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[書評]のメルマガ vol.9
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■■ [書評]のメルマガ   2000.8.30.発行
■■       vol.9
■■  mailmagazine of book reviews     [まともな絵の具 号]
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■「ビジョンをきちんと示すこと」石飛徳樹
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「希望の国のエクソダス」
村上龍著
講談社 2000年
1571円+税

 僕たちは子供のころ、家や学校でよく未来の絵を描いた。60年代後半
から70年代前半にかけてのことである。
 弾丸列車が走り、空中を縦横に自動車が走り回り、家の中にも機械があ
ふれている、そんな絵だ。万博世代らしく、そんな科学万能主義的な明る
く能天気なものであり、基本的には間違っていたのだけれど。

 今の子供たちは、ちゃんと未来の絵を描けているのだろうか。
 元子供である僕たちの目には、未来はもはや見えていない。
 政治家も、学者も、メディアも、だれもが未来のビジョンを示せないで
いる。

 「ラブ&ポップ」や「イン・ザ・ミソスープ」など、現代社会の後追い
でなく、現代とシンクロした作品を発表し、時代とともに疾走してきた村
上龍にとって、未来のビジョンを示せないこの日本の状況は、相当にイラ
イラしたものであったに違いない。
 彼は、この新作長編で、とうとうシンクロを一歩進めた「予言小説」を
僕たちに提示してきた。

 時は2001年、週刊誌ライターの「おれ」は、パキスタンで戦闘に参
加する日本人中学生を取材するために現地に向かおうとする。
 しかし空港は彼にあこがれて日本を脱出(エクソダス)しようとする不
登校の中学生たちでごった返していた。「おれ」はその中の一人、中村君
に好感を持つ。
 数カ月後、中村君はポンちゃんと呼ばれる同級生ら仲間と一緒に、学校
当局に正面から戦いを挑む。彼らは学校を放棄し、インターネットを使っ
たビジネスで驚異的な成功を収めていく。
 そのころ、日本経済は死に向かって緩やかに下降していた。そして、あ
る時、ついに破綻が訪れる……。

 日本社会の崩壊と意外な形の再生が、村上龍らしい一気呵成の筆致で描
かれるのだが、それは、僕たちが考える小説のイメージを大きく超えたも
のになっている。
 まず、政治・経済が今どうなっているかが、どんな解説書より丁寧で分
かりやすく語られており、優れた人文書の様相を呈している。
 また、2002年サッカーW杯の結果から、人気作家の自殺や新興宗教
の活動、子供たちの間でチームダンス・コンペが流行することまで、「予
言」の内容が微に入り細をうがっている。
 つまり、これは、政治家たちがよく書く類の、日本社会の将来像をまる
ごと提示する書のように読める。

 この中には、中村君やポンちゃんら中学生を始め、いろいろなキャラク
ターが登場するが、最も好感が持てたのは、雑誌ライターの「おれ」だ。
 「おれ」は、知ったふうな口をきかない。分からないことは分からない
と答える。だから、中学生に対しても理解者を気取ったりしない。

 久米宏、筑紫哲也という日本を代表する二人のキャスターをほうふつさ
せる人物が、この中で痛烈な批判を加えられている。国会でえらそうに質
問する代議士にも容赦なく鉄槌が下される。
 村上龍は、政治家やらジャーナリストやらが、知ったふうな口をきいた
り、理解者を気取ったりすることを非常に嫌っているようだ。
 自らの考えの及ぶ範囲でしか思考できないという安易な態度が、日本社
会を駄目にした。村上龍はそう考えている。
 斬新かつ謙虚に思考せよ。これが、この本のメッセージである。

 ここで描かれる日本経済崩壊のシナリオは実に迫力がある。今にもこの
通りの事態が起こりそうな気にさせられる。
 では、中学生たちが救世主となった再生へのシナリオの方はどうか。
 僕も、主人公の「おれ」にならって、「よく分からない」と答えよう。
 すごくリアルに感じられる一方で、「そんなに単純にいくもんか」とも
思えるのだ。

 もう一つ気になるのは、これが、予言としてはともかく、小説として優
れているのか、という疑問である。あるいは、これは小説なのか、と言い
換えてもよい。
 日本の経済構造についての詳細な解説などに力を込めすぎて、「おれ」
以外のキャラクターがきちんと描かれてなかったり、物語の起伏が少なか
ったりしてはいないだろうか。
 これはもう小説を超えているのだ、とも言えるだろう。
 しかし、やっぱり引っかかりが残る。
 世の中が予言の通りになったとして、その後も、この小説が残っていく
だろうか、という点に、である。
 後世に読み継がれるには、予言の当たりはずれでなく、文学であるかど
うかが基準になるのだから。

 ただし、そんな疑問は、この本が読まれるべきかどうかの判断にはいさ
さかも影響を与えることはない。
 この本は絶対読まれるべきである。
 それはもちろん、現在、誰も示し得なかった将来の日本のビジョンをき
ちんと示しているからだ。
 僕たちはこれを読み、「あなたの言う通り!」と予言をありがたがるの
ではなく、きちんと自分で考える必要がある。

 日本に将来のビジョンがなくなってしまったのは、一体いつのことだろ
うか。
 政治家も官僚も学者もマスメディアも、耳ざわりが良く、当たり障りが
ない言葉ばかりを垂れ流してきた。
 だれもがまともな絵の具を用意しないのだから、まともな絵が描けるは
ずもない。
 今、石原慎太郎・東京都知事の人気が非常に高い。
 それは現在には珍しく、ビジョンを分かりやすく打ち出す人だからでは
ないか。
 別に都民が右傾化したからではないと思う。
 石原知事は、若いころに芥川賞を取り、その後、文学と政治との間を往
還してきた人である。
 村上龍も今後、政治に深くコミットしていくのではないだろうか。
 おっと、これは予言が過ぎたようだ。
(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■「さみしくなったら詩を読もう。」ミラクル福田
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『ユーモアの鎖国』 石垣りん ちくま文庫(本体価格:680円)

昼休みに本を読んでいると、会社のおじさんが後ろから現れて、「おっ、
何かあったのかな?」と嬉しそうに話しかけてきた。
その時に読んでいた本は、『田村隆一詩集』(思潮社)で、机の上には
『詩集 若葉のうた』金子光晴(勁草書房)、『ガブリエラ・ミストラル
詩集』(小沢書店)があった。
でも、なんで“なにかあった”なんてことがわかるんだろう?
みんなどんな時に、なにを求めて詩を読むのだろう。

3月に童話屋から、石垣りんさんの詩集『表札など』が22年ぶりに復刊
された。7月はじめ頃の新聞記事で、すでに3万部が売れたという。“詩集
としては異例”となっていたが、復刊でこれほどまで売れるということは、
小説やエッセイであっても、“異例”である。

どんな契機があって売れたのか、詳しいことはわからないが、石垣さん
の詩が、世の中が求めていることに応えていることは間違いない。

詩集を一読すればそこに“りん”とした緊張感の漲りが感じられる。現
代ほど、女性に拓かれていない社会の中で、働きながら、一人で生きてき
た女性の誇りと、周囲にむけた優しい眼差しがある。高いところからでは
なく、普段の暮らしから、生活から出て来る言葉が、いま、重みをもって
受け入れられる時代なんだろうか。

『ユーモアの鎖国』の中にこんな話がある。石垣さんが銭湯に行った時、
見かけたことのない30才くらいの女性が、軽便カミソリで衿足を剃ってく
れという。
ためらっている私にカミソリを握らせたのは次のひとことだった。「
明日、私はオヨメにいくんです」私は2度びっくりしてしまった。知
らない人に衿を剃ってくれ、と頼むのが唐突なら、そんな大事を人に
言うことにも驚かされた。でも、少しも図々しさを感じさせないしお
らしさが細身のからだに精一杯あふれていた。 (中略)
剃られながら、私より年若い彼女は、自分が病気をしたこと、30歳を
すぎて、親類の娘たちより婚期がおくれてしまったこと、今度縁あっ
て神奈川県の農家へ行く、というようなことを話してくれた。私は想
像した、彼女は東京で一人住いなんだナ、つい昨日くらいまで働いて
いたのかもしれない。そしてお嫁にゆく、そのうれしさと不安のよう
なものを今夜分けあう相手がいないのだ、それで―――。私はお礼を
言いたいような気持ちでお祝いをのべ、名も聞かずハダカで別れた。
(「花嫁」)

短いエッセイの長い引用になってしまったけれど、優しい。詩集の表題
にも入っている「表札」や、「祖国」などの凛々しさとともに、こんな優
しさが、いま、求められているのだろうか?

石垣さんの働きながら書かれる詩、日常の出来事の中から生み出される
詩は“生活詩”とよばれた。
私は私の詩から「生活」というかさぶたが、自然にはがれ落ちてくれ
ることを願っていた。けれど、人とのかかわり合いをなおざりにした
暮しかたの中から、何が生み出せるだろうと考えるとき、みょうな心
配をしはじめていた。生活詩から生活がはがれ落ちたら、ただの詩に
なってしまう!(『ユーモアの鎖国』「生活と詩」)

やっぱり、“人と人とのかかわり合い”が求められているんだろうか?
石垣さんの言葉と必要とする人が、こんなにたくさんいて、心にとまった
詩を諳んじていたりするなら、いろいろあるけれど、世の中、そう捨てた
もんじゃあないか、などと偉そうに思ってしまう。

ところで、なんで詩を読んでいたんだっけ?
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(ミラクル福田 某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)
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■「私、この本で電車を乗り越しました」守屋淳
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「ネゴシエイター」上下
フレデリック・フォーサイス
角川文庫

はっと気がついたら電車は動き出し、降りなきゃいけない駅は遥か後ろに
置いていかれるばかりなり・・
ありゃりゃ、やっちゃった・・という思いとともに、なんだかちょっと嬉
しい気持ちも感じちゃうんですね、こんなとき。だってそれほどまでにこ
ちらを虜にする魅惑的な物語に遭えたってことなんですから。

というわけで、今回は「ネゴシエイター」。著者のフォーサイスは言わず
と知れた大ベストセラー作家。あ、ネゴシエイターとは、交渉人という意
味です。

未読の方がいらっしゃるかもしれないので、内容は詳細は書きませんが、
大統領の子息誘拐事件からこの物語は動きは始めます。
そこで、犯人との交渉役に選ばれたのが、クインという人物。これが、カ
ッコイイ。紅の豚ではないんですが(笑)、格好いいとはまさにこういう
ことだ、ということを見せ付けてくれるキャラなのです。もちろん、それ
は見た目やセンスという点ではなく、その人物に折り重なった時間という
澱の放つ芳香と、心の持ち様によって・・

英米のエンターテイメントには、スペシャリスト――ある意味で職人気質
を濃厚に持った魅力的な人物が登場する場合が多々あります(マイケル・
クライトンになると、これがチームになったりもしますが)。そして、職
人気質には必然的にモラルがある、とも共通して感じさせるところがあり
ます。クインは、まさにその代表的な人物と言えるかもしれません。

ああ、いろいろ書きたいんですけど、中身に触れちゃいそうなんで書けな
い・・・。僕は、こういうところでしゃあしゃあと種明かし書いちゃうよ
うなの、絶対許せないんですよね・・「種明かしをすると」「少しだけ明
かしておくと」とか前振り入れて書いちゃうような人、結構いますけど。

ちょっと余談。この話し、ちょっとだけど丸谷才一先生がパロディに使っ
ています。
クラシック音楽の世界に、カルロス・クライバーという仕事をしないんで
有名な天才指揮者がいるんですが、このクライバーに仕事させるために、
フォーサイスのアイデアを使おうとかいう趣向で・・・
で、まずクライバーの子息を誘拐する。で、そこへ格好いいネゴシエイタ
ーが登場する。で、犯人が「クライバーが2ヶ月仕事して、CDも年間
〜枚出せば、子息は解放だ」と要求すれば、ネゴシエイターは「じゃあ、
それに仕事1ACDも〜枚上乗せでどうだ」とか言って、交
渉する(交渉になってないって≪笑≫)。で、たっぷり仕事するという交
渉がなりたったら解放というわけで・・

まあ、丸谷先生のパロディのネタになるくらいなんだから、その面白さは
保証つきということで(←人任せにして逃げている≪笑≫)、ご一読され
てはいかがでしょう。
(守屋淳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好きなジ
ャンル 古典) 
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■あとがき
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>北京に行ってきました
>ほうほう、いかがでしたか?
>なんかねー、コーヒーがまずいんですよ(笑)。コーヒー飲む習慣がないか
らだと思うんですが、売ってるネスレの缶コーヒーまで激マズなのには驚きま
した。
>じゃあ、旅行中はコーヒーは飲まずと
>いえいえ、スターバックスがあったんで、入り浸ってました(笑)。味も同
じだったし。ただし、日本の価値に直すと一杯3〜4千円くらいするんじゃな
いかな。なんか、アッパークラスの集うところらしく、すかしたにーちゃんね
ーちゃんがたくさんいました(笑)
>外国にかぶれてすかしている人って、端から見てると、お笑いでしかないん
ですよねー。これは本の世界も同じだ・・とかいったら厭味にすぎるんでしょ
うけど(笑)。
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