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[書評]のメルマガ vol.632


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■■ [書評]のメルマガ                2017.06.20.発行
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■■ mailmagazine of bookreviews     [シュールなドタバタ満載 号]
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■コンテンツ
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『ドバラダ門』

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 夏目漱石『こころ』(新潮文庫)

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『テロリストは日本の『何を』見ているのか』伊勢崎賢治 幻冬舎新書

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#84『ドバラダ門』

 前回は新宿の老舗ライブハウス、ピットインの50周年記念本を取り上げたが、
1960年代当時、この店を舞台に、日本のジャズの歴史を塗りかえた一人として、
この本に名前が挙がり、登場もしている山下洋輔。

 今月は、ジャズ・ピアニストでもあり、幾多の名エッセイで文筆家としても
声望高い彼の本を紹介したいと思った。

 初めは、60年代の空気を今に伝える、処女エッセイ集『風雲ジャズ帖』にす
るつもりだったのだが、改めて読み返してみると、後のエッセイと違って、旅
の記録としての側面はあまりない。考えてみれば当然で、この本は病気療養中
の無聊を慰めるために書かれたさまざまな文章と座談会、対談から成っていて、
著者が一番旅をしていない時期のものなのでる。

 また、後に山下洋輔文化圏と呼ばれる、ジャズメンはもちろん、筒井康隆や
タモリなどを含む多彩な人脈によるバカ騒ぎの時代も、まだ始まっていない。

 したがってハナモゲラ語もまだなく、全日本冷やし中華愛好会もまだない。
ちなみに、前々回『宮澤賢治、ジャズと出会う』を取り上げた時、著者の奥成
達の名前をどこかで聞いた覚えがあるのだが思い出せない、と書いたが、この
山下洋輔文化圏の一人であった。筒井康隆か山下洋輔のエッセイに登場してい
たのだろう。

 という訳で、『風雲ジャズ帖』の中心テーマは音楽論であり、多少の譜面も
出てくる。ある程度知識と興味がないと、なかなか理解しづらく思われ、この
欄で取り上げるのにためらいが出た。

 だったら、その後の『ピアノ弾きを笑え』でも『ピアノ弾き乱入列車』でも
いいはずだが、何となくそれでは面白くない気がして、つらつら迷っていると、
ふと思いついたのが本書、『ドバラダ門』だった。

 これは、当然音楽絡みではあり、だからこそこの音楽本書評で取り上げるわ
けだが、中心的な興味は山下洋輔のルーツ探求にある。
 しかも、最後の注釈には「大体においてノンフィクション」とは書かれてい
るものの、筒井康隆によるあとがきには、「唯一の長篇小説」とあり、まあ、
そもそもジャンルを決めるのが難しくかつ無意味であるような奇書なので、ど
っちでもいいと言えばいいのだが、ある程度物語としての構成は整っているし、
読みやすいことは確かだ。うん、これがいいんじゃないかな、と思い始めた。

 そこで本棚を探してみたのだが、どうしたものか、見当たらない。
 単行本で出た当時に買った記憶は確かにあるし、もちろん内容もある程度は
覚えているのだが。
 仕方がないので、これだけの名作だ、図書館にあるだろうとホームページで
蔵書検索をかけると、あるにはあったが、なんと保存庫に眠っているではない
か!

 信じられない。あれだけの傑作なら、図書館の開架に常時君臨して、常に新
しい読者を待っていて当然。
 これはもう、ささやかながら本欄でも取り上げ、その魅力を少しでもお伝え
しておかねば、と思い、ご紹介決定となった次第である。

 とにかく、「大体においてノンフィクション」でありながら、時空はもちろ
ん、虚実も自由に飛び越えて読者を引きずり回す、途方もない「小説」でもあ
り、いやしくも文学好きは必読の一冊なのだ。

 さて、物語の発端は、事実に基づいている。
 著者が鹿児島でライブをすることになったと何気なく実家の母親に告げると、
だったら鹿児島にお祖父さんのつくった刑務所があるから見ておいで、と言わ
れるのだ。

 刑務所? つくった? なにそれ?

 その時著者も初めて知るのだが、父方の祖父、山下啓次郎は今で言う東大の、
今で言う建築科を出ており、日本が明治維新を迎え、文明開化の波に襲われる
その中で、全国五箇所に西洋式の近代的な監獄を設計、建設した人物だったの
である。
 そのひとつが、鹿児島市に、まだ現存していた鹿児島刑務所なのだと言う。

 山下洋輔は東京生まれであるが、父方のルーツは、その鹿児島だ。幕府が倒
れ、維新の世となった時、下級武士であった曽祖父、山下房親も、新しい日本
を築くべく、薩摩から東京に出た。西郷隆盛の肝煎りで始まった、近代的な
「警察」の創設に加わるためである。
 そして房親は最終的には刑務所長となるのだが、息子の啓次郎もまた、司法
省営繕課の課長として、その刑務所を建てる仕事に就く。
 そうして故郷である鹿児島にも、刑務所をつくったのだ。

 その後、紆余曲折を経て、著者は、その刑務所に出会う。
 いや、むしろその門に出会う。

 と言うのも、ゴシック様式の刑務所の、小さな城のような門がまず目に飛び
込み、住宅街の真ん中で場違いな偉容を誇るその奇観に、強く心を撃たれるか
ら である。
 これこそ、タイトルにあるドバラダ門だ。

 しかし、祖父が建てたその建物は、取り壊しの危機にあった。

 建設当時は人も通わぬ郊外だったのだろうが、現在では住宅地になっている。
その真ん中に刑務所があるのは何かとよろしくない、ということで既に中身は
移転していた。そこに在ったのは、抜け殻だったのだ。

 移転はいいとして、問題は跡地の処理である。

 鹿児島には、古くから石を使って建築する石工の技術があったため、山下啓
次郎は当時主流となっていたレンガ造りではなく、石造を採用した。
 そのため鹿児島刑務所は、今に残る石造建築として最大の規模を誇ることに
なったのである。

 ところが、鹿児島市はこのように貴重な明治時代の遺跡を跡形もなく破壊し
た上で、新たな文化施設を建設する計画を立て、市民が何も知らされない内に
議会を通し、予定通り取り壊しの準備を進めていたのだ。

 この暴挙を知って、鹿児島大学建築学部を中心に反対運動が巻き起こってい
た。「もう決まっちゃったもんね」の一点張りで、「ええい、聞く耳持たぬは
そこへ直れ」的な態度の市に、それでも果敢な保存の訴えが行われていた。

 山下洋輔は一家と共に、そうした活動の一環として鹿児島刑務所で開かれた
シンポジウムに出席。かの建築探偵、藤森照信などにも会い、祖父の遺した業
績の偉大さを今更ながら知ると同時に、「取り壊しを中止させるためなら、何
でもする。刑務所の門前でピアノを弾いてもいい」と口走る。

 もちろん、その口走りは実現に向けて動き出す。

 一方で著者はさまざまな資料に当たり、祖父の人生ばかりか、遡って曽祖父
房親の時代から、西郷隆盛なども登場する幕末、明治の激動の歴史を調べ上げ、
海外ツアーの際には、啓次郎が視察したという、ベルギー、フランス、イギリ
スの刑務所を訪れる。

 そして当局の妨害により、形を変えながら、ついに実現する、刑務所門前で
の演奏。

 と、ここまで書くと、なんだ、普通のノンフィクションじゃん、どこが奇書
やねん、となぜか関西弁の物言いがつきそうだが、これはあくまで骨組みに過
ぎない。

 この流れを主軸に、至るところに華々しい脱線が起こる。
 ふとしたセリフや、アクションをきっかけに、物語はすぐに逸脱を始める。

 その先には、生麦事件があったり、薩英戦争やら西南の役やらの戦闘シーン
があったり、ヨーロッパの監獄視察から帰った啓次郎の帰朝演説があったり、
山下一族やゆかりの人々の挿話が紛れ込んだり、いろいろな時代、場所を自由
に行き来して、シュールな場面が続出する。

 そしてもちろん、虚実も自在に飛び越える。
 歴史家でも歴史小説家でもない割によく調べているくせに、書き始めると時
代考証などどこへやら、登場人物が「この時代の人間が、こんなことは言わな
いと思うのだが」などと自分にツッコミを入れながらしゃべったり、現代の事
物が幕末に混入したりする。

 特に好きなのが、薩英戦争の場面。英国艦にヘミングウェイ軍曹という水兵
が乗っているのだが、これが釣りばかりしていて、時には老人がカジキマグロ
と死闘する白昼夢を見たりするので、要するに『老人と海』の文豪ヘミングウ
ェイなのだが、実際に同姓の水兵がいたという記録を読んでの妄想なのか、ま
ったくの虚構なのか。ちょっとしが出てこない割に印象に残る名脇役である。
『ヘミングウェイの日記』なる本からの引用もあるが、当然虚構だろう。
 それにしても、英国艦だよね。なんでアメリカの文豪?

 さらに、房親の兄が江戸で死んでいるのだが、その真相が明らかでないのを
いいことに、実は平賀源内の発明した時間航行機、すなわちタイムマシンで時
間放浪者になって、さまざまな時代に出没することにしてしまう。その姿がな
ぜか画家の山下清……と言うより、テレビで芦屋雁之助が演じた裸の大将その
ままで、単に同姓のよしみで勝手に持ち出したのか、とにかく爆笑キャラとし
て大活躍する。

 著者自身が心酔する筒井康隆ばりの、シュールなドタバタ満載の、抱腹絶倒
劇。
 そのついでに、文化をないがしろにするこの国の行政の愚昧を暴き、100年
に渡る時の流れに想いを馳せる。

 それにしても、いくらミュージシャンの作にせよ、文中にBGMが書いてあ
る 小説なんて、前代未聞ではないだろうか。

 結局、貴重な文化財である鹿児島刑務所は、市当局によって残忍に破壊され
てしまう。その描写は、短いながら哀切で痛々しい。まるで石の建築が、巨大
な生き物であるかのようだ。

 そう、それは破壊ではなく、殺戮だった。人間の歴史の殺戮である。

 ただ、唯一の譲歩として、門だけが残されたと言う……


山下洋輔
『ドバラダ門』
平成五年九月二十五日発行
新潮文庫

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
山下洋輔の実家は阿佐ヶ谷だそうで、そこはぼくが幼稚園の年長さんから結婚
して家を出るまで過ごした街。また、山下家のルーツが鹿児島なら、ぼくの父
の家は佐賀。封建的風土も共通する九州人の末裔同士。なんか、勝手に親近感
を覚えてしまいます。

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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未亡人の視線で「こころ」を読む
夏目漱石『こころ』(新潮文庫)

 久しぶりに会った高校教師(国語)の友人に、「今って教科書に何が載って
るの」と聞いたら「『こころ』は今でも掲載されているかなあ」というので興
味を持ちました。聞けば教科書に載ってるのは一部なので、夏休みの宿題とし
て全部読んで感想文を書きなさいというと結構読んで書いてくるらしいです。
「ほら、三角関係の話だったりするから高校生にも親しみがあるんじゃない」
と友人。(レベルの高い学校に勤務してるんですね)

 そこでおばちゃまも読んでみた次第。茶色くなった新潮文庫の「こころ」書
棚の隅にほこりかぶってました。

 読み始めたら大昔読んだときとはまったく違う視点から読むことになって、
我ながら「え?え?まじか」とびっくり。いやいや、だから名作は怖くて素晴
らしい! 時を経て読むとまったく別の様相が浮かび上がるんですね。

 ご存じ、「こころ」は大正3年、新聞小説として掲載された漱石の代表作で、
「金銭と恋愛をめぐる我執(エゴ)の相の洞察は鋭い」と三好行雄は解説して
います。ざっくり言うと、「私」が私淑する「先生」はかつて、「K」という
友人を裏切って下宿先のお嬢さんと結婚した。「K」は理由も言わずに自殺。
その裏切りをずっとひきずってとうとう先生も命を絶ちましたという話です。

 大昔読んだときは、「先生」の心模様ばかりに目が行ってました。たぶん、
夏休みに読書感想文書いてくる高校生も同じだと思うのですが、今回、還暦過
ぎて読んだら、まあ、この下宿の未亡人ばかりに気が行って、もう「先生も
「K」もええわって感じになりました。なので今回は未亡人目線でこの話を読
んだという話です。

 下宿の奥さまは軍人である夫を戦争(日清戦争)で亡くしています。夫は鳥
取出身で、自分は(元防衛庁のあった)市ヶ谷生まれというから、そのあたり
で見合いして結婚したんでしょうか? 夫亡きあと、広い屋敷を手放して素人
下宿を営みます。役人にでも貸したらいいかと思っていたときにやってきたの
が大学生の「先生」。この時代、大学というのはそのへんの三文大学じゃござ
んせん。東京大学のことです。

 おばちゃま、奥さんの身になって考えた。頼る人のいないシングルマザーと
娘。自分が死んだあと、娘はどうしたらいいのか。娘さんは女学校に行ってる
けれど(地理的に見て三輪田あたり?)当時、女学校を卒業したからでは地元
の信用金庫にでも就職というわけにはいきません。仕事をする女性なんていな
かったのです。ではどうするか? 結婚です。

 芥川龍之介「秋」で小説家をめざすヒロインが、父が亡くなっていたので小
説家志望の前に「縁談から決めてかかるべく余儀なくされた」時代、結婚は弱
い立場の女性のセーフティネットだったのですね。(今でもそのような意味は
消えてませんが)。

 決して広くないしもた屋に、未亡人(っていってもたぶんアラフォー)、若
い女学生、そして大学生の3人。部屋を仕切るのはふすま一枚。鍵のかかる部
屋はなかったでしょう。

 これは奥さんが意識するとしないとにかかわらず仕掛けた罠なのか、大学生
=先生はあるとき、それに気づきます。

 「利害問題から考えて見て、私と特殊の関係をつけるのは、先方に取って決
して損ではなかったのです」。

 ここで問題なのは、大学生が決して女性関係で世慣れていないということ。
恋愛未経験な大学生なのであります。(佐伯順子さんの研究では、あくまで素
人の女性に対してのみ未経験であって、プロ女性とは交際があるのが当時の常
識とされています。『近代化の中の男と女・色と愛の比較文化史』)。

 そしてさらに、先生の案内でここに「K」が加わるのです。先生はお嬢さん
に好意を寄せているのに同世代の友人を仲間に加えるなんて、恋愛で一番やっ
ちゃいけないことですが、これ、1000年前に「源氏物語」で薫大将がやってま
す。女とみたらすぐ誘い出す匂宮をグループに入れるという暴挙。こわいもの
見たさの恋愛パターンですね。

 このKは先生よりさらに女に対して奥手。一気にお嬢さんを恋して、そして
悲劇が起きるのです。

 未亡人は、どうもKよりも先生を気に入っていたようで、お嬢さんがKと仲
良くなることをどう思っていたのか、大学生は卒業が近づいてくる、同時にお
嬢さんも女学校の卒業が近い…どうするどうする・・・・・このへんは非常に
緊迫していてスリリングです。

 先生の「お嬢さんをください」プロポーズに即答して「どうぞ貰って下さい。
ご存じの通り父親のない憐れな子です」というセリフに、当時の女性の置かれ
た位置がわかります。

 未亡人が大活躍する場面がこのあとすぐに描かれています。Kが自死を遂げ
た後始末をはしはしと仕切る姿です。

 軍人の妻なのでこのへんはノウハウを知り尽くした感じ。たぶん奥さんの父
親も軍人だったと思われます。医者へ知らせ警察へ知らせ、先生が遺族に電報
を打って帰ってくるとすでに線香が立てられていたという描写に、この女性の
悲しさと強さ…そして母としてのしぶとさを感じます。

 先生とお嬢さんが結婚後、奥さんはなくなりますが病を得た奥さんを先生は
心を込めて看病するのでした。奥さんはそれをどう思ったでしょうか? どれ
だけ先生とKの関係を知っていたのか、文中には何もかかれていませんが、ぼ
んやりとでも何事かを悟っていたのではないかとおばちゃまは思うのです。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『テロリストは日本の『何を』見ているのか』伊勢崎賢治 幻冬舎新書

 伊勢崎賢治という人は、不思議な人だとと思う。彼は世界の紛争の最前線に
出張っていって、彼の地の武装勢力を武装解除して回るというものすごい仕事
をしている人だ。そんな人が、戦争の最前線のことなど知らない、あるいは単
なる感情論で平和を語る「9条教」信者みたいな人から支持されている。

 9条を高らかに評価するから支持されるのだろうけど、戦場のリアルを体で
知っていると言っても良い人が9条教徒のリアリティのなさと共鳴しているか
のように見えるのがなんとも不思議なのだ。

 で、この本は日本がテロリストに狙われないようにするにはどうすべきかを
書いてある本。最初に出てくるのは中国脅威論に対する批判である。中国が日
本を攻めてくるはずないだろ。そんな非現実な想定よりもグローバルに拡大す
るテロの脅威の方がよほど重要だとくる。

 次に言うのは原発の危険性である。原発をテロ攻撃するというと、フィクシ
ョンならミサイル撃つとか、爆弾を持ち込むとかとなるけども、彼はそんなこ
と言わない。

 福島第一発電所の事故の後、テロリストは原発を攻撃するのにミサイルも爆
弾も不要だと知った。福島第一は津波によって電源を喪失することが事故に繋
がった。すなわち原発に侵入し、従業員を脅して電源喪失に持ち込むならピス
トルや刃物で十分にテロは実行できる。

 そういう脅威から原発を守るには警備員にピストルや小銃などを持たせなき
ゃならないが、日本では警備員の武装は認められていない。そんなことで原発
テロを防げるのか?と畳みかけてくるのである。

 そこから話は「インサージェンス」を中心に進む。インサージェンスとはテ
ロリストの同義語みたいな、反体制派を意味する言葉だが「テロリスト」と区
別して使われている。ここがある意味、この本のキモだろう。反体制派をテロ
リストと言ってしまえば単なる悪者と読者に認識されて、そう認識されてしま
うと話が通じないからだ。

 テロリストの成り立ちはさまざまだが、彼らにも彼らの正義がある。タリバ
ンは元々アフガンに群雄割拠して悪さしていた軍閥に対抗する勢力として生ま
れた。タリバンは悪者として見られているが、実は軍閥はタリバンなどよりよ
ほどむちゃくちゃなことをやっていて、そんな連中を一掃することでタリバン
はアフガン国民の支持を得た。

 そうした軍閥を育てたのは、アフガン戦争でソ連に対抗しようとしたアメリ
カやアラブ諸国だ。アフガンの英雄にはオサマ・ビン・ラディンもいる。

 オサマ・ビン・ラディンはそもそもアフガン義勇兵だった。それもサウジの
金持ちのボンボンが最前線に立ったものだから多くの人が彼を支持した。イラ
クの脅威にサウジアラビアが晒されていると見るや、オサマはアフガン同様に
義勇兵を募って祖国を守るためにイラクと戦う気でいた。ソ連相手に勝った連
中だ。イラク相手に勝てる自信もあった。なのに、サウジ政府はあろうことか
アメリカに助けを認めた。そりゃオサマも怒る。

 9.11テロでアメリカが激怒してタリバンを追い出したはいいが、そうなると
また軍閥が跋扈する。ISなんてのも出てきた。そんな、新たな脅威に対抗する
ために、タリバンを「まともな敵」として育てることが必要になる・・・いや
はやこの世は複雑だ。

 なにせアフガンの武装解除を指揮した本人の言うことだ。軍閥の武装解除は、
きれい事では済まされない。何百人と虐殺した者が武装解除した途端に訴追さ
れて罰せられるとなると、彼らは絶対に武装解除に応じない。だから武装解除
後、新政府の閣僚として虐殺者の親玉を迎え入れなければならない矛盾など、
現場を仕切った人にしか分からない、えぐい話がいっぱいだ。

 そしてテロ防止策の話が来るが、注目に値するのは、テロ防止策として移民
の推進を挙げていることだろう。このあたりは人によってかなり意見が割れる
と思う。

 そして最後に来るのが在日米軍との地位協定と憲法9条の改訂を提案する。
本の最後は彼の「改憲」9条の条文になる。彼が一体何を考えてこういう条文
を持ってくるに至ったのか、それを説明するのがこの本なのだなと、最後まで
読んでやっと気がついた。

 そしてこういう考えに彼が至ったということは、彼が「改憲派」としての旗
幟を明白にしたということだ。これに対し、護憲派と呼ばれる人たちがどう反
応するのか興味深い。しかし、この本が出て8ヶ月にもなるが、特に護憲派か
ら批判されてるなんて話も聞かない。では護憲派が改憲を認めたのかというと、
それもなかろう。

 ということは、護憲派から「使えねぇ」と思われて無視されているとするの
が、当たらずとも遠からずの現状ではないかと思う。

 ま、それはともかく、イデオロギーとしての反戦平和ではなく、リアリズム
に立脚した反戦平和について考えるなら、ぜひ読んでおくべき本だと思う。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 何を勘違いしたのか、先月の20日号の月を間違えてしまいました。正しくは
5月20日号で、今号が正真正銘の6月20日号です。

 一瞬、自分がタイムスリップしたのかと思ってしまいました…。(あ)

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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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→わしらが子供だったころ

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→新渡戸稲造氏の生き方

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★献本読者書評のコーナー
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 株式会社サンガ様、原作者の方喰正彰様より『マンガでわかるグーグルのマ
インドフルネス革命』を献本いただきました。ありがとうございます。
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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72 観察の楽しさ

 大人になってからは初めてともいえる写生会を体験してきました。
 絵は好きなのですが、描いたことはほとんどないので、学べればと思って参
加したものの、具体的な指導はなく、ただひたすら野の花や樹木を見て描いて
きました。まとまった時間じっくり観察してみると、いままで見えていなかっ
た細かなところまで見えてくるようになり、自分の眼が成長を遂げた気分を味
わいました。

 それ以来、自分の視点が確かに変化し周りの野の花だけでなく、虫や鳥もい
ままでになく視界に入ってくるようになったのです。楽しくて、歩いていると
常にきょろきょろしています。家のまわりは田んぼだらけで自然がたっぷりな
のです。

 さて、今回は虫が活発になる季節にぴったりの絵本。

 『甲虫のはなし』
 ダイアナ・アストン文/シルビア・ロング絵/千葉 茂樹訳/ほるぷ出版

 ほるぷ出版の「あたたかく美しい絵で身近な科学を紹介するシリーズ」の一
冊です。このシリーズはどれも読んでほしい!のですが、ここでは新刊をご紹
介します。

 甲虫とは、6本のあしをもつ昆虫のなかでも、とくにかたいまえばねをもつ
虫のこと。

 見開きいっぱいに、のびやかな水彩画でカラフルな甲虫が描かれています。

 たまごの甲虫は葉っぱのうらにうみつけられ、
 たまごからかえると、なんども脱皮をくりかえしながら成長します。

 1週間くらいで成虫になるサカハチテントウ。

 メダマジンガサハムシ、アカヘリミドリタマムシのいろとりどりの美しさ。

 美しい甲虫は世界のあちこちで食用にもなっています。

 国連食糧農業機関(FAO)は2013年5月に「食用昆虫 食品と飼料の安全
保障」という報告書をまとめ、昆虫食の利点を挙げており、

 この絵本でも
 インドではクワガタムシのチャツネ、パプアニューギニアでは幼虫のシチュ
ーなど、いろいろ紹介しています。(残念ながら料理の絵はありません)

 また、人間の食べるパンやドライフルーツ、中にはペットフードまで食べる
ありがたくない虫も紹介されています。

 恐竜が生きていた約3億年前から生息していたことが化石からわかっている
甲虫。長い時を経ていまにいたっている虫たちを今年は観察してみようと思っ
ています。

 シルビア・ロングの描く甲虫はとってもきれいなので、子どもだけでなく、
虫好きの大人の方への贈り物にもおすすめです。

 これを機会に既刊絵本もぜひ。

 『たまごのはなし』
 『たねのはなし』
 『チョウのはなし』
 『いしのはなし』
 『巣のはなし』


 もう一冊ご紹介。

 『子どものための美術史 世界の偉大な絵画と彫刻』西村書店
  アレグザンダー 文/ハミルトン 絵/千足伸行 監訳/野沢香織 訳 

 タイトルどおり、美術を楽しむための入門本。
 絵をきれいに描ければなあと長年思っていましたが、絵をみることも大好き
です。

 地方に住んでいるとなかなか本物をみる機会には恵まれませんが、こういう
本があると、自分の好きな時間にじっくり絵を楽しめます。

 子どものための入門書は、実は大人にとっても便利な一冊です。説明が丁寧
で、専門用語の羅列なくして、わかりやすい言葉で書いてあるので理解しやす
いからです。

 本書ではヨーロッパとアメリカの画家が中心ですが、日本人ではひとりだけ
葛飾北斎が紹介されています。

 見開きで1人の画家が紹介され、代表的な絵画1枚、どんな風に描かれてい
るか細かな注釈がついています。

 葛飾北斎では〈富嶽三十六景〉より《神奈川沖浪裏》の絵が紹介。描かれて
いる絵の、たとえば「小さいほうの浪は富士山と同じ形をしていること」など
鑑賞の一助となることが添えられています。

 また、すべてではないですが、それぞれの画家の画法についての簡単なワー
クショップが紹介されているのも魅力です。

 アンリ・マティスのページでは、「はさみでかく」切り絵のしかたを、ルノ
ワールのページでは「スクラッチアート」をというように実際に作品づくりを
したくなる工夫があります。

 実際に自分の手でアートをつくる体験をすると、本物のすばらしさをより理
解でき、また鑑賞する楽しみも深まります。ぜひ実際に描いたりつくったりし
てみてください。

 夏休みにはすこし早いかもしれませんが、自由研究の参考にもなるおすすめ
本です。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<90>わしらが子供だったころ

 この5月の下旬、とても遅まきながら、アニメ映画『この世界の片隅に』を
観てきた。
 こうの史代の原作漫画はとても好きだったので、あの独特の空気を、アニメ
でうまく再現できているのかどうか、さらに「あの時代」を、必要以上に、暗
く陰鬱で灰色というステレオタイプで描かれてたりしたら「やだな…」等々と
いう不安と疑心暗鬼で先延ばしにしていたのだが、いよいよ5月の最終週で公
開が終了する、と聞いて、重い腰をあげたのだった。

 とても良かった。
 もっと早く観に行けばよかったと後悔した。
 原作の「空気」は、きちんと再現…というよりも、さらに昇華した形で表現
されていた。

 原作漫画では、物語の背景となる当時の広島や呉の町の様子や、衣服や履物、
乗り物等々のディテールが、かなりのこだわりを持って描かれていたのだが、
これも、なお一層細かく……おそらくは綿密な取材がされたのだろう……緻密
に描きこまれていた。

 アニメ版では「音」もまた、丁寧に再現されていたように思う。
 たとえば、爆弾が至近距離で炸裂する音。あるいは、艦載機が急降下して機
銃掃射していくエンジンと機銃の爆音。
 どのシーンの音も、とてもリアルに感じられた。
 「すず」さんの嫁ぎ先のラジオからは、空襲警報を伝えるニュースが流れて
くるのだが、そのニュースを伝えるのが、「昭和20年」に至って、男性から女
性の声に代わっている……のに気づいたときには、「さすが……」と、思わず
うなってしまった。

 平日午前の上映だったのだが、公開終了間際だったせいか、客席は六分ほど
の入りだった。
 わしの隣には、わしよりやや年上と思われる男性が座っていたのだが、この
人は、映画が終わり明かりが戻った館内で、下を向いたきりしばらく立ち上が
れずに、ずっと目のあたりを押さえていた。

 映画館で立ち上がれなかった彼もそうだろうけど、わしもまた、戦争を直接
体験した世代ではない。
 しかし、わしらがモノゴコロついたころには、白い着物の「傷痍軍人」が、
切断された足を台車に載せて商店街をいざり歩いては、胸に抱えたアコーディ
オン弾いて物乞いをしていたり、空襲で崩れたままのビルがあったりと、そこ
ここにまだ痕跡や傷跡が残っていた。

 幼稚園の遠足で遊園地に行ったとき、駅からその遊園地へ行く途中、なにや
ら異様なビルの横を通ったのだった。
 錆びた鉄枠の窓はあちこちのガラスが破れ、中は薄暗くて人の気配もなく、
丸みを帯びた外壁はコンクリートが剥き出しで、その全体が鬱蒼と繁茂した蔦
に覆われてしまっている廃ビル……
 なんだか不気味なそのビルは、空襲を受けたのちに放置され、そのままにな
ってるんだ……と一人合点で思い込んだ。
 空襲受けた廃ビルと思ったそれが、実は甲子園球場だったと知るのは、それ
から数年後のことだった。

 荒れて放置された建造物、イコール、空襲を受けた、という連想は、それま
でに、親たち、あるいは学校の先生や祖父母から、何度も空襲や機銃掃射の話
を聞かされていたからだ。
 甲子園球場は、放置されていたわけではないけど、昼間で無人だったから、
そんなに思ってしまったんだろうな。今ほどきれいにメンテナンスもされてな
かったし。

 アニメ『この世界の片隅に』は、久々にあのころの記憶を呼び覚ましてくれ
る映画でもあった。

 あのころ、わしらがまだ子供だった1950年代から60年代。
 日本はまだ「先進国」ではなかった。

 長谷川町子『いじわるばあさん』に、ばあさんがアメリカ旅行をするくだり
がある。
 ばあさん、ニューヨークでお土産買って、しかもそれがとても安く買えたも
んだから「ホクホク」だったところが、ホテルへ帰ってよく見ると、その製品
に「Made in JAPAN」のタグがついていた、というオチ。

 1950年代、日本から欧米に向けて盛んに輸出されていた工業製品の筆頭は
「おもちゃ」で、そのおもちゃに代表される「Made in JAPAN」は、全世界的
に、「安かろう悪かろう」という粗悪品の象徴だったのだ。

 そのイメージは、今の中国製品よりずっと劣悪だった。

 虫プロアニメ『鉄腕アトム』の放映開始が1963年。以後、国産アニメは徐々
にテレビに増殖していくが、しかし、子供向けのアニメやヒーロードラマ、あ
るいは子供向けコメディードラマは、圧倒的にアメリカ製が多かった。

 そこに描き出される「豊かなアメリカ」なライフスタイルは、彼我のギャッ
プが大きすぎて、まるで現実のものとも思えない、まさに夢のような生活様式
だった。

 「レモネード」とか「パイ」とか「ハロウィン」とか、そのスタイルの中に
は、なんだかよくわからないものもいっぱいあった。

 『ポパイ』に出てくる「ウィンピー」が、いつも頬張ってる「ハンバーガー」
もまた、「よくわからない」物件のひとつだった。
 当時「ホットドッグ」は売っていたけど、「ハンバーガー」は、どこにも売
ってなかったのだ。
 名前と形状から、パンにハンバーグを挟んだもの、という想像はついたので、
自作してみたのは中学1年の頃。
 スーパーに売ってたハンバーグ……というか、今思うと「スパム」と「ミー
トローフ」の中間のような形状のもの…を、バンズはどこにも売ってなかった
から、食パンを代用して、キュウリを薄切りにしたのと一緒に挟んだ。味付け
は、ウスターソースとケチャップ。
 滅法、旨かった。

 後年、神戸で最初にできた「マクドナルド」に、あのときの感動を期待しつ
つ出向いたのだが……
 初体験のその味は、衝撃的に不味かった…
 ウィンピーは、こんなモンを「うまい、うまい」と食ってたのか? と愕然
としたのだった。

 「マクド」初体験のちょっと前、やはり初体験の「ケンタッキーフライドチ
キン」では、「世の中に、こんな旨いモンがあったのか!?」と感動した、その
反動もあったのだと思う。
 マクドは、その「不味さ」に徐々に慣れていったのか、味が変わったのか、
その数年後には、そんなに不味いとも感じなくなっていた。

 ところで、テレビアニメ…当時は「テレビ漫画」と呼ばれた『ポパイ』では、
「ホウレンソウの缶詰」というのも謎だったのだが、あれは、アニメの創作で、
当時も今も「ホウレンソウの缶詰」というのは存在しない、というのは、つい
最近知った。

 だろうな。
 葉物野菜の缶詰……あったとしても、とてつもなく不味そうだし……

 『ポパイ』では、どう見ても「やせぎすの老けたおばさん」にしか見えない
「オリーブ」をめぐって、大の男二人が張りあう…という構図もまた、当時子
供だったわしらには不思議なことだった。

 オリーブ、力づくでブルートにかっさらわれても、なんの抵抗もせずに「ポ
〜〜〜パ〜〜イ! た〜〜すけて〜〜!」と叫ぶだけ…なのも、子供ゴコロに
やや「イラッ」ときた。

 日曜日の夜に、8チャンネルの『ポパイ』が終わると、その直後には、「赤
とんぼ」のBGMとともに、「週刊新潮は、ただいま発売中です」という、や
やたどたどしい子供の声のコマーシャルが流れてきて、これを聞くと、「ああ、
日曜が終わってしまう…」という空虚な思いにとらわれたものですが、今で言
う「サザエさんシンドローム」ですね。

 国産アニメや漫画の中にも「不思議」はあった。
 『ハリスの旋風(かぜ)』や、『男一匹ガキ大将』で、石田国松や戸川万吉が、
肩から提げてた、白いズックの通学鞄。『夕焼け番長』でも使ってた。

 わしらが使ってた通学用の鞄は、小学校の低学年時ではランドセル、その後、
5年生くらいからは布製の手提げの学生鞄で、中学高校では革製の学生鞄、と
いうのが普通で、漫画やアニメではよく登場する、ズック製の白い肩掛け鞄、
というのは、使ったこともないし、使ってる人を見たこともないのだった。

 あれは、戦前の旧制中学的「バンカラ」をイメージさせるために敢えて登場
させてたアイテムだったのでしょうか?
 石田国松の「ハリス学園」など、なんでか戦前の中学と同じ「5年制」だっ
たし。

 映画『Stand by me』で、4人の子供たちが線路伝いに歩きながら、「マイ
ティ・マウスとスーパーマン、どっちが強い?」「バカ! マイティ・マウス
は漫画だけど、スーパーマンは本物だから、スーパーマンが強いに決まってる
だろ」と、とても子供らしい議論をするシーン、とても好きなのだが、わしら
もまた、似たような議論を、よくしておりました。

 「バットマンとスーパーマン、どっちが強い?」とか。
 『逃亡者』のリチャード・キンブルは、「名犬ラッシーと一緒に逃亡したら、
追手がきても、わんわん吠えてすぐに知らせてもらえる」とか。

 テレビで『スーパージェッター』が放映されていた時期、だからわしは小学
4年の時。
 同級生4、5人で遊んでいたら、誰かが「あ! ジェッタ―の時間や!」と
言い出したのだった。
 『スーパージェッター』は、見逃してはならん、ということで、そこから一
番近かったシブヤくんの家でテレビを見ることになった。

 シブヤくんちの居間に皆して押しかけ、わいわい言いながら『ジェッタ―』
を見ていたら、夕食の準備の手を止めたシブヤくんのお母さんが、粉末の「ジ
ュースの素」で作ったオレンジジュースを持ってきてくれた。

 皆にグラスを配ったお母さんは、しばらくテレビの『ジェッタ―』を立った
まま眺めていたのだが、やがて感慨深そうに、わしらに向かって言うのだった。
 「ジェッタ―は、えらいねえ。みんなも、ジェッタ―みたいにならんと、あ
かんよ」
 と、わしの隣にいたトシちゃんが、真剣な顔で答えて言った。
 「おばちゃん、ジェッタ―は、30世紀から来たんやで。ぼくら、20世紀の人
間やから、ジェッタ―には、なれへんわ。流星号も持ってへんしな」

 『ジェッタ―』のエンディングテーマが終わった白黒の画面では、丸美屋の
「スーパージェッターふりかけ」が賑やかにコマーシャルされていた。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第90回 新渡戸稲造氏の生き方

 新渡戸稲造、という人に興味があった。樋口一葉の前の5,000円札の人であ
る。

 昭和59年から平成16年まで流通していた。そもそもこのときに新渡戸稲造っ
て誰だか知らなかったし、『武士道』の作者だった、とか、国際連盟の事務局
次長だったとか、経歴について断片的に知ることになったけれど、その後も特
に伝記を読んだわけではなく、そのままにしていたが、やはり気になってはい
たので、これを機会に新渡戸稲造について書かれた一冊の本を手に取ることに
した。

『明治のサムライ −「武士道」新渡戸稲造、軍部と戦う−』
(太田尚樹 著)(文藝春秋社)(文春新書)(2008年)

新渡戸稲造。教育家。農政学者。
1862年(文久2年)盛岡生まれ。
1877年(明治10年)札幌農学校の二期生入学(15歳)。その後東京大学へ。
1884年(明治17年)米国ジョンズ・ホプキンス大学留学(22歳)。
1887年(明治20年)独ボン大学へ(25歳)。
1891年(明治24年)結婚(米国人メリー・エルキントン)。帰国。札幌農学校
         教授(29歳)。
1900年(明治33年)英文『武士道』出版。ヨーロッパ視察(38歳)。
1901年(明治34年)台湾総督府民生部殖産局長心得(39歳)。
1906年(明治39年)第一高等学校校長就任(44歳)。
1918年(大正7年)東京女子大学初代学長(56歳)。
1920年(大正9年)国際連盟事務次長(58歳)。
1926年(大正15年)国際連盟事務次長を退任。貴族院議員(64歳)。
1929年(昭和4年)太平洋調査会理事長(67歳)。
1933年(昭和8年)カナダ・ビクトリア市にて客死(71歳)。

 新渡戸稲造の印象。彼について現代の日本人はどれだけ知っているのだろう。

 5,000円札の肖像画の人(これでさえ、替わってからもう10年以上経ってい
る)。『武士道』の著者(このことを知っている人は多いだろうが、実際にこ
の『武士道』を読んだ人はおそらくぐっと少ないだろう)。国際連盟事務次長
(日本人にとって国際連盟の印象はあの松岡外相による脱退の情景に尽きるの
ではないだろうか)。

 いずれにしても幕末に朝敵だった盛岡の武士の家に生まれて、さまざまな所
で学び、英語が堪能で、教育家、そして有能な官吏であり、明治大正昭和を生
きた新渡戸稲造は半ば忘れられた偉人、と云っていいかもしれない。もったい
ないことだと思う。

 新渡戸稲造は、札幌農学校での課程を終えて、東京大学に入学する時の面接
で、「太平洋の橋になりたい」と述べて、面接官を驚かせた。日本と西洋。日
本の長所を西洋に紹介し、西洋の長所をどしどし輸入する、そのような橋渡し
の役をやりたい、ということだった。経歴をみると、まさしくその希望に沿っ
た人生を歩んだ、と云えるだろう。

 本書は、そんな新渡戸稲造の生涯を追いながら、彼の取った行動を彼の思想
から考察する。新書版なので、一般向けにわかりやすく書かれている。

 新渡戸稲造と云えば、『武士道』が有名である。この『武士道』を彼はなぜ
書いたのか。という疑問がある。日本人の行動様式、思想形成に大きな影響を
与えているのは、特定の宗教とではなく、武士の行動様式、武士の思想による
処が大きい。と看過したからに他ならない。英語で書かれたこの本は出版時期
が日露戦争後だった、ということも重なり、全世界で大いに読まれたらしい。

 日本人の知識層は、西洋の唯一絶対神を信じるキリスト教と対立を求めず相
対的な仏教や神道の影響を受けた日本独自の精神と、このふたつの思想が自分
の中で相克している状況であり、それは開国したときから始まって、未だにそ
のふたつを抱えている。そして新渡戸稲造がまさにその典型であるように映る。

 彼の晩年(国際連盟事務次長を退任してから。それは時代が昭和に入ったと
きと重なる)に、彼は満州事変や上海事変を起こした軍部を憎み、国内では軍
部を批判したが、外では日本の取った行動に理解を示し、日本の立場を擁護し
ている。個人の意志に反した行動を取ることは、すなわち新渡戸の中に時代の
雰囲気、時勢というようなものが反映されていたのであろう。日本の精神が誇
張され、過大に評価され、「愛国心」ということばに収斂されてしまう、結果
として一度は日本を滅ぼした思想に、新渡戸でさえ抗えなかったことの証左で
あろうと思われる。

 この晩年の新渡戸が体験した時代の雰囲気は、どこかいまの日本の雰囲気に
似ていることは、さまざまな人が警鐘を鳴らしているとおりだ。

 新渡戸稲造の生涯は、誠実に生きることの難しさを、現代の我々に教えてく
れる。

多呂さ(東京は梅雨入りと思ったら、長い梅雨の中休みに入ってしまったよう
な気圧配置です)

 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
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 出張続きで、気が付くと10日も過ぎ去っていました…。すみません。20日号
もまもなく配信致します。(あ)

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 ダイヤモンド社様より献本頂戴しました。

・久我谷亮『脳疲労が消える最高の休息法 CDブック』
 https://www.diamond.co.jp/book/9784478101919.html

 ありがとうございます!

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#83『新宿ピットインの50年』

 前回取り上げた『宮澤賢治、ジャズに出会う』にもあったが、日本に初めて
本格的なジャズ・ブームが訪れたのが、1920年代。
 つまり、そこから現在まで大体100年が経っていることになる。
 したがって、50年といえば、その半分を占める年月であるわけだが、その長
きに渡って、日本のジャズの中心としてシーンを牽引し続けてきた老舗のライ
ブハウスがある。
 
 新宿ピットインである。
 
 この店名、ぼくはずっと不思議に思っていた。

 ピットインといえば、レースで車が給油やタイヤ交換、オーバーホールのた
めに一時停まることだ。これとジャズと、一体何の関係があるのだろう???
 もしかすると、ジャズメンの隠語か? はたまた音楽用語か?
 だが、どんな本を読んでもそんな言葉は出て来ない。

 実は、答えは気抜けするほど簡単だった。

 元々は成城大学自動車部に所属する学生が、カーマニアの溜まり場がほしい
と思い、開いた喫茶店だったからなのだ。

 だとすれば、このネーミングはまっとうすぎるくらいまっとうだ。

 その学生、佐藤良武が、両親の営む洋品店のデッドスペースを借りてピット
インをオープンしたのは、1965年、12月24日のクリスマスイブ。
 
 だが、佐藤の目論見ははずれた。

 現在のピットインは新宿二丁目にあるが、開店当初は三丁目、伊勢丹脇の裏
通りにあった。
 今でこそ「裏原宿」などと言って、表通りから少し外れた界隈がかえって注
目されたりするが、その頃はあまり人通りもない、文字通りの「裏」だったら
しい。
 そのため、狙ったような自動車好きの客はあまり来ず、代わりにBGMとし
て流していたジャズを目当てに、音楽好きの若者が集まるようになった。
 60年代の半ば、ステレオはまだまだ贅沢品であり、金のない若者にとって、
レコードを流す店は貴重な情報源だったのだ。だから、ジャズ喫茶を始め、名
曲喫茶、シャンソン喫茶、タンゴ喫茶と、各ジャンルのレコードを売り物にす
る喫茶店が軒を連ねていた。現在のカラオケボックスの先駆形態である、歌声
喫茶なんてのもあった。
 
 ともあれ、そうして集ったピットインの客の中に、ジャズメンの卵たちがい
たのである。
 彼らには演奏する機会がほとんどなく、あっても譜面通りに吹く仕事ばかり
で、自由に即興し、新しいサウンドを追求する場がなかった。
 それを知った佐藤は、当初の目的から転じ、店内にステージをつくって、ラ
イブハウスに舵を切ったのであった。

 ひとつの文化が潮流を生み出すためには、「場」というものが必要だ。
 しかし、それは往々にして人の意図を越え、偶然が偶然を呼ぶ形で形成され
ることが多いような気がする。
 新宿ピットインも、典型的にそのケースだと言える。
 もし、佐藤の目論見が当たってカーマニアが集まっていたら後のピットイン
はないし、日本のジャズも随分形を変えてしまっていただろう。
 それが、幸運にも(!)失敗することによって、ヒョウタンから駒の喩え通
り、ライブハウス、ピットインが生まれたのだ。

 もうひとつ幸いだったのは、佐藤がカーマニアであっても、ジャズマニアで
はなかったことである。

 だから彼は、音楽的なことに一切口出ししなかった。いや、出来なかった。 
 ジャズに詳しいオーナーであれば、「これはジャズではない」と拒否したか
もしれないような新しい音楽を、むしろジャズには素人で、旧来のジャズに思
い入れがない佐藤だったからこそ、オープンな態度で受け入れることができた
のである。
 
 それだけではない。タイミングも味方した。

 渡辺貞夫が人気プレイヤーの座を捨てて、単身渡米。バークリー音楽院に留
学して学んだ知識を、帰国後、惜しむことなく仲間に伝えたという、日本ジャ
ズ史に有名な美談があるが、これがちょうどその頃だったのである。
 それまでの経験的なジャズ演奏に理論的な体系が与えられた、いわば、日本
のジャズがアメリカのモダン・ジャズを消化し、その地平を越えてオリジナル
なものを創造しようとする胎動期。
 まさにその時期に、新宿ピットインが現れる。
 これを、天の配剤と言わずして何と言おう。

 かくして野心に燃えたミュージシャンがピットインに続々と集結し、さまざ
まな実験を始めた。その勢いがいかに旺盛であったかは、当時のピットインが
朝の部、昼の部、夜の部と三部制であったことからも伺い知れる。朝っぱら
(といっても、この世界のことだから、昼の12時だが)からわずかなギャラで
も演奏したいと願うミュージシャンが、それだけたくさんいたということなの
だから。
 
 しかし、演奏する者ばかりでは、「場」は成立しない。聴き手が必要だ。

 この点でも、新宿という土地柄が、味方をした。
 
 時代は、学生運動華やかなりし頃。ことに新宿には過激な学生が多く集まっ
て、ピットイン開店の数年後には新宿騒乱があり、西口フォークゲリラが出没
することになる。
 
 ぼくはまだ小学生で、後から本でこうしたことがあったのを知り、遅れて来
た世代であることを恨めしく思ったものだ。あと、10年早く生まれていれば、
この騒乱の新宿をリアルタイムで体験することができたのに、と。
 もっとももしそうだったら、過激派学生からそのまま過激派ゲリラになって、
内ゲバと呼ばれた不毛な内輪同士のテロに巻き込まれ、早々とくたばっていた
かもしれない。何とか生き延びたにしても、よど号ハイジャックにでも加わっ
ていま頃は北朝鮮に埋もれていたかもしれないので、幸いだったとも言えるが、
それはともかく。
 
 騒然とした雰囲気の中で新宿に集まった若者たちは、さまざまなセクトに分
かれていたが、既成の体制にアンチを唱える思いは同じだった。
 そしてそれは、既存のジャズに飽き足りず、音楽的冒険に挑んでいくジャズ
メンたちへの熱い共感となったのである。
 ミュージシャンとオーディエンスの、幸福な一致。

 そのシンボルとなったのが、新宿ピットインのレギュラーとして活躍した山
下洋輔だ。
 
 ドラムに森山威夫、サックスに坂田明を迎えた時代の山下トリオは、毎回全
力で音楽に没入した。森山は足が攣るまでバスドラを蹴り、坂田はのたうち回
ってブロウし、山下は拳や肘でピアノを叩き、ついには足蹴りまでかます。
 その格闘技のようなフリージャズには、これまでのジャズを破壊し、その廃
墟の上に、全く新しい音楽美を構築しようとする強烈な意志があった。
 革命を志向する学生たちだからこそ、敏感にこの音楽革命に共振できたので
ある。
 
 山下トリオが出演する夜のピットインは、満員の聴衆が詰めかけ、熱狂の坩
堝となった。演奏者と聴き手が真剣勝負で対峙する、その激しい嵐のような時
間は、いまとなっては関係者の証言からおぼろげに浮かび上がるものを想像す
るしかない。
 
 そういう意味で、その時代を体験した人たちの言葉を記録に残すことは重要
だが、しかし、その山下洋輔もいまや75歳。先輩である、渡辺貞夫は84歳。彼
らの生い立ちを含め、ピットイン黎明期の思い出を書物としてまとめておくた
めに、そう長い時間が残されているわけではない。

 そこに2015年、本書が出た。

 このタイミングの絶妙さも、ピットインという「場」が、いまもまだ「持っ
てる」証拠だろう。

 山下を始め、新宿ピットインで伝説的なパフォーマンスを繰り広げてきたミ
ュージシャン18名を、佐藤良武自らがインタビューして、半世紀に渡る歴史を
まとめた『新宿ピットインの50年』。
 監修は音楽ライター、田中伊佐資。編集は、新宿ピットイン50年史編纂委員
会。

 本書をひもとくだけでなく、いまもなお日毎、夜毎、伝説を生み出し続けて
いる新宿ピットインを、あなたも訪れてみませんか?

田中伊佐資 監修
新宿ピットイン50年史編纂委員会 編
『新宿ピットインの50年』
2015年12月24日 初版印刷
2015年12月24日 初版発行
河出書房新社

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今年のポール・マッカートニーは、ついにパス。まあ、前回の来日公演で、な
んか、堪能しきった感があり、行くとすれば武道館か、と思いつつ、とはいえ
10万はないでしょ。それに、東京ドームに比べれば、そりゃあ小ぶりな会場で
はあるが、やはり遠くに豆粒ほどのアーティストを見ることに、さほどの興奮
を感じなくなってきたのです。その点、ライブハウスはいい! アーティスト
の息遣いが伝わるような、場の一体感が違います。今回取り上げた新宿ピット
インのみならず、下北沢のシェルター、mona records、basement bar……今月
は六本木の虎寅虎で月光グリーンの2DAYSに参ります!行くぜ!R&R!

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『ジャパン・メイド・トゥールビヨン』浅岡肇編著 日刊工業出版社

 前回紹介した『100万円超えの高級時計を買う男って馬鹿なの?』をきっか
けに知った日本の独立時計師浅岡肇の名前を検索したら出てきた本。日刊工業
新聞創刊100周年記念出版である。

 独立時計師というのは、1からムープメントから何から全て自分たちの手で
時計を来る人たちで、一般にはスイスにある独立時計師アカデミーという団体
のメンバーをさす。
http://www.ahci.ch/members/

 世界トップレベルの技術力を持っている人でないと入れない組織である。そ
の中に日本人が2人いる。そのうち1人が浅岡肇氏である。腕時計の中に日本
人として初めてトゥールビヨンという機構を入れた時計を作った人。トゥール
ビヨンとは時計の姿勢差(上向き下向き仰向けうつぶせなど)によって生じる
誤差を補正する機構のこと。
 置き時計の振り子に当たるテンプと、テンプを動かす脱進機を回転させるこ
とによって姿勢差による誤差を最小限にしようとする機構で、有名な時計師ブ
レゲが発明した。

 これを腕時計に入れる試みは戦前からあって、実際に腕時計に組み入れられ
たこともあるのだが、当時の工作精度では腕時計では思ったほど精度が出ない。
そのため腕時計の権威ですらトゥールビヨンは要らないと言ったこともあると
か。

 それが1980年代になるとCADと新素材の進化によって工作精度が向上し、
本当に機能するトゥールビヨンが作られるようになり腕時計に搭載されるよう
になる。とはいえ、つくるのに高い技術力が必要なのは変わらないため、高級
時計メーカーは競うようにトールビヨン搭載の、しかも永久カレンダーやミニ
ッツリピーターのような複雑機構を組み合わせた時計を作って、自社の技術力
を誇示している。

 で、この本は浅岡氏が「PROJECT T」という時計を作っていくドキュメント
だ。もともと、普通のノンフィクションのような最後には感動する物語を読ん
でいるような感じではない。そういう要素は全くなくて、強いて言えばカタロ
グや製品の説明書に近い。カタログや製品の説明書と違うのは、熱量である。
こんな熱いカタログ、説明書は、たぶんどこのメーカーも作っていないはず。
ちなみに「PROJECT T」の価格は800万らしい。
https://www.youtube.com/watch?v=pgg6AaFD8zg
http://www.ablogtowatch.com/hajime-asaoka-project-t-tourbillon-indepedent-japanese-watch/

 で、内容だが、最初の浅岡氏のトゥールビヨンができるまでの背景説明が読
みごたえが満点。背景説明といっても書いてあるのは戦後のスイスと日本の時
計メーカーの興亡史だ。他の人の書評で、この部分を特に高く評価する人が多
いのもむべなるかな。

 戦後日本の時計メーカーはスイスに追いつこうと懸命になって生産性と精度
の向上に取り組んできた。1960年代におそらくロンジンとおぼしきスイスの時
計メーカーの社長が日本の時計工場を訪問した時に組立作業がスイスよりも進
歩していて驚愕した。大量生産システムのラインがすでにできていたのだ。こ
の頃にアメリカメーカーの多くが脱落。

 しかしスイスの時計メーカーの動きは遅く、クオーツの時代になると瞬く間
に日本製の時計が世界を席巻し、スイスの時計メーカーは窮地に追い込まれる。
クオーツの開発は当初スイスの方が進んでいたにもかかわらずだ。

 しかし、それでもスイスは当初は踏ん張っていた。スイスもクオーツを作っ
ていたし、まだクオーツは出たての技術で薄型ムーブメントやクロノグラフは
作れない。そんな時に起きたのがドルショックで、通貨の変動相場制への移行
によってスイスフランが高騰し、コストが合わなくなった。

 そのためスイスメーカーは生き残りをかけて薄いムーブメントを貴金属のケ
ースに収めたブレスレットウオッチにシフトした。ところが、そんなタイミン
グを見計らったかのように金相場のアホみたいな高騰がやってきた。これでス
イスの時計産業はとどめを刺されて壊滅的状況に追い込まれてしまう。

 しかし、機械式腕時計にはまだ生き残る場所はあった。汎用ムーブメントの
開発でコストを下げつつデザインに注力し、活路を見いだす。その典型例が有
名なオーディマ・ピゲの「ロイヤルオーク」。ステンレスケースを使って「金
(Gold)を使わずにどれだけ時計の値段を上げられるか」に挑戦する。

 またシースルーバック(裏ぶたをガラスにして内部機構を見ることができる
ようにしたもの)の開発も大きかった。そして今ではスウォッチのような大量
生産品も作るが、一部では大量生産に目を背けて恐ろしく手がかかった、少数
しか作れない、趣味性の高い、高付加価値のとれる時計にシフトすることで復
活を遂げたのである。

 なんでこんな背景説明があるのかというと、浅岡氏の作る時計は単なる日本
最初のトールビヨンであるだけでなく、日本メーカーの高度な技術力に支えら
れた、スイスの一流メーカーでもおいそれとは真似できない、革新的な設計が
されているからだ。

 そこから先は、時計の部品一つ一つの解説が続く。機械に詳しい人でないと
どれだけすごいのかは見えにくいかも知れないというか、私もちんぶんかんぷ
んな部分が多々あるが、言葉の端々に凄みは感じる。

 軸受けにボールペアリングを使うことと、ムーブメントの分割設計を挙げよ
う。腕時計の軸受けには普通ルビーが使われるが、「PROJECT T」では8箇所
にルビーの替わりに世界最小のボールベアリングを使っている。トゥールビヨ
ンは軸受けが構造的に弱くなる泣き所があり、ボールベアリングなら高性能・
高耐久が実現できる。これをいち早く採用したが、だからといって搭載はそう
簡単なことではない。

 ムーブメントの分割はゼンマイの載る動力源部分と精度を追求する調速部分
を分割している。これは動力源には高負荷に耐える機構が、調速部には繊細な
機構が求められるのに従来のムーブメントのように一体化しているのは合理的
ではないというのと、拡張性(複数の動力源と調速部の組み合わせで商品のバ
リエーションが容易に拡大できる)ことを見据えたもの。しかしこれも思いつ
くのは簡単だが、従来の高級時計程度の精度ではまともなものは作れない。

 「PROJECT T」にかかわったメーカーはメインが超精密加工を得意とする由
紀精密と、国内有数の工具メーカーであるオーエスジー。ボールベアリングは
ミネベア製だ。浅岡氏の持つスキルもすごいものがあるが、彼の構想を実現で
きるだけの、スイスの超高級時計メーカーを凌駕する技術を持つ、こうしたメ
ーカーがないと「PROJECT T」は実現できなかった。

 日本の時計メーカーは確かにクオーツで世界を制した。今でも技術力はスイ
スに勝るとも劣らないものがある。しかし製品の付加価値はどうなのか? 日
本メーカーもクオーツショックの時期のスイスメーカー同様、手をこまねいて
見ているわけではない。工芸品としての価値を訴求した1本5千万円もする腕
時計もつくっておれば、クオーツと自動巻きのいいとこ取りのスプリングドラ
イブ、世界一薄い光発電時計を開発したりもしている。着々と打つべき手は打
っている。

 しかし、腕時計以外の製品を作る、他のメーカーはどうなのか? 多くが今
なお大量生産、効率化のキーワードでくくられる旧来の鉱工業生産の延長線上
にあると言えるだろう。そうした方向性とは逆の、高い技術力を持つ人が手間
ひまをかけた、大量生産や効率とは真逆の製品にも活路はあるのではないか? 
それをこの本は問うているのだと思う。

 その意味では、日刊工業新聞社100周年記念本として、確かにふさわしい内
容をもつ本である。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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正しく理解しようよ、発達障害
『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』
栗原 類 著(KADOKAWA)

 最近、発達障害への関心が高まっていますよね。高まっているのはいいので
すが、その高まり方に違和感が少しあります。

 捉え方が曖昧で、漠然とし過ぎていると思いません?

 極論すれば、「みんな違ってみんないい」的なやさしさに満ち、「それぞれ
の個性または違いを認め合おう」的なざっくり感。

 これってホントに障害を認めたことになるのかなあ。「それって個性だよね」
と言って距離を取ってるというか、敬遠しているというか、見て見ないフリし
ているというか。

 それってどうよ?と思っていたのであります。

 が。専門的な本を読むにはハードルが高い。そこで、テレビの人気者の本か
ら始めようと思った次第です。

 栗原類は「笑っていいとも」などでネガティブだけどパリコレモデルで、タ
ロットカードが得意なタレントとして10代から登場して人気になりました。暗
いけどトップモデルというギャップ、タロットという技があるというブレーク
の条件が揃っていたのがよかったのかな? 

 最初は発達障害であることは知られていずに、今回の本でカミングアウトと
いうことになりました。それによって「類君って障害があったんだね。でもい
い人だよね。」という世間の評価が得られたわけですが、やはり仔細に読んで
みると、障害というのは本人と肉親にとって、ヘビーなことだと言わざるをえ
ず、「個性だよね」でスルーしていいものではないと感じました。

 担当医師によると障害は軽い方とのことですが、感覚が鋭敏でこだわりが強
く、注意散漫で記憶が残らず(よって学習障害がある)、人の感情が読めない。
幼稚園時代から周囲の音をうるさく感じ、学校では成績が取れず、

 具体的には、仕事で現場に行こうとするけれど、途中で場所が分からなくな
るなど、さまざま。何かいつもと違ったことがあると感情的になったり、パニ
ックに陥ったりも。

 それに対して、親はその都度、繰り返して、感情が揺れたら一度冷静になっ
て考えることや、思ったことをすぐに言葉にするのではなく、立ち止まって考
えることをアドバイスすることで、生活を支障なく過ごすことをアドバイスし
ます。

 手間と根気と努力、そして愛情が必要な子育てです。

 それらの工夫と努力のしかたを読むと、とても「個性だよね」と一言で言う
ことではないと感じます。

 障害がないとされる側もこのへんは再確認しておきたいことだと思われます。

 栗原類の母の工夫は読んでいてなるほどと納得!

 おばちゃまはここで、「母の愛を感じた」「この母が偉いよね」とかの感想
は言いません。たぶん、私も同じ立場になったら同じことをしたと思うし、で
きるかどうかは別にしてどうにかして子どもが生きる可能性を見つけようとあ
ちこちとぶつかりながらも必死になったと思うからです。おかあさんてそうい
うものだものね。

 もう1つなるほどと思ったことがあります。

 栗原類を芸能の世界で仕事をさせようとしたとき、周囲は否定的なことを言
う人が多かったそうですが、母は音楽関係のライターをしている立場からこう
言います。

「否定的なことを言う人のイメージは誰もが知っている大スター。でも主役だ
けが俳優ではないし、テレビドラマだけが俳優の仕事ではありません。舞台や
ミニシアター系の上映館数の少ない映画の脇役も俳優業で生活しています。
『俳優業で自分1人ぐらいは食べていけるぐらいにはなろうね。30歳までの間
に』」と言ったとあります。

 仕事柄、インディーズから大スターまでさまざまなビジネスの成立の仕方を
見てきたので「売れなくても食う方法はある」と知っていたのです(省)。

 そうそう、一家を養ってこそ一人前とか、スターを夢見てがんばるとかだけ
を目標にしなくてもいいんだと、ちょっと肩のチカラが抜けた感じがしました。
 
 また、障害があるとたとえばテーマパークに行っても刺激が強すぎて1時間
で疲れてしまう。そんな時はコスト(せっかくお金払って来たんだから)を考
えずにすぐ帰るほうが子どものためという記述にもはっとさせられました。

 本題以外にも、目からウロコをぽろぽろはがしてくれる記述があり、いつも
思うのですが障害のことを考えると子育て全般、また人間関係全般を顧みるき
っかけになった読書体験でした。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 今月はやや遅れ、での配信となりました。

 昨日は仕事での出張のついでに、ある地方都市を訪問していました。元々は
賑わった商店街だったのでしょうが、今や見る影もなく、シャッター街と貸し
ます売りますの貼り紙だらけ…。

 ビジュアル的には「昭和ノスタルジー」で価値があると感じましたが、何せ、
人が居ない。数件、開いているお店にも、老人の姿しかおらず、戦時中にタイ
ムスリップしたかのようでした。

 普段、都心に住んでいるとわかりませんが、日本の地方のあちこちで、同じ
ようなことが起こっているのかと思うと、とてももったいない気持ちがします。

 こればかりは政治が何とかしなくてはいけないのでしょうが、有権者も施政
者も高齢化しており、もっと思い切った方法が必要な気がします。(あ)

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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→『青春の門』と『さらば星座』そして『つづり方兄妹』

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→想像もつかないこと、ありえないことから生還する方法

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→詩を日常に

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<89>『青春の門』と『さらば星座』そして『つづり方兄妹』

 五木寛之『青春の門』がこの春から「週刊現代」誌上にて、『新 青春の門』
として、23年ぶりだかで連載が再開されているそうだ。
 「そうだ」というのは、その連載をまだ一度も読んでいないからなのだが、
これ、今さら改めて連載を再開する必要が「あるのか?」というのが、このニ
ュースを聞いたときに感じた、素直な感想。

 というのも、数年前にふと、この長編小説を、わずかに「第一部・筑豊編」
と「第二部・自立編」しか読んでいなかったことを思い出し、改めて既刊すべ
てを文庫でそろえて読んでみたのだ……が、巻数を重ねるにつれ、物語はなに
やらご都合主義の行き当たりばったりの様相を強くしてゆく。
 あげく、日本を飛び出し、ひとり世界を放浪する「信介しゃん」が、ヨーロ
ッパあちこち行く先々で女とやりまくる……だけ、という、なにやら『高校生
無頼控』(小池一夫・原作/芳谷圭児・画にて、かつての「漫画アクション」
で人気を博し、映画化もされたスケコマシ漫画です)を思わせる展開に終始し
ていて、やや辟易した覚えがあるのだ。

 果たして、その続編はいかがに? と思うと、なかなか読む気になれないの
であった。

 「週刊現代」誌上で『青春の門』が連載されていたのとほぼ同時期に「週刊
ポスト」に連載されていた小説が、黒岩重吾『さらば星座』だ。
 「だ」と決めつけているけど、実を言えば黒岩重吾のそれは、天王寺の「ブ
ックオフ」にて文庫版全13巻が 100円コーナーに出ているのを見るまで、存在
も知らなかったのだけどね。
 黒岩重吾は、「西成モノ」はじめ、大阪の底辺を描いた作品が好きだったの
で、その流れの作品かな? と買って帰って解説など読むと、これが『青春の
門』と同時期に「ポスト」に連載されていた、とわかって、なにやら不思議な
偶然を感じたのだった。

 多分、「現代」誌上の『青春の門』が話題となったころ、これに対抗する連
載として、ライバル誌の「ポスト」で始まったのがこの『さらば星座』だった
んじゃないかと思う。
 時代背景もまるで同じだし、昭和戦前生まれの少年が戦後の混乱期から昭和
30年代にかけて、波乱万丈の青春を過ごしつつ成長していく大河小説、と言う
道具立ても同じだ。

 そして、筑豊生まれの「信介」も、大阪生まれの「正明」も、ともに両親を
亡くした孤児である、という点も同じ。

 が、「信介」が、両親をともに亡くしながらも、実父の後妻に実の子のよう
に育てられ、さらにその後養父となるヤクザの親分・塙竜五郎はじめ、とても
恵まれた人間関係の中で青春期を過ごすのに対して、大阪生まれの戦災孤児・
正明の運命は苛烈だ。

 住吉の家を両親もろとも空襲で失った正明は、誰も頼る者のない焼け跡で、
路上生活を重ねながら、生きるために盗み、時に手ひどい仕打ちを受けながら
も、路上や闇市で知り合った同じ戦災孤児の仲間たちのリーダーとして、裏の
社会で次第に頭角を現してゆく。

 大阪や神戸の焼け跡や闇市をはじめ、荒廃した大都会の表とその裏、そして
そこに蠢く男たち、女たちの様子が、さすが『西成山王ホテル』の黒岩重吾、
眼前にありありとその光景が浮かぶほどに活写されている。

 物語は、終戦直後からほぼ十と数年間にわたって、正明の成長とその周辺の
激動が描かれるのだが、全13巻、息をもつかせずぐいぐいと一気に読ませる力
技。
 この「物語力」というのは、とても凄まじい。

 この『さらば星座』、読んでるうちにいつの間にか、頭の中で各キャラクタ
ーをあの独特な絵柄で勝手に造形し、物語を「佐藤まさあき」の劇画世界に変
換しつつ見ておりました。
 黒岩重吾の描く大阪裏社会は、陰影の濃い画面の中で人物の顔が微妙に歪ん
でいる、佐藤まさあきの劇画タッチが実によく似合う。

 これ、文庫も現在は絶版のようだが、ぜひとも復刻してほしい。
 さらに、わしが脳内で劇画化してた佐藤まさあきはもう故人なので、その弟
子の松森正の絵で、漫画化…いや、あえて「劇画化」もしてほしいと思う。
 この大河物語は、やはり漫画ではなく「劇画」でこそ、読みたいと思うのだ。

 南シナ海や日本海方面がなにやらキナ臭い昨今だからこそ、今やすっかり忘
れられている「戦災孤児」という存在を、もう一度思い出してみるのも、悪く
ないと思うのだ。

 野坂昭如の一連の「戦災孤児もの」もまた同じ理由で、(『火垂るの墓』ば
かりではなく)もっと広く読み継がれていいんじゃないかと思う。
 わしだって直接に体験したわけではないけれど、「あの時代」があって、今
があることを、決して忘れてはならんとも、思う。

 その意味で、同じく忘れて欲しくない一冊が、『つづり方兄妹』だ。
 わしがこれを読んだのは、小学校の5年生か6年生の時…だから、1966年か
67年。
 母親の実家の本棚で見つけたそれは、当時高校生だった叔父が小学生の頃、
祖父が買い与えたものだったそうだが「ちっとも読まんと放りっぱなしや。い
るんやったら持って帰れ」と言われてもらってきた本だった。

 野上丹治、洋子、房雄という兄弟3人は、戦後の数年間で、それぞれにいく
つもの作文コンクールに入賞した経歴を持ち、彼らの作文を集めたその本は、
理論社から1958年に発売されるやたちまちベストセラーとなり、映画化もされ
た…というのは、読んだ当時は知らなかったのだが、当時の自分と同じ年代の
子供たちが書いた作文には、ただ「うまい」だけではない、なにか底の方から
訴えかけるものを感じさせられたのだった。

 上二人、丹治、洋子兄妹の文章から、彼らの弟である房雄が、わずか8歳で
亡くなっている、という事実を知り、その当の房雄の作文が、極貧の中にあり
ながら、毎日の生活や学校での出来事を活き活きと、天真爛漫に明るく綴って
いて、思わず涙もした。

 房雄の文中では、「理科のテストをかやして(返して)もらいました」、「家
へかいる(帰る)と」、「ちょっとも、しりません」とか、あるいは「ひちや
(質屋)さん」等々、大阪弁そのままの表記がそのまんまで使われていて、こ
れは少し羨ましかった。

 わしが、その少し前に宿題で提出した作文では、「人がようけおった」「べ
っちょないさかい」と書いたところが、いずれも朱筆で「たくさんいた」「だ
いじょうぶだから」と訂正されていたのだった。

 兄弟の中で唯一、父親が総督府の仕事をしていた台湾で生まれ、温暖な土地
で、現地人の女中も雇う豊かな生活を経験している長男・丹治による、その台
湾生活の思い出の記もまた、帰国後の窮乏生活とあまりに対称的で、強く記憶
に残った。
 現地で戦犯として逮捕された父親を残して母子で帰国し、父親の実家近くの
バラックに落ち着いたものの、帰国後に出産した長女と丹治二人の子供を抱え、
さらに口唇口蓋裂の障害を持って生まれた長女の治療費を稼ぐため、無理に無
理を重ねてついには病に倒れる。

 その後、ようやく帰国のかなった父親が、鋳掛屋やブリキ職人として一家の
生活を支えるが、戦前の生活を思うと、父親なりの鬱屈もあったのだろう。時
として気まぐれに仕事を放り出しては、酒におぼれること度々。
 貧乏人の子沢山を地で行くごとく、丹治、洋子、房雄の下にさらに3人、合
計6人の子供を抱え、生活はますます窮乏してゆく。

 そんな生活の中で生み出された3人の綴り方の中でも、「モスクワ国際児童
つづり方コンクール」で一等賞を受賞しながら、その知らせを受ける前に8歳
で病に斃れた房雄の作文が、貧しい生活の中での喜びや悲しみを実に素直に、
何の衒いもなくありのままに綴っていて、とても胸を打つ。
 たとえば、こんな風だ。

 お正月には
 むこうのおみせのまえに
 キャラメルのからばこ
 ひろいに行く
 香里のまちへ
 えいがのかんばん見に行く
 うらの山へうさぎの
 わなかけに行く
 たこもないけど たこはいらん
 こまもないけど こまはいらん
 ようかんもないけど ようかんはいらん
 大きなうさぎが、かかるし
 キャラメルのくじびきがあたるし
 くらま天ぐの絵がかけるようになるし
 てんらんかいに、一とうとれるし
 ぼく
 うれしいことばっかしや
 ほんまに
 よい正月がきよる
 ぼくは、らいねんがすきや
   (野上房雄『お正月』小学校2年生時)

 この、「ぼくは、らいねんがすきや」という一節が、その「らいねん」は、
とうとう来なかったのに、と思えば余計に切なく、胸に迫る。同時に、今の
子どもたちにも、皆に「らいねん」が好きでいてほしい、と思う。

 この『つづり方兄妹』に関しては、何年か前の朝日新聞紙上で、著者の一
人である野上洋子さんの近況が報じられていた。
 それによると、現在…というかその当時は、すでに結婚もされ、夫ととも
に縫製工場を経営されているとの由で、長男の丹治さんは、海外で暮らされ
ているとのことだった。

 その記事を読んで俄かに昔読んだこの本を思い出し、もう一度読み返した
くて、実家を探してみたのだが見当たらず、古本屋さんにもなくてあきらめ
たきり、忘れていた。
 今回、『青春の門』『さらば星座』から、どんなふうに連想がつながった
のか、ふとまたこの本を思い出し、ひょっとしたら、と図書館に問い合わせ
ると果たして蔵書していて、香櫨園の市立中央図書館まで出向いて借り出し
てきた。

 再読してあらためて、一家が住んでいたのが、戦前の陸軍の火薬製造保管
施設のあった場所で、現在は香里団地となっている場所であるとわかった。
 房雄たちの通っていた香里小学校は、団地ができて移転するまで、その陸
軍の施設内にあった兵舎を流用した校舎で、モスクワのコンクールで一等に
なった房雄の作文は、その小学校が、朝鮮戦争の特需から火薬工場再開の話
が持ち上がり、立ち退きの危機に瀕したことを、綴ったものだ。
 火薬工場の計画は、住民の大反対によって中止となるが、その後、今度は
同じ場所に、大規模住宅団地の計画がもたらされ、「ほんとうにこまったこ
とになりました。このごろ『おじぞうさん、どうかぼくたちの学校がひっこ
ししないように、おたすけください』といって、いのっています。」と結ば
れている。

 『つづり方兄妹』もまた、現在は絶版となっているみたいだが、権利関係
かなにか、復刻できないわけでもあるのだろうか?
 出来るならば、図書館の閉架に蔵書されるばかりではなく、これもまたぜ
ひとも復刻し、読み継がれて欲しい本だ。
 さらに欲を言うならば、漫画化もしてほしい。
 はるき悦巳なんか、絵柄的にぴったりだとも思うのだが、どうだろうか?

 ところで、香里団地最寄りは、京阪電車「香里園」駅なのだが、ここに限
らず、京阪電車沿線には、余所では見られない不思議な光景が、その駅前近
辺に展開する。
 京阪電車の駅近辺にはなんでか、私設の駐輪場…たいていは個人経営らし
い「自転車預かり所」が、どの駅にも無数にあるのだ。

 それは、たとえばしもた屋の入り口土間を解放したものだったり、元はな
にかの店だったのを仕切りや什器を取っ払い、がらんどうにしたものや、あ
るいはそれ用にわざわざ建てられた倉庫様の建物だったり…形態は様々なの
だが、いずれも入り口に小さなブースがあって、管理のおじさんやおばさん
が常駐し、1日およそ「200円」〜「300円」。月単位なら割引もあるみたい
だ。

 香里園のひと駅隣の「寝屋川市」駅など、駅前商店街のアーケード内まで
にも、数軒の「自転車預かり所」が進出していて、どことも結構な繁盛なの
である。

 我が最寄駅にも駐輪場はあるが、それは市営のもので、京阪沿線のように、
民間の駐輪場が駅周辺にやたらとある光景を、他の場所で見かけたことは、
とんとない。

 『つづり方兄妹』たちの小学校が移転した後に造成された香里団地は、我
が国最初の大規模住宅団地だったらしいが、あの施設駐輪場は、香里団地を
皮切りに、いずれも駅からやや離れた場所に団地が次々と建設された、京阪
電車沿線独自の「文化」なのかしら?

 わしが以前住んでいた神戸市北区の街も、やはり1960年代に開発された住
宅団地だったが、この最寄駅にはかつて、駅舎内に「下駄箱」が設置されて
いた…というのを、古い住人から聞いたことがある。
 団地は駅周辺に造成されていて、通勤の人々は、駅まで歩いて行くのだが、
その道がいずれも未舗装で、雨が降るとぐしゃぐしゃドロドロとなるその道
を、長靴や下駄で駅に行き、そこで「通勤用」の靴に履き替えて、帰りはま
た駅で長靴に履き替えて帰宅する…ための下駄箱だったそうだ。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第89回 想像もつかないこと、ありえないことから生還する方法

 今月はサバイバルの本。生存していくための手引書を紹介する。

 大地震、大津波、大噴火。それから大事故やテロリズム。その場に居合わせ
た人々は、否応なく巻き込まれ、死んでしまうか、はたまた幸運にも生き残れ
るか。死と生存の差はなんなのか。死者と生存者との境界線はどこに引かれて
いるのか。・・・・・・そういうことを考察しながら、死なないための方法が
書かれた本。
 書いたのはアメリカ人の女性ジャーナリストで出版された年は2008年。

『生き残る判断 生き残れない行動−大災害・テロの生存者たちの証言で判明』
(THE UNTHINKABLE Who survives when disaster strikes-and why)
(アマンダ・リプリー 著)(Amanda Ripley)(岡真知子 訳)
(光文社)
(2009年12月初版 2011年7月6刷)(2008年)

 原題が示している“想像もつかない−大災厄に襲われたとき、誰が生き残っ
たか そしてなぜなのか”という表現がそのまま日本語版の副題に適している。

 9.11、ハリケーン カトリーヌ、ドミニカに置ける米大使館占拠事件・・
・ets.
 著者は、さまざまな災厄のその現場にいた人たちにインタビューして、危機
管理や心理学の専門家に話を聞いて、本書をまとめている。
 本書は、防災の本ではない。災厄の最中に何が起きているのかを観察して、
そこから生存への行程を導き出そうとする、とても意欲に富んだ書物である。

 死の危険がそこに迫ったとき、人はどうするのか?
 著者は、そのとき人は3つの段階を踏みながら、生き抜いていく。3つの段
階を経て生還する。という。その3つの段階とは「否認」、「思考」、「決定
的瞬間」・・・と表現された現象であり、この3つの段階を経ないと生存はで
きないのではないか、と考えている。

 人は何か大きな災厄に見舞われたとき、まず「否認」するという。自分は今
とんでもない災厄の中にいる、ということ自体を否定してしまうのだ。この
「否認」の状態のままで次の段階に進めなかった人は限りなく生存の可能性は
低い。生存者は大なり小なり「否認」の段階から次の「思考」の段階へ進んで
いる。そのきっかけは、隣の人の放った発言だったり、外の風景が目に飛び込
んだりすることだったりする。そして、それによって次の「思考」段階へと移
行していく。

 異常事態の中で、脳の働きはどうなっているのだろうか。生存者の証言とさ
まざまな実験によって、いろいろ解明されてきた。人はそのとき、生存のため
に何を選択するのだろうか。その場から逃れるのか、それともそこに留まるの
か。一般的に云えば、生存のためには逃げる=避難、と考えるのであろうが、
逃げたために(動いたために)格好の標的になり、殺されてしまうこともある。
日本ではそういう事例はめったにないが、米国ではしばしば銃の乱射事件が起
こる。犯人は逃げようとしてあたふたと移動している人から殺している。そし
て“死んだふり”をして微動だにしない人が助かったのだ。死んだふりをした
人は、動いて殺さている人の様子を見て、「否認」状況から「思考」段階へと
移行して、そして助かった。
 「思考」は「回復力」と云い替えてもよいかもしれない。「否認」の段階か
ら「思考」に移行した人は、つまり脳を含めた身体が生存への欲求を取り戻し、
正常に活動し始めたと考えるとわかりやすいと思う。

 さて、危機的状況のときに、何もしない状況(否認)を抜け出してどう行動
すれば助かるか、と考えること(思考)まで達した人は、次にそれを行動に移
すばかりとなる。行動を起こすときこそが、第3段階の「決定的な瞬間」なの
だ。

 助かった人は、なぜ他の人たちよりもはるかに適切な行動を取れたのだろう
か。それをさまざまな事例を紹介して解き明かしていく。本書の核心部分とい
っていい。
 そして、それらの事例から導き出された本書に書かれている生還するために
最も大切なこと。結論を書いてしまおう。とても大切なことだから。

 あらかじめ何度も繰り返して練習すること

 これに尽きる。

 当たり前に云われていることなので、肩すかしを喰らってしまった。“適切
な事前の計画と準備は、最悪の行動を防ぐ”。・・・・・ということだが、こ
のあたり前のことができていないし、やらせる側もやる側も力を出してやって
いなし。ラジオ体操は精一杯行えば、終わったときに汗をかく。でも手と足を
適当に動かしているだけ(やったふり)では、なんにもならない。・・・・・
ちょうどそれと同じだ。

 私たちの立場で云えば、災害の避難訓練を繰り返し行いなさい、ということ
である。火災に対する避難訓練。地震に対する避難訓練。津波に対する避難訓
練。・・・・・これらの避難訓練はすべてその逃げる場所や逃げ方が違う。火
災の場合、初期消火に失敗したらとにかく逃げなくてはいけない。どこに逃げ
るかは延焼類焼状況によって異なる。そのときその場の判断である。地震の場
合は、どうすればいいか?その建物が倒壊の危険があればどこに逃げるのか。
倒壊の危険がなければ、その場に留まるのか。そして火災の危険も発生する。
災害は1つではない。津波の場合は、とにかく高いところへ。

 どれも何度も繰り返すことが大切。考えなくても身体が勝手に動く、という、
あれだ。

 自分の住んでいる場所を知り、何に対する備えをすればいいかをよく考えて
みよう。そこには活断層はあるのか。そこは地盤が緩いのか。そこは盛土では
なのか。そこは木造密集地か。そこは0メートル地帯か。・・・・・それぞれ
調査して観察して最善の備えをし、そして繰り返し助かるための練習をする。

 本書を通じて、さまざまな災厄から生還した人たちのたくさんの事例をみて
きた。そして本書の結論である「あらかじめ何度も繰り返して練習すること」
を激しく共鳴した。

 とてもいい本を読むことができた。ある意味において幸せだった。


多呂さ(今年は端午の節句が立夏でした。そして暦通り、初夏です)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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72 詩を日常に

『こうえん』
『どれがいちばんすき?』

 ジェイムズ・スティーブンソン 作/千葉 茂樹 編訳/岩波書店

 数年ぶりにがっつり風邪をひき原稿を書くのがとても遅れてしまいました。
 風邪症状があると本を読んでいても
 いつも頭に雲がかかったようになり、
 考えることそのものがめんどうになり
 まあ、いいやと
 すぐ投げやり思考になってしまうので、おとなしく過ごしていたのです。
 
 さて、今回ご紹介するのは、
 手にしたときに思わず「きゃー!!」と声がでたほどすてきな詩の絵本。
 これは大人にもつよくおすすめしたいです。

 雑誌「ニューヨーカー」の人気イラストレーターである、
 ジェイムズ・スティーブンソンによるイラストと詩を
 収録した日本オリジナルアンソロジー。

 小ぶりで背表紙の本のタイトルが幼年向け絵本の雰囲気なのですが、
 生活体験の多い大人のほうがにやっと笑ってしまう内容です。

 たとえば

 「じてんしゃにきをつけろ」

 じてんしゃは しってしまった
 じゆうに はしるよろこびを

 ちゃんと つないでおかないと
 にげだしちゃうかもしれないぞ

               『こうえん』より

 この詩のイラストは自転車が電信柱などにチェーンで固定されているもの。
 確かに逃げ出さないようになっているなと見入ってしまいます。

 スティーブンソンのイラストは、
 詩の言葉と絵を呼応させています。
 軽やかな線画に水彩の色をやわらかくのせ、
 さらにユーモアものせているのがすてきです。

 私はスティーブンソンのイラストが大好きなので
 みているだけでも、自由な気持ちになり、
 ずっとみていると、自分でも絵が描けたらなあと夢見るほど。

 「ふねのした」

 そのむかし
 あおいさかなが むれおよぎ
 イルカが からだを くねらせた
 ドロシー丸の へさきのしたで
 きんいろの いぬが ねむっている
 すずしい ひかげは きもちいいから

                『どれがいちばんすき?』より

 ドロシー丸が描かれた一枚の絵から、
 あおいさかなも、
 イルカも
 目の前に見えてくるようです。
 もちろん、
 すずしいひかげの下のきんいろのいぬの心地よさも。

 それを伝えてくれる、千葉茂樹さんの翻訳もよいのです。


 頭がつかれているなあと思う大人のみなさん、
 ぜひ2冊を手にくつろいでください。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
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6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今回は原稿待ちでちょっと遅くなりました。5月なのに寒い日があったりと
気候が何やら不安定ですね。皆様もご自愛ください。(あ)

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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『宮澤賢治、ジャズに出会う』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『100万円超えの高級時計を買う男って馬鹿なの?』

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです。

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#82『宮澤賢治、ジャズに出会う』

 引き続き、ジャズ・レコード誕生 100周年にちなんで、ジャズ史の本を渉猟
している。そんな中で「出会った」のが、本書『宮澤賢治、ジャズに出会う』
だった。

 著者は奥成達。
 この名前、どこかで見た記憶があるのだが、思い出せない。カバー見返しの
プロフィールには、詩人・エッセイスト、とある。10代の頃にこの名を知った
ような気がするから、当時ぼくが読んでいた雑誌にでもエッセイを連載してい
たのだろうか。

 それはともかく、なんともキャッチーなタイトルである。

 宮澤賢治とジャズ。一見、無関係そうな取り合わせ。

 だが、賢治の熱心な読者は、特に奇異には思わないかもしれない。
 「風の又三郎」の「どっどど どどうど どどうど どどう」のような、特
有のリズム感に溢れた言語表現はジャズのスキャットを彷彿とさせる、という
ようなこともあるし、彼が最後まで文章を彫琢し続けたという「セロ弾きのゴ
ーシュ」にも「馬車屋のジャズ」という言葉が出てきたりもするわけで。

 しかし、著者が着目するのは、大正15年、同人誌に発表された2篇の詩であ
る。
 ひとつは、「『ジャズ』夏のはなしです」
 そして、その改稿である、「岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」
 その引用から、本書は始まる。

 詩の内容は、改稿版のタイトルにある通りだ。
 つまり、岩手の田舎を駆け抜ける列車の軽やかな走行風景を、ジャズの陽気
なリズムと自由なアドリブにも似た、奔放な文体で描いているのだ。

 ここで問題なのは、大正15年という年なのである。

 実は、日本でジャズが流行し、この言葉が人口に膾炙するのは、昭和に入っ
てすぐの、いわゆるモボ・モガ時代。
 そう、昭和4年に、西条八十が出世作「東京行進曲」で、「ジャズで踊って
リキュルで更けて」と歌った、あの時代である。

 僅か数年の差ではあるけれど、東北新幹線もない時代に岩手の花巻に住んで
いた賢治が、帝都東京の流行に先んじて「ジャズ」を知っていた、というのは、
ちょっとしたミステリーだ。

 では、彼はいつ、どこで、ジャズに出会ったのだろう?

 この疑問が、著者を日本ジャズ史の旅に誘う。

 しかし、本書は詩人の手になる本だ。音楽評論家や学者のように、直線的に
筆は進まない。あちこち脱線しながら、賢治とつかず離れずで、あたかも、ジ
ャズメンが原曲のメロディを崩して演奏するフェイクのように、寄り道回り道、
くねくねと蛇行しながら進んでいく。
 そして、先に結論を言ってしまうなら、結局、賢治がいつ、どこでジャズと
出会ったのか、そしてそのジャズとは、どんなものだったのか、はっきりとは
わからないまま本書は終わる。

 しかし、それが読者をまったく失望させないのは、ジャズという音楽が日本
という異国と出会い、さまざまに解釈され、誤解もされ、それが新たなジャズ
を生み、流転していく様が、実に興味深く描かれているからである。つまり、
タイトルでは賢治が主語になっているが、真の主人公はジャズの方であって、
賢治は一種の狂言回しであるとも言える。

 まずは、遡ること1953年。ペリー来航の時、黒船に乗ってきた楽隊が、アメ
リカの音楽を侍たちの前で披露したエピソードを皮切りに、サーカスやチンド
ン屋の音楽、活動写真(そう言えば、セロ弾きのゴーシュも活動写真館の雇わ
れ楽士だった)の音楽、浅草オペラ、レビュー、ダンスホール、そして太平洋
戦争の勃発に伴い、敵性音楽として国家によって禁じられるまでの間に、アメ
リカ音楽がどのようにこの国に受容され、ジャズとして確立されていったのか
を追っていく。

 その道筋のそこかしこには、綺羅星のごとき時代の有名人の名が煌めく。

 例えば、日本に帰化して小泉八雲となる前のラフカディオ・ハーンが、ジャ
ズ草創期のニューオーリンズにいたということをあなたは知っていたか?
 はたまた、賢治とはまったく相容れない、享楽的な人生を送った中原中也が、
賢治の詩に心酔していたことを?
 さらには、ブルースの女王、タンゴの女王と言われた淡谷のり子が、実はジ
ャズ・シンガーの草分けでもあったことを?

 他にも、日本のジャズのメッカとなった浅草に魅せられた、川端康成、谷崎
潤一郎、江戸川乱歩といった作家たち。日本特有のジャズをつくりあげた、エ
ノケン、二村定一、ディック・ミネ、南里文雄らのミュージシャンたち。

 そんな人々の人生を語り、著作を引用しながら、著者は賢治とジャズの出会
いを探る。

 賢治は生涯の中で数回にわたる上京をしており、その都度、あちこちのホー
ルや演芸場を見て歩いているから、恐らくそのどこかのタイミングでジャズに
出会ったのだろうとは推測がつく。
 しかし、その時期は、やはり定かではない。

 また、ジャズと言っても、いまのわれわれが思う「ジャズ」と、賢治が出会
った「ジャズ」は、違うサウンドだったかもしれない。

 昭和3年に大ヒットした、二村定一の「私の青空」はジャズ・ソングと呼ば
れたが、いまの感覚で言うとむしろポピュラー・ソングである。だから、仮に
賢治がその少し前に、東京のどこかのホールでジャズを聴いたとしても、それ
はそうした音楽の前身に当たるものだった可能性は高い。

 チンドン屋の音楽も楽器編成はジャズ的で、後世、篠田昌巳が名盤「コンポ
ステラ」でチンドン・ジャズという道を切り拓いたけれど、しかし大正末期に
賢治が街でチンドン屋の奏でる音楽を聴いたとすれば、それはむしろいまでい
うジャズよりは、ユダヤ人の伝統音楽であるクレズマーに近しいものだったは
ずだ。

 一方、本場アメリカではディキシーランド・ジャズから、ビッグ・バンド、
そしてスイングへ、という時代である。
 賢治はオーディオ・マニアで、乏しい収入の多くをレコードに注ぎこんでい
たというから、上京の折に手に入れた輸入盤を通じて、アメリカン・ジャズを
リアルタイムで聴いていた可能性も否定できない。

 著者は明確な結論は避けているが、もし、先の2篇の詩を手掛かりにするな
ら、ぼくの推理は、後者だったのではないかと告げる。

 この詩の中に、ジャズの演奏シーンは出て来ないし、ジャズメンも登場しな
い。一回だけ出てくる「ベース」を除けば、楽器も現れない。鉄道の詩なので
ある。
 なのになぜ、賢治はタイトルに「ジャズ」という、当時はまだ多くの人が知
らなかった言葉を持ちだしたのか。

 彼の詩によく使われる、イリドスミンやディアラヂットといった地質学用語
と同じく、異化効果のある珍しいカタカナ言葉として使われたのだろうか。

 いや、それならば、本文の中にちりばめられば済んだことだろう。
 タイトルに『ジャズ』もしくは(ジャズ)と、わざわざ付けたのは、この詩
のモチーフではなく、コンセプトが「ジャズ」である、という宣言に違いない。

 先に、「ジャズの陽気なリズムと自由なアドリブにも似た、奔放な文体」の
詩だと書いた。
 つまり、一言で言えば、スイング感だ。
 それも、めちゃくちゃ高速のスイング感である。
 何しろ「とび乗りのできないやつは乗せないし/とび降りぐらゐやれないも
のは」どこまでも連れて行くという、乱暴きわまるノンストップの最終列車を
描いた詩なのだ。
 まさに、ジャズ固有のスイング感の言語化である。

 もしそれが賢治の試みようとしたことであるならば、アメリカン・ジャズの
スイング感を知っていなければ書けなかったのではないかと思うのだ。逆に言
うと、知っていたからこそ、このコンセプトを思いついたと思うのだ。
 なぜなら、二村定一やエノケンのジャズ・ソングには、そこまでのスピード
感とスイング感はないからだ。チンドン・ジャズにしても、もっとゆったりし
ている。
 しかし、アメリカのジャズには当時既に、デューク・エリントンに代表され
るような、極めて都会的なスリルに溢れるスイング感があった。
 それを聴いた賢治が、アメリカン・ジャズの本質がそこにあると見抜いたか
らこそ、この詩のコンセプトは生まれたのではないだろうか。

 それにしても、ほとんどの日本人が、まだジャズという言葉すら知らなかっ
た時代に、宮澤賢治はどうしてここまで深くジャズを理解できたのだろう。

 天才、と言ってしまえばそれまでだが、むしろそれこそが、永遠の謎なのか
もしれない。


奥成達
『宮澤賢治、ジャズに出会う』
2009年6月20日 印刷
2009年6月30日 発行
白水社


おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今月から、某カルチャースクールで文章教室の講師を始めました。生まれて初
めての体験ですが、パワポの資料を使って長々喋るのは、日頃仕事でやってい
ることなので、さほど苦にはなりません。こちょばゆいのは、「先生」と呼ば
れることです。何しろ、生徒さんのほとんどが自分より年長の方なのです。み
なさんより「後」に「生」まれたぼくが、「先生」はおかしいでしょ。でも、
他に言葉はないですしね。月に一回、とりあえず半年。このこちょばゆさを楽
しんでみようと思っています。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『100万円超えの高級時計を買う男って馬鹿なの?』
         マキヒロチ 広田雅将 シムサム・メディア

 腕時計が好きな男は多いとは言えないが、それなりにいる。定番はロレック
スやオメガなどだが、このあたりはファッションやステータスシンボルとして
つけている人も多いので本当に好きかどうかは聞いてみないとわからない。

 しかし、普通ではあまり見かけない、時計好きしか知らないようなブランド
の腕時計をつけている人は、まず間違いなく好き者だろう。

 で、これは時計雑誌の編集者たちが高級腕時計について全く知らない、興味
ない漫画家さんを引き連れて高級腕時計の世界を訪ねて行くというコミックだ。

 作品の目的は明らかで、素人に高級時計の素晴らしい世界に誘おうというも
の。監修は時計ジャーナリスト広田雅将氏。本編と続編と二冊発行されている。

 一応、タイトルでは高級時計は 100万円オーバーとしているが、実際には価
格何十万クラスの時計もネタに挙げられている。

 最初に高級時計例をカラー写真で紹介した後にコミックが始まる。
 最初のタイトルは「薄型はすごい」

 岩手県雫石町にあるセイコーの雫石高級時計工房を訪問し、高精度な部品の
加工過程を見学。なぜ薄型の時計を作るのが難しいかを知るのだが、出てくる
人は実在する本物のマイスター。桜井守氏だ。
https://www.youtube.com/watch?v=aruNiT6fsTk

 2番目のタイトルは「オーバーホールは高くない」
 機械時計は定期的にオーバーホールに出さないといけないと、実はこれ読ん
で初めて知った。このテーマではドイツの高級ブランド、ランゲ&ゾーネのメ
ンテナンス工房を訪問。ドイツ以外では世界に6人しかいない同社公認時計師
の森山治彦氏からメンテナンスの実際を見せてもらう。

 で、この二話の終わりには広田ハカセの時計コラムが入り、コミックでは描
ききれなかった解説が入る。

 薄型時計に機械式が多いのはゼンマイのトルクが電池式より強く、大きな見
やすい針を動かせるから。クオーツで同じことをやろうとすると今でも細い短
い(そして見やすくない)針しか使えないから機械式と比べてデザインに制約
がかかるそうである。

 また機械式時計は買う時よりも買ったあとのメンテナンスの方が実は大事で
買った後にもカネがかかるという解説が入る。そんな感じで三話四話も、五話
六話もセットになって進んでいく。

 私が中学に入って初めて腕時計を買ってもらった時にはもうクォーツの時代
だった。機械式は電池交換が必要ないが精度が落ちる程度の認識しかなかった。
当然メンテナンスなんか考えたことすらなかったので、「おおっ、そうなのか!」
なんて感じに驚く。

 ちなみにクオーツもオーバーホールすると長持ちするそうだ。

 一番びっくりしたのは、機械時計のカレンダーのこと。機械時計のカレンダ
ーは製品によって多少違うが21時から3時にはカレンダー合わせをしてはいけ
ない。これは機構上の問題で知らずにやると機械を故障させるリスクがある。

 そんな機構の説明も書かれているけど、それがどういうことかわからなくて
も、ネットで探せば実際にこの時間に時計のムーブメントがどんな状態になっ
ているのかビデオがアップされていたりする。今はそんな時代である。

 で、こういう大原則は、時計を買う時に店員さんが説明してくれるのだろう
けど、高級時計ともなると買う方も舞い上がっているから、ついつい忘れて、
いけない時間にカレンダー合わせをして、買った当日いきなり故障させるなん
てこともありそうである。

 クロノグラフやトゥールビヨン、脱進機、磁気のリスク(これは続巻)など
メカニズムのネタだけではなく、時計師を養成する時計学校の話や新品やアン
テークの買い方の話もある。そんな感じで続巻合わせて21話ある。この21話を
読むだけでも初心者は卒業できるくらいのレベルにはなるのではないだろうか?

 腕時計の雑誌というか、ムックの類いは何十年も前から出ている。しかし内
容はぶっちゃけ新作モデルカタログみたいなのが多く、写真に少しばかりのう
んちくが並べてある程度のものしかなかったように思う。

 なので多くの場合10冊も買えばそれ以上買わなくなる。定期的に買っていれ
ば何回もロレックス特集が組まれて、しかも内容にほとんど違いがないとわか
るからだ。だから私も20年ほど前にその手のムックは買わなくなっていた。

 しかし、いつの間にかこの分野の雑誌も進化してたようで、この作品の出典
元であるクロノスという腕時計雑誌はカタログ的側面は今もあるけども、かな
り専門的なところまで踏み込んでいく雑誌になっているようである。うんちく
のレベルが過去の雑誌よりもワンランク、ツーランク高度になっている。
http://www.webchronos.net

 そしてこの本を足がかりにして色々調べていくと、いろんなことがわかって
くる。セイコーが機械式時計のメーカーとしても世界トップクラスの実力を持
つ会社で、同レベルの機械式時計メーカーはバティックフィリップなどスイス
にも数社しかない。

 あるいはスイスの時計メーカーは、多くがスウォッチやリシュモンな企業グ
ループの傘下にあるが、スイスには独立時計師と呼ばれる個人から数人レベル
で超高級腕時計を作っている人たちがいて、トップクラスの独立時計師のグル
ープに日本人が二人もいることも今回初めて知った。

 そんな感じで、マニアには常識なのかも知れないが、初心者にはとても発見
の多い本である。時計に興味がない人には無用の本だが、ちょっとでも興味が
あるなら、読んで損はないと思う。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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  界は変わる。』(SCICUS)
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  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
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■あとがき
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 超・遅くなりました。あさってから5月ですね。

 って、先月とほぼ同じコメント…。成長がないなぁ。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.627


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■■ mailmagazine of book reviews      [自分の命の責任をもつ 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→甲子園に湧いた雲、溢れた光と吹いた風・漫画篇

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→復刊絵本のきっかけ

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→理性的な災害対応行動をとる

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<88>甲子園に湧いた雲、溢れた光と吹いた風・漫画篇

 まずは、訂正を。
 前回の当欄で、ただ今の我が国の首相の名前を「阿倍晋三」と誤記しており
ました。
 「安倍晋三」が正解。訂正致します。
 訂正はするけど、誰に迷惑かけたわけでもないので、お詫びはしない。

 カゴイケさんが豊中につくろうとした「安倍晋三ユーゲント」は、とりあえ
ず頓挫したみたいだが、わしらが知らんうちに安倍ちゃんは、その「お友達ネ
ットワーク」を通じてあちこちに「ユーゲント」をつくる計画を進行させてい
たことも、徐々に明るみになってきた。

 この安倍ちゃんがよく口にしてた「戦後レジームからの脱却」というのは、
つまり戦前の「軍国主義回帰」だというのも、一連の騒ぎから透けて見えてき
た今日この頃。

 軍国日本は、かつてこの国から「野球」を消滅させた過去を持つ。

 戦後に復活した野球は、なので…というか、進駐軍の占領政策とも相まって、
「自由」と「民主主義」のシンボルとなったのだ。

 我が家近くの女子大では毎年、春と夏には「ようこそ甲子園へ!」と大書し
た横断幕が、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下に張り渡される。
 この渡り廊下の下の道路が、全国各地から集まってくる応援バスの指定ルー
トに当たっている故だ。

 今年もまた、センバツの季節がやってきて、球場周辺は、プロ野球のときと
はやや質を異にする熱気と喧騒で、約2週間、お祭りめいた空気に包まれる。
 ここ、西宮では…つーても南部臨海地区だけかもしれんが…センバツが、春
を告げる風物詩でもある。

 夏もそうなのだが、春にも、大会期間中に1、2度は、勤めの行き帰りなど、
ついでにかこつけては球場に足を運んで、その「お祭り」に参加したりもする。
 高校野球は外野席が無料で開放されているので、「ほんのついで」というお
手軽さで、観戦できてしまうのである。

 甲子園球場は2007年から3年がかりで大掛かりなリニューアル工事が施され
ていて、あのころとはかなり様子が違っているのだが、球場の中に身を置いて、
アルプススタンドの声援を身近に聞くと、その昔にここへ母校の応援に来たこ
となど、懐かしく思い出したりもする。
 わしの母校は中高一貫校で、1969年と70年のセンバツに出場していて、まだ
チュー坊だったわしも、応援に参加していたのである。

 応援用に学校からバスがチャーターされていたのだが、わざわざ学校まで行
くのは遠回りでめんどくさかったので、わしら…というのは神戸とか阪神在住
者は、電車で直接甲子園へ行った。
 球場に着くと、アルプス席の入り口付近にバス組が集合していて、バラバラ
と到着する電車組にも、その都度先生が入場券を渡してくれた。券面に記され
た入場料は、確か「200円」だったと記憶する。

 今年、2017年のセンバツは、史上初めてという大阪勢同士の決勝となったが、
昔…中学1年生頃まで、わしは、「選抜」というのは、夏と同じく各都道府県
の代表として選抜されるのだと勘違いしていた。(昔は夏も、奈良と和歌山が
合わさった「紀和」とか、京都と滋賀の「京滋」とか、一県一代表では必ずし
もなかったので)
 なので、その当時、毎年兵庫県から2校が出場しているのは、「開催地特典」
だと一人合点で思い込んでいた。

 1969年の大会は、だから当然、我が校は「兵庫県代表」の、その「かたわれ」
なのだと思っていたのだが、わしにとっては初めての「甲子園応援体験」でも
あり、この年には「優勝候補の一角」と目されていたこともあって、よく覚え
ている。

 初戦は、神奈川県の鎌倉高校で、これを「3−2」の僅差で振り切ると、二
回戦では千葉の銚子商業を「14−2」という大差で破ってベスト8に進出した。
 が、準々決勝、東京の堀越学園戦では、2点を先行され、途中から降り始め
た雨の中、泥まみれで1点を返したものの、再三の好機にも反撃叶わず、「1
−2」で敗れた。

 この年の対戦相手は、なぜかすべて関東の高校なのだった。
 準々決勝で負けた相手の堀越学園は、この年決勝まで進出し、相手はどこだ
っけか忘れたが、10点以上の点差がつく大敗で準優勝だったのも、よく覚えて
いる。

 この大会からしばらくして、「少年サンデー」で新連載の野球漫画が始まっ
た。
 タイトルも作者もまるで覚えてないのだが、その「第1話」が、母校対堀越
学園の、甲子園雨中の準々決勝で始まっていて、「お!」と思ったのだ。
 …が、その漫画の中でわが母校のユニホームの胸には、ローマ字で「MITA」
とネームされていて、当初の「お!」は、みるみる萎んだ。
 わが母校は、「三田」と書いて「さんだ」と読む。ユニホームのネームは、
当時も今も「SANDA」だ。

 ここ数年は、春と夏の高校野球のシーズンになると、阪神電車甲子園駅から、
球場へ至る広場、そして球場の外壁まで、「少年マガジン」連載中の『ダイヤ
のエース』のバナーや横断幕、ポスターで埋め尽くされるのが恒例となってき
た。

 さらに、一昨年の夏だったか、応援バスの駐車場近くの路上では、「少年マ
ガジン」のロゴ入りシャツを着た人たちが大きな段ボールとともに待機してお
り、ゾロゾロと長い列を作って球場からバスに向かう応援団の高校生たちに、
『ダイヤのエース』第1〜3話ほどを冊子にしたものを無料で配布していた…
のは、確か当欄にも書いた記憶がある。
 冊子には、web版のURLも記載されていて、続きが気になったら、バスの中か
らスマホでアクセスすれば、その続きが読める仕掛けになっていた。

 若者の「漫画離れ」が著しい昨今、高校生たちになんとか「漫画」に目をむ
けてもらおう、という作戦だと思うが、講談社は、毎年春夏のこの期間中に、
いったいどのくらいの広告料を甲子園周辺につぎ込んでいるのか……
 今年は、『ダイヤのエース』に加えて、同じく「少年マガジン」連載の『8
月アウトロー』のバナーも参戦していて、二本立てでアピールしている。

 『ダイヤのエース』『8月アウトロー』もそうだけど、「甲子園」は、漫画
の世界でもまた、過去から現在にわたって、数々のエピソードを生んできた。

 星飛雄馬クンは、花形満率いる、神奈川県代表・紅洋高校との決勝が雨で順
延となったのを幸い、誰にも告げず宿舎の旅館を抜け出しては、準決勝で左門
豊作と対戦した際に傷めた、利き手の左手指を治療してくれる医者を探して、
甲子園の街をあてどなく彷徨した。
 決勝を前に意気盛んなチームメイトたちであれば、なおさら負傷したことを
誰にも告げられず、密かに治療してくれる医者もまた見つからず、いたずらに
焦燥を募らせてゆく、番傘に下駄履きの星飛雄馬、十六歳の夏なのだった。

 山田太郎クンは、初戦を突破して次の対戦を待つ某日、やはり甲子園球場近
くの旅館を一人抜け出し、阪神電車で梅田に向かった。
 遊びに行ったワケではなく、電車に乗るのもまた、山田クン流のトレーニン
グの一環なのだった。
 梅田行き特急電車に乗り込んだ彼は、昼間の空いた車内なのに座ろうともせ
ず立ったまま、「なるお」「むこがわ」「あまがさきせんたーぷーるまえ」…
と、高速で通過するホームの駅名票を、次々と読んでいく。
 驚く乗客に、「動体視力を鍛えてるんです」と説明する彼は、続いてやおら、
座席と座席の間に捕手の姿勢でしゃがみ込んでは、揺れる車内で「バランス感
覚を養う」トレーニングに励み、「いやはや、さすがに、大したもんやないか
い」と居合わせた見知らぬおじさんたちから感心されるのだ。

 でもしかし、「山田式動体視力トレーニング」ですが、これ、ふと思い出し
た時に新幹線で試してみたけど、結構、読めます。フツーの視力で。

 山田クンや星クンの時代には、甲子園周辺と阪神間の旅館が、「球児の宿」
の定番だったようだが、近頃は、阪神間や神戸、大阪のビジネスホテル、とい
うのが一般的なようだ。
 かつてはたくさんあったらしい旅館も、球場周辺では今や2軒だけになって
しまったが、残った2軒はそれぞれ、鹿児島県と東京都の代表チーム定宿とし
て健在だそうだ。

 その昔の我が校もそうだったのだが、兵庫県や大阪の、甲子園からほど近い
代表校までもが、なんでわざわざ旅館やホテルに宿泊するのか、「無駄じゃな
いか」と不思議だったのだが、あれは、大会規定なのだと知ったのは、つい最
近。
 近隣、遠隔の不公平をなくし、すべてのチームを同じ条件とするために、ど
のチームにも宿泊が義務付けられているんだそうで、宿舎は各都道府県の高野
連が契約し、費用も負担してくれるらしい。
 だから、甲子園球場から直線距離で約6キロの報徳学園も、わざわざ球場か
ら20キロ以上離れた、神戸・ポートアイランドのホテルに宿泊していたのだっ
た。

 という風に、宿舎の場所まで特定できるのは、毎大会ごと、各チームの「宿
泊先一覧」が、宿舎名・住所・電話番号併記してデカデカと球場の一角に掲示
されているからなのだけど、あれは、OBなんかが差し入れしたりするためな
んでしょうか?

 大会規定といえば、球場で高校野球を見ていると、夏も春も同様に、昔は必
ずあった応援団による試合後の「エール交換」というのを、見かけなくなった
な、と思っていたら、これもまた、「スムーズな進行を妨げる」との理由でた
だ今は禁止されてるんだそうだ。
 あれは、復活させた方が「学生野球」らしくて、いいと思うんだがな…

 さそうあきら『シーソーゲーム』は、多分まだ「エール交換」のあった、19
89年から90年にかけて講談社「ヤングマガジン」に連載された。
 こちらは、作者・さそうの出身地、宝塚近辺とおぼしき阪神地方の県立校野
球部が舞台。

 東京生まれながら、中学生の頃に越してきた関西にすっかりなじんでいる主
人公は、そこそこの才能を持ちながら、サボリ癖と根性なしのヘタレで、その
才能をいたずらに腐らせているピッチャー。
 そんな彼のもとに、かつて東京のリトルリーグでチームメイトだった女の子
が転校してくる。
 なかなかの美人に成長した今も、かつてと同じく野球に情熱燃やす彼女に尻
を叩かれる形で、主人公以下ヘタレな野球部員たちが発奮し、その後紆余曲折
はありながらも、やがて……というのが、おおまかなストーリー。

 野球をメインのモチーフとしながら、サブプロットでちょっと甘酸っぱい青
春ストーリーも展開する。
 そのキャラクター設定と配置は、その後の『タッチ』に似てなくもないが、
関西風の「ボケ&ツッコミ」が頻発するところと、ヒロインの「一子」が「み
なみ」ちゃんよりもっと、野球に対して能動的積極的にかかわってくるのが、
ちょっと違っていて、わしは、断然こっちの方が好き。

 この『シーソーゲーム』には、とても「兵庫県」らしい描写がある。
 一子が野球部のマネージャーとなり、ダレダレヘタレの部員たちも俄かに発
奮したその後の「第4話」、いきなり「ばーん!」と見開きで甲子園球場の全
景があり、「オレは今」「甲子園におるんや!」と、主人公・松方銀次が、そ
のグランドに立っているのである。

 と、それは、実は夏の選手権大会兵庫県予選の「開会式」に参加しているだ
け、とすぐに明かされるのだが、これは、今はない光景。
 兵庫県以外の人には、ちょっとした「トリビア」らしいのだが、1992年まで、
兵庫県大会の開会式は甲子園球場で行われていて、予選もまた、プロ野球の日
程の合間を縫って、1回戦から10試合前後が、甲子園球場で行われていたのだ。
決勝もまた、もちろん甲子園だった。

 その後、県内に本格的な球場が相次いで建設された(「バブル」の時期には
ことに)こともあって、予選で甲子園が使用されることはなくなり、開会式も
明石球場に移ったのだが、だから、ある時期まで、兵庫県の高校野球部員でさ
えあれば、あのグランドには立てたんである。

 実際、1969年のわが母校チームの主砲…後にプロ野球某チームの監督も務め
ることになるスラッガーだったのだが…彼などは、後年のインタビューで、
 「甲子園ちゅーても、開会式やら予選やらで、1年の時から何回も行ってた
んで、選抜でも、特に感激とかは、なかったですわ」
 と、高校野球に関しての質問に答えていた。

 「漫画アクション」で連載中で、つい最近単行本の1巻が出たばかりの『ナ
ックルダウン』(磯見仁月)は、甲子園球場のある「甲子園」の街自体が主役、
とも言える漫画。
 なんでも、西宮市の甲子園近辺が出身で、現在は東京在住らしい作者が、
「甲子園生まれ」と自己紹介すると、東京ではたいてい、「あ、大阪なんです
ね」と返されたのが、この漫画を描こうとしたきっかけらしい。

 生まれたときからタイガースと高校野球がごくごく身近にあり、「野球」に
囲まれて育ちながらも、「近くて遠い甲子園」というのが、そのメインテーマ。
 しかしこの漫画、かなり「萌え」寄りな絵柄と、「甲子園」のみならず西宮
全体が「野球」を中心に回っているような、極端なカリカチュアライズが、や
や気に入らないのだけど、「甲子園を目指す」のではなく、「甲子園と、そこ
にある野球」というその着眼は、とても面白いと思う。

 確かに、日曜日に武庫川沿いなど歩くと、その河川敷グランドのあちこちで、
揃いのタテジマに身を包んだ「ちっこいタイガース」たちが、一心不乱にボー
ルを追っている。
 この近辺の少年野球チームの「タテジマ率」は、異常に高いのだ。

 ところで、「六甲おろしに颯爽と」で始まる「阪神タイガースの歌」は、あ
まりに有名なのだが、甲子園球場があるのは摂河泉平野の一角で、六甲山は見
えこそすれ、「六甲おろし」の風は、甲子園には吹いてこない…のを、皆さん
ご存知でしょうか?
 むしろ南から吹いてくる「浜風」(よく野球の実況で聞かされる、あれです)
こそが、「甲子園の風」なんだけどね。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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71 復刊絵本のきっかけ

『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』
         ヘルメ・ハイネ作 ふしみみさを 訳 朔北社

 ご紹介する本は2006年に刊行されたドイツの邦訳絵本です。
 今から10年ちょっと前ですね。

 刊行された朔北社さんは今年で出版をはじめて25周年を迎えます。

 25年を祝して173冊の玉手箱と題された「朔北社展」が4/12より赤羽の青猫
書房さんで開催されることを知り、久しぶりに再読した絵本です。

 2001年、ふしみさんが訳された『モモ、しゃしんをとる』で一目惚れななら
ぬ一読惚れした私は熱烈感想メールを送り、モモの次作『モモ、いったいどう
したの?』でますます訳文が好きになり、すっかりふしみさんファンになった
のでした。

 メールでやりとりし、直接会ってお話しもするようになり、これから訳した
い本を見せてもらったり、読んでもらったりもしました。訳もさることながら
絵本の魅力をいろんな角度から教えてもらえるので、ますます「この絵本はふ
しみ訳でどこかに出してもらわねば」と思ったものです。

 ですから次はどこの出版社だったら出してもらえるかを考えました。
 2人で一緒に朔北社さんにプレゼンに行き、絵本を何冊もみてもらい、その
時検討してもらった本は後に数冊朔北社さんから刊行される運びになりました。

 その内の一冊が『ボヨンボヨンだいおうのおはなし』です。

 当時、ふしみさんは勤めていた洋書絵本の卸会社を辞めたばかりで、この絵
本は勤めていた時に見つけました。古くなってまっ黄色に焼けていたペーパー
バックの絵本を読んだら、あまりに美しくて、すぐに自分で訳し始め――実は
既に邦訳も出ていたのですが(『王さまはとびはねるのがすき』祐学社)――、
最初はそのことに気づかず、訳している途中で祐学社版を知ったそうです。

 とはいえ、朔北社さんにもちこんだ時はすでに絶版でした。

 ヘルメ・ハイネはカラフルでかわいらしい感じの絵本も日本では出ています
が、この『ボヨンボヨンだいおう〜』は風刺がきいた物語にコラージュで描き
じっくりと楽しく読める絵本です。

 試訳されたものを読み、いつかこの訳で読みたい!と願って数年。朔北社さ
んが復刊してくださることが決まったときはとっても嬉しかったです。

 ふしみさんは朔北社さんから出ている『どうぶつにふくをきせてはいけませ
ん』のようにユーモアある訳に定評がある一方、ヘルメ・ハイネの本書のよう
に古典でじっくり読ませる絵本の訳もうまいのです。

 ボヨンボヨンだいおうは、素晴らしいお城に住み、自国の民を幸せに暮らせ
るよう日々采配をふるっていました。毎日、民のことばかり考え、働いてばか
りの生活だったので、知らずのうちに心にも疲れがたまってきました。
 そこでストレス解消にあることをするようになったのですが、それが波紋を
よんでしまい……。

 お城や山や夜の闇、ろうそくの灯り、落ち着いたそれでいてカラフルでもあ
るコラージュはどれも美しく配色の妙にも唸らされます。

 心地よいラストのカタルシスは最高!

 久しぶりの再読ですっかりふしみみさをワールドを堪能しました。
 
 フランス絵本を訳すことが多く現在はフランスにお住まいのふしみさんは、
作者と実際の交流もされているのでおもしろい話をいっぱいもっています。

 一時帰国しているいま、朔北社さんの25周年イベントで野坂悦子さんとの
対談があります! 野坂さんもたくさんの魅力ある児童書を訳されているスペ
シャルな方。きっとおもしろい対談になるでしょう。

 私は残念ながらその日は子どもの学校で用事があり駆けつけられない!
 行かれた方ぜひどんな感じだったか教えてください!

【特別対談】
野坂悦子さん(オランダ語・英語・フランス語翻訳)
  ×  
ふしみみさをさん(フランス語、英語翻訳)

―二人の翻訳者、おおいに語る!―
聞かせて!翻訳のこと、絵本のこと、いろんな国と作家のこと

日時:2017年4月22日(土)14:00〜15:30 

※参加無料、要予約:20名様まで 
※朔北社、青猫書房、どちらでも受付ております。

朔北社 TEL042-506-5350
http://www.sakuhokusha.co.jp/

青猫書房 TEL03-3901-4080 営業時間11時〜19時。
http://aoneko-shobou.jp/

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第88回 理性的な災害対応行動をとる

 今月も防災本を紹介したい。

 群馬大学の片田教授は災害社会工学が専門であるが、自然災害大国である日
本においては、避難の専門家ということになっている。

 片田先生の書籍は2015年の12月に一冊紹介している。

 『子どもたちに「生き抜く力を」 釜石の事例に学ぶ津波防災教室』という
本で、東日本大震災時に岩手県釜石市の小中学生が自主的に避難して助かった
ことについて書かれた本だった。その防災指導をしたのが片田先生である。
 今回紹介する本は、この“釜石の奇跡”のこと、東日本大震災の体験だけで
はなく、広く災害一般についての災害対応行動をわかりやすく解説した新書で
ある。

『人が死なない防災』(片田敏孝 著)(集英社)(集英社新書)
(2012年3月初版)(2016年4月第5刷)

 本書をひとことで表せば、この小文の標題どおり。“理性的な災害対応行動
をとろう”ということに尽きる。災害は忘れたころにやってきて、しかもそれ
ぞれ、自分は生き残ることを前提に考える。しかもその生存の確信は何かに裏
打ちされたものではなく、限りなく楽観的期待、希望的観測に基づいている。

 日本に住んでいる以上、どこでもどんな場所でも、被災者になりうる可能性
がある。洪水・津波・土石流・噴火・豪雪・高潮・火災……。

 まずは、その自分だけは助かるに決まっている、という楽観論を捨てなけれ
ばいけない。そして自らを律して(怠けずに)、災害対応行動をとることが生
存への大前提となる。すぐには全国民がそうなる、とはいかない。“もういつ
死んでもいいから逃げないよ”とか“絶対にここは安全だからこのままここに
いるよ”ということを云う人は必ずいる。だから片田先生は子どもから防災教
育を徹底していこう、という考え方なのだ。

 本書の読者層も、高校生くらいを対象にしていると云ってもいい。実際に第
3章は震災の前年に釜石高校での講演会を書き下ろしたもの。釜石高校での講
演会の9ヶ月後に地震が起こり、津波がやってきた。

 片田先生は云う。この東日本大震災は、想定が甘かったのではなく、想定に
とらわれすぎたのだ、と。防災が進むこと(高い防潮堤や堤防の構築など)は、
自然との距離感が広がることであり、人間の脆弱性が増すことに他ならない。
具体的な例として、海がまったく見えないほど巨大な防潮堤を築いたことが、
人を災害から遠ざけてしまうひとつの要因になってしまった。ということだ。

 「想定にとらわれすぎた」ということは、どういうことだろう?

 それは行政が作成したハザードマップがいい例である。ハザードマップの危
険地域の外側に家がある人は、逃げようと思わない。そしてこの東日本大震災
では、大津波が軽々とハザードマップの危険区域を乗り越え、安全区域にまで
浸入してきたので、安全だとされた地域の多くの住民が津波に呑まれた。つま
り「津波はここまで来ない」という想定を信じて動かなかったわけだ。

 防災に関して云えば、私たちはいつの間にか行政が決めたこと、行政がやっ
ていることに盲目的に従うだけになってしまっている。100年前はそうでは
なかった。防波堤も堤防も砂防ダムもなかったから、自分たちで自分たちを守
っていた。……そういう生存本能を麻痺させるように自然を遠ざけるしくみを
私たちは行政を通じて拵えてしまった。その結果、主体性が奪われた。自分の
命を守ることに主体的でなくなったのだ。誰かが助けてくれる、のではない。

 自分の命は自分が主体的に守らなくてはいけないのだ。自分の命を主体的に
守ろうというその姿勢こそ、最も大切なことだと説いている。

 片田先生のこのことばは強烈だった。

 「災害対策基本法のもと、50年に渡って「行政が行う防災」が進められてき
た結果、このような日本の防災文化が定着してしまっている。防災に関して過
剰な行政依存、情報依存の状態にある。自分の命の安全を全部行政に委ねる。
いわば、住民は「防災過保護」という状態にあるのです。これがわが国の防災
における最大の問題なのです。」

 「津波てんでんこ」ということばがある。津波のときはてんでんばらばらに
逃げなさい、ってことだが、実際にそんなことできない。お母さんは子どもの
ことが心配でたまらないし、子どもは老いた親が気になって仕方ない。でもめ
いめいが「自分の命の責任をもつ」のであれば、そしてそれを家族が信じあう
ことができるのであれば、この「津波てんでんこ」は生きていることばになる。

多呂さ(桜が長いこと咲いている春です。何度も花見ができますよ)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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  界は変わる。』(SCICUS)
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・『あれか、これか
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『これがジャズ史だ』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『となりのイスラム』内藤正典 ミシマ社

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『シリーズ藩物語』(現代書館)

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#81『これがジャズ史だ』

 前回、前々回からの繰り返しになるが、今年は史上初めてジャズのレコード
が吹き込まれて100周年。

 そこで、ジャズ史の本など取り上げてみようと思ったが、これがまた掃いて
捨てるほどある。
 油井正一『生きているジャズ史』、相倉久人『新書で入門 ジャズの歴史』、
フランク・ティロー『ジャズの歴史』……

 その中から、副題が気になって選んだのが本書、岩浪洋三の『これがジャズ
史だ 〜その嘘と真実〜』である。

 ぼくが子供の頃、ジャズ評論家といえば、この岩浪洋三と油井正一。いわば、
二大巨頭といったイメージだった。
 あと、もう一人、大橋巨泉という人もいたが、子供の頃は「はっぱふみふみ
の人」もしくは「クイズダービーの司会者」というイメージで、ジャズ評論家
だったことはずっと後になって知った。ちなみに、「はっぱふみふみ」が意味
不明という方は、ググってください。これ、日本のTVCM史における、唯一
のジャズ・スキャット的コピーだと思うんだけど。

 まあ、それはさておき、岩浪洋三である。要は、ジャズ評論の大御所であっ
たわけだ。

 ところが、そんな大御所が齢75を数えて出版した本書は、まるで若手評論家
のような挑戦的スタンスで、意外だった。

 普通、大御所というのは斯界の権威であって、その意見はその筋の代表とい
うか、正統派とされるものだ。それに対して、新しいものの見方を提示してチ
ャレンジするのが、若手の仕事のはずである。

 なのに、本書における著者は、ジャズ史の定説を覆し、「その嘘と真実」を
暴く、という意気込みなのだから、まったく大御所然としていない。タイトル
からして、『これがジャズ史だ』と、従来の歴史書を否定するような気概に満
ちている。まるで新人評論家のような、チャレンジャー・スピリット。本当に
素晴らしいと思う。

 しかも中身も、その勢いに見合って、十分に刺激的なのだ。

 例えば、人種、という視点。

 従来のジャズ史では、黒人が主役だった。アフリカから奴隷としてアメリカ
に連れてこられた黒人の子孫が、白人の音楽文化を吸収、自身の文化と混ぜ合
わせ、ジャズを生んだと考えられているからだ。

 その結果、ジャズ史を彩るミュージシャンたちは、概ね黒人である。チャー
リー・パーカーも、マイルス・デイヴィスも、ジョン・コルトレーンも。
 歴史的に重要とされる白人は、ビル・エヴァンスぐらいだろうか。
 ビッグ・バンドにしても、デューク・エリントンやカウント・ベイシーのよ
うな黒人リーダーのバンドが正統派で、ベニー・グッドマンやグレン・ミラー
のような白人リーダーのバンドは、ダンス・ミュージックだったり、イージー
・リスニングという扱いで、何となく格落ちに見られる傾向があったように思
う。

 しかし、前回も書いたように、史上初のジャズ・レコードは白人ミュージシ
ャンによって録音された。
 ジャズが白人文化と黒人文化のハイブリッドであるならば、両者は同等に見
られるべきで、黒人偏重はある意味、裏返しの人種差別である。

 ことに著者は、白人の中でも、ユダヤ人とイタリア人がジャズ史において重
要な役割を演じたことに着目。特にユダヤ人について、丁寧に語り、その功績
を跡付ける。
 その結果、いまではスタンダードとなったジャズの名曲を書いたのがほとん
どユダヤ人であり、プレイヤーの中にもユダヤ人が極めて多いことが明らかに
なる。
 これには、落鱗の思いがした。
 しかも、黒人とユダヤ人は、共に差別された存在としての共通項を持ってい
る、という指摘は、ジャズの本質を照らすひとつの優れた視点だろう。

 あるいは、ルイ・アームストロングに関する、こんな主張もある。

 サッチモの愛称で親しまれた、ディキシーランド・ジャズの巨人、ルイ・ア
ームストロング。彼はよくステージで、単に演奏するだけでなく、おどけた振
る舞いをし、それが「白人に媚びている」として同じ黒人ミュージシャンやジ
ャズ・ファン、評論家から批判されてきた。

 この定説に、著者は反論する。

 そもそも奴隷時代の黒人にとって、仕事をさぼることは善であった。
 奴隷には労働に対する報酬がないので、働いて利益を得るのは白人だけなの
だ。したがって、できるだけさぼって楽をすることが黒人にとってはよいこと
だった。
 その結果、黒人英語は白人英語の逆の意味を取る、という現象が起こる。
「Good」は「Bad」の意味であり、「Lazy」や「Loose」は白人英語では「怠け
者」「だらしない」であっても、黒人英語では「いかした」「賢い」といった
ニュアンスになる。

 さぼりは、善。
 この発想は、遊びや笑いを尊ぶ価値観を生み、やがて奴隷解放によって自由
を手にした黒人は、堂々と「遊び」や「笑い」を楽しめるようになる。
 だから、その歓びを謳歌することも、ジャズという音楽の持つ重要な側面で
ある。

 ルイ・アームストロングが愛嬌を振りまくのは、そうした黒人的な感性の発
露であり、白人に媚びていやいややっているのではなく、エンターテイナーと
して、しかつめらしく音楽を演奏するのではなく、ユーモアたっぷりに陽気に
歌い、トランペットを吹くことを、自ら楽しんでいたのではないか。

 このように著者は捉えてみせる。

 そういえばロックの世界でも、70年代には「レイド・バック」という言葉が
流行った。今風に言えば「リラックス」ということだろう。ローリング・スト
ーンズの歌にも「Call me Lazy bone」(ぐうたら野郎と呼んでくれ)という歌
詞があった。しゃかりきに頑張るのではない、ゆるい生き方をよしとする価値
観は、カウンター・カルチャーだった頃のロックにも確かにあったのだ。

 では、音楽的な点で、著者はどんな新しい考えを展開しているだろう?

 ひとつは、ヴォーカルの重視である。

「モダン・ジャズは、器楽中心になって歌をないがしろにした。これがよくな
かった」
 端的に言うと、著者の主張はこれに尽きるが、意外に誰も言わなかったポイ
ントだと思う。

 モダン・ジャズ以前、例えば、デューク・エリントンの時代。
 レコードに刻まれているのが音楽だけなので、つい誤解しがちだが、エリン
トンのステージは、総合エンターテイメントだったのだ。そこでは、ダンスや
コメディと音楽が混然一体になっていて、とりわけ美しい歌姫によるヴォーカ
ルは欠かせない要素だった。
 だからエリントンの音楽づくりは、歌を非常に大切にしている。代表曲『ス
イングしなければ意味がない』も、あくまで歌として書かれているのである。

 つまり、本来のジャズは、芸術というよりは芸能だったのだ。
 サッチモの話にも通じるが、ジャズにおいて、エンターテイメント性は極め
て大切だ。それを忘れて、ビ・バップ以降のモダン・ジャズは、聴衆を置き去
りにした芸術化に走り、その結果行き詰って、フュージョンのような形で改め
て商業化せざるを得なかった。

 という主張の元に、本書は、ヴォーカルに大きなページを割いているのであ
る。

 ぼく自身もヴォーカル好きなので、これはうれしい。
 特にナット・キング・コールへの賛辞には、心から賛同する。

 この他にも、女性という視点でジャズ史を見たり、誰もが褒めまくるマイル
ス・デイヴィスを敢えて批判すべきと主張したり、目からウロコが落ちまくる、
岩浪ジャズ史。
 大御所になっても体制側に立たず、チャンレンジングな姿勢を貫く、その痛
快さ。

 こういう75歳に、ぼくもなりたい。


岩浪洋三
『これがジャズ史だ 〜その嘘と真実〜』
2008年1月25日 第1刷発行
朔北社

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
爪に悩んでいます。クラシックギターの人とか、フラメンコ・ギターの人とか
は、爪で弦を弾くため、お手入れをしたり、強化したりするんですが、ロック
・フォーク系アマチュア・ギタリストであるぼくは指弾き派ではあるものの、
そこまでの必要を感じたことがありませんでした。ところが数年前からスラム
奏法という、ボディを激しく叩きながら、爪で弦をはじく奏法に凝り、それば
っかり練習していたら、だんだん爪が欠けるようになったんです。あまり深く
欠けると、さすがに痛くて弾けなくなるので、何とかせねばと工夫中。プロは、
アロンアルファを爪に重ね塗りして強化するそうで、来日したフラメンコ・ギ
タリストも爆買いしていくらしいですが、爪が荒れそうで抵抗があるし……何
かいい手はないものかなぁ。

----------------------------------------------------------------------
■「目につく本を読んでみる」/朝日山
----------------------------------------------------------------------
『となりのイスラム』内藤正典 ミシマ社

 ほんわかした表紙に帯の惹句が斎藤美奈子氏の「たぶん、これまででもっと
もわかりやすく、実践的で、役に立つイスラムの入門書だと思う」

 で、中学生にも理解できるのがウリの本。

 本にはミシマ通信という手書きを印刷したチラシと読者はがきと、しおりが
挟まっていて、親しみやすさを演出している。以前からミシマ社の本の評判は
聞いていたが、こんなところも評価される一因かと思ったりした。

 文体も柔らかで、スイスイ読んでいけるが、内容は決して軽くない。前書き
は、イスラム過激派のテロを何度もニュースで知ったあなたはイスラム教徒と
仲良くしていこうと思いますかという投げかけから始まる。

 そしてイスラムに暴力性や女性の人権を弾圧する側面がないわけではないが、
それを批判するのは正しいのか?イスラムの「我々が慣れ親しんでいる近代以
降の西欧世界から生まれた価値の体系とは、ある種、根底から違っている」こ
とを理解しない批判に筆者は疑問を唱える。

 残酷きわまりない二つの大戦を戦っていたのはどちらもキリスト教徒ではな
いか。にもかかわらずキリスト教徒の暴力性を問題にしないのはなぜだ?女性
の性を散々商品化してきた欧米が、女性の人権なんて言い出すのはちゃんちゃ
らおかしくないか?

 そして「過去、少なくとも1世紀にわたって、欧米諸国とイスラム教徒自身
が暮す国々が「イスラム的に正しく生きようとする人たちの居場所を奪い続け
てきた」ことをテロの遠因とする。

 その上で仲良くしていける、共存していく方法を探さなければならない。さ
もなければ、未来にあるのは、さらに大きな対立や殺戮だろう。そんな未来を
つくらないために、まずはイスラムを理解しようという思いで書かれた本のよ
うだ。

 序章で現在の中東をめぐる混乱を収拾できる国があるとすれば、トルコであ
ろうと簡単に触れた後、ドイツとオランダのイスラムが地域に同化しない理由
の違いの説明にまずびっくりする。著者によれば、ドイツのイスラムが覚醒す
るのはキリスト教教育に熱心なドイツの中で、イスラム教育の機会が保証され
ていないことと、トルコ人に対する差別意識が背景にあるという。

 これに対しオランダは宗教心も差別も稀薄で、マリファナも売春も不倫も何
でもありの国であるがゆえに、全ての欲望がかなえられる。それが逆に生活の
規律を宗教にあるイスラムの人には不安材料となってイスラム回帰の流れが発
生し、それがオランダ社会での孤立につながっていく・・・。ヨーロッパ出羽
守では見えない視点だ。

 そんなところから始まって、筆者はイスラム教徒という人はどんな人たちな
のかを書いていく。キリスト教やユダヤ教徒の関連やハラール認証のインチキ
さなど言及は多岐にわたるが、個人的にうなったのは人間の運命は神が全て決
定することと、子どもや年寄りを大切にするところだ。

 人間の運命は全て神が決定するので、たとえ事業に失敗してもそれは自己責
任ではない。成功したのも自分の実力ではなく神のおぼしめしだ。だから成功
したからと言って傲慢になるのはアホである。それゆえ神に感謝して喜捨しな
いといけない。日本人などから大金ぼったくって儲けたら、目の前にいる貧乏
人に儲けを分け与えるのが正しきイスラム教徒の態度なのである。

 子どもや年寄りといった弱者はみんなで助けなければならない。そうした善
行を積まなければ、おまえ死んだら地獄行きだぞとなる。具体的に言えば年寄
りを捨てる老人ホームは少ないし、子どもが票気になって医者に駆け込んでき
た親が貧乏だったり、地域の勝手が分からない外国人なら金を取ろうとしない。
それがイスラムの精神なんだとか。

 親を敬い、子どもを大切にというのは日本でも言っているが、口先だけで実
践されているとは誰も思うまい。それをイスラムの世界では本当にやろうとす
るのだという。

 ここまで書くと、著者が最初に述べた「過去、少なくとも1世紀にわたって、
欧米諸国とイスラム教徒自身が暮す国々が「イスラム的に正しく生きようとす
る人たちの居場所を奪い続けてきた」という一文の意味が見えてくる。欧米だ
けじゃない。イスラム教徒の国ですら、イスラム教徒を裏切っているというこ
とだ。

 欧米はおろか、自らの故郷ですら居場所がない。典型例が今シリアから欧米
に逃げようとしている難民たちである。欧米に逃げたところで居場所はないの
だ。そりゃ先鋭化する人も出てくる。

 シャーリーエブドを襲ったテロリストにしても、著者はテロに訴えたことは
快くは思わないものの、テロリストに同情的だ。欧米人がキリストを、日本人
がブッダをちゃかしてもいいからといって、イスラムでもそれが通用すると思
っていること自体がおかしいのではないかということだ。

 いわゆる新自由主義や自己責任などと言った時代の流行に反駁する人は少な
からずいるが、正直なところ彼らの主張に説得力はそう感じない。新自由主義
反対論者や、自己責任論に感情的反発をする人たちの本を読むより、この本を
読んだ方がよほど新自由主義や自己責任論にしいての理解が深まるのは著者の
意図したところではないだろう。

 良い本は、著者の意図以上に、著者の思っている以上に多様な読み方ができ
るものなのだ。

(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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「ケンミンショー」よりおもしろいのは「藩民ショー」
『シリーズ藩物語』(現代書館)

 あるとき、知人と話していて出身県の話になったとき、知人の出身県の有名
な特徴の真偽を問うたところ、「いやあ、それはないわ〜」と言うから、「そ
うですか。地域によって違いがあるんですね」と言ったところ返ってきた答え
が「そりゃそうだよ。だって殿さまが違うもの」。まだ若かったおばちゃま、
その「殿さまが違う」って言葉に「今、何時代?」とびっくり仰天した記憶が
あります。

 このシリーズが図書館に並んでいるのを見たときに、そのときのことが鮮明
に思い出されました。そう、「ケンミンショー」のさらに奥には「ハンミンシ
ョー」がある。それを理解しないと地域そして現代社会は理解できないのであ
ります。

 このシリーズとは現代書館の「シリーズ藩物語」。日本全国の藩の歴史が1
藩1冊で書かれています。現在30数冊出ているらしく、今後も続々出版される
ようで、藩に目をつけた編集者、グッジョブ!と思うばかりであります。

 まず、表2見開きに日本地図があり、「江戸末期の各藩」とあります。たと
えば、山口県なら長州藩、徳山藩、岩国藩、長府藩、清末藩と5藩あり、これ
が100年たっても地元民をして「殿さまが違う」と言わしめるわけですね。
大藩があるならいいけど、同じような大きさん藩が隣接していると、明治時代
になって県庁所在地をどこにするかでモメて今でも遺恨が残ってたりするわけ
ですね、なるほど。この地図見るだけでおもしろいです。

 で私が読んだのが「秋月藩」と「庄内藩」。秋月藩は幕末に「秋月の乱」が
起きたことで歴史に名をとどめた以外は、時代に取り残されたような九州の小
さな藩ですが、それゆえに、城跡や橋が現存されていて今、観光地として有名
になっているという。いやあ、人間も藩も何が幸いするかわからないものです
ね。

 そして「庄内藩」ですよ。時代小説が好きな人ならお待たせしました! 作
家・故藤沢周平の故郷にして彼の時代小説の舞台になった「海坂藩」のモデル
がこの庄内藩。あの故井上ひさしも大好きで小説を読んで海坂藩の地図を手作
りしていたというあの庄内藩であります。

 この本の著者(と編集者)もそのへんは理解していて、庄内藩と海坂藩の組
織の違いについてなどページをだいぶ割いてます。たとえば作中には「見習」
という役名がよく出てくるけど、庄内藩に「見習」という役はないとかね。な
るほど。
 
 庄内藩の「殿さま」は酒井家で、11代250年もの間この藩に君臨。そして
驚くべきことにその末裔は今でも鶴岡に在住しているんですよ、奥さん!
 途中で越後に転封つまり転勤しそうになるところ、領民が反対して中止にな
るという事件があり、そんなことができるんだとびっくり。江戸幕府ってけっ
こう融通が利くんですかね。

 この流れからいくと酒井の治世がすばらしかった、という流れになるところ
ですが、実は長い歴史の中には飢饉や逃散、お家騒動がいっぱいあって名君と
いうわけでもないというのが実におもしろいです。そうよ、次期藩主を巡るお
家騒動がなかったら、時代小説にならないじゃんとおばちゃま思いました。

 でもなんとか藩が維持できたのは、豪商・本間家があったから。本間家とい
えば、今はゴルフ用品メーカーになってしかも中国資本になってますが、あの
「本間さまにはおよびもないがせめてなりたや殿さまに」とうたわれたあの豪
商です。政治の欠落をカバーしたのは商業つまり経済だったんですね。そして
藩校の設立も自信になったんだそう。

 やはりいつの時代でも大事なのは経済と教育なんですね、勉強になりました! 

 あと印象的だったのがコラムに書いてあった、加藤家の話。加藤とはあの虎
退治の加藤清正を始祖とする家で、清正の息子が罪に問われてここ酒井家にお
預かりになってるんですね。罪ってのはよくわからなくて、強いていえば豊臣
側だったかららしい。いつか許されると信じていた息子ですが、とうとう庄内
で生涯を終えることになったそうです。古くから徳川の直臣だった酒井家と秀
吉子飼いの加藤家の明暗。関ケ原の勝敗が違ってたら逆の立場になってた可能
性大。あわれ! 

 その他、藩の歴史が縷々書いてあるこの本、読んでいると、まだ若い部屋住
みの若侍が道場に通う姿が目に浮かんだりします。そしてお堀端の道で中間を
連れた頭巾姿のきれいなお嬢様とすれ違うとか? または、道場仲間から読書
会に誘われたらそれが悪い家老の派閥の会合だったとか? (藤沢周平読みす
ぎですか?)

 次はどこ藩を読もうかなとわくわく。今、30数冊出ているらしいこのシリー
ズなので当分は楽しめそうです。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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 超・遅くなりました。明日から四月ですね。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.625

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■■ [書評]のメルマガ                 2017.3.10.発行
■■                              vol.625
■■ mailmagazine of book reviews     [漫画でしか表現できない 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→漫画でドキュメンタリー、あるいは記録文学な漫画の可能性

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→大災害直後を生き抜く

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→昔話絵本

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→竜馬から学ぶネゴシエーションの基礎

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<87>漫画でドキュメンタリー、あるいは記録文学な漫画の可能性

 この国は、どないなっとンねん……? と思ったのは、2月初旬のニュース。
 元アイドルの女性タレント二人が、京都で踏切から線路に立ち入って写真撮
影をしてた、と、全国ネットのニュースで報じられ、その場にいなかった家族
まで巻き込んで「涙の謝罪会見」を強いられていたこと。

 線路に立ち入る、というのは、確かに法律違反に違いないとは思うが、新聞
テレビ雑誌等々の報道メディアが一斉に、競うようにして大バッシング報道を
繰り広げるほどのことかい?
 それって、「つい調子に乗っちゃいました。ごめんなさい(テヘペロ)」で
済む問題だと思うのだが、どうだろう。

 同じころに発覚した、大阪は豊中の国有地が、私立小学校建設用地として、
破格の安値で払い下げられていた、というニュースを報じていたのは、わしの
知る限り、毎日放送(MBS)だけ、しかも関西ローカルの情報ワイド「ちちん
ぷいぷい」で、だった。

 さらにその後、くだんの私立小学校が、当初は「阿倍晋三記念小学校」とい
う校名を予定していて、首相夫人が「名誉校長」に就任している、というニュ
ースをMBSが報じていたころ、遅まきながらもこの問題を取り上げた朝日新
聞やNHKでは、土地価格の不明朗さのみに終始して、「阿倍」のアの字にも
触れることはなかった。

 問題が国会で取り上げられるようになってようやく、MBS以外でも、他社
の様子を伺いながら「おずおず」と、この学校と首相周辺の関わりを報道する
ようになったが、報道機関として、その腰の引けようは「如何なものか」と思
うのは、わしだけでしょうか?

 わしの母親は、長谷川町子のファンで、実家には「サザエさん」はじめ、姉
妹社の単行本がほぼすべてあったのだが、その中の「いじわるばあさん」に、
こんなのがあった。

 公園でアベックが刃物を持った強盗に襲われてるのを目撃したばあさん、走
って交番へ駆けつけ、「おまわりさん、大変!立ち入り禁止の芝生に人が入っ
てます!」

 首相も関連した疑いのある疑獄事件には目もくれず、立ち入り禁止の線路に
立ち入った、というごくごく微罪、誰を傷つけたわけでもない、罪とは言えな
いような罪を犯した女性タレントを、バッシングして泣かせるのに汲々として
たマスコミは、これと同じじゃないだろうか。

 しかし、「国有地の格安払い下げ」という不正…というか、ただ今はまだ
「不可解な取引」ではあるが…が発覚しなければ、あるいは、当該の土地が適
正な価格で払い下げられていたのなら、この、戦前の「教育勅語」と「皇国史
観」をおおっぴらに掲げながら、保守的極右的政権を熱烈に支持し、民族主義
的ヘイト教育を行う「アベシンゾー・ユーゲント」な小学校が、堂々と開校さ
れていたわけで、それを思うと、なにやらうすら寒いものも覚える。

 先ごろ、ドイツ映画『帰ってきたヒトラー』を見た。
 1945年、陥落間近なベルリンの地下壕から21世紀にタイムスリップしてきた
ヒトラーは、当初モノマネ芸人と勘違いされ、テレビの売れっ子になるのだが、
人々は、そのアナクロな言動に笑い転げてるうち、次第次第に彼の言説にのめ
りこみ、やがては熱心な「信者」となってゆく…という結末に、アメリカのト
ランプ大統領や、今回の「アベシンゾー・ユーゲント」問題がオーバーラップ
して、とても怖いと感じたのだった。

 これから先、どういう結末を迎えるのかわからない…というか、またもや
「うやむや」のまま葬り去られる可能性も高いと思うのだが、どういう結果に
なるにしろ、この事件にかかわる一連の顛末を、できれば漫画で残しておいて
もらいたい、と思う。

 そしてその場合、吉本浩二に漫画を担当してもらいたい、とも思うのだ。

 現在、「ビッグコミックスペリオール」に連載中の吉本浩二・作『淋しいの
はアンタだけじゃない』(単行本は小学館から既刊2巻)は、作曲家・佐村河内
守氏のゴーストライター事件をきっかけに、聴覚と聴覚障害に興味を持った吉
本が、担当編集者との二人三脚で、当の佐村河内氏や、医師あるいは大学の研
究者に、聴覚障害について取材し、その取材の過程をほぼそのまま、ドキュメ
ンタリーの手法でまとめた漫画だ。

 取材の過程で吉本たちは、「聴覚障害」というものに対する自分たちの誤解
…ということはつまり、世間的な一般概念の誤りについて気づかされ、「目か
らウロコ」を次々に経験していくのだが、漫画は、取材とほぼ同時進行で連載
が進行するので、その臨場感がハンパない。

 実はわしも、ここ数年耳鳴りに悩まされていて、この漫画によって、その耳
鳴りは、程度の軽重こそあれ誰にもあるもので、その原因は難聴にある、とい
うくだりで、思わずウロコを落としてしまった。

 なんでも、「難聴」というのも個人差があって、人によって聞こえにくい音
域というのが違うらしいのだが、聞こえにくい音域を、脳がなんとか認識しよ
うと「頑張ってしまう」が故に、脳はその音域を増幅しようとして、それが
「耳鳴り」となってしまう…そうなのだ。
 代表的な漫画のオノマトペとされる「シーン」もまた、「実は耳鳴りの音か
も」というのには、思わず「はた」と膝を打ってしまった。

 上記は、この漫画のほんの一端なのだが、取材の過程を、愚直なまでに丁寧
に、「そのまま」再現しようとするこの漫画は、調査報道の域にまで達してい
ると思う。

 吉本浩二は、『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』
(秋田書店)で、元アシスタントや当時の担当編集者ほかの関係者から徹底した
取材を行い、手塚治虫の創作現場を漫画の上に再現して見せ、さらに、東日本
大震災で壊滅的な被害を受けながら、驚異的なスピードで復旧した三陸鉄道に
取材した『さんてつ』(新潮社)で、ドキュメンタリー漫画家としての地歩を固
めてきた。

 「泥臭い」とも言える朴訥な絵柄は、取材の過程をそのまま、なんの飾りも
なく伝えるのに、とても効果を発揮している。

 2006年から雑誌連載中の山本直樹『レッド 1969〜1972』(講談社)もまた、
実在の事件に取材した労作で、人物名はすべて架空の名前が充てられて、フィ
クションの形をとってはいるが、多分に「記録文学」的な作品でもある。

 『レッド』は、1〜8巻の第一部で1971年12月31日までが描かれ、これに続
く第2部の『最後の60日 そしてあさま山荘へ』は、この2月発売の4巻で、
ようやく山岳アジトを放棄する「1972年2月17日」まで時間が進んだ。
 第1部全8巻、第2部全4巻で、粛清、あるいは「総括」による死者は15人
に達し、これから始まる「第3部」では、いよいよ「あさま山荘事件」に突入
するようだ。

 吉本浩二『淋しいのはアンタだけじゃない』と山本直樹『レッド』に共通す
るのは、綿密な取材と、作品の時間軸が、実にゆっくりと、まだるっこしいま
でに「じわじわ」と進むことだ。
 この時間軸の使い方は、たとえばこれを活字でやられると、まだるっこすぎ
て途中で読むことを放棄してしまうだろうし、実写の映像では、これと同じ時
間軸を使うのは、まず不可能(たとえば、『レッド』を、漫画を忠実に再現す
る形で第1部から第2部終了までを映像化したら、おそらくは20時間かそれ以
上になると思う)だ。

 この、愚直なまでに丁寧に、ゆったりと時間を進行させながら、そこで起こ
った事実関係、取材で得た情報を、事実に即して緻密に再現しようとするドキ
ュメンタリーは、漫画でしか表現できない、と、この2作品読むとなおさらに、
思えてくる。

 『レッド』同様に、吉村昭が小説の世界で完成させた「記録文学」に迫って
いる、と思えるのは、村上もとか『フイチン再見!』(小学館・既刊9巻)と、
花輪和一『刑務所の中』だろうか。

 先月、当欄でその作品に言及した矢先に、突然の訃報を聞かされた谷口ジロ
ーもまた、伊能忠敬を主人公に据え、その彼が全国測量の旅に出かけるまでの
間、江戸の町のあちこちを逍遥する様を描いた『ふらり』(講談社)や、あるい
は先月取り上げた『坊ちゃんの時代』などで、記録文学的な手法を漫画に取り
込んできた作家のひとりだと思う。

 そうした作品をもっと読ませてほしかったのに、と訃報に接して切に思った。
 谷口ジローの若すぎる逝去は、漫画の、というよりも、日本の文化にとって、
大きな損失であるとも思う。
 とても残念ではあるが、冥福をお祈りしたい。

 ところで、漫画版『アベシンゾー・ユーゲント顛末』、これはぜひとも実現
していただきたい、と最後にもう一度、強く訴えるぞ。

 是非、ぜひ。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第87回 大災害直後を生き抜く

 日本は自然災害の多い国である。地震、台風、豪雪・・・。世界で起きてい
るマグニチュード6以上の地震の約20%が日本で発生している、という。我々
は地震多発地域で生活している、ということを自覚して、地震に向き合わなけ
ればならない運命にある。だから地震対策に関連した本は膨大に存在している。

 今回紹介する本は、従来の防災の本とは一線を画している。既存の防災関連
書は、災害の備えを充分に行うことへの啓発書であり、また、被災した後の過
ごし方の解説書である。
 しかし、この本は発災の瞬間&発災の直後に照準を合わせている本なのだ。

『震度7の生存確率』(日本防災教育振興中央会 仲西宏之・佐藤和彦 著)
(幻冬舎)(2016)

 本書は、「そのとき」の対策(=災害での自分の身の守り方、生存方法)に
特化した書籍なのだ。

 まずは、タイトル。「震度7」と地震についての本だ、ということがわかり、
次に「生存確率」というちょっと刺激的な文言が続く。震度7という揺れでは、
人はなす術がない、と本文の中では随所にいうのだ。

 そんな何もできないような強く大きな揺れの時、人はそれでもどう行動した
ら、その場で生き延びることができるか。第1章では、様々な状況の中で震度
7の地震に襲われたときの、自分の対処方法を質問形式で問いかけ、その行動
が何%の生存確率なのか、ということを示している。ここで本書が強調するの
は、震度7の揺れでは、人はうごくことができない。ということだ。

 実際に地震の揺れの等級では震度7が最高級であり、それ以上はない。震度
8はないのだ。だから、震度7は無限大の揺れ、と認識する。ただ揺れている
だけではない。物が移動し、飛び、建物が崩れる揺れが震度7なのだ。

 そんな中、人はどうやって生き抜くことができるのだろう。

 この第1章では、例えば「地下鉄に乗車中、地震に遭遇。その時、あなたは?」
という質問に対して、3択の対処方法が用意されている。1)両手でつり革に
つかまったまま、踏ん張る 2)片手をつり革から離し、離した手で頭部を防
ぐ 3)その場にしゃがみ込む
 回答では、1の生存確率は70% 2は50% 3は30%・・・。特に3(しゃ
がみ込む)のがいけないのは、地下鉄は走行中であり、まわりに多数の乗客が
いることでしゃがみ込むことは圧死の危険があるから生存確率が低くなるのだ。

 このような質問がたくさんある。都市生活においてふつうの行動時に地震に
遭遇した状況での質問なのだ。

 第2章では、さまざま危険を例示して、それに対処する方法を解説する。云
ってみれば第1章での回答の解説である。

 やっかいなことに地震は季節や時刻を選んで発生しない。真冬や真夏の過酷
な季節もあれば、夜中にも起こる。あらゆる事態を想定なないといけないのだ
が、人はそんなことはできない。どんな季節であってもどんな時刻であっても、
まずは自分の身を守る、ということを心がける。そのための方法、自分の身を
守るための基本姿勢である「ゴブリンポーズ」を紹介している。

 ゴブリンポーズ=鬼の格好である。

 それに拠ると、
1 片膝をついてしゃがむ 2 後頭部に握りしめた拳をしっかり乗せる 
3 顔を両腕で挟む 4 顎を引く・・・・・これがゴブリンポーズ。

この体勢で大きな揺れをやり過ごし、揺れが収まってから脱出=避難を開始す
る、ということだ。

 それでも大きな揺れが始まったとき(つまり揺れる前、いつもの状態の時)、
どんな場所に自分がいるか、ということを常に考えて自分の位置を決めること
が大切だ、とも云っている。入り口の近く、とか柱の脇とか、逃げやすいし押
しつぶされにくい場所を選んで行動しよう、と提案している。

 本書は大きな揺れの時、他と比較して安全な処で身の守り、そして揺れが収
まった後に、自分の力で自由に移動することができることが最も大切である。
と訴えている。

 自力で自由に移動することができることを最優先にして日々生活する、とい
うことなのだ。

 私にとってはなかなか刺激的な本なのだ。

多呂さ(お彼岸も近いというのに寒い日が続くのであります。ご自愛ください)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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70 昔話絵本

『シンデレラ』
       木村由利子 文 / 天野喜孝 絵 復刊ドットコム

『シンデレラ』のお話しはよく知られ、絵本も多数種類がでています。

 今回ご紹介する絵本はファイナルファンタジーで有名な天野さんが手がけた
ものです。

 表紙はシンデレラのウェディングドレス姿。
 見返しはシンデレラのドレスを感じるレース調になっており、目の前に美し
い花嫁がいる存在感があります。

 木村由利子さんの文章は少ない言葉でシンデレラの物語の輪郭をきわだたせ
天野さんの絵も引き立たせています。
 
 どのページの絵もそれだけでタブローとして鑑賞したくなるほどで、私が特
に好きな絵は、みすぼらしい格好で掃除をしているシンデレラです。品のよさ
がにじみでているシンデレラの美しさはため息がでます。
 
 もともとは1988年にひかりのくにで出版された絵本ですが、復刊にあたり、
本文のレイアウトも一新し、絵に文字がかからないようにし、英訳も並記され
ています。英訳をされたのは平野キャシーさん。国際アンデルセン賞を受賞さ
れた上橋菜穂子さん、荻原規子さん、湯本和樹実さんの英訳をされている方で
す。

 ゲームには疎いのですが、ファイナルファンタジーが世界的なゲームだとい
うことは子どもからも教えてもらいました。英訳もついているので、天野さん
の絵を扉にしてこの絵本が英語圏でも広がっていくといいなとワクワクしなが
ら何回も読みました。

 天野さんの絵にひかれて読んだ久しぶりのシンデレラ。他の再話も読みたく
なり、本棚から探し出しました。

 フランス、ペローの再話が日本では有名ですが、ドイツ、グリムの再話も味
わいが違います。
 
 いまは絶版になっていますが、祐学社からでていた『シンデレラ』はノニー・
ホグロギアンの淡い色彩の優しい雰囲気の絵。翻訳は矢川澄子さん。
 シンデレラが舞踏会に出かけ、その時にぬげてしまったガラスの靴を、姉た
ちの足に入らないので母親はつまさきを、かかとを切り落としなさいと姉に指
示し、姉たちは逆らいません。生々しく残酷なシーンですが、欲しいものを手
に入れる執着、欲深さがつよく感じら、現実世界のリアリティに通じるものが
あります。またシンデレラもシンデレラを探し出す王子もとても能動的に描か
れているのもおもしろいです。

 ペローの再話ではマーシャ・ブラウン『シンデレラ』(まついまさこ訳/福
音館書店)も読みごたえがあります。瀟洒に描かれたシンデレラの美しさもぜ
ひみていただきたい。残念ながらこちらも品切れ重版未定ですが図書館にはあ
るはずです。

 現役絵本も紹介せねば。
 バーバラ・マクリントックの『シンデレラ』(福本友美子訳/岩波書店)も
ペローの再話です。繊細にくっきりとした色使いで日本でも人気の絵本作家の
手によるもの。表情豊かな人物を描き、細部の描写は絵を読む楽しみに満ちて
います。


 それにしても、昔話はおもしろい。
 いまではすっかり大きくなっている子どもたち。3歳違いで3人なので、読
む絵本もひとりひとりにそれぞれだったけれど、昔話だけは3人どの年代でも
聞き入ってくれたのです。

 そんなことを思い出しました。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える/show-z
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竜馬から学ぶネゴシエーションの基礎

 年末年始に実家に里帰りした際、新装版『竜馬がゆく』の全巻が、姉の部屋
の本棚に並べられているのを見つけ、久しぶりに手にとってみました。

 時間を持て余していて、暇つぶしに読み始めたのですが、短い年末年始休み
だけでは読みきれるはずもなく。自宅に戻ってから続きが気になりだしてしま
ったので、近所のブックオフで中古本を買い揃えました。

 行き帰りの通勤電車の中で、少しづつだけど毎日、読み進めていきました。
本当は「一気に読みました」と言いたいところですが、通勤時間以外では時間
が捻出できなかったので、1か月ほどかけて本当に少しずつ。電車を降りて本
を閉じるたびに、次の展開ってどうだったっけ?と、昔読んだ記憶を思い起こ
しながらの全巻読破でした。

 この本を最初に読んだのは、20代も終わりに差し掛かった頃でして。ちょう
どその時、僕はベンチャー企業に転職したばかりでして、某インターネットサ
イトに「ベンチャーの社長が愛読する本20選」(タイトルうろ覚え)みたいな
記事があり、この本が取り上げられていたんですね。せっかくベンチャーに入
ったんだし、読んでおいてもいいかなと思って全巻読んだのが最初、と記憶し
ております。

 それまで司馬遼太郎の作品といえば、大河ドラマの影響で中学生の時に読ん
だ『翔ぶが如く』と、社会人になりたての頃に読んだ『坂の上の雲』くらい。
別に司馬作品のファンだったということではなく、有名どころなら少し読んで
ますよ、くらいのものだったんですね。

 その時に読んだ『竜馬がゆく』も、もちろん面白かったのです。幕末という
激動の時代の中、高知・土佐藩出身の竜馬が勝海舟に薫陶し、日本の未来に想
いを馳せながら活躍するストーリー。竜馬の豪放磊落でふてぶてしい性格を、
日本の起業家に重ね合わせたりもしながら、あぁ、ベンチャーを立ち上げる方
って己の私利私欲ではなく、本気で世の中を変えようとするからこそ、竜馬の
ことが好きになるのかな、なんて、考えていたのです。

 で、それから10年あまりが経過しての今回。一昨年にそのベンチャー企業を
去り、現在は某大手のグループ会社で人事になった僕は、当時とは違う感想を
持ちました。それは、竜馬の持つ理想や大志、キャラクター以上に、彼の優れ
たネゴシエーターぶりに、感心したのです。

 ネゴシエーションとは、「交渉」や「折衝」を意味する言葉ですが、ビジネ
スの現場においては、どこかこちらの主張を相手の呑ませるとか、駆け引きの
ようなイメージを持たれることがよくあります。

 しかし本来のネゴシエーションとはそうではありません。『ハーバード流交
渉術』(ロジャーフィッシャー、ウィリアムユーリー著)によると、その交渉
の方法が「賢明な合意をもたらすものであるかどうか」「効果的であるかどう
か」「当事者間の関係を改善し、少なくともそれを損なわないものであるかど
うか」の三点であると書かれています。その点で、竜馬はネゴシエーターとし
て超一流だということを、今回の読書で認識したのです。

 その竜馬のネゴシエーターっぷりが一番わかるのが、彼が薩長同盟締結に奔
走する場面。竜馬がゆくには、尊王攘夷一辺倒で過激行動を繰り返す長州藩、
幕府とは距離を置いて開国に進もうとする薩摩藩、そして、旧来体制を堅持し
ようとする佐幕派と、考えが異なる複数の集団が登場します。

 竜馬は日本を1つの国と捉え、諸外国との外交、貿易を通して豊かな国にし
ていきたいという大きな理想を持つ中で薩長同盟を発案し、考えが相容れない
両者を結びつけるため動いていくのですが、その際、自分の理想や考え方を説
明して理解させて、、、という手法を取らない。あくまで両者それぞれの実利、
軍事面や経済面でどのようなメリットがあるかを説明し、納得させたうえで、
締結にもっていくのです。

 竜馬のことを敬愛する西郷隆盛に対してさえも、国レベルでの考え、捉え方
については、何らかの誤解を与える恐れありとして、すべては説明しません。
本当なら自分の理想を理解してもらえる相手を1人でも多く増やしたいはずな
のに、最終的な目的と手段は別物と考える。これが竜馬の優れているところで
はないかと、今回思ったのです。

 このことに10年前には思いが及ばず、今回気付いたのは、おそらく僕自身の
環境変化にあります。ベンチャーという環境に身を置いていると、社内はトッ
プを中心に一枚岩になっていて、理念を共有して突き進むのが、ある意味当た
り前だったんですね。ところが現在の環境では、お恥ずかしながら一定のセク
ショナリズムが存在していて、考えが相容れない方たちが当然のようにいらっ
しゃるのです。

 そのような環境下では、何か1つのことを推し進める必要がある際、どんな
に立派な大義名分があっても、合意形成を図ることは難しい。会社全体にどん
なメリットをもたらすかについて説明するよりも、各部署、ときには個々人に
とってのメリットは何かを説かないと、進めた後にしこりが残ることも有り得
ます。

 僕は多分、ベンチャー時代とのこの感覚の違いに順応できていなくて、いろ
いろあがいている時だからこそ、今回の竜馬からネゴシエーションの基本につ
いて、気付かされたのではないかと思っております。

 そして竜馬が教えてくれた大事なことがもう1つ。どれだけうまくやったと
しても、予想だにしない人間から、突然刺されるリスクがあるということを。
。。だけど、それを恐れて何も行動できなくなるのは、それこそマズイわけで。
うーむ、組織内でのネゴは良く考え、自分から仕掛けていく必要があるものの、
悩ましいところです。


show-z
某IT企業で人事担当者として勤務。千葉県在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
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 表題【読者書評参加希望】
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 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 原稿待ちと、編集子自身の引っ越しのために遅くなりました。個人的な話で
恐縮ですが、2011年3月から住んでいたところを引き払いました。ちょうど震
災直後、ガソリンも電気も不足している中での引っ越しでしたので、いろいろ
大変だったことを思い出しました。

 身近に被災者が居たこともあり、直接的な被災・被害ではありませんが、い
ろいろ大変な思いや不安な思いもしたなぁ、としみじみとしていました。

 ってなわけで、やはり6年も住んでいるといろいろ物があふれ、想定以上に
引っ越しは大変でした。…という言い訳でした。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.624


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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『ブルースの女王 ベッシ―・スミス』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『夫のちんぽが入らない』こだま 扶桑社

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『私が会ったビートルズとロックスター』星加ルミ子著

★「本の周りで右顧左眄」蕃茄山人
→ 今回はお休みです。

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#80『ブルースの女王 ベッシ―・スミス』

 前回書いた通り、今年、2017年は、ジャズのレコードが初めて録音されてか
ら、ちょうど100年と言う記念の年である。

 その歴史的録音をしたのは、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バン
ド。Youtube で聴いてみると、実に陽気な、ザ・ディキシーという感じの演奏
だ。いまの感覚からするとやや単調だが、世界中で大ヒットして、ミリオンセ
ラーになったという。

 メンバーに黒人は一人もいない。イタリア系二人、イギリス系二人、アイル
ランド系一人の白人バンドだった。
 ちなみに、その少し前にフレディー・ケッパードという黒人ジャズメンにレ
コーディングの話があったが、彼は自分の演奏が盗まれることを恐れて拒絶し
たという。
 もし承諾していれば、史上初の栄誉は黒人のものとなっていたわけだ。

 ジャズが黒人文化と白人文化の融合と相克から生まれた音楽だとするなら、
人種にこだわる必要はないのかもしれないが、時は20世紀の初め、まだまだ人
種差別が激しかった時代である。何となく黒人ミュージシャンを応援したくな
ってしまうのも人情じゃないか。

 前回の、トニ・モリスンの『ジャズ』にも、こんなくだりがあった。「でも、
わたしは、やった。救急車を呼んだ、ってこと。でも、朝まで来なかった。わ
たし、二度も電話をかけたのに。道が凍ってるからね、って言ったけど、本当
は、黒人が呼んでるからだった。ドーカス(注:黒人の少女)は、あの女性の
ベッドのシーツからマットレスまで出血して、死んだの」

 黒人が呼んでも救急車は来ない。それが1920年代の普通の風景だったのかど
うかは知らないが、1930年代に、似たような事情で命を落としたという「伝説」
を持つ、実在の黒人歌手もいる。
 それが本書の主人公、ブルースの女王、ベッシ―・スミスだ。

 話は逸れるが、テレビの衛星放送でベッシ―・スミスの伝記映画を見たこと
がある。主演は女性ラッパーの草分け、クイーン・ラティファで、これはかな
りはまり役。で、そのレコーディングの場面が、ちょっと驚きだった。
 蓄音器のラッパ型のスピーカーがあるけれど、それの超巨大なものがスタジ
オの壁一面に据え付けられていて、てっきりモニター・スピーカーだと思って
いたら、なんとベッシ―・スミスはその前に立ち、そこに向かって歌い出した
のである。
 つまりそれはスピーカーではなく、マイクロフォンなのだった。

 ある種シュールな絵だと思った。
 壁一面を占める巨大なマイクロフォン。その前に立つブルースの女王。彼女
の横にはピアノがあり、ピアニストが伴奏している。さらに後方にはスーツを
着た数人の白人ビジネスマンが並んで立って見守っている。恐らくディレクタ
ーだったり、レコード会社の人だったり、マネージャーだったりするのだろう。
今では録音ブースとディレクターたちがいるモニター・ルームは別の部屋にな
っているが、当時はひとつだったらしい。

 ところで、マイクロフォンというのは、小型フォンという意味だろう。バス
に対してマイクロバス、コンピューターに対してマイクロコンピューター(マ
イコン、とその昔は略して持て囃されたこともあった)というように、元々あ
るものが小型化された時のネーミング作法なのだから。
 つまり、マイクロフォンの前にただの「フォン」があり、その小型版が出来
た時に初めてマイクロフォンの名前が生まれたと考えられる。

 だから、この壁一面の巨大なものは、「フォン」なのだ。実際にはなんて呼
ばれていたか知らないけど。

 しかし、マイクロバスが出来てもバスはなくならなかったが、マイクロフォ
ンが出来たらもはや「フォン」は要らなくなってしまった。だから、今ではそ
の元の言葉も失われてしまったのではないか。

 というくだらない横道は措いて、本筋に戻ろう。『ブルースの女王 ベッシ
―・スミス』だ。

 著者はイレイン・ファインスタインという、イギリスの詩人である。そのた
め原文が凝った言い回しなのだろう、翻訳はあまりよくない。本としても薄く
て、音楽界に巨大な足跡を残した「女王」の伝記としては物足りない印象を与
える。
 しかし、内容は短いながら充実しており、何よりいいのは、著者が客観的に
ベッシ―・スミスを捉え、一歩引いた目で描いているところだ。

 大きな体と、大きな声。黒人としても黒い肌。男をも殴りつける強靭な拳で、
暴力沙汰とも縁が深い。バイセクシュアルで、不倫も平気。ツアーに出ればア
ルコールに溺れる、自堕落な生活。そうした人物像を描く一方で、その巧みな
ヴォーカル表現や、優れた作詞家としての才能を讃えている。

 本書の最後を締めくくる文章に、「私たちが自分自身をありのまま認めるよ
うに、ベッシ―をそのまま受け入れ、認めるのだ。」とあるが、まさにそれを
実践したのが本書であると言える。

 ところで、先に「1930年代に、似たような事情で命を落としたという「伝説」
を持つ、実在の黒人歌手」とぼくは書いた。
 わざわざ「伝説」としたのは、実際に彼女が死に至った経過がどうだったの
か、未だに明らかにされていないからである。
 著者も、「相反する証言が、このように乱れ飛んでいる状態では、真実への
道のりは遠く、その距離は縮めにくい。」と書いている。

 確かなのは、ベッシ―・スミスが交通事故に遭ったことだ。
 そして、その八時間半後に、意識不明のまま息を引き取った。

 伝説では、この八時間半の出来事を、次のように説明する。
 事故後救急車が来たものの、ベッシ―が黒人であったために白人専門病院で
治療拒否に遭い、黒人専門病院に辿り着いた時には既に手遅れで、出血多量の
ために死んだ、と。

 当時のマスコミもこれを事実として扱い、ベッシ―・スミスは南部の人種差
別の殉教者だとする論調が支配的だった。

 確かに事故現場には、ベッシーだけではなく、巻き込まれて怪我をした白人
もいた。そして到着した救急車は、白人の方を優先して病院へ運んだらしい。

 ところが、証言を丹念に追うと、救急車は他にももう一台、すぐ後に来てい
たのである。そして二台目の方はベッシ―を乗せて現場から去って行ったので、
これが治療の遅れの原因とはならない。

 治療拒否についても、ベッシ―を手当てした黒人病院の関係者は、白人病院
に行って断られた後ではなく、「事故現場から直接この病院に運び込まれ、病
室で死亡したのだ」と証言している。

 著者も、「三〇年代に、救急車の運転手が、黒人の運転手であればなおさら
だが、ベッシ―に限らず黒人を白人病院に連れて行くことなどありえない」と
書いている。

 そして、仮に治療拒否があったとしても、次の事実がある。
 白人病院と黒人病院は、僅か1マイルしか離れていなかったのである。
 もしも白人病院に行って断られたとしても、たった1マイルの遠回りが、生
死を分かつほど致命的だったのだろうか。

 一方、事故現場から救急車を呼ぶためには、電話のあるところまで10マイル
歩かなければならなかったのも事実だ。そのために、余分な時間がかかったこ
とは認めてもいいだろう。
 また、現場には白人の医師も車で通りかかり、ベッシ―の応急手当てをして
いる。この人物が救急車を待たずに、自分の車で運んでいればよかったのだが、
どうやら自分の車を黒人の血で汚したくなかったらしい、という証言もある。
 これが事実なら、病院ではなく、白人医師の人種差別により、ベッシ―・ス
ミスは命を落としたことになり、「伝説」もあながち嘘ではないということに
なる。

 いずれにせよ、タイムマシンが発明されない限り、真相が究明されることは
ないだろう。

 さて、そんな謎の死を遂げたことよりも、われわれがベッシ―・スミスを記
憶すべきなのは、その素晴らしい音楽の魅力によってだ。
 彼女のブルースが、なぜこれほどまでに、人の心を揺さぶるのか。
 詩人でもある著者は、実に的確な一言で、その本質を突いている。

「自分の不幸を語るのではなく、聴衆の心にかれらの悲惨を気づかせる、それ
がベッシ―の力の秘密だった。」

 ここには、表現というものの真髄がある。音楽でも演技でも、それがパフォ
ーマー自身の自己表現でしかないのなら、見る者に真の感動が与えられるだろ
うか。
 人種差別激しい20世紀初頭のアメリカに生まれなくても、黒人でなくても、
女性でなくても、貧困に喘いだことがなくても、誰しもが生きる中でそれぞれ
の悲惨(ブルース)を抱えている。
 ベッシーのブルースを聴く時、ぼくらは「彼女のブルース」に同情するので
はなく、心の奥にある「自らのブルース」を呼び覚まされているのだ。

 時を超え、国を超える優れた表現というものは、常に表現者と受け手の心が
共鳴する瞬間において、初めて普遍に到達し、永遠となる。そのことを、こん
なに端的に示した言葉を、ぼくは他に知らない。

イレイン・ファインスタイン
荒このみ訳
『ブルースの女王 ベッシ―・スミス』
1989年7月20日 印刷
1989年7月30日 発行
山口書店

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
インフル、やってしまいました。随分前ですが、日本の厚生労働省は製薬会社
から期限切れ寸前のワクチンを押し付けられているから、ほとんど効かないら
しい、という噂を聞いて、なあんだと思って、予防接種も受けてませんでした。
今年のは微熱が特徴だそうで、さほど高熱には苦しみませんでしたが、医者が
言うほど早くには治らず、いらいらしました。でも、人種差別もされずに病院
へ行けるのは幸せなのかもしれませんね。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『夫のちんぽが入らない』こだま 扶桑社

 これほど衝撃的なタイトルの本はそうなかろう。もともと14年に同人誌の即
売会「文学フリマ」に出した同人誌に収録された同名タイトルの短編が大評判
をとって、大幅に加筆して出されたノンフィクションらしい。

 装幀も書店に置いた時に作品が誤解されないようギリギリのバランスを追求
した、すばらしいものだ。その上、著者がこれはダメだろうと思っていた、こ
のタイトルで出す決断をした編集者もたいしたものだ。

 ・・・同じように後書きに少なくとも私は初めて見た、新しい工夫が凝らし
てあるのだが、こればっかりは何を狙っていたのか、私にはわからなかった。
ま、それはともかく本題に入ろう。

 彼女は北海道の相当な田舎で生まれ、初めての子育てに猛烈なストレスを感
じていた母親に育てられた彼女は、母親の機嫌を伺うことが家庭での処世術だ
った。そのせいか、人とかかわることが大の苦手になっていて、地域からも浮
いていた様子。

 こんなところから脱出したいと、彼女は大学進学をもって地元から出た。行
った大学は東北の某大学。学部は教育学部だ。貧乏だったのでボロアパートを
選んで、引っ越しの荷物を解いていると、このアパートに住む、まだ見ず知ら
ずの男がやってきてカラーボックスを組み立てた。そしてそのまま「何もしな
いから」と言って一泊していく。この時は、本当に何もしなかった。

 人付き合いが大の苦手だと自覚していた彼女の心の中に突如ズカズカと入っ
てきた、しかし乱暴者ではない彼。その彼と彼女は互いに愛するようになる。
そして肉体的に結ばれようとした時、タイトルの事件が起こった。

 その後も状況は良くならず、結ばれることなく結婚。卒業して二人とも学校
教師になった。それでも当初は静かに暮していけたが、彼女が赴任した二つ目
の学校で学級崩壊が発生し、事態は急変していく・・・

 著者は、ちょっと人付き合いが苦手なだけで、頑張り屋で優しい女性のよう
だ。人に甘える、頼ることを知らないと言うか、知らずに生きて行かざるを得
なかった。しかし、人には優しい。

 自分がどれだけつらくても、どうしても人を思いやって我慢してしまう。そ
うした生き方は、彼と結婚してからも続いた。

 そして運命のいたずらによって直面せざるを得なくなった苦闘。この時助け
が呼べたらまた状況は違っていたのかも知れないが、彼女には助けを呼ぶこと
がどうしてもできなかった。1人で苦悩を抱え込み、じたばたするしかなかっ
た。

 ちんぽが入らなかったのはなぜか、結局明らかにされたわけではない。誰に
でもできると思われたことができないということ。そして人に助けを求められ
ないということが、こんなにも人を傷つけていくものなのかと思いながら読ん
だ。

 そして思うのは、近年話題になるブラック企業と言うやつ。キツイ長時間労
働で低賃金な仕事は、バブルの時代でもあった。まして他の時代にはもっとあ
った。しかし、今のようにブラック企業としてクローズアップされることはな
かった。

 それがなぜ近年になってからクローズアップされるようになってきたのか?
昔より厳しい状況におかれる人が多くなったからかもしれないが、むしろ彼女
のような、孤立し、逃げ場がなくなっていたがゆえに壊れるようになった人が
増えたからではないか?

 昔は人間関係が濃密だった。そんな人間関係の中では、同調が重視されて同
調できない人にとって生きづらかった。だからこそ都市に出て、そういう人間
関係の煩わしい世界から脱出しようとする人も多かった。

 煩わしい人間関係から都会へ脱出することは、孤独を意味した。そんな孤独
な人たちを孤独から解放することで浸透したのが創価学会や共産党、近年なら
幸福の科学だ。都会で孤独に苦しんでいては得られない「仲間」が、こうした
団体に行けば得られた。

 こうした団体には問題もあるが、会社以外の「つながり」ができた。信頼で
きる人に悩みを相談することもできただろうし、あまりにひどい職場に勤めて
いたりしたら、転職先を紹介してくれることもあっただろう。そうやってお互
いがお互いを支えるコミュニティができていた。

 それが戦後都会でこうした宗教が躍進した理由だと私が知ったのは10年以上
前に当メルマガに書評を書いた島田裕巳氏の「創価学会」であった。

 そんな昔の創価学会や共産党に代表される、職場以外のコミュニティが今は
ないと言うことなのだろう。ネットはどうなのだと思った方、実は彼女はネッ
トにも助けを求めて失敗しているのです。

 ネットの良いコミュニティに巡り合えたら、彼女もなんとか苦境を乗り越え
る糸口を見つけられたかも知れない。ただ、彼女のスキルと知識ではネットの
荒波を乗り越えることはできなかったのです。

 昔から異業種交流会など、自分の生きるのとは別世界の人と付き合う必要性
は叫ばれていたし、今はSNSという「つながる」ツールもそこそこある。

 しかし、本当に必要なのは「つながる」ことではない。

 「ちんぽ」に気を取られて読むと、とんでもなく重いものを突きつけられる。
そんな作品である。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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昔、ミーハー、今、ヲタク。ビートルズがアイドルだったあの時代。そして
追悼!藤村俊二さん『私が会ったビートルズとロックスター』星加ルミ子著
(シンコーミュージックエンターテインメント)

 過日、藤村俊二さんが亡くなりました。タレント、俳優、バーのオーナーと
いう肩書で紹介されたものが多かったのですが、おばちゃまにとっては振付師
としての印象が強い方です。

 そこで今回の本は星加ルミ子著『私が会ったビートルズとロックスター』。
星加ルミ子さんというのはまあお若い方はご存じないと思いますが、1960年代
の洋楽専門誌「ミュージック・ライフ」の編集長として有名な方でした。

 昨年はビートルズが来日して50年経ったということですが、初来日当時、洋
楽だけを扱う雑誌というのが数誌あり、その中でも一番おしゃれとされていた
のがシンコーミュージックから発売の「ミュージック・ライフ」だったのです。
(この話のどこに藤村俊二さんが登場するのかと思うかもしれませんが最後に
はご紹介しますので少しお待ちください。)

 星加ルミ子さんは今でいえばヲタク、昔はミーハーと呼ばれましたが、音楽
とか芸能に対して熱を持っている少女の代表として、洋楽雑誌のお仕事をして、
ビートルズに始めてインタビューした編集者として有名です。

 この本、最初こそ、この本ではアーティストを支えたマネジャーについて書
く予定と言って始まるのですが、脈絡なく話はあっちへ行きこっちへ飛び、で、
最終的にはまたビートルズの話になるという、読んでいて読みにくいか読みや
すいかと言われれば前者ですが、それだけに、妙な臨場感があってそそられま
す。

 よく読むとビートルズにインタビューしたのが1965年で、その音楽にハマっ
たのが1967年「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハート・クラブ・バンド」
というからそんなにパイオニアというほどでもないんですね。

 しかし、この方は「フール・オン・ザ・ヒル」のレコーディングの時にスタ
ジオにいた!というからすごい方です、やっぱり! キモノを来て東洋から来
たキュートな女の子はビートルズのメンバーの目にはどんなふうに映ったので
しょうか。

 さて、藤村俊二さんです。この星加ルミ子編集長は土曜日の午後、放送され
ていた洋楽番組「ビートポップス」にMCとして出演していました。メインM
Cがこれ昨年亡くなった大橋巨泉さん。その横でにこにこしながら洋楽のコメ
ントを言う役割で、おばちゃま、わけもなく「編集長」という仕事にあこがれ
たものです。スタジオには50人ぐらいの若者を入れてゴーゴーを踊っていると
いうもの。(ゴーゴーって)。

 で、全員で踊るコーナーがあってその振り付けをしてたのが若いころの藤村
俊二さんでした。振付師がテレビの画面に出るこれもパイオニアですね。

 振り付けを説明してみんなで躍ってみるという今となっては妙なコーナー。
土曜は学校から急いで帰ってこの番組を見たんですね。(当時、レコーダーあ
りません。土曜日に学校ガッツリ4時限ありました。おばちゃま、テレビの前
でミリアムマケバ「パタパタ」とか踊ってた。わけもわからずに(笑)。(ち
なみに今、ウイキりました。当時もちろんウイキはありません)。

 しかし、この本で星加ルミ子さんも触れているようにその後、ベトナム戦争
があり5月革命があり、ベルリンには壁が作られという時代は激しく動いてい
ました。ミリアムマケバも反アパルトヘイトで国外退去をしています(さっき
知りましたが)。

 ミーハー精神で単身、イギリスに行ってビートルズにインタビューした著者
とか、当時としてもなんか脱力感があっておしゃれで、いい時代の犇農韻辰
さ瓩感じられた藤村俊二さん。

 なんだかなつかしくて同年齢の元同僚にメールしちゃいました。東京の遊び
人だった彼はビートポップスのスタジオで躍ってたと前に言ってたっけ。メー
ルの返事には「スタジオでは小山ルミが躍ってた」とありました。小山ルミは
ハーフタレントの走りです。かわいかったんですよね。

 おばちゃまがただひたすら子どもだったあの時代。ため息ものでございます。

 藤村俊二さんのご冥福をお祈りいたします。

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 個人的な話ですが、一時期のメールの返事をする間もないほどの忙しさがひ
と段落してきました。で、今は返事できていないメールに返事を送っている状
態です。しかし、いろいろ落ち着くのは春になりそうです。

 先日、春一番が吹いたと気象庁が発表したとか。春よ来い。早く来い。

 とか書いたら、どっかの人が権利料寄こせって来るんですかね。世知辛い世
の中ですね。(あ)

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[書評]のメルマガ vol.623


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■コンテンツ
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→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→漫画で読みたい! 日本近代文学史

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→Silence 神よ なぜ黙っているのですか

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→大きな絵本の大きな世界

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<86>漫画で読みたい! 日本近代文学史

 母さん、僕のあのマトン、どうしたんでせうね?
 ええ、夏、すき焼きをするってときに、
 うちは貧乏だからって買ってきたあのマトンですよ。

 母さん、あれは好きな肉でしたよ、
 僕はあのときずいぶんうれしかった

 ♪Mama! Do you remember…

 そう、「マトン」ですよ。
 子羊肉の「ラム」に対して、大人の羊の肉が「マトン」。

 わしが子供のころ…というのは、つまり昭和40年代…には、肉屋さんで一番
安かった肉が、この「マトン」なのだった。
 値段の序列でいうと、牛肉→豚肉→ラム→マトン。
 ラムよりも臭みが強くて少し硬いというので、世間ではやや敬遠されていた
マトンだったが、わしは、好きだった…のは、母方の祖父が猟師だったので、
猪や兎肉に慣れてたせいかもしれない。
 なので、お使いを頼まれて、「今月はちょっと苦しいから、マトンを 400グ
ラム」とか言われると、妙に嬉しかった。

 あのころは、テレビでも、「♪ニュ〜ジ〜ランド、ラ・ム!」と、軽快なコ
マソンに乗せて、ニュージーランド産羊肉を、盛んにコマーシャルしてたのだ
が、コマーシャルを「最近見ないな…」と気づいたころには肉屋の店頭からも、
羊肉は消えていた。
 気がつけば、スーパーでたまに見かける「ラム・チョップ」なんて、すっか
り高級食材となっている。

 なんで肉屋の店頭から安価な羊肉が消えたのか?
 対ニュージーランド貿易に、どこかの時点で、なんか問題が生じたんですか
ね…?

 「マトン」に限らず、ふと気がつくと、いつの間にかなくなっていた、ある
いは何かにとって変わられていた、ということがままある。

 たとえば、同じく食い物でいうと、「細長いリンゴ」。
 「印度リンゴ」とか、「キングデリシャス」といった品種名だったと思うけ
ど、かなりどぎつい濃い赤色の皮で、側面がやや凹んだ形状の、細長いリンゴ。
 ふと気がついたときには、スーパーや果物屋の店頭には「富士」に代表され
る「丸いリンゴ」ばかりで、あの細長いリンゴは、いったいどこに消えたので
しょうか?

 ♪わたなべの、ジュースの素ですもう一杯…
 とテレビで盛んに歌ってた「粉末ジュース」というのも、あっと言う間にな
くなりました。

 駅のホームでの「白線まで下がってお待ちください」のアナウンス。
 今やどことも「黄色い線までお下がりください」あるいは「黄色い点字ブロ
ックまで…」が主流。
 「黄色」いのは、「線」ではなくて確かにブロックだから、「黄色い線」と
の表現は、如何なものか、とも思うが、それはさておき、それでは「白線」は、
なんのために、未だ残されているのだ?
 面倒なので、あえて取り外されないかつての「遺構」かと思えば、新設のホ
ームにも「白線」と「点字ブロック」の両方があるぞ。なんでだ?

 大衆食堂の「めし」という平仮名で独特の書体の看板や暖簾も、いつのまに
か街から消えてしまった。

 西日本では元からなかったようだが、「蒲団の袖」というのも、東日本にお
いてはいつのまにか「消えた」ものなのか? という疑念は、夏目漱石の随筆読
んで湧いてきた。

「…寝心地はすこぶる嬉しかったが、上に掛ける二枚も、下へ敷く二枚も、こ
とごとく蒲団なので肩のあたりへ糺の森の風がひやりひやりと吹いて来る。車
に寒く、湯に寒く、果は蒲団にまで寒かったのは心得ぬ。京都では袖のある夜
着はつくらぬものの由を主人から承って、京都はよくよく人を寒がらせる所だ
と思う。」(夏目漱石『京に着ける夕』)

 『京に着ける夕』は、正岡子規とともに京都に遊んだことを記した随筆だが、
その中の、朝東京をたって後、ほぼ一日がかりでその日の夜に京都に着いて駅
から人力を雇い、底冷えのする京の冬、糺の森近くの旅館に投宿したくだりが、
上の文章。

 敷蒲団も掛蒲団も「ことごとく蒲団」というのは、しごく当たり前に思える
のだが、漱石にとっては「あり得ない」事態だったようだ。
 「袖のある夜着」とは、今日東北地方に見られる「かいまき」のことかと思
うが、上の漱石の文章では、彼は日常的にこれを使用していたようだ。
 さらに、「京都では」これを「つくらぬ」という事実を知るに及んで、やや
怒気を含んだ憤りを記している。多分、旅館の主人を呼んでねちねちとクレー
ムつけたんだと思う。クレーマー漱石、ですね。
 言われた旅館の主人も、さぞ困ったと思う。おそらくは「袖のある夜着」な
んて、見たこともなかったろうから。

 わしは、学生時代から10と数年間を東京で過ごしたのだけど、寝るときに
「かいまき」を使用する人、というのには、ついぞ出遭ったことがない。ふと
ん屋などで売ってるのを見たこともない。そもそも、「かいまき」という夜着
の存在を知ったのも、東京を離れてからだ(たまたま見た通販雑誌ではじめて
知った)。
 しかし漱石の文章では、さもそれが「当たり前」のような書きようである。
 さすれば、「袖のある夜着」というのも、漱石の時代、東京では「当たり前」
だったのが、いつのまにやら消えてしまった習俗だったのか? と思った次第。

 漱石は、人並み外れて「寒がり」だったというから、夏目家独自の習慣だっ
たかも知れないのだが、その辺、どうなんでしょうか?

 そう言えば、かつては各社が競い合うように「日本文学全集」または「世界
文学全集」あるいは「少年少女世界文学全集」はたまた「日本近代文学全集」
なんてのが、文芸系出版社各社から相次いで刊行されていて、どこの家にもど
こかの出版社が出した全集が、専用の書架にずらりと収まってたり、あるいは
その端本がその辺に転がってたりしたもんですが、あの光景も、「百科事典」
とともに、いつのまにやらご家庭からなくなってしまった。
 わしも、たとえば夏目漱石とか芥川龍之介、井伏鱒二や川端康成なんてのは、
家にあった全集の端本で読んだ記憶がある。

 文学全集は消えてしまったけれども、近代の日本の文学者とその周辺及び同
時代との係わりを、漫画で描くことが、静かなブーム…と言うほどではないが、
気を付けて見てみると、結構目立ってきているように思える。

 この分野での嚆矢であり、さらに「金字塔」とも言える存在が、「漫画アク
ション」で連載され、単行本と文庫版がともに双葉社で現在も版を重ねている、
関川夏央・作/谷口ジロー・画の『坊ちゃんの時代』から続く連作「明治五部
作」である。

 漱石と、漱石邸に出入りするその門弟たちとの関わりを中心に、「ラフカデ
ィオ・ハーン」や「仕立て屋銀次」も登場する第一部『坊ちゃんの時代』。
 森鴎外と、彼を追ってはるばるドイツから来日した「エリス」の物語を中心
に、二葉亭四迷なども登場する第二部『秋の舞姫』。
 石川啄木の放蕩とそんな彼に凝りもせず、乞われるままひたすらに経済的援
助を続ける金田一京助の日々、そしてそこに女史・樋口一葉の夭逝が絡む第三
部『かの蒼空に』。
 幸徳秋水と「大逆事件」を軸に展開する第四部『明治流星雨』。
 そして再び漱石を主人公に据え、「修善寺の大患」からの生還と、過去四部
の人々のその後を語りながら「明治」という時代の総決算としてまとめられた
第五部『不機嫌亭漱石』。

 関川夏央と谷口ジローのタッグは、この五部作で「明治」という時代を見事
に活写し、この時代の町の…ことに東京という都市の空気や、その空気の中に
棲みながら、時代を動かし、作ってきた文学者や政治家、社会活動家たちの生
活を、活き活きと描き出して見せてくれた。

 これは、漫画というメディアの特性でもあり、また谷口ジローの画力に負う
ところも大なのだが、『坊ちゃんの時代』は、漱石や森鴎外、石川啄木や樋口
一葉、等々の人物が、肖像写真や肖像画、または千円札や二千円札を通じて我
々がよく知ってる顔かたちで、キャラクターとして動くのである。
 このインパクトは大きい。

 実写映画や小説で、同様のモチーフが展開された例は過去にもあるが、彼ら
がキャラクターとなったとき、その「実在感」というのは、漫画に一日の長が
ある。
 胃痛に耐えながら、原稿用紙を前に所在無げに鼻毛を抜く漱石。
 「維新」とは決して呼ばず、明治維新を終生「瓦解」と、不機嫌に呼び続け
た漱石。
 市電で出会った金田一をこれ幸い、「君、少し用立ててくれたまえ」と悪び
れもせず借金申込み、意気揚々と女郎買いに向かう啄木。
 そのリアリティと存在感は、いずれも圧倒的だ。

 この「実在感」は、中原中也と小林秀雄…この二人の関係性って、啄木と金
田一京助の関係性にそっくりなんですね…そして中也の愛人である康子、三人
の三角関係を軸に物語が展開する、曽根富美子『含羞(はじらひ)−我が友 中
原中也−』もそうだし、芥川龍之介を主人公に、室生犀星、萩原朔太郎という
二人を狂言回しとして、大正時代に文士が多く住んだ「田端村」と大正文壇の
盛衰を描いた、松田奈緒子『えへん、龍之介。』でも、彼らは、それぞれの時
代の中で同じ存在感を有していて、なのでその時代性や背景の町や社会もまた、
とてもリアルに感じられる。

 ことに、『えへん、龍之介。』での、ハンサムで知的な風貌を持ち、人前で
はインテリ然とした振る舞いを崩さない主人公・龍之介が、ふとしたはずみに
見せる下世話でミーハーな側面が、とても秀逸。

 中原中也と小林秀雄のコンビを描いた作品としては、月子『最果てにサーカ
ス』が、最近まで「月刊スピリッツ」に連載され、単行本は全3巻で出ている。

 また、現在連載中の作品としては、倉科遼・作/ケン月影・画の『荷風にな
りたい −不良老人指南−』がある。
 こちらは、永井荷風の、若年時からの性的嗜好、ありていに言えば旺盛な性
欲が嵩じての「変態性欲」にスポットを当て、そんな彼の女性遍歴…というよ
りも性的漁色を軸に、文豪・荷風の生涯を描く取り組み。
 物語は2017年2月現在の連載では、『墨東奇譚』のあたりまで進んでいる。
 これ、絵を担当するのが、あの、エロ劇画の巨匠・ケン月影なので、電車の
中では開くのが躊躇われるページが多くて、乗り物読書には、やや不向きです。

 こちらの主人公は文学者ではないのだけど、村上もとか『フイチン再見!』
もまた、漫画家・上田としこの生涯を描くことによって、彼女と、彼女が生き
た時代とその背景を浮き彫りにしようとしている点で、上記各作と同列かとも
思う。
 こちらは、連載ではただ今1970年代。物語には、若き日の作者・村上もとか
が登場してきている。

 この分野、ひそかに期待しているのだが、まだまだ描かれてない人と時代を
発掘し、どんどん読ませていただきたい、と思う。

 たとえば……
 坂口安吾、太宰治にオダサクを絡めて、檀一雄を語り部とする「無頼派」一
党の暴れっぷり。

 あるいは、野坂昭如を主人公にして、永六輔や小沢昭一らの「中年御三家」
や雑誌「面白半分」、そして「四畳半襖の下張り」事件がからんでくる昭和元
禄浮世草紙。
 さらにそこからスピンオフする形で、上村一夫と阿久悠の交友を軸に、新宿
ゴールデン街紳士録、なんて物語。

 萩原葉子『蕁麻の家』は、世田谷代田に居を構えたばかりの萩原朔太郎一家
を、娘の視点から描いた物語だが、これも漫画で読んでみたい、とも思う。

 最近アニメ化された『この世界の片隅で』でにわかにブレークしたこうの史
代には、林芙美子の尾道時代なぞ、ぜひ描いてほしい…と思ってみたり。

 ……等々、等々、妄想は無限に膨らんでいくのだけど、上のどれか、本当に
実現しないかな。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第86回 Silence 神よ なぜ黙っているのですか

 先月は上智大学の先生でイエズス会の神父でもあるピーター・ミルワード先
生の本を紹介した。今月もイエズス会に関係のある本を紹介したいと思う。イ
エズス会宣教師の話。でもそれは小説なので、フィクション。しかしいたる処
に史実どおりのこともちりばめている小説を紹介したい。そしていま、それを
原作にした映画が劇場で上映されている。

『沈黙』(遠藤周作 著)(新潮社)(1976年(昭和41年))

 遠藤周作はクリスチャンであった。そして本書はクリスチャンである遠藤周
作が終生、心の中で問うていた問題について書いた物語であった。すなわち、
「神はなぜ黙っているのか」という疑問であり、これが本書の主題なのである。

 主(創造主=神)は慈悲深く、人々を苦しみから救ってくださる。しかし、
日本の切支丹のことはお救いにならなかった。神は沈黙したままだった。そし
て、それはもしかしたら実は神は常に沈黙したままなのかもしれない、神がな
にかをしてくれることなど今までもあったのだろうか、という疑念に信徒は苦
しむことになったのかもしれない。そしてそれはさらに恐ろしい疑念となって
いくのである。すなわち、神は本当に存在するのか。と心のどこかでおもって
しまうことになるのだ。

 この物語によると、江戸時代に切支丹の弾圧において、幕府は信者のそうい
う疑念をうまく利用して、棄教を迫ったと云える。信者の心の中の迷いに乗じ
て棄教に持っていく。神の存在を疑うこと自体が神への冒涜であり、それはす
でに疑うことによって、信者の資格はない、という論法で棄教させていく。

 また、幕府は宣教師=バテレンは処刑しない。バテレンを処刑すると、彼ら
を殉教者にしてしまい、ますます切支丹たちは信仰を深めていくことになる。
拷問し処刑するのは、百姓の切支丹たち。それをしっかりバテレンに見せて、
バテレンを苦しめ、そしてバテレンに棄教を迫るのだ。苦しむバテレンは、懸
命に神に問いかける。主よ救い給え。しかし神は答えない。神は沈黙したまま
である。バテレンの苦しみは最高潮に達する。そして神もお赦しになる、と悲
しみの中で消極的であるが重大な決心をして、転ぶ(棄教する)。

 神を信じることで、なぜこれほど苦しまなくてはいけないのか。神に問いか
けてもなぜ神は答えてくれないのか。そして、神はどこにいるのか。
 作家、遠藤周作の心の中の疑問はまさにここにあったのだろう。

 もうひとつ。遠藤周作の興味は棄教者にあった。フェレイラ師、ロドリゴ神
父、そしてキチジロー。この主要人物3名がみな、転び者なのだ。信仰を守り
続けた強い人たちは漁師たちであり百姓たちなのである。

 物語は珍しい形式となっている。まえがきとして時代背景や物語が始まるま
での経緯が長いト書きのように書かれている。そしてロドリゴ神父の手紙。リ
スボンからマカオ、そして日本の地に潜入し、布教活動の様子を細かく記した
この手紙は、ロドリゴ神父の一人称で書かれている。手紙形式の文体は、ロド
リゴ神父がキチジローの裏切りによって日本の官憲に捕らえられるまで続く。
そして第三の形式として、ロドリゴ神父の思考に沿って物語は進んでいくが、
一人称ではなく、「彼は」という主語で物語を展開させている。第二の手紙形
式は、困難な布教活動を描き、第三の客観的表現では、棄教へ至る心の変化を
描いている。棄教までの心の変化は、一人称に語らせると、必ず自己弁護にな
ってしまうから、客観的な第三者の記述表現にしたのだろうと推察する。
 遠藤は、棄教者に心を寄せている。

 さて、現在上映中の「Silence−沈黙」。巨匠 マーティン・スコセッシ監督
作品。
 原作にほぼ忠実に描いている。
 映画は監督の意志と役者の演技によって完成する。スコセッシ監督の意図を
汲んだ役者たちの演技が素晴らしい。本来はポルトガル語で表現しなければな
らないのだろうが、映画では当然のように英語が使われている。欧州の言葉で
あれば、英語でもいい。英語でも目をつぶるしかないであろう。

 本作の成功は、シークエンスの見事さもさることながら、配役の見事さに尽
きると思う。とにかく観た方がいい。できれば原作を読んでから観た方がいい。
宗教という、理解するのに少し時間のかかるものをテーマにしているので、会
話も高度に形而上学的だから、映画で初見だと、意味がわからない処がたくさ
んあると思うのだ。

多呂さ(フロリダで両首脳がゴルフをするという。遊びのゴルフかそれともゴ
ルフ場での真な交渉なのか、どちらなのだろう)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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69 大きな絵本の大きな世界

『走れ!! 機関車』
 ブライアン・フロッカ 作・絵 日暮雅通 訳 偕成社

 たくさんある絵本の中でどの本を選んで読むのか。
 翻訳絵本ですと、その基準になるひとつが、アメリカで最も権威のある絵本
賞、コールデコット賞です。
 本作は2014年の受賞作。

 大きい判型、見返しから文字がびっしり読ませます。
 でも、まずはここは後で読んでもらった方がいいでしょう。

 1869年、夏、ある家族がアメリカ大陸の東から西へ向かって、開通したばか
りの大陸横断鉄道に乗って旅をします。

 鉄の道を鉄の馬が走る。

 大きな蒸気機関車が大きな鐘の音を鳴らしながら線路を走ってきます。

 迫力満点に描かれるのは機関車だけではなく、
 機関車から発せられる音の文字も色を変えたり大きさに変化をもたらせたり、
ページ全体から動きを感じさせます。

 機関車と共に働く人たちをみせながら、
 乗客として旅の臨場感を読者にもたらせます。

 ページを繰るごとに旅はすすみ、会いたい人のもとに運んでくれます。

 ガタガタゆられながら到着した終点。

 その余韻にひたりながら、今度は見返しに書かれている説明を読む楽しみが
待っています。

 アメリカの蒸気機関車について、その歴史から、大陸横断鉄道のルートまで
絵と文字の情報はたっぷりな読みごたえです。

 蒸気機関車には一度乗ったことがあります。
 地元で時折SLが走るのですが、それにです。
 長旅ではありませんが、迫力あるボーーーッツという音に胸が高鳴りました。

 ローカル線もよく利用しますが、長旅にはイスが固かったり不便もあります。
 でも、車窓の景色が楽しみで、季節ごとに楽しんでいます。

 鉄道旅好きにはたまらない絵本なのはまちがいなし。
 読んでみてください。

 今回はもう1冊ご紹介。 
 2015年イギリスのケイト・グリーナウェイ賞受賞作です。
 この賞は作品ではなく、画家に与えられる賞で、イギリスで出版された絵本
の中でもっともすぐれた作品の画家に対して年に一度贈られます。

 『シャクルトンの大漂流』
           ウィリアム・グリル 作 千葉茂樹 訳 岩波書店

 南極大陸横断に挑戦した28人の男たちの実話。
 
 25歳の画家、ウィリアム・グリルは色鉛筆で隊員たちひとりひとり、そして
一緒に連れていった69頭の犬も含め、あたたかい色彩で繊細に描き出していま
す。

 持ち込んだ道具もすべて描いていて、数が多いものを見開きにおいているた
め、ゴマ粒のように小さいのもあるのですが、その細かさには心をつかまれま
す。小さなものすべての必要性を納得させる愛情を感じるのです。

 小さなものばかりではもちろんなく、それらを積み込む船はでーんと大きく、
荒れ狂うブリザードの海は迫力を持って描かれ、絵本の中がとにかく広くて深
い。南極の寒さまでもが伝わってくるほどに。

 実際にあった過酷な冒険が臨場感をもって迫ってくるのは、大小さまざまな
もののリアルさにあるのでしょう。

 すごいなあ、すごいなあと目をページに近づけたり遠ざけたりしながら南極
の冒険を観察する絵本。読むのにも体力を使った気分になるほどです。

 本書は絵本のつくりもとても美しく、担当編集者さんによると背に布を使っ
ていて表紙にはUV箔という贅沢な造りなのだそうです。

 美しさと厳しさを同時に鑑賞できる贅沢な一冊。
 ぜひ体感してほしいです。


(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643

・『あれか、これか
  「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)
 http://www.diamond.co.jp/book/9784478066041.html

・『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)
  http://www.diamond.co.jp/book/9784478068137.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
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 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
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 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
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2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
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3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今年は何だか正月から個人的に慌ただしい日々が続いていまして、いろいろ
メールの返事すらも覚束ない状態…。

 最近、某社では仕事のメールのやり取りをAIでサポートさせる実験が始ま
っているとか。言われてみればビジネスのメールは定型なやり取りが多く、実
用化も早そうです。

 早く実用化されて、この業務メールの山から逃れられないものかなぁ、と、
密かに祈っております。(あ)

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