[書評]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
<< [書評]のメルマガ vol.442 | main | [書評]のメルマガ vol.444 >>
[書評]のメルマガ vol.443
■■----------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ               2010.02.10.発行
■■                             vol.443
■■ mailmagazine of book reviews     [おっちゃんありがとう 号]
■■----------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------
■コンテンツ
--------------------------------------------------------------------

★「背伸びして本を選ぶ」/十谷あとり
→マルグリット・デュラス『アウトサイド』

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→イカロスの翼は左向き

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→『数学をきずいた人々』

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/庄司善彦
→社内の「おかん」は会社の背骨

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/大麦親父乳酸脂肪
→リチャードさまざま

★献本読者書評のコーナー
→著者の方、出版社の方、読者の方、つまり、みんな必見です。

---------------------------------------------------------------------
■今回の献本読者書評のコーナー
---------------------------------------------------------------------

 日本全国の方より御応募いただいております。ありがとうございます!
 でも、まだまだ下記の書籍について、募集中です。

『100のキーワードで学ぶコーチング講座』(創元社)
 http://www.sogensha.co.jp/book/2009/12/100-1.html

『マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者』(作品社)
 https://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/geijyutsu-etc/tanpin/22575.htm

『戦う女たち 日本映画の女性アクション』(作品社)
 https://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/jinbun/tanpin/22568.htm

『愛するものたちへ、別れのとき』(作品社)
 https://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/kaigaibungaku/tanpin/22681.htm

『暁の群像 豪商岩崎弥太郎の生涯』(作品社)
 https://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/nihon-bun/tanpin/22483.htm

『坂本龍馬』(作品社)
 https://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/nihon-bun/tanpin/22605.htm

 この本が欲しい!という方は、当メルマガの巻末の応募要項を御確認の上、
ご連絡ください。

---------------------------------------------------------------------
■「背伸びして本を選ぶ」/十谷あとり
---------------------------------------------------------------------
2 マルグリット・デュラス『アウトサイド』

本を買うという行為が、軽くなった。

五百円札一枚を握りしめて、公設市場の中にあった石川書店に行っていた頃、
棚の前で迷った挙げ句、一冊を選ぶ決断は重かった。帰り道、家からほんの五
分ほどの道のりなのだけれども、その五分が待ちきれず、紙袋を開けて本を出
し、両手で広げて眺めながら歩いて帰った。本を読みながら横断歩道を渡る姿
を、石川書店のおっちゃんが見ていたらしく、次から勘定の時に

「家帰ってから見ィや、けつまづくデ」

と言われるようになった。うん、おっちゃんありがとう。しかしやはり、歩き
ながら紙袋を開けずにはいられなかった。

そのように、本は本屋さんで買うものだったが、今はいろんな買い方が選べる
ようになった。

ご近所の地べたの本屋さんで買う。デパートの書籍売り場で買う。紀伊國屋書
店やジュンク堂にも行く。

Amazonも利用する。昔は取り寄せを依頼してから二週間待つこともめずらしく
なかったが、Amazonで注文したら、早ければ次の日に届いたりする。早すぎる。
期待に胸をふくらませる暇もない。

そして何より、古本を買うようになった。

学生の頃まで、古い本を触るのが苦手だった。図書館の本ですら、日に焼けて
いたり傷んでいたりすると何となく手に取るのが嫌だった。それが、三十五歳
を過ぎてから、抵抗がなくなった。なぜか?

きっかけは短歌だった。歌を書き始めると、短歌の本を読みたくなる。しかし、
新刊書店に行っても、歌集はあまり置かれていない。あっても種類が少ない。
気に入ったものが見つからない。困っていたところへ、たまたまインターネッ
トの検索でたどりついたのが「日本の古本屋」サイトだった。欲しい本がいっ
ぱい見つかる、おまけに安い!かくして「読みたい」は「触りたくない」をい
とも簡単に駆逐し、古本ワンダーランドへの扉は開かれた。

今は新しい本古い本、読みたい本売りたい本と、ちびちび切れ目なく本を買っ
ている。まだ読んでいない本があるのに買う。家に帰って袋から本を出したら、
同じ本が机の上に載っていたこともある。阿呆だ。しかし、しあわせだ。本で
散らかった部屋の中で本を読む。こんな楽しいことが他にあるだろうか。

うれしい楽しいと調子に乗って本を買い、さらっと一度目で撫でただけで「あ
あ面白かった」と片付けて読み返しもしない。そんな、本に対して罰当たりな
ことを繰り返していたら、時に、本からお灸を据えられることがある。「日本
の古本屋」で注文したマルグリット・デュラスの『アウトサイド』(晶文社/
一九九九)が、そうだった。

このエッセイ集には、過去に書かれた新聞記事、芸術家に関する文章、小学生
や読み書きのできない女性へのインタビューなどが収められている。デュラス
自身のことを書いた文──インドシナ時代のこと、夫や亡くなった息子のこと
──もあり、わたしは最初それを目当てにしていた。しかし、目次を開いて一
番に目に刺さってきたのは「九九パーセントのボツ原稿」というタイトルだっ
た。(以下、《 》内は本書より引用。)

《ある大きな出版社の文学部門の編集主任にお願いして、潜在的な文学の世界
──性格上、一般大衆にはまったく知られていない──について、すこし明ら
かにしていただいた。》

冒頭にこうある。つまり、「ボツ原稿とその書き手」をテーマに、デュラスが
編集者にインタビューするという内容なのだ。

《──出版される文学のパーセンテージはどのくらいですか?
 ──約一パーセントです。約九九パーセントの原稿が永久に作者に戻される
   わけです。》

《彼ら(引用者注:ボツ原稿の作者たち)の共通した欠点は、「なんというロ
 マンだろう、わたしの人生は」と考えて、一般に興味を持たれるものと家族
 的経験の思い出にすぎないものを区別できないことです。》

《──そういう生(なま)のままの文学の作者たちは出版のしきたりさえ知ら
   ないことがあるのでしょう?
 ──しょっちゅうですよ。》

 あらゆる人があらゆるところで書いているけれど、その原稿のうち出版され
「文学」となりうるのはたった一パーセントだ、とこの編集主任は言う。ボツ
原稿の作者たちは「現実を考慮していない」「明らかに無教養、先行者たちの
ことを何も知らない」とも。

《──できの良し悪しにかかわりなく、全文学の唯一の共通点は何ですか?
 ──あらゆる作家にとって書くことは激しい悲劇的な欲求だということです。
   多くの場合、良い作家よりも悪い作家のほうがそうなのです。書くこと
   は時には途方もない精神的努力を必要とする企てです。作者は小説を作
   るために自分の余暇を割くばかりか仕事をも割きます。彼はいつも孤独
   であり、とくに窒息状態から抜けだすために書く地方においてはそうで
   すね。言うまでもありませんが、拒絶はつねに恐ろしいことで、時には
   悲劇的なことです。原稿を拒むこと、とくに最初の原稿を拒むことは、
   ひとりの人間全体を拒むことであり、彼を忌避することです。》

 この本を読んだのは、短歌を書き始めて間のない時期だった。その頃のわた
しは、古典もろくに読んでいないのに、三十一音でさえあればよしと決め込み、
手当たり次第に何でも歌に詰め、いつか短歌雑誌の新人賞に応募してやろうと、
愚かなエネルギーでぱつぱつになっていた。一九五七年に行われたこのインタ
ビューの、九九パーセントの原稿を葬り続ける編集主任のひとことひとことは、
まさにそのようなわたしに向けて語られることばだった。そして、それを書き
留めているのは、「一パーセント組」の中でももっとも輝かしい書き手のひと
りであるデュラスなのだ。わたしは鉄パイプで頭をブン殴られたようにくらく
らになり、しばらく立ち直ることができなかった。

〈じゅうや・あとり〉2月20日(土)、奈良県香芝市のおしゃれな家具屋さん
「ファニチャーストック」にて、「絵本と絵のある本の古本市」が開催されま
す。こども向け絵本、大人向け絵本、洋書、図版入り単行本などがちょこちょ
こ並びます。このはな文庫も参加いたします。お近くの方はぜひお運び下さい。
「ファニチャーストック」http://www.furniture-stock.com/FURNITURE%20STOCK.swf
「このはな文庫@船場ビルディング」http://konohanas.exblog.jp/

---------------------------------------------------------------------
■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
---------------------------------------------------------------------
<2> イカロスの翼は左向き

 1973、4年ころ、『ガロ』が買える書店は限られていた。

 学校のある三田市には、そのころ書店が3、4軒だったと思うのだけど、そ
のいずれにも『ガロ』は売っていなかった。

 神戸市北区山田町というところから、途中乗り換え一回の片道約1時間をか
けて通学していたのだけど、その乗り換え駅の……山と田圃が広がる田舎電車
沿線の所々に団地が開発され始めたばかりの、当時の区内では唯一の「街」だ
った……鈴蘭台の2軒の書店にも、それは売っていなかった。

 『ガロ』は、神戸の都心に行かなければ手に入らない……と思っていた……
ところが、家から一駅の団地内に新しくできた、市内の老舗書店のちっちゃな
支店に、それが置いてあるのを発見して狂喜した。

 通学途上で、定期的に『ガロ』を入手する手段は確保できた。
 のだけど、今度は、その誌上に広告されている単行本が買いたくなったんで
す。

 ちなみに、現在は、大から小までどんな書店にでも「コミック」という売り
場は、設けられているのが「当たり前」なのだけど、そのころは違っていた。
 当時の「ちゃんとした」書店では、漫画の単行本など、置いてなかったので
すね。

 「神戸最大の書店」として鳴り物入りで三宮に「ジュンク堂書店」が開店し
たのは、わしが神戸を離れた後の1976年だったけど、ここも、当然「ちゃんと
した」書店だったから、当初は「コミック」あるいは「漫画」の売り場はなか
ったのです。

 神戸一番の老舗書店「海文堂」にもなかったし、先鋭的な品揃えで知られた
「コーベブックス」にもなかった。
 紀伊國屋書店梅田本店(ここは今なお、ない)にも、旭屋書店本店にも、も
ちろん、なかった。

 そのころ、いわゆる「コミックス」……「少年サンデーコミックス」とか
「少年マガジンコミックス」なんてーのを、置いてる書店は?つーと、それは
場末の、不機嫌そうな顔したオッサンの店主が、手にしたハタキでもって立読
み客を追っ払いながら店番してるような本屋だけだったのだ。

 家から一番近い「街」の鈴蘭台は場末であるから、そこの2軒の書店には当
然「マンガ」の売り場はあったのだけど、漫画の単行本並べてるような場末の
本屋には、『ガロ』版元・青林堂の本は、なかった。

 「どこに売っとんねん!?」と思ったら、答えは『ガロ』の中にあった。
 広告ページの裏側に「青林堂出版物が常時揃う書店」というリストが、付記
されていたのだ。

 リストには、北は北海道から南は九州まで、7、80件の書店名が羅列して
あった。
 で、神戸、神戸……は? と北から順に見ていくと、「三宮・イカロス書房」
と、神戸では一軒きり、店名があった。

 「イカロス書房」という店は、知っていた。
 ジーパンや靴が安く買え、しかもたいていの店では交渉次第でさらにマケて
くれるので、もっぱら衣料品を買うのは「ここ!」と決めていた、三宮高架下
商店街の中ほどにある、十坪足らずの小さな本屋。
 入ったことはなかったが、そこは、左翼系書籍を中心に扱っていて、ゼンキ
ョートーのおニイさんたちがよく出入りしてることで有名な書店だった。

 その、なにやら難しそうでラディカルなフンイキに恐れをなし、入ったこと
はなかったのだが、そこに青林堂の本があるのなら、神戸ではそこにしかない、
のであれば、これは行かねば入らねば……と、勇躍三宮へ向かった。

 イカロス書房は、間口の真ん中を割って両面棚がそびえ、それと向き合うそ
れぞれの壁沿いにも、いずれも天井まで届きそうな高い棚が配され、そこにぎ
っしりと本が詰まった店だった。

 真ん中の両面棚と奥の壁に挟まれた狭い空間に置かれた帳場の机には、店番
らしい、いかにも「全共闘!」なお兄さんが、時折、額にかかる長髪をかきあ
げつつ、なんだか難しそうな顔で難しそうな本読みながら座っていた。

 恐る恐る店に足踏み入れ、順番に棚を見ていく。
 「マルキシズム」「唯物史観」「実存」「闘争」なんて単語がやたらと目に
付く背表紙の中に、澁澤龍彦や夢野久作や稲垣足穂なんかの幻想系、それに別
役実の戯曲なんかも混じって、現代思潮社、桃源社、幻燈社、三一書房といっ
た出版社名が多く目につく。

 それら「かしこ系」の書籍群にビビリながら、「せ、青林堂は、どこかいな
……?」と棚の背表紙を辿っていくと……端っこの方に『林静一作品集』をみ
つけた。
 やはり青林堂の、「現代漫画家自選シリーズ」のうち、勝又進『わら草紙』
と林静一『赤色エレジー』も、並んで置いてある。
 が、青林堂の漫画は、それら含めて5、6点で、どうやら「青林堂すべて取
り揃え」というわけでは、なさそうだ。

 まあ、この狭い店ではしゃーないな、と一人で合点しながら、さてでは、本
日はなにを買っていくか……と棚に手を伸ばしたとき、『夜行 3』というB
5判ハードカバーの本が目に付いた。

 背表紙の「北冬書房」という出版社名は、聞いたこともなかったが、同じ背
表紙に記された「つげ義春 つげ忠男 かわぐちかいじ 古川益三」という
「ガロ」でよく目にする名前が、目をひいたのである。
 「ひょっとして、これも漫画?」
 と抜き出してみると、果たしてそれは、B5ハードカバーの「雑誌」なのだ
った。

 定価は七八〇円。ちょっと痛かったが、本日はこれ、と即決。
 帰りの電車の中で、濃い緑色一色の中に小さく「イカロス書房」と白抜きの
ブックカバーが、なんだか誇らしかった。

 その後、イカロス書房では、青林堂や北冬書房の漫画を買う他に、「ガロ」
つながりにて唐十郎や寺山修司、稲垣足穂なんかにも手を出すようになったの
だった。

 そして、この「常時揃う書店」リストを頼りに、大阪や京都まで、「ガロ系」
を求めて遠征するようにも、なっていった。

 高架下のイカロス書房は、今はもうない。

 ガロ系漫画を求めて、イカロス書房を訪れた何度目だったか、入り口の一番
| バックナンバー | 10:00 | - | -
SEARCH
[書評]のメルマガ
本の虫の出版業界人が<徹夜した本>や<繰り返し読んだ本>、さらに新聞記者、出版編集者、プロの書評家による気鋭の書評など、書評メルマガの決定版。
発行周期発行周期:月4回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000036518

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

フリーラーニング Free-LearninG For Your Extention コーチ募集(コーチングバンク) 灰谷孝 ブレインジムラーニング 無料 コーチング 東京新都心ロータリークラブ カーディーラー経営品質向上 相続・遺言なら新都心相続サポートセンター 夢ナビ 実践写真教室 フォトスクール「橋本塾」 無料 eラーニング CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC 「付加価値型」会計アウトソーシング−株式会社サンライズ・アカウンティング・インターナショナル
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< September 2018 >>
ARCHIVES
LINKS