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■コンテンツ
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『老人の取扱説明書』平松類 ソフトバンク新書

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『踏みにじられた未来 御殿場事件、親と子の10年闘争』

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『誰が音楽をタダにした?』

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『老人の取扱説明書』平松類 ソフトバンク新書

「お年寄りを大切に」と言われて反対する人はそういない。しかし最近は、ど
うも高齢者に対して風当たりが強くなって来つつある。「暴走老人」なんて本
が以前話題になったが、昔のように年寄は性格穏健でおとなしいと言うイメー
ジとはかけ離れた人が出てきている。

 個人的には、この手の暴走老人は、単にそういう世代の人が老人になってき
たからだと思っていた。昔は今では許されないことが普通にまかり通ってきた
時代だから、その頃の感覚で今を生きようとするから問題とされるのだろうと
思っていた。今では絶対に問題にされ、日本中から叩かれるに違いないような
ことが、昔は普通にまかり通っていたのだ。もちろん、認知症になっているこ
ともあるだろう。

 この本、ただいま10万部超えのベストセラーだとか。書いているのは眼科医
の人である。最初に書いてあるのは「老人の困った行動の数々。実は認知症や
性格によるものではなく」老化による体の変化だという。なぜか?

 例を挙げる。高齢者が赤信号でも平気で渡ったり、信号が赤になっても平然
と渡り続けることはよくある。これを「ぽけちゃってる」とか「クルマの方が
止まってくれるから平気だと思っているのでは?」といった風に見るのは間違
いだ。これは老化による体の変化でやむなく起こっていることでボケや性格と
は無関係だと著者は言うのである。

 理由は、老化するとまぶたが下がってくる上に腰が曲がっていることが多い
から、信号機のある上の方がよく見えないのと、転ぶことを心配して下ばかり
見ているから。そして日本の信号は高齢者が歩くスピードで渡り切れないよう
に作られている。だから仕方がないのだと言うのである。

 まぶたが下がってくるのは眼瞼下垂という病気で、軽いなら訓練で直せるが
普通は手術で治すもの。まぶたが下がると視野が狭くなり、30度になると信号
機は7m、20度になると10.5m離れないと信号機は見えない。

 高齢者が歩くスピードで渡り切れないように作られているというのは、日本
では一秒1メートルの速度で歩けば渡れるように作ってあるが、老人は1秒に
0.6〜0.7mしか歩けないから渡り切れないと言うこと。

 アメリカでは日本の黄色にあたる点滅が始まってから渡っても渡れるように
赤になるまでの時間をとっているし、イギリスでは横断歩道に人がいなくなっ
ているのを確認してから変わるようになっている信号樹も出てきているそうで
ある。

 そんな感じで、高齢者の行動でムカッと、イラッとくる例を16例挙げて、そ
れがボケや性格の悪さによるものではないことと、対策の取り方を解説してい
る。また自分もそうならないように老化を出来るだけ遅らせる方策も書かれて
いるのもポイントが高いだろう。

 瞼の問題は、コンタクトレンズやまつ毛メイクをしていると起きやすいから
できるだけ控える。足を速くするのは、机に手を置いて座ったイスから立ち上
がる動作を連続5回するといいそうだ。それでダメならシルバーカー。シルバ
ーカーを押す動作は、かえって遅くなりそうだが実際は18%ほど歩く速度が速
くなるらしい・・・これは高齢者にも役立つが、高齢者になる前の世代の役に
立つ。

 著者曰く、高齢者のトラブルの多くは「老化の正体」が知られていないから、
高齢者のために善かれと思ってすることが実は間違いで、努力が空回りするこ
とが多いのだとか。そしてそんなことに気が付くようになったきっかけがまた
素晴らしい。

 著者は右利きだが、手術がうまくなりたくて、しばらく左利きの生活をして
いた。左で箸を持ち、左手でものをつかんだりしていたが、それで気が付いた
のは、この世は右利きが前提でつくられていることだった。自動改札は左利き
には使いにくい。一見左右の差がなさそうなハサミでも右利き用が多い。ラー
メン屋でラーメン食べようとしたら、左手が左側の人のひじに当たりそうにな
る・・・

 左利きだけでもこれだけ苦労するのだ。だったら老人はもっと不便を感じる
のではないかと考えたのがこの本を書いた動機だという。

 お年寄りは大切にしようと考え、そのように接していても実際はそうなって
いない。それは老人に接する人が怠けていたりするのではなく、「老化」とは
具体的にどんなことなのかが知られていない。だから老人と接する人たちは苦
労が多い。

「老化の正体」を知り、老人になることはどういうことかを知れば、社会はも
っと老人に優しくなり、今の若い人が老人になった時には、もっと優しい社会
になっているだろうという筆者の意見は納得である。

 もっとも、この本に書いてある通りにしたら必ず状況を改善できるわけでも
ないだろう。解決策の中には、それなりに老人と接する者の忍耐力を要するこ
とも書いてある。しかし、かなりの部分は、この本を読むことで解決できるの
ではないだろうか? そんな風に思えるくらいの説得力は間違いなく持ってい
る本である。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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『踏みにじられた未来 御殿場事件、親と子の10年闘争』
(長野智子著・幻冬舎 2011年発刊)

 前にも言ったかと思いますが、わたくし、お茶の間ですが、「嵐」ファンで
ございます。そこで今回はこの2月にオンエアされたドラマ「99・9刑事専門弁
護士 シーズン2」第5話を見て読んだ本を紹介します。

 最初にドラマの紹介をしますが、「99・9」は松本潤さんが扮する変わり者
の弁護士が事件を解決するお話。刑事事件は起訴されると99.9%が有罪になる
が残り0.1%の無実を求めて奔走するわけですね。このシリーズでは、検察と
弁護人、裁判官の3つが絡む司法の闇を描いているわけですが、各話とも実際
にあった事件を部分的に取り入れていると思われる 部分があり、特に第5話
では、実際にあった「御殿場事件」を下敷きにして脚本が書かれています。

「御殿場事件」とは、2001年、御殿場市で女子高校生がレイプ未遂にあい、数
日後に近所の少年たちが逮捕された事件。しかし、少年には確かなアリバイが
あり、やがて被害者と思われる少女は、同じ時間に出会い系サイトで知り合っ
た会社員と会っていたこともわかります。これで被告人は無罪が証明され、事
件は解決したかと思われたのに、なんと、「犯行日は別の日でした」と訴因変
更が認められ、少年たちに有罪判決が下され収監されます。この事件を追った
のが、テレビ朝日「報道発ドキュメンタリー宣言」という番組で、その後、キ
ャスターの長野智子が取材内容をまとめたのがこの本です。 

 私はこの番組をリアタイで見ていた記憶があり、酷いことだと怒ったものの、
歳月とともに忘れていたのですが、99・9をきっかけに思い出しこの本を読ん
だ次第。テレビのチカラはまだまだすごいですね。

 ドラマでは当然、松本潤さんの弁護士が、裁判の矛盾をつき見事に無罪を勝
ち取るのですが、実際には起訴された4人は有罪になり1年6ヶ月服役します。
ドラマでは、女子高校生は虚偽の証言をしていたことを謝りますが、実際には
証言台で「ただただ泣くばかり」だったそうです。また、ドラマでは加害者と
された少年の1人が別の事件を起こし、それをカムフラージュするために罪を
認めたことになっていますが、これはドラマ放送直後に、長野智子さんがドラ
マと混同される危険を恐れてSNSを通して発言したように、少年による別の
犯罪もありません。

 この本を読んで震撼したことは、長野智子が判決を下した裁判長に直撃取材
して会い話をきく場面。「とりあえずこれでいきましょう」と訴因変更を認め
た高橋裁判長は、長野智子の問いかけに、あくまで裁判は合議制であると自分
の非を認めません。

 当然、怒りを覚えますが、おばちゃまいろいろ考えましたよ。私がこの人だ
ったらどうしただろうって。これと似たことを私もしてないと言い切れるのだ
ろうかって。  

 本人なりの組織なりの慣例に従って仕事をして、昨日と同じ今日と明日、そ
れを人は日常と呼び、安定と呼びます。しかし、その安定が人を傷つける原因
になり、嘘を呼ぶことになる。裁判という人の一生を左右する仕事が、慣例や
内部の人間関係の安定のために左右されることがそら恐ろしいと感じました。
それが権力の本性なのか、誤った判決は誤差と見過ごされるのだろうか。どこ
かで引き返せなかったのか、引き返すポイントがあったのに、だれもが他人事
としてうかうかと通り過ぎてしまったのか。それはなぜなのか。裁かれた人側
からより、裁く側からも考えた次第でした。

 ドラマでは(すみませんね、ドラマの話ばかりで)弁護士のキメ台詞があり、
それは「事実は1つだけ」ですが、今、冤罪事件がいくつもあり、財務省の書
き換え問題が言われているけれど、たしかに起きた事実は1つなわけですから
解明してスッキリしたいものです。(ここ、「事実」であって「真実」ないと
こがポイントと思う。名探偵コナン君は「真実はいつも1つ」っていうけど
「真実」ってときに主観的で嘘が入るからね〜。私が思うに「真実」は文科系
的、「事実」は理科系的…違いますかね)。

 あともう1ついいですか?この本でおやっと思ったのが192p「御殿場事件に
関していえば現段階では冤罪事件とはいうことはできないが」という一文。え
? 違うの? これは再審請求されていなくて確定された判決だから冤罪とは
言えないという意味? わかりにくかったです。

 今回はファン目線の書評ですみませんでした。さあ、次は「ブラックペアン」
海堂尊を読むぞ!(アマゾンで「ナラタージュ」と検索すると「この本を読ん
だ人は次の本も購入しています」というリストに「忍びの国」「ラストレシピ」
とまったく分野が違う本があがっているのが笑えます。知らない人からしたら、
なんで恋愛小説を好む人が忍者小説と料理小説? なんかの間違い? って思
うかもですが、すべて嵐メンバー出演作の原作です。)

大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#93『誰が音楽をタダにした?』

 実はこの3月で、長年勤めた会社を退職することになった。

 4月からは転職というのか、再就職というのか、とにかくいわゆるシューカ
ツに35年ぶりに取り組むのである。

 どんな業界で、どんな働き方をするか、いまはまだ完全に白紙だが、そのせ
いか、転職エージェントや転職サイトの広告が目について仕方がない。

 実際に一度、転職エージェントの無料相談というのも受けてみた。
 その時聞いた話。

 商社マンで長年海外勤務だったが、50歳になったのを潮に日本に帰りたくな
り、転職を考えているという人が相談に来たという。
 趣味がドラムなので、音楽業界はどうか、と訊かれて、転職エージェントは
こう答えたそうだ。
 あの業界はもはや斜陽で、とてもお勧めできません。それより、趣味を活か
すなら、楽器業界はどうですか?
 商社マン氏はこの提案を、なるほどと受け入れ、結局静岡にある某楽器メー
カーに落ち着いたらしい。

 この話、ぼく自身の関心事としては、「そうか、趣味を活かすという手もあ
ったか」という発見が主であり、前向きな話ではあったのだが、一音楽ファン
としてはちょっと暗澹たる気分にもなった。

 そうか、音楽業界は、もはや転職エージェントにとって「とてもお勧めでき
ない業界」になってしまったのか、と。

 その原因は何か?
 もちろん、本書のタイトルにあるように、「音楽がタダになったから」に他
ならないだろう。

 本書の主人公は、ドイツのコンピューター技術者と、世界市場を牛耳るアメ
リカの音楽業界のドン、そしてアメリカの音楽「海賊」。つまり、テクノロジ
ー、ビジネス、犯罪の三つの側面から、音楽がタダになるまでを追ったドキュ
メントである。

 まずはテクノロジー。
 ドイツの国営研究所で、カールハインツ・ブランデンブルグという技術者が、
音楽データを、よりコンパクトに圧縮する技術の開発に取り組んでいた。

 一般的に、データが大きいほど、音質はよく聞こえる。データの大きい画像
ほど、鮮明に見えるのと同じ理屈だ。
 しかし、あまりにデータ量が大きいと、この話が始まる1990年代後半の機器
では処理に膨大な時間がかかってしまう。
 そこで、音質を損なわずに、音楽データをできるだけ圧縮する技術が求めら
れていた。

 ブランデンブルグの方法は、彼の師匠に当たる人物が長年研究してきた、音
響心理学の成果を駆使することだった。

 例えば、高い音と低い音では、人間は低い音を優位に聴く。
 そのため、バイオリンとチェロの合奏なら、チェロのデータを多く残し、バ
イオリンのデータは間引いてしまっても、ほとんど気づかれない。チェロの音
が豊かであれば、バイオリンの音が貧弱でも構わないのである。

 あるいは、大きな衝撃音が流れると、面白いことにその「前」に鳴らされた
音が認識されない。
「後」の音がかき消されるのは直感的にわかるが、「前」に聴いた音も、後か
ら鳴った衝撃音の影響で忘れられてしまう、というのはなかなか驚きで、人間
と言うものの不思議さを改めて感じるが、この知見から、交響曲でシンバルが
ジャーン!と鳴った場合、その「後」のデータのみならず「前」のデータも間
引いてよい、ということになる。

 このように人間の耳に音質が劣化したと気づかれないように、データを節約
する方法をいくつも用いて、それを自動的にコンピュータ上で計算させるアル
ゴリズムを書く。
 案外シンプルだが、これがブランデンブルグと彼のチームが取り組んでいた
研究だった。
 夜な夜な、上記のような知見に基づき、データを削っては聴いてみて、本当
に音質が劣化して聞こえないか、果てしなく検証を繰り返す、地道な作業の連
続。
 その結実こそ、いまわれわれが音楽データを扱う時、ごく普通に使用してい
るmp3なのである。

 しかしmp3は、初めからグローバル・スタンダードとなったわけではない。
 市場に受け入れられるまでに、長い紆余曲折があった。

 ライバルが存在したからだ。

 それは、CDの特許の一部を保有することで知られる、オランダの大手電機
メーカー、フィリップスが開発を支援したmp2という技術である。

 一般の人によるCDとの聴き比べ調査ではmp3が圧倒的に評価されたにもか
かわらず、一流メーカーの面子と巨額の開発費をかけたフィリップスが、政治
力を駆使して強引にプッシュしたために、業界標準規格にmp2が選ばれてしま
う。

 とはいえ、その後mp3が最終的に勝つことを、われわれは知っている。

 そこに至るまでにも、ナップスターの登場で一躍有名になったP2P技術や、
ビットトレント技術などのテクノロジーの変遷があり、これだけでも十分に読
み応えのあるドラマだ。

 ここに、アメリカの音楽業界が、デジタル技術の進歩にも、インターネット
時代の夜明けにも気づかず、後の凋落を防ぐための手立てを打たなかった経緯
が絡んでくる。
 主人公は、ダグ・モリスだ。

 60年代にアレサ・フランクリンやオーティス・レディングといったソウル、
70年代はレッド・ツェッペリンなどのハード・ロック・バンドを擁して音楽史
にその名を刻むアトランティック・レコードの総帥アーメット・アーディンガ
ンの元で修業し、後にユニバーサルのトップとなった音楽業界のドン。

 彼がのし上がっていく過程を追いながら、その時々のヒット曲史が紡がれて
いく。

 そして、黎明期のサイバー・スペースで活躍した、音楽「海賊」。こちらの
主人公は、恐らく三人の中で最も知名度の低い、デル・グローバーである。

 彼はCDをプレスし、パッケージに詰め、完成品として流通に送り出す工場
の従業員だった。アルバイトから始め、真面目に働いて、正社員に取り立てら
れ、管理職にまでなる。
 その市井の一市民が、自分の立場を利用して、発売前の新作CDを工場から
持ち出し、違法コピーしてネットで公開する音楽「海賊」だったのである。

 もちろん工場は、警備員を雇い、金属探知機を設置して、CDの持ち出しを
防ごうとする。しかしグローバーはそうした警備の間隙を縫って音楽を盗み出
すのだが、その大胆な手口は本書に譲る。
 ヒントだけ言うと、工場はアメリカ合衆国南東部に位置するノースカロライ
ナ州のど田舎にあり、工員たちはみな南部人らしく、白人も黒人もこぞって、
ある共通のファッション・アイテムを愛用していた。それがCDを隠すのに持
って来いだったのである。

 こうして盗んだ音楽を、グローバーはCD−Rに焼いてこっそり売り捌いて
いたのだが、やがてインターネット時代が本格的に到来すると、「シーン」と
呼ばれる、音楽海賊たちの世界にはまり始める。
 この「シーン」を支えるモチベーションは、経済的な利益ではなく、名誉で
あった。
 それは、誰よりも早く音楽をアップロードするゲームだったのだ。特に、ま
だ発売前で店にも並んでいない新作は「ゼロデー」と呼ばれ、これをアップロ
ードすることは「リークする」と呼ばれて、特別の尊敬を集めた。
 この賞賛という報酬を得るために、海賊たちは腕を競った。

 早いだけでなく、それが人気アーティストのニュー・アルバムであることも
重要だ。誰も欲しがらないものをリークしても、敬意は払われない。
 グローバーが2002年までにリークしたアルバムは500枚を超え、その中には
ドクター・ドレーの『2001』があり、クイーン・オブ・ザ・ストーン・エイジ
の『レイテッドR』があり、さらにビョークがあり、アシャンティがあり、ネ
リーがあった。
 2002年に一番売れたアルバム、エミネムの『ザ・エミネム・ショウ』を発売
25日前にリークした時は、そのせいでこのラップ界の大スターがツアー・スケ
ジュールの変更を余儀なくされた。

 こうして実績を積み上げたグローバーは、やがて「シーン」の中核メンバー
に迎えられ、極めて貴重なレア音源や、一般へのリークよりも早い内輪だけの
リークを手に入れる特権を与えられ、スター「海賊」になっていく。

 しかし、当然ながら、海賊行為の隆盛は、司法の取り締まり強化を招いた。
 FBIに専門の捜査チームが結成され、まるで映画のように「バッカニア作
戦」「ファストリンク作戦」「アークロイヤル作戦」などと麗々しく名付けら
れた捜査プロジェクトが展開される。
 囮のフェイク・サイトを用いたり、特殊な技術でIPアドレスを特定したり、
携帯電話の通話記録から仲間を炙り出したり、あの手この手の捜査技術が繰り
出される内、さしもの海賊たちも次第に追い詰められ……

 という、このスリリングな物語、「まるで映画のように」と書いたが、あと
がきによると、本当に映画化が決まったらしい。

 映画も結構だが、しかし本書はぜひ、原作にも当たってほしい。その内容ば
かりでなく、文体がまた素晴らしいからだ。
 これが著者の初めての著作なのだが、その、キビキビとして皮肉なユーモア
に溢れた文体は、優れた訳文ともあいまって、実に痛快だ。ここには、アメリ
カのジャーナリズムが育んできた、豊かな語りの伝統が生きていると思う。

 かくして音楽はタダになり、レコード業界は、最高益を出した2000年から僅
か十数年で、その半分の規模にまで落ち込み、もはや転職エージェントが「と
てもお勧めできない」業界になってしまった。

 海賊行為がある程度音楽の売り上げを下げたのも事実だろう。タダで手に入
るものに、人はお金を払わない。
 しかし、それを言うなら、ぼくが子供の頃には、ラジオでかかる音楽をカセ
ットテープに録音する「エアチェック」が盛んで、そのための情報誌もあった。
 NHK FMでは確か日曜の午後の番組で、アルバム1枚をまるごと放送していた。
アナウンサーが全曲のタイトルを紹介し、「では、どうぞ」と言うと、一切し
ゃべりも被せず、途中からフェイドアウトもせず、完全な形で放送するのだ。
その「では、どうぞ」を待ち構えて、カセットデッキの録音ボタンを素早く押
す時の、ドキドキする感じは今でも覚えている。

 MTVの時代になって音楽が映像化されると、後を追うように家庭用ビデオレ
コーダーが登場して、ここでもタダで音楽が手に入るようになった。
 いや、既にアメリカでラジオ放送が始まった20世紀前半にはもう、ラジオは
音楽をタダにし、音楽業界を殺すという非難があったそうだ。

 では、これまでの「音楽の危機」と、現在の危機の違いは、どこにあるのか。

 ひとつは、曲数という意味での規模だろう。もはやない曲はないのではない
か、と思われるほどの。Youtubeのアーカイヴ力は、やはり昔とは比べ物にな
らない。
 また、アナログ時代には、複製の度にある程度は必ず劣化した音質や画質が、
デジタル技術の進歩によって、オリジナルとの差を消失させたことも大きい。

 しかしそれよりも、われわれ音楽ファンにとっての、音楽の意味の変容こそ
が、より深刻なのではないか、とぼくは思う。

 例えば、いま盛んに登場してきている定額制のストリーミング・サービス。
 確かに定額とはいえ無料ではない。その分まし、という考え方もあるだろう。
しかし、ストリーミング・サービスは人の音楽との接し方を根本から変えるか
もしれない。
 ある特定の楽曲なりアーティストなりを「求めて聴く」ものから、その場の
状況や気分に合わせて「流す」ものに変わるからである。
 その結果、人は主体的に音楽に関わろうとはしなくなる。

 もちろん、選曲をAIに委ねることで、未知の音楽との出会いが生じ、新しい
ジャンルに耳を開かれ、より深く掘ろうとする人も現れるだろう。

 問題は、そのどちらが優勢となるかだ。

 とある調査によると、いまの小学生は生まれた時から、「コンテンツはタダ」
と認識していると言う。
 そして、Youtubeで何かを見る場合でも、自分で検索して面白いものを探す
のではなく、サイトからのリコメンドを素直に眺めているだけで、中には「も
う検索の仕方を忘れた」という子までいるようだ。

 音楽に対して人が完全に受動的になった時、一体「音楽をつくりたい」と思
う人はまだ存在しているのだろうか?
 音楽をつくる人がいなくなれば、我々はアーカイヴに埋葬された死んだ音楽
を消費するだけになってしまう。

 音楽を殺してしまうのは、われわれ一人一人の音楽ファンであるのかもしれ
ない。


スティーヴン・ウィット
関美和訳
『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』
2016年9月20日 初版印刷
2016年9月25日 初版発行
早川書房

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今月は送別会で、いろんな人たちと改めて思い出を語り、回顧モード。来月か
らは再就職に向けて、前を向こうと思います。

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
----------------------------------------------------------------------

 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・『追憶 下弦の月』(パレードブックス)
  http://books.parade.co.jp/category/genre02/978-4-434-23989-2.html

・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_024.html

・『ミスなくすばやく仕事をする技術』(秀和システム)
 http://www.shuwasystem.co.jp/products/7980html/5125.html

・『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)
 http://www.samgha-ec.com/SHOP/300870.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
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・書評アップ先の媒体予定:
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 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 今回も読みごたえのある3本が揃いました。そういえば、出版業界も「お勧
めできない業界」になって久しいような…。

 あ、このメルマガも無料でしたね…。(あ)

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