[書評]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
<< [書評]のメルマガvol.282 | main | [書評]のメルマガ vol.284 >>
[書評]のメルマガ vol.283
■■------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ     2006.10.11発行

■          vol.283
■■  mailmagazine of book reviews  [ まな板に興奮 号]
■■------------------------------------------------------------
[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。秋もいろいろありますよ。
★新連載「たった一本の本棚から」岡田@川崎追分町
 →病気療養の日々を綴ったあのブログの主が、大事に読んでる本の話。
★「大阪豆ごほん」福島杏子(ちょうちょぼっこ) 
 →大阪のふたつの「本スポット」から届く、楽しくて美味しいお便り。
★「食の本つまみぐい」遠藤哲夫
 →〈大衆食堂の詩人〉エンテツが料理文化史の重要本を紹介します。
★「酒とつまみと営業の日々」大竹聡
 →各方面で話題沸騰のミニコミ「酒とつまみ」の営業秘話です。大好評。
★「版元様の御殿拝見」塩山芳明
 →新幹線通勤中に毎日一冊は本を読む男が版元の社屋を徘徊します。
★「楽しみと日々 古書展と書簡をめぐるあれやこれや」つばめ
 →やたらと本に詳しい謎の人物「つばめ」による書誌探求の余談です。

*本文中の価格は、すべて税抜き(本体)価格です。

-------------------------------------------------------------------
■南陀楼綾繁のホンのメド 
新刊、古書、マンガ、雑誌、ウェブサイト、書店、イベントの近事雑報
-------------------------------------------------------------------
★秋も一箱古本市
 2005年にスタートした「不忍ブックストリートの一箱古本市」、今年は秋
もやります。今回の大家さんは4箇所で、店主は50人。箱の中身は十人十色。
本で埋まった箱もあれば、一風変わったモノを売る箱もあります。本が好き、
本も好き。そんな店主こだわりの箱が、谷根千のカフェやお寺に集まります。
本と人、出会いを探して街を歩けば、ちょっぴりいいこと起こるかも。

10月22日(日)11:00〜17:00 (雨天決行)
場所 イマーゴ、ライオンズ・マンション、宗善寺、まるふじ

関連イベント
(1) のこぎり演奏: 神出鬼没に現れます。
(2)琵琶演奏: 谷根千をこよなく愛す、琵琶奏者さんです。
(3)谷根千写真展: 千駄木交流館にて
(4)人形展覧会: ブーザンゴにて

詳しくはブログをご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/seishubu/

なお、谷中では10月14日(土)〜23日(月)まで「谷中芸工展」も
開催されます。街中がアート一色になるイベントです。
http://www.geikoten.net/

★うらたじゅん原画展
 北冬書房から9月に作品集『嵐電 RANDEN』が出版されたのを記念して、大
阪・淀川沿いの町、枚方の古本屋さんで、うらたじゅんさんの「ささやかな原
画の展示会」が行われています。「入りにくい」と噂のお店、堂々の大義名分を
携えて、覗いてみては。

10月7日(土)〜11月5日(日)(月曜定休)
古書 風流夢苑
大阪府枚方市岡山手町10-6
営業時間 10:30〜20:00
(「念のためご連絡の上お越し下さい」とはウェブサイトの弁)
TEL: 072-846-2127
http://www8.ocn.ne.jp/~furyuu/

★永田収写真展「神戸昭和51年」
神戸や大阪の下町を歩いて、飲んで、写真を撮るミニコミ『SANPO 下町通
信』を発行する永田収の写真展。トンカ書店は、ちんき堂の戸川昌士さんや中
村よおさんといった神戸のオッサンたちにも愛されている古本屋です。店内に
はバートン・クレーンがかかっていて、コーヒーや幻の飲料水ネーポン(残念
ながら今年で製造終了)を飲めます。

期間 10月18日(水)〜31日(火) 12:00〜20:00
場所 トンカ書店(トアロード・ウエスト) 078-333-4720

★小松崎茂展
SFイラストレーターの元祖、小松崎茂(大正4年−平成13年)が手がけ
た切手発行に伴う郵趣品をはじめ、初公開の初期日本画プラモデルのパッケー
ジ、特撮映画のデザイン資料など500余点を一堂に展示し、その足跡をたど
るもの。弟子の根本圭助氏による講演会(10月14日)や、小松崎原作の映画の
上映会もあり。

期間 10月7日(土)〜12月3日(日)
  休館日 月曜(祝日の場合は翌日)
場所 逓信総合博物館
   千代田区大手町2−3−1 TEL03−3244−6811
http://www.teipark.jp/

★『モツ煮狂い』を買いに走れ
ミニコミ『モツ煮狂い』第一集(平成烏有堂)は、表紙が『酒とつまみ』の
確信的なパクリなのに笑ってしまう。内容は東京の居酒屋20店のモツ煮を紹介
したもの。サブタイトルに「東京『都市郊外』のフォークロア」とあるが、こ
の「郊外」は戦後、東京西部に拡大していくそれではなく、明治以降の近代化
によって工場が広がっていった「浅草以東、曳舟から立石にかけてと、折り返
しの町屋への京成トラインアングル」を指している。店のセレクトや、そこで
出しているモツ煮についての説明も判りやすく、食欲をそそる。東向島の〈丸
好酒場〉や滝野川の〈高木〉にすぐにでも行きたくなった。巻末には、家庭で
できるモツ煮のつくり方まで入っており、イヤすごいっすよ、これは。32ペー
ジを舐めるように読んでしまった。350円は安い。いまのところ、神保町の
〈古本お休み処 ダイバー〉にしか置いてないらしいので、神保町に行ったら
同店に買いに走るべし。

古本お休み処ダイバー  
千代田区神保町2ー12 TEL&FAX 03-6657-3277

★竹内通雅・絵本原画展/たこたこふうせんトマトマトのできるまで
新作絵本「たこたこふうせんトマトマト」(架空社)刊行とあわせて、原画
展と絵本のできるまでを楽しくお見せします。

10月17日(火)〜28日(土)
*10/20(金)「ツーガ&デロリン ライブ&トーク」
竹内通雅によるライブ&トーク(入場無料)
open 18:30 / start 19:00 / close 20:00 
予約は popotame@kiwi.ne.jp までメールにて。

会場 ブックギャラリー ポポタム
東京都豊島区西池袋2−15−17
03-5952-0114 日・月休み 12:00〜18:00
http://popotame.m78.com/shop/

★太田順一写真展[大阪24区]
 大阪のコリアンタウン、ハンセン病療養所などに住む人を撮り続けてきた写
真家が、『化外の花』で都市の中の花を撮るようになった。そして今回は、大
阪24区の区分地図を片手に、路地から路地へと街歩きをして撮ったモノクロ
60点を展示する。
「季節の移ろいに触れるのが散歩なら、街歩きは人の世の変わるもの、変わら
ざるものを目の当たりにしていくことと作者はとらえている。感応する作者自
身の眼だけを頼りにひたすら歩いて撮った作品である」(サイトより)

新宿ニコンサロン
日時 10月17日 (火)〜23日 (月)
10:00〜19:00(最終日は16:00まで) 会期中無休
場所 新宿エルタワー28階・ニコンプラザ新宿内
03-3344-0565

大阪ニコンサロン
日時 11月9日(木)〜14日(火)
10:00〜19:00(毎週水曜休館)
場所 新サンケイビル1階・ニコンプラザ大阪内
06-6348-9698

★竹中英太郎を見よう
 弥生美術館で竹中英太郎の生誕100周年を記念する展覧会が開催中。彼の
挿し絵原画を中心に、当時の『新青年』『文芸倶楽部』『主婦の友』等の掲載雑
誌や装幀本、戦後の肉筆作品などの資料により、その多彩な挿し絵世界を紹介
するというもの。あわせて、同時代に活躍した橘小夢、水島爾保布、月岡夕美、
内藤良治等の作品も展示。

場所:弥生美術館
〒113-0032 東京都文京区弥生2−4−3
TEL:03(3812)0012
開催中〜12月24日(日)
開館時間: 午前10時〜午後5時
休館日: 月曜日(祝日にあたる場合は翌火曜日)
ギャラリー・トーク:11月12日(日)午後2時より
http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/index.html

なお、ココに載せられなかった新刊、イベントなどの情報は、随時以下に
掲載しています。ときどきご覧ください。
「ナンダロウアヤシゲな日々」
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/

---------------------------------------------------------------------
■たった一本の本棚から  岡田@川崎追分町
第2回 素敵にジタバタする人生
---------------------------------------------------------------------
四手井淑子『きのこ学騒動記 学問と主婦事情』海鳴社、1983

 前回は「豪快さん」な四手井綱英先生を紹介しましたが、今回は綱英先生の
奥さんの本を紹介します。奥さんの淑子さんは、先日の『探偵ナイトスクープ』
にも、綱英先生と一緒に出演し、「いいキャラ」を発揮されていましたが、彼
女は市井のキノコ研究家で、エッセイストでもあります。

 といっても、この本は、副題にもあるとおり、単なる「きのこエッセイ本」
ではありません。
(ネットで調べてみると、キノコ本専門の書評をされているサイトでも、「こ
の本はスゴイ本だ」と、とりあげられていました)
http://blog-yasutani.xrea.jp/booklog/2006/04/post_50.html

戦中から戦後をジタバタともがきながら、苦しみつつ生きた淑子さんの人生
が、馬鹿正直なほどストレートに描かれていて、一読、彼女の人生にひきつけ
られます。キノコの研究は大好きだし、ドンドンやりたい。でも、「たかが趣
味」と思われ、病弱の中、専業主婦としての仕事が山ほど降ってくるこの矛盾。

 大学教授の娘として、病弱なお嬢様として育った淑子さんは、戦後、営林署
に赴任した夫(綱英先生ですな)と共に山形に行き、そこで経験のない雪と寒
さに耐えながら、3人の子供を育てますが、なれない寒さからくる結核性の腰
痛に悩まされ、それは生涯の持病になります。
 そして、田舎暮らしの味気ない生活の中、ふとした山歩きで、色鮮やかなベ
ニテングタケや、サンゴのようなホウキタケを見て、その美しさに魅せられ、
キノコにとりつかれることになります。
 やがて夫は京大に召還され、彼女も京都にやってきます。そして、夫のコネ
もあり、研究者たちのキノコ収集行に混ぜてもらい、独学ながらキノコ学の勉
強を始めます。

 そして、娘が大学に入る。時は学生運動の季節で、娘は「労働者のための戦
い」に熱中し始める。家庭では、家事を母親にまかせっきりのまま。
 著者は「まず、母親を古い女の呪縛から解き放ったらどうや」と嘆くが相手
にもされない。あげくの果てには、娘は、「親の世話にならない」と宣言し、
卒業式の日に自分たちだけで結婚式をあげる。「子は可愛らしい悪魔」と著者
は嘆く。こう書かれると、親不孝な私も人ゴトとは思えない。

 その間にも、キノコの研究は独学で進む。タイに旅行して異国のキノコをみ
たり、西表でシロアリの巣から出るキノコを発見したり。
 ある研究者は「人間の死体から出るキノコもあるはずだ」と考え、彼から依
頼された著者は、それらしい場所をみつけて、殺人課に確認の電話をして大騒
動。
 そうこうしている間に、娘には子供が生まれ、「親の世話にならない」と実
家に戻ってこない娘の、産後の世話のために著者は、片道1時間半の道を通い
始めます。この理不尽さよ。

 一方、「豪快さん」の綱英先生も負けてはいません。気さくな先生の自宅は
学生たちがしょっちゅう出入りし、自由に飯を食べ、風呂に入っていく。その
世話はすべて淑子さんの仕事。
 綱英先生は、健康志向などなんのその。45度の風呂に入る。ご飯が茶色に染
まるまで醤油をかける。バターは本バターをコテコテに塗る。この「反健康食」
でも95歳のいま、ご健在なのだから、よほど体のつくりが丈夫なのでしょう。
 もっとも、綱英先生も、病弱な淑子さんを気遣う優しさもあったようで、支
えあって生きてきた夫婦ですね、このお二人は。

 エピローグでは、ずっと「元気で人の役にたちたい」と、子・孫のために気
丈に生きた淑子さんの老母の死が記されています。淑子さんは母の死に「凱旋」
という言葉を記し、そして、この本は終わります。
 
 この本の「読後感」は、淑子さんの人生そのものを、一緒に生きた感じです。
辛かったこと、苦しかったことも、彼女特有のクールな文体で書かれており、
恨みがましさを感じさせません。そして、キノコについての彼女の描写は、非
常に魅惑的で、読者は、どんなキノコも好きになってしまいそうです。

 天上の美のようなキノコの素晴らしさと、俗的そのものの主婦の毎日の対比。
 そういうこともあり、この本は、何を隠そう、私の生涯のベスト・オブ・ザ
・ベストな本なんです。
 彼女があけっぴろげに、「身内の恥」めいたことまで、全部書いてしまう
「馬鹿正直」な所が、私に似ているのも、この本に惹かれる理由の一つです。
(私のブログも、しょっちゅう妻に「こんなことまで書いて」と叱られてます)

 なお、海鳴社からは『きのこ学放浪記 晩学のすすめ』という続編が出てい
ます。晩年を迎えた淑子さんが、独学の限界に挑み、キノコの研究に励む日々
が描かれています。こちらも素敵にジタバタする本でお薦めです。子供たちも
みな独立し、綱英先生との1対1のバトルの日々も繰り広げられます。

 ところで、森まゆみさんの綱英先生への聞書本『森の人 四手井綱英の九十
年』(晶文社)には、淑子さんのことがまったくとりあげられていません。
「女子供の視線から文豪を逆照射」した名著『鴎外の坂』の著者がまた……。
 森先生には、是非、続編として淑子さんへの聞書本をお願いしたいです。で
なきゃ、私が京都までインタビューに行こうかな。なんて、病人には無理な話
なんですが……。

〈おかだ@かわさきおいわけちょう〉冷房病の上に、胃炎になりました。妻も
調子悪いです。神様、助けてー。

「腰痛日記@川崎追分町」
http://d.hatena.ne.jp/kokada_jnet/
---------------------------------------------------------------------
■大阪豆ごほん  福島杏子(ちょうちょぼっこ)
(32)猫の骨、人の骨
---------------------------------------------------------------------
東京に住まいを移して半年が過ぎる。引越し早々、5年半の歳月をともにし
てきた猫のこたつが死んだ。引越してから体調が悪そうだったので、検査入院
をしたのだけれど、入院したその日の夕方、様態が急激に変化してあっけなく
逝った。テレビでよく見る人間の危篤状態とおんなじで心拍の画面、ピーピー
という低い音が病室に鳴り響く中、心臓マッサージを受けていた。そんな治療
を遮る言葉を発することもできずただ見守るしかなかった。抜け殻となったそ
の死体は、可愛がっていた姿とはまったく異なる物体であり、時間の経過と共
にしっぽの先から少しずつかたまりしまいには身体全体が重量をもった塊と変
化していった。いわゆる「死後硬直」、その意味を身をもって実感した。

埋葬してから1ヶ月くらい経過するともった土がへこんでいた。身体が微生
物によって解体されているだろう姿を想像すると不思議な気持ちになった。

ちょうどその頃、島尾ミホ『海辺の生と死』(創樹社)を読み返した。そこ
に「洗骨」というエッセイが収められている。奄美地方の風習で、亡くなった
人を埋葬した後、数年後に掘り返し、骨を丁寧に洗って清め、再び甕に入れ、
お墓に戻すという儀式。完全に骨だけになっていないものもあったはずだ。肉
片や髪の毛もまだ一部カタチとして残っているだろうから、相当生々しくうつ
っただろう。幼かった島尾ミホは「私はそのお骨の人もかつてはこのようにし
て先祖の骨を洗ったことでしょうと思うと「ユヤティギディギ(世は次ぎ次ぎ)」
という言葉が実感となって胸にひびき、私もまたいつかはこのようにしてこの
小川の水で骨を洗って貰うことになるのだと、子供心にもしみじみと思いまし
た。」と述べている。

生と死のどぎつい部分を極力消し去ったお葬式や法事といったものになれて
いる身にとっては、人間も死後少しずつ微生物によって解体され、土に戻って
いくいきものであるという事実にハッとした。至極とうぜんのことではあるが、
頭になかった。

家の庭にこたつを埋めようと土を掘っていた時に、白い細かい石のようなも
のが出てきて気にせず掘り続けたが、ふとそれが2年前に8歳で病死した白猫
のミルの骨ということに気がつき、悲しみより先に骨がまだまだカタチとして
残っていることに驚いた。そうやって肉体は分解されていくのに、いったい魂
はどこへ行くのだろうかとぼんやり考えている。

〈ふくしまきょうこ〉
貸本喫茶ちょうちょぼっこのメンバー。
12月にお世話になっている方に誘われて、東京銀座というオトナな場所で夜中
まで開くことになりそうなイベントを企画中。女子限定の会合も計画中! 詳
細は近いうちにちょうちょぼっこのサイトでお知らせします。

貸本喫茶ちょうちょぼっこ
〒550-0014 大阪市西区北堀江1-14-21 第一北堀江ビル4F
http://www.geocities.co.jp/chochobocko/
*営業日は、第1〜3週末です。 金18:00-21:00、土日13:00-21:00

---------------------------------------------------------------------
■食の本つまみぐい  遠藤哲夫
(20)まな板に興奮しちゃったよ
---------------------------------------------------------------------
石村眞一『まな板』法政大学出版局2006年3月

 本文316ページに図版328点、全部まな板。しかも、ほとんどは台所や店頭
あるいは調理の風景の中にある。それがですよ、中国の殷の時代から現在のス
テンレスの流しの上のプラスチック製まで。著者が実際に足を運んでの写真は、
日本もちろん韓国、中国は上海などの都会から新疆ウイグルやチベット、東南
アジア各国、中央アジア、イランにトルコ、ヨーロッパ……。一枚の写真が語
ることの多さって、本当にスゴイ。図版に興奮し夢中になり、著者の話が、ま
たオモシロイ。

「まな板とは、食物を包丁で調理する際に用いる道具で、食物を上に置いて手
で固定し、切る際に包丁の刃を保護する機能と、切り取った食物が散逸しない
機能を持つと定義づけることができる」というのも、まな板を使わない手で固
定しない、それで切る調理をする地域もあるのだ。そして、とくに多くの日本
の食文化の話では、神事や伝説と実際の歴史がゴチャゴチャになって、すぐ
「元祖」がどうのこうのという神秘的なイイカゲンな話になるのだが、そうで
はない。調理用の「まな板」と祭祀用の「俎」を同じジャンルとしながらも機
能的に区別しながら書いている。じつにまな板に忠実なのだ。

「『サザエさん』に見る台所とまな板」では、1946年(昭和21)4月福岡県の
『夕刊フクニチ』から始まる連載をチェックし、著作権の関係で図版は使えな
いので「調理台の上にあり、サツマイモが上に置かれている」といったように
70年までの44例を紹介し、台所の変化と合わせて詳細に検討する。そして「昭
和三十年代以降の生活描写は、世の中の流行からすこし遅れて新しい道具や装
置を取り入れている。その代表がキッチンセットや足のないまな板である。こ
の少し遅れた生活の近代化と、一見ちぐはぐに見えるその対応が、高度経済成
長期で見かけだけ近代化を展開した日本人のギスギスした生活に癒しを与えて
くれた」と指摘する。

 また、「日本人の階層観は、俎・まな板の大きさ、材質、足の形状等といった
要素と共に……使用時の姿勢にまで及んでいる」それが明治以後変化し「特に
家庭用まな板の階層性はより狭くなってきている」なんていう分析もしている。

 本書は、法政大学出版局の「ものと人間の文化史」シリーズの一冊であり、
著者は「物質文化研究という範疇でまな板を見ていることには違いないが」
「文化史といった領域では特異な見方かもしれない」というが、オタクっぽい
特異性こそが、じつに興奮的にオモシロイのだ。とにかく、おれがガキの頃は、
足のついたまな板だったと思い出した。

〈えんどう・てつお〉フリーライター。連載も絶え失業状態。長い間お世話に
なった西日暮里の竹屋食堂閉店。ミニバブルで飲む機会増え。

「ザ大衆食」 
http://homepage2.nifty.com/entetsu/
---------------------------------------------------------------------
■酒とつまみと営業の日々  大竹聡
(41)バカもほどほどにしろよ
---------------------------------------------------------------------
 何もできない、何も進まない。そんな日々を送っていた2006年3月は、そ
れでも、もういいかげんに、さすがにどうも、『酒とつまみ』8号を入稿しな
くてはならないときなのであった。7号の発行は、前年の夏。ああ、早くしろ
よ、本当に。そういう感じなのであった。でも、できない、進まない。

営業はすべて、受身形だった。
 編集部の電話は、ごくごくたまにではあるけれど、鳴るのである。
「○△書店ですが、『酒とつまみ』っていう雑誌はそちらで出してますか」
「はい、出しております」
「お客さまからの問い合わせですが、次の号はいつ出るのですか」
「あ、次の号ですか? えーっと、それは、なんと申しますか、もうすぐ」
 なんて、間の抜けたことを言うのは私だ。

もうすぐじゃない。なにしろ、まだ入稿していないのだ。だから正確には、
いましばらく、いやいや、チョイ先、いや、もっと先、いったいいつなんだ! 
って詰められたら
「私の一存ではお答えいたしかねます」
ってなことになりかねないのである。発行人の一存で答えられないのは、かな
りマズイ。

 マズイ、のだが、どうにも建て直しができない。この頃私は、毎日、酒場の
取材に追われていて、ただでさえ悪い頭に、ひっきりなしに酒が影響を及ぼす
ものだから、それはもう、なんというか、なんにも考えてない状態。手帳のメ
モを見てみれば、
〈この2ヶ月で5キロ痩せ(中略)、目がくぼみ、頬骨が出て、病気に見える〉
なんてことが書いてある。ある朝、鏡を見たときの感想なのだ。でも、それで
いて、腹が引っ込まないあたりが哀しいのだが。

 3月も下旬になった。何度、繰り返したか記憶にないほどのスケジュール変
更の挙句に決めた入稿日は28日。私はまだ、自分の担当分の原稿を書き終えて
いないし、すでに出ているゲラも読んでない。編集Wクンにも、デザインのI
さんにも迷惑をかけまくった(のんびり携帯メールなんかしているカメラのS
さんにはなぜか迷惑をかけられた)と確信しつつ、涙目で作業を進める。でも、
もう、あっぷあっぷ。酒に逃げる。

 入稿直前のある日、昼から飲んで夕方に馴染みのバーへ行き、すぐに帰れば
いいのに長尻をしたあげく、カウンターで眠り込み、大丈夫ですかと、マスタ
ーから声をかけられた。
「うるせえんだよ、バカヤロー」 
 記憶している話ではない。これは、後日聞いた、そのときの私の台詞である。

バカもほどほどにしないと……。と、思いながら、マスターに暴言の詫びを
言ったのは、『酒とつまみ』8号の入稿を終えた、29日未明のことであった。

〈おおたけ・さとし〉酒とつまみ編集発行人
『酒とつまみ』からの初の単行本『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』
の発行を記念したトークイベントを、ジュンク堂書店新宿店にて開催していた
だきました。作家の重松清さんにナビゲートをしていただき、なんとか終える
ことができました。イベントの後は飲んだなあ、本当によく飲んだ。へとへと
でいてなお、とても、うまい酒でした。
http://www.saketsuma.com

ブログ「『酒とつまみ』三昧」
http://blog.livedoor.jp/saketsuma/

---------------------------------------------------------------------
■版元様の御殿拝見  塩山芳明
(51)ティーアイネットの巻  4流業界紙向けの“御殿”
--------------------------------------------------------------------- 
 米国とキューバ、朝日新聞社と新潮社、三波春夫と村田英雄と、どの世界に
も天敵はシッカリと。もちろんエロ漫画業界にも。ティーアイネットと松文館
だ。営業的規模から言うと、“枕本”(やたら厚い平とじ漫画誌の総称)『MU
JIN』を筆頭とする前者が圧倒的だが、ビューティー・ヘアの単行本、『蜜
室』への国家権力の弾圧で、松文館がこうむった金銭的被害は、数億とも伝え
られるので、同情の余地も。
 
 両社のいさかいの始まりは、よくある例で売れっコ漫画家の奪い合い。その
確執の山場で起きたのが、発禁事件。後に裁判で発禁のきっかけが、元警視庁
保安第一課長の代議士、平沢勝栄の策動にあった事が明らかになるが、当初松
文館は、ティーアイネットにチクられたと、真剣に考えていた節が。疑惑は晴
れたものの、松文館の貴志社長が裁判闘争の道を選んだため、ティーアイのみ
ならず、既存のエロ本系版元と同社の間には、深〜い溝が。

 天敵同様にどの世界にも必ずいるのが、“こうもり”。両者に取り入り、小
銭を儲けようとの姑息な存在。我が漫画屋の事だ。松文館からは数年前から単
行本を、ティーアイからは半年程前から隔月漫画誌を受注。御想像通り、松文
館に行くとティーアイの、ティーアイに行くと松文館の、虚実入り乱れた悪口
の吹かしまくり。

 今日は貴志社長をコケにする番。うっかり高橋社長をけなしたら大変と、己
れに言い聞かせながら下りたのが、地下鉄半蔵門線の表参道駅。渋谷にあるの
が、いかにも新世代のエロ本屋系版元(松文館は池袋。当然近く同社も)。青
学前を通過し左折、左に同大高等部を眺めながら、通り右側をテクテク。Ja
zz&coffeeの「SEA BIRD」(コーヒー500円)の先を右折した
右側、野村ビル3階に同社は(渋谷区渋谷2ー4ー6)。同ビルは4階。1階、
向かって右はそばの「砂場」。左には「青柳菓子店」。間の階段は(エレベー
ターなし!)、北関東のやせたたんぼのあぜ道のように貧相で狭く、「こ…こ
んな汚いトコに、本当に『MUJIN』編集部が…?」と、田舎から上京した
ての、新人持ち込み漫画家ならずとも思う。

 ティーアイは3階に編集部、2階に倉庫が。どっちかにまとめたいトコだろ
うが、各々に建築・都市ワークショップ、免疫抗体食品研究所なるSFっぽい
団体が(アチラも同様な思い?)。ビルの外見は茶色で、既に築30年は経過か。
共同トイレも暗く小汚く、ウンコしてて誰かが小用に来たら、痔持ちは特に大
変だろう。

 入口のプレートにティーアイの名前はあるが、事務所ドアにはなんの表示も
ない(他の入居者も)。ハッキリ言って4流業界紙向けの“御殿”。確かに3
流エロ漫画界の版元だが、枕本『MUJIN』での圧倒的な業界シェアを考え
ると、松下幸之助の孫が、山谷の木賃アパート住まいしてる感も。下請けとし
ては、こういう慎重な版元が、仕事先としては一番安心だが…(スポンサー筋
ゆえ、今回は表現がかなり甘くなってます)。  

〈しおやま・よしあき〉エロ漫画編集者。編プロ「漫画屋」を率いる。著書
『嫌われ者の記』『現代エロ漫画』(一水社)。『嫌われ者の記』をベースにし
た新刊『出版業界最底辺日記 エロ漫画編集者「嫌われ者の記」』(ちくま文
庫)が好評発売中。
なお、この連載に関しての批判・苦情・お叱りは筆者本人まで、どうぞ(た
だし、謝るとは限りません)。
mangaya@air.linkclub.or.jp
http://www.linkclub.or.jp/~mangaya/

-------------------------------------------------------------------
■楽しみと日々 古書展と書簡をめぐるあれやこれや  つばめ
第9回 柏崎のほうへ その1
-------------------------------------------------------------------
 ことしの6月4日、地下室の古書展で、「前日」三茶書房で買い求めていた
『銀杏子句集』と引き換えのように、林哲夫さんから新著『文字力100』(み
ずのわ出版)を頂いた。

 そのあと、青空にたちまち暗雲がたちこめたような、悲しむべきできごとが
おきて、予定よりかなり遅れた新幹線の車中でぽつりぽつりと読み進める。こ
の本は読む人を夢想に誘う。忘れていた書物の記憶を呼び起こす。あらかじめ
失われた書物さえもよみがえる。

『夢應の鯉魚』(細川文庫)、串田孫一『若き日の山』(現代知性文庫)、漱
石の縮刷本、江戸時代の袖珍本、『柳北遺稿』(寸珍百種)、幸田露伴校訂『夢
想兵衞胡蝶物語』(袖珍名著文庫)、『邯鄲諸國物語』(日本文藝叢書)、『梅暦』
(袖珍文庫)、沼波瓊音校註『校註つれづれ草』(車上叢書)、『人耶鬼耶』(袖
珍大川文庫)、『レディースマン(一名ベラ、ミー)』(アカギ叢書)、『新譯
西廂記』(カナメ叢書)、『ユリシーズ』(岩波文庫)、プルードン『貧困の
哲學』(改造文庫)、『小型映畫の撮影と映寫』(十銭文庫)、『滿洲國遊興行
脚』(誠文堂文庫)、『即興詩人』(春陽堂文庫)、『ダンサー』(日本小説文
庫)、『魔に憑かれて』(世界名作文庫)、『木の十字架』(新潮文庫)、辻野
久憲訳『地の抄』(山本文庫)、伊吹武彦著『失はれし時を索めて』(名著研
究文庫)、澁川驍『龍源寺』(版画荘文庫)、『心の間歇』(世界文庫)、オス
トロフスキー『雷雨』(世界古典文庫)、清水幾太郎『宣傳・煽動・群衆』(ア
テネ文庫)、五來達訳『失われた時を索めて』(三笠文庫)、加藤楸邨『旅と
俳句』(近代文庫)、『強情いちご』(新小説文庫)、松井須磨子『牡丹刷毛』
(甲陽文庫)、『ダロウェイ夫人』(河出文庫特装版)、源氏鶏太『まだ若い』
(文春文庫)、『如何なる星の下に』(高見晶子私刊)。林蘊蓄斎(Hayashi
Unchi-kusai)著『文庫力100 b-unko-riki hyaku』。

 それにしても、林さんは、いつのまに、画家の眼力に加えて、かくも見事
にして手堅い解題力を身につけたのだろう。かつては『ニッポン文庫大全』
(1997)所収の「文庫の顔つき」に見られるごとく、「和田英作〔三造の誤り〕
の手になる旧角川の図案」という記述があったりしたというのに。

 続けて、前日の和洋会で拾った吉田小五郎『私の小便小僧たち』(コスモポ
リタン出版社)を読み始める。最初のエッセイから、林さんの眼と通じるもの
を感じる。ほのかなアイリスの匂い。いまはもう入市税関事務所としては使わ
れていない小さな建物の、外壁のひんやりとした黴くさい匂い(そういえば、
林さんの俳号忘茶庵のいわれをわたしは忘れてしまったが、漱石が亡くなった
夜、夏目家の小さな離れのはばかりで、坊主頭の岩波茂雄がぼうちゃあんと落
っこちた故事にちなんだものだったかしら。)。

 画家に書物の装釘をたのんだ場合、多くの画家は一にも二もなく絵をかいて
しまふ。しかし何にも絵をかかず美しいただの紙或は布で装はれた場合以上に
でる装釘は先づ滅多にないといつていい。心ある又能ある画家は実はここのと
ころをよく知つてゐる。しかもそれをよく心得た画家はまずいと知りつつ頼ま
れれば、即ち筆を下す。実は美しい紙に、一分一厘上つても下つてもいけない、
ぬきさしならぬ位置と大きさの活字を配してこそ十分美しいのである。しかし、
出版業者は多くの場合それでは画家の労力として報いないであらう。画家はい
やでも、まずいと知りつつ絵をかく所以である。(「李朝の鉢」)

 特に面白かったのは、センセイ(幸田成友)の書斎を語った「ひとの本棚」。
吉田小五郎の古本もの随筆をもっと読みたくなった。

 わたしは、八勝堂書店が川原節宛の吉田小五郎葉書書簡一括(葉書30枚、書
簡54通)を日本古書通信平成17年12月号掲載の古書目録で売りに出してい
たことを思い出していた。この本を読むまでは、吉田小五郎を謹厳な学者のよう
に思いこんでいて、心は動いたものの、注文するには至っていなかったのだ。

 川原節(1909.2-1997.1.9)は、幸田成友(1873.3.9-1954.5.15)の次女。
 青木玉は、東京人1996年1月号(通巻100号)「特集幸田家の人びと。」26頁
で、「荻窪の叔父のところは奥さんもちゃんといて、これがなかなか美人で二
人の娘も美人。着るものから何から、生活に手が届いている娘たちなのね。」
と語っている。
 夫篤の戦死までは、高橋英子主宰の短歌会「花房」に所属。
 その後、片山敏彦を囲む若い人々と同人誌「花冠」や「横笛」を編む(みす
ず書房刊『片山敏彦の世界 アルバム:生涯と仕事』192pに竹山道雄、片山敏
彦、尾崎喜八、川原節の順に並んでいる写真が載っている。)。
 社会経済史学会の勤めを経て、慶應義塾の研究室受付事務に従事。定年退職
後、福澤諭吉協会の事務に移る。
 幸田文全集にも、川原節宛の書簡がいくつか収められている(岩波書店版別
巻参照)。
 著書『詩集 銀の綱』昭和57.1.22 153p 2200円 文化総合出版

========================================================
■ 電子メールマガジン「[書評]のメルマガ 」(毎月4回発行)
■ 発行部数  5224部
■ 発行:[書評]のメルマガ発行委員会
■ 掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。
■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の執筆者が有します。
■ ご意見・御質問はこちらまで kawasusu@nifty.com
■ HPアドレスhttp://www.shohyoumaga.net/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。
■ メールマガジンIDナンバー0000036518
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。
==========================================================
| バックナンバー | 09:56 | comments(0) | trackbacks(0)
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://back.shohyoumaga.net/trackback/529711
トラックバック
SEARCH
[書評]のメルマガ
本の虫の出版業界人が<徹夜した本>や<繰り返し読んだ本>、さらに新聞記者、出版編集者、プロの書評家による気鋭の書評など、書評メルマガの決定版。
発行周期発行周期:月4回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000036518

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

フリーラーニング Free-LearninG For Your Extention コーチ募集(コーチングバンク) 灰谷孝 ブレインジムラーニング 無料 コーチング 東京新都心ロータリークラブ カーディーラー経営品質向上 相続・遺言なら新都心相続サポートセンター 夢ナビ 実践写真教室 フォトスクール「橋本塾」 無料 eラーニング CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC 「付加価値型」会計アウトソーシング−株式会社サンライズ・アカウンティング・インターナショナル
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>
ARCHIVES
LINKS