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[書評]のメルマガ vol.115
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■■ [書評]のメルマガ     2003.5.4発行

■            vol.115
■■  mailmagazine of book reviews   [ 長いあとがき 号]
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。今回はいろんな労作を紹介。
★「精選 東京〈本読み場〉ガイド」高野麻結子
 →どこで読んだってイイけど、どうせなら気持ちのいい場所で読みたい。
★「版元様の御殿拝見」塩山芳明
 →新幹線通勤中に毎日一冊は本を読む男が版元の社屋を徘徊します。
★リレー連載「私のsome day本」山本善行
 →ある雑誌の特集で出会った気になる作家と一冊をめぐってのあれこれ。
★「かねたくの読まずにホメる」金子拓
 →買ったときから、いや手にしたときから読書ははじまっているのです。
*本文中の価格は、すべて税抜き(本体)価格です。

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■はじめに 
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 今月からまた新連載がはじまります。高野麻結子さんの「私選 東京〈本読
み場〉ガイド」です。奇数月に掲載します。これにともない、荒木幸葉さんの
「新刊書店の奥の院」は偶数月連載となります。二人とも南陀楼の可愛い「舎
弟」です。ご贔屓に。
連載の本数が増えたので、この辺でいちおう整理しておきますと、南陀楼が
編集している毎月上旬のふたつの号のうち、前者は出版情報、出版社、読書な
ど「本の周辺」についてのコラム集です。後者はさまざまな角度からの書評そ
のものを掲載します。
 とはいっても、その時々のノリによって、構成が変わってくるコトもありま
すが、そういうアドリブも含めて愉しんでもらえたらと思います。
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■南陀楼綾繁のホンのメド 
新刊、古書、マンガ、雑誌、ウェブサイト、書店、イベントの近事雑報
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【トピックス】
★本をナメるな!
 マガジンハウスの雑誌「ku:nel」(クウネル)を眺めていて、ひさしぶり
に吐き気のする思いに駆られた。この雑誌は「ストーリーのあるモノと暮らし」
とかいうコンセプトなのだが、いま出ている号に載っている本についての記事
がヒドイのだ。そのひとつは、倉敷で「蟲文庫」という古本屋を営む女性の記
事。もう一本は、24時間開館がウリだという山口県須佐町立図書館について。
見たときは「おっ」と思った。両方とも知らなかったし、興味がある。

 だけど、読みはじめて30秒で興味を失った。この古本屋や図書館が悪いの
ではない。記事を書くライターや編集者、デザイナーが本をたんなるネタ(そ
れこそストーリーのあるモノ)としてしか考えてないコトが明白すぎるのだ。
その証拠に、この記事には書名や著者名はひとつとして登場せず、「さびしく
なったら、スキップをしながら図書館へ行こう。本を読みたい。もっともっと
本を読みたい」などと、なんだか知的でおしゃれなアイテムとしての抽象的な
「本」しか出てこないのだ。

 くそっ、本をナメるな! そして読者をナメるな。マガジンハウスの前身の
平凡出版が出していた「平凡パンチ」「ポパイ」「ブルータス」に出てくる「本」
は、たしかにオシャレな生活のための道具として扱われていたが、それでもそ
こには書名・著者名と内容の具体性があった。「モノ」の具体性さえ見せずに、
ナニが「ストーリーのあるモノと暮らし」なんだよ。

 繰り返すが、「蟲文庫」や須佐町立図書館には罪はない。ぼくはいずれ、機
会を見つけて、このどちらにも行ってみたい。そのときは、そこにある「本」
の物語を読者に感じてもらえる紹介を試みるつもりです。

【買わないけど気になった本】
★牧野守『日本映画検閲史』パンドラ刊、現代書館発売、2万2000円
 映画の配給が本業だが、渡辺浩『映像を彫る 撮影監督 宮川一夫の世界(改
訂版)』や佐々木徹雄『三分間の詐欺師 予告篇人生』など、映画関係のいい本
を出しているパンドラの新刊。
 牧野守氏は、文献から埋もれた日本映画史を掘り起こしてきた在野の映画研
究家で、古書の世界でも有名なヒトだ。本書は、「わが国の表現規制の問題を、
初期映画史に残る第一次資料をもとに実証的に追求した画期的労作」(現代書
館サイトより)。

パンドラ
http://www.pan-dora.co.jp/

現代書館
http://www.gendaishokan.co.jp/

★森雅裕『推理小説常習犯』講談社+α文庫、840円
 1996年にベストセラーズから新書で出た本の文庫化。森雅裕は知るヒトぞ
知る寡作の推理小説家。最近では刀剣職人が主人公のミステリなんて、書いて
いた。この本は、売れないが主張の強い作家に対して、大手版元がどんな仕打
ちをおこなったかがセキララに書かれている。たしか、講談社も相当やりだま
に上がっていたような気がする。その辺が、文庫版でどうなっているのだろう
か。書いてるウチに気になってきたので、ひょっとしてまた買ってしまうかも
しれない。ちなみに内容は、推理作家になるにはというテーマで連載がはじま
りながら、どんどん脱線していくという奇書です。この本読んだら、森雅裕の
推理小説が読みたくなって、図書館か古書店(書店にはほとんど置いてないか
ら)に駆け込むこと請け合いです。

→やっぱり帰りに買ってスグ読み始めてしまった。バツグンにおもしろい。講
談社の編集者批判も完全にそのママ残してある。すげェーぞ。

【イベント】
★佐野眞一サイン会【近日開催】
 神戸の出版社・みずのわ出版から出た佐野眞一『宮本常一のまなざし』のサ
イン会が、神戸元町通りの海文堂書店で開かれます。地元で頑張っている小出
版社を応援してやろうという書店と著者の姿勢が嬉しいじゃないですか。
◎日時 5月31日(土) 5時-6時
◎会場 海文堂書店1階 TEL 078-331-6501(担当・福岡宏泰さん)
http://member.nifty.ne.jp/kaibundo/

【映画】
★追悼特集「映画監督・深作欣二」【開催中】
 千石の三百人劇場で6月8日まで。いわずとしれた『仁義なき戦い』の監督
の残した55本を日替わりで上映。ぼくもなるべく時間をつくって行ってます。
ヤクザ・ギャングもの以外にも、『軍旗はためく下に』『誇り高き挑戦』など
の秀作をお見逃しなく。
http://www.bekkoame.ne.jp/~darts/

★『警視庁物語 顔のない女』(1959、東映)
 京橋・フィルムセンターの「逝ける映画人を偲んで1998-2001」という特集
で、なんとなく観た一本。先頃亡くなった花沢徳衞(と加藤嘉)以外には、監
督も役者も知らないヒトばかりのジミーな刑事ものだった。このなかに、川に
繋いである船で居酒屋を営業しているシーンが出てきた。こういう船の飲み屋
はいつ頃まであったのだろうかと思い、「ザ大衆食」サイトの遠藤哲夫さんに
聞いてみた。
「これは隅田川だと思います。わたしが知っているのは二か所ありましたが。
最後まで残っていたのは、長命寺さくらもちの前あたりにもやってあった飲み
屋です。たしか一昨年春ごろまであったはずです。本当は川に固定して営業す
るのは非合法なのですが人気もあったし、黙認されてきました。ところが、無
粋な石原慎太郎が知事になって、強制執行されたというわけです。わたしは、
ちょうど本体が壊された一週間後ぐらいに行って、船に入るためのチョウチン
をぶらさげた船着場みたいなの、残骸を写真に撮ってあります」(遠藤さん)
 消え去った風景がフィクションとしてであっても記録されているところにも、
古い映画の価値はあるのだ。

【亡くなった人】
★徳永康元さん(ハンガリー語学・文学者)
 4月5日、心筋梗塞のため逝去。91歳。名著『ブダペストの古本屋』(恒文
社)の著者でもあり、晩年まで本に埋もれて暮らしていたと聞く。以前、老人
の読書をめぐる座談会に出席いただいたときは、まだまだお元気だったが。昨
年、愛弟子のチェコ語学者・千野栄一さんが亡くなったのに続くように亡くな
ってしまった。
 なお、「日本古書通信」2002年5月から7月号にかけて、「徳永康元さん聞き
書き」という記事が載った。戦前のハンガリーでの苦学生ぶりがよく判る聞き
書きだった。戦前でハナシが終わっているのが惜しく、あの続きも含めて、本
にして欲しかったと思う。惜しい。

【これから読む本】
★富士川英郎『讀書散策』研文出版、5500円
 前にも触れた、先頃亡くなった富士川英郎の遺著が出た。第一部が萩原朔太
郎の『猫町』、第二部が森鴎外の『伊澤蘭軒』という、富士川が終生愛した作
家と作品についての文章で構成されている。そして、第三部は私家版としての
み刊行された「思出の記」である。この本は、時間を見つけて、ゆっくりと味
読したい。
なお、本書で付記を書いている、息子の富士川義之(英文学者)の新著『き
まぐれな読書 現代イギリス文学の魅力』(みすず書房)も、書店に並んだば
かり。同じ月に、親子の本が出るなんて、ちょっとオモシロイ。
 本書は500部限定出版のため、ほとんどの新刊書店には置かれない。手に取
って見たいヒトは、神保町の漢籍専門書店「山本書店」(研文出版はココの出
版部)でどうぞ。
http://www.kenbunshuppan.com/

【先月読んだ本】
4月は36冊。講談社の『文壇資料』シリーズがおもしろくて、ナメるように
読んでます。
◆有明夏夫『テーブル・センターの出来るまで』文藝春秋◆勝川克志『おらあ
庄太だ』第1巻、芳文社◆貫井徳郎『修羅の終わり』『妖奇切断譜』講談社文
庫、『天使の屍』角川文庫、『誘拐症候群』双葉文庫、『殺人症候群』双葉社
◆鴨下信一『会話の日本語読本』文春新書◆たかさきももこ『白衣でポン』第
8巻、集英社◆ほったゆみ(作)・小畑健(画)『ヒカルの碁』第21巻、集英社
◆呉智英『犬儒派だもの』双葉社◆村上護『文壇資料 阿佐ヶ谷界隈』講談社
◆竹内良夫『文壇資料 春の日の會』講談社◆諸星大二郎『私家版鳥類図譜』
講談社◆真尾悦子『阿佐ヶ谷貧乏物語』筑摩書房◆江戸川啓視(作)・クォン・
カヤ(画)『プルンギル 青の道』第3巻、新潮社◆鮎川哲也『太鼓叩きはな
ぜ笑う』創元推理文庫◆結城昌治『修羅の匂い』文春文庫◆辛酸なめ子『ほと
ばしる副作用』文藝春秋◆粕谷一希『中央公論社と私』文藝春秋◆永江朗『ベ
ストセラーだけが本である』筑摩書房◆殿山泰司『三文役者の待ち時間』ちく
ま文庫◆『魅!!クロマティ高校入学案内』講談社◆島本和彦『吼えろペン』
第7巻、小学館◆ロジャー・L・サイモン『ペキン・ダック』ハヤカワ・ミス
テリ◆加藤一郎『文壇資料 戦後・有楽町界隈』講談社◆清田昌弘『一つの出
版史』トラベラー同人会、『私の出版年鑑』リーベル出版◆斎藤美奈子『趣味
は読書。』平凡社◆十返肇『筆一本』鱒書房、『十返肇の文壇白書』白鳳社、
『文壇放浪記』角川書店◆青井夏海『赤ちゃんがいっぱい』創元推理文庫◆向
井透史『早稲田古本劇場』第一幕・第二幕、胡蝶掌本◆阿部秀悦『魔群の通過』
胡蝶掌本

 ちなみに、本メルマガ連載の塩山芳明さんの3月読了リストはこちら(「コ
ミックMate」5月号より無断転載)。ぼくと同じ36冊ですが、ずいぶんハ
ードな本が多い。それに詩集をよく読んでますねェ。
◆大泉康雄『「あさま山荘」籠城』祥伝社文庫◆蓮実重彦『映画狂人万事快調』
河出書房新社◆鈴木志郎康『生誕の波動 歳序詩稿』書肆山田◆小林紀雄『TOKYO
OMUNIBUS』リトルモア◆富岡多恵子『砂に嵐』中公文庫◆荒俣宏『決戦下のユ
ートピア』文春文庫◆篠山紀信『少女革命』幻冬舎◆佐伯彰一『昭和史のなか
の私』筑摩書房◆松永伍一『ムッソリーニの脳』アディン書房◆『マンスフィ
ールド短篇集』ちくま文庫◆殿山泰司『三文役者の待ち時間』ちくま文庫◆高
見順『わが埋葬』思潮社◆庄野潤三『世をへだてて』文藝春秋◆赤瀬川原平『明
解ぱくぱく辞典』中公文庫◆森茉莉『魔利のひとりごと』筑摩書房◆『紙宇宙
船に乗って・川本三郎対談集』白水社◆新川和江『はね橋』花神社◆清水昶『片
目のジャック』思潮社◆川本三郎『郊外の文学誌』新潮社◆辻まこと『多摩川
探検隊』小学館◆林信吾『これでもイギリスが好きですか?』平凡社新書◆木
村荘八『東京風俗帖』ちくま学芸文庫◆高橋睦郎『鷹井』筑摩書房◆入沢康夫
『遐い宴楽とほいうたげ』書肆山田◆足立正生『映画/革命』河出書房新社◆
司悠司『文庫ハンターの冒険』学陽書房◆大庭みな子『魔法の玉』TBSブリ
タニカ◆赤瀬川原平『ベルリン正体不明』東京書籍◆徳川夢声『夢声自伝』上
巻、講談社文庫◆渋沢孝輔『行き方知れず抄』思潮社◆横尾忠則『捨てるVS
拾う』NHK出版◆金井美恵子『遊興一匹 迷い猫あずかってます』新潮文庫◆
『山口哲夫全詩集』小沢書店◆K・ヘプバーン『「アフリカの女王」とわたし』
文春文庫◆山口昌男『内田魯庵山脈』晶文社◆中上健次『鳥のように獣のよう
に』講談社文芸文庫

【南陀楼のお私事】
★「モクローくん通信」5号準備中
 古書目録と古本屋をこよなく愛する南陀楼綾繁と、それを横目で見てはため
息をつく内澤旬子が贈る、世界で初めての「古書目録ファンペーパー」。つい
に発行部数が300に達しました。書肆アクセス(神保町)と古書ほうろう(千
駄木)のほか、海文堂書店(神戸)にも置いてあるはずです。ゲットしてくだ
さい。また、切手送付の方には定期的にお送りします。メールでお問い合わせ
を。なお、以前に申し込んだのにまだ届いてないという方は、お手数ですがも
う一度メールをお願いします。
kawakami@honco.net

★メルマガ「早稲田古本村通信」で連載開始
 早稲田古書街のサイト「早稲田古本ネット」が発行するメルマガで、「早稲
田で読む・早稲田で飲む」というコラムを書くことになりました。一回目は、
古本屋街にひっそりとあった喫茶店「戸塚苑」の想い出。5月12日配信だと
か。購読は以下のアドレスからどうぞ。
http://www.w-furuhon.net/mail/mail.htm

★「sumus」別冊
 まるごと一冊中公文庫特集です。南陀楼は中公文庫のカバーやマークについ
てねちねちと考察した「中公文庫の重箱の隅」と、中公文庫の日記本について
書き……まだ書いてます。次号には発行日をお知らせします。乞うご期待。

★「彷書月刊」6月号(5月25日発売)
 「本のメルマガ」での「全点報告 この店で買った本」がちょうど三年間経
ったので、この三年間で買った本がいったい何冊だったか、という恐ろしい報
告をいたします。あまりに恐ろしいので、原稿がまだ書けてません……。

★「レモンクラブ」6月号(5月12日発売)
 今回は、鴨下信一『会話の日本語読本』(文春新書)について書きました。

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■私選 東京〈本読み場〉ガイド 高野麻結子
(1) 晴れた日には寄港のすすめ(渋谷「ANCHORAGE」)
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 氾濫する印刷本を短い一生の間にできるだけ多く読むために、ルネサンス期
には一度に複数の書物が参照できる水車のような書見台(ブック・ホイール)
が作られたといいます。書物の流通量は今や比べ物になりませんが、だからこ
そ、やっと出会えた一冊の本とはきちんと向き合いたいものです。
そんなわけで、気持ちよく本の世界に浸れる場所を少しだけご案内。

 それはとある日曜日の昼下がりのことでした。
 映画を一本見た後、そのままBunkamura地下のNADiffへ。ちょうどパロル舎
のブックフェアをやっています。金井田英津子さんの挿画による夏目漱石『夢
十夜』は前から欲しかった一冊。スペースのとる大判の絵本もきちんと面陳列
されていて、いつか買うならせっかくだからここでと思わせます。そしてでき
れば家に帰る前に広げてみたい。普段はマックのポテトと薄いコーヒーで暮ら
していても、大事な本を最初に開くときはちょっと考えます。

 そんな時。渋谷の喧騒のすき間にぽっこり納まる空間は、センター街を抜け
た先の「ANCHORAGE」(アンカレッジ=停泊地)という名の喫茶店。濃茶の木製
扉には、少々ハゲかかった金の飾り文字で店名が。窓にはレースの白いカーテ
ン。コーヒー一杯500円。コーヒーはサイフォンのまま、保温のための火が灯
されたキャンドルと一緒にやってきます。

 ふと顔を上げると窓の向こうには渋谷の町を行き交う人の流れが見える、椅
子の高さがちょうどいい、丁寧な対応をしてくれる……。ただ、ここで本が読
める一番の理由は、その濃すぎない存在感にあるのです。たとえば新幹線に乗
っていて、窓から景色を見ていると、時々田畑の真ん中にぽっかりと建つお稲
荷さんが目に入ります。一見唐突なのに、その土地にきちんと馴染んでいる。
車窓から眺めているだけの自分にとってはそれが無くても特に困らないけれど、
あるとやっぱり目が嬉しい。そんなふうに、意識しないと通り過ぎてしまう不
思議な場所ですが、ANCHORAGEでは本を開き、文字を目で追うのと同じスピー
ドで、時間が流れているのかもしれません。

場所:渋谷区宇田川町35周辺
平日は10時〜22時半頃、土日は11時半〜19時半頃まで。
ドリンクはおまけが付いてきます。

〈たかの・まゆこ〉編集者。交通新聞社「散歩の達人ブックス」で、『東京 古
本とコーヒー巡り』を企画編集。都内の〈本読み場〉を探訪するのが趣味。ド
イツ旅行が中止になったので、代わりにドイツの本を集めて読んでます。

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■版元様の御殿拝見  塩山芳明
(8)少年画報社 “赤胴ビル”で生まれた変な雑誌
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 大塚商会の本社等、高層ビルの新築ラッシュが続く、飯田橋、「シニアワー
ク」の裏手一帯(隣の元高級ホテル「ホテルエドモント」は、最近、デイズニ
−ランド帰りの、中高生の団体客で大繁盛。山拓の飲尿プレイの“拠点”に加
え、あたかも駅前旅館だが、カッコつけても所詮はJRの経営。先祖帰り?)。
首都高下の日本橋川に、昨年カワユイ「あいあい橋」が完成。水道橋へもひと
っ跳び。
 
 向こう岸へ渡るとすぐ目に付くのが、少年画報社の5階建てビル。『劇画狂
時代 「ヤングコミック」の神話』(岡崎英生・飛鳥新社)によると、『少年
画報』連載の「赤胴鈴之助」のヒットで建てられたため、“赤胴ビル”とも呼
ばれたと。ただそのひりたてだった馬糞色もかなり色褪せ、今や「ブワ−ッ!!」
と植木等が飛び出して来そうな、昭和30年代臭のみ色濃く漂う(お陰でよく林
立する黄赤ベタの組合旗が、冷戦時代のように楽観的にはえる)。

 水道橋は、ギャンブル狂や歩き出したガキ持ち以外は用のない街だが、エロ
本業界にはメッカ。画報社裏手のAB・River水道橋ビルには、『SMセレク
ト』全盛期の、上野から焼け出された東京三世社が入居してたし(今は自社ビ
ルが三崎町に。『劇画狂〜』にも登場する青柳裕介は、一時SM描写に凝り、
画報社帰りにであろうか、同社を尋ね資料を見たいと言ったら、ケンもホロロ
に追い返されたと。後にアシだった間宮聖士〈青児〉から聞いた話だが、その
せいで律儀な間宮は、筆者編集の三世社の漫画誌で、なかなか仕事をしてくれ
なかった)、巣鴨に越す前の三和出版、桃園書房(司書房)も。「赤胴〜」が当
たらなければ、画報社もその仲間入りしてたかも。 

 49歳の筆者にとって、同社はイコール『ヤングコミック』。変な雑誌だった。
宮谷一彦の抜き所タップリの“エロ劇画”や、上村一夫の“スカシまくり漫画”
の間に、下品なコラムがギュ−ギュ−詰め。そばから中華、洋食までOKの、
田舎の駅前食堂の趣が(“一仕事”終えてから読む、西脇英夫の日活映画コラム
が、いかに斬新で楽しかった事か!!)。

 上京組にとって、初めて見る版元の建物は、十中八九が予想よりみすぼらし
い(かつての光人社は典型)。画報社は数少ない例外で、「あんなエロ本でも
儲かるんだあ」とため息(「赤胴〜」は超ガキ時代で、ラジオドラマでしか知
らず)。路地一本隔て造船会館も。全国一般、新聞労連、社青同他の、警視庁
公安部のアイドル団体も看板を。思想的にも、“野ざらしの馬糞ビル”と化し
た、旧“赤胴ビル”一帯は、レトロな街なのだ(しみじみ…)。

 で、自伝はいつの時代も敗者の物に限る。『貸本マンガ史研究』連載の大山
学にこそ及ばないが、『劇画狂〜』も中々(ただ、p282に事実誤認。『エロト
ピア』で、色原稿のみ入れ逃亡した、ふくしま政美の活版分の尻拭いをしたの
は、へたくそな新人ではなく、ベテランのやまおか玲児。失礼だよ)。映画評
論家してはともかく、劇画原作者としては無能の限りだった、西脇英夫こと東
史朗にもぜひ業界回顧録を執筆してほしい。そして“女子高生風御涙頂戴原作
者”、岡崎英生共々、二重の恥をさらしてもらいたい。 

〈しおやま・よしあき〉エロ漫画編集者。編プロ「漫画屋」を率いる。著書
『嫌われ者の記』『現代エロ漫画』(一水社)。なお、この連載に関しての批
判・苦情・お叱りは筆者本人まで、どうぞ(ただし、謝るとは限りません)。
mangaya@air.linkclub.or.jp
http://www.linkclub.or.jp/~mangaya/

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■私のsome day本  山本善行(「sumus」代表)
その2 私はいつ、後藤明生を読むのか
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後藤明生『おもちゃの知、知、知』冬樹社、1984年

『太陽』一九八九年六月号の特集は「本の宇宙誌」である。
 よく取り出して見るので、表紙は折れたり擦れたりして、渋い顔つきをして
いる。
 何を見るのかといえば、例えば、辻潤『痴人の独語』だ。書物展望社の、手
もみ皮とコルクのコーネル装。その写真の下には稲垣足穂『ヰタ・マキニカリ
ス』、的場書房の特製百部本だ。この二冊、一度、触りたいし手に持ってペー
ジを開けたいと、見るたびに思う。
 それに、裏表紙にあるのは、バカラ、ペーパーウエイトの広告だ。私はこれ
を見ると、トルーマン・カポーティを思い出す。カポーティが、作家コレット
を訪ねて、ペーパーウエイトに出合うエッセイがあるが、それを思い出すのだ。

 また、菊地信義、清水徹、古井由吉、による鼎談も興味深い。その中で、菊
地信義装幀本として、後藤明生『おもちゃの知、知、知』(一九八四年、冬樹社)
が取り上げられている。一ページに、エッセイ、小説、アンケートが組まれて
いるという。私はこの本が欲しいと思い、(一年ぐらい前から)探しはじめる
ことになった。

 『おもちゃの知、知、知』はまだ買えないが、後藤明生の本は、『行き帰り』
(一九七七年、中央公論社)、『八月/愚者の時間』(一九八〇年、作品社)、
『ロシアの旅』(一九七三年、北洋社)、『私的生活』(一九六九年、新潮社)
と集まってきた。三百円ぐらいなら買っておくのだ。
 後藤明生は、気になる作家だけれど、まだ私のなかでの評価が定まっていな
い。というのは恥ずかしながら、実はここに書きこんだ、後藤明生の本、こと
ごとく読んでいないのだ。むかし、文庫でなにか読んだことがあるとは思うも
のの、集英社文庫の『挟み撃ち』であったか、講談社現代新書の『小説−いか
に読み、いかに書くか』だったか、全く覚えていない。

 では私はいつ、後藤明生を読むのか。それは、はっきり決まっている。私は、
後藤明生、どうしても、『おもちゃの知、知、知』から読みはじめたい、と思
うのである。

〈やまもと・よしゆき〉1956年、大阪市生まれ。現在、京都銀閣寺の近くに
住む。毎日古本屋をのぞき何やかや買っては喜んでいる。また風呂で古書目録
を読む男。書物雑誌「sumus」代表。著書『古本泣き笑い日記』(2002年、青
弓社)
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/5180/

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■かねたくの読まずにホメる 金子拓
(10)博士の日記、博士の実像
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桑原隲蔵『考史遊記』岩波文庫、2001年3月、1100円+税

「[書評]のメルマガ」本号の責任編集人である南陀楼綾繁氏は名だたる日記
本蒐集家である。南陀楼氏にはとうてい及ばないが、私も“日記本好き”を自
認する人間である。日付のある記述が並ぶ版面を見たとたん、“日記本好き”
の心が疼く。振り返れば「読まずにホメる」第一回で取り上げたのは山田風太
郎の戦後日記だった。

 今回取り上げるのは、わが国における草創期東洋史学の泰斗桑原隲蔵(じつ
ぞう、1870-1931)の紀行(調査)日記である。桑原は越前敦賀生まれ、京都府
立中学−三高を経て東京帝国大学文科大学に学び、三高、東京高等師範教授を
経て清国留学後京都帝国大学教授に任ぜられるという経歴をもつ(『国史大辞
典』)。「俳句第二芸術論」で名高い京大教養主義の巨魁、仏文学者桑原武夫
氏は彼の次子にあたる。

 本書は明治40年(1907)から二年にわたり、中国(当時は清)の長安・洛
陽、山東省・河南省、内モンゴルに調査旅行を行なったときの日記である。中
国の史蹟や陵墓、石碑、寺院、景観、民俗などが仔細に書きとめられ、写真図
版も多く入った、いまとなっては貴重な文献の文庫化だ。前述の経歴でも触れ
たが、留学からの帰国後、桑原は京大教授となって先に着任していた内藤湖南
とともに京大東洋史学をリードし、宮崎市定らを育てた。

 名前の字面からもいかにも謹厳実直そうなイメージを受けるのだが、実像は
そうでもなかったらしい。薄田泣菫の『茶話』のなかに、「桑原博士の人違ひ」
と題して桑原の人柄を垣間見させてくれるエピソードが紹介されている。その
冒頭で泣菫は桑原をこんなふうにスケッチする。

  京都文科大学の教授桑原隲蔵氏は、大きい声では言へないが、一寸そそつ
  かしやである。学者には兜虫のやうな沈着家と蜻蛉のやうなそそつかしや
  と二種の型があるが、桑原氏はどちらかといへば蜻蛉の方である。
  (谷沢永一・浦西和彦編『完本茶話(下)』冨山房百科文庫)

 泣菫は大阪毎日新聞に勤めていたこともあって、『茶話』には昔の京大の先
生のおかしなエピソードが多く収録されている。厳めしそうな帝大教授をおち
ょくってやろうという意図もあったのだろう。

 ところで蛇足だが、本書は岩波文庫にしてはかなりぶ厚い。本文・索引合わ
せて592頁もある。試しに『岩波文庫解説総目録』を調べてみたら、一冊の
分量で本書を上回るものは十冊程度しかないことがわかった。青版では頁数が
もっとも多い本である。

〈かねこ・ひらく〉サイト「本読みの快楽」運営。本業は日本史研究者。前回
山口瞳について書きましたが、いまは彼が慕って師事した山本周五郎にはまっ
てしまいました。『日本婦道記』いいです。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~kinko/index1.htm
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■長くなってしまったあとがき
あやふやでいい加減な「傍観者」であること
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 ビレッジプレスの雑誌『雲遊天下』の最新号(33号)が送られてきた。その
表紙をめくると、「春一番2003」の広告が載っていた。春一番は、1970年代を
通じて大阪でおこなわれた、一大フォークイベントで、1990年代半ばに復活し
ていまに到るという。今回のコンサートは5月3日から3日間あって、仕事放
り出して見に行きたい気分になった。そのままページをめくっていたら、北村
和哉「春の風が吹いていたら 春一番物語番外篇」が目に入った。冒頭に「わ
たしは二〇〇三年も春一番コンサートへは行かない。否、行けない」とある。
お、なんだ、どうした。野次馬根性で読みはじめて、そのまま文章に引き込ま
れていった。

 北村さんは、1970年代の春一番コンサートの体験者で、復活後には、春一番
のTシャツをつくったり、70年代の音源をまとめCDとして販売したり、ミニ
コミを発行したりして、「いわゆる『スタッフ』でもない。もっとあやふやでい
い加減な『傍観者』という第三者」として、このコンサートに関わっていた。
北村さんの不満は、自分が「スタッフ」として扱われなかったコトではない。
むしろ、その逆に、決まった仕事を分担する「スタッフ」という「確固たる」
立場に追いやられたコトを問題としているのだ。

 世間から見れば、コレはなんともおかしな理屈だろう。コンサート開催に関
わるということは、必然的に各自の義務をともなう。だったら、あやふやでい
い加減な「傍観者」よりも、「確固たる」立場になったことを喜ぶべきではな
いかと云われるだろう。だけど、ぼくには北村さんの気持ちが判る気がする。

 そもそも、北村さんは仕事として春一番コンサートに従事しているワケでは
ない。やむにやまれない思いがあって、自分に出来ることをやっただけだ。そ
ういういい加減な「傍観者」を受け入れるだけの度量が、復活後しばらくの春
一番コンサートにはあったのだろう。それが、いつの間にか「スタッフ」に組
み入れられてしまった。「スタッフ」であることをこばむことは、そのままそ
の場から出ていくことにつながる。あやふやな立場の連中が一緒になってつく
るからオモシロイんじゃないかという北村さんの70年代的感性と、ボランテ
ィアでさえ「スタッフ」として管理してしまう(そうせざるを得ない面もある
が)現在のシステムとのズレが、ここには見える。

 ぼくが1960年代、70年代のサブカルチャー・シーン(音楽、映画、ミニコ
ミなどの)に憧れを感じるのは、それらのイベントやメディアが、北村さんが
云うようなあやふやでいい加減な「傍観者」たちの手によって、奇跡のように
成立していたからではないか。もっとさかのぼれば、昭和初期の文学同人誌な
どにも、ワケの分からない連中がたくさん入り込んでいて、それが予定調和を
ぶちこわしていた。もちろん、なんでもいい加減にやればいいというもんじゃ
ないけれど……。

 ところで、同じ号の『雲遊天下』の編集後記で、昨年創刊した雑誌『BOOKISH』
の発行元からビレッジプレスが降りることが告知されている(雑誌自体は
「『BOOKISH』の会」として継続されるそうだ)。「久しぶりに大勢の編集部構成
を採った雑誌だったが、第3号を刊行したころから、その編集部を円滑に運営
できなくなって」しまったのが理由だと、発行人の村元武さんは書いている。
事情は知らない。でも、1970-80年代に『プレイガイドジャーナル』の発行人
だった村元さんのことだから、あやふやでいい加減な「傍観者」を積極的に歓
迎し、それが「編集部」の方針と対立したのではないだろうか、などと勝手に
推測している(ちがっていたらごめんなさい)。

 話が長くなってしまったが、ぼく自身は、本の世界に、業界人としてではな
く、あやふやでいい加減な「傍観者」として関わっていきたいという気持ちを
つよく持っている(編集者を本業としている以上、なかなかそうもいかないが)。
そして、自分だけでなく人々のそういう関わり方が認められるような場をつく
っていきたいとも思う。「書評のメルマガ」もそういう場の一つでありたいと
思うのですが。では、次号。               (南陀楼綾繁)

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コメント
こんにちわ。まーくんです。

書評ですか?おもしろそうですね。
劇画狂時代というのがあったのも、
水道橋がそんなに治安悪げな場所だったのも
知らなかったです。
ヤングコミックも読んでみようかな
また来ます
| まーくん(レンタルサーバー研究者) | 2009/04/30 2:01 PM |
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