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[書評]のメルマガ vol.168
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■■ [書評]のメルマガ     2004.6.21 発行

■           vol.168
■■  mailmagazine of book reviews  [ 遅れてスマン 号]
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。故あって今回も短めです。
★寄稿「大正の文庫王」吉田勝栄
 →姫路文学館で開催中の「立川文庫」展の図録を批評します。
★「下連雀しゃんしゃん日録」長谷川洋子
 →巷で話題の古本屋「上々堂」の女店主が綴る細腕太腹繁盛記。
★「今月ハマったアート本」平林享子
 →『冬ソナ』と『キャンディ・キャンディ』の意外に深い共通点とは。
★「もっと知りたい異文化の本」内澤旬子
 →『山羊の出番だ』で、あなたも立派な沖縄山羊通になれる!
★「渡辺洋が選ぶこの一冊」
 →ぱっと物が読めてしまうという立ち位置からちょっと身を離したい。
★「全著快読 古山高麗雄を読む」荻原魚雷
 →没後二年になる芥川賞作家の残した約50冊を丹念に読んでいきます。

*本文中の価格は、すべて税抜き(本体)価格です。

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■南陀楼綾繁のホンのメド  おかわり
 前号で紹介しきれなかったネタを落ち穂拾いしておきます。
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【トピックス】
★「BOOKISH」発売
 先週の東京古書会館「sumus」展で先行発売した、「BOOKiSH」の最新7号
が、今週発売予定です。定価は、735円。書肆アクセス、タコシェ、東京ラ
ンダムウォークのほか、東京堂、ジュンク堂など大手書店で手に入ります。
 特集は「書店の記憶」。書店という場所をめぐる小研究とエッセイを掲載。
小田光雄「大正時代の書店」、末永昭二「資料に見る昭和三十年代の〈貸本
屋〉」、永江朗「日本ユニーク書店紀行」、川口正「〈本屋=書店〉の本を巡
って」など。
 「書店はサロン」という小題では、「内山書店と魯迅」(築添正生)、
「斎藤昌三と東京堂」(八木福次郎)、「丸善と内田魯庵」(木村有美子)、
「波屋の宇崎さん辻馬車に死す」(林哲夫)という、書店とヒトとの関りを
描いた小文を。「書店と出会う」では、「北冬書房」の高野さんが経営する書
店「いかるが」(まだ行ったコトがない)や、札幌の「リーブルなにわ」が登
場します。

 また、新連載として、南陀楼綾繁「埒外の本たち」がはじまりました。
「「BOOKiSHの書評は新聞の書評欄みたいだ」と憎まれ口をたたいていたら、
「じゃあ、お前やってみろ」とご指名があり、出版流通の「埒外」にある本
を紹介していくコトになりました。第一回は、『亀有名画座閉館五周年記念今
井通雄ロングインタビュー』、清水一嘉『ソウルの古本屋』、『ポケットのな
かの千野教授』の三冊を取り上げました。
http://www.sutv.zaq.ne.jp/ckabb202/

★『酒とつまみ』今月下旬発売
 こちらも、遅れに遅れて待ちくたびれた第5号の登場です。
 巻頭特集は、へべれけサスペンス劇場(略して「へサス」!!)
 第1話:奥鬼怒川温泉・謎の全裸死体
 第2話:中央線お茶の水・臭い事件簿
 第3話:古都鎌倉・ズブ濡れ男と血染めの浴衣
 第4話:無念の完落ち・誘惑の白モノ家電
って、相変わらずタイトルだけだと意味不明ですが、なんだかオモシロそう。
 インタビューは、高田渡。これは大期待。やっぱり「いせや」でやったので
しょうか?
 なんでまた、そんなことやるのか? の体いじめの実験コーナーは、「7時
間耐久立ち飲みマラソン:はたして立ち飲み屋で開店から閉店まで立って飲ん
でいられるのか!?」。ホントになんでわざわざ……。
 そして、こちらでも南陀楼綾繁の連載がはじまります。いい古本屋のある街
にはかならずいい居酒屋があるという強引な前提の街歩き「古本屋発、居酒屋
行き」。第一回は綾瀬です。ゲストは遠藤哲夫さん。いつもの飲み仲間です。
 80ページ、400円。取扱書店には6月末までには並ぶ予定。現在、直販予約
受付中です、とのこと。
http://www.saketsuma.com/index.html

★『ナンダロウアヤシゲな日々』は書店で買えます
 20日付けの毎日新聞読書欄にも取り上げられた(ただし、カヴァーのこと
がホトンドで内容は一行で片付けられてましたが)、南陀楼綾繁のエッセイ集
『ナンダロウアヤシゲな日々 本の海で溺れて』(無明舎出版、1600円)は、
2000部という部数で、基本的に委託配本を絞っているため、あまり書店に並
んでないように見えますが、少なくとも以下の書店では地道に置いてくださっ
ています。

〈東京〉書肆アクセス、東京堂書店(サイン本のコーナー)、紀伊國屋書店本
店、紀伊國屋書店新宿南口店、ジュンク堂書店池袋本店(一階の新刊コーナ
ー)、リブロ池袋店(3階の出版関係コーナー)、古書現世、古書ほうろう、
古書日月堂
〈大阪〉紀伊國屋書店梅田本店
〈京都〉三月書房
〈札幌〉さっぽろ萌黄書店

 この他にも、置いてくださっている書店はあるようです。また、紀伊國屋
書店の主要支店には、1〜3冊ずつ配本されたとのこと。
 置いてやろうという書店、古書店は、地方・小出版流通センターを通じて
注文してされるか、版元の無明舎に直接ご注文ください(送料版元持ちで、
一冊からOK)。また、サイン本を置きたいというお店はご連絡ください。
地方・小経由の場合は、書肆アクセスにいったんキープして、南陀楼がサイン、
その後発送という手があります。直接注文の場合も、策を講じます。
 妙に凝ったカヴァー(折り返した上に、穴があいている)なので、破れや
すいし、もともと大量配本に向くような本ではないのですが、この本を気に
入ってくださる書店の方と読者の方を相手に、地道に売っていきたいと思い
ます。ご希望のお店には、内澤旬子のイラスト入り手書きPOPをお届けしま
す。キャッチコピーは、「この本はオンライン書店では買えません!」です。

 また、読者の方でサイン本が欲しいという方はアクセス、東京堂、古書現世
を覗いてください。遠くの方は著者からの直接購入もできます。ただ、ちょっ
と時間がかかるかもしれないので、ご了承ください。ご連絡は以下まで。
kawakami@honco.net

【イベント】
★古本バザー「book is delicious!」
 美味しい古本を集めました。ちょうちょぼっこの他、ゲートマウス、ボーケ
ンオーも出品予定です。

日時:7月3日(土)〜 7月11日(日) 
   13:00〜22:00 最終日13:00〜18:00

場所:ゲートマウスカフェ 
    06-6387-4690 吹田市千里山東 1-11-16
    阪急千里線「関大前」下車徒歩10分 
    関大正門を左すぐ

貸本喫茶ちょうちょぼっこ 
http://www.nk.rim.or.jp/~apricot/chochobocko.html

【音楽】
★「さかな」のカヴァー・アルバム
 静けさと熱さをあわせもつ不思議な音をつくるデュオ、さかなの曲を9組が
カヴァーしたアルバム「Songs Of Sakana〜いろんな場所に君をつれていきたい」
が発売されました。インディーズ事情にうといんで、ミワカタツノリ、acoustic
dub messengers、TICAなんてミュージシャンは知らなかったのですが、どれも、
さかなの曲のアウトラインをなぞるだけで終わらせず、独自の色を付け加えて
います。
 フリーボの「GYPSY」、LONESOME STRINGS featuring 朝日美穂の「LONESOME
COWBOY」、田中亜矢の「LOCOMOTION」あたりを繰り返し聴いています。
 夏以降には、さかな自身のニューアルバムも出るらしいので、楽しみ。ぼく
は行けませんが、6/27(日)には大阪・南堀江の「KNAVE」で、ぱぱぼっくすと
の対バンでライブをやるとのこと。

「Songs Of Sakana」の情報
http://www.ceres.dti.ne.jp/~donidoni/memorylab/

「さかな」のサイト
http://www.h6.dion.ne.jp/~sacana/

【雑誌】
★『虚無思想研究』18号
 久々らしい、新しい号は、冒頭に「卜部哲次郎の著作」が載っている。誰だ
ろう? と思ったら、1925年に辻潤らと『虚無思想研究』を創刊したヒト
で、「破れ笠、破れ法衣で徹底した乞食行脚を続け」たというアナキストなの
だった(寺島珠雄『南天堂』皓星社にも登場する)。その卜部と、やはり辻潤
の高弟らしい「小野庵保蔵」による「辻潤を叱る座談会」という資料も復刻さ
れていて、コレがオモシロイ。
 末尾には、『小野庵保蔵集』(藤枝文学を育てる会)という本の広告が載っ
ている。藤枝の生家の段ボール箱から、日記・未発表原稿・小説などが発見さ
れ、それをもとに編まれたアンソロジーだという。興味あるなあ。
 他に、林哲夫(最近ものすごくいろんなところに寄稿してる)「わが町の
不思議」、中野務「思案投げ首」、高木護「たのしい虚無」など。
 840円(送料200円)。地方・小出版流通センター扱い。

★「ifeel 読書風景」2004年夏号
7月13日発売予定の次号の特集は、「いまもういちどやさしく学ぶ構造主
義」。対談:内田樹×鈴木晶。エッセイ:野崎歓、樋口泰人、永江朗、須賀原
洋行、いとうせいこうとちょっと読む気にさせる面々。
ほかにトピックスコーナーにて、南陀楼綾繁インタビュー『ナンダロウアヤシ
ゲな日々』をめぐって。
税込320円。全国の紀伊國屋書店で販売。
http://www.kinokuniya.co.jp/05f/d_01/index.html

【先月読んだ本】
40冊。といっても、大半は目先の仕事から逃避するための読書。こういう読み
方をするとアタマに入りにくい。
◆長谷邦夫『漫画に愛を叫んだ男たち』清流出版◆恩田陸『木曜組曲』徳間文
庫、『象と耳鳴り』祥伝社文庫、『麦の海に沈む果実』講談社文庫、『ドミノ』
角川文庫、『MAZE』双葉文庫、『月の裏側』幻冬舎文庫、『不安な童話』新潮文
庫◆末井昭『絶対毎日スエイ日記』アートン◆山田正紀『謀殺の弾丸特急』徳
間文庫◆『たそがれ時に見つけたの 陸奥A子りぼん名作選』『こんぺい荘の
フランソワ 陸奥A子りぼん名作選』集英社文庫◆泉昌之『新さん』新潮文庫
◆ジョージ朝倉『平凡ポンチ』第1巻、小学館◆山本マサユキ『ガタピシ車で
いこう!! 迷走編』第2巻、講談社◆『山手線外廻り 上村一夫珠玉作品集
4』愛育社◆杉作J太郎『帰ってきたワイルドターキーメン』マガジン・ファ
イブ◆結城昌治『犯罪墓地』東都書房、『幻影の絆』角川小説新書、『没落』
桃源社、『まむしの家』光風社◆帚木蓬生『空の色紙』新潮文庫◆陳舜臣『望
洋の碑』徳間文庫◆桜井まちこ『H エイチ』第1、2巻、講談社◆ピーター・
バーセルミ『破産寸前の男』ハヤカワ文庫◆本多孝好『MISSING』双葉文庫◆
森雅裕『さよならは2Bの鉛筆』中公文庫◆バロン吉元『十七歳』集英社文庫
◆パトリシア・ハイスミス『妻を殺したかった男』河出文庫、『見知らぬ乗客』
角川文庫◆戸川昌子『大いなる幻影』角川文庫◆海野弘『モダン都市東京 日
本の一九二〇年代』中公文庫◆八木義徳『男の居場所』北海道新聞社◆秋月り
す『OL進化論』第21巻、講談社◆はるき悦巳『日の出食堂の青春』双葉社文
庫◆藤原明『日本の偽書』文春新書◆かわぐちかいじ『太陽の黙示録』第3、
4、5巻、小学館

ちなみに、本メルマガ連載の塩山芳明さんの4月読了リストはこちら(「コミ
ックMate」7月号より無断転載)。
30冊。「草間彌生って昔から気になってたが(横尾忠則との対談で、突然怒り
だすトコがシブかった)、詩、とてもカッコ良かった。パラノイアっぽいトコ
も魅力的。一方、結構面白いし、努力しまくった労作なのに、『装丁探索』は
始終不愉快な本だった。多分、にじみ出た著者の人格のせいだろうが、常に同
様な嫌悪感を抱かされつつもつい買っちゃう、小林信彦や冨田均ほどの面白さ
はなかった」そうです。

◆宮脇俊三『ローカルバスの終点へ』JTB◆内田朝雄『悪役の少年時代』ポプ
ラ社◆『リリー&ナンシーの小さなスナック』文藝春秋◆黒沢説子・畠中理恵
子『神保町「書肆アクセス」半畳日記』無明舎出版◆高幣真公『釜ヶ崎赤軍兵
士 若宮正則物語』彩流社◆大貫伸樹『装丁探索』平凡社◆牧逸馬『浴槽の花
嫁』現代教養文庫◆川本三郎『林芙美子の昭和』新書館◆富岡多恵子『結婚記
念日』新潮社◆池田満寿夫『窓からローマが見える』角川書店◆寺山修司『地
獄篇』思潮社◆岡崎京子『テイク・イット・イージー』ソニーマガジンズ◆唐
十郎『唐版 犬狼都市』北宋社◆窪田般彌『老梅に寄せて』書肆山田◆黒澤和
子『パパ、黒澤明』文春文庫◆赤瀬川原平『背水の陣』日経BP出版センター◆
マーク・トウェイン『地球からの手紙』彩流社◆『バルザック全集』第13巻、
東京創元社◆村野四郎『体操詩集』アオイ書房◆桂米朝『米朝ばなし』講談社
文庫◆大西巨人『五里霧』講談社◆森達也『池袋シネマ青春譜』柏書房◆岡田
隆彦『わが瞳』思潮社◆庄野潤三『庭の小さなばら』講談社◆草間彌生『かく
なる憂い』而立書房◆徳川夢声『夢声代表作品集』下巻、六興出版◆谷川俊太
郎『そのほかに』集英社◆小林信彦『定年なし 打つ手なし』朝日新聞社◆古
山高麗雄『人生、しょせん運不運』草思社◆田村隆一『陽気な世紀末』河出書
房新社

【南陀楼のお私事】
★「東京人」に短文
 7月3日発売予定の「東京人」8月号(特集・東京みやげ)で、東京で本の
おみやげを探せる場所、というエッセイを書きました。とっても漠然とした依
頼だったし、字数も短いので、神保町の靖国通り北側エリアに絞って書きまし
たが、さて。

★「モクローくん通信」17号は月の輪書林特集です。
 古書目録と古本屋をこよなく愛する南陀楼綾繁と、それを横目で見てはため
息をつく内澤旬子が贈る、世界で初めての「古書目録ファンペーパー」。
17号は「まるごと一号ツキノヴァ特集」。いつもより一枚増やして、月の輪書
林の目録の魅力を伝えます。
「sumus」展会場で配布するために13日にはできていたのですが、発送が遅れ
ています。しばしお待ちを。
 モク通は切手送付の方には定期的にお送りします。メールでお問い合わせを。
kawakami@honco.net

★メルマガ「早稲田古本村通信」連載中
 「早稲田で読む・早稲田で飲む」の14回目。今回は「ACTミニシアター」の
思い出など。購読は以下のアドレスからどうぞ。
http://www.w-furuhon.net/mail/mail.htm

★「彷書月刊」7月号(6月25日発売)
 今回は不思議な古本イベント仕掛け人のコトを書きました。

★「レモンクラブ」7月号(6月12日発売)
 今回は、長谷邦夫『漫画に愛を叫んだ男たち』(清流出版)について書きま
した。タイトルはちょっとヒドイが名著です。

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■寄稿 大正の文庫王  吉田勝栄
 まだまだ謎が残る「立川文庫」の研究を前進させるためのメモ
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【1】立川熊次郎の生涯に光を照らす 
 姫路文学館編『大正の文庫王 立川熊次郎と「立川文庫」』(平成16.4.23発
行1200円)は、平成16年4月23日から6月27日まで同館(〒670-0021姫路
市山野井町84番地)において開催されている特別展の図録である。本書の主人
公立川熊次郎は,姫路市勝原区出身で,立川文庫により後世に名を残した立川
文明堂の創業者。その生涯に光を照らした本書の功績は大きい。アカギ叢書
(赤城正藏),岩波文庫(岩波茂雄),角川文庫(角川源義)のごとく,叢書
名に自らの姓を冠する文庫本の出版者には,激しい自負と強烈な個性を有する
創業者が少なくない。立川文庫は,その最も早い例といっても過言ではない。

【2】ユニオンカタログの必要
 もっとも,本書による限り,立川文庫自体の研究はあまり進んでいないこと
が窺われる。
 例えば,立川文庫の創刊年月日は未だ確定していない。私は,かつて,足立
巻一『立川文庫の英雄たち』(中公文庫)を読んだとき,第四編『荒木又右衛
門』だけは口絵をつけた形跡がないとされていること,第四編の発行年月日が
第一編『一休禅師』(明治44.4.15発行/明治44.6.25再版の奥付の写真が本
書に掲載)よりも早い明治44.3.20発行と記載する資料が存在すること(日
本児童文学大事典3巻24頁〔二上洋一,鳥越信〕参照),叢書は必ずしも第
一編から刊行を開始するとは限らないし,類似企画に少しでも先んじるために,
出版の用意が調ったものから順次刊行することも十分に考えられることなどか
ら,第四編『荒木又右衛門』明治44.3.20刊が創刊年月日ではないかとの仮
説を立てたことがある。本書はこの点の具体的な解明に全く寄与するところが
ない。

 とりわけ,資料編の「立川文庫刊行一覧」は,先行の刊行一覧,すなわち,
足立巻一作成のものや,新島廣一郎作成「立川文庫一覧」少年小説大系別巻2
『少年講談集』p650-654所収(三一書房1995刊)等から,その形式及び重印
書からの(初印の)発行年月日の推定という手法を踏襲したことにより,利用
価値が乏しいものになっている。以下で述べるとおり,作成のコンセプト自体
を修正する必要がある。
 立川文庫の散佚が著しく,重印書の奥付頁に記載された発行年月日が往々に
して不正確であることは周知のとおりである。そして,せっかく複数の所蔵者
(ないし所蔵機関)の所蔵書を調査したのであれば,重印書の奥付表示に基づ
く不正確な推定を極力排して,調査確認した各書物の記載データを転記し,集
約するという基礎的作業に徹するべきではないか。刊行一覧は先行のものに委
ね,資料による裏付けが可能な部分と裏付けのない部分を明らかにすることに
よってはじめて,新しい資料による補充が可能になるのである。そのようにす
れば,利用者が,同一本の複数の重印書の中から,信用性の比較的高い書物を
選択的に調査することも可能になる。逆に,重印年月日こそがデータとして重
要な場合もある(例えば,昭和に入ってからの重印)。またとない機会であろ
うから,国立劇場,関西大学(『関西大学所蔵大阪文芸資料目録』参照),梅
花女子大学,同志社大学等の所蔵機関についても調査を尽くし,立川文庫の所
在総合目録(ユニオンカタログ)が作成されることを切に望む。

【3】クロス装の魅力と袖珍文庫
 出版文化史という観点から,もう一つ不満を述べておきたい。
 本書の一節に以下のような部分がある(編集実務を担当した河野雅子は,平
成16年5月20日付け日本経済新聞朝刊で,同様の記述をしている。)。

  従来の講談速記本(菊判)の小型化である「立川文庫」の発行は,既に発
 行されていた『袖珍文庫』(東京・三教書院 明治43年3月創刊)をヒント
 に考案されたという。〔中略〕ただ,「立川文庫」に先行して,大阪の「金
 正堂・文祥堂」から,明治44年1月に「講談文庫」が出版されている。旭堂
 小南陵氏は「講談文庫」こそ「立川文庫」のモデルではないかと指摘してい
 る。(p28)

 袖珍文庫は,三教書院(東京市神田区佐柄木町)から明治43年6月に刊行を
開始した文庫本である。明治44年6月ころまでは,大阪出身の鈴木種次郎(大
阪修文館鈴木常松の弟)が編輯兼発行者,山本銀次郎(和田誠の母方の祖父。
和田誠『装丁物語』197p(白水社1997刊)参照)が発行者として名を連ねて
いる。明治44年10月ころからは,東京市日本橋区数寄屋町の集文館(木田吉
太郎)が発行者となり,大正4年10月まで全81冊を刊行している(33編の
明治44年4月4日発行の「春色惠の花/梅兒譽美」が同年5月6日発売禁止と
なった。このため,改訂削除版として80編『梅暦』を大正3年7月10日発行
したが,これまた同年7月25日発売禁止となったため,後に,同じ80編とし
て『南総里見八犬伝』十編が刊行された。)。そのデザインは,四六半截判,
クロス装,表紙に銀杏の意匠を空押ししたものである。

 講談文庫(扇の意匠を空押し)にせよ,立川文庫(揚羽蝶の意匠を空押し)
にせよ,袖珍文庫のデザインを模倣していることは,一目瞭然で,これは当初
はよく売れていた袖珍文庫の直接的影響と見ていいと思う。また,袖珍文庫は,
古典を収録したといっても,為永春水著「いろは文庫」(内容は赤穂復讎の事
を潤色したもので、先づ義士の列傳の軟いものである。)に始まり,「東海道
中膝栗毛」「絵本太閤記」「南総里見八犬伝」なども収録している。
 講談文庫は,単に講談そのものを小型本に収録するという一点で立川文庫に
先行しているにすぎず,立川文庫のモデルとはいえないと思う。クロス装の魅
力を引き出し,小型本講談叢書の流行にも大きな影響を与えた袖珍文庫をもっ
と正当に評価すべきである。

 余談ながら,当時の書物用クロスは輸入に依存しており(イギリスのウィ
ンターボトム社の製品の市場占有率が高かったという。),第一次世界大戦に
よる輸入の途絶は,クロスの価格高騰を招いたというが,これがクロス装の第
一期新潮文庫(大正3-6年刊)の廃刊や立川文庫(及びその亜流文庫)の衰
亡の一因となったのではなかろうか(なお,国産クロスの商業化は,大正8年,
坂部三次の日本クロス工業株式会社(現在のダイニック),大角卯之助の京都
染再整株式会社(現在の東洋クロス)の二社が京都で創業したことに始まる。
『ダイニック80年史』等参照)。

【4】結語
 立川文庫については,資料の散佚,あるいは逆に,小説的潤色の甚だしい資
料の存在(池田蘭子の自伝的小説『女紋』等)により,改めて堅実かつ実証的
な研究を進める必要があると思われるが,本特別展の開催及び本書の刊行を契
機に,それが実現することを望む。関係者の協力により,立川熊次郎の生涯に
ついては相当程度の解明が進んだが,さらに多数の力を合わせれば,もっとも
っと先に進めるはずだと私は思う。本稿が多少なりともその一助となれば幸い
である。

〈よしだ・かつえい〉改造文庫(『ニッポン文庫大全』)、近代文庫(『ARE』
7号)、山本文庫(同誌10号)の目録を作成。そのほか、書誌、出版史を中
心に、若干の書評(『sumus』など)と文章を執筆。

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■下連雀しゃんしゃん日録   長谷川洋子(古書上々堂)
(5)加太こうじの息子さんがご来店
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★5月21日(金)晴れ
 店内をじっくりご覧になっていた中年男性が2冊本を持ってレジへ。一冊は
文庫本、もう一冊は加太こうじの絶版の本。計算していると「なんで加太こう
じのこの本は高いんですか?」とゆったりした口調で尋ねられる。
「絶版なので……」というと「そうなんですか。ぼく、息子なんですよ。」
「え?加太こうじさんの……ですか?」
「はい。ちょっと仕事でこの近くに来たものですから。ふらりと入ってみたん
ですけど。」

 こういう場合、値引きすべきなんだろ〜か? 親族価格か?
 なんだか申し訳ない気もしたがそのままのお値段で。「すいません、息子さ
んに買って頂くのに高い値段で。」など訳のわからぬ事を口走るわたし。
「いえいえ、どうもありがとうございます。」と加太さんのご子息、おだやか
に店を後にされました。こちらこそ有難うございました。

 夕方、小学生の女の子が雑誌『MOE』の山をずいぶん長い時間熱心に見てい
る。おそらく親御さんはご自分の本を選んでらっしゃって「絵本を見て待って
てね」と言われたんだろう、とさして気にも留めず作業していたら、その女の
子はやがて『MOE』を2冊胸に抱えるようにしてレジへ。真剣な表情だ。「おね
がいします」とひとこと。
「2冊で730円です」
というと1000円札を出し、260円のおつりをちゃんと数えてかわいいビニー
ルのコインケースに。

 一連の出来事があまりにも、真剣で愛おしいので、「何年生ですか?」と聞
いてしまった。
「5年生です」
「ひとりできたんですか?」
「はい」
「猫が好きなんですか?(ダヤンの特集を2冊買ってくれたので)」
「『ダヤン』の本やグッズを集めてるんです」
と、ここで少し緊張がほぐれた感じで新宿に『ダヤン』ショップがあることや
ダヤンカップも持っていることなど嬉しそうに話してくれる。

 私が5年生の頃、本屋にひとりで本選びに入ったことなんて皆無、考えられ
なかったが最近は違うのだ。しっかりした子である。
 この女の子、この日以降、二回ばかりお小遣いを持って『ダヤン』の本など
買いに来てくれているが、私にも同い年の娘があるのでついつい心配になって
「何度も来てお買い物するとお小遣いがなくなりませんか? 大丈夫ですか?」
とおせっかい。
「大丈夫です。家で仕事をするとお小遣いがもらえるんです」

 ああ、こんな小さな子も自分で稼いだ貴重なお金を「上々堂」で使ってくれ
ているのだ。胸がキュンとした。
 子供も大人も一人で気軽に入れて、ゆっくり気持ちよく本を見られる、気取
りのないそんな店にしよう。

 岡崎(武志)さんが「岡崎堂」本補充と先月分の売り上げ金を受け取りにみ
える。今回はうちの売り上げをごっそり岡崎堂に持って行かれた感じなのです。
ホンマ。詳細は彷書月刊のHPに連載中「均一小僧」の日記をご覧あれ。
http://www3.tky.3web.ne.jp/~honnoumi/frame.okadiary04.5.htm

 棚の補充後、例によって風のように店を出て行かれる岡崎さん。その数時間
後、補充したばかりの片山恭一『雨の日のイルカたちは』が早速売れる。だっ
て安いもの(600円なり)。

 店内で貸し棚「ハルミンの小部屋」に本を置いてくださっている浅生ハルミ
ンさんと、「岡崎堂」の値付けを見て。
「価格破壊、ですな」

 この夜、「ハルミンの小部屋」の本、『海いろの部屋』(今江祥智/宇野亜
喜良)を棚からおろし「これずっと探していて。子供のころ読んでとても心に
残っていて、ええ、是非みんなに読んで欲しい本なんですよ。」と横浜からの
お客さんが感激の面持ちでひとしきり話して帰られた。片岡義男の小説に出て
きそう な女の私が見てもホレボレするようなイカシタ30代の女性。

 古本屋ってなんだろう。上々堂ってなんだろう? と考えた一日。
 古本の売買だけじゃないなあ。お客さんの人生模様、人間模様、が幾重にも
重なって初めて店に血が通って温かくなる。

★6月1日(火)雨のち曇り
 水無月。開店早々、安野光雅の画集や赤羽末吉の絵本、子供の本に関する様
々な単行本をまとめてお買い上げのお客さま有り。月初め、幸先よいではない
か。 上々堂らしい本がこのようにじっくり選ばれ、店を旅立って行くのを見
るのは気分が良い。
 丁寧に仕事をすればお客さんの反応はそれなりに、しなければガツンと返っ
てくる。わかっているはずなのに。古本屋店主初心者の私は丁寧にすることく
らいしかないのに、ああ、それなのにそれなのに手抜きをしようとする(こと
もある)。自戒せよ、です。お金を頂戴している以上は初心者もベテランもな
いわけだし。改めて、丁寧に、行こう。

 ハルミンさんが貸し棚「ハルミンの小部屋」の本の補充に来店。『それいゆ』
2冊補充! 先だっても『それいゆ』を当店の「ハルミンの小部屋」でお買い
上げくださったお客さんがあり、こんなエピソードが。
 お買い上げの方はまだ若い女性。その方のお母様が『それいゆ』を何冊も集
めていらっしゃったのですが、あの“伊勢湾台風”で全部流されてしまい、以
来、どこかで見つけるたびに母子で集め直している、とのこと。
(う〜ん、考えさせられる。私の親不孝がここで改めて浮き彫りに)
 ハルミンさんもこの話を覚えていて下さって、又、その方がいらっしゃるか
もしれないから。と。面出ししてお待ちしています。

★6月9日(水)曇り時々雨
 朝、いつもの紳士から枇杷の実がついた枝を2本頂き、紫陽花といっしょに
花瓶に生ける。ああ、梅雨の色だなあ、としばらく眺める。

 さて、本日は定番の絵本作家のものを更に入荷。『しょうぼうじどうしゃじ
ぷた』や『もりのなか』『エルマー』シリーズ、林明子『いってらっしゃーい
いってきまーす』、安野光雅『ふしぎなきかい』などなど。他にもバーニンガ
ムやマックロスキー。今、絵本の棚はなかなか楽しく、又、ちょっと考えさせ
る内容の物が並んでいる。店頭に出す前にクリーニングしながら絵本を読むの
は至福の時。

 週末に向けてこれでまた、お客さまに絵本を楽しんで手に取って頂けるな、と。

 夕方から雨。
 もうすぐ6月19日「桜桃忌」。太宰治の熱心な読者は禅林寺から「古本カ
フェ:フォスフォレッセンス」へと足を運ぶ事でしょう。上々堂にも立ち寄っ
てくださると嬉しいなあ。

池水は濁りににごり藤波の
影もうつらず雨降りしきる

*古書上々堂 〒181-0013 三鷹市下連雀4-17-5 
TEL 0422-46-2393

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■今月ハマったアート本  平林享子
(14)今は『冬ソナ』しか見えない!
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『「冬のソナタ」で始める韓国語〜シナリオ対訳集〜』翻訳:安岡明子、キネ
マ旬報社、2003年11月刊、1995円

 すいません、今回はアート本ではないんですけど、いや、あのですね、ハマ
ッたアート本もあったんですよ、都築響一さんの本いろいろ(『珍世界紀行 
ヨーロッパ編』筑摩書房とか、『IMAGE CLUB』アムズ・アーツ・プレス)とか、
北欧関係の本(織田憲嗣『ハンス・ウェグナーの椅子100』平凡社とか、鈴木
緑『北欧 デザインと美食に出会う旅』東京書籍)とか。

 でもでも、とにかく今ハマっているといったら、なんといっても『冬のソナ
タ』なもので(あまりにもベタで恐縮ですが)。次週の放映を待ちきれずDVDセ
ットを買って1ヶ月、毎日毎日繰り返し見てるのに、まったく飽きる気配なし。
何度見ても号泣。寝ても覚めても『冬ソナ』。最終回まで見るとまた第1回か
ら見たくなるエンドレス・リピート状態。ハマッてるどころではなく、完全に
出てこれなくなっています。韓国発「命の水」は、砂漠のような私の心にいく
らでもしみ込んでいきます。しだいに「コマウォヨ」「ミアネヨ」といった言
葉がどんどん耳に残っていき、チュンサンとユジンが話している言葉を理解し
たい! オリジナルのシナリオを読みたい!

 そんな思いが募って買ってしまったのが、『「冬のソナタ」で始める韓国語
〜シナリオ対訳集〜』です。まったくもって呆れるほどに、まんまと誰かの思
うツボにハマッています。

 『冬ソナ』はきれいな映像も、ペ・ヨンジュン&チェ・ジウの演技も素晴ら
しいけど、セリフがまたいいんですよねぇ(『冬ソナ』が嫌いな人は、このセ
リフの臭さがダメだと言いますが)。ユン・ウンギョンとキム・ウニという女
性ふたりの脚本家は、ホントによくわかってらっしゃる。

 『冬ソナ』ファンの皆さんはすでによくご存じでしょうが、この本は、ハン
グルで書かれたオリジナルの台本(すべて収録されているわけではなく、チュ
ンサンとユジンの場面が中心)に、日本語の逐語訳がついたもの。ハングルに
はカタカナでルビが振ってあるので、チュンサンとユジンの名セリフの数々を
今すぐ復唱できます! 好きなフレーズを何度も繰り返し、ますます陶酔の世
界へ。逐語訳を読むと、「このセリフ、実はそういう意味だったのか」と、意
訳された字幕や吹き替えでは、いまいちわからなかった意味や、微妙なニュア
ンスもわかって、ああ楽しい! 

 こんなにドラマにハマッたのは初めて(チョウム! あ、すいません、『冬
ソナ』のキーワードなもので、つい)ですが、考えてみたら、今から30年前、
『キャンディ・キャンディ』にハマッていた小学生の頃と心理状態は同じ。ア
ンソニーとテリィが、チュンサンとミニョンってことですかね。あと、ペ・ヨ
ンジュンを見て思うのは、「岩館真理子先生の漫画に出てくる男の人みたい!」
ってこと。DVDに収録されたインタビューでユン・ソクホ監督も、ペ・ヨン
ジュンの魅力を「少女漫画に出てくる理想の王子様みたいな雰囲気がある」と
言ってますが、監督ったらほんとに女心のツボをよく心得てらっしゃいます
わ〜。あ、『韓国TVドラマVol.2』(共同通信社)という本を見ると、マ
ルシアンの次長役でいい味を出していたクォン・ヘヒョがインタビューでズバ
リそのことを語っているではないですか。以前、韓国で『キャンディ・キャン
ディ』のアニメがヒットしたけど、そのキャラと似てるって! そう、『冬ソ
ナ』は理想の少女漫画の見事なまでの実写版。今宵もまた、このシナリオ対訳
集を手に、『冬ソナ』の世界にどっぷり浸ります。

〈ひらばやし・きょうこ〉
「本屋さんの仕事」講座&「アートの仕事」講座@池袋コミカレの後期受講の
申し込みを受付中です。
「本屋さんの仕事」講座 7月24日:杉並北尾堂・北尾トロさん×古書日月
堂・佐藤真砂さん、8月28日:恵文社一乗寺店店長・堀部篤史さん
「アートの仕事」講座 7月10日:グルーヴィジョンズ・伊藤弘さん(グラ
フィック・デザイナー)×MOTOKOさん(写真家)、8月21日:八谷和彦さん
(メディア・アーティスト)×小谷元彦さん(アーティスト) 
詳細はこちらをご覧ください。
http://www.cloverbooks.com/new/new01.html

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■もっと知りたい異文化の本  内澤旬子
(19)マジメに愉しく学べる沖縄の山羊文化
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平川宗隆編著『山羊の出番だ』沖縄山羊文化振興会(098-857-0685)、1522円 

今回ご紹介するのは、いわば自主研究の報告書です。研究機関は沖縄山羊文
化振興会。地域振興助成事業からの助成金を受けてできた本のタイトルは、
『山羊の出番だ』。
会員たちの共著というスタイルをとっていますが、過半数を平川宗隆さん
が執筆しています。この方、昨年ボーダーインクから、『沖縄山羊文化誌』と
いう本を上梓されとります。書肆アクセスの畠中理恵子さんが「書評のメルマ
ガ」で紹介されています。この本を片手に山羊の睾丸の刺身を食いに那覇に飛
んだウチザワであります。

 日本国内で、山羊を食べる習慣がある地域は沖縄だけです。臭みがあるとか、
繁殖力が弱いとか、いろいろな要因があって、本土ではあんまり山羊の飼育は
盛んにならなかったのであります。
 しかし、ひとたび沖縄に行けば、家を建てるときや、サトウキビの取り入れ
に働く人をねぎらったりするときには、家の山羊をつぶして山羊汁を振舞うの
が習慣になっております。山羊汁がでるっていうと、会社を休んででも駆けつ
ける男子がたくさんいるそうなんです。

 で、そんな沖縄の誇る山羊食文化を見直そうと、立ち上がったのが平川さん。
今回の本では、世界の山羊料理を紹介し、世界の山羊料理屋台村や、山羊の博
物館構想をぶちあげています。
 また、若者の山羊肉離れを憂い、料理研究家を巻き込んで、食べやすいレシ
ピを開発したり、山羊を使ったアニマルセラピー、闘山羊、山羊乳の商品化、
糞の利用の可能性などなどなど、ともかく山羊でできることのすべてを検討。

 後半では近年の沖縄の新聞記事から山羊に関するものをスクラップ。これが
また沖縄と山羊の関係の深さを捉えていておもしろい。
 沖縄の山羊を巡る状況は、楽しいことばかりではない。羊スクレイピーとい
う、BSEに類似した病気の存在が明かになり、国内でBSE牛が見つかって以
来、内臓の一部と頭部の食用が禁止され(草しか食べさせていない山羊も多い
だろうに)、山羊食を恐れる人がでたり、屠場の設備基準がもうけられて、県
内たった一箇所でしか屠畜できなくなったりと、山羊食堂や山羊農家にとって、
厳しい日々が続いている。

 獣医師であり、屠場の衛生検査員経験をも持つ平川さんは、なんとかそんな
状況を打破しようという意味も含めて山羊食を盛り立てようとしているわけな
のだ。だけど、なんとゆうか、人柄なのか、とっても楽しそうな本に仕上がっ
ているのがすばらしい。そう、こういうことは、楽しくやらなければ。
ちなみにご本人は山羊料理が苦手なんだとか。聞いてびっくりずっこけまし
た。真面目なのにとぼけたお方なんです。
 表紙の山羊の写真も、相当ボケてていい味だしてます。『沖縄山羊文化誌』
と二冊揃えれば、あなたも立派な沖縄山羊通になれます。

〈うちざわ・じゅんこ〉イラストルポライター。月刊「部落解放」で、世界の
屠場事情を取材するイラストルポを連載中。

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■渡辺洋が選ぶこの一冊
(14)たまには書評を休みたい
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−−今、何読んでるんですか?
−−ドストエフスキーさんの『悪霊』ですが、新潮文庫上下本、全3部合計1100
ページのやっと3分の1くらい(5/20現在)、19世紀ロシアの青年群像という
舞台設定がやっと終わって、これから物語が動きだすかなというところです。
−−ま、まさか、今まで読んでいなかったんじゃ?
−−ええ実は。大学生の時に『罪と罰』『白痴』『地下室の手記』くらいは読
んでたんですが、その後はつい最近まで新しいものの追っかけで忙しくて、
『カラマーゾフの兄弟』もやっと去年読みました。
 その他にも、つい出来心で買ってしまった埴谷雄高さんの『死霊』(講談社
文芸文庫全3巻合計1200ページ)とか、古本で入手した鶴見俊輔さんと中川
六平さん編の『天皇百話』(ちくま文庫上下巻合計1500ページちょっと)や
石牟礼道子さんの『アニマの鳥』(筑摩書房、四六判ハードカバー500ページ
ちょっと、本が重い)といったあたりが、手付かずのままで、何かタイミング
よく取り上げられる本が見つかりません。ま、今回は雑談です。

−−でも、『悪霊』の前はそこそこ最近の本も読んでたじゃないですか。
−−そうですねえ、文藝別冊『〈総特集〉田中小実昌』(河出書房新社、この
メルマガの担当者、南陀楼綾繁さんの写真が載ってます!!)とか読みました
けど、何か小実昌さんについて自分で何か言えるほどまだ知らないと思うし、
小熊英二さんと上野陽子さんが「新しい歴史教科書をつくる会」を取材・分析
した『〈癒し〉のナショナリズム--草の根保守運動の実証研究』(慶應義塾大
学出版会)とか、鶴見俊輔さんに上野千鶴子さんと小熊さんが聞く『戦争が
遺したもの』(新曜社、小熊さんと鶴見さんのちょっときつい吉本隆明さん批
判が笑える?)とかも読んだんですが。
−−あ、その辺、ネタっぽいじゃないですか。
−−でもね、この2冊は著者も関係者も頑張ったと思うし、いい本だと思うけ
ど、それについて自分が何か言えるかどうかはちょっと寒い気もするんですよね。

−−そのココロは?
−−うーん、たとえば「新しい歴史教科書をつくる会」を取材・分析した『〈癒
し〉のナショナリズム--草の根保守運動の実証研究』を読んで、自分に確信を
持てない普通の人々の辿りついた「右翼」的運動なのかと思っても、その先に
行けない。
−−どうしてですか?
−−彼らの関係の掲示板とかを見ていると、それなりの高揚感があるんですね。
今はその流れが、日本の「自虐的でない」教科書作りから、たとえば男女別姓
やジェンダー・フリーといったリベラルな動きへの批判・つぶすための陳情、
入試の歴史関係の問題のチェックと大学入試センターなどへの「自虐」問題を
なくすための申し入れとか、イラクで人質になった人々への揶揄といった方向
へシフトしているようなんですけど、その語り方が結構勢いがあるなと感じる
んです。
 たとえば「ジェンダー・フリーを言う超フェミニストたちの醜悪なメンバー
を見て侮蔑せよ」といった感じの文章を見ると、ひと昔前の「左翼」(彼らの
最近の言い方では「サヨ」)の文体が今の「ウヨ」(?)に引き継がれて逆向
きに力を発揮している、先細りの「左翼」を既成の権力と見なして昔の学生運
動のように突き上げていると思うし、「携帯電話やゲーム機の普及などで、個々
人がさらにばらばらになっていく日本に、家族や人のつながりを回復するため
には、憲法の改正といった取り組みだけではだめで、子孫にもっと人間的な環
境を残すための突っ込んだ取り組みが必要だ」なんて理路整然と書かれてしま
うと、なまじっかなポリティカルな物言いでは相手できないという気がするん
です。
 『戦争が遺したもの』についても、鶴見さんの知識と行動の歴史がすごすぎ
ちゃってね、家と会社を往復してあとは本を読むだけという人間からは何も言
えない何かするまではという気がしてしまう。

−−何か、落ち込んでます?
−−落ち込んでるというか、自分の足元から考え直したいなという気分ですね。
本を読むにしても、いつのまにか情報を消費するだけになってしまっているん
じゃないかとか。ぱっと物が読めてしまう、言えてしまう、でもそれで終わり、
という立ち位置からちょっと身を離したいというか。それも難しいと思うけれ
ど、最近はそんな感じです。

〈わたなべ・ひろし〉
詩人・編集者。辞書編集の多点同時進行で情報の洪水のなかを泳ぎ回り、契
約書と請求書と予算の見直しに追われる日々。
http://www.catnet.ne.jp/f451/

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■全著快読 古山高麗雄を読む  荻原魚雷
(18)古山高麗雄ベスト・セレクション
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『新鋭作家叢書 古山高麗雄集』(河出書房新社) 1972年7月刊
『二十三の戦争短編小説』(文春文庫) 2004年3月刊/単行本は2001年5月、
文藝春秋

 今回の『古山高麗雄集』と『二十三の戦争短編小説』は、レコードでいえば、
ベスト盤のような作品集。二冊あわせて三十三作品中、ダブっているのは、「墓
地で」「白い田圃」「プレオー8の夜明け」「蟻の自由」の四作。

 『古山高麗雄集』のほうは、前記の四作以外は、「ボートのある団地」「サ
チ住むと人の言う」「トンキとビビアン・又は馬の恋」「三ちゃんや三ちゃんや」
「ジョーカーをつけてワンペアー」など、ユーモア小説やサラリーマンものの
短篇を中心に収録されている。
 このベスト本の中のそれぞれわたしのベストをあげるならば、『二十三の戦
争短編小説』では「日常」(『セミの追憶』新潮社にも所収)である。

「朝起きて、昼寝して、宵寝をして、深夜あるいは明方にまた寝たりすること
がある。朝酒を飲んで、一寝入りして、また酒を飲んで、また一寝入りする。
そういう日もある」

 すばらしい! わたしはこういう文章に弱いのだ。
 この作品は、林君(同人誌に何年間に一作というゆっくりしたペースで短篇
小説を書いている)という学生時代の旧友とのほそぼそと続いている友情を描
いた小説である。たいしたことはなにも書いていないのだけど、読んでいて
たまらなく気持がいい。名人芸である。
            *
 『古山高麗雄集』のほうは、「ジョーカーをつけてワンペアー」(『湯たん
ぽにビールを入れて』講談社文庫にも所収)がいちばん好きだ。
 主人公は、校正の外注、都庁のパンフレットの割付、自伝の代筆、ルポルタ
ージュ……いわゆるなんでもやるフリーの出版人。彼はトランプのジョーカー
から、花札のアメ、つまり小野道風の「柳に蛙」の絵を連想する。

「私には自分が、間もなく墜落すると決まっているのに、僅かな時間だけ、柳
の枝にとりすがっている蛙に似ているという意識があるのかもしれない、と思
った。私が似ている? 私の暮らしが似ている?(中略)私にとって何が柳
の枝から言えば、普通の生活を持続すること、ということになるのだろうか?」

 古山さんは河出書房が倒産した後、フリーライターをしていた時期(三十代
前半か)がある。そのときの体験が元になっている小説なのだろう。この短篇
を読むと、自分のこと、同業の知人のことが頭に浮かぶ。ホントに他人事とは
思えない小説である。

〈おぎはら・ぎょらい〉
今、引っ越しの最中。歩いて1分弱の近所への移動なので台車で荷物を運んで
いたのだけど挫折。生まれてはじめて引っ越し業者に頼むことにしました。

-------------------------------------------------------------------
■あとがき
--------------------------------------------------------------------
 先週から、「声が出ない」という生まれて初めての事態に直面し、ちょっと
うろたえています。ヒトに会うときは筆談交じりだし、店で何か注文するとき
も一苦労。しかも、その姿がどこか滑稽な印象を受けるらしく、笑われてしま
うのも本人からするとオモシロくない。声帯の炎症らしいというので、抗生物
質を飲みはじめていて、いまはかすれ声なら出るようになったけど。
 以前は、もしも目や耳が機能しなくなったら、自分の行き方を根本的に変え
ざるを得ないだろうなあと、思っていたのだが、口がきけないというコトも、
同じように人間を変えてしまうのだ、とアタリマエのことを感じている。
 そんなこんなで、編集を担当して以来はじめて、大幅に発行が遅れてしまい
ました。ごめんなさい。
                          (南陀楼綾繁)
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| memo | 2007/06/21 5:57 PM |
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