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[書評]のメルマガ vol.180
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■■ [書評]のメルマガ     2004.9.15 発行

■           vol.180 
■■  mailmagazine of book reviews  [ ようやく秋の気配 号]
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。
★「下連雀しゃんしゃん日録」長谷川洋子
 →巷で話題の古本屋「上々堂」の女店主が綴る細腕太腹繁盛記。
★新連載「〈畸人研究〉今柊二の読書スジ」
 →畸人を追って10年になる今さんに、ステキな本を紹介してもらいます。
★「古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧」高野ひろし
 →今回は紙芝居作者だった加太こうじが書いた定評ある一冊をご紹介。
★「オヤツのオトモ」大橋あかね
 →アマいオヤツにゃ本が合う。本邦初の「食い合わせ」書評なのです。
★「渡辺洋が選ぶこの一冊」
 →話題作『最後の場所で』(新潮社)に続くチャンネ・リーの新作。
★「全著快読 古山高麗雄を読む」荻原魚雷
 →没後二年になる芥川賞作家の残した約50冊を丹念に読んでいきます。

*本文中の価格は、すべて税抜き(本体)価格です。

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■南陀楼綾繁のホンのメド  おかわり
 前号で紹介しきれなかったネタを落ち穂拾いしておきます。
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★千駄木に古本喫茶
 最近、「千代田線に古本帝国を!」と一人で力んでる南陀楼ですが(近々出
る『「彷書月刊」』10月号、毎日ムック『古本 神田神保町ガイド2004』〔仮
題〕でも、そのコトを書いております)、瓢箪からコマというか、8月のオヨ
ヨ書林開店に引き続き、同じく千駄木に古本喫茶ができました(往来堂書店の
スグ近く)。
 其の名は、「ふるほん結構人・ミルクホール」。結構人とは聞きなれない名
前ですが、好人物・お人よしという意味。「結構人」というオンライン古書店
(これ自体はじめて知った)をやっていた方が、開いた店だそうで、8月末か
ら営業しています。
 さっそく、ヨメが覗きに行ったら、たしかに古本がたくさん置いてあり、買
うこともできるし、コーヒーを飲みながらその場で読むこともできるそうです。
コーヒーはかなり本格的な煎れ方で安くてウマイと申しておりました。ぼくも
近々覗いてみるツモリです。

11:00〜19:00(ラストオーダー) 水曜日定休
〒113-0022 東京都文京区千駄木2-48-16
http://kekkojin.heya.jp/

★古本屋になるには−1日講座
 10月4日が「古書の日」だって、知ってました? この日に、東京都古書籍
商業協同組合が主催して、東京古書会館で「古本屋になるには」という講座が
開かれます。現役古書店主を講師に、古書業界の現状、仕入れルート・販売ル
ート、組合加入に際しての手続き古本屋独立=成功する人・失敗する人、など
についてのレクチャーがあります。わずか二時間ですが、なにしろ受講料無料
だし、古本屋ってどんな商売なのか興味があるヒトは受けてみてはいかが?
日時:10月4日(月) 午後2時〜4時
会場:東京古書会館 2階情報コーナー
申込方法:葉書に住所・氏名・年齢・連絡先お電話番号をお書き添えの上、お
申し込み下さい。E-mailでのお申し込みも同様。9月30日必着。当日受付もあ
りますが、人数多数の際には入場できない場合・立ち見の場合も考えられます
ので、ご了承ください。
申込先:〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-22
東京都古書籍商業協同組合 広報課 古書の日係
E-mail info@kosho.or.jp

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■下連雀しゃんしゃん日録   長谷川洋子(古書上々堂)
(7)懐かしい故郷の人との出会いにイライラが消えていった
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★8月14日(土)晴れ
 大阪時代の知人マンマンデー来。開店以来三度目。青春18切符で大阪から来
てくれたのだ。東京のカフェギャラリー事情で盛り上がる。『アートと喫茶』
を貰う。ふと上々堂店内を見回すとちょっとした展示スペースはあちこちに。
上々堂でも貸しギャラリースペースを設けて、物作りをしている人たちとの交
流もできると面白いかもなあ。
 マンマンデーは母親に土産、と言って近代映画社から出ている『写真で見る
外国映画の100年』をお買い上げ。有り難う。因みに、マンマンデーはカフェ
マニアの間では師匠と仰がれている人物。自称、トニー・レオン似らしい。

 お盆で、おじいちゃん、おばあちゃんが遊びに来ている孫に、ということか、
絵本がよく出た一日。『戦争の作り方』『ぞうのババール』『トラのバターの
パンケーキ ババジくんのおはなし 』『ファーブル昆虫記』『いたずらきか
んしゃちゅうちゅう』『ころころ』『ぐりとぐら』『かしこいビル』『チムと
ゆうかんなせんちょうさん』『だるまちゃんとてんぐちゃん』など。
 絵本がよく出る日は他の本もいい感じ。でも、頻繁にはないんだよねえ、
こういうことは。

★8月15日(日)雨
 ほら、恐れていた通り。雨の日曜日。まったくダメな日曜日。でも、読んで
欲しい本が売れて行ったからよしとしよう。室伏高信『戦争私書』、林唯一
『爆下を描く』など。今日も『戦争の作り方』が出た。
 
★8月16日(月)天気つけ忘れ
 夜、中央通りに6月にオープンした「リトルスターレストラン」のスタッフ
二人来。丁寧な料理と雰囲気のいい空間が評判のお店。近々、上々堂で近隣の
お散歩マップを製作するのだがそれに「リトルスター」さんも紹介させて下さ
いね、と先日店に伺ったら律儀にも今度は若い二人が訪ねて来てくれたと言う
訳だ。
「思い切って店は三日間休みました。今日が休みの最終日」
そう。私のように細々とやっているタイプはなかなか休もう、という気にな
れない。リフレッシュしないといいアイデアも出てこない、というのはこの数
ヶ月で身を以て経験してわかっている。う〜む。
 リトルスターさんは安部公房など6〜7冊まとめてお買い上げ、有難うござ
います。今度ゆっくり休めたら、リトルさんの美味しい料理食べにいきたいも
のです。

★8月20日(金)晴れ
 カタカタとミュールで床を鳴らす音。見ると髪の長い美女。意外にもきさく
な様子で「こんな本ばっかり買って恥ずかしいんですけど、友だちが皆ダイエ
ットしてて、わたしもしないと取り残されるような気がして」と聞きもしない
のに話してくれた。貴女がダイエット??というスタイル抜群の彼女。手には
5冊もの様々なダイエット本。いずれも店の外の一番前に出して、通りがかり
の女性の気を惹こうとしていた本ばかり。アコギやなあ。それにしても、こん
ないい子をひっかけるなんて、私。
 
 夕方、イラストレーターのハルミンさん、西村さん、東京書房さん、立石書
店さん、揃って来店。皆古本屋の関係者ばかり。棚を見られると裸を見られて
るような気分。誰とは言わないけれど、このうちの或る人物曰く「動かない本
はもっと値上げするんですよ」。間、髪を入れず、ハルミンさんが「賛成! 私
もそうします」。えっ、え〜、みんな、強気だわ。

★8月21日(土)晴れ
 三鷹にも阿波踊りがあるのだ。今日は祭り。親子連れなど多く、絵本が動い
た一日。林明子の『こんとあき』が売れるたびにレジでお客さんに「この絵本
にでてくる“さきゅうまち”私の故郷鳥取のことで“こん”をおふろにいれて
くれるあのおばあちゃんも鳥取のいらしたおばあちゃんがモデルだということ
ですよ。」と言いたくなってしまう。
 私の友人の麗ちゃんは、あの絵本を見て、そっくりの“こん”のぬいぐるみ
を作った手芸の達人。“こん”は今、彼女の愛娘の友達。絵本からのこういう
温かい広がりが嬉しい。

★8月25日(水)くもり
 河上(南陀楼綾繁)氏からメールで嬉しい知らせ。詳しくは、次回の上々堂
日録でお知らせします。「古書モクロー」のこと、とだけ、今は。お楽しみに!

★9月2日(木)くもり
 開店準備中に店に入って来られることがしばしばある。シャッターを開けて
からの準備には一時間はかかる。一応店内の灯りは消して「準備中」の札はか
けているけど、ドアを開け、外に本を並べたりしていると営業してると勘違い
されるのか、まだ、ごちゃごちゃの店内も「古本屋はこんなもん」という認識
なのかずんずん中に入っていってしまわれる。店の中は暗いし足下には外に出
すための本が積み上げてあるにもかかわらず、である。そんな時、低血圧(88
ー50)の私は相当不機嫌になってしまうのだ。でも文句は言えないしニッコリ
「すみません、まだ準備中なので」というと「え、そうだったんですか」相棒
に言わせるとその時の私の表情は相当険しいそうだけど、私は精一杯笑ってる
つもり。心広く、どうぞお待ちしていましたよ、と言うべきなんだろうが……。
 また、この日もそんなお客さまが。しかし、開店時間ぎりぎりにもかかわら
ず、電話やら店買いの対応やらで思うように準備がはかどらない。その上、並
べている端からじっくり背表紙を眺められると……。その視線を感じながら、
私は、早期の更年期障害の症状が出たかのようにイライラと店開けをしていた
のであった。

「さっきまだ準備中だったから、先に禅林寺に行って時間つぶしてきたんだけ
ど」と理知的なその年配の女性。私は開店時間も迫っている事だし、と、中に
どうぞと。「鴎外関係の本はどこにありますか?」と聞かれ「こちらに」と案
内してふたたび外へ。しばらくたって一応店の前が整い、レジカウンターに戻
ってくると件の女性が二冊の本を手に「すみませんねえ、準備中の忙しい時に」
と鴎外と漱石に関する本をお買い上げ。
「今は根津に住んでてね、「鴎外を読む会」に入っているんです。で、今日は
三鷹で鴎外のお墓参り。」
 私も丁度鴎外の『雁』を読み直し、学生時分にはわからなかったことがこの
年齢になるとすっと理解できるということがあるんだな、と思ったり、鴎外の
妻「志げ」の有り様や評判、評価に興味を持っていたところだったのでさっき
までのイライラはどこへやら、会話が弾んでしまう。
 会話が進むうちに同郷であることが判明。しかも同じ中学校! もちろん彼
女のほうが20年以上先輩ではあったのだけど。お互い懐かしさで一杯になり、
まだまだ話は盛り上がりそうだったのだけれど、次のお客さんが見えたところ
で、彼女は「又来るわね。頑張って」とバッグから『谷根千』を一冊取り出す
と、「差し上げるわ」と言って軽やかに、風のように去っていった。

 それから2、3日後、彼女から封書が届いた。
「鴎外と漱石〜書簡から見た明治の二大文豪の交流〜」という鴎外記念館での
企画展の案内が同封されていた。一筆箋には達者な万年筆の文字。
「〜中学校を卒業したのは昭和30年。東京に暮してもう50年近くになります
から、ほんとにムカシムカシになりました。谷根千にお越しの際はお声を。お
茶ぐらいでしたら喫茶店の「乱歩」あたりでごちそうさせて下さい。夏の疲れ
が出ませんように。お元気で」
 彼女のように年を重ねて尚、軽やかに、知的に生きていきたいものだ。イラ
イラを人に感じさせるようじゃ、まだ尻が青いネ、ハセガワ。

★9月13日(月)晴れ
夕方、岡崎武志さんご来店。岡崎堂の本を補充にいらしたのだ。なにしろお
客さんの絶対数が減っているので、せっかくの岡崎堂の本も次々に旅立って行
く、というわけにはいかず、マメに入れ替え、補充に来て下さるのが何だか申
し訳ない。
今、三鷹の上々堂店内の「岡崎堂」は150冊以上の充実の品揃え!又、浅
生ハルミンさんの古書コーナー「ハルミンの小部屋」も妖しい品揃えで魅惑の
棚なのだ!! 中央線古本屋巡りの際には是非、いらして下さい。勿論上々堂の
棚も見てね。

*古書上々堂 〒181-0013 三鷹市下連雀4-17-5 
TEL 0422-46-2393

【お知らせ】
ビレッジプレスの雑誌『雲遊天下』最新号に、長谷川さんのエッセイが掲載さ
れています。題して、「二度目の仕事は古本屋」。ぜひご覧ください。

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■新連載 〈畸人研究〉今柊二の読書スジ
(2)親子二代のデューン世界に首ったけ
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さる縁があって、神奈川のある私学の男子中高で土曜講座をやっている。こ
の学校では、授業は月〜金で、土曜は自分の好きな講座をとれる。で、私の講
座のテーマは「アニメの背景となった映画とマンガ」(笑)。講座の最初は「マ
ンガで読む風の谷のナウシカ」で、映画版とマンガ版がどう違うかを力説。あ
っけにとられる生徒たち。

2回目は「ナウシカに影響を与えた映画」で、『DUNE/砂の惑星』を紹
介。最初は「ハリーポッター見せて」とか叫んでいた生徒諸君も、奇怪な遥か
未来の恒星間帝国の話と、リンチ監督独特のグロい映像解説が展開されていく
につれて、シーンと静まりかえる。さらに「ナウシカとDUNEのメッセージ
の違い」やら「王蟲とサンドウォームの相似性」などを語りつつ、感想を聞く
と、「映画の面白さは特撮ではないのですね」とすごく的を得た答えが返って
きたのでうれしかった。そして生徒たちに「原作はとても長いよ」と語ったと
ころ、自分でも原作を再び読みたくなった。ただ、昔は世界観についていけず、
『砂の惑星』(ハヤカワ文庫。以下同)の一巻目で挫折していた。

 そこで学校から帰る途中、BOOKOFFによると、なんと『デューンへの
道 公家(ハウス)アトレイデ』という新シリーズがあるではないか! 『砂
の惑星』の前史にあたり、ポウル・アトレイデの父レトの活躍する話らしく、
なんと作者のフランク・ハーバードの息子のブライアンが書いている! 親父
が残した「デューン」世界を息子が補足し、発展させているのだ。とりあえず
1と2があったので買って読み始めると、とてもオモシロイ! 

思考機械とされるコンピュータが宇宙中から排除され、人間自身が進化する
ことを目指したり、恒星間移動は宇宙協会というギルドが牛耳り、そのギルド
の航宙士が「宇宙を折り曲げて」宇宙旅行を可能としている。それで航宙士が
その能力を発揮するには、DUNEで産出するスパイス・メランジを服用しな
ければならないため、砂の惑星DUNEが政争の中心地となっているというの
がそもそものデューンの世界だ。前史の「デューンへの道」では、機械惑星イ
ックスをのっとり、その施設を使い合成メランジを作ろうとするよこしまなト
ライラックスと皇帝の策謀、やはり気持ちよいほど悪いハルコンネン家の行動
などが入り乱れて、豊潤なデューン世界を形成している。

 親父が記した「砂の惑星」シリーズよりも明らかに読みやすく、世界に入り
やすい。「いやあ面白いなあ」といいつつ、一気に読んだら3巻もあるという
ことで、2巻を読み終えた翌日今度は恵比寿の有隣堂ですぐ購入。これも2日
で読了。興奮のままカバーの折り返しを見ると、続編のハルコンネン編が3巻
とコリノ編が2巻出ている! 読みたい気持ちを押さえることはできず、ほと
んど即効で「コリノ編」の2巻まで買い、全巻8巻一週間で読了。ようやく終
わりかと思うと、「コリノ」は3巻が8月に発売されこれで本当に終了(泣)。
それでも気持ちがおさまらず一気に手持ちの『砂の惑星』第1巻を読み終えた。
すっきり世界に入れるなあ。さらに4巻まで一気に読み進め、現在は『砂漠の
救世主』に突入中。親父のDUNE世界はまだまだ続くので、しばらく私の恒
星間旅行は続くのであった(笑)。
 みなさんも、DUNEに挫折した人は息子の作品から読んだほうが絶対いい
ですよ(その後、世界にずっと拘束されるけど)

〈こん・とうじ〉畸人研究学会主幹。
「まぼろしチャンネル」(http://www.maboroshi-ch.com/)の連載をまとめ、
大幅加筆した『定食ニッポン』(仮題)がちくま文庫より2004年末に発売予定。

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■古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧  高野ひろし
(21)紙芝居という「芸」の力
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加太こうじ『紙芝居昭和史』岩波現代文庫、2004年8月、1200円

鶴見俊輔の本を読んでいたら、赤字続きの『思想と科学』に、多大の資金を
つぎ込んだのが加太こうじだったという件を見つけました。そういえばかつて
私は、彼の書いた任侠者の本を読んだこともあります。ある種の男気みたいな
ものは、加太自身だけから来るものなのか、はたまた紙芝居という文化、業態、
システムから来るのか? 

「紙芝居のオジサン」とは到底くくれない世界が、この本には描かれています
よ。 関東大震災、昭和初期の大恐慌等で生まれた失業者が、次々と紙芝居の
担い手になっていくんです。その世界に「絵が上手い」程度で飛び込んでいく
著者の度胸たるや、並大抵ではありません。そして十代半ばで、もういっぱし
の作者として、五人家族を養う稼ぎを得ていました。紙芝居屋さん自身も腕さ
えあれば、会社の課長級の実入りがあったといいます。それは職業というより
「芸」にちかいと思います。

 有名作家に比べて年少の自分が下手だと自認しつつも、ひとつの話を一日で
描き上げてしまう才覚。その仕事を、何の分け隔てもなく採用して稿料を払う
勧進元。そこには年齢も身分も関係ないんです。「絵が売れるかどうか」が全
ての判断材料になります。

 大小様々な会社、組織に出入りし、自らもその要職を勤めたりした著者です
が、紙芝居黎明期から流れていた一匹狼的な気風は、そのまま持ち続けたんで
す。戦時中でも戦争物を描かないと決めたら、絶対描かない。仲間の窮地は、
皆で助ける。お互いを認め合う個人主義こそが、民主主義なのかも知れません。

 しかも紙芝居作者としての誇りを、常に持っているんです。一方で技術(デ
ッサン等)、言葉(短歌)、作画理論(映画論)の勉強も欠かしません。だか
らといって「紙芝居芸術論」のようなポジションを得ようともしません。紙芝
居の現場に居続け、失業者や底辺の生活者を見てきたこと、戦中戦後の検閲と
の闘い、度重なる組織の離散集合が、著者の信念を強固にしていったのではな
いでしょうか? 
(1971年に立風書房から刊行された単行本の文庫化)

〈たかの・ひろし〉路上ペンギン写真家、東京生まれ。8月末に、立川志の輔
師匠の落語会会場へ、相棒・銀の輔(ペンギンオブジェ)と共に乱入。ロビー
の壁に、銀の輔を抱えた芸人のツーショット写真を貼りまくり、来場者にも持
たせて強引に撮影大会を敢行。怒られはしなかったが、喜ばれたかどうかは不明。

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■オヤツのオトモ  大橋あかね
(10)私が書かねば誰が書く
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美川べるの著、『美川べるのの青春ばくはつ劇場』1〜2巻、講談社、講談社コ
ミックスDX、2003年、各600円

 人生で感動した名言二つのうち、一つは『新造人間キャシーン』の「キャシ
ャーンがやらねば誰がやる」である。今日は私も使命感に燃えて、物はいいの
に扱いがなってない物について書こうと思う。

 まずは本から。絶対笑える四コマ少女漫画を書き続ける作家、美川べるの。
笑いも絵も高水準なのに、この知名度の低さは何故。
 彼女の代表作が『美川べるのの青春ばくはつ劇場』である。主人公の女子高
生、金子麗と恋人の「部長」を中心に、普通に変な登場人物達がシュールな行
動で爆笑を誘う四コマ漫画だ。特に、純愛から不倫まで恋愛ネタに対するツッ
コミが痛い程にブラックで良し。細部の書き込みも可笑しく、麗がバイトで着
ていた着ぐるみが「とっとこハブ太郎」という黒目がちでラブリーなハブであ
ったのには大笑いした。本能に忠実な主人公が読者の共感を呼ぶ。はず。

 そして、最近出会った不遇なおやつと言えば『蒜山ジャージー生クリームサ
ンド』。薄いスポンジに挟まれた生クリームはコクがあって口溶け良く、抜群
に美味しい。なのに、スーパーのレジ付近にひっそり置かれているのがいつも
納得いかん。こんなに美味しいのにこれまた何故。

 全世界の人々よ、美川べるのを読みながら、蒜山ジャージー生クリームサン
ドを頬張るべし。

〈おおはし・あかね〉ハラゴメカエル作家。ちなみに、私が感動した名言のも
う一つは『ケンタッキー・フライドチキン』の「美味しい物は皆が好きさ」で
す。
http://www.haragome.com/

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■渡辺洋が選ぶこの一冊
(16)日本の表現者が掬いとれなくなっているもの
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チャンネ・リー『空高く』
Chang-rae Lee, Aloft, Riverhead Books
ISBN1-57322-263-1 2004年3月刊 25×100

−−何か、ぼうっとしてますね。
−−いやあ、忙しい夏でした。CD-ROMの辞書を作るのに、毎日バグ探しで目が
痛くなったり、CD-ROMなんて夏に作るものじゃないですね、家の方では六百数
十戸のマンションの理事会の用事が同時多発的に舞い込んで、一時はどうなる
ことかと思いました(今でも?)。
−−らしくないこと、やってるじゃないですか。
−−いつも本とか表現周辺のことばかりで生きているので、いやあ、いろいろ
な人がいるものだ、本を少し読んでるくらいでは全然通用しないなと、荒川洋
治さんじゃないけど、「世間入門」というか、「世間」デビューとでもいうか。

−−前回も、何かぶつぶつ言ってましたけれど、今回はとりあえず韓国系合州
国作家チャンネ・リーさんの新作小説『空高く(Aloft)』ですね。
−−『ネイティヴ・スピーカー』(未訳)、『最後の場所で』(新潮社)に続く
長編3作目です。家業を息子に継いで、旅行代理店のエージェントをパートで
やっている初老の主人公。端から見ればそれなりに悠々自適の彼が、自家用セ
スナの操縦を習い、空に舞い上がって思うことは、悲しみのつきまとう、これ
までの人生だったという設定です。
−−『ネイティヴ・スピーカー』では韓国系の政治家の事務所に潜り込んで、
彼のスキャンダルを探す韓国系の探偵、『最後の場所で』では日本人として太
平洋戦争に従軍し、戦後に合州国に移住した朝鮮人が主人公でしたが。

−−今回の主人公はイタリア系です。韓国からの移民だった美しい妻デイジー
は子どもが小さいうちに心を病んで亡くなり、その後長く付き合って子育てを
支えてくれたガールフレンドはプエルトリカン、同僚の南部出身の少し付き合
いかけた女性は鎮痛剤の飲みすぎで入院したり、主人公に中古飛行機を売る男
はブラックだったりと、もう人種のタペストリーのようです。そしてイギリス
系の典型的な白人妻を持つ長男は不景気で家業の傾くのも意に介さず会社の拡
張と贅沢に溺れ、長女は韓国系の売れない青年作家(作者に通じる?)と婚約
したものの、妊娠と同時にガンが見つかり、出産までは化学療法を受けないと
決意している。2人の子どもとも、母の狂い、母の死をめぐって、主人公であ
る父に屈折した感情を抱いています。主人公自身も「現実」からいつも少し身
を引いてしまうことで、自分や周りの人々を傷つけてきた、そのことをうまく
修復できないでいるという。
−−何かつらそうな話ですね。

−−特に前半の、妻が家計を崩壊させるような衝動買いをしたり、夜中に裸で
町に出てしまったり、心を病んで壊れていくあたりはジョン・カサベテスさん
の映画「こわれゆく女」を彷彿させる怖さと悲しさがあります。
−−その悲しさはどこから来るんでしょうね。
−−基本的には老いや孤独を見すえた家族ドラマだと思うんですが、現在のグ
ローバル経済合州国によって増幅される、一人一人が孤立していくきびしさ、
さびしさ(日本もそうでしょうが)があります。前2作が主人公の韓国系(朝
鮮系)という出自に重きを置いていたのに対し、この小説では人種はマイナー
なモチーフになっています。そして、主人公の弟がベトナムで行方不明になっ
ていなければ弟がデイジーと結婚し、デイジーも幸せだったかもしれないとか、
金持ち老人向けの施設に入った父親が脱走するとか、小津安二郎さんの映画と、
もちろんストーリーは違うし、文体もポール・オースターさん以上に、現代合
州国の英語の言い回しを駆使している分、ちょっと嫌みな感じも与えるくらい
なんですが(全部データを取れば、最新の口語小辞典ができるかも)、そのこ
とも含めてどこかで重なるような。そして同時に、ガンと闘いながらの出産と
いう危険にさらされた、それまでは父と距離を取っていた娘が父の元へ戻って
くるという、悲しみの中から幾重もの葛藤を越えながら肯定感を紡ぎ出す(ま、
そんなに簡単ではないんですが、ネタばれで書けません)、逆の方向の動きも
あります。
−−一家再会ですか。
−−長男が家業を傾けて、次第に父にぽろぽろっと本音を語り出す、とかね。

−−人種の問題を横に置いたことで、普遍的なテーマがとらえられたというこ
とでしょうか。
−−単純にはそう言えるかもしれません。ただ人種の問題の描写が細かい縫い
目、地紋のように全体を走っています。だから、白人や日本人には受けないか
もしれないです。また、日本人の中からはこうした表現はリアリティを持って
生み出されないかもと思います。表現を通して差別を越えていく動機が日本人
には希薄すぎますし、逆に取り上げるとなると広告費かけて大騒ぎになってし
まったり。
−−そう言えば、小津さんに対するオマージュ作品『珈琲時光』を台湾の侯孝
賢(ホウ・シャオシェン)さんが日本を舞台に撮りましたね。
−−期待しています。日本の表現者が掬いとれなくなっているものを差し出し
てくれるんじゃないかと。最後にひと言、それにしても長すぎるんじゃないの、
チャンネさん(こういうこと言うと翻訳が出なくなってしまうか)。

〈わたなべ・ひろし〉
詩人・編集者。暑い夏でした。公私ともども信じられないくらいバタバタで、
心身壊れるかなと思いましたが、何とか切り抜けられたかな? 油断は禁物で
すが。
http://www.catnet.ne.jp/f451/

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■全著快読 古山高麗雄を読む  荻原魚雷
(21)雲南の古山さん
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『旅にしあれば』小沢書店、1994年2月刊
『船を待ちながら』福武書店、1990年10月刊/単行本は1999年11月

 今年8月13日にNHKスペシャル「一兵卒の戦争」という番組があり、『龍陵
会戦』(文春文庫)をとりあげていた。放映の理由はわからないが、おそらく
60年前の夏の戦場を舞台にした小説なので、この作品が選ばれたのではないか、
とおもう。

 NHKの番組によると、古山さんが龍陵の戦闘に参加した人々の膨大な手記
を集め、それを書いた元兵士を取材したという。
「誰かが書き残さなければ、忘れさられてしまう一兵卒の記憶」
 番組のナレーションはそう語っていた。
 先日、書店に行った友人が、「文春文庫の戦争三部作の『龍陵会戦』だけな
くなってたよ」と教えてくれた。しかし、『龍陵会戦』は[書評]のメルマガの
vol.148(2004.1.15)で書いた。
 そのかわりといってはなんだけど、『旅にしあれば』というエッセイ集のな
かに「兵隊蟻の雲南再訪」(初出『別冊文藝春秋』平成3年1月)という作品
がある。古山さんは、昭和50年から51年にかけて『兵隊蟻が歩いた』という
戦地再訪ルポを書いているのだが、当時雲南は非開放地区だった。戦後45年経
って、ようやく「特別のはからい」によって雲南を再訪することができたので
ある。

「私は四十五年前に、分哨山や双坡や桜ケ岡や雲龍寺のあるこのあたりの山中
を、一ヶ月ぐらいウロウロと歩き、毎日壕を堀り、豪雨を浴び、砲弾を撃ちこ
まれ、山かげで飯盒めしを炊き、そして、疲れ果て、マラリアにかかり、野戦
病院に送られたのであった」
「日本軍と重慶軍は、龍陵周辺山地の陣地を奪い合い、市内でも至近距離で戦
った」

 そんな激闘を生きのびた古山さんは、終戦をベトナムの捕虜収容所でむかえ
る。そのときの体験は、昭和55年から平成2年まで約10年にわたって発表し
た連作長篇『船を待ちながら』に詳しい。
 この長篇にも、雲南の戦場を回想するシーンがある。

「雲南省の山の中では、いきなり身近に砲弾が飛来したりすると、歯が鳴った
が、思考の中では、入隊以来ずっと、死ねるものなら死にたい、と思っていた。
そう思っていても、自殺はできなかった。自分をも他者をも心の中で茶化しな
がら、なるようになるしかない、と思っていた」

『龍陵会戦』は、救いようのない下級兵士の戦争体験を描いているのだけど、
現地の女と駆け落ちをする妄想をいだいて、気をまぎらわせていたことなども
書いている。古山さんは、戦争をことさら深刻に語ることを拒んでいた作家で
もあった。
『旅にしあれば』の「小説は世につれ」というエッセイで、こんなことを自分
自身に言い聞かせている。
「素朴な喜怒哀楽をないがしろにするな」
「幼い感傷が笑われ、揶揄されるが、揶揄するものになるな」

 古山さんは、戦争の記憶だけではなく、こうした昭和の私小説に流れていた
情緒のようなものも書き残したかったのかもしれない。

〈おぎはら・ぎょらい〉
最近、村野守美マンガがブーム。インターネットの古本屋で草笛シリーズがセ
ットで売っていたのでつい衝動買いする。双葉文庫名作シリーズの『草笛シリ
ーズ オサムとタエ』は「早春残光編」しか出ていないけど、続編はいつ出る
のだろう?

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■あとがき
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 毎号のように新連載がはじまる上に、全体のテキスト量が多くなってしまい
がちなことが気になっている。そこで、とりあえず「ホンのメド」を短くした
い。紹介したいコトは多いが(今回は、『山口瞳通信』と『雲遊天下』、そして、
小沢信男さんの新刊『悲願千人斬の女』筑摩書房、をきちんと紹介したかった)、
書くのに時間が掛かると発行が遅れてしまうので。
 また、南陀楼の私物化スペースとして、【先月読んだ本】と【南陀楼のお私
事】というのをやっていたが、最近「はてなダイアリー」で「ナンダロウアヤ
シゲな日々」という日記をはじめたので、そちらに一本化します。ご興味のあ
る方は、覗いてみてください。
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/
 ようやく秋らしい涼しさがやってきそうです。では、来月。(南陀楼綾繁)
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