[書評]のメルマガ

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[書評]のメルマガ vol.440
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■■ [書評]のメルマガ               2010.01.10.発行
■■                             vol.440
■■ mailmagazine of book reviews        [いきなり新連載 号]
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■コンテンツ
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★【新連載】「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→それは「ガロ」から始まった

★【新連載】「背伸びして本を選ぶ」/十谷あとり
→学研の図鑑「魚」

★【新連載】「日記をつけるように本の紹介を書く」/大麦親父乳酸脂肪
→『謎ときシェイクスピア』

★【新連載】「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→はじめまして。林さかなです。

★【新連載】「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」
 /庄司善彦
→ゆとり社員をどう活かし、成長させるか

★【新企画】献本読者書評のコーナー
→読者の方、著者の方、出版社の方、必見です。

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■トピックス
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 皆様、新年、明けましておめでとうございます。
 今年も[書評]のメルマガをよろしくお願い致します。

 今年から[書評]のメルマガは、10日号、20日号、月末号の月3回ペースに
て、配信させていただきます。そして今回の10日号はリニューアルに相応し
く、全てが新連載です。

 ジャンルも漫画、古本、演劇本児童書、人事書など、多彩な顔ぶれになり
ました。

 巻末には新企画の告知もございます。これもどんどん御活用いただければ、
と思います。

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<1> それは「ガロ」から始まった

 「ガロ」という漫画雑誌の存在は聞いてはいたのだが、それに初めて接し
たのは1972年…だからわしは高校2年生で、11月だった。

 高校で一緒に漫研をやっていたアキオくんが、発売されたばっかりの「ガ
ロ12月号」を学校へ持ってきて、漫研仲間皆して…つーても全部で5人ほど
だったのだけど…で、「へーえ、これが『ガロ』かいな」と覗き込んだのだ
った。

 赤瀬川原平筆になる、なんだか乱雑な座敷に置かれた赤ちゃん人形のイラ
ストが表紙で、30ワットの裸電球の真下に極彩色のセルロイド置いたみたい
な、妙に暗明るいその表紙からして、異様な雰囲気をたたえた雑誌であった。

 72年当時の「ガロ」は、白土三平『カムイ伝』終了後の低迷期を経て、未
だに「低迷」は変わらなかったのだけど、つげ義春や林静一をはじめとした
新しい漫画表現を模索する才能が集まり、安部慎一、鈴木翁二、古川益三の
いわゆる「一二三トリオ」やら、川崎ゆきお、淀川さんぽ、やらがその誌面
で、既成の漫画表現にとらわれない、闊達で奔放な筆をふるっていた。

 当時のわしはといえば、それまで漫画といえば「少年サンデー」で時たま
「マガジン」だったのが、高校生になったんやからと、「ビッグコミック」
に乗り換えたばかり。(ちなみに新興の「ジャンプ」「チャンピオン」は、
「二流の格下やしな」と一顧だにしなかった……のは、わしだけではなくて
当時の一般的評価だったと思う。)

 そんなわしには、ペンで引っかいたような荒い描線と、黒ベタの多い、
「スクリーントーンなんて知らんもんね」なそれらの漫画との出会いは、と
ても衝撃的だったのだ。

 それ以前、同じ漫研で手塚信奉者のモッちゃんが持ってきた「COM」には、
表紙に謳う「まんがエリートのためのまんが専門誌」という惹句にまず「ケ
ッ!」と思い、中を開いても、手塚治虫の『火の鳥』はじめ、石森章太郎や
永島慎二が描く、田舎モンが田舎スーパーで買ったペランペランのスーツ着
て、どうや!これが最先端じゃ!と勘違いの大威張りで歩いてるみたいな漫
画に、吐き気催すほどの嫌悪覚え、思わず破って捨てようとして、人の本だ
ったと気づいて思いとどまったのだけど、「ガロ」との出会いは、「これや
〜〜っ!」やったんですわ。

 思わず学校を飛び出しては、そのまま電車飛び乗り、終点の新開地で山陽
電車に乗り換えて所要約1時間20分の須磨海岸まで行って、海に向かって
「こんな漫画が、あったんや〜〜っ!これぞ、わしが求めとった漫画や〜っ
!」と叫び……はさすがにしなかったけど(遠いし…)、それほどの高揚が
あった、と思っていただきたい。

 で、その衝撃があって爾来、漫画雑誌は「ガロ」しか買わない。「ガロ」
以外の漫画は(自分の中では)漫画と認めない、という価値観を持つに至っ
てしまうのですね。(はい。極端なんです。)

 とは言え、自分の中で「ガロ的」と認めた「ヤングコミック」は買ってた
し、東京で大学生になって後は、「サンデー」「マガジン」「ビッグコミッ
ク」「オリジナル」を、毎号買い揃えて置いてある喫茶店に通っては、各誌
に一応目を通してはいたんだけど、しかし、買うのは「ガロ」(…と「ヤン
コミ」)という矜持(なのか?)は守り続けたんである。

 前述の「COM」というのは、ただいま現在、「ガロ」と並べて論じられ
ることが多いのだけど、「まんがエリートのための〜」という惹句に表象さ
れるごとく、その誌面というのはまさに漫画「にしか」開かれてなく、言葉
を変えればとても閉鎖的内向的だったのに対して、「ガロ」は、漫画以外の
ジャンルにも全方位的に開かれており、その誌面あるいは漫画そのものが、
映画や演劇、あるいは音楽、文芸やなんかともリンクすることで、当時の編
集部にその意識があったかどうかは別として、結果、漫画というメディアの
表現領域の、さらなる拡大拡張膨張深淵化を図る、一種の実験場でもあった。

 実際、わしはその後「ガロ」を通じて、唐十郎や寺山修司、稲垣足穂、あ
るいは鈴木清順や深作欽二、神代辰巳、また当時活発だった「関西SF」、
等々の世界を知ることができた。

 そんなわしは、次第にモノゴトすべて「ガロ」というフィルター通して見
るようになって、結果、「ガロ的なもの」と「そうでないもの」という、し
ごく単細胞な二極的価値観を持つに至り、その価値観のままに、「ガロ的」
な「ヤングコミック」に連載漫画を持っている、という理由でだけ、それを
作っていた漫画プロダクションにマネージャーとして入社(えへ、実は「ガ
ロ」の青林堂に入りたかったのだけど、論文審査で落とされたのさ)した後
は、メジャー向けエンタメ的価値観も少しは身に付けたはずなんだけども、
その後、故郷の神戸でこれまた「ガロ的」価値観による品揃え中心の本屋を
開き、当然のごとく商売にはならずあえなく沈没させて後は、いくつかの学
校掛け持ちで、漫画家を目指す若者相手に、知ったかぶりで「漫画とは?」
なんて言うとんですが、やっぱり「ガロ的」価値観はいまだチラチラと顔を
出し、「お〜〜っと」とココロの中でエンタメに舵切ること度々。

 そんな「ガロ的」を引きずったオッサンが、懲りもせずに、ガロ的70年代
的目線でもって、ただいま及び昔の漫画とその周辺、主にポップカルチャー
方面を、ぐだぐだだらだらねちねちと、あっち行ったりこっち行ったりしな
がら、ぬるくゆるく且つ訥々と、語ってゆきたいと思いますので、しばらく
はお付き合いのほどを、よろしくお願いいたします。

太郎吉野(たろう・よしの)
元・漫画プロダクション勤務を経て元・本屋。ただいまの本職は「文筆業」
のはずなのだが、もっぱらは複数校掛け持ちにて漫画家を目指す若者たちに、
えーかげんなこと教えては路頭に迷わすことで生計を立てている。神戸在住。

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■「背伸びして本を選ぶ」/十谷あとり
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1 学研の図鑑「魚」

 はじめまして。十谷あとりと申します。初回ですので、簡単な自己紹介をさ
せていただきます。

 1965年大阪府生まれ、奈良県在住、大阪に通勤という「奈良府民」です。歌
を詠みます。(「日月」「玲瓏」所属、歌集『ありふれた空』2003年刊。)
 2005年に古物商取得、オンライン専門古本屋「このはな文庫」を開業。神戸
の海文堂書店さん、奈良のカフェ「南果」さん/植物屋「風草木」さん、神保
町の古書店「ブック・ダイバー」さんのイベントなどに参加。2009年6月、夫
のボタン専門店(「ボタン王子のお店」)開業に伴い、店の一隅に古本の棚を
構え、「usedbooks このはな文庫」としてリニューアルスタート。大正14年築
の渋ビル「船場ビルディング」内で毎週土曜日営業中です。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。

 ゴミの日に、自転車でご近所を走っていたら、道の角に本の束が見えた。自
転車の速度をゆるめて、どんな本か、見る。固い表紙のついた、大きな本が数
冊。小口はそんなに汚れていない。
 まあ、かわいそう。
 捨てられている本は、捨てられている子猫と同じくらいかわいそうだ。
 自転車を止めて、ちら、と左右を見、自転車の籠に本の束を載せる。また、
漕ぎ出す。
 捨て猫を全部拾って助けてやることはできない。本にしたってそうだけれど、
連れて帰れるものなら、連れて帰ってやりたいではないか。

 家に帰って紐をほどいてみると、こども向けの図鑑の束だった。中から、
『学研の図鑑「魚」』が出てきた。表紙の写真に見覚えがある。奥付を見ると
昭和四十五年初版発行となっている。やっぱり!わたしがこどもの頃持ってい
たものと同じだ。なつかしいなぁ学研の図鑑。濡れ布巾で表紙を拭いてから、
ページをぱらぱらめくる。何年ぶりの再会だろう。

 こどもの頃、千円小遣いをもらったら、本屋さんに行った。月に一度だった
か、二月に一度だったか。
行けば二回に一回は学研の図鑑を買った。当時この学研の図鑑は次々と新しい
シリーズを刊行していた。平積みになっているそれを、前回は「植物」、今回
は「昆虫」……といったふうに一冊ずつ買い揃えていくのだ。図鑑でなければ、
学習まんがを買った。(これもまた学研だ!)内山安二の絵が好きだった。勇
んで家に持って帰ると、ちらっと本に目をやった母が(またそれかいな)と言
いたげな顔をしていた。父も母も、本を読まない人だった。家には本棚もなか
った。わたしは学習机の上に本を並べた。

 今あらためて大人の目で見ても、悪くない図鑑だと思う。大きな分類ごとに
見開きになっていて、丁寧に描かれた標本図や写真が並んでいる。合間に、ち
ょっと漫画チックなイラストも入っているが、くだけすぎた感じはしない。こ
どもの時はそれとは気付かなかったが、解説のページに東君平の見開きイラス
トがある。
毎日図鑑を取っ替えひっかえ、飽かずに眺めていたことを思い出す。あの頃、
世界は自分の知らない、見たことのない、生きているもの、生きていないもの
でいっぱいだった。わたしはひたすら名前を覚えた。飼うことも、観察するこ
とも、標本を作ることもしなかった。ただ頭の中を知識で、ことばで、いっぱ
いにしたかった。

 どうしてそんなに図鑑が好きで、本に書いてあることを何でもかんでも覚え
たいと思ったのか。この性癖はぬきがたく、大学生になっても、さほど必要で
もなかった『日本産魚類大図鑑』(東海大学出版会刊)を買い込んだりしてい
る。「図版」「解説」二冊組で、定価が36,000円だった。

 一生懸命覚えたいきものの名前も、今はほとんど忘れてしまった。例えば、
若山牧水の

 海底に眼のなき魚の棲むといふ眼の無き魚の恋しかりけり

という歌を読んだりする時、(ああ、深海魚もいろいろいたなぁ)となつかし
い気持ちにはなるが、この歌に該当するような具体的な魚種を思い浮かべるこ
とはできない。そのことを少し淋しく思う。しかし、生物学的に正確な知識が
なければ、短歌の鑑賞ができないというわけではない。〈海の底に棲む眼のな
い魚〉という表現を受け取る時、わたしは自分の頭の中の薄暗がりに、鰭や鱗
のあるものないもの、不気味だけれどいきいきとしたもの、見たこともないの
に親しいものがうようよとうごめく気配を感じる。本で覚えた有象無象は確か
にわたしの中に生きている。生活上では何の役にも立たなかった記憶が、今で
も、わたしの貧しいこころに滋養を与えてくれている。

 お気に入りだった学研シリーズは、度重なる引っ越しの間に処分されてしま
って、今は一冊も手許に残っていない。大図鑑はさすがに手放さずに置いてあ
るが、息子のいたずらで函にべたべたとシールが貼られている。わたしは拾い
ものの本を「売らない本の棚」の高いところ、大図鑑の隣に並べた。長い時間
をかけて、自分の本が帰って来たような気がした。

〈じゅうや・あとり〉1月は2つの古本市に参加します。まずは2010年1月12
日(火)〜16日(土)、神保町「ブック・ダイバー」さんの新春ミニ古本市
「女子とふるぽん〜」寄港市。つづいて1月23日(土)、奈良市の公設市場
「大門市場」(おおもんいちば)にて、一箱古本市「大門玉手箱」が開催され
ます。どちらも古本・ハンドメイド雑貨etc が並びます。みなさまどうぞお越
し下さい。

「「大門玉手箱」…の箱」http://tamatehako.exblog.jp/
「このはな文庫@船場ビルディング」http://konohanas.exblog.jp/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/大麦親父乳酸脂肪
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本が好きだと云って40年。芝居が好きだと云って30年。

芝居を観ることと本を読むことは、大好きですが、“三昧”とか“中毒”とか、
そこまでには至っていません。なぜならば、たとえば映画や話芸(落語、講談
など)、それから登山、サイクリング、彫刻や絵画鑑賞など、他にもおもしろ
そうなことがあればふらふらと近づいて、それに首を突っ込むたちだからです。

父親によく云われました。「おまえは落ち着きがない」と。あれこれ中途半端
にやってきて、それでも一日も欠かさずしていることと云えば、「日記をつけ
ること」だということに最近気がつきました。それはノートに鉛筆で書く、と
いう極めてアナログなものですが、読み返すと結構おもしろい。まあ、ひとさ
まが読めば退屈かもしれません。その日記の中には読んだ本の感想や観た芝居
の講評などが書いてあるわけです。大雑把なあらすじが書いてあり、そして印
象深い登場人物について誰に遠慮するわけでもなく大胆に書いています。これ
は我ながら感覚として悪くない印象なんです。手前みそでごめんなさい。

〔書評〕のメルマガなので、芝居の感想を書くわけにはいきませんが、芝居に
関する本をひとさまに紹介してゆこうと思います。その方法は、自分の日記に
書くように。ということですが、それは自己本位になる、ということではあり
ません。赤裸々に臆面もなく、ということを目指したいと思うから、敢えて日
記をつけるように、と表現しました。

『謎ときシェイクスピア』(河合祥一郎 著)(新潮選書)(2008)

 今や日本を代表するシェイクスピア学の俊英となった河合祥一郎の著作であ
る。河合はシェイクスピアはもちろん、イギリスの演劇論の専門家である。ま
た「マクベス」を日本の戦国時代に置き換えた芝居である『国盗人』の作者で
あり、最近は『按針 ANJINイングリッシュサムライ』の脚本も手がけている。
その河合が“シェイクスピアとは誰なのか?”という古くからある疑問に挑ん
だのが、本書『謎ときシェイクスピア』である。

 シェイクスピアは手紙や日記を残していない。彼は自分の書いた戯曲だけを
残した。それがシェイクスピア研究をむずかしいものにしている原因であり、
また古くから「シェイクスピア別人説」が唱えられる所以である。そもそも、
「教育のない田舎者の役者シェイクスピアに、知性と教養にあふれた偉大なシ
ェイクスピア作品が書けたとは思えない」という発想がこの「シェイクスピア
別人説」の出発点である。役者シェイクスピアとは別にシェイクスピアを名乗
る蔭の劇作家がいたのではないかと疑い、その別人として哲学者、貴族、劇作
家、外交官、と多彩な人物が挙げられている。本書で河合はそれらの別人候補
たちひとりひとりについて反論し、やはりシェイクスピアはストラットフォー
ド・アポン・エイヴォンで生まれた役者もしていたシェイクスピアである。と
結論づけている。この有力な別人説に対して丁寧に反論をしている部分が前半
の読みどころとなっている。シェイクスピア本人が日記や手紙という資料を残
していないので、彼の出自や他の記事でシェイクスピアに触れているものを参
考にシェイクスピアの生涯を再構築してみせるのである。そうすると、やはり
シェイクスピアはシェイクスピアに違いない、と思わずにはいられない。少な
い証拠から見事な論理を形成してシェイクスピア像を描き出している処はまさ
に圧巻である。

 後半で問題になっているのは、従来シェイクスピアを読み解くための基本的
テクストとされていた、シェイクスピアと同時代に活躍した劇作家ロバート・
グリーンの『三文の知恵』という本についてそれがシェイクスピアに関する基
本的資料ではない、ということを論じている。この『三文の知恵』の中に書か
れている“成り上がり者のカラス”と云われている男がシェイクスピアである、
という意見は、現在のシェイクスピア学ではほぼ定説になっている。そして多
くの学者はこのことを前提にしてシェイクスピアの人間像や生涯を構築してい
る。グリーンはこの本の中でシェイクスピアのことを、役者のくせに自分たち
と同じ劇作家として出てきて、しかも素晴らしい戯曲を書いている、と云い、
その記載の仕方を後世のシェイクスピア学者たちは、グリーンがシェイクスピ
アに嫉妬して“成り上がり者のカラス”と表現している、と考えてきた。河合
はこのことに反駁を加え、“成り上がり者のカラス”はシェイクスピアではな
く別人である、という考えを示した。

 ここで重要なことは、シェイクスピアが生きていた16世紀から17世紀の
イギリス−エリザベス朝時代と云われている−が現在我々が生きている21世
紀とはその状況が大きく違っている、ということである。たとえば当時は著作
権など存在せず、劇作家の地位は役者よりも劣っていた。そのようなエリザベ
ス朝時代の状況であるから、“成り上がり者のカラス”はシェイクスピアでは
ない。という論理になっている。ここでも河合は根気よくひとつひとつ例証を
挙げて、自説を展開している。ではそれは誰か、ということは本書を読んでの
お楽しみである。この部分は上質な推理小説を読んでいるようなおもしろさが
ある。

 本書『謎ときシェイクスピア』を読めば、シェイクスピアの芝居がさらに楽
しめるようになる。シェイクスピアファンにはたまらない一冊だ。

大麦親父乳酸脂肪(大田区に棲息し昼間は新宿区にも出没する大人の男)

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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 はじめまして。林さかなです。

 小学校の図書室で借りた児童書にケストナーの一文がのっていました。

《世間には、両親が別れたために不幸な子どもがたくさんいる。しかし、両親
が別れないために不幸な子どもも、同じだけいるのだ…》

 当時、この後者にあたる子だった私にはストライク! 目の前にいないけれ
ど、わかる大人もこの世界にはいるんだと確信した瞬間でした。

 私が大人になったいまもこどもの本を読む理由のひとつは、この本の恩返し
なのかもしれません。子どもが生きていくつっかえ棒になるような本を紹介し
たい思いが消えたことはないからです。力のあるこどもの本は大人にも支えに
なります。もちろん、本来の読者層であるこどもにも。

 このメルマガを通して、こどもの本の楽しさを伝えていけるよう書いていき
たいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

 ということで、今回ご紹介したい一冊は『かいじゅうたちのいるところ』。
 アメリカの絵本作家モーリス・センダックの描いた絵本が映画化され、脚本
を書いたデイヴ・エガーズが、センダック自身に請われて書いた小説がそれで
す。

 絵本の初版は70年代。映画の監督をしたスパイク・ジョーンズも脚本を書い
たエガーズも子どもの頃からセンダックの『かいじゅうたちのいるところ』が
大好きだったといいます。だからこそ、この絵本を手がけたいと関わる人たち
の、「好き」パワーが結集しました。この小説もそうです。編集者の方が、や
はり絵本の大ファン。自分のこの映画化にあわせて何か本をつくりたいと思い、
小説と出会ったとうかがいました。好きという気持ちは、何かをつくるときに
本当に強い力になる!

 絵本はわずかな言葉でしか語られていません。でてくる人もマックスとかい
じゅうだけ。お母さんの顔も、手すら出てきません。いたずらをして自分の寝
室にほうりこまれたマックスは夕食もおあずけです。ところが部屋ににょきり、
にょきりと木がはえてきて、自分の部屋あっというまに見知らぬ森の中。波も
ざぶんと打ち寄せ、マックスは小さな船を何日にもこぎ、かいじゅうたちと出
会います。

 一方、小説では物語がおおきくふくらみます。マックスにはお姉さんがいて、
お父さんとお母さんは離婚し、いまはお母さんとお姉さんの3人暮らし。理由
のわからないイライラする気持ち、お姉さんやお母さんに優しくされたいと願
っているのに、自分のとる行動は彼女らの気持ちをさかなでするばかり。どう
して?と聞かれても「わからない、わからない!」とかんしゃくをおこすしか
ないのです。絵本と違い、マックスはどのようにかんじゅうたちのいる島にた
どりつくのでしょうか。

 こどもの不幸を物語るステレオタイプ的な背景に両親の離婚は必須アイテム
のひとつです。冒頭でマックスの家族を知らされていく読者は、その背景にち
ょっとひいてしまうかもしれません。私もそうでした。でもでも、そこから物
語はうねりはじめます。マックスもとびっきりすてきな少年として、物語の中
で動きまわるのです。

 センダックの絵本は、こどもの内面を深くほりさげ、それを見事に絵本に仕
立て上げた魅力に尽きます。自分でもどうしようもない気持ちをもてあまし、
別世界である意味その気持ちを昇華させる。帰ってくる家にはあたたかいスー
プが待っている幸せ。小説でも、見える風景は違えど、同じくマックスの強い
動的な気持ちが小気味いいくらい言葉化されています。総ルビなので、こども
も読める体裁です。こどもにも大人にもそれぞれ胸をうつものがあるはず。
 いまは思い出すこともなくなったこども時代――その時にしか持っていない
あの強烈な気持ち、それに心当たりがありすぎて、私はマックスにもかいじゅ
うたちに近しさを覚えてしまう。気持ちを動かされる読書はじつに爽快感を残
してくれます。

********
『かいじゅうたちのいるところ』(デイヴ・エガーズ作 小田島恒志・小田島
則子訳/河出書房新社)

(林さかな)
会津若松在住。主に児童書の新刊紹介をネットで公開したり、出版翻訳データ
ベースのサイト( http://www.trs-data.com/ )にて、翻訳者のインタビュー
記事を書いたりしています。個人ブログ http://r2fish.cocolog-nifty.com/

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■「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/庄司善彦
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ゆとり社員をどう活かし、成長させるか

はじめまして。庄司と申します。
縁あって、こちらで書評を書かせていただくこととなりました。
読者の皆様、どうぞ宜しくお願いいたします。


私はIT系企業の人事担当者として、採用、教育、制度構築等に従事しておりま
す。そのため普段読む本も、組織や教育、コミュニケーションに関するものが
大半を占めます。初回となる今回は、ゆとり教育世代の若手社員の傾向と現場
での対応方法について解説された書籍の中で、特に面白かったものを取り上げ
てみたいと思います。

『職場を悩ます ゆとり社員の処方せん』
 池谷 聡 著
 出版:朝日新聞出版
 ISBN:978-4-02-250452-4
 発行年月:2008.7


新人教育をテーマに出版されている書籍は数多くありますが、この本は学術的
な要素がほとんどなく、実際に企業で起きた豊富な事例・ケーススタディと、
その対処方法がシンプルに記載されているため、サクサクと読み進められます。

そして、出てくる事例が冗談とも取れるぐらい極端なものが多いため、読んで
いるうちに自然と笑いが出てしまうんです。これは人事担当者よりも、新入社
員の理解に苦しんでいる現場にこそ是非読んで欲しい!と強く思いました。

まず目次を開きますと、このようなフレーズが並んでいます。

 ・「自分のやりたい仕事と違う」と会社をやめる
 ・「なんでこんなことをしなくちゃダメなんですか?」とムダを嫌う
 ・上司の注意に「そんなこと先に言ってよ!」と逆ギレ
 ・クライアントにメールでドタキャン
 ・部長命令に「私、いま忙しいから、あとにしてください」

初めて読んだ際は、思わず吹き出してしまいました(笑)。

私が人事担当者として、ここまで極端なケースに遭遇したことはさすがにない
ですが、そのような具体例を笑いながら読みすすめていると、
「なんかわかる気がするなぁ」って自然と納得してしまうのです。

同じ部署に入社1〜2年目の若手社員がいるビジネスパーソンなら、わかって
くれると思うのですが…いかがでしょうか(笑)?

これは誰かに勧めよう!と思い、手始めに同じ会社のバックオフィス部門で経
理を担当しているハヤシさんに本書を手渡してみたところ、彼も目次を開くな
り爆笑。

「この本、酒の肴になりそうだよね」なんて発言も飛び出し、2人で雑談をし
ていたところ、傍らでその様子をじっと見ていた新卒3年目の女性人事社員、
サカイさんがポツリと一言。

「ハヤシさんとショウジさんは笑ってますが…
 ここに書いてあること、『自分にはあてはまらない』って
 自信を持って言えるんですか?」

一瞬硬直し、何と返すか即座に回答が出なかったハヤシさんと私。若手社員の
彼女と私たち2人の常識レベルの差は、思った以上に大きかったようです。。。


そもそも“ゆとり社員”という言葉は、1992年から導入された“ゆとり教育”
の中で学校生活をすごしてきた若者たちが、社会に出てきたタイミングで使わ
れ始めました。

“個性の尊重”を学ばせることを重視したゆとり教育の結果、自分の言いたい
こと、やりたいことが強く主張できる一方で、規律の求められる企業社会には
馴染みにくい、という問題が語られます。

また、経済面で豊かな時代に育ったために、与えられることに慣れきってしま
っている(=自らやりたいことや手に入れたいものを探すのが苦手な)側面も
指摘されています。

コミュニケーションの面では、学生時代からメールが当たり前のツールとなっ
ているためFace to Faceや電話に苦手意識が高い・・・など、指摘される問題
点を挙げればキリがありません。


そんなイマドキ若手社員たちの採用と教育を担う人事の仕事って、常に板挟み
です。冒頭に記載したような事件を新入社員が起こしたとすれば、十中八九、
現場からつつかれるのは人事担当者。

「あんなやつ、なんで採用したの?!」
「やめたいって本人が言うんだから、やめさせればいいんだよっ!」
「だいたいさ、導入教育のやり方から間違ってるんじゃないの?」

そんな声が至るところから聞こえてきそうです。ひーっ!

私の会社は100人ほどの組織で、新入社員の数は毎年5名前後。こまめに人事
側がフォローできるため、それほど大きな事件も起きずにまいりました。しか
し、これが100名規模で新卒採用をするような大手企業であれば人事担当者の
心中はきっと穏やかではないのでしょうね。。。

人事側の本音としては、すべて採用・教育のせいにしないで現場サイドも一緒
に考えて欲しい!ということを考えていると思います。しかし現場サイドとし
ては、これまでの指導方法が通じない若手社員側が悪い、ひいては人事にも責
任がある、と考えている節がある。

そのようなギャップを埋める手段の1つとして、本書は有効活用できると踏ん
でおります。その納得性の高さと読みやすさから、読むこと自体に抵抗感が生
まれず、且つ短時間で読めてしまう。若手社員の問題について現場側と人事側
でディスカッションをする際、あらかじめ双方で本書を読んでおけば、書いて
ある内容自体が若手社員を語る際の共通言語となるため、そこには建設的な会
話が発生してくるはずです。


以前、何かの記事で「最近の若者は…」というフレーズが、太古の昔より存在
していたという話を読みました。よくよく考えてみると、それは私の世代(就
職氷河期)でも言われた記憶がありますし、もっと上の世代でも同じだったこ
とは容易に想像できます。

本書でも指摘されている通り“ゆとり社員”世代は、物事の考え方や表面上の
コミュニケーションなどにおいて、イマドキの若者特有の問題を抱えていると
指摘されますが、成長意欲やITリテラシーの高さなど、世代特有の長所も併せ
持っています。表面的な部分を批判するよりも、これらの長所をどう活かして
成長していってもらうかを考えていきたいですよね。

わたしたち人事や現場などの受入側としては、その点を十分に理解したうえで、
今後5年、10年後にはまた別の特徴を持っているはずの若手社員に対応するた
めその都度柔軟に適応し、新たなコミュニケーションスタイルを実践していく
必要がありそうだな、と思います。

(庄司善彦 IT関連企業人事担当者 (財)生涯学習開発財団 認定コーチ)

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■【新企画】献本読者書評のコーナー
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 これまで[書評]のメルマガにはたくさんの献本依頼が来ていましたが、あく
まで読者の立場から、目利きが本を選ぶという理由で、これらをすべて断って
いました。

 しかし、最近、企業研修などもやるようになって、とみに感じることがあり
ます。それは、読書レベルの低下とでも言うのでしょうか、特に大企業の若手
社員の方を中心として、読書量がかなり減っている人が多い、という事実です。

 自分を振り返ってみると、いい本を薦めてくれる先輩社員や友人が居て、そ
の中で読書の幅を広げていったように思います。さらには、本に囲まれた職場
であったために、幸せな読書人生を歩み、さらには、自分の著作まで出すこと
ができました。

 本を読む、書評を書く、それからメルマガ執筆者になり、さらに本を読み、
やがては本を書く側にまわり、今度は本を供給する。そしてさらに本を読む。
既に売れている著者に執筆を依頼するだけではなく、こういうサイクルが生ま
れてくれれば、きっともっと本が売れるのではないか、そしてこのサイクルが
できるきっかけを、もしかしたら簡単な方法で作ることができるのではないか、
ということを考えたのが、この「献本読者書評」のコーナーです。

 ということで、仕組みはとても簡単です。

1)まず、出版社でも著者でもどちらでも結構ですが、献本を募ります。冊数は
 何冊でもOKです。メールで【読者書評用献本希望】とご連絡いただければ、
 折り返し、送付先をお知らせします。

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、熱意と販促効果優先で選ばせていただきます。

3)発行委員会はいただいたメールの中から、熱意がありそうな方をピックアッ
 プして献本いただいた本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に
 応募数が満たない場合には、100日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンやbk1、楽天などのオ
 ンライン書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。
 つまりは当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願
 いします。

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

 以上のサービスを、まったく無料で展開しよう、というのが今回の試みです。
とはいえ、書籍を送付するコストが気になるので、「100日後に古本屋に売
却」というルールを入れさせていただきました。

 まあ、要するに、雑誌の最後のページなどにある読者投稿欄のようなものだ
と考えていただければわかりやすいかと思います。ちょびっとの人数だけプレ
ゼントする、というようなアレですね。ただ唯一、違うのは、抽選ではなく、
書き手の能力を見てプレゼント先を決める、というところでしょうか。

 この仕組み、個人的にはとても画期的だと思うのですが、自分で考えて自分
で絶賛しても説得力がありませんので、まずは、1月10日号では、1月15
日に取次搬入となる、自著で試してみたいと思っています。

『100のキーワードで学ぶコーチング講座』(創元社)
 http://www.sogensha.co.jp/book/2009/12/100-1.html

 まずはこちらの本を5冊用意しました。

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 今回の本は1月15日発売ですので、20日頃着でお送り致します。
 書評の執筆&記載URL送付期限は、2月4日。

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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■あとがき
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2010年初めの配信です。年末に続いて発行日に発行なんて、縁起が良いです。

「献本読者書評のコーナー」は、ここ数年温めていた企画です。読者と作者と
出版社をつなぐうまい方法を模索して、これだ!と昨年、アイデアが浮かびま
した。

今年、11年目の[書評]のメルマガ。より出版業界に貢献すべく、本の面白さ
をどんどん発信していきたいと思っています。

 本年もよろしくお願い致します。(aguni原口)

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