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[書評]のメルマガ vol.10
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■■ [書評]のメルマガ   2000.9.10.発行
■■       vol.10
■■  mailmagazine of book reviews  [どんな天才を以てしても号]
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■「私、この本で徹夜しました」間渕典子
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「疑惑 JAL123便墜落事故」 角田四郎著 早稲田出版

この本は、徹夜した本というより、読んだら怖くなってしまい、結果、徹夜
になった本だ。
泣けて、泣けて、目が腫れて、その後ゾーッと悪寒がした。
俄には信じがたい恐怖である。航空機事故の真相を政府が隠す?

当時、勤めていた書店の朝礼で、店長の話を聞きながらボーっと立っていた
私の目に飛び込んできた平積みのこの本。表紙に大きく『疑惑』。そのタイ
トルの横に「JAL123便墜落事故 このままでは520柱は瞑れない」。帯が
また、凄い。「日航ジャンボには自衛隊機が衝突したのか!」

今では、御巣鷹疑惑の要的存在の書籍として、知る人ぞ知る本なのだが、
そのときの第一印象は、いわゆるトンデモ本だった。
ただ、「何、言ってんだか」と思う反面、『疑惑』?、引っかかった。

日航123便墜落事故は、私の大学1年の夏休み中に起きた。
<日航機がレーダーから消えた>旨のニューステロップが流れ、その後、
徐々に、徐々に乗客者名簿が読み上げられ始めた。大変なコトになった
なぁ、そう思いながら私はテレビを見ていた。
深夜、電話が鳴った。クラスメートだった。
「いとこが乗ってた。」
テレビの中の事故が、突然、自分の耳元までやって来た。

後期の授業が始まり、人相が変わるほど痩せこけた彼が教室に現れたとき、
初めて、事の重大さを理解した。残された人たちは、今、地獄を見ている。

私の個人的な記憶が、『疑惑』というタイトルに反応した。何の疑惑がある
のかと。

『疑惑』の著者は、航空の専門家ではない。親友のフィアンセ(客室乗務
員)がこの便に乗務していたため、事故直後、御巣鷹に登った人だ。
そこで、彼は想像を絶するむごたらしい光景を見る。
自分が素人であることは百も承知で、それでも運輸省事故調の報告を認める
わけにはいかず、多くの専門家から話を聞きながら、検証し、事故調の結論
を否定する。そして、なぜ、そんな結論にする必要があったのかを考え、仮
説を立てる。

著者は言う。
<事故調査委員会の報告が信頼性のある内容とオープンな手法でうら打ちさ
れていれば、私などがこんな仮説を立てることもなかったはずである>

この本の序章には、日本航空機長組合の声明文が載せられている。
組合は、急減圧に関する公開実験やボイスレコーダーの公開など5項目の実現
を要請してきたらしいのだが、会社側は応じていないことがわかる。

著者は「ボイスレコーダー筆記録の謎」として、こう述べる。

<ボイス・レコーダーは事故原因の究明にとって重要な証拠物件である。し
かし、何度も取りあげてきたとおり、この肉声テープはいまだに部分的公開
すらされていない。公表された筆記録など何の意味もないことは衆目の一致
するところである。「音」を「文字」にする段階ですでに事故調の解釈が大
きく入りこんでいる>

例えば、音を文字にするとこういうことになる。
事故調報告のボイスレコーダー記録(文字だけど)では、事故の発端となる
爆発音の部分を

18時24分35秒(ドーンというような音)

と記す。
どんな天才を以てしても「ドーン」という言葉で、何が起きたか推測できる
筈はない。で、本当の音は非公開。

ところが、事故から15年経った本年8月、なんと、ボイスレコーダーがテレ
ビに流れた。
それは運輸省が公開したのでもなく、JALが公開したのでもない。ニュース
ステーションの久米氏に言わせれば「幸運にも手に入った」ものらしい。
リークだ。両当事者は、公開どころか、膨大な資料を廃棄した。

詳しくは、ご一読いただきたい。
専門用語も出てくるが、わかりやすく書かれている。
私の場合、「出てくる単語もわからないまま読んで、怪しいだの怪しくない
だの語っては、亡くなった方に失礼か」と思い、調べ調べしているうち、
周囲の人から「飛行機博士」と呼ばれるようになってしまったが。
<間渕典子 元書店現出版社社員 年間読書量50冊>
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■講演会のお知らせ こりゃすごいゾ
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「田村隆一をいかに超えるか」
9月30日(土)1:30より日本出版クラブ会館(03ー3267ー6111)
講演 辻井喬 吉増剛造 
討議 城戸朱理(司会)白石かずこ 新倉俊一 藤井貞和 守中高明
佐々木幹郎
前売り1200円 当日1500円
予約先 思潮社 03(3267)8141 当日『田村隆一全詩集』を特別価格で
販売するそうです
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■「私、この本で徹夜しました」原口賀尚
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「はてしない物語」 ミヒャエル・エンデ 岩波書店

 正直なところ、私は徹夜をして本を読んだことは一度もなく、どんなに寝
るのが惜しまれるほど面白くても、必ず眠る。寝なければ身体も精神も持た
ない。できれば十時間は眠りたい。(もちろんそんな生活は許されていない
のだが)

 電車の中でも座れてしまえばたいてい眠る。引き込まれるように夢中にな
っている本と向かいあっていても、気づけば寝ている。

 「はてしない物語」がついに岩波少年文庫になり、未読であったので、長
い通勤時間を使って読んでみることにした。

 従来の、函入、赤い絹張、現実世界とファンタージエンで頁の色を変える
など、装丁自体の工夫が良かったのだろうけれど、ハンディ版では求めるべ
くもなく、それでも「大人」が電車の通勤時間で読むには嬉しい出来事。

 三十にしてはじめて読む、この「児童書」、あまりに深く、面白く、思わ
ず後半は目頭が熱くなった。そして電車の中でたいてい座れば眠りに落ちて
しまう私が、これは寝ていられない、とばかりに、眠気を振り払うように立
ち上がり、読み続けたのだった。(周りの人には気味の悪い行動であったと
思われる)

 物語をめぐる物語。いじめられっ子のバスチアンは物語を作ったり、もの
に名前をつけたりすることが大好き。ある日、学校も家庭も嫌になり、古本
屋で盗んだ「はてしない物語」を持って学校の天井裏へ。物語の中ではファ
ンタージエン国が虚無に呑み込まれて滅亡の危機にある。その世界を救うの
は女王幼ごころの君に新しい名前をつけること。名前をつけることができる
のは人間のみ。物語はいつしか読み手のバスチアンに呼びかけ、少年は本の
世界へと入り込んでゆく。

 ここまでが前半。人間世界が物語を喪失し、想像する力はただの虚偽の言
動に貶められ、虚無が人間世界にも物語世界にも横溢している。その状況を
救うのは人間が物語に新たな命を吹き込むこと、名を与えること。少年バス
チアンはファンタージエン国の女王・幼こころの君に「月の子」という名を
与えて物語の中へ入っていく。

 物語の世界へと入り込んだバスチアンは、持ち前の想像力を生かして、物
語世界を自分自身で展開しながら歩いていく。しかしそのようにして自身で
物語を想像して繰り広げてゆく度にバスチアンは現実世界での記憶を失って
ゆく。物語は自分でよかれと思って展開してもうまく進んでいかない。人間
の欲望や願望は複雑なのだ。

 このままいけば現実世界での記憶をすべて失い、もとに戻れなくなってし
まう。現実世界での記憶を失うというような虚無からは想像力をかき立てる
ことはできなくなり、廃人のようになってしまうことは避けられない。それ
を避けるには「生命の水」を飲むこと。「生命の水」にたどり着くには愛す
る人を見出すこと。しかし現実世界の記憶をすべて失いつつあるバスチアン
には、そのことは困難を極める。自分の名前すら失ってしまう。

 記憶の残骸が絵となって地下に埋まっている。それを掘り出している坑夫
のもとで、バスチアンは自分の父親の絵を見出す。(もちろんそれが誰だか
分からない)。バスチアンは母親を病気でなくし、父親はそれ以来虚無に閉
じこめられているのだが、そのことを思い出せないまま、その人が自分にと
って大事な人であることを感じ、その絵を持って「生命の水」へとたどり着
く。そうして現実世界へと戻り、父にこれまでの冒険を語り、和解する。

 前半が、物語の有効性、功罪の「功」の側面を語っているのに対し、後半
は、物語の持つ麻薬性、功罪の罪の側面を語っている。物語は人間の生活を
活性化するとともに、のめり込みすぎ、そこから再び現実世界へと戻ること
を忘れてしまえば、外から見ると意味不明な廃人になってしまいかねない。
その状態を破るものとして他者への愛という概念を持ってくる。

 これは本当に児童書なのか、と思ってしまうほどに深い内容を持ってる。
最後の方の「アイゥオーラおばさま」の章で、愛ということをバスチアンに
気づかせる件りでは、本当、電車の中で目が潤んでしまった。「愛」という
言葉が、こんなに説得力を持って胸に迫ってきた物語はない。
<原口賀尚 元書店員 30歳 年間読書冊数 60〜70冊>
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■お知らせ みすず書房さんより話題のシリーズ刊行開始!
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『詩人が贈る絵本』(全7巻)長田弘が選んだ7冊
9月・10月・11月に各2冊、12月に1冊で完結。
9月は9/8配本(発売)。

●『白バラはどこに』ガラーツ&イーノセンティ(文) 
ロベルト・イーノセンティ(絵)¥1,800
●『……の反対は』 リチャード・ウィルバー(文&絵)¥1,600
以上9月分
●『十月はハロウィーンの月』ジョン・アップダイク(文)
ナンシー・エクホルム・バーカート(絵)予価¥1,600
●『おやすみ、おやすみ』 シルヴィア・プラス(文) 
クウェンティン・ブレイク(絵)予価1,600
以上10月分
●『夜、空をとぶ』 ランダル・ジャレル(文) 
モーリス・センダック(絵)予価1,600
●『アイスクリームの国』アンソニー・バージェス(文) 
ファルビオ・テスター(絵)予価1,800
以上11月分
●『ジョーイと誕生日の贈り物』マキシン・クーミン&アン・セクストン(文)
イーブリン・ネス(絵) 予価¥1,800
以上12月分

訳は全て、長田弘

各巻に応募券付き。全7冊ご購入の方に、セットケースをプレゼント。
完結時には、全7冊セットでの販売もあり。
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■あとがき
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>今回はお薦めのファーストフードを
>はあはあ
>フレッシュネス・バーガーというチェーンなんですが、これが滅茶うま。
>ふーん、あんまり聞いた事ないですねー
>うーん、まだお店の数が多くはないみたいですけど、見かけたらぜひ入っ
てみて下さい。バーガー類は勿論、ハーブティーもおいしいの
>ハーブティーっていうと、美味しいんだかマズイんだかよくわからないよ
うな・・
>いや、ここのは違います(きっぱり)。まあ、お試しあれ
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砂金までもが123便乗客の形に彫刻されている。中性子爆弾を被弾した瞬間の極めて悲惨な最期の姿をとどめている。このような中性子爆弾の地獄を繰り返してはならない。
http://orange.ap.teacup.com/jap123air/
http://gray.ap.teacup.com/123ja8119/
http://pink.ap.teacup.com/123ja8119/
| 砂金までもが123便乗客の形に彫刻されている。中性子爆弾を被弾した瞬間の極めて悲惨な最期の姿をとどめて | 2007/03/24 7:46 PM |
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