[書評]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
<< [書評]のメルマガ vol.312 | main | [書評]のメルマガvol.314 >>
[書評]のメルマガ vol.313
■■-----------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ     2007.5.16発行

■           vol.313
■■  mailmagazine of book reviews [ エロなファンタジー 号]
■■-----------------------------------------------------------------

[CONTENTS]------------------------------------------------------
★「入谷コピー文庫 しみじみ通信」堀内恭
 →限定15部でオモシロ小冊子をつくる極小版元の活動報告です。
★「新・新刊書店の奥の院」荒木幸葉
 →新天地・金沢でも書店員となったアラキ。売り場で拾った話をご紹介。
★「真駒内石山堂通信」中野朗
 →山口瞳熱愛者と永倉新八のひ孫。二人がお伝えする札幌の本事情。
★「古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧」高野ひろし
 →昨年亡くなったポピュラー音楽の大巨匠・宮川泰の遺著を紹介します。
★「オヤツのオトモ」大橋あかね
 →アマいオヤツにゃ本が合う。本邦初の「食い合わせ」書評なのです。
★「中山亜弓が選ぶこの一冊」
 →「オタクの九龍城」こと中野ブロードウェイにやってくる外人さんたち。
★「全著快読 梅崎春生を読む」扉野良人
 →『桜島』などで知られる梅崎春生(1915〜65)の全著作を完読します。

*本文中の価格は、表示のあるもの以外は、税抜き(本体)価格です。

-------------------------------------------------------------------
■入谷コピー文庫 しみじみ通信  堀内恭
(4)飯田橋ビンボー大学先〜輩、遠藤哲夫!
-------------------------------------------------------------------
「入谷コピー文庫」の執筆料は、基本的に図書カード1500円分です。

 A4用紙にだいたい20〜25枚書いてもらって、1冊の小冊子の形にしている
ので、その大変な労力からすると、たった1500円分の図書カードしか筆者に
お支払いしないのは、本当に本当に心苦しいのですが、まぁ単行本1冊買える
ぐらいの「お気持ち」で図々しくもやらせてもらっています。

 ですから、当初は本を出された方にはとてもじゃないですが、声を掛けよう
という気持はまったくありませんでした。本当に失礼に当たると思ったからです。

 ところが、一人だけ、プロの作家さんでお願いしてみたいなァと思える人物
がすぐそばにいたのです。それがエンテツこと遠藤哲夫さんでした。遠藤さん
とは、遠藤さんが主宰する『大衆食の会』に誘ってもらったのが縁で、お付き
合いが始まりました。その後、今は倒産してしまった四谷ラウンドという出版
社から『ぶっかけめしの悦楽』(現在は加筆したものが、ちくま文庫から『汁
かけめし快食学』として刊行されています)という本を一緒に作らせてもらっ
たことがありました。

 遠藤さんと会うのは、だいたい安い居酒屋か大衆食堂なのですが、いつも奇
妙な元気をもらっています。遠藤さんは新潟、私は高知というどちらもド田舎
者という共通点のほかに、遠藤さんとは、飯田橋ビンボー大学の大先輩と後輩
という間柄なので、どこかビンボーを背中にしょった不器用さがあるような気
がします。

「気どるな、力強くめしを食え!」がモットーの遠藤さんには、ぶっかけめし
の奥深さを教えてもらったり、いろんな大衆食堂へ案内してもらいました。そ
の遠藤さんに甘える形で執筆してもらったのが、『現代日本料理/〈野菜炒め〉
考』(2006年5月刊)です。

〈野菜炒めというありふれた料理について、思いつくだけのウンチクを搾りだ
してくれた〉内容になっています。遠藤さんらしい「自由闊達な野菜炒め」論
になっていて、「雑多な人」エンテツさんらしい力強くくねった文章に感激し
たものです。

 第2弾「マカロニサラダ」の執筆もお願いしているので、年内にはきっと日
の目をみることと思います。エンテツ先〜輩、待っていますからね。

〈ほりうち・やすし〉1957年生まれ。フリー編集者。
近々、映画愛好家・赤穂貴志君の『B級映画の花裂く女たち』を刊行します。
杉本美樹、ひし美ゆり子、梶芽衣子、三原葉子、風祭ゆきの5人の女優さんに
ついて「破壊する美しさ」を綴ったものになっています。

---------------------------------------------------------------------
■新・新刊書店の奥の院 荒木幸葉
(15)ときめき☆書店備品たち、の巻
---------------------------------------------------------------------
 11年ぶりに、文庫とか新書とかさわるようになりました。あたらしい種類の
ものがここ数年でどんどん増えてて、びっくり。新刊点数のあまりの多さに、
ちょいと引き気味です。

 大型店にいたころ、文庫の新刊1点につき、何箱も入荷し、わしわしストッ
クに積めこんではぐったりしていた思い出も遠いかなたに、いまはほそぼそ、
多くて10冊、まあ、1、2冊程度の配本も珍しくない新刊たちを、どうやって
いっぱいあるようにみせるかに、心を砕いております。

 そんな状況を見かねてか、いや、単なる在庫の削減が目的なんだろうけど、
先日「あんこ」使用令がでました。「あんこ」とよんでるのは、平台のかさ増
し用の箱です。ボール紙を組み立てて作ります。すこしでもボール紙が見えて、
その正体がばれると、ボリューム満点の平台が一転、ビンボーくさくなっちゃ
うので、要注意。

 在庫の薄い本を「あんこ」の箱の上に置いてたっぷりにみせつつ、前後左右
のつながりを考えながら、まわりをぐるりと厚めの平積みで埋めていくという
しょんぼりしがちな作業も、脳を活性化するパズルだとおもうことにすれば、
すこし気持ちが前向きになります。

「あんこ」のように、書店の販促にかかわるピンチをお助けする救世主が、各
種備品のたぐいです。
http://www.ochanomizu-s.co.jp/shop/shop.html
取次が発行している新刊案内の冊子に、「立読み防止ポリ各種」とか、「増買
&イメージアップに効く、マルチボックスジョイントタイプ」とか、チラシが
挟まれているのですが、人知れず真剣に読んでは、「これさえあれば…」とい
う妄想をふくらませています。

 最近注目なのが、「付録バンド」です。1.5センチ幅ほどの平らなゴムに、
楕円の穴が均等に4箇所あいています。一見なんてことないものですが、チラ
シに載ってる「書店からの声」欄がすごい。「店員が面白がって競うように作
業をこなす」とか、「アルバイト4時間分の人件費で一袋買えるんだから安い
と思うよ。」とか、そそられます。

 ビニ紐かけの場合、平均人件費12円+紐代1円のところ、このバンドは、一
本21円で半年はもつそうなので、かなりお得です。1・二箇所をつまむ、2・両
手でひっぱる、3・雑誌の角で止める、4・対角線側を引っ張る、5・もう片方
の角で止める、というわずか5秒の作業で、かさばる雑誌の付録を、瞬時に結
束してしまうスグレモノだとか。

 何部か入荷したので、早速ためしてみました。水泳帽をおもいだすゴムのに
おいも、本物っぽく(マレーシア製の天然ゴム主原料)、好感がもてます。ビ
ニ紐かけが、いつまでもトロくていじめられていた自分にも、かんたんにでき
ました。一定の厚みのあるものなら、なんでも束ねられそう。

 ちなみにこのバンド、ここ数日みかけないので、レジの子にたずねたら、「つ
けたまま回収を忘れるので、もったいないくて使えない」「ゴムが亀甲にバチ
っとキマってるさまが、SMっぽくて気が引ける……」とかいうて温存されて
ました。使おうよー。

 でも、一番気になっているのは、いつも新学期になるとお目見えの、名古屋
泰文堂の手提げ袋のチラシです。「毎年猛反響実証ずみのサービス用手提げ袋」
の見出しのもと、「校内販売忙しい時セットの上に付けるとうしろの方で自由
に入れて下さいます」「スグ元が引けます」「実に安い」「貴店へ福を呼ぶ袋
です」と、強気な宣伝文句が並びます。

乳白色強化チューブ製、一枚15〜16円なり。中学用は、帆船イラストつき。
高校は、羽ペンのイラストに、「参考書、事典、百科事典、カセット類、信用
ある特約店の弊店でお気軽にごゆっくりと毎日お選びください」「毎度ありが
たく厚く御礼申し上げます。一生を託される大責任のある弊店です」とプリン
トが。やんちゃなレイアウトや、たどたどしい日本語がかえって目をひき、忘
れられません。いつか使ってみたいなあ。

 ほかにも心おどるものはないかと、業者(株式会社エスエスシー、出版サー
ビスセンター)のカタログをとりよせてみました。
http://www.psc-co.jp/product/product.html
  
 いやー、あるわあるわ、POPやディスプレイ用のグッズ(雑誌の「本日発売
プレート」とか、アクリル製の階段什器とか)から、梱包資材(PPバンドや安
全紐切)や台車まで、さながら書店備品の誌上デパートであります。

 カッコよかったのが、パワートラック(ブックトラック)45,000円。「大量
の書籍を移動できる丈夫で軽快な足回りが特徴」だそうで、車輪部分も大きく、
やわらかく動かせそう。人が乗っても壊れない「屈強の芯入り&フレーム補強
棚板。着脱式作業ポケット付き」。スリップ短冊やら、輪ゴムやら、シュリン
クビニールのカスやらで、エプロンのポッケはすぐぱんぱんになるので、ブッ
クトラックにポケットがあるのは、便利だろうなあ。

 あと、おしゃれなフランス製踏み台、「ローリングステップ」9,800円や、ワ
ンタッチ引出し付きスリップケース2台入り8,000円も、きになるところ。

 紙袋のモチーフで多いのが、木立や、ヨーロッパ調の街並み(石畳やガス灯
とか)です。「GOOD FRIENDS GOOD BOOKS IT’S MY LIFE」のフレーズ×ポ
ロに興じる人々、といった不思議柄もあります。ちなみにラッピング用紙は、
テディベア率高し。うげー。

 ネーミングのセンスが絶妙なものもちらほら。「こづち」は、ラベラー(値
段シールを貼る機械)で、1台42,000円。「ふわり」は、防犯用気配りミラー。
“鏡のイメージがなく、見た目もかわいい!”そうです。29,800円。

 こんなものも、というところでは、シーズンモチベーションの演出にかかせ
ぬ、天井からつるすタイプの装飾はいかがでしょう。塩ビの葉っぱも鮮やかな
「ジャンボモミジプリーツハンガー」2,700円や、放射線状に枝が伸び、実も
たわわな「柿センター」3,200円、お正月には、紅白にぎにぎしい「舞玉セン
ター」3,500円もどうぞ。スーパーの食品売り場みたいです。

 こんなふうにお気に入りをピックアップして、自分だけのすてきな書店空間
を頭の中でつくってみるのも楽しいかも。私だったら、そうだな、エジプト人
柄のブックカバーに、にせミッフィーちゃんの包装紙「ミミの家」でラッピン
グして、イベントディスプレイ(ミニ販売台)は、「アメリカン」(ドロンパ
みたいな赤い星×ブルーのライン入り)をチョイス、と、ド派手&ファンシー
かつ、シブみの効いた、混沌としたかんじでキメてみたいものです。置く本に
困ってしまいそうだけどね。

〈あらき・さちよ〉夜、ちょっと町はずれにいくと、いちめんゆらゆらの水面
が出現。こんなところに湖?とおもうや、ゲコゲコかえるの気配が。水いれた
て、プレーンな田んぼがみれるのは、この時期だけなんだな。

-------------------------------------------------------------------
■真駒内石山堂通信〔店主篇〕 中野朗
(15)青木正美さんの30冊目の本
-------------------------------------------------------------------
 谷中の鶉屋書店にはついに行かずじまいだったことを、いまだに後悔してい
る。いまでこそ谷中はタウン誌『谷根千』や、南陀楼さんが企画した「一箱古
本市」などで古本好きにとってある種の聖地の観があるが、学生時代――70年
前半ですよ――には、トンと縁がない町だった。唯一その当時のヒーローだっ
た吉本隆明が千駄木の自宅で雑誌『試行』を単独発行していたので、その手伝
いに行こうと考えたことがあったが、地理不案内で億劫になってしまった。要
は怠け者だったわけだ。

 鶉屋書店は当時から文学書、とくに詩集の品揃えで有名だった。それだけに
一度は行きたいと思いながらも、どうせ金もないから買えっこないしなどと二
の足を踏んでしまったこともある。

 弘前大にいっていた友人が清水昶の詩集『朝の道』を探しに東京へ来たとき、
鶉屋に連れて行ってくれと言われた。現代詩なら鶉屋書店でなくても早稲田に
行けばあると言って、たしか文献堂か平野書店で見つけたはずである。このと
き見栄をはらず素直に探しながら行けばよかったと後で随分悔やんだものだ。

 前置きがながくなったが、青木正美『ある古本屋の生涯――谷中・鶉屋書店
と私』(2006年12月 日本古書通信社)を目にしたときはとびつく思いで手
に取った。カバーの絵もいい。いかにも古本屋の店先といった絵柄で帳場には
店主の飯田淳次が立っている。古臭いようなタッチが下町の古本屋の雰囲気を
よく出している。表紙を開くと写真が8ページにわたって載せてあり、そのな
かに新築間もないころの店内の写真もあった。古本屋というより蔵書家の書斎
といった趣きだ。むろん背文字などは読めないが、択びぬかれた文学書や詩集
などがぎっしりつまっているようなオーラを感じ、ため息をついてしまった。
いいなあ、と何度も見入ってしまう。

 早速読んでみると、これから古本屋をやろうとしている自分にはとても勉強
になったし、ありがたい本だったが、「私」の部分の記述が多く鶉屋書店の全
体像が見えにくいキライがあった。それでも、安藤鶴夫から信頼されて蔵書の
整理を一手に任せられた話だとか、若き日の池田満寿夫の万引き事件の後日談
など初めて知る事実も多く愉しめた。

 圧倒されたのは、飯田淳次が病に倒れ復帰が難しくなったときに行われた鶉
屋所蔵の売り立て市の顛末だ。紙幅がないので青木さんが入札したものだけ紹
介しよう。青木さんといえばなんといっても自筆物と日記の蒐集が有名だが、
やはりここでもそれに照準を合わせている。それも室生犀星ばかり。まず、犀
星の第2詩集『抒情小曲集』の草稿(製本済)111枚完(朔太郎と白秋の序文
の草稿もついている)を上札の614.4万で、犀星の日記や家族宛書簡を744.4
万(上札はなんと1455.4万を入れている)で落札に成功した。小説『蜜のあは
れ』全草稿200枚(製本済)を319.8万入れるも350万で三茶書房に、また『愛
の詩集』正続全草稿は上札の1244.4万でも届かず、1280万で八木書店が落札し
て幕を閉じた。

 入札額をきめるまでの青木さん内部の葛藤や、他店との虚々実々の駆け引き
が臨場感溢れるものになっていて読みながら激しく動悸してしまった。この売
立て市は昭和60年というバブル期だが、それにしてもなあ、青木さんが入れた
上札で4点すべて落札した場合、総額3600万ですよ。岡崎武志さん用語の「ブ」
で105円コーナーを這いずり回っている身には、とんでもない世界のように思え
た。あとがきに青木さんが書いていたが、いまやこうした自筆物ですら100万を
超えるような商いが殆どなくなったという。う〜む、恐ろしい世界だなあ。

〈なかの あきら〉「シンサッポロ」のことを書いたとき、新居格が新興芸術
派の文学を「エログロナンセンス」と断じたこと、そして野口冨士男らがナン
センスはともかくエログロといわれる作品はないという説を紹介したが、新居
格はその当時ブレークしていた江戸川乱歩を初めとする探偵小説界を念頭にお
いていたのではないか。乱歩はたしかにエロでありグロでもあったもんな。新
居格は『探偵趣味』という同人誌にも執筆しているから、守備範囲の広い批評
家だったのだな、と一気に腑に落ちた気がした。

---------------------------------------------------------------------
■古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧  高野ひろし
(37)ラを大切に
---------------------------------------------------------------------
宮川泰『若いってすばらしい』産経新聞出版、2007年3月、1500円

 そうかぁ、世の中、ラが一番なんだなぁ。ラがある生活は明るく、幸せなん
だなぁ。皆さん、ラを大切にしましょう……って言われても何のことだか分か
らないでしょうけど、宮川先生が、この本の中で書いているんです。

 自分はドレミファソラシドの中で、ラが一番好きだって。だって鼻歌もララ
ララ〜でしょうと。こうして生まれたのが、かのゲバゲバ90分のテーマソング。
ラの音がキーとなって、傑作メロディが完成したのです。オーケストラで演奏
する時には、特にトロンボーン奏者に、ラを強調して吹くように指示をしてい
るという。

 勿論、長年培ってきた音楽理論や過去の実績から、そして自身の音楽センス
から作り上げたに違いないだろうけど、それを小難しい言葉や、偉そうな態度
で話したりはしないんですね。まるで笑い話か何かのように、ほら、ラでしょ
って話す。ここに、宮川音楽の真骨頂があるんです。

 ラジオやレコードで聞いた音楽を、すぐアコーディオンやオルガンで再現出
来てしまう少年時代。正式に音楽教育を受けないままに、バンドを組んで進駐
軍キャンプ回りをし、後になってから一念発起で理論を学んだ青春時代。ザ・
ピーナッツを育て上げ、宇宙戦艦ヤマトの音楽監督として多忙を極める。寝る
間も惜しんで作曲、編曲を手掛け、テレビ番組のテーマソングも枚挙にいとま
がない。

 いわばポピュラー音楽の大巨匠なのに、歌手より派手な衣装で指揮をしたり、
オヤジギャグも平気で飛ばす賑やかさ。楽しい音楽は楽しい生活から生まれ、
明るい音楽は明るい人から生まれるんです。自他共に認める出たがり屋である
一方で、曲作りの時に「独りよがりにならない、押し付けがましくしない」こ
とを常に意識する、それがプロの作り手であるという思いは、惜しくも昨年亡
くなってしまった宮川先生が今の日本の音楽シーンに向けた、強い警鐘のよう
にも聞こえます。

〈たかの・ひろし〉東京生まれ、路上ペンギン写真家。一箱古本市でのトラッ
ク路上駐車写真展にご来場頂きました皆々様に、この場を借りて厚く御礼申し
上げます。
http://www.edagawakoichi.com/ART/tks/index.html

---------------------------------------------------------------------
■オヤツのオトモ  大橋あかね
(26)大御所にハマってみた
---------------------------------------------------------------------
島田荘司著『水晶のピラミッド』講談社文庫、1994年、835円

 今頃、島田荘司にハマっている。本格ミステリの大御所だよね程度の知識で
読み始めたら、まず、大掛かりで奇天烈な謎にノックアウト。本格であると同
時に、社会派で恋愛要素も多いのにビックリ。何より、本編と平行して語られ
るもう一つの物語(作中作であるとか、過去の話であるとか)がオモシロイ。

 この「もう一つ(或は二つ以上)の物語」と本編のバランスが私好みだった
のが『水晶のピラミッド』。本編は、アメリカにある人口ピラミッドを舞台に、
探偵・御手洗潔シリーズの準レギュラーである女優レオナの映画撮影中に起こっ
た密室殺人事件の話。それに、古代エジプトの少女ミクルの恋物語と、かの有
名なタイタニック号沈没までの物語が、作品の前半部分で交互に語られて行く。

 メランコリックな悲恋と淡々として序破急のついた大惨事、二つの物語の哀
切は、最後にヒロイン・レオナの御手洗潔への荒ぶる恋情へと昇華していく。
この高ぶりとあくまで論理的な謎解きが共存しているバランスが上手い。
 あげくに、ピラミッド建設の謎の新解釈まで出て来るのだから、大満足。

 最近、ケーキでこのバランスの良さを感じたのが、パティスリー・サダハル・
アオキ・パリの苺のタルト(ケーキの正式名称を失念。すみません。)。甘酸っ
ぱい苺に練乳風味の生クリームと酸味の強いレモンカスタード、それにサクサ
クしたタルト生地とキャラメリゼの苦みが加わって、絶品のハーモニー。

 時代を切り開いて行く人の作品は、業界にかかわらず、やはりスバラシイ。

〈おおはし・あかね〉ハラゴメカエル作家。私もいずれ、「ハラゴメ界の大御
所」と呼ばれるようになりたいものです。
http://www.haragome.com/

------------------------------------------------------------
■中山亜弓が選ぶこの一冊
(26)世界に誇れる日本のエロ・ファンタジー
------------------------------------------------------------
 私たちの書店・タコシェが入っているビルは中野ブロードウェイといって、
今では九龍城に喩えられる築40年以上の古いビルですが(それでも建築当時
は、六本木ヒルズなみの最新豪華ビルだったそう。つまりヒルズも40年後には
中野ブロードウェイ化するわけよ)、この中には漫画古書のまんだらけやフィ
ギュアショップ、メイドゲーセン、メイドカフェなどが、お肉屋さん、定食屋
さん、美容室などにまじってあるわけだから、オタクな要素とポップカルチャ
ーが同時に味わえる複合ビルとして外国からもお客さんがたくさん来るわけです。

 ここぞとばかりに買い込んだ漫画やフィギュアなどの戦利品でパンパンに膨
らんだ紙袋を両手に歩く世界のオタクを目にすることができるビルなのです。
そんな流れからタコシェにも異国のお客さんがやってくる機会が増え、「沖縄
の歌だった大工哲弘がおすすめだよ」なんて島唄を連れに説明している若者が
いたり、「日本のノイズはある?」「メルツバウとか?」と訊けば「メルツバ
ウならもう殆ど持っているよ」といった日本通たちに驚くばかり。情報通信の
上で本当に世界は近くなっているんだなー、と感じます。

 さて、タコシェは“エログロ”が得意ということになっているので、耽美系
〜グロ系〜和系、様々なエロにも興味を示していただくし、中にはそうしたも
のを研究したり取材する外国人もいて、“春画以来、日本ってエロアートで評
判なのかな、アハハハ、照れるな…、見ての通り少子化が進んで繁殖力もすっ
かり落ちた日本人、格別スケベなつもりじゃないですが”てな気分でいたので
すが、最近、日本のフェティッシュ文化や風俗を観察する外国の人たちに接し
て、“なんか私、誤解してたみたい”、という気がしてきたのでした。

「日本ではダッチワイフのレンタルがあるんでしょ?」「シリコンででたやつ
のこと? ラブドール」という会話をした数日後「ラブドールはどうなった?」
と訊いてみると「会いには行ったけど、深い関係にはなっていません」との返
事。それとは別に「(やらずに)飲食したり話しをするだけでお金を払う店が
こんなにあるだなんて!」と指摘されて“え、私たちそんなにイリュージョン
している? 虚業でお金を回してるわけ?”と、盛り場のネオンの輝きがすっ
かりいつもと違って見える気がしたのでした。

 日本はファンタジーの国、お伽の国でもあったわけですね。どこまでがファ
ンタジーで、どこからが欲望、現実なのかは定かでありませんが、エロティッ
クな漫画や画集を日々お取り扱いして、オタクなビルの中にいて、当たり前と
いえば当たり前になっていた物事がとってもファンタジーだっただなんて新鮮。

 というわけで、他者の目を借りて周りを見まわしてみると……。オタクガイ
ドの古典? Patrick Maxiasと町山智浩 の共著『Crusing The Anime City
An Otaku GuideTo Neo Tokyo』の中には、コスプレ、モーニング娘。、ゲームと
様々なものに萌えるオタクたちの姿が。コンサート会場近くの路上で塀に向か
って振りの訓練をしているモーヲタのを一から説明されて、そのひたむきさに
心打たれます。あるいはAgnesGiardの『L’IMAGINAIRE EROTIQUE AU JAPON』
では、春画〜佐伯俊男、山本タカト、会田誠という美術まで、間接人形〜ラブ
ドール、神社の性器信仰からヴァイブまでを隔たりなく広くとりあげ、そこに
宿る日本人のエロティックなファンタジーにアプローチしようという試みに、
自分の知らない日本を発見します。

 オタク、エログロの括りの中で見過ごして、記録されずに消えてしまうかも
しれないファンタジーがあるやも、と思うと“もったいない”気さえしてきま
す。そうして、日本の風俗を私たちはどうやって記録すればいいのかな? 語
ることができるのかな? と自問中です。

 そんな中で、この夏、日本で初めてのSEXPOが開催されたり(アダルト産業
の見本市)、ラブドールを世に出して30年を迎えるオリエント工業の人形展?
が銀座のヴァニラ画廊で行われるなど、催し面でもちょっと新たな展開が…。

 今年の夏は、エロなファンタジーを見直したい、大人の遊園地?SEXPO見た
い、とってもお伽な気分です。

〈なかやま・あゆみ〉中野の特殊書店タコシェに勤務。

--------------------------------------------------------------------- 
■全著快読 梅崎春生を読む 扉野良人
(19)愉快な小説
---------------------------------------------------------------------
『ウスバカ談義』番町書房、1974年

『ウスバカ談義』は短篇集である。わたしは三分の一ほど読んでから、本を閉
じてそのまま十数年が経ってしまった。どうして読み通さなかったのかという
と、一冊の本をじっと読んでいられない質もあるのだが、『ウスバカ談義』に
かぎっては面白すぎて読みおわるのがもったいないと、うまい酒のようにちび
りちびりやっているうち、本は積んである本と本のあいだに埋もれていった。
そんな本が何十冊もある。

 そして十数年。飲み屋で知りあったIくんが梅崎春生を読みたいというので、
ダブって持っていた『ウスバカ談義』を「これがおもしろいから」とあげた。
 Iくんはわたしと苗字が一緒で、年はふたつ下(苗字が一緒とは、トビラノ
でなく本名が)。梅崎春生をはじめて読むのに『ウスバカ談義』をすすめると
いうのは、ちょっとひねりすぎたかしら。心配したが、さっそくIくんより
「愉快な小説ですねぇ」という感想を聞いた。すすめた本を面白く読んでもら
えることはじつに嬉しい。わたしは「愉快」という言葉をなんども頭でくりか
えし、のこり三分の二をまだ読んでいないことにあわてながら、「うんうんそ
う」と肯いた。Iくんの「愉快」をわたしはまだ三分の一しか知らないことに
気がさして、こんどはわたしがすすめられたかのように『ウスバカ談義』をも
ういちど最初から読むことにした。

『ウスバカ談義』は梅崎春生の山名君ものを中心に編まれている。山名君は「山
名の場合」という作品があるくらいで、ときどき小説に登場する友人の名であ
る。「山名の場合」では山名申吉というさえない国語教師だが、ここでの山名
君は画家ということになっている。もっぱら「私」と山名君との奇妙な交流が
描かれるので、そのときどきで職業は違ってもストーリーに差しさわりはない。
山名君と「私」のあいだに取りかわわされる生真面目なやりとりが、どうも頭
のネジが一本たりないウスバカの談義に聞こえてくるのである。

「山名君は犬屋ではない。他に職業はあるのだけれども、時々私の家にあらわ
れて、私が欲しがっているもの、必要なものを、どこからか都合して用立てて
呉れる。呉れるといっても、もちろんタダではない。しかるべき金額を、しか
るべきといっても彼にとってしかるべき金額で、私の側からすると、どうも市
価の二倍にあたるような金額を捲き上げて行く何でも屋さんだが、向うでは好
意と善意をもってやっているらしいので、むげに断るわけにも行かない。便利
なこともあるから、ついつい頼むことになるのだ。」(「益友」)

 山名君は、「私」の家の庭に不審者が忍び入ったというので賢い番犬を世話
しようと申しでる。「私」が「うまいタケノコが食いたい」と言えば、山名君
は見事なタケノコを七、八本とどけてくれる。そのタケノコを「木の芽あえに
して食いてえな」と呟けばサンショウの木をかつぎ込んでくる。戸袋に造営さ
れた蜂の巣を、身体のあちこち刺されながらスリコギでたたき落としてくれた
り、息子が便所に落とした定期をひしゃくですくいとってもくれる。そんな山
名君は、「私」にとってありがたい友達でもあり、困った友達でもあった。
「友達にもたくさんの種類があり、たとえば善友、悪友、益友、損友、その他
棋友、釣友などいろいろ」あって、山名君は考え方によっては損友だと思えな
くもないのだが、なるほど彼が「私」の益友という心がまえであることは間違
いないらしい。

「私」は山名君の好意を「なかばワクワク、なかばビクビク、なかばどころか
四分の三ぐらいビクビクしながら」待っている。
 故に「益友を持つ身も、またつらいのである」と。

 わたしはふと我が身にふりかえり、Iくんに『ウスバカ談義』をあげたこと
を思いだして苦笑した。ちょっと恥ずかしくなった。Iくんとはまだ四、五回
しか飲み屋で一緒になったにすぎない。飲み屋以外でも何度か会ったことはあ
るが、酔って会っているときのほうが多い。I君が私を友人と思っているかど
うかもあやしい。私はいつも誰にでも益友たろうとふるまってしまう。人に好
きな本をすすめたりするのは、じつはありがた迷惑な場合も多々あると、自分
も経験上よく知っているではないか。Iくんと一緒に酔って、話題がたまたま
梅崎春生に及び、わたしは躁気分に移行した。その楽しさが忘れられず、『ウ
スバカ談義』をたずさえ、Iくんを探してまた飲み屋を訪れたのである。わた
しはわたしのウスバカ加減に嘆息した。

「愉快な小説ですねぇ」というIくんの感想を、わたしはなんども頭にくり返
した。「愉快」と感じるのは山名君の振る舞いであり、それをワクワクとし、
またビクビクとしながら待っている「私」の姿である。梅崎春生自身の姿であ
り、それを読んでニヤニヤ笑っている私たちである。「愉快」というのは実に
意地悪に世界を見わたしていることではないか。

 Iくんは、わたしが良かれとすすめた『ウスバカ談義』を迷惑がらずに読み、
ふつうにおもしろいという率直な感想として「愉快な小説ですねぇ」と言った
だけである。その後、Iくんは古書市で見つけた『幻化』を読んでいると聞く。
Iくんが、本格的に梅崎春生の世界に共鳴しだした様子を、わたしは友を得た
ようでいて嬉しい。『幻化』には「愉快」という感想はもうでてこないと思う。

 梅崎春生のもつ怜悧で意地悪と言ってみたくなる質が、無意識にIくんの「愉
快」という言葉に反映していることを、ちょっと深読みしすぎた。ただ梅崎の
小説には、世を儚むことを超えて、むしろ愉快痛快と見なければやりきれない
というニヒルで自虐的な視線が隠されていることは確かである。
 それにしても、私の益友癖はまだしばらく続きそうだ。Iくん、次は『ボロ
家の春秋』を貸してあげよう。「蜆」は読んだかい?

〈とびらのよしひと〉1971年生まれ。ダブった『ウスバカ談義』、長年持って
いたほうをIくんに贈呈し、のこしたのは先日、荻原魚雷さんからいただいた
帯付き美本。中野ブロードウェイの古書店の値札がついている。

===============================================================
■ 電子メールマガジン「[書評]のメルマガ 」(毎月4回発行)
■ 発行部数  5296部
■ 発行:[書評]のメルマガ発行委員会
■ 掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。
■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の執筆者が有します。
■ ご意見・御質問はこちらまで kawasusu@nifty.com
■ HPアドレスhttp://www.shohyoumaga.net/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。
■ メールマガジンIDナンバー0000036518
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。
==================================================================

| バックナンバー | 11:36 | comments(0) | trackbacks(0)
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://back.shohyoumaga.net/trackback/620947
トラックバック
SEARCH
[書評]のメルマガ
本の虫の出版業界人が<徹夜した本>や<繰り返し読んだ本>、さらに新聞記者、出版編集者、プロの書評家による気鋭の書評など、書評メルマガの決定版。
発行周期発行周期:月4回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000036518

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

フリーラーニング Free-LearninG For Your Extention コーチ募集(コーチングバンク) 灰谷孝 ブレインジムラーニング 無料 コーチング 東京新都心ロータリークラブ カーディーラー経営品質向上 相続・遺言なら新都心相続サポートセンター 夢ナビ 実践写真教室 フォトスクール「橋本塾」 無料 eラーニング CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC 「付加価値型」会計アウトソーシング−株式会社サンライズ・アカウンティング・インターナショナル
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>
ARCHIVES
LINKS