンスをテンポよく文章に表現するのに長け
ているけど、女性作家なら、ただ今現在では、まず西加奈子だな、と改めて思
ってしまったのだった。

 ちなみに、「ラジオ」「テレビ」という外来語もまた、関西弁では標準語と
アクセントを異にしていて、「ラじお」ではなく「らジお」、「テれび」では
なく「てレび」と発音するのだが、その昔の「ナショナル(松下電器)」のCM
ソングでは、正しく関西アクセントでもって「らジお」「てレび」と歌われて
いる。

https://www.youtube.com/watch?v=-4ZQxmb6unc


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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86 空は高く青く、夜空には星がまたたく

 酷暑が続き、各地で最高気温を記録しています。
 豪雨被害の被災地ではまだまだ生活再建に時間がかかり本当に大変ですが、
休めるときは少しでもゆっくりできますように。

 さて、夏休みの季節になり、涼しい部屋で本を読む時間をもてているでしょ
うか。
 最初にご紹介する絵本は、7つの国、それぞれで暮らす子どもたちが描かれ
ています。

 『わたしのくらし 世界のくらし
   地球にくらす7人の子どもたちのある1日』
       マット・ラマス 作・絵 おおつかのりこ 訳 汐文社


 イタリア・日本、イラン、インド、ペルー、ウガンダ、ロシア、これら7つ
の国に住んでいる子どもたちの様子が見開きいっぱいに紹介されます。

 子どもたちの表情、学校に着ていく服、授業の様子、学校の先生、名前の書
き方、放課後の過ごし方――。

 見開きに複数の国の子どもが紹介されているので、様子の違いがひとめでわ
かります。どんな洋服を着ているのか、どんな遊びをするのか、食べ物はどう
いうものを食べているのか。丁寧に描かれた絵から、その先にある生活のリア
ルさが感じられます。

 作者のマット・ラマスさんは、この子どもたちが、その国や文化の代表だと
はいえませんと説明を加えています。代表ではなくても、自分たちの国以外の
生活をみることは、世界を広げてくれます。違っているところ、似ているとこ
ろ、知るのは楽しい読書体験です。
 それに鳩や猫、馬なども描かれているのですが、動物は各国ほとんど同じで
す。私は鳩が食べ物をついばむ小さなシーンが大好きです。どのシーンも、何
が描かれているのか観察し、発見があります。

 巻末には用語集もあり、例えば、ごはんのページに登場する料理がどんなも
のか教えてくれるので、食べたことがなくてもイメージがわきます。

 そしてなにより私がこの絵本でハッとしたのは7つの国の子どもたちの共通
点です。互いの国で同じにみえるものがあることに、あらためて感動し近しさ
を感じます。
 ぜひみてみてください。

 次にご紹介するのはいまの季節にぴったりの絵本。

 『すいかのプール』
 アンニョン・タル 作 斎藤真理子 訳 岩波書店

 今年は韓国文学がにぎやかで、翻訳者の斎藤さんのお名前をよく見かけます。
絵本にも活躍の場が広がっていて、うれしいかぎり。

 本文を引用します。


 「まなつのお日さま あっつあつ。
  すいかはすっかり じゅくしてます。

  すいかのプールの プールびらきです。」


 すいかプールの管理人さんでしょうか。大きな麦わら帽子をかぶった白髪の
おじさまが、すいかプールをチェックします。


  「うーむ、きもちいい

 プールびらきを知った子どもたちは、走ってプールに向かいます。

  たっ たっ たっ たっ たっ たっ」


 足音が聞こえてきそうです。

 この足音にはじまり、絵本には音がいっぱい登場します。
 すいかプールに入る音、ちゃぽーん。
 さっく さっく さっく さっく
 足でぴちゃぴちゃすれば、すいかジュースもたまります。

 子どもだけでなく、妙齢の大人も楽しんでいるのに、ニヤニヤします。
 暑いですからね。

 プールのまわりの出店も味があります。

 夜になり、最後の子どもが帰ると、すいかプールも店じまい。

 絵本の中に入りこみたくなる、引き込み力抜群のお話です。
 夏の間にぜひ読んでください。

 続いて、こちらもいまの季節にぴったりの絵本。

 『おやすみなさい トマトちゃん』
     エリーザ・マッツォーリ 文
          クリスティーナ・ペティ 絵
             ほし あや 訳 きじとら出版

 今年の東京都板橋区いたばしボローニャ子ども絵本館主催、
 いたばし国際絵本翻訳大賞〈イタリア語部門〉受賞作品です。

 きじとら出版では、翻訳受賞作の絵本を刊行しており、本作は今年受賞した
ものです。

 表紙で大泣きしているのは、主人公のアニータ。
 トマトが大嫌いでいつも残しているので、とうとうおかあさんはトマトを食
べ終わるまで、トマトと一緒に部屋にいるようアニータに言いました。

 アニータはいつか気が変わって呼んでくれると、楽観的にかまえていました
が、なかなかそうならず、おなかはすくばかり。

 他にすることもないので、トマトを相手におかあさんごっこをはじめます。
 アニータはおかあさん役。
 あやして、遊ばせて、寝かしつけて、そして……。

 トマトはリアルな写真がコラージュされ、思わず指でさわってみたくなるほ
ど赤くてピカピカきれいです。

 アニータがおかあさんごっこで、トマトちゃんと近くで過ごしているうちに
芽生えてくる感情にふふふと笑いがこみ上げてきます。

 赤くておいしそうなトマトちゃん。
 どこでねんねしているかな。

 さて、今号最後にご紹介する骨太絵本はこちらです。
 
 『この計画はひみつです』
  ジョナ・ウィンター 文 ジャネット・ウィンター 絵
     さくまゆみこ 訳 すずき出版

 ジャネット・ウィンターは、伝記や実際にあったことを描いた作品を多くつ
くっている絵本作家です。文章を書いているのは、息子。ノンフィクション絵
本を手がけています。

 この2人が描いたのは、核です。

 1943年3月、アメリカ合衆国政府は、科学者を集めて、ひみつの計画をスタ
ートさせました。科学者たちが作り出したものは、最初の「原子爆弾」です。
1945年7月16日、ニューメキシコ州南部の砂漠で、最初の核実験が行われたの
です。

 ジャネット・ウィンターの絵は、マットな色調とやわらかな線で描き、率直
にできごとを伝えてくれます。

 世界で最初に行われた核実験の影響は、2018年現在も続いており、アメリカ
政府は2014年になって、その当時住んでいた人たちの健康調査をはじめました。
70年過ぎてからです。

 私は最初にこの絵本を読み間違えていました。この実験の後に日本に2度核
爆弾投下されることについて書いているのかと勘違いしたのです。

 しかし、この絵本を読んだ2週間後、ノーマ・フィールドさん(※)の学習
会に参加する機会を得て、このトリニティ実験について詳しく知ることができ、
絵本をあらためて読み直しました。

 大人がした愚かな行為を、子どもにわかるように絵本の形で伝えていること
は意義があると思います。強い印象を残す、実験後のキノコ雲の絵、そしてラ
ストのページの意味することを、これからも大人は伝えていかなくてはいけな
いのです。

 絵本の著者あとがきと、訳者あとがきも読みごたえがあります。

 知らなくてはいけないことが描かれている大事な絵本です。

 (※)ノーマ・フィールド
 日本で生まれ、米国シカゴ大学で日本文学を教えてきた。
 原爆投下や原発事故の「被ばく者」に寄り添いながら、日本社会に発言を続
 けている。(2016年4月26日朝日新聞の紹介文より)
 http://digital.asahi.com/articles/ASHD66560HD6PTIL00P.html


(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第103回 読書をする意味。人はなぜ読書をしなければならないのか。

 読書することが、すなわち人生であり、生きていくことである。少なくとも
自分はそう思っているし、読書が自分の人生を切り開いていった、と思ってい
る、という人の本。

 敏腕編集者として超のつくほど有名な幻冬舎の見城徹氏の本。
 この自信に満ちあふれた名編集者は、どんな読書遍歴をしてきたのか? そ
の読書に裏打ちされた編集者という仕事をどのように果たしてきたのか? と
いうことに純粋に興味があった。

『読書という荒野』(見城徹 著)(幻冬舎)(2018年6月5日第1刷発行)

 「読書という荒野」という一見乱暴に感じるタイトル。表紙には本が無造作
に積まれているデスクであの見城氏がじろりとこちらを睨んでいる写真。そし
て本の帯には、“血で血を洗う読書という荒野を突き進め!”と挑発的な文言。

 中身はすべてにおいて、自信に満ち溢れている。しかしながら、それは功成
り名遂げた人が自分の歩んだ道を振り返り、自慢するのとは違う。本の中で著
者の見城氏は「自己検証、自己嫌悪、自己否定」があってこそ人間は進歩でき
る、と最初に書いている。

 自分の愚かさや狡さ、浅はかさを自分自身が理解している、ということがわ
かっている、ということが自己検証であり、自己検証して愚かな自分というも
のが存在していることに自己嫌悪に陥る。が、そんな狭量な自分の立ち位置を
否定させしめる行為こそが、自己否定である。

 そのネガティブな3つの行為をしていくことが、生きている証であり、生き
ることに他ならない、と云っている。自分の生き方を否定してこその人生。そ
んな苛酷な環境の中で戦うことが人生なのだ。見城氏はそうやって戦い続け、
人生を生きているのだ。戦う彼の人生を読書という行為、本を読むというフィ
ルターを通して、表現しているのが本書であり、そうやって戦っている自分の
軌跡を後輩たちに伝えている。綺羅星のような成功例であるが、それは執筆子
も含めてたいがいの人には真似はできない。やってもいないうちから、できな
いと云ってしまうが、本書を読む限りたいへん壮絶な努力をしている。凡人の
執筆子はそんなことはできない。はじめから白旗を上げてしまうのだ。

 なぜできないのか? 本書で使われている言葉で考えてみた。

 人間は言葉で考える。思考する。自己検証・自己嫌悪・自己否定は言葉によ
って認識することができる。そしてそのネガティブな行為の中で、それこそ血
で血を洗う壮絶な戦いをして、自己肯定の世界へと立ち上がっていく。そのた
めの手段、最も有効な武器が読書なのだ。

 読書を手段に3つのネガティブを認識することができる人は、認識者である。
そして、そこから自己肯定の高みへ行こうと格闘し戦う人こそ実践者となる。
凡人は認識者止まりである。認識者にすらなれない人は大勢いるだろう。読書
をしない人たちのことだ。読書をしても、読んで何が書かれているかを知るだ
けでそこから何を得たか、どう感じたか、を考えない人たちだって、著者の見
城氏に因れば、認識者になれない。認識者になるためには読書という行為が必
要なのだが、実践者になるためにはその読書を武器として、戦わなければなら
ない。戦う人こそ実践者なのだ。戦士=実践者。そしてこの実践者は、何を実
践する人なのだろう。なんのために戦っているのか? それは自己実現するた
めに戦っているのだろう。自己否定で終わらずに自己肯定し、自己実現のため
に血を流しながら戦うのだ。見城氏は本の編集者なので、身近な実践者は、作
家たちということになる。戦っている実践者は、つまり世間的には才能ある人
たちのことなのである。表現者としてたくさんの共感者を得た一握りの人たち
のことを我々は才能のある人たちと呼んでいる。それが見城氏の表現では実践
者となるのだ。

 戦うための根気とか克己心とか我慢とか努力とか、そういうことを厭わずに
実行することがすなわち才能なのだろう。面倒くさがらず実践者する人のこと
を才能がある人というわけだ。かくして、怠け者、ぐず、面倒くさがりは実践
者になれずに、才能なしのレッテルを貼られる。

 そもそも実践者は、少しでも面倒くさいと思っているのだろうか?・・・・
・否、思っていまい。たぶん楽しいと思っているに違いない。面倒なことを楽
しいと思ってしまえることが、すなわち、才能なのだろう。

 読書とはなんだろう?

 自分が経験できないこと、経験していないことを読書によって獲得する。読
書によって違う世界をみることができる。そしてそれを自分のものにするため
に考える。自分にない部分を恥じる。そして貪欲に取り入れようとする。その
ために考える。思考する。たぶん最初は空洞なのだ。読書によって空洞がすこ
しずつ埋まってゆく感じ。

 一方で、読書するによって世の中のことについて疑問が生まれる。読書は矛
盾や差別の存在を先鋭的に我々に突きつける。その矛盾や差別に対峙するエネ
ルギーを読書からもらう。読書は矛盾と差別に向き合うためのエネルギーの供
給源なのだ。

 本書は読書がもつ意味をさまざま、我々に突きつける。それは、あらためて
自分の無能さに気づかされてしまい、グズなことが露呈してしまったことで、
傷つく。さながら諸刃の刃のような本だ。


多呂さ(こんな酷暑は感じたことがありません。こんな炎暑の中で我々はこれ
から生きていけるのでしょうか)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
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人事の超プロが明かす評価基準(西尾太著 三笠書房 2015/11/18)

 つい先日、読売新聞の朝刊を眺めていたところ、毎週連載されている「就活
ON!」というコーナーにこんな記事が載っているのを見つけました。

人事評価に不満 6割

 大手人材サービスのアデコが2月、20〜60歳代の就業者1356人から回答を得
た調査では勤務先の人事評価制度に「不満」「どちらかというと不満」と答え
た人は6割を超えた。
 不満の理由を複数回答で聞いたところ、「評価基準が不明確」が最も多く、
「評価者によってばらつきが出て不公平」「フィードバックや説明が不十分、
もしくはその仕組みがない」が続いた。

 記事では6割となっていますが、私の肌感覚としては7割、いや8割といっ
ても過言ではないような気が。人事評価って、社員の給料やら出世やらに直結
するものですからね。

 何年前かは忘れましたが、第一生命が毎年発表しているサラリーマン川柳の
入選作に『成果主義 最終評価は 好き嫌い』と出た時には、あまりに的を得て
いて思わず笑ってしまったのですが、働いている人間にとっては人事評価って
そのくらい曖昧であり、人事側も運用するのが難しい代物だと思うのでありま
す。

 今回の本は、まさにその人事評価をメインテーマとしたもの。著者は様々な
企業の人事部門を経て、現在は人事コンサルタントとしてご活躍されている方
になります。

 この本で紹介されているのは、「あらゆる企業に共通する普遍的な評価基準」
についてです。

 著者によると、会社の規模や業界に関係なく、運用されている人事制度の根
底にあるものや原型はほぼ同じ形をしており、この普遍的な評価基準を知り、
仕事の中で実行することができれば、どんな会社でも業界でも、通用する人材
になれる、とのことです。

 ここで評価基準として著者が取り上げているのが「コンピテンシー」という
キーワード。「会社の中で活躍する人に共通する特徴的な行動や考え方」のこ
となのですが、著者は新入社員から役員まで、一般的な会社内の職位を6つの
クラスに分け、それぞれに求められるコンピテンシーがどのようなものかにつ
いて、明らかにしていきます。

 たとえば課長クラスであれば、どんな行動がOKで、何がNGなのか。そし
てそれを達成するために必要な行動や学びとは何か。1つ上の部長クラスにな
ったら何が違ってくるかなど、各クラスごとにかなり具体的に記述されている
ので、会社の評価基準が曖昧だと感じている人にとっては、納得感のある内容
ではないかと思います。

 実はコンピテンシーというキーワード自体は、人事の中では比較的メジャー
な存在です。そのため、長く人事をやっている人がこの本を読んだとしたら、
内容はうまくまとまっているけど特に目新しさはない、と感じる人がいるかも
しれません。

 しかし私が思うに、この本の一番の価値は「一般のビジネスパーソン向けに
書かれていること」だと思うのです。

 評価制度に限らず、人事に関連する書籍のほとんどは、人事の実務担当者向
けです。人事は自社で課題になっていることがあったら、関連する書籍を購入
し、内容を理解したうえで、自社に落とし込んだらどうなるかを、あれこれ考
え始めます。

 制度や仕組みを変えるのには、いろいろと難しいことが発生するのですが、
特に難しいのは、制度を作ること以上に、社員にポイントを理解してもらうこ
と、そして円滑に運用させることなのです。

 人事が会社のため、社員のためを思い、これまでにない制度を作り上げたと
しても、全社員がもろ手を挙げて賛成!なんて状況は、、、残念ながらまず起
こりません。

 社員の側としては、今の制度に不満を持ってはいても、仕組みが変わること
に対する抵抗感が生じるんですね。人事は口先でメリットを強調してるけど、
逆にどんなデメリットが生じるんだとか、何か制度を変える裏があるんじゃな
いか、とかとか。

 新制度をスムーズに運用していくためには、まずはスタート時点で懇切丁寧
に説明していくしかないわけですが、これ本当に辛いです。あれこれと説明し、
それに対して寄せられる質問を聞いていくと、やっぱり人事ってブラックボッ
クスのような捉え方をされるんだなと悲しくなったり。

 その意味で、「人事向けではない人事本」というのがもっと増えていってほ
しいと切に願います。人材採用の分野では、その手の本を見かけることはある
ものの、特に人事制度に関するものは皆無です。

 もし評価制度を変えようとしている会社で、社員がこの本を読んでいたなら
ば、新しい制度に単にケチをつけるのではなく、社員と人事の間で、建設的な
議論の空気が生まれるのではないかと。そうなると、社員がもっと人事につい
て考えてくれるきっかけにもなりますし、会社も良い方向へと変わっていくの
ではないかと思います。

 では、実際にこの本を社員に読ませてみてはどうかという考えが、頭の中を
よぎったものの一瞬で消え去りました。それこそ、どんな裏があるんだと勘ぐ
られるのは嫌なので(笑)。

show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

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 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
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 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
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 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

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 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 とにかく毎日、暑い日が続きますね。このメルマガでの原稿にも「暑」とい
う字がちらつきます。

 私もできるだけ水分をとり、部屋の冷房も消さないようにと心掛けています
が、仕事の生産性が落ちるのだけは致し方ないという感じです。

 涼しくなる秋を待って、頑張るのはそれからにしようかな、とも思っていま
す。

 皆様も、御自愛ください。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.658

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■■                              vol.658
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■コンテンツ
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『透明人間の告白』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『スキャンダル除染請負人』田中優介 プレジデント社

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『サザエさんの東京物語』長谷川洋子・著(文春文庫)

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#97『透明人間の告白』

♪とーめーにんげん、あらわるあらわるぅ

 ある世代には懐かしい、ピンクレディーの『透明人間』。
 この歌の主人公は、自分の意思で消えることのできる透明人間で、そういう
意味ではお気楽なものだけど、不慮の事故で透明人間になってしまい、元に戻
れない体になってしまった時、人はどんな運命に見舞われるのだろう。

 この疑問を、極めてリアルにシュミレーションしてみるという画期的なアイ
デアで、かつてベストセラーになり、映画化された小説がある。
 H・F・セイントの『透明人間の告白』だ。

 ちょっと前にスティーブン・L・トンプソンの『A−10奪還チーム 出動せ
よ』を再読して、改めてその文体に感心したのだが、それって原作者の文体が
いいのか、翻訳がいいのかと思い、同じ訳者による本書を、これまた再読して
みた。
 こちらの方は文体的にさほど感心するものでもなかったので、やっぱりトン
プソンがすごいんだな、と結論したのだが、内容的にはこの『透明人間の告白』、
評判を呼んだだけあって、改めてよく出来ていると思う。

 主人公は証券アナリスト。新商品を出しますとか、新しい技術を開発しまし
たといった企業の広報発表を取材し、投資先として有望かどうかを判断する仕
事だ。
 その日も、とある新技術についての発表を聞きに、ニューヨーク郊外の研究
所に出かけていくのだが、その核エネルギーに関する新技術は、実は未完成。
研究をさらに進めるため追加の投資を募る必要があり、見切り発車で発表する
ことになったのである。
 その無理がたたって事故が発生、大爆発が起きる。
 ほとんどの人は爆発前に避難するが、ただ一人建物内に取り残された主人公
はその影響をもろに受け、透明人間になってしまう。

 もちろん、人間だけが透明になったわけではない。
 研究所の建物も透明、そこにあった家具も透明、機械類も、絨毯も、果ては
飼われていた猫まで透明になってしまう。

 いち早くこの異常な事態を知った政府の秘密機関が、研究所を封鎖し、調査
を始める。
 とはいえ、その状況は奇妙なものだ。
 防護服を着た男たちが二階に上がれば、何もない空間に浮かんでいるように
しか見えない。調べるにしてもすべてが透明だから、どこに何があるかわから
ず、しょっちゅう家具にぶつかって悲鳴を上げる。

 そんな彼らに、はじめは救いを求めようとする主人公。だが、よくよく考え
てみると、透明になった自分には学術的にも、軍事的にも、とてつもない価値
がある。当然政府は彼を元に戻すことよりも、透明人間として活用しようとす
るだろう。
 スパイとしてどこかに送り込まれるかもしれないし、同じような透明人間を
たくさん生み出すべく、貴重なモルモットとして研究しようとするかもしれな
い。
 いずれにしても、もう自分勝手には生きられない。それだけはいやだ、と主
人公は思う。このあたり、何よりも自由意志を尊ぶアメリカ人らしい価値観と
言える。

 ところが、彼の存在を秘密機関は察知してしまい、捕獲しようとする。
 ぐるりを即席の壁と鉄条網で包囲された研究所から、見えないメリットを活
かして、どう脱出するか。本書は上・下二巻に分かれた大部の小説だが、上巻
のハイライトがこの脱出劇である。

 下巻は、ニューヨークに戻った主人公が、いかに秘密機関の追求を交わすか
の逃亡劇となる。
 ここが非常にリアルで、周到に考え抜かれているのだ。

 例えば、透明人間が物を食べたらどうなるか。真剣に考えてみたことがある
だろうか。
 人は透明でも、食べ物は透明ではない以上、その咀嚼、嚥下、消化の過程は
丸見えになるのである。
 それは実に、奇怪にしておぞましい光景だ。
 簡単に言えば、中空にゲロが浮かんでいるわけだから。

 あるいは、雑踏を歩くことがいかに困難であるか。
 人は無意識に他人の動きを見ながら、巧みに交わし合うことで雑踏を歩く。
そのことは、新宿西口の地下広場を歩く時などに実感する。
 あそこは地下鉄丸の内線、JR、小田急線、京王線の改札口が集中し、西口
方面、南口方面、都庁方面、東口方面と、さまざまな方向に向かう群衆が乱雑
に交錯する場所。だから、透明でないぼくでさえ、まっすぐ歩くのには苦労す
る。
 特に、人の動きにまったく関心を払わない地方出身者や外国人観光客が平然
と突っかかってきたり、スマホしか見ていない連中がのろくさと行く手を遮っ
たりするのである。
 あれ、ひょっとしてぼくの姿は見えてないのかな、と不安になるくらい、近
頃の雑踏を歩く人は自分のことしか意識にないようでもある。

 それでも、本当に透明だったら、その困難は何十倍にもなるだろう。

 公園のベンチで一休みするわけにもいかない。
 誰もいないと思った別の人間が、いつ座りに来るか分からないからだ。

 自分のアパートに入るのにも気を遣う。
 ドアを開けるところを誰かに見られたら、どうなるか。その人の目には、ド
アが勝手に開いて閉まるように見えるのだから。

 食事、移動、休憩、帰宅。
 ごくごく当たり前に誰もがやっている細かな生活の些事が、ただ「透明にな
る」という一事をもって、これほどまでに危険な試練に変貌するとは。
 本書が現れるまで、そこに思い当たった人は一人もいないだろうが、言われ
てみればまったくその通りで、こういう点が優れたアイデアの見本なのである。

 また、主人公を追う秘密機関の側にも、リアリティがある。
 ジェームズ・ボンド型の大人のファンタジーでは無尽蔵に経費が使われるが、
ここではワシントンから厳しい会計監査が入り、秘密機関のリーダーも透明と
いう機密を守りながら、予算獲得に奔走する。

 エンターテイメントにありがちな、ご都合主義的ハッピーエンドを避けてい
るのも、本書にユニークな読後感を与えている。
 大体この手の話では、主人公は最後、無事元に戻るものだが、本書ではそう
ならない。
 と言って、絶望のまま終わるわけでもない。
 ハッピーでもアンハッピーでもない、これも現実の肌合いを感じさせる、秀
逸なエンディングだ。

 さて、ここまで読んでくれた方は、そろそろ疑問に思うだろう。
 これのどこが、音楽本なの?と。
 まさか、ピンクレディーに引っ掛けただけなの?と。

 もちろん、そんなことはない。ぼくにとって本書が音楽本である理由は、
「追い詰められた時、人はどんな音楽を聴くのか」ということについて考えさ
せられたからである。

 自宅にやっとたどり着いた翌朝。
 ほっとする間もなく、上述のような生活にまつわる困難の数々に少しずつ気
づいていく主人公。仕事のことも気になるし、やがては金にも困るだろう。
 さまざまな不安に押し潰され、彼はうつ状態になる。

 その時彼は音楽を聴くのだ。しかも、ハイドンを!

 え、ハイドン?
 と、ぼくは思った。

 確かに、主人公はクラシック好きという設定だ。
 この後、バカンスで出かけている家に侵入してアジトにするのだが、ついク
ラシックをかけてしまい、隣人に「留守のはずなのに音楽が聴こえる」と不審
がられ、秘密機関にバレてしまうシーンもある。
 だから、鬱屈した時に彼がクラシックをかけるのは、まあいい。

 だが、ハイドンなのか?

 しかも、他の箇所では「クラシック音楽」としか書かれていない。
 ここだけ、明確に「ハイドン」と指定されているのである。
 そこには何か意味があるはずだ。

 ベートーヴェンだと、将来への不安に打ちのめされた時に重すぎるのはわか
る。しかし、なぜバッハでもなく、モーツァルトでもなく、ハイドンなのか。
 ハイドンと言えば「交響曲の父」だ。有名でもある。
 しかし……

 うまく説明は出来ないが、この選択にぼくは違和感を覚えたのである。

 そこでぼくは考えた。
 じゃあ、自分だったら何を聴くだろうか、と。
 不慮の事故で透明人間になってしまい、この先さまざまな不安を抱えて、一
生孤独な人生を歩まなければならないと思ったら。
 10代から親しんできたビートルズだろうか。
 いま大好きな月光グリーンだろうか。

 そこで気がついた。これ、「無人島に持って行く一枚のレコード」に匹敵す
る、案外面白い問題じゃないか、と。
 そんな問題提起をしてくれた本書だからこそ、ぼくの基準では立派な音楽本
なのである。

 では、改めて問いましょう。
 もし透明人間になったら、あなたはどんな音楽を聴きますか?


H・F・セイント
高見浩訳
『透明人間の告白』
平成四年五月二十五日 発行
平成四年六月二十五日 二刷
新潮文庫

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
相変わらず、再就職活動中です。先日は、クラシックのコンサートを企画・運
営する会社の面接を受けました。採用には至らず、続けて、図書館長とかコン
ベンション・ホールの館長とか、演劇の舞台美術制作とか、世の中にはいろん
な仕事があるもんだなー、と感心しつつ、楽しみながら回っています。

----------------------------------------------------------------------
■「目につく本を読んでみる」/朝日山
----------------------------------------------------------------------
『スキャンダル除染請負人』田中優介 プレジデント社
 
 いわゆる企業スキャンダルをどうやって沈静化させるのかという「リスクマ
ネジメント」の実際を描く小説の連作集。主人公は、元警察のエリート官僚だ
ったキァリアをもつ、ダメージコントロールブレーン (DCB)社の危機管理コン
サルタント橘沙希と部下の穂積孝一。2人のコンビが、企業が直面するスキャ
ンダルの沈静化の仕事を受けて問題解決に挑んで行く物語。一章が一短編とな
っており、全部で八つの連作短編集だ。
 
 書いているのは、危機管理コンサルタントの親監修、息子が書いている。と
いうか、最初父親が書いているのを息子が読んで、これは小説になってないと
小説好きの息子が全面的に書き直したものらしい(笑)
 
 スタートは企業の社長がスポンサーとなっている女子サッカーチームの選手
と不倫しようとしていたところを週刊誌に写真を撮られて、どうしましょうか
と相談に来るところから始まる。実際はやる寸前でやってもいない「未遂」だ
が、マスコミ対処はこのようにやるのだとする見本のような展開を見せられる。
 
 三つ目で、橘沙希がどうして警察に入ろうとしたのか、どうして期待されて
いた職場を捨てて、危機管理コンサルタントになったのかが語られる。高校生
の時、ストーカーに狙われていたことから父親に相談すると、父親は友人であ
る警官、水野を紹介し、水野に沙希は助けられる。
 
 この経験から沙希は警察官を志望し、合格し、水野にあいさつしようとする
とそっけない対応をされた。警察は階級社会。キャリア採用とは言え、学校出
た手のぺえぺえとすでに何十年も勤務し、ノンキャリ最高クラスまで出世して
いる水野とでは、「階級」が違うのである。
 
 だったら出世してやるとがんばって、将来女性初の警視総監かと言われるほ
どにまでなったところで彼女の人生はひっくり返ることになる。
 
 なぜそうなったのかは、読んでいただくとして、読んでいて思ったのは、こ
の世界はイメージよりも人としてのあり方が問われる仕事のようだ。
 
 スキャンダルを沈静化させる仕事と言うと、たとえば反対情報を出してある
事件の告発者を不当に貶めるディスインフォメーションを連想してしまうのだ
けど、そういう話は出てこなかった。むしろ、クレーマーと、そうでない人の
判別法など、人の観察眼を問われる話ばかり出てくる。
 
 某病院で、看護師が自殺した。いわゆる過労死のように見えた。とはいえ多
少オーバーワーク気味ではあったが、それが原因だとは思えない。むしろかわ
いがっていた子供の患者が相次いで亡くなったことにショックを受けていたよ
うで、むしろそっちの方が自殺の原因のように思えた。しかし世間はそうは見
ないだろう。
 
 亡くなった看護師の夫は、当然怒っている。そんな中、初期対応をしっかり
とやり、夫に寄り添う形で自殺原因を探って行く姿勢は、ディスインフォメー
ションの話を期待していた私としては拍子抜けすると同時に、この仕事を「汚
れ仕事」だと思っていた認識を改めさせられた。むしろ人をどれほど理解でき
るのかが、この商売の成否を決めるらしい。
 
 もちろん、謀略じみたテクニックを披露されている章もある。会社の取締役
に送られてくる怪文書を一切開封させず、取締役会ではじめて公開する手法な
ど典型例だろう。
 
 これは怪文書を送ってきたのは、取締役の誰かだという確信があってのテク
ニックで、怪文書をすべて公開せず、きりのいいところで切って取締役会に提
出し取締役の反応を見る。「これは続きがあるんじゃないか?」と言ってきた
取締役・・・そいつこそが怪文書を送ってきた張本人だ!まだ続きがあると知
っているのは、犯人だけなのだから。
 
 そんな感じで一章読んでいくごとに小説を読みながら企業のリスク管理の手
法が理解できるようになっている。しかもご丁寧なことに、橘沙希の前に立ち
塞がる敵は、リスク管理の良くない事例の紹介に使われているから、何をやっ
てはいけないかもわかる。知識を得るビジネス小説として、とても良くできて
いる本だと思う。
 
 一つ苦言を言っておくと、あとがきに、この本のネタ本として「克危論」と
いう著者の父の書いた本のことが書いてあるのだけど、これがネットで検索し
ても出てこない。
 
 著者の父親である田中辰巳名義の本はいくつか見つかるのだが、おそらくは
父親の主著であろう「克危論」だけが出てこないのは、私家版か何かなのだろ
うか?
 こういう、本の存在が示唆されていて、読みたいのに、見つからないのはち
ょっとしたストレスであった。
 
 とはいえ、これから続編が出てくる期待もある(そういう終わり方をしてい
る)。この本は元々「克危論」全25章のうち、8章をネタに使っているという
ことだから、三冊シリーズで完結という予定なのかも知れない。
 
 今後に期待しよう。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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世田谷の「細雪」、それぞれの心情
『サザエさんの東京物語』長谷川洋子・著(文春文庫)

 書店で見て気楽に読める夏の時間潰し本としては最適と思って購入、寝転び
ながら読んて半刻・・・おばちゃま、ガバっと起き上がって正座しましたよ。
(すぐにまた寝転んだけども)。

 今から半世紀も前、母が「すごくおもしろい、もうおなかを抱えて笑える漫
画」と言って買ってくれて読んだのがサザエさんを読んだ最初でした。

 そのあと、サザエさんのメーキングともいうべき「サザエさんうちあけばな
し」も読みました。実をいえば、私、サザエさんのおもしろさというのがよく
わからなくて、(サザエさんを全巻揃えている人っているけど、それにちょっ
とした権威主義も感じてしまっていて・・・)でも、「うちあけばなし」は楽
しくて、何回も読み返してきました。

 サザエさんは「フツウの庶民の暮らし」を描いていると言われていますが、
それは誤解で、「昭和のホワイトカラーの暮らし」を描いているというのが正
しいですね。

 おばちゃまは私はこの東京山の手の中流階級の暮らしが今でも羨ましくてね〜。
それはフツウに見えて実はフツウではなく、手に届きそうでなかなか届かない
世界だからだと思います。

 この本は、サザエさんの著者、故・長谷川町子の妹が描いたファミリーの話。
「うちあけばなし」でわかるように、両親、3人の娘と福岡で平和に暮らして
いた家族は、父の死去とともに上京、母が3人の娘を育て、それぞれに才能を
磨くうちに次女が漫画を描いて成功し、長女がその漫画の出版社を経営し、妹
が手伝うという鉄板の女系家族の暮らしが続きます。

 つまり、「働く細雪」なんですね、この家族は。働くといっても被雇用者で
はなく、会社経営者+文化人で、時代を先取りしております。

 「細雪」の姉妹たちが一見、穏やかに暮らしているように見えて、危うさを
はらんでいるように、末の妹が描いた母や姉も、家の中では人見しりでわがま
まで暴君だったという描写は、さもありなんと思って、読んでいたのですが。

 ガバッと起き上がったのは、文庫本で187ページ「別れ」からの章。サザエ
さんの連載が終了し、姉が新しい家を建て末娘に、「あなたも同じ敷地に家を
建てたらいいわ」と誘うのだが、逡巡した結果、古い家にとどまると決意して
姉たちに手紙を送ると、姉たちは驚愕して、一切の交際を絶ってくるのです。
著者が淡々と書くだけに、それぞれの心情を考えると、なんだか芯から恐ろし
く文章の合い間を何度も読むのですが、手がかりはなく・・・読者である私は
途方に暮れるのでありました。ただ、

「生まれたときから末っ子の味噌っかすで、機関車に引かれる貨物列車同様、
姉達の引いたレールの上を走ってきた。おもしろいこと、楽しいこと、心強い
こともたくさんあった。でも、自分で考えて自分で決めて、自分の足で歩いて
こその人生ではないだろうか」

 著者の心情はこの文章に尽きるでしょう。その基盤には、元の家の名義が著
者だったこと、3姉妹の中でこの人だけに子どもがいるということも見逃せな
い要素だと思います。(昭和25年、桜新町に母が買った土地を「この土地は洋
子ちゃんにあげましょう。きっと役に立つときがくるから」と買ってもらった
土地が坪2000円。「この芋畑が50年後に何百倍になっているとは誰も思わなか
った時代で」とあります)。

 この遅すぎる末っ子の反抗期に上2人の姉は国交断絶で応戦します。その激
しさは、長谷川町子さんが亡くなったときに知らせないばかりか、「洋子には
ぜったい知らせてはいけない」との言葉が聞こえてくるほど。そして遺産相続
の放棄の依頼と受諾、上の姉が亡くなったときも知らせないという激しさです。

(1つわからなかったのは、著作権がだれにあるかということ。この本の表紙
は「サザエさんうちあけ話」から取っているみたいですが、遺産放棄したのな
ら著作権はどこに?)

 怒りを生きるエネルギーにするような命の燃やし方はすさまじいばかりであ
ると同時に、わかる気もします。妹が溜めてきた無意識の不満について、家族
を牽引してきた姉はどう思うのか、もはや誰も聞くことができません。

 日本の復興、高度成長期に合わせて連載された「サザエさん」はまことに巨
大なコンテンツです。そのメーキングが平穏で平凡・・・なわけはありません。
才能と才覚に恵まれた女ばかりの家族のそれぞれの心情は、そこにいた人にし
かわからないものだと感じ入りました。

 だからこそ、「サザエさん」が成立したのだと感銘を受けました。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

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 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

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  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

・『追憶 下弦の月』(パレードブックス)
  http://books.parade.co.jp/category/genre02/978-4-434-23989-2.html

・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_024.html

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■あとがき
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 暑い暑いと冷房の中にずっといたら、体が冷えてしてしまいました。こうい
うときは熱中症にならないように水分を取って、敢えて窓を開けてだらだらと
汗を流しながらお昼寝をする、なんてのも体調回復に良いようです。

 というわけで、ちょっと、おやすみなさいませ。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.657

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■■ [書評]のメルマガ                2018.07.10.発行
■■                              vol.657
■■ mailmagazine of book reviews    [ざわざわする心持ちのとき 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<103>思わず笑ってしまった、いくつかの件について

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第102回 自分を偽って生きることについて。血の繋がりだけが家族か

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→85 普遍的な物語の効能

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです。

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

----------------------------------------------------------------------
■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
----------------------------------------------------------------------
<103>思わず笑ってしまった、いくつかの件について

 You tubeを渉猟してたら、地方から東京へ遊びに来た人たちに、東京の印象
を尋ねる、という旨の街頭インタビューをやっていた。
 なんかのテレビ番組から抜かれた映像だった。
 その中で、「神戸から観光で来た」という、大学生くらいらしい女子2名が、
「あ、あれ! あれが、めっちゃおかしかった」とケラケラ笑いながら答えて
いたのだった。

 彼女たちが「めっちゃおかしかった」のは、電車のラッシュで、しかもすし
詰めになった乗客たちの誰もが「なんかな、みんな、すっごい真面目で真剣な
顔して乗ったはるねン」と、山手線のホームで笑い転げていたらしい。

 確かに、関西で東京と同じようなラッシュが出現するのは、大阪の地下鉄御
堂筋線くらいやもんなあ…と思ったところで、けらけら笑う彼女らに、なんだ
か既視感があるのに気がついた。

 そうだった、そうだった、と思い出したのは、10年ほど前のこと。
 当時勤めていた神戸の専門学校の学生たちを、東京での研修に引率したとき
だった。

 その日は、三鷹のジブリ美術館の見学が予定されていて、男子2名女子4名
を連れて、ホテル最寄りの水道橋駅の新宿方面行ホームに上がったのは、朝の
8時頃。
 ところが、ちょうどラッシュアワー、やって来た電車は満員のすし詰めで、
「え〜〜〜っ? これに乗るんですかァ〜〜?」と、女子連が難色を示した。
 何本遅らせようと同じだとは思ったが、思い知らせるために1本遅らせるこ
とにして、とりあえず、1本目は見送った。
 と、動き出した電車を眺めながら、女子たちが、なにやらケラケラと笑って
いるのである。
 何がそんなにおもしろいのかと問うと、さきのテレビの神戸女子と同じく、
「せやかって、なんか、みんな、真剣な顔で電車に乗ってやるし……くくく…」
「女の人なんか、眉が吊り上って……きゃははは…」と、笑いながら口々に言
うのだった。

 彼女たちにとっては、初めて見る「超」のつく満員電車が物珍しいのと同時
に、そこに笑いもせず無表情で乗っている乗客たちが、なんだかコントの一場
面のようにも見えたようなのだ。
 ほどなくやって来た次の電車も、案の定、同じく満員で、「え〜〜〜っ!?」
と嫌がる彼女らに、「いくら待ってもおんなじやから、乗れ!」とムリヤリ乗
っけたのだが、すし詰めの車内に入ってもなお、周りの乗客を眺めまわしては、
「くくく…」「うふっ…うふふ…」という忍び笑いから、やがてケラケラと無
遠慮に笑いだし、通勤のサラリーマン・ОLの皆さんから、顰蹙を買いまくっ
てしまった。

 あ、今書いていて思い出したのだが、自分にも、同じようなことが、ありま
した、ありました。
 あれは、受験のために初めて東京へ行った1974年の春。
 新幹線を降りて、国電のホームに上がると、電車を待つ人たちが、まるで小
学生の朝礼のように、整然と並んでいたのだった。
 皆が皆、真面目くさった顔で「前にならえ」したみたいにきれいに並んでい
て、下を向いては思わず「くくく…」と笑ってしまったのだった。

 あのころ、「ホームに整列する」という文化は、関西にはなかったですもん
ね。
 電車を待つ乗客は、ホームのあちこちに、てんで勝手にばらばらと立ってい
て、電車が来ると、団子になってそれぞれのドアに殺到してました。
 今でこそ、一応は並んで待つようにはなったが、それにしても、あの整然た
る様とは比べ物にならず、かなりばらけてくだけた並び方です、関西は。

 ふと買った、あるいはたまたま見かけた漫画で、「思わず笑ってしまった」
というのが、このところ何度かあった。

 スケラッコ『大きい犬』(リイド社)は、たまたま書店で見つけて買った本。
 作者のスケラッコは、「トーチweb」で知っていて、独特の「ちょっと不思
議」な世界観が好きだったので、買ってみた。

 オムニバスなのだが、表題作の『大きい犬』に、まず「思わず笑って」しま
った。
 主人公・高田クンは、「インドに行く」という友人から、留守中の部屋…と
いうか一軒家なのだが、そこに留守番として住んでくれるよう頼まれる。
 引き受けたはいいが、彼から渡された地図はごくごく簡単なもので、目印と
して「大きい犬から二軒め」としか書いてない。
 「大きい犬って、なんだよ?」と角を曲がったところにいたのは、まさに
「大きい犬」。
 そこには、家一軒分ほどの大きさのでかい犬が、家と家の間の空き地に、つ
くねんと寝そべっているのだ。

 犬はいいやつで、なぜか犬語が話せる高田クンは、この犬と次第に交情を育
んでいくのだが、高田クンが旅行から帰ると、犬は、街から忽然と姿を消して
いた。
 自分の言葉が、知らず犬を傷つけたのでは? と悩む高田クンのもとに、や
がてひょっこりと犬が帰ってきて、旅行に出かけた高田クンを見て、自分もま
た、ここに留まっている必要はないと気付いたのだ、と告げ、「動く」ことに
気づかせてくれた高田クンに感謝しつつ、またもやどこかへ旅立っていく。

 これ、誰しも「大きい犬」の登場シーンでは、思わず笑ってしまうと思う、
絶対。

 この他にも、ある日突然お爺ちゃんが、家族全員に向かって「実は、わし、
えびすさまなんや」と、七福神の一人であることを告白して、あっけにとられ
る家族を尻目に、お爺ちゃんの元へ、七福神が続々と集結し、挙句の果ては
「宝船」であるらしいハイエースに乗り込んで、揃って天に昇って行ってしま
ったり……

 と全編、なんだかまったりとした「不思議」に満ちていて、「大きい犬」の
後日譚もまた、ほんの短く収録されているのだった。

 スケラッコは、「トーチweb」でただ今『平太郎に怖いものはない』を連載
中。
 備後三次地方に伝わる有名な怪異譚「稲生物怪録」を、現代の広島に置き換
え、さらに飄々とした16歳の主人公「平太郎」の「なんとなくな恋」などもオ
リジナルで挿入された妖怪怪異譚の連作オムニバス。
 これまた、ホンワカとした「不思議感」が作品全体に流れていて、とてもい
い味を出している。

 原作に忠実に、1話1日、「30日」で物語が完結するみたいだが、既にその
およそ半月分が、単行本に「上巻」としてまとめられている。
 これは、「買い」ですぜ、絶対。

 ちなみに、「トーチ」連載中の漫画は、「動く」漫画なのだけど、紙の単行
本では当然動くことはなくて、電子版なら動くのかな? と今回は電子版を手
に入れたのだが、これもやはり、紙と同じく動きませんでした。

 意志強ナツ子『魔術師A』(リイド社)もまた、「トーチ」連載からの単行本。
 こちらは、その連載中に、単行本にも収録されている一篇『コリコリ屋さん』
を見て、衝撃を受けると同時に「思わず笑ってしまった」ので、単行本化を知
ってすぐに購入。
 でも、単行本でまとめて読んでみると、「トーチ」で初めて見たときほどの
インパクトがなくて、「あれ?」と思ったのだが、それでも、全編に、おもわ
ず「ぢょしこうせい」と「ち」に点々の平仮名で書きたくなるやーらしさとい
うか、怪しいエロティシズム…というより「淫靡」と言った方がハマるような
「気」が、こってりと満ちているのだ。
 さりながら、ここに描かれた女子高生たちは、まさに「今」を生きる少女た
ちで、意志強ナツ子、次回作も是非「ぢょしこうせい」でお願いしたい、と思
う。

 「トーチ」では、あの『あれよ星屑』の山田参助が、小島功ばりの「うっふ
んお色気画風」で挑む『ニッポン夜枕ばなし』も始まった。
 この人、ほんとに器用ですね。

 「トーチ」連載作品ではさらに、この8月には単行本も発売されるらしい、
斎藤潤一郎『死都調布』も、注目だ。
 この人は、あの西野空男が主催した雑誌「架空」出身の作家なのだ。

 コマの中で絵が動いたり、マイナー作家を発掘してきたり、漫画家じゃない
人に漫画を描かせたり、漫画家にさまざまな新しい取り組みをさせてみたり、
と今や「トーチ」は、漫画の実験場といった感があるのだけど、それも含めて、
やはり「トーチ」は、現代の「ガロ」である、といつだかも言ったけど、改め
て強く感じるのであった。

 あの「リイド社」が運営するこのウェブマガジン、既に単行本もかなりな点
数が出ていて、『クモ漫』のような映画化作品もあるのだが、いかんせん、ま
だまだかなりな赤字ではあるそうだ。
 ここには、現代の「ガロ」、漫画の実験場として、ぜひともに頑張って頂き
たいと思う。

 がんばれ、「トーチ」!


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第102回 自分を偽って生きることについて。血の繋がりだけが家族か

 「万引き家族」。カンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」に輝き、その
後のサン・セバスチャン国際映画祭での「ドノスティア賞」。そしてミュンヘ
ン国際映画祭では「外国語映画賞」を受賞した。

 今回の課題は、パルムドール作品だから、というわけではない。この作品を
作った是枝裕和監督は、これまでもホームドラマの体裁を取りながら、この世
の中の構成要素を切り取った、まさに社会の縮図を描いている作品を世に送り
出している。その監督の映画の題名が「万引き家族」。万引きをして生計を立
てている家族を描いている、という前宣伝だった。犯罪映画か?犯罪誘導映画
か?と思ってしまうのも無理はない。しかし、映画の後半から徐々に真実が明
らかになり、さまざまな問題を提示して、映画は終わるのだ。

 映画を観終わった後、書店で早速映画の題名と同じ題名の本を買って読んだ。

『万引き家族』(是枝裕和 著)(宝島社)(2018年6月11日第1刷発行)

 本書は映画の原作ではない。映画は完全に是枝監督の頭の中で紡がれ、まず
は脚本という形で現れた。本書は、たぶんト書きと台詞を厳密に分けているそ
の脚本を小説という形に整えたものだと思う。全体の作りが脚本に似ている。
そしてたぶんト書きには書いていない、役者オリジナルの演技を文章化してい
る。是枝監督は演技を役者に考えさせ、役者に任せた部分もある、とどこかの
インタビューで云っていたのだが、本書は描写が映画で描かれている場面と同
じなのである。だから、本書の発行日(2018.06.11)は映画公開日(2018.06.
08)よりも後になる。もうひとつ云うと、映画ではカットされたけど、本書で
は、描かれている場面があるのだ。おそらく撮影はしたのだけど、編集段階で
尺の関係から切らざるを得なかったのではなかろうか。

(以下、すべて映画のネタバレになります。まだ映画を観ていない人は読まな
くていいです)

 是枝監督に拠ると、最初に撮ったシーンが後半のハイライトである海水浴の
場面で、そこで樹木希林のアドリブによって、映画の方向が決まった、とのこ
とだ。そのアドリブだった台詞も、本書にはばっちり書かれている。

 なにもかも映画が最初にありきの本である。したがって、本書のことを書く
ことは映画に対する批評でもある。

 「万引き家族」で是枝監督は何を訴えたかったか。この映画は実はとても重
い。家族と社会と貧困について考えさせられる。それらのなんと間口が広く、
奥行きもあることか。さまざまな人がさまざまに云っているし、それはほとん
どが間違ってはいない。正解のない命題。観た人それぞれが自分の経験や自分
の考えに照らし合わせて、自分の尺度でものを云う。たぶんそれでいいと思う。
さまざまな感想があることはとてもいいことだ。

 で、執筆子はどう観て、どう読んだか。

 一言で云うと、“血縁関係だけが家族か”・・・・・ということに尽きる。
本作の家族は、6人。祖母(初枝=樹木希林)、父(治=リリー・フランキー)、
母(信代=安藤さくら)、母の妹(亜紀=松岡茉優)、息子(祥太=城桧吏)、
娘(ゆり=佐々木みゆ)。実は誰ひとりとして血は繋がっていない。家族のふ
りをしている。が、前半でヒントになる出来事がある。この映画は娘のゆりが
拾われた日から始まるが、家族の中でゆりを返してくる、返さない、で少し議
論になる。結局母(信代=安藤さくら)が引き取ること(それでも世間ではこ
のようなケースを誘拐というが)に賛成して、ゆりは家族の一員となる。返す
ことを主張していた母が、ゆりの本当の家の様子をみて(DVの家庭だった!)、
ゆりを引き取って育てることにした。その決心のシーン。母がゆりをぎゅっと
抱きしめる。映画ではこれだけだが、本ではそこに母信代の独白が入る。「お
前なんかにこの子を返してやるもんか」。

 この独白が後半、一家が警察に捕まり、取り調べにおいて、信代が取り調べ
の警官に云い放つせりふにリンクしている。「誰かが捨てたのを拾ったんです。
捨てた人は、他にいるんじゃないですか?」

 家族がテーマのものがたりである以上、主役は家族全員なのだが、いちばん
大切なのは母なのだ。女性なのである。映画では父役のリリー・フランキーが
最初にクレジットされるが、全員が主役であり、なにより大切なのは母役の安
藤さくらだと思った。

 ものがたりは、まず、父の治と息子の祥太がスーパーマーケットで見事な連
携プレーで万引きをするシーンから始まる。どうして万引きをしているのか、
ものがたりが進むにつれて、少しずつ分かってくる。治は日雇い、信代はクリ
ーニング店、亜紀は風俗でそれぞれ働いている。しかし祖母の初枝の年金が最
大の収入源である。年金だけでは心許ないので万引きをして生計を維持してい
るようだ。子の祥太は小学生だが、どうやら学校に通っていない。この状況で
拾ってきたゆりを家族の一員として認めていく。そしてゆりも万引きするよう
になる。そのあたりからものがたりは少しずつ、この偽装家族が壊れていく様
を描いていく。最初のほつれは、ゆりが行方不明、とマスコミで報道されたこ
と。観客(読者)は、この家族はもしかしたらみんな他人なのではないか、と
思い始める。祖母の初枝と妹の亜紀の関係が明らかになるシーンでは、初枝は
善意で行動しているのか、また悪意を込めて小ゆすりたかりをしているのか、
亜紀の両親の家庭に行って小遣いを得ているのだ。この偽装家族は、ある意味
ユートピアを築いていた。しかしそれは、実は砂上の楼閣に過ぎなかったこと
が、この大報道でわかってしまう。そして、次にものがたりが壊れるのは、母
信代がクリーニング店を馘首になるとき。さらに三番目の破綻は、祖母の初枝
の死。葬式とか届け出とかそういうことをすると、この偽装家族のことがあっ
という間に世間にバレてしまい。バレたときがユートピアの終焉になることに
気づいた、父(治)と母(信代)は、初枝の死をなかったことにする。なんと
穴を掘って埋めてしまうのだ。それでも翌日から偽装家族は続く。死亡届を出
していないので、期日には初枝の口座に年金が入る。偽装家族は初枝が死んで
も初枝の年金をあてにする。そんなことをしているうちに、息子の祥太が罪悪
感をもってしまったことが第四の破綻。父の治よりも早く万引きに対する罪悪
感を持ってしまった。

 そして息子祥太が、ゆりをかばうためにスーパーの店員にわざと捕まり、一
家は解散の日を迎えた。

 このものがたりの凄さは、誰も救われない処にある。信代はすべての罪を被
って刑務所へ。亜紀は、治と信代に騙され、そして最愛の初枝にも騙されたと
思い込んでいる。ゆりは実の両親に引き取られ、あいかわらず暴力を受けひと
りで過ごす。治は淋しく一人暮らし。全員に捨てられた状況。祥太は施設に入
る。祥太は救われるのか。ゆりは頑張って生きていけるのか。亜紀は大丈夫な
のか。最後まで能天気な治はひとりで生活できるのか。信代はいつ刑務所から
出られるのか。これは嘘をついたことの代償なのだ。この偽装家族は、人を騙
すと共に自分自身も偽って生きていたのだ。自分を偽って生きている人に救い
と希望はない。

 ものがたりを観終わり、読み終わっても、なお未来を想像してしまうのだ。
 このものがたりは、確実に家族のものがたりであり、ホームドラマである。
それが他人同士であっても。

多呂さ(昨年に続いて7月7日の凶報。大雨によるたくさんの犠牲者。被災者
が一刻早くもとの生活に戻れるように祈念します)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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85 普遍的な物語の効能

 各地の水害で避難にあわれたみなさまの日常が、一日も早くもどってきます
 ように。孤立されている方々が無事救助され、食べ物や日常に不足なものが
 なくなりますように。

 一年の中でおだやかに過ごせる季節が少なくなっているような感覚です。
 地震があり、豪雨があり、土砂災害があり。

 ざわざわする心持ちのとき、
 なにを読めるだろうかと考えました。

 そんなとき、
 フェイスブックで、京都の子どもの本の店「きんだあらんど」さんが、『山
 の上の火』というエチオピアのおはなしを紹介されていたのを読み、久しぶ
 りに再読したところ、なんともいえない落ち着いた気持ちになりました。

 「きんだあらんど」Facebookページ
 https://goo.gl/LdZVHM

 アルハという若者がご主人様と賭けをします。
 スルタ山のてっぺんに一晩中、裸で突っ立っていられるかどうかです。
 アルハは賭けを引き受けてから心細くなり、ものしりじいさんに相談しまし
 た。じいさんは、スルタ山の谷を隔てたところにある岩の上で火をもやすの
 で、それをみて山に立ち続けることを提言しました。

 直接あたためない火でも、その火を燃やし続けてくれるじいさんの気持ちは
 アルハを一晩山の上で立たせる力の源になりました。
 
 その後の話は一筋縄ではいかないのですが、しめくくりはとてもよいもので
 した。

 この話を読んだあと、アンデルセンを読みたくなりました。

 岩波文庫や福音館文庫でも、アンデルセン童話集は刊行されていますが、
 この5月にのら書店からアーディゾーニが選んだアンデルセン作品が出たの
 です。

 『アンデルセンのおはなし』
 スティーブン・コリン /英語訳
 エドワード・アーディゾーニ/選・絵 江國香織訳 のら書店

 たくさんのアンデルセンの物語から、14編を選び絵をつけたのが、エドワー
 ド・アーディゾーニ。1979年に亡くなっている、イギリスの画家です。
 『チムとゆうかんなせんちょう』(福音館書店)のシリーズ絵本等の他、児
 童文学の挿絵も描いています。

 アーディゾーニの描く子どもは、その心情が浮かび上がってくるかのような
 繊細なタッチで、見入ってしまう魅力があります。

 既訳のアンデルセン作品は、大塚雄三さん(福音館文庫)も、大畑末吉さん
 (岩波文庫)も、簡潔ですっきりしたものですが、江國香織さんの訳文は、
 情景が目に見えるようで、また、すっきりした読みやすい文章は、声に出し
 て読むとより楽しめます。

 14編をいくつか音読していると、高校生の娘もいつのまにか聞いていたほど、
 よく知っている話でも、ぐぃっと物語世界に引き込まれます。

 2つの話をご紹介します。

 「しっかりしたスズの兵隊」

 25人いるスズの兵隊の内、1本足の兵隊がいました。
 彼は、片足を上げて踊っている小さな女の人(紙でできています)も自分と
 同じように1本足だと思い、心を寄せます。
 同じ家のおもちゃには、びっくり箱に入った小鬼がいました。小鬼はスズの
 兵隊に冷たい言葉を放ちます。小鬼のしわざなのか、スズの兵隊は、家から
 出てしまい、紆余曲折を経て、また同じ家に戻るのですが、残酷な運命が待
 っていました……。

 スズの兵隊の実直な様子や、小鬼の意地悪さ、踊り子の可憐さがまっすぐに
 伝わり、兵隊が運命に翻弄されラストを迎えるまでずっとハラハラします。

 短い話ですが、スズの兵隊に流れる人生の時間はとても濃密です。

 「皇帝の新しい服」は「はだかの王様」というタイトルでよく知られている
 話です。

 衣装に目のない皇帝が、すばらしい衣装という言葉にひかれて、ペテン師に
 だまされてしまう話です。
 
 その役職にふさわしくない者にはみえないすばらしい衣装。皇帝より先に、
 チェックした側近たちもみな、役職にふさわしい事を示すために、みえない
 衣装をほめちぎります。

 衣装をつけたつもりで大行列する皇帝に、ひとりの子どもがぴしゃりと言い
 ます。「皇帝は何も着ていないよ!」

 この子どものひとことは、いまの私には響きました。

 はだかの王様を滑稽だと思っていたときもありましたが、いい大人になって
 から読むと、周りの目を気にすることをより理解できるようになったからで
 す。

 普遍的だからこそ、このお話はいまも読み継がれるのでしょう。

 まずは、ひとつふたつ、読んでみてください。


(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
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・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
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・『追憶 下弦の月』(パレードブックス)
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・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
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 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 お詫びです。前号6月20日号の号数を誤っておりました。正しくは656号で
した。謹んでお詫び申し上げます。

 今回は、久々に、あまり遅れずに発行できました。(あ)

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#96『クロスロード・ブルース』

 前回は、吉松隆『クラシック音楽は「ミステリー」である』をご紹介したが、
音楽とミステリー小説は割に相性がよいのか、音楽ミステリーとサブ・ジャン
ルにしてもいいほど、いろんな作品がある。
 ただ、取り上げられる音楽は何となくクラシックが多い印象。ミステリーの
スタイルとしても、いわゆる本格ものが多い気がする。

 だがもちろん、クラシック以外の音楽をテーマに、本格もの以外のスタイル
で書かれた小説が存在しないわけではない。
 例えば本書、エース・アトキンスの『クロスロード・ブルース』は、タイト
ルからお分かりのように、ブルースをテーマとしており、スタイルとしてはハ
ードボイルドに分類される、音楽ミステリーの秀作である。

 ブルースとハードボイルド。一見ミスマッチだが、このふたつには、ある共
通項が存在する。これを見出したことが、この作品を皮切りにスタートした
『ニック・トラヴァース・ミステリー』シリーズ最大の功績だろう。

 今日、ブルースはロックの母体となった音楽として、少数ながら熱心なファ
ンを世界中に持っているが、20世紀初頭、本国アメリカでは黒人社会でのみ演
奏され、聴かれる音楽だった。したがって、当時黒人が多く住んでいた南部の
田舎にしかブルースマンはいなかった。
 その点、白人を聴衆に持ち、ニューヨークのような大都会で演奏されていた
ジャズとは大きく異なる。音楽的には「ブルースはジャズのいとこ」と言われ
るにもかかわらず。

 しかし、どこにでも天邪鬼はいるもので、そんな黒人だけの音楽に心を奪わ
れた白人もいた。その一人がアラン・ローマックスで、彼はまだテープ・レコ
ーダーが発明される前から、重い録音機材を車に載せて、南部を旅して回った。
ブルースマンの所在を探して話を聞いたり、その演奏を記録に残すためである。

 しかし、それは大変な難行であった。
 マス・メディアはおろか、インターネットが当たり前になり、世界中のマニ
アックな情報が簡単に手に入る現代とは異なり、ラジオも電話も普及していな
いアメリカのディープ・サウスを、いい加減な噂話だけを頼りに、流浪のブル
ースマンを追跡するのである。
 やっと辿り着いたと思ったら、つい数日前に別の町へ行ったと知らされたり、
生きているものと信じていた相手がとっくに墓の下に眠っていたり。
 それでも、徒労に終わるかも知れないと承知の上で、埃っぽい未舗装の田舎
道を、よたよたと車で走り、あっちの町、こっちの辻を訪ねて回る。ブルース
が演奏される酒場ジューク・ジョイントを探して。
 その姿は、ある別の職業を想起させないだろうか。
 そう、私立探偵である。

 ハードボイルド・ミステリーの創始者ダシール・ハメットが『血の収穫』で
長編デビューしたのは、アラン・ローマックスが南部を放浪する少し前だが、
30年代には二人の活動期間が重なってくる。
 その、ハメットの小説は、主人公として私立探偵を選んでいた。
 コンチネンタル社という大手探偵事務所に所属する名前のない「私」はもち
ろん、映画『マルタの鷹』ではハンフリー・ボガードが演じたサミュエル・ス
ペードも私立探偵である。
 ただ、ハメットの物語の始まりに彼らが依頼されるのは、人探しではない。
 その後のレイモンド・チャンドラーを経て、ロス・マクドナルドに至るハー
ドボイルドの歴史の中で、行方不明の家族を探してほしい、という依頼が物語
の起点となるケースが、いつしかこのジャンルのひとつの定型となっていくの
である。
 その理由は、ぼくには定かでないが、結果ハードボイルドは、PI(Private 
Investigator=私立探偵)小説とも呼ばれるようになり、ジェイムズ・クラム
リーの『さらば甘き口づけ』が典型だが、まさに「人を探す物語」になってい
った。

 目撃証言を頼りに、行方不明者を探す私立探偵。
 噂を頼りに、ブルースマンの消息を訪ねるアラン・ローマックス以降のブル
ース研究者。
 あやふやな情報を追って、広大なアメリカを彷徨する点で、このふたつの職
業はぴたりと重なり合う。
 このことに気づいた著者エース・アトキンスは、ならば私立探偵の代わりに、
ブルース研究者を探偵役にしたハードボイルドを書いてみよう、と思ったので
はないかと思う。

 こうして本書の主人公ニック・トラヴァーズが誕生した。

 彼は元アメリカン・フットボールのプロ選手。だが、悪質タックル問題では
ないが、コーチと揉めて引退。その後大学に入り直して、ブルース研究者にな
ったという変わり種だ。
 もっとも、ハードボイルドの常として暴力シーンはつきもの。この際主人公
がひ弱な音楽研究者ではしょうがないので、こんな経歴を設定したのだろう。
その証拠に、物語上、特にアメリカン・フットボールが重要になるわけではな
い。

 一方ブルース研究者に転身したのには、必然性がある。
 ニックの両親は彼が幼い頃に離婚しており、親代わりとなってくれたのがブ
ルースのライブハウスを経営するジョジョと、その妻でシンガーのロレッタだ
ったのだ。ニックは子供の頃から店に出入りし、本物のブルースを聴いて育っ
た。そして、筋金入のブルース・ファンに成長したのである。
 ブルース研究者となったいま、彼自身も時折、ブルースハープ・プレイヤー
としてジョジョの店のステージに立つこともある。

 そんな男の活躍を描く『ニック・トラヴァース・ミステリー』の第一作が、
本書『クロスロード・ブルース』だ。

 本書のもう一人の主人公とも言うべきなのは、実在したブルースマン、ロバ
ート・ジョンソンである。ロックやブルースを聴く人なら、本書のタイトルを
見ただけで、それは分かるはず。
「クロスロード・ブルース」はジョンソンの代表曲であり、後にエリック・ク
ラプトンがクリーム時代に「クロスロード」というタイトルで演奏し、ロック
の名曲ともなっているからだ。

 ロバート・ジョンソン自身、謎めいた伝説に彩られている。
 元々ギターが下手だったのに、暫くどこかへ姿を消したと思ったら、戻って
きた時には別人のように上手くなっていて、ギターのテクニックと引き換えに
悪魔に魂を売ったと噂されたこと。
 27歳の若さで殺されているが、死因が毒殺とも刺殺とも言われ、もちろん犯
人は不明のままであること。

 そんなロバート・ジョンソンが、実は生前最後に録音した幻のレコードが存
在した!
 その噂を聞いた、ニックの同僚の音楽学者が真相を探る旅に出たまま、消息
を断ってしまう。困った上司に、ブルースマン探しの腕を買われ、ニックは同
僚の捜索を依頼される。
 まさに、ハードボイルドの伝統に忠実なオープニングである。

 手がかりとなるのは、アルビノの黒人。また、謎めいた老いた黒人がうろう
ろし、親代わりのジョジョにまで怪しい動きがある。
 さらに、ジョンソンの幻のレコードを手に入れようと目論むギャングが背景
におり、彼の殺し屋志望の手下が、エルビス・プレスリーに心酔している、リ
ーゼント・ヘアの若者という強烈なキャラクターだ。

 ちなみに、この若者は本書で死んだはずなのだが、第2作『ディープサウス
・ブルース』にも名前を変えて登場する。
 こちらでは、彼の相棒となる、パーフェクト(=完璧)・リーという変わっ
た本名を持つ女も出てくるのだが、彼女もまた実にエキセントリックで、忘れ
がたい印象を残す。
 エース・アトキンスには、悪人を魅力的に描く才能があるようだ。

 随所に、凝った言い回しがあり、時にそれが過剰で意味が伝わりにくかった
りもする。
 例えば、ロバート・ジョンソンが演奏のために立ち寄った酒場の描写。ブル
ースの演奏と酒に酔った客たちの賑やかな様子を、「まるで納屋の二階から干
し草を投げ下ろしているかのようだった」と喩えているが、南部のシズル感が
ある一方、納屋の二階から干し草を投げ下ろしたことも、それを見たこともな
いぼくには、いまひとつピンと来なかったりするのだが、恐らく、デビュー作
によく見られる気負いだろう。実際、第二作では大分その悪癖が治まっている。

 ともあれ、蒸し暑い梅雨時。
 南部アメリカの湿度を感じさせる物語と文体に酔うのも、一興かと。


エース・アトキンス
峯村利哉訳
『クロスロード・ブルース』
平成十二年十二月二十五日 初版発行
角川文庫

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
先日、心理テストを受けました。たくさんの質問に答えると、分析の結果、ど
んな職業に内心つきたいと思っているか、ランキング形式で教えてくれるとい
うもの。中には商社マンで、1位が「パティシエ」と出て、本人もまったく理
解できない、ということもあったそうなので、果たしてどんな結果が出るか興
味津々でした。すると、1位は「作家・ライター」となり、これはまあ予想通
りでしたが、7位に「役者・俳優」が入っており、11位の「ミュージシャン」
より上になっていたのが意外でした。ちなみに、「役者・俳優」が上位に来る
人は、相当珍しいとか。自分のことを一番よく分かっていないのは、自分なの
かもなー。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『八九六四』安田峰俊 角川書店

 「八九六四」とは89年6月4日、天安門事件の大虐殺があった日のこと。サ
ブタイトルは「『天安門事件』は再び起きるか」である。何年もかかって60人
以上の人にインタビューして、天安門事件のこと、そして今考えていることを
聞いて回った本である。

 天安門事件は、個人的に思い入れがある。というのも、学生自体に自治会委
員長やっていた経験上、ほぼ同世代(と言っても若干年下になる)の若者たち
が、本当に中国を変えるかも知れないと思わせる迫力のある運動をしていたか
らだ。6月4日の弾圧は、会社の帰り道、阪急梅田駅の紀伊國屋書店のところ
ある大型スクリーン、ビッグマンで流されてるのを見て知った。

 もうあれから29年になる。中国では天安門事件につい触れるのは今もタブー
で、本はもちろんネットで見ることもできない。スマホ決済の送金すら8964元
の指定は出来ないという。それだけこの事件の衝撃が大きかったということだ。

 聞いて回った相手は、有名どころでは王丹やウアルカイシ。無名(匿名)の
人も多い。インタビューの場所は日本だけでなく北京や台湾、香港、タイまで
ある。また中国人だけでなく日本人もいる。

 もっとも、6月4日に天安門広場にいた人はほとんどいない。母親が倒れた
り、やむなき事情で広場にいなかった人だからこそも今も生きていて証言でき
るのだ。もっとも死体の転がる中、逃げてきた人もいる。

 読後感は、既視感がある。それに尽きる。私が中国の社会運動をよく知って
いるというわけではない。そうではなくて、人こそ多くは死ななかったが、日
本で行われてきた社会運動が潰れていったパターンとそっくりに見えた。しか
も運動敗北後に国の経済が世界トップレベルまで向上したのもそっくりなら、
運動が停滞していたのも同じ。運動から足を洗った人たちがエリートほど今も
社会的地位が高く、そうでない人たちは沈んでいったのも同じ。もちろん、今
もこの道をずっと歩き続けている人もいる。

 多くの人が、今、天安門事件が再び起こったら応援するかと言われて、否定
的見解を示す。なぜなら運動敗北後の中国は、日本の高度経済成長を彷彿とさ
せる経済成長を実現している。今では日本企業が、かつてのアメリカ企業のよ
うに叩きのめされている状態だ。フィンテックにいたっては、日本よりはるか
に進んでいるだろう。

 もちろん今でも中国は都市と農村の経済格差や戸籍差別など問題は山積して
いる。しかし多くの元活動家たちは当時ほとんどいなかった大学生でエリート
だった。社会変革よりも金儲けに転向すれば、普通に成功できる人たちである。

 多くの国民が豊かになった。豊かな中国を作ったのは中国共産党そのもので
ある。マキァヴェッリ曰く

「民衆というものは、善政に浴している限り、特に自由などを、望みもしなけ
 れば、求めもしないものである」

 まさしく、マキァヴェッリの言うとおりに中国国民は、政府を支持している。
かつての運動家たちは、そんな現実が見えないような愚かな連中ではない。

 中国共産党を絶賛するわけではないが、あのとき立ち上がったのは間違いだ
ったのではないか・・・確かに天安門事件後の中国を見ていたら、そう思う人
が多数でも不思議ではない。

 逆にエリートではなかった人たちは、今も総じて恵まれてはいない。中国共
産党はエリートは大事にしても、そうでない人には過酷だ。このあたりの落差
も、日本以上にえげつない・・・。本当に救いがない。台湾や香港で今の天安
門事件の評価をめぐる党派の人の話も、そうしたカオスを見るようだ。

 とはいえ、読んでいて嬉しかったこともある。王丹やウアルカイシが健在で、
年相応に成熟して、台湾のひまわり革命に貢献していたこと。ひまわり革命は
運動家たちが過去の社会運動についてよく勉強していて、戦略を練り、落とし
どころを最初から考えていた。そして政府内の支持者と連絡はしないが、彼ら
の足を引っ張らないように動いた。

 そうしたやり方を王丹やウアルカイシが教えたわけではない。彼らはただ、
頑張れと言いに言っただけだ。本には書いてはないが、たぶん彼らは思っただ
ろう。自分たちの失敗に、彼らは学んでくれたのだと。自分たちの子供の世代
が、自分たちを上回る存在となったことを素直に喜んでいる。

 私はSEALDsの主張を支持しない。しかし、若者が異議を唱えるという運動は
成功してもらいたかった。しかし、そうはならなかった。その原因は、SELDs
の面々も、その取り巻きも、天安門事件に学べる能力がなかったからだろう。

 これって、日本の人口人口が中国の1/10以下だからなんでしょうかね? 確
率論で言えば、日本で10年に一度の逸材は、中国では毎年1人は出ているはず。
天安門事件から学べる人もそれだけ多いから、雨傘革命は成功し、SEALDsの運
動は失敗した。そんなことを読み終えたとき思った。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

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 メルマガ発行準備をしているときに飛び込んできた地震のニュースに驚きま
した。

 東京に居るとあまり大阪の情報が入ってきませんが、皆様、大丈夫でしょう
か? 余震はまだまだ落ち着かない様子でしょうか。

 くれぐれも、お気をつけください。(あ)

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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<102>「旅行」とは、「電車に乗ること」と見つけたり

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→84 微細に描かれた絵本の楽しみ

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第101回 「国体」ということばで日本の姿を説明する

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです。

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■今回の献本読者書評のコーナー
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 株式会社三楽舎プロダクション 小林様より、下記の献本を頂戴しました。
ありがとうございます。

・森安政仁著『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510
 
 この書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<102>「旅行」とは、「電車に乗ること」と見つけたり

 細川貂々『日帰り旅行は電車に乗って 関西編』(ミシマ社)を読んだのだ。

 映画やドラマにもなったベストセラー『ツレがうつになりまして』の貂々さ
んの最新刊は、鉄道コミックエッセイ。
 鬱から寛解し、ただいまは専業主夫を務める「ツレ」さんと、一人息子の
「ちーとくん」と三人(正しくは、毎回もれなく同行するミシマ社の担当女史
「ミッキー」さんを加えた4人)で、関西あちらこちらの電車に乗りに行った、
その顛末記。

 元々は、貂々さんもツレさんも、電車や鉄道にはまるで関心がなかったらし
い。
 が、息子のちーとくんが、2歳ころから電車に異様に興味を示し、まずは家
事及び育児担当のツレさんが、息子に引きずられる形で「テツ」化し、その後
貂々さんも巻き込んで、最初は息子の欲求を叶えるためだった首都圏電車旅の
あれこれを、2012年には『親子テツ』(朝日新聞出版)というコミックエッセイ
にまとめてしまったらしい。
 …「らしい」というのは、そちらはまだ未読だから。

 そして、一家で関西に移住した後、家族ぐるみの「テツ」化はさらに加速し、
『親子テツ』では、自宅最寄りの地下鉄東西線を中心に、あくまでなんらかの
用事があって、たまたま乗った電車を取り上げることが多かったようなのだが、
「関西編」では一変、「電車に乗る」ことをまずは第一の目的として家族で出
かけた日帰り旅の、その時々あちこちの様子が描かれている。

 いや、その「日帰り」範囲の広いこと、広いこと。京阪神は言うに及ばず、
関西一円に広がっていて、目次を見るとたまげます。
 やはり、初めての土地に移り住んで、何処へ行っても物珍しく、勢い、その
活動範囲も広がったのだと思う。

 わしもまた、学生時代、東京に住み始めた当初、さすがに電車目的ではなか
ったが、暇を見つけては、あちこち、「寅さん」の葛飾柴又や、鈴木翁二の調
布とか仙川、深大寺、つげ忠男の利根川とか、安部慎一の阿佐ヶ谷、神代辰巳
の映画でよく見た新宿歩行者天国、これも映画によく出てきた神田界隈やら、
はては横浜、横須賀あたりまで、あちこち「見物」に出かけたものだ。

 当然のこと、その行き帰りには電車を利用するのだが、初めて見る東京の電
車は、70年代のその当時、関西のそれに比べると、駅や車両や設備その他、す
べてにおいてなにやら垢抜けなくてドン臭く、電車は古くてボロい上に冷房も
なくて、小田急や京王線の新宿駅とか東急渋谷駅や西武池袋駅といった私鉄タ
ーミナルもまた、どこもやたらとショボいのに、「な〜〜んや、こんなモンか
い」と妙な優越感を抱いたりも、した。

 『日帰り旅行は電車に乗って』では、神戸電鉄とか山陽電車、能勢電鉄、北
条鉄道といった、関西人にとってもマイナーな路線もピックアップされていて、
神鉄沿線生まれ、神鉄使って三田まで通学し、北播磨はお友達エリア、能勢電、
山陽電車は遠足電車でした、なわしには、個人的にとても嬉しかった。

 ただ今の自宅最寄駅でもある阪神電車・武庫川駅を、ちーとくんが「すごい
よ」とリスペクトしてくれてんのも、うれしかったです、はい。
 わしも、この駅に最初に降り立ったときには、びっくりして、思わず笑い出
してしまいましたですよ、ちーとくん。

 何年か前まで、京阪神一円の書店をまわる、出版営業代行をしていた。
 そのお仕事で、普段はあまり乗る機会のない京阪電車や南海電車、近鉄南大
阪線などに乗るときには、仕事ではあったが、なんだか旅行気分で少し「わく
わく」して、駅の様子や車窓など、必要以上にきょろきょろとあちこち見回し
てたりもしていた。
 京阪電車には、編成の1両ずつにもれなく「成田山」の交通安全のお札が張
り付けてある、というのも、この時に「発見」した。

 通勤などで通い慣れた路線でも、たまに降りたことのない駅に途中下車して
みると、これまた即席の非日常、束の間の旅行気分が味わえて、これはただ今
もなお、ときどきやらかしております。

 「旅」すなわち非日常空間は、わざわざ遠くへ行かなくても、ちょいと視点
を変えてみるだけで、たちどころに現れる、ということを、貂々さんの『日帰
り旅行』は思い出させてくれた。

 ずっと昔の我が家では、毎年夏休みと暮れから正月にかけての年2回、一泊
ないし二泊の家族旅行が恒例だった。
 この恒例行事が始まったのが1965年の夏で、わしは小学4年生。
 この時は、前年に開通したばかりの新幹線で名古屋へ行った。
 名古屋城を見物した後、名鉄の赤い電車で熱田神宮から犬山の木曽川畔へ回
ってここで一泊、翌日、これまたオープンしたばっかりだった明治村を見て、
やはり前年に開通したばかりの名神高速を走るバスで帰ってきた。

 その年の暮れには、富士山を見に行った。
 新幹線の「こだま」を静岡で降り、東海道線で沼津まで普通電車に乗った。
オレンジと緑のツートンカラーの電車は、前面が二枚窓の、その少し前まで大
阪や神戸にも走っていた、旧型の湘南電車だった。
 「しみず」「おきつ」「かんばら」「ふじかわ」「ふじ」「よしわら」と、
駅に停まるごとに駅名票を読み上げていったのだけど、駿河湾に沿って走る駅
や沿線が、やたらにほのぼのと長閑な光景だったのを、今もよく覚えている。

 この時の宿泊先は御殿場のホテルで、沼津で乗り換えた御殿場線では、「気
動車」というのに生まれて初めて乗った。
 「ゴーゴー」と唸るエンジン音や油っぽい車内の臭いもそうだったが、乗客
が手動で開け閉めするドアが、とても物珍しかった。
 一泊二日の旅で、翌日は御殿場から箱根を周遊したのだが、あいにくの雨降
りで、前日も曇っていたので、結局富士山は見られなかった。

 岡山に向かうために、朝早くに神戸駅から乗った急行列車は、東京から夜を
徹して走ってきた客車列車で、車内の人達の多くがまだ眠っていた。
 岡山から倉敷を回って、帰りの急行は電車だったが、途中の姫路駅で立ち売
りの「そば」を買ってもらって、いざ食べようとしたら、開けっ放しの窓から
吹きこんでくる風に煽られ七味唐辛子が目に入り、神戸駅で下車した後も、ず
っと痛かった。

 大阪弁天埠頭を夜に出航して四国松山経由で別府に向かう関西汽船は、年末
の帰省客でごった返していて、船底の入れ込み座敷風三等船室は言うに及ばず、
食堂や通路、トイレや、はてはシートで風よけされた甲板にまで、船客が毛布
にくるまって寝ていた。

 わしが小学4年の時に始まった家族の慣例はその後も続いて、わしが高校2
年になるころまで、律儀に年に2回繰り返され、四国・山陽方面から北陸、飛
騨高山、伊勢志摩、南紀、山陰等々、結構あちこちへ連れて行ってもらったの
だが、どこでなにを見て、どこに泊まって何を食べた、というのはほとんど覚
えていないのに、何に乗って、どこからどこまで移動した、というのは、その
車窓の風景も含めて、鮮明に覚えている。

 宿泊を伴う旅行でなくとも、うちの場合は父親が、会社のイベントのハイキ
ングとかなにかの催しとか、あるいは休日出勤の会社に、よく連れ出してくれ
たのだが、その途中では、かならずナニガシかの鉄道薀蓄を聞かせてくれた。
 大阪の地下鉄は3分ごとに電車がやってくる、とか、阪急電車の車内の「木
目調プリント鉄板」は、「父ちゃんが大学に通った戦前にはもう採用されとっ
た」とか、「近鉄は日本一大きな鉄道会社なんやで」とか、開通前の新幹線の
線路を「いっときは阪急電車が走っとったんやァ」とか。

 その場合もまた、行った先での出来事は、ほとんど覚えていないのに、そこ
へ行く電車の中の景色は、鮮明に覚えていて、旅行とか旅というのは、つまる
ところが「移動」の過程こそが、一番重要で、それこそが旅のキモ、なんでは
なかろうか、と、貂々さんの『日帰り旅行』で改めて思い出し、そして実感で
きたのだった。

 この漫画は、ミシマ社のウェブサイトでの連載を単行本化したものなのだが、
足かけ3年(だったっけ?)に及ぶ連載が進むにつれ、両親をテツの道に引き
込んだちーとくんが成長し、彼の鉄道熱が徐々に冷めていくという過程もまた、
描かれている。
 そうですよね。男の子には「電車好き」が、やけに子供じみて、なにやら恥
ずかしくなる年ごろ、というのが必ずあるのですね。
 しかも、家族連れでゾロゾロと、ただ電車に乗りに行く、それを母が漫画に
描く…男の子的にはもう、「頼むからヤメテくれ〜〜!」な状況ですよね。

 そんなちーとくんも、両親とともにわざわざ乗りに行った鉄道の「旅」の記
憶は、深いところに鮮烈に、そしてとても印象深く残って、ずっと遠い先のど
こかで、ふと思い出しては、記憶を遡ってもう一度辿ってみたくなったり…が、
たぶんきっとあると思う。
 …というのは、実はわしの実体験だったり、するのだが。

 貂々さんご一家が関西移住を決めたのは、東日本大震災がきっかけで、ちー
とくんのためにも「もっと暮らしやすいところ」を模索した結果、ヅカファン
な貂々さんと、中学まで大阪に在住していて関西に思い入れが深かったツレさ
んの思惑が一致。
 来てみれば、ツレさんの記憶の通りに関西は「電車天国」、ちーとくんも夢
中になって…と、この本が出来上がったようだ。

 震災をきっかけに関西、それも阪神間に移住…というと、なにやら谷崎潤一
郎なども彷彿してしまうのだが、関西に移住後、その文化にどっぷりとハマっ
た谷崎のように、貂々さんもまた、ヅカ及び関西を満喫しつつ、今後は「電車」
以外の分野でも、関西あちこち、できればできるだけマイナーなスポットをル
ポしていただきたい、と勝手なお願いなどもしてみたり…

 ところで、『日帰り旅行』中で、ツレさんが一行にぜひとも見せたかったの
に、見せられなかった「大阪のスゴイゴミすてば」というのは、おそらく、
↓これのことだと思うのだが、

http://www.hetgallery.com/semba_b13.html

 これ、阪神高速の湾岸線からは、実にくっきりはっきり良く見えるのだが、
ニュートラムと地下鉄からは、ちょっと遠すぎて、まず見えない思います、は
い。

太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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84 微細に描かれた絵本の楽しみ

 福音館の月刊誌絵本のひとつ「たくさんのふしぎ」が今月号で400号を迎え
 ます。節目の絵本は、大好きな西村繁男さんによるものです。

 「絵で読む子どもと祭り」西村繁男 作
 月刊たくさんのふしぎ 2018年7月号(第400号)福音館書店

 2014年から4年かけて取材された、子どもが参加している地域のお祭りを9
 つ紹介されています。
 
 西村繁男さんの絵本といえば、たくさんの人と共に周りの様子も微細に描か
 れているのが特徴です。

 本書は「絵で読む」とタイトルにあるように、絵の読みごたえがたっぷりで
 す。お祭りの見所を双眼鏡でみるかのように、ところどころズームアップも
 されています。

 当初、西村さんは、祭りの絵本を提案されたとき、ご自身が子どもの時に経
 験がなく、その後も積極的に参加したことがないので、祭りを執り行う人た
 ちの思いや情熱を描けるか自信がなかったそうです。

 しかし、いままでのように、たくさんの人々を観察し祭りの現場をみて人を
 描いていけば絵本にできるのではと、時間をかけてできあがったのが本書で
 す。

 春から始まり冬にかけて、9つの場所でのお祭りはたくさんの人が登場して
 います。

 視界に入るものをくまなく描き出した、その世界はにぎやか。子どもたち、
 観客、ただ通り過ぎる人も含め、様々な人が絵本の中にいっぱいです。

 中でも印象に残ったのは3つのお祭り。

 11月第3日曜日 神奈川県川崎市で開催されるのは「さくらもとプンムルノ
 リ」。

 日本や朝鮮半島、中国、東南アジア、南米などにルーツをもつ子どもが参加
 するお祭りで、プンムルノリというのは、韓国・朝鮮の伝統的な踊りです。
 1990年から商店街の祭りで踊りが披露されるようになり、踊りと楽器の練習
 は1年を通して行われています。

 踊りの横では、各国の食べ物が出店されている様子もみえ、美味しそうな料
 理にも見入ってしまいます。

 2月9日から11日にかけて行われるのは高知県吾川郡仁淀川町の「秋葉まつ
 り」

 過疎化でこの集落では30年以上子どもが住んでいないそうです。200年以上
 続いているお祭りを絶やさないために、近くの小学生が参加し、祭りをもり
 あげています。

 「神楽」「太刀踊り」「鳥毛ひねり」の披露にはたくさんの観客が集まって
 いて壮観です。

 2月中旬に行われるのは、福島県福島市と双葉郡浪江町の「安波祭(あんば
 まつり」
 
 もともとは福島県浪江町でおこなわれてきた豊作と豊漁を祈るお祭りですが、
 2011年の東日本大震災で、浪江町の住民は避難生活を余儀なくされました。
 福島市でおこなわれた、子どもたちによる「田植え踊り」の後ろには、仮設
 住宅が連なっています。

 昨年2017年の夏には、震災から6年ぶりに、浪江町の神社があった場所で、
 「田植え踊り」が奉納されたそうで、その時の様子も描かれています。
 
 お祭りは少子化、震災など、その時々によって乗りこえていかなければ続か
 ない現状もあらわしているのです。

 それでも、いつの時も大人たちは子どものお祭りが続いていくよう尽力してい
 ます。

 ハレの日の象徴ともいえるお祭りがこれからも長く続いていきますように。

 さて、2冊目も福音館の「こどものとも」。こちらは先月の6月号です。

 「しりとり」安野光雅 さく/え
 月刊こどものとも 2018年6月号 福音館書店

 安野さんもまた、繊細な絵を描かれる方で、代表作でもある「旅の絵本」シ
 リーズでは、世界各地、ひとつの国を舞台に、昔話など、物語のモチーフが
 随所に描かれ、それらを探しながら風景を楽しめるもので、私も子どもの頃
 から愛読しています。(新作はスイスを舞台にしたもので、今月15日に刊行
 です!)

 その安野さんがどんな「しりとり」を描いたのか。

 しりとりは、
 あいす→すずめ→めだか、というように最後の音で次の単語をつないでいく
 言葉遊び。「ん」がでたらおしまいです。
 
 安野さんの「しりとり」は、見開きに10数種類ほどの絵が描かれ、その中か
 ら好きな絵で自分のしりとりをはじめます。

 いちまいめは、さる きびだんご しるこ こあら けんびきょう 等々。

 たとえば、「さる」を選んでみます。
 「る」が次の単語のはじまりです。

 次の見開きのページに描かれている絵から「る」ではじまるものを見つけ出
 します。「る」は、るーれっと。

 そうやって、自分で次の言葉を選びながら最後のページにたどりつきます。
 そこで「ん」のつく言葉で終わるとおしまい。
 もし、最後が「ん」以外であれば、最初のページにもどって、しりとりは続
 くのです。

 ぬすびとはぎ、じんちょうげなどの可愛い花や、わまわし、みちしるべ、ち
 ょうちんなど、ふだんの生活ではあまり見かけないものなど、どの絵もやさ
 しいタッチで心ひかれるものがあります。

 子どもと一緒でも、大人が一人で遊んでも、おもしろい。

 我が家の小さい子どもたちが大きくなり、定期的な月刊誌が届かなくなって
 からは書店や図書館でチェックし、気になったものはいまも購入しています。

 今回ご紹介した2冊も購入して何度も読み返しています。
 最近では気に入ったものは複数冊購入して、あの人なら気に入りそうという
 方に贈っています。

 月刊誌は児童書を手厚くおいている書店ですとバックナンバーもおいていま
 すし、単品の注文は書店でも受け付けています。

 最後にご紹介するのも絵本です。
 
 『ちょうちょのために ドアをあけよう』
 ルース・クラウス 文 モーリス・センダック 絵 木坂涼 訳 岩波書店

 大人の手のひらくらいの大きさの絵本に、
 世界を楽しく生きるために覚えておくといいことがつまっています。
 子ども視点で子どものための便利帖みたいなのですが、けっこう大人にも響
 きます。

 たとえば、

 「おおごえで うたう うたを
 ひとつくらい おぼえておくと いいよ
 ぎゃーって さけびたくなる ひの ために」

 「そんなに つかれたって いうなら
 つかれを ポイって すてちゃえば いいのよ」

 詩人、木坂さんの言葉は、同じく詩人であるルース・クラウスの言葉をぴっ
 たりに伝えてくれます。

 センダックの絵は、細いペン画で子どもたちのユーモアさや可愛さを余すこ
 となく描いています。

 最初から順に読んだあとは、好きなページを開いて声に出して読んでみるの
 もおすすめです。


(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第101回 「国体」ということばで日本の姿を説明する

 『永続敗戦論−戦後日本の核心』(2016年)は一度、ここでも紹介した。そ
の著者の白井聡氏が再び一般大衆にも読みやすい新書で日本の姿を表現する作
品を上梓した。

 『永続敗戦論』では、戦後の日本はアメリカの最重要同盟国となり、戦争に
敗北したことを曖昧にすることによって(“敗戦の否認”)、永続的にアメリ
カに従属しなければならなくなり、際限なくアメリカに従属をし続ける限り、
ずっと敗戦を否認していかなければならない。という論法で、我々に衝撃を与
えた。敗戦の否認が今も続く米軍基地問題や賠償問題になっているということ
だ。
 今回、紹介する本は、その“永続敗戦レジーム”を一歩進めて、実は戦前の
日本と戦後の日本はパレラルに同じ流れを辿っている、ということを訴えてい
る。そのキーワードが「国体」ということばだとういう。

『国体論 菊と星条旗』(白井 聡著)(集英社新書)
(発行:集英社)(2018年4月22日初版発行)

 戦後の日本は「国体」ということばと縁を切った、と大多数の国民は思って
いる。しかし、著者の白井氏に拠れば、「国体」は戦後も脈々と生きている。
1945年に一度仮死状態になったものの、実は復活している、という。現代日本
の状況を唯一説明できることばが「国体」という概念なのだ。

 明治維新からこっち、日本は天皇制とともに近代化の道を歩んできたが、一
度1945年に歴史は断絶した。

 明治維新 1868年
 敗戦   1945年
 現在   2018年

 維新と敗戦の間は77年。そして敗戦と現在は73年。明治維新から現在までの
時間の流れの中で、敗戦を分岐点とするならば、そろそろ戦前と戦後は同じ期
間になりつつある。

 敗戦前の歴史では天皇がすべての物事の中心に存在していた。すなわち、そ
れ自体が「国体」であった。天皇が真ん中にある、ということ、そしてすべて
の国民ひとりひとりが天皇と直接つながっている状態がこの国の「国体」であ
った。

 1945年の敗戦から現在まで、この国は何を中心にしているのだろう。

 執筆子は、それは憲法だと思っていた。大多数の人も同じ意見であろう。こ
の国の中心は「日本国憲法」である。

 しかしながら、この国はひとつだけ様子が違うのだ。実は憲法より上位に
「日米安保条約」がある。実に安保条約が憲法に優先しており、憲法は安保条
約に違反しない限りにおいて有効なのである。我々は沖縄を中心にしてたびた
び起こる、米軍関係の事件や事故の処理時にそのことを苦い思いで思い知る。
安保条約に付随した地位協定という悪夢のような規程の存在が、安保条約が憲
法より上位に存在している、ということの証左にほかならない。

 ここまでで、もうおわかりかと思うが、本書のサブタイトルが「菊と星条旗」
とある通り、1945年からこんにちまでの、この国の中心はアメリカ合衆国なの
だ。アメリカを中心にしてこの国は存在している。それがこんにちの「国体」
である。

 親米保守政権(主に自民党政権、と云ってよいだろう)は、積極的にアメリ
カに追従する道を選び、それがいまや既得権益化している。それはいまの安倍
政権をみれば一目瞭然。アメリカが云ったことをそのままなぞることしかしな
い。アメリカが北朝鮮との対話路線に舵をきれば、安倍政権も金正恩との会談
を模索します、とかの国の大統領に申し上げた、というニュースがあった。

 以前から、執筆子は、日本はアメリカの植民地だ、という感想を漠然と感じ
ていた。ときに尊大なアメリカの高官たちの振る舞いに憤りを感じていた。参
勤交代のようにワシントンに行く日本の首相がそこで、さまざまな約束をさせ
られているのをみて、日本がアメリカの属国の印象を強く持っていた。

 しかしながら、7年前のあのとき(東日本大震災)、執筆子は“これで日本
は変わる。日本は真の独立国になれる”のではないか、と淡い期待を持ったの
も確かである。原子力発電の廃止を時の政権は掲げた。が、親米保守政権にな
った途端に原発存続の方針に振り子が戻ってしまった。政権は既得権益を守る
ことを選んだ。既得権益=親米路線なのである。

 いまや完全にアメリカにすがることしかないこの政権のもと、私たちはそれ
によってもたらされる不利益を甘んじて受けなければならない。日本は結局自
らの力では何も変わらない。何も変えられない。

 それもこれもこの国の中心にアメリカがあるからなのだ。アメリカが国体で
ある。まさに「アメリカの日本」。

 筆者の白井氏は、まず一昨年8月の天皇陛下の「お言葉」に関することから、
本書を書き始めている。彼はあのお言葉に強い衝撃を受けた。このかたちを一
緒に考えようと、いう文脈で陛下は、あのお言葉を発したという感想を持った、
というが執筆子もまさにそのとおりだと思う。執筆子も陛下による与えられう
る限り最大の抵抗。現政権が進める、憲法を無視した政策への反旗であると受
け止めた。集団的自衛権容認。共謀罪の導入。そして民主主義を明らかに踏み
にじっている、文書改竄問題の放置。なにもかもが憲法をないがしろにしてい
る。

 本書は怒りの書である。

多呂さ(痛恨の一回とばし。5月が抜けたことをいまだに悔やんでいます。二
ヶ月ぶりの書評です。)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#95『クラシック音楽は「ミステリー」である』

 佐村河内守の『交響曲第1番HIROSHIMA』が、現代には珍しい「調」のある
クラシック音楽だったこと。
 そして、「そんな作品が書けて、実際に演奏されるかもしれない」という期
待に動かされて、新垣隆がゴーストライターを引き受けてしまったこと。

 前回はそんな話を紹介したが、だとすれば、少なくとも新垣隆は「調」のあ
る交響曲を書きたかった、ということになる。
 つまり、現代音楽が「無調」全盛になったのは、聴衆が求めなくなったから
であって、作曲家側は「古臭くても、やっぱり調のある音楽がいいよね」と思
っている、ということになる。
 少なくとも、一人は。

 いや、実際には、さらにもう一人、そういう作曲家がいる。それが今回取り
上げる『クラシック音楽は「ミステリー」である』の著者、吉松隆だ。

 吉松は音楽大学で作曲を学んだ経験がなく、慶應大学工学部中退。音楽アカ
デミズムとは無縁の場所から現れたせいか、「調」を捨てたいわゆる現代音楽
が、どんどん「非音楽的」になっていく傾向に異を唱え、メロディの復権を掲
げて、「現代音楽撲滅運動」や「世紀末叙情主義」を標榜した。

 デビュー作は『朱鷺によせる哀歌』。近年では大河ドラマ『平清盛』でお茶
の間進出。まー、お茶の間というのも死語ですが笑。
 ともあれ、吉松隆は20回以上作曲コンテストに応募しては落ちることを繰り
返し、自力でここまで到達したという。佐村河内に頼らず、新垣隆も自力で頑
張って「調」のあるシンフォニーを書けばよかったのに……と、これは他人事
ゆえの無責任な感想です。
 で、いま気づきましたが、二人とも「隆」なんだなー。

 さて、そんな吉松隆だが、文筆家としても旺盛な活動をしており、ウィキで
は12冊の著作が上がっている。
 その中の一冊を、今回は取り上げたい。

 本書はもともとブログ「月刊 クラシック音楽探偵事務所」の一部を書籍化
したもの。
 自身の「はじめに」に於ける定義では、「この本は、音楽の中にひそんでい
るそんな「暗号」や「謎」を深読みする(ちょっと怪しい)ミステリーであり、
音楽の世界の「裏側」に踏み込む冒険譚」ということになる。

 全体は5章からなっている。

 第1章は、「バッハと五線譜の中の「暗号」」

 正直言って、この部分を読んだ時はがっかりした。
 既に知っている話だったこともあるが、大して推理するほどのこともない、
ごく単純な「暗号」だからである。

 音の名前として知られるドレミは、もともとラテン語で、それがイタリア語
に転訛した。
 日本の音楽教育のダメなところは、音の名前としてはドレミを採用しながら、
調を示す時には「ハ長調」とか「イ短調」と日本語を使うところだ。
 ドとハが、実は同じ意味――つまり、同じ音の高さを表すことに、ぼくは随
分長い間気づかなった。
 しかも中学生になってギターを弾き始めると、CだのAmだのといった英語が
登場する。
 実はこれ、和音の名前ではあるが、アルファベット自体は音の高さを表して
いる。
 つまり、ド(伊)=ハ(日)=C(英)という関係なのだ。
 Mare(伊)=海(日)=sea(英)と同じことである。
 これを先に言っといてくれればよかったのに。
 ひょっとすると、授業では言っていたのに、ぼくが聞いてなかっただけなの
かもしれないけど。
 ちなみに、イタリア語はドから始まるが、日本語と英語はラに当たるイ、A
から始まる。これも混乱のもとだ。

 それはさておき、この章で取り上げられる楽聖バッハが住むドイツ語圏でも、
英語と同じように、音の名前はアルファベットで表すのだ。ただ、英語ではシ
=Bなのだが、ドイツ語ではシ=H(ハーと読む)、B=シ♭なのが、またやや
こしい。

 とはいえ、要は音の名前がアルファベットで書ける、ということだけご理解
いただければ、この場はいい。
 すると当然、楽譜にある音符を、アルファベットに置き換えて、意味のある
単語にすることが可能であることはおわかりいただけるだろう。
 これを本書では「暗号」と読んでいるのである。
 だから、これを解くのはまったく簡単だ。ドはC、レはD、ミはEと置き換え
てやればいいだけなのだから。

 しかし、使えるアルファベットがAからHまでと少ないので、長い文章は無理。
結局「暗号」と言ったところで、バッハも自分の名前「BACH」=「シ♭・ラ・
ド・シ」というメロディを曲の最後に入れる程度のことしかしていない。
 著者はこれを、画家が絵に記すサインに当たるものとしているが、だからと
いって何かが伝わるわけでもない。
 ただ、未完に終わった遺作「3つの主題によるフーガ」の、一番最後にこの
BACH=シ♭・ラ・ド・シのメロディが出てくるのが、ちょっと面白い。バッハ
ほどの大作曲家が、生涯の最後になって、やっと自分のサインを入れてもいい
と思うほどの曲が出来た、という意味なのだろうか。

 いや、未完に終わっているからには、まだその先があるべきだが、自分には
ここまでが限界だ、後は後世に託す、という意味にも取れる。
 確かにちょっと深読みしてみたくはなるにせよ、ただ、さほどの感銘は受け
なかった。

 ところが、第2章「ショスタコーヴィチ、二重人格の「ファウスト」」にな
ると、俄然面白くなってくる。

 ショスタコーヴィチは、ソ連という国と歩みを同じくした作曲家だ。若くし
て天才と呼ばれたが、時はスターリンによる恐怖政治の時代。すべての芸術は
社会主義リアリズムに奉仕しなければならないとされ、この方針に背いてスタ
ーリンの不興を買えば、死刑もシベリア流刑も、普通に有り得た時代なのだ。

 そんな中で作曲家生活を送ったショスタコーヴィチの鬱屈が、彼を二重人格
に追い込んだ、というのが著者の推理。

 しかも、第10交響曲がリストの「ファウスト」を下敷きにしているところか
ら、自らをファウストに、スターリンを悪魔メフィストになぞらえているので
はないか、と考え、ならばファウストを救う恋人グレートヒェンは誰なのか、
あれこれと推理を繰り広げる。

 さらに面白いのは、第3章「モーツァルト、「ドン・ジョバンニ」殺人事件」
である。

 この有名なオペラは、色事師ドン・ジョバンニが、騎士長の娘にちょっかい
を出し、その結果騎士長と決闘になって殺してしまうところから始まり、さら
に懲りずに今度は村の娘にちょっかいを出してその恋人を敵に回し、正妻には
ストーカーされ、最後は騎士長の亡霊によって地獄へ連れて行かれてしまう、
という話。

 このファンタジーを著者はリアリズムで解釈し、登場人物の誰かがトリック
によって「騎士長の亡霊に地獄へ連れて行かれた」かのように見せかけた、と
考えるのである。
 実際、ドン・ジョバンニの最期を目撃したのは、その忠実な従者ただ一人で
あり、この解釈はあながち無理ではない。たった一人を騙せればいいのだから。

 となると、騎士長の亡霊などというものは存在せず、ドン・ジョバンニは生
きている人間の手によって、殺されたか、拉致されたということになる。
 はたして、その犯人は誰か。

 この章を読んでみるとわかるが、著者は相当なミステリー・マニアでもある
ようだ。
 途中には、銀田一耕助、明智小二郎、御手洗きよし、荒川コナンと、名前を
見ているだけで嬉しくなってしまう名探偵のパロディたちが、喧々囂々の推理
合戦を繰り広げるシーンがあり、それぞれの仮説がアンソニー・バウチャーの
『毒入りチョコレート殺人事件』のように、よく練られているのだ。

 しかも、それらの諸説を凌駕する、驚愕の真相が用意されているところも、
バウチャーの名作を彷彿とさせる。

 さらに、第4章「作曲家たちの「犯罪捜査」風プロファイリング」では、様
々な作曲家のバイオグラフィーから性格を分析。実は作曲家のプロファイルっ
て、連続殺人鬼のそれに似ている、という空恐ろしい事実を指摘する。

 最後の第5章「プッチーニ「トゥーランドット」の謎」では、イタリアの作
曲家が、行ったこともない中国の、それも古代王朝を舞台に描いたオペラの、
あれ、これおかしくない?な点をいくつもあぶり出し、その背景を探っている
のである。

 ところで、ぼくにも、昔からクラシックに関する解けない謎がある。

 中学の時、友達がビゼーの『カルメン』を評して、「これが3分にまとめら
れたら天才なんだがなー」と言っていた。
 まあそれは極論だとしても、クラシック音楽はなんであんなに長いんだろう、
と言うのが長年の疑問なのである。
 室内楽なんかで短いものもあるけど、一般に
「長っ!」
 というのがクラシックに対する印象だ。あんなに長いと、飽きちゃうよね、
実際。

 もっとも、ベートーベンの交響曲は、暗い冒頭(例えば『運命』のハ短調)
が、紆余曲折を経て明るい終結部(ハ長調)に到達するから感動するのであっ
て、それを3分に凝縮したら、大河小説のダイジェストみたいなもので、内容
はわかるけど感動はしない、と言われると、まあそうかな、とは思うのだが。

 でも、やっぱり長いよなー。
 どうしても、あの長さじゃないとダメなの?


吉松隆
『クラシック音楽は「ミステリー」である』
2009年12月20日 第一刷発行
講談社+α新書

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
再就職活動に備えて、会社に入ってからこれまでのキャリアを振り返る作業を
のんびりやっています。思い出に浸りつつ、結局これまでにどんなスキルを積
み上げてきたのか確かめてみるのも、初めての経験にして一興です。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『中国抗日ドラマ読本』岩田宇伯 パブリブ

 4月10日の発売以来、日本よりも中国で話題になり、彼の地で大論争を引き
起こしている本である。

 ほとんどオールカラーでコストがかかってる。モノクロはアニメの紹介のあ
たりだけだが、なぜここだけモノクロなのかは謎である。「時代背景完全無視
!反日プロパガンダどころか、もはやギャグ」という帯の文句から、内容は想
像できよう。

 内容はタイトル通り、中国で製作されている抗日ドラマの解説本で、21作品
が紹介され、あらすじと人物相関図をつけた後に、ドラマシーンの写真付きで
解説という名の突っ込みが入っている。抗日ドラマだから共産党員が主人公の
作品ばかりなのかと最初は思っていたが、そうでもない。

 大げさな脚色で日本兵士をばたばた倒していく中国版水戸黄門みたいな共産
党英雄の話かと思っていたら、それも違う。

 いや、大げさにあり得ないことをやっていて、あるいは何も考えずにイケイ
ケと撮影しているように見えて、それが笑いを誘うのは間違いないのだが、単
なる宣伝映画以上に大まじめにエンタテイメントを作っているように思えた。
たとえば、読む前は日本人が一方的に、一面的な悪者に描かれていると思って
いたが必ずしもそうではない。意外とバラエティがある。

 日本軍に美人の女性将校や学ラン姿の忍者部隊がいたり、カンフー使いの抗
日英雄や「北斗の拳」のケンシロウみたいな、触れただけで相手を殺すキャラ
がいたりする。作中の80年間、顔が変わらない人もいたりする。そう書けば確
かに笑える。「吉岡ダンス」とか、実際見たら笑いが止まらなくて苦労するの
ではないか?

 作品内に登場するモノも面白い。1930〜40年代を描いている映画の主人公の
乗っているバギーにデジタルメーターがあったり、戦前が舞台なのに懐中時計
がクオーツだったりする。ここまで来ると、もはやネタとしてウケを狙って作
っているんじゃないかと疑うレベルだ。

 で、「ほう、中国人というのはそんな拙劣なドラマを見て満足していたのか
w」と、中国人を馬鹿にするネタが出来たと思った人は、認識不足だ。だって
考えてみて欲しい。日本人を馬鹿にするつもりなら、日本軍の女性将校の配役
に美女を持ってくるはずがない。ばかげたドラマかも知れないが、意外と真面
目に作っているように思えた。

 本の中にも書いてあるが、中国の映画作りのテクニカルの水準は決して低く
ない。中国の映画技術はもともと戦前にあった満映(満州映画協会)が源流と
なっていて、これまで多くの秀作を作ってきた歴史がある。香港映画のノウハ
ウも当然入ってきているだろう。

 最近日本で話題になった中国映画としては「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」
があるが、これを拙劣な映画と言う人はいないはず。言い換えれば、レベルが
低いから、こういうドラマを作っているわけでは、決してない。

 実際、抗日映画の製作現場では外国人スタッフを使っていることもあるし、
ハリウッド帰りの韓国人スタッフが戦争シーンを作っていたりする。大量のエ
キストラを使える優位性もあるし、日本よりも優れた部分も少なくないそうだ。

 そして無視できないのが中国共産党の意向だ。抗日ドラマは基本中国共産党
の意向に沿って作られるが、そうした中で中国の映画人は真剣に自分の作品を
撮ろうとしていると見るべきだろう。

 たとえば日本でも現代劇でやれば、どことは言わないが猛烈に批判してくる
組織や市民が出てくるのが容易に想像できるテーマがある。そういうテーマを
描くのに現代の代わりに江戸時代の設定にしたり、SFにして300万光年向こ
うの惑星の話にするとかして非難を回避するテクニックは多くの人が知ってい
る。

 同じことが、抗日映画という舞台を設定して、中国でも行われているのでは
ないか?

 そんなことを思うのは、コラム扱いになっている抗日ドラマに出てくる日本
人俳優のインタビューを読んだからだ。彼らが見ている映画づくりの現場は、
「中国共産党の意向に沿った作品しか作れない」といった嘆きが聞こえる無気
力な現場ではないし、日本よりも厳しい基準でドラマを作っていることがうか
がえる。

 日本人俳優が媚びて「日本悪い」と言っておれば人気が出たり、生き残れた
りするほど甘い世界じゃない。演技力があるのが前提だろうが、日本人として
誇りを持っている人でないと、観客もこついはダメな俳優だと見抜く。中国人
の目は節穴ではないのだ。

 そう考えると、次のような仮説が生まれる。私は映画作りなどしたことがな
いのでよくわからないが、日本で実際に映画を作る人が見たら、むしろ日本に
はない制限のかかった製作環境の中で、彼らはこんな風に頑張っているのか・
・・日本の映画作りのプロたちは、そんなことを考えるのではないか?

 この本は、一種のお笑いとして売れるのだろうし、それはそれでいいのだけ
ども、日本の、あるいはハリウッドで働くプロの映画人、ドラマ人たちはどん
な評価をするのだろうか? 普通書評を書く人は、自分の評が一番的確だと思
って書くと思うが、この本に限ってはプロのドラマ制作者とか映画人の書評を
読みたくなる。

 内容も珍しいが、人の書評が読みたくなる本というのも、また珍しい。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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孤独について数冊読んで考えました

 最近、「孤独」とタイトルがついた本が多くありませんか?
 揃ってまあまあの売れ行き…ということは、これからもまた柳の下を狙って
ぞろぞろと出ることでしょう。

 立ち読み、買って読み、借りて読みした中で、わかったことは孤独本は傾向
が3つぐらいに分かれるということです。

 1つめが、「孤独はいいもんだぜ」のエッセイ本です。

 一番売れている下重暁子『極上の孤独』、五木寛之『孤独のすすめ』がこの
代表。
 犖鋲箸老なものと思われがちだが、ほんとうはすばらしいもの瓩箸い趣
旨で、それ以上でもそれ以下でもありません。
 『孤独のすすめ』(それにしても、まんまなタイトルやなあ。五木先生だと
このタイトルでいいんですね。また、またタイトルはひねらないほうがいいと
いう典型かも。勉強になります)には、「私は歳を重ねるほど、人間は孤独だ
からこそ豊かに生きられると実感する気持ちがつよくなってきました」とあり
ます。
 孤独だからこそ豊かに生きられる……ふふふ。いや失礼しました。

 以下、青春、朱夏、白秋、玄冬の話や、下山の景色、学生期から遊行期の話
と、五木先生の総まとめ的なお話が続いていて、ものすごい安定感です。
 年を重ねると耳新しいことを聞くのはつらいですね。おとぎ話のようなこれ
まで聞いてきたことをもう一度聞くのが安らぐので、しばし孤独を忘れること
ができるでしょう。

 下重さんの著書もこれと同じだと思います。
 しかし、ほんとうに孤独な人、孤独に悩む人の気持はこれでは癒されません。
孤独エッセイには、人から離れてあえて一人になって自分を見つめるカッコイ
イ自分に酔ってる感があり、孤独なオレを見て見てという自己主張が感じられ
ます。

 孤独と孤立は違うと言われます。
 社会の中で孤立している人を救いになるという観点が見当たらないのがこれ
らの本の特徴と言えます。

◎ひとりではなくソロ?

 「孤独」という言葉は「おひとりさま」「ひとりぼっち」(若い世代的に言
うと「ぼっち」)、など時代時代で新しい言葉を派生させてきました。
 「おひとりさま」にはシングル女性の自虐と同時に矜持が感じられ、「ぼっ
ち」には集団から浮く存在へのからかいや恐れが含まれています。

 最近、気になったのが「ソロ」という言葉です。

 これまでとどう違うのか、『ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』
(名越康文著)を読んでみました。
 タイトルは「ひとりぼっち」とありますが、大事なのは一人の時間=ソロタ
イムであると書かれています。

 群れの中で空気を読んだり忖度していると疲れるので、そんなときは1人に
なって自分を見つめなおして疲労を回復しましょうという趣旨です。
 孤独な人がどうしたらいいのかではなく、現役でバリバリやっている人をあ
えて孤独にして癒し、休息させる感じです。
 そのためには呼吸法とか大きな木に抱き着くなどが効果的と、今、流行のマ
インドフルネス的な話が盛り込まれています。
 一方で、「1つの習慣を身につけるには2週間本気を出さないといけない」
とか上昇志向と裏腹なところがおもしろいですね。

 この本を読んで、アメリカのIT関係者とかが禅の思想とか、マインドフル
ネスに注目している理由がなにかがなんとなくわかった気がしました。
 まあ、ホントに疲れているのだとは思うけれど本来の老荘思想を源流とする
東洋的な考え方ではなく、また再び戦うための疲労回復療法として「孤独」と
か「ソロタイム」を位置付けているんじゃないかと思いました。

◎孤独を社会問題ととらえる

 孤独と孤立とは違うとさきほど述べました。

 これだけ人がいるのに、だれからも関心を持たれない孤立は、やはり社会で
解決していかなければいけない問題だと指摘しているのが『超ソロ社会 独身
大国・日本の衝撃』(荒川和久著)です。

 本文250ページに及ぶ力作で、2035年には人口の半数が独身になる日本の現
状を述べ、家族や社会がどのように変化するかを考察しています。
 結婚や血縁による家族ではない、新しい家族を構築することへの期待や、独
身者が支えるマーケットの可能性についてなどが書かれていておもしろいです。

 今回、時間切れで読めなかったのですが、『男の孤独死』(長尾和宏著)と
いう本でも、孤独を扱っていて、これはリアルな医療現場から発言されていま
す。

 「孤独」は文学や哲学の範疇に含まれると思っていましたが、そうなると社
会学や医療問題まで、(介護も含まれるので政治問題にもなる)幅広いジャン
ルを巻き込む壮大なテーマだということだということがわかりました。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■あとがき
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 さすがに5月もこの時期になると、初夏っぽい季節を感じますね。このまま
梅雨無しに夏がいいなぁ。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.653


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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→83 絵本の広くて深い世界

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<101>紅いマントと正義の味方

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→『切り捨てSONY リストラ部屋は何を奪ったか』(清武英利・著 講談社)

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです。

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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83 絵本の広くて深い世界

 自分のよく知らないことを調べるにはガイドブックがもっとも近道。
 もちろん、自分の勘だけで見つける楽しみもありですが、
 ガイドされることで深いところにたどりつけるんです。

 『13歳からの絵本ガイド YAのための100冊』
            金原瑞人/ひこ・田中 監修 西村書店

 本書のガイドさんは編集者、書店員、翻訳者、評論家、作家の14人。
 タイトルに13歳からとあえて掲げているように、小さいこどもが読む絵本
 とはまた違う切り口で紹介しています。

 知らなかった絵本で読みたくなったナンバー1はこちら。

 『天女銭湯』
 作 ペク・ヒナ 訳 長谷川義史 ブロンズ新社

 粘土細工の人形で天女さんを造形し、銭湯で出会う少女と天女さんとのやり
 とりが描かれています。

 天女さんと少女の表情が独特でパワフルも感じられ、これは買って読まねば
 と思ってます。

 そして既に読んでいた絵本で私もすすめたくなった絵本は2冊。

 『レ・ミゼラブル ファンティーヌとコゼット』
 原作 ビクトル・ユゴー 再話 リュック・ルフォール
 絵 ジェラール・デュボワ 訳 河野万里子 小峰書店

 長編の原作を再話したもので、文章もかなり多い絵本です。
 原作の魅力を活かしつつ、絵と共に重厚な仕上がりで、これは本当におすすめ。

 『宮澤賢治 「旭川。」より』
 文・画 あべ弘士 BL出版

 恥ずかしながら、この絵本で知った詩「旭川。」
 「旭川で暮らす絵本作家が、この詩を絵本化したのも必然と言えるでしょう」
 の紹介文に納得。道産子の私は、旭山動物園であべさんの絵を初めて見て以来
 この画家のファンなのです。
 詩とともに、あべさんの絵に深いところにつれていってもらえました。

 どの絵本も中高校生が読んだらどんなふうに感じるのか楽しみなものばかり。
 学校の図書室にぜひおいてもらいたいガイドブックです。


 さて、引き続き私からも絵本をご紹介していきます。

 『いっしょにおいでよ』
 ホリー・M・マギー 文 パスカル・ルメートル 絵 
 ながかがちひろ 訳 廣済堂あかつき

 ながかわちひろさんの訳者あとがきによると、
 この絵本は「自由なくらしを手放さないこと、外国のたべものや文化を楽し
 むことも、テロやヘイトスピーチへの意思表示」と思った作者と画家の2人
 がつくりました。

 おんなのこはテレビでニュースをみてこわくなります。
 たくさんの人たちがにらみ合い怒りをみせている。
 この国から出て行けと怒鳴っている。

 お父さんにたずねます「こんなのっていやだ、どうしたらいいの?」と。
 「いっしょにおいで」とお父さんはおんなのこと外出します。

 おんなのこはお母さんにもたずねます。
 お母さんとも外出しました。

 両親と外出して感じたことで、
 今度はおんなのこはひとりで出かけます。
 途中で友だちのおとこのこといっしょになります。

 「いっしょにおいでよ」

 そんな一言で、勇気を出してみる。行動してみる。
 世界をよくしていくには、最初の一歩を踏み出すこと。

 平易な言葉で、自分のくらしを手放さないためにどうするかが伝わってきま
 す。

 絵本のなかにいるおんなのこは、時に、私たち読み手を見つめていて、その
 目をみていると、自分も襟を正す気持ちになりました。

 メッセージ力を実現させているのは、翻訳者なかがわさんの力でもあります。
 http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=25

 ブログには、この絵本を訳されることについて興味深いことも書かれていま
 すので、ぜひぜひ読んでみてください。

 次にご紹介するのは、これから暑くなる季節に食べたくなるアイスクリーム
 のワクワクする絵本。

 『ぼくはアイスクリーム博士』
 ピーター・シス さく たなか あきこ やく 西村書店

 絵本のうれしいところは、文章とともに豊富な絵のおかげで知りたいことが
 わかりやすく理解できる点にあると思います。

 本書はアイスクリームの起源、どんなふうにつくるのか、様々な国のアイス
 クリームの歴史などが、主人公のジョー少年の視点から描かれます。

 ジョー少年はおじいちゃんから、どんな夏休みを過ごしているのか手紙をも
 らいました。
 
 ジョーの夏休みはこんな感じです。
 アイスクリームの本を読み、ピスタチオなど知らない言葉を覚え、
 アイスクリームを使って計算問題を解いてみたり、
 アイスクリームでアメリカや中国などの歴史も勉強したりします。

 つまり大好きなアイスクリーム三昧の夏なのです。
 カラフルなアイスクリームがどのページにも登場し、
 私自身、初めて知ることがいろいろありました。

 5月9日はアイスクリームの日だということも教えてもらい、
 肌寒い日ではあったのですが、マンゴープリン〜ココナッツミルク仕立て〜
 のアイスを食べました。おいしい!

 今年の夏はこの絵本を読みながら、いろんなアイスを食べようと思っていま
 す。

 最後にご紹介する絵本は、小さなお子さんにぴったりの小さな絵本。

 「もりのこえほん」シリーズとして全4冊の内2冊をご紹介します。

 『サーカスくまさん』
 『もりのたんじょうびパーティ』
 エリザベス・イワノフスキー 作 ふしみみさを 訳 岩波書店

 シリーズの原書は1944年にベルギーで刊行され、シリーズ名はフランス語で
 「心配なく お気軽に」という意味。

 絵本の説明によると、刊行時は戦時のため、紙を手に入れるのが難しく、壁
 紙の試し刷り用の紙を使い、絵本サイズも小さくしたそうです。

 原画はグワッシュ(不透明な水彩絵絵具)を用い5つの色で絵本の登場人物
 たちを色鮮やかに描いています。

 『サーカスくまさん』では、タイトルにあるように、くまさんがサーカスで
 すごい技とおちゃめなところをみせてくれます。

 『もりのたんじょうびパーティ』では、森の生き物たちのダンスやパレード
 など楽しい出し物がいろいろでてきます。

 小さいお子さんとの読み聞かせだけでなく、
 デザイン性の高い絵本ですのでじっくり鑑賞する楽しみもあり、贈り物にも
 いいですね。
 楽しみは様々。

 ぜひ手にとってみてください。

(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<101>紅いマントと正義の味方

 教室で、学生が「バットマン」のクリアファイルを持っていたので、「それ、
わしらも子供のころに、よくテレビで見てた」と言うたところが、「ええええ
えっ!?」と大層にびっくりされて、こちらが驚いてしまった。

 コミック版の「バットマン」は、わしらが子供のころどころか、それよりず
っと前、戦前の1930年代から存在してたのだ、と教えるとさらに「えええっ!?」
とびっくりされた。

 バットマンクリアファイルの彼は、戦前の同じころに日本で生まれた「黄金
バット」は知らなかったようなので、戦前の、ほぼ同じころに太平洋を挟んだ
日米で、偶然にも同じ「コウモリ」をモチーフとする超人ヒーローが生まれた
逸話などを紹介した。

 「バットマン」と「黄金バット」、双方に共通する「覆面&マント」という
スタイルは、おそらくはそれより前に生み出されていた「怪傑ゾロ」のスタイ
ルを踏襲したんではないかな? という自説も開陳したところが、その「怪傑
ゾロ」を誰も知らなくて、説明にとても苦労した。

 スーパーヒーロー繋がりで、「スパイダーマン」もまた、1970年代の「少年
マガジン」誌上で、池上遼一・画によって日本版に翻案されて連載されていた、
と紹介したのだが、これもまた、ただ今の学生諸君には、イマイチ想像できな
かったようだ。

 あの「覆面&マント」、とりわけ「マント」というのは、ヨーロッパ中世の
騎士の装束にルーツがあるようだが、黄金バットやバットマン、スーパーマン
に月光仮面もマイティ・マウスも、はてはパーマン、ガッチャマンも、皆、長
いマントをたなびかせ、自慢の乗り物で、あるいは自らが飛翔して、颯爽と登
場するのである。

 「まぼろし探偵」や「サイボーグ009」なんかが首に巻いていた長いマフ
ラー、あれは、「マントの省略形」だったんだろうな。

 風に吹かれてはたはたと、雄々しくかつしなやかにたなびくナニガシか……
それは、悪に敢然と立ち向かうヒーローには、不可欠なアイテムだったのだ…
と思う。
 言うたらまあ、武将が戦場で掲げる「旗印」のようなもの?
 「母衣武者」の、あの「母衣」てのは、元来は背中に打ちかけられる矢を防
ぐものらしいが、あれが馬上ではためく様、てのも、なかなかにカッコいいで
すもんね。

 アニメ版に先駆けて放映されていた実写版の『鉄腕アトム』では、アトムは、
原作漫画にはない「マント」を身にまとっており、やはり、これをたなびかせ
ながら、足からジェット気流噴出させて飛翔するのである。

 ちなみに、実写版『アトム』では、主人公・アトムを演じていたのは当然な
がら人間の俳優で、その「頭」は、どう見ても「角の生えたヘルメット」にし
か見えなくて、後年、アニメ版が始まった後も、わしはずっとアトムの頭の
「黒いところ」は、ヘルメットだと思い込んでいた。

 えーと、どこかに映像が……

 https://www.youtube.com/watch?v=DHs_ajbiIA0

 ね、「ヘルメット」でしょ。

 授業の中で、この実写版「アトム」や、日本アニメ黎明期の映像を流すこと
があるのだが、今の学生さんは、アニメの主題歌の中に、歌詞として「♪グリ
コ、グリコ、グ〜〜リ〜〜コ〜〜(鉄人28号)」とか、「♪サンヨー、サンヨー、
サンヨー電機!(ジャングル大帝)」という風に、スポンサー名があからさまに
挿入されることが衝撃的なようで、なんでかそこで大笑いになる、ということ
がよくある。

 当時のアニメは、ほとんどが一社提供であり、そのスポンサーもまた、自社
製品を売らんがためのマーケティング戦略としてアニメをスポンサードしてお
り、わしらには、ごく「当たり前」だったんですけどね。

 明治製菓の「アトム」、グリコの「鉄人28号」は、それぞれに、自社のお菓
子を売るためのアイテムだったし、森永のココア缶には「狼少年ケン」のステ
ッカーが入っていた。
 アニメ版「エイトマン」のスポンサーは、「のりたま」の丸美屋。
 当時、ふりかけは一種のブームで、各社からいろんな製品が発売されていた
のだが、わしは、丸美屋製品に入っている「エイトマン・シール」が欲しくて、
いつもここの製品をねだっていた。

 スーパーヒーローものではないが、昭和40年ころ「少年マガジン」で連載さ
れた柔道漫画『ハリス無段』(梶原一騎・吉田竜夫)は、当時のカネボウハリス
とのタイアップ作品で、連載と同時に、毎号「ハリス・チューインガム」の広
告が同誌に掲載されていた。

 この後に連載された、ちばてつや『ハリスの旋風(かぜ)』もまた、同じタイ
アップ作品で、こちらは、カネボウハリス提供でテレビアニメ化もされたのだ
った。

 実写版「アトム」と同じころに放映されていた「ナショナルキッド」もまた、
「覆面にマント」な伝統的スタイルの超人が悪人と対決する特撮ヒーローだっ
たが、こちらもまたタイトルからしてあからさまに、スポンサー丸出しなのだ
った。

 提供はもちろん「松下電器」。
 オープニングは、↓こうだ。

 https://www.youtube.com/watch?v=kcDLEQtsWkU

 ね、あっけらかんと、あからさまでしょ。

 『バットマン』、『スパイダーマン』の例に倣って、日本でも、この『ナシ
ョナルキッド』を現代風にアレンジしてリメイクしても、面白いんじゃないか、
とも思うのだが、その場合はやはり『パナソニックキッド』になるのだろうか?


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える/SHOW−Z
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リストラされるのは辛いが、するほうも辛い。
『切り捨てSONY リストラ部屋は何を奪ったか』(清武英利・著 講談社)

 春というのは人事にとって、1年の中でもっとも慌ただしくなる季節になり
ます。会社には学卒の新入社員が入社してきて、彼らの新入社員研修がスター
トしつつ、その裏では来年度の新卒採用がピークを迎え、そして3月末決算の
会社ならば、前年度の人事評価もゆるりと始まったりします。

 人事のお仕事は、ヒトにかかわるものすべてが対象です。経営の意向を受け
て、組織のため、社員のために、採用、教育、給与、労務、そして人事制度企
画などを遂行していきます。どれもそれぞれに、難しさあり、やりがいあり、
といったところなのですが、その中でどうしても、できれば敬遠したい業務が
あります。それは、社員の退職にかかわるお仕事です。

 退職といっても、定年退職者や自己都合で去っていく方々の対応ではないで
すよ。退職を勧奨する、端的に言ってしまえば、自分が悪者になって、社員の
首を切る仕事です。そりゃ、誰だってやりたくはないですよね?

 1990年代にバブル景気が崩壊すると、それまで一般的だった終身雇用制
度を見直し、米国式のリストラクチャリングを導入する企業が増えました。リ
ストラとは本来、「事業や組織の再編成・再構築」を意味する言葉です。しか
し日本では整理解雇としての意味合いが強く、誰もが「首切り」とか、「解雇」
というイメージを抱きます。これまでに多くの企業でリストラが行われ、それ
が大手で名の通った企業の場合は、都度ニュース等でも報道されてきました。

 本書は日本を代表する家電メーカー・ソニーの中で行われてきたリストラの
裏側を取材したドキュメント。著者は過去に読売巨人軍の球団社長だったこと
でも知られている、清武英利氏です。

 ソニーでは1996年12月に「セカンドキャリア支援」という名目で希望
退職者の募集が始まりました。それ以後、これまでに数度の大量リストラを断
行しています。この本では、リストラを宣告された社員が送り込まれるリスト
ラ部屋の実態、その中でもがきながらも、次のキャリアに向けて歩んでいく社
員のストーリーが紹介されています。そして「出る杭は打たれない」という人
事ポリシーを持っているはずのソニーが、尖った人材を切り捨てることで、ソ
ニーらしさを失っていく実態が、生々しく描かれています。

それだけでも読み物として十分に面白いのですが、この手の他の本と大きく
違ったのは、リストラを実施する人事担当者に焦点を当てた章が存在すること
でした。

 第5章に登場する吉松こころさん。他の社員はすべて実名なのに対し、彼女
だけは仮名です。人事担当として、リストラの対象となった社員と1人ずつ面
談し、罵声を浴びせられようが、泣きつかれようが、一切表情を変えず、かつ
相手の目から視線は外さずに、残された選択肢を淡々と伝えます。ソニー社内
で「リストラ担当」と呼ばれ、「あの人事は容赦ない」とも言われる、人事の
プロです。

 しかしその裏側では、きつい仕事と良心との間で苦しむ、1人の人間として
の姿が描かれているんですね。特に印象深かった文章を、引用してみます。

ストレスで下痢が続き、首や耳の奥が強く痛む。
(中略)
彼女は起き抜けに自分の頭に手をやることがある。
髪の毛が生えていることを確かめるのだ。

それは管理職と言い争った翌朝のことだった。
うつらうつらと見た夢で彼女は、ストレスのために落ち武者風に頭頂部が
すっかりとハゲ上がってしまっていた。
目が覚め、頭に手をやって、つぶやいてしまった。
「良かった。あった。夢だったのね」

 人事のプロとして長年やってきている方でも、これだけ追いつめられてしま
う辛さ。想像しただけで自分の髪が大丈夫かと、思わず触っちゃいましたよ。

 最終的に彼女はソニーを去る決断をします。ある一定の期日までに退職すれ
ば早期退職プログラムが適用され、通常の退職金に加え、退職加算金が上積み
されるにもかかわらず、彼女はその時期を外して辞表を提出するんです。私は
これ、人事っぽい去り方だよなぁと感じたんですね。自分の利益を優先せず、
ギリギリまで責任を果たしての退職。経営に近いところで仕事をする人の特性
が出ているのではと思ったのでした。

 人事は経営の意向を受けて、様々な施策を実施します。それが故に、その仕
事の内容によっては経営と社員との間で、板挟みになってしまうジレンマが。
これはリストラに限った話ではなく、社員に何かしらの変化を求めたり、不利
益な事実を伝えなければならない事案ならば他でもありえる、人事業務の性質
です。人事になって10年以上が経つ私も、いろいろと経験を積んできたつも
りではありますが、さすがにここまでえぐい経験はないですね。まだ青二才な
のかなぁと思ったりもするのでした。

 ちなみに先々月、とある大学内で開催された新卒採用の合同企業説明会で、
私の会社の同じ列にソニーがブースを構えており、多くの学生に取り囲まれて
おりました。そこには声を張り上げて会社説明をする、人事と思しき担当の方
が数名。にこやかに自社の魅力を語りながらも、実は過去に同じような辛い状
況を経験されているとか? 同じ人事として、尊敬の念に堪えません。。。

show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 ちょっと遅れての発行となりました。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.652

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■コンテンツ
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『魂の旋律』&『ペテン師と天才』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『健康を食い物にするメディアたち』

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『「老人」のウソ』

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!


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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#94『魂の旋律』&『ペテン師と天才』

 なんと、ウチの近所の図書館に、この2冊の本が並んでいた。

 1冊は、『魂の旋律 佐村河内守』。
 もう1冊は、『ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌』。

 広島出身の被爆二世であり、全聾の作曲家として話題を集め、クラシックの
新作としては異例の大ヒットを出した佐村河内守が、実は全聾でもなく、作曲
もできず、長年にわたってゴーストライターに曲を書かせていたことが明らか
になったスキャンダルはまだ記憶に新しいが、その暴露の「前」と「後」に書
かれた2冊の本が、図書館の本棚に仲良く並んでいるというのが、どうにもシ
ュールで、思わず両方とも借り出してしまった。

 『魂の旋律』は、NHKスペシャルで放送された同タイトルのドキュメンタ
リーの裏舞台を、制作したディレクター古賀淳也が書いた本で、東北大震災の
被災者たちの傷ついた心と、亡くなった人たちの魂を慰めるべく、佐村河内守
がレクイエムを作曲する過程に密着している。もちろん出版は、まだゴースト
ライター新垣隆の存在が明るみに出る前だ。

 一方『ペテン師と天才』は、佐村河内が全聾でもなく作曲家でもないスキャ
ンダルを週刊文春で暴いた、ジャーナリスト神山典士の著作。ペテン師とは言
うまでもなく佐村河内であり、天才とは新垣を指している。

 佐村河内はゲーム音楽や映画音楽の仕事からスタートし、やがて壮大な交響
曲を発表。これが話題となって一躍時の人となった。

 学校で習ったように、西洋音楽には「調」という概念がある。ハ短調とかイ
長調というときの、あの「調」であり、英語では「キー」。よくカラオケで
「キーが高いから下げてくれ」などというときの、あの「キー」である。

 しかし、20世紀に入ると、「調」を持たない「無調」の音楽が、シェーンベ
ルクという作曲家によって創造され、これが次第に主流になっていく。その結
果、現代音楽では、18世紀のベートーベンのような「調」のある音楽、それも
交響曲が書かれることは非常に稀になった。

 そんなところへ、突如として現れたのが佐村河内の『交響曲第1番HIROSHIMA』
だったのである。

 タイトルが示す通り、この曲は被爆二世である佐村河内が、原爆の悲劇を描
いたものとされ、初演も広島で行われている。
 しかも、晩年耳の聞こえなくなったベートーベンさながら、全聾のハンディ
を背負い、轟音のような耳鳴りに苦しみながら、絶対音感を頼りに作曲すると
いうのである。
 その物語性がメディアによって喧伝されたことで、佐村河内は有名になるの
だが、それがすべて嘘で、実際には別人に報酬を払って作曲させていた、とい
うのが事件の概要である。

 『魂の旋律』を読み始める前は、著者の古賀淳也が、まったく真相を知るこ
となく、佐村河内の作曲過程を記録したのかと思っていた。
 しかし、神山典士の『ペテン師と天才』には、強烈な古賀批判が書かれてい
て、うすうすわかっていたのではないか、という印象を与える。

 神山本には、佐村河内が自分のことを「マエストロ」と呼ばせ、ドキュメン
タリーの撮影スタッフにも尊大な態度を取ったとある。
 しかし古賀本には、そんな記述は一切なく、激しい耳鳴りから来る苛立ちは
描かれていても、取材には協力的で、真実を伝えてほしいということ以外、何
も望まない真摯な芸術家像だけが描かれている。

 もちろん、どちらが本当なのかは当事者にしかわからない。

 ただ、テレビと雑誌という媒体の違いはあれど、両者の取材に対する取り組
み方が対照的であることは言える。
 古賀は対象への密着、という一点に、自身のドキュメンタリーの価値を見出
しているようだが、それは逆に言えば周辺取材や裏取りを怠っているというこ
とでもある。
 一方神山は、自分だけではなく週刊文春の取材チームを率いて、佐村河内、
新垣それぞれの実家はもちろん、友人、恩師、関係者など、当たれる限りの証
言者に当たり、多角的に真相に迫っている。
 そもそものきっかけが、ゴーストライターであった新垣隆自身の告白だった
のに、それが本当なのか、二人がこのようなことをした背景や動機は何なのか、
人物像に迫るための分厚い取材を行っているのである。

 また古賀は、実際はともかく、佐村河内に心酔しているように見える。ジャ
ーナリストとしての客観性が、この本からはまったく感じられない。
 しかし神山は、ことが表現者の倫理に関わる問題であるだけに、事件そのも
のを自分事化している。彼自身、ゴーストライターの仕事をしたことがあり、
それが一概に否定されるべきなのかを自問しているからだ。

 この二冊を読んで、改めて佐村河内事件を考えた時、ゴーストライターの是
非は本質的な問題ではない、と思った。

 何かを評価するときに、われわれがそれ自体と直接関係のない「物語」を必
要としてしまうということ。
 それこそが、真の問題なのではないか。

 例えば、『交響曲第一番』も、当初のタイトルは『現代典礼』だったという
事実がある。つまり、広島とも被爆とも関係のないものとして、新垣の手によ
って作曲された。
 ところが佐村河内がさまざまに動いたにもかかわらず、曲が出来てからなか
なかレコーディングの話が進まない。そんな折、スタンドプレイで有名な当時
の広島市長が、被爆二世の作曲家による交響曲があると知り、これをG8議長
サミットの時に演奏する、というアイデアを得る。そこで、曲が完成した後か
ら、タイトルをHIROSHIMAに差し替え、初めから反核のために作曲したという
「物語」をまとわせているのだ。『広島』ではなく『HIROSHIMA』にしたのも、
サミットが念頭にあったからだろう。

 あるいは、自身の全聾という「物語」でも足りずに、義手でヴァイオリンを
弾く少女を見つけ出すや、彼女に作品を献呈するという形で近づき、その「障
害に打ち勝って音楽の道に進む女の子」という「物語」をも重層させていく。
もちろん、その献呈作品もゴーストライターのペンになるのだが。

 佐村河内は、さまざまな物語で、音楽を覆い尽くす。
 交響曲が、さまざまな楽器の奏でるメロディを重ね合わせて、巨大なハーモ
ニーをつくりあげるように。
 蜘蛛が獲物を狙って、幾重もの糸を重ねて網を張るように。

 しかし、それもこれも、われわれが音楽作品そのものを純粋に享受し、評価
することができないからだ。

 特にクラシックの交響曲には、原則として言葉がない。
 抽象的な表現であるために、多様な解釈を許す。
 本来なら、その解釈は聴き手に委ねられているのだが、そんな面倒なことを
しようと思う人は、現代人の中ではもはや少数派なのだろう。

 また、素人がいくら聴き込んでも正しい評価ができるとも思えず、結局専門
家などの権威によって承認されたものばかりが消費されることになる。

 だからクラシックのコンサートでは、声価の確立した古典レパートリー、そ
れこそベートーベンやらモーツァルトやらバッハやらが幅を利かせ、新作はめ
ったに聴くことができない。

 そうした閉塞状況が、新垣にゴーストライターをさせた一因でもある。
 彼は「頼まれたら嫌と言えない性格」もあるだろうが、それ以上に、「こん
な時代に、調のある音楽、それも交響曲が書けて、それが実際に演奏されるの
を聴くことができるかもしれない」という夢にそそのかされて、佐村河内の依
頼を引き受けてしまったのだ。

 どうしてわれわれは、「物語」がないと、音楽を評価できないのだろう。
 それくらい、音楽なんて、どうでもいいものだからなのか。

 いや、音楽に限らない。
 先ごろ開催されたパラリンピックにも、「障害との戦い」という物語が影を
差しているかもしれない。
 マーケティングの世界にも「物語消費」というのがある。例えばビックリマ
ンチョコというお菓子では、おまけに「悪魔vs.天使シール」が入っており、
集めて行くとさまざまな悪魔や天使が複雑に絡み合う壮大な物語が垣間見えて
来る。それが知りたくて、子供たちがチョコに殺到し大ヒットになったのであ
る。

 いずれも、スポーツやチョコレートという「本体」ではなく、そこにまとわ
された「物語」が人の心を惹きつけている。

 小説が売れない、という。
 つまり、物語そのものは、商品として売れなくなっている。
 なのに、他の商品が物語をまとうと、それはヒットするのである。
 実に不思議だ。


古賀淳也
『魂の旋律−佐村河内守』
2013(平成25)年10月25日 第一刷発行
NHK出版

神山典士
『ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌』
2014年12月15日 第1刷発行
文藝春秋

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
先月、長年勤めた会社を早期退職。現在は職探しの日々。先日、人生初のハロ
ーワーク・デビューも果たしました。意外に若い女性が多いんですね。後はぼ
くと同年代のおじさん族。その昔、山崎努が「ご同輩、近頃夢を見ておられる
か?」と呼びかけるCMがありましたが、そんな気分で声をかけたくなる四月
です。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『健康を食い物にするメディアたち』朽木誠一郎 ディスカヴァー携書

 いわゆるWELQ事件をきっかけにした。信用できない健康メディアに関する論
考である。著者はBuzzFeed MEDICALの朽木誠一郎氏。WELQ事件の火付け役にな
った方で、医学部卒業するときに自分が医師になっていいのかと逡巡してライ
ターになった方だそうだ。

 だいたいこういう本を読む人は、根拠のない健康情報や健康食品に踊らされ
ることがない人で、本来読まねばならない欺されている人たちはまず手に取ら
ないと思う。読むのは、本文中にも書いてあるが、健康情報に踊らされる「両
親、子ども、友人、会社の同僚」の姿を見て心を痛めていたり、そういう人が
うるさく「健康に・・」と言ってくるのに辟易している人だろう。

 しかし表紙をめくると折り返しに書いてあるのは

「健康や医療についてのウソや不正確な情報に欺されない人なんてたぶんいま
せん」

 おやおや、なかなか挑戦的ではないか・・・朽木さんは医学部で教育を受け
てきた人だし、医者ならたいてい見破れるんじゃないのかと思ったが、そうで
もないらしい。

 実は朽木さん本人も見破れるつもりだったが「今や、その手口は複雑になり、
その数が驚くほど増えている」また「欺す人の手口が多様化したことで、情報
の真偽が非情にわかりにくくなっている」らしい。そうなのか・・・見てない
から知らなかった。

 背景にあるのはネットの普及だ。それゆえに「ネット時代の医療情報との付
き合いかた」を考え直す必要があるということで書かれた。

 まず指摘されるのは情報格差だ。「情報に詳しい人と詳しくない人がいる」
その差が医療の世界では大きな格差となっていて悪意を持って欺す人はそこに
つけ込んでデマを流すし、知識不足による嘘つきや不正確な情報も、この格差
から生まれる。

 経済合理性の問題もある。「ラクに、簡単に」を求めるのは人情だから、そ
ういう記事や原稿を書いた方が売れる、儲かる。食事を減らして最低でも十五
分以上多少負荷のかかる運動しろなんて正論を言ってもコンテンツは売れない。

 いや、そんなことはわかってる・・・だからと言って医師の言うことを聞け
ばいいのかと言えば「不確実性の限界」がある。たとえば、この病気治ります
かと聞かれて、確実に治りますという医師はインチキだ。十中八九治りますが、
一部にはこんな副作用が・・・なんて言われたら患者は不安になる。それが医
師として最も誠実な態度であってもだ。

 その上不幸にも、運悪くワクチンの副作用なんかに当たったら患者は医療不
信に陥る。そうなったら誰がなんと言っても怪しい医療を信用してしまう人が
出てくるし、「自分の知った真実」を世間に広めたいという気になる。そして
それがセンセーショナルなほど世間の耳目を集める。

 そんなところから偽情報の見分け方やフィルターバブル(ネットなどで自分
の関心があることだけを伝えようとするシステムを使うことに安住して反論が
見られなくなること)の問題など、さまざまな視点から問題を考察する。

 中でも感心したのは健康詐欺に引っかかる人には自己承認要求があるとする
くだり。どういうことかは本を読んで確かめてもらいたいが、要するに健康に
ついて人にいろいろ教えたがる人は承認要求が満たされていないということだ。

 これ、私もなんとなく気がついていた。しかし、もやもやとした感じで、ど
う言葉に表せばいいのかわからなかったのだけど、この本を読んで「そうか、
これは承認要求なのか!」と気がつくことが出来た。これか個人的には本を読
んだ最大の収穫である。

 ただ、だからとうすればいいのかは書かれていないがこれは仕方が無いだろ
う。そういう人たちの承認要求を満たすために主張を認めるわけにはいかない。
だが認めてやらないとデマを信じる人は心を開かないわけで、説得は困難を極
めるからだ。

 もう一つ、調べることのコストに言及しているところも、個人的には唸って
しまった。私は基本調べるのが好きだが、世間の一般の人はそうではない。賢
くなろうと勉強するのは疲れる。調べてもすくわれるかどうかわからないこと
を調べるのは個々人にとってコストの持ち出しであるという主張はその通りな
のだが、だったら健康デマに欺される連中は自業自得だろと思ってしまう。

 しかし、そう考えてしまえば、デマを流して不当な利益を搾取する連中を野
放しにすることになるわけで、それが誠実な態度かと言われたら反論できない。

 健康デマを信じるのは愚かなことなのは自明である。だからと言って、した
り顔をしていれば事足りると思っている人は、こういう本に関心は持たないか
も知れない。でも一度読んでみることをおすすめする。そんな人でも、意外と
発見することがあると思う。少なくとも私はそうだった。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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台風の日におじいさんが田んぼに行くのはなぜかがわかった
『「老人」のウソ』(武田邦彦・著 産経新聞出版)

 実用書ってそう役に立たない、また昨今、それほどいい本は見当たらない…
と思っていたおばちゃま。
 でも、それは本への期待値が高くなりすぎているせいであって、あまり深く
考えず、本の中に少しでも参考になる項目が1つか2つあればそれでいいのだ
と考えを変えました。

 きっかけになったのがこの本です。
 著者は「ホンマでっか?!テレビ」などにも出演している工学の先生で「人
はどのように老いたらいいか」というのがこの本の主旨。「老人という分類は
ないので年をとってもがんばって」という励ます系の本です。
 
 中にハタと膝を打つエピソードがありました。

 よく台風の日に、豪雨の中、用水路や田んぼのようすを見に行って足を滑ら
すかなんかして流されて亡くなる男性の高齢者がいるのはなぜかという話です。

 前から気になっていたんですよね。

 豪雨ですよ、台風ですよ。家にいたらいいじゃないですか。見に行っても雨
が止むわけでも田んぼの増水がおさまるわけでもありません。

 なのに、いくらおばあさんが引き止めても言うことを聞かずに出て行くのは
なぜなのか。それがおばあさんではなく、決まっておじいさんであるのはなぜ
か?

 それは、ヒトは50歳以上は生物としての役割を終えるが、今の日本人はその
あと同じぐらいだけ生きる時間が残されている。
 女=メスは子どもや孫や見ず知らずの人でもお世話するという役割を生きる。
男=しかし、オスは生きる意味がよくわからない。でも、推測として社会のた
めに役立とうとする、それでわが身を挺して田んぼを見に行くのだと著者は考
察しています。

 「社会のために役に立とうと思って死ぬ。これは50歳以上の男性の素晴らし
い生き方です。」
と書いてありました。

 「極端に言えば。こういう『仲間に貢献する』献身的な行為が、50歳以上の
男性の重要な役割の1つではないかと思われます。つまり、社会の役に立つこ
とをするのが生きている意味と考えられます」

 細かいことを言って申し訳ありませんが、川や用水路を見に行くのは公共の
ためかもしれませんが、田んぼは自分の領地なわけですから社会のためとは言
い切れないとは思うんですが、まあ、家族=社会と拡大解釈してもいいかもし
れませんね。
 前から気になってた爐じいさん嵐の日に田んぼを見に行って流されるある
ある瓩鵬奮愿根拠があることがわかって、1300円+税払ってよかったと思い
ました。

 もう1つ参考になるエピソードが。

 ヒトは年齢と共に自分と社会の常識がかい離してくる。
 たとえば、子どもが恋人と旅行に行くことにもやもやするのは、過去の社会
の規範と今の規範がずれているためであると、グラフを取り上げて解説してい
ます。
 高齢者が正しいと思っていることと、若者が正しいと思っていることは違う
のに、お互いに正しいと思っているのでぶつかるのだと。

 ある意味、あたりまえのことですが、お恥ずかしい話、これまさに今、おば
ちゃまが直面している大問題です! それは理論的に解説してくださって納得
しました(頭ではね。気持的にはもやもやは止まらないけどな・笑)。

 あと、遺産相続できょうだいがもめるのは当たり前であることを遺伝子的に
説明している項目もあり、なかなか勉強になります。

 ホントにそれが正しい科学なのかと言われるとよくわからない部分もあるん
ですが、一時でも納得して本を閉じる、これが実用書の1300円+税の効果だと
思いました。(きょうだいが遺産相続でもめるのは、それぞれが家庭を持つな
どで違う環境で長く生きた結果、同じ屋根の下で暮らしていた時期とは価値観
や気質が変化したからだとおばちゃまは思いますよ)。

 毛嫌いしないでもっと本(実用書)を読もうと思いました。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。


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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

・『追憶 下弦の月』(パレードブックス)
  http://books.parade.co.jp/category/genre02/978-4-434-23989-2.html

・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_024.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

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■あとがき
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 ちょっと遅れての配信となりました。むうすぐGWですねー。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.651

 

 

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■■ [書評]のメルマガ                2018.04.10.発行
■■                              vol.651
■■ mailmagazine of book reviews       [連載が100回となった 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<100>歌の風景、漫画の風景

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→82 声をあげること

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第100回 死んでしまった子どもたちと生き残ってしまった大人たち

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです。

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 京都の出版社、エディット・パルク様より、下記の書籍の献本を頂戴しまし
た。

・高木和子『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<100>歌の風景、漫画の風景

 つい先日のことだ。

 自宅で風呂に入っているとき、ある歌のフレーズがふと浮かんできて、その
後ずっと頭を離れずになり続けていたのだ。

 その後もまた、ふとした折にそのフレーズが脳内に鳴り響く状態が続いたの
だけど、そのフレーズが頭に鳴り響くたび、朝ぼらけの中、京都・百万遍の交
差点のカーブを、小ぬか雨に濡れた一番電車がレールを軋ませながら曲がって
くる景色…などが同時に再生されたりするんである。背景の時代はもちろん、
70年代だ。

 それが昔の荒井由実の歌だというのはわかっていたのだが、タイトルがどう
しても思い出せなくて、「ん〜〜〜〜っ!」だったのだ。

 ふと思い立って、googleでその歌の歌い出しのフレーズ、「夜明けの雨はミ
ルク色」と検索をかけてみたところ、それは、荒井由実、1973年のビューアル
バム「ひこうき雲」に収録された『雨の街を』という曲だ、というのがたちど
ころに判明した。

 そうだった。↓これだ、これです。

 https://www.youtube.com/watch?v=X1TrMI2P-HQ

 ネットは、実に便利ですね。

 この歌が、「ひこうき雲」に収録されていた、というのも同時にわかって、
70年代の京都の景色が脳内再生される訳もまた、深く納得がいったのであった。

 それはもちろん、とても個人的な体験に根差しているのだけど、ある歌、あ
るいは曲が、個人的なある風景やシチュエーションに結びついていて、歌と同
時に脳内映像が再生されて、思わず身もだえしてしまう…というのは、誰しも
によくあることだと思う。

 たとえば、わしで言うとこれ以外にも、シカゴの『サタデー・イン・ザ・パ
ーク』と、なぜかセットで記憶されているクリーデンス・クリアウォーター・
リバイバル『雨を見たかい』なら、高校時代の、夏の陽炎に校庭の松が揺れて
いる風景だ。

 風に巻き上げられた砂ぼこりの匂いもまた、同時に湧きあがってくる。

 『少年』とか『引越し』といった浅川マキの歌を思い出すたび、世田谷経堂
の、外の通りをバスが通ると揺れた下宿の、開け閉めの度にガタピシ軋んでい
た窓から見ていた夕陽や、バイト先の居酒屋から帰る夜の商店街の風景が、鮮
やかに蘇えってくる。

 前回の稿では、かわぐちかいじ『黒い太陽』はじめ、初期作品にみられる風
景の抒情性に触れたのだが、「風景」というのは、人それぞれに、個人的な体
験や記憶に強く結びついてもいて、歌の場合は、その歌を聴いていたころの記
憶に繋がって、実際の風景や状況を想起させ、思わず身悶えもしてしまうのだ。

 漫画の中に描かれた風景を見て、その風景の中に自分を置いてみたい、ある
いは行ってみたい、と思わせる漫画が、確かにある…というか、かつては、た
くさんあった。

 前回に取り上げたかわぐちかいじの初期作品の中で「地面にへばりついたよ
うな町」というのを、実際にモデルになったろう関東の地方都市を通過する列
車の中から、「あ! これだ!」と気づいたときには、無性にうれしかった。

 つげ忠男の漫画に描かれた利根川河畔の乾いた光景を実際に見たくて、用も
ないのに常磐線に乗ったこともあった。

 やはり用事もないのに、調布仙川の甲州街道や、深大寺の境内に立ってみた
のは、そこがある意味を持つ「風景」として、鈴木翁二の漫画に描かれていた
からだ。

 他にも、たとえば安部慎一の漫画に描かれた筑豊の風景、つげ義春の温泉場
や宿場町、勝又進の農村風景、等々には、単なる「背景」に留まらない、強烈
なインパクト、あるいは抒情性を持って、見る者に迫ってくる力があった。

 そして、時としては、その漫画の中で、その「風景」こそが、登場人物たち
よりもなお雄弁な「キャラクター」として、存在していたりもするのである。

 それに比して、ちかごろの漫画の中での背景というのは、あくまで「背景」
であってそれ以上でも以下でもなく、単なる「パース」に堕している例が、あ
まりに多い、と思わず悲嘆してしまった春の23時34分。

 しかし、と、気を取り直して、つらつらと思い出し、考えてみるに現代の作
家でも、たとえば『この世界の片隅に』のこうの史代、たとえば『Sunny Sunny
 Ann!』の山本美希、あるいは『あれよ星屑』の山田参助、『茄子』の黒田硫
黄、そうだ、うらたじゅんだって、いるじゃないか。

 彼らの作品の中には、きちんと、それ自体で何かを「語る」風景が、背景と
して描きこまれている。

 まだ新人ながら、西村ツチカがその作品中で背景として描く風景は、なんだ
か微妙に不安定で、その作品世界を形作る重要な要素ともなっている。

 https://comics.shogakukan.co.jp/book?isbn=9784091897640

 ↑ と、こんな感じに。

 わしが関係している専門学校や大学もそうだが、授業の中で漫画の「背景」
に関しては、まずは「パース」を徹底する。

 アナログでの作画の場合は必ず定規を使い、絵を描くというよりも「製図」
の要領で背景を描くことを覚えこまされる。

 もちろん、それは必要だし、量産するにはその方法が一番ベストなのだけ
ど、単なる背景ではなく、それ自体で何かを訴えかけてくる「風景」という
のは、そこからもう一歩も二歩も進んだ先に見えてくるんではなかろうか。

 日本漫画の「元祖」というのは、わしは江戸期の浮世絵だと思っているの
だが、その浮世絵は、広重しかり北斎しかり、「風景」そのものに語らせた
作品が、実に多い。

 ちかごろめっきり停滞気味とも言われる日本の漫画ではあるが、人物だけ
ではなく、キャラクターとして語りかけてくる「風景」を意識することが、
漫画表現の領域を広げ、さらなる高みに押し上げることにもなるんでは? 
と思ってしまった春の深夜なのだった。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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82 声をあげること

 アメリカのフロリダ高校でまたも銃による悲しい事件がおき、
 当事者である高校生たちが声をあげ、大規模なデモ行進をしたことはネット
 動画でも多くとりあげられました。

 中でも、エマ・ゴンザレスさんの沈黙も含んだスピーチは、
 動画をみた多くの人の心を動かしたのは間違いないでしょう。
 私はこの動画を高校生の娘と一緒にみました。

 彼女はスピーチの英語を理解する前に、
 ゴンザレスさんの言葉のもつ力を受け取り、
 いつのまにか涙を流しながら聞いていました。
 そしてそれ以来、ツイッターでフォローし、銃規制の必要性を強く感じるよ
 うになっています。

 言葉が届くということを目の当たりにした後に読んだ、
 当事者が声をあげることについて、2冊の本をご紹介します。

 『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』
 アンジー・トーマス作 服部理佳 訳 岩崎書店

 本書は昨年2017年アメリカで話題になった社会派YA。
 デビュー作にして、世界30か国で刊行されている作品です。

 主人公は治安が悪くギャングもはびこる街に暮らす、女子高校生スター。
 ある日、パーティから一緒に帰った幼なじみのカリルが、白人警官に呼びと
 められ、スターの目の前で射殺されてしまいます。
 目撃者はスターただひとり。

 最初は事実はひとつなのだから、自分が証言しなくても警官は裁かれると思
 っていたスターでした。しかし、事実とは異なる報道が重なり、スターは、
 いまはもう口を開けないカリルの為に、無実を証言する決意をするのです。

 元ラッパーである作者は大学で創作を学び、在学中から本作を執筆したそう
 です。タイトルも伝説のラッパーであるトゥパックの言葉からとられており、
 彼も銃で命を落としています。

 ザ・ヘイト・ユー・ギヴについてカリルはスターにこう説明します。

「The Hate U、UはアルファベットのU、Give Little Infants Fucks Everybody、
 頭文字を取って、T-H-U-G L-I-F-Eだよ。つまり、おれたちがガキのころ
 社会に植えつけられた憎しみが、やがて噴きだして、社会に復讐するって
 意味だ」

 その話を聞いた後、スターとカリルは警官に呼びとめられたのでした。

 スターは12歳のとき両親から、警官に呼びとめられたときにはどうすればいい
 かということについて教えられました。白人警官に対して黒人がとらなくては
 いけない態度についてです。

 「いいか、スター。とにかく連中のいわれたとおりにするんだ。手は見える
 ところに出しておけ。いきなり動いたりするんじゃないぞ。むこうから話し
 かけられないかぎり、口は開くな」

 警察を怖がるよう教えるのではなく、うまくたちまわる術です。

 カリルはいきなり動いた為に撃たれました。ただカリルは撃たれるような事
 は何もしていません。

 事件後、カリルは撃たれて当然であるように報道され続けました。
 事実とは違う報道がされるには、複雑な背景もあります。
 カリルはヤクの売人をしていたこともあり、偏見にもさらされ、スターの証
 言もヤクにからんだギャングからの脅かしもありました。

 果敢に立ち向かい声をあげるスターはまだ16歳。両親、親戚(伯父は白人警
 官のひとりでもあります)そしてボーイフレンド、親しい友人はしっかりと
 支えます。

 作者のリアリティある描写は、社会を変えていこうとする若い世代の強さを
 伝えてきます。

 本作は白人と黒人という人種対立だけでなく、黒人どうしでもギャングの抗
 争で殺し合いが起こることも含め社会の複雑さを詳細に描き出しています。

 スターの両親の人間性も生々しく、ケンカをしたときに、ヤケをおこした、
 父親が浮気をしその結果、スターには異母兄がいることも、それを受け入れ
 ている母親も、なぜ父親を許し一緒にいるかを説得力をもって教えてくれま
 す。

 ずっしりと重たい話ではあるのですが、嫌いな人とはどうつきあっていくか
 など、人生のライフハックもさりげなくもりこまれていて、細部まで読みご
 たえがありました。

 映画化も決定されているそうですが、撮影が終わった後に、スターのボーイ
 フレンドという重要な役柄の俳優が降板になり(その理由が過去に人種問題
 を助長させるようなジョークをYouTubeにあげていたのがわかり炎上した為)
 ようやく最近違う俳優で撮り直しが決まったようです。
 日本でも公開されたらぜひ見てみたいです。


 『パンツ・プロジェクト』
 キャット・クラーク作 三辺律子 訳 あすなろ書房

 こちらは、中学校に入学したリヴが服装規定によりスカートをはかなくては
 いけないことに、強い違和感をもち、パンツでも通学できるように「パンツ・
 プロジェクト」を友人らと立ち上げる物語。

 そう、本書もまた自分の違和感を声に出し、学校を変えていこうとする話で
 す。

 リヴは最初は簡単にできることだと思っていました。
 周りの中学ではパンツでもいいところはあるし、
 スカートにこだわる理由はないと思っていたからです。

 しかし、なぜパンツじゃなきゃいけないの?という声もあがりました。
 校長先生にも話をしましたが、将来的に考えるとして緊急の課題にはならな
 いとすぐの検討はしてくれません。

 前回のメルマガでご紹介した『いろいろいろんなかぞくのほん』(メアリ・
 ホフマン文/ロス・アスクィス絵/杉本 詠美訳/少年新聞社)に出てきた
 家族のように、リヴにはお母さんが2人います。

 パンツをはきたいリヴは自分のセクシュアリティについても考えるところが
 あり、お母さんが2人いる家の子はパンツをはきたがるわけ?とはいわれた
 くないことと、母親のひとりが既に心配事を抱えていたこともあり、親には
 秘密でプロジェクトをすすめます。

 自分らしくいられる服装を自分で選ぶリヴの行動は、読んでいてすがすがし
 く、ごく当たり前の行動に思えました。けれど、声をあげるには自然体だけ
 ではなく、やはり勇気が必要です。

 いろいろな人がいることについて、100%理解しなくても、受け入れていく
 心の柔らかさを意識させられました。

 まずは気負わず読んで欲しい。
 フリーペーパー「BOOKMARK」の装丁もしているオザワミカさんが描いたシャ
 ープな装画は手に取りたくなるかっこよさがあります。
 

 さて、最後に、
 この2冊に登場した彼らの声が、彼らのゴールにたどりついたら、
 10代ならではの、ただ楽しむ時間もつくって欲しいと願います。


(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第100回 死んでしまった子どもたちと生き残ってしまった大人たち

 連載が100回となった。2010年1月から始まっているので9年目にして100回。
震災の前から始まっていたのが少し驚きなのだ。今回も震災関連の本を読む。

 大川小学校。以前にも大川小学校について書かれた本を紹介したことがあっ
た。子どもたちだけで74人も犠牲になったこの小学校について考えるとき、そ
の犠牲になった子どもたちのことについて考えざるを得ない。あの子たちはど
んな想いで津波に呑まれてしまったのだろうか?そして残された親たちはどん
な想いで今を生きているのだろうか。

 それを西洋人が本にした。取材して考えて本にした。

『津波の霊たち 3・11 死と生の物語』(リチャード・ロイド・パリー著)
(濱野大道訳)(発行:早川書房)(2018年1月25日初版発行)

『GHOSTS OF THE TSUNAMI Death and Life in Japan's Disaster Zone』
(Richard Lloyd Parry)

 リチャード・ロイド・パリーは『ザ・タイムズ』の東京支局長。7年前の震
災の時にも東京に住んでいて在日歴は20年以上になるというジャーナリスト
である。彼が震災直後から東北で取材を続け、さまざまにそれを世界に向けて
発信している。そして、このたび、自身が取材したものの集大成として、特に
悲劇的な大川小学校をテーマにしたものを発表した。

 本書の特徴は大きく三つある。

 ひとつ目は、云うまでもなく外国人の視点で震災を表現している、という点
だ。外国人ならではの表現。またなかなか外国人には理解できない日本人の特
性を正直にわからない、としながらも独自のアプローチで解明しようと努力し
ている。

 二つ目は、震災の犠牲者の霊魂の問題に言及している点を挙げたい。無念の
死を迎えてしまい、さまよう霊魂。時に生きている人に乗り移り、訴えかける。
そんな霊魂に接した人たちを登場させている。

 そして三つ目の特徴は、これも外国人ならではと思うのだが、生き残った人
たちのやり場のない怒りや無念の気持ちを日本の制度やしくみ、システムとい
うような、この国を形作っているものに対する疑問を呈しながら、どこに問題
の本質があるか、ということを探ろうとしている点である。大川小学校の犠牲
について、どこに責任があるのか、をあらためて強く問うている。

 本書は、津波で子どもを亡くした親たちのその後を丹念に追い、津波に遭遇
したが、幸いにも生還した大人たちの話から犠牲となった子どもたちが呑み込
まれた津波の威力を表現し、そして犠牲者の霊魂に踏み込み、生と死。死と生。
なかんずく、日本人の死生観を書き表そうと努力している。そしてあれほどの
犠牲者が出たにもかかわらず、責任を認めようとしない行政全般(それは、大
事故となってしまったのに、再稼働しようとしている原発を推進しようとする
勢力も視界に入っていると思われる)について批評している。大きな非難はし
ていない。しかし擁護はまったくしていない。批判的に日本のシステムを表現
している。

 津波による破壊を目の当たりにした生存者。震災の犠牲者のさまよえる魂。
責任を取らないシステム。・・・・・震災、災害つながりではあるが、一見、
関係のないこれらの命題がころころと入れ替わり立ち替わりフェイドイン、フ
ェイドアウトする。

 ノンフィクションのルポルタージュなのだが、上質のミステリーを読んでい
るような感覚に襲われる。

 それでも本書が最もページを割き、読む側も一番エネルギーを費やさなけれ
ばならない処は、残された親たちの生きざまが書かれた部分であろう。地震の
朝まで元気にしていた子どもが、数日後に遺体となって戻ってくる。生き残っ
てしまった自分たち。死んでしまった我が子。親は苦しい。とても苦しい。さ
まざまな親たちを登場させて、その苦しみをさまざまに表現している。乗り越
えようとする親。時間がそこで止まってしまい何もできない親。行政を相手に
戦いを挑む親。それを迷惑と考えている親。子どもの数だけ親がいて、その数
だけ悲しみと苦しみがある。読むのがつらくなるほどだ。

 日本人は生の反対は死ではない。死は生の変形だ。・・・・・こう表現され
た箇所があるが、どうやらこのあたりが本書の主題ではないだろうか。自分が
ここにいるのは、過去にずっと遡って存在するご先祖さまのお蔭であり、自分
は彼らに生かされている。そして彼らはいつも自分と一緒に存在している。死
とは、存在しないことという定義だとしたら、死はそんな死ではない。死は見
えないけど存在しているものなのだ。親たちにとっては、ふつうに子たちは存
在している。いつも自分たちと共にいるのだ。


多呂さ(今年の桜は早かったですねぇ。あっという間に北へ去って行きました。
すでにつつじが咲き誇っていますよ)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

・『追憶 下弦の月』(パレードブックス)
  http://books.parade.co.jp/category/genre02/978-4-434-23989-2.html

・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_024.html

・『ミスなくすばやく仕事をする技術』(秀和システム)
 http://www.shuwasystem.co.jp/products/7980html/5125.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今回、献本いただいたエディット・パルクさんは、著者兼出版社の社長のよ
うで、出版の世界もだんだんそうなっていくのではないかな、と思いました。
そういえば、ハリーポッターの静山社さんも、もともと、翻訳者兼出版社の社
長でした。

 先日、知人が、元、私が本屋さんだと言ってあったのですが、てっきり出版
社の社員だったと勘違いしていたことが判明。それも、店頭に立っていた、と
言って初めて本屋さんと出版社の違いを認識したそうな。

 一般の人から見たら、同じ世界なのかもしれませんね。(あ)

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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『老人の取扱説明書』平松類 ソフトバンク新書

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『踏みにじられた未来 御殿場事件、親と子の10年闘争』

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『誰が音楽をタダにした?』

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『老人の取扱説明書』平松類 ソフトバンク新書

「お年寄りを大切に」と言われて反対する人はそういない。しかし最近は、ど
うも高齢者に対して風当たりが強くなって来つつある。「暴走老人」なんて本
が以前話題になったが、昔のように年寄は性格穏健でおとなしいと言うイメー
ジとはかけ離れた人が出てきている。

 個人的には、この手の暴走老人は、単にそういう世代の人が老人になってき
たからだと思っていた。昔は今では許されないことが普通にまかり通ってきた
時代だから、その頃の感覚で今を生きようとするから問題とされるのだろうと
思っていた。今では絶対に問題にされ、日本中から叩かれるに違いないような
ことが、昔は普通にまかり通っていたのだ。もちろん、認知症になっているこ
ともあるだろう。

 この本、ただいま10万部超えのベストセラーだとか。書いているのは眼科医
の人である。最初に書いてあるのは「老人の困った行動の数々。実は認知症や
性格によるものではなく」老化による体の変化だという。なぜか?

 例を挙げる。高齢者が赤信号でも平気で渡ったり、信号が赤になっても平然
と渡り続けることはよくある。これを「ぽけちゃってる」とか「クルマの方が
止まってくれるから平気だと思っているのでは?」といった風に見るのは間違
いだ。これは老化による体の変化でやむなく起こっていることでボケや性格と
は無関係だと著者は言うのである。

 理由は、老化するとまぶたが下がってくる上に腰が曲がっていることが多い
から、信号機のある上の方がよく見えないのと、転ぶことを心配して下ばかり
見ているから。そして日本の信号は高齢者が歩くスピードで渡り切れないよう
に作られている。だから仕方がないのだと言うのである。

 まぶたが下がってくるのは眼瞼下垂という病気で、軽いなら訓練で直せるが
普通は手術で治すもの。まぶたが下がると視野が狭くなり、30度になると信号
機は7m、20度になると10.5m離れないと信号機は見えない。

 高齢者が歩くスピードで渡り切れないように作られているというのは、日本
では一秒1メートルの速度で歩けば渡れるように作ってあるが、老人は1秒に
0.6〜0.7mしか歩けないから渡り切れないと言うこと。

 アメリカでは日本の黄色にあたる点滅が始まってから渡っても渡れるように
赤になるまでの時間をとっているし、イギリスでは横断歩道に人がいなくなっ
ているのを確認してから変わるようになっている信号樹も出てきているそうで
ある。

 そんな感じで、高齢者の行動でムカッと、イラッとくる例を16例挙げて、そ
れがボケや性格の悪さによるものではないことと、対策の取り方を解説してい
る。また自分もそうならないように老化を出来るだけ遅らせる方策も書かれて
いるのもポイントが高いだろう。

 瞼の問題は、コンタクトレンズやまつ毛メイクをしていると起きやすいから
できるだけ控える。足を速くするのは、机に手を置いて座ったイスから立ち上
がる動作を連続5回するといいそうだ。それでダメならシルバーカー。シルバ
ーカーを押す動作は、かえって遅くなりそうだが実際は18%ほど歩く速度が速
くなるらしい・・・これは高齢者にも役立つが、高齢者になる前の世代の役に
立つ。

 著者曰く、高齢者のトラブルの多くは「老化の正体」が知られていないから、
高齢者のために善かれと思ってすることが実は間違いで、努力が空回りするこ
とが多いのだとか。そしてそんなことに気が付くようになったきっかけがまた
素晴らしい。

 著者は右利きだが、手術がうまくなりたくて、しばらく左利きの生活をして
いた。左で箸を持ち、左手でものをつかんだりしていたが、それで気が付いた
のは、この世は右利きが前提でつくられていることだった。自動改札は左利き
には使いにくい。一見左右の差がなさそうなハサミでも右利き用が多い。ラー
メン屋でラーメン食べようとしたら、左手が左側の人のひじに当たりそうにな
る・・・

 左利きだけでもこれだけ苦労するのだ。だったら老人はもっと不便を感じる
のではないかと考えたのがこの本を書いた動機だという。

 お年寄りは大切にしようと考え、そのように接していても実際はそうなって
いない。それは老人に接する人が怠けていたりするのではなく、「老化」とは
具体的にどんなことなのかが知られていない。だから老人と接する人たちは苦
労が多い。

「老化の正体」を知り、老人になることはどういうことかを知れば、社会はも
っと老人に優しくなり、今の若い人が老人になった時には、もっと優しい社会
になっているだろうという筆者の意見は納得である。

 もっとも、この本に書いてある通りにしたら必ず状況を改善できるわけでも
ないだろう。解決策の中には、それなりに老人と接する者の忍耐力を要するこ
とも書いてある。しかし、かなりの部分は、この本を読むことで解決できるの
ではないだろうか? そんな風に思えるくらいの説得力は間違いなく持ってい
る本である。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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『踏みにじられた未来 御殿場事件、親と子の10年闘争』
(長野智子著・幻冬舎 2011年発刊)

 前にも言ったかと思いますが、わたくし、お茶の間ですが、「嵐」ファンで
ございます。そこで今回はこの2月にオンエアされたドラマ「99・9刑事専門弁
護士 シーズン2」第5話を見て読んだ本を紹介します。

 最初にドラマの紹介をしますが、「99・9」は松本潤さんが扮する変わり者
の弁護士が事件を解決するお話。刑事事件は起訴されると99.9%が有罪になる
が残り0.1%の無実を求めて奔走するわけですね。このシリーズでは、検察と
弁護人、裁判官の3つが絡む司法の闇を描いているわけですが、各話とも実際
にあった事件を部分的に取り入れていると思われる 部分があり、特に第5話
では、実際にあった「御殿場事件」を下敷きにして脚本が書かれています。

「御殿場事件」とは、2001年、御殿場市で女子高校生がレイプ未遂にあい、数
日後に近所の少年たちが逮捕された事件。しかし、少年には確かなアリバイが
あり、やがて被害者と思われる少女は、同じ時間に出会い系サイトで知り合っ
た会社員と会っていたこともわかります。これで被告人は無罪が証明され、事
件は解決したかと思われたのに、なんと、「犯行日は別の日でした」と訴因変
更が認められ、少年たちに有罪判決が下され収監されます。この事件を追った
のが、テレビ朝日「報道発ドキュメンタリー宣言」という番組で、その後、キ
ャスターの長野智子が取材内容をまとめたのがこの本です。 

 私はこの番組をリアタイで見ていた記憶があり、酷いことだと怒ったものの、
歳月とともに忘れていたのですが、99・9をきっかけに思い出しこの本を読ん
だ次第。テレビのチカラはまだまだすごいですね。

 ドラマでは当然、松本潤さんの弁護士が、裁判の矛盾をつき見事に無罪を勝
ち取るのですが、実際には起訴された4人は有罪になり1年6ヶ月服役します。
ドラマでは、女子高校生は虚偽の証言をしていたことを謝りますが、実際には
証言台で「ただただ泣くばかり」だったそうです。また、ドラマでは加害者と
された少年の1人が別の事件を起こし、それをカムフラージュするために罪を
認めたことになっていますが、これはドラマ放送直後に、長野智子さんがドラ
マと混同される危険を恐れてSNSを通して発言したように、少年による別の
犯罪もありません。

 この本を読んで震撼したことは、長野智子が判決を下した裁判長に直撃取材
して会い話をきく場面。「とりあえずこれでいきましょう」と訴因変更を認め
た高橋裁判長は、長野智子の問いかけに、あくまで裁判は合議制であると自分
の非を認めません。

 当然、怒りを覚えますが、おばちゃまいろいろ考えましたよ。私がこの人だ
ったらどうしただろうって。これと似たことを私もしてないと言い切れるのだ
ろうかって。  

 本人なりの組織なりの慣例に従って仕事をして、昨日と同じ今日と明日、そ
れを人は日常と呼び、安定と呼びます。しかし、その安定が人を傷つける原因
になり、嘘を呼ぶことになる。裁判という人の一生を左右する仕事が、慣例や
内部の人間関係の安定のために左右されることがそら恐ろしいと感じました。
それが権力の本性なのか、誤った判決は誤差と見過ごされるのだろうか。どこ
かで引き返せなかったのか、引き返すポイントがあったのに、だれもが他人事
としてうかうかと通り過ぎてしまったのか。それはなぜなのか。裁かれた人側
からより、裁く側からも考えた次第でした。

 ドラマでは(すみませんね、ドラマの話ばかりで)弁護士のキメ台詞があり、
それは「事実は1つだけ」ですが、今、冤罪事件がいくつもあり、財務省の書
き換え問題が言われているけれど、たしかに起きた事実は1つなわけですから
解明してスッキリしたいものです。(ここ、「事実」であって「真実」ないと
こがポイントと思う。名探偵コナン君は「真実はいつも1つ」っていうけど
「真実」ってときに主観的で嘘が入るからね〜。私が思うに「真実」は文科系
的、「事実」は理科系的…違いますかね)。

 あともう1ついいですか?この本でおやっと思ったのが192p「御殿場事件に
関していえば現段階では冤罪事件とはいうことはできないが」という一文。え
? 違うの? これは再審請求されていなくて確定された判決だから冤罪とは
言えないという意味? わかりにくかったです。

 今回はファン目線の書評ですみませんでした。さあ、次は「ブラックペアン」
海堂尊を読むぞ!(アマゾンで「ナラタージュ」と検索すると「この本を読ん
だ人は次の本も購入しています」というリストに「忍びの国」「ラストレシピ」
とまったく分野が違う本があがっているのが笑えます。知らない人からしたら、
なんで恋愛小説を好む人が忍者小説と料理小説? なんかの間違い? って思
うかもですが、すべて嵐メンバー出演作の原作です。)

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#93『誰が音楽をタダにした?』

 実はこの3月で、長年勤めた会社を退職することになった。

 4月からは転職というのか、再就職というのか、とにかくいわゆるシューカ
ツに35年ぶりに取り組むのである。

 どんな業界で、どんな働き方をするか、いまはまだ完全に白紙だが、そのせ
いか、転職エージェントや転職サイトの広告が目について仕方がない。

 実際に一度、転職エージェントの無料相談というのも受けてみた。
 その時聞いた話。

 商社マンで長年海外勤務だったが、50歳になったのを潮に日本に帰りたくな
り、転職を考えているという人が相談に来たという。
 趣味がドラムなので、音楽業界はどうか、と訊かれて、転職エージェントは
こう答えたそうだ。
 あの業界はもはや斜陽で、とてもお勧めできません。それより、趣味を活か
すなら、楽器業界はどうですか?
 商社マン氏はこの提案を、なるほどと受け入れ、結局静岡にある某楽器メー
カーに落ち着いたらしい。

 この話、ぼく自身の関心事としては、「そうか、趣味を活かすという手もあ
ったか」という発見が主であり、前向きな話ではあったのだが、一音楽ファン
としてはちょっと暗澹たる気分にもなった。

 そうか、音楽業界は、もはや転職エージェントにとって「とてもお勧めでき
ない業界」になってしまったのか、と。

 その原因は何か?
 もちろん、本書のタイトルにあるように、「音楽がタダになったから」に他
ならないだろう。

 本書の主人公は、ドイツのコンピューター技術者と、世界市場を牛耳るアメ
リカの音楽業界のドン、そしてアメリカの音楽「海賊」。つまり、テクノロジ
ー、ビジネス、犯罪の三つの側面から、音楽がタダになるまでを追ったドキュ
メントである。

 まずはテクノロジー。
 ドイツの国営研究所で、カールハインツ・ブランデンブルグという技術者が、
音楽データを、よりコンパクトに圧縮する技術の開発に取り組んでいた。

 一般的に、データが大きいほど、音質はよく聞こえる。データの大きい画像
ほど、鮮明に見えるのと同じ理屈だ。
 しかし、あまりにデータ量が大きいと、この話が始まる1990年代後半の機器
では処理に膨大な時間がかかってしまう。
 そこで、音質を損なわずに、音楽データをできるだけ圧縮する技術が求めら
れていた。

 ブランデンブルグの方法は、彼の師匠に当たる人物が長年研究してきた、音
響心理学の成果を駆使することだった。

 例えば、高い音と低い音では、人間は低い音を優位に聴く。
 そのため、バイオリンとチェロの合奏なら、チェロのデータを多く残し、バ
イオリンのデータは間引いてしまっても、ほとんど気づかれない。チェロの音
が豊かであれば、バイオリンの音が貧弱でも構わないのである。

 あるいは、大きな衝撃音が流れると、面白いことにその「前」に鳴らされた
音が認識されない。
「後」の音がかき消されるのは直感的にわかるが、「前」に聴いた音も、後か
ら鳴った衝撃音の影響で忘れられてしまう、というのはなかなか驚きで、人間
と言うものの不思議さを改めて感じるが、この知見から、交響曲でシンバルが
ジャーン!と鳴った場合、その「後」のデータのみならず「前」のデータも間
引いてよい、ということになる。

 このように人間の耳に音質が劣化したと気づかれないように、データを節約
する方法をいくつも用いて、それを自動的にコンピュータ上で計算させるアル
ゴリズムを書く。
 案外シンプルだが、これがブランデンブルグと彼のチームが取り組んでいた
研究だった。
 夜な夜な、上記のような知見に基づき、データを削っては聴いてみて、本当
に音質が劣化して聞こえないか、果てしなく検証を繰り返す、地道な作業の連
続。
 その結実こそ、いまわれわれが音楽データを扱う時、ごく普通に使用してい
るmp3なのである。

 しかしmp3は、初めからグローバル・スタンダードとなったわけではない。
 市場に受け入れられるまでに、長い紆余曲折があった。

 ライバルが存在したからだ。

 それは、CDの特許の一部を保有することで知られる、オランダの大手電機
メーカー、フィリップスが開発を支援したmp2という技術である。

 一般の人によるCDとの聴き比べ調査ではmp3が圧倒的に評価されたにもか
かわらず、一流メーカーの面子と巨額の開発費をかけたフィリップスが、政治
力を駆使して強引にプッシュしたために、業界標準規格にmp2が選ばれてしま
う。

 とはいえ、その後mp3が最終的に勝つことを、われわれは知っている。

 そこに至るまでにも、ナップスターの登場で一躍有名になったP2P技術や、
ビットトレント技術などのテクノロジーの変遷があり、これだけでも十分に読
み応えのあるドラマだ。

 ここに、アメリカの音楽業界が、デジタル技術の進歩にも、インターネット
時代の夜明けにも気づかず、後の凋落を防ぐための手立てを打たなかった経緯
が絡んでくる。
 主人公は、ダグ・モリスだ。

 60年代にアレサ・フランクリンやオーティス・レディングといったソウル、
70年代はレッド・ツェッペリンなどのハード・ロック・バンドを擁して音楽史
にその名を刻むアトランティック・レコードの総帥アーメット・アーディンガ
ンの元で修業し、後にユニバーサルのトップとなった音楽業界のドン。

 彼がのし上がっていく過程を追いながら、その時々のヒット曲史が紡がれて
いく。

 そして、黎明期のサイバー・スペースで活躍した、音楽「海賊」。こちらの
主人公は、恐らく三人の中で最も知名度の低い、デル・グローバーである。

 彼はCDをプレスし、パッケージに詰め、完成品として流通に送り出す工場
の従業員だった。アルバイトから始め、真面目に働いて、正社員に取り立てら
れ、管理職にまでなる。
 その市井の一市民が、自分の立場を利用して、発売前の新作CDを工場から
持ち出し、違法コピーしてネットで公開する音楽「海賊」だったのである。

 もちろん工場は、警備員を雇い、金属探知機を設置して、CDの持ち出しを
防ごうとする。しかしグローバーはそうした警備の間隙を縫って音楽を盗み出
すのだが、その大胆な手口は本書に譲る。
 ヒントだけ言うと、工場はアメリカ合衆国南東部に位置するノースカロライ
ナ州のど田舎にあり、工員たちはみな南部人らしく、白人も黒人もこぞって、
ある共通のファッション・アイテムを愛用していた。それがCDを隠すのに持
って来いだったのである。

 こうして盗んだ音楽を、グローバーはCD−Rに焼いてこっそり売り捌いて
いたのだが、やがてインターネット時代が本格的に到来すると、「シーン」と
呼ばれる、音楽海賊たちの世界にはまり始める。
 この「シーン」を支えるモチベーションは、経済的な利益ではなく、名誉で
あった。
 それは、誰よりも早く音楽をアップロードするゲームだったのだ。特に、ま
だ発売前で店にも並んでいない新作は「ゼロデー」と呼ばれ、これをアップロ
ードすることは「リークする」と呼ばれて、特別の尊敬を集めた。
 この賞賛という報酬を得るために、海賊たちは腕を競った。

 早いだけでなく、それが人気アーティストのニュー・アルバムであることも
重要だ。誰も欲しがらないものをリークしても、敬意は払われない。
 グローバーが2002年までにリークしたアルバムは500枚を超え、その中には
ドクター・ドレーの『2001』があり、クイーン・オブ・ザ・ストーン・エイジ
の『レイテッドR』があり、さらにビョークがあり、アシャンティがあり、ネ
リーがあった。
 2002年に一番売れたアルバム、エミネムの『ザ・エミネム・ショウ』を発売
25日前にリークした時は、そのせいでこのラップ界の大スターがツアー・スケ
ジュールの変更を余儀なくされた。

 こうして実績を積み上げたグローバーは、やがて「シーン」の中核メンバー
に迎えられ、極めて貴重なレア音源や、一般へのリークよりも早い内輪だけの
リークを手に入れる特権を与えられ、スター「海賊」になっていく。

 しかし、当然ながら、海賊行為の隆盛は、司法の取り締まり強化を招いた。
 FBIに専門の捜査チームが結成され、まるで映画のように「バッカニア作
戦」「ファストリンク作戦」「アークロイヤル作戦」などと麗々しく名付けら
れた捜査プロジェクトが展開される。
 囮のフェイク・サイトを用いたり、特殊な技術でIPアドレスを特定したり、
携帯電話の通話記録から仲間を炙り出したり、あの手この手の捜査技術が繰り
出される内、さしもの海賊たちも次第に追い詰められ……

 という、このスリリングな物語、「まるで映画のように」と書いたが、あと
がきによると、本当に映画化が決まったらしい。

 映画も結構だが、しかし本書はぜひ、原作にも当たってほしい。その内容ば
かりでなく、文体がまた素晴らしいからだ。
 これが著者の初めての著作なのだが、その、キビキビとして皮肉なユーモア
に溢れた文体は、優れた訳文ともあいまって、実に痛快だ。ここには、アメリ
カのジャーナリズムが育んできた、豊かな語りの伝統が生きていると思う。

 かくして音楽はタダになり、レコード業界は、最高益を出した2000年から僅
か十数年で、その半分の規模にまで落ち込み、もはや転職エージェントが「と
てもお勧めできない」業界になってしまった。

 海賊行為がある程度音楽の売り上げを下げたのも事実だろう。タダで手に入
るものに、人はお金を払わない。
 しかし、それを言うなら、ぼくが子供の頃には、ラジオでかかる音楽をカセ
ットテープに録音する「エアチェック」が盛んで、そのための情報誌もあった。
 NHK FMでは確か日曜の午後の番組で、アルバム1枚をまるごと放送していた。
アナウンサーが全曲のタイトルを紹介し、「では、どうぞ」と言うと、一切し
ゃべりも被せず、途中からフェイドアウトもせず、完全な形で放送するのだ。
その「では、どうぞ」を待ち構えて、カセットデッキの録音ボタンを素早く押
す時の、ドキドキする感じは今でも覚えている。

 MTVの時代になって音楽が映像化されると、後を追うように家庭用ビデオレ
コーダーが登場して、ここでもタダで音楽が手に入るようになった。
 いや、既にアメリカでラジオ放送が始まった20世紀前半にはもう、ラジオは
音楽をタダにし、音楽業界を殺すという非難があったそうだ。

 では、これまでの「音楽の危機」と、現在の危機の違いは、どこにあるのか。

 ひとつは、曲数という意味での規模だろう。もはやない曲はないのではない
か、と思われるほどの。Youtubeのアーカイヴ力は、やはり昔とは比べ物にな
らない。
 また、アナログ時代には、複製の度にある程度は必ず劣化した音質や画質が、
デジタル技術の進歩によって、オリジナルとの差を消失させたことも大きい。

 しかしそれよりも、われわれ音楽ファンにとっての、音楽の意味の変容こそ
が、より深刻なのではないか、とぼくは思う。

 例えば、いま盛んに登場してきている定額制のストリーミング・サービス。
 確かに定額とはいえ無料ではない。その分まし、という考え方もあるだろう。
しかし、ストリーミング・サービスは人の音楽との接し方を根本から変えるか
もしれない。
 ある特定の楽曲なりアーティストなりを「求めて聴く」ものから、その場の
状況や気分に合わせて「流す」ものに変わるからである。
 その結果、人は主体的に音楽に関わろうとはしなくなる。

 もちろん、選曲をAIに委ねることで、未知の音楽との出会いが生じ、新しい
ジャンルに耳を開かれ、より深く掘ろうとする人も現れるだろう。

 問題は、そのどちらが優勢となるかだ。

 とある調査によると、いまの小学生は生まれた時から、「コンテンツはタダ」
と認識していると言う。
 そして、Youtubeで何かを見る場合でも、自分で検索して面白いものを探す
のではなく、サイトからのリコメンドを素直に眺めているだけで、中には「も
う検索の仕方を忘れた」という子までいるようだ。

 音楽に対して人が完全に受動的になった時、一体「音楽をつくりたい」と思
う人はまだ存在しているのだろうか?
 音楽をつくる人がいなくなれば、我々はアーカイヴに埋葬された死んだ音楽
を消費するだけになってしまう。

 音楽を殺してしまうのは、われわれ一人一人の音楽ファンであるのかもしれ
ない。


スティーヴン・ウィット
関美和訳
『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』
2016年9月20日 初版印刷
2016年9月25日 初版発行
早川書房

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今月は送別会で、いろんな人たちと改めて思い出を語り、回顧モード。来月か
らは再就職に向けて、前を向こうと思います。

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■あとがき
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 今回も読みごたえのある3本が揃いました。そういえば、出版業界も「お勧
めできない業界」になって久しいような…。

 あ、このメルマガも無料でしたね…。(あ)

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