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[書評]のメルマガ vol.251
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■■ [書評]のメルマガ     2006.2.16.発行
■■ mailmagazine of book reviews         vol.251
■■  [この版元がエライ!特別企画・ちくま文庫復刊フェアをめぐって]
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■はじめに
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筑摩書房のちくま文庫が20周年を迎えたことを記念し、昨年夏に同文庫の
フェアが行なわれました。その目玉が復刊フェアでした。これは、数ヶ月前か
らサイト上に品切れ本のリストを公開して、読者から復刊希望のアンケートを
つのり、その結果をもとに刊行タイトルを決定するというものです。
 サイトの報告を見ると、「ホームページ・ハガキをあわせて約700件、投票
数では延べ5800票におよび、書目に換算すると実に600点以上が候補に上が
った」そうです(http://www.chikumashobo.co.jp/top/fukkan/index.html)。
その結果、以下の9点・14冊が、11月に刊行されました。

★アリストパネス 高津春繁他訳『ギリシア喜劇』I・II
I 4-480-02061-6 1155円、II 4-480-02062-4 1313円

★ダンセイニ 荒俣宏編訳『短篇集 妖精族のむすめ』
4-480-02151-5 924円

★W.デ・ラ・メア 荒俣宏訳『妖精詩集』
4-480-02231-7 777円

★ルイス・キャロル 柳瀬尚紀訳『もつれっ話』
4-480-02345-3 630円

★中西秀男訳『ザ・ベスト・オブ・サキ』I・II
I 4-480-02229-5 945円、II 4-480-02230-9 924円

★C.ディケンズ 北川悌二訳『骨董屋』上・下
上 4-480-02341-0 1155円、下 4-480-02342-9 1155円

★レイ・ブラッドベリ 仁賀克雄訳『火星の笛吹き』
4-480-02562-6 1050円

★P.K.ディック 仁賀克雄訳『ウォー・ゲーム』
4-480-02650-9 777円

★種村季弘編『東京百話』天の巻・地の巻・人の巻
天 4-480-02101-9 1313円、地 4-480-02102-7 1260円、
人 4-480-02103-5 1260円

 ちくま文庫編集部は、このセレクトについて、「復刊に当たっては、販売見
込み・採算面を検討するのはもちろんのこと、翻訳権・著作権などの問題も大
きく影響してきます。実際にアンケートでは多くの票を集めながら、復刊を断
念したものがいくつかあった」としています。たしかに、『東京百話』以外が
すべて海外文学であることにちょっと物足りない思いを抱きましたが、読者の
声が復刊企画に反映されたコトはとても嬉しいことです。

 さて、そこで。
「書評のメルマガ」では、「この版元がエライ!」の特別企画として、このち
くま文庫の復刊フェアにスポットを当てた特集を組みました。復刊企画につい
て、あるいは本のセレクトについての率直な意見、書店の現場からの売上レポ
ート、出版人の意見を掲載しました。
 今回の復刊フェアは読者にどう受け止められ、ナニが求められているのでし
ょうか? じっくりとお読みください。     (編集・南陀楼綾繁)

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■提言エッセイ 最強の「ちくま文庫」のつくり方
山本善行(『sumus』代表)
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 昨秋、ちくま文庫の復刊本が決定し、9点14冊が刊行された。ラインナッ
プも素晴らしく、名著『東京百話』やディケンズ『骨董屋』、ブラッドべリ
『火星の笛吹き』などは、探している人が多かったのではないか。これぞとい
う「ちくま文庫」は、新刊で出たときに買っておかないと、後でエライ目に会
うのだ。全世界の古本屋さんを訪ねても一冊たりとも見当たらない、というこ
ともあり得るのではないか。そして「ちくま学芸文庫」はさらに希少だ。例え
ば、中野重治の『斎藤茂吉ノート』など、どこにも無い。本当に出たのか疑い
たくなるぐらいである。

 ちくま文庫の復刊は、学芸文庫にまで広げて、岩波文庫のように定期的に行
ってほしいものだ。まだまだ名作が品切れのなかに埋もれているのだから。文
庫の復刊で思い出すのは、角川リバイバルコレクションと新潮文庫の復刊だ。
フィッツジェラルドの『夜はやさし』や『泡鳴五部作』といった作品が復刊さ
れたときは、文字どおり雀躍したのだった。もちろん、新刊で買い、古本でも
買った。『夜はやさし』など、自慢にならないが今までに10セットぐらい買っ
てるだろう。そういえば『泡鳴五部作』上下は、最近全く見ない。姿を消して
しまったようだ。

 まだまだ若い、ちくま文庫には、復刊もいいが、魅力ある新刊をこそ期待し
たい。例えば、以下のような新刊であるなら、今すぐ予約したいぐらいだ。

 関口良雄『昔日の客』
 中平卓馬『なぜ植物図鑑か』
 真尾悦子『阿佐ヶ谷貧乏物語』
 川崎長太郎『朽花』
 小沼丹『村のエトランジェ』
 野呂邦暢『小さな町にて』
 上林暁『病妻物語』
 上司小剣『U新聞年代記』などなど。
 
 最近、紀伊國屋書店の「アイフィール」という雑誌に、すでに古本の匂いの
する文庫、というエッセイを書いたのだが、新刊書店の文庫棚でうろうろして
みると、やはり「ちくま文庫」の棚周辺は、はっきり古本の匂いが漂っていた。
これで、カバーをコーティングするようなことになれば、最強の「ちくま文庫」
ができ上がること間違いない。

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■書店員の声 出版社からの「情報」こそが大切なのだ
青木亜紀(リブロ渋谷店)
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最初に企画を聞いたのは、夏でした。筑摩書房の営業さんに「ブラッドベリ
やディックがでるかも」とにおわされ、申し込んだ記憶があります。「復刊フ
ェア」「一括重版フェア」等々大好物なので、楽しみにしていました。
10月に東京創元社の「復刊フェア」を展開した時は予想以上に好評で、特に
バラードの『終着の浜辺』! フェアにしては珍しく追加してしまいました。

そんなこともあり期待は高まっていたのですが、セットが入荷してきて、あ
らかじめ売れるものとそうでないものが分かってしまった自分にがっかりしま
した。自分でも熱望していたダンセイニやキャロルは売れても、ディケンズは
正直きついだろうな、と…。
 結果はそれにほぼ近い感じで出ました。

当店で一番売れたのは『妖精詩集』
一番売れなかったのは『骨董屋』上・下

参考までに、フェアに参加した他のリブロ8店舗を合わせると…
一番売れたのは『東京百話』地の巻
一番売れなかったのは『妖精詩集』
という面白い結果に。自ら言うのも変ですが、一般的な売れ方をなかなかして
くれないお店のようです。

 2005年、各出版社で品切れしていた伊丹十三の文庫が、めでたく新潮文庫の新
刊として、復刊いたしました。それに福武文庫の『クールな男』も『マルセル・
エメ傑作短編集』として(本当に傑作!)中公文庫の新刊ラインで復刊いたし
ました。
 他の出版社の書目を復刊する場合、新刊として発売するのは賢いやり方だな
ー、と思いました。より多くのお客様の目に留まりますし、少なくとも一度は
書店に入荷します。
 対して「復刊フェア」だと、申し込んだお店にしか並びませんし、その情報
を手に入れなければ、その存在すら知り得ないのです。
 なので「出版社よ、もれなく情報を送れ!」と私は言いたい。

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■読者の声 その1 ちくま文庫復刊フェアをどう受け止めたか
諸家
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★もっと「和モノ」の復刊を!
密偵おまさ(「密偵おまさの市中視廻り日録」
http://d.hatena.ne.jp/mittei-omasa/)

筑摩書房のサイトで、文庫の復刊リクエストが行われると知った時は、ワー
イと小躍りしましたよ、心の中で。なにしろ、ちくま文庫っていうのは、わた
しにとって、お宝の山だということを知った時には、欲しいものがだいぶ“長
期品切れ”の憂き目にあっていたものですから。
さっそく復刊リクエストのページにアクセスして、候補の中からコレ! と
いうタイトルにチェックを入れて行くと、とてもとても、20点には収まり切ら
なかったのです。で、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしているうちに、
自分が何にリクエストをしたのか、ということすら、わからなくなってしまっ
たのです。それほど、舞い上がっていた、ということにしておいてください。

ただし、わたしがリクエストした本は、1冊も復刊されなかったことは、間
違いありません。なぜなら、わたしがリクエストしたのは、和モノばかりだっ
たからで、その中に『東京百話』天・地・人は入れていませんでした。なぜ、
入れていなかったかといえば、既に古本で入手したから、という非常に単純な
理由。なので、今回、「何をリクエストしたのか、そのあたりを含めて書いて
みませんか?」というお誘いをいただいても、さて、何にリクエストしたんだ
っけなぁ? という状態で、まったくもってお恥ずかしい限りの体たらくなの
です。
そこで、『ちくま文庫・ちくま学芸文庫 2006 解説目録』を入手して、
「長期品切れ」コーナーを見てみました。すると、あるは、あるは、欲しいタ
イトルが! という状況で、たぶんコレじゃないかな? という気はするもの
の、絶対にコレだ!と言い切る自信は、まったくもって、ないのです…(汗)。
自分の記憶力・注意力の足らなさは、ひとまず置いておくとして、それほど
ちくま文庫は、現役バリバリじゃなくなってしまったタイトルも含めて、魅力
的なラインナップなんですね、やはり。
種村季弘さんの「漫遊記」シリーズ、小林信彦さんの「オヨヨ」シリーズや
一連の「コラム」シリーズ、殿山泰司、古川緑波、横田順彌、池内紀、松山猛、
etc……。
それにしても、解説目録に目を通してみて「アレ? これも“長期品切れ”
なんだ……」というタイトルを新たに何点も発見して、実は今、かなりアセっ
ているところです。まだまだ、新刊書店を丹念にまわれば、入手できるだろう
と、その時の気分、及び財政事情を鑑みて、見送ったあれこれを、レジに連れ
て行かなかったことを悔やんでいます。今からでも、本屋さんに飛んで行きた
い! くらいです。でも、これを書いているただいまは、午前2時過ぎ……。

今回の復刊タイトルは、洋モノがほとんどだったので、正直、わたしはちょ
っとガッカリでした。いろいろと問題もあることは、想像に難くないのですが、
今後もぜひ、定期的に復刊リクエストおよび、復刊を続けていただきたいもの
です。そして、次回はぜひ、和モノももう少し復刊してください!!
ちなみに。「やっぱり、ありがとう、復刊フェア!」という事態が発生して
おりました。「持ってるから、いいや」と思っていた『東京百話』ですが、実
は、天の巻がどうしても見当たらず、結局今回の復刊フェアで購入してしまっ
たということを、ご報告しておきます(大汗)。

★ちくま文庫に「復刊」はよく似合う
甘木(書店裏方)

実は今回の「復刊アンケート」、投票していない。企画を知った時、おおっ
と飛び上がり、私ならあれでしょこれでしょと思い描くうち、気づけば投票期
間は終わっていたのだった。そんなだらしのない者になんの発言資格があろう
かと小さくなって、書いている。
それでも書目決定の報で、種村季弘さんの『東京百話』が入っていると知ら
された時は嬉しかった。1985年に創刊なったちくま文庫。その1年後に編まれ
た本シリーズに私が出会ったのは、もう絶版になって久しいころだ。古本屋で
買った。でもこの名アンソロジーはその後のちくま文庫ラインナップの根っこ
のように、ある。過去に今も「新しい」ものを見つけていく姿勢だ。最近の色
川武大、吉行淳之介、田中小実昌の再評価しかり、岡崎武志さんほかの「古本」
の世界に遊ぶ達人たちの本群しかり。
そんなちくま文庫が自らの歴史を振り返り、今は絶版となった古きに新しさ
を見つけ「復刊」していくのはよく似合う。ぜひとも続けていってほしい。な
にせこちとら新刊書店勤め。絶版だといくらいい本でも店頭でオススメできな
いのだ。

次回に向けて今のうちに投票しておくと、まずは坪内祐三編・上林暁著『禁
酒宣言』でしょ、池内紀・種村季弘編『温泉百話』、式場隆三郎『二笑亭綺譚』、
古川緑波『ロッパの悲食記』……ああきりがない。


★決定の過程を公開すべき
四谷書房(「Web読書手帖」http://yotsuya.exblog.jp/)

ちくま文庫は20年前の12月4日に20点一挙刊行されました。総合文庫と
してちくま文庫がスタートしました。そしていまは古典の岩波、現代のちくま
といわれるほどになっています。
 そのちくま文庫が20年(はたち)になりました。その記念の復刊セールの
ために、読者アンケートを行いました。そして今年11月に9点14冊が一挙
復刊されました。
 しかし、この復刊はほとんどが海外作品で、日本の作家の作品は一冊もあり
ませんでした。わずか種村季弘編の『東京百話』天・地・人が復刊されただけ
でした。
 筑摩書房のホームページを見ますと、復刊本の決定は諸般の事情によるとの
ことですが、決定についてはもっと公明正大に公開してもらいたかったと思い
ます。
 またちくま文庫も在庫なしまたは絶版が増えてきています。今回アンケート
の反響はその証明ではないでしょうか。であるならば、今後の復刊計画をぜひ!
立ててもらいたい、そう思います。


★木枯らしも復刊フェアに走らされ
とり(書店客、「とり、本屋さんにゆく」http://d.hatena.ne.jp/tori810/)

ちくま文庫の装丁がなんともいえず好きだ。よくぞ20年間守り続けてくれた。
そこへきて、今度の復刊フェアである。インターネットで復刊のアンケート募
集を知ったときは、思わずのけぞったくらいの衝撃だった。すごく面白そう! 
大学の講義で評判を聞いてからなんとなく探し続けている『ザ・ベスト・オブ・
バラード』が復刊されたらいいな、と思っているうちに、ラインナップ発表。
バラードはない。古本屋めぐりのたのしみは残されたわけだ。そう思って、し
ばらくはフェアのことも忘れてしまっていた。
思い出したのは、知人から『東京百話』を書店に注文したと聞いたときであ
る。店頭になかった、それを知ってヒヤリとした。そういえば一度もフェアを
やっている本屋を見ていない。八重洲ブックセンター八重洲地下街店に飛び込
んだが、フェアの気配はなし。走って八重洲ブックセンター本店にむかう。5
階の文庫売り場には、あった! ありました! かろうじて平積み。「天の巻」
「地の巻」「人の巻」と念入りに美本を発掘してレジに持っていったら四千円
ちかくなってびっくりした。
それから一ヶ月くらいたったけれども、まだ「地の巻」をひろい読みしている。
どうも読むより集めるほうに関心があるようだ。一番たのしみにしているのは
「限定版ちくま文庫」だというのがほんとのところ。プレゼントの応募を忘れ
ないようにせねばならない。


★今後の楽しみが残った
にとべさん(自由業)

 ちくま文庫にまだ品切れがない頃、本屋のちくま文庫の棚を見ながら、いま
読んでいる本を読み終えたら、次はどれを読もうかと考えるのが好きだった。
(いま考えると、のんびりした時代だったなぁ)
 そして時が過ぎ、ちくま文庫にも少しずつ品切れが出始め、読もうと思って
いた作品が手に入らなくなった。そのうちいくつかの作品は古本屋で入手した
が、それ以外の作品はまだ読むことが出来ていない。
そこへ今回の復刊のニュースを知り、喜び勇んでアンケートの回答をし、ど
の作品が復刊されるのかと楽しみに待っていた。
 そして、ボクがリクエストした『温泉百話』『好物漫遊記』『天皇百話』
『犯罪百話』『フーテン』『犯罪紳士録』『望郷と海』『南ベトナム戦争従軍
記』『迷信博覧会』『東京百話』『レミは生きている』『泥鰌庵閑話』『私の
愛する糖尿病』『東京的日常』など、十数点のなかで復刊されたのは『東京百
話』だけ、という少し残念な結果になった。しかし物は考えようで、今後おも
しろそうな本を買うという楽しみが残ったと思えばいいワケだ。
 そのためにも、この復刊企画は今後も定期的に続けていって欲しい。
なんだかすごく個人的なことのようだけど、そうすることで、いま雑誌のよ
うに消費されている文庫のなかにあって、広範なジャンルのスタンダード作品
を多く収めるちくま文庫の魅力がいっそう増すのではないだろうか。


★せっかく復刊をするなら
吉田勝栄(書誌など)

 ある日の古書即売展で、詩集が多く並んだ棚から、『水鳥荘文庫目録』(柏
木隆雄の蔵書目録)1000円を抜いた。例によって実家に直送してしまったの
で、買うかどうかを決める際の、ざっと目にしたかぎりのはなはだ心もとない
記憶であるが、序文で鹿島茂『子供より古書を大事に思いたい』にふれていた
はず。具体的な書名は挙げずに、少しからかいぎみの気分が含まれていたかも
しれない。同好者同志の親愛の情も。フランス文学を中心とする書物リストを
ながめながら、ちくま学芸文庫の『謎とき「人間喜劇」』を買い逃していること
を思い出した。
 ちくま文庫はバルザックの『役人の生理学』『ジャーナリズム性悪説』を刊
行している。続けて、藤原書店の人間喜劇セレクションには収められなかった
『平役人』をぜひ刊行してほしかった。欲をいえば、未読の『ボエームの王』
『鞠打つ猫の店』『二重家庭』『禁治産』『ゴティサール二世』なども。藤原
書店や論創社の企画に触発されて、ゾラの『獲物の分け前』を収めたとすれば、
ジョルジュ・サンドセレクションと連動して、(男装の閨秀作家カミーユ・モ
ーパンが登場する)『ベアトリクス』などの新訳を出してもよいだろう(『フ
ランソワ・ル・シャンピ』を出すほうが、順当だろうけど。)。アラン、ツヴ
ァイク、寺田透、飯島耕一というラインナップもあっていい。

 ちくま文庫はまだ若い。実家の書架に今回の復刊書目の半分以上があるはず
だが、既に持っている本を改めて買おうとは思わない。「復刊よりも」という
と語弊があるから、せっかく復刊をするなら、といいなおしておくが、ディケ
ンズを次々と刊行したときのように、つばさをひろげることを望む。というの
が、ゾラは食わずぎらいで、ディケンズはなじめず、バルザックは仙花紙本で
も読まなくはないが、できれば新刊で読みたい酒飲みの放言である。
[H18.1.4後記]
実家に帰省した際、確認してみたら、『水鳥荘文庫目録』は影も形もなかった。
酉年と一緒に、どこかに飛び去ってしまったらしい。

★不投票者の弁
荻原魚雷(ライター)

ちくま文庫の復刊フェア。十冊中、九冊が翻訳ものというのはちょっと意外。
ちくま文庫のファンってそうだったのか。組織票かなとちょっと疑ってしまう。
アンケートに応募していないので、選挙に行かず、その結果にぶつくさいって
るようで気がひけるのだが、色川武大の『唄えば天国ジャズソング』と永倉万
治の『昭和30年代通信』……、あと虫明亜呂無の三部作とか、私の愛読書はこ
とごとく品切になっている。

企画そのものは素晴らしいの一言。恒例行事になってほしいです。


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■読者の声 その2 復刊本を読んで&この本を復刊せよ!
諸家
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★『妖精族のむすめ』『妖精詩集』を読んで 
松本典子(トンブリン2号)
 
「ダンセイニ」の名前と初めて出会ったのは、高校生の頃でした。今読むと眉
間から噴火してどこかへ飛んで行ってしまいそうな拙いものでしたが、別の星
での小さな話をまとめた冊子を池袋の書店「ぽえむ・ぱろうる」に置いていた
だいていました。
 ある日届いた感想用葉書に、ただ「ダンセイニの世界を思わせる」と書かれ
てありました。まだネットも個人情報の法律もない頃の、のどかな出来事でし
た。その親切な方のひとことを手掛かりに、『妖精族のむすめ』と出会いました。
 質感の描写は宝石で出来た箱根細工を想像した時のように妙に具体的なのに、
念の重みがないというか、風が吹いたらふっと消えてしまいそうな、独特な香
りのする彼方の星々の話にすっかり夢中になりました。
 
 翻訳をされた荒俣宏氏のあとがきに「お筆先」とありましたが、話のための
話ではないような本気さがぴしぴしと伝わって来る文で、落語の「寿限無」の
中の「五劫のすりきれ」をよくよく想像してみた時のように、どの話も人間離
れしていて恐ろしかったです。持って行かれないように少しずつ読みました。
 
  「なにね、またひとつ世界が終わっただけのことさ」と、かれは応えた、
「そして白鳥たちが、歌の賜りものを神々に返しにやってきたのさ」
  「ひとつの世界が終わった!」と、わたしはつぶやいた。
(「五十一話集」より)

 その後ムーンライダーズつながりで読んでいた稲垣足穂『一千一秒物語』の
中の「黄漠奇聞」に、「バブルクンドの崩壊」との繋がりを発見するなどの、
よくあるはずだけど本人にとってはとても楽しい体験がありました。他、『リ
リス』やケルトの妖精物語など、似た気配のちくま文庫と次々と出会って行き
ました。(何故かひとかたまりに刊行されていた記憶があります)時間の止ま
った実家の本棚の片隅に、手放せずにいます。
 
『妖精族のむすめ』『妖精詩集』と、今回自宅で読む用に買い直し、一部読み
直しました。どちらもやっぱり迷いのない彼方ぶりで、浮かんだ景色に向かっ
て「ただいま」と言いたくなるような安らぎがやって来ました。そんな幸せの
入り口が、書店の棚の一角に、ずっと開かれていますように。
 景色を人力で想像して行くのが楽しかったので、ファンタジックなCG映像
に慣れた、沢山の十代の人の手に新たに届いていって欲しいです。類書の新た
な文庫化も、たのしみにしています。

★『妖精詩集』を読んで
柳瀬徹
外国文学がずいぶん多いけど、文学的価値うんぬんではなく、本当にこれら
票が集まったの? と疑問に思わなくもないラインアップですね。いくらなん
でも渋すぎませんか、これ。

でもウォルター・デ・ラ・メアの『妖精詩集』が復刊されたのはちょっと嬉
しい。デ・ラ・メアの諸短編を「牧神」で読んでいた頃が懐かしい……と云う
のは年齢的に真っ赤な嘘なのですが、後追いで読んで本当に素晴らしく、また、
おそらく70年代の読者たちがしていた読み方とは、すこし違った読みの可能
性がある作家だと思いましたので。ちょっと乱暴な言い方ですが、澁澤龍彦文
化圏(というものがあるとして)の方々だけに読ませておくのは惜しい気がす
るのです。今回の復刊を足がかりに、今どきの翻訳家による新しいデ・ラ・メ
アが気軽に読めるようになったら、もっと嬉しい。


★『ザ・ベスト・オブ・サキ』気鯑匹鵑
北村知之(「エエジャナイカ」http://d.hatena.ne.jp/akaheru/)

神戸・海文堂書店で、『サキ短編集』(新潮社)が書評つきで紹介されてお
り、せっかくなのでちくま文庫で復刊された『ザ・ベスト・オブ・サキ』気
購入。毒を塗ったナイフで背中をぐさりとやられるような短篇に、すっかり病
みつきになる。ちびちびと、すぐに50篇を読み終えてしまう。

最近、出版と音楽それぞれをめぐる状況を比べることが多いが、今回のちく
ま文庫復刊フェアも、CDのリイシューアンケートのような企画。再発CDのよ
うに、復刊本がひとつの市場を形成するようになれば嬉しい。ただ今回のフェ
アについては、いざ復刊された本に対する読者の反応が、自分も含めてすこし
寂しいようにも感じ反省する。


★『東京百話』天の巻を読んで
退屈男(「退屈男と本と街」http://taikutujin.exblog.jp/)

戦争のため幻におわるが、東京五輪が昭和一五年に開催されることになって
いた。赤線・玉の井で、映画監督の山本嘉次郎がおもしろいものを見つけてい
る。路地の入口のアーチに、五輪マークと「NUKE・RARE・MASU……」
(「戦色玉の井」)。
 昭和の東京についてのエッセイ・短篇小説のアンソロジー『東京百話』全三
巻は、コレガ「ちくま文庫」ダ、という風格と独自性にあふれた名著だ。色街
の話は、食い物娯楽といった各種商売や生き物などと一緒に「天の巻」に収め
られている。

「ぬけられます」の玉の井も、それではと路地に入ればそこは迷宮、いま来た
道の見分けがつかなくなるという様子が谷崎の「寺じまの記」(これも収録)
にあるけれど、『東京百話』は「ちくま文庫」、あるいは「ちくま文庫」的読
書の入口だ。案内人(編者)が種村季弘というのを見ても、かんたんに「ぬけ」
させてはもらえそうにないぞ。

★『東京百話』地の巻を読んで
晩鮭亭主人(「晩鮭亭日常」http://d.hatena.ne.jp/vanjacketei/)

復刊をリクエストした作品の中で、希望がかなったのは種村季弘編『東京百
話』(全3巻)だけであった。さっそく手に入れようとしたが、ちくま文庫を
置いている地元の書店には影もカタチもなく、有隣堂本店でもディケンズ他数
冊しか確認できなかった。数週間後に東京堂書店で入手した時には、天の巻は
陳列されていた最後の1冊という状態だった。このように一部の大型書店にし
か並ばないとすれば、地方在住の人にまで行き渡るのか心配になる。筑摩書房
の方には HP上で入手可能な書店名の告知や通販体制の整備といったケアをお
願いしたいと思う。
さて、『東京百話』であるが、地の巻を読んでみた。この本には、まだ作品
を読んだことのない筆者の文章を読む喜びや自分の記憶にある東京と文章から
浮かび上がる東京を重ね合わせてその違いを確認する楽しみが溢れている。大
正・昭和の東京が収められたこのアンソロジーをまたもや東京が変貌しつつあ
る今読むことに意義があると思う。平成の東京が失ったものと失おうとしてい
るものを知るための手がかりが詰まった貴重な1冊。

★吉田健一と辻静雄を
西村義孝(吉田健一蒐集家)

「ちくま」12月号でちくま文庫創刊20周年を知り、真っ先に吉田健一の著作
である『私の古生物誌』、『英国に就て』、『新編酒に呑まれた頭』の3冊、
『ひょっこりひょうたん島』、『芥川龍之介全集』、『辻静雄コレクション』
を買ったことが思い出されました。現在の書棚には『ひょっこりひょうたん
島』がありません。

『私の古生物誌』は復刊対象ですが、今回復刊された中には入っていませんで
した。吉健さんファンである私は、ちくま文庫に僅か3冊しか既刊されていな
い中で『私の古生物誌』が品切れのままであることは寂しさがあります。吉健
さん本を読み始める上で必須な本です、欲を言えば『交遊録』が追加されるこ
とが望まれます。
『辻静雄コレクション』は全3巻にとどまり、辻静雄本で現在古本でも入手困
難な『プルーストと同じ食卓で』、『パンのすべて』が収録されていないのは
とても残念でなりません、新潮社版『辻静雄著作集』の枠内でしかありません。
『私の古生物誌』の復刊、『辻静雄コレクション』新刊を是非期待しております。


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■出版人の目  文庫の既刊の尊重が、出版社の「格」を高める
小林浩(月曜社取締役)
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ちくま文庫が昨年、創刊20周年を迎え、読者アンケートをもとに9点14冊
を一括復刊した。ちくま文庫が20年も継続したこと自体がまずもって喜ぶべき
ことだが、一方でこれまで復刊事業に本格的に着手しなかったらしいのは実に
意外なことに思える。

一読者として見れば、このたび復刊された9点はいずれも普通に重版されて
いてもよかった「名作」の類ではないかと思える。なぜ品切のままにしていた
のだろうか、という疑問が脳裏に浮かぶ。
一方で、一同業者として言えば、こうした「名作」を品切のままにせざるを
えないそれなりの事情が版元にあったのだろうと推察できる。版元の供給責任
を言うならば、広く読者や市場の需要責任も本来的には問われなければならな
いとも思う。

理想論としては、文庫はその存在意義からして、新刊を作らねばならない、
というのを第一義とするのではなく(出版界の現実はそうではないが)、まず
は既刊書を大事にし、できるかぎり在庫点数を増やして品切がなくなるように
してほしいものだ。
売り切っておしまい、というのは文庫にふさわしくない。岩波茂雄が岩波文
庫発刊に寄せた「読書子に寄す」を昨今の出版人はどう思っているだろうか。
「読書子とのうるわしき共同」は絵空事なのだろうか。
他社文庫の場合にはたしかに読み棄てられることを前提としているかのよう
な娯楽ものが多いように感じるのも確かだけれども、そうしたいわば「ブック
オフ向け」の文庫と一線を画しているのがちくま文庫であり、ちくま学芸文庫
なのだと信じたい。

岩波文庫と同様に、通常の重版とロングセラーの定期的な「一括重版」、そ
して季節ごとの「復刊」の三本柱をたてて、今後、ちくま文庫およびちくま学
芸文庫の重版と復刊に邁進して欲しい。そうでもしないと筑摩書房の文庫の
「格」はあがらないと私は思う。
他社が刊行していたものを文庫化した書目については特に、末永く販売して
いく一種の「責任」があるように思う。文庫が品切になった場合、再度単行本
化されるケースは少ない。「文庫は本の墓場だ」と揶揄する編集者がそこかし
こにいるのも頷ける。

ともあれ、今回いくつかの書目の復刊は叶った。今後の復刊および一括重版
事業の第一歩になることを信じるしかない。

余談だが、私が一個人客として街の小さな本屋さんを訪れる場合、文庫棚に
岩波文庫やちくま学芸文庫、講談社学術文庫、平凡社ライブラリーがあるかど
うか、また、図書新聞や週刊読書人などの書評紙を置いているかどうか、とい
うあたりをまず見る。
むろん、こうした基準は高い(高すぎる)ハードルだし、本屋さんにはそれ
ぞれの事情と言い分があろう。
残念ながら、都内の下町に住む私の最寄駅周辺には上記の基準を満たす書店
は一軒もない。そうなると当然、ターミナル駅の大書店を利用するか、オンラ
イン書店を利用するかのどちらかしかない。かくして私のそれなりに高額な月
々の書籍代は、地元地域の小書店に流れていくことはほとんどない。


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■おわりに
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 さて、16名の方からの、ちくま文庫復刊フェアについての意見、いかがで
したか? みなさん、復刊という企画そのものについては歓迎しながらも、
「ココが足りない」という部分を具体的に指摘してくれました。
それらの意見をもとに、私なりにまとめてみますと……。

【版元】、つまり筑摩書房に対しては、さらなる情報公開が期待されているよ
うです。古い本を復刊するにあたって、さまざまなハードルがあるであろうコ
トは、読者も承知しています。復刊できない理由をすべて示せとは、もちろん
云いません。ただ、最初の投票で上位30位以内に入った本は、書名を公表し、
どこまで検討したかのコメントを付けてもイイんじゃないでしょうか(他社が
それらの本に手を出すことへの牽制にもつながるのでは……)。
 それと、復刊フェアそのものについての読者の反響を、自社のメディアで
まとめてはいかがでしょう。PR誌『ちくま』誌上で、お気に入りの復刊本に
ついてアンケートを取るのもイイでしょう(ひょっとして、読者欄に感想が
載っていたかもしれませんが)。今回の意見を見ていても、出す側の海外文学
重視に対して、買う側は『東京百話』以外は古本屋でもありそうだし……とい
う反応が多かったです。そういった検証も含めて、この企画にどのような手ご
たえがあったかを公表することが、次につながるのではないでしょうか。
 そしてもちろん、このリクエスト復刊は一回で終わらせず、ぜひ定期的に続
けてほしいと思います。いずれは、岩波・ちくま・講談社(学術と文芸)・河出
あたりの共同でのリクエスト復刊なんてのも、やってほしいですねえ。

【書店】に対しては、復刊本をフツーの新刊書と同じに扱わず、一工夫をお願
いしたいです。面積の限られていることは重々承知、でも、同じ系統の既刊本
を並べてみたり、「なぜいま復刊したのか」をPOPで示してみたり、いろいろ
やってみてほしいのです。

【読者】に対しては、せっかく新刊として復刊された本を、きちんと書店で買
ってあげてほしい。「ちくま文庫が復刊フェアをやるぞ」というニュースは、
ブログなどでいち早く伝わり、実際にリクエスト投票をしたヒトも多いと思い
ますが、さて、復刊された本をみんなが忘れずに買ったのか……。不必要な本
まで買えとは云いませんが、「せっかくココまでやってくれたんだから」と、
企画実現に対してご祝儀をあげるぐらいの心意気は、あってもイイんじゃない
でしょうか。

 ちくま文庫の復刊フェアを肴に、あれこれ云ってきた企画もコレで終わりで
す。筑摩書房の皆様、勝手なこと云ってすみません。でも、みんなの期待の証
しだと思ってくださいませ。
 そういえば、1月末に募集が締め切られた、今回のフェアに合わせて発行さ
れるオリジナルの「限定版ちくま文庫」が、3月以降に送られてくるようです。
これまでの文庫解説をセレクトしたもので、もちろん非売品です。私も2冊の
復刊を買って、そこについていた応募券で応募しています。
 まだまだ愉しみは尽きませんね。              (南)

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特集「ちくま文庫復刊フェアをめぐって」に寄稿しました
本日配信された「[書評]のメルマガ」の251号(特集=この版元がエライ!特別企画・ちくま文庫復刊フェアをめぐって)に寄稿いたしました。エラそうなことを書いています。ご高覧いただける機会がございましたら幸いですが、本来のテーマからははずれるので、原稿で書
| ウラゲツ☆ブログ | 2006/02/22 12:18 PM |
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