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[書評]のメルマガ vol.206
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■■ [書評]のメルマガ     2005.3.15 発行

■           vol.206 
■■  mailmagazine of book reviews   [ 復活と最終回 号]
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。スムース友の会のお知らせ。
★短期集中連載「不忍ブックストリートのつくりかた」南陀楼綾繁
 →谷根千エリアのブックマップをつくろう! 現在進行形の報告。
★「新・新刊書店の奥の院」荒木幸葉
 →新天地・金沢でも書店員となったアラキ。ついに本格復活です。
★「下連雀しゃんしゃん日録」長谷川洋子
 →巷で話題の古本屋「上々堂」の女店主が綴る日記。今回が最終回です。
★「古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧」高野ひろし
 →「イカ天」出身でチンドン屋になっちゃった凄い人をご紹介します。
★「オヤツのオトモ」大橋あかね
 →アマいオヤツにゃ本が合う。本邦初の「食い合わせ」書評なのです。
★「渡辺洋が選ぶこの一冊」
 →今回は『ファイト・クラブ』の作家・パラニュークの新作です。
★「全著快読 古山高麗雄を読む」荻原魚雷
 →没後3年になる芥川賞作家の残した約50冊を丹念に読んでいきます。

*本文中の価格は、すべて税抜き(本体)価格です。

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■南陀楼綾繁のホンのメド  
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【トピックス】
★スムース友の会を開きます
 書物同人誌『sumus』の同人と愛読者が一緒に語り合う、楽しい会が開
かれます。3月29日(火)午後6時から京都木屋町のディランII(ディ
ランセカンド)にて。岡崎武志・山本善行・扉野良人・林哲夫ら同人参加。
「古本漫談」「古本オークション」「サイン会」など楽しい催しを予定してい
ます。参加費用3000円(予価)。予約を受け付けます。定員になりしだい締
め切りますので、ふるってご参加ください。ご予約はこちらから。
sumus_co@yahoo.co.jp

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■不忍ブックストリートのつくりかた  南陀楼綾繁
(2)その名も「一箱古本市」
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 さて、谷中・根津・千駄木エリアに「不忍ブックストリート」という名前を
定着させるために、ナニをやるべきか。

 ぼくが最初に考えたのは、荻窪・西荻窪・吉祥寺の古本屋が合同で制作した
『おに吉』のように、地図と読み物の小冊子をつくるコトだった。しかし、こ
れはスグに諦めた。たしかに、小冊子をつくるのは楽しいし、書いてくれるヒ
トもいるだろう。だけど、制作にかかる手間がハンパじゃないし、中央線の古
本屋に比べたら、このエリアはまだまだ「本の街」として認知されていない。
そういう状態で、小冊子を出しても、内輪ウケで終ってしまう気がする。
 それよりは、じっさいに使える地図をつくり、配布してはどうか。新刊書店、
古書店を中心に、喫茶店、カフェ、雑貨屋など町を散歩するときに寄ってほし
い、オススメのスポットを入れよう。その地図の名前を「不忍ブックストリー
トMAP」とすれば、ぼくたち意図も明確に伝わるのではないか。

 昨年の12月26日、西日暮里の韓国料理屋に忘年会を兼ねて集まったメンバ
ーに向かい、ぼくは上のようなコトを話した。その場にいたのは、〈古書ほう
ろう〉の宮地さんなど4人、〈往来堂書店〉の笈入さん、〈オヨヨ書林〉の山
崎さん、〈谷根千工房〉の川原さん、地元在住のライターの小森さんとデザイナ
ーの小田木さんのカップル、そしてイラストレーターの内澤旬子とぼくだった。
 幸い、地図をつくるコトはすぐに賛同を得られた。そこで、ぼくと内澤は、
以前に考えて放置していた「夢想」をブツけてみた。「この地域で古本市をや
りませんか?」。それも大きなスペースを借りて一箇所で行なうのではなく、
いろんな店の軒先を借りて小さな古本市を開く、というのが、内澤のアイデア
だった。出品者が、各自がダンボール箱に納まる程度の古本を持ち寄り、それ
を店ごとに数箱ずつ設置する。名づけて、「一箱古本市」。場所を提供する店
は、「不忍ブックストリートMAP」に載せるので、そこで地図が役に立つ。

「それはオモシロイ」と、最初に云ってくれたのは誰だったか。すぐに他の人
たちも興味を持ってくれた。「ほうろう、往来堂、オヨヨの前には置くとして、
ほかにはどんな店に呼びかけようか?」「本の出品者はどうやって集めるの?」
などと、いきなり具体的なハナシに入ってしまった。
 こうなったら、やるしかない。
 地図の完成を3月下旬、「一箱古本市」の開催をゴールデンウィークのいつか
(この時点では二日間のツモリだった)と決め、それに向けて、やらなければ
ならないコトを話し合っていった。意見百出、気がついたら12時を回ってい
た。年が明けたら、さっそく動き出さないと……。
                           (来月に続く)

★『不忍ブックストリートMAP』と「一箱古本市」のお知らせ
 このたび、谷中、根津、千駄木(通称「谷根千」)周辺の新刊書店と古書店
や有志が集まり、この地域一帯を訪れる本好きの方々に向けた地図を制作する
ことになりました。
 これは「不忍ブックストリートMAP」というイラストマップで、周辺の新刊
書店、古書店、カフェ、喫茶店、雑貨店、図書館などが一目で判るものにする

つもりです。
 制作部数は2万枚(予定)。完成は4月上旬。谷根千周辺および都内各地域
で配布します。現在、配布してくださる店を募集中です。

 これに関連して、「一箱古本市」というイベントを、4月30日(土)に行な
うことにしました。雨天の場合は5月3日(火・祝)に順延します。
 出品者がミカン箱程度の段ボール一箱分の古本を持ち寄り、地図に登場する
12店が「大家さん」となり、その店先(戸外)に箱を設置して、販売
します。1店には、出品者の違う2〜15箱が集まります。
 地図を見ながら全店を回れば、合計75箱分の古本が見られることになるとい
う、日本初(?)のネットワーク型古本市であります。どうぞご期待ください。

【主催】
往来堂書店  http://www.ohraido.com/index_n.cgi
オヨヨ書林  http://www.oyoyoshorin.com/
古書ほうろう http://www.yanesen.net/horo/

【後援】
谷根千工房  http://www.yanesen.net/

 この企画の告知を掲載してくださったり、何らかのカタチで記事にしてくだ
さる雑誌、新聞、ウェブサイト、メールマガジンを募集しています。ご連絡い
ただければ、情報をお送りします。また、主催の往来堂書店、古書ほうろう、
オヨヨ書林への取材も歓迎します。まずは、以下までご連絡ください。よろし
くお願いします。

広報担当:南陀楼綾繁 kawakami@honco.net
いまのところ、最新の情報は以下に掲載します。
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/
3月20日ごろには、公式サイトがオープンしますが、そのURLも上の
ブログで紹介します。

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■新・新刊書店の奥の院 荒木幸葉
(2)「科学のアルバム」を救え の巻
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 児童書をさわっていて、いちばんうれしいのは、子どものときに読んだ本が、
まだまだ現役で棚にあるのをみつけたときです。
 絵本やものがたりとちがって、最新の情報をもりこまねばならない、自然科
学系ジャンルのものは、わりにひんぱんに改訂されているようですが、そんな
中、どっこい昔のままの姿でがんばっているのをみてしまうと、返品できんな
あと、いとおしさも増すばかりです。

 たとえば、小学館の黄色い箱入り「学習百科図鑑」や、学研の「ひみつシリ
ーズ」といったあたりがそのたぐいかなあ。もっとも、図鑑は「NEO」シリ
ーズへと、箱なしで大判化し、「ひみつシリーズ」も、「新ひみつシリーズ」
(背の赤いキラキラ箔押しが復活したとはいえ、ページ欄外の“まめちしき”
コーナーのキャラクターが、学研坊や?から、ただの鉛筆マークに変わったの
が、ちょっとさびしい)に移行中のようで、予断がゆるせません。

 そんなおり、赤、橙、緑、青、紫(むらさきの本ってあんまりみないですね。
残念ながら、新装版では消えてます。)の5色の退色気味なカラーリングと、
正方形に近いフォルムが、妙にそそられる、箱入り図鑑界の秘境、「科学のア
ルバム」(あかね書房)にまで、新装版化の波が‥‥。1970年の刊行以来、
シリーズ1900万部のロングセラーを誇り、自由研究のしらべものなんかする
のに、小学校の図書室でかならずお世話になったアレ、です。
 
 新装版にあたっては、まだ現物が入荷していないので、ホームページ
(http://www.akaneshobo.co.jp/chumoku/index4-251-90371-4.html)
を拝見したところ、内容的な変更は、さほどなさそうです。ただ、「箱」がな
くなるうえに、シリーズも100→73冊へと削減、紙質を変え、よりクリアな
写真になったそうですが、そのぶん値段もすこしアップしてます。

 旧装版の受注が、一部をのぞき、2月いっぱいまでとかで、これはたいへん、
きちんと保護しなきゃと、大急ぎで仕入れ、旧装版フェアをこっそりはじめま
した。が、フェア台のまわりでは、「晩の食欲がなくなるから、かえろう」な
どと、子どもの手を引く若いお母さんの姿もみられ、絶賛ダメだされ中です。
ふぅ。

そこで、個人的ベストをいくつか。
○「食虫植物のひみつ」‥‥鳥もち式のモウセンゴケから、わな式のハエとり
草まで、凶暴な植物たちが勢ぞろい。とろーりとけてるハチが印象的な、ヒョ
ウタンウツボカズラ(おとしあな式)のふくろのレントゲン写真には、無情に
も、「この虫はおぼれてしんだ」のキャプションが。

○「昆虫のふしぎ 色と形のひみつ」‥‥擬態や保護色をしりたい人は必読。
白いぶよぶよの芋虫(クワゴ)の幼虫の顔面ドアップが表紙。オレンジ×黒の
あざやかな模様が目玉のようで、たしかに食欲がうせます。インパクトが強す
ぎたのか、新装版では、目玉模様つながりで、アケビコノハの幼虫(地味なん
だけど、これもすごい)にバトンタッチ。ちなみに、その他のげんなり系ジャ
ケットとして、「カイコ まゆからまゆまで」(櫛のような触覚が怖くて、正
視できない)や、「カミキリムシ」(複眼のアップと尖った顎が‥‥)なども、
根性だめしにどうぞ。

○埴沙萠の3部作‥‥シャボテン研究家の龍胆寺雄に師事した、埴センセイ。
作品もさることながら、ここでは著者近影の変遷に注目。「サボテンのふしぎ」
(’75年)→サボテン温室をバックに、こぶしを握りながら、ベレー帽、サン
グラス、パイプ、でキメのポーズ。「たねのゆくえ」(’78年)→「H.CIABOU
HANY'S FAMILY」とペイントされたジープ前に、同様のいでたちで。「ドングリ」
(’87年)になると、ベレー健在なものの、すっかり枯れた御様子の先生‥と
思いきや、最新のお姿を求めて、ご自身のホームページ(おすすめです)にす
すむと、レインボー柄のニットをお召しに。すてきです。

○「しょうにゅうどう探検」‥‥類書があまりない一品。一度はいりこむと何
日も外にでられない“不帰(かえらず)のあな”に果敢に挑む著者。「どうく
つ会議」やら、ボートをつかっての探検やらの様子が記された、アリの巣の断
面図のごとき「どうくつ探検パノラマ」は、見ているだけでワクワクします。

○「雪の一生」‥‥「雪がふるときは、空気中のこまかいちりもいっしょには
こんでくる。雪は空のそうじ役もする。」そうかー、雪が降ったあと、視界が
きれいなのは、空気をおそうじしてくれてるからでもあるんだなあと納得の一
冊。融雪道路や、雪吊りの写真もあり、雪国生活のビギナーにもやさしい。


○「コケ」‥‥著者の伊沢先生がハンサムだから、ではなく、「ぼくはコケの
“コケ太です”」ではじまるあとがきや、「たおれた木のうえで朔をのばして
いる姿は、まるで森のこびとがおおぜいでてきておどっているようです。(ハ
ネヒツジゴケ)」などの詩的なセンスに、クラっときたので。「キノコの世界」
もあわせてどうぞ。

 そのほかにも、ぎ傷(ひなを敵から守るために、わざと敵のまえに姿をあら
わし、おおげさにはねをひきずり、からだをよじり、きずついたふりをするこ
と)するメスの姿が健気な「ライチョウの四季」や、“もりあがる花粉”の写
真に、花粉症が悪化しそうな「ユリのふしぎ」、いまはなき沖縄海洋博アクア
ポリスの勇姿が拝める、「サンゴ礁の世界」、敵につかまり、自らハサミをか
らだから切り落とし、関節ポロリのまま、ピクピクしめつけてがんばってるア
カテガニがいとおしい、「カニのくらし」やら、ああ、もう、おすすめがいっ
ぱいありすぎて、書ききれません。店頭でみかけたら、新装・旧装問わず、ぜ
ひ、手にとってみてくださーい。

〈あらき・さちよ〉 桜がさくころには廃止の、のと鉄道(穴水ー蛸島間)に
乗り、無人駅やら、苔むしたトンネルたちに萌えまくってきました。おみやげ
に奥能登の「揚げ浜式塩田」の塩(250円)を。科学のアルバム「塩」の巻
にも、ちゃーんと載ってました。

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■下連雀しゃんしゃん日録   長谷川洋子(古書上々堂)
(12 最終回)完成形などあるはずがないから日々頑張っている
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★3月4日(金)雪のち曇り
 東京の雪は儚い、舞い落ちた瞬間にとけてしまう、そんな雪。石坂洋次郎の
『寒い朝』を懐かしがって買ってくださったお客さんが
「春の淡雪ですね」と。

 夜、静かな店内をじっくり見ていた若い男性客。山頭火の句集や歳時記など
を買っていく。その後で、山頭火の句集を繰ってみる。
「春の雪ふるまこと女はうつくしい」という句があると知る。
 明日5日は啓蟄。

★3月5日(土)晴れ
 背の高い外国人男性客(多分フランスの人)と通訳と思われる日本人男性が
来店。「なにか日本らしい風景の写真の本はありませんか?」と尋ねられる。
 こう尋ねられると大和撫子ハセガワ、俄然張り切ってしまう。これぞJAPON
という本をあちこちの棚からありったけを出す。
 フランス語では説明できないので、目の前に本をずらりと並べてニコニコし
てみる。
 外国の男性もニコニコしながら「オオ、アリガト。」と言ってくれる。通訳の
男性が一冊ずつ注釈を加えてくれているようだ。
 外国のその方は、本をそっと手にとってゆっくりページを開いて、とても丁
寧に扱ってくれる。
 写真集『上野彦馬と幕末の写真家たち』(岩波書店)と、『かんだ』という昭
和39年ころの神田の商店会が発行していた冊子数冊をお買い上げ。
『上野〜』はちょんまげの志士の写真や当時の家並なども映った写真集。
『かんだ』は表紙の絵が小林清親で安藤鶴夫らの文章が載っている、いかに
も江戸っ子、な冊子。
 東洋らしく、エキゾチックな感じに見えるんだろうなあ。
 日仏友好親善の午後。

 深夜、キーツの絵本『ゆきのひ』が売れる。毎度のことだが、週末は絵本が
良く売れる。今日は絶版の『ちいさなくろいさかな』をはじめ沢山の人が絵本
を買っていってくださった。
 ありがとうございます。

★3月8日(火)晴れ あたたかい一日
「ここは古本屋さんなんですよね」と年配女性に聞かれる。
 じゃあ、これも新品みたいですけど「古本」なんですか?と『電車男』をレ
ジに持って来られる。見返しの値段を見て、「あら、安い!」。
 岡崎武志さんの委託販売の棚、岡崎堂の『電車男』『電車男は誰なのか』の
2冊が売れていった。

★3月10日(木)曇り
 開店当初から、ひと月に一度くらい店に顔を出して下さって、棚を見ては
「本が増えましたね」とか「だんだん古本屋らしくなりましたね」と声をか
けてくださる方がある。もの静かで穏やかなロマンスグレーの男性。
 毎回、渋めの外国文学から秋吉久美子の写真集まで様々な本をお買い上げの
方なのだが、正月過ぎから2ヶ月ほど、ヨーロッパでとある巨大プロジェクト
の通訳の仕事だったそうだ。
 この日、「帰ってきましたよ」と久々にご来店。

「久しぶりに棚を見ましたがいい本が増えましたね」とうれしい言葉。
 実際はまだまだだし、完成形などあるはずがないから日々頑張っているのだ
けれど、こんな風に声をかけて貰えると頑張りがいがあるというもの。

 これからの季節、人の動きもあるから買い取りが増える。そうすれば、自ず
といろんな本との出会いも増えて来るはず。
「これは……!!」と思って買い取った本を、どうすればお客さんに面白がっ
てもらえるか、新鮮な見せ方ができるのか、欲しいと思ってもらえるのか、日
々心をくだいているのです。
 まあ、言ってみれば、私は「古本」と「本好き」の中をとりもつ仲人のおば
ちゃん。この人、いい人なのよ、どう?ってね。

《お知らせ》
上々堂で下記のイベントを開催します。お近くにお越しの際は是非どうぞ。
お待ちしています。

**『ちいさいサンパン』原画展**
『しょうぼうじどうしゃじぷた』などでおなじみの絵本作家山本忠敬さんが
月刊絵本『ひかりのくに』に描いた作品の原画展。単行本未刊行。
会期:4月1日(金)〜4月30日(土) 正午〜23時(無休・日曜は22時まで)
会場:古書上々堂 三鷹市下連雀4-17-5 0422−46−2393

*古書上々堂 〒181-0013 三鷹市下連雀4-17-5 
TEL 0422-46-2393
http://shanshando.exblog.jp/

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■古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧  高野ひろし
(24)パソコンよりもちょんまげを買うことを選んだ男
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安達ひでや『笑う門にはチンドン屋』石風社、2005年2月、1500円

 僕が住む町には、今でもたま〜にチンドン屋さんが通ります。子供の頃には、
随分見ましたねぇ。もしかしたらそれは、近所にパチンコ屋が多いせいかも知
れません。
『笑う門にはチンドン屋』の中にも書かれていますが、戦後のパチンコ屋隆盛
と共に、チンドン屋さんも増えたんだそうですよ。蜜月時代ってやつですか。

 著者は1964年熊本生まれ。空前のバンドブームを巻き起こしたTV番組
「イカ天」で脚光を浴び、その後紆余曲折を経て、本当にチンドン屋になっち
ゃった凄い人なんです。
 世の中にはフットワークの軽い人ってのはいるもんです。いくらクレージー
キャッツや玉川カルテットやあきれたぼういずが好きだからって、「よしっ、
チンドン屋だ!」って思う人はいませんよ。百歩譲って笑いと音楽の融合まで
は考えても、そこになかなかチンドン屋という選択肢は出てきません。

 恐らく著者は、めちゃくちゃ真面目な人なんだな。チンドン屋になれなかっ
たら、学問的に研究しかねないタイプかも知れません。高校生にして川上音次
郎を聞き、浪人中にボーイズ物の台本を書き、大学では三味線を弾きたくて邦
楽部に入ってしまう。チンドン屋になってからも、演奏出来ないのに楽器を買
い集め、日舞を習う。既成のチンドン屋を遙かに超えた工夫をし続ける。その
意気込みたるやただ事ではないもの。

 大先輩を「親方」と慕い、同世代のチンドン屋にエールを送る。メンバーに
は厳しく、世間には腰を低く。これまさに芸人の鑑です。事務所にパソコンを
置くか、初めてのちょんまげを買うか悩んで、ちょんまげを選んだ男。フット
ワークは軽くとも、その志は固く重いんだなぁ。
 真面目な人は、はじけると何をするかわからない。気が狂うほど音楽も笑い
も大好きな男は、そのどちらかを選ぶことをせず、両方取った上に捻りを加え
てしまったんです。でもよく考えると、音楽も笑いも、その原点は路上にあっ
た! 一途な人なんですね、きっと……。

〈たかの・ひろし〉東京生まれ、路上ペンギン写真家。深川界隈のタウン誌、
その名もズバリ『深川』に、「銀の輔 道草のもと」という連載を開始。4月
30日に開催される「一箱古本市」には、相棒のペンギン共々参加予定。

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■オヤツのオトモ  大橋あかね
(13)ブツヨッカーの春
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『京都*お守り手帖』光村推古書院、1200円、2005年

 世界で一番私の心をときめかす物、それは商品カタログ。買ってやるぜとば
かりに魂を煮えたぎらせ、食入る様に頁を見つめる瞬間が、私、幸せなの。

『京都*お守り手帖』は、まさにそんなブツヨッカー(注:物欲の権化の意)
を満足させる一冊。全頁カラーで京都の神社やお寺のお守りの写真がずらり。
神社仏閣の観光案内は一切載せておらず、お守りオンリーという所がカタログ
的で潔し。女の子がターゲットなので、お守りがモチーフ別に並んでいるのも
いい。『女の子はみんなお姫さま』というタイトルで姫ダルマがごろごろ並ん
でいると思わず、「姫ダルマ可愛いかも!?」と思い込んでしまう。こんな商
品訴求力もカタログっぽいのです。

 こうゆう本には、銘菓と呼ばれるシンプルなおやつをオススメ。頁に目を注
いだまま無言で『舟和』の芋ようかんを頬張り、時々思い出した様に「お芋と
砂糖だけなのに美味しいなー。」と味わうのが本の邪魔にならなくて良し。
 だって、どの縁結びのお守りが一番可愛くて効果があるかを真剣に悩んでい
る時に、小難しい味の食べ物なんて食べられないって!

 ちなみに、この本の帯に書かれた『かわいいお守りを見つけに京都へ行こう』
という言葉に乗せられて、この春、京都に行くことにしたのは私です。
 でも、目当ては縁結びのお守りでなしに、手芸上達のお守り。

〈おおはし・あかね〉ハラゴメカエル作家。春から週に四日も働く事になりま
した。似非勤勉さん。京都行きが心の支えです。
http://www.haragome.com/

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■渡辺洋が選ぶこの一冊
(18)「企画書」文学から遠く離れて
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チャック・パラニューク『チョーク!』早川書房、2300円、2004年2月

−−チャック・パラニュークさんは合州国の作家で(Chuck Palahniuk,
Official Website; http://chuckpalahniuk.net/index.php)、翻訳も『ファ
イト・クラブ』(ブラッド・ピット主演で映画化)、『サバイバー』、『イン
ヴィジブル・モンスターズ』そしてこの『チョーク!』が出ていますね(いず
れも池田真紀子訳、早川書房)。
−−私は何の予備知識もなく、去年『ララバイ』(原書2003, 今春翻訳刊行
予定)をペーパーバックで読んで、すごい作家がいるんだなあと思いました。
−−「すごい」と言うと。
−−日本で言えば、阿部○重さんとか、小林恭○さんとか(もう読むのをやめ
てしまったので伏字)、世界の構造を抉り出すといったコピーで語られる作品
群があると思うけれど、枠組で書いているという気がしてしまう、そしてその
枠組が見えた途端に付き合う必要を感じなくなってしまう。
−−合州国でも少なくないですよね。スティーヴ・エ○クソンさんとか、イン
テリ受けするリチャード・パワー○さんとか。こうした作家たちが評価されて
前面に出てくるというのは、文学(産業)の延命策ですかね。
−−そこまで言っていいかどうかは分からないけれど、「企画書」文学という
感じは強く受けています。

−−で、パラニュークさんですが。
−−彼の作品のすごいところは、枠組は確かにあるかもしれない、出発点とし
て。でもそれがジグソーパズルのピースのようにどんどん細分化して、読者は
そのディテールに付き合いながら、作品をほとんど読み終わるときまで、その
出発点としての大枠(企画)には気づかされないというところだと思います。
そしてビートもパンクも突き抜けたような、彼の作品の向こうからは世界のひ
りひりした現実と向き合っている作者のスピリットが伝わってくる。ドン・
○リーロさんの作品なんかですと、読後には、あ、やっぱり書斎で書いたエー
ジェント文学かなと思わされる、そういう業界文学の嫌らしさがないところが
いいなあと。

−−けっこう言ってしまってるじゃないですか。で、この『チョーク!』とい
う作品は?
−−ネタばれにならないように説明しますと、主人公の「僕」は、呆けかけた
母親のケアセンターの費用を捻出するために、医学の勉強を中断して昼間は18
世紀の植民地時代の合州国を再現したテーマパークで当時の人間を仮装して演
じ、夜はレストランに出没して、食べ物を喉に詰まらせる演技をします。「詰
まる」イコールchokeですね。そして彼を助けた人物は、彼を助けた「ヒー
ロー」として生きがいを見出し、彼を助けた日に彼の救済者としてバースデー
カードと小切手を送ってくる。毎晩のように行く店を変えては喉を詰まらせて
いる「僕」はセックス中毒でもあります。
−−そしてその物語にジグソーパズルのような小ネタが次々と……
−−ええ、母親が入っているケアセンターの老女たちは「僕」を昔自分をレイ
プした男だと思ったり、アイヒマンや放火魔だと見なしたり、それで「僕」が
肯定すると心のつかえが取れて幸福感を取り戻したり。「僕」はセンターの看
護婦たちやセックス中毒の矯正センターで出会った女性たちともヤリまくりだ
ったり、レイプ願望の女性相手に頑張ったり、飛行機の化粧室でのセックスが
大好きな女性と修行を積んだり。「僕」のテーマパークの仲間デニーは毎日、
街で石を探し集めてきて家をいっぱいにしてしまうし。そして、ケアセンター
の母親担当の女医は「僕」の過去についてとんでもない事実を突きつけて来る
(書けません)!

−−母親というのもすごい人だったみたいですね。
−−母親は60年代の過激派ヒッピーみたいな世代なのかな。男たちに催眠術を
かけてマリリン・モンローやクレオパトラとセックスさせるなんて商売をした
り、器物破損は当たり前、デパートなどでの緊急事態をスタッフに伝える隠語
の放送について「僕」を特訓したり、劇場の客席を子どもたちの解放を叫んで
駆け抜けたり、で、ブチ込まれては釈放されるたびに、少年の「僕」を探し出
して、たとえば盗んだスクールバスで里親の元から連れ去っていく。その息子
である「僕」を支え続けたのは、インターネットのポルノで見た、自分の尻の
穴にサルに栗を入れさせながら、羞恥心のかけらも感じさせないターザン男の
存在だった。
−−その先には何があるんですか。
−−小説の真ん中辺りで始まる、さっき「書けません」と書いたプロットです
が、こんなどうしようもない「僕」こそがじつは「ヒーロー」であり「救世主」
たるべく生まれた人間だったとか何とか(ああ、書けない)。で、作品全体が
見えてくるのは、翻訳本で本当に最後の2,30ページくらいですかねえ。

−−試しに1冊読んでみるしかないですかね。
−−『ファイト・クラブ』と『サバイバー』は文庫にも入っています。この
『チョーク!』は常盤響さんのHな写真がカバーで、「抜けないけどイケるぜ」
という帯文付きです。Hと思うかどうかはお任せしますが、合州国のカルトを
生み出す雰囲気、グロテスクさのリアリティをここまで書ける作家はあまり知
りません。亡くなったブコウスキーさんも、パラニュークさんを読んだ後では、
純情な酔っ払いに思えてしまいます。それでいてあくどい感じがしないのが本
物かなあと。

〈わたなべ・ひろし〉詩人・編集者
今年の始めから一念発起して(笑)、「詩をひたすら読む」シリーズを書いて
います。よかったら読んでみてください。
http://www.catnet.ne.jp/f451/reading.html

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■全著快読 古山高麗雄を読む  荻原魚雷
(27)ロバと窮鳥〜三十代の男たち
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『ロバはニンジンを追って』実業之日本社、1985年11月刊
『窮鳥を抱いて』実業之日本社、1994年1月刊

『ロバはニンジンを追って』は、「週刊小説」に連載されたユーモア長編で、
原題は「タッちゃんがゆく」。主人公の辰夫は開業したばかりの便利屋。齢は
三十代半ばの独身。仕事をはじめた途端、担当地域に業界最大手の便利屋チェ
ーンが進出していることを知る。そこで辰夫は、時間をかけて常客を増やし、
「テレビにはお呼びでないが、熱狂的な固定ファンがいて、万札のレイを首に
かけてくれる」旅役者のような便利屋を目指そうと決意する。

「つまり、組織ってのは、漁にたとえりゃ、トロール網のようなもんで、俺た
ちは一本釣の漁師っていうようなものだ」
 しかし、どんどんジリ貧に……。零細自由業者の生き方をかんがえさせられ
る小説である。

『窮鳥を抱いて』も「週刊小説」に発表された小説だが、第一章が87年5月
15日号で第十章が93年9月3日号と、六年ががりの連作である。
 主人公「僕」は、三十代の会社員。妻はいるが、子どもはいない。気が弱く
て、やさしい、ちょっとスケベな「僕」が、行きつけの飲み屋で知り合った家
出人の女の子と関わりを持ち、人のよさゆえに、いろいろなトラブルにまきこ
まれてしまう。

「僕の人生がパッとしないのは、僕には、目的や目標がないからだと思われる。
 人には、目的や目標がなければいけないのである。その目的や目標は、そん
な大それたものでなくてもいい。物欲でもよい。名誉欲でもよい。恋愛でもよい」
 古山作品の定番といえる、うだつのあがらない、くすぶった主人公。でも「僕」
が「三十代の男性」という設定はちょっと苦しい。第一章のタイトルは「カッ
ポレを聞きながら」だし、カラオケで歌う曲は「ザンゲの値打ちもない」だ。
うーむ。

 古山さんもその自覚があったのか、主人公の友人に「君は大正生まれの爺さ
んの感覚の持主」、妻には「あなたって、まだ三十代じゃない。それがなによ、
立たなくなったお爺さんみたいじゃない」といわせている。
 目標も大切だが、無理は禁物ということか。

〈おぎはら・ぎょらい〉
今年こそ、自動車の免許をとろうとおもう。去年、取得するつもりだったが、
歯医者に通うことになり、挫折。

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■あとがき
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 今回は、編集中に、嬉しいことと残念なことの両方がありました。
 嬉しいこと。金沢の荒木幸葉さんから、原稿がメールで届いたこと。初めて
の土地で新しい書店で働きつつ、やっぱり彼女独自の観察眼を働かせていたん
だなと思うと、うれしい。今後は2ヶ月に一度、ちゃんと載ります……よね?
 残念なこと。上々堂の長谷川洋子さんの連載が終わります。人気連載だった
ので、とても残念ですが、長谷川さんの連載は、いつか別のタイトルで復活す
るかもしれません。その日を楽しみに待ちます。
 では来月。                     (南陀楼綾繁)
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