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[書評]のメルマガ vol.21
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■■ [書評]のメルマガ   2000.12.31.発行
■■       vol.21
■■  mailmagazine of book reviews    [ほとんど傍観者的 号]
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■「あまりに冷静な自己言及」石飛徳樹
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取り替え子〈チェンジリング〉
大江健三郎著
講談社・1900円

 このところ、大江健三郎の小説を読んでいなかった。
 早い話が息子・光に重きを置き始めて以降の大江小説は、ずっと敬しつ
つも遠ざけてきた。
 今回だって、義兄の映画監督・伊丹十三の自死を赤裸々に扱っている、
というゴシップ的な関心がなければ、手に取ることはなかっただろう。

 主人公は、大江本人をほうふつさせる、と言うより大江そのものの作家
・長江古義人(こぎと!)。
 妻・千樫の兄で映画監督の吾良がビルから墜落死したのをきっかけに、
古義人は、吾良がカセットテープに遺したメッセージをむさぼるように聴
くようになる。やがてそれは死者との対話になっていき、古義人と吾良の
積年の関係が明らかになっていく。
 そこには、米国人との男色あり、自死の原因となった女性との不倫あり、
と私たちの出歯亀根性を満足させるエピソードがちりばめられている。

 確かに、朝日新聞の書評(12/24付)で斎藤美奈子が書いているよ
うに、ワイドショー的に興味に応えてくれず、思わせぶりな表現に終始し
てはいる。
 しかし、自分がいま読んでいるのは週刊誌や暴露本ではなく、ノーベル
賞作家の新作小説であることを思い出すならば、それは相当に踏み込んだ
ものと言っていいのではなかろうか。

 さらに、大江や伊丹の周辺にいた実在の人物(名前は異なる)が数多く
登場するのだが、これがまた相当に楽しめる。
 二人と深い親交のあった作曲家の武満徹を始め、大江の偽善性を追及し
てきた新聞記者の本多勝一や、かつて伊丹と蜜月時代があり、後に決裂し
た映画監督の黒沢清、毒舌の映画批評家おすぎ……。
 大江や伊丹が、彼らをどのように考えているかがよく分かるのだ。

 しかし、私が最も興味深かったのは、長江古義人(=大江)を批判する
記述があちこちに頻出していること、しかもそれらが非常に辛辣なもので
あることだ。

 批判の多くは吾良の言葉で表される。
 古義人の小説が変化したことについて「(若い頃のスタイルをはがして
いく)過程で、若い時の大きい読者を失った」
 「古義人が小説を書き始めて、いわば最初の中だるみの時に(中略)な
んだかこぢんまりと文壇におさまりそうでさ」
 「(古義人が原語で外国の小説を読むようになってから)なにか突拍子
もないおかしさ、面白さの言葉に出会わなくなった」
 さらにはこんなのもある。
 「この30年ほども、読者のことを考えて主題と書き方を選んだ形跡が
ない!」
 追い打ちを掛けるように「加えてきみの自己言及癖!(中略)なぜそれ
だけ自分にこだわらなくちゃいけないんだ? せいぜい一介の小説家じゃ
ないか?」
 光(小説ではアカリ)については、彼のノーベル賞受賞講演を、ドイツ
在住の日本女性がこう評している。
 「(古義人の小説が障害のあるアカリの音楽を手がかりに普遍に向かっ
て来たという話は)感動的でしたけれど、やはりあまりに個人的だと感じ
るドイツ人はいるでしょうね」

 ここに挙げたのはほんの一例だ。これ以外にもたくさんの古義人批判が
展開されている。一方、古義人も吾良の映画を「新作ごとに通俗的になる」
と批判している。

 これらの記述を読んで私が驚いたのは、私が大江の最近の小説を敬遠し
ていた理由と、ほとんど過不足なく一致していたからだ。
 恐らく私に限るまい。多くの大江ファンが以上のような理由で、最近の
小説を物足りなく思っていることだろう。
 そのことを大江は冷静に把握していたのだ。
 また、吾良(伊丹)映画への批判もまた、多くの人が伊丹作品に感じて
いた違和感そのものだ。
 全くその冷静さには脱帽である。

 しかし、いや待て、とも思う。この自己分析は冷静となものだと言える
のだろうか。冷静ではあるが、ちょっと冷静が過ぎないか。冷静さを通り
越しているのではないか。
 むしろどこか他人のことを評しているようにも見えるのだ。
 ほとんど傍観者的とも。

 もちろん本当のところは知らない。
 血を噛むような苦しさで自らへの批判を一言一句書き連ねてきたのかも
しれない。
 
 気になるのは、今後の大江の小説がどのように変化するか、あるいは変
化しないか、である。
 「取り替え子」の中で言及された恐ろしく冷徹な批判が、大江自身の内
部でどのような化学反応を起こしているのか、あるいは起こしていないの
か。

 次作を早く読んでみたくなった。
(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■『さみしがりな「もの」たち』ミラクル福田
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『沈黙博物館』 小川洋子  本体価格1800円 筑摩書房

 正直なところ、小川洋子はいつも通り過ごしてきた作家だった。なぜっ
て、まともな理由ではないけれど、とてもまじめそうな感じがするから
(特に写真なんか見てしまうと、優等生っぽくって、怒られそうな気がす
る)。しかし、この『沈黙博物館』を手にした理由ははっきりしている。
装釘と、洋画のような書き出しが気に入ったからだ。地味な装釘だけど、
クラフト・エヴィング商會の落ち着いたデザインは、随分前からのお気に
入りである。冒頭は、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
を、どことなく彷彿させるものがあったが、とにかく読んでみた。

 博物館技師という職業の“僕”は、仕事の依頼を受けて、とある村にや
ってくる。もちろん、博物館を造るためだ。百歳にもなろうかという依頼
者の老婆と、その娘という少女から見せられた収蔵品は、売春婦の避妊具、
名もない画家が死に際に食べたという絵具など、“村人の肉体が間違いな
く存在していたという証になるもの=形見”だった。彼の仕事は、それら
を補修・分類・展示すること。加えて、村人が死ぬたびに、それを収集す
ることも彼の仕事のひとつとされていた。そして、ある殺人事件の形見を
集めるために、姿を目撃されてしまった彼は、警察から疑いをかけられて
しまう。しかも、収蔵品の来歴を知る、唯一の語り部である老婆は、目に
見えて老いて行き・・・。果たして、博物館は無事オープンできるのか?
この奇妙な博物館の建設が進む村は、やはり奇妙な村である。なぜなら、
小さくて静的な、物語世界の中で起こる出来事は、どれも現実感が希薄だ
から。爆弾が破裂しても、人が殺されても、血が流れ、汗がシャツに染み
ても、透明で分厚い膜の向こうで起こっているのように思える。登場人物
は確かに行動しているのに、鏡に映る世界を覗き込んだように、人やその
動作には熱や体温はあまり感じられない。人間が確かに生きている熱が感
じられない世界は、「だるまさんがころんだ」という遊びで、鬼になった
ときのように、主人公たちに背を向けている間に、彼らだけが動き、振り
返って見ると、すべての動きが止まっているような感じだ。

 現実感が希薄なのは、人間や出来事だけではない。沈黙博物館に陳列さ
れる“形見”たちは、変わった経歴を持つものが多いのに、何も語らない。
“形見”には、その持ち主が存在したイミ(勲章や金メダル、著書といっ
たものが表す、その人の達成のようなもの)が秘められているのではなく、
持ち主が存在したこと、それ自体が封じ込められている。だから、“形見”
が語れるのは、存在それ自体で語る「私を見てください、私を読んでくだ
さい。私は待っています」という、言葉にならない叫びでしかない。沈黙
博物館の物たちは、ただひたすら待ちつづけている。自分の存在に気づい
てくれるのを待ちつづけていることしかできないのだ。もしかすると、世
の中に溢れる、孤独な人たち、待ちつづける人たちすべてに、小川洋子は
暖かい眼差しを送っているのかもしれない。そして、励ましているのかも
しれない。「いずれにしても、私はあの時、自分がしなければならないた
ったひとつのことを、正しくやり遂げたのだ。それだけは間違いない」と
いうように。それが方法として適切かどうかは別の問題ではあるが。

 最後に、小川洋子の本には、この本の装釘をしている、クラフト・エヴ
ィング商會や『薬指の標本』(新潮文庫、本体価格362円)の装釘をし
ている勝本みつるのオブジェがよく似合うと思う。この本に関連したこと
を言うなら、クラフト・エヴィング商會が初めて出版した本は、明治から
大正時代に実在した(?!)とされる、少し変わった、『どこかに○いっ
てしまった○ものたち』を一堂に集めたものだ(タイトルもそのまま(筑
摩書房、本体価格2400円))。当然、誰かに発見されなければ、日の
目を見ることがなかったものばかり。“月光光線銃”や“記憶粉”などの
物たちも、受身である点で、沈黙博物館の“形見”たちととてもよく似て
いる。そんな意味で、装釘と内容がうまくかみ合っている本だと思う。
(ミラクル福田 某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)
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■「今年、この本が面白かったですぜ、旦那」守屋淳
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今回は、書評の仕事で今年読んだ中から、こりゃお薦めできますよ、紳士
淑女並びにそれ以外の皆さん!という本をずらずらっとご紹介したいと思
います(あ、新刊じゃないのも含みます)

●とーっても考えさせられちゃう一冊
『「人殺し」の心理学』デーブ・グロスマン 原書房 2200円
著者は、アメリカの心理学の教授。兵士の心理を抉った本なんですけど、
まずびっくりは、第2次世界大戦のとき、米軍兵士の実際の発砲率って、
15〜20%だったんだって。要は、人を殺したくないから、こっそり発
砲しなかったり、わざと外して撃った人が結構いたらしいんです。
で、これじゃまずいと、敵を見たら撃つという条件反射みたいな訓練施し
たら、ベトナム戦争ではそれが90%にまであがったんだって。
で、考えさせられるのはここから。今ってTVゲームあるじゃないですか、
あれの戦闘ゲームって、軍隊で条件反射の訓練に使うプロセスとほとんど
同じなんだって。今の子供は、無条件に敵を撃ち殺すっていう訓練に着々
と洗脳されちゃってる可能性が高いという・・そ、そりゃ、凶悪事件起き
ますわな・・
そういえば、子供の自殺率って極端に上がったときが二回あって、それが
アイドルの岡田由希子さんの自殺のときと、いじめで最初に自殺してマス
コミが大々的に報じたときだそうで。・・現代で言えば、ゲームで訓練さ
れ、マスコミには「また17歳が凶悪事件」と繰り返し洗脳され・・いや、
現代社会は怖すぎます。いや、商売になれば先のことなにも考えず何でも
やっちゃう大人が・・

●ゾ―――っとしたい方向けの一冊
『「A」撮影日誌』森達也 現代書館 2000円
これはですね、オウムの荒木広報部長をメインにしたドキュメンタリー映
画の撮影記録なんですが、怖いですよー。いやオウムも勿論なんですが、
それ以上にマスコミと公安が・・。
まず、マスコミ。もう取材でウソとペテンし放題、とにかく悪いとレッテ
ル貼った連中には、どんな極悪非道しても許されるってな具合で、時代劇
で言えば、極悪代官が、別の極悪代官を「悪は許さん」とか言って裁いて
ぶった切りまくってる現代の構図が明きらかになります。で、しかも公安
の不法行為はいっさい報道しないという衝撃の事実。見てみない振りしち
ゃうんです。だから公安は安心して不法行為やりまくってしまうという構
図・・
最近、徴兵するとかいう恐ろしい政治家も出てきましたが、例えばそれが
決まって反対運動起こしたとしたら、公安に殴り倒されたうえに公務執行
妨害と傷害で懲役くらう、しかも、目の前にマスコミがいても見て見ぬ振
り――こんな、ことが有り得る(実際に現在そうなっている)という戦慄
の事態が描かれちゃって、もう、こ、こわー・・

●こりゃ爆笑できますぜ、の名作
『東大おたく学講座』岡田斗司夫 講談社 1800円
うーん、超スーパーハードな本が二冊続いちゃったんで、爆笑できる一品
を。東大でオタクについての諸相を分析した講義をまとめた一冊なんです
が、とてつもなく鋭い分析と、吹き出さずにはいられない過剰性(その両
者が、まさに最良なオタクの真髄ドッカーン大爆発という感じなんです)
を含んだ快作です。特に、とんでも本系分析のくだりを車内で読んだら爆
笑して始末に終えなくなること間違いなし。なんか、気分が暗いナーとい
う時など、絶対お勧めできる一品です。
(守屋淳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好きなジ
ャンル 古典) 
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■あとがき
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>今号が届いていることには、もう新年なので、えーあけましておめでと
うございます。
>もう21世紀なんですねー。
>しかし、書評のメルマガ作りながら、世紀をまたいじゃうという情けな
い事態にならなくてよかった、ホッ。
>なんだ、また、さびしく一人で年越しですか??
>う、うるしゃい、またって言うなー(笑)。本のメルマガ独身者の火を
死守する会総統(特技:幸せ者への容赦のないデスラー砲発射)だから、
これでいいのじゃー、シクシク。
>やれやれ(笑)。今年もよろしくお願いします。
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