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[書評]のメルマガ vol.665

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■■ mailmagazine of book reviews       [日本最大の「秘境」 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<107>すべての「中」は、秘境である

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→89 芸術の贈り物

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第106回 英国と長崎。パラダイムの違いを考える小説

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

・ワック株式会社 営業部 武田善様より、下記の本を献本いただきました!

 渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

 ありがとうございます!

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<107>すべての「中」は、秘境である

 のちに映画化もされ、第五回“手塚治虫文化賞辞退作”でもある花輪和一
『刑務所の中』は、著者自身の「獄中記」漫画である。
 単行本が青林工藝舎から発売されたとき、そのオビには、この漫画の舞台で
ある刑務所を指して「ニッポン最後の秘境」という文字が躍っていた。
 本が刊行された2000年当時は、「なるほどな…」と思った惹句だった。

 が、この度、各務葉月『食品工場の中の人たち』(KADOKAWA/エンターブレ
イン)を読んで、刑務所のみならず、すべての「中」あるいは「現場」という
のは、たいていの人にとって「秘境」なのではないか? と思えてきた。

 『工場の中の人たち』は、著者の各務さんが、実際に食品工場…デパ地下で
店舗展開する洋菓子工場だったそうだ…で現場の作業員としてして働いた、そ
の体験を事細かなルポ漫画に仕立てて、これをコミティアなどの同人誌イベン
トで販売していたところ、出版社の目にとまり、改めて加筆、描き下ろしを加
えて一冊にまとめられたもの。

 各務さんは、おそらくは女性だと思うのだけど、その各務さんの「分身」で
ある主人公は、なぜか「市井くん」という男性。
 市井くんは、在学中に就職が決まらず、その後アルバイトでも不採用が続き、
とりあえずの「無職」脱出のために、「他人が応募しなさそう」かつ「きつく
なさそう」なアルバイトを物色した結果、洋菓子の製造工場に応募し、採用さ
れる。

 「とりあえず」のつもりで選んだ職場だったのだが、そこでのルールや価値
観は…ことに「衛生管理」と「安全」に関しての、過剰とも思える規則が事細
かに取り決められており、まるで別世界。
 実は、わしも1日単位で計5回ほどだが、某コンビニチェーンの弁当及び惣
菜を製造する工場に派遣で入ったことがあるので、読み進めるうちに、「そう
そう、そうなのよ」「あ〜〜、やっぱり」と共感する部分がとても多かったの
だった。

 市井くんが、工場に入ってまず戸惑ったのが、服装。
 上下真っ白の制服にエプロン、頭にはネット付きの帽子、足元は消毒済みの
白長靴、作業場に入ったらマスクは絶対にはずせない。
 わしが経験した工場も、これと同様だった。
 まあ、そのまま街を歩くには、ちょっと勇気のいる恰好で、市井くんは、
「この服で作業するんだよな…」と若干へこんだようですが、わしは、それ以
前にもっと「変」な制服の現場を経験してたので、割と平気だった。

 わしが経験した中では、食品工場や製粉工場の、穀物や粉のサイロを専門に
清掃する業者…そもそもそんな業種があるのも、派遣で行って初めて知ったの
だけど、そこの「制服」が凄かった。
 よくテレビのコント番組で見るボディタイツのような、真っ白の身体にぴっ
ちりした上下。足元はこれまた真っ白なズック靴で、頭にはやはりネット付き
帽子で、これも白。
 高所に昇るときには、これに白いヘルメットを被って、腰に安全帯を装着す
る。
 サイロへの梯子を昇りながら、「暗黒舞踊かよ…」と思っていたのだった。

 サイロ内部には、ロープと「ブランコ」と呼ばれる器具を使って入る。もち
ろん、わしら派遣にはそんな危険な作業は割り振られなかったが、ここでもや
はり、安全管理は徹底していて、サイロやタンクの中に入る前には、必ず測定
器を下ろして、酸素濃度を確認してから入っていた。
 現場の工場に着くと、作業に入る前に工具や器具を全てシート上に並べ、一
点ずつホワイトボードに記載して、作業終了後には再び工具と器具を並べて、
ホワイトボードと照らし合わせ、紛失や忘れ物がないか確認してから引き揚げ
ていて、これまた安全管理の一環。とにかく徹底していた。

 ここの職人さんに聞いた「一番しんどかった現場」というのは、チョコレー
ト工場のカカオのタンクだそうで、全身ドロドロになった上に、帰ってシャワ
ーを浴びた後も、全身からチョコレートの匂いが発散してたそうだ。

 某有名製粉会社の巨大な工場では、やや天井が低く、その階全体が一室とい
うだだっ広いフロアがあって、その広い室内いっぱいに、直径50センチから1
メートルほどのパイプが縦横ナナメうねうね曲がりくねって絡み合い、その内
部を穀物や粉が高速で流れる音が「ごーーーっ」「がーーーっ」「ずざざざ〜
〜〜っ」と空気を震わせながら轟きわたっていて、なんだか、巨大な生物の内
臓を見ているようだった。

 この工場の内部も、かなり広いうえにどの階のどの部屋も同じような景色で、
何度か迷ったのだが、「市井くん」もまた、勤め始めた当初は、工場内でよく
迷ったみたいだ。
 わしが経験したコンビニの総菜工場でも、それぞれ一日だけの勤務だったこ
ともあり、休憩に出たのち、元の作業場がどこだかわからなくなって焦る…と
いうことが、一再ならずあった。

 「市井くん」も当初は戸惑ったようだが、作業場へ入室する際の「手洗い」
「消毒」「粘着クリーナー(コロコロ)」「エアシャワー室」という手順も、食
品工場に独特だ。
 「市井くん」の工場では、エアシャワー室では「体を4回転」というルール
もあったようだが、わしが経験したところでは、そこまでの取り決めはなかっ
た。

 「トイレ」もまた、食品工場では厳密に管理されていて、トイレに入る際に
は、「前室」でまず長靴を脱ぎ、専用の履物に履き替えるのは当然なのだが、
用を足し、手を洗っていざ出ようとすると、ドアが開かない。
 押しても引いてもびくともしなくて焦る間に、トイレのドアを内部から開け
る際には、備え付けの消毒スプレーを手に噴霧してからでないと「開かへんか
らね」と言われていたのを、ようやく思い出した。
 消毒スプレーを作動させるのが、ロックの解除スイッチになってるのですね。
 「市井くん」の工場でも同様だったようで、どうやらこの仕様は、食品工場
ではスタンダードのようだ。

 衛生管理では、「市井くん」の工場では、毎月2度の「検便」が義務付けら
れていたようだが、わしの場合はいずれも1日限りだったので、これはなかっ
たけど、長期契約になると、やはり同じように義務付けられていたかと思う。
 わしが経験した工場では、着替えが終わって作業場に入る前、廊下の一隅に
机を構えた係員によるチェックがあった。
 服装がきちんとしているか点検された上で、手に出血を伴う怪我が無いか確
認される。
 作業では必ず手袋をするのだが、それでも、怪我をした手で作業をするのは
NGらしくて、手に傷があるのが理由で、その場から帰された人もいた、とは、
同じく派遣で入った人から聞いた。

 わしの場合、ここでいつも引っかかっていたのが「ヒゲ」だった。
 わしは、口髭と顎髭を伸ばしているのだが、これは本来なら「NG」だそう
で、毎回、「う〜〜〜ん…」と難しい顔をされながら、1日限りだから、とい
うことで「マスクは絶対に外すな」という条件付きでOKをもらっていた。

 『食品工場の中の人たち』の序文で、作者の各務さんは、

 「総菜工場勤務の方からは、「こんなになまやさしくない!」と思われるか
もしれません」

 と書いていたが、確かに、各務さん…「市井くん」が勤務した工場は、夜勤
もなく、製品が「ケーキ」ということもあるのか、かなり優し気な雰囲気だっ
たようだ。
 わしが経験した総菜工場は、24時間体制の交代制で、ことに深夜勤などの場
合、工場のあちこちから、なにやら「ぴりぴり」「ぎすぎす」という空気が流
れてきた。

 「市井くん」の工場にも、「日本語のわからない」労働者がある程度いたよ
うだが、わしが行った工場は、むしろ日本人より外国人の方が多い職場だった。
 最寄りの駅から送迎バスで工場へ行くのだが、そのバスの中からすでに、各
種の注意事項がすべて「日本語」「中国語」「ポルトガル語」併記で書かれて
いて、これは工場内でもそうだった。
 バスに乗っている人たちのほとんどは、中国語あるいはポルトガル語らしき
言葉で声高に喋っていて、日本語はどこからも聞こえてこない。

 ある時、わしが「ここに入って」と言われた弁当のラインは、主に中国人の
グループに任されていて、そのリーダーらしき人から、「あんた、中国語、わ
かるか?」と訊かれ、「いいえ…」と答えると、「ち」と小さく舌打ちされた。

 注意して見てみると、どうやらラインごとに、中国人だけ、ブラジル人だけ、
という風に割り振られていることが多いようで、その方がお互いのコミュニケ
ーション面からも、作業効率が高いんだろう。
 が、「民族間対立」もあるようで、ことに深夜の時間帯など疲れからくるイ
ライラもあるのだろう、お互いの作業の進め方をめぐって、中国人グループと
ブラジル人グループの間で、言い争いから殴り合いにまで発展することもある
…とは、やはりわしと同じ会社から派遣されていて、過去に何度もここに入っ
ている人から聞かされた。

 やはり食品関係なのだけど、神戸港内にある倉庫会社…主に輸入品および国
産の野菜や果物を扱っていたが、ここが持っていた保税倉庫の中で、中国から
輸入した生姜の「土を落とす」という作業にも、従事した。
 1000ケース以上は倉庫内に積み上げられていたと思うのだが、この生姜は食
用ではなく「種生姜」で、中国で船積みされる前に洗浄されてケースに詰めら
れたのだが、その洗浄が不十分で、「土が付いている」と、全ケースが検疫所
から差し戻された品なのだった。

 周知のとおり、「土」を国外から持ち込むのは、量の多少にかかわらず防疫
法により絶対的NGで、なので、法的にはそこはまだ「国内」ではない保税倉
庫内で作業する必要があったのだった。
 しかし、保税倉庫内とは言え、この生姜にこびりついた土を水で洗い流して
しまうと、その土は下水から国内に「不法侵入」することとなり、できない。

 で、どうしたかと言うと、5台ほど並べた作業台にクダンの生姜を、段ボー
ルのケースからどさっと広げて、1台の作業台あたり5〜6人が取り付いては、
ひたすら生姜の土を、手にはめた軍手で拭って落とす。
 生姜ってのはでこぼこで、あちこち出っ張ったところの隙間に土が入り込ん
でいるので、これは「ぱきっ」と折ってこする。
 ぱきりと折って擦る、折っては擦る、をひたすら繰り返す。
 食用ではない種生姜なので、小さく折っても全然問題ないのだった。

 生姜は、作業が終わったものからケースに戻していき、全部の生姜を処理し
終えると、ケースをガムテープで封印し、次のケースにかかる。
 作業台の上に落とした土は、作業に使った軍手ともどもかき集め、ビニール
袋に封入して、これも生姜とともに後日検疫所に提出する。

 わしは毎日通っていたわけではないが、人海戦術で都合5日間ほどもかかっ
て、すべてのケースを処理し終えたようだった。
 一緒に行った派遣の同僚は、一日目が終わった時点で「もう、生姜の匂いを
嗅ぐのも、イヤ…」と言っていたが、わしは、普段まず入れない保税倉庫の中
をあれこれ見られて、結構面白かった。

 この倉庫会社では、こちらは国産だったが、玉ねぎを、ひたすら3個ずつの
ネット詰めにしては段ボールに詰めていく…という作業もやったが、これは、
かなりきつかったです、はい。
 3個入りネットが…あれはいくつくらい入っていたのか、とにかく入るだけ
詰め込んだ段ボールは、かなり重くてパレットに摘むのも一苦労だし、しかも
その量が半端ないんだ……
 特大の段ボールに箱詰めされた玉ねぎは、パレット20台以上だったと思うの
だけど、某大手スーパーに納品されたそうだ。

 倉庫会社では、段ボールの大きさと形状から、一番適切なパレットへの積み
方を、一目見ただけで「ぱぱっ」と決めていく社員の人たちを、「プロやなあ
…」と眺めていたのだが、いずれの職場でも、その職場独自の「プロの技」と
いうのがあって、派遣のおかげでいろいろな職種でそれぞれの「技」を垣間見
ることができて、いちいち感心もしたのだった。

 前回に言及した曽根富美子の『レジより愛をこめて』しかり、また『いちえ
ふ』しかり、そして各務葉月さんもまた、そんな「技」に新鮮な驚きを感じた
のが、それを漫画化しようとするきっかけになっているのだと思う。

 我々が、普段何気なく使ったり食ったりしている量産品は、その裏側で過剰
とも思える厳密な衛生管理と安全管理のもとに製造されていて、それこそが、
いわゆる「ニッポンのモノ造り」を支える原点なんじゃないか、とも思えてき
た。
 大量生産の、その製造現場というのは、日本最大の「秘境」であるのは、間
違いない。
 その「現場」をルポするお仕事漫画、これはもっといろんな業種のそれを、
読んでみたいぞ。

 ちなみに、わしが経験した「現場」では、宇宙ロケットや原子力発電プラン
トも製造している財閥系造船所での経験も、なかなかに興味深かったのだが、
こちらはまた別の機会に語らせていただきたい、と思う次第であります。


太郎吉野(たろう・よしの)
 2011年に神戸から西宮へ引っ越して、ただ今のホームグラウンドは甲子園。
右投げ右打ち。掛布二軍監督はひとつ年上の同級生。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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89 芸術の贈り物

 『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』
  エイミー・・ノヴェスキー 文 イザベル・アルスノー 絵
  河野万里子 訳 西村書店

 イラストレーター、イザベル・アルスノーの作品をひとめみたときから、こ
れは追いかけて読みたい絵本作家だと注目してきました。グラフィック・ノベ
ル『ジェーンとキツネとわたし』も2015年にメルマガで紹介しています。

 今回の絵本は彫刻家ルイーズ・ブルジョワの生涯を描いたもので、エイミー
・ノヴェスキーが文章を書いています。

 芸術家の評伝と絵本はとても相性がよく、ルイーズの芸術の本質が別のアー
ティストによって違う色彩で輝き、印象づけられます。

 母親はタペストリーの修復を仕事としており、ルイーズは12歳になると、母
親の仕事をおぼえはじめ、修復の線や下絵を描くようになります。修復が必要
なタペストリーのすその部分だったので、必然的にすその部分――人の足を描
くのが上手になったそうです。

 母と一緒に修復の作業をしたことは、ルイーズの原点となり、大学では数学
を専攻したにもかかわらず、母親が亡くなったあとは、修復する――つなぎあ
わせ、完全なかたちにもどす――ことを仕事にしていきます。

 しかし、母の死はルイーズの未来を変えました。

 絵を描き、織物を織っても、母に会いたい気持ちはおさまらず、
 彫刻でそれはそれは大きなクモをつくるようになります。
 ブロンズや鉄など様々な素材でクモをつくり、題を「ママン(おかあさん)」
とつけました。

 32歳のときにタペストリーの個展をひらき、6年後に初の彫刻作品を発表。
71歳のときに、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で開催した回顧展でとう
とう世界的に認められたのです。

 ルイーズは子ども時代の思い出が、創作におけるインスピレーションの源と
語っており、なぜ「クモ」を題材にしているかも絵本で紹介されています。

 アートを強く感じる本書は子どもにも大人にも刺激を受ける一冊としておす
すめです。


 『せん』
  スージー・リー 岩波書店

 そぎ落とされたシンプルな線で描かれた絵本。
 スージー・リーは、デッサンの線から豊かな物語を絵で語りかける作家です。

 赤い帽子をかぶった少女はスケートでリンクに美しい線をつけていきます。

 見開きの白いページで少女はすべるのですが、あら、スケートリンクだと思
っていたのは紙??と疑問符がよぎる、少しトリッキーな展開のあとは「せん」
のもたらす妙味に唸らされるのです。

 サイレントムービーのように言葉なく「せん」のみで描く少女のスケート世
界の豊かさに、みているだけで満足感がこみあげます。


 最後にご紹介するのは、うれしい復刊絵本。

 『オレゴンの旅』
  ラスカル 文 ルイ・ジョス 絵 山田兼士 訳 らんか社

 セーラー出版で刊行されていた『オレゴンの旅』が復刊です。
 (ご存知と思いますが、らんか社は2013年にセーラー出版から名前が変更に
なった版元です)

 星のサーカス団でデュークはオレゴンという名のクマと友だちになります。
 オレゴンはデュークに大きな森に連れていってほしいとお願いします。

 デュークはクマのオレゴンが口をきけることに驚くものの、願いをかなえる
べく、ふたりでサーカス団を離れることに同意します。

 デュークはピエロでした。そしてピエロの恰好のまま、オレゴンと旅をしま
す。

 ヒッチハイクをしたとき、運転手のスパイクはデュークになぜ赤いハナつけ
おしろいをぬっているのかたずねます。


 「顔にくっついてとれないんだ。小人(こびと)やってるのも楽じゃないん
だよ…」 
 「じゃあね、世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい?」


 どのページもタブローのような完成度で、
 少しもの悲しさをただよわせる旅の空気感がリアルです。

 オレゴンとの約束を果たしたあとのデュークがとてもかっこいいので、見て
ほしい。

 10代の本棚におすすめしたいとらんか社さんからのメッセージなので、我が
家の高校生の娘っこと一緒に読んだところ、

 「かっこいいー!」

 オレゴンの旅の絵本が放つメッセージをひとりの高校生には伝わったようで
す。


(林さかな)
会津若松在住
http://1day1book.strikingly.com/

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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第106回 英国と長崎。パラダイムの違いを考える小説

 昨年のノーベル賞作家の本を読む。カズオ・イシグロ。彼の本は何年か前に
小欄で『私を離さないで』を取り上げた。今回は彼の長編処女作。
 読んでいる最中、どう読んでいいのか、わからなかったし、読み終わった今、
どう読んだのか、これまたよくわからない。不思議な作品だった。

『遠い山なみの光』(カズオ・イシグロ 著)(早川書房)
(ハヤカワepi文庫)(2001年9月15日 文庫初版)
(2015年12月25日 九刷)
  (『A PALE VIEW OF HILLS』(Kazuo Ishiguro)(1982))

 原爆投下と敗戦の傷も癒えぬ戦後の長崎と豊かで静かな現代の英国の田園地
帯を行ったり来たりして物語が進行している。

 常に一人称で語られており、その一人称の悦子さんは戦後の長崎で生活して
る悦子さんであり、現代の英国に住んでいるエツコさんであり、同じ人物であ
ることが、読んでいてもどうしてもつながらないのだ。

 それは、あまりにも環境が違い過ぎているからなのだが、長崎で日本人とし
て生きている身重の悦子さんと英国の田園地帯で子どもも成長している英国籍
になっているであろうエツコさんが重ならない。

 一人称で語る物語なので、なぜ長崎にいた日本人の悦子さんが年を経て英国
で英国人として生きているのか、わからない。周辺情報がすくない。

 長崎での悦子さんには日本人の緒方二郎という夫がいる。しかし英国でのエ
ツコさんには夫がいる様子はない。おそらくエツコさんの夫は英国人であり、
死別か離別しているのだろう。

 むろん長崎の悦子さんも二郎と死別か離別した後、英国人と結婚し、その間
に生まれたハーフの女の子、ニキ。英国サイドで登場するのは、エツコとニキ
だけ。

 そして、ニキの上にもうひとり娘がいて、彼女の名前が景子。日本人。

 ということは、景子は緒方二郎との間の子であり、長崎サイドでは悦子さん
のお腹の中にいた子、ということになる。

 しかも驚くべきことに景子は、英国で引きこもりから自殺してしまった。ニ
キは景子の妹。ニキが景子のことをどう思っているかは、注意深く読まないと
わからない。姉として肉親の情愛は感じているだろうが、なにか他人行儀なと
ころがある。

 それは母親のエツコさんにも云えるのだ。娘の死、しかも自死した娘に対し
てエツコさんは冷静すぎる。

 英国のエツコさんは物事の見方が斜めであり、ニヒリズム的なのだ。

 長崎の悦子さんは、本当に日本の女性を感じさせる。一歩下がり夫と義父を
立てる日本の女性。

 長崎サイドでは、悦子さんの傍らにふたりの女性が登場する。佐和子と万里
子。佐和子は母であり、万里子は娘。この母娘が不思議な母娘であり、万里子
の父親は誰なのかは語られていない。戦後の日本だから、夫は戦死しているか
もしれない。

 いずれにしても英国のエツコさんと同様に佐和子は夫と死別か離別かしてい
て夫がいない。叔父の家で居候するか、アメリカ人のボーイフレンドと一緒に
アメリカに行くか、迷っている佐和子は悦子さんに比べるとよほど行動的では
あるし、戦後の一時期の日本女性のひとつの典型であろう。誤解を恐れずに書
いてしまえば、佐和子はパン助なのである。

 本書を読み進めて、最終盤にかかる頃、たぶん読者は誰でもこう思うだろう。

 もしかしたら、長崎の佐和子は英国のエツコであり、自死した景子は、万里
子なのではなかろうか、と。

 そう考えるとすべての辻褄が合う。英国のニヒルなエツコは、長崎の佐和子
のものだし、精神的に不安定な万里子は、物語の中で最後まで、外国に行きた
くない、と云っていた。そして孤独な景子は英国で自殺した。

 そうなると、悦子さんは誰なのか? エツコさんの創作なのか、それともエ
ツコさんこそが佐和子による創作なのか。なにがなんだかわからなくなる。

 しかし、あくまでもエツコさんは悦子さんだったわけで、佐和子とは別人と
して物語は終わるのだ。

 戦争と敗戦で、日本の中で価値観が変わった。きのうの価値はきょうの無価
値になる。まして、原子爆弾で何もかもすっかりなくなってしまった長崎では、
過去のものは何もかもなくなってしまった。1945年に日本は大きなパラダイム
の変換が行われた。それが本書の主題なのだろうと思う。

 英国籍を取得した長崎生まれの著者は、ニキなのか、それとも景子なのか。
自分の意志で英国に渡ったわけではない、カズオ少年は英国に行った当初、ど
んなにか心細かったことか。負け戦の日本、しかも原爆で丸裸になってしまっ
た長崎の記憶を胸に幼いカズオ少年は何を思っていたのだろう。そしてどうい
う気持ちでこの物語を紡いだのだろう。

 ますますカズオ・イシグロという作家に興味が湧いてくる一冊だった。


多呂さ(日曜日から九州場所が始まりますね。モンゴルの二横綱が休場する今
場所では、稀勢の里はどんな成績でしょうか? 優勝は誰になるでしょうか? 
もしかして栃ノ心かな? いずれにしても興味が尽きない納めの場所になりま
すね。)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
----------------------------------------------------------------------

 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

----------------------------------------------------------------------

 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 ここのところ一日の寒暖差が大きいですね。乾燥も気になる年頃です。(あ)

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