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[書評]のメルマガ vol.649

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■■ [書評]のメルマガ                2018.03.10.発行
■■                              vol.649
■■ mailmagazine of book reviews    [あの日から7年目を迎える 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<99>青い山脈、黒い太陽

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→81 考える先にあるもの

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第99回 災害避難所のスタッフ

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです。

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<99>青い山脈、黒い太陽

 阪神電車で神戸へ向かうと、西宮を過ぎ、香櫨園を通過するころから、右手
前方遥かに見えていた六甲連山が、電車が西に進むにつれ、ぐんぐんと迫って
くる。

 香櫨園から芦屋に向かって電車は、徐々に高架から地上に降りて行くのだが、
芦屋界隈には建築規制によって西宮や神戸のようなタワーマンションが皆無な
ので、阪急、JR、阪神の阪神間三線のうち、もっとも海側を走る阪神電車か
らも、低い家並の向こうに山なみがはっきりと捉えられる。

 電車の中で本など読んでいて、ふと顔をあげ、車窓一杯に山なみが迫ってい
るのに気づくと、ことに新緑の季節、山肌のあちこちから野放図にむくもくと
新緑が盛り上がっていたりすると、不意を打たれたように、思わず「はっ」と
することが度々ある。

 その昔に西條八十は、神戸から大阪へ向かう電車の車窓から、これと同じ景
色を見て、「青い山脈」の歌詞を着想した、と聞いたことがあって、電車から
この山なみを眺めるたび、「わかくあかるいうたごえに……」と、あの歌のフ
レーズが脳内に鳴り響いたりもするのであった。

 ところが、今回このエピソードをマクラにしようと思って、改めて調べてみ
たところが、違っていた。

 まず「主人公」が、西條八十ではなく、作曲者の服部良一だった。
 しかも、神戸から大阪へ向かう電車ではなく、大阪から京都へ向かう電車な
のだった。

 服部良一は、戦後の混乱期のさなか、大阪と京都を仕事で行き来していて、
食料を買い出しに行く人たちで満員すし詰めの省線電車の車窓から、沿線の山
の連なりを眺めているうち、ふとこの曲のメロディーが湧いてきて、窮屈な車
内で苦労しながらも、ありあわせの紙に鉛筆でそのメロディーを書きとめた、
ということだったようだ。

 となると、この「山脈」もまた、六甲連山ではなく北摂山塊だったわけで、
いったいどこでどう勘違いして記憶していたのか、40年以上も前からそう思い
込んでいたのだった。

 勘違いと言えば、その「青い山脈」と「リンゴの唄」を、よく取り違える。
 どちらの歌も、わしが生まれる前の戦後復興期に流行した歌として、「ごっ
ちゃ」に記憶してるせいで、そうなるのだと思う。

 そして、「リンゴの唄」といえば、かわぐちかいじ『黒い太陽』の、「第二
部・戦後編」で、主人公「鉄」が歩く横浜の闇市の、ガーガーピーピーと音質
の悪いスピーカーから、のべつ幕なしに流れていたのが、その歌なのだった。

 そうなのだ。ふと思い立って、かわぐちかいじ『黒い太陽』を、改めて読み
直してみたのだ。
 我が家にあるのは、2001年、ソフトマジックから復刻刊行された、「第一部
・戦前編」「第二部・戦後編」が1冊にまとめられた、総頁数1000ページ超の、
広辞苑みたいな版。

 初出は、少年画報社「ヤングコミック」で、1972年から74年にかけて連載さ
れた。
 主人公「鉄」と「ジャコ万」は、ともに広島の旧制中学で番を張るバンカラ
学生で、常に敵対するケンカライバル。
 この血気盛んな二人が、ともに海軍の予科練に入り、航空兵を目指すのは、
昭和18年。
 戦局は既に劣勢が明白だが、国民にはまだその事実は知らされない。

 予科練に入ってもなお、ケンカ上等で血気盛んな鉄だが、戦争という現実の
中で、次第に虚無に包まれてゆく。
 やがて、戦局の影響で繰り上げ卒業となった鉄は、実戦部隊に配属された後、
操縦の腕を買われ、特攻機の護衛の任を与えられ、仲間が特攻で散っていくの
を見送りながら、終戦を迎える。

 一方のジャコ万は、予科練での適性検査によって通信課への配属が決まった
ものの、前線での戦闘をあきらめきれず、特攻兵器「回天」搭乗員を志願し、
瀬戸内海での厳しい訓練を経て出撃、太平洋上で敵艦隊に突入する。

 そして「戦後編」では、横浜の闇市を仕切るヤクザ組織に身を置いた鉄が、
「新橋戦争」や「松川事件」等、戦後の裏面史を彩る闇の渦中で蠢きながら、
自身が戦うべき「敵」を発見し、死を賭した戦いに望んでゆく。
 さらに「戦後編」後半では、死んだと思われていたジャコ万が実は生還して
いて、広島県警の刑事となって登場し、鉄の戦いに絡んでくる。

 これ、今読んでもなお、素晴らしい。傑作だと思う。1000ページ超だが、一
気に読んでしまった。
 以前に読んでいて、途中の経過も結末も知っているのだけど、それでもなお、
「鉄」と「ジャコ万」の生き様、さらに彼らに絡んでくる人物たちの動向に、
はらはらドキドキさせられる。

 かわぐち作品といえば、『沈黙の艦隊』の海江田艦長に代表される、ナニゴ
トが起こっても動じない、クールかつ冷静沈着、悟りきったようなキャラクタ
ーが特徴的なのだが、『黒い太陽』の主人公「鉄」は、それとは真逆の発展途
上、常に熱く、考えるより先に体が反応する、ただ今のかわぐち作品と比べる
と、とても異色な主人公なのだ。

 そしてなにより、今回『黒い太陽』を読み返して、強く感じたのが、「背景」
の抒情性なのだった。
 コマの中で、キャラクターのバックに描かれた背景…それは、単なる「背景」
ではなく、一個の「風景」として、見る者に何ごとかを語りかけてくるのであ
る。

 だからこそ、「リンゴの唄」も、その風景の中に歌詞の一節の手書き文字が
あるだけで、音のない漫画なのに、実際に質の悪いレコードが、粗悪なスピー
カーから割れた音で流れてくるのが「聞こえて」くるのだ。

 「鉄」「ジャコ万」という名前は、おそらくは映画『ジャコ萬と鉄』から採
られたのだと思う。
 1949年に黒澤明・脚本、谷口千吉・監督で、三船敏郎、月形龍之介がそれぞ
れ「鉄」「ジャコ万」を演じた東宝作品と、これを東映でリメイクした1964年
の深作欽二作品では、高倉健、丹波哲郎が、鉄とジャコ万を演じている。

 今回読み直したソフトマジック版では、巻末に作者・かわぐちのインタビュ
ーが付されていて、それによると当初の構想では、戦後の闇市を舞台に「特攻
帰りのヤクザ」を描くことが主眼で、なので、「戦前編」は、ほんの数話で終
わる筈が、当時の予科練の資料などを渉猟するうち、数話で終わらせては「も
ったいない」し、さらに戦後ヤクザとなる「鉄」のバックボーンの核は戦争体
験であるはずだし、これを疎かにしては人物像が薄まってしまう、との思いか
ら、「とても長いプロローグ」としての第一部、となったそうだ。

 かわぐちかいじの初期の単行本に、『死風街』『風狂えれじい』という2冊
がある。
 いずれも北冬書房・刊で、それぞれ1973年、1974年の刊行。
 流れ者のヤクザが主人公の連作短編で、主人公の造形や作品全体に流れる空
気は、鈴木清順の映画世界を思わせる作品である。

 そして、これらの作品でもまた、人物たちのバックにある「風景」が、とて
も抒情的で、人物が描きこまれていない風景だけでも、たとえば、走る列車か
ら垣間見える、だだっ広い平野の片隅に「牡蠣のようにへばりついた町」や、
夜の操車場から「シュボッ」と汽笛を響かせ、前照灯をぎらつかせて動き出す
汽車、あるいは、どぶ川に向いて窓が開いた安アパートの風情…等々、等々、
まるでそれだけで、何ごとかを語りかけるように、画面から迫ってくる。

 古いかわぐち作品を読み返してみて、そういえば最近は(近頃のかわぐち作
品を含めて)漫画の中に描かれた「風景」が、何かを訴えかけてくるような経
験って、久しく「ないな…」と思い至った。

 できればこの風景の中で、ジャコ万と鉄の「その後」を、再び見てみたい、
と思ってしまった再読なのだった。
 見てみたいな、『黒い太陽・朝鮮戦争後編』、あるいは『昭和30年代編』。
 やってくれんかな、「モーニング」あたりで。

 あ、そうそう、かわぐちかいじといえば、「女」が、「イマイチ」とよく言
われるのだけど、この初期の頃の女は、今より目も小さくてとてもアジア人的
キャラクターなのだけど、わしは、好き。
 今のかわぐち作品の女たちよりも、よほど艶っぽく仇っぽい、と、これはひ
そかにずっと思ってた。
 もし『黒い太陽』続編があるなら、「女」はぜひとも、こっちでいっていた
だきたい、とも思うのであった。

太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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81 考える先にあるもの

 小冊子「ミューレン」をご存知ですか。

 小さい文字ぎっしりの記事とセンスある写真たっぷりの読みごたえある冊子
 です。

 最新号 vol.22 (2018 January)の特集は「岩波少年文庫」

 児童書好きにも話題になっています。

 編集人である若菜晃子さん選の岩波少年文庫10冊にはじまり、
 冒険の世界、百年前の暮らし、世界をまわろう、生きものの気持ちと
 カテゴリ分けも魅力的で、選ばれた本もディープ。
 私も手にしたことのないものも多く、読んでみたい本だらけです。

 石井桃子さんによる「『岩波少年文庫』創刊のころ」のインタビュー記事は、
 初出「図書」(1980年)のもので、『石井桃子のことば』(新潮社 とんぼ
 の本)にも掲載されたもの。
 『石井桃子のことば』は編集人の若菜さんも執筆に関わっている本で、こち
 らも読みごたえあります。「ミューレン」にもぜひこの本を併せてご覧下さ
 いとすすめていますので、ぜひぜひ。

 「岩波少年文庫の今」では、岩波書店児童書編集長の愛宕さんのインタビュ
 ー記事が掲載されています。
 現在の少年文庫の書目はどのような前提で選んでいるのか、新訳に変えてい
 くことについて、装丁についてなど、「今」の少年文庫についてのお話はと
 ても興味深いです。

 「ミューレン」サイト
 http://www.murren612.com/

 さて、愛宕さんがインタビューでおすすめの少年文庫の一冊にあげられてい
 たのは、オランダの作家トンケ・ドラフト『王への手紙』(西村由美訳)で
 す。

 ドラフトさんの作品を初めて読んだときは、そのおもしろさにびっくりした
 ものです。評価のかたまった作家作品が多い少年文庫の中で、初めて紹介さ
 れる作家の名前は強烈にインプットされました。

 しかしそれもそのはず、訳者西村さんのあとがきを読めば納得でした。

 『王への手紙』の初版刊行は1962年。表紙絵も挿絵も作者自身が描き、翌年
 には、現在の「金の石筆賞」の前身にあたる賞に選ばれ、それ以来のロング
 セラー本、オランダのこどもたちに長く読まれていた本だったのです。

 そのドラフトさんの最新訳書、岩波少年文庫の『青い月の石』(西村由美訳)
 を今回ご紹介いたします。

 主人公ヨーストは森で魔法が使えるという噂があるおばあちゃんと2人暮ら
 し。ひょんなことから、イアン王子と出会い、一緒に地下世界の王であるマ
 ホッヘルチェと対峙することになります。
 マホッツヘルチェの元に行くまでもが一筋縄ではいかず、たどりついたら、
 今度は難問をつきつけられ、クリアした後にも、更に難しい局面にたたされ
 ることになります。
 ヨーストと共に冒険するのは、現実世界ではヨーストをいじめていたヤン、
 どんなときもヨーストを支える幼なじみフリーチェです。

 それぞれの人物造形がしっかりしていて、どんな場所で困難なことに立ち向
 かうのかがテンポよく描かれ、物語に吸引力があります。対立、協力、葛藤、
 難しい相手との対峙など、どの場面にも心を動かされます。

 挿絵もドラフトさんが描いていて、物語をいっそう引き立てます。
 小学校中学年くらいから楽しめる冒険物語、こどもはもちろん、大人の方に
 もオススメです。

 さて次にご紹介するのは、イギリスの作家デイヴィッド・アーモンド『ポケ
 ットのなかの天使』(山田順子訳 東京創元社)です。

 カーネギー賞・ウィットブレッド賞を受賞した『肩胛骨は翼のなごり』の邦
 訳で知られるようになった作者アーモンドですが、今回の作品は心あたたま
 るファンタジー。

 バスの運転手をしているバートは、定年間近でその日を待ちわびながら仕事
 をしていました。ところがある日、バートのポケットに天使が入っていたの
 です。いったいこの天使は誰なんだろうと思いながら、バートは自宅に連れ
 帰り、妻のベティに紹介します。ベティも大喜びで、こどもには教育が必要
 と自分の勤務先である学校に、天使を連れて行きます。すぐさま生徒たちに
 受け入れられ、大人気になりますが、黒ずくめの男が若者が天使に目をつけ……。

 アンジェリーノと名付けられた天使の男の子がとてもかわいいのです。しょ
 っちゅう、おならをするも愛嬌。黒ずくめの若者が何かしでかすのではない
 かとハラハラするのですが、物語に流れている優しさの心地よさがたまりま
 せん。日常におきるファンタジーにしっかりとリアリティをもたらせている
 作者の筆致はさすがの腕前。松本圭以子さんの装画・挿絵も素敵です。

 このメルマガ1月10日配信号で紹介したパディントンの作者マイケル・ボン
 ドさんが書いたモルモットのお話、『オルガとボリスとなかまたち』にも出
 てきた料理「あなのなかのヒキガエル」。それが本書にも出てきています。
 イギリスで長く親しまれている料理だからですね。

 最後にご紹介するのは絵本です。

 『いろいろいろんなかぞくのほん』
 メアリ・ホフマン ぶん ロス・アスクィス え すぎもと えみ やく
 少年新聞社

 家族の形は、お父さんとお母さん、そしてこどもたちという組み合わせが
 いわゆる普通といわれていますが、世の中にはいろいろな家族があること、
 少しずつ浸透していっていますよね。

 この絵本はそれをわかりやすく描いています。

 家族の形にはじまり、住むところ、学校、仕事、休みの日の過ごし方、食べ
 物など、様々なカテゴリで家族の姿をみせていきます。

 お父さんだけの家もあれば、
 お母さんだけの家もある、
 そのどちらもいなく、祖父母と暮らすこどももいれば、
 お母さんがふたりとこども、
 お父さんがふたりとこども、
 養子や里子と暮らす家族もいます。

 意識してみると、どんな家族にも個性があり、いろいろです。
 どのページもたっぷりの絵がそれを表現していて、
 素敵なのは、家族も流動的だということが書かれているところ。
 
 確かに、時間の経過と共に変わることもあります。
 その時それぞれの家族を、この絵本で読んでみませんか。

 いまの自分がみえてきます。

  
(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第99回 災害避難所のスタッフ

 まもなく、あの日から7年目を迎える。
 あらためて、あの震災について考えている。そして、いまだに大災害が起こ
っていない首都圏において、もし大災害が起こったら、どうなるのか、を想像
している。
 首都直下型地震が起こったとしたら・・・・・。おそらく想像の埒外の事態
になるであろう。発災直後の阿鼻叫喚の巷を乗り越え、避難所に落ち着いたと
して、そのときその避難所はどんな状況になっているのだろう。そういうこと
を想像し始めるとキリがなくなる。
 自分の命を守る。家族の命を守る。守れた命は、自宅がなくなったとき、避
難所に行くしかない。大災害が起こったとき、人は避難所に入ることになる確
率は限りなく高いのだ。
 災害避難所について考えたい。災害はこちらの意図に関係なく起こってしま
う。しかしその後の処理は、人々が人智を使って協力し合えば、必ずいい結果
が得られるはず。ヒントは以前に起こった大災害にある。
 ヒントを存分に提供してくれるいい本を見つけた。

『南三陸発!志津川小学校避難所 −59日間の物語 〜未来へのメッセージ〜』
(編者:志津川小学校避難所自治会記録保存プロジェクト実行委員会
 志水宏吉・大阪大学未来共生プログラム)
(発行:明石書店)(2017年3月11日発行)

 本書がどういう経緯で完成したかは、あとがきに詳しい。被災地でボランテ
ィアとして支援した人がいて、被災地の復興をテーマに研究している大学のチ
ームがあって、そして実際に被災して避難所を運営していた人たちがいて、そ
れらが協働して本書を作っている。

 本書は3部構成になっている。もっともページを割いているのは第1章の日
記形式で書かれた避難所での日々についての物語。そして続く第2章では、こ
の避難所での物語からどのような教訓を得られるか、内容を客観的に整理した
もの。最後の第3章は、この地(志津川)の未来への展望を記述している。

 目次の次に「登場人物」という項目があって、この志津川小学校避難所を運
営していた自治会のメンバーの名簿が載っている。呼び名をカタカナで表記し
ている。読者は本書を読むとき、この「登場人物」欄に戻って、誰のことかを
確認するのだ。

 大災害を経験した直後に生き残った人たちが、高台で津波の被害を免れた小
学校に集まった。震災の3日後に避難所を運営していく自治会が結成された。
避難所に身を寄せている人たちが自主的に運営する組織をつくらないと早晩行
き詰まると考えた人がいた。避難所にいた町役場の職員である。彼は役所が率
先して運営したのでは、必ず行き詰まるとみていた。避難者は役所に頼り切っ
てしまう。だから自主的な組織ができればいいと思い、自治会を立ち上げよう
と根回しをした。

 なんでもそうであるが、会長の人事が大切なのだ。穏やかで責任感のある人。
しかし厳しい処もある人。長老たちから認められ、若い人たちからも人望があ
る人。それぞれの仕事はスタッフに任せ、何かあったときに判断できる人。そ
れがこの避難所では“タカチョー”さん。町の老舗味噌醤油屋店主で、呼び名
は屋号。

 しかし本書ではあまり会長のタカチョーさんは登場しない。タカチョーさん
の下で実際に運営している副会長以下のメンバーの奮闘ぶりが、この物語のメ
インなのだ。

 避難所は運営スタッフだけでは運営できない。医療スタッフもいる。校長や
教頭など学校の関係者。行政(町役場の職員)も欠かせない。各地から来る支
援ボランティアたち。マスコミ。そして自衛隊。そういう人や集団に支えられ
て災害避難所を運営する日々が59日間続いた。59日間が起承転結になっている。

 発生と混乱の最初の3日間。それを承けて組織が立ち上がり、役割を明確化
にして仕事を軌道に乗せた6日間。数々の問題を解決しながら、展開していく
22日間。最後に人が減っていき、避難所に充てられたスペースを徐々に縮小し
ていき、最終的に避難所を閉鎖して、学校に返還していく28日間。避難所運営
に興味があれば、すらすら読める。人間同士のぶつかり合いもあるし、思いや
りとやさしさに包まれるときもある。第2章には「災害ユートピア」という項
目があるが、志津川小学校避難所は確実に一時期、災害ユートピア化していた。

 避難所が閉鎖され、それぞれ仮設住宅やみなし仮設などに移った自治会メン
バーたちは、避難所運営で何を得たのか。これについての回答は興味深いが、
すぐに想像がつく答えである。この場にはあえて記載しないが、避難所が都会
にあろうが田舎にあろうが、漁村だろうが山村だろうが、立地場所には関係な
い答えが用意されている。

 しかしながら、一方で本書の舞台となった南三陸町は過疎化に悩んでいる。
この震災が追い打ちを掛けている。残された人たち、そして生きるための奮闘
していた人たちは、いまそのことが次の課題になっているのだ。人口減少によ
り、町づくりをどうするのか、という命題にみんな悩んでいる。

 傷ついた町とそこに残された人たち。その地をこれからどうするか、そして
人はその地でどう生きていくか。それは他人事でも、対岸の火事でもない。災
害に見舞われていないが確実に災害が発生するこの日本に住んでいる我々全員
に突きつけられた課題なのだ。


多呂さ(三寒四温。でもまもなく本格的な春がやってきますね。梅は満開。菜
の花が咲きました。)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『追憶 下弦の月』(パレードブックス)
  http://books.parade.co.jp/category/genre02/978-4-434-23989-2.html

・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_024.html

・『ミスなくすばやく仕事をする技術』(秀和システム)
 http://www.shuwasystem.co.jp/products/7980html/5125.html

・『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 2日遅れの配送になりました。すみません。(あ)

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