[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.209
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■■ [書評]のメルマガ     2005.4.12発行

■          vol.209
■■  mailmagazine of book reviews     [ 春は路上で 号]
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。春の路上イベントのご紹介。
★「大阪豆ごほん」福島杏子(ちょうちょぼっこ)
 →北堀江のふたつの「本スポット」から届く、楽しくて美味しいお便り。
★「酒とつまみと営業の日々」大竹聡
 →各方面で話題沸騰のミニコミ「酒とつまみ」の営業秘話です。大好評。
★「版元様の御殿拝見」塩山芳明
 →新幹線通勤中に毎日一冊は本を読む男が版元の社屋を徘徊します。
★「かねたくの読まずにホメる」金子拓
 →買ったときから、いや手にしたときから読書ははじまっているのです。
★「私選 東京〈本読み場〉ガイド」高野麻結子
 →テーマ、タイトルを一新して6月から再開します。

*本文中の価格は、すべて税抜き(本体)価格です。

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■南陀楼綾繁のホンのメド 
新刊、古書、マンガ、雑誌、ウェブサイト、書店、イベントの近事雑報
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【トピックス】
★不忍ブックストリートMAP
 この欄でもお知らせしてきた、谷中・根津・千駄木エリアの「本と散歩」ス
ポットを紹介する「不忍ブックストリートMAP」が完成し、現在都内各所で無
料配布中です。書店、図書館、ブックカフェ、喫茶店,雑貨屋などを網羅した、
見やすくて持ち歩きやすいイラストマップ(イラストレーション・内澤旬子)
です。「本」「たべる・のむ」「みる・かう」など目的に応じた索引も付けました。
 この地図の完成を記念して、4月30日(土)11:00〜18:00に、このエリア
の12店舗の軒先をお借りして、「一箱古本市」を行ないます。75人の出品者が
一人一箱ずつ持ち寄って、12店舗の前で販売します。全スポットのスタンプを
集めると、素敵なプレゼントを差し上げます。雨天の場合は、5月3日(火・
祝)に延期します。
 また、関連企画としてこの日、高野ひろしさんのペンギン写真展、大沼ショ
ージさんの銭湯写真の展示も行います。7時からの打ち上げイベントでは、ト
ークショーや桂牧さんのライブがあります。
 ゴールデンウィークの一日、本と散歩の似合う街で過ごしてみませんか。
 すべての情報、問い合わせは以下のサイトまで。
http://yanesen.org/groups/sbs/

★林哲夫装丁展&合同サイン会
 神戸・海文堂書店で、「林哲夫・装幀も仕事!」展が開催中(30日まで)。
画家であり、「sumus」編集人として知られる林さんですが、本の装幀も多
く手掛けています。今回は、みずのわ出版の本などをはじめ、約60点を展
示します。
 また、林哲夫『帰らざる風景』、和田作郎『水晶の海』(以上、みずのわ出
版)、中村よお『洋楽ROCK関西実況70'S』、オヤジ芝田『神戸ハレルヤ! 
グルめし屋』(以上、幻堂出版)の刊行を記念して、4月16日(土)2時より、
合同サイン会を行ないます。場所は例によって、海文堂前の路上(笑)。両極
端のカラーながら、両者とも神戸圏内で独自の魅力を放つ版元です。この機会
にぜひ。
 なお、『神戸ハレルヤ! グルめし屋』には、「本文よりも長い」と噂され
る、エンテツこと遠藤哲夫さん入魂の解説が収録されています。

海文堂書店
078-331-6501
http://www.kaibundo.co.jp/

★「古本屋の書いた本」展
 4月21日(木)〜24日(日)まで、東京古書会館2階・情報コーナーで、「古
本屋の書いた本」展が開かれます。戦前から現在まで、古本屋が著書となった本
を一堂に集めるとのこと。
 また、23日(土)2時から、八木福次郎、青木正美、小林静生の三氏による
「古本屋の著作を語る」というトークショーが行なわれます。この三方は、『東
京古書組合50年史』(1974年)の資料収集,執筆にあたられた、古本界の最長
老です。50年史からすでに30年。ひょっとしてこの場で、100年史編纂に賭け
る意気込みが語られるかも。

★紙芝居と詩の教室
 大阪・北浜の「アトリエ箱庭」の催しをご紹介。
 現在、詩人の小野原教子さんによる「詩あさって 詩の教室のための造本展
示」が行なわれています(4月30日まで)。午後1時〜8時まで。月・土休み。
 最終日の30日(土)4時半〜6時には、小野原さんが講師で、第一回「詩の
教室」を開講します。テーマは「北園克衛とその周辺」です。受講料2000円。
 また、4月28日(木)8時より、漫画家の森元暢之さんによる「よるの紙芝
居」を上演します。ぼくも一度見たコトがありますが、絵も語りも素晴らしい
です。あと、「落語付き」です。木戸銭500円。
 教室、紙芝居とも要電話予約。
 
アトリエ箱庭
大阪市中央区北浜1-2-3 豊島ビル3階
(京阪北浜駅30番出口より東へ徒歩4分)
電話 06-6203-5877

なお、ココに載せられなかった新刊、イベントなどの情報は、随時以下に
掲載しています。ときどきご覧ください。
「ナンダロウアヤシゲな日々」
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/

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■大阪豆ごほん  福島杏子(ちょうちょぼっこ)
(17)なつかしい店との再会
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 アートン社のPR誌『あとん』(2005年2月号)の「小特集・絵本の世界◎
対談・江國香織+荒井良二」を読んでいると、なつかしい名前を発見した。
「HAPPY OWL」という名前。

 そこは、吉祥寺の商店街を抜けて、大通りから一歩入る少し奥まったところ
にあった絵本屋さんだった。吉祥寺もまだ今のようにごみごみとした街ではな
く、ひのきの浴槽を作る店、猫がレジ横で寝ている本屋、畳屋、卵屋などが並
んでいた頃だった。まだ小さかったわたしは母に連れられてよく通った。この
作家の本が好きというこだわりもなかった頃で、幼心にもちょっと普通の書店
とは違う楽しい本屋と感じられ、訪れる日を心待ちにしていた覚えがある。

 古い記憶をたどった印象では、縦長の店舗で壁面に本棚が設置され、中央は
低い本棚だったため、いたって見通しがよく、明るかった。そこでもらったシ
ールは、朱色の1色刷りで線画の眼の大きなふくろうの絵がちょこんとたたず
みかわいらしく、使うのが惜しかったため未だに手許に残している。

 突然、店がなくなってしまったことが残念で、「あの店長さんはどうしたん
だろう」「お店はなんでなくなってしまったのだろう」と小学生のわたしはそ
の前を通るたびにぼんやり考えた。いや、店を偲ぶ思いは吉祥寺を離れた今で
も残っていて、「HAPPY OWL」の手がかりをつかみたいと常々考えている。ずい
ぶん前にお店が閉店してしまったため、ネットで検索をかけてもほとんど情報
はない。だからより一層、今回の『あとん』での発見は古い友人に偶然再会す
るかのようにうれしかった。

「HAPPY OWL」は閉店したが、うれしいことにその後も吉祥寺には「おばあちゃ
んの玉手箱」や「トムズボックス」など絵本を専門とする書店ができた。「HAPPY
OWL」が絵本専門店の土壌を築いたためかは分からないが、独自の視点で絵本を
扱う書店がいくつもある街は、まだこれからいい意味での変貌の可能性がある
ように感じられる。

〈ふくしま・きょうこ〉
貸本喫茶ちょうちょぼっこのメンバー。4月1日、俗に言うエイプリルフール
にちょうちょぼっこは満4歳を迎えた。だからといって、イベントをするわけ
でも祝うことすらしないわれわれだが、年月を重ねるとその数字の持つ重量だ
けは感じられる。5月末には、タコシェさんとのイベントをちょうちょぼっこ
で開催予定。それに伴い『ミニコミガイドブック』(仮称)も制作中。

貸本喫茶ちょうちょぼっこ
〒550-0014 大阪市西区北堀江1-14-21 第一北堀江ビル4F
地下鉄四ツ橋線四ツ橋駅下車6番出口西へ徒歩2分/地下鉄長堀鶴見緑地線西
大橋駅下車徒歩5分
金  :18:00〜22:00/土日:13:00〜21:00
http://www.nk.rim.or.jp/~apricot/chochobocko.html

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■酒とつまみと営業の日々  大竹聡
(23)息上がる5号納品・体は大丈夫かの頃
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『酒とつまみ』4号もひとまず好調となれば、5号の編集製作を何より急がな
くてはならない。4号の出荷が1月半ばだから、なんとか5月に、というのが
当初の目標だった。しかし目標達成できないのがクセみたいになっている小誌
のこと、4月後半にさしかかると、発行延期を決断せざるを得なくなった。

 とかなんとか言ってるが、決断したのは私ではなく編集Wクン。なんとか頑
張ろうな、などと言いながら一向に作業の進まない私の状態を見ての判断な
のであった。申し訳ない。
 そして5号が印刷所から納品されてきたのは、当初の予定からほぼ3週間遅
れた平成16年6月の23日のこと。憂鬱な納品である。

 以前にも書いたが小誌の仕事場はエレベーターなしの雑居ビルの4階にある。
わずか5000部とはいえ、これを手作業で4階まで上げる仕事量はかなりのもの
で、配送担当のオジさんも(若い人3人くらいで来てくれると助かるのだが)
ヒーヒー言っている。
 そして誰よりもヒーヒー言うのが私だ。Wクンは私より若いし、サッカーの
試合などにも出ているから丈夫。デザインのIさんも日頃から体調管理をして
いて、私より先輩なのに痩身でまだまだ体が動く。最年長のSさんはそろそろ
大バテしそうなものだが、ラグビー部で鍛えた体に加え、カメラマンとして日
々重たい機材を担いでいるからか、これまた私に比べたらエライ丈夫。

 梱包を4つほど抱えて階段の登り降りをするのに、2往復目にはすでに息が
上がっているのが私。ご年配の配送担当者さんは、腰に来ちまったななどと言
いながら、あんまり真剣に往復しないなんてケースもある。
 私は肩身が狭い。何度か往復するうち、私だけが周回遅れになり、それでも
ゼーゼーと喉を鳴らすから、もういいよお前は、ちょっと休んでれば、みたい
な雰囲気にもなる。
 汗が出る。息が上がる。二日酔いだからなんだけれど、それにしてもこの体
調やいかに、と思わんでもないのだ。私とて少年野球に打ち込み、高校時代は
ヘタクソだったけれどサッカー部に籍があった身。情けない。

 結局、納品で役立たずぶりを遺憾なく発揮した私は、読者ハガキの挟み込み
に精を出すことになるのだが、この頃になるとアラ不思議。息は整い、汗は引
き、心なしか喉も渇いているような粋な気分。こっそり冷蔵庫からビールを取
り出すやプシュ! おお、納品おめでとうなどと叫ぶ。まったくこの男は。そ
んな視線も感じるけれど、そこはほら、『酒とつまみ』であるからして、みん
な飲むわけなのである。

 だから、いけない。みんなは体が動くからいいが、私の場合、本当に反省が
必要なのである。なにしろ、このときの絶不調はその後も続き、2週間後、ほ
ぼ10年ぶりの血液検査の結果、γ−GTP535を通告されたのである。500く
らいの人たくさんいますよって、800くらいの人に言われると情けないってこ
とも、この頃知ったのだった。

〈おおたけ・さとし〉『酒とつまみ』編集発行人
目下、第7号の取材編集作業に加え、酒とつまみ初の単行本となる『ホッピー
マラソン』の準備にも追われて飲みまくりの日々。この単行本、これまでの連
載をそのまま掲載するだけでなく、サービストラックもご用意したいと思う次
第。だから飲みまくり。体大丈夫か状態は1年続いているわけであります。
http://www.saketsuma.com/

ついにブログに進出!「『酒とつまみ』三昧」、見てね。
http://blog.livedoor.jp/saketsuma/

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■版元様の御殿拝見  塩山芳明
(31)読書人の巻  “図書館業界紙”発行元の平凡なビル
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 懐かしい景色だ。神保町は「信山社」、雑誌コーナー一番上の角に、『週刊
読書人』と『図書新聞』が立て掛けてある。70年代から既に、“どこで売って
誰が読んでる?”といぶかられてた『図書〜』はともかく、80年代前半までは
見慣れた売場構成で、“売春シティ”西川口の、エロ本メインの零細書店でさ
え例外ではなかった。70年代だとコレに『日本読書新聞』、増刊の『ドミュニ
ケーション』なる訳の分からぬ物件まで加わり、お茶の水駅の鉄道弘済会売店
(現KIOSK)でも買えたとは、以前本連載で書いた(で、「信山社」の店
員、「お金はこの皿に…」といちいち命令すんな。出すまでは俺の銭。好きな
場所に置かせてもらう)。

『週刊読書人』の発行元、(株)読書人は、地下鉄東西線神楽坂駅2番出口を
出て、信号を渡ったすぐ左(正面に新潮社部落のインウツな影)。神楽坂ロー
ズビルディングの4階だ。7階建てのビルは、自己主張の少ない、中国産の安
物の本棚のように平凡(1〜2階が「シャノアール」系の「ベローチェ」。3
階が「ミュージカル工房・天狼プロダクション」。芸事の街らしい?)。訪れ
たのは4月4日の昼飯時だが、眼を引いたのは同ビルより、道を隔てた「ブッ
クスミヤ」。シャッターが。3月末で閉店したと。やっぱり。頑張ってたけど
(一生懸命振りがうるさくもあったが)。笑っちゃ悪いが笑っちゃったのが、
改装後に「文鳥堂書店」が開店との貼り紙。「ジュンク堂」だ「紀伊國屋」だ
とは、全く無縁なレベルでの書店間の興亡だ(元々丁寧な「文鳥堂〜」店員の
カバー掛けが、益々念入りになりそう。何せ人通り少ないし)。

 今でもその傾向は強いのだろうが、『週刊読書人』は『出版ニュース』同様、
“図書館業界紙”のイメージが。高校時代、図書館の熟女司書が発売予定表に
よく赤丸を(これ有料なのに、版元の了解を得ずに掲載してトラブったと、か
つて『噂の真相』で取り上げられてたが、今は?)。一方1〜2面は昔からミ
ーハー。70年前後は竹中労、太田竜、平岡正明らが頻繁に登場。木造だった
富岡市立図書館にも完備されてて、「やっぱし東京へ行かなくっちゃあだめだ
んべや」と、“北関東の自称左翼少年”の純な心を煽った(今となれば隣のラ
ックにあった、地元の共産党市議で詩人の、高瀬豊二がガリ版で発行していた、
『甘楽農民新聞』こそ念入りに読むべきだったと反省。後の祭り)。

 同紙は図書館、ごく一部の物好きな定期購読者(失礼!)の他に、もう一つ
有力ルートを。各地の老舗書店の、優良顧客へのグリコのオマケだ。これが一
番安定してたのではと推測するが、「ブックスミヤ」に見られる通り、今とな
ればデメリット面かも(経営は、人文系の有力な版元が持ち回りで関係してた
と。まだンな余裕ある出版社が?)。

 田舎の“インテリ気取りの発情ガキ”にすれば、“図書館業界紙”より、『日
本読書新聞』の方がハチャメチャで面白かったが、その体質も原因で早々と消
滅。『週刊読書人』も90年代に入ると、ほとんど“とき”のような存在だった
が、強引な厚化粧を繰り返し、しぶとく生き残ってるのは立派(俺の編集して
るエロ漫画誌も似た状態で、身につまされる)。手元の4月1日号は特価280円。
年間購読料は11500円(50週で割ると230円)。一般定期購読者のイメージが、
どうしても思い浮かばない(我が大スポンサー、一水社の女王様崇拝誌、『家
畜人』なら即浮かぶが。同誌は惜しくも数年前に廃刊。尚、同社は新右翼の一
水会とは全く無関係)。 

〈しおやま・よしあき〉エロ漫画編集者。編プロ「漫画屋」を率いる。著書
『嫌われ者の記』『現代エロ漫画』(一水社)。なお、この連載に関しての批
判・苦情・お叱りは筆者本人まで、どうぞ(ただし、謝るとは限りません)。
mangaya@air.linkclub.or.jp
http://www.linkclub.or.jp/~mangaya/

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■かねたくの読まずにホメる 金子拓
(32)競馬はロマンだ
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大江志乃夫『明治馬券始末』紀伊國屋書店、2005年3月、1800円

 寺山修司ではないけれど、競馬はロマンだ。
 一攫千金の夢は当然のことながら、それが叶わなくたって、馬に、騎手に、
レースに、ドラマを見る。競馬は、近代になってから軍馬改良という目的のた
め国家的・軍事的見地で導入された。そうした初期の頃に遡れば遡るほど、ま
すますロマンを強く感じてしまうのは私だけだろうか。

 たとえば競馬場。明治維新直後に設けられた横浜の根岸競馬場は、現在昭和
初年に建てられたモダンな競馬場のスタンド遺構が、廃墟さながら現存してい
る(現在は根岸森林公園のなかにある)。

 さらに明治十年代、上野不忍池には、池の外周を馬場とする競馬場があった。
ここを歩くたび、馬が池のまわりを走っていた明治を幻視してしまう。明治末
年から昭和初年にかけ、目黒には現在府中にある東京競馬場の前身目黒競馬場
があった。G2レース「目黒記念」はこの競馬場に由来する。

 目黒競馬場があったあたり(現住所は下目黒)は現在住宅地となっているも
のの、「元競馬場前」という都営バスのバス停の名前として名残をとどめ、バ
ス停付近には競馬場跡を記念する馬の銅像が建てられている。さらに付近の住
宅地に踏み入れると、競馬場の馬場跡だというゆるやかな半円形を描く路地が
あり、ここでもまた競馬場のまぼろしを見ることができる。

 馬券についての挿話も面白い。戦前の馬券は高かった。大正時代には一人一
枚という制限もあるうえ、当たっても配当は10倍を上限とした。『値段の明治・
大正・昭和風俗史(上)』(朝日文庫)によれば、大正12年の馬券は一枚20円
(「勝馬投票券」項は岩川隆氏執筆)。

 現代の物価と比較できる物差しを例示するのは芸がないので、変わったとこ
ろを示せば、同時期の「遊女の揚代」が3〜10円(吉原大店の最高料金)、「芸
者の玉代」が2円。馬券一枚が芸者遊び10回分に相当する。映画に至っては封
切館で30銭である(いずれも前掲書)。

 だから懐に余裕がない一般庶民は、同じ目を買う見知らぬ者同士が集まり、
共同出資で一枚の馬券を購入する。夢を担った一枚の馬券を握る人物の勝ち逃
げを許すまいと、彼らはお互い手をつないで円陣をつくりレースが終わるまで
観戦していたという。競馬場のあちこちに円陣を組んだ集団の花が咲いていた
わけだ。

 そんなこんなで、草創期の競馬には、暗い軍隊の記憶以上に、不思議とワク
ワクしてしまうような要素がひそんでいる。本書『明治馬券始末』で取り上げ
られる舞台がたとえどろどろした政治の裏側であっても、競馬を対象としてい
る以上、期待してしまうのである。

〈かねこ・ひらく〉サイト「本読みの快楽」運営。本業は日本史研究者。とう
とう花粉症にかかってしまったような。でも風邪の症状と複合しているので、
まだ自分では認めていません。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~kinko/index1.htm

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コメント
はじめまして。吉祥寺のハッピーオウルでたどり着いた者です。親父がやってた店でした。当時の写真を見ると、ジャックキーツ、若き日の、のんたんのキシノさんも来店してたみたいです。覚えてくれている人がいるのが嬉しくて、コメントしてしまいました。
| ハッピーオウル | 2014/09/27 1:08 AM |
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|  るる☆女を語ってみました。 | 2005/06/13 11:19 AM |
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