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[書評]のメルマガ vol.682

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■■ [書評]のメルマガ                2019.08.10.発行
■■                              vol.682
■■ mailmagazine of book reviews    [振り返るには生々しすぎる 号]
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■コンテンツ
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★トピックス
→トピックス募集中です。

★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<115>ウランバーナの八月

★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→97 せかいに広がる楽しいこと

★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第115回 平成という時代、この30年間のこと

★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/SHOW−Z
→今回はお休みです

★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<115>ウランバーナの八月

 小池一夫氏の訃報を知ったのは、今年四月に骨折で入院して早々だった。
 享年83。人づてに入院中とは聞いてはいたが、「まさか」と思ったのは、も
っと長生きする人だと思っていたから。
 少なくとも、水木しげると同じくらいには長生きする人だ、と勝手に決めつ
けてもいた。

 1979年、23歳でわしは、小池一夫氏が社長を務める(株)スタジオ・シップに
入社した。
 その辺の経緯は、昔「何の雑誌」に、「就職先は冥府魔道」と題して書いた
こともある。

 漫画が好きで、大学を卒業して就職先を探すに際して、漠然と漫画に携わる
仕事がしたいと思い、出版社の試験をあちこち受けるも、全て落とされて…っ
て、当たり前ですね、「漠然と」「なんとなく」そんな仕事がしたい、と思っ
てるような人間、要りませんね。
 わしが採用担当でも、落とします。

 そんなわしを、出版部門も持っていたスタジオ・シップは拾ってくれたのだ
が、面接の席で「いつから来られる?」と訊かれて、「あ、もう今日からでも!」
と勢いよく答えたら、「じゃ、とりあえず、そこでうちの本読んで、どんなの
作ってるか見といて」と先輩社員に言われたとおり、応接室にこもって壁いっ
ぱいの本棚に並べられた小池一夫作品を、片っ端から読んだ…のだけど、それ
っきりで、誰もやってこない。

 時計を気にしながら、言われた通りに本を読んでたのだが、午前1時頃、ド
アが開いて、「あ? まだ居たんだ? ごめん、ごめん、もう帰っていいよ」
 と言われても、もう電車も動いていない。
 「あ、だったら、仮眠室があるから」と言われて、入社初日からわしは、会
社に泊まりこんだのだった。

 それから1987年の暮れまで、当初は「マネージャー課」で後に「秘書課」と
名称が変更された部署で、「オメーは、ホントに使えねー奴だな」と言われな
がら、小池氏の秘書…的な仕事を主に務めてきた。
 仕事は、「社長」こと小池氏の身の回りの世話から担当編集との連絡、原稿
の受け渡し等々で、マネージャー課、後の秘書課には、常時5〜6人がいたの
だけど、入れ替わりもかなり激しかった。

 入社した1979年から1980年代半ばにかけては、小池氏の仕事量もピークの時
代で、連載も、週刊誌に常時5〜6本、隔週誌・月二誌にも6〜7本、その他
月刊誌などをあわせると、連載本数は20本を軽く超えていた。
 この連載本数をこなすため、小池社長はたいていホテルに籠りきりで、1週
間、月曜から日曜日まで、休みなくほぼ毎日、1日あたり「2本」の原作原稿
をあげていかなければ追いつかない、というスケジュールが常態だった。

 おおむね、午後に1本、夜から深夜にかけて1本、というルーティンで、原
稿があがる目途が立つと、「来といてくれ」という電話があり、ロビーで待機。
その後、「出来た」という電話が会社にあると、会社からロビーに待機する班
(たいていは二人組だった)に、ホテルのフロント通して部屋に上がるよう伝
言してもらう。
 携帯電話のない時代、連絡はかようにややこしかった。
 待機班は、連絡受けるとすぐさま部屋に走り、出来上がった原稿を受け取り、
「素材」と呼んでいた、前回までのゲラを綴じたものや「キャラクター帳」と
いう、ページごとにその作品の主人公以下、登場人物の顔を貼りつけて、その
特徴や人称を描きこんだノート、その他資料類を、次にかかる作品のものに入
れ換える。

 さらに、社長と接触できるのは、1日の内にこの機会だけなので、会社から
持ってきた決裁書類や郵便物などを手渡す。
 わしらが一番緊張したのがこの時で、何ごともなければ、そのまま会社へ原
稿を持ち帰り、コピーを取った上で、編集者、あるいは同じ社内の漫画家に手
渡す。
 が、ここで何らかのミス…必要な「素材」の一部がなかったり、会社から持
ってきた書類の説明がうまくできなかったり…があると、たちまち社長の逆鱗
に触れることになる。
 なにせ、1日に2本…1本あたりは16ページ〜24ページの漫画シナリオなの
で、原稿用紙で約20〜30枚を1日に2度書き上げるのだ。
 常に「ピリピリ」と神経張りつめてるし、ストレスも常に頂点にある。なの
でちょっとなにかがあると、「ぴきん」と切れてしまうのですね。

 いったん切れてしまうと、もう取集がつかなくて、ミスしたわしらを怒鳴り
散らして…あれはもう叱言というより言葉の暴力に近かった。
 で、さんざ怒鳴り散らした挙句に、「もう今日は仕事する気分でなくなった」
と言い残し、「気分転換」と称して夜の銀座方面へ出かけて行くことも、まま
あった。
 わしらは「ぷっつん」と呼んでいたが、この状態になってしまうと、もうそ
の日は絶対に原稿は上がらないので、担当編集に電話をして謝る。社内作家の
場合は、たいていは社内の仕事場で原稿を待っているので、直接出向いて謝る。
 その際には絶対に、「我々のせいで」原稿が進まなくなった、と「きちんと」
経緯を説明せねばならず、さもなければ、また再びの逆鱗となるのであった。

 普段からギリギリの状態で入稿しているので、1本が遅れると、しわ寄せは
その後のスケジュールに影響して、さらにタイトになっていく。
 漫画原作の場合は、そのシナリオを漫画家がネームに起こし、さらにそれを
原稿にする。すなわち、ネームコンテのとおりに枠線・フキダシ→下絵→ペン
入れ→仕上げ、との行程経て初めて「完成」となる。
 常にスケジュールがタイトな小池一夫作品の場合、漫画家にシナリオが渡っ
てから、多くて4日、平均するとおよそ3日間が、漫画家に残された校了まで
のリミットで、上記のような理由でこれが遅れると、時間はさらに圧迫された。

 このしわ寄せによって、漫画家に原作シナリオが渡ったのが校了前日、とい
うこともあった。
 このとき、小島剛夕さんは、16ページの原稿を、なんと24時間で仕上げてし
まったのだが、おそらくは、ネームを切った後、原稿はもう下描きなしで、い
きなりペンで絵を入れていったのだと思う。
 翌日届いた完成原稿のコピーには、きちんと背景も入っていて、「ほえ〜〜
っ!」と、ただただ驚いた。

 勤務にあたっては、課員で早番遅番のシフトを組んで、早番で終了がおよそ
夜の8時頃、遅番だとたいていは深夜0時乃至2時3時、という勤務状態で、
もちろん土日も出勤。休日はシフトの合間でおよそ週に1日。ヘタするとそれ
も吹っ飛んだ。
 今なら、完全な「ブラック企業」だわ。

 わしは、今もそうなのだが、若いころから「うっかり」や「ポカ」や忘れ物
のとても多い人間で、そのせいで小池社長を「ぷっつん」に陥らせることも、
とても多かった。
 おそらく、歴代のマネージャー、秘書の中でも、社長を怒らせ「ぷっつん」
させた回数では、ベスト5には入ると思う。
 なにせ、小池社長の訃報を聞いたときにも、思い出すことと言えば、怒られ
ているシーンばっか、だったもの。

 小池社長は、講演や付き合いなどで地方へ出張することも度々だったのだが、
連載をこなすためには、その行き先にも仕事を持って行くのは当然で、行き先
には関西が多かったのだが、「地元だから地理に明るいだろう」という理由で、
わしが同行することが多かった。
 同行、と言っても、一緒に行くわけではなく、まずは仕事の「素材」や、着
道楽の小池先生の着替え等、2泊3日ほどなのに、なぜか大型トランク3つ4
つばかりの大荷物を、まずは航空便に託してこれと同じ便に乗り、行き先の空
港で借りたレンタカーに荷物を積んでホテルに先乗りする。小池社長が到着後
すぐに仕事を始められるよう、予め部屋を設えておくのだ。

 小池社長は新幹線利用で、ホテルの部屋を設えた後に駅に迎えに出ると、た
いていの場合、その車内で既に1本原稿をあげていて、受け取ったそれをホテ
ルからファクスで送信した後は、次の原稿があがるまで自室で待機、というの
が概ねいつものパターンだった。
 わしが入社する2年前から始めていた「小池一夫劇画村塾」の、神戸校を開
塾して後は、毎月1回、その開催日を挟んで3〜4日は神戸滞在、というのが
恒例化した。

 わしは、元「ガロ」少年で、だから入社してしばらくは、ケレン味たっぷり
な大舞台で大風呂敷なストーリーを展開するエンターテインメントな作風には、
なかなか馴染むことができなかったのだけど、出張に同行することで、「劇画
村塾」でいつも強調していた「キャラクター論」の講義を、いわばマンツーマ
ンで受けることが出来た。

 「ストーリー」は、作者が作るんじゃなくてキャラクターが動いた、その軌
跡がすなわちストーリー、とか、読者は「物語」に感動するんじゃない、キャ
ラクターと一体となり、その悲しみや怒りや笑いに「同調」して初めて、キャ
ラクターとともに、泣いたり笑ったりするんだ、だから、まずは「キャラクタ
ーを起てる」ことが何より重要、などなど。
 これらの教えは、今も実践するとともに、漫画のみならず、小説や映画シナ
リオにも応用して、学生たちに伝えてもいる。

 小池社長とは、その後も縁があって、書店を閉店した後、なにか仕事はない
ですかね、と、当時教授職だった大阪芸大に訪ねて行くと、「じゃ、俺の仕事
を手伝え」と言われて、2004年から約4年間、関西駐在秘書という形で、芸大
の仕事を手伝わせてもらった。

 作家の団鬼六さんは、投機欲と事業欲の大変に旺盛な人で、生前には作家活
動のかたわら、投機や事業への投資に血道をあげていたそうだが、小池社長に
も、これと似た“山師”的な性向があった。
 そもそも、さいとうプロダクションで脚本の仕事に就く以前は、雀ゴロまが
いの生活もしていたらしいし、晩年には、事業欲と投機熱が嵩じて、周囲に軋
轢を生じさせもした、というウワサも耳にしたが、それもまた「あの先生らし
いな」と、別段驚きはなかった。

 今回は、八月、ウランバーナ(盂蘭盆会)にあたって、小池一夫氏と、昨年
に亡くなった「劇画村塾」出身の狩撫麻礼氏、さらに著者物故後の今年5月に
「遺書」とも言える『全身編集者』が発売された元「ガロ」編集者の白取千夏
雄さん、そしてその妻でやはり物故者のやまだ紫さんにも言及するつもりが、
紙数が足りなくなってしまった…ので、来月もまたウランバーナのこころ、な
のだった。

 が、それら既に亡くなった人たちに、ひと言だけ言っておきたいのは、どう
か「安らかになど眠らないでください」ということ。

 生前に物語を紡いできた人たちには、死後もまた「幽霊」となって、生きて
る人間に刺激を与え続けて欲しい、と思う。
 そしてそれが、創作者の使命であり、宿命なのだ、と思うココロなのだった。


太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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97 せかいに広がる楽しいこと

 山中湖にある喫茶店「あみん」から23年間の営業を閉じたという葉書をいた
だきました。子どもたちが小さいとき、一度だけ家族5人で遊びに行ったこと
があるのです。もう一度うかがいたかったなあ。

「あみん」の樋口範子さんは、高校卒業と同時にイスラエルに渡り、2年間キ
ブツ(集団農場)で働き、帰国後は山中湖畔にある児童養護施設の保育士、パ
ン屋を経て、喫茶店経営に。そして現在はヘブライ文学の翻訳をライフワーク
にされていると、訳者紹介にあります。

 2003年にさ・え・ら書房より刊行された『もうひとりの息子』を読み、やま
ねこ翻訳クラブのメープルストリートという新刊紹介ページで紹介しました。(※)
それがきっかけで、編集者の方から樋口さんを紹介され、会いに出かけたので
した。いま日付を確認すると、16年も前のこと。

(※)『もうひとりの息子』紹介ページ
http://www.yamaneko.org/maplestreet/p/saera/2002.htm#musuko

 さて、今年5月にその樋口さんの翻訳された絵本がこちら。

 『もりのおうちのきいちごジュース』
 ハヤ・シェンハヴ 文 タマラ・リックマン絵 徳間書店

 色鮮やかな黄色の表紙絵にいるのは、ライオンとキリン。
 真っ赤な色をした屋根の家、そこに「きちいごジュース」とかかれた木札。
 ライオンとキリンはだれが住んでいのだろうかと訪ねることにします。

 ドアベルをならし、誰なのかたずねても、「ぼくは〈きいちごジュース〉」
とこたえるばかり。そこでドアが開くまで待っていると、ぴょんと飛び出して
きたのは……。

 1970年に出版された原書はイスラエルのロングセラー。鮮やかで魅力的な色
彩は目を見張る美しさ! のびやかに描かれる動物たちはいきいきしています。

 真夏のじりじりするような暑さの中、この絵本を読みながら「あみん」で飲
んだジュースを思い出しました。
 

 次にご紹介する絵本は「いたばし国際絵本翻訳大賞」受賞作です。
 板橋区では、1994年より外国語絵本の翻訳コンテストを行っており、受賞し
た作品をきじとら出版さんが刊行されています。

 第25回いたばし国際絵本翻訳大賞(英語部門)で最優秀翻訳大賞を受賞した
翻訳作品がこちらです。

 『てつだってあげるねママ!』
      ジェーン・ゴドウィン&ダヴィーナ・ベル さく 
      フレヤ・ブラックウッド え  小八重 祥子 やく

 パパのお誕生日の準備で、ママは朝から大忙し。
 お姉ちゃんのハティもママのお手伝い。
 ところが、昼寝をしたママが起きないので、
 疲れているからママは寝ているんだろうと、そのまま起こさずに
 ハティはひとりで誕生日パーティの準備をはじめます。

 ママがパーティに必要なことを口にしていたのを思い出しながら、
 せっせと準備していくハティのはたらきのすばらしいこと!
 
 わたしの好きなシーンは、家の中をお花で飾るところ。
 花を飾るといえば、花瓶に生けることしか思いつかないのは大人の頭でしょ
うか。ハティが飾る場所のそれぞれセンスがよく感心してしまいます。
 ぜひ絵本をひらいて、みてみてください。
 
 この絵本では小さいお姉ちゃんが手伝いしてくれていますが、
 どこの家でも子どもが手伝ってくれると、うれしいものですよね。
 疲れきってソファで眠ってしまったとき、高校生の娘が受験勉強の手を休め
て洗濯物を干してくれたときはうれしかったなあ。


 最後にご紹介するのは、物語。
 夏休みのような長い休みのとき、図書室でたくさん本を貸りるのが何よりの
楽しみだったことを思い出しました。

 『貸出禁止の本をすくえ!』
      アラン・グラッツ 作 ないとうふみこ 訳 ほるぷ出版

 主人公、エイミーアンは9歳。家では小さい妹たちがうるさいので、好きな
本をゆっくり読める図書室が憩いの場所です。

 ある日、自分のお気に入り本が図書室から消えていてびっくりします。

 保護者数人が小学校の図書室にふさわしくないと判断した本に対し、教育委
員会も同意したため、その本が貸し出されなくなったのです。

 エイミー・アンは引っ込み思案で、自分の気持ちを家族にすらなかなか伝え
られないのですが、大好きな本が読めなくなることに対して、立ち上がります。

 エイミー・アンがいいたいことをいえない描写が続くので、もどかしく、い
つ言葉にしていくのだろうと、貸出禁止の本の行方以上にハラハラしました。

 本では、声に出していない心の声を知ることができるので、よけいもどかしさ
が募ります。けれど、「声に出せばいいじゃない」と簡単に思いがちなことを実
行にうつす難しさがリアルに描かれているので、エイミー・アンに気持ちが近づ
き、がんばれ!と応援したくなるのです。

 それにしても、この物語に出てくる禁止本は、過去30年間にアメリカの図書館
で少なくとも1度は実際に異議申し立てや貸出禁止措置を受けたことのある本だ
ということには驚きです。

 世の中にはさまざまな価値観の人がいるからこそ、意見の違うことについて、
自分の頭で考えて話をしていく必要性が多くあります。
 
 内気なエイミー・アンが大好きな本を守るためにとった行動は、意志を自分の
言葉で伝える強さが大事なことを教えてくれるのです。

 エイミー・アン、ありがとう。


(林さかな)
会津若松在住。「本の雑誌」新刊めったくたガイド海外文学担当。
http://1day1book.strikingly.com/
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第115回 平成という時代、この30年間のこと

 令和の時代になって3ヶ月が過ぎた。
 時間は一定に流れている。しかしその一定に流れる時間の中で、日本人は元
号というしくみを作り、それを制度として千年以上続けている。特に約150
年前の明治から、天皇陛下の代替わりに伴い、元号も改まるという制度になっ
てからは、はっきりと元号が時代を表わすことばになっていく。明治時代、大
正時代、昭和時代・・・と続き、ついに元号が令和になった途端、いよいよ平
成時代が一括りで誕生した。平成元年(1989年)〜平成31年(2019年)。この
30年間のひとつの時代は、未来においてどんな時代だったか、と総括されるの
だろうか。30年間という長さはひとつの時代としてみた場合、長いと感じる人
もいれば短いと感じる人もいるだろう。

 振り返るには近すぎる。
 また、振り返るにはまだ熱すぎる。
 さらに、振り返るには生々しすぎる。
 いずれにしても今、わたしたちはこの平成時代を生き抜いたわけだ。
 そして、早くも平成という時代を総括しようという動きが見えだした。

『街場の平成論』(内田 樹編)(晶文社)(2019年1月30日)

 編者の内田樹氏を含めて、9人の執筆者による平成時代への思いの書。登場
順に、内田樹(フランス文学者・哲学者)、平田オリザ(劇作家)、ブレイデ
ィみかこ(保育士・ライター・コラムニスト)、白井聡(思想史家・政治学者)、
平川克美(実業家・文筆家)、小田嶋隆(コラムニスト・テクニカルライター)、
仲野徹(病理学者)、釈撤宗(宗教学者・浄土真宗住職)、鷲田清一(哲学者)。
現在のこの国において、どちらかというと野党的立場の論客たちのエッセイ集
と思えばよいか。それぞれの専門分野でわかりやすく、それぞれの“平成”を
振り返っている。

 はしがきで内田樹氏は、1989年の時点で感じていた不安や期待やときめきを
思い出し、そして30年経った今の現実の世界を並べてみてほしい、と云う。30
年前の予測が劇的に外れてしまったことについて考えよう、と云う。

 そして引き続き、内田氏は自己の文章で、戦後史五段階区分説を展開し、こ
の日本という国が衰退していることを証明してみせる。アメリカと対等になれ
そうでなれなかった。アメリカから真の独立を勝ち取ろうとして負けた、と云
う。いまはもう涅槃の時になっている。もう何も語らない。日本は衰退してい
る。

 続く平田オリザ氏は、この30年間の日韓関係を解説する。両国の関係は、ま
るでジェットコースターのようだ。従軍慰安婦問題、サッカーワールドカップ
共催、韓流ブーム、靖国&竹島問題、K−POP、そして徴用工問題。この微
妙な両国の問題はどこにあるか。日本はアジア唯一の先進国の座から滑り落ち
たことを認めたがらず、韓国は先進国入りしたことにまだ慣れていない、と云
うところに帰着する、と平田氏は看過する。

 三番目のブレイディみかこ氏は、この30年間の男女の関係を“セクハラに始
まり、セクハラに終わる”と見なした。現在の日本において最も怒りを多く持
っているのは女性であろう、と云う。“ガールズパワー”は、女性が自分で道
を切り開くそのエネルギーを指すが、“女子力”となると男性に気を配る女性
の作法、になってしまう。みかこ氏はこのジェンダーギャップの差が大きい日
本で女性たちよ、もっと頑張れ、と吠えるのである。

 次の白井聡氏は、『永続敗戦論』や『国体論』の著者であり、本書でも持論
を存分に展開している。平成が始まったとともに三つの終わりがあった。1昭
和の終わり 2東西冷戦の終わり 3戦後日本の高度成長の終わり。そして時
代はポストヒストリー時代となり、人々は歴史的な方向感覚を見失った、と看
過する。また「成熟の拒否」=感情が成熟せずに単純化する、と云う。白井氏
は平成という時代を極めて学者的に見事に分析してみせる。

 さて、平川克美氏は、昭和の終わりのころ(昭和63年の秋以降)を描写し、
あの雰囲気を読者に思い起こさせる。自粛のご時勢だった。そして東日本大震
災。平川氏はこのふたつをみた後、消費者の観点から平成を見直した。市場原
理に忠実な消費者としての個人は、まったく自由がきかない。結婚年齢が30年
間で7歳も上がったことがその大きな証明となる。本当の個人へと脱皮しない
とこのほつれは解けないと平川氏は云う。

 小田嶋隆氏の論はとてもわかりやすい。インターネットという別の脳を持っ
たゆえに、みな互いに手の内を知ってしまった。そして人との違いを何に求め
るかと云えば、偏見と独断こそが武器になる、と云う。さらにSNSにより、
人は自分が何をしたいのか、何を欲しているのか、という問いよりも、人にど
う見られているか、どう見られたいか、人は自分に何を期待しているか、を真
っ先に考えるようになってしまった、と云う。群れの中でしか生きられない。
小田嶋氏は人のいわし化が始まった、と総括した。

 病理学者の仲野徹氏は、この30年間の生命科学の進歩を総括する。人のゲノ
ムが予想以上に早く解析された。ヒトゲノムは解析され、遺伝子改変は容易に
できるようになり、核移植クローンは霊長類でも成功してしまった。生命科学
の分野ではこの30年間に進歩しかなかった。しかし、まもなく、生命科学も他
の分野と同じく進歩が止まることになるに違いない、と仲野氏は予言する。

 釈撤宗氏は宗教についての30年間を振り返る。云うまでもなくオウム真理教
とイスラムの波が二大事件であった。「排他主義」がキーワードになろうか。
そこに暴力が存在するのである。そして宗教の問題はそれによって、まったく
他人事ではなく、無関係でも傍観者ではいられなくなる。そこに難しさがある。
伝統宗教は何千年かという時間を掛けて鍛錬に鍛錬を重ねてきた。その伝統宗
教はこの事態に対して何かをなさなければならないだろうと釈氏は結ぶ。

 最後に哲学者の鷲田清一氏は、この30年でふつうの人の所在が不明になった、
と云う。ひとつの行動規範、「常識=コモンセンス」がなくなり、当たり前が
そうでなくなる。そういう当たり前のことをしていたふつうの人がいなくなっ
たのだ。やはりここは人に頑張ってもらい、自分で考えないといけないだろう。

 総じて、平成の30年間で人は皆、考えなくなった。わかりやすい方、耳に心
地のよい方を簡単に選び、調べることはインターネットに任せてきた。それが
進化なのか、どうかは執筆子にはわからないが、それが進化ならそんな進化は
お断りだ。

 そして本書を読んで、感じたことはタフな頭でタフに考えないと令和の御代
は乗り切れない、ということだ。滅びるか生き延びるかは、まさに考えるか考
えないか、それにかかっている。


多呂さ(連日の猛暑、酷暑、炎暑。ご自愛ください)
 ブログ→ http://d.hatena.ne.jp/taro3643/

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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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 この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。

・渋谷昌三 著『人を傷つける話し方、 人に喜ばれる話し方』(WAC)
 http://web-wac.co.jp/book/bunko/280

・『ヒューマン ― 私たち人類の壮大な物語』(発売:紀伊國屋書店)
 http://www.human.ac.jp/cm/president.html#book3

・『たまご社長が教える運をつくる仕事術』(三楽舎)
 http://www.sanrakusha.jp/archives/1510

・『支え合い・学び合いで育つ「わたし」』(エディット・パルク)
  http://web.kyoto-inet.or.jp/people/cogito/%8Fo%94%C5%88%C4%93%E0/%8Ex%82%A6%8D%87%82%A2%81E%8Aw%82%D1%8D%87%82%A2.html

 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:

 をご記入の上、下記までメールください。

 表題【読者書評参加希望】
 info@shohyoumaga.net

 皆さんのご応募、お待ちしております。

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 このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。

1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
 まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
 い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)

 〒142-0041 東京都品川区戸越5-4-3 アズ品川ビル4階
       ビズナレッジ株式会社内 [書評]のメルマガ 献本 係

2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
 先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
 執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)

3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
 本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
 には、60日後に古本屋に売却します。)

4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
 せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
 書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
 は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
 す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
 ました。書評は500字以上でお願い致します。)

5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
 掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
 ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。

6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
 せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 発行が遅れました。まさにお盆まっさい中ですね。
 
 台風も心配ですね。(あ)

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