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[書評]のメルマガvol.350
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■■ [書評]のメルマガ                2008.2.20.発行
■■                              vol.350
■■  mailmagazine of book reviews  [ハタナカリエコの本日和 号]
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■コンテンツ
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★「こんな本をセンデンしたい」/小林圭司
→サッカーの往年の大スターの人生行路とは……

★「本の周りで右顧左眄(うこさべん)」/蕃茄山人
→時代小説の傑作を語ります。

★「ハタナカリエコの本日和」/畠中理恵子
→畠中さん復活しましたー。自由に書評を綴っていきます。

★「ベストセラーに背を向ける」/朝日山
→お医者さんが足りない、戦慄の理由が明かされます。

★「どこでも読書」/オオウラウタコ
→今回はお休みでーす。

★「三ツ星☆☆☆・人情馬鹿の店」大友 慶
→今回はお休みでーす

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■「こんな本をセンデンしたい」/小林圭司
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今年は戸塚哲也に注目!
『読売ヴェルディやんちゃ伝説』小見幸隆著(イースト・プレス刊)

「サカつく」と違って、生身のサッカーチームの運営は並大抵ではできない。
それでも現在、Jリーグ(J1・J2)入りを目指すチームが、3部(JFL)以下
に全国で40はあるという。
みなさんはJリーグ以下の組織なんてほとんど聞いたことがないと思うのだ
が、3部にあたるJFLまでは全国リーグ(北は秋田から南は沖縄まで! つま
りJ1より広い)として開催されている。
その下の4部になると、北海道・東北・関東・北信越・東海・関西・中国・
四国・九州の9つに分かれた地域リーグになる。

この地域リーグからJFLへ上がるのが、Jリーグを目指す上での最大の難所と
言われている。
毎年11月末から12月には昇格を争って「全国地域リーグ決勝大会」という大
会が行われるのだが、これは星の数ほどもある日本国内のサッカー大会の中
でも、「最も過酷」なものとマニアから認定されている。
過酷と言われる第一の理由は、まず大会に出場すること自体が大変だという
こと。
基本的には各地域リーグで1〜2位に入らないと、出場権は与えられないのだ。
ようやく出場権を勝ち得た約14のチームはまず、4グループにわかれて総当
たり戦を行うのだが、今度はこの中で1位にならなければ決勝リーグには進
出できない。
さらに、勝ち残った4チーム総当たりで行われる決勝リーグで上位に入賞し
て、ようやく晴れて昇格、ということになる。
このレギュレーションの厳しさが第二の理由である。
第三に挙げられるのが、グループリーグ、決勝リーグ共、3日で3試合という、
高校生の大会並な日程の過酷さである。

こういうのを喜ぶのはマニアだけで、一般的には注目度の低い、下位カテゴ
リーの大会と言ってしまってよいのだろう。
私がここ数年足を運んでいるのもバカなマニアに他ならないからで、昨年12
月も、埼玉県熊谷市にあるバカでかい競技場の観客席はまばらだった。
しかし、ベンチに視線を移せば、予想外の豪華さに驚くはずだ。
決勝トーナメントに残った4チームを率いていた監督は手塚聡、与那城ジョー
ジ、戸塚哲也、田中真二の4名、サッカーファンならお馴染みの名前ばかり
だ。
特に戸塚哲也なんて、日本代表や読売クラブ→ヴェルディ川崎の黄金期の活
躍を知る世代には、いけ好かないところはあるものの、卓越した技術を持つ
サッカーセンスの固まりみたいな選手という記憶が残っているわけで、あの
現役時代の華麗なプレーぶりと、この地域決勝大会といううら寂しい舞台と
の落差にはかなりショックなものがある。

戸塚は一昨年にも東海リーグ1部所属のFC岐阜の監督として同大会に出場、
見事チームを昇格させた。
07年はJFLのFC岐阜監督としてスタートしたのだが、Jリーグの監督になるた
めに必要なS級ライセンスを取得していないことを理由に、シーズン途中で
解雇される。
その後、関西リーグFC Mi-oびわこKusatsuの監督に就任、昨年の大会ではこ
のチームを昇格させた。
もはや「JFL昇格請負人」と呼んで差し支えない立派なキャリアであり、監
督としての手腕は評価されてよいはずだ。
それでも、S級がなければ、より上位のカテゴリーの監督にはなれない。

先週・先々週と、サッカー専門紙「エルゴラッソ」に、宇都宮徹壱による戸
塚哲也インタビューが掲載された。
インタビューから窺える戸塚のサッカー観も興味深かったが、私が一番考え
させられたのは、彼のS級未取得にまつわる、運のなさとサッカー界の冷淡
さだった。
最初に取得を考えたのは04年、ヴェルディの巡回コーチをしていた頃だとい
う。
しかし、S級の講習でチームを留守にする間は給料を出せないと言われ、生
活できないということで断念。
FC岐阜時代にもフロントに取得を訴えるも、「リーグの大事な時期だから無
理」とペンディングにされてしまう。
そうこうするうちにFC岐阜のJリーグ昇格が現実味を帯びてきたため、解雇
されてしまったのだからあんまりである。

先日、ブックオフの105円棚という最果ての場所で、上記の本を見つけた。
(『都並クン・藤川クンのイエローカードなんて怖くない!?』もあったので
ついでに一緒に買った。)
出版年は1992年、Jリーグ開幕直前で、ヴェルディが絶頂期を迎えつつある
時期に出されたゆえ、天狗と非難されても仕方のないような、ふざけ過ぎが
少々鼻につく本だが、時代の空気を知ることができる貴重な資料である。
後半部分は選手へのショート・インタビューに割かれていて、三浦知良、北
沢豪、武田修宏らの威勢のよい発言が並ぶ中で、戸塚はこんなことを言って
いる。
「(愛車は)フェラーリ348tb、ジャガーXJS、GMCの3台。(……)いい車に
乗るのはプロ選手として活躍し、いい年俸を獲る発憤になる。」
「(将来の夢は)豪邸を建てて老後はぼくが活躍した時代の記事が載ってい
る雑誌を読みながら、妻とお茶をすすりたい。」
今からすると一見痛いように聞こえるかもしれないが、ここに戸塚のサッ
カー人としての矜恃と流されない個性を垣間見ることもできる。

今年、戸塚は、関東1部リーグのFC町田ゼルビア監督というまたも新たな出
発を選択した。
今回もJFL昇格がミッションとなるが、これまでとは異なって、自身のライ
センス取得と上のカテゴリーを見据えながらのものになるはずだ。
そんなわけで、今年は戸塚哲也にすごく注目している。
(小林圭司 出版社宣伝部員 39歳 好きなジャンル:サッカーとカレー)
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■本の周りで右顧左眄(うこさべん)   蕃茄山人
(40)鞍馬天狗のすすめ。
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いやぁ始まりましたね、NHK木曜時代劇「鞍馬天狗」。ドラマとしては
原作を大きく外れてるし、いろいろとユルさも目立つものではあるのだけど、
狂言界のプリンス・野村萬斎の鞍馬天狗の美しいこと、それで十分。北海道
シチューの野菜を刻む包丁を“虎徹”に持ち替えた緒方直人の近藤勇もまあ
健闘している。

それにしても天狗役は萬斎先生でよかったなぁ、村上弘明じゃなくて。い
や村上さんもスケール感があっていいのだけどちょっと野暮ったい。それな
のにかつての名作のリメイク版にやたら起用されて旧作のファンの心を逆な
でする。「時代劇界の平井堅」と異名をとる所以だ(とってない、とってな
い)。あるいは「時代劇界の大正琴」とでも言うべきか(どんな名曲も大正
琴にかかるとすべて「味の民芸」のBGMになってしまう恐怖!)。

それはともかく「謎の浪人・倉田典膳(実は鞍馬天狗)」と「悲劇の青年公
卿・小野宗房」が同一人物という設定には驚いたなぁ、NHK。これって言
うなれば「シャーロック・ホームズの正体、実はワトソン君」みたいなもの
だもの。理由はわかっている。きっとプロデューサーが「野村萬斎の公卿姿
を見たかった」だけだと思う。

「杉作がいない」という設定についての不平も仄聞するのだが、ドラマ前
半の「鬼面の老女」「銀煙管」「女郎蜘蛛」については原作に登場しないん
だからしかたがない。杉作は、大佛が「少年倶楽部」に書いた児童向け「鞍
馬天狗」のキャラだもの。つまり「明智小五郎もの」における「少年探偵団
シリーズ」の小林少年やポケット小僧のようなものだ。ただ原作に杉作が登
場する「山嶽党」編にまで出なかったのはちょっと不思議。あの涙を誘う健
気な杉作の活躍が見られないのはなんとも惜しまれる(さすがに最終回の
「角兵衛獅子」には出るという。「しゃべれどもしゃべれども」のあの天才
子役・森永悠希らしい)。

わが国において、「ミスター・鞍馬天狗」と言えば当然、映画の嵐寛寿郎
だろう。と言いつつ僕は昭和31年が最終のアラカン天狗を見てはいない。僕
にとっての映像の鞍馬天狗はなんと言っても高橋英樹だ。1969年のNHKドラ
マ。よく一歳下の従兄弟と鞍馬天狗ごっこをしたものだ。配役は近藤勇が嵯
川哲朗、黒姫の吉兵衛が露口茂。最近知ったのだが、杉作が坂東八十助だっ
たという。今の三津五郎丈。近藤サトの前夫。

 そのあとが80年ごろで草刈正雄。これはなんともミスキャストだった。近
藤が財津一郎でキビシィィー演技を見せていたのはいいのだけど、土方が細
川俊之。草刈正雄と細川俊之ですよ、あーた。なんか年取ったホストのナン
バーワン争いみたいな対決だった。杉作が伊藤つかさ。ぜったいトンボ返り
なんかできない尻の重そうな杉作だった。

次が90年ごろで目黒祐樹。思い切ってB級に仕立てたのが好感が持てるシ
リーズだった。高橋悦史の近藤はまるで寺子屋の師範のように実直だったが、
笑福亭笑瓶の吉兵衛の過剰な演技は面白かった。調べてみたら、これらのほ
かにも、竹脇無我や中井貴一、松平健なんかも天狗を演じているらしい。

杉作役の決定版はなんと言っても美空ひばり御大だ。断片的な映像でしか
見たことがないが、ぷりぷりとはちきれんばかりの存在感を放っている。あ
とミネラル麦茶の松島トモ子も演じている。


えーっと、本の話もせねばなりませんね、「書評のメルマガ」なんだから。

でも皆さんも、「鞍馬天狗」っていうと映画やドラマのイメージが強くて、
原作のことなんてあまり考えたことがないですよね。ではまずこれを機に原
作を読んでみましょう。かつては文庫で探すしかなかったし、何しろ47編あ
る(40年に亘って書かれた)。とても読み切れないし、どこから読み始めて
いいかわからなかった。そこに朗報。ドラマ放映に合わせて、読みやすいノ
ベルス判の傑作選が発売された。全3巻で「鬼面の老女」「銀煙管」「女郎
蜘蛛」「山嶽党奇談」「角兵衛獅子」等が読める。大正および昭和初期の作
品だが80年前の作品とは思えぬ平易な文章で簡単に読め、血涌き肉躍る作品
ばかりだ。1,500円〜1,800円と価格は高めだけどそれに見合うだけの価値は
ある。

そして原作についても映画についても「鞍馬天狗」全般について詳しくな
れる一冊がこれ、大佛次郎記念館編『鞍馬天狗読本』。横浜にある大佛次郎
記念館での特別展「21世紀の鞍馬天狗―見る、考える、行動する」展のオ
フィシャル・ブックとして編集された、鞍馬天狗のすべてがわかる決定版。
カラー図版多数で、これ一冊あればもう「鞍馬天狗博士」。カルトなウンチ
クも身につき、一緒にドラマを見ている家族に疎まれること必定だ。がんば
れ、おとうさん!!

さらに語りたい人向けには岩波新書の『鞍馬天狗』(川西政明著)。47作
に及ぶ鞍馬天狗を丁寧に読み解いて、「鞍馬天狗とその時代」を考察してい
る。
「鞍馬天狗=維新派の正義の味方」なんていう単純なものではない、と著者
の川西さんは語る。大佛次郎が生涯に書いた「鞍馬天狗」シリーズ47作の中
で、第一作「鬼面の老女(大正13年)」から最終作「地獄太平記(昭和40年)」
までの間に天狗は181人の人を斬っている。しかしその斬り方や斬る意識は
時代によって変わっていく、というのだ。

大義のためには手段を選ばないテロリストめいた時代もあれば、けっして
止めを刺さなかった時代、峰打ちだけの時代、さらには戦いそのものに逡巡
する時代もある。それはそのときどきの日本社会の歴史観とシンクロする。
さらに言えば、第一線の知識人であった大佛次郎の歴史観、戦争観の揺らぎ
とシンクロする、というのだ。

 川西さんは看破する、「鞍馬天狗とは“人を斬る”ことをキーワードに無
限に膨張する歴史を入れる器なのだ」と。時代は揺らぎ作者も揺らいでいる。
当然、矛盾や破綻は生じる。それらを埋めるという意味もあって執筆された
のが、続く『天皇の世紀』ではなかったかと川西さんは推理する。川西さん
の労作によって僕たち読者は、大正末期から高度成長期までの日本社会の、
そして一人の知識人の歴史観、世界観のブレや変化を体感できる。川西さん
自身の言葉を借りれば「無限に膨張する歴史を入れる器」に身を浸すことが
できると言えよう。

そして、さらにさらにもっと詳しく知りたい、ウンチクを深く語りたいと
いう人向けには、小川和也著『鞍馬天狗とは何者か 大佛次郎の戦中と戦後
』がおすすめ。藤原書店の第一回「河上肇賞」奨励賞受賞論文、『鞍馬天狗
と憲法――大佛次郎の「個」と「国民」』に大幅加筆をした作品だ。

一般的に、戦前戦中も一貫したリベラリストだったとして認識されている
大佛次郎。しかし実は、戦中の“戦争協力”随筆が多数存在するという。当
然、それらは戦後は封印されてきた。筆者はそれらをひとつひとつ白日の下
に明らかにし、これまで隠されてきた国民作家の、戦中の思索を綿密に辿っ
ている。手厳しい内容も含まれるが、筆者の大佛に対する愛とリスペクトに
満ちているので、読んでいて気持ちがいい。気持ちはいいがちょっとだけ高
い。2,940円。


それにしても驚くのは、「鬼面の老女」「銀煙管」「女郎蜘蛛」の連作の
執筆当時の大佛次郎の年齢! 27歳ですよ、27歳。優香や妻夫木聡と同じ年
齢。昔の人は老成しているなぁ。

あ、それからことのついでに書きおく。さきほど、村上弘明の鞍馬天狗を
平井堅や大正琴のように恐れる、と書いた。今、もっと恐ろしいことを思い
ついてしまった。それは天狗のおじちゃんと杉作の信頼と友情を、BL仕立
てで描くショタ系腐女子の出現である。もしそんな奴が現れたら…。世間が
許してもわしが許さん。成敗してくれる!!


◎大佛次郎著『鞍馬天狗傑作選(1)〜(3)」(定価1,500〜1,800円・文藝春秋)
◎大佛次郎記念館編『鞍馬天狗読本』(定価1,650円・文藝春秋)
◎川西政明著『鞍馬天狗』(定価735円・岩波新書)
◎小川和也著『鞍馬天狗とは何者か』(定価2,940円・藤原書店)

蕃茄山人=都内出版関係某社勤務。本の周辺およびチャンバラ雑談、そして
時々ダイエット話で大評判のサイト『蕃茄庵』を運営。
http://diary5.cgiboy.com/1/tomatomaster/
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■「ハタナカリエコの本日和」/畠中理恵子
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「ハタナカリエコの本日和」

お久しぶりです。
書肆アクセスでお世話になりました畠中です。
昨年の閉店の節は皆様に本当にお世話になりました。
たくさんのお言葉を頂戴し、改めて書肆アクセスが皆様に愛されご利用頂け
たことを教えていただき、
大変光栄であり、うれしく、そして閉じることの大きさが胸に重く残りまし
た。その後も、『書肆アクセスという本屋があった』(右文書院刊)が好評
だとお聞きしとてもうれしく、御尽力いただいた方々やお読みいただいた
方々へ感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございます。

「書評のメルマガ」編集部のご好意で
今後も二ヶ月に一度本についての文章を書かせていただけることになりまし
た。どんな方向に行くのかわかりませんが、どうぞ今後とも宜しくお願いし
ます。


『しろい虹』
石田 千著・KKベストセラーズ刊
(装幀 有山達也 絵 佐々木美穂)
ISBN978-4-584-13049-0

久しぶりに読んだ新刊は一月に出た石田千さんの本です。
ウェブで連載されていたそうですが初めて読みました。

佐々木美穂さんの絵を有山達也さんが装幀した表紙カバーは
淡い色と白が目に眩しく、文字がくっきりとしまり清清しい。
カバーの下には虹がかくれています。
佐々木さんの七枚の絵は冴え冴えとしています。

石田さんの文章は、毎日を丁寧にみつめていて、
読んでいると
自分もそこやここ、あそこに出ていき、その風に吹かれているような
そんな気持ちにさせてくれます。

綴られることば、ひとつひとつが
清潔で、絵のようで
辿っていくのが心地よい。こう、景色のみえてきます。

『しろい虹』は、「カミ」「ハナ」「アメ」…とカタカナ二文字の題の文章
が19編。
「神?」と思うとちがうモノが描かれたり、
その驚きと一緒に、石田さんの出会う出来事や過ぎる時間を
何度も何度も通りたくなります。
行ったり、来たりと読み重ねています。
糸こんにゃく、毛糸の「イト」。
親しいひとと歩く早朝のミチ、知らないミチ、そして出会うあたらしい未知、
「ミチ」。

食べものがたくさん登場します。
食べるための思案、食べるための下ごしらえ、調理、後片付け、
食べる記憶。
どれもおいしそうで
舌のうえに広がる味を楽しみながら、
読み終わりました。
家にある皿や箸、窓から見える向かいのマンションさえ
気になり始めて何だか何かを取り戻したようでうれしくなりました。

途方にくれている今。
寒い日に布団にもぐりっぱなしになったり、
テレビをつけっぱなしで一日外へ出なかった日、
仕事帰りのひとを窓から見て
「世界の終わり」とか「人間失格」かも、と鬱いだり
情けなく暮らしています。
そんな黙った雑な自分の毎日のなかで、
本書を読むと、
不思議に明るい気持ちになりました。
うまく言えないけど
お日さまに向かうような、春に向かうような気持ちになります。
たぶん、彼女のもつ緊張感が、そういう方向へ向かっているのだと思います。

幼いころの、記憶のたいさんぼくが描かれる「ハナ」。
−−
(前略)
 たくさんの名まえを教えてくれた、やさしいひとたちのいた庭はもうない。
ぽかんとしたとき、くらいみどりの葉にかくれていた、おおきなつぼみが目
をさます。
 胸のうちにふわりふくらんで咲いた。くっきり青い冬の空の、高い高いと
ころを見あげ、かなしまなくていい、こわがらなくていい。つぎつぎ咲いて
いった。
 おおきな花の咲く木のすがたは、もうない。生きものの息づかいにふれた
記憶は、はなれたときから身のうちに育っていくものと、その場に立っては
じめて知った。

−−「ハナ」から抜粋

春一番に、お薦めいたします。

■イベントのお知らせ■

 3月18日に発売される、石田 千さんの山と渓谷社からの新刊『山のぼ
りおり』刊行記念のイベントが催されます。
 私もアンチヘブリンガンにて参加させていいただきます。(電話:03−
5280−6678)
 ご多忙と思いますが、ぜひいらしてください!宜しくお願いします!
 
■■■3月20日(木)古本酒場コクテイル (19時より)
   石田さんと荻原魚雷さんとのトークショー
   3月22日(土)アンチヘブリンガン (14時より)
   石田さんと畠中との「ゆるい」トークショー
   3月22日(土)Cafe HINATA- YA        
   石田さんと『彷書月刊』田村編集長とのトークショー

 詳細は各お店にお問い合わせください。
(畠中理恵子 元書肆アクセス店長)
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■「ベストセラーに背を向ける」/朝日山
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医師はホントに足りないらしい
「貧乏人は医者にかかるな」永田宏 集英社新書

これから医師は余る。医師過剰時代が来る……30年くらい前から、私たちは
そう教えられてきた。実際、そんなことが言われ出して10年もすると、何人
かに一人は必ずいた“こわい先生”が消えた。

「どうしたの」
「風邪ひきました」
「おまえな、風邪だと分かっているなら来るなよ」
「は?」
「風邪かどうか診断するのは医者の仕事で、お前のやることじゃないだよ。
ほい、口開けて!」

ケガの場合は、患者がしみる消毒液に「うぎゃ〜」と叫べば「やかましい!」
なんて返す先生などあたりまえ。それが「しみるけど我慢してねぇ」と言わ
れ、叫んでも「賑やかな人だねぇ」くらいに返してくれるようになった。医
師過剰時代万歳\(^^)/

それから20年、現在産婦人科や救急などの分野で医師が不足してるという。
実際、医師の手が足りなくて病院をたらい回しにされたあげく亡くなる方も
おられる。

なぜむかし医師過剰時代になると言われて、今不足しているのか?医療現場
から漏れ出てくる、産婦人科の労多くしてリスク多しなんて話から、医師は
ラクな分野に流れて、しんどい分野をやらなくなっているんじゃないかと思
う人も多かろう。実際、私もそう思っていた。だが、ことはそう単純ではな
いようだ。

この本の著者永田宏氏は、元医療機器メーカーのエンジニアで、医師過剰時
代が来るということで、医療情報市場の開拓を命じられたのがきっかけで、
その筋のスペシャリストになった人。で、この本の骨子を一言で言えば 医
師は足りていない。これからも足りる見込みはない。

んな馬鹿な……である。永田氏は、90年代前半くらいから医療情報やろうと
医療の現場を見て回ったが、どこも医者が余っているようには見えなかった。
日本有数の病院でも、医者は忙しそうである。おかしいな……

しかし、それでも医療はなんとか回っていた。それが回らなくなったのは
2000年あたりからだと言う。まず病院の産科や小児科の医師が激務に耐えか
ねてやめていき、補充が効かない。

補充が効かないから残った医師でなんとかこなそうとするが、それも激務だ
からまた医師が辞める。そしてますます残った医師の負担が増大するように
なってきた……。

そこから永田氏は、現在の医師不足にいたった経緯の解説に入る。最初は、
なぜ医者が余るようになると言われるようになった根拠からだ。適正な医師
数の基準とされたのは、今から60年前に定められた医療法の規定である「人
員配置基準」……最低これだけは人が必要だとした基準……が、「医師数の
上限を定める基準」に読み替えられた。

60年前と今では、医療の需要も質も全く違う。なのに昔の基準、それも最低
が上限と読み替えられた法が医学部の定員削減から何から、医療現場にも計
り知れない影響をあたえた。

そこから始まる医療の変化、外国の事例などを交えた内容を読んで行くと、
現在、我々が受けている医療サービスは、コストパフォーマンスが良すぎる
という結論に達する。加えて、医師不足のため、医療の世界は将来「二十数
兆円マーケット」を捨てざるを得ない話に至っては、戦慄さえ覚える。

いかにも神田正典的なタイトルは、誇張ではなかった。マジに2025年には、
我々は医者にかかりたければ相当な出費を余儀なくされ「貧乏人は医者にか
かるな」の時代になるらしい。

この結論に反論するのは、容易なことではなさそうだ。大胆な解決策も提示
しているものの、その結果見えてくる未来は決して明るいものではない。し
かし、何か抜けているような気がする。もっと簡単な部分で、完全とは言わ
ないまでも解決策があるのではないかといった印象があるのだ。

たとえば医師の仕事も一部看護師にアウトソーシングすればいいんじゃない
かと思う。永田氏は本の中で虫垂炎の診断の難しさについて書いている。確
かに診断の難しい病気もあろう。しかし、病気は診断の難しいものばかりな
のか?看護師で十分対応できる病気も少なくないのではないか?

看護師に診断をアウトソーシングできる病気がそこそこあるなら、アウト
ソーシングは看護師の地位向上にもつながり、医師の仕事量を減らし、コス
トも少しは抑えられようになるかも知れない。

あるいは、症状から検索できる病気のデータベース……「家庭の医学」に治
療法を素人にも分かりやすく加筆したようなデーベースを駆使して診断を行
う“凖医師”を養成し、軽い病気は任せるなんてのはどうか?。

もちろんこんなアイディアは、プロが見たら即座に否定される程度のものか
も知れない。でも読者層は素人なのだから、そのあたりもキチンと書いて欲
しかった。

とはいえ、豊富なデータを駆使して、ぐいぐい読ませていく手腕はたいした
もの。20年後に高齢者になる人たちは、読んで将来覚悟しておいた方が良さ
そうだ。あ?オレもか……orz

(朝日山 烏書房付属小判鮫 好きなジャンル 何だろ? 最新刊『〈イラ
スト図解〉コメのすべて 生産、流通から最新技術まで』(日本実業出版社
1500円税抜き)発売中。他に『最強!戦略書徹底ガイド』(ソフトバンク
1,600円税抜き)『農業に転職する』(プレジデント社 1,500円)『イラス
ト図解 農業のしくみ』(日本実業出版 1,500円)も好評発売中です)
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■あとがき
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>前にも書いた気がするんですが、
>はあはあ
>むかし、自衛隊にいた人に取材したとき、今の自衛隊は天狗になっちゃっ
ててマズイという話をしていたんです。
>へー、そうなんですか?
>昔は、敗戦の責任があるとか、違法だということでひらすら身を小さくし
ていたんですが、今は国際貢献ととが評価されて驕りが目立つようになって
OBの忠告とかも聞かなくなったと嘆いていたんです。
>ああ、今回の海難事故も、ちょっと信じられないような話ですよね。
>おれさまは自衛隊様だ、漁船なんぞどけどけみたいな感覚が原因じゃなけ
れば良いのですが……
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| 探偵調査通信 | 2008/02/22 7:49 AM |
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