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[書評]のメルマガ vol.631


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■■ [書評]のメルマガ                 2017.6.10.発行
■■                              vol.631
■■ mailmagazine of book reviews    [誠実に生きることの難しさ 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→観察の楽しさ

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→わしらが子供だったころ

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→新渡戸稲造氏の生き方

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 株式会社サンガ様、原作者の方喰正彰様より『マンガでわかるグーグルのマ
インドフルネス革命』を献本いただきました。ありがとうございます。
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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72 観察の楽しさ

 大人になってからは初めてともいえる写生会を体験してきました。
 絵は好きなのですが、描いたことはほとんどないので、学べればと思って参
加したものの、具体的な指導はなく、ただひたすら野の花や樹木を見て描いて
きました。まとまった時間じっくり観察してみると、いままで見えていなかっ
た細かなところまで見えてくるようになり、自分の眼が成長を遂げた気分を味
わいました。

 それ以来、自分の視点が確かに変化し周りの野の花だけでなく、虫や鳥もい
ままでになく視界に入ってくるようになったのです。楽しくて、歩いていると
常にきょろきょろしています。家のまわりは田んぼだらけで自然がたっぷりな
のです。

 さて、今回は虫が活発になる季節にぴったりの絵本。

 『甲虫のはなし』
 ダイアナ・アストン文/シルビア・ロング絵/千葉 茂樹訳/ほるぷ出版

 ほるぷ出版の「あたたかく美しい絵で身近な科学を紹介するシリーズ」の一
冊です。このシリーズはどれも読んでほしい!のですが、ここでは新刊をご紹
介します。

 甲虫とは、6本のあしをもつ昆虫のなかでも、とくにかたいまえばねをもつ
虫のこと。

 見開きいっぱいに、のびやかな水彩画でカラフルな甲虫が描かれています。

 たまごの甲虫は葉っぱのうらにうみつけられ、
 たまごからかえると、なんども脱皮をくりかえしながら成長します。

 1週間くらいで成虫になるサカハチテントウ。

 メダマジンガサハムシ、アカヘリミドリタマムシのいろとりどりの美しさ。

 美しい甲虫は世界のあちこちで食用にもなっています。

 国連食糧農業機関(FAO)は2013年5月に「食用昆虫 食品と飼料の安全
保障」という報告書をまとめ、昆虫食の利点を挙げており、

 この絵本でも
 インドではクワガタムシのチャツネ、パプアニューギニアでは幼虫のシチュ
ーなど、いろいろ紹介しています。(残念ながら料理の絵はありません)

 また、人間の食べるパンやドライフルーツ、中にはペットフードまで食べる
ありがたくない虫も紹介されています。

 恐竜が生きていた約3億年前から生息していたことが化石からわかっている
甲虫。長い時を経ていまにいたっている虫たちを今年は観察してみようと思っ
ています。

 シルビア・ロングの描く甲虫はとってもきれいなので、子どもだけでなく、
虫好きの大人の方への贈り物にもおすすめです。

 これを機会に既刊絵本もぜひ。

 『たまごのはなし』
 『たねのはなし』
 『チョウのはなし』
 『いしのはなし』
 『巣のはなし』


 もう一冊ご紹介。

 『子どものための美術史 世界の偉大な絵画と彫刻』西村書店
  アレグザンダー 文/ハミルトン 絵/千足伸行 監訳/野沢香織 訳 

 タイトルどおり、美術を楽しむための入門本。
 絵をきれいに描ければなあと長年思っていましたが、絵をみることも大好き
です。

 地方に住んでいるとなかなか本物をみる機会には恵まれませんが、こういう
本があると、自分の好きな時間にじっくり絵を楽しめます。

 子どものための入門書は、実は大人にとっても便利な一冊です。説明が丁寧
で、専門用語の羅列なくして、わかりやすい言葉で書いてあるので理解しやす
いからです。

 本書ではヨーロッパとアメリカの画家が中心ですが、日本人ではひとりだけ
葛飾北斎が紹介されています。

 見開きで1人の画家が紹介され、代表的な絵画1枚、どんな風に描かれてい
るか細かな注釈がついています。

 葛飾北斎では〈富嶽三十六景〉より《神奈川沖浪裏》の絵が紹介。描かれて
いる絵の、たとえば「小さいほうの浪は富士山と同じ形をしていること」など
鑑賞の一助となることが添えられています。

 また、すべてではないですが、それぞれの画家の画法についての簡単なワー
クショップが紹介されているのも魅力です。

 アンリ・マティスのページでは、「はさみでかく」切り絵のしかたを、ルノ
ワールのページでは「スクラッチアート」をというように実際に作品づくりを
したくなる工夫があります。

 実際に自分の手でアートをつくる体験をすると、本物のすばらしさをより理
解でき、また鑑賞する楽しみも深まります。ぜひ実際に描いたりつくったりし
てみてください。

 夏休みにはすこし早いかもしれませんが、自由研究の参考にもなるおすすめ
本です。

 
(林さかな)
会津若松在住。
編集協力した新訳「オズの魔法使い」(復刊ドットコム)シリーズ
★おかげさまで少しずつ重版されています
http://1day1book.strikingly.com/

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<90>わしらが子供だったころ

 この5月の下旬、とても遅まきながら、アニメ映画『この世界の片隅に』を
観てきた。
 こうの史代の原作漫画はとても好きだったので、あの独特の空気を、アニメ
でうまく再現できているのかどうか、さらに「あの時代」を、必要以上に、暗
く陰鬱で灰色というステレオタイプで描かれてたりしたら「やだな…」等々と
いう不安と疑心暗鬼で先延ばしにしていたのだが、いよいよ5月の最終週で公
開が終了する、と聞いて、重い腰をあげたのだった。

 とても良かった。
 もっと早く観に行けばよかったと後悔した。
 原作の「空気」は、きちんと再現…というよりも、さらに昇華した形で表現
されていた。

 原作漫画では、物語の背景となる当時の広島や呉の町の様子や、衣服や履物、
乗り物等々のディテールが、かなりのこだわりを持って描かれていたのだが、
これも、なお一層細かく……おそらくは綿密な取材がされたのだろう……緻密
に描きこまれていた。

 アニメ版では「音」もまた、丁寧に再現されていたように思う。
 たとえば、爆弾が至近距離で炸裂する音。あるいは、艦載機が急降下して機
銃掃射していくエンジンと機銃の爆音。
 どのシーンの音も、とてもリアルに感じられた。
 「すず」さんの嫁ぎ先のラジオからは、空襲警報を伝えるニュースが流れて
くるのだが、そのニュースを伝えるのが、「昭和20年」に至って、男性から女
性の声に代わっている……のに気づいたときには、「さすが……」と、思わず
うなってしまった。

 平日午前の上映だったのだが、公開終了間際だったせいか、客席は六分ほど
の入りだった。
 わしの隣には、わしよりやや年上と思われる男性が座っていたのだが、この
人は、映画が終わり明かりが戻った館内で、下を向いたきりしばらく立ち上が
れずに、ずっと目のあたりを押さえていた。

 映画館で立ち上がれなかった彼もそうだろうけど、わしもまた、戦争を直接
体験した世代ではない。
 しかし、わしらがモノゴコロついたころには、白い着物の「傷痍軍人」が、
切断された足を台車に載せて商店街をいざり歩いては、胸に抱えたアコーディ
オン弾いて物乞いをしていたり、空襲で崩れたままのビルがあったりと、そこ
ここにまだ痕跡や傷跡が残っていた。

 幼稚園の遠足で遊園地に行ったとき、駅からその遊園地へ行く途中、なにや
ら異様なビルの横を通ったのだった。
 錆びた鉄枠の窓はあちこちのガラスが破れ、中は薄暗くて人の気配もなく、
丸みを帯びた外壁はコンクリートが剥き出しで、その全体が鬱蒼と繁茂した蔦
に覆われてしまっている廃ビル……
 なんだか不気味なそのビルは、空襲を受けたのちに放置され、そのままにな
ってるんだ……と一人合点で思い込んだ。
 空襲受けた廃ビルと思ったそれが、実は甲子園球場だったと知るのは、それ
から数年後のことだった。

 荒れて放置された建造物、イコール、空襲を受けた、という連想は、それま
でに、親たち、あるいは学校の先生や祖父母から、何度も空襲や機銃掃射の話
を聞かされていたからだ。
 甲子園球場は、放置されていたわけではないけど、昼間で無人だったから、
そんなに思ってしまったんだろうな。今ほどきれいにメンテナンスもされてな
かったし。

 アニメ『この世界の片隅に』は、久々にあのころの記憶を呼び覚ましてくれ
る映画でもあった。

 あのころ、わしらがまだ子供だった1950年代から60年代。
 日本はまだ「先進国」ではなかった。

 長谷川町子『いじわるばあさん』に、ばあさんがアメリカ旅行をするくだり
がある。
 ばあさん、ニューヨークでお土産買って、しかもそれがとても安く買えたも
んだから「ホクホク」だったところが、ホテルへ帰ってよく見ると、その製品
に「Made in JAPAN」のタグがついていた、というオチ。

 1950年代、日本から欧米に向けて盛んに輸出されていた工業製品の筆頭は
「おもちゃ」で、そのおもちゃに代表される「Made in JAPAN」は、全世界的
に、「安かろう悪かろう」という粗悪品の象徴だったのだ。

 そのイメージは、今の中国製品よりずっと劣悪だった。

 虫プロアニメ『鉄腕アトム』の放映開始が1963年。以後、国産アニメは徐々
にテレビに増殖していくが、しかし、子供向けのアニメやヒーロードラマ、あ
るいは子供向けコメディードラマは、圧倒的にアメリカ製が多かった。

 そこに描き出される「豊かなアメリカ」なライフスタイルは、彼我のギャッ
プが大きすぎて、まるで現実のものとも思えない、まさに夢のような生活様式
だった。

 「レモネード」とか「パイ」とか「ハロウィン」とか、そのスタイルの中に
は、なんだかよくわからないものもいっぱいあった。

 『ポパイ』に出てくる「ウィンピー」が、いつも頬張ってる「ハンバーガー」
もまた、「よくわからない」物件のひとつだった。
 当時「ホットドッグ」は売っていたけど、「ハンバーガー」は、どこにも売
ってなかったのだ。
 名前と形状から、パンにハンバーグを挟んだもの、という想像はついたので、
自作してみたのは中学1年の頃。
 スーパーに売ってたハンバーグ……というか、今思うと「スパム」と「ミー
トローフ」の中間のような形状のもの…を、バンズはどこにも売ってなかった
から、食パンを代用して、キュウリを薄切りにしたのと一緒に挟んだ。味付け
は、ウスターソースとケチャップ。
 滅法、旨かった。

 後年、神戸で最初にできた「マクドナルド」に、あのときの感動を期待しつ
つ出向いたのだが……
 初体験のその味は、衝撃的に不味かった…
 ウィンピーは、こんなモンを「うまい、うまい」と食ってたのか? と愕然
としたのだった。

 「マクド」初体験のちょっと前、やはり初体験の「ケンタッキーフライドチ
キン」では、「世の中に、こんな旨いモンがあったのか!?」と感動した、その
反動もあったのだと思う。
 マクドは、その「不味さ」に徐々に慣れていったのか、味が変わったのか、
その数年後には、そんなに不味いとも感じなくなっていた。

 ところで、テレビアニメ…当時は「テレビ漫画」と呼ばれた『ポパイ』では、
「ホウレンソウの缶詰」というのも謎だったのだが、あれは、アニメの創作で、
当時も今も「ホウレンソウの缶詰」というのは存在しない、というのは、つい
最近知った。

 だろうな。
 葉物野菜の缶詰……あったとしても、とてつもなく不味そうだし……

 『ポパイ』では、どう見ても「やせぎすの老けたおばさん」にしか見えない
「オリーブ」をめぐって、大の男二人が張りあう…という構図もまた、当時子
供だったわしらには不思議なことだった。

 オリーブ、力づくでブルートにかっさらわれても、なんの抵抗もせずに「ポ
〜〜〜パ〜〜イ! た〜〜すけて〜〜!」と叫ぶだけ…なのも、子供ゴコロに
やや「イラッ」ときた。

 日曜日の夜に、8チャンネルの『ポパイ』が終わると、その直後には、「赤
とんぼ」のBGMとともに、「週刊新潮は、ただいま発売中です」という、や
やたどたどしい子供の声のコマーシャルが流れてきて、これを聞くと、「ああ、
日曜が終わってしまう…」という空虚な思いにとらわれたものですが、今で言
う「サザエさんシンドローム」ですね。

 国産アニメや漫画の中にも「不思議」はあった。
 『ハリスの旋風(かぜ)』や、『男一匹ガキ大将』で、石田国松や戸川万吉が、
肩から提げてた、白いズックの通学鞄。『夕焼け番長』でも使ってた。

 わしらが使ってた通学用の鞄は、小学校の低学年時ではランドセル、その後、
5年生くらいからは布製の手提げの学生鞄で、中学高校では革製の学生鞄、と
いうのが普通で、漫画やアニメではよく登場する、ズック製の白い肩掛け鞄、
というのは、使ったこともないし、使ってる人を見たこともないのだった。

 あれは、戦前の旧制中学的「バンカラ」をイメージさせるために敢えて登場
させてたアイテムだったのでしょうか?
 石田国松の「ハリス学園」など、なんでか戦前の中学と同じ「5年制」だっ
たし。

 映画『Stand by me』で、4人の子供たちが線路伝いに歩きながら、「マイ
ティ・マウスとスーパーマン、どっちが強い?」「バカ! マイティ・マウス
は漫画だけど、スーパーマンは本物だから、スーパーマンが強いに決まってる
だろ」と、とても子供らしい議論をするシーン、とても好きなのだが、わしら
もまた、似たような議論を、よくしておりました。

 「バットマンとスーパーマン、どっちが強い?」とか。
 『逃亡者』のリチャード・キンブルは、「名犬ラッシーと一緒に逃亡したら、
追手がきても、わんわん吠えてすぐに知らせてもらえる」とか。

 テレビで『スーパージェッター』が放映されていた時期、だからわしは小学
4年の時。
 同級生4、5人で遊んでいたら、誰かが「あ! ジェッタ―の時間や!」と
言い出したのだった。
 『スーパージェッター』は、見逃してはならん、ということで、そこから一
番近かったシブヤくんの家でテレビを見ることになった。

 シブヤくんちの居間に皆して押しかけ、わいわい言いながら『ジェッタ―』
を見ていたら、夕食の準備の手を止めたシブヤくんのお母さんが、粉末の「ジ
ュースの素」で作ったオレンジジュースを持ってきてくれた。

 皆にグラスを配ったお母さんは、しばらくテレビの『ジェッタ―』を立った
まま眺めていたのだが、やがて感慨深そうに、わしらに向かって言うのだった。
 「ジェッタ―は、えらいねえ。みんなも、ジェッタ―みたいにならんと、あ
かんよ」
 と、わしの隣にいたトシちゃんが、真剣な顔で答えて言った。
 「おばちゃん、ジェッタ―は、30世紀から来たんやで。ぼくら、20世紀の人
間やから、ジェッタ―には、なれへんわ。流星号も持ってへんしな」

 『ジェッタ―』のエンディングテーマが終わった白黒の画面では、丸美屋の
「スーパージェッターふりかけ」が賑やかにコマーシャルされていた。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第90回 新渡戸稲造氏の生き方

 新渡戸稲造、という人に興味があった。樋口一葉の前の5,000円札の人であ
る。

 昭和59年から平成16年まで流通していた。そもそもこのときに新渡戸稲造っ
て誰だか知らなかったし、『武士道』の作者だった、とか、国際連盟の事務局
次長だったとか、経歴について断片的に知ることになったけれど、その後も特
に伝記を読んだわけではなく、そのままにしていたが、やはり気になってはい
たので、これを機会に新渡戸稲造について書かれた一冊の本を手に取ることに
した。

『明治のサムライ −「武士道」新渡戸稲造、軍部と戦う−』
(太田尚樹 著)(文藝春秋社)(文春新書)(2008年)

新渡戸稲造。教育家。農政学者。
1862年(文久2年)盛岡生まれ。
1877年(明治10年)札幌農学校の二期生入学(15歳)。その後東京大学へ。
1884年(明治17年)米国ジョンズ・ホプキンス大学留学(22歳)。
1887年(明治20年)独ボン大学へ(25歳)。
1891年(明治24年)結婚(米国人メリー・エルキントン)。帰国。札幌農学校
         教授(29歳)。
1900年(明治33年)英文『武士道』出版。ヨーロッパ視察(38歳)。
1901年(明治34年)台湾総督府民生部殖産局長心得(39歳)。
1906年(明治39年)第一高等学校校長就任(44歳)。
1918年(大正7年)東京女子大学初代学長(56歳)。
1920年(大正9年)国際連盟事務次長(58歳)。
1926年(大正15年)国際連盟事務次長を退任。貴族院議員(64歳)。
1929年(昭和4年)太平洋調査会理事長(67歳)。
1933年(昭和8年)カナダ・ビクトリア市にて客死(71歳)。

 新渡戸稲造の印象。彼について現代の日本人はどれだけ知っているのだろう。

 5,000円札の肖像画の人(これでさえ、替わってからもう10年以上経ってい
る)。『武士道』の著者(このことを知っている人は多いだろうが、実際にこ
の『武士道』を読んだ人はおそらくぐっと少ないだろう)。国際連盟事務次長
(日本人にとって国際連盟の印象はあの松岡外相による脱退の情景に尽きるの
ではないだろうか)。

 いずれにしても幕末に朝敵だった盛岡の武士の家に生まれて、さまざまな所
で学び、英語が堪能で、教育家、そして有能な官吏であり、明治大正昭和を生
きた新渡戸稲造は半ば忘れられた偉人、と云っていいかもしれない。もったい
ないことだと思う。

 新渡戸稲造は、札幌農学校での課程を終えて、東京大学に入学する時の面接
で、「太平洋の橋になりたい」と述べて、面接官を驚かせた。日本と西洋。日
本の長所を西洋に紹介し、西洋の長所をどしどし輸入する、そのような橋渡し
の役をやりたい、ということだった。経歴をみると、まさしくその希望に沿っ
た人生を歩んだ、と云えるだろう。

 本書は、そんな新渡戸稲造の生涯を追いながら、彼の取った行動を彼の思想
から考察する。新書版なので、一般向けにわかりやすく書かれている。

 新渡戸稲造と云えば、『武士道』が有名である。この『武士道』を彼はなぜ
書いたのか。という疑問がある。日本人の行動様式、思想形成に大きな影響を
与えているのは、特定の宗教とではなく、武士の行動様式、武士の思想による
処が大きい。と看過したからに他ならない。英語で書かれたこの本は出版時期
が日露戦争後だった、ということも重なり、全世界で大いに読まれたらしい。

 日本人の知識層は、西洋の唯一絶対神を信じるキリスト教と対立を求めず相
対的な仏教や神道の影響を受けた日本独自の精神と、このふたつの思想が自分
の中で相克している状況であり、それは開国したときから始まって、未だにそ
のふたつを抱えている。そして新渡戸稲造がまさにその典型であるように映る。

 彼の晩年(国際連盟事務次長を退任してから。それは時代が昭和に入ったと
きと重なる)に、彼は満州事変や上海事変を起こした軍部を憎み、国内では軍
部を批判したが、外では日本の取った行動に理解を示し、日本の立場を擁護し
ている。個人の意志に反した行動を取ることは、すなわち新渡戸の中に時代の
雰囲気、時勢というようなものが反映されていたのであろう。日本の精神が誇
張され、過大に評価され、「愛国心」ということばに収斂されてしまう、結果
として一度は日本を滅ぼした思想に、新渡戸でさえ抗えなかったことの証左で
あろうと思われる。

 この晩年の新渡戸が体験した時代の雰囲気は、どこかいまの日本の雰囲気に
似ていることは、さまざまな人が警鐘を鳴らしているとおりだ。

 新渡戸稲造の生涯は、誠実に生きることの難しさを、現代の我々に教えてく
れる。

多呂さ(東京は梅雨入りと思ったら、長い梅雨の中休みに入ってしまったよう
な気圧配置です)

 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html
 
・『セブン・ハーフ・アンド・ワン』(文芸社)
 http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17241-5.jsp

・『トシ、1日1分でいいからフクシマ英語に触れてみて。それだけできっと世
  界は変わる。』(SCICUS)
 https://www.facebook.com/scicus.jp/posts/1054815034566643


 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 出張続きで、気が付くと10日も過ぎ去っていました…。すみません。20日号
もまもなく配信致します。(あ)

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