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[書評]のメルマガ vol.305
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■■ [書評]のメルマガ     2007.3.17発行

■           vol.305
■■  mailmagazine of book reviews  [ 工場に萌え 号]
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。海月書林で古本市。
★新連載「入谷コピー文庫 しみじみ通信」堀内恭
 →限定15部でオモシロ小冊子をつくる極小版元の活動報告です。
★「新・新刊書店の奥の院」荒木幸葉
 →新天地・金沢でも書店員となったアラキ。売り場で拾った話をご紹介。
★「真駒内石山堂通信」中野朗
 →山口瞳熱愛者と永倉新八のひ孫。二人がお伝えする札幌の本事情。
★「古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧」高野ひろし
 →オーソリティが書いた、固有名詞に頼らないジャズ史の本をご紹介。
★「オヤツのオトモ」大橋あかね
 →アマいオヤツにゃ本が合う。本邦初の「食い合わせ」書評なのです。
★「渡辺洋が選ぶこの一冊」
 →通念としての「ブンガク」に「落ちて」行かない練習。荒川洋治の詩。
★「全著快読 梅崎春生を読む」扉野良人
 →今回休載です。

*本文中の価格は、表示のあるもの以外は、税抜き(本体)価格です。

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■南陀楼綾繁のホンのメド 
新刊、古書、マンガ、雑誌、ウェブサイト、書店、イベントの近事雑報
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★海月書林の古本雑貨市
 待望の『いろは』5号が完成。今回の特集は、「童画家 鈴木義治と、その
仕事」です。この発売に合わせて、東京と奈良で「海月書林の古本雑貨市」
を開きます。絵本から文学書までたっぷりの古本が転じ販売されます。
東京編は開催中です!

【東京編】
荻窪・海月書林ひなぎく店舗
3月16日(金)〜20日(火)
167-0043 杉並区上荻1-10-3-2Fひなぎく内
月火・・・・14:00〜21:30 金土日・・・12:00〜22:30
03-5397-5565

【奈良編】
くるみの木・秋篠の森・ギャラリー月草
4月12日(木)〜16日(月)
http://www.kuruminoki.co.jp/top.html


なお、ココに載せられなかった新刊、イベントなどの情報は、随時以下に
掲載しています。ときどきご覧ください。
「ナンダロウアヤシゲな日々」
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/

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■新連載 入谷コピー文庫 しみじみ通信  堀内恭
(2)それは女優・谷よしのさんで始まった
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「入谷コピー文庫」の第1号は、2005年5月の『谷よしの映画人生 天の巻』
でした。これを出すきっかけになったのは、その前年5月の新聞への私の読者
投稿です。

 その年テレビ東京で「男はつらいよ」全48作の放映がありました。寅さん映
画を観ていて気になったのが、〈谷よしの〉という女優さんでした。映画評論
家・川本三郎さんの新聞コラムでその名を知り、主に寅さんが旅先で泊まる宿
の仲居役でちらっと出てくるだけの細長い顔が〈いつ、どこで〉出てくるかを
見つけるのが楽しみでした。それと偶然、新宿区の寺で渥美清の墓を見つけた
ことをつらねて投稿し、「寅さんで再会 名脇役は今?」が掲載されました。
 
 それでは話は終わるはずでしたが、掲載された当日に新聞の担当者から電話
があり、谷よしのさんの娘さんから「母は元気ですよ」という電話があったこ
とを教えてもらいました。その時は「そうか、谷さんはご健在なのか」という
思いだけでしたが、それから半年ばかりして(いつも行動が遅い私!)、ある
人と談笑している時に、「人の話は聞けるときに聞いておいた方がいいよ」と
いう言葉を聞いて、ふと谷さんにインタビューできないかなという思いが湧き
起こり、これを「入谷コピー文庫」としてまとめる考えが固まりました。

 それで新聞担当者に連絡を取り、谷さんの連絡先を聞いて、インタビューの
旨を手紙に書きました。しばらくして、承諾をもらいました。そして今までの
インタビュー記事、ビデオ『谷よしの物語』(寅さん映画のキャメラマン高羽
哲夫さんが個人的に作ったプライベートなもの)を送ってもらいました。当時
一緒に仕事をしていた若きフリーライター阿部清司君に強引に話を持ちかけて、
谷中にあった阿部君のアパートでそのビデオを観て、どんな内容の話を谷さん
に聞こうかと、心細い二人は相談したものです。

 でもインタビュー当日の11月10日は至福の時間でした。谷さん、娘の操さ
んにもフォローしてもらって、4時間があっという間でした。最後の方は親戚
のおばさん宅へ来ているような安心感さえありました。半年が経って小冊子が
出来ました。谷さんは涙ぐみながら読んでくれたようです。出来た小冊子は、
山田洋次監督、山田太一さん、川本三郎さんに送りました。皆さんからはお礼
の葉書をもらいました。川本さんは『キネマ旬報』等で取り上げてくれました。
こうして「入谷コピー文庫」は幸運なスタートを切ったのです。

〈ほりうち・やすし〉1957年生まれ。フリー編集者。
通算15冊目となる『浅名アニキ 2006望郷編〜浅草名画座、一年間の記憶』
(本田順・著)が限定7部で堂々刊行されました。下町・浅草名画座に通いつ
める男の2006年の映画感想レポートです。健さんが、純子が、鶴田浩二が、
文太が、そして寅さんがスクリーンいっぱいに魅力を花咲かせています!!

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■新・新刊書店の奥の院 荒木幸葉
(14)工場に萌えー、の巻
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 だれでも無意識のうちに、「これ好きかも」ってのがあるとおもうのですが、
私の場合は、工場の側面をめぐる迷路のような配管だったり、山の中腹に雄雄
しくそびえたつ鉄塔だったり、セメント工場のすべり台っぽい斜めのラインだ
ったり、モノレール脇に突如あらわれる巨大メロン風ガスタンクだったり、要
は、鉄っぽくてハードなものが好みということになるのか……。

 どうしてだろうとかんがえてみると、いちばんおもいあたるのは、父が鉄鋼
メーカに勤めていたからかもしれません。たまに会社からもらってくるのは、
ステンレスのマグカップとか、包丁とか、魔法瓶(いまも現役で、コーヒーい
れてお弁当のお供に)とか、鈍く光る銀色のものたちばかり。

 製鉄所では毎年お祭りがあり、工場見学は必須でした。熱で真っ赤になった
帯状の板が、飴細工のようにおいしそうにみえる圧延工場が一番見ごたえがあ
りました。おみやげは、「鉄ができるまで」のイラストつき下敷。文房具はサ
ンリオで固めたい年頃の子にはちっともうれしくなかった。そのほか、演歌歌
手やマジシャン(たしかゼンジー北京)とかのさえないステージを横目にあた
りをみまわすと、高炉や赤茶色の原料の山やらの地味な光景が広がり、父の職
場が決して華やかでないことを知って、なんだかしんみりしてしまうのでした。

 また、『わたしたちの倉敷』という小学校の社会科副読本の表紙は、水島コ
ンビナートの空中写真でした。子ども心に、港をふちどる直線の切れ込み具合
が、埋立地っぽい絶妙な角度で、すごくカッコいいとおもってた。白地図に、
化学工場とか、自動車工場とか書き込んでは、タンクのマークのとこは、ヨー
コちゃんちのおとうさんの会社、とか盛り上がるくらい、教室にはコンビナー
ト勤務の親をもつ子たちでいっぱいでした。

 そんな、工場地帯を身近にかんじる環境に身をおいたことがある者として、
写真集『工場萌え』(石井哲/写真 大山顕/ 文 東京書籍 本体1900円)
は、うぉーっとうなるものでした。興奮する私を尻目に、同僚の金沢っ子たち
は、ふーんとさえない反応です。そういえば、煙突からモクモクな大きな工場
地帯が金沢周辺にはあんまりなかったんだった。

 帯には「工場・コンビナートにぐっとくる、全ての人へ。ここに仲間がいま
すよ。」との呼びかけが。ひとりじゃないんだよね、そういえばこういうのが
すきなんだよね、と気づいてしまった人には、心強いお言葉です。

 遠目だと、煙や水蒸気でかすんで殺風景なものだと思いこんでいた工場が、
潜望鏡みたいなパイプや蒸留塔たちに焦点をあてると、まるでSF映画のセッ
トみたいに未来都市っぽくなって、「鑑賞」すべきものになるから、驚きです。
とくに、夕暮れ時にライトアップされると、「ルミナリエがまるで工場みたい、
というべきだ」との著者の主張そのもので、観光スポットでないのが不思議な
くらいの美しさです。

 写真の方のブログ(http://d.hatena.ne.jp/wami/)のコメント欄を拝見し
ていたら、「優れた設計家のプラントは造りやすく使いやすい」「美しくない
プラントは、問題が多い」とありました。通行しやすい階段とか、死角のない
照明計画とか、安全性と機能面にこだわり、きっちり設計すれば、おのずと美
しい工場ができるらしい。つまり、設計家の美的センスによるところが大きい
のだそうです。彼らのお話をきいてみたくなりました。

 巻末には、「工場鑑賞のモデルコース」の紹介もあります。湾岸線ドライブ
→三渓園→本牧臨海公園→レストラン ドルフィンというコテコテのデートコ
ース、とみせかけて実は、製鉄所や製油所のクレーンやタンク群がばっちり視
界に入るベスト工場ビューコースだとか。あわよくば同行者をこのスジに開眼
させることもできる、まことに画期的な策です。

 そのほか、まだ黎明期の「工場鑑賞」を楽しむためのアドバイスもぬかりあ
りません。不審者にみられぬよう、マスクとか目だし帽はNG、夜は危険なの
で、仲間と行動する(特に女性)、食料やタオルから、冬はつま先カイロ、夏
は虫除け、懐中電灯に至るまで、アウトドアレジャー並みの備えが必要、など
など。これも、工場の立地が駅もコンビニも遠い、さいはて感ただよう広大な
埋立地であることが多いゆえです。

 さぁて、こんど帰省したら、さっそく水島臨海鉄道に乗るか。前回は工場労
働者たちのスナック街で途中下車してしまったので、こんどこそ終点めざして、
夜のコンビナート萌えを体験してみたいっす。みかけたら、声かけてね、仲間
たち。
 
〈あらき・さちよ〉釉薬で黒光りした、いかにも金沢っぽい瓦の上に、まっ黄
いろの花粉がふっさふさに散ってるのが映え、ビジュアル的なダメージから、
花粉症が悪化。やっと降った雪の重みで、おそうじしてくれてるといいな。

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■真駒内石山堂通信〔店主篇〕 中野朗
(13)「新興芸術派」と「シンサッポロ」(2)
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 前回に予告したように雑誌「文学時代」を閲覧してきた。
「文学時代」は新潮社から「文章倶楽部」の後継雑誌として、昭和4年5月か
ら同7年7月まで続いた雑誌である。野口冨士男が書いていたような「エロ・
グロ・ナンセンス」に満ちた誌面を期待していたのだが、見事に肩透かしにあ
ってしまった。正真正銘の文学雑誌だったからだ。グラビアは当時の人気作家
(初めて拝顔する作家も多く貴重)たちのあれこれが4ページにわたり、文壇
ゴシップのコラムも充実している。執筆者は新興芸術派が多いが、プロ文の小
林多喜二、中野重治らも寄稿しているし、文春系の横光利一も旧芸術派(そん
な用語はないが)の徳田秋声も顔を出しているといった具合だ。創作欄には探
偵小説(というのが時代だ)もある。特集だって「芸術派・プロ派文芸問題討
論会」だとか「新興芸術派の人々と其作品について」など大マジメだ。これは
これで当時の空気が感じられとても面白い。だが、今回の目的はあくまで「シ
ンサッポロ」との類縁性を見つけだすことだ。

 話が違うじゃないかと思いながら読み進めていくと、昭和6年ごろから誌面
が変わってきた。犯罪実話読物のような記事が増えてきたのだ。週刊新潮の
「黒い報告書」のハシリのような内容だ。新居格が6年の8月号に「新しきエ
ロを探る」を書いている。なんだ、なんだ、エロを扇動しているのは新居格自
身じゃないか。ところどころを×の伏字(自主規制か)にしているのが、ご愛
嬌だ。だが、けして下品ではない。

 昭和6年11月号の探訪特集で、蒲田撮影所の大部屋女優や飯田橋ダンスホー
ルのダンサーたちの座談会を目にしたとき、「シンサッポロ」のカフェの女給
さんたちの座談会の原型を見たように感じてしまった。それに誌面のつくりが
似ている。レイアウトに共通性が感じられる。昭和6年以降の「文学時代」は
確かに文芸誌というより、猟奇雑誌というかセンセーショナルなタイトルで人
目を惹くあくどさの色彩が強くなっている。やはり、島田新次は「文学時代」
を愛読していたに違いない。「文学時代」に刺激され「シンサッポロ」創刊を
思いたったのだろう。

 島田新次は「シンサッポロ」創刊時の昭和7年には31歳だった。満なら30
歳だろう。その年齢なら大正デモクラシーの波を全身に浴びた世代だ。当然、
無産階級運動などにも一定の理解があり、共鳴するところもあったと思われる。
だが、運動の実践に入ることはなかった。「シンサッポロ」巻頭には毎号、島
田新次が「カフェ論」や「女給論」を執筆しているが、そのなかで自分はリベ
ラリストだと書いている。それは、当局の弾圧を慮ってのことだけでなく、組
織がもつ制約や規律というものが肌にあわなかったのだろう。心情的にはアナ
ーキズムや「マヴォ」などのダダイズムなどにシンパシーを感じていたと思わ
れる。佐藤八郎に「シンサッポロ」創刊号の表紙を頼むほどの関係でありなが
ら、『ネヴォの記』に島田新次の名前が出てこないのは、その辺に理由があり
そうだ。同伴者的な立場で側面からの支援をしていたのかもしれない。

 昭和3年の共産党員一斉検挙といういわゆる3・15事件とそのときの凄ま
じい拷問の実態を小林多喜二などの小説で読み、同伴者的立場からも後退して
いくという道筋だったのではないか。その一方で、築地小劇場などの演劇活動
に大いに刺激を受け、それが「シンサッポロ」時代にカフェの女給だけの「新
札幌小劇場」の立ち上げになったのだろう。

 新興芸術派の文学は浮薄なモダニズムでしかないというのが通説だったが、
そればかりではなく、楢崎勤がいうように左翼陣営はもちろんリベラリストま
でも徹底的に弾圧し、ファシズムへと突き進むそうした時代への抵抗としての
側面も見逃してはいけないだろう。そしてまた、わが「シンサッポロ」の島田
新次も、出すたびに赤字が増える雑誌を抵抗の証としてひとり奮闘したのでは
ないか。

〈なかのあきら〉予告ばかり先行し、いつまでもオープンしない真駒内石山堂
がいよいよ動きだしました。近日オープンです。構想一晩、準備に3年という
堂々たる遅々たる歩みからようやく脱却し、いまその威容を明らかにしようと
しています。店主日記、番頭日記、そして手代日記という読み物もあります。
刮目して待たれよ!

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■古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧  高野ひろし
(36)ジャズはどうやって生まれたか
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相倉久人『新書で入門 ジャズの歴史』新潮新書、2007年2月、680円

 世界中でジャズの本が一番手に入るのは日本だと思います。これであなたも
ジャズ通みたいな入門書も一杯書店に並んでいます。落語や歌舞伎の入門書の
出版が絶えないのと似ています。「趣味はジャズ」なんて格好良いですもんね。
でもそうなりたい人に、本書は向きません。それなりに人名は出てくるものの、
登場するアルバム名は少ないですもん。固有名詞を超えたところで語られるジ
ャズの歴史です。

 新大陸に奴隷として連れて来られたアフリカの人々がブルースを生み、ジャ
ズを生んだのはよく聞く話です。でも彼等を連れてきたのがヨーロッパ人達で、
対欧州文化としてジャズを考えたことはありませんでした。当時のアメリカの
文化はヨーロッパそのものだったんですね。ピアノは正に欧州音楽を象徴する
楽器、それをジャズが浸食するのはカルチャーショックでしたよ。

 奴隷という最悪の文化状況で産声を上げたジャズに、恐い物はありません。
南北戦争で出番のなくなった軍楽隊の楽器を手にし、暗黒街のあだ花を利用し、
公民権運動をも糧にして、ぐいぐいとポピュラー音楽の前衛へと突進していき
ました。その音楽性の向上や多様性とアメリカの歴史が、恐ろしいほどに呼応
している。ジャズのオーソリティである著者は、ミュージシャンや名アルバム
の列記を敢えて避け、その歴史を語っていきます。

 教科書的に知っていたジャズの生い立ちには、当時の社会の動きがこんなに
も現れているのか! しかもその善悪様々な社会の変化に翻弄されるように見
えて、実はどん欲に取り込んでいったんですね。ニューオリンズからシカゴへ
伝播していく様子や、踊る音楽から聞く音楽に変わっていく様子等々、興味深
い話が満載ですよ。またそこには天才やパイオニアと言われる名プレーヤーの
出現もありました。音楽は社会と共にある。それを改めて教えてくれる一冊です。

〈たかの・ひろし〉東京生まれ、路上ペンギン写真家。密かに作って勝手に送
っているミニコミ・『高野金次郎商店』のウェブ版が完成。どうでもいい町ネ
タを読みたい人はこちらへ……。
http://www.edagawakoichi.com/ART/tks/index.html

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■オヤツのオトモ  大橋あかね
(25)春のフェスティバル
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『世界の祝祭日とお菓子』プチグラパブリッシング、2007年、1600円

 春ですね。一人寂しいので、お菓子でも作って春を寿いでみました。

 参考にしたのは『世界の祝祭日とお菓子』という、世界各国の祝祭日やお祝
いの時に食べるお菓子を、カラー写真とテキストで紹介している本。

 頁をめくると、ルーマニアの「パパナシ」やトルコの「大臣の指」など、殆
どが知らないお菓子ばかり。こんなお菓子があるのかと写真を見るだけでも楽
しいけれど、添えられたテキストを読むと、お菓子の謂れや習慣がわかって、
その国の文化を身近に感じられるのです。

 更にその想像を膨らませてくれるのが、紹介文の下に書かれたレシピ。
 今回、レシピを参考に私が挑戦したのは「ポワゾン・ダブリル(四月の魚)」
という仏蘭西でエイプリルフールに作られるお菓子。魚の形のパイ生地に苺と
カスタードクリーム、アプリコットジャムを載せて作るそうな。
 結果は、パイ生地を少し焦がしたものの、甘みと酸味のバランスが良く、初
めてにしてはまぁまぁの出来かしら。ホホホ。

 材料と作り方を見れば大体の味の想像がつくので、お菓子を作らなくても、
レシピにはざっと目を通してみることをオススメします。

 でもまぁ、せっかくお祝いのお菓子なら、自分で作ってみて、一人お祭り気
分にならないとね〜。春ですので。寂しさ紛れますよ。

〈おおはし・あかね〉ハラゴメカエル作家。春なので、いろいろ求めています。
http://www.haragome.com/

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■渡辺洋が選ぶこの一冊
(25)身をねじりながら浮遊し続ける
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荒川洋治『心理』みすず書房 2005年5月刊、1800円

 荒川洋治さんの詩集『心理』(みすず書房)は2005年5月初版、所有して
いるのは萩原朔太郎賞受賞後の同年12月の3刷です。入手してからもう5回
くらい読んだでしょうか。訳が分からず「もういいや」と投げ出したり、「待
てよ」とまた引っ張り出してきて読み直したり。今でも「分かった」とは言え
ませんが、少し見えてきたところはあるようです。

「コナラ、クリ、クヌギなどの宝石/崩壊をのりこえて列島各地へ散らばった
人の、七つの沼の、七つの数字」

 と始まる冒頭の「宝石の写真」がまず分かりにくいのですが、落合寅市ら、
登場する人名を調べてみると秩父事件に参加した人々の蜂起後の転戦、逃走、
島崎藤村の小説『夜明け前』の主人公青山半蔵(作者の父がモデル)の移動な
どを、郵便番号で記述していることが分かります。その記述に「もう一五年」
(一五年とは平成時代のこと?)も縦笛を練習しているという女性たちの「じ
ょうずになる」ことをめぐっての対話がからみます。

「(泥をはねて)ああなにか土台になるようなことをしたいな/わたしはいい
な/そんなことより/(笛の器量を上げながら)なにもかもが/なにかの土台
になるような、ああそんなことになりたいな/「宝石よりも宝石の写真なの」
/「そのようね」」(同上)

 この詩集には実在の人々の名前が頻出します。森鴎外、李光洙(イ・グァン
ス)、波多野節子(朝鮮文学者)、丸山眞男、川端康成、佐野学、鍋山貞親、
尾崎紅葉、原民喜、丹羽文雄、中村光夫ほか、ですが、これらの人々の名前を
出しながら、作者が辿っているのは、近代から現在に至る日本の精神史、そし
てその精神史を歴史として記述するのではなく、一種の精神風俗としてとらえ
て記述しているのではないでしょうか。

「心理」と言われると、作者の心理表現というようにイメージしてしまいがち
ですが、全体に作者の心理表現めいたものは表面には出てきません。むしろ、
「作者の心理」であれば、前詩集『空中の茱萸』(1999年・思潮社)の方が、
出版人であったり書評家であったりする作者らしき人物が登場する詩が収録さ
れていて、「心理」というコードで読める部分があったと思います。この詩集
では、登場する作家や思想家の思考や行動が、一種のパターン、型にはまって
しまうものとしてとらえられていて、読者としては『心理』というより『地理』
とでも名づけられた方がぴんとくるのではという気がします(郵便番号のほか
にも、都市の人口の統計とか出てきますし)。

「子犬は生まれたところを歩く/心理は/心からは遠いところ/大叱責(おお
しかられ)の大風!」(「心理」より)

 そう、「作者の心理」を表現して、抽象的になってしまうことへの拒絶(川
端康成が書いた文学観を「雲をつかむ話だ」としりぞけたり)が、「心理」の
表現に着地してオチをつけることはしないぞ、「心」は本当は現在、文学表現
として理解、共有され、流通しているようなものではないぞ、それぞれの「ひ
とり」のひどく具体的なものなのだという気持ちが、日常的な心理描写に落ち
ない、どこまでも身をねじりながら浮遊し続ける文体の裏にあるようです。

「こんなことに「為る」とは/屈原の川をかかえても/四〇〇〇年はむだだっ
た/たったひとりしか 人はいなかったのだから」(「集会場の緑」より)
「ようやくぼくらもこれまですべての人を笑えるようになった/軽井沢に来た
のだ/どんなものも いつかは白い舟になり波となって/軽井沢のほうへ送ら
れていくのだ」(「軽井沢」より)
「人は少しずつ集まり/他人の腰を抱いていた/趣味も反射もない 明日でも
昨日でも/なにもできない人たちの人だかりなのだ 重い体なのだ」(「足跡」
より)
「わずかな人だけが/この世に生きているんだよ(女物から男物に移る)/と
てもわずかな人たちだ/さがしていてね」(「あからしま風」より)

 何かが「分かる」というより、通念としての「ブンガク」に「落ちて」行か
ない練習、そのさなかに言葉が見せる表情に、できるだけ素直に触れるように
読むしかない、そんな詩集です。

〈わたなべ・ひろし〉詩人・編集者
編集者として未踏(自分として)の難しい領域で、方法論を模索して、すごく
自信をなくしたり何とか持ち直したりの日々。
http://www.catnet.ne.jp/f451/

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