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★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<169>トンカちゃんのこと
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→150 伝えること
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<169>トンカちゃんのこと
“トンカちゃん”が、去年の五月に亡くなっていた、と知ったのは、この二
月半ばだった。
久しぶりに神戸で時間が取れそうだったので、これまでまだ未訪問だった新
しいお店へ、寄ってみようかな、とネットで場所を再確認するつもりで検索し
て、その逝去を知った。
享年44。あまりに早い。早すぎる。その事実を知ってしばらくは、呆然とな
った。
トンカちゃんとは、神戸・元町の裏通りにある古書店「森花書林」の店主
(だった)森本恵さんのこと。
彼女を知ったのは、今の場所に店名変更して移転する以前、元町山手のトア
ウェストにあった「トンカ書店」時代だった。
もう20年ほど前だ。当時仕事場を借りていた山手からほど近いトアウェスト
に、ある日「ザックバランな古本屋 トンカ書店」との看板を見つけた。
なんだ? と、ビルの二階のその店へ入ってみたところが、本やら雑誌やら
雑貨やらを雑然と並べた店内のカウンターに座って、にこにこと微笑んでいた
のが彼女だった。
店は、まさしく「ザックバラン」を体現するかの如く、ジャンルも何も関係
なく、本に雑誌に雑貨モロモロが、所狭しと積み上げられ、片隅には、当時ま
だ製造が細々と継続されていた、神戸ローカル飲料「ネーポン」を飲ませるコ
ーナーもあった。
ネーポンの製造所は兵庫にあって、高齢のおばちゃんが一人で製造を続けて
いたそこまで、週に一度、自転車で仕入れに行く、と言っていた。
ネーポンのコーナーの傍ら、ソファが据えられた一角は、小さなギャラリー
スペースになっていて、その時は、写真家の永田収さんの写真が何枚か掲げら
れていた。
「トンカ書店」との店名がとても珍しかったので、「どういう意味?」と訊
いたら、「わたしの名前です」と笑って答えてくれた。
当時はまだ結婚前で、「頓花恵」さんなのだった。
商品である本も雑貨も、基本、お客からの買い取りで賄っていたらしいが、
古本修業は、学生時代の元町「ちんき堂」での店番だった、というだけあって、
昭和というか、70年代テイストがあちこちに感じられる店内だった。
そんな店内はとても魅力的で、それ以後、近くを通るたびに寄るようになっ
た。
積み上げてある本や雑誌の中から、思わぬ「お宝」が出てくることもままあ
った。
今、手元にあるものでは、昭和39年発行の「なかよし別冊・リボンの騎士」
や、同じく昭和39年の「カッパ・コミクス 鉄腕アトム」、「少年マガジン」
の1970年2月1日号
、「ヤングコミック」1973年3月14日号、等々は、この当時にトンカ書店で手
に入れたものだ。
それ以外にも、特に漫画やサブカル系では、「元・ガロ少年」の琴線に触れ
るブツが、よく見つかる店でもあった。
そんな店の店主だったトンカちゃんは、当時はまだ二十代だったが、笑顔が
素敵なとても気立てのいい子で、お客の、ことに「昭和」なおっさん達にはフ
ァンが多くて、自分もその一人だった。
2冊しかない自分の著書も、「置きますよ」と気軽に委託扱いで置いてくれ
て、定価で販売してくれた売上金を律儀に封筒に入れ、店に行くたび渡してく
れた。
トアウェストのトンカ書店は、2017年だったかに、入っていたビルが老朽化
のため建て替えとなり、今の元町裏路地に移転した。
当時すでに結婚して名字も変わっていたので、新規に「花森書林」として再
オープンしたそこへは、いつか行こうと思いながら、なかなか時間が合わず、
行けずにいた。
そして今年2月の某日、所用で神戸に行く用事ができて、時間が取れそうだ
から「寄ってみるかな」と、店の場所を再確認するためにネットで調べたとこ
ろが、そこで彼女の逝去を知ったのだった。
花森書林は、トンカちゃんの生前から手伝っていた弟さんが店を引き継ぎ、
現在も営業を続けている。
2月某日、訪れてお悔やみを述べてきた。
彼女の存命中に新しい店に行けなかったのが、返す返すも残念だったのだが、
弟さんによると、病気のことは誰にも告げず、死の、かなり間際まで店に立ち
続けていたらしい。
お店の様子は、以前の「トンカ書店」そのままだった。
そして弟さんもまた、生前の彼女と同じように、肩ひじ張らずに無理もせず、
ごく自然体でもって、店をやっておられるようにお見受けした。
神戸は、東京・神田に次いで、古本屋の密集度の高い街だ、とは、1970年代
の野坂昭如のエッセイにあった一節だ。
しかし、かつては三宮・元町近辺のそこここにあった古本屋は、次々と廃業
し、三宮に限って言えば、今や古書店は「1軒きり」という状態だ。
しかし、この「花森書林」のような「ニューウェーブ系」の古本屋もまた、
ぽつぽつと出現してきている。
花森書林には是非ともに、肩ひじ張らない遊び精神でもって、トンカちゃん
の「ザックバラン」な精神を引き継いでいってもらいたい、との思いを強くし
ながら、小雨の元町を後にしたのだった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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150 伝えること
今年の冬はことのほか雪が少なかったので、少し降るだけでも冬はまだ存在
すると安心してしまうほどでした。私の住んでいるところでは、2月より3月
の方が雪が降っていると感じるほど、ここ最近は冬らしい天気が続いています。
とはいえ、復旧途中の場所では寒さはこたえます。能登の復旧がすこしでも
すみやかにすすみますように。
さて、先日オンラインでおもしろいトークイベント『科学を伝える絵本の舞
台裏』に参加しました。
「科学」「絵本」と、気になるワードが2つも入っているのですから、そそら
れます。オンラインでも参加できたのはうれしいことで、コロナによってオン
ラインがかなりすすんだおかげです。
イベント主催は、科博SCAのワーキンググループ。
科博SCAとは、国立科学博物館サイエンスコミュニケータ・アソシエーション
のこと。国立科学博物館サイエンスコミュニケータ養成実践講座の修了者有志
によって構成されています。同講座の「人々に知を伝え、人々の知をつなぎ、知
を社会に還元する」を共通の理念とし、修了生の実践活動をサポートすることを
目的に結成された会と、HPに紹介されていました。国立科学博物館とは独立
した団体です。
https://kahakusca.edoblog.net/aboutus
福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を3人の子どもたちが小さいときか
ら読んでいて、いまも私は読み続けているわけですが、それは書かれている内容
が大人でも興味深く、おもしろいからです。
今回のトークイベントでも、「たくさんのふしぎ」の著者、編集者も参加され
ているとあったので、よけいに聞きたかったのです。
最初の登壇者は、農学博士のイラストレーター、きのしたちひろさん。
「たくさんのふしぎ」では『なぜ君たちはグルグル回るのか、海の動物たちの謎』
のイラストを担当されています。
自身が子どものときから生き物、特に海の生き物が好きで、博士にまでなった
きのしたさん。イラストは、海の生き物たちのことを伝えるすぐれたツールだと
いうお話をされていました。
研究者ということで、あれこれ伝えたいことをもりこみすぎてしまうところを
編集者の客観的な指摘で整理されながら、『なぜ君たちはグルグル回るのか、〜』
が完成されていった話とともに、指摘前、指摘後の絵を実際にみせてくださり、
興味深く見入りました。
次の登壇者は鈴木俊貴さん。動物言語学、とくにシジュウカラ科の鳥類の鳴き
声の意味や文法構造を研究され、絵本『にんじゃ シジュウカラのすけ』(世界
文化社)を監修されています。
実際のシジュウカラの鳴き声を聞かせていただき、その文法を解説いただい
たのですが、本当に鳴き声が伝えたいことによって変わっていて、驚きました。
研究をもとに、絵本がつくられていて、ぜひ読まねばと思っています。
最後の登壇者は福音館書店で「たくさんのふしぎ」を編集されている、北森芳
徳さん。きのしたさんの『なぜ君たちはグルグル回るのか〜』も編集されたそう
です。著者らとともに、様々な場所で一緒にいろいろ考えてつくられていくこと
をお話しくださり、なかでも印象に残っている作品として『うんこ虫を追え』
(舘野鴻)をあげられていました。本書は5月に、たくさんのふしぎ傑作集の一
冊として単行本で刊行されるようです。
それぞれのお話の後、質問コーナーもあり、どんな子ども時代だったのかとい
う質問では、みなさん、ちょっと変わっていた、好きなことにとことん集中する
タイプだったそうなので、好きを追求していまの仕事をされているのだなと、過
去と現在がつながっていることが素直にすごいと思いました。
編集の北森さんが、「たくさんのふしぎ」では写真絵本も多いのですが、写真
はやはり現地に行かれてのものなのでとても力があると仰っていて、実は私も購
入するものは、写真ものが多かったのですが、今回きのしたさんのお話や絵を拝
見して、さっそく取り寄せてみました。イラストだからこそ、細部まで紹介でき
ることもあると仰っていたきのしたさんの言葉は、絵をみるととても納得でした。
続けてご紹介するのは、一般書ではありますが、鳥好きの方なら高校生くらい
からでも楽しめる本です。
『鳥が人類を変えた 世界の歴史をつくった10種類』
スティーブン・モス 宇丹貴代実 訳 河出書房新社
世界を変えた10の鳥として、
ワタリガラス、ハト、シチメンチョウ、ドードー、ダーウィンフィンチ類、
グアナイウ、ユキコサギ、ハクトウワシ、スズメ、コウテイペンギンがとりあ
げられ、人間と鳥の関係において、世界の歴史をつくっていったことが紹介され
ています。
驚きます。
特にグアナイウの糞を肥料として利用するために農業手法が劇的に変わり、す
さまじい影響をもたらせたことに、読んでいて思わず「え!」と声が出たほどで
す。
個人的に鳥の糞といえば、上からぺちゃっと落ちてきて、車を汚すというくら
いのイメージだったのが、グアナイウの糞は、国家レベルであり、もたらす富と
ともに、採掘した中国人労働者の悲惨さには言葉がみつからないほどです。
まさにタイトル通りの世界の歴史をつくった鳥たち。
最後を締めるコウテイペンギンではきびしい環境危機が伝えられます。
読んで終わりではなく、歴史を知りこれからどう行動していくことが未来につ
ながるのかを考え続ける本です。
ノンフィクションが続いたので、物語もご紹介。
『ナイチンゲールが歌ってる』
ルーマー・ゴッデン 作 脇 明子 訳 網中いづる 絵
岩波少年文庫
以前、偕成社から『トウシューズ』(渡辺 南都子 訳)というタイトルで刊
行されていたものの、新訳です。
ゴッデン自身もバレエの経験があり、バレエ教室も開いていたので、その経
験も下敷きになっているのでしょう。
ひとりの才能ある少女ロッティの成長物語を起伏たっぷりに描きます。
寄宿制の王立バレエ学校に入ることが決まってから、かわいらしい子犬と出
会うロッティ。しかし、その子犬と出会ったきっかけは、人に話せるものでは
ありません。プリンスと名づけたその子犬は、ロッティに光と影を与えます。
バレエ学校での切磋琢磨の日々、一緒に学校に入ったアイリーンとの関係、
同じくバレエ・ダンサーを目指すサルヴァトーレとの出会い。
小さなハプニングあり、大きな事件もあり、ゴッデンの緻密なストーリー展
開にひきこまれました。
子どものときの欲しいものを手に入れたい執着心も思い出しました。
欲しい、でも手に入れることはふつうだったら難しい。
じゃあ、どうすれば手に入れられるのか。
それはたいてい、よくない方法になってしまう。
ゴッデンはそういう強い気持ちを丁寧に描いています。
網中いづるさんの挿絵もどれもすてきでした。
(林さかな)
https://1day1book.mmm.page/main
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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確定申告終わりました。しかし毎年毎年、ぎりぎりに大変な思いをしていて、
とはいえ、ちゃんとお金の管理をしようと思うのはこの時期だけですね。困っ
たもんです。(あ)
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★「トピックス」
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #165『モーツァルト』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『悩みのるつぼ〜朝日新聞社の人生相談より〜』岡田斗司夫、FREEex
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→ 『紫式部ひとり語り』(山本淳子・著/角川ソフィア文庫)
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#165『モーツァルト』
音楽をやる喜び。
それは、音楽を聴く喜びとは異なるであろう。
いい演奏、素晴らしい歌唱を味わうなら、優れたプロのパフォーマンスを聴く
に若くはない。ましていまはスマホで気軽に音楽が楽しめる時代だ。
にもかかわらず、敢えて拙いとわかっていながら自分で演奏を試みるのは、そ
こに別種の喜びがあるからだ。
例えば、人と一緒に演奏する時、それぞれが持つ固有のリズム感、固有の音程
が次第に合っていく。その一体感。それは喜びである。
そんな喜びのために、私もバンド仲間とライブをやろうと計画しており、それ
は学生時代から一緒にやっているビートルズ・バンドなのだが、しかし、幼い
頃を思い起こせば音楽は初めから楽しいものではまったくなかった。
それは、学校の授業という、採点される場でしか音楽をする機会がなかったか
らだろう。が、それにしても高校時代、軽音に入って初舞台を踏んだ時にも、
やはり足が震え、心臓は破れんばかり。いっそこの場から逃げ出したい、早く
終わってほしいとしか思わなかった記憶。
やはり、人前で演奏することは、観客の評価に晒されることであり、そこでい
い点を取ろうと思うと、途端に音楽は息苦しく、つらいものになるのだろう。
技術を磨く努力も、本来義務ではなく、難曲が弾けるようになる喜びのためで
あるべきなのだが、さりとて凡人には越えがたい障壁がある。
しかし、天才は別である。例えば、モーツァルトのような。
だから人は彼の音楽に、喜びを聴くと、吉田秀和は言う。
本書は音楽評論家・吉田秀和の代表作だ。しかしながら、長らく読むことはな
く、いわゆる「いつか本」のままであった。
本好きならきっとあるであろう、いつかは読もうと思いつつ、いろんな理由で
未だ手が出ない本。
その一冊が、この吉田秀和『モーツァルト』だったのだ。
私の理由は極めて簡単で、そもそも、モーツァルトの音楽自体をろくに聴いた
ことがないからに過ぎない。
音楽本書評などと銘打ちながら情けない話ではあるが、どうにも苦手なのがモ
ーツァルトとベートーベンなのだ。嫌いなのではない。ただ途中で必ず眠くな
って最後まで聴き通せないだけであり、すなわち好き嫌い以前の問題なのであ
る。
特にシンフォニーは余りにも長大で、出だしはいいと思っても、とても最終楽
章まで耐えられない。
映画『アマデウス』のサントラのように、おいしいところだけをつまみ食いの
ように聴くのが精々なのである。
ちなみにバッハも、一部を除いては苦手で、その一部というのは無伴奏バイオ
リン曲なのだが、千住真理子の名盤を一時愛聴していたことがある。また、か
の有名な「主よ人の望みの喜びよ」を、村治佳織にかぶれていた時期に、自ら
ギターで弾いてみた時、ただ聴いていただけでは得られなかった感興を覚え、
われながらたどたどしい演奏なのにどうしてだろう、と不思議に思ったものだ。
ともあれ、要するに私はロマン派がダメなのかも知れず、むしろ20世紀に入っ
たストラビンスキーとか、もっと下ってライヒ、グラス、武満徹の方が最後ま
で飽きずに聴き通せるのである。
あるいは逆にモーツァルト以前に遡り、ビバルディーなどのバロック音楽は好
きだったりする。
しかし、とにかく私はモーツァルトが聴けない。さすがに音楽そのものを聴か
ずに、評論だけ読んでも仕方がないだろう。そのため、名著であるとは知りな
がら、吉田秀和の『モーツァルト』を先送りし続けてきたわけだ。その内、モ
ーツァルトが聴き通せるタイミングが来るだろう。それから紐解いても遅くは
あるまい、と。
だがあいにく、その時は一向に訪れず、時間だけが経って行く中、私はふと、
こんなことを考えた。
かなり以前のことであるが、ドストエフスキーの『地下生活者の手記』を取り
上げた文学評論の本を読み、大変に感銘を受けたのだが、その当時『地下生活
者の手記』自体は未読であったのだ(その後、読んではみたものの、評論ほど
面白くはなかった)。
そう言えば、小林秀雄の『本居宣長』もそうだった。大変面白く読んだが、原
典である本居宣長の本はいまに至るまでなお未読。
すなわち、批評はその対象から独立して存在し得る表現形式なのではないか、
ということである。
文学評論が、それ自体で面白いことは確かにある。たとえ、自分にとって未読
の本を論じていてさえ。
ならば、音楽評論でも同じだろう。つまり、モーツァルトを聴かずとも、『モ
ーツァルト』を読んで構わないのである。
論語読みの論語知らずの逆バージョンとでも言えばよいだろうか。
こうしてようやく、私がこの「いつか本」を手に取る日がやって来た。
さて、前段が長くなったが、まず本書を通読して最も印象的だったのは、モー
ツァルト絡みの著者の体験談である。
例えば、ベルリンオリンピック。ナチスドイツ政権下のあの大会で、水泳の前
畑選手が金メダルを獲得した時、我を忘れたアナウンサーが「前畑がんばれ」
と絶叫を繰り返した伝説の実況放送を、故郷・小樽に帰省していた著者は、街
をそぞろ歩いていて、耳にした。
だが、その実況を差し置いて、彼の心を捉えたのは、モーツァルトだったのだ。
いまでもサッカーワールドカップでサムライジャパンが大健闘していても、全
く興味を持たない私のような天邪鬼がいるように、この時も国民的熱狂をよそ
に、ラジオではなくクラシック音楽をかけている店があり、そこから漏れ聴こ
えてきたモーツァルトに、吉田秀和は深く心を揺り動かされたと言う。
絵は、やはり美術館や画廊で見るものであり、小説は、自らページを開いて読
むものである。
すなわち、受け手が積極的に受容する態度を持って初めて、その表現は届く。
だが恐らく音楽だけが、勝手にこちらの心に入ってくることが可能なのである。
聴く気がないのに、聴こえてしまう。そして、不意打ちのように人の心を奪っ
ていく。
だから音楽は、聴いた時の状況と分かちがたく結びつくことがあり、その体験
はその人だけのものであるがゆえに、われわれは評論というよりエッセイとし
て、その面白さを味わえる。
次に、評論としての部分である。
何しろ冒頭に縷々述べた如く、私はモーツァルトを聴き通していない。随所に
引用されている楽譜も、単純なものならまだしも、スコア(総譜)となるとお
手上げだ。
だが、それでも著者の抜かりない楽曲分析には、素晴らしい説得力があり、こ
とに、なるほど、と膝を打ったのは、ワルツ王ヨハン・シュトラウスとの比較
であった。
著者はシュトラウスの音楽の魅力を認めつつ、だが、何度も聴くと飽きてしま
うと言う。しかし、モーツァルトは飽きることがなく、その理由を普通は、音
楽家の思想の深さの差だと説明するが、そうではない、それは作曲家自身の耳
の違いに過ぎない、と喝破する。
モーツァルトは複雑微妙な音を聴き分ける耳を持って生まれたが、シュトラウ
スはそれより単純な耳を持って生まれた。だから、モーツァルトは複雑な響き
でなければ我慢できなかったのに、シュトラウスはより単純な響きだけで充分
だった。
単にそれだけのことであって、モーツァルトの思想が高邁だというわけではな
いと主張するのである。
これを読んで私は、哲学者の池田晶子を想起した。彼女も、哲学者というのは
特に高邁なことを考えているわけではなく、単にそういう風にものごとを考え
てしまう脳の性向を持って生まれただけであると言い、そのことを「癖(へき)」
と表現したからである。
癖にせよ、耳にせよ、持って生まれたものは仕方がない。それは本人の手柄で
もなく、欠陥でもない。宿命と呼ぶと、それこそロマン主義的に大げさなこと
になるから、せいぜい「たまたま」ぐらいにしておけばいいのではないか。
そんな風に、池田晶子も吉田秀和も思っていたような気がする。
さて、さすがに名著である。非常に面白い本ではあった。
では、これを機会に、私はモーツァルトを聴くことになるのだろうか。
とりあえず、ライブに向けてビートルズを聴く方が優先されそうなのだが。
吉田秀和
『モーツァルト』
1990年12月10日 第一刷発行
講談社学術文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
溶けた雪が、屋根から落ちる大音響にびびりました。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『悩みのるつぼ〜朝日新聞社の人生相談より〜』岡田斗司夫、FREEex
もともと幻冬舎から2012年に出ていた『オタクの息子に悩んでます 朝日新聞
「悩みのるつぼ」』の増補・改訂・改題版である。電子書籍しか出ていなくて、
分冊版と一冊版があるが、一冊版を選んだ。
悩み相談のマニュアル本である。寄せられてくる悩み相談について、どのよう
なアプローチをして回答を出してくるかの思考の方法が書かれている。内容の
一部はYouTubeやニコ生の無料配信でも出されているので雰囲気を知るには動
画を見てもいいかもしれない。
もともと朝日新聞で悩み相談をしていたそうで、当時他に車谷長吉、金子勝、
上野千鶴子(後に交代して美輪明宏)と岡田氏が担当していた。その中で岡田
氏が考えたのは四人の中で自分のポジション取りだった。
小説家の車谷さんには文章力で勝てない。合理的で実行可能なアドバイスは金
子さんがやるだろう。視点や切り口の鮮やかさでは上野さんにかなわないだろ
うということで、自分のポジションを読んで気持ちいいとか癒やされるみたい
なものではなく「徹底的に役に立つもの」を書こうと考えた。
そうした姿勢で第1回から取り組んでいて、相談者にとって役に立つ回答を導
き出す。最初に出てくる質問は「彼のケータイを盗み見たら・・・」質問者は
30代女性。相談内容は概略こんな感じ。使うテクニックは「分析」だ。
----------
一年半ほど前から付きあっている彼氏と別れた。様子がおかしいので、彼が風
呂に入っている時にケータイを盗み見たらどうみても自分と同じ、あるいはも
っと親しいかもしれない感じの女性のメールがどっさりあったので問い詰めた
ら、「お前を試したんだ。ケータイを盗み見るような女だとは思わなかった」
と言われた。個人商法の保護が叫ばれる時代に規範意識が無いとか言われて出
て行かれた・・・私は盗み見を謝るべきか、騙されているんでしょうか?
----------
普通に読んだら、どう見ても彼氏がウソついて、いいのがれしているのは明ら
かだが、それを返答したところでこの女性の役には立たない。すでに彼氏とは
別れてるのだから謝ったところで復縁もない。ならぱ、書いた人の気持ちを想
像しよう。本当に言いたいこと、聞きたいことが何かを「分析」するのだ。
おそらく彼女は自分の怒りをどこに持って行っていいのかわからない。彼に謝
る必要ないことくらいわかってる。しかし謝らなければならないかもしれない
と考えたのは、彼を信じたい気持ちがあるからだ。しかし信じるに値しない男
なのも本人はわかってる・・・。
そこまで分析を進めたところで、
・信じられないなら別れなさい
・信じたいなら、疑うな(ケータイにどんなメールが来ていても彼のことを信
じる)
の二つのどちらかを選んでくださいと結論を出すのである。要は、彼が信じら
れるかどうか、自分で結論を出せということだ。
心の奥底にある、本当の相談内容というか、求められている答えを見つける・
・・それが「役に立つ」回答だと言うことだ。
悩み相談として送られてくる相談は、文章のプロが書いているわけではないか
ら、基本読み解く努力が必要になる。その上、人は自分にオブラートをかけて
相談してくることもあるから、相談の文面に書いてあることをそのまま受け取
ってはいけないことも多い。
たとえは、壮絶な生涯を生きてきて、来月家賃が払えず家を放り出されるシン
グルマザーの相談があった。内容がものすごい体験の羅列で、読んでいると怯
みそうになるが、よくよく読むとこれまでの壮絶な生涯などいまさらひっくり
返すことなどできないので相談しても意味が無いと岡田氏は気がついた。
問題は来月家賃が払えなくなって家を追い出されることだけだ・・・だったら、
問題は瑣末なもの1つしかない。来月住むところを見つける・・・これだけが
本当の相談なのだからという感じである。
そんな感じで送られてきた相談文をベースにしつつ、「役に立つ回答」を書い
て行く時、どんなことを分析し、考えながら書いて行ったのか、舞台裏を綴っ
て行くのがこの本だ。
岡田氏は、自称サイコパスで他者への感情や思いやりと言ったものが欠如して
いる無責任野郎のはずなのだが、サイコパスがこんなに人の心の奥底まで分析
できるのかと突っ込みを入れたくなる。
いや、自称サイコパスでもここまでできるのに、我々にはここまで分析ができ
ないのか?実は岡田氏ではなく我々こそがサイコパスだと、書いてないけど主
張している本なのかもしれないと裏読みするのが正しいのかもしれないという
のは冗談である。
実際のところは、悩み相談とは読解力が試される・・・いわゆる国語の試験の
ように名文を分析するのではなく、市井の人の雑多な悩みを彼らの言葉から解
読する参考書と言うのが実際のこの本の内容なのかもしれない。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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『紫式部ひとり語り』(山本淳子・著/角川ソフィア文庫)
紫式部と藤原道長の関係は恋なの?恋愛ごっこなの?ワンナイトなの?
今年の「大河ドラマ」は平安時代を舞台にした『光る君へ』。紫式部の生涯
をたどるドラマです。企画意図が「女性の活躍」をテーマにしているため、紫
式部が宮廷でいろいろな困難を跳ね返して活躍して『源氏物語』を書く様子が
描かれています。1970年代半ば、「働く女性は美しい」とおだてられてホイホ
イと深夜残業していたおばちゃまからすると「女性の活躍」がテーマってなん
か逆に古くない?って思ってしまうのですがまあ、それほど女性は今も不平等
に苦しんでいるという設定なんでしょう。(違うと思うけどね)。
今年は昨年とは打って変わって「史実と違う」との反論が聞こえないのはな
んでや? あまりにも古いのでわかっている人が少ないのか、資料が限られて
いるので自由に書いていいと書く方も見る方も許されているからなのか、光源
氏みたいに「私は何をしても許されているんだよ」とばかり、紫式部と清少納
言が道長などの上流貴族のお歴々がいる席に扇で顔も隠さず堂々と同席したり、
貴族の娘である紫式部が最下層の技芸集団にシナリオを書いたり、もうやりた
い放題です。まあいいか。
そんな中で読み返したのがこの本。紫式部という人の自虐志向やその中に潜
むプライド(謙遜する人ほどプライド高いよね)、恋愛と結婚、女房としての
職業意識、そして道長との関係などが新進の研究者である山本淳子氏によって
述べられています。おばちゃまも山本先生の講座は何回か受講していますが、
キレ味は講座より著作の方がいい!
その中で大河ドラマのテーマでもある道長と紫式部の関係性について述べら
れている章を今回、じっくり読みました。
大河ドラマは道長と式部はお互いに思い合っているのに身分差や政治的背景
によって結ばれないそのジレンマが描かれる模様。基本は少女漫画の趣向です
ね。少女漫画の源流は中世ヨーロッパの騎士道物語で、男が憧れの女性に対し
て忠誠の限りを尽くして、その恋心を自分への成長への試金石にするというの
が基本。ですが中世のヨーロッパ貴族社会が決して女性を本当に尊重していな
くて、女性をあがめるフリをする一種の恋愛プレイだったように、実際の紫式
部と道長は権力を持つ上司とその使用人の関係。
宮中に出仕するのも現代のキャリアウーマン的な華々しさはなく、戦前、仕
事をする女性を「職業婦人」として揶揄したそれ以上のかわいそうな身の上的
に位置づけられました。
で、大河ドラマでは美しく描かれる道長との関係も紫式部の欄には「御堂関
白道長妾(しょう)」(尊卑分脈)とあるように、殿と召人(めしうど)の関
係であったと考えられています。召人というのは愛人、それも正妻が嫉妬さえ
しない下の身分のいつでも呼び出して関係を持つことができる都合がよすぎる
愛人です。
『紫式部日記』には道長と式部の関係を描いた部分があります。
ある夜、道長は式部の局を訪れ戸を叩きましたが、式部は恐ろしくて戸を開
けず、一夜まんじりもせず朝を迎えます。翌朝、道長から「昨日は拒否られて
僕は泣きましたよ」という歌が届き、式部は「どうせ気まぐれでしょう。よか
ったわ、戸を開けなくて」と返します。それが王朝風恋愛ごっこの定石だった
わけです。山本先生は、「私は局を訪れられたわけだが、主家の殿方がその気
となれば、そんな回りくどいことをする必要は、実はない。自分の御帳台に呼
びつければいいのだ。それがなされなかったのは、殿が『源氏の物語』に焚き
付けられ、光源氏を地でゆこうとしたということではないか。ならば私も一人
前の想われ人を気取って応対してよい」と述べておられます。(この本は式部
の一人称で書かれています)。
山本先生は、主といかに才能があっても娘付きの女房兼家庭教師の間には超
えられない身分差があり、その「分」をわきまえて生きるしかすべがない女性
の悲しさを紫式部は「源氏物語」の中に描いたと考えています。
では、式部は本当に道長の召人だったのか。式部には「紫式部日記」のほか
に私家集「紫式部集」がありますが、そこでは道長と式部の間に恋愛ごっこで
はない心の交流があったと匂わせる記述があると山本先生は指摘しています。
紫式部でさえ“匂わせ”をしたのかい!ここではやりとりを朝霧の中で2人き
りで逢って歌を詠みかわしたようにアレンジして、道長の式部への情熱をクロ
ーズアップさせています。
「日記と家集とどちらが真実かはいうまい。私は紫野の墓場までこの秘密を持
ってゆこう」
家集が真実だと思われたいけどそうじゃないかもしれないし、真相は薮の中
で、これが匂わせなのかそうではないのかも不明ですが、1000年の時を経て紫
式部の肉声が聞こえてくる部分であることは間違いがないようです。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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今年は2月が一日多いですね。お得です。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<168>時代劇と方言についての一考察
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→149 野生動物の生態を知る
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<168>時代劇と方言についての一考察
「六条の御息所のお邸へ、お忍びで通たはったころ、内裏から出てツーッと
いく途中、乳母やったひとがえらい大病しはって、尼さんになったはる、てき
いた光君、五条あたりにあるその家を訪ねていかはんのん。」
上は、いしいしんじ『げんじものがたり』の中の「夕がほ」の章、その冒頭
の一節。
この「げんじものがたり」は、全編が上のように「現代京都弁訳」で展開さ
れるのである。
これ、実は書店で見かけて「おもしろいな」と思って買ったのだけど、読ま
ずに「積ん読」状態になっていた。
NHKの大河ドラマ『光る君へ』を見て、ふとこの「げんじ」のことを思い
出して読み始めたところだ。
『光る君へ』は、自分の記憶に間違いがなければ、「大河」史上初めて、
「源平もの」以外で平安時代を舞台にする作品であり、しかも主人公が紫式部。
これは、かなり斬新なのではなかろうか、と興味をもって見たのだ…が…
ストーリー展開はともかく、現代標準語で展開される“平安絵巻”に、もの
すげー違和感を抱いてしまったのだ。
しかも、その現代標準語が、かなりくだけていて、「大丈夫だわ」だの「失
礼しちゃうわ」とか…
これでは、まるで「桃尻語訳」(覚えてらっしゃるでしょうか? 80年代に
一世を風靡した『桃尻娘』の作家・橋本治が著した『桃尻語訳・枕草子』を)
ではないか。
冒頭にあげた「京都弁・げんじものがたり」のように、全て京都弁でやれ、
とは言わないが…もう少しやりようというのが「あるやろ」と思ってしまった。
現代の京都弁というのは、概ね江戸時代に完成されたもので、平安のころは、
今とはまったく違う言葉だったと言われてはいるが、しかし、アクセントは、
今と変わらなかったと思うのだ。
現代の標準語でやるにしても、「せめて関西アクセントにせんかいな」と思
った関西人は、自分ひとりではないと思う。
映画やドラマでは、江戸期以降が舞台の場合、京都の公家や町人は京都弁を、
大阪人は大阪弁を喋っていることが多いが、戦国以前では、出身地に関係なく、
誰もかれもが同じ現代標準語で喋る、というのが一般的なように見える。
大和和紀『あさきゆめみし』は、1979年から80年代にかけて連載された漫画
版の「源氏物語」だが、これもまた、作中の言葉は現代標準語だったけど、漫
画や小説では、言葉はあくまで「文字情報」であり、読者の側で勝手にアクセ
ントを置き換えることもできるから…かな? さほどの違和感は感じなかった。
谷崎潤一郎や円地文子、田辺聖子等々、様々な著者のバージョンがある、
「現代語訳・源氏物語」などもまた、同様にさほど違和感を感じない。
しかし、平安京の公家衆の、耳から入ってくる台詞を、現代の関東アクセン
トでやられると、なんだか、お尻の辺りがムズムズしてしまうのだ。
先日見た回では、和歌を披露するシーンがあったのだが、これがなんと、関
東アクセントの、しかも「棒読みで語る」というシーンに仕立てられていて、
驚愕したぞ、わしゃ。
これはもう、日本語と和歌の文化に対する暴挙であり、冒涜とも言える所業
だわ。
和歌は、「歌」なんだから、そこは、きちんと歌わんとあかんでしょうが。
時代劇で方言が使われるのは、幕末ものに圧倒的に多くて、「土佐弁の坂本
龍馬」「鹿児島弁の西郷隆盛」は、その双璧で、これに江戸っ子弁の新選組が
対する、という構図は、もはやおなじみだ。
1980年代末に出版されるや、たちまちベストセラーとなった、津本陽『下天
は夢か』では、多分、これが初めてじゃなかったかと思うのだが、「尾張弁の
織田信長」が登場した。
「たァけが、そら、おみゃアだぎゃァ」と喋る信長は、それまでの信長像と
違って、やたらとリアルに感じられた。
これ以後、映画やドラマでも、信長や秀吉が尾張弁を喋るのが一般的になっ
ていった。
先日ネットで、2019年公開の映画『決算! 忠臣蔵』(中村義洋・監督)を
見た。
あの赤穂浪士の討ち入りを、それにかかる費用の捻出と「予算」という観点
で描いたのもユニークだが、堤真一演じる大石内蔵助以下、赤穂浪士たちのほ
ぼ全員が、台詞を関西弁で喋る、というユニークな演出が目を引いた。
しかし、荒川良々演じる堀部安兵衛や、大名ゆえに江戸生まれで江戸育ちの
浅野内匠頭は、きっちりと関東弁、とメリハリもつけてある。
この映画、松竹映画なのに、なぜか吉本興業が製作に参加していて、堤と
“ダブル主演”の岡村隆史以下、ほぼ「吉本オールスターキャスト」、なので
関西弁の台詞はごく当然、とも思えるが、江戸時代の赤穂の侍も、やはり関西
弁…というか、当然、播磨弁だったろうが…を喋っていたには相違なく、この
「忠臣蔵」、かなりリアルに感じられた。
映画は全編、予算の捻出と決算に終始していて、肝心の討ち入りシーンが
「ない」という点でも、前代未聞の忠臣蔵映画だった。
そう言えば、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』も、山形弁の台詞が、リア
ル感を増す効果を上げてましたっけね。
ちなみに、司馬遼太郎の本で読んだのだけど、江戸時代、参勤交代で各地か
ら江戸に集まった侍たちは、他家の武士に対して、それぞれのお国言葉で喋り
かけても、到底通じない。
そこで「共通語」として編み出されたのが、「書き言葉で喋る」という方法
だったんだとか。
今に伝わる、「拙者」だの「さようしからば」「〇〇でござる」等々という、
いわゆる「武家言葉」は、地方出身者たちが、お互いの意思疎通を図るために
敢えて書き言葉で話していた、それが江戸における「侍言葉」として定着して
いった結果なんだそうだ。
『決算! 忠臣蔵』は、一般的な関西弁で演じられていたのだけど、ふと、
これを、実際に今の赤穂あたりで使われている「播磨弁」でやったら、もっと
「ドスの利いた」忠臣蔵になったんじゃ…と、ふと思った。
なにせ「播磨弁」、今や、あの河内弁や泉州弁を凌いで、「日本一ガラの悪
い方言」と認定されているのである。
しかも、その播磨弁、神戸の垂水あたりから始まって、明石、加古川、高砂、
姫路、と西へ行くほどその「ガラの悪さ」というか荒っぽさは際立ってきて、
相生、赤穂あたりが「一番きつい」と言われているのだ。
何年か前、自分は、姫路の網干あたりだったと思うのだけど、作業服姿の60
代と思しきおじさん二人の会話を、耳にした。
「おう! われ、どこ行っきょんど?」
「どこて、メシ行っきょんやないけ」
「今ごろメシかいや、どんならんの」
「じゃァっしゃ!ダボォ! おどれと違ごての、わしゃ忙しいんじゃ」
「ごうわくのォ、シバクぞわれェ、人をヒマ人みたいに言いくさって!」
と、まあ、概略、こんな会話。
おそらく他県人が聞いたら、この二人は喧嘩してるみたいに思えるだろうけ
ど、おじさん二人は、きわめてにこやかに仲良さげに、この会話を交わしてい
たのだった。
あ、ちなみに「ダボ」は「どあほ」の最上級形、「ごうわく」は「むかつく」
の意です。
映画でいえば、市川崑監督の『細雪』(1983年)もまた、四姉妹を、岸惠子、
佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、と4人が4人とも関東出身だったにか
かわらず、その大阪弁は、アクセントも完璧に仕上がっていた。
この映画の場合は、谷崎の小説原稿の、大阪弁の台詞部分の校閲を担当して
いたという、松子未亡人(『細雪』の次女・幸子のモデルですね)が台詞校閲
をし、さらに女優陣に対しても、アクセント等、綿密に指導されていたらしい。
NHK大河も、今からでも遅くはないから、そういう対応を、とった方がい
いんじゃないか…と老婆心の二月なのだった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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149 野生動物の生態を知る
大きな地震から一か月が過ぎ、まだまだ日常がもどってきていない様子です。
どうか、一日も早くあたたかくゆっくり過ごせる場所を取り戻せますように。
今月最初にご紹介するのは、グラフィックノベルです。
ベトナムの自然保護活動家チャン・グエンさんの自伝的物語。
『ソリアを森へ マレーグマを救ったチャーンの物語』
チャン・グエン 作 ジート・ズーン 絵 杉田七重 訳 鈴木出版
A4横長の判型でソフトカバーの本。
冒頭、見開きに描かれた森の様子は深い奥行きがあり、森の緑のさまざまな
濃淡さがかもしだす美しさには見惚れます。
まず、主人公チャーンのフィールド・ノートが紹介され、どんな服装・持ち
物で森に入っていくのかが描かれ、マレーグマであるソリアが登場します。
チャーンは、子どものころ、クマから胆汁を取り出しているのを目撃して以
来、自分はクマもほかの野生動物もひどい目にあわないよう、動物たちを守る
仕事をしようと、将来の目標を決めました。
グラフィックノベルですので、クマが胆汁をとられている様子も描かれ、残
酷なできごとも視覚化されています。しかし、そのクマを助けようと自分の夢
を定め、まっすぐつきすすむチャーンの力強さもまた、こまかな表情まで描か
れることで、読者の心につよく届いてきます。
野生動物を守るために、自分のすべきことを系統だててすすめていく姿は、
目標を達成するためのロールモデルをみているようです。必要な知識を得るた
めに、苦手な英語を習得するべく猛勉強をし、得意の絵を描くことでフィール
ドノートをつくり、野生動物のドキュメンタリー番組をみる、そして毎日運動
をして体力づくりにもいそしみます。すごいです。夢を定めたからこそのエネ
ルギーはかくも強いのかと圧倒されます。
加えて毎年欠かさず野生動物保護センターのボランティアに受かるまで応募
しつづけ、「フリー・ザ・ベアーズ」のクマ救助センターでも働くようになる
のです。
そこで出会ったのが、マレーグマのソリアです。
チャーンはソリアを野生に戻すためにサポートする仕事につきました。
野生動物が、野生で暮らすのはあたりまえですが、人間によって森から離さ
れ過酷な状況におかれてしまうと、弱ってしまい野生には戻れなくなってしま
うそうです。
ソリアはまだ小さかったので、野生に戻せる可能性がありました。
チャーンはどのように、野生に戻す道筋をつくっていくでしょうか。
絵を描いたジート・ズーンは、本書で2023年カーネギー賞画家賞を受賞しま
した。熱帯雨林の濃厚な空気を感じるような絵は、緑、青、この一文字では表
現できない奥深さがあり、目を奪われます。物語とともに、このすばらしい表
現力で、野生に戻るとはどういうことなのかを伝えてくれます。
そしてチャーンの情熱があってこそ、ソリアとの関係がつくれていることも、
言葉の端々からにじみ出ているのは、訳者である杉田七重さんの力量です。
絵が物語を追うのを助けてくれる側面もあるからこそ、小さい子どもから、
大人まで読みごたえのあるものになっています。
とっくに成人した娘にもすすめたところ、夢中になって読み、この本いい!
と熱量ある言葉がかえってきました。
さて、子どもから大人まで楽しめる月刊誌としては「たくさんのふしぎ」も
おすすめです。入手もれしないよう、毎月チェックを欠かせません。
最新刊の3月号「かっこいいピンクをさがしに」(なかむら るみ 文・絵)
は、刊行前にSNSで著者が書かれているのをみて、予約して到着を楽しみに
していました。
ピンクはもともと好きな色なので、「かっこいい」ピンクを探すのに興味を
ひかれたのです。
なかむらさんが本書をつくるきっかけとなったのは、新聞の投稿記事でした。
小学生の孫の男の子が選んだランドセルの色が濃いピンク色だったことが理解
できないという投稿でした。
なかむらさんも同じ年頃の娘さんがいて、おばあさんの気持ちがわかるよう
な、でも、ピンクもいいじゃないと思う、自分のゆれ動く気持ちに気づかされ、
ピンクについて調べることにしたのです。
ポップアートのピンクから、建築物、日本古来の着物の色からウガンダの小
学校では制服の色がピンクだということなど。なんていろいろあるのでしょう。
単にピンク色のものを集めているだけではなく、たとえば、ウガンダの制服
がなぜピンクなのかも調べているので、知識欲を満たされます。
この色に心を静める効果をもとめ、それを試すために、ある部屋の壁にピン
ク色が塗られていることも、不勉強ながら初めて知りました。
読了後は、身の回りのかっこいいピンクさがしをしたくなります。
付録のピンクポスターは、我が家のトイレに貼りました。
家族からも好評です。
最後にご紹介するのは、ピンクが印象的な表紙の絵本です。
『きみが生きるいまのはなし』
ジュリー・モースタッド作 横山和江 訳 文研出版
時間ってなんだろうという哲学的な問いを、さまざまなものに置き換えて考
えます。
時間は木なのかな。
蜘蛛の巣なのかな。
髪の毛ののびるのも時間の経過。
時間そのものは見えないけれど、時間を視覚化するバリエーションを余韻を
感じる美しい絵で表現し、ピンクがいいアクセントになっています。
ジュリー・モースタッドは、ここ数年続けて翻訳されている人気絵本作家で
私も大好きです。
邦訳版は原書と違う絵が表紙になっていますが、インパクトは本書の方が、
手にとりたくなるオーラをもっているように感じました。
https://juliemorstad.com/TIME-IS-A-FLOWER
しめくくりもすてきなので、ぜひ読んでみてくださいね。
(林さかな)
https://1day1book.mmm.page/main
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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最近、本ってなんだろう、出版ってなんだろうと改めて考えています。(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #164『竜笛嫋々』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『怪獣人間の手懐け方』箕輪厚介 クロスメディア・パブリッシング
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです。
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#164『竜笛嫋々』
貴公、未だ覚えておられるか。
本年が、辰年であることを。
年の瀬、そろそろ賀状をと慌てる頃、はて来年は何年かと指を折り、ああ辰
年かと思うものの、覚えているのはせいぜい松の内。既に正月も下旬なれば、
忘れておっても無理はない。干支ももはや、儚いものよ。
ともあれ、辰年。イヤー・オブ・ザ・ドラゴン……と、確かそんな映画もあ
ったが、音楽本書評子としては、龍に因んだ音楽がないかと頭を捻り、ぽんと
膝を打つ。
竜笛。
そう、確かそんな名の、雅楽で使われる楽器があった。
そして、佐伯泰英に『竜笛嫋々』なる時代小説があった。
佐伯泰英、当欄登場は実は2回目。前回取り上げたのはそのデビュー作で、
しかし、時代小説ではなく、全く畑違いのノンフィクションでござった。それ
もスペインで闘牛士を取材したもの。それが今回は時代小説。まぁ、どちらも
剣を振るうにしても、意外な取り合わせと普通は思う。かく言う書評子も、同
姓同名の別人かと思っておった。
ノンフィクション作家としてデビューしたにもかかわらず、本はあまり売れ
ず、それではとフィクションに転じ、海外体験を活かして国際冒険小説を書い
た。ところが、その10年ほど後であれば、ハードボイルドや冒険小説が人気を
集めることになったのだが、ちと早すぎた70年代。
これまた余り売れず、出版社から「ポルノか時代小説なら出してもいい」と
事実上の戦力外通告。そこで奮起し、初めて出した後者で遂に売れた。いまで
は人気作家となったといういきさつらしい。
時代小説に転じてからは非常な多作で、中でも人気を集めているのが、「酔
いどれ小籐次留書」シリーズ。本書はその第八弾だが、もちろん、単独で読ん
でも十分楽しめることは言を待たぬ。
舞台は江戸。
長屋で刃物の研ぎ師として暮らす赤目小籐次は、齢五十。五尺の短躯ながら
剣豪にして、通り名の示すように無類の酒豪でもある。
これが年甲斐もなく密かに想いを寄せる女性がおり、彼女の得意とする楽器
が竜笛という次第。
さて、この女性が京都からやって来た名家の嫁にと所望される。しかし、本
能的に不審を抱き、小籐次に相手の身辺調査を頼むのが事の起こり。
いろいろと探ってみれば、なるほど怪しい。京都の名家の裔という触れ込み
だが、周辺には奇怪な連中が跋扈。妖術を使うなど、黒い噂にも事欠かぬ。だ
が、小籐次が探索に時を費やす隙に、あろうことか当の女性がさらわれてしま
う。
同時に小籐次も、公卿のような烏帽子の集団に度々襲われる。
果たして敵の正体は?
行方不明の女性の運命や如何に?
そしてこの女性が嗜む竜笛の嫋々たる音色が、クライマックスで重要な役割
を果たす。
それにしても、起伏に富んだ物語の面白さはもとより、暮から正月にかけて、
江戸庶民がいかに暮らしたかを丁寧に描いたその筆の運びの見事さよ。日本人
が日本人であることを思い出すこの季節に相応しい一書と言えるのではあるま
いか。
小籐次は研ぎ師としてたつきを立てているが、日頃世話になっている店々や
長屋へ暮れの挨拶に回る。その中で、ごく自然にさまざまな商売の師走のせわ
しさが語られる。
また、行く先々で酒を振る舞われ、食事をご馳走になるため、長屋住まいの
独り者である小籐次が、一度も自炊する場面がない。
それだけ人と人との結びつきが温かく、細やかで、多分に理想化されてはい
るものの、素直にこちらも温かい気持ちになる。学生時代の友人が時代小説好
きで、「義理と人情が堪らない」と言っていたものだが、まさにその通り。
まだ正月の内に、遠い江戸の同じ季節を味わい直しては如何?
佐伯泰英
『酔いどれ小籐次留書 竜笛嫋々』
平成19年9月15日 初版発行
平成20年1月31日 4版発行
幻冬舎文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
本年もよろしくお願いたいします。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『怪獣人間の手懐け方』箕輪厚介 クロスメディア・パブリッシング
「怪獣」と付き合うことで有名な、幻冬舎の名物編集者の本である。何年か
前『死ぬこと以外はかすり傷』なんてタイトルの本を出していたが、同著に加
筆する形で『かすり傷も痛かった』なんて本を出すのだから面白い。
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344041677/
で、この本は、これまで彼が接してきた有能な人物・・・彼はそんな人を怪獣
と呼ぶのだが、その怪物相手の付きあい方マニュアルと言っていいだろう。
本の惹句は、こうである。
・・・・・・・・・
「怪獣人間」とは、狂ったように目的だけを見て、成果を残していく人たちの
こと。
彼らは、凡人が積み重ねたプロセスなどはお構いなしに、革命を起こしていく。
「怪獣人間」と出会い、対峙し、仕事にすれば、あなたの人生は大きく変わる。
「怪獣人間」は、灼熱に燃える太陽みたいなものだ。
遠くにいれば、やさしく温かい存在だが、近づき過ぎると、焼き殺されてしま
う。
>>もしあなたに、そこに踏み込む勇気があるなら、この本を手に「怪獣人間」の
世界に飛び込んでいこう。人生が劇的に変わり、見たことのない景色が見れるは
ずだ。
・・・・・・・・・
要するに平凡な自分達たちが、大きな仕事をしたいと思ったら、本当にすごい
人たちに近づき、一緒に仕事すればいい。しかしそういうすごい人(=怪獣)に
振り回されていてはダメ。だから付き合い方を知れという内容だ。
著者が付き合っていた人たちは、堀江貴文や見城徹といった人から井川意高や
ガーシーまで、エリートから犯罪者まで多種多彩。共通点は怪獣であることだけ
だ。そりゃ興味がわく。
読んでみて思うのは、読者対象は昭和生まれの人間ではないのだろう。なぜな
ら、昭和世代が読めば、これって昭和の話じゃないかと思い出すことが、かなり
たくさん書かれている。
1番エキサイティングなところに1番金が集まるとか、ハイレベルの中に自分
を置けば成長するとか、相手の事をとことん考えるとか、むんむんと漂う昭和臭
が特徴だ。
これが結構間違ってない(笑)個人的な体験を書いて恐縮だが、私は大学時代
の卓球でこれを思い知った。高校まではクラスで卓球はトップクラスに下手だっ
たのだが、大学に行ったら下手な卓球部出身を負かすほど私は卓球が上手かった。
なぜか?インターハイでベスト8か4だったかに入った奴が高校のクラスメイト
だったからだ。こいつがクラス全体のレベルを引き上げていたから、私のような
クラス1の下手くそでも高校卓球部員と勝負できるくらいまでレベルが引き上げ
られていたわけだ。
そんな感じで、昭和に若者だった者が読むと、結構な既視感がある。そして、
そんなことは著者も編集者も承知だろう。それをなぜ、今、このタイミングで出
したのか?
もちろん売れるからだろう。しかしもう一つ、私の勝手な思い込みかも知れな
いが、平成の若者たちが、あまりに昭和を学ばないことに対して、問題意識があ
ったのではないか?
近年の若者は、学生時代からキャリアプランを立てている。大学卒業して就職
する会社に一生勤める気で入ったりしない。その会社で得られるスキルを得ると、
それを武器にして次の会社に移って活躍、そして2社目の会社でのスキルを得た
らまた三社目といったスキルアップの会社員人生を理想だと思っているらしい。
そんな計画を、学生のうちから立てている。もちろん究極の目的は、起業だろう。
・・・昭和のおっさんは、そんなにしっかりと人生計画考えなかったぞw
ま、それはともかく、そんなことを企業の人事担当者も当然知っている。企業
の人事担当としては、一生勤めてくれる優秀な社員が欲しいのだけど、そんな人
はいないものとしてあきらめている。
そんなわけで理想通りの採用はできないけども、縁があって採用した若者が自
社を辞めても活躍してくれることくらいは願っている人事担当者は少なくない。
そんな企業の人事担当者が心配しているのは、平成の若者たちが昭和のノウハ
ウに耳を傾けようとしないことだ。平成の時代に昭和のおやじたちが活躍できな
かったのだから、無視されるのも当然だろう。
でもね、でもね、そんなおやじたちでも、これだけは伝えたいってことがある
わけ。その多くが、この本に書いてある「怪獣」との付き合い方なんだ。時代の
最先端を行ってると思われている箕輪さん、実は昭和の古風な仕事をしているの
よ・・・・
箕輪氏、スキャンダルなどもあって今は全盛期であるとは言えないかもだけど
も、だからと言ってこの本を読む価値が無いとは思わない。アラカン以上の年齢
の人は読まなくてもいいかもだけど、20代の人は読んどいた方がいいと思う。古
くさい昭和は、少なくとも箕輪氏が接する、最先端の世界では生き残っているの
だから。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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2023年は徳川家康の推し活読書の年でした
『河内雑兵心得 足軽小頭仁義』(井原忠政・双葉社文庫)
おばちゃま、昨年は“推し”の大河ドラマ主演という最初で最後(たぶん)
の大仕事でとっても忙しかった(まさかの所属事務所問題も起きたので精神的
にもざわついた)。
予想外だったのは、推し活の途中で徳川家康が気になって気になって家康関
連本を買い込んで読んだということ。それは次のような本です。
『家康江戸を建てる』(門井慶喜)/『覇王の家』(司馬遼太郎)/『家康』
(一)安部龍太郎/『徳川家康の最新研究』(黒田基樹)/『徳川家の家紋はな
ぜ三つ葉葵なのか』(稲垣栄洋)/『落とした財布が世界で一番もどってくる
日本にしたのは徳川です』(磯田道史)/『家康の誤算』(同)と、ほかにフリ
マアプリで「匿名配送」して今はどこかでどなたかが読んでいるであろう数冊。
おばちゃま、まさか今になって司馬遼太郎をまた読むことになるとは思いま
せんでした。(司馬遼太郎は「おもう」「ひと」「ながれる」のように文字を
開くね〜。ひらがなを多用して読みやすくして、やさしい子守唄のようにまた
は催眠術、「ハルメンの笛吹男」のように人を自分の世界に誘い込むね〜。)
そしてたどり着いたのが、『河内雑兵心得 足軽小頭仁義』(井原忠政)シ
リーズ。これは誤って人を死なせてしまった知多半島の貧乏百姓の息子が村を
出て、ふとしたことから三河の弱小大名(徳川家康)の家臣(夏目広次)に仕
えていろんな戦いをして少しずつ出世していくある種のサラリーマン小説です。
一人の雑兵から見た戦国時代が描かれていてかなりおもしろい。
どの本を読んでも戦の詳細は分かっても家康自身の人となりがわからなかっ
たのですが、この小説を読んで、こんな感じだったのかもなあと思えたのが収
獲。
最初に家康が登場する場面(1冊読んで最後の最後にやっと出てくる。そり
ゃ足軽の話なので上の方の人はなかなか出てこない)では、
「こら平八!」
背後から、甲高い声が若武者を制した。
見れば、十騎ほどの騎馬武者を引き連れた、これまた若い武士だ。
痩せて神経質そうな男だが、目には光があり、口元は引き締まっている。(略)
この草深い三河の地で、国人領主より格上の武将がいるとすれば――松平家康
しかおるまい。
天下を取るには大胆にして細かい部分もないがしろにしない気質が必要かと
思うので、「神経質そうで痩せている」のはなんか分かります。ここでやっと
家康本人に出会えた感がありました。
そして戦場では勝敗もそうですけど、家臣のうちの誰を先峰にして戦功を立
てさせるかのバランスを気にしていることが描かれています。敵よりも味方の
家臣のプライドを損なわないように苦慮している様から組織におけるリーダー
には何が必要なのかが読みとれて、おもしろいし、天下を取った理由がなんか
わかる!
ちなみにさきほどの冒頭の「こら平八!」の平八とは徳川四天王の一人、本
多忠勝のことです。作中では「馬鹿八」と呼ばれ、「どうやらあまり頭の回転
が速いほうではないらしい」と足軽にまで言われる人物ですがこの平八も魅力
的に描かれています。
ここでカムアウトすると、シリーズ全部読んだわけではなく、これから伊賀
越えってところでストップしていますが、最後まで読むのがとても楽しみです。
歴史は「勝てば官軍」。なので、今、豊臣秀頼がどんな人物でどんな発言を
したかはまったく残っていないそうです。全国民が徳川に忖度した結果ですね。
同じように江戸幕府瓦解後、幕藩体制が日本に残した弊害が言われるようにな
りました。曰く、身分制により人の活力が失われた。鎖国によりグローバル化
が遅れた。今の日本人がチマチマと細かくおおらかでないのは徳川幕府が作っ
た体制のせい・・・などなど。まあ薩長主導の政治になってから戦争ばっかり
だったけどねえ。
でも、昨年、松平発祥の地・三河安城周辺に行ったのですが、この地はもの
作りの地域で、確かに派手さおしゃれさはないのですが、ありとあらゆる工場
があり、そこで1ミリ1ミクロン単位で工業製品が生まれています。そしてそ
れを代表するトヨタ自動車も三河から生まれたのは単なる偶然ではないように
思います。
家康が作った江戸は今も首都で、この街は膨張し過ぎてこわいぐらいですが
(推しの個展を見るために先日、六本木に行ったのですが、東京タワーが周囲
のタワマンに埋もれてたのにはびっくり。江戸=東京も次の段階に来てるのか
もしれません)。
あと、武士の世界でもモノを言うのは官位だったり、戦に明け暮れている大
名にも書物や能、歌などの教養が必要だったりして王朝文化は侮れないと感じ
たり、勉強することがいっぱいあると感じた1年間でした。
そしておばちゃまが次に読む予定は「小栗上野介」に関する本です。「勝て
ば官軍」の中で消し去られた幕府の優秀な官僚は徳川安城譜代(徳川幕府の中
でも一番古い、徳川家に古くから仕えていた家)。痺れます!
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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さい。
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■あとがき
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年末からの体調不良は熱なしの喉の不調ですが、なにげにまだ続いています。
喋る量を減らして文章を書く活動を増やしていますが、なにげにこっちの方が
生産性高くね?と思ったりもしています。(あ)
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★トピックス
→ トピックスをお寄せください
★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その88 「変身したら何食べる?」その1.竜
★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 土用期間について思ったこと
★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです
★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です!
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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その88 「変身したら何食べる?」その1.竜
今年の干支にちなんで、龍についていろいろ考えていたのだが、東洋の「龍」
はとてもありがたい神的な存在だけれど、西洋の「竜」というのはそうでもな
いような気がする。竜というのは、なんとなく恐竜と入り交じっているような、
は虫類の進化形のような動物のイメージがある。若い女を生け贄に欲しがって、
騎士にやっつけられるようなところなどダメダメな感じがある。もちろん日本
の八岐大蛇なんていうのは、若い女の生け贄を欲しがるし、酒好きのくせに酒
に弱いとかダメダメな感じがあるから、これも下等な竜なのだろう。
そんなことを思っていたら、物語の中で自分が竜になったら、何を食べたら
いいのだろうかとつい考えてしまった。人身御供をかじるわけにもいかないし、
竜は本当に人間しか食べないんだったけ? そこで、少々記憶をたどっている
と、ありました!変身して竜になってものを食べる場面が。それは、ナルニア
国のあの話『朝びらき丸、東の海へ』に出てくる竜。この物語は『ライオンと
魔女』で始まるペペンシー兄妹四人が主人公で、ナルニア国という不思議な世
界に行く物語なのだが、この話はそのシリーズの三番目に当たり、兄妹のうち
末の二人のエドモンドとルーシィと、いとこのユースチスがナルニア国で冒険
する物語だ。実は私は、この話が少々苦手だ。最初はいい。いとこで不平屋の
ユースチスの家に泊まりに来た二人が、壁に掛かっているナルニアの船にそっ
くりな船が海に浮かんでいる絵を見るうちに絵の中に、引き込まれていく。海
から助けられて乗った船が、偶然カスピアン王の船で、彼は冒険に出かけてい
るところだったなんて、実に楽しそうじゃないか! でもその旅が、昔王位を
簒奪した叔父が追い払った七人の騎士を探すための旅だというのが妙に楽しく
ないのだ。この旅の最終目的とか、行方不明の七人の運命とかが、何かすべて
暗くて高揚感がないのだ。彼らが何でこんな目に遭ったのかが、わからなくて
気持ちが悪いのだ。
さて、船に乗ってからずーっと、不満を言い続け、すべてを悪く取るいとこ
のユースチス。この情けない卑怯者で嘘つきの男の子は、全然ファンタジー世
界になじめないでいる。彼に奇妙な罰が下るのは、まあ当然という感じなのだ
が、それにしても相当重い罰に思える。それはある日、彼がいきなり竜になっ
てしまうという罰なのだ。この本を読んだ子供の頃から、もし自分がファンタ
ジー世界に行ってなじめず、気がついたら竜になるという罰を下されたらたま
らないと思い続けている。けれど、この物語で一番面白くナルニアらしいのは、
この竜に変身するところでもあるのだ。
ユースチスは、嵐になってボロボロになった船がたどり着いた島で、修理を
しようと話し合うみんなから抜け出して一人山に登って行ってしまう。そして、
そこで年老いた竜が死んで行くところに行き会うのだ。大雨になり仕方なく竜
の出てきた洞穴に入ると、そこは竜が集めた宝の山!喜んだユースチスは、ポ
ケットにダイヤを詰め、金の腕輪をはめ、金貨を敷き詰めた上で眠り込んでし
まう。いや、私だってそんな宝の山に出会ったら同じことをするだろう。とこ
ろが、ユースチスはその罰に? というかそのせいで竜になってしまうのだ。
目が覚めるとすっかり竜になっていたのだ。そうなったら、何を食べて生きてい
くのだろう?ユースチスが何をしたかというと、まず水を飲み、次に死んだ竜
を食べたのだ。竜ほど死んだ竜の肉を好きなものはいないのだと著者は言うの
だ。死んだ竜の肉は、一体どんな味だったのだろう? 一度竜の肉とはどんな
物だろうと調べたことがあるのだが、酢に漬けると七色に変わるとかいろんな
説があるのだが、味については書かれた物が見つからなかった。けれど、トー
ルキンの『農夫ジャイルズの冒険』では、昔は宮廷ではクリスマスに竜の尾を
食べたが、そうそう毎年竜も出てこないし騎士も捕まえに行かないので、今で
は「まがいものの竜の尻尾」というお菓子を出すとあった。「堅い粉砂糖でう
ろこをつけたカステラとアーモンドでできたお菓子」とあるから、そんな風に
甘い味なのかもしれない。もし、竜の肉が甘いなら、求肥のようなお菓子の方
が、なんとなくイメージに合う気がするけれど、どうだろう。
とにかく、ユースチスはその後みんなのところに戻り、なんとか自分である
ことをわかってもらおうとする。けれど、竜に驚いたみんなが一斉に剣を抜い
て立ち向かおうとするので怖くて泣いてしまう。そんな情けない竜の様子を見
て、みんなが怖がらずにその正体についていろいろ質問をしてくれたおかげで、
自分がユースチスだと、わかってもらえたのだ。
それからは心を入れ替えていいやつになった竜のユースチスは、みんなのた
めに一生懸命働いた。折れたマストの代わりになるような大きな松の木を運ん
できたり、野生の豚や山羊を殺して持ってきたりするのだ。でも、竜はみんな
と一緒に焼いたその肉を食べたりはできない。竜が食べられるのは、血も滴る
豚や山羊の肉なのだ。困るなあ、私は普段からレアのステーキを食べられない
からなあ等と思ってしまい、ここで想像力の翼がはたと止まるのだ。
物語では、一人島に残る覚悟を決めた竜のユースチスの前に、奇跡のように
アスランが現れ、ユースチスは何重にもかぶった竜の皮を裂いてもらって元に
戻り、みんなと共に船に乗って島に別れを告げるのだ……。
夢の中で、あるいは物語の中で変身して、いろいろな動物や、不思議な生き
物になってみたいと誰もが思うだろう。だが、そこで何を食べるかが、私にと
っては大問題なのだ。大抵私は物語を読みながら主人公の気持ちになってその
変身に付き合うのだが、竜になるのは少々向かいないなと思っている。
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『朝びらき丸東の空へ』 C.S.ルイス著 瀬田貞二訳 岩波少年文庫
『農夫ジャイルズの冒険』J.R.R.トールキン著 吉田新一訳
『トールキン小品集』評論社
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高山あつひこ:好きなものは、幻想文学と本の中に書かれている食物。なので、
幻想文学食物派と名乗っています。
著書に『みちのく怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』他
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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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土用期間について思ったこと
2024年1月15日から土用期間に入ります。明けは2月4日。つまりは節分で
旧暦の新年ですね。今回は、この土用期間について、思ったことがありました
ので記録しておきます。
もともと土用期間というのは日本で発達した暦法の九星気学の考え方に基づ
いています。なんで九星気学が日本だけで発達したかというと、日本には四季
があるから。そしてこの土用期間というのは、とても四季の考え方と結びつき
やすい考え方です。
そもそも「土用」の「土」というのは、中国の五行思想から来ています。木
火土金水の五行は、日本では曜日の名前になるほど溶け込んでいますが、実は
季節もこの五行に分けられていて、春=木、夏=火、秋=金、冬=水 と当てはめ、
余った「土」を季節の変わり目に割り当て「土用」と呼んだところから始まっ
ています。つまり、土用は年4回あるのです。
ですから、無用に土用を特殊な期間として怖れる必要はなく、ひとつの季節
と考えることができるのです。
でも、土用期間には、してはいけないとされていることもたくさんあります。
・大きな決断・契約
・引っ越し、転職
・結婚・離婚
・旅行
などなど。これはなんでか、と言いますと、単純に、季節の変わり目、だから
ですね。
日本人なら大抵、感じているとは思うのですが、「暑さ寒さも彼岸まで」と
いう言葉はありつつも、季節というのは〇月〇日からすぱっと切り替わったり
はしません。そんなデジタルなものではなく、あくまでもアナログに、じわじ
わ、じわりと変わっていく。
例えば、今回の土用は冬から春への切り替わりの土用なわけですが、冬と春
って全然、違う季節じゃないですか。これがじわじわと切り替わっていくとき
に、何か大きな判断をするのは危険だ、という考えに基づいているのではない
かと思われます。
例えば、服を買うのだって、冬に欲しい服と春に欲しい服は全然違います。
でも、切り替わりの時期にはどっちを買うのが正解なのか、意思決定に迷う、
ということなのです。
西洋の思想では、人間にとって自然は脅威であり、克服して屈服すべき対象
ですから、人も自然の影響を受けないように石の壁を築き、その中で生きよう
とします。しかし東洋の思想では、人は天の気の影響も地の気の影響も受ける
存在。この土用期間は、天の気、地の気も切り替わりますから、人もやや不安
と言いますか、不安定になる、という考え方になっているのです。
では、土用期間は悪いものなのか?
いえいえ、そんなことはないでしょう。
大きな意思決定をしない方がいい期間、というのは、逆に、いろいろ試行錯
誤するのに向いている期間とも言えます。ですから、これまでの人生でどこか
壁にぶち当たっていたり、出口の見えない迷路に迷い込んでしまったように感
じていた人は、むしろ、この期間があることがチャンスかもしれません。この
時期は浮気とか不倫とかも増えると言います。別れたい彼氏とかが居る場合に
は、彼氏が浮気して縁を切る、なんてことにはチャンスの時期かもしれません。
あるいはメンテナンスの時期、と捉えることもプラスかもしれません。大き
な意思決定というのは外の世界に目を向けることですが、そこは現在は不安定
なので、むしろ、自分とか自分の身の回りに目を向け、季節の変化に備える、
という過ごし方が、様々な方が推奨している過ごし方のようにも思えます。
いろいろ余計なことも書きましたが、土用期間をむやみに恐れるのではなく、
季節の変化を感じながら、自分をメンテナンスしたり、新しい自分の可能性を
探ったりして、プラスの意識で過ごせば、きっと良い期間になるのではないか
な、と思ったので、メモとして書かせていただきました。
note
https://note.com/bizknowledge/n/n8109936bc81d
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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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メールにて、インタビューを受けていただける著者の方、募集中です。
【著者インタビュー希望】と表題の上、
下記のアドレスまでお願い致します。
5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net
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■あとがき
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配信、またまた遅くなりました。本年もよろしくお願い致します。(あ)
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おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<167>大城小蟹、「ジャケ買い」の僥倖
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第158回 政治小説&陰謀小説・・・現実小説?
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→148 おはなしをとどける
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<167>大城小蟹、「ジャケ買い」の僥倖
皆さん、あけましておめでとうございます…なのだけど、元旦早々に能登半
島で大地震が発生したというニュースに驚愕してるうちに、翌2日には、羽田
空港で飛行機同士の衝突炎上事故と、立て続けに大事件が勃発し、お屠蘇気分
に浸る間もなく、波乱万丈の年明けとなった2024年。
地震と津波の被災地の皆さんには、一日も早く安寧と安心を取り戻せますよ
う、お祈りいたします。
そんな年明けになるとは思いもしなかった年末、ふと書店を覗くと、平台に
積まれたとある漫画本が目についた。
『うみべのストーブ』というタイトルが、まず目を引いた。
作者は、大白小蟹…「たいはく? おおしろ? こがに?」名前の読み方も
わからないその作家のことは、全然知らなかった。
しかし、初めて見る作家だけど、表紙のイラストも、なんだかいい感じだ。
中身は…残念ながらシュリンクされているので、内容は確認できない。
いつもなら、シュリンクを外してもらって中を確認するのだが、なんだかこ
の漫画は、すごく好みに合いそうな、そんな気がして、中は確認せず、そのま
まレジに持って行った。
買った書店は京都で、帰りの電車で早速読み始めたのだが、この“ジャケ買
い”は、大正解だった。
読み切り短編集で、表題作の『うみべのストーブ』が「第一話」なのだけど、
いきなり、やられてしまったのだ。
慌てて奥付を見ると、なんとこの本は2022年12月が初版で、わしが買ったも
のは2023年12月の「第4刷」ではないか。
しかも初出は、この欄でも度々取り上げてきたwebマガジンの「トーチ」だ
という。
人に「面白いよ」と薦めながら、自分自身ではここしばらく「トーチ」をチ
ェックしていなかった不明を、激しく恥じた。
ちなみに、その奥付で、作者の名前の読みは「おおしろ・こがに」だと分か
った。
表題作でもある『うみべのストーブ』は、とても不器用な男の子の失恋譚。
「スミオくん」は、一緒に住んでいた彼女のことがとても好きでたまらなか
ったのだけど、無口で口下手なスミオくんは、自分の「好き」を彼女にうまく
伝えられず、彼女は、そんなスミオくんが、とうとうわからなくて、不安にな
って、出て行ってしまう。
彼女が出ていってからというもの、部屋で泣き暮らしていたスミオくんに声
をかけたのは、彼女と二人の生活を見守ってきた電気ストーブだった。
ストーブは、毎日毎日泣いてばかりのスミオくんを見るに見かねて、とうと
う声をかけてしまったのだ。ストーブもまた、彼女のことが好きで、彼女がい
なくなってしまったのは、ストーブもまた悲しかったのだ。
突然人語を喋り出したストーブに驚愕するスミオくんだが、ストーブの提案
で、彼女が以前行きたがっていた冬の海へ、彼女を誘って行くことにする。
彼女にLINEを送り、ストーブと二人、冬の海へ行き、彼女が来るのを待ち続
ける…のだが、結局、翌朝になっても彼女は来ず、スミオくんのかたわらで、
電源がないにもかかわらず、なぜか点火したストーブが、懸命にスミオくんを
温めたにかかわらず、スミオくんは風邪をひいてしまう。
と、概略こういうお話なのだが、これが、沁みるしみる、もうなんとも言え
ず沁みるのだ。
2話目の、トラックドライバーの女性が、雪道で出会った雪女の「ユキちゃ
ん」と仲良くなって、夏に冷蔵車に乗せて、花火を見に連れてってあげる話も、
「さらり」とした読後感が、とてもいい。
これら、全7話が収録されていて、大半は「トーチ」に所載されたものだが、
後半の2話は、著者が自費出版したものと、ツイッター(現X)に掲載したも
のだそうだ。
表題作『うみべのストーブ』こそ男性主人公だが、他はすべて女性が主人公
の物語だ。
なにより、この彼女たちが、すごく「ナマ」で等身大なのが、いい。
そこには、確実に「生活」があって、過剰でない感情があり、日本のどこか
に、こんな風に毎日を過ごしている女たちが、いるに違いない…いや、いて欲
しい、という思いを抱かせる、七つの物語なのだった。
調べると、『うみべのストーブ』は、大白小蟹、初の単行本で、この本が注
目されたのをきっかけに、最近はウェブマガジンの「SINRA」と「路草」で、
新しい連載を始めたらしい。
「SINRA」連載の『周回するわたしたち』は、二人の女性それぞれの過去と
現在を追う物語で、現在2回まで連載が進んでいる。
「路草」の『みどりちゃんあのね』は、沖縄出身の作者自身の少女時代を題
材にしたもののようで、「みどりちゃん」は、主人公「静」の叔母で、東京住
まい。
この叔母が、いきなり沖縄へやって来ては、旧弊な封建的家風に縛られてい
た靜の家族に新風を吹き込む、とても痛快な物語。
いずれもこれからが楽しみな連載だ。
前々回紹介した「おぷうのきょうだい」とともに、「追っかけリスト」に
「大白小蟹」を追加した昨年暮れなのだった。
ところで、単行本『うみべのストーブ』には、各篇の最終ページの後ろに1
ページをとって、ここに作者自作の短歌が一首ずつ挿入されている。
『雪を抱く』に添えられた
<ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、はだかのからだ抱きしめてセンター街走る女たち>
というのと、『海の底から』の
<平凡でおもしろい人生今日はイルカにトスされたような日だ>
というのが、とても気にいった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第158回 政治小説&陰謀小説・・・現実小説?
数カ月前に島田雅彦氏の『パンとサーカス』を紹介した。
2024年幕開けの今月号は、同じようなジャンルの小説を紹介したい。
1年半前、2022年7月に奈良県で安倍元首相が背後から銃で撃たれ死亡した
事件があった。このテロは世間を震撼させ、また政界の奥深くまで根を生やし
ていた統一教会問題を一気に表面化させた。山上という犯人は元自衛官で、統
一教会信者の母親のせいで一家がばらばらになった、ということで安倍を襲撃
したと供述しているが、彼の単独犯なのか、彼の背後にもっと大きな組織が介
在しているのか、よくわからない。
今回紹介するのは、この事件をモチーフにした小説である。
『小説・日本の長い一日』
(本郷矢吹 著)(ART NEXT)(2023年3月22日初版)
著者の本郷矢吹氏は本書に紹介されている経歴によると警察官だったようで
ある。警視庁や神奈川県警ではない、外事公安担当の警察官として県警本部の
外事課に長く在籍していたそうである。そんな経歴の持ち主が警察や諜報機関
の内幕を描写する小説を書いた。この作品が本郷矢吹氏のデビュー作である。
初めに云っておくが、文章が洗練されておらず、読みにくい。したがってす
らすらと読むことができず、結果としておもしろくない。島田雅彦氏の『パン
とサーカス』と雲泥の差である。ストーリー展開も稚拙さは否めず、文章中の
主語が何なのか、誰なのか、またその発言の主は誰なのかわからなくなる場面
がたびたびある。職業としての作家が書いた小説(パンとサーカス)は素晴ら
しい完成度であるが、本作はかなりレベルが低い。同じモチーフで島田雅彦氏
が書いたら絶対にベストセラーになるであろう。
ではなぜ、この駄作と云っていい作品を紹介するといえば、この作品には著
者の考えがしっかり書き込まれており、そこを読者は受け止めた方がいい、と
考えるからである。
著者の考え、著者が本作を書いた意図はなにか、と云えば、あとがきに紹介
されているとおり、“自分の頭で考える”ということに尽きる。80年前、日本
は政府とメディアにより負けることが分かっている戦をしていた。時の政府と
一心同体だったメディアにより、国民は戦争に巻き込まれ、結果として、数知
れないほどの悲劇が起こった。政府が主導して、メディアを使って情報を操作
し、国民を洗脳して戦争へと突き進み、日本は自滅した。一番悪いのは政府に
間違いはないが、それを助長しお先棒を担いだ報道機関の責任も重大である。
しかしながら、もっともいけないのは、当時の国民一人ひとりなのだ。つまり
誰も“自分の頭で考え”ておらず、報道と発表を鵜呑みにしていたから、あの
戦争があった、ということである。また、戦後も同じように情報操作と洗脳に
より、日本は米国の半植民地となっている。日米安保条約が日本国憲法より上
位の法規になっていることがまさにその証左であろう。かように、戦前は政府
により、戦後は米国により、国民の頭の中は操作され、洗脳を受けている、と
いうことだ。・・・・・・これが本書の著者の意見であるが、執筆子も首肯す
る処は大である。洗脳云々という文言はともかく、“自分の頭で考える”とい
うことはとても大事だと思っているからだ。したがって、執筆子は本書につい
て、一人ひとりが自分でしっかり考えて行動しよう、ということを啓蒙する小
説だと判断した。
そういうわけなので、多少拙くても我慢して最後まで読むことを勧める。例
えば、本文の中にこんな一節がある。主人公が自宅のPCでキーワードを入力
して検索してみる場面。
「山田(注:主人公)は改めてSNSの情報量に驚かされたが、結局は自分
に情報がなければ、そして知識がなければ「陰謀論」にしかならないことに気
が付いた。」
そこにある有象無象の情報を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えた情
報収集と自分の頭で考えた分析と自分の頭で考えた判断が絶対に必要なのだ。
さて、本書について。冒頭で元総理が襲撃され死亡する。犯人は元自衛官。
そして宗教法人の献金問題も絡みつき・・・。という実際にこの国で2022年に
起きたことをなぞるように展開していく。犯人の元自衛官は留置中に自殺して
しまい、この元自衛官が単独で行ったのか、それとも組織が関係しているのか、
調べられなくなってしまう。すべての証拠は単独犯を差しているが、大きな組
織が動いているという状況証拠もあり、警察庁と防衛省に在籍しているふたり
の主人公は、相談しながら、巨大な組織に立ち向かうべく、日本にも新たな組
織が必要である、ということで一致し、その新組織の設立のために仲間を増や
しながら奮闘する、という物語。ここでいう既存の巨大な組織とは、本書では
“3文字”の組織ということで、表現されているが、つまりは米国のCIAを
指している。日本での新組織の設立とは、現在日本にはないいわゆる諜報組織
(JCIA)を作ろうということだ。既得権益を守ろうとする役所や米国を相
手にたいへんな努力をしながら、話は進んでいく。
日本にも諜報機関が必要かどうかは、判断が分かれるところであろう。本書
の著者は明解に、日本にも諜報機関が必要だ、という考えで本書を執筆したわ
けだ。
なぜ、諜報機関が必要かと云えば、日本の国益のためにはたとえ同盟国であ
っても同盟国の内部を調べなくてはならないが、現在の日本にはそれをする組
織がない、ということのようだ。そういうことを承知して本書を読み進めれば、
本書は意外に面白い。
問題意識のある方には、ぜひ一読を勧めたい。
多呂さ(能登半島での出来事には心が痛みます。心は被災地の皆さんと一緒で
す。ご自愛ください。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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148 おはなしをとどける
年があらたまりました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
いつもと同じように寝て起きてはじまるその日に、大きなできごとがおき、
心おちつかなくなっていることと思います。みなさまが深く呼吸をしてあたた
かく過ごせますよう。いつもの日常が早く戻りますように。
そんな折、小野和子さんを紹介するテレビ番組をみました。
小野和子さんは半世紀以上、東北の村々で民話をあつめてこられた民話採訪
者です。
村の方々の語りを聴いていると、むしょうに民話を読みたくなり、小野和子
さんの民話集をさがしました。
『みちのく民話の深い森:古老の語りと小野和子のあと語り』で、民話につい
てこう書かれています。
(引用ここから)
わたしたちの先祖が年月かけて生み出し、育ててきた口伝えの物語、それが
民話です。
作者もなく、いつ生まれたのかもわかりません。けれども、山の村や海辺の
町で、たくさんの人の口をとおして、ずっと語り継がれてきました。人々の喜
びや悲しみ、慰めや苦悩などを、まるでとろ火で煮詰めるようにし味付けされ
た話たちの群れなのです。
(引用ここまで)
本にはよく「あとがき」がありますけれど、小野さんは、民話の周辺を彩る
エピソードを「あと語り」と名づけ、本書では、ひとつの民話のあとに、その
「あと語り」を入れる構成になっています。
「のんびり卵」は、のんびりやの兄ちゃんが縁側で昼寝しているときに、風が
吹いて、着てるものもぜんぶたなびいて、だいじなチンチンコまで出してしま
い、あろうことか、玉がぽたぽた縁の下におとしてしまうのです。
母ちゃんがニワトリの卵とりしたときに、縁の下に見かけない卵を2つ見つ
けます。えらく黒いその卵は、ふつうの卵より何日もかかって真っ黒なヒヨコ
がでてきたそうです。チンチンチンとしか鳴かないヒヨコは、練習してようや
く「グーグリフ グーグリフ」と鳴くようになり、母ちゃんはびっくり。
まわりのニワトリがコケコッコーと鳴けるようになったとき、黒ドリ二羽は
なんと鳴いたでしょう。
グリフの意味をご存じの方は笑いが出るでしょうか。
私は最初にわからず、へぇとなってしまいました。
この話を語ってくださった方は、自分のじいちゃんから、毎夜のように昔話
を語ってもらっていたそうです。「のんびり卵」は、小学校にあがって、はじ
めて作文の宿題がでた時、「作文」がなにかをわからず、「のんびり卵」の話
を書き、それを前に出て発表したところ、先生が困った顔をしたそうです。
小野さんはこう「あと語り」に書かれています。
(引用ここから)
小便臭い民話――なるほど、そういう話ならたくさんあるし、そういう話の
妙味ということでいえば、日本民話の独断場といってよいかもしれません。
(引用ここまで)
そして、たとえ話を教えてくれます。
なんにもなくなり、明日は死ななくてはと追い詰められたお年寄り夫婦。夜
に小便したくなったけれど、便所まで行くのもたいへんと、庭で小便をします。
その音をじっと聞いて楽しんでいた爺さまに、はっと思い浮かぶものがありま
す。それを実行したら、福しく暮らすことができたという話です。
人間のシモを大切に扱って、福の原点をみているのはすごいと小野さんは語
ります。
もう1冊読みました。
『おさないひとたちのためのむかしばなし みやぎ民話の会叢書』
こちらではタイトルのとおり、ちいさい人たちに向けた昔話がおさめられて
います。
どのお話も読んでいるうちに、いつのまにか声に出して読んでいました。
リズムがあって、読んでいると心が喜びます。
この本のまえがきもいいのです。
(引用ここから)
むかしむかしのおはなしは、おじいさんおばあさんのむかしから、口から耳
へ、耳から口へと、とどけられてきたものです。みなさんのところへもおとど
けします。どうぞ、うけとってください。
そして、みなさんがすんでいるこの世のなかには、たのしいことや、ふしぎ
なことや、おもしろいことがいっぱいつまっているんだなってことをしってく
ださい。それからにんげんじゃなくて、どうぶつもしょくぶつも、みんないの
ちをもって、にんげんといっしょにこの世のなかに生きているんだってことも、
あなたのこころでかんじてくださったなら、ちいさいちいさいおはなしたちは、
ぴょんぴょんはねてよろこぶにちがいありません。
(引用ここまで)
おはなしたちのように、読んだ私の心もぴょんぴょんはねました。
(林さかな)
https://1day1book.mmm.page/main
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
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をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #163『ブエノスアイレス午前零時』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『瓜を破る』板倉梓 週刊マンガタイムスコミックス
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです。
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#163『ブエノスアイレス午前零時』
このタイトルは、タンゴの革命児ピアソラの名曲と同じ。そして物語は、社
交ダンスがモチーフ。
なのに、本編の中でこの曲は流れないのです。
「遠くかすかに、ジョニー・マチスの歌うムーン・リバーがかかっていて、カ
ザマは息をゆっくり吹き上げた。次はゴッド・ファーザー・ワルツだ。その次
は、メイ・イーチ・デイ。ゴールデン・タンゴ。エル・ポリト。ア・ワンダフ
ル・ガイ。オ・ザット・フィーリング。マイ・カインド・オブ・ガール……。
耳が腐るほど、聴かされた。」
でも、「ブエノスアイレス午前零時」はかからない。
いや、待てよ、社交ダンスにはとんと疎いですが、この曲、そんな場合に流
れるんですかね?
その昔、フィギュアスケートで使われていたのはうっすら覚えているけど、
いわゆる典型的なタンゴではないし、踊るとなると結構難しいのでは?
と、少々先走りましたが、藤沢周が芥川賞を受賞した本作の舞台は、東京から
雪深い故郷にUターンした青年カザマが勤める、古びた温泉ホテル。スキー場
から微妙に遠く、冬場は客足がすっかり遠のくため、だだっ広いホールがある
こと、オーナー夫妻自身の趣味でもあることから、社交ダンスのパックツアー
に活路を見出しています。
五十代、六十代の男女が、恐らく東京からバスで乗りつけ、社交ダンス三昧
を楽しむ。カザマ初め従業員も、通常の仕事の他に夜はレコード係やダンスの
お相手を務めさせられる。
ある時、そんな客の中に、カザマは一人の老女を見出します。初め、「珍し
く若い女がいるな」と思うのですが、サングラスのその女性ミツコは、実はこ
の場でも高齢の方。しかも、糖尿病で視力を失っている上に、痴呆症――いま
で言う認知症でもあるらしい。
そんな二人を軸にした物語ですが、もちろん、ありふれた年の差恋愛なんか
にはなりませんから、ご安心。
それにしても、ダンスがモチーフである以上、これは当然音楽にも深くかか
わっているわけですが、実は、聴覚よりも、むしろ嗅覚の小説である、という
印象なのが面白い。
例えば、社交ダンスの時間になって、ホールに人が集まると、「ポマードと
化粧品のにおいでむせ返るほど」になる。「そして、ドレスにしみついたナフ
タリンのにおい。」
この、ポマード、化粧品、ナフタリンの3点セットは、繰り返し現れます。
もうひとつは、「温泉卵のにおい」。
目の見えないミツコが、カザマの体に温泉卵のにおいがしみついていること
を指摘し、以降、彼を識別する度に言及するのです。
これは、カザマの毎朝一番の仕事が、朝食に出す温泉卵をつくることだから
で、それがいつの間にかしみついている。それだけ東京から戻って日が経つこ
とを示しているわけです。
しかし、重要なのは、ミツコがそのにおいを嫌がってはいない、むしろ好き
だということ。
「あなた……温泉卵の、いいにおいがするわ」
それは、亡くなった彼女の夫が煙草を吸うのに、いつもマッチを擦っていた
から。その時にリンが燃える硫黄臭を思い出すからなのです。
そしてカザマはラストで、これまでのやりとりをすっかり忘れた認知症のミ
ツコに、
「あなたは……何をなさってるの……お仕事」
と再び訊かれて、
「温泉卵をつくっている」
と即答します。
ポマードと化粧品とナフタリン。
温泉卵。
ふたつの匂いは対照されているのでしょうか。
ミツコは「……ほら、ドレスの音と、靴の音と……、白粉のにおいと、ね、
それと……樟脳の、においが好きなのよ。変でしょう?
ドレスに染みついた樟脳のにおいが好きなの……」とも言います。
しかし、社交ダンスに興じる男女は、カザマの目にはっきりと「俗物」とし
て映っています。
女たちは、化粧を分厚く塗りたくり、ダンスパーティーというより仮装パー
ティーにしか見えない。恐らく一張羅であろうドレスが、ほんの少しでも汚れ
ようものなら、怒り狂い、ヒステリックに喚き散らす。
男たちは、薄い髪をポマードでてかてかに光らせ、自分は建設省の役人だな
どとカザマにまで肩書をひけらかす。ミツコのことを「昔本牧で娼婦だった女
らしい」と憶測し、「そんな女をこういう場に連れて来るのはいかがなものか」
と大所高所から批判する。
こうした醜いスノビズムを象徴するものとして、ポマード・化粧品・ナフタ
リンはあるように思えます。
こういう場合、普通小説では対応する匂いが出てきて、それはわかりやすく
「俗」に対する「聖」を象徴するはずですが、カザマの匂いは、ミツコが好き
な温泉卵の匂いであり、それは彼女の夫が「地球の、奥のにおいがする」と言
った、硫黄の匂いなのです。
どうも、「聖なる匂い」とは言えそうにありませんが、しかし、「地球の奥
の匂い」という表現には、物乞いや頼病患者が「卑」の最底辺から翻って「聖」
に転じるという逆説的な意味での聖性が感じられないでしょうか。
やはりこれは、非常に屈折した、ひとつの対照関係だと考えるべき……かな?
そして実はタンゴという音楽が、ブエノスアイレスの貧しい下町で生まれた
卑俗な音楽でありながら、ピアソラの天才をもって遥かな芸術としての高みに
達したことも、タイトルからの連想で思い起こされるのです。
さらにこのタイトル、「ブエノスアイレス」と「午前零時」から成っている
こと、すなわち「場所」と「時間」から成っていることにも注目です。
なぜなら、認知症というものは、その「場所」と「時間」を忘れてしまうこ
とであり、それはむしろ、時空を自在に往還しているとも言える立場だからで
す。
ミツコはしきりに、ブエノスアイレスにいるらしいネストル・ブラガードな
る男に電報を打たなければ、と言います。送金が遅れる、と伝えるために。
その時、彼女の心は恐らく日本のかた田舎の温泉ホテルにはない。華やかな
都会に暮らしていた若い頃にある。そしてブラガードという男に度々金を送っ
ていたのも、その遠い過去の出来事なのでしょう。
だから認知症患者ミツコは、「時空の旅行者」――「時をかける老女」なの
です。
さて、今年もまた暮れて行きます。
行き交う年もまた旅人なり。人生の旅もひとつのタイムトラベル。ただし、
片道切符ではあるけれど。
皆さまも、どうぞ、新しい年にお乗り遅れなく、よい旅をお楽しみください。
バヤ・コン・ディオス。
藤沢周
『ブエノスアイレス午前零時』
一九九九年九月二五日 初版印刷
一九九九年一〇月四日 初版発行
河出文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
本年もおつきあいただき、ありがとうございました!
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『瓜を破る』板倉梓 週刊マンガタイムスコミックス
来年ドラマ化されるコミックのようだが、知ったのはSNSの広告が流れてき
たからだ。コミック第一巻の惹句は、こうなってる。
「30代処女が抱える性的コンプレックスの行方とは…!? ごく普通の会社員・
まい子には人に知られたくない悩みがあった。それは30歳を超えても性体験が
ないこと。劣等感に悶々とする彼女は自分を変えるべく行動を起こす。誰もが
心当たりがありそうな、言葉にならない思いをあぶり出す現代の冒険譚」
まい子が主人公なのだが、サブキャラも負けないくらいの存在感を放ってい
て、実際は群像劇と見た方がいいだろう。
スタートは、同僚の結婚に複雑な思いを抱えるまい子。30歳超えているのに
性体験がないことに焦りを覚えているが、会社の切れ者上司味園美由紀も自分
と同じではないかと考え、彼氏はいるかと聞くと、10年同棲している聞いてま
すます落ち込む。
いわゆる女性用風俗に行こうかと思ったが、愛のないセックスなどしたくな
い。そんな時に同窓会の案内がやってきて、この人ならと思える人に初体験の
相手をして欲しいと頼む。
そんな時、切れ者上司味園は、長年同棲していたパートナーに家出される。
仕事のストレスがたまっている上に、大嫌いだった元同僚の辻が子育てから開
放されたと再入社してくることにイライラして、思わずパートナーを叱責して
しまった。
パートナーの真は、美由紀が疲れていると思って気晴らしにタイに行こうと
勧めただけなのだが、怒られたのがショックだったのか、荷物をまとめて出て
いってしまう。勤務先に聞くと、長期休暇を取ってタイに行ったと言う。大切
な人になんてことをしたのかと後悔する。
味園美由紀を、ある意味精神的に追い込んだ辻も、実は味園美由紀と昔は仲
良しだったが袂を分かった。再入社してきたのは、まい子や美由紀とはまた違
った挫折感を持っていて、まい子と付き合うことになる男、鍵谷もまた・・・
という群像劇。
彼らはそれぞれ自分の殻を破ろうとする・・・と書くとキツすぎると作者は
思ったのだろうか。一応、処女喪失を「破瓜を破る」と言うが、「瓜を破る」
というタイトルにした理由は、それだけではないような気がする。
社会の常識、あるいはイメージ通りの人生を過ごそうとして、おいてきぼり
をくらった人たちの物語なのだと思った。30歳処女、カッコはいいがストレス
たまりまくりで息抜きのできないキャリアウーマン、求められる場所を失った
り、同じことを繰り返すしか人生を過ごしてこれなかった人・・・
学校を出て、会社に入り、適当な時期に結婚して、希望あふれる未来に着々
と歩を進めるキャリアを積んでいくという、世間ではモデル人生みたいに考え
られている生き方から、彼らは外れた存在だ。そんな人たちが相互に影響しな
がら瓜をどうやって破っていくのかが、この作品のテーマなのだろう。
テレビドラマになるのもさもありなん。こういう社会の常識、あるいはイメ
ージ通りの人生から微妙に外れている人は少なくない。たとえば結婚など、も
はや誰でもできることではなくなった。
生涯未婚率が上昇していることは多く方がご存知だろう。以前なら、恋愛弱
者でもお見合いのようなシステムに乗ることらよって結婚はできた。しかし今
はそんな基盤はない。
だから生涯未婚率は上昇し、結果として少子化が進む。結婚してしまうと子
供は2人は欲しいと思うが普通で、実際に結婚したカッブルの出生率は2を上
回る。婚姻数が少ないから、既婚カッブルの“貯金”を全て吐き出しても足り
ず、少子化が進む。
お見合いの代わりに婚活アプリがあるじゃないかといった反論は無意味だ。
独身評論家・荒川和久氏によれば、婚活アプリに登録してもモテる奴は持てる
しモテない人はモテないことに変わりはない。なので、荒川氏は婚活アプリと
はモテる奴だけかトクをすると断じるのだ。
そんな現実を前に、登場人物たちは希望を成就することができるのか?おそ
らく、この作品を好む人は、自分の人生を振り返りながら、自分に近い登場人
物に自分を重ね合わせて読んでるはずだ。
そんな読者の期待に、作者はどう答えるのか?8巻まで出ているコミックの
4巻までしか読んでいない私にはわからない。作品のメッセージが「何歳にな
っても人生あきらめるな!」になるのか、「人の考える人生でなくても。自分
が満足ならいいじゃないか」になるのか、あるいは全く別のメッセージになる
のか?のどれかになるとは思っているけども、今のところ着地点がどこになる
のかは見えない。
一読者としては、どれが着地点になるのか、わくわくしながら読んでいくの
が正解なのだろう。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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年末から体調不良で配信遅れました。すみません。(あ)
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★トピックス
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★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<166>「アレ」と「旧」の一年なのだった
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→147 思い出といっしょに読むこと
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第157回 歴史の分岐点としての関東大震災
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<166>「アレ」と「旧」の一年なのだった
2023年も、そろそろまた暮れようとしておりますが、皆さま、今年は如何な
年だったでありましょうか。
振り返ってみれば、今年、2023年という年は、「アレ」と「旧」につきた一
年だった、と思うのです。
「アレ」は、もう言わずもがな、AREでありまして、11月には「アレのアレ」
なる派生語も生まれて、ついには流行語大賞にも選ばれてしまった。
そうですね、我が阪神タイガースの、18年ぶりのリーグ制覇と、そしてこち
らは38年ぶりとなる日本一の達成です。
奇しくも、パ・リーグの覇者はオリックスバファローズで、日本シリーズは、
「59年ぶり」の関西対決ともなったのでした。
ちなみにバファローズは、「バッファローズ」と誤表記されることがままあ
るらしく、球団もかなり神経を尖らせていて、公のメディアで誤表記された場
合など、結構厳しく抗議するらしい。
今年の日本シリーズは、双方とも関西球団というだけでなく、その本拠地球
場が、どちらも阪神電車の沿線にある、という点でも特異だった。
甲子園球場は、言うまでもなく阪神本線・甲子園駅が最寄りで、オリックス
の京セラドームは、阪神なんば線のドーム前駅。
双方の駅を電車が直通していて、所要約20分。
阪神電車によって「なんば線シリーズ」と命名されたシリーズは、第7戦ま
でもつれ込こんだこともあって、関西ではことに、大いに盛り上がったのであ
りました。
この「関西対決」をめぐって、わしの周辺では「かつてのアレが現実になっ
た」と、もうひとつの「アレ」をめぐって、俄かに盛り上がったのです。
その「アレ」とは、1974年に発表された、かんべむさしのSF小説『決戦・日
本シリーズ』だ。
その年、パ・リーグでは阪急ブレーブス、そしてセ・リーグでは阪神タイガ
ースが、ともに破竹の進撃を続け、ペナントを制する。
ともに関西球団、しかもその親会社は、創業以来のライバル関係にある、阪
急電車と阪神電車。
双方のファンによる応援も、それぞれの沿線住民も巻き込んでの大騒動とな
る。
ブレーブスの本拠地である西宮球場とタイガースの甲子園は、ともに西宮市
内というだけでなく、阪急電車の今津線を介して、奇しくも線路がつながって
いる。
その故に「今津線シリーズ」と名付けられた日本シリーズは、両球団の話し
合いにより、シリーズを制した方が、相手の線路に自社の電車を乗り入れ、パ
レードをすることとなった。
双方のファンのボルテージも上がりまくり、試合前の球場では、小競り合い
が絶え間ない。
警備にあたる警察官が、暴走するファンを制止しようとすれば、「うるさい!
お前は、どっちのファンやねん!」と問い詰められる始末。
警官が「ほ、本官は、どっちでもない。巨人ファンである!」と叫ぶや、
「けっ! 家帰って卵焼きでも食うとけ!」
と、このくだりには、大いに笑った。
小説は、シリーズ前の大騒動が描かれた後、シリーズ開始後はページが上下
二段に分かれ、それぞれ「阪急勝利バージョン」「阪神勝利バージョン」と上
下二本立てで進行するのであった。
これのどこが「SFなのだ?」と疑問が湧く方もいらっしゃるだろうが、この
当時、阪急ブレーブスは、確かに日本シリーズの常連だったのだが、阪神タイ
ガースが日本シリーズに進む、というその設定が、もはや「SF」だったんであ
る。
当時のタイガースは、毎年毎年「ダメ虎」街道まっしぐら。日本シリーズど
ころか、Aクラスも覚束なく、『裏声で唄へ六甲おろし』などというミュージ
カルまで上演されていたのだ。
その「SF」が、この度やや形を変えて実現してしまったのだが、今や、かつ
ての「阪急ブレーブス」は、金融屋さんに身売りして「オリックスブルーウェ
イブ」となり、更にその後、近鉄バファローズを吸収合併して「オリックスバ
ファローズ」となる一方、タイガースの親会社もまた、阪急と合併して「阪急
阪神」となってしまう…などと、あのころの誰が想像できたろうか。
まさに、現在のこの事実こそが、あのころからしたらよっぽど「SF」だ。
そして、もうひとつの「旧」。
こちらもまた、「今年の漢字」に選ばれてもおかしくないほど、この一年間、
いたるところに溢れていた。
曰く、「旧ツイッター」、「旧ジャニーズ事務所」、「旧統一教会」、各メ
ディアの報道で、およそこの「旧」の字を見ない日が、あったろうか?
わざわざ括弧で括ってまで「旧」と表記するのは、「新」のほうの名称が浸
透してないゆえだが、「旧統一教会」なんて、それ自体がすでに名称と化して
いて、誰も「新」のほうを知らない、という逆転現象。
います? 旧統一教会の新しい名前をソラで言える人。
わしは、覚えてません。
「X」ってのも…なんですか、これは?
およそセンスのかけらも感じられないネーミングだし、日本語の文中にただ
「X」と入っていても、俄かには意味が通じない…ゆえの「旧ツイッター」と
の但し書きなんだろうが、これ、いつまで続けるんだろう。
せめて、アルファベットじゃなくて「エックス」と、かな表記にした方が意
味が通じ易いと思うのだが、「X」でないと「ダメ!」という、イーロン・マ
スクからの要請でもあるんでしょうか?
そうこう言うてるうちに、なにやら、「旧日本大学」とか「旧宝塚歌劇団」
なんてことになりそうな事件が勃発している年末なんだけど、来年は、さてど
んな年になりますことやら。
皆様方におかれましても、どうか無事に「旧」を乗り越えて、よき新年を迎
えられんことを祈念して、今年最後の稿を締めさせていただきます。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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最初に前号での誤字についてお詫びします。
『カタリン・カリコの物語』
デビー・ダディ 絵 ジュリアナ・オークリー 訳 竹内薫 訳
医学監修 山内豊明
> 本書の翻訳は竹内薫さんとなっていますが、竹内さんが校長をつとめられて
>YESインターナショナルスクールの生徒さんたちが、国語のプロジェクト授業
>で翻訳、それを、翻訳家の竹内さとみさんと竹内薫さんとので最終調整して仕
>上げたそうで、訳文にも注目です。
竹内さとみさん ⇒ 竹内さなみさん
申し訳ございませんでした。
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147 思い出といっしょに読むこと
読んでいて、ねこは飼っていないのですが、自分のまわりにねこがいるよう
な感覚をもちました。
『ねこもおでかけ』朽木祥 作 高橋和枝 絵 講談社
小学生の男の子、信くんが飼っている犬のダンと公園で散歩していたときに
茶トラの子ねこと出会います。
野球帽にすっぽり入るくらいの子ねこを、そのまま公園にはおいておけず、
信くんは家に連れ帰ります。
ねこも飼いたいなと思っていたお母さんは大喜び。ところが、同じく動物好
きのお父さんは、元いた場所に戻してきなさいといいます。なぜでしょう。
しかし、いろいろあって、信くんの家で飼えることになり、名前もトラノス
ケと名付けられます。
この物語は、トラノスケと信くんの物語です。
名前をつける大変さ、もとからいたラブラドール犬のダンもトラノスケとの
生活、家族が増えたことにより、いままでダンにだけ注がれていたものが、分
け合いになること、外に出るようになったトラノスケはどんなことをしている
のか。
そしてトラノスケの存在はいままでとは違う人とのつながりをもたらせてく
れ、ひとつひとつのエピソードが、なんともいえない、やわらかみのある言葉
で語られて、ねことの生活がくっきり見えてきます。
読み終わったあと、家のなかにねこの気配を感じました。不思議な読後感で
す。
余談ですが、我が家のねこにまつわる思い出は、娘が小学校1年生のとき、
夏休みの計画で一日のスケジュールをつくったときのことです。先生から自分
の好きなように考えていいといわれ、娘はねことさんぽする時間をいれました。
私はそれをみた時、ねこを飼っていないのになぜ?と思ったのですが、好きに
書いていいといわれたので、やってみたいことを書いたと教えてもらいました。
ねことさんぽするのは、なかなかいいなと思い、いまでも覚えています。
次に紹介する本も小学校低学年からにおすすめする、あったかい物語。
『赤いめんどり』
アリソン・アトリー 作 青木由紀子 訳 山内ふじ江 絵 福音館書店
一人暮らしのおばあさんには、身よりも友だちもいません。
毎日、畑しごとや家の片付けでいそがしくしていましたが、冬になると外仕
事もできなくなるので、ひとりぼっちをさみしく感じていました。
そんなとき、赤いめんどりが家にやってきます。やせこけていためんどりに
おばあさんは、ミルクにひたしたパンをあげ、心地よいねどをつくってやりま
した。
赤いめんどりの元の持ち主は、いじわるな夫婦でした。男はめんどりを夕食
の材料にしようと探し出し、おばあさんの家にもやってきます。
なんとか、男を追い払い、おばあさんと赤いめんどりは一緒に暮らすように
なり、それぞれ得意なことで働き、生活にゆとりも生まれるようになりました。
しかし、そんな矢先、また男がめんどりを取り戻そうとし……。
この後、赤いめんどりがどんな活躍をしたのかはお楽しみ。
山内ふじ江さんの絵も物語にぴったりです。おばあさんのさびしい生活は表
情からしみじみ伝わり、ゆとりがでて明るくなっていく様子は読んでいるこち
らまで笑顔になります。細い線画と中間色を活かしたぬくもりのある絵はふか
い余韻をのこします。
次にご紹介するのは絵本です。
岩波の子どもの本創刊70年の記念新刊の一冊は、チェコのわらべうた。
『きつねがはしる チェコのわらべうた』
ヨゼフ・ラダ 絵 木村有子
3人の子どもたちは、わらべうたをよく歌う保育園に通っていたので、親も
覚えてよくうたいました。声域が子どもののどに負担なく、楽しいうたなので
大人になったいまも、そらでうたえるものがあります。
わらべうたは、子どもの心を楽しませてくれるもの。
この絵本を読んでいても、知らずのうちに声に出して読んでいて、小さい子
どもがいるときのように、読んでいるこちらまで朗らかな気持ちになりました。
ヨゼフ・ラダのユニークで愉快な絵をみながら、わらべうたを口にだしてみ
ませんか。「シーソー」の冒頭をご紹介すると、
シーソー
ぎったん ばったん ぎったん ばったん
よわむし こわがり どこにいる
というように、リズミカルで次々うたいたくなります。
最後にご紹介するのも絵本です。
『みんな、空をとべる』
ジャクリーン・ウッドソン 作 ラファエル・ロペス 絵 都甲幸治 訳
汐文社
訳者、都甲さんの日本語版解説に「人は空を飛べる」は黒人奴隷たちの古い
知恵だと書かれています。
作者、ジャクリーン・ウッドソンは、子どものころ、奴隷にされる恐ろしさ
を人々はどう生き延びたのだろうかと思っていたと、絵本の最後に書いていま
す。物語という「翼」をつかって、自分の世界に「飛んで」いくことで、つら
い時期をのりこえたのではと。
絵本では、子どもたちがつまらないと感じたときや、周りとうまくなじめな
いときに、おばあちゃんから教わった言葉が響きます。
2本のうでを上げ、
ふたつの目をとじて、
ふかくいきをすいこみ、
しんじるの。
そして、子どもたちは空を飛べるようになるのです。
おばあちゃんは、自分より前にここにきた人たちに、空の飛び方を教わりま
した。大きな船で運ばれ、手首や足首に鉄の鎖につながれてきた人たちから。
ジャクリーン・ウッドソンは物語のあとに、あらためてこう書いています。
ときには、変化への第一歩とは、ふたつの目をとじ、ふかくいきをすって、
べつのありかたをおもいうかべてみることだ。
今年のおすすめ絵本です。
(林さかな)
https://1day1book.mmm.page/main
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第157回 歴史の分岐点としての関東大震災
100年前の関東大震災は、1923年(大正12年)の出来事で、その14年後の1937
年(昭和12年)の盧溝橋事件から日中戦争となり、さらにその4年後の1941年
(昭和16年)に太平洋戦争が始まる。
関東大震災は、日本が近代化、西欧化に向けて邁進していく坂道の途中で起
こった大災害であり、この首都を襲った大災害がその後の日本の運命を変えた
ターニングポイントになった、という論調の本が出版された。
災害を自然の猛威とか、復旧復興、医療福祉、土木建築など、現在云われて
いる災害後のさまざまに論じられている諸問題とは別に大きな歴史のうねりの
中でこの大災害を論じている、という点で優れた視点だと思った。
『関東大震災 その100年の呪縛』(畑中章宏 著)(幻冬舎)(幻冬舎新書)
(2023年7月25日初版)
前回に紹介した書物(『災害の日本近代史 −大凶作、風水害、噴火、関東
大震災と国際関係−』(土田宏成 著))では、“災害の上書き”というフレ
ーズで日本におけるさまざまな災害を俯瞰していたが、本書は関東大震災をそ
の後の歴史の始まりと位置付けている。
どういうことだろう?
関東大震災は、表層的にも根本的にも東京を“更地”にするほどの大災害で
あったが、それにもかかわらず、東京において、また都市において、建築とか
土木とかそういう表層的な景観的な変化だけでなく、社会制度や社会政策など、
またそこに住む人の考え方や生活様式を変えることはできなかった。東京への
一極集中は続き、格差の是正はなされぬまま、日本は戦争に突入してしまうの
だった。つまり、関東大震災は、変化の大チャンスであったが、その千載一遇
の機会を日本と日本人は逃してしまった、ということが本書の主題なのである。
本書は云う。「関東大震災はリスボン地震がその後の近代的啓蒙思想の勃興
に寄与したような文明史的転換のきっかけに、なぜならなかったのか。・・・
関東大震災は日本人の災害観、自然観を強化、固定化したばかりで、それらに
対する反省、検証を怠ってしまったのだ。・・・問題の軽視はナショナリズム
を呼びおこし、戦争への道を開いていったのだ。」
・・・と断言している。
具体的な例を挙げれば、地震の後の朝鮮人の虐殺から続く、官による戒厳令
の布告、そして治安維持令の公布、それゆくゆく治安維持法へと拡大していく
わけである。地震後の治安維持を優先するあまり、人々の人権を軽視してしま
った。郷土への愛着を愛国心にすり替えたのは、国家の巧妙な戦略といってい
いだろう。
まもなく発生してから13年が経つ東日本大震災においても、日本は関東大震
災後と同じように変わることができなかったのは明白である。結局原子力発電
を手放すことができなかったこの国に、もはや変化は望めない。
大地震は社会を変えるほどの力があるが、日本にはそれが通用しないのだ。
それはなぜだろう。本書によれば、日本ではなにかが起こったときの原因・責
任の曖昧さにその原因がある、という。近代の大地震では、自然災害の域を超
えるような大きな被害が生じる。関東大震災では、10万人が犠牲になったとい
う火災があるが、これは過密で可燃性の高い都市の構造が原因である。またよ
く議論になるが、戦争責任が曖昧なまま、もうすぐ敗戦から80年になってしま
う。そして東日本大震災での福島第一原子力発電所の事故では、誰がどこが責
任を取ったのだろうか。
東京オリンピック。あの2020は、「復興五輪」という名目で開催されたが、
その理屈が誰の目にも笑止千万なものであることは疑う余地がないのだが、そ
れでもこの国はそれを大上段に振りかぶって、このオリンピックを無観客で開
催してしまったのだ。
災害を自然現象として片づけてしまうのではなく、社会現象として問題化し
なければならないのだ。そうでないと、いつまでもこの国は同じことを繰り返
し続けることになる。
多呂さ(暖かい師走です。それでも寒波はきっとやってくるでしょう。ご自愛
ください。)
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りますね。信じられません。(あ)
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #162『論理哲学論考』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『料理研究家のくせに「味の素」を使うのですか?』リュウジ 河出新書
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『自分の考えをパッと80文字で論理的に書けるようになるメソッド R80』
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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#162『論理哲学論考』
いや、見事にチンプンカンプンですわ。もう、笑っちゃうくらい。
でも、たまには頭を悩ませながら本を読むのもいいのでは。特に秋の夜長…
…ってか、今年はいきなり冬?
ともあれ、哲学史上に隠れもないレジェンド、ウィトさまの『論理哲学論考』、
ぜっんぜんっ、わかんない。のに! 3回も読んだのです。
それは、わかんないのに、ところどころ、はっと刺さるかっこいいフレーズ
があるから。
一番有名なのは、最後の命題。「語りえぬことには沈黙せよ」とかってやつ
だと思いますが、これなんかも、「おおっ」と感動(本稿の最後で正確に引用
してます)。
禅で言う「不立文字」? 小田和正の言う「言葉にできない」?
しかし、禅僧が修業を通じて一気に到達するところに、ウィトゲンシュタイ
ンの『論理哲学論考』はひたすら論理を積み重ねて昇り詰めるのですよ。それ
が凄いというか、何とも凄まじい。そら、ちょっと頭、おかしくもなるよね。
本書は一連の文章ではなく、短いテーゼを並べていく方法で書かれてます。
スピノザとかと一緒。
だから、チンプンカンプンでも、ある一行に突如びびっと反応してしまうと
いうことが起こり得るのです。
つまり、一種の箴言集、名言集としても読めちゃう。邪道ですよね、きっと。
でもそこは、読む自由というやつで。
とにかく本は一旦世に出たら、もはや読者のものなのだ、わはは、ざまを見
ろ(ここ、筒井康隆調)。
とはいえ、ここで提起されている写像理論は、朧気ながら、ちょこっとわか
るんです。なぜなら、芝居を見たから。
そう、なんと、ウィトゲンシュタインを主人公にして、彼が写像理論を思い
つくところを描いた、日本人による演劇があったんですよ(タイトルは長すぎ
て失念)。
それは、戦争中のこと。従軍したウィトゲンシュタインは夜、テーブルに置
いたパンやらソーセージやらを山とか敵軍に見立てて、翌日決行する作戦のシ
ミュレーションをしている。その時、はっと気づく。
これはパンなのに、いまは山だ! これはソーセージなのに、いまは敵軍だ!
どうしてこのようなことが起こるんだ?
しかも、これは自分一人に起こっているのではなく、いまここにいる戦友た
ちも、同じようにパンを山、ソーセージを敵軍と理解して、話が通じている!
これは、なんと不思議なことではないか!
このように、凡人が「え、そんなの当たり前じゃん」とスルーしてることに、
改めて驚くことができる、いっそ驚愕すらできる、ということが哲学者の資格
なのですね。
言葉というものには、こうして現実を、ある方法で写し取ることができる。
それをウィトゲンシュタインは「写像」と呼び、その性質について深く思索を
始めるんですが、この時、連想するのが「楽譜」なのです。
これはもちろん、『論理哲学論考』にも出てくるんですが、音というものを、
紙の上に記号を用いて「写像」したのが、楽譜である、と。なるほど、そう言
われれば、この「写像」ってかなりわかりやすくなる。
4・011
一見したところ、例えば紙上に印刷されているような命題は、それが関わる現
実の像であるとは思われない。しかし楽譜も一見したところでは音楽の像であ
るとは思われず、我々の音声記号の表記やアルファベットも我々の音声言語の
像であるとは思われない。
しかしながらこれらの記号言語は日常の意味でも、それが描出することの像で
あることが、明らかとされるのである。
4・014
レコード盤、音楽の思想、楽譜、音波、これら全ては相互に、言語と世界との
間に存する写像の内的な関係をなしている。
4・0141
それによって音楽家が総譜から交響曲を読み取ることができ、又人がレコード
盤上の条から交響曲を導出でき、更には最初のようにして総譜を導出できる、
といったような一般的規則が存在する。まさにこの点にこれらの見かけ上はか
くも全く異なった諸形態の内的な類似が存在しているのである、そしてこの規
則が交響曲を楽譜の言語に射影する射影の法則である。それは楽譜の言語から
レコードの言語への翻訳の規則である。
このことに関連して、ちょっと思い出したことがります。
ウィンドウズが現れる前。まだ一部マニアのものだったパソコン、DOS−
Vって言ってましたけど、そいつで音楽制作の真似事を始めたことがありまし
た。
当時は「レコンポーザー」というソフトが定番で、いわゆる打ち込み方式。
パソコンのキーボードで入力していくと楽譜がつくれ、音源を繋ぐと再生でき
る。
これでつくったデータをフロッピーに記録させるんですが、ある人に「フロ
ッピーも磁性体でしょ?
カセットテープも同じ磁性体。カセットって古くなると音が悪くなるけど、
フロッピーはどうなの?」と訊かれて、「え?」となった。
そうね、確かにどっちも磁性体なら、フロッピーも劣化するのかな……
しかし、よく考えてみると、カセットに録音されているのは「音そのもの」
ですよね。でも、フロッピーに入っているのは「音」ではなく、「楽譜」なん
です。つまり、パソコンが鳴らす音は「録音」ではなくて、その楽譜=演奏指
示情報に従った「生演奏」なわけ。ただ、人間と違って、毎回全く同じ演奏に
なるので、結果的に「録音」と変わらず、聴いている人には区別がつかないの
です。
だから、フロッピーに「音質劣化」はありません。
もちろん、紙に書かれた楽譜が長い年月を経て、黄ばんだり汚れたりして読
みにくくなるように、フロッピーに入った楽譜も磁性体の劣化で読み取りが困
難になることはあるかも知れませんけど。
そんなことを思い出しつつ、さて本題に戻ると、音楽という「現実」に対し
て、楽譜という「像」がある。だから、楽譜の読み方を知る者は、そこから音
楽を汲み取ることができる。そういうことにウィトゲンシュタインは気づいた。
そして驚いた(これ、大事)。
確かに、楽譜が読めない人間からすると、これはひとつの魔法です。どうし
てあんなオタマジャクシの連なりから、こんなにも美しいメロディーが紡ぎ出
されるのでしょう。
もし楽譜を知らない人間なら、きっと驚くに違いない。
したがって、ウィトゲンシュタインの「びっくり加減」もむべなるかな、で
すよね。
そして、もうひとつ驚くことがあります。
そう、これ、音楽本じゃん!
かくてこの『論理哲学論考』、めでたく音楽本になったのです!
では最後に、「写像理論」以外にもいくつかかっこいいフレーズがあるので、
それをご紹介してみましょう。
2・012
論理においては何ものも偶然ではない。ものが事態の中に現れうるならば、事
態の可能性はものにおいて既に前以て決定されていなければならない。
3・01
真なる思想の総計が世界の像である。
3・031
神は全てのものを創造しうるが、しかし論理法則に反するものだけは例外であ
る、とかつて語られた。というのも「非論理的な」世界についてそれがどうみ
えるかを我々は語りえないからである。
4・001
命題の総計が言語である。
4・1212
示されうることは、語られることができない。
5・62
唯我論が考えている(言わんとする)ことは全く正しい。ただそのことは語ら
れることができず、自分を示すのである。
世界が私の世界であることは、唯一の言語(私が理解する唯一の言語)の限界
が私の世界の限界を意味することに、示されている。
5.621
世界と生とは一つである。
5・63
私は私の世界である(ミクロコスモス)。
6・41
世界の意義は世界の外になければならない。
6・43
幸福な人の世界は不幸な人の世界とは別の世界である。
6・431
また同じく、死に際しても世界が変わるのではなく、世界が終わるのである。
6・431・1
死は生の出来事ではない。人は死を体験しない。
6・44
神秘的なのは世界がいかにあるかではなく、世界があるということなのである。
6・5
表明できない解答に対しては、その問も表明することができない。
謎は存在しない。
いやしくも問を立てることができるのなら、その問に答えることもできるので
ある。
6−521
生の問題の解決を人が認めるのは、この問題が消え去ることによってである。
6・522
だがしかし表明しえぬものが存在する。それは自らを示す。それは神秘的なも
のである。
6・54
私の命題は、私を理解する人がそれを通り、それの上に立ち、それをのり越え
ていく時に、最後にそれが無意義であると認識することによって、解明の役割
を果たすのである。(彼は梯子をのり越えてしまった後には、それをいわば投
げ棄てねばならない。)
彼はこれらの命題を克服せねばならない。その時彼は世界を正しく見てとるで
あろう。
7
話をすることが不可能なことについては、人は沈黙せねばならない。
……はい、ではそろそろ黙ります。
ウィトゲンシュタイン
奥雅博 訳
『ウィトゲンシュタイン全集1 論理哲学論考 他』
1975年4月1日 初版発行
1986年11月1日 七版発行
大修館書店
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
文章教室の講師をしているのですが、先日初めて生徒さんたちと、講義の後、
昼飲み会をしました。聞いてみると、受講の動機っていろいろあるんですね。
文章教室に通っていながら、「小説は読まない」という人も意外と多くてびっ
くり。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『料理研究家のくせに「味の素」を使うのですか?』リュウジ 河出新書
いやね、こういう挑発的なタイトル大好きです!
よく知らないが、著者のリュウジ氏は簡単レシピで有名な料理研究家らしい。
「できるだけ大勢の人においしいと思ってもらいたい」「料理の工程をできる
だけシンプルにしたい」をコンセプトに“バスレシピ.com”を運営している。
https://bazurecipe.com
そんな料理界の成功者が
「【料理研究家のくせに味の素を使うのですか?】
と言われて早7年、「人殺し」や「悪魔崇拝者」と罵られても何故この調味料
を使うのか本気で書きました。
何故世の中が味の素を批判してきたのか、料理研究家が使わないのか、全て
わかります。炎上覚悟、魂の一冊です」
と言うくらいだから、面白くないはずなかろうw!
https://twitter.com/ore825/status/1707896218360349069
彼の料理の原点は高校生の時、病弱だった母を気づかって弁当を買っていた
が、自分で作ればいいじゃんと思って鶏胸肉のソテーを作ったら母から喜ばれ
たのが原点だ。
そこから料理が好きになって、将来シェフになろうとかは思わなかったのが、
まず面白い。それで趣味として料理を作っていた。彼曰く、料理オタクだった。
この頃は、だしを昆布やかつお節とか素材からとるのが当たり前で、「味の素
を使う奴なんて、料理好きを名乗るな!」とまで思っていた。
そんな彼を転向させたのは、中華料理の素養のある祖父が作ってくれた納豆
にあった。とてもおいしくて一人暮らしするようになってから自分で作るよう
になったが、どうしても祖父の納豆のように、おいしくならない。
で、どうやって作ってるのかと祖父に聞いたら、「リュウジ!味の素入れて
ないだろ。味の素を入れなかったら味がないに決まってる。」・・・これがフ
ァーストインパクト
高校を中退してホテル勤務を経て、人気イタリア料理店に入ると、そこでは
味の素をぱんぱん使っていた。最初は、とんでもないところに入ったと思った
が、趣味とはいえ料理を知識がない人ではない。よくよく考えたら味の素なし
でこの味を作れと言われたら、どんだけ大変かに気がついた。これがセカンド
インパクト。
そして思った。「うま味調味料を使わないと決めていたのは、自分の無知と
勝手な思い込みに過ぎないのではないか」・・・この原体験があるから、こん
な本書く気になった。これが第1章
2章は「うまみ調味料とは何か?」ということで、科学的視点から味の素の
材料であるグルタミン酸や、イノシン酸などの紹介をする。
3章はバズレシピの中で選りすぐったのであろうメニューの紹介で、味の素
だけでなくハイミーやアジシオなども使ったレシピが並ぶ。その中にちょくち
ょく小技や調味料の上手な使い方などが組み込まれている。簡単な料理が並ぶ
ので、なるほどこれで人気が出た方なんだなとわかった。
第4章はうま味調味料の歴史ということで味の素の歴史をメインに競合他社
の動向やマーケティングの話などで、企業としての味の素のまじめな社風がよ
くわかる。昔、味の素を入れた料理を食べると頭が良くなるみたいな風説があ
ったそうなのだが、これを企業として公式に否定するとか・・・これを機会に
売りまくろうとは思わないのですね。
石油から味の素を作る技術もある。石油から作る味の素の「安全性に絶対の
自信」を持っているが、これをネタにして騒ぐ輩がいるだろうと言うことで生
産に使うことを見送っていたり・・・味の素の歴史は、風説の流布との戦いも
長かったのだ。
5章はリスク評価(味の素は体に毒なのか?)の解説。6章は、うま味は世
界に誇る食文化と題されているが、個人的には最後の料理コミックの紹介が刺
さった。大ヒット作である「美味しんぼ」を横目に見つつ、真実はこうだと抗
う漫画家が、味の素の誤解を解こうとがんばってきたことに敬意を持たれてい
るようだ。
誤解がないように言っておくが、味の素を代表とする化学調味料を使わない
料理を著者は否定しているわけではない。化学調味料を使わない料理を作る困
難や、化学調味料を使わないがゆえの素晴らしさを彼は否定しているわけでは
ない。
よくもてはやされる有機農業にしても、日本のトップクラスの有機農家は慣
行栽培を否定したりはしないし、有機農業が慣行栽培よりも安全だなどどは絶
対に言わないのと同じだ。
それにしても、こんな本が出てくるのは化学調味料に限らず、化学と名がつ
くものを忌み嫌う風潮は、もう終末期に来ているのかも知れない。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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「簡単に文章を書く方法」。答えの1つが出た
『自分の考えをパッと80文字で論理的に書けるようになるメソッド R80』
(飛鳥新社・刊)
ライター業を続けて何十年のおばちゃま。ベテランちゃあベテランですが、
時々、この文章でいいのか疑問に思って途方に暮れる時があります。編集者出
身ゆえに業務の1つとしてやってきたことを営業品目にしたため系統立ててラ
イティングを学んだわけではないし(てか、系統立てて学べるとこあるの?)、
署名原稿を書くわけではないからニーズに従って文体は変幻自在、曖昧模糊の
加工業。作家じゃないんだから気楽にやればいいけど、クライアントから原稿
が赤字いっぱいで戻ってきたりすると急に自信をなくすわけです。
そんな年に1度か2度か3度(多いな)、読むのが「文章の書き方」の本で
す。ほとんど参考にならなくて斜め読みしてメルカリるのが常ですが、新聞広
告で見たこの本は「イケるかも」と思って手に取りました。
著者は長年、公立高校で日本史を教えてきた元教師の方。授業に定評があり、
教えていた中堅進学校で、生徒のセンター試験での日本史の平均点が県内1位
だったという実績があるそう。そしてアクティブラーニングの時代になって
(出た!アクティブラーニング!笑)、生徒たちが書く機会が増えたことから、
簡単に論理的文章が書けるようにと編み出したのが「R80」というメソッド。
これは書くのが嫌いな生徒にも効果抜群、たちまち文章が書け、学力が上がる
魔法のメソッドだそうです。
ではどう書くのか。
RはReflection(振り返り)とRestructure(再構築)、80は文字数です。
「(1) 40文字書く(振り返り)→(2) 接続詞を入れる→(3) 40文字書く(再
構築)」たったこれだけ。たとえば、授業を振り返って書くならば(授業を振
り返って文章を書かないといけないんですね、最近の子は)、
(1) で習った内容を書く
(2) 接続詞(したがって、しかし、また、一方、つまり、なぜなら)を入れる
(3) 感想を述べる
で完成!
この公式に従えば、次のような筋道が通った論理的文章が作成できます。
「多数決によっても必ずしも民意の反映されない今の投票は、完璧ではない。
しかし、私たちはそれを踏まえた上で投票に行き、自分たちが国政に参加する
ことから始めるべきだ」(公民科の授業を受けた後の高校3年生の文章)
なるほどね〜。
いきなり書きにくい場合は、人にしゃべってから書くといい、独り言でもい
いとあり、それは賛成。(「2人1組になって話し合うのがいい」と書いてあ
るのはいかにも学校の先生らしい感覚と思いました)
ただ例文を全部読みましたが、接続詞の使い方これでいいの?と思う部分、
また、接続詞要らないんじゃね?と思う例文もありました。
このルールに従うと小論文も書けるし、自己紹介も、読書感想文もお茶の子
さいさい。
ここまで読んで、思い出したのがおばちゃまが新聞社がやっている情報紙で
記事書きのバイトしていたときのこと。
新聞社から天下りしてきた上司が記事の書き方を指南してくれたのですが、
それは新聞的な5W1Hを述べ、さらに (1) 過去 (2) 現在 (3) 未来を書け
ばどんな記事も書けるということでした。たとえば、NPOみたいな団体があ
る活動をしている場合(こんなのが多かった)、「いつどこでだれが○○を実
施した」の後に「○○さんはこういう経歴の人でこういう動機と目的がある。
今はこんな活動をしている。将来はこうしたいと思っている」で完了。
でその通りに書いてたのですが、なんかおもろないと思ったのも事実。報道
は一刻を争うので紋切型の記事が都合がよくて伝わりやすいのはわかりますが、
その外にある人の感情とかなんというかもやっとしたものは表現できないと感
じました。公式のある文章の唯一の不足点と言うべきでしょう。
同じことがR40にも言えるのではないかと思いますが、文章が苦手な人がと
りあえず書ける、そして大学に合格したり、就職して自分の道を歩み始めるた
めには有益な公式だと思いました。特に教育困難校の生徒たちがすらすらと80
文字を書け、文章を書くことが苦にならなくなったという記述は胸アツでした。
この本は納得7割ですが、もやもや感が3割の読後感。もうちょっと読み込
んで主旨を理解するためにメルカリるのは先にしようと思います。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
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表題【読者書評参加希望】
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<165>猫漫画の系譜
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→146 忘れない
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────
この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<165>猫漫画の系譜
子供のころ、『黄色いカバン』というアメリカ製のテレビアニメを、よく見
ていた。
原題は、『Felix the Cat』。
「フェリックス」という名の黒猫が、なんにでも変身してくれる魔法のカバ
ンを持って、あちこちに出没しては、魔法のカバンを使って悪戯したり、人を
おちょくったり、あるいはごく稀には人助けをしたり、というアニメ。
その来歴はかなり古くて、日本の『のらくろ』と同じころに誕生したキャラ
クターなんだそうだ。
あのころ…って、1960年代ですが、テレビのアニメはアメリカ製がほとんど
で、1963年の『鉄腕アトム』を嚆矢として、国産アニメもぽつぽつ放映される
ようにはなっていたが、それでもやはり数量的には、アメリカ製アニメが圧倒
的だった。
そのアメリカ製アニメには、「フェリックス」をはじめとして猫のキャラク
ターが、数多く登場するのだった。
『トムとジェリー』もそうだし、『シルベスター』なんてのも、いましたっ
け。
ニューヨークと思しき大都会の裏横丁で、ゴミ缶をそれぞれの住まいとする
野良猫軍団が「大将」と呼ばれるボスを中心に、彼らを目の敵にする警官と丁
々発止の対決を繰り返す『ドラネコ大将』てのも、結構好きでほぼ毎週見てい
た。
アメリカアニメのキャラクターとしての猫は、大抵の場合、狡猾でずる賢く、
時に間抜けな失敗はするものの、他人に阿ることなく自由気ままに悪さを重ね
る、そんなキャラクターに仕立てられていた。
そんなアメリカアニメの猫キャラクターを踏襲して生まれたのが、赤塚不二
夫の「ニャロメ」ではなかったろうか。
「ニャロメ」は、「ドラネコ大将」や「シルベスター」と同じく、悪賢くて
狡猾で、しかし、その狡猾さゆえに最後にしっぺ返しを食う、というキャラク
ターだった。
1980年代に登場した小林まこと『ホワッツ・マイケル?』もまた猫が主人公
だったが、この「マイケル」は、それまでの猫キャラクターとは一線を画すキ
ャラだった。
なぜなら「マイケル」は、「猫」そのもの、だったのである。
アメリカアニメの猫も「ニャロメ」も、全て擬人化されたキャラだった。
彼らは、人語を解し、人と同様二足歩行で歩いては、人間社会の中で人と係
わっていたのだが、「マイケル」は、まったくの「猫」として描かれていたの
である。
お気に入りのライオネル・リッチーやマイケル・ジャクソンの音楽に合わせ
て踊る時こそ二足歩行なのだが、通常は、その本能のまま、猫本来の動きと嗜
好と行動様式で、彼を見る人間を困らせたり困惑させたり、可愛さに身悶えさ
せたり、してしまうのである。
「ホワッツ・マイケル?」は、たちまち人気作となり、アニメ化もされて大
ブームを引き起こす。
そして、これ以後、リアルな「猫」を描く漫画は一種のブームとなり、「猫
漫画」の専門誌まで登場することとなり、漫画の中で「猫漫画」というひとつ
のジャンルを形成して、今に至っているのである。
その猫漫画に近頃、特異なキャラクターが登場した…というか、「登場」し
たのはかなり前なんだけど、わしが知ったのが最近、てことなんですがね。
『俺、ツシマ』という漫画がそれで、作者は「おぷうのきょうだい」という
兄妹ユニットだ。
元々は、妹が文章とストーリーを、兄が作画を担当して、猫ブログを展開し
ていたらしいのだが、2017年から旧ツイッターで、この猫漫画をスタートさせ
たところが評判が評判を呼び、フォロワーも爆発的に増えて、ついには小学館
から単行本化、さらにはアニメ化となった…らしい。
「ツシマ」は、野良猫なのだが、一時一人暮らしの「ジジイ」の家に住んで
いたことがあり、このジジイからツシマヤマネコに似ている、という理由から
「ツシマ」と名付けられた。
ジジイは、ツシマと一緒に暮らすことで、その孤独が癒され、荒んでいた心
にも平穏が訪れるのだが、やがて死んでしまう。
ジジイの死後、ゴミを漁っていたツシマを家に連れ帰ってくれたのは「おじ
いさん」で、現在は、この「おじいさん」と先住の他の猫と同居の状態だ。
ツシマは「おじいさん」と認識しているのだが、実際には「おじいさん」は、
「そこそこの年齢の女性」であるらしい。
ツシマは、人語を解し、なんと人語を喋ってしまったりもするのだが、その
行動様式は、まんま「猫」で、その本能の赴くまま、勝手気まま、わがまま放
題に暮らしていて、元野良ゆえの習性か、時に家出をして、何日も帰らなかっ
たりもする。
が、どんなに我がままでも勝手気ままでも、その「猫そのまんま」の姿が、
「おじいさん」には愛おしくて堪らず、彼なしでは生きていけない体になって
しまっている…というあたり、「マイケル」の後継者、とも言えるかな?
この「おぷうのきょうだい」が、ただいまは「ビッグコミック」誌上で、や
はり猫漫画である『モンちゃんと私』を連載している。
「モンちゃん」、本名「モンブラン」は、やはり人語を話す猫。
野良猫なのだが、相棒の「チョモ」こと「チョモランマ」と一緒に、ホーム
レスの「おいさん」の小屋に寄宿している。
この二匹と一人がある日、不思議な能力を有する猫である「ナゾちゃん」と
出会い、さらに、かねてモンちゃんの知り合いだった、派遣OLの「ミキ」の部
屋で同居することとなり、ミキのダメンズ彼氏「ユウイチ」も巻き込んで、猫
三匹、人間三人の奇妙な同居生活が始まる。
猫たちによって、それまであまりいい目を見てこなかった、ミキやおいさん
の心は癒され、さらに「ナゾちゃん」の不思議な力を利用することで、三人は
経済的にも大きな財力を得ることになって…
と、その辺りから、かなりシリアスな展開になっていくのだが、物語は、11
月25日発売号で、ひとまず「最終回」を迎えるそうで、単行本になったら、改
めて読んでみたいと思っている。
この『モンちゃんと私』、派遣OLとして働くミキの不遇ぶりや、「おいさん」
のホームレス生活等々の描写には、「令和的」リアルが溢れていて、加えて、
「モンちゃん」や「チョモ」の猫っぷりがまたリアルなんである。
「おぷう兄」が担当しているらしい絵もまた、毛並みや顔立ち、その仕草も
また、リアルに「猫」で、同じ茶トラということもあり、わしは、勝手に「リ
アル・マイケル」と位置付けたりもしております。
「おぷうのきょうだい」、この「次」には、どんな猫を登場させてくれるの
か、とても楽しみなのです。
あ、「猫」以外のキャラクター描写でも、「ミキ」は、いかにも幸薄そうな
容貌だし、ホームレスの「おいさん」や、ミキのダメンズ彼氏「ユウイチ」に
しても、「いかにも」な容貌であり、「兄」の画力、秀逸です。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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146 忘れない
疲れていると頭が働かず、いろんなことを忘れていくような気がします。
そんなときに読んだ『モノクロ街の夜明けに』はガツンときました。
忘れてはいけないことに気づかなくては。
歴史を題材にしたフィクション『モノクロ街の夜明けに』(ルータ・セペテ
ィス作 野沢佳織訳 岩波書店)は、1989年、ルーマニアでの圧制下を17歳の
視点で描いています。
1989年、この年はルーマニアの歴史が動いた年です。
長年の独裁政治により、人々の不満が爆発し、とうとうニコラエ・チャウシ
ェスクと妻のエレナを射殺へと追い込んだのです。
いまから37年前のこの時の映像を私もいまだに覚えています。
聞くだに過酷な独裁政治をしていた当の本人の最後はこういうものなのかと
強い印象が残りました。
本書の主人公は17歳の少年、クリスティアン・フロレスク。
誰もが誰かを見張っているかのような時代、誰を信じ、誰に何の話をしたら
いいのか、自由なときはまったくない日々を送らねばならなかった青春時代が
語られます。
ルーマニア人の五十人にひとりは、秘密警察、セクリターテの諜報員といわ
れ、とうとうクルスティアンも取り込まれていかざるを得なくなります。
家族のためであり、自分のために情報を秘密警察に提供する、けれど、自分
の心すべてを差し出すわけではありません。どこかに心の自由はもっていられ
るはず、そう願いながら、日常生活を過ごしていたのですが……。
クリスティアンの緊張に満ちた毎日を読んでいると、独裁政治の恐ろしさに
身震いしました。そして、自分は家にいたら安心、家族といたら安心という自
分基準の安心があることに、あらためて気づかされました。
チャウシェスクは、国民を孤立させることに注力し、独裁政治をすすめまし
た。国民どうしを監視させ、秘密警察による弾圧をひたすら強めていったので
す。
章ごとに、極秘の秘密警察宛の公式報告書が挿入され、誰が書いたのかはわ
からない報告書に記されている内容が、日々の監視を実感させます。
作者はあとがきでこう書いています。
「歴史は、世界全体の物語、人間の物語への入口です。歴史を題材にしたフ
ィクションを読むことで、わたしたちはあまり注目されてこなかった出来事を
探求し、世界地図上の様々な国に光を当てることができます。」
クリスティアンの物語を読むことで、ルーマニアの歴史にふれられます。
次に紹介するのは、きくちちきさんの絵本2冊です。
『はしれー』福音館書店 こどものとも012 12月号
『やまをとぶ』岩波の子どもの本
いま、注目の絵本作家の作品が続けて刊行されています。
0歳からの読み聞かせでも楽しめるこの012は、厚紙でとても丈夫なつく
り。見開きの明るい絵に、シンプルで短いことば。目も心もひかれます。
『はしれー』では、ひたすらひたすら、子どもたちといろいろな動物たちが
走っています。はしれー、はしれーの文字も走っているような動きを感じ、絵
本全体から、走るって気持ちいいよーという声が聞こえてきます。
心を無にして、草っぱらを走り回りたくなりました。
『やまをとぶ』は1953年12月に創刊された絵本シリーズ〈岩波の子どもの本〉
70周年を記念した新刊絵本です。
広い空、大きな山を舞台に、鳥や子どもたちがのびのびと描かれます。
きくちさんの描く絵は、線がダイナミックで生き生きしていて、静止画なの
に、鳥が飛んでいるときやそれをみあげる子どもの表情が、目の前にいるかの
ような臨場感があります。
青い広い空に飛んでいる鳥の絵は、本当に美しい。
深い呼吸ができる絵本です。大人にも子どもにもおすすめ。
最後に紹介するのは、いつも旬な絵本を届けてくださる西村書店の伝記絵本。
2023年ノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコ博士の物語です。
デビー・ダディ 絵 ジュリアナ・オークリー 訳 竹内薫 訳
医学監修 山内豊明
副題に「ぜったいにあきらめない mRNAワクチンの科学者」とありますよう
に、ここ数年、世界を苦しませた新型コロナ感染症のワクチン開発の道筋をつ
くったひとりが、カタリン・カリコ博士なのです。
ハンガリーで生まれたカタリンは小さい頃から、生物に興味をもち、細胞と
いう小さなかたまりで自分たちどころか、あらゆる生きものができていること
に強い興味をもちます。そして家族に「科学者になりたい」と夢を語ります。
家族は応援し、カタリンは一生懸命勉強し、ハンガリー化学アカデミーセゲ
ド生物学研究所ではじめてmRNAに着目します。
結婚し子どもが生まれた後に博士号を取得。研究を続け、アメリカに渡りま
す。順風満帆ではなく、大学での仕事を失ったり、次の大学でも降格されたり
不遇な時代もありましたが、ドリュー・ワイスマン博士との出会いから一緒に
研究することになり、2人であきらめずにmRNAの研究を活かす方法を見つける
べく、実験を続け、ワクチン開発への道筋をつくったのです。
ワイスマン博士は「この技術の研究をはじめたときから、パンデミックが起
きた場合に必ず役立つだろうとわかっていました。この技術を使えばとても早
く簡単にワクチンが作れるからです」と語っているそうです。
本書の翻訳は竹内薫さんとなっていますが、竹内さんが校長をつとめられて
YESインターナショナルスクールの生徒さんたちが、国語のプロジェクト授業
で翻訳、それを、翻訳家の竹内さとみさんと竹内薫さんとので最終調整して仕
上げたそうで、訳文にも注目です。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
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掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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いつもながら、メルマガの配信、遅くなりました。(あ)
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→ 『もしもがんを予防できる野菜があったら』山根精一郎 幻冬舎
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#161『リラ荘殺人事件』
前回、美大生だった辛酸なめ子が音大生の生態に迫った本をご紹介したけど、
今月はそれに続いて、音大生と美大生が入り混じって登場する本格ミステリー
の教科書的名作、鮎川哲也『リラ荘殺人事件』です。
とある富豪が埼玉の山奥に建てた別荘を、某大学が死後に買い取って、学生
のための保養施設にしている。それがリラ荘。
この大学、もともとは別の音大と美大だったのが、戦後の改革によって統合
されたという設定なんですね。なので、音大生と美大生の男女七人が夏物語…
…じゃなかった、夏休みに連れ立ってここへ遊びに来る。そして彼らの間で連
続殺人が起こるわけ。
まさに昭和の、古式ゆかしい本格です。いーなー。懐かしい。
殺人現場に、必ず残されているトランプのカード。いずれもスペードばかり
で、Aに始まり、2、3、と数が増えていく。
これが、単なる犯人の署名以上の大きな意味を持つところが、さすが巨匠・鮎
川哲也先生、秀逸です。
最初に発見される遺体が、学生の一人ではなく、なぜか付近に住む炭焼きの
男性というのも、意表を突いている。もちろん、これも大きな意味を持ってき
ます。
そして、現場に残すだけならスペードのカードだけで十分。学生は全部で七
人なのに、十三枚あるわけですから。なのに、なぜか追加でハートの3とジャ
ックまで紛失する謎。
さらには、ラジオから流れるタンゴの曲名が「ブルーサンセット」だと言わ
れて、学生の一人が怒ったのはなぜか。
リラ荘の管理人のおばさんが、緑のインクでメモした数字は何だったのか。
途中で、絵具を忘れたと言って東京に戻った画学生の一人は、本当は何をし
に行ったのか。
さまざまな謎がてんこ盛りで、すべてがきちんと繋がって解かれていく。
まだ著者が若い頃、さほど忙しくなかった時期に、時間をかけて丁寧に紡ぎ
上げだだけあって、細部まで考え抜かれた精緻な工芸品の如き一篇です。
ただ、
少々「どーなの」と思うのは、次々と人が殺され、いわゆる雪の山荘ものの
ように孤立した環境でもなく、ちゃんと刑事がリラ荘に泊まって警戒している
にもかかわらず、さらに一人、二人と犠牲者が出るのは、いくらなんでも無能
すぎ、とか。
名探偵は捜査が行き詰まった挙句、最後だけに登場して謎を解くんですが、
その名が「星影龍三」。センス的なことは、それはまあ昭和ですから別として、
名字がどうにも乙女チックなのに、名前がゴツくてマッチョというアンバラン
ス。中年のおっさんでありながら、めっちゃキザっていうキャラを表現してい
るのかも知れませんが、もうちょっとあったんじゃないかなぁ。
同じ鮎川ミステリーの名探偵・鬼貫警部の方が、すっと馴染みますけれど。
とはいえ、長編ミステリーの宿命として、連続殺人が起きないわけにはいか
ないし、そもそも警察のみならず名探偵自身が、あんだけ人が死んでやっと真
相を突き止めるのは遅くないか、という批判が昔からあり、それで金田一耕助
なんかは大概大詰めを前に、裏付け調査で別の街に行っていて、その隙に犯人
が最後の大暴れをするんですけど、本格ミステリーのような人工的な遊びの文
学では、その程度のことはお約束として目をつぶるべきだし、ネーミングセン
スはそれこそ物語の本質とは何の関係もない。
ですが、どうにも解せないのは、学生たちの仲の悪さなんです。
既に婚約しているカップルがひと組、そしてリラ荘で婚約を発表するカップ
ルがひと組。これは、まあ、ラブラブなのでいい。
しかし、残りの三人はそれぞれ、カップルの片方に横恋慕していたり、同じ
声楽家志望、画家志望としてライバル視していたり。それを内に秘めているな
らともかく、互いに辛辣な皮肉を言っちゃぁ、喧嘩ばっかりしているんですよ。
「ブルーサンセット」の一件も、そう。後で事情がわかってみると、そりゃ
怒るの無理ないわ、って感じの強烈な揶揄というか皮肉のひと言で。
つまり、こんな仲悪くて、よく夏休みに一緒に旅行しようってなったな、と
いうのが最大の疑問なわけです。
そしてそもそも旅行に来なかったら、この事件は起きていない。
そんなことに引っ掛かるのは、先月、学生時代の仲間とOBライブをやるは
ずが、まさかの本番二日前、初めてめまいを発症してMRIを撮る騒ぎ。メン
バーに相談したら、それはもう体が大事と、キャンセルすることになったんで
すが、その時、改めて思ったのは、彼らがバンド仲間である以前に、友だちな
んだなって言うこと。そんな経験をしたばかりだったからでしょう。
当たり前ではありますが、しみじみありがたく思った次第です。
だから、同じように美術や音楽を志した学生同士であれば、もちろんわれわ
れのように単なる趣味ではなく、これからこの世界でプロとしてやっていこう
という気概に燃える若者と同列には語れないでしょうけど、それでもそんな意
地の悪い皮肉を、冗談のレベルを越えて、残酷なほど応酬するというのがしっ
くりこない。
もっとも、いつもなら、そんな、くそリアリズム、本格の世界じゃ関係ねー、
見事な謎が鮮やかに解決されていればいーんだ、と思う方なんですが、あるい
は新本格系の某作家の方が、「若い頃は『人間が描けていない』と言われても、
それがどうしたと思ってたけど、この年になると、『人間が描けている』小説
に感動してしまう」という趣旨のことを書いていたんですが、これもやはり、
年を取ったせいなんでしょうか。
なんだか、薦めているんだかいないんだかな書評になってしまいましたが(笑)、
面白いことは間違いない。やはり名作だと思います。
特に、最後の謎解き場面、逸る気持ちを抑えて一旦本を閉じ、あれこれ考え
ながら就寝して、改めて翌朝楽しみに読んだんですが、期待は裏切られません
でした。
秋の夜長に、ぜひ。
鮎川哲也
『リラ荘殺人事件』
昭和五十一年一月十五日 初版発行
昭和五十九年一月三十日 十二版発行
角川文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
そのめまい、耳鼻科に行って聴力検査をして、薬をいただいて二週間。ようや
く収まったんですが、雨が降って気圧が下がったり、一日の寒暖差が激しかっ
たりすると、まだ微妙にふわふわすることもあって。すっきり、「治ったぞ」
と思えるものではないのかも知れませんね。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『もしもがんを予防できる野菜があったら』山根精一郎 幻冬舎
最近あんまり話題に上らなくなった遺伝子組み換え作物についての本。著者
は41年間日本モンサントに勤務し最後は社長も務めた、遺伝子組み換え作物に
長年関わってこられた方である。元々が技術者で、除草剤の開発をしていたそ
うだ。
実は、この方とはお会いしたことがある。小柄で、いかにも好々爺と言った
雰囲気を持った方。日本モンサントの社長のころは、奥さん共々遺伝子組み換
え作物の誤解を解こうと趣味のサークルなど、あちこちに出ていっていたと言
う。そこで職業を聞かれて「遺伝子組み換え作物やってます!」と言うと、よ
くギョっとされたと笑っておられたのが印象的だった。
そうしたバックグラウンドを持った方の本なので、当然「遺伝子組み換え食
品の恐怖」みたいな内容ではない。遺伝子組み換え技術に不安を持つ人たちに
もわかりやすく安全性とメリットについて書かれている。しかし、そうした情
報を伝えることだけが著者の執筆動機ではない。
著者の執筆目的というか主目的、すなわち主張したいのは、遺伝子組み換え
をネタにした、「科学者の心」をもちましょうということだ。
「自分の頭で考えることによって、自分の判断基準を持ち、不安を取り除き、
迷いのない人生を歩むことができる。それこそが『科学者の心』がもたらす最
大のメリットなのです」
具体的には著者自身が「本書の4つの主張」として挙げている
(1)データに基づかない、根拠に乏しい情報を鵜呑みにし、よくわからない
まま自分の考えにするのはやめよう。
(2)なかなか表立ってクローズアップされない、遺伝子工学をはじめとした
世界中の科学者たちの主張にも目を向けてみよう。
(3)「絶対に安全な食品がある」「食べてはいけない危険な食品がある」と
いった具合に、物事を「白か黒か」の二項対立で考えるのはやめよう。
(4)情報に触れる際には「本当にそうなのだろうか」という批判的な態度を
持ち、推進派と反対派の主張を、客観的な事実や科学的なデータに照らし合わ
せながら精査しよう。
なんてことができるようになるよう、遺伝子組み換えを素材にして練習と言
うか、訓練しましょうということ・・・と書いていてふと気がついた。
この本は、手の込んだ自己啓発書じゃないのか?
ま、それはともかく本の構成はこんな感じだ。第1章は遺伝子組み換えに対
する不安を持つ人が考えそうな疑問に答える章。第2章は遺伝子組み換えとは
なんぞや、どうやってやるんだ?といったところを解説する章。第三章は遺伝
子組み換え食品の評価が科学者と素人ではどれくらい違うかを説明する。
第4章は本書のタイトル「もしもがんを予防できる野菜があったら」という
ことで遺伝子組み換え食品かどれほど我々の健康増進に役に立っているのか、
また役立つ可能性があるのかを論じ、第五章でSDGsというか持続可能な社会作
りに遺伝子組み換え技術がどれほど役立つかを述べる。
テーマになっている遺伝子組み換えに関しては、個人的には内容に既知の部
分が多い。そこそこの勉強はしているからねw
とはいえ書いているのは本職の専門家である。最新の技術動向はもちろんの
こと、iPS細胞の山中先生が記者会見などで質問されると、モゴモゴと慎重す
ぎるくらい慎重に答える遺伝子組み換え技術の実際にも躊躇なく、モゴモゴを
すっ飛ばして踏み込んでくるのはさすがである。これぞ、専門家と言う感じで
ある。
内容は高度だが、高校生でも読めるよう苦心したのだろうと思えるほど文体
も平易なので、遺伝子組み換えについてニュートラルな立場で理解したい人は
もちろん、反対する人も読むべきだ。これくらいの内容に科学的に反論できな
いと遺伝子組み換え反対運動はダメになる・・・もうなってるかもだけど。
それにしても、遺伝子組み換え技術は、昔かなり話題になってたけども、こ
れをテーマにした小説あったっけ?たとえば遺伝子組み換えによって人類を絶
滅させる猛毒細菌が作られて国家間の争奪戦がおきるとか、遺伝子組み換え作
物とゲノム編集作物が遺伝子論の闘争を繰り広げるとか、ゲノム編集で子孫を
残せないように改変されて生まれた昆虫の悲哀とか・・・
そんな小説作品がたくさん出ていたらごめんなさいと言う他ないのだけどw
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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雑多でゆるく、へんてこりんな人間模様
『台所太平記』(谷崎潤一郎著・中公文庫)
前から読みたかった谷崎潤一郎の『女中太平記』を書店で発見して即購入。
奥付によると、単行本で出たのが1963年、文庫になったのが1974年、17刷りを
経て2017年に新装版文庫が発売になったという、なかなかのベストセラーぶり
です。今、谷崎の作品て教科書にも載ってないそうですし、だれが読んでいる
のかよくわからない状態になりつつある中、密かに連綿と読まれているのです
ね。
おばちゃまが即座に買ったのは女中小説が好きだからです。というか女中部
屋が好き。古い住宅に行くと台所の脇あたりに2畳ぐらいの女中部屋がついて
いてそこで何人もの女中さんが寝泊まりしている。狭所恐怖症なのに、狭い部
屋が好きなので特に女中部屋の描写はじっくり読みます。
女中小説として挙げられるのは夏目漱石「坊ちゃん」。あの小説における清
の存在感たるや・・、そして中島京子の「小さいおうち」(こよなく女中部屋
を愛する女中さんが登場)。そしてこの「台所太平記」です。
時代は昭和10年代。谷崎をモデルにする50歳の作家が33歳の妻と結婚して神
戸は住吉の反高林そして住吉川を隔てた魚崎に住む。今、「倚松庵」として残
されている建物がそれで、「細雪」の冒頭の「こいさんたのむわ」と雪子を呼
ぶシーンの部屋もあり、女中部屋もあります。
で、いろいろな女中さんがやってくるわけですが、いつも複数の女中がいて、
折り重なるように狭い部屋で寝ています。
郷里は鹿児島だったり和歌山、茨城、静岡とさまざまで、今の感覚でいうと
労働基準法どうなっとんねんと思うように簡単に人を雇いまた、急に郷里に帰
ったり流動的でる。10代から20代の若い女子なもんで近くの関西配電(今の関
西電力です)に勤める若い男子たちと仲良くなったりします。
故郷では夜這いが当たり前だった話とか、前の勤め先を辞めたのはそこの旦
那に手籠めにされそうになったからだとか、なんというか人間関係が雑然とし
ているのです。今のちょっと不倫したぐらいで石打ちの刑か百叩きかというよ
うに罰せられるのに対して、いい加減というかゆるいというか、雑然としてい
る。
その極めつけが、女中同士が愛し合うというエピソードで、谷崎家ではない
家で女中同士がどうも怪しい。で、その家の奥様がとうとう2人の濡れ場に踏
み込んで追い出してしまうという話です。夫婦の寝室でそんなことされてと怒
りまくった奥様が、寝具を2階から庭にばんばん放り投げて、後で懇意の植木
屋を呼んで焼いてもらうと息巻くシーンは、なんというかこれもまた昨今のLG
BTQ問題、多様性とは違う感じの雑然としたお話です。(昔の植木屋さんてこ
んな仕事も請け負っていたのねとも思いました)。
今思えば「小さいおうち」はまだ倫理観があり皆さん真面目でした。(奥さ
んは不倫してましたが)。これは関西と東京山手の風土の違いなのか何だろう
と思ったときに、ふと思ったのは谷崎潤一郎の「細雪」です。舞台が同じなの
で、「細雪」が表舞台なら「女中太平記」は裏舞台を描いていて、両者はネガ
とポジ(この例えもデジタル時代には通用しないかあ〜)。
で、「細雪」に黄疸が出たらおにぎりを脇の下に挟むと直るという話が出て
きますし、この小説のラストシーンは縁談が調った雪子が上京するときにずっ
と下痢をしていたという汚ちゃない話で終わっています。これは何?と確か論
文も出ているはずですが、「台所太平記」を読んで「細雪」のこの2つのエピ
ソードを思い出しました。雑多でへんてこりんで、リアルな人間模様を描く、
谷崎潤一郎文学の核みたいなものが、「台所太平記」のそこかしこに描かれて
います。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■あとがき
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#160『愛すべき音大生の生態』
地上波ではありませんが、ファミリー劇場というチャンネルの番組、『緊急
検証!』をご存知でしょうか。
はい、と答えたあなたは、相当の好き者ですね。
いや、何がって、オカルトが。
そう、タイトルからすると、何やら社会派のドキュメンタリー番組のようで
すが、まったく関係なく、UFO、UMAなど、都市伝説を検証する番組。
「緊急」どころか、「不要不急」。しかし、秀逸なセンスが演出やキャスティ
ング、編集の隅々にまで行き届いていて、実に素敵なんです。
日本オカルト界の重鎮、作家・山口敏太郎、UMA研究家・中沢健、サイエ
ンスエンターテイナー・飛鳥昭雄が「オカルト三銃士」と称して登場。あるい
は、テーマに応じて、例えばUFO特集ならレジェンド矢追純一が、村に伝わ
る怪奇な風習なら都市伝説研究家・吉田悠軌が、と、ひと癖もふた癖もある面
々が、怪しげな都市伝説をプレゼンします。
それに突っ込むレギュラー・コメンテーターが、ミュージシャンの大槻ケン
ヂと、本書の著者・辛酸なめ子なのです。
プレゼンそのものも面白いのですが、お二人のツッコミがまた最高。皮肉や
ユーモアたっぷりの大槻ケンヂに対し、テンションの低い辛酸なめ子のとぼけ
たひと言や、漫画家ならではのフリップが面白い。
そうです、オカルト番組と言いながら、爆笑のエンターテイメントになって
いる、それが『緊急検証』。
不定期に放送されるのが、毎回楽しみ。オンデマンドで過去回も二度、三度
と堪能しています。
そんな辛酸なめ子の著作に、音楽本を見つけてしまいました。
本書、『愛すべき音大生の生態』です。
著者は美大出身。同じ芸術系ですから、割と似た世界なのかなと思うと、か
なり違うようで。
そんな異世界=音大をルポするという企画は、編集者の発案でした。音大出
身の彼が、メディアで音大生が取り上げられるのを見る度、ある疑いを抱いた。
それは、
「音大生である自分には当たり前なことが、世間から見れば異様なのかも知れ
ない」ということ。
確かに共同体のメンバーには普通でも、アウトサイダーから見ると異常とい
うことはよくあります。
そこで、「外部の目で音大を見てみよう」という企画を立て、白羽の矢を立
てたのが、辛酸なめ子であったという経緯。
かくして辛酸なめ子は、音大出身編集者のナビゲートで、まずは音大のイベ
ント、すなわち学祭へ繰り出す。そして、音大生を集めたインタビュー、さら
には洗足学園音楽大学の取材を敢行し、出来上がったのが本書なわけです。
モテるのは、器楽科なら主旋律を吹くことが多いトランペット、声楽科なら
主役になることが多いソプラノとテノール、あるいはソリストの選定に決定権
を持つ指揮科であるという、なるほどの恋愛実態。
練習とレッスンと音合わせに明け暮れ、手帳がまっ黒の忙しさ。
ドレミではなく、ドイツ語のアルファベット(ツェーとかゲーとかアーとか)
で音名を言うところから生まれるさまざまな隠語。
ひとつひとつが、われわれ一般大学はもちろん、美大卒の著者にとっても新
鮮な話。
が、『緊急検証!』ファンとして気になるのは、ここにすら著者独自のオカ
ルト要素が入ってくるのかで、結論から言えば、ばっちり盛られていました。
まず、音大は墓地の傍にある、という意外であり、でも理由を知れば納得の
事実があります。
現代では防音技術が進歩しているので関係ないのですが、かつてはやはり周
辺住民から騒音の苦情が出ないよう、立地の段階で慎重に検討されたらしく、
あまり住宅のない墓地の近くに建てられることが多かったんだそうです。なる
ほどなるほど。
したがって、墓地にまつわる音大生の怪奇体験は数多い。かてて加えて、音
大生という種族には、妙に霊感の強いタイプが多いとか。
武蔵野音大では、
『「その校舎では、突然、『何かいる!』って言い出す子がいたり、あるレッ
スン中に、扉に窓がある部屋で友達が歌ってたら、先生が急に『誰が見てるの
?』っておっしゃって、開けたら誰もいない、ということがありました」』
これじゃおちおち、レッスンも受けられませんね。
国立(くにたち)音大の寮にも、ポルターガイストが出まくりのようです。
トイレのスリッパが一瞬で全部裏返っていた、とか。
音楽を学びつつ、怪奇な日常も楽しめる。
そうと知っていれば、音大に進むのもありだったかな、などと思ってしまい
ます。もちろん、受験したところで合格できなかったでしょうけど。
そう言えば、学生の時音楽サークルに所属していて、そこには音大の女子も
参加していました。
ただ、さほど彼女たちが特殊だと思ったことはないし、怪談めいた話を聞く
機会もありませんでした。合宿の夜なんかに、怖い話大会とかあっても不思議
ではないですけどねぇ。残念。
ところで、以前当欄でご紹介した『モーツァルト・イン・ジャングル』では、
アメリカの話ですが、音大生の卒業後の実態が描かれていて、なかなかにシビ
ア。著者は、無責任に音楽家を生み出す音楽教育機関に批判的でした。
日本でも、音大卒業生の未来は必ずしもバラ色ではない様子。この辺りは、
「第5章 音大生を待ち受ける未来」に詳しい。音楽プロデューサーMinnie P.
さんが著者のインタビューに応えて、自身の体験を語っています。
インタビューと言えば、巻末にもう一人、音大出身者が登場する対談コーナ
ーがあります。佐村河内守のゴーストライターとして一躍有名になった新垣隆
氏です。行間から彼の人柄が浮かび上がってくるようで、ああ、この人はほん
とに音楽が好きなんだなぁ、と思います。
さて、これからの季節、コロナ禍で自粛を余儀なくされていた学園祭も、あ
ちこちで行われるでしょう。
その中には音大のイベントもあり、まだ学生とはいえ、素晴らしい素質を持
つ若者たちの演奏が聴けます。特に東京藝大では、「藝大おじさん」と呼ばれ
るマニアが出没して、推し活も繰り広げているとか。
深まる秋、そんな音大の学祭を訪れてみるのも、一興でしょう。
辛酸なめ子
『愛すべき音大生の生態』
2020年3月24日 第1版第1刷発行
PHPエディターズ・グループ
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今月は文中でも触れた音楽サークルのOBライブがありました。ところがなん
と、本番の少し前、関東に台風が来た日に、突然めまいを初発症。医者へ行き、
薬をもらって様子を見ていましたが、さらに本番二日前、より激しいめまいが
出て、やむなく出演を断念する羽目に。来年リベンジするぞ。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『Gの遺伝子 少女ファネット1』さいとう たかを 小学館
さいとう・たかを氏が亡くなって二年になる。「ゴルゴ13」は作者の死後も
続くことが発表されていた。作者がいないのにそんなことが出来るのかと思っ
ていたが、よく考えると作者の死後も続く作品はそれなりにある。
典型例はサザエさんだろう。作品世界が完成しておれば、作者がこの世にい
なくても新作は出てくる。もともとさいとう氏はプロダクション方式で多数の
人が参加しながら漫画を制作するシステムを作っていたことで有名だ。プロダ
クション形式はAIとも相性は良かろう。AIが作品を作る時代になると真っ先に
ゴルゴ13はAIで制作されるのではなかろうか?
ま、それはそれとして、この作品はゴルゴ13のスピンオフ作品の一つで、デ
ューク・東郷ことゴルゴ13のシルエットは出てくるが、ゴルゴは基本出てこな
い。脇役が主人公になった作品だ。第一巻の主人公はガンスミス(銃器職人)
デイブ。いつもゴルゴ13に無理難題をふっかけられて、言われた仕様の特殊な
銃や弾を造る役回りの人だ。
この、デイブが主人公になる作品もいいのだが、今回紹介したいのは親子で
も何でもないのに、Gこと、ゴルゴ13の遺伝子を引き継いだ14歳の少女、ジャ
ネットが出てくる二巻である。しかも、初出はさいとう氏が亡くなった直後で
ある。第一話はさいとう氏が亡くなる直前にかかれたのかも知れないが、以降
の二話から四話は初出の時期からしてさいとう氏亡き後のさいとうプロの作品
だろう。
ジャネットがゴルゴ13に出てきて、遺伝子を引き継ぐ経緯は206巻に出てく
る。あまりに優れた学生射的のチャンピオンだったことから、ゴルゴのルーツ
を探ろうとする連中に目をつけられたジャネットが拉致される、ジャネットは
自力で逃亡するが、追いつめられたところにゴルゴ13が登場するというストー
リーだった。
これがかなりの好評だったらしく、その後ジャネットが登場する作品が増え
たようだ。巻末インタビューによると、さいとう氏自身、女子中学生の格闘シ
ーンを初めて書いたそうで、それが好評だったことがかなり印象深い出来事だ
ったらしい。
で、この巻のスタートはこんな感じだ。
パリの裕福な病院オーナーの娘・ジャネットは銃に異常な興味を持つ14歳の
中学生で、射撃コンテストでトップの成績をマークする。銃以外関心がないの
だが、勉強はよくできるしスポーツも万能、芸術面でも通常のレベルを大きく
逸脱している。何でもできて、しかもそのレベルが全て並外れているので「モ
ンスター」と呼ばれている。
といっても人柄もいいので恐れられているわけではなく、畏敬の念を持たれ
ていると言う感じである。同級生の女の子たちの憧れの対象でもあり、学校で
は日本流に言えばバンコランと言っていいのか?・・・みたいなアイドルだ。
女子だけどw
最初の事件は、ジャネットの親が経営する病院に行き倒れの老人が担ぎ込ま
れたところから始まる。この老人、クイジャンと言う元ハッカーで、昔フラン
スを震撼させた武装強盗団の最後の生き残りだった。警察からも犯罪組織から
も追われ、逃げ回ってきた。
昔なら年老いた彼が若い頃に武装強盗団のメンバーだとはわからなかったが、
今は監視カメラの映像から昔どんな顔をしていた人なのかも短時間で解析でき
る。パリ警察と、犯罪組織は色めき立ったが、パリ警察は逮捕する前にやるこ
とがあった。
彼が行き倒れた時、フランス上空では空港完成システムが管制官のミスでシ
ステムダウンしていた。このままでは旅客機が空中衝突するかも知れない。こ
んな時のため移動式管制システムがあったが、持って行くのに6時間かかる。
管制所にはバックアッブとして昔のシステムが残されていたが、昔の言語で書
かれているため、今の技術者は扱えない。
逮捕の前に管制所のバックアップシステムを動かして欲しい。それが警察の
意向だ。同時に犯罪組織は、彼の暗殺をゴルゴに依頼した。ジャネットとクイ
ジャンは、警察が選んだ、ぶっ飛ぶ方法で管制所に向かうが順調に移動できる
はずもなく・・・
主人公ジャネットはゴルゴ13の遺伝子を引き継いではいるが、女子中学生で
あるからゴルゴのような動きはできないし、キャラもムチャなことはするが基
本良い子である。なのでゴルゴほど自由に動かせない制約がかかっている。だ
からその分作品としての変化が生まれる。
となると、ひよっとしたらゴルゴ13が死ぬ時には、ジャネットが主人公にな
って作品は続いて行くのかも・・・そんなことも思わせる。
最後に一つだけ苦言を呈しておくと、この巻を読む上で伏線となる連載があ
るにも関わらず、まだ単行本未収録の作品がいくつかあることだ。そのためな
ぜこの人がこのセリフを言うのか、わからないところがいくつかある。
いずれ発売になる単行本でエピソードが掲載されるのだろうけど、伏線を先
ず発売するのが筋だろう。なので本来このコミックは2、3年後に読むのがホ
ントはいいのかもしれない。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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そうだ、私には藤野千夜がいた!
『じい散歩』(藤野千夜著・双葉文庫)
皆さん、最近、「読みたい小説に出合わないなあ」と思ったことはありませ
んか?
おばちゃまの年齢になると、新しい作家の小説は馴染めない。そして、タイ
トルを見ただけで内容がわかる感じがする作品もあったりなんかして、書店を
ぐるぐる回ってもなかなかレジにたどり着けなかったりすることの多い昨今で
ありました。
そんなある日、電車に乗る前に1冊小説が欲しかったことがあり(スマホ依
存防止策として)、書店に入ったんですね。「今日も探せないのかな」と思い
つつ、入った瞬間、目に留まった本を取ってレジに直行!
それがこの本でした。
藤野千夜、昔はよく読んでた好きな作家さんでした。そうだ、私には藤野千
夜がいたじゃないの!(「まだ書いてたんだ」と思っちゃった私を許してね)。
それがこの「じい散歩」であります。
読み始めて、「あれ、藤野千夜ってこんな小説書く人だっけ?」と記憶を手
繰ったのですが、まあいいかと読み始め、おもしろくて一気読み。
ストーリーはね・・・これと言ってないんですね(笑)。
主人公は明石新平さん89歳。妻の英子さんが88歳。東京都豊島区椎名町に住
んでいます。若いときに上京して苦労しつつも建設の仕事に携わり、一時は会
社経営が順調でぶいぶい言わせてた御仁。今は、ほぼリタイアして自宅と事務
所を往復しながら、都内を気ままに散歩するのを趣味としています。中銀カプ
セルタワー、自由学園「明日館」と散歩途中で建築を見るのはやはり専門家だ
からですね。
爺さんの散歩だから「じい散歩」。これって今の散歩番組の草分け的存在の
地井武男の「ちい散歩」(テレビ朝日)とも掛けていると思いますが、「ちい
散歩」が終わったのが11年前の2012年ということですから、このかけ言葉を知
らない世代も増えているでしょうね。
ニッポンの高度成長にも助けられ仕事面でえは人生を上り調子で来た新平さ
んですが、昭和50年代後半から景気が下り坂になり、60代最後の仕事として会
社を畳み、アパート経営に転換してその一室を事務所兼遊び場にしています。
気楽なご隠居に見えますが、ままならないこともあります。
妻の英子さんが認知症っぽく、過去の新平さんの浮気を今も責め続けるんで
すね。うんざりな新平さんです。(ただ、過去の女性との恋愛模様を描いた部
分はちょっとせつなくていい感じでした)。
子どもは3人いて、長男がひきこもりの自宅警備員。次男が自営業ですがゲ
イでどうやら若い男と住んているらしい。(この恋人というのが著者自身なん
じゃないかと思っちゃいましたが、藤野千夜、もう還暦なんですね。「なら、
違うかあ」とミルクボーイのネタ的につぶやいて読み進めるおばちゃまでした)。
三男も自営業ですが、これが親に経営資金をせびってばかりの男でね……(だ
いたい、お金って、ある程度のまとまりができると誰かが無心にきて流出する
しくみになっている。お金は水と一緒で上から下に流れるものです)。
まあ、そんな心配ごともあるけれど、年齢を重ねた経験がモノを言うのかそ
れらを乗り越えて飄々と生きている新平さんでした。
飄々としているのは小説も同じで、特に大きな事件が起きるのでもなく、姪
の夫の臨終のとき、夫の愛人が妻を押しのけて病院のベッドで取りすがって泣
いているのを一喝するなんていうカッコイイシーンもあります。(すみません、
ネタバレでした)。
大きな事件、ありません。最後にどんでん返し、ありません。
ただ、小説全体を流れる空気が綺麗で、温かい。
新平さんは和菓子が好きらしく、散歩の途中で和菓子を購入しますが、三原
堂の薯蕷饅頭やら「池ぶくろう最中」、切腹最中(新橋の新正堂だと思われま
す)。最後に新平さんが、読者に向かってメッセージを伝えるシーンがあるん
ですが(またネタばれ)それもまたおもしろかったです。
まるで同窓会に出て、いつもは年賀状も書いてないし連絡も取ってないけど
まあまあ親しかったクラスメイトにあって心和んだような読書体験でした。
作家って、1つのパターンを繰り返して書く人が多いような気がしますが、
この作家は、別のテーマで書き続けるタイプのようです。
まだまだ読んでない小説がたくさんあって、思わず宝の山に遭遇したような
感覚。何度も申し上げますが、だから皆さん、猛暑も和らいだ今日このごろ、
新平さんみたいに散歩がてら書店に行きましょう! きっとすてきな作品に出
合えると思いますよ。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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月マタギでの配信になってしまいました。忙しすぎます。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<163>ぼくも散歩と雑学が好き
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第155回 坂口安吾の前半生を小説という形で知る
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→144 寄り添う
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<163>ぼくも散歩と雑学が好き
時々、昔に住んでいたあたりを、googleのストリートビューで辿ったりする。
大学で下宿生活を始めたときから数えると、これまでに都合八回の引っ越し
を経験してきた。
ふと、昔住んでたあの辺りは、「どうなってんだ?」と思うことがあり、そ
んな時、ストリートビューで覗いてみては、「あ、この店はまだある」とか
「こんなに変わってしもたんや」などと、感慨にふけったりするのが、結構好
きなんです。
30数年前に住んでいた世田谷区経堂を、ある日、そんな気分でお散歩してい
たら、すずらん通にあった古書店の遠藤書店が、なくなっているのに気がつい
た。
気になって調べてみたら、2019年に閉店した、との情報が世田谷区のブログ
にアップされていた。
経堂という街には、妙に縁があった。
1975年、大学に入って最初に住んだのがこの街で、経堂駅近くにあった居酒
屋「むらさき」でのアルバイトを通じて、様々な人とも知り合った。
その後都内を転々した後、結婚して住んだのが、またここだったのだが、す
ずらん通の遠藤書店は、様変わりしてゆく街の中で、学生時代から変わらず、
ずっとそこにあった。
出身地の神戸もまた、古本屋密度の高い街だったけど、わしが古本屋巡りに
目覚めたのは、大学生になってからだった。
鈴木翁二の漫画の影響から稲垣足穂に凝り始めて、タルホは当時ブームでも
あったので、新刊本屋になくとも、古本屋に結構出ている、とわかったからだ。
下宿に近かった遠藤書店でも、何冊か買った。
遠藤書店のあるすずらん通から、経堂駅を挟んで反対側の農大通りにも古本
屋はあって、そちらもときおりは覗いていた。
小田急沿線では、経堂の他に二駅隣の祖師ヶ谷大蔵や、新宿寄りの豪徳寺、
下北沢に古本屋はあって、気が向くと散歩がてらに出向いては、タルホの他に、
寺山修司、澁澤龍彦やなんかを探した。
あのころの古本屋ではまだ、漫画を扱っている店というのは、稀だったよう
に記憶する。
漫画が、サブカル的価値観でもって、古書店でも扱われるようになるのは、
「まんだらけ」以降じゃないかと思うのだけど、これは調べたわけでもないの
で自信がない。
1975年頃の経堂では、植草甚一をよく見かけた。
ストライプのベルボトムジーンズにぶっといベルト、Tシャツの上に革ベス
トを羽織り、首には赤い派手なバンダナ巻いた上から、さらにジャラジャラと
した鎖のアクセをぶら下げたヒッピー風のファッションに、特徴的なあごひげ、
白髪の頭には帽子をちょこんと乗せ、ひょこひょこと商店街を歩く小柄な老人
は、とても目立った。
最初に見かけたときには、雑誌でよく見ていた「J・J氏」その人が、目の前
を「生きて歩いている」姿に、わけもなく感動してしまった。
当時、経堂駅に隣接した高層住宅である「小田急経堂アパート」に住んでい
たらしい植草氏は、経堂の街のあちこちに出現した。
前述のように商店街を散歩風に歩いていたり、喫茶店でコーヒーを飲んでい
たり、すずらん通の遠藤書店は常連だったみたいで、奥の帳場の前に出しても
らった椅子に座り込んで、店主となにやら話をしていることもあった。
稲垣足穂という作家の存在は、鈴木翁二の漫画で知ったのだけど、その鈴木
翁二の漫画にも、古本屋はよく登場した。
タイトルは忘れたけれど、1970年代に鈴木翁二がよく描いた「私小説」的漫
画の中で、アパートの部屋に訪ねて来た友人をもてなすため、自らの蔵書を高
く買ってくれる古書店を求めて、地元の調布から京王線沿いに延々歩いては、
ついに明大前で高値をつけてくれる店を
見つけて、手に入れた資金で近くの酒場に友人を誘う。
という漫画が当時すごく印象に残っていて、わざわざ明大前まで、その古本
屋を探しに行ったりもした。
遠藤書店は、既に閉店したらしいけど、その他の、あのころ私鉄沿線にぽつ
ぽつと点在していた古本屋は、今もあるんだろうか?
だいたいの場所は覚えてるので、またぞろ、ストリートビューで散歩して確
かめてみようかな。
それとですね、「閉店」と言えば、なのです。
先々月から、どこかで触れようと思いながらも、失念したり、テーマとは違
うからと躊躇したりしていたのだけど、鳥取の書店「定有堂書店」さんが、こ
の3月から4月にかけて閉店されたのだった。
定有堂さんとは、書店時代、京都の書店組合の勉強会にゲストトーカーで来
られたときに知り合って、以来、いろいろと助言を頂いたり、お店のwebマガ
ジンである「定有堂ジャーナル」に原稿を書かせていただいたり、はてまた自
店のホームページの「土台」を作っていただいたりと、なにかとお世話になっ
てきたのだった。
最初の店を閉めて2軒目を作る時には、鳥取の店を見学させてもらい、店づ
くりの参考にもさせていただいた。
閉店は、ご自身の年齢的なものもあるのだろうけど、本屋という空間で、や
りたいことは全て「やりきった」との思いもあったんじゃないかと拝察します。
店主・奈良敏行さんには、改めての「ありがとうございました」と、そして
心からの「お疲れ様でした」を、申し上げたいと存じます。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第155回 坂口安吾の前半生を小説という形で知る
8月は休載させていただいた。その間、坂口安吾のことを調べてみたが、そ
の過程で坂口安吾を主人公にした小説に出会った。今回はその小説について記
載したい。
坂口安吾は新潟市の出身。そして海岸のすぐ近くが彼の生家である。坂口安
吾は日本海をみて育った。そういう小説である。
『安吾疾風伝』(七北数人 作)(春陽堂書店)(2022年10月20日初版)
坂口安吾の少年時代から青年時代の前半生を描いた小説。小説家・坂口安吾
がどう誕生したか、という過程を描いたとも云える。そして本書は単に坂口安
吾の半生を描いたものではない。つまり想像やイマジネーションを前提にした
フィクションというものではなく、可能な限り事実に忠実に(そのとき坂口安
吾はどこにいたか、どんな立場だったか、ということを細かく調査している)
描いているのである。つまり坂口安吾が書いたものや彼から友人や家族に宛て
た手紙、あるいは、友人や家族から坂口安吾に送った手紙、そして他のさまざ
まな資料を基に、坂口安吾がいつどこにいて、何をしていたか、詳細に検証し
た上で、本書が書かれた。
著者は、出版社で「坂口安吾全集」の編集に携わった出版人とのこと。全集
を編むにあたっては安吾が書いた書籍はむろんのこと、書簡や覚え書き、ノー
トやメモ書きにまで目を通すわけで、つまり安吾の生涯を資料で辿ることが仕
事であったようだ。
本書の冒頭の「はじめに」で著者は、こう云っている。
「・・・1906(明治39)年、新潟市で生まれた炳吾少年は、戦争へ向かう激
動の時代に、何を考え、何に興味をもち、誰とあそび、誰と喧嘩し、どう作家
への感性をみがいていったのか。・・・」
著者は炳吾(へいご)少年(安吾の本名)が目の前で活動するさまが容易に
想像できてしまう処まで、安吾の資料を読み込んだのだろう。それについての
証左となるものが本書には掲載されている。執筆子のやつがれが知る限り、作
家が作品の種明かしを掲載しているのは、本書が初めて。巻末の70ページほど
を費やして「執筆こぼれ話−空想が事実を掘り当てる−」というものがある。
これによると章ごとに著者がどんな文献をみたかの記載があるが、ここまでな
ら例えば論文などでも“参考文献”という資料一覧があるので馴染みがあるが、
本書ではその文献から安吾が何をしていたかを調べ、そしてそれを筆者は作品
にどう表現したか、まで書いてある。資料から見出した事実によって、いつ安
吾がどこで何をしているか、ということはある程度までわかる。そしてそこか
ら著者の想像が始まる。彼の想像によって安吾が資料から抜け出し、ひとり動
き始める。周りの人々を巻き込み、喋り始める。著者がどうしてこのように表
現することにしたのかを明かしてしまう、この「執筆こぼれ話」がとてもおも
しろいのだ。・・・とは云うものの、これほど親切に読者に種明かしをしてし
まっていいのかしら、とも思うわけで、この「執筆こぼれ話」は賛否があるの
ではないか。おそらく本書の版元でもこのくだりを掲載することに慎重な意見
があったであろうことは想像に難くない。
本書は1906年(明治39年)生まれの坂口炳吾が幼児だった1910年(明治43年)
から筆を起こし、25歳(1931年(昭和6年))で「風博士」で実質的に文壇デ
ビューを果たしたところまでの坂口炳吾の生い立ちを辿っている。子どものこ
ろ、少年のころ、思春期のころ、青年になったとき。それぞれもがき苦しむ炳
吾の姿がある。炳吾がどのように安吾になるか、つまり悩み多き少年が、なに
かを掴み作家となっていくさまが描かれている。
本書は映画化、ないしテレビドラマ化できる。どんな役者を安吾役につける
かはなかなか難しい。安吾は大柄な男であり、写真をみてもわかるとおり、顔
も大きい。いまはやりの小顔ではない。若い役者でそういう風貌のいい役者は
いるか。・・・まえだまえだの兄の前田航基。しっかり鍛えて、役作りとして
もう少し精悍な顔立ちにするといいかもしれない。
多呂さ(今年の夏は異常な暑さが続き、たまり水も熱くなってしまうので、ボ
ウフラもわかず、したがって蚊も少なかったといいます。まだしばらく30度超
えの日が続くようです。皆さん、ご自愛ください。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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144 寄り添う
大笑いしながら読んだ、とっても愉快な絵本をご紹介します。
『ぼくのじゃがいも』
ジョシュ・レイシー作 モモコ・アベ 絵
みやさか ひろみ 訳 こぐま社
アルバートはペットが欲しくてたまりません。
でも、ママもパパも反対です。
犬を散歩させる時間がない、
猫アレルギーがある、などなど。
あきらめきれないアルバートは、
朝な夕なにお願いを続けます。
とうとうパパが贈り物をアルバートに渡します。
しかし包みをあけてみると、じゃがいも一個あるのみです。
パパは、ペットを欲しがっていたから「おじゃがくん」をプレゼントしたん
だよというのですが……。
さて、じゃがいもはペットになるのでしょうか!?
アルバートがとった行動はとても愉快、さらに結末はもっともっと愉快です。
マットな色調、レトロ感ある雰囲気の絵で、「おじゃがくん」との日常を、
ユーモアをたっぷり演出。
ページごとに描かれる視点も、横から、上から、下からと、さまざまに変化
し楽しませてくれます。なかでも私は上からの視点で描かれたごみバケツの絵
がお気に入りです。
肌の色が違う大人や子どもたちも描かれ、「おじゃがくん」との日常をより
奥の深いものにしています。ぜひ読んでみてください。
次にご紹介するのも絵本です。
『ゆめわたげ』
クリス・サンダース 作 糸畑くみ 訳 三辺律子 監修
工学図書 山烋のえほん
毎年楽しみにしている、東京、板橋区の文化事業として開催されている「い
たばし国際絵本コンクール」。英語部門の最優秀作品の単行本です。
初めて知る絵本作家、翻訳家の絵本は、どんな絵で、どんな物語が描かれて
いるのだろうとワクワクします。
じっと絵をみていると、ウサギくんがこちらに向かってくるかのような立体
感があります。デジタルと手描き両方の手法を用いているのが活きています。
物語は一年に一度願いをかなえてくれる「ゆめわたげ」の話。
ゆめわたげの飛びたつ様子にみとれていたウサギくん。なんと3つも自分に
くっついたのです。
思いがけない「3つの願い」を手にしたウサギくん。友だちのところに行っ
てどんなことを願うか聞いてみます。聞いているうちに、どれもすてきな願い
に思えてきて……。
物語の言葉に躍動感があり、声に出して読むと、リズムの心地よさを味わえ
ます。
すこし引用しますね。
ねがいを かなえる ゆめわたげ。
いちねんに いちど とびたちます。
きたいに ふくらみ きらりらり。
ふわふわ、ヒュン、おどるるる。
どうです? かろやかな響きを感じませんか。
最後にご紹介するのは、2007年に刊行され、翌年2008年に青少年読書感想文
コンクールの課題図書に選ばれた本です。
16年前に刊行された本ですが、今年日本で映画が公開されるタイミングなの
であらためてご紹介いたします。
『ブルーバック』
ティム・ウィントン 作 小竹由美子 訳 橋本礼奈 画
さ・え・ら書房
舞台はオーストラリア。少年エイベルは、母親と2人で海の近くで暮らして
います。
ある日、海にもぐっていたときに「背の青い魚(ブルーバック)」と出会い、
すっかり魅了されます。
はじめて出会って以来、ブルーバックはエイベルにとって大事な存在となり
ました。
いつか、魚のことを勉強し、魚の専門家になろう、エイベルはそう決めます。
十歳のエイベルが一年、一年成長していく姿と共に、橋本礼奈さんの描くブ
ルーバックと海の美しさを、再読したことであらためて感銘しました。
少年の成長物語は、映画では少女となっているようです。
動くブルーバックをぜひみてみたいと思っています。
そして、
本書の編集をされたHさんは、天国で映画化を喜んでいるでしょうか。
Hさん、あの本が映画化されましたよ。
一緒に観たかったです。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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いつもながら、メルマガの配信、遅くなりました。(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #159『HHhH』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『秘密資金の戦後政党史』名越 健郎 新潮選書
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#159『HHhH』
今年もまた、終戦記念日の八月です。
正しくは敗戦記念日だ、という人や、むしろ「廃」戦記念日でしょ、だって
憲法で戦争を放棄したんだから、という人もいるようで、なるほどなるほど。
以前はこの時期、テレビはやたら太平洋戦争関連の番組になり、かつてはう
んざりもしたんですが、最近は、いや、それくらいでむしろいいんじゃないか、
八月になってもテレビが一切この手の番組をやらなくなる方が怖いかも、と思
うように。
ところが今年は、あんまりやってない気もします。少なくとも民法はゼロ。
NHKだけが2番組。再来年は80周年だから、そこへ向けてネタを貯めている
のかな。
しかし、海の向こう、かつて同じ側に立っていたドイツやイタリアでは、ど
うなんでしょうか?
終戦記念日には、いまでもまだ第二次世界大戦の番組をやってるのかな。
そう言えば、随分前に見たドイツ映画で、高校生がアウシュビッツに関する
歴史の授業を受けながら、「いつまで謝らないといけないんですか」と質問す
るシーンがありましたっけ。
ナチスについては、都市伝説やオカルト界隈では、相変わらず鉄板のネタ。
南極の地下に秘密基地をつくっただの、チベットの山奥で幻の桃源郷シャンバ
ラを発見しただの、宇宙人から技術を学んでVロケットをつくっただの。ヒッ
トラーのみならず、ヒムラー、ゲッペルス、ゲーリング、アイヒマンと綺羅星
のごとき有名キャラにも事欠きません。
しかし、そんなナチ高官の中でも、最も残忍と言われ、でも見た目はアーリ
ア人の鑑みたいな美丈夫。ユダヤ人問題のいわゆる「最終解決」、つまり絶滅
の最高責任者を務め、「金髪の野獣」他さまざまのニックネームを持つ男、ハ
イドリヒのことは、不勉強ながら知りませんでした。
ヨーロッパでは、むろん有名なんでしょうね。
この男が、ナチス占領下のチェコ総督になり、中世の王のように君臨してい
る時、暗殺計画が決行されます。その名も「類人猿作戦」。
本書『HHhH』は、ハイドリヒ暗殺計画を、大胆かつ画期的なメタ・フィショ
ンに仕上げた一冊です。
作者のローラン・ビネはこれがデビュー作。まったくの新人だそうです。
それにしても、小説においてもナチス・ネタは鉄板なのかも知れませんが、
何の実績もない無名の新人が書いた実験小説が出版され、ちゃんと売れて、日
本など各国で翻訳されるなんて、まだまだ捨てたもんじゃない。
メタ・フィクションと言われても何のことやら、という方もいらっしゃるか
と思いますが、普通の小説だと、その世界の中では虚構の物語ではなく、実際
にあったこととして書いてありますよね。登場人物も実在の人物として扱われ
ている。
ところがメタ・フィクションでは、これが小説であることを読者に意識させ
る書き方になっています。
例えば、小説ではなく演劇作品ですが、舞台上で登場人物が突然セリフが出
て来なくなって、あれ、どうしたんだろう、さては作者のやつ、この先が書け
なくなって逃げたな、よし、とっ捕まえて続きを書かせよう、と作者を探し始
める、なんてものとか。
あるいは、主人公が小説を読んでいると落丁がある。一部ページが抜けてい
るわけですね。それで書店に取り換えに行く。そしてまた最初から読み直す。
すると今度は誤植がある。出版社に連絡して、次の版から直します、と言われ
て、そんなの待ってられるかと気を取り直してまた最初から、と延々先に進ま
ない、というひたすら小説を読む小説なんてものとか。
とすると、じゃあ、小説を書くことをテーマにした小説だってあり得るよね、
というわけで、本書がまさにそれ。
つまり、ビネは普通の「類人猿作戦」を小説に書くのではなく、作者自身と
言っていい「僕」が登場し、文献を探したり、所縁の地に行ってみたり、博物
館を訪ねたりする。しかも、その時、一緒に行った恋人の話なんかも織り交ぜ
るんです。それと、ハイドリヒを始めとする人物たちの物語が少しずつ語られ
ていって、やがて1942年、プラハで起こった暗殺のクライマックスに辿り着く
のです。
面白いのは、「僕」の異常なまでの細部へのこだわり。
その日の朝食にその人物が食べたのは何だったのか、服は何を着ていたのか。
そういったことにこだわる。
とりわけ印象的なのが、ハイドリヒの乗っていたメルセデスの色です。
「僕」が執筆中、同じ「類人猿作戦」をテーマにした小説が先に出版されてし
まい、やられたと思いながら読んでみると、著者のリテルはメルセデスの色が
「緑」だったと断言しているんです。
しかし、「僕」は確信をもって、違う、「黒」だ、と思う。
なぜなら「僕」は、そのメルセデスを博物館で見ているから。あれは確かに
黒だった。一緒に行った恋人にも確認すると、ええ、黒だったわね。
しかし、それで安心するわけではないのが、さらに面白いところで、でもあ
れは本当にハイドリヒが乗っていたメルセデスなのか、レプリカじゃないのか、
するとそれを用意した人間は本当に黒だとわかっていたのか、偉い人が乗るク
ルマは大体黒じゃね?って思い込みで黒にしただけではないのか……などと、
自信を失っていったりもする。
ここでは「真実」とは何か、ことに「歴史における真実」とは何かが皮肉な
形で問題提起されています。
1942年と言えば、まだ百年と経っていない。歴史の世界では「つい最近」。
しかも舞台はヨーロッパという文明世界。ナチスほどの重要事項に関しては、
膨大な記録が残っている。なのに、クルマの色さえ定かではないのです。
「僕」はとにかく、作者による推測、臆断を排除しようとします。他の小説で
は作者が自由に想像の翼をはばたかせている箇所も、そうだったという確証が
なければ書かないというストイックな態度。
ところが、「おそらく」と言い訳しながら、その想像をしてしまう箇所もあ
るんですね。やっぱり資料を読み込んだ末に、頭の中でその場面が映像として
浮かんでしまう。それがもう「僕」にとっては真実でしかあり得なくなってし
まう。そんな瞬間があるからでしょう。
本書はもちろん、音楽に関する本ではありませんが、やはり、モーツァルト
が「我がプラハは私を理解してくれる」と自ら述べたというあのヨーロッパ有
数の古都が舞台ですし、なんとハイドリヒの父親というのが、作曲家なんです
ね。
それでハイドリヒ総督が音楽会を開き、父親の書いたピアノ協奏曲を演奏さ
せるというエピソードがあるんです。そして彼は、演奏を聴いて感動したりす
る。
ユダヤ人の効率的な虐殺手順を、天才的な手腕で確立した「金髪の野獣」が、
作曲家を父とし、音楽を愛好する。
果たして芸術的天分は遺伝するのか、とか、芸術作品の理解力と倫理には関
係があるのか(そう言えばプラハが愛したモーツァルトもモラル的にはいかが
なものかだったのは映画『アマデウス』で有名になりました)、といった問題
を思い起こさせます。
もうひとつ忘れられないエピソード。
プラハは百の塔のある街として知られますが、彫像もやたらと多いらしく、
ある建物に音楽家の像がいくつも飾ってある。ところが、メンデルスゾーンが
ユダヤ人だというので、それを撤去しろという命令が下ります。
そこで職人たちが現場に行くわけですが、あれ、どれがメンデルスゾーン?
曲はともかく、顔なんか知からねぇぞ。どうすんだ、となって、現場監督が言
います。じゃ、一番鼻のでかいやつをぶっ壊そう。それがユダヤ人に決まって
る!
ところが、なんと最大の鼻を持っていたのは、ヒットラーごひいきのワグナ
ー像だったのです。
あわやというところで間違いは気づかれたようですが、ナチスの悲劇の陰で、
こんな喜劇があったのが、何ともリアルだなぁ。
ともあれ、「類人猿作戦」の顛末と、それを小説に書く「僕」の物語が重層
的に絡み合うこの仕掛けを成立させるため、ビネは極端に短い断章を積み重ね
ていくスタイルを取っています。だからかなり分厚い本だけど読みやすい。ち
なみに全体は2部構成になっていて、第?部の最初の章が「222」から始まっ
ているのはご愛敬。
21世紀になってもまだ、あの戦争を題材にした小説がちゃんと書かれて、ち
ゃんと売れたというのは、驚きであると同時に、頼もしい限り。
もっとも著者はフランス人ですから、被害者の立場です。加害者の立場から、
いまもまだこのテーマを取り上げている小説は書かれているんでしょうか。
ローラン・ビネ
『HHhH プラハ、1942年』
2013年6月28日 初版
2013年9月25日 5版
東京創元社
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
猛暑と台風で、不快指数うなぎのぼりの夏。特に低気圧と高湿度の日は体調が
悪くなる。低気圧頭痛ってやつ? 寒暖差アレルギーってやつ? 暑いと寒い
なら、まだ暑い方がまし、と思っていたのですが、さすがに今年はきつい。コ
ロナもまた増えていますし、とにかく「何とか生き延びる」がテーマの昨今で
す。サバイバルって、もはや非日常の冒険ではない?
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『秘密資金の戦後政党史』名越 健郎 新潮選書
外国人や外国企業からの政党への寄附は禁止されている。外国が国内政治に
干渉してくることを防ぐためだ。にもかかわらず日本の政党が外国から金をも
らっていたことを私が知ったのは、どこかのサイトにあった佐藤優の講演の切
り取り動画であった。著書にも同じことが書いてあるので引用すると、
「当時のソ連共産党が日本でいちばんバカにしていたのが社会党左派の社会主
義協会系の人々です。ソ連からおカネをもらっているからですね。二番目にバ
カにしていたのは日本共産党です。もはやソ連共産党も信じていないマルクス
・レーニン主義を本気で信じている連中で、ちょっとおかしいんじゃないかと」
※「反省 私たちはなぜ失敗したのか?」鈴木宗男、佐藤優 アスコム
そんな経緯から、この本のタイトルを見たときには日本社会党の話なのかと
思っていた。しかし目次を見るとびっくりである。日本の政党で外国から資金
が入っていたのは自民党、民社党、社会党、共産党と四つもあったのだ・・・。
お金の出し手はアメリカとソ連である。証拠は米ソの公開された公文書と来た
もんだ。
こうした証拠文書は多くがまだ機密扱いになっていて、公開されているもの
は多くない。そのため、全容を知ることは現状不可能だが、機密指定を解除し
て公開されたものだけでも、かなりのことがわかる。
米ソが外国の政党に金を出していたのは日本だけではない。戦後の冷戦を勝
ち抜くために両国とも多くの国の政党に資金を渡した。冷戦の主戦場は欧州だ
ったので、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアといった国の政党にも渡し
たし、その額は日本向けよりはるかに多かった。日本は、主たる資金の支出先
ではなかったのだ。
また、政党に金を渡したと言っても、実際は党内の派閥に渡したり、窓口に
なった人に渡したので窓口とその関係者(と言っても党首クラスだが)しか米
ソからカネが来ていることを知らないことも多いようだ。
ということで実際の秘密資金の受け取りをしていたのは、自民党なら岸信介、
池田勇人、佐藤栄作、民社党は創設者の一人西尾末広ら。彼らはマッカーサー
米大使らと何度も会談し選挙資金などの名目でカネも要求した。共産党の資金
源はもちろんソ連で、中国が出すこともあった。受取人は野坂参三や袴田里見
である。
そうした資金がどんな手段によって、いくらほど入ってきたのかは、読んで
のお楽しみと言うことで書かないが、一つだけ他党と違う動きをしていたのが
社会党である。
1964年あたりから、米ソはそれそれの思惑から自民党や民社党、共産党への
資金援助は停止し始めたが、この頃より資金援助が増えたのは日本社会党だ。
共産党はソ連から選挙資金の他にも党本部建設資金などもせびっていたが、ソ
連共産党とけんかになって資金をとめられた。そこの空白に入ってきたが社会
党だった。
以来、ソ連崩壊くらいまでソ連にたかっていた。佐藤優氏が上記引用のよう
な言い方をして共産党への資金提供について触れなかったのは、共産党への資
金提供が古い話だったので、ご存知無かったか、古すぎて触れなかったか、ど
っちかだと思われる。
翻って、近年の「政治とカネ」問題はみみっちい。冒頭に09年から3年間の
民主党政権時代に同党の幹部が外国人から献金をもらったと大問題になり、前
原誠司などは外相を辞任した。
前原氏がもらった献金とは、在日韓国人の焼き肉屋のおばちゃんから年五万
円5年間もらっていたと言うものだが、このおばちゃんは前原氏を子供のころ
からかわいがっていた人だったという。おそらく外国人献金の禁止なども知ら
なかったであろう、単に親しいからこそ献金した人の、たった年五万円で外相
辞任の騒ぎになるのに、過去の千万、億単位の献金が問題にならないのも釈然
としないところ。
で、こういう本を読んでいると思うのだ。今でも外国からキーパーソンに流
れてくるカネはあるはずで、金額もかなりのものになるだろう。そして金を出
しているのは中国の比率が高くなっているのではないか?一部でも言われてい
るが、太陽光パネル輸入みたいな生業をしている政治家は要注意であろう。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
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・希望の書籍名:
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表題【読者書評参加希望】
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1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
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2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
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3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
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4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
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ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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早いもので、あと10日ほどで8月も終わりますねー。
夏休みの宿題、終わってますか?(あ)
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■発行部数 2768部
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→#158『悪魔の機械』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『日本史サイエンス』播田安弘 講談社ブルーバックス
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『小学館の図鑑NEOアート 図解はじめての絵画』(2700円+税)
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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#158『悪魔の機械』
猛暑うがない、という寒いダジャレを飛ばしても一向に涼しくなりません。
当たり前か。
先日、ものすごく久しぶりに会った友人が、いつの間にかYouTuberになって
おり、ハワイを紹介するVlogをやっていました。
この夏も、ハワイへ飛び立つ日本人は、さぞ多いでしょう。
ハワイに限らず、「コロナが終わってもいないのに終わったかのような感」
――あるいは、「もういい加減に終わったことにしようよモード」――の昨今、
世界狭しとさまざまな国を訪れる人で、空港はごった返すと思います。
と、他人事っぽく書いているのは、もちろん自分は行く予定も行く気もない
からですが、さて、そういう善男善女のみなさんも、自分の行く国が地球のど
こにあるかぐらいは把握していても、その国の歴史にまでは思いが及ばないこ
とでしょう。
そこで今回は、英国の歴史を材に取った小説、それもこの暑さをひと時忘れ
させてくれる、波乱万丈の冒険活劇を取り上げてみようと思います。
ビクトリア朝ロンドンを舞台とする、K・W・ジーター『悪魔の機械』であ
ります。
歴史を材に取ってはいますが、歴史小説ではなく、奇想満載のファンタジー。
著者本人の命名によると、「スチームパンク」というマッド・サイエンティス
トものなのです。
言うまでもなく、SFの流れを変えたサイバーパンクに由来するネーミング
で、著者は冗談のつもりらしいけど、どうして非常にいい名前ですよね。
19世紀から20世紀にかけて、産業革命が起こり、科学的な発見が上流階級の
サロンを賑わしていた時代。そのシンボルとして、「蒸気」はぴったり。
加えて破天荒なプロット展開は、まさに沸騰する蒸気機関を彷彿とさせます。
そして、この時代が、実はパガニーニの活躍した時代でもあったんですね。
どうも学校の世界史では、戦争を含む政治史が中心で、文化史は最後の方にち
ょこっと触れられる程度だから、有名な作家や作曲家がどの辺の時代の人か、
案外知りません。
だから、あの超絶的な速弾きで、悪魔に魂を売って音楽的才能を手に入れた
と噂された伝説のバイオリニストが、ビッグスターとして君臨した時代こそ、
この産業革命と蒸気機関の英国だったと知ると、興味もひとしおです。
とはいえ、パガニーニ自身が登場するわけではないのです。
なんと、パガニーニを模したバイオリンを弾く自動人形――いまで言うロボ
ットが登場するのですね。
しかもその名が、パガニニコンですよ、パガニニコン!
なんとまあ、ビクトリア朝っぽい、語感。これまた絶妙なネーミング。
やはり、ジーターのセンスは抜群です。
自動人形と言えば、ポーの「メルツェルの将棋差し」を思い出しますが、あ
れもまさにビクトリア朝が始まる一年前、1836年の出版でした。
日本にも江戸時代、鼓を叩く自動人形があったし、同じく19世紀を明治まで
生きたからくり儀右衛門なんて人もいましたよね。
ともあれ、このパガニニコンをつくった天才マッド・サイエンティストの不
肖の息子が主人公。亡き父親の跡を継いで時計屋を始めたはいいけど、才能は
受け継がれずに鳴かず飛ばず。細々と店を守って糊口をしのいでいるところへ、
未知の人物から持ち込まれたとある機械。どうやら父の遺した発明品らしいが、
その修理を頼まれたものの手に余る。
すると、それを騙して取り上げようとする男女が登場。主人公が企みを見抜
いて機械を守れば、強盗に入って部屋を荒らす。
一体何が起こっているのか。あの、父親の発明した機械は、そもそも何をす
る代物なのか。
持ち込んできた人物が、手付金として置いていった銀貨もまたくせもので、
ビクトリア女王の肖像ではなく、魚のような顔をした薄気味の悪い横顔をレリ
ーフした贋金。退屈な日常に倦んでした主人公は、いよいよ好奇心やみ難く、
銀貨を作った贋金造りの居所を探し始めます。
贋金造りが住むという、ウエストウィックなる不思議な街。そこに徘徊する、
銀貨の肖像そっくりの魚顔の不気味な人々。そして訪ね当てた贋金造りは殺さ
れてしまい、主人公もまたテームズ川にドボン……
物語はめまぐるしく展開し、危機また危機を潜り抜けますが、主人公は決し
てジェームズ・ボンド型ではなく、むしろ人一倍鈍い方。あわやという場面を
何度も人に救われ、頻繁に気絶もする。
正直、この気絶はちょっと多すぎますね。小説技術的には、語り手が気絶す
れば描写を省いてさっさと先に進めるし、それなりのサスペンスもあるけど、
こう乱発されると効果が薄れて、手抜き感が出てしまう。
しかし、巨大な機械で地球の破砕をもくろむ貴族だの、未来を見た詐欺師だ
の、海底人の末裔だの、王立科学狂会(暑さによる打ち間違いではありません!)
に神聖防衛隊なる秘密結社だの、もちろん自動人形パガニニコンも大活躍で、
登場人物の奇矯さ、多彩さには文句のつけようがありません。
主人公一人が凡人という設定も、怪人だらけのこの世界では効果的。むしろ
主人公こそが一番の変人なのかもですね。
音楽本としては、やはりパガニニコンが要注目ですが、残念ながら演奏シー
ンはない。でも、演奏会はある。
面白いのはこの自動人形がある理由で主人公の顔と瓜二つに出来ていること。
そのため、主人公は何とパガニニコンに間違われ、弾けもしないバイオリンを
無理やり持たされた挙句、サロンに詰めかけた聴衆の前に立たせれるシーンが
あります。
さて、このピンチをどう切り抜けるのか。
そこには、パガニーニが天才的な音楽家であるだけでなく、当時のスターで
あることも巧みに絡んでいるのですが、答えは読んでのお楽しみ。
K・W・ジーターは学生時代に『ドクター・アダー』という長編をものして
いるそうで、それを読んで才能に惚れ込み、あちこちの出版社に推薦したのが、
かのフィリップ・K・ディックだとか。
なるほど、ディック好みの奇矯さかも知れません。
この夏は、想像力を駆使して現実逃避を楽しみましょう。
K・W・ジーター
『悪魔の機械』
一九八九年八月二十日 印刷
一九八九年八月三十一日 発行
ハヤカワ文庫FT
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
年に一度、静岡の友人たちと音楽を楽しむイベントをやっていたのですが、コ
ロナで中断。それが今月、4年振りに復活したので、本文中にある旧知の友と
も再会できたのですが、相変わらずで嬉しかった。そう、進歩や成長もしなき
ゃだけど、変わらないというのも悪くないものです。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『日本史サイエンス』播田安弘 講談社ブルーバックス
以前、『日本史の謎は「地形」で解ける』という本を紹介した。日本史の定
説に土木技術者の視点で新しい光を当てる内容であった。今回の本は、船舶設
計の専門家から見た日本史である。まだ買ってないが、続編「弐」もある。
俎上に挙げられているデマは三つ。
・文永の役で蒙古はなぜ一夜で撤退したのか
・秀吉の「中国大返し」はなぜ成功したのか
・戦艦大和は本当に「無用の長物」だったのか
の三つ
最初の蒙古の撤退について書く。
チンギス・ハーンが日本に何度も従属せよと使者を送っても無視するので、
日本侵攻を企てた。それで朝鮮に船を造らせて攻める準備をするのだが、史書
に書いてあることは本当かと著者は疑問を持った。
軍艦900隻、4万の兵が攻めてきたとされているが、船舶設計の専門家であ
る著者は、ホントにそんなことができるのかと調べ始めるのである。
まず軍艦建造に必要な木材と、その木材を得るのに必要な森林面積を計算す
る。計算をするためには軍艦1隻にどんな木材がいくら必要なのか調べる必要
がある。でも史料がない。そもそも軍艦の設計図を引かないと、どんな木材が
いくら必要なのかわからない。
ということで史料を見ながら当時の船の設計図を再現し(当時のやり方では
なくCADだけど)、必要木材量を計算した。計算結果から導き出された必要
木材量と当時の森林面積から計算すると、実際は900隻の半分しか作れなかっ
たろう・・・造船屋だからこそ見えてくることがあるわけだ。
先に書いたように著者は船を造る人だが、船の設計者は船のオペレーション
も知らないと仕事にならない。瀬戸内の遊覧船と知床の遊覧船を同じ設計にす
るような愚を犯すようなことは、普通はしない。
そうした知識が発揮されるのが、通説で言われている蒙古軍の船の運用や上
陸地点や上陸時間など、実際はこうではないかと指摘するところだ。
たとえぱ、船酔い。定説では海に慣れていない蒙古軍は船酔いで苦しめられ
ていたが、著者もこれは同意する。しかし著者は船の構造と玄界灘の海の荒れ
具合を計算して、どの程度の船酔いだったのかまで計算する。現代には、船酔
いの症状のランクが作られているのだが、著者によれば蒙古軍は現代基準で最
悪級の船酔いになっていたようだ。そりゃ志気は上がらない。
博多まで来ると船は錨を下ろす。錨を下ろすと、風や海流によって船は錨を
中心に360度回転する。映画「バトルシップ」で第二次大戦中に建造された戦
艦ミズーリがこの知識を応用して侵略してきた宇宙人の攻撃を回避するところ
が見物なのだが、それはそれとして、1隻の船が事故なく安全に停泊するには、
投錨位置から周囲にどれだけの円の面積が必要か・・・・そんなこんなと計算
によって自説の説得力を増し、最後には遠浅の海であった当時の博多湾では喫
水の関係で停泊できる場所が限られることを説明する。すると上陸場所は定説
の場所ではなく、ここしかない。
加えて兵や馬、武器を下ろすのにも時間はかかるし、少しづつしか下ろせな
い。一つの船から兵士や馬を下ろすのに10時間はかかっただろう。となると蒙
古軍は武器が日本よりも劣っていた以前に、攻めてくる日本軍に対し兵力を逐
次投入せざるを得ず、体制を整える余裕もなかったはずだ。
撤退時の遭遇した荒天に対し、どんだけ脆弱な船だったかも解説してある。
そりゃ被害が大きくなったはずだと言い切れるのも、自分で実際に当時の船の
図面を引いたからこそだろう。
しかし、この方が一番書きたかったのは戦艦大和の評価を覆すことだ。この
時代の先輩の薫陶を受けだろうし、資料も集めやすいのもあるだろうが、何よ
り力が入っているのは読んでいけばわかる。
戦艦大和は時代遅れの大艦巨砲主義の産物だぁ?この時代どこの国も一緒だ
ったろ?時代遅れでなかった国があるというなら挙げてみろ!
第二次大戦時でも戦艦は時代遅れではなかったし、活躍できなかったのは運
用が下手だったからじゃないのか?もしここで使っていたらというタイミング
に使われなかったのは運用がヘタだからに決まってるだろ!
戦艦大和を作れたことが当時としてどれほどすごいことなのか。戦後、日本
の造船業が世界一になるのにどれほど貢献したのか?戦艦大和の歴史は沈没し
たときに終わったんじゃないぞ!・・・そんなことを陽に暗に言いたいという
か、実際言ってるw
基本技術者の文章なので、感情は抑えて書かれているが、行間は感情丸出し
・・・いやぁ、こういう文章は大好きですw
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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むしろ大人が楽しめる
『小学館の図鑑NEOアート 図解はじめての絵画』(2700円+税)
プレゼントする絵本を探していて、久っさしぶりに児童書コーナーに行き、
自分のために即買いした本です。(肝心のプレゼントしたい本は見つからず。
なんか、児童書って・・・いい本ないですね。おばちゃまの探し方が悪いの?
「子どもを正しく育てよう」「こう育ってほしい」という啓蒙的な本、作為が
見え見えの本が多くてイヤになりました)。
それが『小学館の図鑑NEOアート 図解はじめての絵画』ですよ。
おばちゃま、ずっとずっと、美術館に行って絵画を見るのは好きだったのだ
けど、絵の見方ってわからなかったのね。「ようわからんなあ」と思い続けて
幾星霜、最近は知識がなくても大丈夫、直感で見ればOKなコンテンポラリー
アートを中心に見てて。でも古典絵画も見たいじゃない。だから、美術館で大
学の先生がゼミ生らしき若者を引率しているそばでさりげなく寄っていって聞
いたり、カップルで来ていて彼女に縷々説明しているボーイフレンド氏のそば
で聞き耳を立てたりしていたのね(離れろ、おばさん!)。
もちろん絵画の見方的な書籍はたくさんあるけど、やさしく解説されている
けどやはり専門家が書いているので専門的で難しい・・・それを一気に解決し
たのがこの本だったというわけです。
なにせ対象は小学生。特定の著者はいないので、わかりやすい。歴史順や分
野別(印象派とかキュービズムとか)ではなくて、なんとなんと次のようにカ
テゴライズされているのです。
*小さな絵大きな絵
*人のそばに描かれた動物たち
*「モナリザってどこがすごいの?
*マンガやアニメみたい 絵巻の楽しみ方
*世界でいちばん速いウサギ
*点だけで描かれた絵
・・・キリがないからもうやめますが、どういうことかというと、たとえば、
「一瞬を永遠の形に残す」
というテーマでは、ジャパンのパスポートでもおなじみの葛飾北斎の「富岳三
十六景 神奈川沖波裏」について解説し「常に動き続け、決まった形がない
「波」。絵師や画家たちは、形を変え続ける波の一瞬の姿をとらえて、まるで
その形が永遠に続くかのように描きました」(本文にはルビついてます)。
と書き、北斎とクールベの「波」を並べて比較できるようになっています。
楽しいね。
「主役になった食材」というテーマでは、
高橋由一「鮭」、マネ「一束のアスパラガス」、草間彌生「かぼちゃ」からウ
ォーホル「キャンベルスープI ベジタブル」など古典から現代アートまで7
点が1見開きに並べてあって、絵本的な楽しさがあります。「アメリカの、ど
こにでもあるようなスープの缶詰をそのまま描いている」(ウォーホル)って
とこからは始まって興味がある子は「石鹸箱の絵もあるんかい。なんでこの人
は身近なものばっか描いとんねん」と知識と感性の幅を広げることができるわ
けですね。ええやん!
後の方のページでは美術館の見方とか、画家の勉強方法とかアトリエってこ
んなとこみたいな知識ページもあって楽しいです。
こういう本は、「ほら読みなさいよ」とか子どもに強制するんじゃなくて、
部屋の隅に転がしておいて、興味があれば見るし、時々見て「ふうん」でもい
いなんか頭に残っていてちょこっとでも感性が豊かになるかもしれない。まっ
たく興味がなくて一瞥もしなくてもそれは仕方ないって感じで接するのがいい
ですね。「教育投資はハイリスクノーリターン」という名言を吐いた保護者が
いましたが、ま、そういうものだと思ってください。
あと、こういう出会いがあるので、いくら送料が無料でも巨大通販サイトで
注文するのではなく、皆さん、自分の足を使って書店に行き、いろんな本を見
て回ってください(何回も言っとるし、自分にも言い聞かせています)。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
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をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
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■あとがき
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配信が遅くなりました。毎日、暑いですねー。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<161>漫画と煙草
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第154回 『堕落論』&『続堕落論』を読み倒す
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→142 おどろくこと。感じること。
★献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<161>漫画と煙草
ただいま「モーニング」に連載中の『逢いたくて、島耕作』(諏訪符馬)とい
う漫画が、なかなか面白い。
「島耕作」の熱烈なファンを辞任する、ただいま就活中の大学生…というの
は、『島耕作』シリーズに幼いころから親しみ、既に1000回以上読み通した、
という作者自身が反映されてるんだろうけど…が、「シマコー」世界にのめり
込むあまり、ある日、その漫画世界の中に「異界転生」し、物語世界を正しく
進行させ、島耕作を「正しく出世させる」というミッションを「神」から与え
られて奮闘する、というお話。
単行本「島耕作」シリーズを「聖典」、その作者・弘兼憲史を「創造主」と
崇める主人公だが、転生した先は「(株)初芝電産大阪支店」で、しかも島耕作
シリーズでは随一の“小悪党”キャラで、後に大阪支店へ転勤してきた島耕作
をいびりぬく「今野輝常」の部下として転生してしまい、肝心かなめのの島耕
作にも、すれ違いばかりでなかなか逢えない。
それでも、なんとか初芝電産と物語世界に貢献し、東京本社へ栄転して憧れ
の島耕作と「机を並べたい」との思いで奮闘…するのだが、彼の行動が、結果
的に物語をミスリードする羽目になっては、転生の最初の状況まで「振出しに
戻る」状態になってしまったり。
それにもめげず、「島耕作」シリーズの全エピソードを憶えている、という
記憶を武器に、頑張るのである。
そんなメタ構造の物語が、なかなかに面白いのだが、平成生まれで令和育ち
という主人公…ということはつまり「作者」なのだが、その彼が1980年代の
「昭和」世界で味わうジェネレーションギャップもまた、わしらの世代からし
たら、なかなかに興味深いものがある。
「セクハラ」「パワハラ」などは、その言葉どころか概念すらない、という
オフィス環境にたまげたりもするのだが、主人公・谷耕太郎が80年代世界で、
一番閉口するのが「タバコ」なのだった。
オフィスでも皆平気で煙草をスパスパふかしては、デスクの灰皿を溢れさせ
ているし、出張で東京へ向かった新幹線の車内もまた、煙でもうもう。
これは確かに、現代の感覚からすると「異常」としか言いようがないかもし
れない。
80年代…というよりも昭和、ですね、昭和世界では、大人が煙草を吸うのは
当たり前、というよりも、煙草を吸うのが「大人の証し」みたいなところもあ
って、なので、わしらも高校生のころから競って煙草を吸っていた…のかも、
とこれは今ふと思いついたこと。
通勤電車ではさすがに「禁煙」だったが、1960年代前半にはまだ、「禁煙」
表示のある電車内、また映画館などでも、煙草を吸う人は結構いて、別段それ
を咎めたてる人もいなかった。
その通勤電車でも、国鉄のボックスシートの車両などには、窓際に吸い殻入
れが設置してあったし、新幹線や急行、特急などでも同じく、席で煙草を吸え
るのは当たり前だった。
そう言えば谷耕太郎は、飛行機の中もまた禁煙でないのに、えらくたまげて
ましたっけ。
今はもう「禁煙」それ自体が当たり前の常識で、電車や映画館にはもはや、
「禁煙」表示すらないですよね。
そんな喫煙者天国の中にも、煙草のマナーというかエチケットは、一応ある
には、あった。
でもそれは、今の感覚からするとかなり非常識なマナーでもあった。
煙草を吸うに際して、まわりの人にわざわざ許可を得る必要はない。が、そ
の煙を、人に向かって吐きかけるのは、NG。
屋外で煙草を吸うとき、吸い殻は「きちんと地面に捨てる」のだけど、この
時、吸い殻をきちんと踏みつけて、火を消しておくのがマナー。
つまり「ポイ捨て」はOKなんだけど、きちんと消火するのがエチケット。
どこの街を歩いても、歩道のそこら中に煙草の吸殻が落ちてましたっけ。だ
からこそ、「モク拾い」なんて商売(?)も成立した。
わしの学生時代には、大学構内もまた、吸い殻だらけでした。
映画やドラマ、また漫画の中でも、煙草はぽいぽいと地面に捨てられていて、
指で吸い殻を「ピッ」と弾く、その捨て方がカッコ良かったのが、原田芳雄。
故・松田優作もまた、その原田に憧れて、ことに煙草の吸い方、捨て方はか
なり研究し、真似したそうで、その松田優作や「傷だらけの天使」でのショー
ケンを真似たタバコの吸い方を、わしらがやっておりました。
五輪真弓の「煙草のけむり」とか、忌野清志郎の「ぼくの好きな先生」、あ
るいは演歌にはことさら多かったが、演歌でなくとも歌謡曲の歌詞には、「煙
草」が欠かせないアイテムとして、あった。
漫画でいえば、四コマ漫画で、恋人と待ち合わせたものの、なかなか現われ
ない彼女に焦れて、イライラと貧乏ゆすりする男の足もとに「タバコの吸い殻
が山となっている」描写は、定番中の定番で、このシチュエーションは、テレ
ビのコントなどにもよく使われた。
漫画の中の喫煙者と言えば、『ゴルゴ13』は、今なお喫煙習慣があるみたい
で、以前ほど頻繁ではないものの、例の「細巻きシガー」を吸ってるシーンが、
たまに出てくる。
昔は、狙撃現場に吸い殻を捨てていったりもしていたが、今だったら、DN
A鑑定で一発OUT、だな。
かつては、少年漫画の中でも、煙草を吸うシーンや咥え煙草のキャラクター
というのは、かなり頻繁に出てきたものだけど、今やほとんど、というよりも
全く、見ることはなくなった。
「島耕作」は、連載開始当初から煙草は吸ってなかったと思うのだけど、
「嫌煙権」運動が盛んになってきたのが連載開始のころだから、将来を見越し
て、そういう設定にしたのか…あるいは、作者の弘兼さんご自身が非喫煙者だ
ったのかも、ですね。
わし自身は、17歳から喫煙を始めて、26歳のころに禁煙した。
その後、35歳でまた吸い始めて、57歳でまた禁煙。
たまに、外で酒を飲んだ折など、貰い煙草を1本2本などすることはあるが、
以前、35歳のころには、それで喫煙習慣がぶり返してしまったのだけど、ただ
いまはもう、たまに1、2本吸ったところで、常習的に欲しくなるということ
はない。
なので、ただいまはほぼ「非喫煙者」だが、喫煙者と非喫煙者の比率が逆転
してしまった今日、喫煙者はますます隅っこに追いやられ、煙草を吸う場所も
なかなか確保できない状況は、少々気の毒にも思えてくる。
いつからでしょうね? 煙草がすっかり「悪者」になってしまったのは。
酒のCMはまだまだ盛んに流されているが、煙草のそれは、今やもうすっか
り絶滅してしまった。
気がつけば、街角にあった「煙草屋さん」や煙草の自販機もすっかり見かけ
なくなった。
「タスポ」でしたっけ? 自販機で煙草買うときに使うカード、あれも持っ
てたのだが、もうどこにあるのか分らない。
今、煙草はコンビニで買うのが一般的らしいが、レジの後ろに「ずらずら」
と並べてある煙草、あれも早晩、なくなってしまうんじゃなかろうか。そうす
ると、喫煙者の「立つ瀬」というのは、ますます狭くなりそうで、煙草をやめ
といて「良かったな」と思う昨今なのだった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第154回 『堕落論』&『続堕落論』を読み倒す
『堕落論』&『続堕落論』とは、云わずと知れた坂口安吾の代表作の二作品。
今回はあらためて、この二つの作品を読み直してみたい。
それは、75年経ったいま読み返してみてもまったく色褪せず、また“いま”
に通じることと読めるのである。なんだ、いまもこの当時とまるで変わってな
いじゃん・・・。という読後感なのだ。
『堕落論』(新潮文庫)(坂口安吾 作)(新潮社)(2000年6月1日初版)
『堕落論』…初出:1946年(昭和21年)11月1日(「新潮」第43巻第4号)
『続堕落論』…初出:1946年(昭和21年)12月1日(「文學季刊」第2号冬
季号)
云うまでもなく、安吾はこのふたつの評論で、単純に日本が戦争に負けて、
人々の気持ちがすさび、退廃的となり、どんどん落ちて行く、ということを云
っているのではない。
仕掛けとして、そう取られるだろうと考えて、タイトルをこのようなものに
した、ということは首肯することができる。安吾らしいタイトルのつけ方。
『堕落論』の冒頭書き出しからして、結構衝撃的な印象を受ける。
“半年のうちに世相は変わった。醜(しこ)の御楯(みたて)といでたつ我は。
大君へにこそ死なめかえりみはせじ。若者たちは花と散ったが、同じ彼等が生
き残って闇屋となる。ももとせの命ねがわじいつの日か御楯とゆかん君とちぎ
りて。けなげな心情で男を送った女達も半年の月日のうちに夫君の位牌にぬか
ずくことも事務的になるばかりであろうし、やがて新たな面影を胸に宿すのも
遠い日のことではない。人間が変わったのではない。人間は元来そういうもの
であり、変わったのは世相の上皮だけのことだ。”・・・少々長かったが引用
したのは、文語と口語が見事に戦前と戦後を対比しており、そしてこの評論は
敗戦の1年後に書かれたことを考えると、その表現のみごとさに感嘆してしま
うのだ。
最初に赤穂浪士を論じ、そして日本の歴史のなかで中枢権力を握った貴族や
武家を論じ、天皇を論じながら、敗戦後の日本の現状を観察する。また敗戦間
近の空襲の凄まじさを冷静に思い起こし、戦後の今を観察している。要するに
日本は負けて、武士道(生き恥をさらさないこと)は滅んだのだ。そして後半、
有名な一節が段落を分けずにそっと挿入されている。“・・・堕落という真実
の母胎によって始めて人間が誕生したのだ。生きよ堕ちよ、その正当な手順の
他に、真に人間を救いえる便利な近道が有りうるだろうか。・・・”
このあたりから、堕落=堕ちることとは、印象とは違うな、と読者は感じる
のである。
規範が変わるとき、つまり大変革のとき(敗戦とか破滅的大災害とか)、人
間は一度堕ちて自由にならないと、次の段階に進めない。ということを安吾は
云いたかったのだ。堕ちるとは、自由になることであり、制度のくびきから一
旦自由になることと思えばよい。
大変革の時、人間は一度堕ちて、自由になる。それは結構苦しいことだが、
それでも人間は生きていかなければならないのだ。そんな苦しみの時期を過し
ていくうちに、人間はなにか新しい制度をつくりはじめる。なぜなら人間は規
範がなければ生きていけない、まったく弱い存在だから。
『続堕落論』は『堕落論』の直後に書いた評論であり、『堕落論』よりも表
現が過激な一文である。書き出しはこうある。
“敗戦後国民の道義頽廃せりというのだが、然らば戦前の「健全」なる道義
に復することが望ましきことなりや、賀すべきことなりや、私は最も然らずと
思う。”・・・このように戦前の道義は間違っている、と安吾は否定するとこ
ろから入っている。上は貴族・将軍家から下は農民に至るまで、日本人はなん
と醜く狡賢いかを滔々と事例を挙げて論じる。
“・・・ともかく人間となって出発し直す必要がある。さもなければ、我々
は再び昔日の欺瞞の国へ逆戻りするばかりではないか。先ず裸にとなり、とら
われたるタブーをすて、己れの真実の声をもとめよ。未亡人は恋愛し地獄に堕
ちよ。復員軍人は闇屋となれ。堕落自体は悪いことにきまっているが、モトデ
をかけずにホンモノをつかみだすことはできない。表面の綺麗ごとで真実の代
償を求めることは無理であり、血を賭け、肉を賭け、真実の悲鳴を賭けなけれ
ばならぬ。・・・”
男として戦争に駆り出されなかった安吾のこの一文は、少し他人事、インテ
リ臭が無きにしも非ずであるが、まったく勇ましい宣言である。その上で、最
後に安吾は“堕落は制度の母胎”と看過しているのだ。
12年前に日本列島にあの巨大地震が襲いかかり、そして壊滅的破壊をもたら
した。原子力発電所のあの事故があり、日本は78年前の敗戦にも似た状況にな
ったにもかかわらず、今回はまったく何も変わらないこの現状を安吾はどう見
るだろう。日本人はあの震災を経験したにもかかわらず、今回は堕ちなかった
ようだ。まさに日本を憂いたい。
多呂さ(西日本(特に九州)の皆さんにお見舞いを申し上げます。今年の梅雨、
関東地方はどうやら空梅雨で終わりそうです。最初に湿った空気が陸地にぶつ
かる場所にある九州は、水災害の発生が宿命なのでしょうか。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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142 おどろくこと。感じること。
読みながら何度も「えー!」と声をあげてしまった絵本がこちらです。
『すごい! ミミックメーカー
生き物をヒントに世界を変えた発明家たち』
ノードストロム 文 ボストン 絵
今井悟朗 訳 竹内薫監修 西村書店
初めて知った言葉「ミミックメーカー」
バイオミミクリー(バイオミメティクスともいわれている)という科学分野
で働く発明家のことです。
バイオミミクリーとは、生き物のすぐれたからだの構造やしくみを解きあか
し、まねをして問題を解決する方法や工程のこと。
(絵本巻末のバイオミミクリーって何?より)
この絵本では10人のミミックメーカーが登場します。
日本人もひとり紹介されています。
仲津英治さんは新幹線が静かに走るための形状を鳥から学びました。
新幹線はいかに速く走るかよりも、静かに走ることが大きな課題でした。
とくにトンネルは難関で、通り抜けるたびに大きな騒音がしていました。
解決のヒントになったのはある鳥です。
仲津さんはその鳥のとがったくちばしの形にヒントを見出します。
生活の中で便利なものができるとき、自然から学んでいるということを、不
勉強ながら知り、他9人のミミックメーカーたちの視点に「へぇ」「ほー」
と驚かされ、思考がリフレッシュされていきました。
巻末にはミミックメーカーになるには?という具体的な「観察」「発明」「分
析」などのアドバイスもあり、これから夏休みに入る子どもたちに、おすすめで
す。
次に紹介する絵本も「ほぉー」と声をあげながら読みました。
『あかちゃんはどうやってできるの?』
コーリー・シルヴァーバーグ 文 フィオナ・スミス 絵
たち あすか 訳 岩波書店
小さい子から「あかちゃんはどこからきたの?」という質問をうけたことは
あるでしょうか。
この絵本のタイトルには「どうやってできるの?」とあります。
作者のコーリー・シルヴァーバーグさんは、
「どこからやってきたのか?」への答えは、受胎と誕生というその子に唯一
の物語を説明するもの。
「どこからやってくるのか?」への答えは、すべての人間がどのようにして
生まれるか、そのしくみを教えるものと冒頭に書かれています。
本書はこの2つめの物語を伝えるもので、いままでいなかった存在が目の前
に登場するまでの不思議さを、視覚的にわかりやすく描いている性教育の絵本
です。
卵子のこと。卵子はもっているひともいれば、もっていないひともいること。
精子についても、おなじくもっているひともいれば、もっていないひともいる。
あかちゃんがほしいときは、だれかの卵子と精子がひつようになること。
そしてあかちゃんがそだつところである子宮の話。
しかし子宮もまた、もっているひともいればいないひともいること。
卵子と精子がひとつになってそだっていくこと、そしてうまれることも、ひと
によってさまざまであること。
この「さまざま」がカラフルにポップに描かれ、文章はシンプルでわかりやす
い。私自身、読みながら3人の子どもたちを生んだことを思い出していました。
生まれてきた子どもたちに読んで聞かせたくなる絵本です。
ちなみに岩波書店の公式サイトでは、本書のガイドが2種類掲載されています。
https://www.iwanami.co.jp/book/b625908.html
>>著者コーリー・シルヴァーバーグによる読者ガイド(完訳)[PDF]
>>実践ガイド──子どもの成長に関わるすべての人へ[PDF]
絵本と一緒にぜひご一読を。
最後にご紹介するのは物語です。
『わたしの心のきらめき』
シャロン・M・ドレイパー 作 横山和江 訳 すずき出版
主人公はもうすぐティーンエイジャーになるメロディ・ブルックス。
脳性まひのため、日常生活にいろいろな制限があるけれど、長い夏休みには
サマーキャンプに行きたいと、よく行く図書館の司書さんに、パンフレットを
とりよせてもらいました。
親元から離れて過ごすキャンプにいい顔をしていなかった両親ですが、説得
を重ね、サマーキャンプに参加できることになります。
いままで経験したことのなかった乗馬や水泳などのアクティブな楽しみ、新
しい仲間たちとの出会い。夜に外出することなどなかったのに、キャンプファ
イヤーの集まりのおかげで、夜のたき火も楽しめます。
キャンプ中は参加者に1対1でキャンプカウンセラーがいて、ずっと一緒の
行動をとるのですが、それはそれで助けられるけれど、ずっとというのが息苦
しい。
せっかくのサマーキャンプ。メロディたちは自分たちだけの時間も欲しい!
と願うのです。
つい親目線で、キャンプカウンセラーの気持ちに近づきすぎて読んでいたの
で、この願いにハッとしました。
見守られている時間は心地いいだけのものではないことに気づかされます。
それは自分の子ども時代を思い起こせばよくわかることでした。
ティーンエイジャーの繊細な感情がみずみずしい筆致で語られ、キャンプの
体験のおもしろさとともに、夏という季節の美しさも堪能しました。
表紙のホタルは読了後に見返すといっそう美しく感じます。
ちなみに、本書は前作『わたしの心のなか』の続編ですが、読んでいなくて
も十分楽しめますし、読了後に前作を読むのもおすすめです。
メロディの夏をぜひ読んでみてください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
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・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
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一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→#157『振仮名の歴史』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 特別展「恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造」公式図録
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#157『振仮名の歴史』
いや、こんな研究テーマがあるんですねー。
振仮名。いわゆる、ルビ。
その歴史を研究して、一冊本が書けちゃうなんて、驚き。
著者の今野真二はもちろん、れっきとした大学の文学部教授です。
しかし、これが音楽本なの? と、どなたも首を傾げるでしょうから、先に
絵解きしておくと、本書にはちゃんとサザンオールスターズが出てくるのです
よ。
そう、歌詞なんです。というか、歌詞カード。
サザン/桑田と言えば、デビュー当時はその歌詞がわけわからんと、物議を
醸したこともあり、ご本人も、『ただの歌詞じゃねぇか、こんなもん』という
本を出しています。
ロックのリズムに無理矢理日本語をねじ込む強引な作詞法。それを歌詞カー
ドで表記する時、多用するのがルビなんですね。
いや、一人桑田佳祐に限らず、ニューミュージック以降、歌詞カードに振仮
名はよく使われる。もはや必須アイテム。
ところで、普通、振仮名というと、読むのが難しい漢字に振るもの、という
認識ですよね。
でも、歌詞カードの振仮名は、そうじゃない。便宜上のものではなく、むし
ろひとつの表現でしょう。
なんでこうなったかと言えば、答えは簡単で、聴いただけじゃ何て歌ってい
るのかわからなくなったからだと著者は言います。
ここでちょっと本書の内容から脱線しますが、この間の事情について補足を。
70年代の始めに、日本語でロックは成立するか、と真面目に議論されたこと
がありました。
問題になったのは、リズムです。
ロックにしても、ソウルにしても、英語自体が持っているイントネーション
の強弱が、リズムやグルーブの基礎になっている。ところが日本語の抑揚は平
板で、とてもロックのリズムには乗らない。ゆえに日本語でロックは成立しな
い、という論。
この派のアーテイスト、例えば内田裕也がプロデュースしたフラワー・トラ
ベリング・バンドはアメリカ進出を目指していたこともあって、オリジナルで
ありながら英語詞でした。
実際そういう面はあります。
60年代に、英語の曲を日本語に訳して歌う和製ポップスが流行りましたが、
コニー・フランシスの「Vacation」と弘田三枝子の「バケーション」などを聴
き比べれば、やはり違いは歴然としています。
もちろん、だからダメ、と決めつけるのは欧米コンプレックスであって、和
製ポップスには和製ポップスのよさがあることは言っておきたいけど。
そこで編み出されたのが、日本語の発音を英語的に変化させる試み。
この手法は、既に戦前、ディック・ミネによって先鞭がつけられているそう
ですが、先述の弘田三枝子を始め、伊東ゆかり、中尾ミエら和製ポップスシン
ガーにも限定的に引き継がれ、ロックの時代と共に、本格的になる。
その嚆矢が、例えばはっぴいえんどの、とりわけ大瀧詠一であり、キャロル
の矢沢永吉、ジョニー大倉だったと言えるでしょう。
具体的には、極端な巻き舌で歌ったり、ラ行のR音を英語風にしたり。日本
語の発音を歪めることで、グルーブに乗せようとしたのですが、これを極限ま
で推し進めたのが桑田佳祐であることは論を待ちません。
しかも桑田佳祐の作曲法は、まずハミングの代わりにデタラメな英語で曲を
つくり、後からその発音に似た日本語を当てはめていく、というやり方でした。
そのため、サザンのレコーディングスタジオでは、国語辞典が常備されていた
とか。
つまり、意味ではなく、発音を最優先している。
そして歌う時にも、元の発音の方を尊重し、当てはめた日本語には捉われな
い。
だから、意味をなさない箇所が頻出し、聴いただけではまるでわからない、
ということになるのです。
こうしたタイプのアーティストにとって、歌詞カードはその弱点を補強する
重要なアイテム。
しかし、それだけではなく、せっかくなら表現性も盛り込もうとしたんでし
ょう。
さて、本書に戻ると、こんな例が出てきます(註 ( )内がルビ)。
夏のルージュで描いた合図(サイン)
手の掌(ひら)に……
欲望に負けそうな 嗚呼 夜もある
濃(こま)やかなMoon Light
頬に浴びて囁(ささや)く誘惑のMid-Night
今宵天使も濡れている
「MOON LIGHT LOVER」の歌詞です。
この場合は聴いただけで、「コマヤカナ ムーンライト」という歌詞はわか
ります
でも、「コマヤカナ」を「細やかな」ではなく「濃やかな」と書きたい。こ
れはルビではなく用字ですけど、やはり表現の問題です。
ルビは「合図(サイン)」ですが、こちらは「署名」という意味もあるので、
普通に「サイン」もしくは「sign」と書くと、曖昧になるからでしょう。次の
「手の掌(ひら)」は、本来「掌」だけで「てのひら」なのに、敢えてこうし
たのは、「手」を視覚的に強調したかったから。つまりこれも表現性の問題。
「ムーンライト」はアルファベットで「Moon Light」、「ミッドナイト」も
「Mid-Night」なのに、「ルージュ」は「rouge」ではなく「ルージュ」。これ
は前のふたつが、英語発音で歌ってるのに、後者がフランス語発音ではないか
ら。歌を忠実に写したということだと思います。
ところが、「囁く」に「ささやく」と振ったのは、単純に読み難い漢字だか
らでしょう。
つまり、法則があるわけではなく、そのフレーズで何を表現したいかによっ
て、用字やルビを自在に駆使しているわけです。
さらに「匂艶(にじいろ)THE NIGHT CLUB」の「匂艶」は、いわゆる当て字。
歌詞には「匂う女の舞うトルバドール(troubadours)」という箇所もあり
ます。
振仮名は「読み」を示すものだとすれば、「troubadours」というフランス
語は、さっきの「Moon light」と違い、原語の発音じゃなく、カタカナ発音で
「トルバドール」と歌っているので、「troubadours(トルバドール)」であ
るべき。
なのに、ここではそれが逆転しています。
もっとトリッキーなのは、 「素敵な夢を叶えましょう」。
”あるがままに(let it be)”と歌えし偉人(ひと)がいて
時間(とき)は流れ永遠(とわ)の海へ運命(さだめ)は巡る
「トルバドール」と同じく「”あるがままに”」に「let it be」という英
語の、それも単語ではなく文章が振られている。
ところがなんと、歌は「アルガママニ」と歌っているのです!
つまり、「let it be」は出てこない。著者は、
「この「let it be」という振仮名は、さきに述べた「読みとしての振仮名」
つまり「語形を明示している振仮名」ではなくて、いわば「余剰」として置
かれていることになり、「表現としての振仮名」ということになる。」
と解説しています。
ところで、誤解を避けるために、「余分」ではなく「余剰」というところ
にご注意を。
著者は決して、「ムダ」と言っているわけではないのです。
余剰は豊穣であり、それが表現を深めるという意味だと思います。
この「1let it be」のルビから、われわれは即座に、ザ・ビートルズの
「レット・イット・ビー」を連想します。したがって、次の「歌えし偉人(ひ
と)」とはポール・マッカートニーであり、だからこそわざわざ「偉人」と書
いて「ひと」と読ませ、リスペクトを表現しているわけです。
なのでまあ、「注釈としての振仮名」と言うべきでしょうか。
この後、本書では平安、室町、江戸、明治と、時代時代の振仮名史を追って
いくのですが、同様に「注釈」とか「言葉の意味を教える」ための振仮名が登
場していますから、これは、その後継なのだと思います。
ともあれ、南部人気者集団(サザンオールスターズ)の歌詞からスタートし
て、振仮名の歴史を辿る旅は実に面白い。
ところで、日本独特の、振仮名。なんでこんなものが生まれたのでしょうか。
著者は、日本人には「漢字で書きたい!」という強い欲求があるからだ、と
言います。
われわれは中国から漢字を輸入した。でも、それだけじゃ日本語をうまく表
記できないので、仮名を生み出した。そして当初は、仮名のみで書くスタイル
だったんです。
なのに結局、また漢字も使い始め、現在のような漢字仮名混淆のスタイルに
落ち着いている。仮名ができても、漢字を捨てきれなかったんですね。
引用します。
「「捨てることをしなかった」のは、仮名を獲得するまでに、漢字を使って日
本語を書くという経験がある程度まで蓄積されていたので、「もはや捨てるこ
とができなかった」と考えることもできる。そうした面も当然ある、と考える
のが自然だが、むしろ「捨てるにしのびなかった」、もっといえば「捨てたく
なかった」のではないか。つまりいろいろな意味合いで、「漢字で書きたい!」
という欲求が強く根付いていたのではないだろうか。この「漢字で書きたい!」
ということが、振仮名を考える場合の鍵の一つになる。」
そこまでの「漢字愛」って何なんですかね?
そう言えば、テレビのクイズ番組でも、漢字を使った問題は未だに定番。漢
字検定なんかも、特に就職に有利な資格ではないと思うけど、ちゃんと存在し
ます。
あんなに覚えるのがめんどくさくて、読めても書けないこともたくさんある
のに、それでも漢字を愛する、われわれ。
多分、書かれた言葉は、ビジュアルでもある、ということなんでしょう。
字面、とも言いますよね。意味さえ伝わればいい、ではなく、字面がいい、
字面が自分の気持ちをうまく捉えてくれている、そういうことがわれわれには
大事なんです。
だから、明治時代でしたか、日本語を近代化するためにローマ字に統一せよ、
という意見もあったそうですし、インドネシアでは本当に母国の文字を捨て、
アルファベット表記に換え、その結果、この国の文学は衰えたとも聞きます。
でも、われわれはそうしなかった。
しなくてよかったんじゃないかな。
漢字よ、めんどくさいやつだけど、やっぱお前とは別れられないぜ。
今野真二
『振仮名の歴史』
二〇〇九年七月二二日 第一刷発行
集英社新書
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
とうとう、コロナで逼塞していた音楽仲間たちも動き始めました。7月には静
岡の友人たち、9月には学生時代の友人たちがライブを企画。とりあえず、7
月の方には参加することにしました。でも、佐野元春がコロナでライブをキャ
ンセルとか、まだまだ終息したわけではありません。いま暫くは微妙な感じが
続きそうですね。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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特別展「恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造」公式図録
最近、美術展や博覧会の公式図録にはまっている。書店では手に入らず、展
覧会に行かないと買えない本だが、展覧会に行かなくとも開催地の美術館なり
博物館なりに行けば過去の図録が手に入ることもあるし、通販も探せばある。
で、今回採り上げる図録の展覧会はその名も「恐竜図鑑」。恐竜の復元絵画
の歴史を実際の絵を見ながら学んでいく。最初大阪でやっていたのが、今は東
京上野の森美術館で7月22日まで開催される。
もし、同趣旨の本を出版社が書店に並べることを考えて企画すると採算が合
わないかも知れないが、博物館の図録なら合う可能性は高くなるような気がす
る。
恐竜の絵が描かれ始めたのは200年ほど前。ジョルジュ・キャヴィエという
動物学者・博物学者が骨格から絶滅した動物の姿を復元する方法を確立した。
解剖学の研究が進んでおり、どんな生き物がどんな骨格を持っているか知識が
集積されつつあった。そうした知見を逆に使えば、こういう骨格の化石が出て
きたら、こういう生物が過去にいたのだろうという推定が成り立つ。
解剖学の発達が、恐竜の復元絵画を描くベースの知識となった。そうした知
識を人類が得た頃から大型の爬虫類(要は恐竜だ)の化石がたくさん見つかる
ようになる。で、この頃には化石の発掘を生業にしていた人がイギリスにいた。
化石発掘を仕事にしていたメアリー・アニングが魚竜イクシオサウルスや首
長竜ブレシオサウルスの化石を見つけると、友人のヘンリー・デ・ラ・ビーチ
が恐竜の水彩画を描く。これが恐竜イラストの最初であるが、恐竜という言葉
はまだ発明されていない。
まだ恐竜という言葉はなかったものの、ギデオン・マンテルが著した「地質
学の驚異」(1838)という本に、ジョン・マーチンという画家が描いた中生代
のイメージに描かれた爬虫類が世界最初にメジャーになった恐竜画のようだ。
で、その絵は、シダや椰子やソテツが生える半分沼か森みたいな世界でイグ
アノドンが激しく争う姿を描いている。しかもわざと気味悪く描かれている。
なぜか?ジョン・マーチンという画家は、そもそも天変地異や大洪水とか、
宗教的な黙示録的世界を描くのが得意な人で、当時そういう絵画が好まれてい
たからである。
マーチンが恐竜の絵を描くようになったきっかけは、ギデオン・マンテルが
自分のコレクションを展示するために作った博物館にマーチンが行ったのがき
っかけだとか。当時有名画家であったマーチンが博物館に来たことにマンテル
は感激し、ぜひ自分の本の挿し絵を描いて欲しいと頼んだ。
マーチンも、頼まれもしないのにマンテルの博物館に来るくらいだから、当
然中生代に興味を持っていたわけで、マンテルの以来に喜んで応じたのだろう。
手に入るあらゆる情報を駆使して、当時でもずば抜けた正確さをもつ絵を描い
た。
しかし、自然科学の成果をもとに科学的挿し絵を描いただけではない。もと
もと黙示録世界を描くのが得意な人だったので「明らかに聖書からはるかに遡
る、悠久の歴史を生きた『神に祝福されぬ者たち』としてこれら大型爬虫類は
描かれた」のだ。ユダヤ教やキリスト教ができたから、この世はよくなったと
いう世界観が背景にあった・・・これがあるため時代に乗れたのだろうね。
ということは、もしキリスト教世界から恐竜画が始まらず、ムスリムやイン
ド中国、あるいは日本から始まったら恐竜画はどんな進化をしたのだろうかと
思ったりもした。そんな感じで良質な解説と歴史的恐竜画を見ながら読み進め
ていける。
展覧会の図録であるから、こうした解説は全体のわずかにしかならないのだ
けど、科学的知見の追加や時代の雰囲気などで恐竜画が変わっていくのが興味
深い。
ま、それはそれとして恐竜画は、通常博物館の展示や、図鑑の挿し絵として
使われる「実用画」なので、いわゆるアートとしての価値は低いのかも知れな
いけど、これはこれで価値がある絵なのだと思う。だからこそ、こんな博覧会
も行われるのだろう。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→#156『ヒッキーヒッキーシェイク』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『小悪魔教師サイコ』合田蛍冬・三石メガネ ぶんか社
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『恋愛未満』篠田節子・著(光文社文庫)より「マドンナのテーブル」
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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#156『ヒッキーヒッキーシェイク』
「今年は五月病に注意」
ネットにそんな記事が散見されます。
長く続いたコロナ禍でリモートだったものが、今年からどんどんリアルに。
大学の授業も会社も対面になって、マスクを外す機会も多く、知らず知らず対
人ストレスが溜まっている。そこへGWにも、中止されていたイベントが続々
復活。旅行にバーベキューに繰り出した。
これは準備運動をせず、いきなりマラソンを走るようなもので、その結果連
休明けに心身の調子を崩すんだとか。引きこもり生活も3年ですから、復帰も
大変ですね。
さて、この引きこもり。コロナ禍以前から、ひとつの問題ではありました。
本書、津原泰水『ヒッキーヒッキーシェイク』は、ヒッキーこと引きこもり
の人たちを巡る小説です。そのカウンセリングを生業とする男、竺原(じくは
ら。字面似てますが、笠原ではないのでご注意)が、クライアントの中から特
に三人を選抜、そこへ伝説のハッカーを加えて四人のプロジェクトチームを結
成し、あるミッションを与えるというのが発端。
ちなみにタイトルは、古いロックンロールを知る方には言わずもがなですが、
名曲「ヒッピーヒッピーシェイク」の文字りですね。
また竺原は、メンバーにそれぞれ、パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
というハンドルネームをつけますが、これも洋楽に詳しければすぐピンと来る。
サイモンとガーファンクル「スカボローフェア」の歌詞に登場するハーブの名
前です。
パセリが二十代のハーフの美女、セージが本名も聖司という三十男、ローズ
マリーが性別年齢不詳の伝説的ハッカー、タイムが中学生男子。
このタイトルとハンドルネームで、充分音楽本というわけなのです。
で、このメンバーに竺原が設定したミッションは、本物と見紛う人間をCG
で創造することでした。
このことを彼は「不気味の谷を越えよう」と表現します。
不気味の谷は、著者の創作ではなく、既存のテクノロジー用語。
CGやロボットが人間そっくりになっていくと、あるレベルを越えたところ
で、人はそれを「不気味」に感じ始める。これが「不気味の谷」。
竺原は、「不気味の谷」を感じさせずに、まるで実写としか思えないような
CGの人間を、コンピューター上で創り出したい、というのでした。
ただ、その目的は当初明らかにされません。
だんだん読んでいくと、どうもお金が目的らしく、そのための作戦も別口で
進行していく。
同時に、ヒッキーである彼らに共同作業をさせることで、問題を克服させる
カウンセリングの一環でもあるらしい。
ところが、マネタイズの方はあっさり頓挫するのに、竺原、さほどのショッ
クも受けず、かと言って金八先生型の熱血タイプとは程遠い斜に構えた皮肉屋
キャラですから、四人を引きこもりから救う使命感がすべて、という感じもし
ない。
一体彼は、何がしたいのか?
物語の着地点が見えないため、正直前半はもやもやする。
また、省略の多い文体なので、誰のセリフか一瞬わからなかったり、状況が
よく見えなかったりもする。したがってリーダビリティーはかなり落ちます。
しかし、登場人物がみんな頭に入って、竺原の狙いがおぼろげながらわかっ
てきて、この文体にも慣れてくると、各段に読むスピードは上がりますから、
前半で躓かないことが大切。
かくて、絵のうまいパセリがキャラクターデザインを、年長でパソコンに詳
しいセージが3D化と動きを、パソコンで音楽をつくっているタイムが声を担
当。全体のブラシュアップをローズマリーが行い、CG人間は完成に向かうの
ですが、もちろん、そもそも警戒心が強いヒッキー同士、メンバー間にも疑心
暗鬼があったりしながら、徐々に完成に近づいていきます。
すると竺原、次はUMAの捏造を指示するのです。
彼の故郷は山間の過疎地で、廃線寸前のローカル線が走る猿飛峡。ここに、
古代象の末裔がひっそり生きている、というデマと、CG合成でつくったフェ
イク映像をネットで流すという計画。
日本でもナウマン象の化石が出土していますから、かつて象がいたことは確
かですが……
これが成功すると、さらに第三のミッションが発令されます。こうした経過
をたどる内、ヒッキーたちにも変化が起こり、それぞれがぞれぞれのやり方で
社会との接点を取り戻していくのです。
とはいえ、安易に引きこもりが解決し、社会復帰をしてめでたしめでたし、
とはなりません。むしろ「引きこもる」ことがこれからの人生の戦略のひとつ
になっていく予感さえ残す、複雑な小説と言えるでしょう。
現実にも、いまこの時点では、再び人が家から飛び出し始めていますが、そ
れはこれまでの反動に過ぎず、一旦定着したリモートワークは今後も続いて、
みんなが本格的に引きこもる時代になるかも知れない。
森博嗣の『すべてがFになる』のように、人間が移動しないことが最もエコ
である、という考え方に立てば、それは決して悪いことではないのです。
結局、この問題は、社会性動物でありながら、個人主義を発明してしまった
人間の矛盾を孕んでいるんじゃないかな。
本書もその辺、きちっと踏まえた小説になっています。
最後に、音楽本という観点から、少年タイムを中心にした脇筋に触れておか
なければなりません。
コンピューターで音楽をつくっている少年タイム。彼は偽UMAである古代
象でもやはり声を担当し、ユーフォニウムという楽器の音を加工しようと思い
つきます。
そこで高校へ忍び込み、ユーフォニウムを無断で持ち出そうとしたところ、
吹奏楽部員の文太に捕まる。
しかし文太は見逃してやり、それどころかタイムがベースを弾けると知ると、
バンドをやろうと言い出します。
こうして始まった活動で、タイムが使うベースが、バイオリンベース。
そう、ポール・マッカートニーの愛機、ヘフナー社の製品ですね。
しかもタイムが、ビートルズの「Taxman」を弾ける、と文太に話し、おお、
それは凄いじゃん、となったのが、バンド結成のきっかけでした。
「Taxman」
それはジョージ・ハリスンのペンになる曲ですが、収録されているのはビー
トルズ中期のアルバム『リボルバー』。
このレコードジャケットのイラストを描いたのが、クラウス・フォアマンと
いうドイツ人です。
でも、なぜドイツ人?
実はビートルズ、若い頃にドイツのハンブルグへ二度、巡業しているんです
ね。当時イギリスでは、ロックンロールブームは去っていて、実際ビートルズ
も初めて受けたレコード会社のオーディションに「もうビートグループの時代
ではない」という理由で落ちているぐらいです。
しかし、ドイツでは相変わらずこの音楽が人気で、英語の発音が当然ながら
いいせいか、イギリスのバンドがよく巡業に訪れていたのです。
無名時代のビートルズもそうした一組でした。この頃彼らはまだ十代で、ド
イツで知り合った同世代の男女と意気投合。その中の一人がアーティストであ
ったクラウスだったのです。
クラウスとの親交はビートルズがスターになってからも続き、その縁で『リ
ボルバー』のジャケット制作が依頼されました。
しかも、クラウスはベーシストでもあり、ジョン・レノンやジョージ・ハリ
スンのソロ・アルバムなどでプレイしているんです。
つまり、クラウスがジャケットを描いたアルバムの曲が登場し、主要キャラ
クターのタイムがクラウスと同じベーシストである。さらに言えばタイトルの
元ネタになった「ヒッピーヒッピーシェイク」も、初期のビートルズがカバー
しており、恐らくクラウスと出会ったハンブルグ時代にもレパートリーであっ
たはずです。
このようにクラウス所縁のネタがちりばめられた小説だから、いっそカバー
イラストもダメ元で本人に頼んでみようか。
そんなアイデアが出て来たのも、むべなるかな。そしてそして、まさかのO
K。
加えて、出来上がった小説に挿絵をつける通常の方法ではなく、執筆と装画
が同時進行し、お互いにアイデアを交換しながら膨らませていく、まさにコラ
ボレーションであったというのです。
それにしても、クラウス・フォアマンほどのレジェンドが、よくこのオファ
ーを受けたな、と思いますが、やはりテーマである「引きこもり」がドイツで
も大きな社会問題になっているからのようです。
ちなみに本書のあとがきで初めて知ったのですが、「hikikomori」は既にオ
ックスフォード英語辞典に載っている国際語なんだとか。
それにしても「tsunami」といい、「hikikomori」といい、国際語になる日
本語は、どうもあんまりいい意味じゃないのが残念ですね。
ところが、こうして実現したクラウス・フォアマンの絵が、なぜか文庫版で
は使われていないのです。
ここまで密接なコラボなら、使われてしかるべきだと思うのですが、大人の
事情なのか、だったら単行本買えよ、なのか。
実は本書が文庫化される時、トラブルがあったらしいんですね。
いえ、クラウスとではなく、版元と。
まず、著者の津原泰水が、百田尚樹の『日本国紀』について問題点を指摘し、
批判しました。
ちょうどその頃、本書『ヒッキーヒッキーシェイク』を文庫化する企画が版
元と進んでいたのですが、なんと『日本国紀』もこの会社から出ていたのです。
つまり、版元からすると、自社と付き合いのある作家二人が、反目している
ことになるわけ。
すると営業部が、本書の文庫化を差し止めました。
売れ行きで言えば圧倒的に多い百田尚樹のご機嫌を損ねないよう忖度したと
いうことらしい。
津原泰水がこのようにツイッターで明かすと、版元の社長は事実無根として
否定します。それだけならまだしも、津原泰水の本の実売部数を公表し、文庫
化しないのは大して売れていない、からだ、とつぶやいてしまった。
この「実売数晒し」が、読者はもとより他の作家の反発を招いて炎上した。
2019年の事件です。
結果、本書がこのまま埋もれてしまうことを惜しんだ早川書房が、文庫版を
刊行する運びとなりました。
この際、クラウス・フォアマンのイラストが丹地陽子に代わっている事情は
定かではありませんが、恐らく契約が最初の版元との間に交わされていたため、
流用ができなかったのではないでしょうか。
決して丹地陽子のイラストが悪いわけではないのですが、意味として、クラ
ウス・フォアマンのビジュアルを文庫版でも再現してほしかったなぁ、と残念
に思います。
本づくりも、ビジネスである以上、いろんなことがあるんですね。
津原泰水
『ヒッキーヒッキーシェイク』
二〇一九年六月十五日 発行
二〇一九年六月十六日 二刷
ハヤカワ文庫JA
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
「Taxman」はタイトル通り、税金の高さに音を上げたジョージ・ハリスンが、
彼一流の皮肉満載でつくった歌です。税金と言えば、例のインボイスですか、
消費税がらみの新制度だそうで、フリーランスは困惑しているようです。自分
自身、カルチャーセンターの講師をしていて、一応ギャラをいただいているの
で、どうしようかと悩み中。それにしても、ややこしい制度をつくって、税金
を搾り取って、果たして何に使うのやら。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『小悪魔教師サイコ』合田蛍冬・三石メガネ ぶんか社
タイトルには“小悪魔教師”とあるが、少々謙遜していますね。実際は、
“天使にして悪魔な教師”と言った方が作品内容を正確に説明できるだろう。
第一話のあらすじを書いてみる。
私立睦月高校2年B組は問題のあるクラスで担任が自殺未遂した。担任か復
帰できないので新しい担任になる先生が来た。新しい担任の名前は葛西心春23
歳。おそらく大学出たての、かわいらしい新米教師である。
このクラスの教師に対するいじめがひどがった。そのため本来ならベテラン
をつけるところが誰もが恐れをなして断って、担任を引き受けてくれるのが葛
西先生しかいなかった。葛西先生は、恩師が「生徒の幸せを守る」ために先生
をやっている。恩師に憧れ、同じようになりたいと志を持っているので引き受
けた。
同僚の先生たちは、葛西先生の行く末を心配していたが、誰も葛西先生の本
性には気がついていない。彼女はサイコパスで、人を陥れたり、人を絶望に陥
れ、苦痛にもだえさせて殺すのが大好きな鬼畜なのである。
クラスのいじめグループは金沢彩羽と秋月竜斗のカップルとその周囲にいる
数名。さっそく葛西先生をいじめるのだが、葛西は天然なのか変人なのか、い
じめを軽々いなして行く。
業を煮やしたいじめグループは、まじめで気弱な女子生徒冬川アザミを脅し
て階段から突き落とさせようとたくらんだ。冬川も彼らのいじめの被害者でレ
イプされていた姿をスマホのビデオで撮影されていたため、逆らうことができ
ず、葛西先生を突き落としてしまう。
しかし、そうなることを予期していた葛西先生は、ここも上手にいなして、
冬川が置かれている状況を知った。葛西先生は微笑む。冬川を救うため、そし
てサイコパスである自分の快楽を満たすことのできるターゲットを見つけたの
だ。
まずは秋月竜斗が常時携帯して人を脅すのに使っているナイフを盗み出した。
そして夜に宅配業者を装い金沢彩羽に侵入、部屋にあった秋月竜斗のジャンパ
ーを着て、秋月のナイフで殺害した。それもナイフで即死なんてものじゃない。
サイコパスの快楽殺人なのだから、じっくり楽しみながら殺すのだ。
しかも秋月をワナにかけるため血だらけになったジャンパーを秋月に取りに
来させる・・・これも上手に血だらけだとわからないようにするから質が悪い。
翌日、朝一番に葛西先生は金沢彩羽が何者かに殺されたことを報告する。秋
月竜斗は瞬時にワナにはめられたのを知った。いったいどうしたらいいのか、
迷った竜斗は兄に会いに行く。兄のタクトは子供のころ学校の階段から転落し
て首の骨を折り寝たきりになっていた。しかも声を出せなくなっていた。
そこに葛西先生が登場する。葛西先生はタクトの同級生でタクトが寝たきり
になって以来何度も見舞いに来ていた。竜斗は瞬時に理解した。兄を寝たきり
にしたのはこいつだ!・・・竜斗と葛西先生の闘いは?
個人的に感心したのは、葛西先生のキャラ造形。みかけ性格良さそうなのに
中身は真っ黒なキャラはフィクションを読んでおれば容易に見つかるが、その
真っ黒があり得ないほど高貴な動機から生まれる。
その高貴な動機を育んだ、子供時代の葛西と、葛西に影響を与えた教師のエ
ピソードがまたすさまじい。猛烈な愛と強さが同居する、凄い先生の薫陶を受
けて葛西は教師になったのだ。どんなエピソードかは、読んだときのお楽しみ。
第二話は、第一の事件を解決した後に配属された、また問題のある高校のク
ラスに転属された先生が、サイコパスを自称する生徒をぎゃふんと言わせて僕
(しもべ)にした後、事件に・・・3巻まで出ているが、今度のターケットは
教師かもと思えるが、実際はどんでん返しがありそうな気がする・・。
ま、それはそれとして、こういうの読んでると、今上映中のリーアム・ニー
ソン主演の映画「メモリー」に描かれている世界と同様のことを感じる。「メ
モリー」は子供は殺さないモットーをもつ一流の殺し屋がアルツハイマーにか
かって引退しようとしているところに来た仕事が子供殺しだったのに怒ってク
ライアントを追いつめる作品なのだが、善と悪のあり方を考えさせる作品だ。
「小悪魔教師サイコ」も、えげつない悪が行う善についてこれからも描いて
行くような気がする。勧善懲悪モノに飽きた人にお勧めする。
ラブコメ好きにはすすめないw
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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『恋愛未満』篠田節子・著(光文社文庫)より「マドンナのテーブル」
コロナ禍をかいくぐり、男社会にある格差、
がんばれ、男たち!
カフェで1人ティータイムを楽しむ時間に軽く読みたいと購入した一冊。
篠田節子さん、おばちゃま、大好き。『百年の恋』、愛読書です。
今回読んだ『恋愛未満』は5つの短編を収めていて、最初の2篇「アリス」
「説教師」が街の市民オーケストラの恋愛模様を描いたもの。著者自身、チェ
ロを弾くため、オーケストラを舞台にした人間模様を描くことが多いですね。
今回のおすすめはこの短編集の中の「マドンナのテーブル」という中編。
30代の主婦がいて、15歳年上のダンナがいて、すくすく育っている男の子が
1人いる。何ひとつ不自由はないのに、ただ一つ、ダンナが定期的に会社の同
僚といろんなとこに行くけど、必ず紅一点で女性が1人ついてきてて、その女
性とダンナとの仲を疑うという設定です。ダンナの務め先にはダンナと同じ大
学のOBが多くてその仲間とつるんでいるというから、まあ、慶応か立教かそ
のあたりの同窓意識が高い大学の卒業生なんでしょうね。(間違っても早稲田
ではない!)
で、不思議なのはいいお給料もらっているはずなのに、男たちが集まる場所
が駅前のうどん屋だったりチェーン店だったりの安い店だということ。
そして、その仲間は決して紅一点の女性以外は招かず、ということはそれぞ
れの妻も会合に呼ばれたことは一度もないということ。
謎の仲間たち、夫と紅一点の仲を疑って疑心暗鬼になるこの妻は、とうとう
ある日、奥さん同伴の会合を提案するのでした。渋る夫。食らいつく妻。
「家族なんか忘れたいってことなのよね」
「また、そういうことを言う」
「都合良く、女房、子供もいない世界を楽しみたいって、ことなのね」
「そうじゃなくて、いろいろ差し障りが・・・」
まあこんな痴話げんかに負けて、妻同伴の会合が開かれることになるのです
が、これが開けてはいけないパンドラの箱を開けちゃったみたいになるのです
ね。
(ここからネタバレ。嫌な方は回れ右でお願いします)・・・・・・・・・・
夫同士には出世街道を行く中での微妙な格差が存在していて、男たちはそれ
をさりげなく隠ぺいするために、わざと駅前のうどん屋に集合していたという
わけです。出世した人としない人との生活の差は選ぶ店に出ちゃうからね。
ところがパンドラの箱が開いちゃったもんだから、カシミアスカートにスカ
ートという似たコーデの似た色合いの服装の妻2人のうち1人の出世組の妻の
セーターがシャネルなのに、じゃない方はケイユーマート(自称)で、アクセ
も出世組は貝パールなのに、じゃない方はコットンパールだったりすることが
わかっちゃうんですよね。
(まあ、こんな席にいくらベーシックで古いものだとしても、ロゴがないとし
てもシャネル着てくるのはバカだけど)。
そして男たちの微妙な格差を中和する存在、「安全弁」なのが紅一点の女性、
マドンナというわけだったのでした。マドンナといっても美人でみんなの憧れ
の的ではなく、
「(男たちの)止めようとしてもときに湧き上がる優越感、ねたましさ、諦
め、みたいなものが座に漂い始めると、だははははと笑い、があがあと話題に
割り込み、ちゃぶ台返しを仕掛けて空気を変える」
ことを役割としたマドンナというわけでした。銀座のママ、または小料理屋の
女将みたいな役割ですね。ご苦労様です。
最後にこの妻が夫の頭頂部を見て、夫の老いを感じてこの物語は終わるので
すが、まあ、男たちの微妙な関係を描いてとても楽しい小説でした。
こんな小説、篠田節子さんしか書けない!
で、ここの夫婦の溝も感じてしまいました。
妻は若さが取りえで、派遣として大手企業で仕事をしていたときに、会社主
催の合同コンパで「まっすぐにこちらにやってきた」夫とでき婚するのでした。
ここにちょっとした夫婦間の格差も感じて、このごくごく僅かな格差がこの話
のベースになっていることも感じました。
「22歳という年齢がなにより強みと知っている」妻に対して、この夫、優しい
んだけど、どっか上から目線でこの夫婦が真には理解しあってないのが分かり
ます。
「女は気楽でいいよな」とか言ったりする。気楽だから彼女を選んだんじゃん
かね〜。
そして、著者もこの若いだけで深く考えることをしない妻(ママ友との会話も
行動もアホだし)を軽んじている感じがして、そこは共感して笑っちゃったの
でした。
同じ大学から同じ大手企業に就職してつるんでる男たちの文化って、この時
期(2017年発表)にはあって、コロナ禍を経て、これからはなくなっていくん
じゃないかなあと思いました。
いや。あるのか。コロナ禍をかいくぐり、AI時代をかいくぐり、なんとか
チャットの時代が来てもあるのか、男の格差は。
まあ、がんばってください。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
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掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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配信がちょっとだけ、遅くなりました。(あ)
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■発行部数 2773部
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<159>「うめざわしゅん」という才能
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→140 よく眠ろう
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<159>「うめざわしゅん」という才能
「うめざわしゅん」という漫画家の存在を知ったのは、つい最近だ。
その単行本『ユートピアズ』の広告が、たまたま見た雑誌にあったのだ。初
めて目にする作家名だったが、その表紙イラストの異様さ…ペタンと座り込ん
だ全裸の女の子の顔に、「エイリアン」みたいに亀が張り付いている、という
ものだ…に、なんだか「タダモノじゃない」ムードを感じて検索してみると、
その『ユートピアズ』は、アマゾンの電子版なら廉価で読めると知って、読ん
でみた。
案にたがわず、変な漫画オンパレードな短編集だった。
冒頭の『ナオミ女王様に仕えた日々』は、ある日、小学生の「潤一郎」の家
に、M系性困難者のための「公認女王様」の候補である「ナオミ女王様」がや
ってくる。
国家資格のボランティア「クイーンウォーカー」である潤一郎家で半年から
1年、訓練を受けた後、国家公安委員会の適性検に合格すれば、正式に公認女
王様として働くことができるのだ。
お父さんからこのナオミ女王様の訓練を任された潤一郎は、初めてのウォー
キングに緊張しつつも、張り切って奴隷役に励むのだが、そこには数々の試練
が待ち構えているのだが、それをナオミ女王様とともに乗り越えて、最後には
ある種の「友情」が育まれ、せつない別れのシーンで終わる。
というこの漫画、読んでるうちになんだか既視感にとらわれて、思い出した
のが、昔、渡辺和博が「ガロ」に描いたロボットの漫画だった。
渡辺和博のも、やはりボランティアを務める一家に、家事ロボットの「試用
版」がやってきて、国家の公認を得るための訓練を施されるのだが、その過程
で一家の小学生の長男と仄かな「友情」が芽生える、というお話。
その他のエピソードでも、絵柄こそ似ても似つかないだけど、やはり渡辺和
博の旧作や、あるいは藤子不二雄(F)が「ビッグコミック」に発表していた、
一般常識から少し「ずれた」世界観で展開する「ちょっと不思議」系の漫画を
彷彿させるもの(『どつきどつかれ生きるのさ』)や、あるいは、社会規範や
社会道徳が一方的に極端な方向に振り切れている世界で、人々が右往左往する
様を描いたもの(『オソロ』『チューブ』『ヘイトウィルス』)は、かつての
筒井康隆の、スラプスティックな小説世界を思わせる。
と、あれこれ「似てる」と言うてはきたが、決して難癖つけてるわけではな
くて、その渡辺和博や藤子不二雄(F)、かつての筒井康隆も、とても好きだっ
たので、それらを彷彿する漫画の出現てのは、大変嬉しくもあったのです。
嬉しかったので、同じく短編集の『一匹と九十九匹と』(全2巻)も、続け
て電子で購入した。
これ、1巻冒頭の『海の夜明けから真昼まで』は、不祥事起こして所属の野
球部を対外試合禁止に追い込みながら、まったく反省せずに学校中から「クズ」
呼ばわりされる男子と、援助交際の噂を立てられ、こちらも周りから孤立して
いる女子の、ボーイ・ミーツ・ガールなお話なのだが、これが、なかなかにハ
ードボイルド。
この『海の〜』と『ポップロンド』『ガッコーの巣の上で』の3作は、いず
れも高校生を主人公にしているのだが、そこで描かれる高校生彼ら彼女らの行
動と情緒は、その振幅が極端から極端に大きく振れて、その点では、姫野カオ
ルコの小説世界をも彷彿する。
これら高校生を描いた3作とともに、小人症のヤクザの大ボスが登場する
『オーバードーズ』、行きがかりからゲイの青年の犯罪に加担し、もうすぐ子
供が生まれる妻が待つ家庭を捨てて、「ボニーとクライド」よろしく、二人で
強盗を重ねながら逃亡行を続ける三十代と思しきフリーライターもそうだし、
どの短編も、ハードボイルドのにおいがプンプンして、やたらと小気味いいの
だ。
「2巻」は、一転して『機械に対する憤怒』とのタイトルで、2巻全編にわ
たり『その1』から『その6』までが描かれる中編作品となっていて、これは、
ハードボイルドというよりも、クライムサスペンス。
敢えて似ている世界を探すとすると、こちらは高村薫かな?
「一匹と九十九匹」というタイトルが示す通り、1、2巻ともに、「孤立と
衆愚」がテーマに据えられているようだ。
うめざわしゅん、面白いぞ。もっとないのか? と調べてみると、既に結構
な数の単行本が出ている。
現在「アフタヌーン」で連載中の、人とチンパンジーのハイブリッドが主人
公という『ダーウィン事変』も、かなりの評判となってるそうだ。
その新作も含めて、これから少しずつ読んでいこうかなと、ただいま読書計
画を立てている五月なのでした。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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140 よく眠ろう
twitterのTLで、高野文子さんの絵本『しきぶとんさん かけぶとんさん
まくらさん』のことを読み、福音館の「こどものとも 年少版 2010年2月号」
を本棚から取り出して再読しました。
漫画家、高野文子さんが大好きで、この絵本が出ると知ったときも、すぐさ
ま手に入れたのです。もう13年も前だったのですね。現在、この絵本は単行本
として福音館書店から刊行され入手が可能です。
小さい子の読み聞かせ定番ジャンルとして「おやすみなさい絵本」がありま
すが、この絵本もそれです。
年少版の時についていた折り込みふろくに掲載されている作者のことばでは
高野さんが寝るのが好きなこと。寝る前のおまじない「寝るぞ根太(ねだ)、
頼むぞ垂木(たるき)、梁(はり)も聞け。何事あらば起こせ屋根棟(やねむ
ね)」から、小さい子どもでもわかるように、おふとんにお願いする形に変え
て作ったそうです。
大人はまず目から読んでしまうので、ひらがなで読むと「ねるぞねだ、たの
むぞたるき、はりもきけ。なにごとあらばおこせやねむね」と、おまじないそ
のものに読めてしまいます。
それでも、これでは小さい子にはわかりづらいでしょう。日々つかっている、
おふとんやまくらに頼むのなら、近しみがわきます。
子どもたちに読んでいたときは、高野文子さんの絵やことばのリズムを楽し
んでいましたが、子どもたちが成長したいまは、自分のためにこういうおまじ
ないを唱えるのもいいかもと思います。
大人も日々の生活ではいろいろあって、嫌なことがあったときは眠りにくい
ときもある。そんな時は、おまじないを唱えてみるのも、ちょっとした助けに
なるかもしれません。おためしあれ。
次のご紹介するのも絵本です。
絵も話も元気がでるもので、すこやかな気持ちになります。
『ぼくのせきをとったの、だれ?』
ピーター・エリオット 文 キティ・クローザー 絵
ふしみ みさを 訳 ロクリン社
訳者のふしみさんのインタビューを読みました。
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1647
ヨーロッパでは「狩りに行ったら席を取られる」ということわざがあるそう
で、意味は「留守にすると、居場所を取られる」。
ふしみさん曰く「この絵本はそのことわざを逆手に取ったような内容です。」
「ぼく」は狩りに出かける。
犬のジョナスと一緒に。
うまれてはじめての狩りで「ぼく」はえものをぶらさげて家にもどる。
すると、ぼくの席にちゃっかり知らないやつがいた。
もとから一緒に暮らしていたジェフは「しかたないだろ、いなかったんだか
ら」と、さっぱりしたもの。ぼくも最初はいい気持ちがしなかったけれど、そ
のうち、気にならなくなった。
という感じに、もともと住んでいた自分の家に知らないやつが入りこんで、
ちゃっかり自分の席をとっていても、まぁいいかと思うおおらかな話、という
のではなく、その新入りのココも、あるとき狩りに出かけてもどってくると、
今度はローザが席に座っている――。
インタビューによると、本書がベルギーで出版された2018年はシリアの内戦
による移民が増えてきたときだそうです。
文章を書いたピーター・エリオットは、故郷を追われた人たちのことを考え
ながらいっきに物語を書き上げ、キティにみせると、彼女はすぐ私が描くと言
ったそうです。
大人目線で読むと、いままで知らない人たちが自分のテリトリーに入ってく
ると、最初は警戒してしまうだろう、でも、どうやって共生していくのかは、
これから避けて通れないことと深くところへ誘われます。
登場する人物名も、アメリカ南部の州で白人にバスの席を譲らなかったこと
で逮捕された事件の当事者だったり、非暴力による差別撤廃推進運動で知られ
ているキング牧師の名前がつかわれています。
絵を描いたキティ・クローザーは、後半にたくさん登場する人物を細かく描
き分け、多様性を浮かび上がらせています。
なにより絵の色合いがカラフルで奥行きがあって、美しい。
みていると、考えることと同時に、受け入れることの深みと楽しさを感じま
す。
読み終わって、裏表紙にQRコードを発見。
ん?これは??
読み込んでみると、この絵本の作者たちによる音楽が流れ出しました。
ピーターはミュージシャンでもあるのです。彼が詩と曲を書き、キティが絵
を描いています。馬で駆けている「ぼく」はリラックスしていて、流れている
音楽も深呼吸しているような心地よさがあります。
絵本を読んだあとに、ぜひ見て聴いてみてください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
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表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
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2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
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執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
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4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#155『春まだ浅く』
春ですね。
って言うか、いきなり夏日があったり、相変わらず不順な春。もはやこれが
正常気象なのか。
黄砂吹き荒れたあの日は、春一番? いや、それはもう済んだっけ。
家の中にいると、案外外の様子がわかりません。だから、時折びゅうっと風
が鳴って、はっとする。窓の外を見ると、電線が身悶えるように踊っている。
風の音にぞ驚かれぬる、です。
もっともあれは、季節が違う。秋の歌。
「秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ 驚かれぬる」。
ちなみにどういうわけか、これが西行法師の歌だと長年思いこんでまして。
ほんとは、藤原敏行朝臣。
こんな風に、風の音などの自然音が、音楽のように耳を惹くことがあります。
それをラディカルに押し進めると、いや、自然の音だって、音楽だろ、と。
そういうことになります。
この発想を西欧音楽の文脈で明確にコンセプトにしたのが、アメリカの作曲
家ジョン・ケージでした。
この人、キノコが大好きで、それは英語の百科事典では、「music」と同じ
ページに「mushroom」が載っているから、と本人は説明しているらしい。
これがジョークか本気かはともあれ、そんなジョン・ケージ、しばしばキノ
コ狩に森へ出掛けます。
そこで彼が聴いたのは、やはり風の音を始め、鳥のさえずり、枯葉の下を動
く虫のかさこそ。すなわち、さまざまな自然音であり、やがて積極的に森のシ
ンフォニーを楽しむようになった。おお、これは音楽だ、演奏なんかしなくた
って、世界は既に音楽に満ちているじゃないか!
この発見を楽曲化したのが、かの有名な「4分33秒」です。ピアニストが、
4分33秒の間、ただピアノの前に座っているだけ、という大胆な音楽。もちろ
んこれは、無音の音楽ということではなく、聴衆の咳払いから微かな衣擦れ、
空調の音など、普段は意識することのない会場に溢れる音に気づかせ、耳を澄
まさせ、そこに音楽を見出させるという試みでした。
もっとも初演の時はその意図がわからず、聴衆が荒れ狂ったようですが。
小説にも、さまざまな自然音の描写があります。
その時、作者はきっとその音を音楽として聴いている。すなわち、優れた自
然音描写があれば、それを音楽本と認定してもいいよね、ということで、今回
の「春まだ浅く」なんですね。
高樹のぶ子が芥川賞を受賞した、「光抱く友よ」。
その同題の短編集に、未発表作として収録されたのが、「春まだ浅く」です。
主人公の容子には恒夫という恋人がいて、ふたりは学生です。結婚するまで
は純潔でいようと約束している。それでも男の方には煩悶があり、容子もそれ
はわかっている。自分のこだわりに意味があるのかと決心が揺らぎがち。
そこへ容子の旧友・貴子が登場。こちらは既に複数の男と経験があり、しか
も妊娠。ところが中絶の予後が悪く、男にも逃げられて、退院後の住まいに困
っている。そこで、暫く容子と同居することになる。
かくて恒夫を含めた三人の男女が出会うわけですが、音楽本としてのポイン
トは、台風の夜、恒夫が家に帰れなくなり、容子、貴子と一夜を過ごす場面。
小説としてもクライマックスに当たるところです。
この、激しい雨が登場人物たちの心のざわつきを象徴しているんですが、高
樹のぶ子は視覚ではなく、聴覚をフルに活用してこんな風に描写しています。
「雨滴がぬくもりを含んで落ちてきた。高い樹木のてっぺんから木の葉伝いに
落下してきて、地表の病葉に注がれる。一滴が土に染みこむまでに、幾通りも
の細かい音を発する。それが何千何万と重なると雨の夜の雑木林は、じわっと
した音の塊りになる。恒夫とふたり心を澄まして聞くと、自分達の体の内にも、
雨が降っているように感じられた。
戸外の音は、降ってくるというより、地中から湧いてくる感じだった。」
これだけの短い部分なんですが、いや、ほんと、最高。
聴覚による描写というだけでなく、耳で聴いたことがひとつのビジョンにな
っています。つまり、音が目に見えている、ある種共感覚的な表現ですね。
言葉のみを用いる小説という形式だからこそ成り立つ、優れた場面ではない
かと思います。
それにしても、まだ学生だし結婚するまでは清い関係で、という古めかしい
倫理観には時代を感じますが、しかし、そうした制約があるからこそ成り立つ
物語も当然あって、逆に自由すぎるとロマンがなくなる、とも言えますね。
最近の恋愛小説は、どんな制約を設定しているのでしょうか。
殆ど読んだことがないので、たまにはそんなものも紐解いてみようと思う春
です。
高樹のぶ子
「春まだ浅く」(『光抱く友よ』所収)
昭和五十九年二月五日 印刷
昭和五十九年二月十日 発行
新潮社
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
先日は学生時代のバンド仲間と久しぶりに食事をしました。そろそろコロナも
もういいよね、という感じですね。もっとも、終息したわけではないし、「も
ういい」の根拠もあまりないんですが。それにしても、音楽の話で盛り上がる
のは平和でいいですな。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『植物病理学は明日の君を願う』竹良実 ビッグコミックス
植物病理学をコミックにするとは・・・すごいぞ、これは
第一話を挙げる。
静岡の金丸農園でミカンの木が大量枯死する事件が起きた。知らせを受けた
帝央大学準教授叶木レンリと秘書の千両久磨子が現場に向かうと、パンドラの
箱の話を聞かされる。
パンドラの箱とは、金丸農園で2代にわたって働いていた従業員の今は亡き
父が、数年前に届いた送り主不明の木箱を開けたら、大量の虫が飛び出してき
たと言う。この正体不明の虫がミカンの大量枯死を招いたと思われた。
調査を進める叶木と千両。叶木は言わなかったが原因の見当はついていた。
試料を分析に出し、最悪の事態を想定して、その夜叶木は村の人を全部集めて
村中の全てのミカンの木を伐採・焼却することになる可能性が高いことを話し
た。
グリーニング病というミカンの木に致命的な被害をもたらす病原体。この病
原菌をもたらす昆虫ミカンキジラミのDNAが被害樹からとった試料から出たら
確定だが、すでに従業員の1人がミカンキジラミらしき虫を見つけていた。
分析結果を待っている暇はない。明日準備を整えて明後日に全部のミカンの
木を伐採する提案をしたら農家も反発する。「まだ生きてる木もある!」農家
としたは生きてる木は守りたいのだ。
かといった放置すれば村だけだけでなく県全域に被害が広がる。ミカンの木
は実が生るようになるまで何年もかかる。ミカン農家全員廃業の危機に陥る。
そんなとき、千両は今が最悪のタイミングなのに気がついた。明後日には台
風か来る。明後日伐採では虫が台風で飛ばされて拡散してしまう。県内全体、
あるいはそれ以上に被害が拡大する。どうする・・・?
ここまででも十分に面白いが、この話の真骨頂はここからだ・・・グリーニ
ング病原菌は気温が12度以下になると生きられない。日本では南西諸島でしか
生息できない。にもかかわらず、なぜ静岡で発生したのか?
誰かが、数年にわたってミカンキジラミ持ち込んでいる。それは誰か?パン
ドラの箱との関係は?犯人探しのクライマックスのどんでん返しは見事の一言。
その上、この1話だけでも、心が震える言葉と植物病理の基本が詰まってる。
「19世紀アイルランドにジャガイモ飢饉をもたらした病原菌は今も存在する。
現在でも四千種を超える植物病が、人類の農作物の1/3を収奪している」
「人類が科学に基づいて行動するために、真実を獲ってくるのが科学者の仕事」
「どうやらキミは、私にではなく植物病理学に仕えることを選んだようだな。
正しい選択だ千両君。この学問はまさに献身に値する」
「強毒すぎる病原体は進化の歴史を生き残れない。宿主を容赦なく絶滅させる
ことで自分のクビを絞めるからさ」
「私の診断で三千本の木を焼いた。生き延びたかも知れない木もだ。これが君
の言う「植物のお医者さん」だよ、千両君。自らの生存のため植物を利用する
・・・その意味では、我々も病原体と同等の立場だ」
ストーリーを説明しないとわからないせりふは書き出さないが、そこまで入
れるとしびれるせりふは三倍くらいになる。
もっとも、これだけのクオリティだからゆえに、心配もする。どのくらいこ
のコミックが続くのか知らないが、このクオリティで全編押し切るとなると、
作者は体を壊すんじゃないか?
人情もわかるが、基本冷徹な植物病理学のブラックジャック叶木と、性格は
いいが植物によって父を死に追いやられたトラウマをもつ千両秘書の事件簿。
1巻の最後のページは世界的大スターに叶木がケンカを売り、千両が・・・ま
だ出ぬ2巻を買わずにいられない。
それにしても、現代マンガのレベルはいったいどこまで上がるのか?つくづ
く漫画家にならなくて良かったと思う・・・なろうと思ったこともないけれどw
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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どうする氏真の、雅な弱くても勝てます理論
『氏真、寂たり』(秋山香乃著・静岡新聞社刊)
賛否両論の嵐の中を(主演が松本潤だけに?)進んでいく本年度のNHK大河
ドラマ「どうする家康」。嵐ファンとしては「皆さん、文句言ってもいいから、
文句言いつつでも見てね」と思うばかりです(懇願)。
いや、マジ、おもしろいですよ。弱小中の弱小だった三河の主、家康があっ
ちで負け、こっちに気を遣い、強敵がいなくなったかと思うとまた次にヤなヤ
ツが出てきてガマンにガマンを重ねて最後は天下を統一する、「どういう仕組
みになっとるんや?」と興味津々。そしてパックスオブトクガワと呼ばれる世
界史上稀にみる平和な長期政権を維持する、「なんでや?」と日本という国の
成立の根幹を考えつつ見ているのであります。
毎週見ているうちに、関連書籍を書店で購入していき、家臣団の本とか、江
戸時代とは何かとか、本が増えて困ってます。
その中からご紹介するのは図書館でお借りしたこの本、「氏真、寂たり」。
家康ちゃうんかい!と思ったかもしれませんが、今川氏真はある意味、家康と
はネガとポジ(デジカメ&スマホカメラ時代にはわからない例え)、人はどの
ようにして生き延び、時代に己を生かすかという永久のテーマを含んでいます。
血筋を生かして復活!
今川氏真は今川義元の嫡男でエリート家族のサラブレッド。でも頼みの父は
桶狭間の戦いで、まさかまさか、一気にリアルな戦死を遂げるのでした。日本
史の教科書ではここで今川家の記述はおしまいですが、残された嫡男と一族郎
党はそうはいかず、北からは武田信玄、西からはあれだけ世話してやってた徳
川まで織田信長のいいなりになって侵攻してくる、ホント、「どうする」って
言いたいのは氏真の方ですよ。奥さんの実家は北条でなんとかなりそうですが、
やっぱり信玄は強かったね。あそこ、海ないでしょ。海が見たかったてか海が
欲しかったんだね。
で、いろいろあって(大胆な省略)今川は滅びます。今川は滅びても氏真の
生涯は続いていくわけです。どうする氏真は、なんと家康を頼るんですね。
「今さらなんじゃ、あほたわけ」と家康は言ったか。言わなかったんですねこ
れが。氏真を迎え入れる。家康って滅びた信玄の遺臣もビズリーチ!している
し、一向一揆側についた家臣も許してるし、このへんにこの人の強靭さがある
のかも。
で、また省略して、氏真といえば蹴鞠、信長の前で蹴鞠を披露するというこ
とになるんですね。父を討った宿敵、信長の前で蹴鞠を披露って…おばちゃま、
これって屈辱的だと最初は思っていたんですね。
時代はびゅっとさかのぼって、古事記では敗れた海幸彦が山幸彦の前で、海
で溺れる真似をして笑かす。これが「わざおさ」っていう日本の芸能の始まり、
「ものまね王座決定戦」の原点です。
私の先入観はまったく違っていて、平安朝から続く優美な蹴鞠を信長と殿上
人が見守る中で披露。
「氏真の鞠は、枝の間を巧みにすり抜け、軽々と天を制した。それは驚くほど
高く宙に居座り、落ちてくるときには吸い寄せられるように、氏真の足の甲に
ふわりと触った」
「蹴鞠の宗家、飛鳥井雅教曰く――この境地に至った氏真の姿には、周囲の者
は声もなかった。みな誰もが音一つ立ててはならぬ気になって、息を呑んで見
守った(略)やがて千を数えてすべてが終わった」
ドリブル1000回、なかなかできるものではありません。(「だから静岡は今
でもサッカーの聖地なんだね」と言ったネット民がいましたがそれも関係ない
と思います・・・・あれ?あるのかな。そしてささいなことですが、大河ドラ
マで若いころの氏真と家康が蹴鞠をするシーンが1カットあるんですが、松本
潤さんがちゃんと鞠を上げているのに氏真役の溝畑淳平さんは大きく鞠を明後
日の方向にそらしてました。なぜ、あのシーンを使った? あれ、メーキング
画像じゃね?)
蹴鞠を大絶賛された氏真はそれ以降、朝廷とのつながりを求める大名たちの
コーディネーター仕事が増えるんですね。
そして今川家は徳川幕府では高家としてずっと家系を保っていくのです。高
家とは江戸幕府における儀礼、典礼を司る家のこと。名門の血筋がここで生き
たわけです。(同じようにあのあたりで戦に明け暮れていた家に吉良家があり
ますが、この家も名門の血を生かして幕府に仕えました。それで、「殿中でご
ざる」になったわけです)
織田も豊臣も武田も没落したのに、戦には弱かった今川が血筋を残す、まさ
に弱くても勝てます理論です。
だから見てね!
戦乱の世では武功が評価され、平和な時代には儀礼典礼が必要になります。
そして、時代がさらに下り明治維新になったときに生き延びることができた武
士は経理に強い人材だったと『武士の家計簿』(磯田道史・著)に書いてあり
ました。では今はどう? やはりITとかAIとかなんでしょうけど、それも未来
は不明。むしろ、今は儀礼・典礼を学ぶ逆張り法もありかと氏真を見て思うの
でありました(読み方、違う)。
この本の版元は静岡新聞社。やはり地元はありがたい!
それまで偉大な父の跡を継げずに家を没落させた凡愚な大将という評価(歴
代のドラマが悪い)だった今川氏真を再評価した功績は大きい名作だと思いま
す。「どうする家康」も、アホなジュニアとは描かず、時代の中でもがき苦し
んだ人物像を描いてとってもよかったと思います。
だから皆さん、大河ドラマ、見てね!
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
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★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<158>文豪たちの星霜
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第152回 高度な政治小説であり、骨太な陰謀小説あるいは、仲間同士の…
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→139 妖精と魔法と灯台守と自然
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<158>文豪たちの星霜
ドリヤス工場『文豪春秋』(文藝春秋社)を読んだ。
ドリヤス工場と言えば、その「まるで水木しげる」な独特な絵柄と、「トー
チ」連載の『有名すぎる文学作品をだいたい10ページの漫画で読む。』が一部
で評判となり、単行本も3巻を重ねた漫画家。
今回の『文豪春秋』は、その続編というか発展形というか番外編というか、
“有名すぎる文学作品”を書いた、“有名すぎる”作者たちにスポットを当て、
こんどは“だいたい4ページくらい”で、その人となりや執筆時の裏話を紹介
する、という趣向。
雑誌「文学界」に、2017年から19年まで連載され、2020年に単行本化された。
「第一回・太宰治 〜走れ芥川賞〜」に始まって、中原中也、川端康成、檀
一雄、坂口安吾、谷崎潤一郎、宇野千代、国木田独歩、永井荷風、夏目漱石、
芥川龍之介、志賀直哉、等々、等々、30人に上る文豪たちの裏話を語ってくれ
るのは、なんと文藝春秋社創始者である菊池寛。
文藝春秋社の社員編集者である主人公女子(どうも、名前は与えられてない
みたいだ)が、たまたま会議室でサボっていると、その会議室に安置してある
菊池寛の銅像がいきなりに喋り出し、太宰治と芥川賞にまつわる裏話を語って
聞かせるのが「第1回」。
以後、会議室に限らず、文春社内あちこちにある“菊池寛”像や肖像画が、
彼女の行先あちこちで待ち構えては、明治から昭和文壇の裏話を延々語ってき
かせるのだが、それでもやっぱり毎回「だいたい4ページ」なので、かなり要
約されてもいたりする。
「だいたい4ページ」ではあるが、なにせ文藝春秋を「作った人」が語る裏
話。妙なリアリティと重みがあります。
そして、その「第29回」では、菊池寛、その人自身について語られた後、最
終回の30回では、満を持して、という形で芥川龍之介の、その自殺を防げなか
った悔恨を語って、物語は終わる。
文藝春秋社の社内を舞台にしたこの漫画を読んでいて思い出したのが、手塚
治虫をめぐるエピソード。
手塚が「週刊文春」に『アドルフに告ぐ』を連載していたころ、担当編集者
は、当時新人の編集者だったらしい。
ある日、その新人の担当に向かって手塚が言ったそうだ。
「昭和10年の神戸に在住していた、10代前半のドイツ人の女の子が、どんな
洋服を着ていたのか、その資料がないと、今回、どうにも仕事が進められない
んだよね…」
手塚にしてみれば、複数の仕事が詰まってきて、どうにか1社でも原稿を遅
らせたい、そして原稿ができないのは「ボクのせいじゃなくて、資料を揃えら
れない編集部のせい」というエクスキューズが欲しくて、到底できそうにもな
い無理難題を担当に押し付けた…のだけど、新人編集者には、そういう機微が
わかるわけもなく、「わ、わかりました…」と、青くなって編集部へ帰った。
とりあえずは編集部へ帰ったものの、そんな資料、どこを探せばいいのか皆
目見当がつかず、思案にくれていたところへ、古参の編集者が通りかかり、
「どうしたの?」と彼に声をかける。
これこれしかじか、と彼が話すと、「ああ、それだったら、あるよ」と、い
とも簡単に地下の資料室から数点を、探し出してきてくれた。
喜び勇んで、その資料抱え、手塚の元へ取って返して「先生!ありました!
ありましたよ!」と差し出すと、手塚は、「嫌ァ〜〜な顔」をして、「あった
んですか…」と落胆された。
このエピソードなども、文藝春秋社という会社が積み重ねてきた歴史のなせ
る業なんだけど、ドリヤス工場の『文豪春秋』もまた、その「歴史」を巧みに
利用した漫画、とも言える。
この『文豪春秋』を読む前に、たまたま松本清張『昭和史発掘』の1巻、2
巻、4巻を読んでいたのだ。
1、2、4を選んだのは、それぞれに『芥川龍之介の死』(1巻)、『潤一
郎と春夫』(2巻)、『小林多喜二の死』(4巻)と、昭和戦前の事件史に挟
まれて、作家の事件簿が挿入されていたから。
「いま、このシリーズの一つとして芥川の死を書くことになったが、これは
昭和史の一齣として書くのであって、別に芥川龍之介論でもなければ作品論で
もない」
と断り書きをしたうえで、芥川の章は始められるのだが、清張先生、そう断
った割には、かなり芥川龍之介その人の性格や作品に踏み込んでいらっしゃる。
清張は、どうも芥川及びその作品が、あまりお好きではなかったようで、そ
の作品を
、「経験によらず、頭だけで書いている」とか、かなり腐してもいるし、その
人となりについても、「ええかっこしい」だの「ひ弱なエリート」だのと、か
なり手厳しい。
芥川の自死を、当時台頭していた小林多喜二などのプロレタリア文学を脅威
に感じていたこと、また自分にはそういった作品が書けないにも関わらず、そ
れを認めるのは、文壇エリートとしてその自尊心が許さなかったこと、などか
ら来るノイローゼの果て、と断定もしている。
これと打って変わって、4巻に収録された『小林多喜二の死』でも、同じく
「文学論ではない」と断っているのだが、やはりその作品に深く踏み込んでい
て、文章力には稚拙な部分があるのは否めない、と断ったうえで、大いに絶賛
もしているのである。
松本清張は、芥川の項で「巷には失業者満ち、私も職がなかった」と書いて
いるように、自らが失業し、明日をも知れぬ身の上にあったときに、文壇の寵
児としてもてはやされていた芥川には、ある種の反発もあったようだ。
その辺、貸本漫画時代の水木しげるが、まともに原稿料も払ってもらえない
貸本業界に比べて、華やかな雑誌の世界で超売れっ子として活躍する手塚治虫
に抱いた反発心と似てますね。
苦労人・松本清張としても、どうしても芥川よりも多喜二の方に肩入れした
くなるんでしょうね。
ところで、ドリヤス工場は、ただいま「文春オンライン」で『昭和怪事件案
内』という連載を持っていて、昭和戦前からの「怪事件」を、ひとつひとつ検
証する、という趣向のこちらは、1回あたり「だいたい8ページ」。
4月現在、「22回」まで進んでいて、最新回の22話は、1970年の大阪万博を
騒がせた「目玉男」のお話。
実は、この連載、つい最近に知って、今、1話から順に、楽しみに読み進め
ているところ、なのでした。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第152回 高度な政治小説であり、骨太な陰謀小説あるいは、仲間同士のあつ
い友情小説
出口のない閉塞感に覆われている現代の日本において、私たち日本国民がス
カッと勇気や希望を得られるのは、もはやサッカーワールドカップでのSMA
MURAI BLUEの活躍やWBCでの侍ジャパンの活躍など、スポーツで
の日本の活躍にしかないのではないか、そういう場でしか、見いだせないので
はないか、という状況が続いている。国民は皆この高度に発達したスポーツエ
ンターテイメントに一喜一憂して時間を消費している。
まさに古代ローマ帝国におけるローマ市民の在りようである“パンとサーカ
ス”。そんな状態がここ何年も続いている。震災やテロや戦争、そしてパンデ
ミック・・・なんでもありのこの世界はすでに行き詰っていると考えている人
は多いが、それに目をつぶって現実から逃れ、ひたすら食欲と楽しみだけに人
生のほとんどを費やしている私たちにとって警鐘となる物語なのか、それとも
相変わらず“パンとサーカス”の範疇になる物語なのかわからないが、いまま
さに読むべき物語であることは間違いない。
“パンとサーカス”。この標語を本のタイトルにした小説が一昨年の新聞小
説として毎日連載され、昨年単行本化された。
『パンとサーカス』(島田 雅彦 作)(発行:講談社)(2022年3月22日初版)
本書は550頁を超える大著である。持ち運びにはとても不便ながら、一度読
み始めたらページをめくるのももどかしいくらいその次が気になって仕方ない
エンターテイメントである。島田雅彦氏特有の奇想天外なプロットではあるが、
説得力があり、この世の中はこの物語にあるような要素で構成されているので
はないか、と考えてしまう。実際に執筆子も冷静に考えれば、この物語が100%
フィクションである、とは思っていない。どこまでかは本当のことなんだろう、
と感じている。
東日本大震災やパンデミックが実際に日本を襲う。そして政権を担う権力者
の腐敗。すべては実際のこの日本のことである。
現在の日本の統治機構の不条理に鋭く切り込んでいる。合法的にその矛盾を
解き、正しい世の中の在りよう、まっとうな統治機構への再構築はもはや望む
べくもないので、強硬な暴力(=テロ)に訴える、という一見不毛な物語なの
だが、そうではない。読者は手に汗握り全力でテロリストたちを応援する。
日米安保条約。そして原子力発電所の再稼働。このふたつの大きな問題を真
っ向から物語のテーマのひとつに挙げるのは、少しだけ勇気のいることかもし
れない。強権的な国家であれば、間違いなく発禁処分を喰らうかもしれない物
語である。この物語を自由に読むことができる幸せを少し噛みしめてみた。
安保条約は日本を米国の植民地とする巧妙なシステムであり、また、資本主
義の原理に忠実な既得権益を得ている権力者たちにより、被害者は蚊帳の外と
なった原子力発電のシステムは、現在の与党政権により完全に震災前の状態に
戻っているのもまた、支配者の都合だけで決められた。いままさに、この日本
で行われている、矛盾したシステムをどうにか変えたい、正しいシステム。一
握りの既得権益者だけのためではなく、国民のためのシステムに変えたいとい
う強い想いで作者は本書を執筆したのだろうし、私たち読者もその強い想いは
変わらない。このように高度に政治的なメッセージをちりばめた政治小説であ
る。
本書の主人公はふたりの青年。ひとりはやくざの息子、ひとりは秀才にして
CIAのエージェント。このふたりは幼馴染であり親友、という設定がたまら
なくいとおしい。ふたりの友情は最後まで変わらない。ふたりの友情が物語の
中で日本のシステムを変える原動力となる。しっかりと絆で結ばれた友情の発
露があり、尊い友情小説である。
このふたりが自分の置かれた立場の中で、同じような正義の気持ちを持った
仲間の助けを借りて、さまざまな人やものを使い世直しをしようとする痛快な
陰謀小説でもある。
日本の総理大臣の名前は犬養仁と云い、アメリカの大統領はジョーカーと云
う。犬養はアメリカの忠実な犬、というメタファーであろうか。ジョーカー大
統領は現に存在するトランプ大統領を彷彿させる。
私たち読者は、作者・島田氏の想いをともにしている。この物語のテーマで
あり、作者がその現状に猛烈に怒っていることは、いたる所に登場人物の発言
として載っている。一か所だけ引用したい。主人公のふたりが会話している。
やくざの息子の方の発言。
“官邸の人間はしょっちゅう自分の身内や仲間の罪をうやむやにしているじ
ゃないか。選挙違反も、公金の濫用も、収賄、贈賄、公文書の改竄、破棄、国
会での虚偽答弁、暴力事件、レイプ事件のもみ消し、いくらでもある。政権に
批判的な人物に冤罪をなすりつけるなんて日常茶飯事だし、時には自殺に見せ
かけた暗殺までやっている。そもそも、政権そのものが憲法を踏みにじり、主
権も領土、領空もアメリカに差し出している。・・・・・・”。
レイプや暗殺云々の下りはともかく、それ以外のものは10年近く続いている
現在の与党政権がしてきていることを我々は目の当たりにしているわけで、誇
張が入っているものの、おおむねあたっているこの発言について、私たちは怒
っているのだ。
怒ったり喝采したり泣いたり喜怒哀楽が激しく交錯する。あっという間の558
頁である。
多呂さ(この4月は統一地方選挙。投票に行かないと世の中は変わりませんよ)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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139 妖精と魔法と灯台守と自然
今年の桜はことのほか早く、そしてあっという間に葉っぱがでてきています。
とはいえ、もう少し山の方に行けば、まだ咲いていないところもあるので、楽
しみはまだ続く。それにしても、毎年咲く桜に、毎年同じように気持ちがもっ
ていかれるのは、おもしろいものです。
イギリスの作家、マイケル・モーパーゴは日本でかなり作品が翻訳されてい
る人気作家。
最新刊の『西の果ての白馬』(ないとうふみこ訳 徳間書店)を読んだので
すが、くぅぅとうなるほど、妖精と魔法の力を感じる物語でした。
本書には5つの短篇がおさめられていますが、本の「はじめに」で順番に読
んでほしいと、あえて注意書きのようなものがあります。
短編集は開いたものから読んでいくというクセのある方は、そのクセをおさ
えて、順番に、です。それと、「あとがき」を最初に読んでしまう方も、今回
は、物語を読み終えてからのタイミングをおすすめします。
もちろん、順番に読んだのですが、私には4番目の短篇が深く心に入ってき
ました。
「ネコにミルク」という物語では、バーバリー老人が50年以上も前から畑を
耕してきました。村では賢い人として尊敬され、「土地と心を合わせ、季節の
リズムにしたがって生きるのがひけつだよ」と、にこにこ生活している理由を
教えてくれるのでした。
年をとってから結婚し、息子に恵まれます。残念ながらつれあいはお産の時
に亡くなってしまい、ひとりで育ててきました。
寿命が尽きるとき、息子には土地に無理させず、言い伝えどおり、毎晩白い
器にミルクを入れて外に出し、ジャガイモを収穫するときは一列だけ残してお
くよう言い含めました。息子はもちろん約束するといいましたが、葬式を出し
たあとは、自分の好きなように農場をかえていきました。
なぜミルクを外に出すのか、ジャガイモを残しておくのか。
イエイツのアイルランド童話集『隊を組んで歩く妖精達』(山宮 允訳 岩
波文庫)におさめられている「ティーグ・オケインと妖精達」と、よく似た雰
囲気をもっていて、不思議な気持ちが自分のなかに広がりました。
佐竹美保さんによる青い幻想的な白馬が描かれているカバー表紙も裏表紙も
読了したあとに見返すと読後の余韻が格別です。
本書のひと月前に刊行されたマイケル・モーパーゴの物語もご紹介します。
『パフィン島の灯台守』
(ベンジー・ディヴィス 絵 佐藤 見果夢 やく 評論社)
すこしレトロ感あるくすみ色で描かれた絵がたっぷり入っていて、物語世界
にすっと入れます。
イギリス南西部の沖合、シリー諸島付近で大嵐がおきた夜、座礁した船に乗
っていた合計30名もの人々を、灯台守のベンジャミン・ポスルスウェイトが救
いました。大嵐のなか、小さなボートで、島と海の間を5往復し、全員を灯台
のある島に運んだのです。
助けられたなかに、ひと組の親子がいました。少年は自分と母親の命を救っ
てくれたことを忘れませんでした。
少年は寄宿舎のある学校に入り、母親は後にその学校の先生にもなりました。
ある日、学校の図書館で、偶然あの大嵐の事故の記事がのっていた古雑誌をみ
つけます。事故から12年たっていました。
雑誌の記事を読んだことで、少年は学校を卒業したらベンジャミンさんに直
接お礼をいいに行こうと決意し、実行にうつしました。
ベンジャミンさんは、少年と会えてうれしそうです。手紙の返事を書かなか
ったのは文字の読み書きができないからだとわかりました。ベンジャミンさん
のところには、足を痛めているパフィン(日本名はニシツノメドリ)がいまし
た。
2人は数ヶ月一緒に過ごし、パフィンのめんどうもみました。おかげでパフ
ィンは元気になり、島から飛び立ちます。それからどんな月日が流れたかは、
ぜひ物語を読んでみてください。
本書は「パフィン・ブックス」というイギリスでたくさんの児童書を出版し
てきた、アラン・ウィリアム・レインに捧げられています。
次に紹介するのは絵本です。
『あらしとわたし しぜんのなかでいきる』
ジェイン・ヨーレンとハイジE.Y.ステンプル ぶん
クリスチャン・ハウデッシェルとケビン・ハウデッシェル え
まつかわ まゆみ 訳 評論社
毎年のように自然災害が世界のどこかでおきています。
大きな被害があっても、それでも人は生き続けていく。
この絵本では、竜巻、吹雪、山火事、台風が描かれ、その脅威と共に、人が
どうつきあってきたかをみせてくれます。
シルクスクリーンのような、かすれた色合いに深みがある絵はやわらかい印
象をもたらし、厳しい自然に優しい視点がもりこまれているように感じます。
最後に紹介するのは、オランダの絵本でヤナギなど木を描いたものです。
『ゆりかごになりたい、とヤナギは言った』
ベッテ・ウェステラ 文 ヘンリエッテ・ブーレンダンス 絵
塩崎 香織 訳 化学同人
ナラ、ブナ、カバノキ、カエデ、トネリコ、ポプラ、ヤナギ、シダレヤナギ
トチノキ、トウヒ、それぞれの木が、どんなものになっていくのか、木の気持
ちで言葉がおかれています。
木を木版画で表現した絵はどれも趣きがあり、それぞれの特徴と共に、楽器
になったり、家具になったりしていく様子は見入ってしまいます。
朽ちていく木もありますが、朽ちてまた他の動物の住みかになったり、栄養
にもなったりする様子は自然の循環をみるようです。
木や葉っぱや実をみていると、実際の木を無性にみたくなってくるのですが、
見返しで表現されているものは、とてもリアルで、実物と見間違うほど。
それが何かは、ぜひ絵本でみてください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→#154『東京バックビート族』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『国破れて著作権法あり』城所岩生 みらい新書
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『エゴイスト』(?山真・著/小学館文庫)
★【募集中】献本読者書評のコーナー
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#154『東京バックビート族』
前回の細野晴臣に続いて、自伝第3弾。
ベーシスト細野晴臣の盟友とも言うべきドラマー、林立夫です。
と言っても、知名度はちょっと落ちるかな。やはり一番目立つのはシンガー。
次がギタリスト。キーボード、ベースと来て、ドラム? ないし、ドラムと来
て、ベース?
まあそれはともかく、60年代後半から70年代に今日のJポップの礎を築いた、
偉大なミュージシャンのお一人ですよ。
本書には何人かドラマーとの対談も収録されているけど、そのひとつが先日
亡くなった高橋幸宏だったりもします。高校の時から友だちだったんだねぇ。
本書を読んでいて、先月の細野晴臣の本にも出てきた「おっちゃんのリズム」
が、林立夫の命名だったと初めて知りました。
70年代に、いわゆる16ビートが主流になった時、これをうまいミュージシャ
ンは正確に演奏して、16分音符のリズムを全員がかっちり合わせるんですが、
アメリカの、50年代、60年代に活躍して、当時既におっちゃんになっていた世
代の人たちは、そうじゃない。
16分の刻みがやや緩く、合っているようなズレているような微妙なニュアン
スがあって、それがむしろカッコいい。
あの感じで演奏しようよと細野晴臣が言い、それを林立夫が「おっちゃんの
リズム」と名づけたんだそうです。
そう、それ、わかる!
僭越ながら不肖ワタクシも、あれは大分遅れて80年代になっていたと思いま
すが、オーティス・クレイというソウル・シンガーの来日公演に行った時のこ
と。
実は名前は知っているもののレコードを聴いたことがなかったんですが、暇
だったので出かけた。そしたらあなた! いやあ、素晴らしいライブで大感動。
歌もさることながら、バックのサウンドがめちゃくちゃよくて、終演後、手拍
子の叩き過ぎでジンジン痺れる両手を持て余しつつロビーに出れば、なんとサ
イン入りの最新アルバムを売っているじゃあありませんか。
もちろん、購入。家に帰って針を落とすと、あの最高のグルーブが……あれ?
違うんです。何かが違う。オーティスの歌は当然同じなんですが、バックの
ノリがどうも違う。
なんか、かっちりしてる。あの、緩くて絶妙な揺らぎがないんです。
あの頃は、その理由がわかりませんでした。
でも、おっちゃんのリズムの話を読んで、40年ぶりに疑問が氷解しましたね。
多分オーティスもレコーディングではトップクラスのスタジオミュージシャ
ンを起用したんでしょう。だから、正確に16分を刻んで、上手いバッキングに
なった。
しかし、ツアーとなると、そこまでのレベルのミュージシャンはギャラが高
過ぎて使えない。もうちょっと下のクラスのおっちゃんになった。だけど、そ
れがむしろ(自分的には)とってもよかった。
そういうことなんですね〜。
本当に音楽が奥深いと思うのはこういう時。必ずしも上手いことがいいこと
ではないという逆説。
思い出話に逸れちゃいましたが、ともあれ林立夫ですよ。
タイトル通り、この人も東京生まれ。
青山学院に初等部から通い、家も青山。
こういうところに、近田春夫や細野晴臣との共通点を感じます。
年の離れたお兄さんとお姉さんがいて、面白いのはそのお姉さんの彼氏(後
に結婚して義兄になった)とも仲良しで、つまりひと世代上の若者からさまざ
まに影響を受けているのです。
この辺り、ほんと、羨ましい。
長男長女って、親が音楽好きでないと、自分で一からになるけど、上がいる
と道を切り拓いといてくれるから早熟になるんですよね。
で、林立夫もビートルズの衝撃から音楽に入り、バンドを始め、高校の時に
は義兄の紹介でまだ大学生だった細野晴臣と知り合い、彼が主宰するコンサー
トのオーディションを受けたりしてつき合いが始まります。
そうして人脈を広げ、あちこちでドラムを叩いている内に、「気づいたらレ
コーディング・ミュージシャンに」なっていた。
やっぱり羨ましい。
70年代には、細野晴臣を中心にしたグループ、キャラメルママやティン・パ
ン・アレーで活躍。ユーミンやら、矢野顕子やら、小坂忠やらの多くの名盤に
参加しました。
しかし本人は、自分はドラマーではなく、リスナーだと言ってます。
音楽を聴くことが好きで、聴き手の立場から欲しいと思うリズムを提供する
んだと。
だからレコーディングの時、仮でもいいから歌を聴きながら叩くそうです。
本人が忙しくて、ディレクターやスタッフの下手な歌だったこともあるけど、
それでもいい。なぜなら、リスナーが聴きたいのはまず歌だから。
それに、譜面を見るより、歌詞を見ながら叩く方がいいというのも面白い。
その方が歌の物語に沿うドラムになるんだとか。
映画に音楽を付けるように、歌詞にリズムを付けていくんですねぇ。
そんな素晴らしいドラマー、もといリスナーでありながら、多忙を極めるス
タジオ・ミュージシャン生活では家族と過ごす時間がないからと、あっさり引
退してしまうのもスゴイ。
まあ、後にその頃録音した曲でベストアルバムをつくることになってリスト
アップしてみたら、7000曲ほどあったそうですから、そりゃ無理ないかも。
その後は、夫婦で一緒にできる仕事をしながら(それがどんな仕事なのかは、
敢えてでしょうか、語られません)子育て生活。イクメンのさきがけでもある
んですね。
そして、ある程度年齢を重ね、96年、荒井由実The concert with old
friendsで活動再開。その後もさまざまなプロジェクトで活躍しています。
最後に、これからは次世代の日本バックビート族へ橋渡ししていきたいとい
う決意表明で本書は終わるので、自伝と言いながら、まだまだ林立夫の物語は
続くんでしょう。
では、その部分の引用で、今月はお別れです。また来月!
「僕たちが今だに音楽ができているその第一歩は何だったかと言えば、二十歳
そこそこ、ヘタしたらまだ十代の僕たちをレコーディングに呼んで”場”を与
えてくれた大人が、当時いたということ。今僕らは十分その立場にいる。ただ、
レコードが終わり、CDも終わったという時代に入っている現在、若い世代の
人たちに、僕らが”バトンを渡す”というような単純な話ではなくなっていて、
これから僕らに何ができるかは、すごくチャレンジングだと思うし、またすご
く興味もある。」
「地方でも音楽はできるし、地方で起業して地方から発信し、”田舎なのに最
先端”を実現しているおもしろい三十代の連中も、僕はよく知っている。そう
いう視点も含めて”東京バックビート族”から次世代の”日本バックビート族”
へ橋渡しをしていきたいと思っている。」
林立夫
村田誠二 取材・文・編集
東京バックビート族 ―林立夫自伝―
2020年2月21日 第一版第一刷発行
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
しかし、本当に訃報が多いですね。鮎川誠さんも亡くなり、お住まいだった下
北沢の某寺院でお別れの会が催される予定だったのですが、相当数の弔問客が
押し寄せそうということで三日前にお寺の方が断ってきた。慌てて近くの葬儀
場に変更したところ、やはり長蛇の列になったと聞きました。また、渋いミュ
ージシャンでご存知ない方も多いでしょうが、デビッド・リンドレーも亡くな
りました。学生時代、彼のバージョンの「ツイスト&シャウト」をコピーした
のを懐かしく思い出します。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『国破れて著作権法あり』城所岩生 みらい新書
サブタイトル「誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」
3月10日に公開された映画「Winny」と同日発売。Winnyが話題になったのは
20年前のことなので、一応簡単に説明しておくと、Winnyとはファイル共有ソ
フトの名称で、フリーウエア(無料で誰が使っても良い)ソフトウエアとして
公開された。
Winnyがインストールされているパソコン全てにユーザーの持つファイルを
コピーすることができ、変更されたらその結果も反映される。この仕組みを悪
用すると、たとえば私が持っているCDやDVDからコピーした他人に著作権のあ
る音源や映像、あるいはアプリケーションソフトのようなファイルを他のユー
ザーと共有と言う名の違法コピーを許すことになる。
そのため著作権法違反の違法コピーをするソフトウエアだと糾弾され、開発
者の金子勇氏が逮捕された。逮捕されたことで金子氏はWinny開発ができなく
なりセキュリティホールが空いたままのソフトが流通したままになった。それ
でセキュリティホールを悪用するウイルスが作られ、中でも「仁義なきキンタ
マ」とよばれる暴露ウイルスが猛威を振るい、国家や企業機密の書類から、個
人がひそかに楽しんでいた恋人とエッチしたときの写真みたいなものまで流出
する事態となった。
で、この本はWinnyをネタにしつつ、法律のあり方というか、変え方を論じ
る本と言えそうだ。著者は国際大学グローバルコミュニケーションセンター客
員教授で米国弁護士。通信関係の法律に詳しい方で関係の著書も多い。
最初にガツンと読者に叩きつけてくるのは、マーク・アンドリーセンの主張
である。アンドリーセンは古くからのネットユーザーなら誰でも知ってる有名
人で、世界最初のwebブラウザ、モザイクを開発したことで知られる。モザイ
クはネットスケープナビゲーターやファイアーフォックスの源流となるソフト
ウエアで、アンドリーセンはネット時代を切り開いた功労者と言っていい。
そんなアンドリーセンがシリコンバレーにやってきた94年ごろは、日本企業
がシリコンバレーをまるごと支配するのではないかと恐れていたと言う。
実際、当時の世界企業の時価総額ランキングは日本企業がほとんどを占めて
いた。それが今ではトヨタくらいしかランキングに入らない。
なぜそうなったのか。既得権益を失うのを恐れて新技術の導入普及に日本企
業が及び腰だったから何をするのも遅れた。テレビ番組のネット配信すらネッ
トフリックスのような黒船が来るまで消極的なままだった。
そして金子氏と同様のファイル共有ソフト「カザー」を作ったニクラス・セ
ンストロムとヤヌス・フリスは、直後にスカイプを開発し、億万長者になって
いる。カザーはプログラムとしてはWinnyと比較して格段に劣るものだったと
いう。
なせ金子氏が司法に足をひっぱられて、ニクラスとヤヌスは億万長者になっ
たのか?
著者は著作権法に原因を求める。
そもそもWinny自体はファイル共有ソフトであって、情報通信分野の最先端
技術であるP2Pソフトウエアとして作られた。
それが違法コピーを行うのにも便利だったすら問題にされたのだが、だから
と言って開発者の金子氏を罪に問えるかと言うと、誰もが疑問を持つだろう。
包丁で人を殺した人がいたとして、包丁の製作者が罪に問えると言っているよ
うなものだからだ。
しかし、スケープゴートが必要だったのだろう。金子氏は逮捕されて開発の
道を閉ざされた。それは社会的損失であったのは確かだし、糾弾する必要もあ
るのだが、それだけしか内容がないならこの本を読む価値はない。
日本が技術の進化に追いついていない旧態依然な著作権法を愚直に守ろうと
しているのに対し、アメリカは技術の進化を予想し、技術が実用化される頃に
は社会変化を見据えた著作権法の改正を済ませている。それを示すため著者は
グーグルとオラクルとの著作権裁判など、日本の裁判所なら逆の判決を出すだ
ろうと思うような例を出す。
そして日本の時代の変化に鈍感な司法の愚直な順法姿勢が国際競争力、経済
力までを奪っていることを示すのだ。
何よりビックリするのは、私のような法律素人の考える法とは、弱者の正義
を守るもの程度の認識しかないと思うのだが、アメリカの司法は国益を伸ばし、
守るために法律を変えて行くことだ。
言い換えれば、法律の制定にも未来を見据えた戦略があるのである。それを
踏まえた上で著者は「日本的フェアユース」というを提唱する。内容は読んで
のお楽しみだ。
そして読後思う。これはSDGsも同じだ。欧米の言うことに日本が、そして開
発途上国が振り回される原因もここにある。欧米に先んじて戦略的に法を整備
することが日本に必要なのだ・・・。
この本に40年前に出会っていたら、法律なんて面白くないと思っていた私は
法学部を目指していたかも知れない。読者も同じような感想を抱くのではない
かな?
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴三十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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『エゴイスト』(?山真・著/小学館文庫)
どんな恋愛にも壁がある
この世に純愛なんてない…と思う。恋愛はセックスと結びついていてセック
スは出産と結びつく。だから、恋愛には結婚とか家族制度とかの社会的要因が
ある。ただその人のことが好きだから恋するという純粋な恋愛があるとしたら
小学校4年まで、それ以降の恋愛はお互いのスペック比べだったり、婚活だっ
たりするんじゃないかな・・・・・と思っていた私は、同性愛には結婚や出産
などの社会的要因がない分、純粋な恋愛が存在するのではないかと思っていま
した。
しかし、忘れていました。恋愛には経済的要因が絡み、それがお互いを縛り
付ける可能性があることを。結婚、出産からは自由な同性愛にもお金は絡み、
権力となって恋愛を堕落させていくのは防ぎようがないようです。
この小説は、30代雑誌編集者と20代のトレーナーの男性同士の恋愛が描かれ
ています。実話を元にしていて、狭い出版業界、すでに故人である著者は私の
知り合いの知り合いの知り合いぐらいの距離にいたようです。
パーソナルトレーナーと顧客という関係で始まった2人の恋愛は、トレーナ
ーが金銭的にひっ迫し、それを援助する形で続きます。トレーナーは実はほか
に身を売る仕事をしていたのですが、編集者と真剣な恋をした彼は売春する仕
事が辛くなり、別れを告げたことがきっかけでした。
編集者の援助により売春を辞めたトレーナーは、それでも生活費が不足する
ことから肉体労働の仕事をするようになりますが、疲弊し、過労死のような最
期を迎えます。
あちこちに実際の金額が出てくるのがこの小説の特徴で、トレーナーのギャ
ラは1回3000円、編集者の援助額が月に10万円、恋人の母への手土産は7000円
を切るぐらいなど・・・。
またこの小説にはもう1つの軸があり、それは編集者は亡くなった母がいて、
母への思いが深く、若い恋人が母に尽くすのを自分ができなかったことをして
いるために、応援するという思いが若い恋人を無理な労働に駆り立てた、その
贖罪もテーマになっています。息子を亡くした母親にも「二月で20万円ほど」
の援助をし、食事を作ってやり一緒に食べることで、自らの母やの孝行の真似
事をする編集者。そんな自分を身勝手なエゴイストと思うのでした。
そして、もしこれが年上の男性と若い女性だったら、もしかして金銭の援助
はお互いにそうは苦痛ではなかったかもしれないと思いました。
この小説で想起したのはマルグリット・デュラス「愛人(ラマン)」。フラ
ンス領ベトナムで、金持ちの若い中国人と、落魄したフランス人の若い女性が
愛し合うデュラスの自伝的小説。お互いの地位が逆転し、金銭的援助を受ける
中で、恋愛を見失う様子が描かれています。
また思い出したのが、独身を通した人気女性作家が亡くなった後、ひそかな
恋人がいたことが分かったという話。病を得た恋人をひらすら援助した彼女の
心情はどうだったのかなど、いろいろ考えてしまいました。
男女の恋愛は社会的制度が絡みついてややこしいけれど、同性愛も自由では
なく、金銭と権力が恋愛の壁になる……やはり恋愛はややこしいものです。
この小説は今年映画化されました。小説を読んだ後で見ましたが、鈴木亮平
と宮沢氷魚の熱演が見事でした。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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配信がちょっと遅くなりました。でも月は越さなかった!(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<157>コンビニが「書店」だったころ
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→138 詩はいいよ
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<157>コンビニが「書店」だったころ
前回の拙稿について、ある人から苦言を頂いた。
『マイ・ブロークン・マリコ』、実に素晴らしい作品なのに、それを「世代
論」に堕してしまっては、この作品自体を矮小化することになる…と。
読み返してみて「そのとおり」と思った。
当方としては、この作品のあくまでも「ある一面」あるいは側面として、世
代論に絡めたのだけど、そこでしか評価してないようにも取られかねない書き
ようでした。
反省します。
『マイ・ブロークン・マリコ』、ことに映画化作品の方は、世代論など超越
して、ただいま現在の「戦う女子」模様と青春群像を鮮やかに描き出した傑作
です。
で、凝りもせずに世代論の続き…でもないのだが、「コンビニ」です。
今や、日本人のほとんどの人が、生まれたときから存在していた、と認識し
てるであろう、コンビニエンスストア。
あれって、今から半世紀前には、日本中のどこにも、影も形もなかった…っ
て、半世紀前には既に存在してた世代の皆さん、覚えてます?
わしが、その姿を初めて見たのは1976年で、当時は、東京で大学生をやって
いた。
ある日、西武線の江古田に住む同郷の友人を訪ねた。
彼はその年、東久留米市という、東京都下なんだけど「ほぼ埼玉」という田
舎下宿から、念願の都区内へ引っ越してきていて、その新居を訪ねたのだった。
豊島区内とはいえ、駅から彼のアパートへ行く途中には、スーパーなどは見
当たらず、「買い物なんか、どないしとん?」と尋ねたら、「大きなスーパー
とかはないねンけど、すぐそこに“ちっこいスーパー”があって、朝の7時か
ら晩の11時まで開いとって、便利やねん」と言うのだった。
「へーえ、そんな店があるんや」と、物珍しさに寄ってみると、数字の「7」
に英語の「ELEVEn」を重ねたロゴの店で、なるほど「ちっこいスーパー」だっ
た。
店名が「セブン・イレブン」だと聞かされて、「営業時間の、そのまんまや
んけ」とか思ったのだった。
とは言え、わしが当時住んでた世田谷は代田界隈には、そんな店はなかった
ので、「ええなあ」と、少し羨ましくもあった。
羨ましかったけど、代田の下宿の近所には、夜の12時ころまで開けてる酒屋
があって、夜遅い時間の「ちょっとした買い物」は、概ねそこで間に合ったの
で、コンビニ…という呼び名は、当時まだなかったが、それがなくとも、別段
の不便は感じなかった。
1980年代、わしが会社勤めをするころには、既に「コンビニエンスストア」
略して「コンビニ」という呼び名は定着していて、「7時〜11時」どころか、
「24時間営業」が当たり前ともなっていた。
このころ住んでいた経堂でも、住まいからすぐの大通り沿いには「ファミリ
ーマート」が、駅近くには「ローソン」が開店しており、テレビでも盛んに各
社のCMが流れていた。
そのころだっけな、雑誌「ぴあ」の欄外ハシラの読者投稿欄に、深夜のセブ
ン・イレブンへ行くと、疲れた顔の店員が「♪セブン、イレブン、ヤな気分…」
と、CMソングの替え歌を口ずさんでは、とてもだるそうに店内の掃除をして
いた、という投書があって、笑った。
そうなのだ、ファミマもセブイレもローソンも、テレビではやたらと「さわ
やか」「明朗」を強調したCMを流していたのだが、当時、その実態は、大き
く違っていた。
これより少し後の90年頃には、高嶋政伸が店長を務める「ローソン」のCM
シリーズが
、やたらに明るくて爽やかなお店と店員を強調してたのだが、多くの視聴者は、
「どこに、ンな爽やかなコンビニ店員がおるんや…?」と、やや冷ややかな目
で見ていた…と思う…わしが、そうだったから。
深夜のコンビニへ行くと、バイトの店員が、だるそうにレジの中に座り込ん
では、漫画雑誌を読んでいたり、あるいは不機嫌そうな仏頂面ぶら下げてレジ
を打っては、無言で商品を「ヌッ」と差し出したり…というのが「当たり前」
だった。
オーナー側もまた、フランチャイズでコンビニ経営のノウハウを手に入れた
後は、フランチャイズから独立して個人商店に衣替え、なんてことが頻繁にあ
ったようで、経堂駅近くのローソンも、いつの間にか看板が個人商店のものに
つけ変わっていた。
このフランチャイズを脱退して独立、というのは、80年代には全国で相次い
だようで、フランチャイズ側でも、仕入れを一元管理したりと、もろもろの対
策を打ち出し、簡単に離脱独立ができないシステムが構築されていったようだ。
そのころからかな? 接客のマニュアル化が進んで、少なくとも見た目は、
CMのイメージに近くなってきたのは。
扱う商品もまた、飲食品や物品に留まらず、郵便切手や公共料金の支払い、
さらには銀行ATMまで店内に設置され、まさしく、「ワンストップ」でなん
でも出来る、日本独自、ともいえるサービス機能を満載した店舗に発展してい
く。
ドラマや映画、あるいは漫画でも、コンビニが登場するシーンはごく「当た
り前」となり、コンビニ店員や店長を主人公に据え、コンビニを主な舞台とす
る作品も登場する。
1990年代に「漫画アクション」に連載された、コンビニチェーンのエリアマ
ネージャーが主人公の漫画…タイトルが思い出せないのだが、これが、「コン
ビニ(お仕事)漫画」の最初じゃなかったっけな。
当時勤めていた会社の出版部では、コンビニ向けの廉価版漫画単行本を企画
し…と言っても、それは決して先駆ではなく、他社が先にやってた企画の後追
いだったのだけど、これが結構売れて、企画立案者の営業部長が社長表彰を受
けたりもしていた。
当時のコンビニでは、雑誌と漫画単行本を含む書籍が、堂々たる主力商品で
もあった。
その売り場はたいていの場合、店内の「一等地」とも言える、外側に向いた
壁一面を占領する形で大々的に展開され、店内で一番目立つ売り場でもあった。
外側に向いた、ガラス窓に沿っての配置は、深夜帯、そこに立ち読みの客が
おれば、新規の客の「誘い水」になると同時に、強盗対策でもあったらしい。
このように、雑誌と本は、かつてはコンビニの最主力商品でもあり、地方で
は「書店」として認識される一面もあったコンビニなのだった。
1990年代当時、出版業界が行った調査で、「あなたの住まいの近くに書店は
ありますか?」という質問に「はい」と答えた後に、「その書店名を書いてく
ださい」という質問に対して、「セブンイレブン」とか「ローソン」と回答し
た例が、かなりの数で散見されたらしい。
90年代に、わしは県の書店組合の理事を務めていたのだが、月例の理事会で、
淡路島の書店さんが「なんか、このごろ、近所にコンビニ、たらゆーンができ
よりまして、これがなんと、本を売りよるンですわ」と、憤懣やるかたないと
いった調子で訴えて、「なにを今更…」と、やや冷ややかな失笑を買ったりも、
した。
これが、2000年代以降には、コンビニの中で「本・雑誌」の地位は著しく低
下し、売り場もまた徐々に縮小され、店舗によっては、これが「ない」ところ
も出現してきた。
コンビニ自体は、今やガスや水道、電気などとともにもはや「ライフライン」
の一角
と位置付けられており、阪神大震災や東日本大震災、その他の大災害の度に、
その存在感を増してきた。
「紙」本の衰退は、コンビニに限らないのだが、街でコンビニに入るたび、
ほんの「申し訳」程度に設置された雑誌売り場を見るにつけ、なんだか寂しく
もなってしまったり…な今日この頃なのだ。
ところで、わしは、「腹の緩い」体質でもあり、街のあちこちにあるコンビ
ニは、「駆け込み便所」として大変重宝するのだが、コンビニが、まだこんな
にあちこちない時代には、「どうしてたっけ?」と、ふと考えた。
そうだ、そうなのです。
コンビニが、まだこんなにあちこちにない時代には、腹が緩いなどという状
況もなく、そんなに頻繁に便所に駆けこむ必要が「なかった」のでした。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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138 詩はいいよ
12周めの3月11日。傷つかなかった人はいないこの日の前後はどうしても緊
張してしまいます。
気持ちがそんな時は詩を読むのがいいです。
海外翻訳小説などを主に紹介している小冊子「BOOKMARK」の最新号にて最終
20号での特集は「詩の本」。
巻頭エッセイを書かれているのは斉藤倫さん。
そのエッセイに惹かれて 『ポエトリードッグ』(講談社)を読みました。
この本、詩のアンソロジー物語ともいえます。
ふらりと入ったバーのマスターがいぬ。
お通し(?)は「詩」。
われもし、わが答えの、ふたたび世に帰りゆく人に聞かるるものと思わば、
この焔は静まりて、また、ゆらぐことなからん。されど、わが聞くところ
真なれば、この深みより生きてかえりしものなきゆえに、われは名を汚す
おそれなしに答うるなり。
これはダンテ「神曲」地獄編。
この出だしからはじまるエリオットの詩を読みたくなります。
詩とあわせてでてくるのが、バーですからお酒。
私はお酒が好きなので、その描写もたまりません。
なかでも、シェリーがことのほか好きなので、十四夜に出てきたときは、よ
し!とうれしくなりました。北村太郎の「騒騒」とあわされています。
一冊読み通したら、ずいぶん気持ちが軽くなり、本棚から詩集を数冊ひっぱ
り出しました。ロルカやリッツォスの詩集を開くのは久しぶり。
小説を再読することはそれほどないけれど、詩集だと何度も何度も読み返し
ます。読めば読むほど、体の血肉となる感覚が残ります。そのせいか、読んだ
あとは、どこか清々しい気持ちになるのです。
詩集は本棚から出して、最初にぱっと開いたものを読みます。なぜかそれが
一番すっと心に入る読み方だからです。
今回ひっぱりだしたうちの一冊『井伏鱒二全詩集』(岩波文庫)では訳詩の
ページを開きました。孟浩然の「春暁」です。
春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少
ハルノネザメノウツツデ聞ケバ
トリノナクネデ目ガサメマシタ
ヨルノアラシニ雨マジリ
散ツタ木ノ花イカホドバカリ
これを読んだら、ひらがなで訳された横山悠太さんの『唐詩和訓』(大修館
書店)を開きたくなります。
杜甫「春夜喜雨」
好雨知時節
当春乃発生
随風潜入夜
潤物細無声
野径雲倶黒
江船火独明
暁看紅湿処
花重錦官城
めぐみのあめは ふるときをしり
きちんとはるを はじめてくれた
かぜのまにまに よるにまぎれて
なべてうるおす おともたてずに
続きはぜひ本を開いてみてください。
もう一冊ご紹介するのは絵本です。
『ちらかしさんとおかたしさん』
ふしみ みさを 作 ポール・コックス 絵 教育画劇
ふしみさんといえば、フランス語、英語の絵本を200冊以上訳されてきた翻
訳家。ポール・コックスさんとのコンビでは6冊目となる本作は、初めての
オリジナル作品となります。
ちらかしさんとおかたしさんは、一緒に2人で仲よくくらしています。
キュウリやナスやトマトをつくる畑に囲まれた家で暮らし、一緒に収穫も
します。
名前のとおり、ちらかしさんは、ちらかしてばかりで、おかたしさんは、
かたづけてばかり。ちらかしさんのちらかしぶりは、徹底しています。家に
入って服をぬいだらぬぎっぱなし、何かをとりだすためにあけた引き出しを
元にもどすこともありません。
大人になった娘と一緒に読んだら、「ひゃー、すごい。たえられない」と
言っていました。
おかたしさんは、そんなちらかしぶりを、ひょいひょいとかたづけます。
気持ちよくきれいにするのです。
読んでいた娘は「おかたしさん、すてきー。いいひと。こんなひととくら
したいなあ」と言いはじめます。
風とおしよく生活を楽しんでいる2人をみていると、大きく深呼吸したよ
うな心地よさがあります。
それは文章に呼応するような、美しくあたたかな色合いとタッチで描かれ
た絵の魅力もあります。私はポールさんの黄色と緑色がことのほか好きです。
目が喜ぶ美しい色だからです。
みなさんもぜひ読んでみてください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■あとがき
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たまたま偶然ですが、イトーヨーカ堂創業者、伊藤雅俊さんがお亡くなりに
なった、というニュースが流れてきました。98歳だそうです。ご冥福をお祈り
します。(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→#153『細野晴臣インタビュー』
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『恋文の技術』(森見登美彦著・ポプラ文庫)
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 今回はお休みです
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#153『細野晴臣インタビュー』
前回の近田春夫に続いて、自伝第2弾。
インタビューとある通り、聞き書きだけど、それは近田春夫もそうだったし。
とはいえ、聞き手が音楽評論家の北中正和だからか、ほぼ音楽的人生、特に
レコーディング作品に絞った内容です。
また、本書が最初に出版されたのは1992年なので、カバー範囲は半生にも満
たないのですが。
二冊を続けて取り上げてみて、いくつかお二人の共通点に気づきました。
ひとつは、ほぼ同世代で、どちらも東京人であること。
割と庶民的というか、中流の家に生まれたこと。
近田春夫は慶応幼稚舎に入り、その後エスカレーター式に高等部まで行って、
ミュージシャンになってからは慶応系の人脈とも音楽をやっているけど、友だ
ちは豪邸に住んでいたりするものの自分の家は格別上流ではなく、お父さんは
ラジオ局のディレクター、つまりサラリーマンだったらしい。
細野晴臣もやはり、いまやシロガネーゼ闊歩する高級住宅街、白金台で生ま
れ育っているけれど、当時あの町は山の手における下町だったと言ってます。
また、はっぴいえんど時代の名盤『風街ろまん』収録の「暗闇坂むささび変
化」に、
♪ ところは東京麻布十番 折しも昼下がり
暗闇坂は蝉時雨
黒マントにギラギラ光る目で
真昼間から妖怪変化
ももんが ももんが おーお。ももんがー
(中略)
思い出してみればお婆ちゃんの昔噺で
お目にかかって以来(以下略)
とあって、作詞は本人ではなく松本隆だけど、実際にもお祖母ちゃんっ子であ
った。つまり、東京の江戸的側面を受け継いでいるわけで、それはやはり庶民
文化、落語であったり、歌舞伎であったり、浅草のお寺詣りの習慣であったり
する、その辺の思い出が語られる第1章「飛べない空」は、当時の空気感まで
が蘇るようです。
ふたつめは、どちらも音楽のスタイルをさまざまに、それこそ「むささび変
化」してきたということ。
近田春夫がロックロールを皮切りにラップやトランスにまで変転していった
ように、細野晴臣も洋楽ロックのコピーからスタートし、日本語ロックの金字
塔はっぴいえんど、ソロになってトロピカル路線、またセッション・ミュージ
シャンとしてユーミンはじめスリー・ディグリーズまで、多くのアーティスト
のバックを務め、YMOでテクノへ。その後はヒップホップやミニマル・ミュ
ージック、アンビエントなどの現代音楽、アラブや東南アジアのワールド・ミ
ュージック、さらには日本の伝統音楽をも取り込んで、1990年国立劇場で、民
謡とオーケストラを組み合わせる試みに至っているのです。
恐らく、最初のバンド、エイプリルフールを組んだ時の彼に、あなたは将来
日本の民謡をやる、と言ったら、信じないでしょうね。
こういうフットワークの軽さというか、あまり求道的でない感じというのは、
都会人に独特な気もします。自分自身も、世代は違うし、東京とはいっても新
宿以西の育ちですが、やはり家は中流。
そして、音楽の好みも雑食で、ロック、フォーク、ジャズ、ブルースからラ
テン、クラシック、現代音楽、いまは日本のインディーズ・シーンのライブに
通い、音源はアラブを掘ろうかと思っている今日この頃なのですね。
だから、なんか親近感。
いまでこそネットによって地域差はかなりの程度解消されたと思いますが、
かつては都会が情報の集積地で、そこで多様性にさらされて育つと、ひとつの
ことを極めるより、時代や自分の関心の移ろいにしたがって、あれこれ手を出
すタイプになっていくんじゃないでしょうか。
そして最後、お二人の共通点みっつめは、「いいかげん」。
前回触れた通り、近田春夫は自伝の中で「いい加減なもんよ」と繰り返しま
すが、そこまで細野晴臣はこの言葉を使いません。
と言うか、一ヵ所だけ。
「――あの歌(引用者註:小坂忠に提供した「どろんこまつり」)には「花咲
か爺」という言葉や、童謡「たき火」の引用が出てきますね。
細野 あれはよく憶えていないんです。何がいいたかったんだろう(笑)。ど
こから「どろんこ」が出てきたんだろうね。いいかげんだなあ(笑)。
しかし、たった一ヵ所とはいえ、細野晴臣自身が付している「序」を合わせ
て読むと、少々考えさせられるところがあるんです。
短いし、とても素晴らしい文章なので、以下に全文を引用します。
「この十数年、ただただ好きに音楽をやってきた身だが、やたらインタビュー
の多かった人生ではある。何故だろう? ひとつ思い当たるとすれば、それは
私が戦後の第一世代だという事だ。否応なく時の波に押し流されて来てしまっ
たのは事実であり、云ってみれば流木や漂流物を調べて、海流を知ろうという
様な場合の、その漂流物と同じである。
黙して語らぬ流木なら良かったが、私は人に尋ねられればすぐ答えてしまう
凡夫なのであった。それも刑事に詰問される罪人の心持ちで、嘘や誤答は許さ
れない弱者の立場である。だがこうして答え続けて行った時、いつか私は、自
分の語っている事は本当なのだろうか? という不安におちいる。それは、時
の海を支配するセイレーンが創り給うた、泡の様なフィクションなのかも知れ
ない。
こんな事を思う人間をつかまえて、新たに詰問をしなければならなかった北
中正和氏に深く同情する次第である。」
ここには「証言」というものの不安定さが巧みに表現されています。それは
とりもなおさず、人の記憶の不安定さであり、したがって歴史の不確かさであ
り、突き詰めれば真実って何、ということの、実は自明であるようで考えるほ
どにわからなくなる、もやもやとしたあやふやをしみじみ思わせて、じゃあ、
この本、意味ないのかと言えば、そんなことはまったくなく、フィクションで
あったところで、面白ければそれでよい、
それを細野晴臣も近田春夫も充分に認識していて、だからこそ奇しくも「い
いかげん」という同じ言葉を口走っているのではないでしょうか。
加えて最後に、聞き手への同情を語って、序文としての体裁を見事に整えて
いるのも、なかなかの技ですね。
90年代以降も細野晴臣の活動は続いて、インタビューもいっぱい受けている
ようです。特に50周年のメモリアル・イヤーにはたくさんの取材を受けている
けれど、書籍としてまとまったのは、評伝『細野晴臣と彼らの時代』。
これもいずれ、当欄で取り上げるかも知れませんが、そんな気分もまた、も
もんがへとむささび変化して飛び去ってしまうかも知れません。
細野晴臣・北中正和編
『細野晴臣インタビュー THE ENDLESS TALKING』
2005年9月9日 初版第1刷
2005年10月31日 初版第2刷
平凡社ライブラリー
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
いろんな手続き関係のことで、バタバタしている昨今です。長年しがみついて
きたガラケーを遂にスマホに替えたのですが、その手続きもひと苦労。あちこ
ちに電話やチャットで訊きまくり、三日がかりでやっと完了しました。そう言
えば確定申告もやらなきゃですね。
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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手紙には本音と見栄と嘘が入り混じる
『恋文の技術』(森見登美彦著・ポプラ文庫)
日帰り出張で富山を訪れたおばちゃま。車窓から綺麗な雪の立山連峰を眺め
ながら、皆な太平洋側ばかり重視しているけども、首都への一極集中問題、南
海トラフ地震の可能性を考えると、日本海側にもっと目を向けなくてはいけな
いんじゃないかと思いました。
その北陸新幹線の座席の背のポケットに入ってた情報誌で紹介されていたご
当地小説、それが『恋文の技術』です。翌日、近隣の書店で購入し、一気に読
破した次第。
舞台は能登半島の七尾。人里離れた小さな町に某大学の実験所があり、京都
からここに配属された修士課程の院生が主人公です。著者が森見登美彦なので、
京都大学を想定しているのでしょうね。京都大学は本部の吉田、桂の工学部の
ほかにも宇治やら和歌山やらの地方に研究所とか実験所や実験林などがいっぱ
いあるので、能登にあってもおかしくないけれども、検索したら能登半島には
京大の施設は見当たらず、これは単に、寂しい場所としての作者の設定かと思
われます。
ここから、主人公は京都の後輩や先輩に手紙を書きまくるんですね。
手紙・・・令和の現在は死語に近い。今、手紙なんぞをうっかり書こうもの
なら、もらった人は「何を言ってきたんだ、このばあさんは!」と恐怖に打ち
震えるほどの通信手段になりました。(「もうお手紙が来たからびっくりしち
ゃって」とメールで返事が来たことがあります)。平安時代は遠くなりにけり。
それをあえて、手紙という形で小説を書くというのが面白いですね。
ある人に書いた内容と、別の人に書いている内容が同じ事柄を描いているの
に表現がやや違う、あと、人の悪口をさりげなく書くのに、当人には褒めたり
している・・・笑えます。
そして、怖い先輩、かわいがってる後輩にはいくらでも手紙を書くことがで
きるのに、本当に想いを届けたい人への手紙はどうしても書くことができない
・・・・でもその人が今、どうしているか知りたくて、能登半島の根っこの街
から共通の知人に手紙を書いてそれとなく彼女の近況を探り続ける・・・。平
安時代から遠い平成時代(この小説が発表されたのは2009年=平成21年)にな
っても恋する気持ちは変わらないことがわかります。
さて、寂しい街から手紙を発信することでしか手段のない恋のアプローチは
うまくいくんでしょうか? それは読んでのお楽しみ。
主人公の恋愛と並行して、実験所の変人の所長と京都の研究室で後輩に睨み
を利かせているコワイ先輩女史の恋愛模様も描かれているんですが、おばちゃ
ま、こっちの2人により感情移入してしまいました。この2人の結末にも注目し
てください。
読後に気がついたのですが、おばちゃまの愛読書は書簡小説ばかりだわ。
『危険な関係』(ラクロ)でしょ、『十二人の手紙』(井上ひさし)でしょ?
なぜ書簡小説に惹かれるのか、それは手紙には書く人の本音、見栄、嘘が入
り混じっているからかなと分析。この『恋文の技術』は大好きな小説の1つに
なりました。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■あとがき
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配信がちょっと遅くなりました。ってか月越したw(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<156>『マイ・ブロークン・マリコ』、Z世代の諦念と憤怒
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第151回 不条理劇の最高峰
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→137 冬、寒波、興味
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<156>『マイ・ブロークン・マリコ』、Z世代の諦念と憤怒
授業で、とある映画を紹介するのに「2002年の公開やから、わりと、新しい
映画やね」と言うと、「センセ、ぼくら、まだ生まれてませ〜ん!」と言われ
てしまった。
こちとら、2000年代のものは、すべて「最近」という意識でいたので、
「え?」と一瞬、絶句してしまった。
この彼らを称して「Z世代」というんだそうだ。
定義としては様々あるらしいが、おおむね「1995年以降に生れた人」を指す
ようだ。
彼らの前の世代が「Y世代」と呼ばれていて、その次、なので、「Z」なん
だとか。
じゃ、なにか? この次の世代は「A」に戻るのか? と一瞬絡みたくなる
ような安易なネーミングだね。
振り返ってみると、「団塊世代」に次ぐ世代だったわしらは、その団塊世代
が主役だった「スチューデント・パワー」の熱気が冷めた頃に青春期を迎え、
「しらけ世代」と呼ばれた。
その後が「新人類」、「バブル世代」、ときて「団塊ジュニア」が「ロスト
・ジェネレーション」に被るのかな?
さらに遡ると、わしらの親世代は「昭和ひと桁世代」あるいは「焼け跡闇市
世代」と呼ばれて、野坂昭如、小沢昭一、永六輔の「中年御三家」は、この世
代の代表選手だった。
若い人は、知らないだろうな。そもそも「御三家」って言葉自体が、今や死
語…ってゆーか、もはや徳川時代の歴史用語としか思ってないだろうし。
お節介までに解説すると、1960年代、男性アイドル歌手のうち、当時人気絶
頂だった、橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦の三人が徳川御三家に倣って「スター
歌手御三家」と呼ばれたのが最初で、1970年代にはこれに替わって、野口五郎、
郷ひろみ、西城秀樹、という当時まだ十代の若手3人が「新御三家」と呼ばれ
たのだった。
「中年御三家」は、この若者世代代表の「新御三家」へのアンチテーゼとし
て結成されたユニット(…で、いいのかな?)なのだった。
当時、売れっ子作家の傍ら、歌手としても活動し、『黒の舟歌』や『バージ
ン・ブルース』というヒット曲もあった野坂昭如を中心に、俳優の小沢昭一、
作詞家でプロデューサー、タレントとしても活躍していた永六輔の3人で結成
された同年代「トリオ」は、ユニットでのテレビ出演やコンサートもこなし、
野坂以外の二人もそれぞれ単独でレコードもリリースして、イマドキの若者何
するものぞ、と焼け跡闇市派のソコヂカラを見せつけたのであった。
今思えば、あのころの「おじさん」は、わしらがおじさんになった頃よりも
よほど、元気でパワーに満ちてました。
しかし、「御三家」といい、その「新」に続く「たのきんトリオ」と言い、
その昔の「三人娘」やら「中三トリオ」、なんだか日本人、やたらに「3」が
好きなんですね。
と、のっけから話が横道に逸れてしまったが、今回語りたかったのは、ただ
いま現在の「Z世代」の青春を描いた、とも言える『マイ・ブロークン・マリ
コ』なのです。
と、えらそーに言ってはいるが、実は、人から「面白い映画があるよ」と薦
められ、「それじゃ」と映画をまず見ると、監督がタナダユキではないか、こ
れは、面白くないはずがなかろう、と思ったら案の定素晴らしい出来で、映画
を見てから、原作が漫画だと知り、慌てて原作漫画(平庫ワカ・作/KADOKAWA
・刊)も読んでみたのだった。
主人公「シイノトモヨ」は、とあるブラック企業の営業職務めるセールスウ
ーマン。ある日、外回りの最中に昼食をとっていたラーメン屋のテレビで、小
学生時代からの親友「イカガワマリコ」の自殺を知る。
マリコは、「めんどくさい女」だった。
小学生時代から実の父親の暴力に晒され、母親が出て行った家庭で奴隷のよ
うな扱いを受けていた。
高校生の頃に母親が帰ってくるが、父親は成長したマリコを強姦し、母親は
マリコに、お前が父親に色目を使ったからだと激怒し、再び出て行ってしまう。
マリコは、父親から暴力を振るわれたり、さらには強姦までされるのを、す
べて「自分のせい」と思い込んでいる。
そんなマリコにとって「シィちゃん」ことシイノは、唯一の避難所であり心
の拠り所で、「シィちゃん」宛に、時としては日に何度も寄越す手紙が、マリ
コのカタルシスなのだった。
そんなマリコを「メンドくせーっ!」と思いながらも、シイノは、マリコの
防波堤としての役割を担い続け、高校卒業後のマリコが、今度はクズ男にばか
り引っかかり、殴る蹴るの暴行受けるのをかばっては暴力に立ち向かい、身を
挺して守ってもきていた。
いつも自分に依存していたマリコだったのに、そのマリコが自分に何も告げ
ずに自殺してしまった事実に、しばし呆然とするのだが、やがて気を取り直し、
マリコの遺骨を、あの「クソ親」に任せてはおけない、と決意する。
そして、父親が新しい後妻と住むアパートに乗り込んでは、かなり強引な手
段で骨壺を「強奪」し、生前、マリコが行きたがっていた「海」へ向かって、
「クソ上司」からの電話もメールも全てバックレ無断欠勤なんのその、骨壺と
二人連れで旅をする、という物語。
図らずも、映画を見た直後に原作漫画を読んだのだけど、映画は、海へ向か
うバスの中で出会った女子高生や、旅を終えて帰ってきた後の「クソ上司」と
の遣り取り等、所々にオリジナルのエピソードを挟み込んではいるけど、その
ストーリーは、原作に沿ってほぼ忠実になぞられている。
監督のタナダユキは、これ以前にも『サクラン』(原作・安野モヨコ)、『赤
い文化住宅の初子』(原作・松田洋子)、『俺たちに明日はないッス』(原作
・さそうあきら)と、漫画が原作の作品を何本か手掛けている(『サクラン』
は脚本のみ)のだけど、そのいずれもが、今回の『マリコ』同様に、原作のス
トーリーをほぼ忠実になぞる形で作られている。
そして、この『マイ・ブロークン・マリコ』もそうなのだが、どの作品でも、
原作漫画のストーリーをそのままなぞりながら、各シーンでは、そこに描かれ
る人物の心象を、原作よりもさらに深くえぐり出し、見る者に突きつける。
結果、我々は、原作漫画よりもさらに強烈な感動や共感を覚えてしまうので
ある。
前の方で、この映画のことを「Z世代の青春を描いた」と書いたけど、この
感想も、原作漫画を読んだだけでは浮かばなかったと思う。
おそらくは生まれてからずっと虐待を受け続けてきたマリコだが、そのマリ
コの「防波堤」たるシイノにしたところで、生まれたときからの不景気は、一
向上向く気配もなく、マイナス要素ばかりが増え続ける社会の中で、「いい思
い」など一度も味わったことがないに違いない。
どころか、そもそもマイナスばかりの世の中で、かつての高度成長期やバブ
ル期の世代が味わった、「明日は今日よりきっと明るい」と脳天気に信じられ
た高揚感など知る由もなく、マイナス蔓延社会を「当たり前」として生きてい
る。
高度成長期やバブル期には、国民等しく「それなり」の繁栄と栄華を味わえ
たのだが、今や富は全国民の「1%」に集中し、99%はほぼ貧困層と言っても
過言でなく、明日をも知れぬ不安に慄く超二極化社会。
シイノも、もちろん「99%」だ。
生まれたときから、家庭でも学校でも、そして社会人となるとなおさらに
「我慢」と「諦め」を強いられる日常の、息苦しい閉塞感の中で、その腹の奥
深くに、知らず知らずに憤怒というマグマを溜め込み、そのマグマをふつふつ
とたぎらせてきて、マリコの死、という綻びをきっかけとして、シイノは、そ
の溜まりに溜まった憤怒のマグマを爆発させたのだ。
ただいま全国を騒がせている「ルフィ」一味とか、アポ電強盗や特殊詐欺の、
その手先となって「お仕事」感覚で犯行を重ねる若者たちもまた、腹の中のマ
グマを噴出させてしまった人々かも知れない…というのは、ちょっと穿ちすぎ
だろうか?
ひょっとしたら、今現在の「Z世代」と呼ばれる若者たちは、明治大正昭和
平成令和と続いてきた近代の中で、もっとも「生き難い」時代に直面してるん
じゃなかろうか。
「生きる希望」や「展望」という面で、若者にとって令和の現在は、戦時中
よりもさらに過酷だ、と思う。
閉塞し、縮小していく社会の中で、縮小に合わせて縮こまって生きるか、ど
こかでマグマを爆発させて噴火し、古い土壌の上や海の中に新しい地平を開い
ていくか、二者択一を迫られているのが、今の若者たちだとすれば、わしら古
い世代の役割は、彼らに「正しい噴火の仕方」を教えて、導いてあげることな
んじゃないか…と薄らのアタマでぼんやり考えている、二月の午後11時30分な
のだった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第151回 不条理劇の最高峰
『ゴドーを待ちながら』。
この不条理劇の最高峰と云われている作品について書くにあたっては、この
作品だけをテキストにして書評を書くのは難しすぎる。書けるわけがない。で
もとても気になる作品なので、いつかはいつかは、と思っていた。
そしてついにこの作品について書けるまたとない機会が巡ってきた。
皆さんは、映画『アプローズ、アプローズ!』を観たのだろうか。今回はこ
の映画にからめて、不条理劇の最高峰『ゴドーを待ちながら』について、書い
てみたい。
『ゴドーを待ちながら』(サミュエル・ベケット 作)
(安堂信也・高橋康也 訳)
(発行:白水社)(白水uブックス)(2013年6月25日初版)
そもそも“不条理劇”ってなんだろう? 不条理が理屈に合わない、という
ことなので、演劇での理屈に合わない、ということは、つまり設定がめちゃく
ちゃ、会話もかみ合わず、性格設定もいい加減・・・・・・、ということだろ
うと勝手に推測した。それは、この『ゴドーを待ちながら』を読めばわかる。
ストーリーがまるでない。物語の定石である“起承転結”とか“序破急”とか
そういうストーリー運びがなく、脈略のない会話が延々と続く。脚本を読んで
いる限りそれは苦痛以外なにものでもない。しかし、実際の芝居を観るとよい。
役者が舞台上で演技をしながらせりふを云う。そこには不条理な世界がふつう
に存在している。現実にそこに不条理がある。舞台上での不条理。理屈は関係
ない。前後の脈絡も関係ない。あるのは人間そのもの。・・・それだけで充分
じゃないか、という気分になる。
ウラジミールとエストラゴンというふたりの浮浪者。このふたりは全二幕の
舞台にほぼ出ずっぱり。そしてポッツオとラッキーという主従関係のある二人
組がそれぞれの幕で登場する。また、なかなか来ないゴドー氏の使いとして少
年が登場する。ゴドー氏はその日も来られないのである。
そもそもこの全二幕の舞台では、一幕目と二幕目の時間の経過がはっきりし
ない。一幕目の最後に「あすも来よう」というせりふはないが、観客は二幕目
は翌日のことだ、という前提で観ている。そもそも二幕目の冒頭にあるト書き
に「翌日。同じ時間。同じ場所。」と書いてある。しかしながら、舞台の中央
に置かれた一本の木は一幕目では葉が一枚しかついていないが、二幕目では葉
がたくさんついている。そしてウラジミールはそのことに気づく。もしかして
時間はずいぶん経っているのか、と観客は感じる。さらに一幕目で登場したポ
ッツオとラッキーであるが、あきらかに一幕目とは様子が違う。違いすぎてい
る。たった一晩でこうも違ってしまうのか、というほどの変わりようなのだ。
時間の経過や言葉の遣り取りにルールのかけらもない。まさに不条理劇なのだ。
観客は騙された想いをする。
この芝居は1953年にパリで初演された。初演時はたいへんな悪評であり、芝
居は早々に打ち切られたという。さもありなん。当時の観客は不条理劇がどん
なものか、わからなかった。演劇だって映画だってすべては矛盾なく進む物語、
と頭から思っていたのだから。現在、我々は『ゴドーを待ちながら』は不条理
劇であり、それを楽しむためにこの芝居を観る。そこに大きな違いがある。不
条理劇を受け入れている我々と不条理劇を知らなかった当時の人々。
さて、映画『アプローズ、アプロ―ス!』である。
『アプローズ、アプロ―ス!』 エマニエル・クールコル監督作品
ガッド・メラッド主演 2022年フランス映画。
本作は『ゴドーを待ちながら』が劇中劇として登場する。そしてこの映画に
おける劇中劇は、ほかでもなく『ゴドーを待ちながら』でなければならないの
だ。映画の中で『ゴドーを待ちながら』を演じているのは囚人たちである。元
囚人ではなく現役の囚人である。彼らにないものは、一言「自由」なのだ。そ
して演じているときには、彼らは自由になれる。舞台ではその役を演じ、魂ま
でも移入して自由にものを考え、自由に行動する人を演じる。芝居が終われば
また囚人に戻る。しかも彼らが演じているのは、ルールも約束事もない(決め
られたせりふはあるのだけれども)、不条理劇の極みである『ゴドーを待ちな
がら』なのだ。映画の観客は『アプローズ、アプローズ!』を観ながら『ゴド
ーを待ちながら』を考える。云い忘れたが、『アプローズ、アプローズ!』は
『ゴドーを待ちながら』を知らなければ、観てはいけない映画だと思う。映画
では、刑務所の外で演じ、それが成功を収め、さらに別の劇場からも次々に声
がかかり、すばらしい実績を積み重ねていく。そしてついにパリのオデオン座
で上演することになった・・・。というストーリーなのだが。
芝居をしているとき以外、自由になれない囚人たちはそしてどんな行動を取
るか?・・・映画のちらしに“予想外のラストがあなたを待っている”という
ものがあったが、それを書いてしまうか、と驚いた。自由な演劇である不条理
劇の『ゴドーを待ちながら』を自由に演じている自由でない囚人たちは何をす
るのか?どうなってしまうのか?
この映画をもう一度観たい。それに芝居ももう一度観たい。どちらももう一
度観ることができたら、もっと気の利いた書評が書ける気がする。
作者のサミュエル・ベケットは、1906年アイルランドに生まれ、パリで没し
た。当然、英語もフランス語も自由に操れた。『ゴドーを待ちながら』(1952
年)はフランス語で書かれている。英語版はベケット本人が翻訳している、と
いう。1969年ノーベル文学書を受賞。1989年に没した。
多呂さ(季節の変わり目ですね。皆さま、ご自愛ください。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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137 冬、寒波、興味
2月に入り、だんだん冬も終わりに近づいているのかなと思いつつ、先週も
「寒波」の予報があり、来週も「寒波」の予報がでている北国です。
道産子で、冬は氷点下20度の世界で通学していた子ども時代。それに比べる
と、いま住んでいるところも北国とはいえ、氷点下一桁台は、寒くても、脳内
ではそれほどの寒波ではないなと思ってしまうのが不思議です。
1年暮らしたカナダも寒いところで、氷点下40度も経験したことがあるなあ。
そんなことを思い出しながら読んだカナダの絵本を、紹介します。
『つきよのアイスホッケー』
ポール・ハーブリッジ 文 マット・ジェームス 絵 むらおか みえ 訳
福音館書店
寒い寒い満月の夜に、少年達がアイスホッケーに出かける日を描いています。
マット・ジェームスの絵本は日本で初めて紹介されるのでしょうか。
少しチャールズ・キーピングを思わせるような、人物や物を縁取る線の独特
なラインが美しく、なにより冬の空気感が伝わってきます。
凍てつく空気のなか、少年たちは、アイスホッケーをするために、満月がき
れいな夜にビーバー池に向かいます。
池に到着したあとは、暖をとるために火をおこし、その後、池の上につもっ
た雪をシャベルではらいのけます。雪がなくなった池はまっさらのスケートリ
ンク!
リンクの上でアイスホッケーをする、シャーシャーという音が聞こえてきそ
うなページに見入ってしまいます。
冬ならではの楽しみ、少年たちのわくわく感、満月という特別な夜のスペシ
ャルな時間を絵本を通して共有させてもらえます。
次は『きみも恐竜博士だ! 真鍋先生の恐竜教室』(岩波書店)です。
この本は、国立科学博物館の展示室で開催された6回の授業を書籍化したも
のです。新型コロナウィルスの影響で当初の対面授業から、3回目まではオン
ラインとなり、その後は対面とオンラインのハイブリッド形式で行われたよう
です。
わが家の子どもたちが小さい頃は、恐竜に夢中だったので、私もずいぶん名
前を覚えていましたし、家のあちこちに、プラスチックの恐竜たちがいました。
現在は、4歳の孫がいる身となり、彼が恐竜大好きで、プラスチックの恐竜
たちの名前をよびながら遊んでいる姿をみて以来(近くに住んでいないので、
めったに会えないのですが)、久しぶりの恐竜世界への興味がわいてきている
ところです。
本書は恐竜の特にからだのつくりについて詳しいので、4歳児にとっては、
まだ読むのは少し早いかもしれませんが、写真やイラストも多数入っているの
できっと喜んで見るような気がします。送らねば。
もちろん大人が読んでも、おもしろい。最初の授業では、今から7700万年〜
6600万年前の白亜紀後期の地層から発掘した化石についてからはじまります。
気の遠くなるような昔の年代ですが、○○年前という数字(絶対年代)は更
新し続けられているそうで、納得です。どんなものを発掘していくのか、写真
たっぷりに紹介されています。新種発見!のビッグニュースも添えられていて、
興味が尽きません。
2時間目は恐竜の頭のつくり、3時間目は前あし、と体のつくりをみていき
鳥の前あしの骨で標本をつくろうということで、ニワトリの手羽先・手羽中を
料理したあとの骨での骨格標本づくりも教えていただけます。ちなみに、骨に
なる前の「手羽先・手羽中」のレシピ(お酢煮)も載っているのがうれしい。
最後の授業は恐竜の絶滅と鳥への進化。大きな恐竜が絶滅にいたった理由が
紐解かれます。とはいえ、現時点での調査に基づいた内容なので、これから、
様々な地域での調査がすすめば、またわかってくることも増え、変化について
の内容が更新されていくでしょう。
最後にご紹介するのは、読み物。
『給食アンサンブル 2』(如月かずさ 光村教育図書)
給食をテーマにした連作短編集の続編なのですが、1を読まずに2から読ん
でも楽しめます。
児童文学に限らず大人の小説でも、食べ物が魅力的に描かれているものに惹
かれます。今回は義務教育のときに子どもたちのほとんどが食べる給食メニュ
ーを軸に、吹奏楽部の部活動に集う中学2年生、6人の物語です。
最初の話「アーモンドフィッシュ」はバスケ部に入っていた慎吾が、膝の不
調により部活を辞めざるを得なくなります。その後、吹奏楽部に誘われるので
すが、なかなか気持ちがかたまりません。
この決まらないもやもや感、心あたりがある人にとっては共感しきりでは。
そこに登場するのが給食についてきた「アーモンドフィッシュ」
うまい使い方にまねしたくなりました。
吹奏楽部部長の物語タイトルは「クリームシチュー」。いい演奏をしてコン
クールでいい成績を残したい、そのためには吹奏楽部を改革しなくてはと前の
めり気味の部長。でも周りはその熱さに引いてしまっています。どうして自分
の気持ちが伝わらないのか、苛立ちばかりがつのります。
さぁ、「クリームシチュー」はどこででてくるでしょう。
新型コロナウィルスのまん延で、給食の風景もかなり変わってしまっている
ようですが、少しずつ、食べることを楽しめる給食時間が戻ってきますように。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■あとがき
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前回の太郎吉野さんの記事で紹介されていた『ROCA』ですが、すっかり買い
忘れていたことに気づき、購入しました。
マネジャーの安藤さん、と言う方が事務作業されているんですね。お疲れ様
です。
届くのが楽しみです!(あ)
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#152『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』
そっか、ジェフ・ベックがねぇ。
78歳? 若いねぇ。ま、イギリスのことは知らないけど、日本だったら平均
寿命、行ってないんじゃない?
あ、ども。おかじまです。ウサギ年ですね、ぴょん。
「またひとつの時代が終わった」感しみじみの幕開けですが、そう言えば去年、
何気に近所の図書館の「音楽」コーナーを眺めていたら、三冊ほどミュージシ
ャンの自伝が目について、それがいずれもいわゆる日本のロックやポップスの
草創期を支えたレジェンドたち。出版されたのもここ一、二年だったので、な
るほど、60年代後半から70年代にかけての「あの時代」を、そろそろ総括して、
記録しておこう、みたいな流れなのかな、と。
で、そのひとつが、本書。『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』なのです
よ。出版は2021年。
大体ミュージシャンの自伝って言うと、ずっと昔取り上げたマイルス・デイ
ビスのもそうだったけど、聞き書き形式。本人はペンを取ったりワープロ叩い
たわけじゃなく、インタビューに答えて語っている。それを専門の人が構成す
るやり方ですが、本書もやっぱりそう。
近田春夫と言えば、週刊文春連載の名物コラム『考えるヒット』の著者でも
あり、ひょっとして自分で書いたのか、と思ったんだけど、違った。
でも、あのコラムにしても語りっぽい文体だったから、結果は同じかもね。
本書も、コラム同様、歯に衣を着せぬ業界裏話満載で、懐かしさあり、「へ
ー」ありな面白さなんだけど、その文体に関して、ちょこっと気になったのは、
「○○年に、俺は、△△をしている。」という言い回しが頻出する点。
普通は、「した」と言うところを、「している」。
なんか他人事な印象がある。
もちろん、一般的にも使われる言い回しではあるけれど、やけに多いなと思
いました。もしかすると、構成を担当した下井草秀の癖かもですが、それにし
ては他の部分の口調はいかにも「近田春夫調」なので、ここだけ裏方さんが自
己主張するのもおかしいよね。多分本人がそういうニュアンスでしゃべってい
るんだと思う。
そんなの些細なことっちゃ些細なんだけど、でも「した」と言われると、本
人が自分の記憶でしゃべっている感があるのに、「している」となると、資料
とか記録とかを見てる感じ。「あれ、俺すっかり忘れてるけど、こんなことや
ってるみたいね」という雰囲気です。
それがね、何とも、近田春夫っぽい。
ひと頃タレントとしての活動が目立っていたせいか、軽いイメージがあるし、
いい加減な感じがする。実際、本書でも、自分の仕事を「いい加減なもんよ
(笑)」と自己批評する箇所がいくつもある。だから、過去のことなんてどん
どん忘れていくタイプなんじゃないか。結果、「自伝」と言われても、各種心
覚えを見ながらじゃないととても思い出せん、という仕儀にあいなったと想像
するわけ。
しかし、過去を忘れていくのは、新しいことに次々トライし続けてきたから
でもあります。
音楽のスタイルの変遷を見ても、まず内田裕也のバックを務めるピアニスト
として、「ロックンロール」からスタート。その後、いわゆるハコバン時代に
は当然「ディスコ」。並行して「歌謡曲」にもはまり、カバー・アルバム『電
撃的東京』の制作や郷ひろみ論などの執筆。やがて「テクノポップ」の到来と
共にジューシィフルーツのプロデュースで大ブレイク。その後「ヒップホップ」
に転身して、さらに「ハウス」や「トランス」などのディープなクラブ・ミュ
ージックの世界へ。
これだけスタイルを目まぐるしく変えるミュージシャンも珍しいんじゃない
か。
でも、本人はさすが、極めて知的かつ理屈っぽい論客でもあって、これをひ
とつのコンセプトに整理している。いわく、
「非アカデミックなものが、アカデミックなものを吹っ飛ばす瞬間が好き」
少々難しい言い方だけど、自分なりに解釈してみますね。
実は意外と近田春夫、クラシックのピアノから入ってる。よくある、親が自
分の夢を子どもに託すやつで、幼少期から習わされていた。
クラシックは、基本、「この道ひと筋」の世界。指揮者は「マエストロ」、
超絶技巧の演奏家は「ビルトゥオーゾ」なんて呼ばれる。前者は「師匠」だし、
後者は「名人・達人」。つまり、「修練」の世界であることがよくわかります
ね。これを、「アカデミック」と称している。
一方、ロックンロールはそうじゃない。近田春夫はミック・ジャガーを例に
挙げて、一向に歌がうまくならないところが偉い、と言ってます(笑)が、なる
ほど、チャック・ベリーもリトル・リチャードも、修練の結果ああなったとい
うより、初めからもうああするしかなかったような人たち。
もちろん、レイ・チャールズの伝記映画『Ray』を見るとよくわかるように、
アメリカの黒人ミュージシャンの世界って結構マッチョで厳しいから、そうい
う中で人間として揉まれることはあっただろうけど、演奏能力を極めるみたい
な方向にはいかない。
これを近田春夫は「非アカデミック」と称するんだけど、ところが、そうい
う音楽の方が、一世を風靡する起爆力を持つのが音楽の面白いところで、一生
を賭けたアカデミックな修練が、その激風の前ではあっさり吹っ飛ばれてしま
う。
その瞬間が、好きだということですね。
ここでもうひとつ重要なのが、「瞬間」ということ。
つまり、「非アカデミック」な音楽でも、やがて「アカデミック」化してい
くんです。
ロックギターでさえ、いまは教則本どころか学校までちゃんとある。Mr.BIG
のギタリスト、ポール・ギルバートが校長だったりもする。当然、体系化され
たメソッドがあり、生徒は先生について「修練」していく。クラシックとまっ
たく変わらないわけです。
超絶技巧のプレイヤーも登場して、イングベイ・マルムスティーンなんかは
まさしくビルトゥオーゾと形容されている。
そうなっちゃうと、もう、ヤなんだね、この人は。
そこで、さまざまな「まだ非アカデミック」なスタイルに移り、そこが「ア
カデミック」になると、またお引越し。
そんなことを繰り返した結果が、近田春夫のキャリアなんだと捉えると、実
に首尾一貫して見えるのです。
もっともそれも後付けっぽいのが、また近田春夫らしいんだけど(笑)。
とはいえ、歌謡曲やディスコはまだしも、テクノになると、修練どころか演
奏のかなりの部分をシーケンサーが自動でやってくれるし、ヒップホップ以降
になると、サンプラーでレコードからパクったフレーズをループさせてリズム
トラックにしている。もはや人間は演奏しないわけで、近田春夫という音楽家
は、肉体的な意味でのスキル、いわゆる「腕」が必要ない方向へ、どんどん進
んできたんだなと解釈できます。
こんな風に、肉体を超越していったせいなのか。
本書を読んで初めて知ったんですが、末期ガンを患い、余命宣告を受けなが
らも手術と抗がん剤治療で生還し、いまなお盛んに活動しています。本書も元
々は、2018年に出たソロ・アルバム『超冗談だから』のプロモーション企画だ
ったくらい。
しかもこのアルバム、近田春夫名義では38年ぶりである上に、ボーカリスト
に徹した初めての作品だそうで、人の勧めがあっての企画とはいえ、新しい領
域へのチャレンジ精神が健在なのは、本当に素晴らしいと思います。
三百歳まで生きる、と豪語する近田春夫。
ここまで来ると、何やら仙人っぽく見えてくるけど、それもまた相応しい気
がしますね。
ぜひ、日本音楽界の寿老人になってほしい。
と、最後は正月らしく、締まったかな。
本年もよろしくお願いいたします。
近田春夫(構成・下井草秀)
『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』
2021年2月25日 初版第一刷発行
リトルモア
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
正月早々、旧友のお父さんが亡くなり告別式へ。その後はジェフ・ベックで、
こちらは知人ではありませんが(笑)。ところで、初詣は行きましたか?
お年玉代わりに去年知ったお参りの重要ポイントをお教えしましょう。心の中
でお願い事を言いますよね。「家内安全」とか「合格祈願」とか。その時、
「自分の住所氏名」を言ってますか?
これを言わないと神さまも、「お前、誰?」となってかなえてやろうにもかな
えられないんだそうです。確かに御祈祷をお願いした時、祝詞の中で住所と氏
名をあの独特のイントネーションで読み上げてたなぁ。今年、あなたの願いが
かないますように。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『侵略する豚』青沼陽一郎 小学館
いわゆる食料安保が話題になっている。で、この本は日本に豚をもたらした
アメリカの食料戦略から中国の動向までTPPをからめて精力的な取材をもとに
書かれた本である。
にもかかわらず、第一章のタイトルが「桜田門外の変」でいちきなり頭ぶん
殴られる。なぜ戦後の経済問題が書かれている本の最初に桜田門外の変が出て
くるのかというと、水戸藩と彦根藩の対立の遠因には、牛肉がかかわっていた
からだ。
水戸の徳川斉昭は牛肉が好きで仕方がなかった。当時牛を屠畜して牛肉を作
っていたのは彦根藩しかなく、彦根藩は幕府に牛肉のみそ漬けを毎年献上して
いて、斉昭はそのおこぼれに与っていた。のだが、直弼が藩主になると信心深
くて殺生に抵抗ある直弼は牛の屠畜を禁止してしまった。
牛肉の味を忘れられない斉昭は使いを出して牛肉が欲しいと直弼に頼むのだ
が、藩で決めたことだからと断ったので、斉昭は直弼を恨んだという・・・
彦根藩が牛の屠畜・食肉加工をやめて困ったのは斉昭だけでなかった。薩摩
藩も困った。彦根で出た牛の骨は薩摩に送られ甘藷(さつまいも)の肥料にな
っていたが、骨が出なくなって肥料がなくなってしまったのだ。で、井伊直弼
の首を取ったのは薩摩の有村次左衛門・・・おいおい、偶然か、故意か不明だ
が、確かに直弼の首を取ったのは有村だ。
その薩摩は豚も飼育して豚肉を生産していたが、その豚肉が大好きだったの
が斉昭の子徳川慶喜でやっぱり薩摩に豚肉をおねだり・・・幕末の裏面史は肉
でかなり説明できるらしい。
第二章のタイトルは「豚のロビイスト」
全米豚肉生産者協会(PPPC)のロビイスト、ニックのインタビューから始ま
る。TPPはもともとP4と呼ばれたシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、
チリの4カ国の経済連携協定が起源である。そこにアメリカが入ってきてTPP
に発展するのだが、TPPへの拡大交渉の場にPPPCがいて交渉を主導し、日本も
入れようとしたのだという。
その背景にあるのは、アメリカが30年で豚肉の輸入国から世界一の輸出国に
変わったことがある。アメリカの豚肉の品質が上がり、競争力を持てるように
なったからだが、なんとそんなアメリカの豚肉の品質を上げるのに貢献したの
は日本だというからビックリである。
アメリカ第三位の豚肉加工会社であるミズーリ州のシーボードフーズ社の工
場は、東京ドームの4.5倍の広さだが、この工場に入った著者は違和感を持っ
た。何かがおかしい・・・よくよく観察すると豚の枝肉前足がみんな均一に揃
っている。何千頭と並んでいる枝肉に個体差がないのだ。
なんてこんな均一の豚が揃っているのか。そこには日本の消費者の要望に応
えようと業界全体で努力した結果なのである。
88年、全米の豚肉業界はどん底にあった。国内生産より輸入が五倍以上あっ
た。そんな不況に苦しむカンザスの養豚組合に、日本から日本向けにロースが
長くて大きい豚を作ってくれないかという要請があり、これに応えようとして
組合も農家もがんばって日本向けの品種改良を行った。
「アメリカが欲しがっている豚は世界が欲しがっていない」
「どういう豚を欲しがっているのか、他の国のニーズを知ることが大切だった」
ことに気がついた生産者たちは市場が求める豚を作ろうとした。日本ハムなど
日本の業者と話し合いを持ち、日本とアメリカではカットのサイズが違うこと
を知り対応するなどして「日本スベック」の豚を作り始めてから急速に輸出国
への変貌を遂げたのである。
いやはや日本の農業生産者としては耳が痛い話である。そして出てくるのが、
かつて日本とアメリカの友好の象徴として送られた豚と習近平である。1959年、
伊勢湾台風によって壊滅的な打撃を受けた山梨県にアメリカ・アイオワから善
意で送られてきた豚が日本の養豚産業を救った。
そのアイオワの片田舎の子供部屋に、習近平は31歳の時ホームステイしてい
た。たった三日間の滞在だったが、マーク・トウェインが好きでミシシッピ川
を一度見てみたかったとステイ先の家族に話していたという。そんな若き日の
思い出をもつ習近平は、2012年国家主席としてアイオワに戻ると、旧交を暖め
ると同時に43億ドル(日本の大豆輸入額二年分)の大豆の買い付けをやっての
ける。
そんな感じで次々と事実を提示していき、食糧の未来を考えさせる力技の光
る本である。もっとも2017年発行の本なので、本の発行以後にアメリカがTPP
を離脱したみたいなところまでは触れられていないし、著者の見解は当時のも
ので今はまた変わっているかもしれないので、その点は留意されたい。
ちなみに中国取材の時、著者はスパイとして疑われて取り調べを受けている。
その時のやりとりも書かれているので、中国に行く人は読んでおいたほうがい
いだろう。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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『腎臓が寿命を決める 老化加速物質リンを最速で排出する』
(黒尾誠・著/幻冬舎新書)
何を食べたらいいかわからなくなったけれど、
腎臓ってとっても大事な臓器だということがわかった本
ちょっと山田さんの奥さん、聞いてもらえる? 私ね、この前、腎臓につい
て書かれた本を読んだのね。ほら、私、こんな体重じゃない? それに去年の
健康診断で腎臓機能が落ちているって結果が出たから、この本を見たときは、
「読むしかない!」って思って買って読んだのね。
山田さん、腎臓ってとっても大事な臓器だって知ってた? もちろん、食べ
た後の老廃物を尿として体外に排出するのが腎臓の役割だけど、それだけじゃ
ないの。腎臓ってなんと老化に深いかかわりがあるらしいの。
リンってあるのね。元素記号Pって高校の化学の時間に習ったじゃない。ほ
ら、「水平リーベ僕の船名前あるよシップスクラーク」の「シップス」のとこ
の「プ」よ。他の元素と比べると地味よね。地味って私がディスっているんじ
ゃないの。著者が言っているんだからしょうがないわね。
リンはカルシウムと結びついてリン酸カルシウムとして骨を形成する働きが
あるから動物にとってとても大事なミネラルなわけ。でも、摂りすぎると老化
に繋がるコワイ元素でもあるんですって。リンを摂りすぎていると次第に腎臓
の機能が低下して血管や細胞がダメージを受けて体が老化するスピードが速ま
ってしまうらしいの。慢性腎臓病、動脈硬化症、心臓病、脳血管障害になるし、
寿命を短くしちゃうんですって。いやね〜。病気もいやだけど、寿命が縮まる
のもね〜。
さらに、腎臓は老廃物をろ過する働きがあるけどこれはネフロンっていう尿
細管と糸球体からできているなんかロープが絡まっているような器官があるみ
たいだけど、これって加齢とともに減っていって元には戻らないんですって。
このあたり、すごく読者を脅かすように、いや違う、丁寧に書かれていてさす
が偉い研究者の先生と思ったけれど、ライターが上手なのもあるのかもしれな
いわね。ふふ。
肉と牛乳はリンを減らす?
とにかく、リンは増えすぎると細胞毒や病原体のように体に悪影響を及ぼす
ってことはわかった? じゃあどうするかというと、ここからが本当に聴いて
ほしいことなの山田さん!
リンをコントロールすれば病気を防げて長生きできるのだけれど、それには
40代、50代の中年時代から食事や生活習慣に気をつけなくちゃいけないという
ことなの。リンはいろんな食品に含まれているから知らないうちに体内に取り
込まれているのね。リンには体の吸収されやすいリンとされにくいリンがあっ
て・・・まあ、先を急ぐけどあまり食べ過ぎないほうがいい食品は、肉、牛乳、
プロセスチーズなどの乳製品、小魚ですって。
私、ここまで読んでもうびっくりよ。だって私、骨粗鬆症対策には吸収率が
いい牛乳がいいとお医者さんのチャンネルで見てからせっせと飲むようにして
いるし、やっぱり人間はたんぱく質が大事だから肉を食べないといけないって
テレビの健康番組で言ってたからお肉、よく食べてるのね。精神科医はやっぱ
り鉄分補給がうつに効くっていうから肉が大事って言うじゃない?チーズもた
んぱく質とカルシウムの栄養源じゃなかったの? もう食べたらいいのか、食
べちゃいけないのか、わからなくなったの。一体私は何を食べたらいいと思う
?山田さん。
よく読むと、大量に摂取しないのなら大丈夫、たんぱく質を摂るには大豆製
品にするとか書いてあるけど、毎日湯豆腐を食べるわけにはいかないじゃない
? まあ、値段が安すぎるもの、添加物が入っているもの、スナック菓子はや
めてとあるからそれはやっているし、これからもやっていくつもりですけどね。
あと生活習慣的には、コマメに歩くのが一番でリンの流出を止めるのだと書
いてあって、これは納得したから、さっきまでコタツにもぐって韓流ドラマみ
てたけどそこから脱出してウオーキングするところなの。でも寒いから今日は
止めたほうがいいかもね。インフルエンザとかコロナもまだ流行っているし。
よかったらうちでお茶しない? あ、そう。買い物に行くのね。足止めしちゃ
ってごめんなさいね。
でもこの本を読んで腎臓がとっても大事ってことはよくわかったから、よく
歩いて、カップラーメンはやめて手作りご飯を心がけて体重を減らすようにが
んばります。
「運動と食事に気をつけてリンを減らしていく姿勢が、骨が腎臓を守っていく
ことにつながるのです。(略)結局、運動と食事かよとツッコミを入れられそ
うですが、やはり生きていくうえで大切にしていくべき答えは、突き詰めてい
くとシンプルなところに行き着くものなのかもしれません。」
納得するわね。
じゃまたお茶しましょうね。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
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■あとがき
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配信がちょっと遅くなりました。(あ)
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<155>がんばれロカちゃん
いしいひさいち、という存在を知ったのは「いつ頃だっけ?」と思い出すが、
これが判然としない。
高校生のころには、確か、その「存在」だけは知っていた…と思う。
そのころ…って、1973年ころ(だっけか?)、「日刊アルバイト情報」という
求人誌に、「型破りにおもろい四コマ漫画が掲載されている」との噂が、関西
一円に流れていて、一度読みたいと思っていたのだが機会がなくて、初めてそ
の漫画に接したのは、東京で大学生になってからの「漫画アクション」で、そ
のころ、いしい漫画は、既に関西ローカルから全国区になっていた。
そらもう、衝撃的だった。
「アクション」以前には、やはり関西の「プレイガイドジャーナル」にも連
載を持っていたらしいのだが、関西在住のときにこれを読み逃していたことに
東京で気づいて、とても歯がゆく悔しい思いに駆られた。
いしいひさいちの、何が新しかったって、そらもう、旧態依然の四コマ界に、
それまでにはなかった「爆笑」を持ち込んだことだった。
それまで見慣れた…長谷川町子や東海林さだお、横山隆一やサトウサンペイ、
あるいははらたいらや福地泡介、などの四コマは、あくまで「うふふ」または
「くすっ」止まりで、四コマとは「そういうものだ」と思っていたところに、
しいひさいちの漫画は、腹を抱えて笑う大爆笑を持ち込んできたのだ。
それ以前にも「谷岡ヤスジ」という、従来の四コマの枠を超えたギャグ漫画
は、確かにあったのだが、「鼻血ブーッ!」のヤスジ漫画の破天荒とは違って、
いしい四コマは、言うなれば「理路整然」と大爆笑させてくれたのだ。
ヤスジ漫画は、いきなりに脈絡なくギャグが炸裂する「吉本的」漫画であっ
た。
それに対していしい漫画は、使ってる言語こそ関西弁で舞台も関西ではあっ
たが、どちらかと言うと東京の劇団がやっていたコントや、天井桟敷や状況劇
場のアングラ演劇に近いものがあった。
だからこそ、いきなりに全国区にもなれたのだと思う。
「タブチ」「ヤスダ」「ヒロオカ」「オカダ団長」といった、モデルがはっ
きりとわかる「実在」キャラクターを登場させたのも、いしい漫画が最初だっ
た。
この主にプロ野球界にモデルを採った「実在」キャラは大人気を博し、「漫
画アクション」の連載タイトルもまた「くるくるパーティー」から「がんばれ
!タブチくん」へと変更される。
これを契機に、以後、「野球四コマ」というジャンルが漫画界に成立し、後
には「専門誌」までもが創刊されてしまう事態となった。
「タブチ」「ヤスダ」「ヒロオカ」あるいは「ナベサダ」「オカダ団長」と
いった野球界「発祥」のキャラは、たとえば不愛想で皮肉屋の「ヒロオカ医師」
として、あるいは、あまり細かいことは気にしないサラリーマンの「タブチ営
業部員」として、あるいは「八百屋のオカダさん」として、「スターシステム」
に乗っかって、野球四コマ以外のいしい漫画の中で、様々な役割を演じること
にもなる。
全国区になった後にも、いしいひさいちは、自身の出身母体である大阪の
「チャンネル・ゼロ」の活動の中心にいて、単行本もそこから発売されたし、
ここを通じて、漫画専門書店「わんだ〜らんど」のロゴマークとブックカバー
のデザインを手掛けたり、同店のミニコミ誌に漫画を掲載したり、という活動
も同時にこなして、関西サブカル界の中心でもあり続けた。
そして1991年、サトウサンペイ『フジ三太郎』に替わって、朝日新聞に『と
なりのやまだ君』の連載が始まったときには、「うわ〜〜っ!」と実際に声を
上げて快哉を叫んでしまった。
その後、夕刊には、しりあがり寿『地球防衛家の人々』が始まり、「朝日新
聞、ちゃんと漫画をわかってるやんか、ウヒヒ…」と一人、誰もいない部屋で
ほくそ笑みながら、その大英断を褒めたたえもしたのであった。
『となりのやまだ君』は、その後、兄より人気を得てしまった妹に主人公を
交代し、タイトルも『ののちゃん』と変更される…この辺、かつての「アクシ
ョン」と同じですね。
さらに、ののちゃんの学校の先生として、「タブチ先生」「ヤスダ先生」も、
もちろん登場。
町内には気難しい開業医である「広岡先生」もいるし、八百屋のオカダさん
も、ののちゃんの兄・ノボルの野球部のキャプテンの父として「出演」してい
る。
あまつさえ、あの「ナベツネ」までもが、いつもブンブンと腕を振り回して
怒っている町内会長で、なぜかときどき「ワンマンマン」に変身するキャラク
ターとして「朝日新聞」紙上に登場してしまうのだ。
これにはさすがに、読売新聞から「特定の個人を誹謗中傷している」とのク
レームがあったそうだが、「確かに誰かに似ているかもしれないが、あくまで
似ているだけでモデルではない」と押し切ったらしい。
「主要キャラが関西弁を喋る」「人間以外の『妖怪』や『幽霊』的キャラが
登場し、ときとしてファンタジー展開がある」「飲んべでだらしない学校の先
生が登場する」「恋愛展開もある」「中学生や高校生が喫煙する」等々、従来
の新聞四コマでは、まずあり得なかったエピソードが次々と繰り広げられる
『ののちゃん』なのだが、それぞれのキャラクターが主人公となるストーリー
が、断片的に挿入される、というのも、大きな特徴で、それがために『ののち
ゃん』は、従来の新聞漫画の範疇を超えて、とてつもなく広く、深い世界観を
持つに至っている。
ポルトガル民謡である「ファド」の歌手を目指す高校生「吉川ロカ」のスト
ーリーも、そうやって断片的に語られてきた物語だ。
その「ロカ」の物語がピックアップされて纏められ、さらに描きおろしを加
えて一冊の本として出版された、とは、昨年末に「日本マンガ学会関西交流部
会」メーリングリストの、村上知彦さんの書き込みで知った。
しかもその本は、作者・いしいひさいちの「自主出版」だと言うではないか。
慌てて、取り寄せましたよ。↓この「販売特設サイト」から。
https://www.ishii-shoten.com/honnmaru/rocaw09.html
一読、抱腹絶倒、後、大感動致しました。
人見知りで臆病な主人公「吉川ロカ」の背中を押し、マネージャー役を買っ
て出ては、ときに無理やり表に引っ張り出しながら、援助を惜しまない親友の
「柴島(くにじま)美乃」、物語は、ロカのサクセスストーリーであり、この
二人の友情物語でもあって、もちろん、ギャグも取り混ぜながら物語は進行し
ていくのだけど、ラストでは、思わず泣いてしまいましたですよ。
ちなみに「柴島美乃」は、本編ではロカよりも先に登場していたキャラで、
ののちゃんの兄・ノボルと同じ中学野球部に所属するヤンチャな「柴島先輩」
の姉であり、この姉もまた「高校1年を3回」もダブり続けているヤンキー娘
である。
プロ歌手になっても、一人称「わし」が抜けない吉川ロカをはじめ、このヤ
ンキー娘の美乃や、ののちゃんの担任である飲んべでズボラで、しょっちゅう
二日酔で授業を「自習」にしてる藤原先生とか、いしい漫画には、破天荒なん
だけどとても個性的かつ魅力的な女性キャラが多く登場するのも特徴で、わし
は、今回の「ロカ」で、すっかり柴島美乃のファンになりました。
西宮に越してから、新聞を取るのをやめてしまっていたのだけど、また再び
『ののちゃん』を読むためだけに朝日新聞を「取ろうかな」と、思案の今日こ
の頃なのです。
ところで、ネットで「いしいひさいち」を検索してみると、主に『ののちゃ
ん』に関して、「オチがない」だの「わからない」だの「つまらない」とか
「『コボちゃん』の方がよほど面白い」といった批判というか非難が、結構目
についた。
はっきり、言います。
いしいひさいちの漫画が「わからない」とか「つまらない」と感じるのは、
その人がバカだからです。
「オチがない」? ばかもの。いしい漫画につまらぬオチなど必要ないのだ。
いしいひさいちの面白さがわからんバカは、せーだい(バカにも理解できる)
『コボちゃん』でも読んで、単純に笑っていなさい。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第150回 歴史と戦争と空想が合わさった
2023年(令和5年)が始まった。今年はどんな年になるのだろう。昨年から
ずっと、というよりここ何十年もいいことがあまりなく、暗いことばかりが目
白押しに続いている。そろそろなんとかしないと、滅亡してしまうかもしれな
い。日本も世界も人類も。
暗い気持ちで決して明るくはない小説を一気に読んだ。本文だけで625頁。
参考文献の一覧には20世紀の日本を含めた東アジア史、地政学、建築、土木な
どなど151冊の図書が並ぶ。この大冊の著者は研究者をめざしていたというの
が頷ける。
『地図と拳』(小川哲 著)(発行:集英社)(2022年6月30日初版)
ものがたりは、日清戦争(1894年(明治27年))と日露戦争(1904年(明治
37年))の中間、1899年(明治32年)から始まる。日清戦争後、中国東北部
(満州)ではロシアが日増しに勢力を伸ばし、ロシアによって半植民地化され
ていく。そんな状態からこのものがたりは紡がれる。
1945年(昭和20年)の日本敗戦まで膨大な資料を駆使して、約50年間の満州
の歴史を語りつくしている。舞台となる都市は奉天でもハルピンでもない空想
の町をこの作家はこしらえた。“李家鎮”と云う街。日露戦争ではやっとの思
いで日本が勝ち、日本は満州の権益を手中に収めることができた。日本により
“李家鎮”という街は“仙桃城”という名称に替わる。
さまざまな人たちがこの街に登場し、去っていく。時代は義和団事件、日露
戦争、辛亥革命、満州事変、満州国の建国、リットン調査団による勧告、国際
連盟の脱退、日支事変、第二次世界大戦の勃発、南シナへの侵攻、太平洋戦争、
そして敗戦。満州を経営する日本人たち。それに抗いたくてもできない弱い中
国人たち。しかし抵抗を試みる中国人たち。ものがたりの中では、“中国人”
という文言は使用されていない。あくまでも当時の名称である“支那人”とい
う言葉を使用している。それが歴史小説の証である。しかしこの書物では大き
な歴史の流れには従っているが、舞台になる街は架空の“仙桃城”という街な
のである。
ものがたりは徹頭徹尾、舞台を満州に限定している。この書物の中には2.26
事件も5.15事件も太平洋戦争における南方の攻防も東京大空襲も広島長崎への
原爆投下も記載がない。
細川という謎の人物。この人物はものがたりの最初から最後まで登場する唯
一の人物であるが、最後まで詳しいことがわからない。そもそも苗字だけで名
前が出てこない。家族は居そうもないが、居ないと断言はできない。出てきた
ときはロシア語と支那語の通訳として登場。それを生かして満州鉄道の幹部に
なっていく。彼がものがたりを動かしている。彼に関わった人物たちが主役と
して躍り出てくる。孫悟空と名乗りロシアと日本を手玉に取りながら暗躍する
謎の支那人。満州で地図を作る仕事をしている須野という男。彼の次男である
須野明男は建築家として満州経営に携わる。
一方で、クラスニコフというロシア正教の神父がたびたび登場するのだが、
この人物の存在がおもしろい。彼も神父になる前は地図を作っていた。地図を
作る、ということがこのものがたりの大きなキーワードになっている。地図を
作るのは誰?・・・云うまでもなく支配者が地図を作る。地図を作ることによ
って情報を独占できる。
クラスニコフ神父と関わりのある女性が一人出てくる。日本人を目の敵にし、
日本の施設にテロ行為を繰り返している孫丞琳という女性は八路軍(共産党軍)
に入り、日本への抵抗を続ける。そして彼女と須野明男は一度関わる。互いの
素性は知らないまま。
このものがたりの題名である『地図と拳』については、ものがたりの中で、
細川が同じ題名で講演をしていることがとても興味深い。この作家がこのもの
がたりで何を云いたかったのかがわかる気がする。1934年(昭和9年)・・・
(満州建国3年目)の夏に細川は仙桃城において、戦争構造学研究所設立記念
祝賀会の中でのスピーチ。細川は云う。“僕が国家とはすなわち地図であると
考えているのです。”さらに“この世から『拳』はなくなりません。”と拳=
暴力=戦争についても語る。まさにこのものがたりの題名である『地図と拳』
について、作者はものがたりの中盤で準主役というべき細川に語らせている。
まったく興味深い。ぜひ一読を勧めたい。
このものがたりでは、戦争の悲惨さも十分に語られている。大陸の広大な土
地を来る日も来る日も重い背嚢を背負って行軍する兵士たちは、厭戦非戦の気
持ちがあっても草臥れかえっていても、敵と遭遇したら生存のために本能とし
て戦う。そしてあっという間に死んでいく。その様が乾いた文章で縷々語られ
ている。
まさに歴史と戦争と空想が一緒になった大河ドラマなのである。大冊なので、
正月のような休みが続くときしか読めない。また大冊なので、持ち歩くことが
苦痛なのである。そういうことを我慢すれば、このものがたりは読書の醍醐味
(知的好奇心の刺激、想像力の飛翔、ことばの堪能など)を十二分に味わうこ
とができるのだ。
多呂さ(世の中が楽しいと感じられません。だから読書に逃避します。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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135 読書の楽しみ
12月に入ると、あぁ今年の一年も早かったなと思います。
もう少しで新しい年がやってくるのですね。
さて、今年最後にご紹介する本、最初はこちら。
『箱船に8時集合!』
ウルリヒ・フーブ 作 イョルク・ミューレ 絵 木本栄 訳 岩波書店
題名の8時集合に、大人の一定年齢の方はテレビ番組を思い出すでしょうか。
コミカルな題名の本書は、旧約聖書の創世記に出てくる「ノアの箱船」を下
敷きにしています。
箱船の世話役は白いハト。3羽のペンギンたちは大洪水がおきるので、箱船
に乗るようハトから案内されます。でも乗れるのは2羽のみ。知恵をしぼって
箱船に乗り込んでみると……。
神さまの使いとしてあらわれたハトは、箱船関連の動物たちとの調整で大変
にいそがしいなか、ペンギンたちにも強く乗船を促すのですが、どこかそのや
りとりが軽妙洒脱で笑いを誘います。
神さまってどんな存在だっけと考えながら、魚くさい匂いを発しているペン
ギンといそがしくて余裕のないハトとのやりとりは、ユーモアが心地よく、読
み返したくなる魅力があります。
箱船のモチーフは絵本でもよく描かれています。わが家で一番よく読んでい
た絵本はピーター・スピアーの『ノアのはこ船』(松川真弓訳 評論社)です。
オランダの詩人ヤコブス・レビウスの詩以外、ほとんど文字はありません。
スピアーさんが描く、大きな箱船の中にいる、様々な動物たちは、わさわさと
生命力に満ちていて、文字がなくてもにぎやかで、最後のシーンはいつまでも
眺めていたくなります。
次に紹介する絵本は、昨年6月にシスターフッドの出版社として立ち上げた
アジュマブックスからの2冊です。
『にゃっ!』
クレール・ガラロン 絵と文 一十三十一 訳 北原みのり 解説
この絵本のテーマは「同意」です。
猫をかわいがりたい、抱っこしたい、抱きしめたい、なでたい、そんな時は
まずどうしたらいいのかと問いかけるのが大事だと伝えています。
リズミカルなオノマトペの言葉とポップな絵がぴったりあっていて、くりか
えし読みたくなります。
『パパはどこ?』
クレール・ガラロン 絵と文 依布サラサ 訳 北原みのり 解説
同じ作家によるこちらの絵本では「ジェンダー平等」がテーマです。
子ウサギがパパを探すために、親戚うさぎたちにたずねます。
おばあちゃんウサギは一輪車にのっています。
おじいちゃんウサギは洗濯をしています。おじさんは花を摘んでいて、おば
さんはサッカーをしています。
なるほど、ステレオタイプ的な見方にならないよう、ジェンダーが描かれて
います。さてさて、パパはどこにいたのでしょう。
小さいときから読む絵本の背景がこうだったら、自然な形で意識が根づいて
いくかもしれません。
さて、最後に紹介するのは11月下旬に刊行された小学館「世界J文学館」。
twitterでは新訳作品について話題にのぼったこともあり、読むのがとても
楽しみでした。
さて、この本は読むには少々超えなくてはいけないハードル(大げさ)が
あります。ですので、本題に入る前に、読むまでに感じたことも記していき
ます。
まず本として届いたものは、掲載されている125作品の紹介、さわりのみで
す。物語そのものは、電子書籍で読みます。125作品をカラーで紹介している
ページは目に鮮やかで、どれから読もうか迷います。
購入した時はなんとなく電子で読むんだなという軽い気持ちでネット書店
で注文したのですが、本を開く前に差し込まれていた、ずらり並んだ注意事
項には少し驚きました。購入したネット書店ではここまで細かな注意事項は
掲載されていなかったこともあり、はたして自分の環境が必要条件を満たし
ているのか不安になりましたが、ネット環境がある人ならきっと大丈夫なの
でしょう。
いまの子どもたちは電子書籍を読むのに必要なスマートフォンはだいたい
持っているでしょうか。本を読むためにインターネット環境などが不自由な
く整っていない子どももいるかもしれないのですが、現時点では、本1冊に
1つのアカウントが付与されるのみなので、図書館のパソコンで不特定多数
の閲覧はできません。
1つのアカウントで最大3台まで使えるので、スマートフォン(iPhone)、
パソコン(デスクトップ)、ノートパソコン(Mac)の3台でまず読んでみる
ことにしました。ちなみに、他に機器で読みたいときは、既にログインして
いるいずれかの機器からログアウトするとよいようです。そこで、今度は、
しばらく使っていなかった古いFireのタブレットにログインして読んだとこ
ろ、読み込むのにかなり時間がかかるものの、やはり本のように目元に近く
読めるので、結果、これがしっくりきています。
登録も一度ログインまでいくと、それ以降は難しくないのですが、登録す
るまでに届くメールが迷惑フォルダに入ってしまうと、とまどってしまうか
もしれません。気を長くもってのぞみましょう(笑)。
登録完了しログインできたら、まずはどんな書籍があるのか一覧を眺めて
みてください。125冊のラインナップは、古典から現代文学まで幅広く、古
典の新訳も多く入っていて、各本ごとのカバーイラストがとても素敵でわく
わくします。
読み上げ機能もついていますし、文字の大きさも調整可能、ふりがなも全
部につけるか、少しにするかの選択もできます。
読み始めは、文字の大きさやふりがなの調整をし、(Fireだといちいちに
時間がかかりましたが、これは古い機種だからでしょう)ようやく本文一行
目にたどりつきます。
まずは「雨月物語」を読んでみました。訳は石井宏千花さん。絵は村田涼
平さん。
実はお初の「雨月物語」なので、以前読んだ岩崎書店から刊行されている
ストーリーで楽しむ日本の古典『雨月物語』(金原瑞人著 佐竹美保)を引
っ張り出してきて並行して読むと、より理解が深まり、あらためてどちらも
堪能できました。「雨月物語」おもしろい! 9つの短篇のなかでは「菊花
の約」の義をつくす話にほろりとしました。いつか原文でも読んでみたいも
のです。
村田さんのカバーイラストも美しく繊細で、物語のイメージを広げてくれ
ました。
さて、次はどの作品にしようかしら。カバーイラストを眺めているだけで
楽しくなってきて迷うばかりです。
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ということで、今年も1年間読んでくださりありがとうございます。
どうぞ来年もよろしくお願いいたします。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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136 手紙と文字と国境
年が明けました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
初読みは福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」2月号。
「字はうつくしい わたしの好きな手書き文字」
井原奈津子 文・構成
表紙には「あ」の手書き文字がいっぱい。
8年前に参加した「ただようまなびや」という文学のワークショップで、作
家の古川日出男さんが、挨拶の中で空気中に「あ」を書いてくれました。ワー
クショップのはじまりは、あいうえのはじまりの「あ」から。そういうわけで
「あ」には思い入れがあるのです。
さて、本誌では井原さんがご自身の好きな、たくさんの人の手書き文字を紹
介しています。急いで書くのが常である職業のひとつ、新聞記者の文字からは
忙しさが伝わる読めない文字がびっしり。
およそ800年前の『更級日記』の筆文字もところどころしか読めません。同
じ日本人とはいえ、昔の文字は異国のようで本当におもしろい。いつかすらす
ら読めるように、書けるようになってみたい。
手書きの手紙も写真でたくさん紹介されているのをみていると、私自身、子
どもたちが小さい頃書いてくれた手紙をいまも冷蔵庫やパソコンの前に貼って
いるので文字ラバーとしてうれしくなります。
井原さんが「あ」に寄せてに書かれていた言葉にもうなずくことしきりです。
「私は「習字」も、着物と似ているなと思っているのです。千年以上も昔の人
が「整っていてきれいに見える形」を作り上げて、現在まで残してくれた。伝
統的で整ったうつくしさを持つ字を、自分の手で書く喜び。」
自分で書いた字は、本人の好き嫌いにかかわらず味がありますものね。
特に子どもの文字は、成長するにつれ大きく変化していきますから、もらっ
た手紙はこれからもずっと宝物です。
次に紹介する本も手紙にまつわる物語です。
『ロザリーのひみつ指令』あかね書房
ティモテ・ド・フォンベル 作 イザベル・アルスノー 絵 杉田七重訳
四角いこぶりの装丁がかわいらしい、絵が多めの翻訳読み物です。
主人公はロザリー、年齢は5歳半。
第一次世界大戦のさなか、父親は戦地へ、母親は軍需工場で働いています。
ロザリーの面倒をみる人が家にはいないので、校長先生の許しを得て、学校
で他の生徒と一緒に過ごしています。
仕事の終わった母親がロザリーを迎えにくると、一緒に帰宅し、父親から手
紙が届いていれば、それを読んでもらいます。ロザリーはまだ自分では字が読
めませんでした……。
短いお話しですが、ロザリーが自分に課した任務について展開され、任務の
秘密が明らかになるラストは胸がつまりました。紙一枚に書かれた手紙の重さ
も感じました。
作者のフォンベルは『トビー・ロルネス』(伏見操訳・岩崎書店)を書いて
いますが、トビーシリーズもすごくおもしろいのでおすすめです。この作者に
ひかれて、この本も手にしたのですが、シンプルに深いことがらを書く力量に
は心を深くゆさぶられました。
次は絵本です。
『ブラディとトマ ふたりのおとこのこ ふたつの国 それぞれの目にうつ
るもの』
シャルロット・ペリエール 文 フィリップ・ド・ケメテール 絵
ふしみ みさを 訳 BL出版
トマの家にブラディ一家がやってきます。
トマにとっては、どうして僕の家に住むの?と疑問がいっぱい。その疑問は
なかなか解消されません。
ブラディとトマは同じ年なので一緒に学校へ通うことになります。
言葉もうまく通じないブラディなので、どんな子なのかと興味はあるものの、
きっかけがうまくつかめないトマです。
ブラディも同じです。知らない国、知らない言葉。元の場所に戻りたい気持
ちが募ります。
そんなふたりが少しずつ互いへの好奇心から近づいていくのですが、その距
離のつめ方、近づいていくにつれて交わす言葉からイメージするものがふたり
それぞれなことが、絵でわかります。例えば、「たたかい」「ふね」という言
葉は、ブラディの切実さとトマのいままで読んだ物語からの想像という風にで
す。
目元が特徴的に描かれる少年達は、手書きの線描とポップな水彩の色合いが
きれにとけあっています。うちとけあっていくふたりの変化を絵で追うのも楽
しい。
難民についての話ですが、自分と違う人との関わりについて考える一助にも
なる絵本です。
最後に紹介するのも絵本です。
『絵で旅する国境』
クドル 文 ヘラン 絵 なかやまよしゆき 訳 文研出版
タイトルそのままの、絵で国境を表現しているもので、韓国発の絵本。
作成に6年の時間をかけた本書には、緻密に描かれたあちこちの楽しげな国
境から、緊張をはらむものまで様々です。
国境を越えると何が変わるのか。
時差、通貨、宗教、自動車の運転席等々。
ひとつの都市の中に、国境がいくつもあり、建物や道路を横切っているとこ
ろもある。
世界でいちばん高いヒマラヤ山脈に沿っている国境もある。
すごいな。ページをくるたびにこの言葉ばかりでてきました。
作者は「国境は国と国をわける線ですが、この本は、その線をこえて生まれ
る「出会い」に光をあててつくりました」と書かれています。
確かにこの絵本も韓国から国境を越えて翻訳されて日本で読まれています。
これも出会いですね。
2023年、今年もたくさんの本と出会っていきたいです。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
----------------------------------------------------------------------
このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかなさんの原稿、前回、更
新せずに発行してしまいました。ですので、今回は2回分を掲載させていただ
きました。ちょっとお得感ありますね。
それと、単行本『ROCA』、立ち読みしたら欲しくなった!(実は昔、いしい
ひさいちさんのマンガが好きで、ドーナツブックスを集めていた。どこに行っ
ちゃったのかなー。そういえば各巻のタイトルが名作のパクリだったっすねー
と、メルカリの出品を見て思い出した。)(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #151『スピッツ論』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『毒』国立科学博物館、読売新聞社ほか
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 紅茶はコロニアルな農産物、そしてあのときの列強は今・・・。
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────
この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#151『スピッツ論』
♪だあれもさわれないー ふうたりだけのくにい
カラオケ、もう随分行ってないなー。
今年の忘年会事情はどうなんですかね。先日、三軒茶屋に遊びに行ったら、
飲み屋さんはまあまあ盛況の様子。前から賑わっていたある居酒屋も、お隣ま
で店舗拡張。これは儲かっている証拠なのか。
ということは、二次会、三次会で再びマイクを握る方々も増えているやも知
れません。
スペースシャワーTVに『全曲歌詞入り!カラオケランキング100』という
番組があって、先日何気に見ていたら、いやあ、近頃の歌は超絶難しい。特に
女性がメインボーカルの曲に、リズムが早くて、セクションごとに目まぐるし
くパターンが変わり。転調なんか当たり前、それも必然性のない調へ前触れな
く飛び移ったりするものが多い印象。
みんな、こんな難しい曲、歌えるの?
と驚くばかりで、日本人の平均的なリズム感、音感がかくも向上したのであれ
ば素晴らしいけれど、そんな初めて聴く曲ばかりの中、ふっと耳馴染みのある
ギターリフ。
あ、これ、知ってる、と思うと、あの美しいハイトーンボーカルが、
♪ きみをわすれないっ
おー、スピッツじゃん!
伸びやかな草野マサムネの声と、バンドが繰り出す控えめだけど心地よいグ
ルーブに、ほっとする中高年。
それにしても、未だにこの曲がカラオケで愛唱されているんだな、と感心し
きりでした。
とはいえ、スピッツ。好きなバンドではあるものの、ちゃんとアルバムを聴
いたこともないし、ましてライブに行ったこともない。
出会いは、それこそカラオケで、一緒に行った知人が歌う「ロビンソン」を
聴いて、お、いい歌! と思ったのが最初です。
それからスピッツ自身の演奏を聴かない内に、同様のシチュエーションで素
人の歌う「ロビンソン」のみを何度か耳にして、でも、それだけで覚えてしま
った。もちろん、うろ覚えというか、細かいところはちゃんとわかっていない
ままですが、気づけば自分でも、♪だあれもさわれないー
と気持ちよく声を張り上げていたのです。
この曲が発売されたのは1995年。そう、阪神淡路大震災とオウム真理教の地
下鉄テロに揺れた、あの年なんですね。
個人的なことで言うと、当時転勤で地方都市に住んでおり、同じ会社とは思
えないほど田舎は暇だったので、夜な夜な遊び惚けていました。折から通信カ
ラオケが登場し、行く度に往年のロックの名曲が入っているので、「わ、こん
なのまである!」と興奮気味に通っていたため、「ロビンソン」を頻繁に聴く
ことになったわけです。
こんなにわかりやすく、覚えやすい歌も久しぶりだな、と思うと同時に、で
もそれだけじゃない、何か不思議な魅力がある。音楽的に深いところがある。
でも、それが歌詞なのか、メロディーなのか、サウンドなのか、正体はわか
りませんでした。
そのことが微妙に引っ掛かってはいたものの、CDを買って聴き込むには至
らず、その「カラオケランキング」でかかっていた、「チェリー」、そして♪
きみとでえああったきいせーきがーの「空も飛べるはず」ぐらいしか知らない
貧弱なスピッツ体験。彼らの音楽のイメージは、まっとうで素直なラブソング
の歌い手、という程度のものでした。
しかし潜在的に、「スピッツには何かある」と思っていたからでしょう、つ
い先日、目に留まって思わず手に取ったのが本書でした。
伏見瞬『スピッツ論』。
出版はちょうど1年前ですが、よくあるタレント本ではなく、本格的な音楽
批評。それもかなり分厚い、手応えのある一冊です。
それにしても意外でしたね。
スピッツがそもそも、シューゲイザーだの、オルタナティブだの、アメリカ
のアンダーグラウンドロックが大好きだったなんて。
サウンドは繊細で爽やか、歌詞も、サビの印象に残る部分が、「大きな力で
空に浮かべたら ルーララ 宇宙の風になる(ロビンソン)}とか、「愛して
るの響きだけで強くなれる気がしたよ(チェリー)」とか、「君と出会った奇
跡がこの胸に溢れてる(空も飛べるはず)」とか、実にポジティブな愛の歌。
これのどこがアングラ?
なわけですが、もちろんそれもスピッツのひとつの側面。その裏にダークなも
のがあって、両極に引き裂かれているのが彼らの本質なんだそうな。
それで本書は、「分裂」をキーワードに、さまざまな二項対立を軸としてス
ピッツを深く分析しているのです。
例えば、「個人と社会」。
スピッツがデビューした年に、中島梓の『コミュニケーション不全症候群』
が出ている事実。これは、後に「コミュ障」と呼ばれることになる若者の病理
的傾向を逸早く見抜いた名著ですが、ここに指摘された「個人への閉塞」が、
初期スピッツの音楽には色濃いそうです。
その結果、当然ながら商業的には売れないバンドであった。
しかし、それをよしとしていたわけではなく、所属していた事務所が当時売
れに売れていた浜田省吾のマネージメントオフィスだったため、何だか浜田さ
んの稼ぎを自分たちが浪費しているような後ろめたさを感じ、ある程度は売れ
ないといけないなと考えていたらしい。
そこで、外部から売れ線のプロデューサーを迎え、キーボードやホーンを採
り入れた、Jポップなサウンドに一新。
でも、やっぱり売れない。
しかしこの時の経験はスピッツにとって意味のあるもので、やがて「ロビン
ソン」の大ブレイクに繋がるわけで、決して「社会へ開かれていくこと」を否
定もしない。
このような前衛性と大衆性に「分裂」し、その止揚を模索したのがスピッツ
の歴史なのですね。
シングル曲は多分、ヒットを目指す性格上、大衆性に重きが置かれているの
でしょうが、その背後に前衛の陰を感じ取ったからこそ、「ロビンソン」にた
だものじゃない何かを感じたんだろうな、と長い時を経てようやく腑に落ちた
のでありました。
本書の中で一番面白かったのは、スピッツと唱歌・童謡には、親和性がある、
という指摘です。
著者が小学生の時、合唱コンクールで、スピッツの「渚」を歌った学校があ
った。まだ発売されたばかりの新曲だったから、かなり早い選曲です。
また「優しいあの子」は、米津玄師の「Lemon」などと共に、高校の音楽の
教科書に載るそうです。
ビートルズやカーペンターズすら、まだ教科書にない時代に音楽教育を受け
た身からすると、まさに隔世の感ですが、それはともかく、アンダーグラウン
ドロックを出発点にするバンドの曲が、学校教育と相性がいいという不思議。
そもそも唱歌は、何でもかんでも欧米に倣おうとした明治時代、西洋音楽の
音感を幼少期から植えつけるために生まれました。なのに、日本の作曲家はや
はりルーツとなる音感から離れられず、奇妙に「日本と西洋」が混淆する音楽
を作り上げたのです。
そしてスピッツも、ロックという洋楽から影響を受けながら、一方で歌謡曲
(特に草野マサムネは母親が愛好した浜口庫之助の名を挙げています)からも
影響され、「日本とアメリカ」の「分裂」を体現しているわけです。
具体的にメロディーも分析されています。
唱歌では、西洋音階を導入しておきながら、西洋音楽で重視されるのが「ド」
と「ソ」なのに、むしろ「レ」「ミ」「ラ」にアクセントが乗るため、日本人
好みのメロディーになっている。
そしてこれはスピッツのメロディーの特徴でもあるというのです。
もうひとつは、歌詞。
特に、多くの唱歌・童謡を作曲した野口雨情のワーディングと、草野マサム
ネのワーディングは似ているとして、いくつかのタイトルが列挙されます。い
わく、野口「兎のダンス」にスピッツ「ウサギのバイク」、野口「鈴なし鈴虫」
にスピッツ「鈴虫を飼う」……
あるいは、「シャボン玉飛んだ」の歌詞にある、「飛んでこわれる」という
モチーフが、「ニノウデ」や「ビー玉」にも共通すること、草野マサムネのハ
イトーンが、変声期前の少年の声を想起させることなど、スピッツと唱歌・童
謡の親和性が例証されるのです。
なるほど、だから学校で愛されるんですね。
多くの人が、「なつかしい」と感じるのも、そのせいなのか。
著者の伏見瞬は批評家・ライターで、旅行誌を擬態(と、著者略歴に書いて
ある)する批評誌『LOCUST』の編集長。佐々木敦の「批評再生塾」で東浩紀審
査員特別賞を受賞したそうで、つまり本書も、ちょっと小難しいところのある
「批評」です。
なので、とっつきにくい部分もありますが、多くの「音楽批評」が思想的な
意味を扱うため、歌詞に重点を置かざるを得ないのに対し、作曲や編曲、演奏
のディテール、さらにはプロデューサーやエンジニアの名前を挙げてサウンド
の質感まで詳細に分析しているのが、素晴らしい。
それにしても、本書が出た昨2021年、スピッツはデビュー30周年、結成34周
年だったそうで、いやあ、もうそんな?
伏見瞬
『スピッツ論』
二〇二一年十二月二十二日 第一刷発行
イースト・プレス
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今年は、残念ながらいい年ではありませんでした。みなさんの2022年は、いか
がでしたか?
ともあれ、スピッツの30周年には遠く及ばないものの、当連載もスタートから
いつの間にやら12年以上。ご愛読には、ほんと、感謝の言葉しかありません。
今年もありがとうございました。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『毒』国立科学博物館、読売新聞社ほか
この世には多数の本が売られている。売っている場所で一番多いのはもちろ
ん書店だ。しかし、中には本屋に並ばない本もある。典型例は、博覧会や美術
展の図録だろう。図録は博覧会や美術展の会場でしか売られない。調べると通
販で買えるサイトもあるが、いずれにしても本屋には並ばない。
https://maruyodo.jp
で、この本である。現在国立科学博物館で行われている「毒展」の図録だ。
国立科学博物館は、これまでも動植物や科学技術に関する展示を多数行ってい
るが毒をテーマにしたこの展覧会も好評のようである。来年3月には大阪市立
自然史博物館でも行なわれる。
第一章は「毒の世界にようこそ」
夫婦と子供がくつろいでいる部屋のイラストの中に、どんだけ毒が回りにあ
るのかの解説で、ほとんどが毒だらけ。挙げてみよう。
かびたパン、小麦粉、タマネギ、ニンニク、ジャガイモの芽、ブドウ、キシリ
トールガム、チョコレート、ピーナッツ、マグロ、タバコ、洗浄剤、ハウスダ
スト、石油ストーブ、猫の毛、ポトス、酒類。
ほかにも室外の風景にも毒が色々と・・・
かびたパンヤジャガイモの芽、酒タバコくらいは誰でも知っているが、ほか
にもこんなにあるのかと実際にイラストを見たら驚く人も多かろう。
そこから話は毒の作用機構の簡単な説明をした後
第二章 毒の博物館
第三章 毒と進化
第四章 毒と人間
第五章 毒とはうまくつきあおう
と続いていく。
第二章、毒の博物館は、動植物の持つ毒から鉱物の毒や火山ガス、そして人
間の作った毒まで、ざっと、いや、ぞっと概観する内容。人間が作った毒とし
て近年はあまり言われなくなったビスフェノールAや最近言われ始めているマ
イクロプラスチックまでカバーする。新しい本だもんね。
第三章は毒が進化にもたらした影響について書かれている。ある植物が毒を
持つと、動物や魚には食べられないから繁栄を謳歌するようになる。しかし、
食物として他の生物が食べられないこの植物を食べる事ができれば、その生物
は他の生物との食物獲得競争に優位に立てる。すると毒に耐える体に進化しよ
うとする生物も出てくる。
生物にとって過酷な環境も同様だ。チムニーと呼ばれる海の火山から出る有
毒ガスは多くの生物にとっても毒だが、チムニー周辺で生きる能力を身につけ
れば、多くの捕食者は簡単には近づけなくなる。そしてそんな変化をチャンス
と捉えて適応するように生物は進化していく。
このあたりを読んでいると、永遠の繁栄とか絶対無理だと思い知らされる。
ある生物が毒性を持ち繁栄を謳歌しようとしても、そこに繁栄の糸口を見つけ
る生物がいずれ出てくるわけである。そしてそんな生物間の競争を利用とする
者も出てくるというイタチごっこで進化の歴史は書き加えられていく。
4章は、そんなこんな生物界があれこれ変化している中で現われた人間が毒
とどう向き合って付きあってきたのかだ。24,000年前には毒矢に塗る毒として
トウゴマの持つ毒であるリシンが使われており、7000年前にはかぶれる事で有
名な漆を使った容器が作られていた。
ソクラテスが飲まされた毒成分から、時代を減るごとに使われる毒物も変わ
っていく。チェーザレ・ボルジアが使った亜砒酸に目が行くのはマキァヴェリ
好きの私だけかも知れないが、近代になるとフリッツ・バーバーが登場!当然
内容はアンモニアと毒ガスだ。「毒の二面性」を語るにこれ以上の人物はいな
い。ちなみに、最近フーバーについて歌う曲が発表されていたりもする。
歌詞にある「罪人か聖人か(SINNER OR A SAINT)」・・・難しいとこです
ね。
https://www.youtube.com/watch?v=DxkeOkaVRLo。
https://www.youtube.com/watch?v=2NaTxTPpQHs
そんな感じで続いていく4章には、フグ毒の研究など日本人研究者ががんば
ってきた話も出てきて、この分野に日本人も大きな貢献をしていると知る。
最終章は毒とのつき合い方の章で、最近入ってくる外来の毒グモから始まる
が一番気になるのは毒蛇の抗毒薬の話。抗毒薬の製造は多大な経費と労力がか
かり採算性が低いため、メーカーが一社しかなかったり、経済力のない国の国
民には高価になりすぎて充分に買えない状況にあるようだ。このあたりSDGsの
誰も取り残さないにかかわるテーマでもあるだろう。
そして結びがいい。「我々は毒から逃れる事はできない」そして「毒と向き
合うのは科学そのもの」なんてフレーズにしびれる。
最後に一言。先に記したように、この本は毒展の売店にいかないと買えない
が、ほかにも大変魅力的なものが売られている。中でも出色は「毒まんじゅう」
だろう。近いうちに政治家と会う機会がある人は、ぜひとも買って持っていこ
うw!
https://www.dokuten.jp/goods.html
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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紅茶はコロニアルな農産物、そしてあのときの列強は今・・・。
『ぼくは6歳、紅茶プランテーションで生まれて。』(栗原俊輔・著 合同出
版社・刊)
前号では紅茶の歴史を紹介しました。中国が原産地の茶が、どういうわけか
オランダとかイギリスで東洋から来た神秘的な飲み物と賛美され、貴族から庶
民までに愛好された結果、中国産だけでは需要が追い付かず、インドやスリラ
ンカでプランテーション栽培されることになりました。というのがざっくりし
た歴史です。紅茶の歴史の本を読むと、そこから植民地の歴史が透けて見える
のですが、表立ってその辺のところはぼかされているのを感じました。
そこで手に取ったのがこの本です。著者は宇都宮大学の先生で、NGOのスタ
ッフとしてスリランカの紅茶園で働く労働者の支援をしている人です。
この本によると、紅茶園では毎日、紅茶の茶葉を摘む仕事をしている女性が
低賃金で働いているそう。摘んだ茶葉を1日の終わりに計量してその重さによ
って賃金が支払われる完全な歩合制で、男性は農園の設備を修繕する仕事をし
ていて、結婚して子どもが生まれた場合は小学校などの福利厚生は整っている
ものの、上の学校に進学できる子どもは少ないとか。農園で働く労働者の子ど
もは同じく農園で働くしかないという、層の固定がもう150年も続いていると
いうことです。農園労働者は差別されるだけではなく、同じ労働者の中でも、
インドから来たインド・タミル人は差別の対象となるなど複雑な構造になって
います。劣悪な住環境で尊厳を持てずに働く中、男性はアルコール依存になり
がちで、家庭内暴力に悩む女性もあることが述べられています。
紅茶といえば、ホテルやレストランでの英国流アフタヌーンティーが思い浮
かび、貴族的なおしゃれな飲み物とイメージされますが、そのエレガントなお
茶会を支えているのは低賃金で茶摘みする女性たちなのです。
紅茶に限らず、たぶん、コーヒーなど後進国で生産される農作物はみな植民
地のコロニアルな産物と言えるのかもしれません。
こんな事実を知っておかないと紅茶を知ったことにはなりませんね。
今、あのときの列強は・・・。
さて。紅茶の歴史を紐解いていくと、強い国が弱い国を搾取する様が描かれ
ています。その最たるものが「アヘン戦争」(1840〜1842)で、中国の茶を買
ったために銀の流出が止まらなくなったイギリスが、赤字貿易を解消するため
に中国にアヘンを持ち込んで中毒患者を蔓延させ、アヘンを取り締まろうとし
た中国に武力で侵攻したのであります。中国は当時政権がかなり腐敗していた
とはいえ、ひどいもんです。で、参考書には「“列強”の進出にさらされ、中
国は半植民地化への道をたどることになった」と書いてありました。「列強」
って懐かしくないですか?なんか中学とか高校の世界史で習った気がする。つ
まり世界を牛耳ってた強い国という意味だと思うのですが、アヘン戦争がおき
た1840年には押しも押されもしない列強国NO1だったイギリスは今や・・・。
で当時、イギリスにコテンパンにやられてた中国が今や泣く子も黙る列強とい
うことで・・・。そう考えるとこの前イギリスでやっていた大きなお葬式は過
去の栄華を偲ぶ遺産的イベントだったのかなと思ったりしますね。あれから約
180年後の現代、亡き女王から「失礼な人」とあしらわれた中国の代表者が今
や列強中の列強国の独裁者ですもんね。まあ、これからはまたわからないけれ
ども…。じゃ、日本はどうしたらいいの?
特にいい案がないおばちゃまは紅茶を飲みながら、世界のあれこれを憂慮す
るのみでありました。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<154>「老人漫画」は、明日の風となるのか?
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第149回 関東大震災とジェノサイド
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→134 移動
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<154>「老人漫画」は、明日の風となるのか?
山本おさむのここ数年の仕事は、すごくいい、と思うのだ。
以前にここでも取り上げた『赤狩り』全10巻は、近年の漫画界において稀有
な「偉業」であるのは、間違いない。
その『赤狩り』に続いて連載された『父を焼く』(原作:宮部喜光)では、現
代の日本が抱える老人問題を、リアルに、かつ鋭く切り取って見せた。
55歳の主人公は、大学を卒業し就職の為に旅立つ娘を、妻とともに東京駅に
見送ったとき、ふと、自分の父親が死んだ折のことを思い出す。
そのころ、契約社員として働きながら、埼玉県で妻と生まれたばかりの娘と
3人で暮らしていた主人公の元へ、ある日突然、故郷の福祉事務所から、実父
が孤独死したという知らせが来たのは、23年前。
幼いときから、酔っては母親と自分に暴力をふるう父に耐え続け、高校卒業
と同時に家を出て以後、母親の葬式で帰郷したとき以外は絶縁状態の父親だっ
た。
その死の知らせに、母親の葬儀の際に見た、かつて暴力を奮っていたころと
は打って変わって、孤独で寂しげだった父の姿が過る。
妻と幼い娘を伴って帰郷した主人公は、父が一人で生活していた実家で、働
くこともならず、生活保護で暮らしていた亡父の、荒れ果てた生前の暮らしを
目の当たりにする。
人づきあいが苦手な父は、近所付き合いもなく、死後数日経ってその死体を
発見したのは、たまたま用事で訪れた父の弟…主人公の叔父だった。
その叔父が葬儀会場として手配してくれた地区の集会所で、既に棺に納めら
れた父と対面すると、死後十日以上経って発見された父の遺体は、顔を含めた
全身に包帯が巻かれ、その包帯の隙間から何匹ものウジ虫が這い出しては、ゴ
ソゴソと蠢いている。
実の父の遺体を「気持ち悪い」と感じてしまう自身に自己嫌悪しながら、親
戚中の嫌われ者だった父ゆえに、会葬者も少なく侘しい通夜から、それに続く
葬儀を通じて、在りし日の父と、自身と家族との拘わりを、縷々回想していく、
という形式で、全8話が語られていく。
とても重い漫画だ。
読みながら、わしもつい、17年前に父親を送ったときのことなどを、思い出
してしまった。
この『父を焼く』に続いて連載が始まったのが、『もものこと』である。
この作品には、「シリーズ『父を焼く』」という副題がつけられている。
『父をを焼く』には、「人間臨終図鑑」というキャッチコピーが付されても
いたので、「死」に臨む人々を描くオムニバスとして、シリーズ化されたもの
のようだ。
『もものこと』の主人公・苅田は、81歳。数年前に妻を亡くして後は、妻の
忘れ形見ともいえる犬の「もも」とともに、築年数は50年以上?とも思える古
家だが、一応は一戸建ての借家に住まい、年金暮らしで細々と生計を立ててい
る。
そんな苅田にある日、末期の肺癌が見つかり「余命1年」を宣告されてしま
う。
病院からは入院を薦められるが、自分が入院してしまうと、飼い犬の「もも」
の世話をする人がいなくなる、という理由でかたくなに拒む。
生活保護の申請も勧められるが、これもまた、老朽化しているとはいえ、一
軒家に一人で住む自分が生活保護を申請すれば、安いアパートへの転居を勧告
される。もものためにも、それは「できない」と拒否して、病院をあとにする。
「もも」は、妻なき後、ずっと自分の支えになってきてくれた存在だ。
なのに、自分が死んでしまえば、残された「もも」は、家の中で餓死するし
かない。仮になんとか外に脱出できたとしても、野良犬となり街を彷徨ったあ
げくに、保健所に連れて行かれて処分されてしまうかもしれない。
…と気づいた苅田は愕然とし、翌日から、自分の死後も「もも」を養ってく
れる里親を求めて、あちこちの伝手を探るのだが、初めてのことで慣れてない
上に、生来の口下手のために、あらぬ誤解を受けたりして大苦戦する。
さらに、乏しい生活費を切り崩すにも限界があり、交通費すらままならない。
掲載誌は「ビッグコミックオリジナル」で、最新号(2022年12月20日号)で連
載第5話なのだが、いまだ里親は見つからない上に、不審者に間違えられて警
察に追われたりと、悪戦苦闘の日々が続いている。
その「ビッグコミックオリジナル」は、以前にここでも何度か取り上げたが、
姉妹紙の「ビッグコミック」とともに、漫画誌の中でも、圧倒的に読者の年齢
層が高い雑誌だ。
中高年の恋愛模様をオムニバスで描く、弘兼憲史の『黄昏流星群』も、この
雑誌の連載でもあり、この「人間臨終図鑑」を連載するにはぴったりの媒体だ
と思う。
しかし、これからは、他の媒体でも「老人」あるいは「死」をテーマにした
作品、増えていくんだろうな。
各誌に長く連載を持っている漫画家たち自身もまた、かなりの老齢化が進ん
でいることでもあるし。
さきの「ビッグコミックオリジナル」と「ビッグコミック」は、長期連載…
それも数十年にわたってという長期の連載作品が多い雑誌で、なので、「作者
逝去により」終了した連載もまた、他誌に比べてダントツに多い。
つい先だっても、ゴルフ漫画『風の大地』(原作・坂田信弘)の作画を担当
していたかざま鋭二氏が逝去され、主人公・沖田圭介の全英オープン二度目の
挑戦は、最終ホールを待たずして未完となってしまった。
漫画家もまた高齢化が進む今、「老人」、「死」あるいは「臨終」は、これ
からの漫画にとって、必須アイテムなのかもしれない。
…というような原稿を書いていた12月8日、この欄にも何度か登場していた
だいた、幻堂・なかのしげる氏が逝去された、という事実を知った。
ご子息の中野りうし氏のツイッターに告知があったのだ。
なかの氏とは、ここしばらく疎遠だったのだが、この10月に電話があり、
「癌が見つかって、余命1年を宣告された」といきなり切り出した後、「つい
ては、見舞金を持参して見舞いに来い」と強要(?)されたのだった。
びっくりして、その数日後、「1口500円から」という「見舞金」20口と、
大学で同日に授業があった竜巻竜次氏にも「20口」を半ば強制的に供出しても
らい、新神戸の「幻堂新社」を訪ねた。
久しぶりに会うなかの氏は、幾分痩せてはいたが、以前と変わらず、「ホン
マは、あかんねけどな」と言いながら、冷蔵庫からビールを出しては、自分も
飲みながらわしにも勧めるのであった。
「こんなにあるねん」と、毎日飲む大量の薬を見せてもくれたのだが、一見、
とても「余命1年」には見えず、「ほんまかいな?」と、後日、ご子息の中野
りうし氏が営むカフェを訪ねて訊いてみたら、「いや、1年どころか、余命半
年と言われてる」と聞かされて、再度びっくりもしたのだった。
とはいえ、会ったときの様子から、「まあ、1年くらいはしぶとく生きるん
じゃ…」と思っていた矢先の訃報だった。
今思うと、10月に会ったときには既に「緩和ケア」に入っていたんだと思う。
生涯にわたって、「好きなこと」しかやってこなかったなかの氏だが、それ
でもまだ、やり残したことは、あったと思う。
そんな幻堂・なかのしげる氏の生前の仕事を、「漫画雑誌・架空」2010年10
月号においては、「特集 幻堂出版」と銘打ち、その活動をおよそ50ページに
わたって紹介してくれた。
なかの氏の「略歴」から、西野空男氏が聞き手となったインタビュー、そし
てなかの氏が、「幻堂」以前から作ってきたミニコミ誌なども含めて、その出
版物、映画、イベントのほぼすべてを網羅して紹介する労作である。
なかの氏亡き今、これを企画して実現してくれた西野空男氏には、感謝の念
に堪えない。西野さん、本当に、ありがとうございます。
なかのさん、安らかにお眠り…と言っても、おとなしく寝てはないでしょう
から、どうぞあっちでも、あちこちに噛みつきながら、せーだい暴れまわって
ください。
最後に、ご遺族皆様には、謹んでお悔やみを申し上げます。合掌。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第149回 関東大震災とジェノサイド
3か月ぶりに投稿している。
本来は10月に今回の小論を載せたかったが、さまざまあり休載させていただ
いた。
今年は関東大震災から99年になる。そして来年2023年(令和5年)は100周
年。被害の規模といい、犠牲者数といい、関東大震災は100年近く経っても他
の災害被害を圧倒している。死者10万人という途方もない数。東京の被害額が
52億7,500万円で当時の日本のGNPの35%に上っている。東京以上に甚大な
被害に遭った神奈川県を含めるとたいへんな額になる。
関東大震災の中で朝鮮人の虐殺があった、ということは現代の教科書に載っ
ていることなので、ほとんどの人は知っていることだと云えるが、その虐殺が
どの程度の規模のものか、ということまでは教科書には載っていない。実際に
どんな様子だったのか、を丁寧に文献や証言を辿り、そこから得たものを紹介
する好著を見つけた。
『九月、東京の路上で −1923年関東大震災ジェノサイドの残響−』
(加藤直樹 著)(発行:ころから)(2014年3月11日初版)
本書は「まえがき」として、ヘイトスピーチと怒号がとびかう2013年の新大
久保の町の描写からはじまる。関東大震災から90年後の東京である。耳を覆い
たくなるような汚い言葉を吐く集団。まぎれもなく21世紀の東京の風景である
が、そこで吐かれた言葉は、90年前の1923年9月1日以降に吐かれた言葉と同
じ言葉であることに読者も衝撃を受ける。そして、一気に90年前の1923年9月
1日に遡り、東京の各地の様子、そして関東各地の様子が語られる。
とても読むのがつらくなる。その行為は狂っているとしか思えないのである
が、あの大震災で何もかもなくしてしまった人たちが大勢いた。自分が犠牲者
になったとき、それを受け入れるのではなく、その悲しみを何かに転嫁し、誰
かにその原因を求める人たちがいた、ということだろう。本書はまさに非常時
と云えた状況において、弱いものとして朝鮮から来た人々が標的になっていっ
た様子がリアルに描かれている。そのことを当時の文献の引用とともに作者の
ことばで悲惨な出来事を紙の上に再現している。
本書には、政治と経済についてはほとんど語られていない。ひたすら1923年
のジェノサイドを追っている。何にしても原因は政治と経済にあるのだろうか
ら、それを辿ることは必要であろうが、本書の使命はそこにはない。ひたすら
この大量殺戮を描写し、読者はその時その場であったことを“感じる”ことに
徹することを要請している。巻末の豊富な参考文献一覧は、本書を読んだのち
にそれぞれ読者がどうするかを決める材料となる道しるべの役目を持っている。
大地震の当日、9月1日の夕方以降、震源地に近く、東京以上に被害の大き
かった横浜において最初の虐待と虐殺が始まったようだ。虐待と虐殺をする側
には立派な理由がある。“この地震の騒動を利用して、朝鮮人が武装蜂起を計
画している”とか“日本人を殲滅するために朝鮮人が井戸に毒物を入れた”な
どというデマが流れ、そういうデマは人々の恐怖心を必要以上に煽り、穏やか
で慎み深い日本人が野獣のような集団になるのにはそれほど時間は掛からなか
った。本書には記載はないが、“敵は六郷橋を渡り東京に攻め上ってくる”と
いうデマもあったようだ。より甚大な被害に遭っている神奈川県から多摩川を
渡って武装した朝鮮人が攻めてくる、という話は今ならデマだとわかるが、ラ
ジオもないその当時(ラジオの始まりは1925年)、その話がデマだと断言でき
る根拠はなにもない。それが一般民衆の姿である。つまり、そのような話をデ
マである、嘘である、出鱈目である、と断言できるのは行政であり、警察であ
り、軍隊など当局だけだ。朝鮮人が軍事クーデターを企んでいる、という途方
もない情報を、治安当局はまずはしっかり調べなければならなかった。当局が
何も調べもせず、調べないどころか、逆にそのデマを鵜呑みにして、朝鮮人狩
りを奨励するような自警団の組織化を住民に依頼している。情報は当局からし
か得ることが出来ない一般民衆は、当局からのお墨付きを得て、誰かれ構わず
朝鮮人とみるや撲殺刺殺射殺していく。そういう風景が東京のあちこちで行わ
れたのは、9月2日以降である。そして、そのデマは列車に乗って関東一円に
広がる。当時群馬県に住んでいた萩原朔太郎は、藤岡で起きた朝鮮人虐殺事件
に対して怒りを込めて、次のような詩を発表している。
「朝鮮人あまた殺され その血百里の間に連なれり われ怒りて視る、何の
惨虐ぞ」
この詩は本書の冒頭で紹介されている。
なぜ、大虐殺は起こったか? それについても本書は考察している。それは
民族蔑視とそれと表裏一体となった恐怖心である、と見抜いている。
ここまで読んで、執筆子は「ボウリング・フォー・コロンバイン」というマ
イケル・ムーアの映画を思い出した。なぜ米国には銃による犯罪が多いのか、
をテーマにした映画である。それに拠るとやはり“恐怖心”がひとつの要因で
ある、ということが結論のひとつになっていた。開拓時代から現地人を圧迫し、
その後の奴隷制でも黒人を圧迫し、圧迫した側は圧迫された側に恐怖を抱く。
・・・という構図。それと同じであろう。差別する側は常に差別される側に恐
怖を感じ、過剰な反応をする。昨今の日本における、嫌韓厭韓の動きはまさに
そういうことに裏書されているような気がしてならない。こちらが相手に恐怖
を感じ嫌悪すれば、相手もこちらを嫌悪するのは、大昔からの道理である。相
手には云いたいことを云わせておこう、という大きな態度がいまこそ必要なん
だ、としみじみ感じている。
最後に、次にくる首都直下地震においてあるいは南海トラフ地震でもよいの
だが、いまのままだと99年前の東京の状況に再びなってしまうことを危惧しな
くてはならない。もしもそうなったらどうする? 当たり前のことであるが、
民族や人種を理由に判断してはいけないのだ。それを肝に銘じておかないと、
再びたいへんな騒動になるだろう。
多呂さ(今年もあとわずかですが、コロナ禍もついに4年目に突入します。わ
たしたちはどうしたらいいでしょうか。わたしたちはどこに行くのでしょうか。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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134 移動
11月に入ると、月ごとのカレンダーが残り1枚だねという会話を交わすよう
になります。毎年思うことですが1年は早いですね。
さて今月最初にご紹介する絵本は、クリスマス絵本。
クリスマスの季節に入りました。
『ちいさいフクロウとクリスマスツリー ほんとうにあったおはなし』
ジョナ・ウィンター文 ジャネット・ウィンター絵 福本友美子訳
すずき出版
ウィンター親子が本当にあった物語を絵本に仕立てました。
ジャネット・ウィンターの描く絵は四角い枠の中で展開されます。枠の縁は
ページごとに色が違うだけで、同じ大きさです。見開きでそれぞれの枠に描か
れているのに、不思議と印象は一枚の絵のようにみえておもしろいです。
2020年、アメリカ、ニューヨークのロックフェラー・センターのクリスマス
ツリーにいたのは、生きているアメリカキンメフクロウでした。
アメリカキンメフクロウの成鳥は体長約20cmほどで、アメリカ東部では最も
小さいフクロウだそうです。
毎年ロックフェラー・センターではクリスマスツリーが飾られます。今年は
23メートルほどのトウヒの木が選ばれ切られました。それから300キロほど先の
ロックフェラー・センターに到着し、しばらくはトラックに積まれたままでし
たが、シートが外され、実際にツリーとして飾られようとした時、作業員がち
いさいフクロウを発見したのです。
11月12日に木が切り倒され、16日に発見。その間は何も飲んだり食べたりで
きていなかったフクロウは弱っていましたが、発見後はよくめんどうをみても
らい、その事はニュースで流れ、この絵本の物語のきっかけになりました。
ちいさいフクロウの目元が愛らしく描かれ、その目からは、森での生活から
思いがけない場所に移動したことも、また自然の森に戻るまでも、自然に受け
止めているような気持ちが伝わってくるようでした。
私の好きな絵は、大きなクリスマスツリーの中で、まだ見つかっていないフ
クロウの姿を描いたものです。ちいさい目が「ここにいるよ」とうったえてい
るようで印象に残ります。ぜひ読んでみてみてください。
次に「小さい」つながりの幼年童話をご紹介します。
『だれもしらない小さな家』
エリナー・クライマー作 小宮 由訳 佐竹美保訳 岩波書店
絵本から読み物に移行するとき、幼年童話はその橋渡しにぴったりです。
1964年に書かれた翻訳作品に、描き下ろしの絵がたっぷり入っていて楽しい
雰囲気は表紙からもうかがえます。
舞台は大きなビルの谷間にたっている小さな家。もともとは、小さな家が最
初にあり、大きな庭もありました。しかし、町が大きくなっていくにつれ、高
いマンションがたつようになり、いつのまにか小さな家には住む人もいなくな
っていました。
そんな小さな家に興味をもったのは、近所に住むふたりの女の子、アリスと
ジェーンです。
どうして誰もこの家に住まないのだろうと興味津々でいつも家をのぞいてい
ます。そしてもう一人、アリスのご近所さんのオブライエンさんも興味をもっ
ているようでした。
3人は入れ替わり立ち替わりで家の様子を見続けています。
入居希望の人も幾組かあらわれます。
けれど、結局住む人は決まりません。
家が気になってしかたがないアリスとジェーンは、ついにだまって家の中に
入ってみるのですが……。
佐竹美保さんの絵は、小さな家の様子、周りの大きなたてもの、家を見学に
くる様々な人やアリスのご近所、小さなおばあさんのオブライエンさんをのび
やかに細かく描き出し、建物はリアルに、人はその人となりを浮かび上がらせ
ます。
子どもは小さなものが好きだなあと、我が子の子ども時代を思い出しました。
小さな狭い空間が何よりすきで、段ボールなどで家をつくるのも好きでした。
秘密基地をつくるような気持ちなのでしょうか。
さて、アリスとジェーンはこの小さな家とどうつきあうのでしょうか。
全ページたっぷりの絵にも見入ってしまい、読み出したらとまりません。
最後のご紹介するのは絵本です。
『世界はこんなに美しい アンヌとバイクの20,000キロ』
エイミー・ノヴェスキー文 ジュリー・モースタッド絵 横山和江訳
山烋のえほん 発行・発売 工学図書
なんてすてきなタイトルでしょう。
もうこれだけでページを開いてみたくなりませんか。
この絵本はオートバイで初めて世界一周をした女性、アンヌ=フランス・ド
ートヴィルをイメージして描かれています。
ひとりで旅をするのは、自由でいて少し怖いときもありそうです。アンヌ=
フランスは「いろんな場所へ行ってみたい」という自分の気持ちにじっくり向
き合い、旅に出る決意をかためました。
どんな気持ちで、
どんなものを準備し、
どんな世界をみたのか、
それらが、落ち着いたアースカラーの色彩で瀟洒に美しく描かれます。
自分の心をみつめるアンヌ=フランスの描写では、アンヌの大きな目を描き、
旅の準備物はひとつひとつを丁寧に描きます。例えば必要な工具として、タ
イヤレバー、プライヤー、レンチ、ペンチ、六角レンチなどを。
実用物として、おしゃれな白いドレスも描き込まれ、そのドレスを必要とす
るシーンは素敵でした。
旅をすることでみえてくるものが、ページを繰る毎に増えてきて、読んでい
るだけでドキドキしてきました。
アンヌ=フランス自身が旅について書いた本でこう記しているそうです。
「世界は美しくあってほしい、そして世界は美しかった。
人間はよいものであってほしい、そして人間はよき人びとだった」
コロナ禍になってから、自由な移動がままならない事にくるしくなりますが、
世界の美しさを実感できる自由な旅を絵本で読むのは心地よく、広い世界へ旅
に出たくなります。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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早いものでもう12月。私も田舎に移住してまもなく2年になります。すっか
り人混みが嫌だなぁ、と思うようになりました。
今年の年末は忘年会も戻ってきているようで、いろいろ混みあう場所も多そ
うですが、油断せず、楽しくお過ごしください。(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #150『ディオゲネス変奏曲』
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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★「目につく本を読んでみる」/朝日山
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#150『ディオゲネス変奏曲』
先ごろ、中国共産党の大会で、胡錦濤が強制退場させられる場面が何度もニ
ュースで映されていました。
この巨大国家がどこへ向かおうとしているのか、やはり気になりますね。隣
は何をする人ぞ。
一方、ひと頃盛んに報道されていた香港民主化運動のニュースはこのところ
途絶えているようですが、きちんとウォッチしているわけではないので、見逃
しているだけかも。
ただ、小説の方はいくらかチェックしています。近年、日本でも華文(中国
語)作家が盛んに翻訳されていますから。
その一人、陳浩基は、1975年、香港生まれ。ミステリーとSF、あるいは両
ジャンルを融合した小説で活躍中。本書『ディオゲネス変奏曲』は、暫く前、
デビュー10周年を記念して編まれた短編集です。
まず、古代ギリシャの哲学者ディオゲネスのことを思い出さんといかんです
ね。
多分、このエピソードを紹介すると、「ああ、あの人か」と膝を叩く方も少
なくないのでは。
ギリシャが英雄アレクサンドロス大王に征服された時のこと。
ディオゲネスはそんなことに何の関心も払わず、家代わりの木の酒樽に入っ
て、日向ぼっこをしつつ思索に耽っていた。
するとそこへ通り掛かったアレクサンドロス大王、自分の威勢にまったく怯
えない彼に感心。「何か望みはないか、あればかなえてやろう」と申し出る。
ディオゲネスは少し考えて、こう答えた。
「では、ちょっと横にどいてもらえますか? あんたの影が邪魔になって、日
が当たらないもんでね」
ね、いたでしょ、そんな人を食った態度のご仁が。
人生の目的は思索と徳を積むこと、肉体的な安逸や快楽の一切を拒否すべし
と主張する犬儒派の一人。それがディオゲネス。
55歳までは、貨幣の鋳造を担う高級官僚で、とても裕福だったらしい。それ
が贋金造りの汚名を着せられ、国外追放。以来、流浪を余儀なくされ、ホーム
レス哲学者になったとか。
そんな彼のように、俗事に一切惑わされず、ただひたすら思索することこそ
作家の理想だと、陳浩基は本書に彼の名を冠したのだそうです。
また、ミステリーファンならお馴染み、シャーロック・ホームズのお兄ちゃ
ん、マイクロフト・ホームズ。彼がつくったディオゲネス・クラブにも、著者
は言及しています。
ここで言うクラブは、もちろんDJがフロアを沸かせるあのクラブでも、大
学の同好会でも、銀座で夜の蝶が妖しく微笑むところでもなく、女人禁制、紳
士のみが所属し、大人の社交を楽しむ場所のこと。
それなのに、マイクロフトは一切の会話を禁じて、孤独に思索するためだけ
の場所をつくり、ディオゲネス・クラブと命名しました。クラブでありながら
反クラブでもあるビクトリア朝ロンドンで一番風変わりなクラブ。だったら家
に一人でいればいいじゃんなんて野暮は言いっこなし。そんな人間嫌いのマイ
クロフトもまた、ディオゲネスの正当な後継者として実に人を食っています。
さて、本書に収められた短編は、まず突拍子もないアイデアがあり、それを
アクロバティックな論理で解決、もしくは意表を突いた真相で驚愕させるとい
う構成を持っていますが、いずれにせよ、最後には周到に考え抜かれたどんで
ん返しがあって、これをむしろ、「オチ」と呼びたい。
というのも、現在47歳の香港人の手になるこれらの小説が、ある懐かしい日
本の作家を連想させるからです。
それは、星新一。
SF、ミステリー、ファンタジーと、スタイルは変えながらも常に「オチ」
のあるショートショートを書き続けた稀有な日本人作家。その独特な雰囲気に、
陳浩基のひっくり返し方が、どこか似通っている気がして仕方ない。
アイデアについては、奇想とまではいかず、むしろ星新一に比べて平凡とさ
え言えるかも知れません。
例えば、推理小説を書くためには、人を殺した経験が必要かどうか、とか。
もし、時間が売り買いできたら、とか。
嫌煙権があるように、コーヒーがある日突然禁止されたら、とか。
恐らく多くの人も、ぼんやり夢想したことがありそうですよね。
ただ、著者の凄さは、それを単なる夢想で終わらせないところ。
その夢想を出発点にして、ストーリーを引き出し、論理を紡いで、遥か遠い
結末へと見事に着地させるのです。
その突き詰め方は、やはり尋常じゃない。ディオゲネスのように、ひたすら
思索に耽り続けた成果なのだろうと思います。
また、星新一にはない個性もあります。それは、奇怪なまでに徹底した論理
性です。この点で陳浩基は、SF作家であるよりも、まずミステリー作家なん
だなぁ。
特に本書の掉尾を飾る「見えないX」は、ゲームの体裁で、論理だけを駆使
し、ある謎の人物の正体を特定していくお話。犯罪も起こらず、アクションも
ない。ただ登場人物がひたすら推理し、語るだけなのに、なんとスリリングな
ことか。結末の意外性も申し分ありません。
ところで、タイトルには『変奏曲』とあります。
これが本書を音楽本として取り上げた由来なわけですが、変奏曲とは、ある
モチーフを、さまざまな技法によって変化させ、そのバリエーションの展開を
楽しむ楽曲のこと。たったひとつのモチーフから、いかに多様な変奏を引き出
せるかが、作曲家の腕の見せ所です。
本書の場合、変奏されるのはモチーフというより主題である、と著者は自ら
解説しています。
「一部の作品は、互いに関連はないとはいえ似かよった主題をそれぞれに”変
奏”したのが明らかだ」
「本作(引用者注:本書収録の短編「姉妹」のこと)と「いとしのエリー」
(引用者注:これも本書収録の短編)はどちらも”姉妹と家庭”という主題の
変奏で、同時に、この二作と「藍を見つめる藍」は似かよった筋立てを変奏し
てできている」
なるほど、確かにこの3作についてはそういう解釈も成り立ちます。
しかし、他の作も含めて、短編集全体を貫く隠れた主題を見出そうとするな
らば、それは、ディオゲネスが徹底して否定した「欲望」だろうと思うのです。
言い換えれば、「ミステリーとは畢竟、欲望の物語である」ということが全
体のコンセプトだと捉えられる。
例えば、愛欲。
「藍を見つめる藍」では、ストーカーの欲望が。
「今年の大晦日は、ひときわ寒かった」では、恋する若者の幸福への欲望が。
「いとしのエリー」では、妻の性格を憎みつつ、容貌は愛さざるを得ない夫の
欲望が。
例えば、出世欲。
「カーラ星第九号事件」では、未来の軍部を舞台に発展派と保守派の権力闘争
が。
「作家デビュー殺人事件」では、文字通り作家になりたいという出世欲が。
「悪魔団殺(怪)人事件」では、仮面ライダーのパロディー世界で、怪人たち
の秘密基地に起きた怪人殺しが浮き彫りにする権力欲が。
その他にも、金銭欲はもちろん、正常でありたいという欲望、奴隷的境遇か
ら抜け出したいとう自由への欲望、さらには人生をやり直したいと言うホーム
レスたちの切ない欲望から、楽してAを貰いたい大学生たちのちゃっかりした
欲望まで。
「欲望のショーケース」を通して、人間というものを知る。
それが本書の主題であり、それでこそタイトルにディオゲネスを持ち出した
意味が、深まるのではないんでしょうか。
陳浩基
『ディオゲネス変奏曲』
2019年4月10日 印刷
2019年4月15日 発行
ハヤカワポケットミステリ
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
何十年も昔ですが、仕事で香港に行った時、現地の人たちが夕食に招いてくれ
ました。中に大皿の鶏料理があって、頭がついている。食べるわけではないの
で、飾りかなと思っていたら、円卓をくるっと回して、鶏の嘴が向いた席の人
は幸運という、おまじないなのか占いなのか、そんなお遊びがあったのです。
その時誰が、鶏と目を合わせたかは覚えてませんが、中華料理につきものの円
卓、こんな使い道もあったのかと面白かったです。もちろん、異文化は、面白
がるだけでは済まない部分もある。でも、少しでも理解を深め、なるべく面白
がりたい。その一助に、その国の文学を読むことがあるのでは。対決姿勢ばか
りが強まる昨今、その意味でも翻訳の重要性が増すような気がします。
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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紅茶の歴史を読んで考えた
『茶の世界史』(角山栄著 中公新書)
『一杯の紅茶の世界史』(磯淵猛著・文春新書)
世の中、いろんなことが起き過ぎて、すでにエリザベス女王の逝去がかなり
前のように思われます。あのとき、おばちゃまが印象的だったのが、エリザベ
ス女王を偲んで、即位70年を記念して製作されたくまのパディントンと共演し
た動画が繰り返しニュースで流れたこと。エリザベス女王陛下とパディントン
がお茶を飲むシーンを見て、知識として知ってはいたものの「やっぱりイギリ
ス人は紅茶が好きなんだ」と思ったのでした。(素敵なティーセットでした。
どこのブランドかしら?)
そこで、どうしてイギリス人はこんなに紅茶が好きになったのか知りたいと
思い、紅茶の歴史の本を2冊読んでみました。
「中国で飲まれていた茶がヨーロッパに伝わり、東洋の神秘的な飲みものと
して特にイギリス人を魅了するようになり、やがてイギリス人は茶の中でも紅
茶が気に入って飲むようになり、上流階級から庶民まで紅茶を飲むようになり
ました。需要拡大に伴い、中国だけでは賄いきれず、イギリス資本がインドや
スリランカで紅茶を生産するようになった」というのが紅茶のざっくりした歴
史です(ざっくりし過ぎ。ま、この間にアヘン戦争とかボストン茶会事件とか、
いろいろあるんですが割愛します)。
おばちゃまが疑問に思ったのは、なんでイギリス人は茶にミルク(牛乳)を
入れて飲むようになったんだろう?ということ。
東洋の感覚からいうと、緑茶にしろ、ウーロン茶にしろ、砂糖もミルクも入
れずに飲むのが普通です。茶にミルクっておかしな飲み方だと思いませんか?
ちなみにこの前、コメダ珈琲に行ったら、珈琲、紅茶、ミルクに小豆餡を入れ
たメニューがあって、「この感覚は名古屋ならではでは?」と思ったのですが、
当時、茶に砂糖やミルクを入れて飲むのはこれに匹敵するほどの面妖な習慣か
と思われます。
これに対しての答えはどこにも書いてなくて、ただ、
「産業革命のとき、労働者は食事の支度も満足にする時間がなかったが、紅茶
に砂糖を入れて飲めば、料理をせずとも手早く温かい飲みものを摂ることがで
き、カロリーを補給することができた」(『一杯の紅茶の世界史』磯淵猛著・
文春新書)
「有畜農業のイギリス人にとって、茶にミルクを入れるというのは、ごく自然
なことであったのではないかと思われる」(『茶の世界史』角山栄著 中公新
書)とあるのみです。
聞くところによれば、イギリス人はここ何百年もの間、ミルクティーを淹れ
るとき、ミルクを先に入れるのか、後から入れるのかで侃々諤々、喧々囂々の
論争をしているらしいのですが、(ここには階級が絡んでくるらしくて、昨今
の多様性の時代には言い難い問題を含んでいるそうですが)、東洋人にとって
は、「いや、そんなことより、そもそもなんで茶にミルクや砂糖を入れだした
ん?」ということを知りたいものです。
とは言いつつも、東洋人もイギリスからミルクティー文化を逆輸入して、今
も紅茶にミルクを入れて平然と飲んでいるのですから、ここであえて疑問を持
つ必要もないのかもしれません。(だからコメダ珈琲でも「なんで?」と思わ
ないのがいいですね。コメダの小豆餡入りコーヒーはとってもおいしいです)。
ミルクの件にこだわって書いてみましたが、一番先に紅茶に砂糖を入れたの
はポルトガルからイギリスに嫁に来たキャサリンというお嬢さまで、彼女は、
少しのお茶と船7隻に砂糖をどっさり積んできて、イギリス人をびっくりさせ
たそうです。砂糖は船がぐらつかないように重石(バラス)の代わりにしてき
たそう。当時、ポルトガルはブラジルで砂糖きびを栽培していたのでどっさり
と砂糖が入手できたというわけ。(強い風が吹いて船が転覆したらどうしたん
でしょうか。砂糖も海の中へドボンと落ちて一時的にあまじょっぱい海水がで
きたでしょう)。夫であるチャールズ2世はホントは持参金として銀を持って
きてほしかったらしいのですが、どっさりの砂糖と聞いて、了承したといいま
すから、当時は「砂糖≧銀」だったのですね。当時のイギリスは砂糖がなく、
甘味といえばはちみつしかなかったので、砂糖といえばとてつもない贅沢品だ
ったようです。
このように紅茶には面白い話がいっぱいあるのですが、この2冊を読み進め
ていくと、紅茶という食品の流通には闇があると感じました。
それが紅茶はプランテーション栽培でおこなわれているという事実。読んで
いるうちにチラチラと透けてきた、力のある国とない国の間の、現在も続く格
差についてもっと深く知りたいとおばちゃま、柄にもなくもう1冊本を読みま
した。優雅なイギリスのアフタヌーンティの後ろには低賃金で働く後進国の人
々がいる・・・・そのお話は次回にまた。
(検索したら出てました。女王陛下のティセットはロイヤルドルトンだそうで
す)
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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11月中旬も過ぎましたが、ぽかぽかと暖かい日差しです。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<153>フライングからのパラレルワールド
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→134 移動
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<153>フライングからのパラレルワールド
aguniさん、「ヒッチハイク」は、今なお有効のようです。
つい先日も、名神の京都南インター近くで、「岡山」と大書した札を掲げて
いる若者を見かけました。
高速のSAでは、同じように行先を書いたフリップ掲げる人、そんなに頻繁に
ではないけど、たまに見かけます。
10年程前には、神戸の、やはり高速IC近くの路上で、「HIROSHIMA」と書い
た札を掲げる白人女性を見かけました…が、この時の時刻は午前0時過ぎ…
おいおい、大丈夫なんかいな? と思いましたですよ。
しかし、わしが見た人たちは皆、フリップを掲げるだけで、あの「親指を立
てる」サインは出してなかったんですが、あのサインは今も有効なんでしょう
かね?
で、今回の本題。
吉田修一『おかえり横道世之介』(中公文庫)を読んだのだ。
映画にもなった前作『横道世之介』の続編。
その前作は、1987年に長崎から東京の大学にやってきた「横道世之介」が、
東京での生活に戸惑ったり、大学やバイト先でいろんな人と知り合って、その
人たちと何かをやったり喧嘩したり恋愛したり…という1年間が描かれるのだ
が、その知り合った人たちの現在…というのは2003年ころなのだが、その現在
が、合間合間に突如挿入される、という形式をとっている。
大学1年生の世之介の日常、というのは、取り立てて大きな事件があるわけ
でもなく、あのころの大学生が、まあ遭遇するだろうな、という問題に直面し
ては、悩んだり落ち込んだり立ち直ったり、なのだが、基本、あまり深く物事
を考えない世之介は、本人は気づかないまま、その存在で周囲の人達に元気を
与えている。周囲の人達もまた、その時には「元気をもらった」自覚はなく、
ずっと後…2003年時点の現在でやっと、そのことに気づいているのだ。
しかし、時制がときおり入れ替わるとは言え、1988年の世之介の日常は、取
り立てて言うほどの事件もなく、ただ平々凡々だらだらと続いていく。
読む進むうち、そのだらだらがいささか退屈に思えてくるのだが、時折挿入
される「未来」の描写の何度目かで突如、世之介の死が告げられる。
ここで読者は、それまで、世之介周囲の人々の未来は描写されていたのに、
世之介本人の未来が、決して語られることのなかったことに、「はた」と気づ
かされるのだ。
主人公・世之介の「死」が、あらかじめ予定されていることを知ると、それ
まで退屈に見えていた日常の「だらだら」が、俄然輝きを帯びてくる。どんな
に平凡でも退屈でも、その日常の一日の全てが、貴重な一瞬一瞬に思えてくる
のだ。そしてラスト、東京へやってきて1年後の、しかしやはり大して変わり
映えのしない世之介の日常が描かれて、その直後、唐突に、それから十数年後
の世之介の死後、長崎に住む世之介の母親が、大学生時代の世之介の恋人に宛
てた手紙が紹介され、これまた唐突に、物語は終わる。
読了後には、「うわ〜〜!」と、なんとも言えぬ不思議な感動を覚える小説
だったので、2012年に高良健吾主演で映画化されたものも、見てみたら、こち
らも、原作の「ふわっ」とした空気をよく捉えていて、なかなかの佳作でござ
いました。
で、今回は、その続編の『おかえり横道世之介』が出てるのを書店で見つけ、
迷わず買って読んだ…のだった。
『おかえり〜』は、前作で大学生だった世之介が大学を卒業した後、1993年
の1年間が描かれるのだが、バブル崩壊後に卒業した世之介は、就職戦線にも
乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐ、ダメダメ人生真っ最中だ。
そして、大学生のころと同じく、日常の中で知り合った人たちと係わりなが
ら、本人は自覚のないまま、その人たちに影響を与えていく。
「現在」と「未来」が交互に差し挟まれる展開は、前作と同じで、この度の
「未来」は、2020年なのだけど、読者はすでに2003年時点での世之介の「死」
を知っているので、前作ほどの感動はない…のだけど、前作同様、読了後には、
なにかいいものを貰った気分にさせてくれる小説だった。
この続編の中で、「あれ?」と思ったのは、「オリンピック」。
1993年に世之介がつき合っていた女性の息子が成人し、未来ではオリンピッ
クのマラソン選手になっている…のだが、そのオリンピックは、どうやら
「2020年」に開催されているようなのだ。
そして、満員の大観衆の歓声の中、国立競技場をスタートし、都内各地の沿
道に詰めかけた人たちの声援を得て、彼は奮闘するのである。
そこんとこでちょっと引っかかり、改めて奥付を見てみると、わしが買った
文庫版は「2022年」発行で、『続・横道世之介』のタイトルで発売された単行
本は「2019年」に出ていた。
そうか、そうか、そういうことだったのか、と納得。
そりゃ、そうだ。
2019年の時点で、まさか翌年のオリンピックが1年延期して開催されるとは、
さらに、その1年遅れのオリンピックは無観客で開催され、マラソン競技は東
京ではなく札幌が会場になる…なんて、想像もつきませんよね。
しかし、単行本から文庫化するにあたって、タイトルこそ変更したけど、そ
の「オリンピック」のくだりを、改編せずにそのままにしたのは、「勇気があ
ってえらい」と思う。
そこをヘタに改編してしまうと、物語の空気を損なうことになるし、なによ
り、これは小説なのであるから、事実に即する必要は全くない。
小説の中では、あくまで東京オリンピックは2020年に開催され、マラソンも
また当然、沿道に詰めかけた群衆の中、都内のコースを駆け抜けている、その
パラレルこそが、小説内事実なのだ。
この「パラレル」、以前にもなにかで見たぞ…と思い出したのは、故・水島
新司の漫画『あぶさん』だ。
2004年、「あぶ」こと景浦安武が所属する福岡ダイエーホークスは、堂々パ
・リーグ優勝を飾り、中日ドラゴンズとの日本シリーズを戦った、と漫画では
描かれた。…のだけど、実際には、その年、ホークスはレギュラーシーズンを
1位で通過はしたものの、プレーオフに敗れ、優勝したのは西武ライオンズだ
ったのだ。
当時は、レギュラーシーズンを1位で通過しても、プレーオフを勝ち上がら
ないと「優勝」にはならなかったのだ。
これは、レギュラーシーズン1位で通過した時点で優勝を確信し、プレーオ
フの決着がつく前に、日本シリーズを描いてしまった水島新司の勇み足による
フライングだったようだ。
さらに、福岡ソフトバンクホークスとなった翌2005年にも、水島新司は、ホ
ークスが1位通過した時点で優勝を確信し、「ソフトバンク−阪神」の日本シ
リーズを描いてしまうのだが、実際の日本シリーズは「ロッテ−阪神」。
この「パラレル」、そのままにしておけば、それはそれで面白かったと思う
のだが、ご丁寧にも、というか、水島は、その後の号で、この「幻の日本シリ
ーズ」を、2004年は、あぶさんの妻・サチ子の、2005年のは長男・景虎の「夢
だった」という、まさかの夢オチで決着しているのである。
『あぶさん』は、連載開始から終了まで、あくまで現実のシーズンに即して
描かれているがゆえに、この回だけは創作のパラレルワールド、というわけに
は、いかなかったんでしょうか?
かつてダイエーホークスの監督に就任した田淵幸一は、選手の名簿を見て、
「あぶがいないよ?」と言ったとか。
球団から「90」の背番号を提示された某コーチは、「90番はあぶさんだから」
と、他の番号を選んだというのも、有名な逸話だ。
そんな存在だから、あぶさんこと景浦安武が現役を引退した2009年には、当
時のYahoo! JAPANドームで、作者・水島新司氏を招待しての「引退セレモニー」
も開かれたのだろう。
「あぶさん」の存在は、ホークスにとっては、「パラレル」というよりも「バ
ーチャル」で、だから、現実とは違った描写は、あくまで「夢」として、処理
する必要があった…のかも、ですね。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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134 移動
11月に入ると、月ごとのカレンダーが残り1枚だねという会話を交わすよう
になります。毎年思うことですが1年は早いですね。
さて今月最初にご紹介する絵本は、クリスマス絵本。
クリスマスの季節に入りました。
『ちいさいフクロウとクリスマスツリー ほんとうにあったおはなし』
ジョナ・ウィンター文 ジャネット・ウィンター絵 福本友美子訳
すずき出版
ウィンター親子が本当にあった物語を絵本に仕立てました。
ジャネット・ウィンターの描く絵は四角い枠の中で展開されます。枠の縁は
ページごとに色が違うだけで、同じ大きさです。見開きでそれぞれの枠に描か
れているのに、不思議と印象は一枚の絵のようにみえておもしろいです。
2020年、アメリカ、ニューヨークのロックフェラー・センターのクリスマス
ツリーにいたのは、生きているアメリカキンメフクロウでした。
アメリカキンメフクロウの成鳥は体長約20cmほどで、アメリカ東部では最も
小さいフクロウだそうです。
毎年ロックフェラー・センターではクリスマスツリーが飾られます。今年は
23メートルほどのトウヒの木が選ばれ切られました。それから300キロほど先の
ロックフェラー・センターに到着し、しばらくはトラックに積まれたままでし
たが、シートが外され、実際にツリーとして飾られようとした時、作業員がち
いさいフクロウを発見したのです。
11月12日に木が切り倒され、16日に発見。その間は何も飲んだり食べたりで
きていなかったフクロウは弱っていましたが、発見後はよくめんどうをみても
らい、その事はニュースで流れ、この絵本の物語のきっかけになりました。
ちいさいフクロウの目元が愛らしく描かれ、その目からは、森での生活から
思いがけない場所に移動したことも、また自然の森に戻るまでも、自然に受け
止めているような気持ちが伝わってくるようでした。
私の好きな絵は、大きなクリスマスツリーの中で、まだ見つかっていないフ
クロウの姿を描いたものです。ちいさい目が「ここにいるよ」とうったえてい
るようで印象に残ります。ぜひ読んでみてみてください。
次に「小さい」つながりの幼年童話をご紹介します。
『だれもしらない小さな家』
エリナー・クライマー作 小宮 由訳 佐竹美保訳 岩波書店
絵本から読み物に移行するとき、幼年童話はその橋渡しにぴったりです。
1964年に書かれた翻訳作品に、描き下ろしの絵がたっぷり入っていて楽しい
雰囲気は表紙からもうかがえます。
舞台は大きなビルの谷間にたっている小さな家。もともとは、小さな家が最
初にあり、大きな庭もありました。しかし、町が大きくなっていくにつれ、高
いマンションがたつようになり、いつのまにか小さな家には住む人もいなくな
っていました。
そんな小さな家に興味をもったのは、近所に住むふたりの女の子、アリスと
ジェーンです。
どうして誰もこの家に住まないのだろうと興味津々でいつも家をのぞいてい
ます。そしてもう一人、アリスのご近所さんのオブライエンさんも興味をもっ
ているようでした。
3人は入れ替わり立ち替わりで家の様子を見続けています。
入居希望の人も幾組かあらわれます。
けれど、結局住む人は決まりません。
家が気になってしかたがないアリスとジェーンは、ついにだまって家の中に
入ってみるのですが……。
佐竹美保さんの絵は、小さな家の様子、周りの大きなたてもの、家を見学に
くる様々な人やアリスのご近所、小さなおばあさんのオブライエンさんをのび
やかに細かく描き出し、建物はリアルに、人はその人となりを浮かび上がらせ
ます。
子どもは小さなものが好きだなあと、我が子の子ども時代を思い出しました。
小さな狭い空間が何よりすきで、段ボールなどで家をつくるのも好きでした。
秘密基地をつくるような気持ちなのでしょうか。
さて、アリスとジェーンはこの小さな家とどうつきあうのでしょうか。
全ページたっぷりの絵にも見入ってしまい、読み出したらとまりません。
最後のご紹介するのは絵本です。
『世界はこんなに美しい アンヌとバイクの20,000キロ』
エイミー・ノヴェスキー文 ジュリー・モースタッド絵 横山和江訳
山烋のえほん 発行・発売 工学図書
なんてすてきなタイトルでしょう。
もうこれだけでページを開いてみたくなりませんか。
この絵本はオートバイで初めて世界一周をした女性、アンヌ=フランス・ド
ートヴィルをイメージして描かれています。
ひとりで旅をするのは、自由でいて少し怖いときもありそうです。アンヌ=
フランスは「いろんな場所へ行ってみたい」という自分の気持ちにじっくり向
き合い、旅に出る決意をかためました。
どんな気持ちで、
どんなものを準備し、
どんな世界をみたのか、
それらが、落ち着いたアースカラーの色彩で瀟洒に美しく描かれます。
自分の心をみつめるアンヌ=フランスの描写では、アンヌの大きな目を描き、
旅の準備物はひとつひとつを丁寧に描きます。例えば必要な工具として、タ
イヤレバー、プライヤー、レンチ、ペンチ、六角レンチなどを。
実用物として、おしゃれな白いドレスも描き込まれ、そのドレスを必要とす
るシーンは素敵でした。
旅をすることでみえてくるものが、ページを繰る毎に増えてきて、読んでい
るだけでドキドキしてきました。
アンヌ=フランス自身が旅について書いた本でこう記しているそうです。
「世界は美しくあってほしい、そして世界は美しかった。
人間はよいものであってほしい、そして人間はよき人びとだった」
コロナ禍になってから、自由な移動がままならない事にくるしくなりますが、
世界の美しさを実感できる自由な旅を絵本で読むのは心地よく、広い世界へ旅
に出たくなります。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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さい。
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遇しませんでした…。(あ)
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#149『ジョージ・マーティンになりたくて』
先日、アメリカの医療ドラマ『グッド・ドクター』を見ていたら、有名な陰
謀論者が入院してきて、自分は命を狙われていると訴えるお話。さらにその後、
フランスのミステリードラマ『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』
にも、陰謀論者が登場する回があって、あれあれ、やっぱ世界のあちこちで陰
謀論華やかなりしご時勢なのかな。
当然ですが、陰謀論には、フィクサーが欠かせません。すなわち、黒幕。時
代によってそれが、フリーメイソンだったり、イルミナティーだったり、ネオ
コン勢だったり、ロスチャイルド家だったり、宇宙人だったり。古いところで
は、「ユダヤ賢者」なんてのもあったな。
世界の歴史をシナリオ通りに操る、謎の人たちがいる。これが陰謀論の前提
ですね。
音楽の世界で黒幕、と言うと怪しいけど、それに近い立ち位置の人と言えば、
プロデューサーじゃないかな、と思います。
その原因は、どうもプロデューサーって何やってる人なのか、業界外の人間
からするといまいちよくわからないから。ディレクターならあれこれ現場で指
図する人だし、ミュージシャンならプレイする人、ミキサーとかエンジニアは
音をつくるし、とわからないなりにイメージが湧くけど、プロデューサー?
でも、映画のアカデミー賞なんか、作品賞を取るのはプロデューサーです。
監督じゃない。映画は集団芸術だけど、まあ、作者を誰かに絞るなら監督であ
って、例えば『未知との遭遇』は誰がつくったでしょう?って訊けば、大概ス
ピルバーグって答えると思うけど、違う。その作品をつくったのは、プロデュ
ーサーなのです。だから、監督も俳優も大御所になると、みんなプロデューサ
ーを目指すのでしょう。
日本の音楽界では、AKB48の成功以来、秋元康がプロデューサーの代名
詞になって、このよくわからない仕事にも、一応漠たるイメージはついてきま
した。それでも、実態はまだはっきりしない。完全にフィクサーから脱却して
いない。
そんな中、本書が出ました!
川原伸司『ジョージ・マーティンになりたくて 〜プロデューサー川原伸司、
素顔の仕事録〜』です。
著者は1950年生まれ。いわゆる団塊、そしてビートルズ世代。もちろん、タ
イトルにあるジョージ・マーティンは、そのビートルズのプロデューサーです。
ビートルズに憧れた洋楽青年が、レコード会社でバイトから始めて、70年代
のニューミュージック・ブームを牽引するプロデューサーとなり、その後も第
一線で活躍し続け、定年退職したいまもフリーランスで仕事をしている。その
人生を、いわゆる語り下ろしの手法で記録した、時代の証言としても貴重な一
冊です。
とにかく、目次に並んだ綺羅星の如き名前の数々。これを見ているだけで、
くらくらします。
第3章 杉真理
第4章 大瀧詠一
第5章 松本隆
第6章 松田聖子
第7章 中森明菜
第8章 鷺巣詩郎
第9章 井上陽水
第10章 筒美京平
作家からディーバまで、実に錚々たるメンバーではありませんか!
面白いのは、著者がA&R出身であること。
これ、「宣伝担当」ということです。
つまり、芸術家ではなく、音楽を商品として売る立場からキャリアをスター
トさせているわけ。だから、「ビジネスとして音楽をつくる」という姿勢が明
快で、本書は音楽本でありながら、ビジネス書としても読める。仕事に行き詰
まっている人にも役立ちそうな、自己啓発本の側面すらあります。
だから、タイトルには、仕事「録」とあるけど、実際にはこれ、川原伸司の、
仕事「術」と言ってもいいんじゃないかな。
例えば、アーティストと親しくなりすぎ「ない」、という抑制の取り方なん
か、逆説的だけど、なるほどなるほど。
ある距離を置かないと、アーティスト側に立ちすぎる。リスナー、すなわち
お客さんの視点も失わずに制作しないと、商品としては失敗するという冷静さ。
かと言って、プライベートでは一切つき合わない、会うのはスタジオだけ、
ということではありません。
大瀧詠一と頻繁に麻雀の卓を囲んでいたり、杉真理と竹内まりやの三人でビ
ートルズ研究会をやってみたり。
そうした関係もちゃんと構築している上での、客観性。
本人は「アンバランスなものを好みながらバランスもとる」と言っており、
中森明菜のアルバムに『UNBALANCE+BALANCE』というタイト
ルをつけたほど。
それは「てんびん座だから」のようですが、星座はともかく、この立ち位置
の取り方は、さまざまなビジネスでも有効ではないかと思います。結局、ビジ
ネスって、人と人、ですから。
共作の場合も、やはり人との関係なので、こうした著者の特徴がよく現れて
います。
著者は自身、作曲家でもあり、松田聖子の『瑠璃色の地球』は彼のペンにな
るそうですが、本書では井上陽水と共作する場面が出て来ます。
陽水のレコーディングをプロデュースした時、当時はまだシンセサイザーの
性能が充分に発達しておらず、その都度音づくりから始めなければならなかっ
た。そしてそれに、二十分ぐらいかかった。その待ち時間、著者がスタジオの
ピアノを遊びでぽろぽろ弾いていると、陽水がやって来て、そのピアノの下に
寝っ転がるんだそうです。
そしてピアノに合わせて、即興でメロディーを口ずさむ。それが次第に形に
なって曲ができるという。何とも不思議な作曲法です。
しかし考えてみれば、陽水も無名時代、暇に任せて忌野清志郎と一緒に曲を
つくっていたと、これは清志郎のエッセイに書かれていました。何となく孤高
な感じがする陽水も、案外共作というスタイルになれていたと言うか、著者と
同じくビートルズマニアですから、ジョン・レノン&ポール・マッカートニー
に憧れがあったのかも知れません。
ともあれ、この作曲法にも、つかず離れずの絶妙な距離を感じます。
もうひとつ、ビジネスとして音楽をつくるということは、「依頼されてつく
る」ということだ、という指摘が、当たり前のようですが、新鮮でした。
著者は作編曲家の鷺巣詩郎とよく仕事をした時期があり、この時代に「依頼
されてつくる」ことを学んだと言います。
自分の心から溢れてくるメロディーを定着するのではない。
自分の頭の中で鳴り響いているサウンドを形にするのでもない。
依頼主の意向に沿った音を生み出すのが、仕事としての音楽制作。
しかし、依頼主は往々にして音楽には素人です。自分ではつくれないからプ
ロに頼むのです。
すると、彼の意向は、具体的ではない、抽象的にならざるを得ない。それで、
よく出る言葉が、「派手にしてくれ」だそうです。
これが実にリアルで(ま、体験だから当然ですが)、いや、ほんと、言いそ
う。
そういう時、ブラスを入れると大体派手になる。でも、全編にわたって入れ
てしまうとダメ。ここぞというところにだけ使うと「派手になった」と人は思
うんだということを、著者は鷺巣詩郎と一緒に学んで、成長していったわけで
す。もちろん、これはほんの一例で、彼がその頃手に入れたカードは、もっと
もっとたくさんあるのでしょう。
はっぴいえんどの名盤が、意外にも当時2000から3000枚しか売れてなかった
とか、だから著者は大瀧詠一の名作『ロング・バケーション』を、「元はっぴ
いえんど」の肩書では売らなかった、なんて話も興味深いです。
筒美京平が江戸っ子で、人を「あんた」と呼んでいたなんていう話も、妙に
嬉しくなっちゃいます。
語り下ろしのため、時系列がちょっと追いにくい難点がありますが、最後に
年譜を載せて、きちんと補っているところは、それこそバランス感覚であり、
この本をつくったスタッフの優秀さを感じました。
先日、ビートルズの「タックスマン」が新しいミックスでリリースされまし
た。そのプロデューサーは、ジョージ・マーティンの息子ジャイルズ。もろ、
ジョージ・マーティンズ・チルドレンですが、著者もまたその一人として、こ
れからも素晴らしい音楽をプロデュースしてくれるでしょう。
川原伸司
『ジョージ・マーティンになりたくて 〜プロデューサー川原伸司、素顔の仕
事録』
2022年8月3日 初版発行
シンコーミュージック・エンタテイメント
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
陰謀論と言えば、都市伝説。先日、下北沢で行われた都市伝説トークライブに
行って来ました。語り手は本業がミュージシャンの久樂陸さんとPE-さん。
「都市伝説クイズ」のコーナーもありましたが、お客さんはみんなマニアの猛
者揃い、自分なんか到底答えられないだろうと思っていたのに、なんと10問中
2問に正解!(自慢ですw) もちろん、本題のトークも大充実で、いやあ、
都市伝説ってほんとに面白いものですね!
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『22世紀の民主主義』成田悠輔 SB新書
最近ネットで有名な論客の本である。ネットもフルに活用しているようで夜
はイェール大学の助教授として働き、昼は日本で会社経営をしているという。
専門分野は「データ・アルゴリズム・ポエムを使った公共政策の想像とデザイ
ン」という人である。
本のテーマは、民主主機の改造といっていいだろう。冒頭に、少子高齢化の
現在、若者は常に少数派で、若者がいくら選挙に行っても彼らの民意は無視さ
れると身もふたもないことが書かれている。
そこから、主に若者に向けてということなのだろうが、改造の方向性として、
一章ずつ、都合3つをあげるのだが、いずれもダメだと断じてしまう(笑)
本の2/3がこの調子なので、正直途中で読むのを止めようかと思ったが我慢
して読み進めよう。この本の本領は最後の第4章「構想」にある。
4章の内容は、データを集め、分析するアルゴリズムによって支配される社
会が22世紀の民主主義を実現するという予想だ。未来の管理社会と言うと、オ
ーウェルの「1984」のようなディストピアみたいなものがこれまで想像されて
きた。
これに対し、成田氏は「1984」なみ、いやそれ以上かも知れないプラシバシ
ーもへったくれもないAIによる超監視社会の到来を考えている。しかしそれを
ディストピアとは捉えていない。
たとえば選挙。民意を問うツールとして選挙はもちろん使うが、今よりもも
っと「解像度が高い」選挙になる。
この政策を掲げるこの政治家を支持しているのは誰がどのように見ているの
か・・・たとえばA党のB候補を支持しているのは、ホワイトカラーの自営業
者で情報サービス業に携わる者が80%、定年退職者で図書館に週2回以上通い、
マルクスを読み「なるほど」と理解する者が5%「何言ってるかさっぱりわか
らないけど美人だから」と思っている人が10%みたいなところまで解像度が上
がる。
もちろん選挙だけが変化するのではない。むしろ今より選挙の重要性は大幅
に低下する。そのかわり、世論を汲み取るツールが多種多様になる。その、世
論を読み取るツールに囲まれた世界が、超監視社会なのだ。
世間で行なわれる会話対話が全て収集される。報道だけでなく会社の会議室
やSNSなどネットの書き込み、動画の主張はおろか、家庭や街がどの会話や国
民一人一人の表情まで記録、整理、そして高い解像度で可視化されるのである。
あまり映画を見ているわけではないが、カリン・クサマ監督、シャーリーズ
・セロン主演のSF映画「イーオン・フラックス」の最初に出てくる「国民監視
施設」のようなものか・・・メディアに乗る評論や統計データはもちろん、全
国民の親子げんかや恋人同士の愛のささやきだけでなく、なにかつらいことが
あって部屋で1人泣いている姿も収集記録される。そんなイメージだ。
映画の中ではもちろんこの施設はディストピアの象徴なのだが、そうした国
民のデータを収集整理したAIが政策を立案したり、政策の選択肢を提示する社
会を成田氏は構想している。
そんな世界では自分が政治を動かしている実感はない。しかし自分の行動を
AIが監視していて、AIが個人の意思を汲み取って必ず政策に反映していく。
よく知らないが、たとえばシングルマザーは貧困に陥っている人は多いと聞
く。貧困に陥っているシングルマザーは一円でもお金を稼ごうと時間があれば
働こうとしたり、努力しても報われないため絶望して選挙に行かないと仮定し
よう。そんな人の民意でさえ、AIは拾って政策に反映させる。それが成田氏の
考える監視社会なのだ。監視というより、観察と言った方がいいかもしれない。
情報通信の技術と能力が向上することで、AIがこれまで拾えなかった民意を
拾い、反映する・・・これを成田氏は「無意識民主主義」と呼ぶ。
多数だったら影響はするだろうが、声が大きい人の意見が通るわけではない。
逆に従来無視されがちだったサイレントマジョリティの意思も決して無視され
ることはない。そんな社会では政治家は基本必要なくなるので、たま駅長よろ
しくネコでもいいと言うことになる。
本のタイトルは22世紀だし、そんな社会が近いうちに出現するとは考えにく
い。著者本人も書いているが、突っ込みところも確かに多いのかも知れない。
たとえばいくら監視(観察)社会が社会を良くするとしても、不倫の現場を観
察されてもいいとか、エロ本見てオナニーしている姿を監視観察されて愉快に
思う人は少なかろう。
これから銀行強盗や殺人をしようとする人も、実行前にバレてしまうので嫌
なはず・・・あれ、治安が良くなるぞ。
ま、それはともかく、監視社会に一種の楽園を見いだすのは、さすがYouTube
で人が悪そうなことを言う人らしい・・・褒め言葉ですw
私の現状認識では、成田氏は露悪家だと思う。露悪の対義語はたぶん偽善家
だと思うけど、成田氏の次の本は偽善について書いて欲しいと思う。だって露
悪家の書く偽善の本とか、いかにも面白そうだと思いませんかw?
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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実証とドラマの間を漂う歴史学
『歴史学者という病』(本郷和人著 講談社現代新書)
著者は数年前からテレビ出演をして歴史のあれこれの知識を広げていました。
クイズを出題して絶妙にボケたりして重宝されている東大の先生です。
元号が令和になったときNHKに生出演して、「令和なんておかしい」みたい
なアンチコメントをして場を冷やしていて(「歴史学者が万葉集に入ってくん
な」とおばちゃま、そのときちょっと思いましたが)、しばらくはお見受けし
ませんでしたが、今年は大河ドラマが鎌倉時代とあって、中世歴史研究者の先
生はあちこちで大活躍です。
歴史学者というのはどういう存在なのでしょう。
本郷先生は東京の下町・亀有生まれ。小さいときから秀才で、中学受験は教
駒(今は筑駒)には落ちたけれど武蔵中学に合格し、そこで歴史に目覚めて東
大に進学し、歴史学を志望します。
そこで歴史とは、本で読んだ血沸き肉躍るような物語ではなく、学問として
の歴史は実証を中心にした科学だと理解します。
「私は図書館に赴いた。入門と銘打たれた歴史学の書籍を数冊抜き出したが、
なじみ深い加藤清正の虎退治も、豊臣秀吉の出世物語も出てこない。(略)
「こんなのオレが好きな歴史じゃない!」心からそう叫びたかった」
ここがプロへの入り口ですね。
で、本当の歴史を学ぶべく、いろんな先生と出会いながら進んでいくのです
が、では実証だけが歴史なのかというとそれも違うと先生は考察するのです。
先生は「東京大学史料編輯所」というところの教授なのですが、ここでの仕
事というのは明治34年から続く「大日本史料」の編集作業。日本では「日本書
紀」を筆頭に国が行った史書が6つありますが(六国史)、それが887年から
1867年まで途絶えていて、その980年分の歴史をまとめようというプロジェク
トです。古文書を調べて歴史的事実を網羅し「子どもが神社の壁に小便をひっ
かけた」という古文書も入れるため、1年分の歴史を作成するのに10年かかる
大プロジェクトです。この編輯所は江戸時代の盲目の国学者・塙保己一の業績
の一部を引き継いだものなんだそうです。すごーい。この事実を知っただけで
もこの本を読んだ甲斐がありました。
細かい作業を続けながら、著者は歴史について実証だけではなく、歴史学者
の史観が必要=実証史学が大事と考えるようになります。
「歴史事実や史料からこつこつと『史実』を復元する。次に復元された史実を
いくつも並べて、その史実たちを俯瞰する「史像」を集めたうえで、「史観」
という歴史の見方を生み出していく(略)それこそが歴史学の本質なのだ」と
考えた著者は、実証のみが大切という同僚の歴史学者と侃々諤々の論争の末に
その同僚を「あんた、バカだ」とののしってしまい、地獄絵図のようなののし
り合いに発展してしまい、その場を凍りつかせます(令和発表のときのNHK
の100倍ぐらいと推定・笑)。
そのへんのことは素人にはわからないけれど、史観というのは難しいよね。
誰だったら史観を生み出していいのかが微妙。
たとえば隣国周辺のように、時の権力者が史観を生み出せば専制政治になり、
人気作家が史観を生み出せば歴史の歪曲になる(最近、司馬遼太郎の史観につ
いて批判されるなど)。歴史学者の史観にしても、あの「日本地図をくるりと
逆さまにするとほらね、日本海なんて大陸と日本列島の間の湖じゃないの」で
おなじみの網野史学は政治利用される危険性もありそうです。
この本には「歴史学の歴史」が述べられていて、それも興味深かったです。
ちょうど昭和20年代生まれのおばちゃまが中学生だったころはマルクス系唯
物史観の時期だということになり、そういえば、中学の先生が夫の苗字につい
て、「軍隊を想起させるからイヤなのよね」と言っていたことも思い出しまし
た。(そういいながら本人はゴリゴリのプチブル・笑)。
あと受験についても批判していて、山川の欄外を暗記して受験を乗り切った
私は「だってしょうがないじゃないか〜」とえなりかずきのようにつぶやくの
でした。
*ドラマが欲しい一般人とガチな歴史学の間の深くて広い河の渡り方は?
著者はもっと日本の歴史を広めたいことと、ちょっと人気も欲しいという人
間的欲望のため、テレビなどメディアにも出るというのですが、私たちってド
ラマを欲しているじゃないですか。草履を温めた秀吉とか、三本の矢とか。そ
れどころか、歴女とか2次元世界のファンによって、とんでもないキャラ付け
されている武将とかがいる時代です。ガチな歴史学者がドラマ的な日本史との
乖離をどうやって埋めているんだろうと興味があります。それでも興味を持た
ないよりはもってもらえるほうがいいとは思うのですが。
来年の大河ドラマは徳川家康を主人公にした「どうする家康」。著者はこの
プレPR番組に出て主演、松本潤といっしょに岡崎城周辺のロケに参加してい
ます。
ロケ終了後も松潤は1時間ほど著者と縁側で話していたとされていますが、
一体何を話したのか気になります。撮影を間近に控えた主役は当然、家康とは
どんな人物だったのかを知りたいと質問したと思います。しかし、塙保己一の
流れを汲む正統派歴史学者としてハッキリ言えることは限られてくる、そのと
きはどう答えたのでしょうか。広いバラ園で摘まれた無数のバラから抽出され
る一滴の香水のような答えが出たのか、つとに知りたいと思うのでありました。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
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本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
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は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
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■あとがき
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ちょっと長旅に出ていて配信が遅くなりました。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<152>続・「さすらい人」ってのに、なりたかった頃
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→133 自然を考える
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<152>続・「さすらい人」ってのに、なりたかった頃
1974年のわしは、18歳で浪人生だった。
その夏、家族は親戚の三家族と相揃って、二泊三日の予定で信州方面へと、
総勢18名という大集団で家族旅行に出かけて行った。
わしは、浪人生なのを理由に参加を断り、家で留守番してると申し出た…の
は、別の計画があったから。
いまさら家族旅行でもなし、ならば、家族が留守になるのを幸い、一人で
「さすらいの旅」に出よう、と思っていたのだった。
テレビの『遠くへ行きたい』や『木枯し紋次郎』、それに漫画や小説やら山
頭火やらを読むにつけ、「旅」や「放浪」や「さすらい」なんて言葉が持つロ
マンティズムに、ずっと憧れていて、この機に「いっちょ、さすらってみます
か」と考えたのだ。
母親が、火の元や戸締りをしつこく念押しして、家族がドヤドヤと出かけて
行ったその翌朝、夜明け前に家を出た。
一応、居間のテーブルの上に「4、5日旅行に出かけます」と書置きは残し
ておいた。
一番電車に乗って、大阪駅まで行った。
「夜が明けたら、一番早い汽車に乗るから(浅川マキ)」のだ。
行先は、とくに決めてなかった。なんせ「あてなき一人旅」だから。
決めてはなかったけど、一人旅なんだから、当然、北へ向かうべし、「窓は
夜露に濡れて…(朝だけど)」だよな、と一人で納得しつつ、とりあえず金沢
までの切符を買って、北陸線に乗った。
大阪始発の急行列車では、なんとか席は確保できたが、「アンノン族」や
「カニ族」で、車内はほぼ満員。
あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてくる「青春」満載列車は、一路北
を目指すのであった。
金沢で、七尾線に乗り換えて「羽咋」で降りた。
金沢までの急行で、車内に掲示してある地図を見たらば、能登半島を海沿い
に一周するには、ここで降りるのが都合がよさそうだった。
とりあえずの目的地を能登半島一周と決めたのは、車中でふと、松本清張原
作のTVドラマ『ゼロの焦点』を思い出した故だった。
ドラマで見た断崖絶壁と、波荒く、暗い日本海が、「さすらい」のイメージ
に「ぴったりだ」と思ったからだ。
羽咋駅で降りたのは、わしだけではなかった。
3両編成の列車の全員が降りたんじゃないか、と思えるほどの大勢がここで
下車して、ぞろぞろと出口に向かっていく。
大半が男で、しかもいわゆる「カニ族」スタイル。でかいリュック背負った
軍団…っても、一人一人はバラバラなのだけど、これが同じ方向を目指して、
歩いていく。
リュックこそ背負ってないけど、ジーパンにTシャツその上にダンガリーシ
ャツ、という同じような格好のわしも、彼らに続いて歩きだした。
ちなみに、わしの持ち物は、前年に元町の米軍払い下げ品を扱う店で買った、
オリーブグリーンのショルダーバッグひとつで、これに着替えその他を詰めて
いた。
「さすらい旅」の基本は、「徒歩」だ。
と、海岸沿いの国道を歩き始めたのだが、大勢のカニ族たちが、やはり同じよ
うに歩いていて、さながら行列…
その行列から抜けたいと、第1回目のヒッチハイクを試みると、すんなりと
車が停まってくれて、東京から来たという大学生の車だった。
基本は徒歩だが、ときにはヒッチもあり、と決めていたのだが、その日に停
まってくれたのはこの大学生だけで、途中から別方向へ行くという彼と別れて
後は、いくら手を挙げても一台も停まってくれず、その後はずっと歩きだった
のだが、途中で、荷物を満載したリヤカーを曳く人と出会った。
リヤカーを曳いて日本一周をしている、と言うその人と、しばらく一緒に歩
きながら、リヤカーキャンピングの話とかいろいろ聞かせてくれて、こういう
のも「いいな」とは思ったが、リヤカーはなかなかに重そうで、わしには、ち
ょっと「無理…」とも思ったのだった。
その日の夕方、門前という町に辿り着き、ユースホステルに宿をとった。
ユースホステルの会員証は、高校生の時に取っていたものだったが、実際に
使うのはこれが初めてだった。
2食付きで一泊1500円くらい…だったかな?
部屋はもちろん個室などではなく、だだっ広い大広間に雑魚寝…はいいんだ
けど、夕食後に「ミーティング」てのがあって、宿泊者それぞれが自己紹介し
たりゲームやったり歌をうたったり…というのは、あんまり「さすらい」っぽ
くなくて閉口した。
翌日も、ほぼ海岸線に沿って、徒歩とヒッチで輪島まで移動した。
輪島でもユースホステルに宿をとったのだが、前日の門前のユースよりもず
っと規模の大きなユースホステルで、夕食後の「ミーティング」もまた、人数
が多い分おおいに盛り上がり、雰囲気は和気藹藹で、「さすらい一人旅」に浸
りたい身としては、バックレたいのが山々ではあったが、一人で空気を毀すの
も「なんだかな」と、我慢して最後まで付き合った。
3日目もまた徒歩とヒッチで、初日からこの日まで、何台かの車に便乗させ
てもらったはずなのだが、最初の大学生以外は、記憶からほぼ消え失せている。
通算で5、6台に乗せてもらったと思うのだけど。
その3日目は、能登半島の先端である禄剛崎を回り込む前後には、停まって
くれる車が全くなくて、かなり「ひーこら」言いながら炎天下を歩いていた記
憶が鮮明だ。
能登半島の先端を回り込み、珠洲市というところで日が暮れたのだけど、こ
の日は、あてにしていたユースホステルが満員で、他に(安い)宿泊施設もな
く、いよいよ「野宿だな」と思い定めた。
宿がなければ「野宿!」というのもまた、この「さすらい旅」のテーマのひ
とつでも、あったのだ。
一夜の宿は、海岸に求めることにした。
砂浜が柔らかそうで、寝やすいんじゃないかな? と思ったのだ。
高校時代、仲間とキャンプをしたのは、山陰の浜辺だったのだが、あの時、
テントが寝苦しくてたまらず外に出て、砂浜で寝るとすごく安眠できたのを、
思い出したのだった。
ユースホステルのシーツ(ユースホステルに宿泊するには、所定のシーツ持
参が必須なのだ)を敷いて寝転び、バッグを枕に、高校のキャンプのときにも
持って行ったポンチョを蚊よけに被った。
浜に寝転んで夜空を見上げると、無数の星が、うるさいほどに空一杯にひし
めき合って煌めいている。
しばらく、そんな夜空を見ていると、そのうちに、星のいくつかは流れだし、
やがて「ひゅん」「ひゅん」と音を立てるように、無数の流れ星が海に向かっ
て落ちていく。
あれが「流星雨」というものなのか、ともかくこれは、絶景という簡単な言
葉では言い表せぬほどの絶景でした。
何時ころだったのか、ふと人の気配で目が覚めた。
わしが寝ている周りを、3人ほどの男女…男二人女一人だったと思う…が取
り囲んでいる。
驚いて身を起こすと、中の一人、ヤッケのような上衣を着た男が、「なにし
てるの?」と訊いてくる。
てっきり警察関係かなにかだと思い、「え…えと…」と、旅行中で、宿がな
かったので野宿してることを、しどろもどろで説明してると、別の方角から懐
中電灯の光が射し、「どしたんだァ?」と男の声がする。
見ると、漁具らしきものを抱えた漁師と思しき中年男性と、その家族だろう
か、やはり中年の婦人と、子供が二人、こちらへ歩いてくる。
漁師さんの懐中電灯に照らされた3人は、なにやら目配せしあって、そそく
さとその場から去って行った。
「なんだ、あいつら? 知り合い?」と言う漁師さんに首を振り、もう一度、
宿がなくて野宿してる旨を伝えた。
「だったら、うちに来なさい、泊めてあげっから。風呂にも入れるよ」と漁
師のおじさんは、後ろの奥さんに「な?」と念押ししながら親切に勧めてくれ
たのだけど、今日は「野宿!」と決めてもいたので、丁重に断った。
それから10数年後だ。その当時、日本海沿岸の各地で、ある日突然理由もな
く様々な年齢性別の人々が失踪する事件が相次いでいて、それはどうやら北朝
鮮の工作員による拉致誘拐であったらしい、との報道が世間をにぎわすのは。
ニュースを見て、あの夜の3人組をふと思い出し、「ひょっとして…」と、思
わず身震いしてしまった…のは、また別の話なのだけど。
「うちにおいで」という親切な漁師さんの申し出を断ってしまったのを、凄く
後悔する羽目になるのは、今少し時間が経った真夜中だった。
雨が、降ってきたのだった。
慌てて、野宿を撤収し、ポンチョを被って駅へ向かった。
すぐ近くに、国鉄能登線の終点である「蛸島」駅があるのは、前日に見て知
っていた。
最初は、そのホームのベンチで寝ようかと思ったのだけど、硬そうだったの
でやめたのだった。
その一面きりの粗末なホームの、小さな建屋の中のベンチにうずくまり、も
う一度寝ようとしたのだが、今度は寒くて、とても寝られない。
ひと晩、まんじりともせず、夜が明けるのを待った。
夜が明けて明るくなると、雨は止んでいた。
一番列車を待とうかとも思ったのだが、まだかなりの時間がある。
駅前の道路に出て手を挙げると、トラックが停まってくれた。富山県の氷見
まで行く、という20代らしき運転手さんが、「そこまでで良かったら、乗れや」
と言ってくれて、もちろん異存はない。
ヒッチハイクのマナーの第一は、車内で絶対に「寝ない」ことだ。
わしも、乗った当初は、神戸から来たことや、この3日間の経路や出会った
人のことなんか、一生懸命喋って、運転手さんに気を遣ってはいた、のだけど、
いかんせん、前夜はほとんど寝ておらず、そのうちに「落ちて」しまったよう
だった。
今回、グーグルマップでこの時のルート検索をしてみたら、国道470号経由
で約120キロ、所要およそ2時間。
当時のことだから、もっと時間がかかったかもしれない。
気が付くと、トラックは氷見の駅前に停まっていて、不機嫌そうな運転手さ
んが「駅だよ」とぶっきら棒に言って横を向く。
慌てて礼を言い、車を降りたが、運転手さんは、不機嫌なまま車を発進させ、
無言で立ち去った。
疲れた…というのが、その時の実感だった。
もはやヒッチハイクや、増して徒歩など思いもつかず、氷見駅から列車で高
岡経由、金沢へ出た。
金沢で、一旦は駅の外に出、「う〜〜ん」と約10秒間考えた末、「帰ろ」と
決めた。
そして、手持ちの金がまだ結構残っていたのを幸い、特急指定席という、
「さすらい漂泊ひとり旅」に在り得べからざる選択をし、ぬくぬく楽々で家路
についた三泊四日の「さすらい」なのだった。
しかし、あらためて書き出してみると、ほんとに「ごっこ」以外の何物でも
ないですね。
当時は、結構な冒険をしてきた、と思っていたのだけどね。
でも、あの野宿の海岸で見上げた、満点にひしめき合っていた星と、そこか
ら次々と海に零れ落ちていく流星雨は、あのときの感激とともに忘れ得ぬ思い
出になっている。
それと、あの時の3人組、あれはいったいにナニモノだったのか、今なお、
気になっておるのです。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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133 自然を考える
台風のみならず、最近は豪雨災害も毎年のように日本のあちこちで発生して
います。いやが応にも、映像で目にするすさまじい様子に、自然のことを考え
ずにはいられません。
そんなときに届いたのがレイチェル・カーソンの伝記絵本でした。
『レイチェル・カーソン物語 なぜ鳥は、なかなくなったの?』
ステファニー・ロス・シソン 文・絵
上遠 恵子 監修 おおつかのりこ 訳 西村書店
レイチェル・カーソンは『沈黙の春』の作者で、環境保護運動に大きな影響
を与えた生物学者でもあります。
『沈黙の春』のなかで、殺虫剤のような化学物質を使うことで、鳥のさえずり
やミツバチの羽音すら聞こえないときがくるかもしれないと訴え、環境保護運
動がはじまるきっかけとなりました。
はじめて化学物質の危険さを伝えたレイチェル・カーソンはどんな幼少時代
を過ごしたのでしょう。
鳥のさえずりが大好きで家のまわり耳をすますレイチェル。
ピール ピール
チア− チア−
ティーケトル ティーケトル
レイチェルにはまわりの生きものたちのさえずりが音楽のように聞こえます。
そして目をこらすと、地面にも様々な生きものの世界があります。
季節の中でもっとも好きなのは春ですが、移りゆくどの季節も鳥の声はレイ
チェルを楽しませてくれます。
見たり感じたりしたことをお話に書くのが好きなレイチェルは、いつか作家
になりたいと大学に進学します。
ところが、大学の生物の授業でまたあらたな世界に心をうばわれ……。
表紙のレイチェルは、好奇心いっぱいの目をしてノートに何か書いています。
その好奇心は特に自然に向けられ、自然の異変を誰よりも先に感じとり、とこ
とん調べ、言葉にしていきました。
レイチェルの目線で描かれる鳥や虫、生きものは、あたたかみのあるアースカ
ラーで愛情深く描かれています。
わが家の庭では、ありがたいことに毎日鳥たちがさえずっています。休みの
日にその声に耳をすます楽しみが消えることのないよう、自然に対する意識を
持ちつづけなくてはと思いました。
レイチェル・カーソンは『センス・オブ・ワンダー』という自然の声に耳を
すませて書かれたベストセラー本もあり、様々な人の翻訳、写真で出版されて
います。
手頃な文庫で入手できるものに、本書の監修をされた上遠恵子さんが訳され
た新潮文庫版はおすすめ。川内倫子さんの写真は日本で撮影されたものなので、
風景がより身近に感じます。
また昨年刊行された絵本、『しぜんのおくりもの』(イザベル・シムレール
文・絵 石津ちひろ訳 岩波書店)も、自然の美しさを存分に感じるのでぜひ
読んでいただきたい一冊です。
この絵本は横に細長い形で、フランス語での名前のABC順に並んでいます。
シムレールの絵は緻密で色彩が華麗。どのページの生きものたちの毛一本一
本までが近くでみているかのように描かれ、特に目元は生き生きして見入りま
す。
さて、こうして自然をみていると、鳥や生きもの、草花の名前を知りたくな
ってきませんか。ポケット図鑑などもちながら散策するのも楽しいですし、ス
マホのアプリやグーグルレンズなどの検索も便利になってきています。
それでも名前をみつけるのが難しいと思うときがあり、こんな本を読んでみ
ました。
『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか? 生きものの”同定”でつま
ずく理由を考えてみる』須黒 達巳(ベレ出版)
観察しつづけることで養われる「目」。この「目」をもつまでに、どこを注
意してみていくといいかが、わかりやすい説明と写真で教えてくれる本です。
図鑑のようにたくさんの種類が載っているわけではありませんが、ポイントが
おさえられていて、なるほどなるほどとうなずきます。巻末には、著者おすす
めの図鑑一覧も。おもしろいです。
さて、最後にご紹介するのは「手」の絵本です。
『すかしてビックリ! 手のしくみ』
イダン・ベン=バラクとジュリアン・フロスト 作
宮坂宏美訳 あすなろ書房
「手」のしくみを教えてくれるのは、遠い星の住人であるポヨンと、宇宙雲
のモクモク。
くっきりきれいなグリーン色のポヨンと、パキッとはっきりしたピンクの色
のモクモクは、もともと手がありません。
ふたりが旅の途中(ニョリーの誕生会に行くため)、宇宙船が故障したので
修理が必要になり、そのためには「手」がないと、ということで、手らしきも
のをポヨンにつけたものの、最初はふにゃふにゃして使い物になりません。
「手」を「手」として使えるようにするには何が必要なのか。
ふだん、あたりまえに使っている「手」は、骨、筋肉、神経をつなぐことで
働くことができるのです。骨の次は筋肉、そして神経とひとつひとつ順番に、
ちょっとおもしろい仕掛けで教えてくれます。
なにより、きれいなビタミンカラーで描かれているので、読むと元気な気持
ちをもらえた上に「科学の目」を養えます。ぜひご一読を。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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今時もヒッチハイクって成立しているんでしょうか? 今月末、長距離ドラ
イブを予定しているので、ちょっと気になりました。(あ)
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#148『ショパンゾンビ・コンテスタント』
前回の『風のレッスン』から、ピアノ繋がりで、町屋良平『ショパンゾンビ
・コンテスタント』をご紹介。
え、ゾンビ? ってことは、ホラー? と色めき立つ諸子(いないかな、そ
んな人?)には申し訳ない、全然ホラーじゃありません。若手クラシック・ピ
アニストの登竜門ショパン・コンクールを題材にした、音楽小説であり、恋愛
小説であり、メタフィクションでもある文学です。
ショパン・コンクールと言えば、昨2021年、ワルシャワで開催されたショパ
ン国際コンクールでは、幼なじみの日本人男女、反田恭平と小林愛実がそれぞ
れ2位と4位に入賞したとか。
ところが、ショパン・コンクールって、実は世界各地で開催されているらし
いのですよ。作曲家自身の故郷であるポーランドの首都ワルシャワが本家と言
うか、一番格が上らしいけど、他にもたくさんのショパン・コンクールがあり、
なんなら日本でも開かれているそうで、いや、知らなかったな。
その、日本でのコンクールを控えた音大生・源元と、そのカノジョの潮里、
友人の「ぼく」、二人のバイト仲間である寺田くん、彼の許嫁・チカ、という
五人を巡る物語。
まず音楽小説としての側面。
「ぼく」もまたピアニストを目指して音大に進み、源元と仲よくなります。
しかし、源元が天才であるため、自分の才能のなさを痛感し、「なんとなく」
挫折。音大を中退して、家にも居づらくなって、フリーターをしながら近所の
安アパートに一人で暮らしています。この辺り、映画『アマデウス』の天才モ
ーツァルトと凡人サリエリを想起しますが、ともあれ小説全体のクライマック
スは、源元が挑む日本のショパン・コンクールなので、彼に主軸を置けば一人
の若きピアニストの苦闘を描いた音楽小説として読めるわけです。
しかし、語り手が「ぼく」である以上、語られる内面は「ぼく」の心の中で
あって、実はそこでは音楽なんかより、むしろ潮里への恋でいっぱい。
潮里は現在進行形で源元、つまり親友のカノジョなのに、それを承知で「ぼ
く」は堂々と自分の気持ちを打ち明けます。ところが潮里は源元にベタ惚れな
ので、まったく相手にしない。
しないんだけど、なぜか時々「ぼく」の手を握ってきたり、「ぼく」のポケ
ットに手を突っ込んできたり、変に思わせぶりな接触を仕掛けてくる。と言っ
て小悪魔的性格なのではなく、むしろさばさばしたボーイッシュな印象だから、
う〜ん、こういう子って、始末に悪いよね。
そして源元はこのことを知っているのか、知らないのか、よくわからない。
そんな奇妙で微妙な三角関係です。
さらには、フリーター仲間の寺田くんと、その許嫁・チカの関係も謎めいて
います。どうやら寺田くんはフリーターなのに名古屋の名家の息子らしく、チ
カは彼を「寺田さま」と呼ぶし、寺田家にはかなりの権力があることがほのめ
かされるのですが、これも明確なことはわからない。
源元と潮里、「ぼく」と潮里、寺田くんとチカ。三つの関係が錯綜する、あ
る種スリリングな恋愛小説でもあるわけです。
そしてメタフィクション。
ピアノをやめてしまった「ぼく」は、バイトで生活しながら、音楽の代わり
に小説を書き始めます。そのモデルが、源元なのです。
しかし、小説は順調に進行せず、書き出しては破棄し、書き出しては破棄す
るの繰り返し。それが随所に挿入されるので、メタフィクションによくある入
れ子構造になっているというわけ。
それにしても、不思議な小説です。
ある段落が、「ぼく」の書く「小説」なのか、それともこの物語における
「現実」なのか、冒頭では明示されずに、次の段落になってやっと「という小
説の書き出しを潮里に読ませた」とあって、あ、「小説」だったんだ、とわか
る。
この軽い迷宮感は面白いけど、とはいえ、ホラー映画でもお馴染みの演出。
ほら、主人公が恐ろしい目に遭って、あわやというところではっと目が覚め、
夢だったとわかるっていう、あれ。あれを文章でやっていると思えば、さほど
目新しくはないのです。それに、慣れてくると、はっきり書いてなくても、あ、
これ、「小説」だな、と察しがつくようになるんで、多分著者の狙いも迷宮感
にはないでしょう。
すると、何なのか?
そこで、この小説には欠けているものがあることに気がつきます。
それは、ストーリー。
源元がコンクールに挑むため努力を重ね、ついに本番を迎え、圧倒的な演奏
を聴かせるまでがメインのプロットのようではありますが、先に書いたように
「ぼく」の内面は音楽より潮里に占められているので、読者はずっと源元を見
守っているわけではない。
かと言って、潮里との関係も、中途半端なまま停滞。小説が終わるまでまっ
たく進展しません。
寺田くんとチカも、別れる、別れないの悶着があるものの、結局元の鞘に収
まって、かと言っていよいよ結婚に踏み切るのでもなく、また許嫁同士に戻っ
て、チカは健気に「いつまでも寺田さまをお待ちします」なのです。
「ぼく」の書く「小説」も、最後に至ってようやく完成し、文学賞への応募に
向けて推敲を重ねる段階にはなるけれど、それがどんな小説なのかは明かされ
ず、さらっとエピローグ的に触れられるだけ(もちろん、「ぼく」が作者自身
で、その小説が本書であるなら、メタレベルで答えは出ているわけですが)。
つまり、これは、「宙ぶらりん」の小説なのだと思います。
もはやピアニストがコンクールを目指して夢をかなえる的なビルドゥングス
ロマンや、三角関係のもつれが別れや成就の解決に収束していく恋愛小説とい
った、近代的な枠組みのストーリーはお呼びではない。
むしろ、解決しない状態に、現在を正確に写し取る。それが著者の狙いなん
じゃないでしょうか。
ところで、「宙ぶらりん」と言えば、われわれ学生の頃、「モラトリアム世
代」と呼ばれたんですね。
モラトリアムは元来、戦争や天災などの非常時に、借金の返済を一時的に猶
予することですが、それが、長い受験戦争を戦い終わってやっと大学に入った
けれど、卒業したら就職して実社会に放り込まれて、新たな競争にさらされる
わけだから、せめてそれまでの4年間は、猶予期間として遊び回ろうぜ、とい
うわれわれの価値観を揶揄した言い方になったのです。
そのモラトリアムを象徴した小説が、田中康夫の『なんとなくクリスタル』
でした。
なので、本書でも「ぼく」が「なんとなくピアノをやめる」という点に、響
き合うものを感じることができます。
できますが、『なんクリ』のヒロインは女子大生、つまり「大学」という制
度の中にいる人なのです。彼女の自由は、だから、所詮社会の方も許容してい
た束の間の自由、期間限定の宙ぶらりんだった。卒業という未来は見えていた
し、その先も見えていました。見えていたものがどんなに嘘寒い風景だったと
しても、やはり見えていることは見えていたし、それを拒否まではしなかった。
しかし、本書は違います。
フリーターの「ぼく」も潮里も寺田も、先はまったく見えていません。
源元すらも、ショパン・コンクールには出たものの、本家ワルシャワのそれ
ではないのです。
チカも、確かな約束のないまま、名古屋で寺田くんを待ち続けています。
その未来の見えなさが、『なんクリ』とは決定的に違う。
そう考えてみると、タイトルにある「コンテスタント」は、コンテストを受
ける人、という意味ですが、まさにまだ何者にもなっておらず、またなれる保
証もない彼らの立ち位置を象徴しているのかも知れません。
そしてそれは、彼ら五人だけのことではないのです。
資本主義は終わったと言われる昨今。
議会制民主主義だって、致命的に低い投票率が示すように、動脈硬化を起こ
して、健全に機能しているとは言えない昨今。
つまり、経済においても政治においても、とっくに近代の枠組みが寿命を迎
えているのに、未だ次の解が見い出せていないから、だらだらと続けているの
が「いま」だとするなら。
この宙ぶらりんな、誰もが「コンテスタント」である状況を、2019年に書か
れた五人の若者の群像は、正しく映し出しているような気がするのです。
町屋良平
『ショパンゾンビ・コンテスタント』
2019年10月30日 発行
新潮社
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
学生時代、ビートルズのコピー・バンドをやるのが、わが「モラトリアム」。
ある時、学校の近くにライブハウスがオープンし、ビートルズ・ナンバーを演
奏するハウス・バンドのメンバーを募集するという告知が! 早速友人と二人、
勇んでオーディションに出掛けたものの、あえなく失格、という思い出があり
ます。あれ以来、オーディションは受けていません。ちなみに一緒に受けた友
人は合格しました。帰り道の、お互いに気を遣う感じの微妙な空気。妙に面白
かったなぁ。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『恋人以上友人未満』yatoyato ジャンプコミックス
ネットをうろうろしていると、少年ジャンブのアブリ、「ジャンプ+」の広
告がやたら出てくる。その宣伝で、アブリをインストールしたら初回全話無料
で読めるよと宣伝に使われていた作品である。
引退した元AV女優と元AV男優が、郷里に帰ってそれぞれの親に勧められて見
合いをするのだが、まさか昔の同業者が来るとは思わなかった。もちろん親に
はお互いの過去は隠している・・・というか、青年誌なら分かるが、少年ジャ
ンブがこんな設定のキャラクターのマンガ掲載していいのかw?
ま。それはともかく。男の方は芸名カンブリア牧、本名は花丸正樹。男優と
しては肌黒にサングラスにラッパーの髪形だが、ふだんは短髪のラガーマン体
型でまじめを絵に描いたような人。
女の方は芸名吉良木らら、本名木村花子。女優としてはロリコンが喜びそう
なかわいらしさがウリだったが、ふだんはヤンキーみたいである。
昔の同業者と見合いとか最悪だろ・・・と2人とも思って、メシだけ食って
別れようとするのだが、正樹がふと想い出してクルマから花束を出してきた。
戸惑う宮子を前にして、正樹は花屋をやっていること、そして花屋になるのが
夢だったのだと含羞んだ。
宮子はきゅんとしたというより、そんな正樹が眩しかったのだろう。思わず
形だけでも付き合ってみないかと正樹に提案する。形だけでも付き合っている
と、親が見合いしろとうるさく言うことがなくなるから・・・という理由をつ
けて。
正樹は、AVの仕事を経て、自分の夢であった花屋を開いた。なのに自分は、
夢を実現できていない・・・恋愛感情と言うより、こんなふうになりたいと言
うあこがれを宮子は抱いたのだと思う。
で、そこから、2人は愛をはぐくみ、最後に2人は結婚することになるのか、
あるいは花子は正樹の元から羽ばたいて再び夢の実現にまい進するようになる
のか、はたまた別展開になるのか知らないが、その過程がちょっぴりづつ進ん
でいくのが今後のストーリーになるのだろう。ほのぼの感が、とてもいい作品
だ。
ところでなぜ作品のスタートがお見合いになっているのか? 独身研究家の
荒川和久さんの主張を例に挙げるまでもなく、お見合いは現在絶滅危惧種の出
会いの手段だ。私はこの作品中で見合いを仕掛ける親の年代になっているが、
今の時代にこんなおせっかいな親はいないし、親たちが見合い勧めたりしない
だろうと思うのは、間違いだと思う。
作者は、たぶんそんなことは百も承知で古くさい親を描いている。見合いの
復活すべきみたいなことを作者は言わないが、読者は見合いもいいなと思って
くれたらいいな・・・くらいのことは考えていると私は想像する。
幸せな結婚は、恋愛でしか成立しないわけじゃないからだ。私の妄想かも知
れないが、作者は恋愛結婚を否定はしないまでも、お見合い結婚を見直すべき
じゃないかと思っているような気がする。
恋愛結婚が大多数になった現代は、3組に1組が離婚する時代である。離婚
しない2組の中にも、さまざまな事情から離婚したいが、できないという夫婦
も少なくないだろう。私の独断と偏見だが、2組に1組は結婚に失敗している
と見ていいのではないかと思う。
結婚が個人の幸福の一類型であるとするなら、こんなに幸せになれる確率が
低いのは由々しき問題だ。ならば出会い方の別の選択肢も検討すべきではない
か? それがこの作品の裏テーマのような気がしている。
なぜならこの作品は、恋愛で愛をはぐくむのではなく、出会いから恋愛をは
ぐくむストーリーだから。
で、この作品が大ヒットすると、実際に見合いは復活するかもしれない。な
ぜそう思うのかと言うと、文芸作品は願望を満たすものがヒットするから。平
和な時代には血わき肉躍る戦争物が流行るが、戦時には平和な世界を描く作品
が好まれる。
今はきな臭いとは言え戦時ではない、しかし結婚と言う世界では、ほぼ戦時
中と考えていいのかも知れない。だって推定半分の夫婦が幸せじゃないなんて、
非常時とは言ってもいいんじゃないか?
なんてことを考えると、この作品はヒットするかもじゃなくて、ヒットしな
ければならない。多少なりとも幸せな結婚を増やせるかも知れないのだから。
そうなると、日本の少子高齢化は止められないまでも、進行スピードは緩まる
かも知れない。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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アマゾンは便利ですが・・・のお話
『信仰』(村田沙耶香著・文藝春秋刊)
村田沙耶香さんの著作は芥川賞を受賞した『コンビニ人間』で魅了されてか
らだいたいの著作を読むようにしています。前にも述べたと思いますが、一部
から『コンビニ人間』を非正規雇用で働く人の実態を描く的な、社会的な観点
から分析する傾向がみられましたが(特に新聞系の書評が多かったですが)、
あの本は一言でいえば、サイコパスってどんな人なのかを描いた本だと思いま
す。サイコパスというレッテル貼りになっていたらすみませんが、つまり一般
的な常識から外れた感覚を持った人間を描いていて、非常におもしろかったで
した。
今回の新作はタイトルが「信仰」です。今村夏子著『光の子』がたいへん印
象的だった私は、読み比べようとアマゾンで購入。宗教は今、旬なテーマでも
ありますしね。
で、わくわくしながら読み始めて、たしかに「信仰」はすばらしい作品でし
た。村田沙耶香作品はどこかにユーモラスな表現があることに気が付きました。
それが、皆が欲しがる食器ブランドの名前(ネタバレになってしまいますが)
「ロンババティック」だったりします。この奇妙なブランド名からカルトを批
判する人も別の価値観に支配されていることを暗示してクスリと笑えました。
このブランド名からチョコレートプラネットのネタを思い出しちゃいましたが。
(チャラ男に扮したチョコプラの2人が、お互いがつけているもののブランド
を褒め合うコント。即興でいかにもなブランド名を言っていくので2人が笑い
をこらえるさまがみどころ。「あれ、もしかしてそれってロンババティックじ
ゃない」「わかる?買っちゃったのよ」「すごいね。じゃこれは?」「あ、も
しかして○○じゃない?珍しいんじゃない」「う〜ん、日本に3本とか言って
たかな」・・・延々とこれが続く・・・すみません)。
で、ページをめくっていてそこでわかったのは「信仰」が短編だということ。
この短編は違う世界に連れていってはくれるのですが、なにせ短い。不全感が
残りました。
次の「生存」はごめんなさい、やや薄味でした。で、読んでいくと途中にエ
ッセイが入っていました。それも朝日新聞掲載。それも「多様性」とか「個性」
とかのワードに絶大の賛美を送るタイプの多くの人が読みやすいようなエッセ
イです。いわば「私はこのスタンスで小説を書いています」という小説家とし
ての世界観の薄い表明になっていて。ちょっと残念でした。っていうか、小説
を読んでいていきなりエッセイが出てくる違和感。
担当の編集者! これでいいの?(帯を見るとたしかに「最新短編&エッセ
イ」と書いてありましたが)。
これもアマゾンで中を見ずに買ってしまったためでしょう。言われてみれば
価格も1200円と安いからしかたないのかも。書店で見たらこの本を買ったかな
と自問しつつ、やはりアマゾンには限界がある、書店の復活を願うばかりです。
そして担当編集者の人! 次回はぜひに長編を。この世の精神的なパラレル
ワールドを描く好きな作家さんですが、今回の短編は少しだけ例えれば板倉俊
之の描くインパルスのコントになりそうな表層的な描き方が多かったような気
がします。
あの「コンビニ人間」で書いた「赤ちゃんの泣きやませ方なんて簡単なのに」
の衝撃的な一行を含む、価値観のパラレルワールドをぜひ味わいたいものです。
次回作も読みますから〜。最後に、この書評がチョコレートプラネットとかイ
ンパルスとかお笑い(コント)の例を引用し過ぎたことをお詫びして筆を擱き
ます。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
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■あとがき
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台風一過。あちこちで被害も出ているようですね。
早い復旧を祈ります。(あ)
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#146『風のレッスン』
コロナ第七波。
感染者数高止まりで、未だ緊張の夏。
これだけ増えると、感染経験を持つ人も、身の周りに珍しくなくなり、無症
状とか軽症で済んだという話など聞くと、もはやさほど恐るるに足らず、とい
う気にもなりますが、後遺症の話を聞くと、やはり怖い。
味がしなくなる味覚障害、臭いがしなくなる嗅覚障害、長引く倦怠感などは
よく知られていますが、足の裏が痛くなるなんてケースは割と最近知りました。
それもひどい場合、車椅子生活になってしまうなんて。
そして、案外多いのが、聴覚障害。コロナになると、血管に血栓ができるの
で、これが脳や、脳と耳の間で起きると、耳鳴りや難聴に苦しむそうです。
われわれ音楽愛好家にとって、耳は大事。
昔、仕事で出張した時のこと。
一泊した翌朝、同行者の一人と顔を合わせると、眼がひどく充血している。
「え、どうしたの? 大丈夫?」「いや、全然痛くもかゆくもないんで」なん
てやり取りから、もし失うとしたら視覚、聴覚のどっちがマシか、という妙な
話になり、彼は、「目かなぁ。音楽聴けなくなったら、かなりしんどいと思う
から」と言ってました。
さて、本書の著者・宮本まどかは、ピアニストです。
なのに、耳が聴こえない。
えっ、そんなバカな、と普通思うわけで。
それは、「聴こえない」イコール「まったく聴こえない」と思い込んでいる
から。しかし、聴覚障害にも、さまざまな種類があります。
「ほとんど聴力がないろう者や聴力が残っている難聴者、生まれつき聞こえな
い人や中途で失調した人など、ひとくちに聴覚障害者といっても、いろいろな
タイプの人がいる。」
ところが、著者は「自分がどのタイプに属しているのか把握していない。手
話サークルのベテランの先生も、
「まどかさんは、ろう者でもないし、中途失聴難聴者でもない」
だから、かわいそうだと言う。」
生まれながらに障害を持っている。だから、中途失聴者ではない。
でも、僅かに聴力が残っている、だから、完全なろう者でもない、というこ
とですね。
著者の場合、補聴器を使えば不完全ながら音を認識することはできる。しか
し、相手が何と言っているのか、言葉をきちんと聞き分けるには、とても長く
辛い訓練が必要で、唇の動きを読む読話も併用すれば、辛うじて日常の用を足
せるレベル。
そんな状態で、人はピアニストになれるのか。
コンサートを開けるほどの腕になれるのか。
その答えは、この本の存在自体が語っています。
けれど、障害者が障害に負けずに生きる苦労話というだけではなく、本書に
は音楽本として、非常に重要な問題が提起されていると思うのです。
著者は自身が弾くピアノの音を、健常者である聴衆と同じように聴いている
わけではありません。補聴器を使っても、はっきりとした音程は認識できず、
いわば霧の中を手探りで歩くように弾いている。
しかし、ここで改めて考えてみると、演奏家が健常者であっても、実は聴衆
とまったく同じ音を聴いているわけではないことに気がつきます。
著者が初めてピアノに触れた時、この楽器に興味を持ったのは、振動のせい
でした。
指で鍵盤を押すと、ハンマーがピアノ線を叩く。それで音が鳴るのですが、
同時に、ピアノ線を通じて振動がピアニストの指にも伝わっているのです。そ
の振動の心地よさ、確かさが、彼女にとっては新鮮な驚きであり、ピアノに向
かうきっかけとなりました。
耳がよく聴こえないからこそ、指先から伝わる振動に、純粋に感動できたの
でしょう。
もちろん、健常者のピアニストも、当然指から伝わるその振動を感じていま
す。
ただ、同時に、耳から聴こえる音も聴いている。
音も空気を震わせる振動なのですが、かたや指、かたや空気、異なる媒質を
通すために、ふたつの振動にはタイムラグが生じます。このタイミングのずれ
が、演奏者には、振動が干渉し合う揺らぎとして体感されます。
一方、聴衆は直にピアノに触れてはいませんから、耳から入って来る空気の
振動、つまり「音」のみを聴くわけです。
この違い。些細なようで、案外大きい。
そのことは、録音した自分の声を聴いたことがある人には、ピンと来るはず。
声帯を震わせると振動が生まれ、それが口腔内で響いて口から出る。それが
空気を媒介にして耳に届くのが、自分の声です――が、それだけではありませ
ん。同じ振動が顎の骨を伝わって、やはり鼓膜に達しているのです。イヤホン
などでお馴染みの、骨伝導というやつ。
当然、空気と骨では振動の伝わるスピードが違うので、このタイムラグが干
渉波を生みます。われわれは、この「干渉波」を自分の声だと思っている。
ところが、録音された自分の声には、骨伝導がない。空気を伝わる振動だけ
が聞こえるので、干渉が起こらない。そのため、
「あれ、俺の声ってこんなだっけ?」
と首を傾げることになるのです。
日頃聴いている自分の声とは違うように聞こえる。
同じことが、ピアニストと聴衆の間でも起きている。
ただ、それが微差であるために、殆ど意識されていないに過ぎません。
ところが、振動のみを感じるピアニストという稀有な存在によって、その微
差が大きな違いとして浮き彫りになった時、われわれは案外、コミュニケーシ
ョンって何、という深い問いに直面しているのではないでしょうか。
指から伝わる振動と補聴器を通した曖昧な音程を聴いているピアニストと、
空気を伝わる明確な音程を聴いている聴衆。同床異夢という言葉がありますが、
まさにそんなことがコンサート会場で起きているとすれば、その時、お互いは、
何を聴いて、何を共有して、何をわかり合っているんだろう……
とはいえ、本書はそんなややこしいことなんか考えず、一人の聴覚障害者の、
果敢な挑戦の物語として、同じ障害に苦しむ多くの人と家族へのエールとして、
爽やかな感動を持って読むことができます。
風のレッスンで、心の風通しをよくしてみては。
宮本まどか
『風のレッスン』
平成十年四月四日 初版発行
静岡新聞社
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
本書の装丁を手掛けたのは、友人のアートディレクター。その縁で、本書を知
ることになりました。本との出会い方にも、いろいろあるものです。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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日本共産党の100年
『日本共産党-「革命」を夢見た100年』 中北浩爾 中公新書
日本共産党 暗黒の百年史 松崎いたる 飛鳥新社
今年の7月15日、日本共産党が創立100周年を迎えた。公式の党史は出なか
ったが、非公式の党史は創立記念日に合わせて3冊出ている。どれもかなりの
ヒット作になっているようだ。
そのうち二冊で拙稿を書く。三冊のうち二冊だけだが、二冊を続けて読むと
腹いっぱいになって、三冊目を読む気が失せてしまったのが原因である。で、
同じテーマの本なのでタイトルが似ていて紛らわしいので、著者の名字をタイ
トルにしたい。
まずは中北本である。客観的に百年史を詳述している本はこれになるだろう。
日本政治外交史を専門とする学者の方らしく、それぞれの時代の国際情勢とリ
ンクさせながら党史を語っていく。順番も創設時から現在まで順々に説明され
ていく正攻法の構成だ。
第一章は戦前の弾圧、第二章は戦後の合法化から武装闘争時代、第三章は宮
本顕治の時代で、第四章は不破時代とくる。順々に読んで行くと、創立直後か
ら武装闘争時代まで(正確にはもう少し先までだが)、ソ連や中国の共産党の
影響下にあり、日本に合った形の政党運営ができなかったことがわかる。
外国からの干渉で最も影響が大きかったのは、「君主制の廃止」などの反天
皇政策を掲げざるを得なかったところで、日本の共産党創設者たちはそんなこ
とまで考えていなかった。ここでコミンテルンの要求に屈して、反天皇をかか
げざるを得なくなったのがそもそもの不幸であった。
その後も干渉は続けられた。資金援助もあったので逆らえなかったのだろう
が、ここで日本独自の運動が出来ておれば、戦前に弾圧されなかったとは言わ
ないが、戦前のかなり遅い時期まで弾圧を避けられたであろう。戦後もコミン
フォルム批判を無視できていたらかなり状況は変わっていたのではと思う。
そうした外国からの干渉の歴史を断ち切ったのが宮本顕治と言う人で、党内
にいた反対派を次々と党から排除していき、外国からの干渉を受けない「自主
独立路線」を完成させて党を躍進に導いた。
そして共産党の単独政権が出来ないとみるや、他党との共闘の可能性にかけ
てみたり、少しづづ日本に併せた左翼政党への変身を図っていくのだが、そう
した変身を共産党より先にやっていた労農派や日本社会党などを過去散々批判
していた歴史もあるわけで、共闘はなかなかうまく行かない・・・そりゃ、そ
うだろう。いじめた方は忘れても、いじめられた方の記憶は残っているのだ。
松崎本は、党歴30年の区議会議員だった著者が党のスキャンダルを告発した
ら追い出されたと言う経歴の方である。とはいえ党に怒っているというわけで
はなく、自分が人生を捧げてきた党をどう見ればいいのかを探りながら書いて
いるのが前書きを読むと分かる。
内容は党がひた隠しにしていた部分に焦点を当てている。第一章に来るのは
市川正一と言う、党史的には非転向で官憲に殺された戦前の英雄の実際の姿は
違っているとする内容だ。
英雄譚は、歴史には付きものだが、当時の社会主義勢力にも英雄が求められ
た。日本の体制側にも英雄がいた。たとえば、こんな人だ。聞くところによる
と、今なお慰霊祭には外国の潜水艦関係者も来ると言う、潜水艦乗りの世界的
な英雄である。
https://shuchi.php.co.jp/rekishikaido/detail/3789
体制側にも英雄がいるのだから、非転向で官憲に口を割らずに殺された「英
雄」が求められていたと言うことだろう。
第二章、三章は結党の経緯から、宮本顕治によるスパイ査問の殺人事件まで
が描かれる。このあたりは立花隆の「日本共産党の研究」あたりを読んだ人に
は既視感があるかも知れないが、殺された小畑達夫の死因にエコノミー症候群
もあったのではないかとする仮説が新しい。新しい医学の知見が、死因の追求
に新しい光を当てたことになる。
第四章は戦後の徳田球一と宮本顕治の権力闘争、言い換えれば徳田派(所感
派)が幅を利かせていた頃から宮本顕治が党内権力を奪取するまでの歴史で、
いわゆるコミンフォルム批判と武装闘争時代の話。
第五章は中国共産党との蜜月と敵対の時代が描かれる。このあたり多くの人
が誤解しているが、日本共産党はソ連共産党や中国共産党と蜜月だった時期も
あるけど、宮本顕治の時代に意見の相違や介入によって敵対した時期も長かっ
たのだ。中国共産党と仲よくなったのは21世紀からで、今は再び敵対している。
そして、第六章。著者が一番書きたかったろう「除名された人々---多様性
を許さぬ民主集中制」である。野間宏や丸木位里を始めとした著名人党員や反
核運動の考え方の相違(といっても裏には中国共産党がいたりするが)によっ
て党の重鎮たちがどんどん党から追放され、本体の党がカルト化していく歴史
である。
その後はいわゆる、過去にゲイやレズを不道徳で退廃だとしていた歴史や、
憲法と自衛隊との主張の変遷、そして天皇制の評価の移り変わりなどが描かれ
る。そうした解説の裏にあるのは、単なるご都合主義で主張をコロコロ替える
姿だが、それを時代に合わせた変更と解釈するのが中北本で、松崎本ではご都
合主義ととる。
そうした見解の差はあれど、こうして党史が話題になることが良きにつけ悪
きにつけ共産党と言う政党の存在感の大きさなのだろう。他の政党の党史など、
こんなにも関心は持たれないし、書いても売れないのだから。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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→<150>パリのつげ義春
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<150>パリのつげ義春
『つげ義春 名作原画とフランス紀行』(新潮社・トンボの本)という本を、
この度手に入れた。
2020年、つげ義春は、フランスのアングレーム国際漫画祭において、特別栄
誉賞を受賞し、授賞式と、現地で開催された原画展への出席のために、パリへ
飛んだ。そのフランス行きの様子やインタビューが、本書には収められている。
2020年当時、受賞のニュースに接した際には、受賞それ自体には「ちょっと
遅いんでないかい?」とは思えど、格別な驚きというのは、なかった。
驚いたのは、つげ義春が、わざわざフランスまで行って、自ら授賞式に出席
した、ということだった。
「つげ義春とパリ」…式典は、パリではなくアングレームで開催されたのだ
が、一応パリも経由しているのだ…「パリの街角に立つつげ義春」…「温泉」
でも「街道」でも「宿場」でも「商人宿」でもなく、パリ・フランス…とても
想像がつかなくて、好奇心から購入したのが、本書だった。
表紙には、セーヌ川を見下ろす橋を背にするつげ義春。なんか、以外に似合
ってます。
冒頭、パリと授賞式会場でのつげ義春を撮った、何枚かのポートレートに続
いて、受賞に先立つ1年前の2019年、フランス「zoom japon」誌によるインタ
ビュー記事。
水木プロでアシスタントをしていたころには、「水木さんは特に女性を描く
のが苦手」だったので、『ゲゲゲの鬼太郎』では、鬼太郎以外のキャラのほと
んどは、つげが描いていたことなどが語られる。
このインタビューは、2019年からフランス語版、英語版の全集が同時に、順
次刊行されることを記念してのものだったらしい。
インタビューに続いて、つげ義春の元・担当編集者にして、現在は漫画に関
してプロデューサー的な活動を続ける浅川満寛による「パリ、アングレーム同
行記」。
2020年2月1日に羽田を発ち、4日に帰国するという慌ただしい日程だが、
予想通り…というか、かなり大変だったようだ。
このフランス行きを、アングレーム側と連絡とり合いながらアテンドしたの
が浅川氏だったらしいが、まずは「行く気」にさせるのが一苦労だった。
つげ氏はもう、端から「フランスなんて…とてもとても…」と、まるで行く
気がないのを説得するも、「行く」と言った翌日には「やっぱり、行かない」
と常にのらりくらりで、しびれを切らせたアングレーム側から航空券が送られ
てきて、ようやくその気になった…と思うと、出発前日になってまたもや「行
かない」と言い出す始末。
同行した息子のつげ正助氏に説得されて、ようやく羽田空港に現れ、浅川氏
もほっとしたらしいが、その風体は、普段着に小さなショルダーバッグだけ、
という近所に散歩にでも出かけるようなスタイルで、着替えも持って来てなか
ったので、パリ到着後、フランス側のスタッフが、下着と靴下を買ってホテル
に届けてくれたそうだ。
ちなみにつげ氏、空港でチェックインした直後に、「やっぱり帰る」と言い
出したそうで、浅川氏、正助氏に再び説得され、不承不承飛行機に乗り込んだ
らしい。
現地へ着いてからも、一日に一回は「もう帰りたい」を口にしていたつげ氏
だが、授賞式とその後の原画展でのレセプションでは、にわかに能弁となって、
浅川氏を驚かせた。
しかし、主催者側が用意してくれたフランス料理やイタリア料理の食事には、
ほとんど手を付けなかったので、心配した浅川氏が「何か食べたいものはあり
ますか?」と尋ねると、「サンドイッチかなんか」。
浅川氏、街へ探しに出たらしいが、あちらのサンドイッチは、ほとんどが硬
いバゲットのサンドイッチで、「日本式」のサンドイッチやパンが買える店を
探して奔走したり、と大変な4日間でもあったらしい。
この「同行記」に続くページでは、正助氏が父親の作品とフランスでの原画
展を語っている。
正助氏は現在、父親のマネージャー的な仕事をこなしており、今回の原画展
では、原画の選定と発送のほとんどすべてを担ったらしい。
正助氏の語りに続いて、浅川氏によるつげ義春への「帰国後」のインタビュ
ー。
毎日「帰りたい」と呟いていたらしいつげ義春だが、「あっちの古い町なん
かも見物できたし、後から思い出すとよかった」とも語っており、いずれ「つ
げ的」パリの風景などもイラストにしてほしいな…と思う。
そして、本書中これが一番の頁数なのだが、巻末に『沼』『ほんやら洞のべ
んさん』『長八の宿』『もっきり屋の少女』『李さん一家』『やなぎや主人』
『海辺の叙景』の7作が、原画そのままの形で掲載されている。いずれも好き
な作品なので、嬉しい。
しかも、これが原画のままで掲載されているので、ホワイトで修正された跡
とか、写植の下に見える鉛筆文字、経年劣化による原稿用紙の紙ヤケや汚れな
ども、そのまま見ることができて、とても興味深い。
中でも一番古い作品である『沼』(1966年)などは、元の原稿を枠線の少し
外側で切り取り、今様のブルーの当たり線が入った漫画専用原稿用紙に貼り付
けてあり、これなんか、あちこちで雑誌掲載や単行本掲載を重ねた結果、ペー
ジノンブルの写植の貼ったりはがしたりや、編集用にトレシングペーパーを貼
り付けたセロテープの跡などで、原稿が汚れに汚れた結果、やむを得ず、こん
な処置がされたんだろうな…と思える。
こういう状態で掲載されていると、ナマの「版下」としての漫画を見ること
ができて、とても嬉しい。
それにしてもつげ義春、元々絵のうまい漫画家ではあるのだが、全盛期の絵
はとても緻密で、仕上げもまた、途轍もなく丁寧だ。
これが見られただけでも、定価2500円(税込み2750円)の価値はあった、と
いうもの。
ところでフランス、最近では、あの『カメラを止めるな』をリメイクした
『キャメラを止めるな』が、ただいま絶賛公開中だし、つげ義春の今回の特別
栄誉賞受賞や全集の刊行もそうだが、故・谷口ジローもまた、いまだに人気の
高い漫画家だというし、印象派の昔から、ヨーロッパの中でも突出して日本の
カルチャーシーンに注目し続け、面白がっている国なんじゃないか、と思えて
きた8月なのだった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第147回 防災・・・終わりのない挑戦
阪神淡路大震災から27年経ち、東日本大震災から11年が経つ。そして来月9
月1日は関東大震災から99年目の防災の日である。
いつ起こるかわからない大地震。一度起これば、震源地の周辺はたいへんな
困難に直面する。この100年間に起こった三つの巨大地震は国力が消耗するほ
どの大災害であった。
ひとたび大地震に襲われれば、救助・救命・避難・撤去・復旧・復興・・・・・・
と何年かかるかわからない気の遠くなるような課題をひとつひとつ解決してい
かなければならない。しかもそれは被災者の問題として、ひとりひとりに降り
かかってくる。そのために日頃からおおきな計画を立てておかないといけない。
グランドデザインと呼ぶべきものであり、東京都は「事前復興計画」という形
でそれを既に作っている。
いわば、“備えあれば患いなし”っていうことに尽きるのであるが、それで
も大災害は起こり、そしてたくさんの苦悩と悲惨な体験が被災者を襲うことは、
昨今の災害後の状況をみるにつけ、枚挙にいとまがない。
災害大国・日本に棲んでいる限り、そういう悲惨な経験をしないで過ごすこ
とはなく、この土地に暮らしている限り、一生のうち必ず一度は大災害を経験
すると考えれば、少しは腹を括れ、そして覚悟ができるのだ。
私たちに覚悟をもたらす、とっておきの書物をみつけた。
『災害に向き合い、人間に寄り添う』(室崎益輝 著)(神戸新聞総合出版セ
ンター)(2022年3月24日初版)
そもそも、題名がすべてである。題名が主題を語っている。災害においては、
向き合うことと人に寄り添うことが最も大切なことである。本書は結論をタイ
トルで云ってしまっている。
出版社が新聞社である。つまり本書は新聞に定期連載された記事を一冊の本
にまとめたもの。社説のような位置の記事なので、言葉はやや難しい。それで
もしっかり読めば誰でも理解できる。阪神淡路大震災から13年後の2008年から
連載は始まり、東日本大震災を経験して、コロナ禍の2022年1月で連載が終了
した。この間、14年間の署名記事が一冊の本になった。著者の室崎氏は建築の
人であり、さまざまな公的研究所で仕事をしていた災害と建築の専門家なのだ。
そういうわけで、本書は防災とか減災とかまちづくりとか、災害支援ボランテ
ィアとか、そういうことに興味がある人はすぐ読める。誰でも理解できると上
に書いてしまったが、本書は問題意識がない人が読んでもまったく頭に入らな
いであろう。
災害に向き合うにあたり、「三つの壁」がある、という。この場合の「壁」
というのはハードル=障害、ということではなく、防御のための盾、というこ
とだ。
第一の壁は制度の壁。第二の壁は技術の壁。第三の壁は支援の壁。このうち
第一と第二の制度と技術は、事前準備にあたるのであろう。あらかじめ制度を
整えておくこと。例えば、建築基準法を耐震化を推進していくように改正する、
などが「制度の壁」になろう。また、材質を耐火、不燃化にしていくこと、河
川の改修において堤防に工夫を加えることなどは「技術の壁」となる。両方の
壁は、すべて備えとなる。
しかしながら、第三の壁である「支援の壁」はそうではない。大災害に遭遇
し、被災してしまった後の壁になる。ここで初めて人が出てくる。支援には人
的資源が欠かせないのだ。それが、すなわち“人間に向き合う”ということで
ある。そのことをしっかり頭に入れて本書を読んでいけば、本書はすぐに読み
終えてしまうだろう。災害は頭の中では簡単なのだ。災害は、「災害に向き合
い、人間に寄り添う」ことに尽きる。復興もモノが主役ではなく、人が主役で
なければならない。東日本大震災からの復興で、まずモノありきという復興計
画を策定していることに批判的である。巨大な防潮堤を建設することや性急な
土地のかさ上げを実施してしまったことを悔やみながら筆を進めている。そこ
には人が介在していない。「支援の壁」になっていない、と著者は嘆いている。
復興には、人を主役にしなければならない。それはすなわち被災者と一緒に復
興計画を立てることだ。たとえ時間がかかってもその手続きが欠かせない。復
興において、過去の成功事例はすべて人が積極的に介在している、という。そ
れこそが“人間に寄り添う”ことに他ならないのだ。
本書は、著者が感じていることを提言しているのは阪神淡路大震災や東日本
大震災でのことばかりではない。2014年8月の丹波豪雨や2021年7月の熱海土
石流なども話題にしており、古いものでは1976年10月の酒田大火についても話
題にしている。災害に今も昔もなく、また場所も地域もない。そのときその場
所で災害が起きた、ということが最も大切なことである。それを踏まえて、も
う一度タイトルについて考察してみよう。
「災害に向き合い、人間に寄り添う」・・・災害から目を逸らさないこと。
被災者と一緒に戦うこと。そして何よりも災害と被災者を通じて、この世の中
のひずみを正していくことが大切なのだ。地震や津波や火災や土石流や洪水で
痛めつけられる人々と心をひとつにして、よりよい社会を作っていくのが私た
ちのつとめである。
それこそが、終わりのない挑戦なのだ。
多呂さ(この夏の暑さと集中豪雨の多さはいったいなんでしょう。滅亡の始ま
り、ということばが頭を去来します。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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131 歴史を知る
『台湾の少年』
游 珮芸 ・周 見信 作 倉本 知明 訳 岩波書店
1930年、台湾に生まれた蔡焜霖(さいこんりん)さんの生涯を描いたグラフ
ィック・ノベル。
蔡焜霖さんが生まれた1930年というのは、日本統治時代です。
1895年から1945年までの50年間、台湾では日本による統治がなされていまし
た。
やわらかい黒の線画で描かれる冒頭はのどかで、日本の童謡をうたう焜霖さ
んも描かれています。日本統治時代、焜霖さんは、家では台湾語、学校では日
本語を習います。
焜霖さんはすくすく成長し、図書館の蔵書からは好奇心を刺激され、本好き
になっていきます。
1945年の終戦で、日本統治時代も終わります。焜霖さんは学徒兵として徴用
されていましたが、終戦後は学生に戻りました。
この時代背景について本書を訳した倉本さんの解説を少し引用します。
「日本統治時代が終わると、国民党とともに大陸から渡ってきた外省人と、元
々台湾で暮らしていた本省人との間には様々な軋轢や衝突が生まれます。
(中略)
1949年、国共内戦に敗れた中華民国政府が台湾に撤退してくると、蒋介石ら
国民党の指導者は、戒厳令を敷いた反体制派を徹底的に取り締まることで自ら
の政権の地盤を固めていきました。白色テロと呼ばれた公権力による政治弾圧
において、多くの無実の人々が逮捕、監禁、拷問された挙句、死刑判決を受け
ることになります」
焜霖さんは学校を卒業後、就職した役場で仕事をしているときに呼び出され、
高校2年生のときに短い間参加した読書会のことで「反乱組織へ参加し、反徒
たちのためにビラを撒いた」という罪状で、10年の懲役判決を受けるのです。
もちろん、罪状を素直に認めたわけではありません。けれど、厳しい拷問の
取り調べを受け、でっち上げの罪状の自白書にサインをしてしまうのです。
20歳からの10年。
それが2巻で描かれます。
2巻では背景全体に黒のトーンがかかり、重苦しい時間を感じます。
焜霖さんは、一千名あまりの政治犯と共に、緑島の収容所に送られ、過酷な
労働を課せられます。思想教育も受けます。
焜霖さんは課せられた仕事を必死でこなし、自分を保つ努力を怠りません。
島にきて8年目、家族にあてた手紙の一節には胸を打たれます。
「山に登って鎌を振るうぼくは青空に向かって、広野に向かって、崖下に広
がる青い海に向かって大声で歌っている。原始的なリズムと労働は分かちがた
いもので、ぼくは仕事の間、最も誠実で感動的な境地にふけっているんだ」
2巻の最後に広がる暗闇には言葉がみつかりませんが、早く3巻に登場する
焜霖さんに会いたいです。
次にご紹介するのは歴史を知る図鑑です。
『世界 時空の歴史大図鑑』
マイオレッリ 文 マネア 絵 カプラーラ 解説
青柳正規 監修 山崎瑞花 訳 西村書店
子どもはもちろん、大人になってから歴史を知りたいと思うときに読むのに
ぴったりの一冊。
「はじめに」にこう書かれています。
「ある偉大な学者の言葉によれば、歴史とは、川の水のように流れる時間と
空間、つまり時空のなかで生きる人間について考える科学です」
本書では川の流れに導かれながら、時空を俯瞰していきます。
宇宙の誕生から恐竜の時代、先史時代、古代から現代までの文明、2つの大
きな戦争についてなどの他にテーマ別の歴史では、発明、絵画と彫刻、輸送、
建築、スポーツ、文学、音楽がとりあげられています。
全ページに発色の美しいイラストがほどこされ、その時々のことがらをイメ
ージしやすく、自分の気になるところから読み始めると、そこから興味が広が
りそうです。
先に紹介した『台湾の少年』を読んだあとは、戦争のページを熟読しました。
「これまで」の歴史を学びながら、「いま」「これから」を考える良書です。
最後に絵本をご紹介します。
『おはなしのたねをまくと』
クラウディオ・ゴッベッティ 文 ディヤナ・ニコロヴァ 絵
いのうえ さあや 訳 山烋のえほん 発行・発売:工学図書
第28階いたばし国際絵本翻訳大賞(イタリア語部門)最優秀翻訳大賞受賞作
おはなし好きにはたまらない気持ちになる絵本です。
この世界にはないどこか。
知っているはずなのに、知らない名前の場所に住んでいるおじいさん。
おはなしを書き上げた紙を、おじいさんはたねをまくように、ある場所にう
めました。そして水やりをして世話をします。
時間がたち、その紙は成長し、いっぽんの木になります。
葉っぱならぬ木にはえた紙にはおはなしがぎっしり書かれています。
さて、この紙はどんな旅をしていくでしょう。
物語は時間をかけて手元にやってくる、そのひとつの形をみるようで、読み
ながらずっと気持ちはワクワクしていました。
ひとりで読んでも、誰かに読んでもうれしくなる絵本、贈り物にもいいです。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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#146『感情教育』
まさかのテロに列島が揺れて、参院選は自民圧勝の昨今、いがかお過ごしで
すか?
それにしても、当たり前ですが、テロは突然起こるので、やはり衝撃を受け
ざるを得ませんね。
安倍元首相については、アベノミクスがほぼ名前をつけただけのバラマキ政
策だったことや、「美しい国」という曖昧で耳ざわりだけがいい言葉遣いや、
森友加計問題で自殺者まで出しながら口を拭ったことやのあれこれに疑問を感
じていましたが、とはいえ、暴力によって政治に介入するのは、原則、いかん
です。
もっとも、今回の犯人は政治的な動機ではないようですね。なので、一般論
の政治的テロの話ですが。
ところで、原則、いかん、と断ったのは、もうひとつ、政治的暴力として、
「革命」があるからで、これまで否定しちゃうと、え、それじゃ、チェ・ゲバ
ラもいかんの?と、ちょっとファンな自分としては残念な気分もあるからで、
キューバ革命も、フランス革命も、アメリカ独立革命も、まあ、勝てば官軍じ
ゃないけど、成功したら革命家、失敗したらテロリストという部分はある気も
しつつ、ちょっと別枠に置いておきたいと思ってしまうのは、民衆が圧政に立
ち上がって勝利するという、ロマンチシズムの物語に郷愁があるからかな。
ところが、最近初めて読んで意外の感に打たれたのが、フローベールの『感
情教育』なんですが、ここでなんと、1848年のパリ二月革命が、ドタバタ喜劇
として描かれているのです。
いや、ドタバタは言い過ぎか?
でも、そう読んでしまったし、作者だって、そう読んでほしかったんじゃな
いかと勝手に想像します。
もちろん、流血もあり、悲惨さも描かれてはいます。さすが文豪、時代の空
気をトータルに捕まえるべく、目配りは怠りない。
けれど、例えば暴動が起きて、主人公フレデリックが王宮に行ってみると、
既に王家は逃亡、乱入した市民が酒蔵を荒らして飲みホー状態、高価な家具や
貴重な美術品も次々窓から放り出され、ぶち壊される乱暴狼藉。
そこで描かれる「市民」は決して使命感に燃える革命戦士なんかではなく、
薄汚れた格好をした、貧しいルンペン風の荒くれ男たちで、思想とも理想とも
縁のないような、ただ、この混乱に乗じて、いわば革命を乱痴気騒ぎのように
思いなし、ひと夜の歓楽に溺れているだけのよう。
革命後も、ドタバタは続きます。
ついにフランスで普通選挙が実施されるらしいとなって、立候補を目論んだ
フレデリックは、いわゆる政治集会である「共和主義宴会」に参加するのです
が、そこでは、さまざまな人物が得手勝手な主張を繰り広げては、聴衆の野次
で演壇から引きずりおろされ、立候補を表明したフレデリックも友人たちの裏
切りで同様の憂き目に遭うのです。これ、やはり筒井康隆ばりのスラップステ
ィックと言えるのではないでしょうか。
それにしても作者は、『ボバリー夫人』で近代心理小説を切り拓いた人です
し、実際ストーリーの主軸は恋愛小説。青年フレデリックが美しい人妻アルヌ
ー夫人に横恋慕する話ではある。構想ノートでも、三角関係がどう展開するか、
そのアウトラインが、最初にまとまったみたい。
でも、恐らくラブストーリーは、あくまで物語を進行させるための仕掛けで
しかなく、主眼は当時の社会を描く風俗小説だったんじゃないか。少なくとも、
この時代の恋バナですから、あまりに古くさく、じれったすぎて、21世紀の読
者にはさほど響かず、やっぱり時代の風俗や革命という大事件を戯画的・喜劇
的に描いた部分こそがめっぽう面白いのです。
フレデリックは地方に土地を持っていて、叔父さんの遺産も転がり込み、働
かなくても食べていける遊民ですが、リッチな生活をするには収入が足りない
し、身分も貴族ではない。
そんな彼にたかる貧乏な友人たちがいろいろ登場して、ひとつの社会階層を
構成しています。
一方で、それなりにお金があり、人脈もあるフレデリックは、上流階級のパ
ーティーにも盛んに出席。これは当時、野心のある青年が、立身出世の手づる
を求める一般的な方法だったようで、つまりパーティーで偉い人や金持ちと知
り合って、コネをつけるわけ。
つまり、フレデリックは「こうもり」なんですね。貧しい友人たちの階層と、
上流階級の間の、どっちつかずの立場にいる。でも、この設定のおかげで、
『感情教育』は19世紀のパリを包括的に描くことができたのでしょう。
さらに、上流人士の中でも遊蕩的な連中は、高級娼婦を愛人に持つわけです
が、そうした女の開く、退廃的な仮装舞踏会の場面、あるいは、娼婦と出掛け
る競馬場の場面。
そうした箇所でも、そこに集まるさまざまな階層の人々や、たくさんの馬車
が行き交う当時の都市交通の姿までが描かれ、やはり風俗小説として大変に優
れている。
あらゆる場面で、その場所の装飾や置かれている美術品、そこに出入りする
人々の服装が、これでもかというほど執拗に、丁寧に、事細かに描写されてい
るのも、目を惹きます。
服飾史にはとんと疎いので、正直、いくら精細に書かれていてもなかなか絵
が浮かんではきませんが、そのしつこさに、やはり時代の空気を描こうとした
作者の情熱をひしひしと感じます。
音楽にも、フローベールの耳はしっかり開かれています。
娼婦の開くパーティーではピアノが陽気に打ち鳴らされ、当時のパリピたち
が踊り狂います。
革命の夜、あちこちで響き渡るのは、「ラ・マルセイエーズ」の歌声。言わ
ずと知れた、フランス革命の革命歌です。ナポレオン帝政時代には禁止された
りもしますが、最終的にはフランスの国歌となったのはご承知の通り。
話は少し逸れますが、仮に日本で、こうした革命騒ぎが起こったとして、そ
の時みんなが一緒に歌える歌ってあるんでしょうかね?
第一次安保闘争の時だったか、国会を取り巻いた群衆から、自然発生的に起
こった歌声は、「赤とんぼ」だったと言いますが。
さて、フローベールが、パリ二月革命をドタバタ喜劇として描いたのは、政
治に暴力をもって介入することへの、皮肉だったのでしょうか。
しかし、二月革命が獲得したものは、普通選挙でした。王による支配をひっ
くり返し、すべての国民に開かれた選挙で選ばれた国民の代表が国を運営して
いく。共和制の始まりです。
だからこそ、フレデリックも立候補しようとして挫折するのですが、では、
実際の普通選挙は、どんな結果になったのでしょう。
実は、革命を主導した共和主義者、さらにその政策をラディカルに展開した
社会主義者は軒並み落選して、反動的な保守主義者の圧勝だったそうです。
しかも、その後に行われた大統領選挙で選ばれたのは、ルイ・ナポレオン!
皇帝ナポレオンの血縁というだけで当選してしまった。なんか、元アイドルっ
ていうだけで、政策アンケートを白紙で出すような方でも当選できる、どこや
らの国を思い出しますが、それはともあれ、要するに、王政を打倒して共和制
を樹立した革命の結果、民衆はやっぱり元通りがいいと思ったというお粗末。
『感情教育』ではそこまで書かれていませんが、フレデリックが最終的に政
治から身を退いて、田舎に引っ込んでしまうラストからすると、フローベール
はやはり、革命後のフランスも「喜劇」として見ていたのでしょう。
そもそも彼は 他の作品でも、度々「人間的愚劣」を描こうとしたと解説に
ありますし。
となると、革命もダメなら、選挙もダメ……。
それでも、国民が政治にまったく「介入しない」というのも、どうなのかな
ぁ。
パリ二月革命を始め、多くの先人が多大な犠牲を払って獲得した普通選挙を、
安易に手放していいんかな、という気もします。
ちなみに、今回の参院選、投票率は52.05%だったとか。
フローベール
生島遼一 訳
『感情教育』(上・下)
1971年4月16日 改訳第1刷発行
2017年5月8日 第23刷発行
岩波文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
義父の納骨も無事終わり、尿道結石も落ち着いて、少しずつ日常回復の七月で
す。それにしても、五月、六月はいろいろありました……
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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一応読んで、自分の命は自分で管理しよう!
『70歳が老化の分かれ道』(和田秀樹著・詩想社新書)
今、売れに売れている本が和田秀樹著作の「年代シリーズ」(勝手に命名)。
中でも特に売れているのが「70歳が老化の分かれ道」です。2021年6月25日に
発売されて、おばちゃまが持っている本が5刷りで同年10月26日発行ですから、
売れ行き速い速いと思ったら、なんと7月1日で30万部突破だそう。詩想社と
いう小規模の出版社の大ヒットです。(ホームページを拝見したところ、小さ
いながら切れ味のいい書籍を出版しておられました)。
まあようできた本ですわ。まず、タイトルがよろし(なぜ急に関西弁?)。
もうじき該当年齢のおばちゃま、思わず我を忘れて購入してしまいました。私
みたいなヤツが30万人いるちゅうことですな。
これに続き同じ作者が「80歳のなにやら・・・」を出版。それに続いて「70
歳からの○○」として「たしなみ」やら「気品」やら「食事術」やらもう柳の
下のどぜう狙いの乱戦です。これから70歳になる層ってベビーブーマーの後の
人口少ない年代なのにどうして70歳がターゲット? まあそれぐらい70歳って
節目なんでしょうね(すでに洗脳されてます)。
では本を紐解いてみましょう。なんならおばちゃま、この人のチャンネルも
登録してるからね。だいたいこの方の言い分はわかっているつもりです。この
方の人の良さみたいなものも理解しているし、頭もいいとわかってます。でも、
アバウトさもチャンネルから見て取れるんですね。
まず、(1)70歳はまだ若いですよと持ち上げます。次に(2)でも健康寿命とい
うのはそんなに延びません。(3)ですから70代をどう過ごすかでその後の人生
(っていってもあとわずかですが)変わってきますよ。と言って、話の中心へ
読者をぐいぐいと引き込みます。(ライターの腕が光りますね。ライターの方、
印税でギャラ払ってもらってますか?だとしたらおめでとうございます)。
そして、(4)具体的にどう考えればいいかを説いていきます。具体的といっ
ても細かな実用解説ではありません。これまで常識とされてきた老年の暮らし
方とは正反対のことを言います。曰く、「免許は返納してはいけない」「仕事
は続けろ」「肉を食え」「動け」などです。
これを聞いたシニアは喜びますね。だってこれからは年よりらしく静かに生
きるべしと思っていたけど、今まで通りというかもっとアクティブに生きても
いいとのお墨付きをもらったのですから。元気が湧いてきます。勇気凛々です。
ここで「恋愛をしろ」と書かないところがミソ。読者は恋愛となるとたぶん引
くと思います。恋愛を進めると別の話になっちゃうところをうまく回避して安
心感を与えています。
この本を読んでおばちゃま、昔流行った「青春の詩」っていうのを思い出し
ました。「人は年齢で老いるのではない。理想を失うときにはじめて人は老い
る」っていうアメリカの詩人の詩(いかにもアメリカ的)です。今でもときど
き経営者のインタビューとか読むとこれが引用されていることがある息の長い
ブームですが、この詩を最初聞いたとき、まだ若かったおばちゃまは「この詩
に感激してる段階で老いてるじゃん」と思ったものです。だって、若かったら
「人は年齢で老いるのではない」なんて思わないもの。
あれから幾星霜。青春の詩には感激しなかったおばちゃまもこの本を衝動買
いする年齢になりもうした。ああ!
ただね、青春の詩のからくりをなんとなく嗅ぎつけていたので、この本のか
らくりもときかしたいと思います。
まずね、免許返納するのやめろというけれど、やっぱり年を経ると視野は狭
くなるからそこは考えたほうがいいこと。カラ元気、冷や水浴びが一番体に悪
いと思う。
あとがんは転移しないものもあるからやたらと手術するのは考え物というの
もこれも違うかなと思います。70歳で手術すると体力を消耗するとも書いてあ
りますが、手術できる年齢はたぶん個人差であって手術すると体力が落ちるか
ら、がんだとしても手術は避けるべきというのは違うのではないかと思います。
70歳ならイケるやろ。このあたりはたとえ医者でも不案内な領域というのがあ
るのかと思いました。
健康診断も必要ないと言うけどね。やっぱり受けたほうがいいんじゃないか
なと思う次第。老年医療の現場で長年やってきたとプロフィールに書いてあり
ますが、今はやってるの?とそのへんも不明です。
著作には「医者のいうことは信じるな」的なことが述べられている本書です
が、和田秀樹も医者です。
医者の言うことは信じない=和田秀樹は医者である=和田秀樹の言うことも
話半分でと言う基本の三段論法が成立するのではないでしょうか。ベストセラ
ーの言うことも話半分に聞いて信じ込まず、自分の体は自分と相談して自分で
管理するのがいんじゃね? それが70歳になろうとするいい大人の分別という
もんじゃないでしょうか。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『人気飲食店チェーンの本当のスゴさがわかる本』稲田俊輔 扶桑社新書
近年、ネットでサイゼリヤがよく話題に上る。業績とか新メニューが話題に
なるのではなく、サイゼリヤでデートは女の子に失礼なのかといったネタで話
題になる。そして炎上する。
ただのチェーン店と言ったら失礼かも知れないが、他にもチェーン店はいく
らでもあるのになぜサイゼリヤだけが話題にされるのか、私は首をかしげてい
た。実は今も首をかしげているのだが、それとは関係なしにサイゼリヤに関す
る本が出ていたのは知っていた。そのうちの1冊だ。
著者は25店舗経営する飲食チェーンの重役であると同時に、インド料理が専
門の料理人でもあるらしい。そんな人が、一種バカにされがちなチェーン店の
メニューのすごさを書いている。
「チェーン店はちょっとね・・・」なーんて、したり顔で言う人は本当の食
通ではない。本当の食通とは、店の性格を見抜き、最もおいしく食べられる方
法を設計できる人なんだと著者は言いたいのだたろう。
デニーズやマクドナルド吉野家など、他の多数の飲食チェーンについても書
かれているが、この方が最も推す、熱意を持って紹介しているのは、サイゼリ
ヤだ。なにせ全4章のうち1章分をまるまるサイゼリヤに使っているのだから。
著者曰く、サイゼリヤは「おいしすぎないおいしさ」を提供するところだ。
なぜかというと素材に対する自信があるから、「おいしさの上げ底」みたいな
ことをしない。素材が良いから、(メニューにはないが)ゆでただけのスパゲ
ッティに自由に使って良い、店備え付けのオリーブオイルや粉チーズ、黒コシ
ョウを使っておいしいパスタができ上がる。
ふーむ、素材が良いからそんなことができるのかと思いきや、サイゼリヤに
とって最もよく出るパスタやドリアはおそらく原価率が安く、店としては最も
儲かる商品で、本当によくわかっている人はこんなことを言うのだそうだ。
「サイゼリヤはパスタやドリアを食べるひとの財布でうまい塩蔵肉やら気の
利いた小皿をつまみに上等なワインをたらふく飲む店だね」
要は、パスタやドリアは確かに安いが、これがサイゼリヤのメインかと言う
と違う。商売としてはもっとも売れてはいるが、職を楽しむ立場で言うなら、
こういうのはサイゼリヤとしてはサブメニューであってメインではない。本当
にすごい、メインの料理は多くの人が注文しないハムやサラミやワインで、こ
れが常識外れなほど高品質で安いということのようだ。
本格的なレストランでもなかなか出ない、こだわりの高品質の素材をつかっ
た料理がしれっとメニューに並んでいるから、それを見抜く目がないとサイゼ
リヤの真価がわからない。
で、プロ目線で料理を選ぶと、客単価(一人あたり平均の飲食金額)730円
程度のサイゼリヤでも1500円から場合によっては3000円を超えたりすることも
あるが、それこそがサイゼリヤを楽しむということだ。
それと、読んでいると、どうやらサイゼリヤの楽しみ方は、出されたものを
そのまま食べるよりもいろんなメニューを頼んで組み合わせたり、一緒にする
(パスタに単品メニューを載せるとか)のが良いとも知った。
そんな感じでサイゼリヤの宣伝みたいな話が続くのかと言うとさにあらず。
問題点と言うわけではないが、ちょっと変だなと思うようなところの指摘もあ
る。最も違和感を持っているのは肉料理や「主菜の不在」のようで、その他の
メニューにも違和感を持つものが少しはある。
たとえば、なんでイタリア料理店にエスカルゴがあるのかとか・・・・彼が
そんな違和感のあるメニューから感じたのは強烈な「昭和臭」だ。
もともとサイゼリヤは創業者で現会長の正垣泰彦氏が1軒の洋食レストラン
を引き継いだところから始まり、正垣氏はイタリア視察をきっかけに徐々に洋
食店をイタリア料理店に変化させていったと思われる・・・と思っていたら創
業期のメニューが手に入り、メニューの違和感が同社の歴史に起因することが
分かる。
そんな解説のあと、ここからが本番だ。サイゼリヤで何をどのように注文し
て楽しむかのノウハウが書かれている。店でメニューを眺めながら本を読むわ
けにもいかないので、ネットにあるサイゼリヤのメニューを見ながら読むと、
とても楽しい。
本に書いてあることを参考に自分でコース料理を設計して、サイゼリヤに行
って、この順番でこんな注文をしてみようという気になる。この本自体は3年
前に出ているが、発売してからこの本をガイドにしてサイゼリヤで料理を注文
した人も多かったろう。
そして時代遅れの私は、今ごろになってから本を読み、いそいそと出かけて
いく・・・と言いたいのだが、近くのサイゼリヤに行こうとするとクルマに乗
っていかないとダメなのである。するとワインが飲めない。だから、神戸や大
阪などと世故か遠くに電車で行った時に、サイゼリヤに入ることになりそうだ。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
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表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
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2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
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料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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やっと夏らしい日々が続いています。夏休みもスタートですね。(あ)
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★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<149>昔、片岡義男という「現象」があったのを「最果」で思い出した
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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→130 記憶と言葉と衣服の力
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<149>昔、片岡義男という「現象」があったのを「最果」で思い出した
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』という映画を観たのは、つい先日。
2017年、石井裕也監督作品…だから、5年前の映画。
見終わった瞬間、なんでもっと早くに見なかったのだ、と激しく後悔。
工事現場の下働きとして働く慎二は、片目が見えず「世界を半分しか」見る
ことができない。
その半分しか見えない目で、通勤途上や一人の部屋の中、同じアパートに住
む老人から借りた本を読む。
慎二が、ふとしたきっかけで知り合った美香は、昼間は看護師として勤めな]
がら、夜はガールズバーのバーテンダーとして働き、故郷に一人で暮らす父親
に仕送りをしている。
美香の母親は、彼女が幼いころに自殺した。
美香が父親に金を送るのは、父親に対する「仕返し」でもあるのだが、その金
はたいてい、ギャンブルであっけなく消費されてしまう。
慎二も美香も、そして慎二が死体を発見することになる、本を貸してくれて
いた老人も、慎二の仕事場でのリーダー格でありながら、ある日唐突に脳出血
で死んでしまう松田龍平演じる「智之」も、あるいは慎二の仕事仲間の二人…
腰痛持ちで契約が切れたとたんに解雇されてしまう中年男と、ブローカーに騙
され、多額の借金を抱えてフィリピンから出稼ぎにやってきた青年も、この映
画に登場する人物たちの皆が皆、決して幸せとはいいがたい境遇で、貧しく苦
しい生活に追われている。
だがしかし、この映画は、決して暗い映画ではないし、重く感じられる描写
も見当たらない。
彼らは皆、その決して幸せではない境遇をありのままに受け入れ、そこから
這い上がろうという向上心もないようだが、しかし決して卑下もしていない。
ただ淡々と日々を過ごしてゆく。
「淡々」の日々の中には、腰痛持ちの中年男が、コンビニ店員の少女に恋を
して、デートに連れ出すことに成功したり、などという「小さな幸せ」ももれ
なく差し挟まれる
。
その「淡々」が積み重なり、最後には大きなカタルシスとなって、ある種の
感動すら与えてくれるのだ。
ここに描かれたのは、平成から令和へかけての「リアル」そのものだな、と
しばらくしてから気が付いた。
主演の二人、池松壮亮と石橋靜河が、とても鮮烈でもあった。この二人、売
れるぞ…と思ったら、二人とも、もうとっくにブレイクしてたのですね。知ら
んかったです、すみません。
ことに石橋靜河、当初「似てないな」と思ったんだけど、ふとした拍子にお
母さん(原田美枝子)の面影が、表情の中に過る瞬間がありました。
映画を観終わったところで、この映画の原作だという、最果タヒ(さいはて
・たひ)の同名詩集(リトルモア・刊)を、俄然読みたくなって、これも取り
寄せたのだった。
『愛の縫い目はここ』『死んでしまう系のぼくらに』そして、この『夜空は
いつでも最高密度の青色だ』で三部作を構成するこの詩集、いずれも詩集とし
ては異例の売れ行きなんだそうだ。
取り寄せた『夜空〜』も、奥付を見ると、2016年5月に初版第一冊の後、手
に入れた版は「2020年2月」既に「第7刷」となっていた。
最果タヒは、神戸市出身、ネットを中心に詩を発表してきて、それらネット
にアップされたものと、新聞、雑誌等の紙媒体に発表したものを併せて、三部
作が構成されたらしい。
『夜空〜』は、縦書きで印刷された散文詩の合間に、横書きの自由詩が挟み
込まれる形でページが構成されている。
わしは、その横書きの自由詩の方に、とても鮮烈な感性を感じることが多か
った。
中のフレーズのひとつひとつが、かきん、と響いた後に、ぐさり、と刺さる
感じを持
ちました。
書名となり、映画のタイトルにもなった「夜空はいつでも最高密度の青色だ」
もまた、この横書きの自由詩の中に出てくるフレーズで、詩のタイトルは『青
空の詩』という
。
(以下引用)
都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。
塗った爪の色を、きみの体の内側に探したってみつかりゃしない。
夜空はいつでも最高密度の青色だ。
きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、
きみはきっと世界を嫌いでいい。
そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない。
(引用終わり)
もう、この一篇だけで、あの映画のすべてを語っているような詩だ。
監督・石井裕也は、この一篇に衝き動かされて、脚本のイメージを広げてい
ったんじゃないだろうか。
この映画を観てる間、ふと、この空気感、過去にもどこかで…と既視感に囚
われることがあって、「なんだっけ?」と思い出したのが、片岡義男、なのだ
った。
1980年代に、一世を風靡した片岡義男。わしも、片っ端から読み漁った一人
だった。
その中でも、とても印象に残っている短編小説があって、今回、再読すべく
いろいろ探してみたのだけど、既にタイトルすらわからなかった。
東京・世田谷は淡島通りで深夜、ふと出会った若い男女…少年と少女と呼ん
でもいい二人が、「なんとなく」一緒に歩き始め、やがて、路傍に停めてあっ
た自転車を無断拝借し、二人乗りで走り出す。
行くあてもなく自転車を駆る二人だが、深夜の街を疾走しながら、次第に気
分が高揚してくる。少年は、このまま少女を乗せて、どこまでも走って行ける
ような気分になって、ペダルを踏む足にも、一層の力が入る。
二人を乗せた自転車は、西へと走り、やがて多摩川を渡って神奈川県に入る。
二人はもう、わけもわからず楽しい。楽しくてしょうがない…ところへ、脇
道から大型トラックが飛び出してきて、二人を乗せた自転車をあっけなく跳ね
飛ばし、物語は、唐突に終わりを告げる…
と、確かこういう筋書きだったと思う。
舞台になった「淡島通」が、当時の自宅近くだったこともあり、とても印象
に残ったのだが、ここで描かれた男女二人の「刹那の恋」な空気が、今回観た
映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』と共通しているように思えたのだ。
片岡義男の作品は、当時の「角川商法」によって戦略的に「量産」され、消
費されつくした挙句に、今やすっかり忘れ去られた存在となっているが、1980
年代、片岡義男という作家とその作品は、「ブーム」を通り越し、もはや「現
象」とも言える状況にあった。
当時の漫画家にも、この小説から影響を受けた人たちが多くいた。
わしと同じ会社に在籍する漫画原作者だったYさんも熱狂的なファンで、二
人して「あれは読んだか?」「これは、どうだった?」と、寄ると触ると片岡
作品について語り合っていた。
「まず、タイトルがいいよな。しびれるよ」とYさんが言ってたとおり、
『ラジオが泣いた夜』『スローなブギにしてくれ』『彼のオートバイ、彼女の
島』『幸せは白いTシャツ』等々、確かに、タイトルがものすごくカッコよか
った。
さらに、角川文庫版の表紙カバーに付された写真もまた、どれもこれもたま
らなくおしゃれなのだった。
その「おしゃれ」が災いしてか、ともすれば「トレンディ」的文脈で語られ
ることも多かった片岡作品なのだが、その本質は、『夜空はいつでも〜』と同
じ「虚無」と「刹那」にあったと思う。
片岡義男は、「もっと評価されてもいい作家だ」と、関川夏央がどこかに書
いていたのだけど、わしもまた、そう思う。
片岡義男の小説の幾つかは、映画化もされている。
『スローなブギにしてくれ』は、南佳孝が「Want you!」とシャウトする主
題歌とともにヒットした。
わしも、とても期待して観たのだけど…いささかがっかりした。
藤田敏八監督による映画は、原作にあった若い男女の視点が薄められて、山
崎努演じる中年男の視点に、すっかり置き換えられていたのだった。
すっかり嫌気がさして、それ以後、片岡作品の映像化されたものってのは観
てないんだけど、今回、映画『夜空はいつでも〜』を観るにつけ、こんな風に
映像化してほしかったのだ、と気がついた。
今からでも、だれかやってくれんかな。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第146回 小説を志すきみへ
毎日新聞の日曜版(別刷り)「日曜くらぶ」に約1年間にわたり連載してい
た『私のことだま漂流記』(山田詠美 作)は毎週楽しみにしながら読んでい
た。作家、山田詠美さんが自身の半生を振り返り、作家となって“書く”とい
う作業をしていくその様子を点描している作品であり。文章上手の山田詠美さ
んならでは素晴らしい作品である。連載ももうすぐ終わり、という今年の4月
24日号の第45回において、「小説家を志すきみへ」と題して、ある一冊の文章
作法の本を紹介していた。
今月の拙稿はその山田詠美さんをリスペクトしつつ、その同じ題名をつけた。
そして彼女がその稿で紹介している書物が今月、紹介する書物となる。
『スティーブン・キング 小説作法』
(スティーブン・キング 著)(池 央耿 訳)
(アーティストハウスパブリッシャーズ)(2001年10月31日初版)
『On Writing by Stephen King』(Stephen King)(2000年)
山田詠美さんは、新聞連載の『私のことだま漂流記』の中で、「古今東西、
数多くの文豪やベストセラー作家が文章読本を書いているが、私は、書き始め
た人には、これをお薦めしたい。」と云っている。このくだりを読んだとき、
本書(スティーブン・キングの『小説作法』の方)に書かれている内容が、山
田詠美さんの琴線に触れ、大いに首肯するところがあるのだろう、と思った。
執筆子は山田詠美さんの作品が好きである。彼女は文章がうまい。本当に上手
だと思う。その彼女が云うのだから、本書(『小説作法』)はいいことが書か
れているのだろうなぁと今回、熱帯雨林の巨大本屋で購入してみた。
本書の構成は、まず作者(スティーブン・キング)の簡単な生い立ちの記述
がある。全世界的な現代を代表する恐怖小説作家、スティーブン・キングは母
子家庭で育ち苦学をして大学を卒業し、そして学生時代によき伴侶となる女性
とめぐり逢い、結婚したが作品が認められるまで相当苦労したことがわかる。
スティーブン・キングはその作品が認められコンスタントに小説雑誌に掲載さ
れるようになり、また単行本が売れるようになるまで、かなりたいへんな人生
を送っていた、ということがわかる。
次に“道具箱”という章を設け、小説家になるための必須の技能はなにか、
を伝授している。本書の副題(サブタイトル)は「A Memoir of the Craft」
という。“職人の伝記”である。スティーブン・キングは自らのことを職人と
考え、そしてその小説家という職人になるための技能を“道具箱”と表現して
いる。スティーブン・キングに拠れば、その道具箱の中には三種類のもの(こ
と)がなくてはならない。語彙、文法、文体の要素、の3つだ。たくさんの言
葉を持っていること。文法がしっかり正しいこと。そして言葉がつながり文章
になり、さらにパラグラフ(本書を読んでいるとこのパラグラフという文言は
日本語の段落であると思うのだが、どうもそうとも云えない処がある。だから
訳者も“段落”と訳さずに“パラグラフ”と記載しているのであろう。パラグ
ラフとは、段落よりももう少し大きい文章の塊のようであり、同じテーマを扱
った文章の集団、という感じだ。)を縫い上げたものが文体の要素ということ
なのだろうと思うのだ。簡単に云えば、文章のうまさ、ということになるのか。
いずれにしても、そういうものを自分の中に用意して、まずは書こう、とい
うことになる。山田詠美さんが『私のことだま漂流記』でも書いてあった本書
の核心である。それが、いよいよ本書の中心テーマである“小説作法”の章な
のだ。
「作家を志すならば、何を措いても怠ってはならないことがふたつある。よ
く読み、よく書くことである。私の知る限り、このふたつを避けて通る近道は
ない。」
本書の主題は、まさにこの一文に尽きる。結局小説家になるための近道はな
く、ひたすらたくさん本を読み、そしてひたすらたくさん文章を書くことにあ
る、と云っているのだ。スティーブン・キングがこうもきっぱりと断定してい
るところが山田詠美さんにも通じるところであろう。“よく読みよく書くこと”。
この文言は、本書の166ページに書いてある。総ページは348ページの本なの
で、だいたい半分くらいの所。そしてこれ以降の後半は、書いているとき、書
き終わったとき、推敲するとき、など場面場面での技術的なことをアドバイス
することに費やされる。
小説家になりたい人で、まだ何も書いていない人は、この166ページまでの
前半を読んで事足りる。そしてすこしでも書いたことがある人、すでに何本か
書き終わっている人はこの166ページ以降の後半を読めばいいのだ。
分量的には本書の半分以上を費やしているが、例文に費やす割合が多いので、
特にたくさんの注意事項がある、というわけではない。
書いているときには集中せよ、とか、書き終わったらすこし寝かせて、その
後読み直し第二稿を書くべきだ、とか、その第二稿は、初稿の9掛け(10%減)
にするのがよい、とか、第二稿を書き終わったら編集者に読ませる前の原稿状
態で最初の読者(スティーブン・キングの場合は彼の妻)に読ませるべきだ、
とか、よいエージェントを選ぶコツなどが例文と共に紹介されている。
英語で書かれた英語の小説を書こうという人たちのための書物なので、すべ
てが日本語を操る人にも当てはまるか、という問題はあるが、それがあるとし
てもそれはごく些少な部分でしかないだろう。なにしろ本書の核心は“よく読
みよく書く”ことにあるのだから。この核心は万国共通であろう。
多呂さ(いまの日本で要人の暗殺事件に出くわすとは……。世の中が劣化して
いる証拠でしょう。今後どうなっていくのでしょうか。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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130 記憶と言葉と衣服の力
『パンに書かれた言葉』 朽木祥 小学館
イタリア人の母、日本人の父をもつ少女が主人公。
彼女には、名前が三つあります。
光(ひかり)・S・エレオノーラ。名字は青木。
エレオノーラの意味はイタリア語で「光」。
ではSの意味は……。
冒頭、東日本大震災が起こり、その春に家族でイタリア行きを予定していた
光の家族でしたが、結局、光ひとりで向かうことになりました。
イタリアの親戚たちは、みな光がきたことを歓迎し、震災の影響を心配する
言葉をかけます。鎌倉に住んでいた光たちは、津波の影響は受けていませんで
したが、甚大な震災に傷つかなかった人はいません。
心が落ち着かないものの、イタリアのおいしい食事や、母親がイタリアで暮
らしていた時の部屋で休んでいるうちに、家の中を探検したくなってきました。
探検で入ってみた小さな部屋で、写真とカチンカチンのパンを見つけます。
写真にうつっていたのはパオロ。光の祖母にあたるノンナの兄でした。
写真がきっかけで、ノンナから戦争の話を聞くことになりました。八十歳を
超えているノンナの口から語られる戦争の話は、当時のパオロやノンナの友だ
ちの視点で物語られます。
光はノンナの話を聞きながら、イタリアでの戦争だけでなく、広島のことも
考えはじめ、日本にいる父親とメールで気持ちをやりとりします。
イタリアから日本に戻り、まだ震災でおちつかない中、夏休みを迎えますが、
今度は父親の実家がある広島へ光はひとりで向かうことになります。両親とも
に、仕事がいそがしく一緒に夏休みを過ごせないからです。
そして今度は広島で祖父から戦争の話を聞くのです。春にイタリアの祖母か
ら聞いた話を考えているうちに、今度は日本の広島の話を聞きたいと思うよう
になったからです。
どちらの戦争の話にも言葉の力が語られます。
「言葉の力を信じていたのよ。人の心を動かす言葉の力をね」
ノンナが光にこう話ました。
イタリアの戦争中にまかれたビラには、勇気づけるために書かれた詩もあり
ました。
日本でも、歌人が反戦の詩を書いています。
中学三年の光は、祖母、祖父から聞く歴史を自分の頭で理解していきます。
そして最後まで読むとタイトルの意味もわかるのです。
翻訳小説では訳者あとがきが記されていることが多いなか、日本文学でのあ
とがきはそれほど多くありません。「思いをこめて書き上げた」本書では著者
による伝えたい思いが書かれています。
著者も広島出身、被爆二世。あとがきにはこうあります。
「ヒロシマの物語の登場人物は過去の亡霊ではありません。未来のあなたでも
私でもあるのです」。
言葉の力をあらためて実感する物語です。
もう一冊紹介するのは、大人向けのノンフィクションですが、高校生くらい
からでも読めると思います。
『アウシュヴィッツのお針子』
ルーシー・アドリントン著 宇丹貴代実訳 河出書房新社
著者はイギリスの服飾史研究家。長年にわたり服飾と社会のかかわりについ
て研究し、著述活動のための資料からアウシュヴィッツのファッションサロン
の存在を知り、関係者へのインタビューと、膨大なアーカイブ資料から本書を
まとめました。
いままでも様々な切り口でアウシュヴィッツについて書かれてた本がでてい
ますが、本書では衣服の力についてあらたな視点に気づかされました。
ナチスといえば特徴的な制服をすぐさま思い出す人は多いでしょう。
「制服は、集団の誇りとアイデンティティーを強化するために衣服を利用する
典型例だ。ナチスの経済政策や人種政策は、被服産業から儲けを得ること、略
奪による利益で戦争行為の費用をまかなうことを狙って策定されていた」
この考えはナチス上層部の女性も同様で、やはり衣服を重要視し、だからこ
そ、お針子が必要でした。
小説ではないので登場する女性たちはみな実在したお針子たちです。
絶滅収容所での彼女たちが無事生き延びられるのか、仕事をし続けられるの
か。読んでいる間、死が常に隣り合わせにある緊張感にずっと肩に力を入れて
いました。
訳者あとがきで書かれているこの一文には心の底から同感しました。
「ホロコーストのさまざまな側面で衣服が大きな役割を果たしていた事実をこ
うして突きつけられると、「衣食住」ということばにあるように、衣服は食物、
住居と並んで生活の基本的な要素なのだとあらためて痛感させられます。」
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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今回、書評の中で紹介されていた『小説作法』ですが、確か大学生くらいの
時に買ってたなぁ、と思い出しました。
その頃に比較して、今では、投稿サイトからデビューなんてこともあり、ず
いぶん環境も変わってきたなぁ、と思いました。(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #145『小沢昭一――僕のハーモニカ昭和史』
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『化粧品成分事典』(監修・久光一誠/スキンケア監修・岡部美代治)
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『三時間半で常識的国際人になれるゆげ塾の速習戦後史 欧米編』
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
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#145『小沢昭一――僕のハーモニカ昭和史』
70代になっても、
「まだ、やりたいことがある」
そうきっぱり言い切ることができるだろうか。
先月、義父が世を去ったのですが、彼のことを思い起こす度、そんな自問が
湧きます。
というのも、長らく小学校の先生として教育に尽くし、校長となって定年退
職。その後、ボランティアで市の身の上相談員を勤めてから、町内会の副会長
になり、さらに、今度は会長をやることになった時。
恐らく家族の誰かが、「もういい年なんだし、そろそろのんびりしたら」と
でも言ったのでしょう。義父が、答えたのです。
「まだ、やりたいことがあるんだ」
おお、なんとかっこいい。
そう思うと同時に、自分がその年齢になった時、同じようにやりたいことを
持って、前向きに生きているだろうか、と心もとなくなったのです。
義父の「やりたいこと」が何なのか。それははっきり聞く機会がありません
でしたが、もしかすると「町史」の編纂が、そのひとつだったかも知れません。
図書館に行けば、「市史」や「区史」は書物となって置かれているようです。
しかし、案外「町」という単位で記述された歴史は珍しいらしくて、ささやか
な小冊子としてまとめられたにもかかわらず、完成した時には某新聞社が取材
に訪れ、義父の写真入り記事を掲載したくらいです。
その町会長の責務を、異例の長期にわたって果たし、ついに引退した後も、
好きな庭づくりに精を出し、家の保守作業に汗を流して、じっとしていること
はありませんでしたが、かと言って、謹厳実直な仕事人間では、決してなかっ
た。
お酒が好きで、とりわけビールを愛し、いつも微笑み、口数こそ多くはない
ものの、時折突拍子もないギャグを飛ばして、家族を笑いの渦に巻き込んでい
ました。
そして、何より彼は、ハーモニカの名手だったのです。
ハーモニカというと、哀愁を帯びた音色で、「赤とんぼ」なんかをしみじみ
吹くイメージですが、義父の演奏はとても明るく、リズミカルなものでした。
七十代の頃、老人会のイベントでは、「(高齢社会の昨今)六十、七十、洟
垂れ小僧」「若輩ながら一曲」というMCで聴衆を笑わせ、懐かしい童謡など
を披露していたそうです。
ユーモアに溢れたトークと演奏に、熟女のみなさまのファンも多く、老人会
のアイドルでした。一度、見てみたかったなぁ。
ところで義父の、足踏みしながら拍子を取って、元気よく吹き鳴らすスタイ
ル。これが育まれたのは、小学校の先生時代だったようです。
低学年の頃は、音楽も担任が教えますから、小学校教諭にはオルガンの演奏
が必須です。ところが、昭和の初めに生まれ、少年時代を戦前から戦中にかけ
て過ごした義父は、鍵盤楽器を学ぶ機会がなかった。時代がそれを許さなかっ
た。
そうした事情に鑑み、オルガンではなく、ハーモニカで音楽を教えることが
認められたらしい。こうしたケースがどれだけあったかはわかりませんが、特
例だったのでしょうか。
子どもたちを喜ばせ、音楽の楽しさを伝えるには、元気に、リズミカルに吹
き鳴らした方がよいのは当然。そんなところから培われたのが、きっとあの奏
法だったのですね。
さて、ハーモニカと愉快なトークで思い出すのが、義父とほぼ同世代、昭和
四年生まれの小沢昭一です。
役者であるだけでなく、70年代にはもう絶滅寸前だった門付芸、大道芸など
の民俗芸能に着目。『日本の放浪芸』と題して、書物やレコードを残した研究
家でもありました。
その一方、高齢になってからも、ハーモニカによるCDを出し、さらに、歌
や演奏を交えて戦争の記憶を語り継ぐトークショウも、80歳になろうという頃
までやっていた。
本書『小沢昭一――僕のハーモニカ昭和史』は、第1部と第3部が、そうし
たステージでのMCをそのまま収めた採録。間に挟まれた第2部は、テレビ番
組『徹子の部屋』に出演した際の、やはり採録です。
この世代にとって、ハーモニカは特別な親しみのある楽器なんでしょう。ち
ょうど、われわれフォークソング世代におけるギターのようなもの。
面白いのは、日本にいつハーモニカが入って来たかについて、小沢昭一が母
親と交わした会話です。
戦後に流行ったと言う母親に対し、あれあれ、おふくろもボケちゃったねぇ、
戦後どころか、俺は戦前から吹いてたし、第一、兵学校に入る時持ってって、
教官に取り上げられたんだから、と思ってよくよく聞いてみると、なんと母親
の言う戦後とは、「日露戦争後」だったというオチ。
日露戦争の勝利で日本中が舞い上がり、「勝どきをあげる」が流行語になっ
たそうです。「勝どきせんべい」はできる、「勝どきまんじゅう」はできる、
あの「勝鬨橋」も当時のネーミングだとか。
その流れに乗って、ヨーロッパからちょうど入って来た新楽器に、「勝どき
笛」と名づけて売り出したのが大当たり。猫も杓子も吹き始めたのがハーモニ
カだったと言うのです。
そうした背景を知ると、しみじみ吹くのではなく、元気よく吹く義父のスタ
イルこそ「勝どき笛」に相応しいと納得できます。
それにしても、「戦後」と言うだけで誰もが「太平洋戦争後」だよね、と了
解し合える間は幸せですよね。
あれ以降、日本は戦争に巻き込まれなかった、ということですから。
ただし、いつまでもそうである保証はありませんが……。
ともあれ、東京蒲田にある写真館の一人息子だった小沢昭一は、ご多聞に漏
れず軍国少年として育ち、兵学校の試験に通って長崎に行ったのが、敗戦も近
い昭和二十年二月。
そして八月十五日を迎えると、教官に取り上げられたハーモニカも返しても
らえて、おまけに兵学校にあるものは何でも持って帰ってよい、ということに
なりました。軍も負けたとなると豪気です。
この時、小沢昭一は欲張った。机まで持って行こうとした。そうしたらさす
がに「一人で持って、校庭を三周できる量までにしろ」と命じられ、それでも
可能な限りの重い荷物を担いで長崎から東京を目指しました。
そのため、せっかく戻ったハーモニカを途中で失くしてしまったのです。
それは、広島駅でのこと。
列車がとまったので、外に降りてみた小沢昭一は、海軍の将校に呼び止めら
れ、強引に連れて行かれます。これから米軍が上陸してくる、われわれはせめ
て一太刀報いる斬り込み隊だ、お前も入れ。
冗談じゃない、と隙を見てすたこら逃げ出し、別の列車に潜り込んのはいい
のですが、ぎゅうぎゅう詰めの車内には身ひとつが精一杯。それでもホームに
放置した荷物が未練で、見知らぬおじさんに所持金三百円の内、二百円をあげ
るから取って来て、と頼んだら、おじさん、ちゃんとやってくれた。ただ、荷
物の横にあった袋までは取って来れず、その中にハーモニカが入っていたそう
です。
ちなみに斬り込み隊は、その後本当に決死の斬り込みを敢行。機銃掃射を浴
びて、一太刀も浴びせることができずに亡くなったとか。
その後。
やっと乗った列車なのに、そのまま夜になっても一向に動きません。辺りを
見回した小沢昭一は……
「ビックリいたしました。火の玉が飛んでいるのです。なんともいえないにお
いに包まれているんですよ。
「ああ、地獄へ来た。あんまり欲に目がくらんだんで、閻魔さんが私のこと呼
んだんだ」
とね。もちろん地獄なんかじゃありません。でも、これがほんとの地獄とい
うべきでしょう。広島駅の引き込み線のところに貨車が入ったままなんです。
火の玉に見えたのは、火の玉ではありませんでした。そうじゃなくて、原爆で
亡くなられた死体を、もう、あっちでもこっちでもうずたかく積んで荼毘にふ
しているその火、そのにおいでございました。わたし、あのにおい、あの日、
もう終生忘れません。
あの広島駅の引き込み線のところで、それまでの「死ね死ねというものの考
え方」から、「今日の人間の命というものは、何にもまして尊いものだ」とい
う、そういう考え方に、どうも、あそこで切り替わったんじゃなかろうかな。」
つまり、軍歌に顕著なように、「咲いた花なら散るのは覚悟」という従来の
考え方。
それがひっくり返り、「生きてる内が花なのよ」に変わった瞬間だったので
しょう。
引き込み線だけに、まさにレールが切り替わった。
そして、小沢昭一は平成二十四年に没しました。
やはり考え方が大きく切り替わった戦後教育の一翼を担った義父も、令和四
年、世を去りました。
駆け抜けたと言うよりは、飄々と、人生の長い道のりを歩き通した義父の背
中を追って、未だ洟垂れ小僧である自分もまた、歩き続けたいと思います。
小沢昭一
『小沢昭一――僕のハーモニカ昭和史』
二〇一一年二月二十日 第一刷発行
朝日新聞出版
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今月は尿道結石で救急車を呼んでしまいました……。
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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化粧品のことを基礎から理解できる本
『化粧品成分事典』(監修・久光一誠/スキンケア監修・岡部美代治)
図書館でふと目にして何気で借りて、感銘を受けた本。
発行元と、タイトルからよくある化粧品のカタログ的解説書だと思ったら大
間違い。化粧品のことを知る第一歩としてぜひおすすめしたい一冊でした。
著者は大学の基礎工学部を卒業して化粧品会社でスキンケア製品の開発を11
年した後、独立した方。「はじめに」によると、「化粧品は生活必需品なのに、
正しい知識が伝えられていず、自称専門家(だれのこと?笑)は発する断定的
で間違ったわかりやすい知識が横行しているが、そんなもんかと思っていたと
ころ、化粧品成分の本を出そうと誘われわかりやすくて正しい解説をしようと
がんばって一冊の本になりました」とあります。
そう、やっと近年、食品に関しては賞味期限やら成分表示をきっちりするよ
うになってきたけれど、同じ生活用品である化粧品については放りっぱなしだ
ったと思います。それは化粧品がどっちかというと贅沢品の範疇に入ると皆が
思ってたからかもしれません。
おんなたちが化粧品について得る情報といえば、かつては雑誌の美しい物撮
りの商品紹介にちょろっと効果が書かれたキャプションのみ。美容評論家の読
み物もあるけど、それもアホみたく恣意的な原稿で。ネットの時代になってコ
スメサイトもたくさん出たけれど、それも口コミ中心でいまいち効果について
は不明でした。大切なお金を出す消費者として「こんなことが続いていてよか
ったのかよ!」と昔はちょこっとメークページを担当したこともあることを棚
に上げまくっておばちゃまは憤怒しましたよ。
この本、最初からツカミ的に注目の成分3つが紹介してあって、テンション
上がります。それはシワ対策のニールワン、保湿のライスパワー、肌荒れ対策
にはシカだそう。次にうるおい成分ベスト3が紹介されてあって、ぐいぐい化
粧品の世界に引き込んでいきます。
わかりやすい……すみません、嘘です。実際には化学成分の話なので基本知
識がない私はよくわかってない。でも、よく読むと理解できるようなレベルで
書かれているのでがんばれば理解できます。
読めば読むだけ、化粧品について何も知らずに、マスコミの情報と口コミ情
報、あと知りあいの義理で化粧品を購入してきたことがわかりました。
図書館で借りた本ですが、購入して座右の銘にしようと決意。
ページの中に具体的な化粧品がポツポツと紹介されているのですが、それが
1000円以下から3万円台まで、会社も有名メーカーから医薬品メーカーや知ら
れてない会社のものまでいろいろ。美容オタクという人はたくさんいて、意味
あるの?と思っていたのですが、にわか美容オタクになって片端から試したく
なってしまいました。
このように美容ってか化粧品の世界に足を踏み込んだ私ですが、読んでてな
かなかの闇も垣間見えました。
その最たるものがプラセンタ。プラセンタとは胎盤のことで、受精卵を外界
で生きていける個体にまで成長させるものすごいパワーを持っているゆえに、
古くから医薬品として使われてきたそう。中心は豚の胎盤ですが馬もあり、海
洋性生物から摂取するものもあります。で、人由来のプラセンタもあり、(こ
の由来って言葉も医薬品業界独特の言い方で、そこから摂取したということの
婉曲表現ですな)、かなりの力があるとか。ヒトプラセンタは病院でしか処方
されなくて、保険が効かない自由診療だそうです。そして一回でもヒトプラセ
ンタを処方された人は献血してはいけないんだって。劇薬じゃん!
ここまで来ると優雅な美容の世界から急に邪悪なお妃さまや魔女が出てくる
中世ヨーロッパのイメージになって怖くなりました。でもお金さえ出せば永遠
の美が手に入るのだから、きっと芸能人とかはこれやってるんだろうなあ。
「芸能人ってのは現代の邪悪なお妃さまなのね」と思った次第。ど庶民のおば
ちゃまは年金から抽出したわずかなお小遣いの範囲でがんばろう!と「エイジ
ングケア」の章を読み続けるのでした。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『三時間半で常識的国際人になれるゆげ塾の速習戦後史 欧米編』
ゆげひろのぶ ディスカヴァー・トゥエンティワン
紙の本と電子版があるが、電子版は今月末まで安いそうだ。
学習塾にもいろいろある。「目指せ!灘・筑駒!」「医学部専門」みたいな
エリート塾もあれば学校の授業についていけない子を対象にした塾もある。だ
いたいこの世界の専門性というと、生徒の学力を基準に専門分化していると思
う。
この本の著者が経営する、ゆげ塾は学科を専門にしている。大学進学を目指
す学生に向けた世界史専門の塾らしい。学科で専門性を打ち出す塾は初めて知
った。最初に知った時、そんな塾が経営的に成立するのかと訝しんだ。同社ホ
ームページによると
「ゆげ塾は、池袋の小さな受験世界史専門塾です。コロナをきっかけに、映像
とZoom授業を整備しました。現在は、全国に塾生がいます」
「塾生の9割が、センター9割という実績、半数以上は国立早慶上智へ合格と
いう実績、このカラクリは、生徒が辞めてしまうことにあります」
「入塾金がなく、基本、ほとんどの授業もバラ売りです。そのため、生徒は、
いつでも辞めれます。故に、やる気のある生徒しか通いません。間違いなく、
日本で一番、生徒が辞めてしまう塾です」
おいおい(^^; で、どんな授業をしているのかもYouTubeに上げてあったり
するのだが、確かにユニークである。そんな塾だからして塾や塾長名義で一般
の歴史教育に色気を出したのか知らないが、歴史の入門書を数冊出している。
マンガもあるが今回は活字のを選んだ。
前書きはこう始まる。「僕は苦学生だった頃、大家を殺したいと思った」ラ
スコーリニコフっぽい出だしから、大家を殺すことは資本主義・自由主義社会
では罰せられるが、ロシア革命後のソ連成立期に地主や資本家を殺すことは正
義だった・・・これが「冷戦の本質である」とくる。この出だしで読む気が失
せる人は当メルマガの読者にはいないだろう(笑)
本の構成はI部が国際関係史、II部が戦後アメリカ史、III部が戦後西ヨー
ロッパ史、IV部が戦後ソ連・東欧史で、章立ても多数ある。項目も多い(200
くらい?)。基本戦後ヨーロッパの通史なので内容が膨大かつ複雑になるのを、
上手に小さなトピックを流れが分かるように配列している。
たとえば第一章は第二次大戦終戦直後からの西側・東側の綱引きの経過が書
かれている。
近年中国が海洋進出してきて「第一列島線」「第二列島線」と勢力範囲を規
定し日本の海も自分のものだと言わんばかりの態度に「おいこら、てめぇ」と
いいたい日本人は多いだろうが、第一列島線は、そもそも西側がアジアの赤化
を食い止めようとした防衛ラインであったことがわかる。
だから中国は、これを防衛ラインと考えたんだな・・・地政学的に見れば地
図を見たら中国がそう考えるのは明らかなことだが、それだけなら理屈として
分かるだけのこと。赤化した中国やベトナムの封じ込めを西側が狙って引いた
防衛ラインと第一列島線が同じだと分かれば、理屈だけでなく感情としても理
解が深まる。
今話題のウクライナ戦争に関連することも短く要点だけが書いてある。ほん
の1ページに過ぎないが、これを読むだけでも“ウクライナ正義=ロシア悪”
みたいな見方が変わってくるだろう。
またチェルノブイリで大被害をこうむったウクライナが、原発を推進してい
る理由も興味深い。同じ原発で世界を揺るがしたのに日本とウクライナではな
ぜ対応が違うのかを知れば、ある種日本がどれほど恵まれているのかがわかる。
ひとつだけ問題を挙げる。紙の本は問題ないが電子書籍(Kindle版)はファ
イルの作り方が稚拙でデバイスによってはトラブルに見舞われる。(デバイス
とはPCとかタブレットとか、スマホなどブラウザーとなる機器のこと)
電子版は紙の本の版元であるディスカヴァー・トゥエンティワンではなくて、
ゆげ塾が作っている。おそらく著者が自分でファイルを作っているのだろうが、
電子書籍ファイルを作るスキルが不足している。
確かに自分でePub作るのは面倒・・・とはいえ素人でもきれいに完成された
ePubファイル作れるツールもあるのですよ。ジャストシステムの「一太郎」で
す。ePub作りに悩んでいる方がいらっしゃるなら、騙されたと思って使ってみ
てください。今なお一太郎は侮れない実力を持つワープロソフトなのです。こ
れで作り替えると簡単に修正できる。
ま、それはともかく、本のタイトルに偽りはない。三時間半の読書時間で戦
後現代史を分かりやすくおさらいできる本なのは間違いない。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
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本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
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せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
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は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
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ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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めずらしく配信日に配信することができました。感謝!(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<148>漫画とローカリズム
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第145回 トレードオフとジレンマの連続
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→129 想像すること
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<148>漫画とローカリズム
たとえば、川端康成『雪国』には、越後湯沢という「土地」の存在が不可欠
だ。
同じ川端の『伊豆の踊子』は、そのタイトルの通りに「伊豆」、谷崎潤一郎
の『細雪』では、大阪と阪神間。
村上春樹の『風の歌を聴け』もまた、神戸と阪神間の街並みがあってこそ、
成立する物語だ。
矢作俊彦は、「横浜」にこだわり続けた。
何年か前にブックオフの100円コーナーに、源氏鶏太のサラリーマン小説がま
とまってあるのを見つけて、何冊か読んでみた。
いずれも昭和30年代から40年代の作品だが、仕事そっちのけで恋愛に勤しむ
若い男女のバックには、高度成長期、まだまだ元気溌剌だった大阪の街の活気
がいきいきと描写されていて、男女の恋模様に色を添えている。
他にも、江戸川乱歩の東京、夢野久作の福岡、等々、小説の世界では、純文
学から大衆小説まで、特定の地域を前提とした物語、その地域でこそ成立する
物語が、いくつも紡がれてきた。
翻って、漫画で、特定の地域を前提にした物語と言えば、1976年から「漫画
アクション」に連載された、長谷川法世の『博多っ子純情』が、その嚆矢だと
思う。
「漫画アクション」では、その1年ほど前から、こちらは大阪の「南河内大
学」という架空の大学を舞台にした『嗚呼?花の応援団』(どおくまん)も連
載されていて、これも、一応は大阪・南河内という「地方」を舞台に選んでは
いたが、作中に描かれる「地域性」というのは、限りなく薄いものであった。
それ以前の漫画で、物語が展開する「場所」と言えば、おおむねが「東京」、
さもなければどことも知れぬ地方、あるいは「田舎」であって、長らく「無戸
籍」状態が続いていた。
『博多っ子純情』は、そんな漫画界に、リアルな「場所」のエネルギーを持
ち込んだ。博多という街のディテールを詳細に描くことによって、キャラクタ
ーたちに実在感を与え、物語に厚みをもたらした。
1976年から8年に及ぶ連載の中で、主人公「郷六平」以下の登場人物たちは、
中学生から高校生、大学生と成長し、それぞれの青春を生きてゆく。
ちなみに、主人公の名前「郷六平」は、福岡出身の「郷ひろみ」から、その
幼馴染であり、後に恋人となる「小柳類子」は、やはり福岡出身の「小柳ルミ
子」から採られていて、他にも、連載開始当時、西鉄…じゃなくて当時はすで
に太平洋クラブライオンズか…の有力ルーキーだった真弓明信、若菜嘉晴の名
前を合成した「若菜真弓」等々、キャラクターのネーミングもまた、徹底して
博多及び福岡にこだわったものだった。
作者の長谷川法世は、連載当時には、おそらく東京在住だったと思うが、生
まれ故郷とはいえ、ここまで詳細に街を描き込むには、結構な時間をかけた取
材が必要だったと思う。
週刊連載の中でその時間をひねり出すのは、かなりの労力を要したろうとも
思う。
その甲斐あってこの作品は、ことに福岡では依然として人気があり、現在も
なお、読み継がれる作品となっている。
『博多っ子』以前の長谷川法世は、主に青年誌で、バイオレンスやセックス
を前面に押し出したハードな内容の劇画を描く作家だったのだが、この作品が
ヒットし、映画化(1978年・曽根中生監督)もされることによって、以後、生
まれ故郷でもある「博多」にこだわり続けることとなる。
生活の拠点も博多に移し、1995年には、この『博多っ子純情』の世界観をベ
ースに、NHK朝のテレビ小説『走らんか!』の原案も手掛けている。
長谷川法世氏は、現在も、地元・福岡でテレビのキャスターも務めるなど、
生まれ故郷に密着した活動を続けておられるようだ。
『博多っ子』以後、漫画界には一種の「地方」ブームが巻き起こり、特定の
地方を舞台とし、その場所であることを前提とする作品が、次々と生み出され
てくる。
青柳裕介『土佐の一本釣り』の高知、はるき悦巳『じゃりン子チエ』の大阪、
いわしげ孝『ぼっけもん』の鹿児島、西村しのぶ『サードガール』の神戸、等
々、等々、1970年代末から80年代は、地方漫画の花盛りとなっていく。
以前、ここで取り上げた、たがみよしひさ『軽井沢シンドローム』や、むつ
き潤『バジーノイズ』なども、この系統に連なる漫画だ。
やはり以前に取り上げた、くらもちふさこ『天然コケッコー』は、作中の地
名こそ架空ではあるが、島根県石見地方であることを前提として、その舞台が
描かれる。
出版界の東京一極集中というのは、これからも、まず改まることはないだろ
うけど、「コロナ」でリモートワークが広く一般にも取り入れられる以前から、
漫画界の「リモート化」は進んでいて、今や、多くの出版社の所在地である東
京にいなくとも、どこからでも原稿は瞬時に電子送稿できる環境もあり、地方
在住の漫画家も多くなってきた。
それ以前にも、たとえば『土佐の一本釣り』の青柳裕介は、漫画の舞台でも
ある高知に、亡くなるまで住み続けたが、今後は、こういう作家がますます増
えてくると思う。
そして、自身が在住している土地を舞台として、ディテールもきっちりと描
き込まれた漫画が、もっと増えて欲しい、と思っている…というか、わしは、
読みたい。
なので、実は、関係先の学校では学生たちに、自分の生まれ育った「地方」
を具体的な舞台に設えて、そこで物語を展開すれば、東京の出版社に持ち込ん
だときに「目立つぞ」と、毎年唆しても、いるのでした。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第145回 トレードオフとジレンマの連続
どんな現場でも、トレードオフとジレンマは付き物で避けて通ることはでき
ない。どんなに周到に準備をしても思わぬ事態に身をすくめてしまうことは多
い。人は、そのような状況は、警察や消防のような直接、事故や災害の現場に
立ち向かうときのことを想像する。しかし実は、日常の生活の中に「トレード
オフ」と「ジレンマ」は付き物なんだ、ということをあらためて感じた書物を
読んだ。
「トレードオフ」=両立できない関係性を表す。一方を選ぶともう一方は捨
てなければならないような状況を指す。
「ジレンマ」=相反するふたつのものからどちらかを選ばなくてはならない
状況に陥ること。しかもそのどちらを選んでも不利益になるかもしれない。
これは防災の本であり、消防の本である。
『災害エッセイ ある消防官の見聞録−「災害と人間と消防との関わり」を見
つめて!−』(加藤 孝一 著)(近代消防社)(2022年1月20日発行)
本書は、消防専門誌「近代消防」に20回にわたって連載されたエッセイを書
籍化したものである。本書の著者は長く消防官だった方であり、現在はさまざ
まな所で防災アドバイザーをされており、また積極的に防災と消防について発
信している人である。本書は、消防の世界を広くわかりやすく紹介している。
消防専門誌という限られた範囲の読者層での読み物であったが、それが書籍化
されることによって、消防という業界以外の読者にも目に留まるようになった。
まさに執筆子がその典型である。
第一話から第二十話まで、時系列に並んでいる。最後の十九話と二十話はコ
ロナ禍でのエッセイであるので、とてもタイムリーな話が載っている。
書物の前半は火災現場についての話題が中心である。火災発生から消防の出
動要請、火災現場における消火活動と救出活動、そしてその後の現場検証と報
告書作成。また、消防は消火と救助活動だけではない。救急活動と予防活動が
ある。前者は救急車に乗る救急隊であり、後者は、防火管理や立入検査に代表
される予防活動である。それら消防の仕事を一般の人にわかりやすく紹介して
いる。消防に対して親近感が広がり、理解を深める書となっている。
そして後半は、災害の現場に立ち向かう消防官たちの紹介になっている。阪
神淡路大震災と東日本大震災での消防官。また、近年は毎年発生している大水
害での消防官。そしてそのような災害現場に派遣された消防官たちの紹介だけ
でなく、防災のヒントになる話題、防災の講話と云ってもよい話題がたくさん
載っている。著者が災害現場、被災現場で見聞した印象に残る話がたくさん載
っている。その話は実に興味深い。被災現場における中高生たちの奮闘ぶりや
人々が助け合って災害に立ち向かう話は何度読んでも胸を打つ。
そして、ここに書かれたことを読むにつけ、台風などの気象災害もあり、火
山の噴火もある。自然災害は地震だけではないことを痛感する。
興味深い数字は、阪神淡路大震災(1995年(H7)1月17日)でのデータである。
この大災害では消防など公的機関の対応力の限界を露呈したものであるが、家
屋の下敷きになった約16万4,000人のうち、12万9,000人(80%)が自力脱出、
2万7,000人(16%)が近隣住民の救助、7,900人が警察や消防、自衛隊による
救出だという。これほど防災について助け合いの大切さを雄弁に語る数字はな
い。
応急救命での話題も心に残る。心臓マッサージやAEDを熟知していてもそ
れは人を助けるためであり、自分を助けることではない。助けられるのは自分
以外の人である。だから、自分がいざというときのために周りの人にも心肺蘇
生法やAEDを覚えてほしい、ということが記載されていた。訓練の理屈付け
としては申し分ない理屈であろう。
そして話は「トレードオフ」と「ジレンマ」になる。災害現場での安全性と
迅速性は、まさに「トレードオフ」の関係であり、現場指揮官はその「ジレン
マ」のストレスに遭遇する。私たちも日々「トレードオフ」の場面に出くわし、
「ジレンマ」を抱えている。そのストレスに押しつぶされそうになることもあ
る。しかしその重圧を少しでも回避、軽減したいためにさまざまな準備がある
のだ。
本書は、防災の啓蒙書でもあり、日々の生活での心構えを導いてくれる書で
もある。
多呂さ(「シン・ウルトラマン」を観ましたか。映画の序盤からウクライナで
の戦争を連想しますね。いまの世界情勢を考えるためのとてもタイムリーな映
画だと思いました。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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129 想像すること
『たぶん みんなは 知らないこと』
福田隆浩 講談社
2007年に第48回講談社児童文学新人賞を『熱風』(現在は集英社文庫で刊行)
で受賞した福田さんの新刊です。
重度の知的障がいのある小学5年生の女の子、すずの物語。
作者福田さんは、特別支援学校教諭。作家としてたくさんの物語を書かれて
いますが、本職について物語にするのははじめてです。
物語では、すずの心の声とともに、母親の気持ちは、すずの学校の先生と交
わす連絡帳で、中学三年生のすずのお兄ちゃんはブログで自分の気持ちを綴り
ます。
大きな展開をあえておかずに、淡々と学校生活や日常を描いているので、ペ
ージがすすむたびに、すず達家族の生活に読者もなじんできます。
そんななか、小さなハプニングが起こります。
バスにお兄ちゃんとすずが乗っているとき、すずが大きな声を出しはじめ、
前に座っている人の髪の毛をひっぱってしまったのです。前の人はすずのこと
をなじり、お兄ちゃんは頭にきます。
なぜすずがそういうことをしたのかは、すずの声で語られます。
お兄ちゃんは、その人が発した言葉に頭にきています。
その日は雨が降っていて、バスから降りたふたりは少し長く歩くことになる
のですが、その歩いている時間がお兄ちゃんを落ち着かせ、いますることは、
早く家に帰り着くことだと納得するのです。
「妹が将来、人の役に立とうが立つまいがそんなことは関係ない。
妹がこれから、たくさんの人の世話になっていくかなんてそんなことも関係
ない。
妹がこうやって、同じ世界に生きていることが自分にとっては大事なことな
んだ。雨音をこわがったり、雨粒を手にうけて喜んだり、ときどき大声をあげ
たり、空を見あげたり、首をかしげたり、息をすいこんだり、そんなことすべ
てがおれにとってはとても大事で大切なことなんだ」
いやな思いをしたことで、考えてたどりつくことに腑に落ちることがありま
す。いやなことはないにこしたことはないけれど、その「いや」がないとたど
りつけないこと。それに気づくと、生きていくということは、いつも片面だけ
のできごとでは終わらないなと思うのです。
複数の視点で重層的に語られているところから見えるものに感じ入り、最後
にしめくくるすずの視点に、次の扉が開くのがみえてきます。
「新しいぼうけん」の章でのラストシーンの後、ぜひ表紙を見返してくださ
い。
もう一冊ご紹介する読み物はこちらです。
『目で見ることばで話をさせて』
横山和江 訳 アン・クレア・レゾット作 岩波書店
表紙いっぱいに、主人公メアリの表情が描かれ、彼女の目がこちらを見つめ
ているのに吸い込まれそうになります。
物語はメアリの自伝として書かれたフィクションですが、一部史実も交え、
舞台はろう者と聴者が、どちらも手話をつかって生活していた実在の島です。
メアリは兄と両親の4人暮らし。兄と母親は聴者、メアリと父親はろう者で
す。文字だけで書かれている物語上では、手話での会話を〈 〉でくくり、声
に出してする会話では「 」、手話と声両方でする会話は『 』でわかるよう
になっています。
11歳のメアリは物語をつくるのが好きな少女です。
兄が馬車の事故で亡くなってから、心が重くなりがちになり、そんな時、島
に若い科学者がやってきます。島に多く住むろう者のことを調べたいと思って
きたのが、アンドリューでした。
島に新しい人がやってくることを心から楽しみにしていたメアリーですが、
事態は恐ろしい展開をみせます。
読んでいるのが苦しくなるほどの重たいできごとのなか、メアリーは必死に
生き延びるために物語を考え、自分をなぐさめます。
そこでは今までの生活の中では味わったことのない、ろう者が人間以下の扱
いを受けることを体感するのです。メアリーは祈ります。
「ちがいのある人に対して、世の中の人がどのような扱いをするか、わたし
はあまりに早く多くのことを学びました。あの人たちに対抗するためには、あ
の人たちの決まりごとを学ばなければなりません」
メアリーは考え続け、行動し、道が開けていきます。
考え続けてきたことをメアリーは父親に相談します。
周りの友人たちが、自分たちと違う人に対して、劣っている態度をとるのは
おかしいのではないかと。父親は答えます。
「人を批判しないのが一番だ。まずは自分の内面を見つめなさい。最良の人
間になるよう努力しなさい。メアリーが手本になれば、ほかの人はメアリーか
ら影響を受けるだろう」
最後に、物語をつくるのが好きなメアリーの言葉で印象に残ったものを紹介
します。
「ことばは大好きだけれど、混乱もする。頭の中で考えていることは、手話
や文章だけでは表現しきれないから。頭の中のたくさんのイメージや心の動き
は、耳で聞いたことはないけれど、音楽みたいなものかなと想像してみる」
たしかに、頭の中で考えていることすべてを表現することは、私もできない
なと思います。表現できないものを、文章にしてみることは難しい。けれど、
難しいものを、まず想像してみるのは楽しそうです。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 今回はお休みです
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『世界が変わる空調服』照井康介 クロスメディアパプリッシング
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『タモリ学〜タモリにとって「タモリ」とは何か〜』
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『世界が変わる空調服』照井康介 クロスメディアパプリッシング
タイトル通り、空調服を作った人たちの物語である。調べると、個人的には
2016年にはじめて買ったので6年ほど愛用している。私が空調服の存在を認知
したのはその2年くらい前だったと思う。
そのため、2014年ごろに空調服が発明されたと思い込んでいた。しかし実際
は1998年から開発が始められ、2004年に発売になっていた。すなわち、私が知
るような商品になるのに10年以上かかっているのだ。
空調服がすばらしい発明なのは、使っている人なら誰もが認めるだろう。酷
暑の環境で働く人には必需品となっていると言って過言ではない。そんな製品
が、私のような一般人に知られるようになるまでの日々がこの本には綴られて
いる。
空調服メーカーである「株式会社空調服」は、もともとソニーに勤めていた
市ケ谷弘司氏と片見幾雄氏が作ったセフト研究所から始まっている。2人とも
ブラウン管技術を使った電子楽器のプロジェクトに携わっていた人たちで、こ
のプロジェクトはソニーの創業者井深大氏が大いに期待していた。しかし、こ
れがポシャってしまい、ほかにも思うところがあり独立した。
91年に会社を設立して最初に作ったのは、ブラウン管測定器でブラウン管の
色ズレがないか調べる機械である。ブラウン管を作る工場向けの商品だった。
これがうまくいって、会社は順調に回っていくのだが、時代は着々とブラウン
管から液晶の時代に移りつつあった。
会社ではデジタル向けの商品を開発しようと検討もしたが既に先行者とだい
ぶ差がついていて追いつくのは容易ではなかった。そのため逡巡しているうち
に需要は先細りになり、98年にいったん会社はリストラで縮小することになる。
市ケ谷氏はこのころ地球温暖化対策になる画期的な製品を作れないのかと考
えた。クーラーは部屋を冷やしはするが外部に熱を排出する非効率なしくみで、
廃熱が温暖化の原因にもなる。かくて最初、夏の夜に涼しく寝られるベッドの
開発を始める。背中と寝具の間に隙間を作って空気を通すと涼しく寝られると
いうことでがんばって作ったが、売れなかった。
そんな中、市ケ谷氏は気化熱に注目する。液体が気化する時に周囲の熱を奪
う。使う液体は安くて大量にある水だ。この原理を使って建物の壁面を水で冷
やす装置だったり、頭につけて水が乾く時に気化熱で冷やす道具を作ったり、
座布団を作ったりしたがダメだった。
そんな中から空調服のアイディアが生まれてくるのである。空調服は
「部屋全体を涼しくする、人だけが涼しければいい」
「水を供給しなくても、暑ければ自然に汗が出る。この汗を蒸散させればいい」
の2つの考えから生まれた。
そして開発に苦労、販売後もまた苦労の日々が始まる。詳しいことは本を読
んでいただけば書いてあるが、要するに仕入れた部品は使い物にならないわ、
需要に供給が全く追いつかないわ、耐久性はないわで返品続出・・・会社の仕
事の大部分が返品処理だった時代もあるくらいだ。
そんな中でも社員の心が折れなかったのは、ユーザーの誰もが空調服の良さ
を理解していて、空調服がなくなったら困ると思っている人たちばかりだった
からである。
中でも、返品された空調服にバキッャロー、なんてもの売りやがったんだと
いう苦情メモが入っていたところから続くエピソードは感動ものですね。これ
が大手IT企業のソフトウエアだったら直るまでクズ呼ばわりですが、この会
社はそうはならないのです。
AppleのMacintoshが、その昔よく落ちるだの固まるだの言われながらも、フ
ァンは辛抱強く良くなるのを待っていたのもこんな感じですね。商品の優れた
設計に感動し、死ぬまで使いつづけたいと思うユーザーを抱えるだけの魅力あ
る商品だったのです。
ま、それはともかく、先に書いたように、私が空調服の存在を認知したのは
2014年くらい。多くの人が同じくらいの時期だったろう。その時点で発売から
10年ほど経っていたわけだが、その十年の間、こんなに苦労があったのかと興
味深く読んだ。
そして発明は立派なものでも、商品化し、商品が離陸(こんな商品が欲しい
と思っている人に情報が届いて買ってもらえるようになる)までに、これだけ
時間がかかるのだなということも知った。
それにしてもこの会社、経営は苦労の連続でリストラも2回やっているのだ
が、いい会社なんだろうなと思う。もちろん今は好業績の会社だろうし、給料
もいいだろう。しかし、まだ資金繰りに追われて地べたで這いずり回っていた
時にも、居心地は悪くなかったんだろうなと思わせるところがある。
市ケ谷氏はエンジニアとして非凡な人だが、経営には向いているとは思えな
い。そんな人を支える周囲の人がいてはじめて成りたつ会社だったのだろう。
しかも支えている方も、苦労しつつもどことなく楽しんでいるような節も見え
る。だって会社が苦しくなると社員が自分の給料がコストだと感じて自主的に
やめて、業績がよくなると戻ってくるんだから。
この会社が成功した理由は技術力や営業力ももちろんあったろうが、本当の
ところは、こんな居心地の良さがあったからではないか・・・そんな読後感が
得られた本だった。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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タモリの人生哲学は明石家さんまと同じだった
『タモリ学〜タモリにとって「タモリ」とは何か〜』
戸部田誠(てれびのスキマ)著・文庫ぎんが堂
芸人・タモリを分析したこの本、書店で思わず購入してしまいました。タモ
リについて書かれた本ですが、かといってタモリ本人にインタビューしたわけ
ではありません。これまでタモリがいろんなメディアで発言してきたことをあ
っちこちからもってきてまとめ、著者なりに分析した本です。毎日テレビに出
て雑誌・新聞のインタビューも受けているタモリの発言をまとめるだけでもた
いへん。3年かかったというのもわかります。で、やっとまとまっていざ出版
準備という段階になって、『笑っていいとも!』が終わるというニュースが入
ってきたということで、急遽、新しい原稿を作成した・・・それが序章「タモ
リにとって『いいとも終了』とは何か」になっています。大変ですね、お気持
ち察します。
この本のいいところは、著者の分析がしかめっ面をしていないところです。
お笑い評論家みたいに、社会学的な高いところから論評してない。いるじゃな
いですか、なんかお笑いを小難しく語る人・・・それってまさにタモリがマネ
する寺山修司そのもの。いや、寺山修司をディスっているんじゃないんですけ
どもね。
それにしてもタモリのした仕事量と世に与えた影響は計り知れません。この
本を読もうとする人はまず、巻末にあるタモリの半世紀の年表から読んで、自
分の歴史を引き比べたらいいと思います。「あ、この年、私、就職したんだっ
たな」とか「あ、このころ失恋したなとか」。巻末の文字、めっちゃ小さいで
すが頑張って読んでください。おばちゃまはタモリの膨大な仕事の中で一番熱
心に読んだのが「SONOSONO」です。20代女性の恋愛レポートの「AN
OANO」に対抗して、おじさんの恋愛を赤裸々に描いたレポート、当時20代
半ばのおばちゃま、なんでこんな本を隅から隅まで読んだんじゃい! 笑えま
す。
閑話休題。タモリは常々、「やる気のある者は去れ」と言っていますがそれ
はどういうことかというと、
「向上心がある人は今日が明日のためにあるんだよ。向上心がある人は今日
が今日のためにあるんだよ」「向上心=邪念ということだよね」「夢があるよ
うじゃ終わりだね」「夢が達成される前の区間はまったく意味がない。つまん
ない世界になる。これが向上心のある人の生き方だよね。夢が達成できなかっ
たらどうなるんだ?ってことだよね」
ここんとこ、感銘を受けましたね。つまり、今日を生きる、今を生きるとい
うことでこれって、アドラー心理学じゃね? ってか仏教じゃね?と思うわけ
です。
そして、明石家さんま師匠も同じことを言ってますね。さんま師匠が一人娘
につけた名前が「いまる」で「生きてるだけで丸もうけ」の略だそうですが、
それじゃあんまりと思ったのか後で元妻の大竹しのぶさんが「今を生きるの略
です」とフォローしていましたが、そういうことです。(ちなみにこの娘は成
長して歌手になりましたが、そのIMARUのセカンドシングルのタイトルは「そ
んな名前ほしくないよ」でした。)
昭和から平成、令和を通して一世風靡した芸人が2人とも同じことを言って
いるのですね。今を生きるってよく言われるからなんとなくわかったフリをし
ていたけれど、タモリの言葉を聞いてよくわかりました。
この本ではなぜか、タモリの一番の芸だと思う、赤塚不二夫さん葬儀での勧
進帳的弔辞のことに言及されていませんが、そこでも同じことが言われていま
す。引用しますね。
あなたの考えは、すべての出来事、存在をあるがままに前向きに肯定し、受
け入れることです。それによって人間は、重苦しい意味の世界から解放され、
軽やかになり、また時間は前後関係を絶ちはなたれて、その時その場が異様に
明るく感じられます。この考えをあなたは見事にひとことで言い表してます。
すなわち、「これでいいのだ」と。
意味に惑わされることなく、今日を思いのまま生きることの大切さをこの本
から受け取りました。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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まもなく日本列島は梅雨入りでしょうか。今日は晴れています。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<147>就職先は冥府魔道(その5・軽井沢シンドローム?)
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→128 人はさまざま
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■巨匠・ドラッカーの叡智を学ぶ
└──────────────────────────────────
一般社団法人EMSが運営するEssential Management Schoolは、ドラッカー
学会公認の唯一のスクールです。
このたび、ドラッカー研究の第一人者である佐藤等氏が、世界で初めてドラ
ッカーの残した膨大な理論体系を本質行動学の「人間の原理」「価値の原理」
「方法の原理」を軸に再構築。参加者がその理論を体系的に学び、ワークで実
践に落とし込む、未だかつて存在しないドラッカーの叡智を学ぶ場が誕生しま
す。
紹介動画1 Essential Professor 西條剛央
https://youtu.be/Cd3pDGOp-CI
紹介動画2 Essential Professor 佐藤 等
https://youtu.be/OhGKJSJHhAM
詳細
https://ems-drucker.mystrikingly.com/
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■ Next Society Forum2022
└──────────────────────────────────
下記要領でドラッカー学会総会ならびに第17回Next Society Forumを開催いた
します。是非ご参加ください。
・大会テーマ
「起業家社会」の生き方、働き方
〜Life and Work in the Entrepreneurial Society〜
人が幸せになる『起業家社会』とは何でしょうか?
・申込ページ:Peatix https://nsf2022.peatix.com/
・日 時:2021年5月21日(土)10:00〜18:00
(学会員のみ開場9:45〜、学会員以外の方は10:20より開場)
・開催方法: :渋谷QWSより:Zoomミーティングのライブ配信
(当日URLは申込後ご確認いただけます)
・参加資格:ドラッカー学会会員および紹介者・協賛団体メンバー
・参加費:無料(ドラッカー学会・協賛団体による運営)
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<147>就職先は冥府魔道(その5・軽井沢シンドローム?)
漫画プロダクション(株)スタジオ・シップの社長であった小池一夫氏は、も
ちろん作家でもあって、毎年夏には猛暑の東京を逃れて、執筆の為に軽井沢の
ホテルに籠るのが恒例だった。
わしが入社した当初の2、3年は、原稿受け渡しの為にほぼ毎日、マネージ
ャー課員が交代で軽井沢まで列車で往復していた。
その後、ファクシミリの普及を受けて、原稿は現地からこれで送れるように
なったのだが、漫画原作は、シナリオ原稿の他に写真や書籍等、直接的な資料
を相手の漫画家に渡す必要が生じたり、さらに小池氏の場合は社長業での決済
などもあって、毎日の軽井沢便がなくなることはなかった。
当時…1980年代初頭…には、車で軽井沢を目指す場合、関越を藤岡で降りる
と、国道17号から18号で碓氷峠を超えて行くのが一般的だったのだが、このル
ート、ことに碓氷峠は夏には大渋滞が常態で、とても時間が読めず、なので列
車が主だった。
しかし、そのころ入社してきたY君が群馬県下仁田町出身で、彼がこの大渋
滞を避けるルートを知っていたのだった。
関越・藤岡から17号ではなく、川越街道の延長線上である254号を西へ、富
岡、下仁田と辿って下仁田から国道を外れ、クネクネした険しい山道を走って、
群馬・長野県境の「和美峠」を抜けると、もうそこは軽井沢なのだった。
Y君は学生時代、帰省するたび父親のカローラバンを駆って、この道で軽井
沢へナンパに出かけていたそうだ。
とまれ、このルートなら、まったくの渋滞知らず。きっちりと時間通りに到
着できるし、帰りの列車の時間を気にすることもなく、以後は車での往復が通
常となった。
ただ、下仁田から和美峠に至る山道というか、あれは「林道」だったのかな?
今はどうか知らんが、あの当時はかなり険しくて、ほぼ全線が一車線。未舗装
の区間もあったりして、対向車が来るとやや厄介な道だったが、「気分はラリ
ー」状態で、クルマのケツを振りながらぶっ飛ばしたりもして…あのころ、や
っぱり若かったんですね。
関越の東京側は、今もそうみたいだけど、練馬の終点でいきなり一般道に降
ろされる構造で、なので、夏にはやはり大渋滞が発生していた。
これを避けるのに、環八を使わず裏道を駆使して練馬のICに至る道とか、帰
りには、大渋滞必至の練馬の手前の所沢(だっけな?)で降り、やはり裏道を
縫って目黒の会社に至るルートとか、カーナビもない時代に、道路地図をあれ
これ精査しながら、かなり習熟したものです。
そういえばあの頃、そういった「東京裏道情報」だけで、田中康夫が一冊の
本を上梓したりも、してましたっけ。
そうやって、夏には毎年、軽井沢と東京を往復する日々を送っていたのだが、
ある年…って、1985年なのだけど、古参秘書であるWさんの発案で、小池社長
が軽井沢に滞在している間、貸し別荘を借りて、そこを連絡事務所というか出
張所にしよう、ということになった。
毎日のように東京と軽井沢を往復するのは不効率だし不経済、ということで、
この「出張所」にやはり交代で、誰がしかが泊まり込む、ということになった
のだった。
Wさんが見つけてきた貸し別荘…というよりも、単なる農家の離れだったの
だが…は、軽井沢町内ではあるが、街から少し離れた田園地帯の中だった。
ここに、電話を引き、ファクシミリを設置して、二人一組、交代で泊まり込
んだ。
わしらが寝泊まりしていた和室の座敷には縁側があって、そこから見える畑
の向こうにはテニスコートがあり、女子大生らしき女の子たちが、毎日テニス
に興じていた。
朝起きると、鶏の声とともに、どこからか山羊の鳴き声も聞こえた。
実に長閑な場所で、社長から電話が入って、いざ仕事となると忙しいのだが、
その他の時間は、持ち込んだ材料で自炊したり、ついでに酒盛りもしたり…と、
合宿みたいで、結構楽しんでいた。
社長の泊っているホテルとここを、日に何度か車で往復するのだが、当時、
夏場の軽井沢は、どこもかしこも大渋滞で、せっかく現地に泊まり込んでいる
のに、なかなかホテルにたどり着けず、イラついた社長から「ナンのために現
地にいるんだよォ!」と叱責を受けることも度々だった。
離れの持ち主である農家の主人に相談すると、「地元の人間は、誰もあんな
道通らないっぺよ」と、農家の皆さんが畑へ行ったり、地元の酒屋さんや食料
品店が別荘への配達に使う裏道を教えてくれた。
林や畑の中を縫うように走る未舗装の狭い道なのだが、なるほど、これを使
うと、一度も渋滞にかかることなく、ホテルまですんなり到達できる。
畑の中のダート道を小石飛ばしながら疾駆しつつ、「なんか、軽井沢シンド
ローム、みたい…」と、当時大人気だった漫画を思い出しては、地元民になっ
た気分を味わっていた。
たがみよしひさ『軽井沢シンドローム』は、軽井沢を「地元」とする男女若
者たちの、夢やら野望やら恋愛やらその破局やらを描いた青春群像劇。
「ビッグコミックスピリッツ」に連載された人気漫画だったが、個人的には、
そんなに好きな漫画でもなかった。
今回、この稿を書くにあたって、何話かを読み直してみた(なんと「LINEマ
ンガ」で無料で読めてしまうのです)んだけど、やっぱり、入り込めなかった。
乱暴に言ってしまうと、軽井沢版『男女七人夏物語』なのだけど、キャラク
ターたちがコマを移るたび、八頭身から五頭身、五頭身から八頭身、と目まぐ
るしく「変身」するし、やたらとセリフが多くてコマの中は文字だらけで、な
んだけど、そのやたらと多いセリフが、実はたいして意味のあることは言って
なかったり…と、やけに目が疲れる画面構成で…と、昔に読んだ時と同じ感想
を、今回も持ったのだった。
わし的には、いまひとつ馴染めない作品だったけど、これが、当時の「若者」
たちの圧倒的な支持を集めた、というのは、よくわかる。
なにより、とても「おしゃれ」でトレンディーな漫画だったのだ。
その後、1988年には、TVドラマ化が企画され、当時の人気俳優たちがキャス
ティングされた。
が、撮影中に死者を出す事故があり、俳優もまた重傷を負ったことで、撮影
は中断され、ドラマ自体もまたお蔵入りとなってしまったのだった。
ドラマ化が企画された1988年には、雑誌の連載はすでに終わっていたが、こ
のドラマが実現し、ヒットしていれば、漫画の方も続編の再連載という流れに
もなっていたんじゃなかろうか、そして、またぞろ軽井沢に人が増えていたか
も…などと今もふと想像する。
ドラマ化以前の1985年には、OVAでアニメ化もされていたらしいが、OVAゆえ
か、一部の好事家には好評だったらしいが、こちらは、大きな話題にはならな
かった。
『東京ラブストーリー』や『白鳥麗子でございます!』、あるいは『HOTEL』、
『南くんの恋人』等々と、漫画が原作のドラマが相次いで放映され、ヒット作
は社会現象にもなっていくのは、それからしばらく後のことだった。
気分は「軽井沢シンドローム」な臨時出張所は、残念ながらその年限りとな
ったのだが、明日は社長も東京へ引き上げ、「出張所」も店じまい、という夕
刻、部屋の荷物など片付けていると、電話が鳴った。
電話は、当時連載を持っていた週刊Pの担当者からで、その日にはまだ原稿
は引っかかってないのになにかと思えば、ちょっと緊迫した声で、「なんか、
その辺に飛行機が落っこちたみたいなんだけど…なんか見える?」と訊くのだ
った。
外へ出てみるが、別段変わったものは見えない。そう伝えると、「そう、わ
かった」と電話はすぐに切られた。
「なに?」と尋ねる同僚に、「なんか、飛行機が落ちたって…」と応えたの
だが、テレビもラジオもなかったので、詳しいことはわからなかった。
乗客乗員524人が搭乗した東京発大阪行きの日本航空ジャンボ機が、御巣鷹
山山中に墜落しているのが発見されたのはその数時間後、1985年8月12日の深
夜で、わしらがそれを知ったのは、その翌日、東京へ戻る車のラジオからだっ
た。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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128 人はさまざま
上橋菜穂子さんの新刊が出ました。
デビュー作以降ほぼリアルタイムで読んできた作家の新作を読めるのは心が
踊ります。
『香君(こうくん)』上下 文藝春秋
特別な嗅覚をもつ少女アイシャが主人公。西カンタル藩王の孫にあたるが故
に囚われ毒殺されそうになるも、毒を加減されたことによって生きながらます。
アイシャと共に、ものいわぬ植物、オアレ稲がこの物語の柱です。奇跡の稲
といわれ、この稲で帝国がつくりあげられました。この稲をもたらしたのが、
香りで万象を知るという「香君(こうくん)」。香君の庇護があれば、帝国の
発展は続くと思われていたのですが、オアレ稲に虫害が発生したことで、大き
なうねりが国を襲います。
上橋さんの作品の魅力に、ファンタジーの土台の厚みがあります。
深い知識に基づいてつくりあげた土台の上で、物語は自由な動きをみせるの
です。そしてファンタジーが自分たちの世界のすぐ近くにあることを感じさせ
ます。
国を豊かにする資源は外の国との諍いの種ともなり、暗殺手段として毒がそ
こかしこにしかけられ、並外れた嗅覚をもつアイシャは、自分のもつ力を駆使
して、生き延びます。
そして、オアレ稲の虫害をどうくいとめるかが、アイシャの命題にもなって
いき、物語はクライマックスを迎えます。
「大雨が降れば山が崩れ、人が死ぬかもしれない。しかし、雨がまったく降
らなければ作物も草木も育たない。適度であればいいと生き物は願っているの
に、神々はこの世をそういうふうには創ってはおられない。」
これは初代の香君がみている世界なのだと、アイシャは母親から教わります。
香君が香りで万象を知るとしても、それは「必ずしも人にとって利益ばかり
ではないものが満ちて、巡っているすべてのことである、と」
オアレ稲の虫害をくいとめるためには、どんな道があるのか。
人は様々だからこそ、ひとつのゴールに向かう難しさが道には横たわってい
る。読みながら、深くため息が出ました。
次にご紹介するのは、岩波少年文庫の「ホラー短編集」シリーズの最新作。
『小さな手 ホラー短編集4』金原瑞人 編訳・佐竹美保 絵
実はシリーズになると思わず、今回4作目にあたるに、前作を見直そうとす
るも、本棚にバラバラにさしていたので、見つけるのに数時間要しました。
今度はしっかり4冊セットにしておきます。
怖い話はそれほど得意ではないのですが、小泉八雲の「怪談」は好きですし、
本シリーズも、読み始めるととまらないのは前3冊も同じでした。
そして今回も、ひとつひとつの短篇がすばらしく、これまた深いため息をつ
きながら楽しみました。
アンソロジーは選ばれた作品と共に、収録されている順番すらも楽しめる醍
醐味があります。本書では8作品おさめられ、ぞくりとしたり、ほろりとした
り、ぜひ順番どおりに読んでほしいです。
といいながら今回は押しの2作品のみご紹介します。
二番目に収録されている「ミリアム」はトルーマン・カポーティによるもの。
ニューヨークのマンションにひとりで済んでいる女性、ミセス・ミラーは61歳。
毎日、部屋をを掃除し、食事をつくり、カナリアの世話をして暮らしています。
そんなミセス・ミラーが映画をみようと出かけたときに、ミリアムという少
女に出会います。素性のはっきりしないミリアムは、ミセス・ミラーの生活に
関わりをもとうとします。ミリアムは誰なのか……。
佐竹美保さんの描くミリアムがとてもすてきで存在感を放ちます。
表題作の「小さな手」(アーサー・キラ-クーチ)は七番目に収録されていま
す。
ミセス・ル・ペティットが語る以前に出会った幽霊は「世界一、無害」。
無害な幽霊とは? ル・ペティットさんが若いときに借りた家には、住み始
めたときから決まった家政婦さんがいました。よく働いてくれる人で、ル・ペ
ティットさんは頃合いがよくわかっている人だと気に入っていました。けれど、
家の中で不思議な現象が続けておき、ついに理由が幽霊であることをつきとめ
ます。
さてどんな幽霊だったかは物語を読んでのお楽しみ。
夜ねむる前にひとつずつ読むのもいいですよ。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
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・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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あくまでも空気感の話ですが、いよいよ社会が脱コロナに向かって歩み出し
た印象ですね。
ここから1週間。GWでの移動の結果、あまり感染者が増えていないようで
したら、夏休みの予定を早めに立て始めた方が良いかもしれませんね。(あ)
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→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #144『人形はなぜ殺される』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『日本史の謎は「地形」で解ける』竹村公太郎 PHP文庫
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『大地(一)』(パール・バック著 新潮文庫)
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#144『人形はなぜ殺される』
前クールの月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』、面白かったですね。最初は
途中で犯人もわかるし、あれれ、と思いましたが、そもそも原作者はこれをミ
ステリとしてつくったわけではないそうで。だからこのタイトルだと。いや、
そんなタイトルありなんかい、とそっちの方が驚きですが、だとしたら何を楽
しむのか。
主人公・久能整(菅田将暉)の、細かい観察から引き出される推理と、独特
な倫理観の面白さが、まずひとつ。
そして、天パーがコンプレックスで、カレー好き、友だちがいない、などの
キャラでしょう。
しかし、本格ミステリーに登場する名探偵というのは、もともと人間離れし
た存在。「明察神の如き名探偵」なんて決まり文句もあったぐらい。つまり、
そもそもキャラっぽいものだった。おまけに、推理をするのが役割なので、極
端に合理的な思考力が、ほぼ全員の特徴です。
極端に合理的。
理性とか知性は、動物にはない人間的な要素と思われていますが、実は人間
って、さほど合理的ではありませんよね。人間を動かすのは、理性じゃなくて、
感情です。
したがって極端に理性が勝っていると、むしろ非人間的であって、自動的に
変人となります。
このことは、古代ギリシアの哲学者の多くが変人っぽいところにも表れてい
るんじゃないか。
地面に図を描いて幾何の問題を考えていたところへ、強面のローマ兵が通り
かかった時、「その線を踏むな」と怒鳴りつけたディオゲネス。
風呂に入っていて突然浮力の定理が閃き、「我発見せり!」と叫びながら、
街を素っ裸で駆け回ったアルキメデス。
どう考えても、危ないオヤジでしょ。
当時の哲学は、いまの数学や物理学だったわけだけど、いずれにせよとこと
ん合理的に考えて、世界の秘密を知ろうとしたという意味では、名探偵の遠い
先祖である彼らが、揃いも揃って変人。
理屈を徹底すると、世の中からは異端視されます。
それは普通の人間が、日頃いかに感情に流され、理性のかけらもない生き方
をしているかの裏返し。
だから、合理的な人物を見ると、異質に感じ、変人に分類してしまう。
でも、そういう彼らの凄さもわかっていて、崇拝もしてしまう。
その微妙な感じが、名探偵のイメージに集約されていると思う。
勢い、名探偵の歴史は変人キャラの歴史、と言っても過言ではありません。
東野圭吾の『探偵ガリレオ』の主人公・湯川教授だって、まさに仇名が「変
人ガリレオ」でした。
そんな名探偵たちに、もうひとつ、共通点があります。
すべての、とは言えませんが、かなり多くの探偵が共通で持っている趣味が
ある。
そう、それが音楽。
それも、単に聴くだけでなく、自ら演奏も楽しむ名探偵が多い。
その理由は、祖型である、シャーロック・ホームズに由来するんでしょう。
事件が解決すると、慌ただしく辻馬車に飛び乗り、「いまからならハイドパ
ークのコンサートに間に合うだろう、ワトソン。○○が弾くモーツァルトは聴
き逃がせないからねぇ」などと言う幕切れが何度も出てくる。まるで殺人なん
かより、コンサートの方が大切だと言わんばかり。もちろん、これ、一種の韜
晦なんだろうけど。
愛奏する楽器はバイオリン。ただし、人と一緒に弾く場面が出てこないのは、
さすが変人、人に合わせるアンサンブルは苦手なんでしょうか。
その代わり、この趣味を活かした罠を仕掛け、殺し屋をまんまと捉えるエピ
ソードもあったっけ。
翻って我が日本には、島田荘司の名探偵・御手洗潔がおり、こちらはギター
の名手です。それも、超絶テクを誇るフュージョン・バンド、リターン・トゥ
・フォーエバーの楽曲を流麗に弾きこなすほどのレベル。セッションもしてい
ますから、意外に人とも合わせられる。
そして、本書『人形はなぜ殺される』の名探偵・神津恭介はどうかと言うと、
ピアノが趣味のクラシック派なのです。
著者の高木彬光は、戦後間もなく、当時破格の懸賞金が掛かった長編探偵小
説の公募で優勝。日本家屋では成立しないと言われた密室トリックに挑み、
『刺青殺人事件』でデビューしましたが、そこに既に登場していたのが、神津
恭介です。
日本におけるミステリーのパイオニア、江戸川乱歩の明智小五郎は、初めて
登場した「D坂の殺人」ではやや風変わりな書生という感じ。変人というほど
ではなく、いわゆる通俗長編と呼ばれる『黒蜥蜴』や『黄金仮面』ともなると、
むしろ二枚目のヒーローです。
そこへ行くと横溝正史のお馴染み、金田一耕助は、ふけだらけのぼさぼさ頭、
よれよれの着物で、むしろ変人探偵の伝統に近いかも知れません。
では神津恭介はどうかと言うと、明智路線をさらに突き進め、もうはっきり
「アポロン型の美男子」とまで書かれている。でも、頭がよすぎてちょっと変
わり者、といった描写もあるので、まあ、明智と金田一の中間、といったポジ
ションでしょうか。
本書の冒頭では、この美しき名探偵が、ベルリオーズの『幻想交響曲』、あ
の不気味な旋律をレコードで聴いている時、ギロチンで美女が首を斬られると
いう猟奇事件の一報が入ります。
さらに中間部では、事件の謎に苦悩しながら、神津恭介がピアノでベートー
ベンの『月光』を弾く。するとその後、偶然にも夜行特急「月光」が美女を轢
いてバラバラにしてしまうという事件が起こります。
ちなみに、この時代、まだ新幹線はなく、夜行の特急。そのネーミングが情
緒に溢れていましたね。この「月光」の前には「銀河」が走っていて、これま
たトリックの中で重要な役割を果たしています。
対して新幹線のネーミングは、「こだま」「ひかり」「のぞみ」。それぞれ
音速、光速ときて、物理的にそれより速いものがなく、「望み」と、人の思い
の速度にパラダイムをズラすというアイデアは素晴らしいものの、意味で言う
なら、どれも「速いよ」ということしか伝えていない。情緒より機能性に特化
しているところに、やはり忙しない現代の無味乾燥が露呈している気がします。
って、閑話休題。
とにかく音楽が、雰囲気づくりにうまく使われているのが本書、というお話
でした。
そしてこの点で、本格ミステリーとしての評価とは別に、音楽本として評価
できるところ。
いえ、もちろん、推理小説としてはダメ、というわけではありませんよ。
高木彬光はデビュー作でも、犯行現場を別のところだと思わせる「ミスディ
レクション」に成功していました。
本書でも、ネタバレになるから詳しくは書けませんが、首なし死体の傍に人
形の首を置いたのはなぜか、あるいは「月光」が美女を轢く前に「銀河」に人
形を轢かせているのですが、それはなぜか、というところに巨大なミスディレ
クションが仕掛けられ、しかもそのことはタイトルでも、本文でも、再三注意
を促されている。曰く、「人形はなぜ殺されたか、それこそが謎を解く鍵であ
る」と。
にもかかわらず、ぜんぜん、わかんない(笑)。
『刺青殺人事件』以上の、名作だと思います。
それにしても、人形って怖いですよね。
怪談でも定番のアイテムだし。
お宅には、どんな人形がありますか?
高木彬光
『人形はなぜ殺される』
昭和四十九年八月三十日 初版発行
昭和五十五年七月三十日 十七版発行
角川文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今期の月9は、綾瀬はるか主演、『元彼の遺言状』。このミス大賞受賞作のド
ラマ化です。遺産相続、容疑者の多さ、弁護士が殺されるのはまさに『犬神家
の一族』だし、ポーの「黄金虫」風暗号も大サービス。ポトラッチまで飛び出
して、深いテーマが隠れていそう。楽しみです。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『日本史の謎は「地形」で解ける』竹村公太郎 PHP文庫
視点が違うと、この世が全く違うものに見えることがある。たとえば遺伝子
組み換え技術が危険だと考える人は少なくないが、医者から見ると糖尿病にな
ったらキミどうするんだ?となる。
糖尿病の治療薬であるインスリンは全て遺伝子組み換え技術で作られている
から、“危険な”遺伝組み換え技術を拒否するなら、糖尿病になったら最後、
死ぬしかなくなる。
この場合は、医学なり科学なりの知識の有無によって見える世界が違うわけ
だが、日本の歴史を歴史家の目ではなく、土木技術者の目で見たのがこの本だ。
著者の竹村氏は東北大学の土木工学科を出て建設省に入り、ダムや河川の仕
事をしてきた人。メデイアで叩かれていた長良川河口堰にもかかわっており、
世間の誤解を解こうと懸命に働いていたこともある。
自分が大好きで著作を全部読破していた社会評論家に懸命に世間の誤解を解
こうと説明しても、話を理解してもらえなかった。知らず知らずのうちに上か
ら目線で話をしていたから説得力がないと喝破されてしまった。世間とエンジ
ニアの間に横たわる深い河の橋渡しは出来なかった。
彼は反省し、自分はインフラ屋であるからインフラ(下部構造)のことだけ
を徹底的に説明することで世間との橋渡しを試みる。そんな中、大阪に転勤に
なり、今の大坂城のあった場所にあった石山本願寺がなぜ難攻不落だったかを
知ったところで開眼した。
地形と気象に関して、自分はプロである。このポジションから歴史を見ると、
これまで見えなかった歴史が見えてきたのである。
最初の章は「関ヶ原勝利後、なぜ家康はすぐ江戸に戻ったか 巨大な的との
もう一つの戦い」である。家康は関ヶ原の戦いに勝ち、3年後征夷大将軍にな
ると江戸に戻り幕府を開いた。
まだ豊臣家は力を持っていたし、全国を平定したと言えず、いつ何時自分に
刃向かってくる者が出てくるのか分からない時期だ。そんな時になぜ家康は京
都や名古屋のような天下を把握できる地に幕府を置かなかったのか?
この頃、家康の本拠は江戸だったわけだが、秀吉から江戸を含む関東6カ国
を遣わされて家康の家臣たちは激高したと言う。もともと北条氏の所領で統治
が大変だったから怒ったと言う説があるそうなのだが、竹村氏はそうではなく
て関東が平野ではなく湿地だったからだと言う。
今の関東平野は当時湿地で関東平野ならぬ関東湿地と呼んでいい劣悪な土地
だった。そんな劣悪な土地を遣わされた家康は家臣をなだめつつ自分の所領を
調べて回った。すると、実は肥沃な土地であるとわかった・・・
湿地だから水はたくさんある。江戸は開発したら天下を確実にするだけの経
済基盤をつくれる土地なのを誰も知らなかった。ならば湿地を乾いた土地にす
ればいい。かくて利根川を銚子に向ける大土木工事を家康は始めるのである。
この利根川の大治水事業、なんのかんのと11代将軍家斉の頃まで続けられ、
明治になってからも続き、現在も続けられている・・・東京の地下宮殿とも言
われる首都圏外郭放水路なんかも、家康の時代から続けられてきた事業の一環
らしい・・・
その次には、なぜ信長は比叡山延暦寺を焼いたのか、頼朝はなぜ鎌倉に幕府
を開いたのか、元寇が失敗におわった理由は・・・などなど日本史のトピック
が土木の面から解説されていく。なるほど、土木の人からはこう見えるのかと
感心しきりである。
この本は好評だったようで続編も出でいて「日本史の謎は『地形』で解ける
文明・文化編」も出ている。こちらでは歴史のトピックだけではなく、日本
人論も出でくる。「小型化」が日本人の得意技になった理由や「もったいない」
精神がなぜ形成されたかといったことまで土木視点で解説している。それはそ
れで面白いのだが、著者が最も書きたかったのは番外編の「ピラミッドはなぜ
建設されたか」だろう。
唯一海外のトビックを最後に番外編として持ってきたのは、エジプトのピラ
ミッド研究者たちですら、なぜピラミッドが作られたのかを説明できなかった
からだ。それでエジプトまでしゃべりに行くと、あなたの言うことが一番腑に
落ちると言われたとか・・・これが本人としても最も自信のある内容なのだろ
う。
でその内容は、個人的にはぶっ飛んでるとなと思うけど、確かにそうかも知
れないと思わせる事例は日本にもある。先に江戸の治水事業について、日本は
家康以来400年以上もやってるわけだ。ならば長期的な目的を持ってエジプト
人たちが1000年かけて土木事業としてピラミッドを造っていてもおかしくはな
い。
視点が違えば、見える世界が違う。それを体験したいなら読むといい本である。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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原初的な生のカタチ
『大地(一)』(パール・バック著 新潮文庫)
古川柳に「ふるさとを回る六部は気の弱り」というのがあります。六部とい
うのは、全国を行脚して回る僧侶のことだそうで、若いうちは遠くの霊場を回
ったりしている。しかし、年齢を重ねて「さて、次はどこを回ろうか」と思案
したときに、なんか意識してないんだけど、生まれ故郷の方面に行っってしま
う・・・なんだか共感できてしみじみしちゃう句ですね。北島三郎の「帰ろか
な」って歌に近い(違うか)。
おばちゃま、最近、新しい本を開拓しようとするより、昔読んだ本を読み返
したくなり、「ふるさとを回る六部・読書版」の心境になりつつあるんですよ
ね。
その中の1冊がパール・バック著の「大地」です。高校1年の試験休みに3
日間ぐらいで一気読みして感動した大著です。パール・バックという作家は小
さいころ宣教師の父とともに中国で育ち、その体験を基に3代に亘る中国人の
一家の人生模様を描いて、女性で初めてノーベル文学賞を受賞したそうです。
(さっき、ウィキりました)。描かれた時代は1850年から1911・12年の辛亥革
命の頃。
王龍という貧農が奴隷女と結婚して働きに働いて土地を買い、金持ちになる
のが第一部のお話です。最近、おもしろい本に巡り合えないという方はぜひ読
んでみてください。高校生でも楽しく読めるし、思うところがいっぱいある重
厚な作品です。
で、今回再読しようとした理由は、この1部のあるシーンが印象的で高校生
だったときに、おばちゃまが持つある価値観に結びついたからなんです。(だ
から今回は書評というより、私の個人的読書体験を述べるのでごめんなさいね)。
それは主人公、王龍が結婚して子どもが生まれるシーン。王は貧農ですがそ
れがお金持ちに奴隷として雇われている阿蘭という女性と結婚する。阿蘭は働
き者で2人で田畑を耕し、子どもも生まれる。喜びにふるえる王龍ですが、ふ
と、この幸せを悪魔が妬むのではないかと恐れます。♪幸せ過ぎてなんだかコ
ワイ(小川知子「ゆうべの秘密」)って話です。
「彼は、最初、非常に嬉しかったが、やがて恐怖の念に襲われてきた。この世
の中では、あまり好運に恵まれたら、気をつけなければならない。天地には悪
魔が満ちていて、人間の幸福には我慢がならないのだ。」
そう考えた王龍は線香を買い、畑の隅の祠に立てるのです。さらに、阿蘭が
昔いた屋敷を訪ねた後は、
「まったくおれはおれは恵まれたもんだ! ひどく得意であったが急に恐怖の
念に襲われた。こんな美しい男の子を抱いて、青天の下を歩いていたりして、
もし、通りすがりの悪魔に見られでもしたら、どうするつもりなんだ」
そう考えた王龍は、子どもを自分の上着の中に押し込み大きな声で言うので
す。
「かわいそうにな。うちの子は誰もほしがらなねえ女の子で、そのうえアバタ
が満開だし、死んじまえばいいのによ」
あのう、現代のコンプライアンス的には多少問題のある発言ですが、時代的
通念ですので王龍に変わってお詫び申し上げます。ご容赦ください。
このシーンがなんていうか高校生だったおばちゃまにも響き、幸せでも幸せ
とは言わないばかりか、よく言えば謙虚、悪く言えば自虐的で自己肯定感が低
い人間になっちまったのは「大地」を読んで以降なんじゃないかな。
最近、長年の友人から「あなた、少し、ネガティブ過ぎるよね」と鋭く指摘
されたこともあり、なんでネガティブなのかを振り返り、左見右見した結果、
「大地を読んだからじゃね?」と思い当たって再読した次第です。
個人的読書感はともかくとして、『大地(一)』には、結婚だったり子ども
だったり働くこと、つまり生きることの原初的なカタチが描かれていると感じ
ました。今って、毒親だとか、ジェンダーだとか、少子高齢化とか、食の問題
とかいろいろ論じられてますが、複雑にこんがらがりすぎてわかんなくなって
るけど、現代人は考えすぎているんじゃないのかと『大地(一)』を読んで思
いました。
王龍の死後、子ども孫の時代になると、豊かになってわけわからんくなる現
代の私らみたいな価値観が生まれてくるんだよね、それも一興です。訳はたく
さん出ていますが今回は新居格・訳/中野好夫・補訳で読みました。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
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す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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もうすぐGW、早いですねー。(あ)
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■発行部数 2802部
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★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<146>たわむれに戯れて後、ブラック
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第144回 sympathyとempathyを理解すること
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→128 心をいつくしむ
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<146>たわむれに戯れて後、ブラック
藤子不二雄(A)氏が亡くなった、と本日(4月7日)夕方のニュースで知った。
88歳だったそうだ。
同じニュース番組内では、五木寛之がインタビューを受けていて、こちらは
「89歳」でまだ矍鑠としている。
図らずも、「行く人、残る人」のコントラストを色濃く見せてくれたニュー
スだった。
にしても、ここ数年のことではあるけれども、各界の「巨星」が、次々と鬼
籍に入って行く。
昭和生まれとして、さらには、本稿のタイトルに「’70s」と銘打っている
身としては、アイデンティティの柱が寄って立つ、その足元の砂をざくりざく
りとスコップで浚われていくような、そんな気がして、いささか寂しくもあり、
情緒不安定に襲われたり…もしてしまうのである。
藤子不二雄(A)氏は、小池一夫氏と親交が深かったので、小池氏の仕事をし
ていた折に、何度かお会いしたことがある。
元相方の故・藤子・F・不二雄氏は、あまり表に出ることを好まず、もっぱ
ら仕事場に籠っていることの多い「室内派」だったみたいだが、(A)氏は、そ
れとは正反対。社交好きでおしゃれ、遊ぶことがなにより大好きな人だった。
小池氏が、大阪芸大の教授を務めていたときに一度、ゲストスピーカーとし
て大学まで来てもらったことがあった。
東京からやってくる(A)氏を、新大阪駅まで小池氏が迎えに行き、手配の車
で大学まで案内したのだが、大学に着くなり、いささかうんざりした表情で、
「あんた、毎週毎週、よくもこの山の中まで通ってんね。俺はだめだわ、もう
一回こっきりにしてね」と、小池氏に言い放った。
確かにあのころ、高速道路の選択肢は今より少なかったし、新大阪から富田
林までには、1時間と30分以上…ヘタすると2時間近くも要したと思う。
「藤子不二雄」というのは、(A)こと安孫子素雄と、Fこと藤本弘、この二人
が合作で漫画を描く際のペンネーム、というのは広く知られている。
が、実質的には、二人でひとつの作品を仕上げていたのは『オバケのQ太郎』
までで、それ以後は二人、それぞれが別々の作品を描いていたそうだ。
「トキワ壮」の先輩であった寺田ヒロオが提唱した「理想の児童漫画」を追
求し、『パーマン』『21エモン』『ウメ星デンカ』、そして『ドラえもん』と、
ずっと軸足を児童漫画に置いていたFに対して、(A)は、『魔太郎がくる!』
『プロゴルファー猿』など、人間の闇の部分も躊躇せずそのままに描く、やや
ブラックな作風から、少年誌から次第に青年誌へと、発表の舞台を移してきた。
『笑うせぇるすまん』は、その青年誌での代表的なヒット作だ。
少年向け作品では、『忍者ハットリくん』『怪物くん』や前述の『プロゴル
ファー猿』『魔太郎がくる!』などが、(A)の代表作。
確かに、Fと絵柄は共通するのだが、(A)の方がやや線が太く、バックに黒が
多いのが特徴で、映画の影響が濃い演出や画面構成も、(A)作品にはよく見ら
れた。
1970年代に「ヤングコミック」で連載された『戯れ男(ざれおとこ)』もま
た、川島雄三の映画『幕末太陽伝』に描かれた「居残り佐平治」を70年代の
「現代」に蘇らそうという試みだった。
主人公は「戯ザレオ(たわむれ・ざれお)」、20代と思しき若者だ。
職業は、一応はアニメーターであるらしいのだが、会社には一向に出ず、遊
び暮らしては寸借詐欺のような借金を重ね、ギャンブルで一攫千金を狙ったり、
はてまた銀座のママのヒモになったり、あまりのちゃらんぽらん、いい加減さ
にときに手痛いしっぺ返しを食いながらも、ヘラヘラと薄ら笑いでごまかして
は、相も変わらず軽薄に世の中を渡っていく…そんな男の行状が、延々と描か
れていく。
『戯れ男』は、軽妙なギャグタッチで描かれているのだが、続編の『戯れ師
(ざれし)』では、タッチがよりシリアスになり、画面もまた、(A)独特の
暗さが強調される。
…のだけど、「ザレオ」の行状は相変わらず。
絵がシリアスになった分、「しっぺ返し」もよりシリアスになって、ヤクザ
まがいの借金取りから逃れようと国外逃亡を図るも、すんでで見つかり、ズタ
ボロの半殺しの目にあって血まみれで路地裏に転げながら、なおその頬に薄ら
笑いを浮かべている…というのが最終回だった。
まさに、「昭和元禄」と言われた、当時の浮かれた世相を身をもって体現す
る「無責任」キャラクターの極みであった。
そうです、「昭和元禄」だったのです。1970年代は。
高度成長を背景とした、浮かれポンチのノーテンキが「元禄」と言われる所
以だったのだが、同じ「ノーテンキ」でも、後のバブル時代とはちょっと質の
違ったノーテンキだった。
確かに「ザレオ」のような無責任男の遊び人が、多く出現した時代ではあっ
たが、あの時代の「無責任男」は、かなり無理して必死こいて「無責任」を演
じてる感があったような…なので、『戯れ男』の無責任とちゃらんぽらんもま
た、その背後に悲壮さを孕んで、妙に緊張を強いる漫画でもあった、と最近再
読してつくづく思ったことなのだった。
ところで、青年誌方面に躊躇なく進出していった(A)に対してFは、ずっと
児童漫画を描き続けたのだけど、70年代初頭には、やや迷いもあったらしい。
ヒット作に恵まれず、『ドラえもん』の前作である『ウメ星デンカ』までは、
小学館の学年誌と「少年サンデー」との併録連載だったのが、『ドラえもん』
からは、学年誌だけとなり、このままの方向性で果たしていいのか、と不安に
襲われていたらしい。
そこで打ち出した、いわば実験作が、「ビッグコミック」に読み切りで発表
した『劇画オバQ』で、成長したオバQが、やはりすでに大人になって家庭も
持つ正ちゃんたちに会いに来る、という劇画タッチの作品だった。
それまでは常に小学生だったキャラクター達を中学生にして、「お色気」サ
ービスシーンを盛り込んだ『エスパー魔美』もまた、そんな迷いから生まれた
作品だったらしい。
しかし、当初は鳴かず飛ばずだった『ドラえもん』が、70年代半ばから爆発
的なヒット作となり、F氏の迷いも吹き飛び、『魔美』で培った「お色気」も
作中に盛り込みつつ、国民的マンガ『ドラえもん』は、長期連載となっていく。
藤子不二雄(A)と藤子・F・不二雄、性格的にはまったく正反対だった二人が、
合作からスタートし、後にそれぞれ正反対の作品世界を、同じ「藤子不二雄」
の名で発表していった二人三脚後分割の「まんが道」は、まさに破天荒、不世
出であった、と今にして思うのだった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第144回 sympathyとempathyを理解すること
「sympathy」。・・・「シンパシー」。相手に対する同情とか支持や共感、
という感じのことば。
「empathy」。・・・「エンパシー」。相手のことを理解とか相手が経験し
てきたことをわかること、という感じのことば。
一般的に日本人としては、最初のsympathyの方が身近なことばになってい
る。誰かを支持したり共感したりする人のことを「あいつは彼のシンパだ」
と表現する。このことは一般的に日本語の文章として理解できる。
一方のempathyということばは、日本人にとって一般的になっていない。エ
ンパシーは、まだ外来語ではない。日本語になっていない。だからこのことば
を理解するためには辞書を引く。
empathy 共感、感情移入 《他人または他の対象の中に自分の感情を移し入
れること》(研究社 新英和中辞典)・・・とある。??? sympathyとどう
違うの?
sympathy 同情、思いやり、あわれみ、同感、共鳴、賛成(研究社 新英和
中辞典)。
・・・・・
かように辞書を引いただけではこの二つのことばの違いがわかりにくいのだ。
日本語では、このことばの違いが表現できないと思われる。
このふたつのことば(sympathyとempathy)の違いを明確に理解できる本が
2019年に発行され、現在は文庫が各書店に出回っている。2019年のノンフィク
ション部門の本屋大賞を受賞した書物。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレディみかこ 著)
(新潮社)(2019年6月21日発行) (2021年7月1日発行 文庫版)
2019年から2020年のベストセラーであり、文庫になってからも単行本の売り
上げがあまり減らなかったという稀有な図書であり、図書館では、この単行本
は現在も予約がたくさんついていて、なかなか利用者の手元に回ってこない図
書である。2022年4月現在、さすがに書店での単行本はもう見当たらなくなり
つつあるが、文庫の方が相変わらず文庫売り場で平台に積まれている。
書物は、英国で暮らすアイルランド人の父と日本人の母を持つ子が中学生に
なったところから始まる。そして彼の成長を随筆風に綴っていく。英国に住む
思春期の少年の成長の物語である。そして本書の作者は彼を見守る母親だ。翻
訳ではなく日本語が原文なので、わたしたち日本人にはきわめてすこぶる読み
やすい。
本書を一言で表現すれば、“多様性”ということだろう。現在の英国という
国は移民の国であり、多種多様な民族が英国籍を取って英国で暮らしている。
また一方で英国は階級社会である。その多様な民族が織りなす日常が、職業や
収入の多寡と相まってさまざまな相違を醸し出し、それが人同士の軋轢、反発、
対立になったり、また共感や友情、愛情を生んだりする、その様を中学生の男
の子を通して、その母親が表現している。そして日本人の母親は自分の経験し
たことと比較したり、重ねたりして、現代の英国での日常生活を描写している。
わたしたちは日本という国で日常を過ごしているが、英国の日常との違いに
驚かされるのである。日本には日本人しかいない、と云って社会から批判を浴
びる政治家や著名人がたくさんいるが、実にそれはそうなのではないか、と思
えるくらい日本は日本人だらけである。あなたは、日本に住んでいる外国生ま
れの知り合いがいますか?両親が外国にルーツがある子どもたちを知っていま
すか?・・・それに比べて英国とはなんとバラエティに富んだ民族が住んでい
る社会なんだろう、と読み進めながら驚きの連続なのだ。
英国には現代の日本の社会では絶対に経験できない多様性がある。その中で
揉まれながら日常を生活するわけだ。
ここまで記述して、日本に住んでいる半島や大陸がルーツの人たちのことを
書かないわけにはいかないことに気づいた。彼らは黙っている。日本社会が彼
らを黙らせているのではないか、と本書を読み終わった今、つくづくそう思え
るようになった。英国では人権を守るためにみんなが声を上げている。多様性
という観点で社会をみるならば、英国と日本の差はかなりあると云わざるを得
ない。
多様性の英国にはたくさんのタブーが存在する。どんなことばが使ってはい
けない差別語になっているか、またどんな態度が差別を助長するのかが、とて
もはっきり決まっている。それは大人だろうが、子どもだろうが、すべての人
たちに当てはまるルールとなっている。
アイデンティティとかナショナリズムとか、そういうことばが本書の中にた
くさん出てくる。本書のモデルになっている少年だけでなく、英国に住んでい
る少年少女は、すべて自分のアイデンティティについて、もがき苦しんでいる
ようだ。民族の違い、階級の違い、収入の違い、たくさんの違いに囲まれて日
々を生きている。そしてナショナリズムについても考えるのだ。ふだんは対立
している別々の階級の人同士がサッカーのワールドカップでは見事にイングラ
ンドチームを応援する。英国に住む異民族たちは母国を応援する。しかし母国
がイングランドより早く負けてしまえば、負けた瞬間からイングランドを応援
するようになる。本書でも日本が負けるまでは日本チームのユニフォームを着
ていた少年は、日本が負けた翌日からイングランドのユニフォームを着ていた、
という。
さて、冒頭の「sympathy」と「empathy」に戻ろう。
本書の核心は、ここにあると思われる部分の記述を紹介する。「シンパシー
のほうはかわいそうな立場の人や問題を抱えた人・・・に対して人間が抱く感
情のことだから、自分で努力しなくても自然にできる。だが、エンパシーは違
う。自分と違う理念の人・・・が何を考えているのだろうと想像する力・・・」。
「シンパシーは感情的状態、エンパシーは知的作業」とある。
英国では、エンパシーを身につけないと住めない国であり、現在の日本では
エンパシーがなくてもシンパシーだけで生きていける国なのだろう。ウクライ
ナがロシアに蹂躙されている報道に接している日本人はウクライナにシンパシ
ーを容易に感じることはできるだろうが、知的作業が伴うエンパシーを感じる
ことは少し難しいのではないだろうか。そしてもっと大胆なことを云えば、執
筆子は攻撃しているロシアは何を考えているのだろうと懸命に考えることが平
和を取り戻すことになるのだと思う。ロシアを一方的に非難することはたやす
いし楽である。しかしあのロシアの蛮行がどうして行われているのか、という
ことを考えることがエンパシーに他ならないのではなかろうか。
本書を読み終わって、テレビに目を移しながら、そんなことを考えた。軽く
読めるが読後に重たい課題を突き付ける書物だった。
多呂さ(本当にロシアに住んでいる人々は何を考えているのでしょうか。プー
チンだけの問題ではないと思います。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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128 心をいつくしむ
今年の冬は例年にくらべて雪がとても多かったのですが、あたたかくなって
くると、いつのまにか雪もとけていました。
あんなに雪があったのにね、と会う人ごとに雪解けと桜の季節到来の話題を
しているこの頃です。
あたたかい春はうれしい季節ですが、まだまだコロナ禍で、戦争のつらい状
況が日々のニュースで報じられ気持ちがなかなか晴れません。
手にした本も戦争の本ですが、いま読んだからこその気持ちの動きがありま
した。
『13枚のピンぼけ写真』
キアラ・カルミナーティ作 関口英子訳 古山拓絵 岩波書店
第一次世界大戦時の北イタリアが舞台の物語。
戦争のはじまりは、まだ現実がどんなものになっていくのかわからない子ど
もたちにとって、心浮かれるひとつの話題――オーストラリアからイタリアに
戻れるかもしれない――というものでした。
訳者あとがきによると、「この時代イタリアの貧しい村々からは、大ぜいの
人たちがおもにドイツやオーストラリアへ出稼ぎ行っていた」ので、子どもた
ちはイタリアに戻りたい気持ちを抱えていたのです。
主人公の13歳の少女イオランダは、はじめは喜んでいたイタリア行きも、父
や兄は戦場へ、母とも離ればなれになってしまい、妹のマファルダと2人で、
「アデーレおばさん」を頼ることになり、いままで既に亡くなっていたと思っ
ていた祖母の存在を知り、探しにいくことになっていきます。
戦時の空襲時の描写もあり、日々新聞で報じられるウクライナとロシアの攻
防が重なり、いままで読んでいた戦争の物語より、ずっとリアルに感じました。
とはいえ、作者の巧みな比喩は、戦闘場面をつよく打ち出さず、戦争の恐ろ
しさを訴え、読んでいるものに平和の尊さを教えてくれるのです。
さて、次にご紹介する本は、久しぶりに読んだアンデルセン。
絵本作家、松村真依子さんの絵がついた函入り本。
本が函に入っているだけで嬉しくなるのは私だけでしょうか。
月のまなざしで語られる作品にぴったりの夜色の函。
とりだすと、月が語った様々な物語のモチーフが彩りよく縁取られた表紙が
出てきます。
『絵のない絵本』
ハンス・クリスチャン・アンデルセン作 大畑末吉 訳 松村真依子絵
岩波書店
アンデルセンの物語を読んだことのある人は多いでしょう。
絵本にもなっていますし、複数の翻訳で出ているので読み比べも楽しいです。
本書は、長年親しまれてきた大畑末吉さんの訳です。
まずしい画家の若者が、友だちもいない町に住み、ひとり窓から夜空を眺め
ていると、月と友だちになり、若者に話しを聞かせてくれることになりました。
文章と絵がとけあっていて、声に出して読むと心地よい。
第2夜で語られる、小さな女の子がめんどり小屋でひなたちを追いかけまわ
す理由が語られるところは、心の深いところに届きました。
短い話のなかに、少女の心持ち、それをきちんと受け止めたお父さんの姿に
深い余韻が残ります。
本書がはじめて刊行されたのは1839年のクリスマス。アンデルセンが34歳の
時です。その時は第二十夜まで発表され、後に書かれた短編がまとめられ、第
三十三夜まで読める形になりました。
アンデルセンの書く物語が長く読まれているのは、不思議な世界を舞台にし
ていても、描かれているものが普遍的な人の心の美しさ、悲しさ、さみしさな
どを深く描いているからではないでしょうか。
自身の生涯も貧しい暮らしのなか、父親が集めたたくさんの古典の本を愛読
し、学校へは行かず、その時々に読んでいた物語や劇をドラマに仕立て、人形
芝居の舞台や人形の衣装も自分の手でつくっていたそうです。シェイクスピア
の劇に魅せられ、自分も劇作家になりたいと夢見ていた。その後、デンマーク
の首都コペンハーゲンへ行き、奨励金で学校に通います。教育を受けた後に、
フェアリーテイルズを書き、だんだんと作品が認められ名声を得ていきました。
アンデルセンの物語は絵本になっているものも多いですが、絵で表現できる
ものを多彩に含んでいるのでしょう。
本書の松村さんの絵も、静かでやわらかく美しい雰囲気が物語にぴったりで
す。
それでは最後にご紹介するのは絵本です。
『わたしのかぞく みんなのかぞく』
サラ ・オリアリーさく チィン・レンえ おおつかのりこ訳 あかね書房
多様性という言葉をここ数年よく目にしたり耳にしたりします。
このメルマガでも、多様性を軸にした本を紹介してきました。
本書もいろんな家族を紹介している一冊。
みんなの家族を、のびやかな線画にあたたかみのある水彩画で描いています。
学校の先生が生徒に呼びかけます。
「じぶんの かぞくの とっておきの はなしを みんなに きかせてね」と。
そう聞かれて、子どもたちそれぞれが、自分の家族を思いうかべます。
いつまでもラブラブな両親を、
たくさんの養子きょうだいのいる家族を、
父親の家、母親の家を1週間毎に暮らすことを、
どの子も、自分の家族をまるごと大好きで大事にしていることが伝わってき
ます。自分の家族を紹介しあうことで、別の家族を知り、それぞれの形がある
こともわかります。
シンプルなテキストに、豊かな絵で「いろんな」を表現し、「とっておきの
家族」がそこかしこにいるのがとてもステキ。
この絵本を読みながら、自分の家族のとっておきを考えてみませんか。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
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一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
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#142『死にゆく者への祈り』
さて、問題です。「暴力」の反対語は、何でしょう?
平和?
温和?
愛?
その答えはひとまず置いて、本書『死にゆく者への祈り』のお話。
ジャック・ヒギンズの名作。普通、冒険小説に分類されるけど、彼の『鷲は
舞い降りた』や『脱出航路』が紛れもなくそうなのに対し、むしろクライム・
サスペンスの色彩が濃い。
作者自身が、自作の中でベストに挙げていると解説にあるんですが、確かに、
僅か数日間に凝縮された緊密なプロットといい、スピーディーな展開、きびき
びした文体など、素晴らしい点が無数にあって、納得の自己評価。
わけても、物語の根幹をなす奇策。そのアイデアには、ほんと脱帽です。
舞台は1960年代後半のロンドン。アイルランド解放を目指すIRAのテロリ
ストだったマーチン・ファロンが、ある事件をきっかけに組織脱退を決意。逃
走資金を得るため、ギャングのボスであるジャック・ミーガンから殺しの依頼
を引き受けます。ターゲットは、ミーガンのライバルで、この男が墓参りに来
たところを首尾よく射殺したのはよかったけど、その現場を、墓地のある教会
に務める神父マイケル・ダコスタに目撃されてしまいます。
この場合、目撃者は消せ、が常道。でも、ファロンは敢えてそうしない。代
わりに、神父が絶対警察に証言できないような、ある奇策を取るのですよ。
これは相手が神父であるからこそ成立するアイデア。それもカトリックの神
父であるからこその。
この、カトリックならでは、という点は、単なる奇策を越えて、重要です。
というのも、アイルランド解放闘争は、英国国教を信仰するイングランドと、
カトリックが大勢を占めるアイルランドとの宗教紛争でもあるから。
アイルランド人として、自分が属していたカトリックのルールもよく知って
いる。だからファロンはそれを逆手に取って、神父の口を、殺さずに塞いでし
まうことができたのです。
ここに、主人公の独特な倫理観が伺えます。
ギャング同士の抗争なら、金のために平然と殺しを請け負えるけど、神父は
殺したくないのですね。
やっぱりどこか敬虔なところがあるのか。
神に仕える人を殺すことはできないのか。
ところが彼は、爆弾テロ作戦を実行する際に、誤ってスクールバスを爆破し
てしまい、子どもを殺していたのです。その負い目から組織を脱退して、警察
のみならず、仲間であったIRAからも追われている。
つまり、英国国教の国からも、カトリックの国からも放逐された、神なき立
場にあるのです。
そんな風に、テロリストの物語に、神を持ち込んだ点が、本作のユニークさ
でしょう。
そして、最大の読みどころは、主人公のみならず、登場人物たちの、複雑な
陰影に富んだ、見事な造形。
主要な登場人物は先に紹介した、僅か三人。
テロリスト・ファロン、ギャング・ミーガン、神父ダコスタだけなのですが、
いずれも一読忘れがたいキャラ揃い。
悪役のミーガンでさえ、ステレオタイプなギャングのボスなどではありませ
ん。彼は表向きの仕事としてなんと葬儀屋を営んでいるのです。それも、片手
間の隠れ蓑などではなく、これにはこれで真摯な情熱を注いで、職人的な仕事
をしている。
例えば、遺体の損傷を修復するエンバーミングのシーン。著者は恐らく実際
に取材して書いたのでしょう、圧倒的なリアリズムで丁寧に手順を描写してい
ますが、その際のミーガンの手練の技たるや!
また、貧しい老女が夫の葬儀に精いっぱいの心を尽くしたいと願うのを、労
わりと同情をもって受け入れ、限りない優しさを示したりもする。
ところがその直後、老女から法外な料金を取ろうとした部下に、冷酷なまで
の拷問を加えるのですね。
ギャングとしての非情さと、葬儀屋としての情の篤さと。
完全な矛盾を、矛盾とも思わず生きる男、それがジャック・ミーガンなので
す。
一方。ダコスタ神父もただの神父ではなく。
元は軍人として朝鮮戦争に従軍し、過酷な戦闘をサバイバル。そこで人間の
暗い側面を徹底的に見つめた後、魂の救いを求めて信仰の道に入ったという変
わり種です。
戦争という極限状況は、神の存在を疑わせるはずなのに、むしろ神に向かう。
彼もまた、そうした矛盾を生きています。
そしてファロンもまた、元々は優秀な学生であり、ピアノの名手として友人
に知られる男でした。
それが初めて銃を撃った時、自分でも驚くほど体に馴染み、次々と敵を倒せ
てしまう。射撃の天才だったんだ、と知って、テロリストへの道を歩むんです。
けれど、本来は音楽を愛する心優しい人物。
ダコスタ神父にはアンナという盲目の姪がいて、教会のオルガンを弾く仕事
をしているんですが、ファロンは、この少女の演奏を聴いただけで、古くなっ
たオルガンの不具合に気づきます。そこで、壊れている鍵盤を避けて演奏する
技を教えるのですが、お手本として彼が弾いたバッハはあまりにも素晴らしく、
アンナや神父を深く感動させるほどでした。
そんな彼だから、スクールバスの誤爆も深刻に受け止めてしまう。崇高な目
的のためにはやむを得ない犠牲、と冷酷に割り切ることなどできようはずもな
い。
ここにも、非情と感情の狭間に囚われた、矛盾の男がいるのです。
この時、われわれの胸に立ち上がるのは、こんな美しい音楽を奏でるその手
で、果たして人を殺すことができるのだろうか、という問いです。
テロリストでありながら、優れた音楽家でもあることは、両立するのか。
これはかつて、五木寛之も「海を見ていたジョニー」で問いかけた矛盾でし
たね。
ここで、主要登場人物が、全員、その人間性の奥底に抱えている深い矛盾を
整理してみましょう。
ミーガンは、暴力的な犯罪者でありながら、誠実な葬儀屋でもあるという矛
盾。
ダコスタは。戦争という暴力を生き抜いた兵士でありながら、神父として信
仰に生きるという矛盾。
そしてファロンは、暴力によって体制を覆そうとするテロリストと、優れた
音楽家という矛盾。
こうして見てみると、いずれも「暴力」と、それに対抗するファクターとの
間の、揺らぎであることに気づかざるを得ません。
つまり、冒頭の問い――「暴力」の反対語は何か?――には、人それぞれ、
さまざまな答えがあるということですね。
ミーガンにとっては「誠実」。
ダコスタにとっては「信仰」。
そして、ファロンにとっては、「音楽」。
では、あなたは、「暴力」に対抗する何かを持っていますか?
何であるにせよ、それを持っていることが、人間である、ということなのか
も知れません。
ジャック・ヒギンズ
井坂清 訳
『死にゆく者への祈り』
昭和五十七年二月二十日 印刷
昭和五十七年二月二十八日 発行
ハヤカワ文庫NV
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
ロシア対ウクライナ。いや、ロシア対NATOと言うべきか。この「暴力」は、
一体どこまで拡がるのか。世界が複雑に絡み合っている現代、対岸の火事なん
てない。対岸なんて、ない。とはいえ、何ができるわけでもない。隔靴搔痒の
気分で、テレビを見るしかない今日この頃。ひょっとしてこの原稿がアップさ
れる頃には、なんらかの決着がついているんでしょうか?
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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母が言う“大人のカン”って何?
「どうしても嫌いな人」〜すーちゃんの決心〜
(益田ミリ著 幻冬舎文庫)
たぶん、アラサー女子の本棚に最低でも2冊はあるとおばちゃまが踏んでい
るのが益田ミリさんの作品です。
働く女性のあんなことやこんなこと、喜怒哀楽や悲喜こもごもを描いて、も
やもやする人の心情の隅っこまで寄り添ってくれる益田作品。登場するのはま
じめで誠実、思いやりがあってどっちかというと損をしちゃいがちな女性。た
だやさしさだけじゃなく、奥底に微量の毒を飼っていたりするのがなんとも言
えず楽しくてね。
働いて疲れて書店に入る女性の心をわしづかみにしている作家はたくさんい
ると思いますが、なんというか品格のあるマジメさがいいんだなこれが。
作品はエッセイと漫画がありますが今回ご紹介のこの作品は漫画仕立て。
「どうしても嫌いな人」というタイトル見ただけでこの本持って書店のレジに
走った人、いると思います!
ヒロインであるすーちゃんはカフェの店長で、数人のアルバイトと仕事して
いる。いろんなバイトがいて気を遣う毎日ですが、そこになんやらカフェのオ
ーナーの親戚みたいな女子がやってきて・・・これが最初は普通だけどだんだ
ん正体を現してくるイヤなヤツなんです。
(あ、今回ネタバレバレですので、未読の方はここで回れ右してください)←
ブロガー的表現。
で小さなことが積み重なってとうとうすーちゃんは店を辞めて転職するので
した。バイトの面倒はどうする?私が辞めたら店は混乱するに決まっているけ
れど、そんなの知ったことはないと思うわけ。まったく正しい判断です。
で、お母さんが田舎からやってくるんだけど、その母に転職したことを話す
のです。こういう途中でごちゃごちゃ愚痴らないで全部自分で決めて行動した
後で報告するのが大人の女子ですね。
サウイフモノニワタシハナリタイ(宮沢賢治「雨ニモマケズ」)ですがサウ
イフモノはどうしても我慢して損をしちゃうんだよね。
そしたら母が言うのです。
「あんたももう36なんだから」「そろそろ自分のカンを使う年頃になってるが」
え?とおばちゃまは驚きました。カンて何? それまで「母はいつもカンを働
かせなさいと言ってました」という伏線もなく、その後「カンてのはこれこれ
しかじか」という説明もなく、唐突に出てきて読者を放置したままエンディン
グになってしまった激烈なキーワード「カン」「大人になったらカンを働かせ
る」
この本を読んでから「大人のカンって何?」とずっと考えているのですが、
わかるようでわからないようで、でもなんとなくわかりますよね、大人女子な
らば。
そう、カンなのよ大事なのは。いいとか悪いとか右とか左ではなく大事なの
はカン。そして、
「辞めるにあたってお母さんの危篤を使った」という娘に「よかよかそんぐら
い。あんたのためだったらお母さん、何回でも死んであげるが」
泣いちゃいましたねここで。
こうやって人生は過ぎていくんだなあとしみじみ泣ける作品でした。
今、ちょっと心身に疲労がたまっているおばちゃま。この原稿を書き終わっ
たら書店に行って益田ミリ作品をまとめ買いしてきます!
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『売国機関』品佳直、カルロ・ゼン 新潮社
ウクライナとロシアの戦争を見て、このコミックを思い出した人がいるんじ
ゃないかとtwitterを調べてみる。やはり何人か、これを思い出した人がいる
ようだ。
なぜ思い出すのか?設定がウクライナにそっくりで、かつストーリーが報道
で知る現実とは真逆だからだ。フィクションだからあたりまえなのだが、ひょ
っとしたら1年後、ウクライナもこうなっているかも知れないと思わせる力が
作品に宿っているのだろう。だから思い出す人がいるような気がする。
設定はこうだ。東にガルダリケ王国、西にクライス連邦と国境を接するチク
ファテク合同共和国。この国は東の王国にとって西の連邦と直接対峙しない緩
衝国としての価値しかなかった。共和国は西方にあこがれ、進歩と自由を渇望
していた。そのため西側に接近しすぎた。
かくて共和国を舞台に戦争が起こり、国土は列強両国に荒らされた。開戦も
終戦も列強の都合でなされ、列強の手打ちによって共和国は平和が「強制」さ
れた・・・チクファテク合同共和国は、実際は第一次大戦直後のポーランドあ
たりをモデルにしている舞台設定だと思う。
ストーリーは外道である。戦争が終わって平和裏に1年ほど経った、そんな
共和国の首相官邸前。愛国者たちが集まって政府批判デモをやっている。列強
に屈して得た平和になんの価値があるのか?自主独立のために戦うべきだ・・
・。
そんな彼らを冷ややかに見ていたのが軍務省法務局公衆衛生課独立大隊、通
称「オペラ座」の面々だ。オペラ座は、集まった愛国者たちを銃撃していく。
戦争を求める者たちに本当の戦争を教えてやると皮肉な笑みを浮かべながら、
市民を殺戮していく。
実はこのデモを企画し、官邸前に誘い出したのは、オペラ座なのだ。そう、
彼らは愛国者たちを弾圧する部隊であり、それゆえに売国機関と呼ばれた。
オペラ座の面々は、塹壕貴族と呼ばれる、先の戦争で必死に戦い祖国を守り、
多くの仲間を失ってもなお生き残ってきた精鋭たちである。そして彼らは列強
と協調する、すなわち対外協調主義者である。そうでないと共和国を守れない
ことを身に染みて知っている。
彼らにとって弾圧する愛国者は、ただの自称愛国者に過ぎない。排外主義を
唱え、ふたたび共和国に戦禍をなそうとする「豚ども」は共和国の敵だと言う
論理で動いている。真の愛国者とは、いざとなれば敵とも結びつつ、敵の権謀
術数を見破り、謀略を潰す自分たちだと言う自負がある。
ガルダリケ王国やクライス連邦の同業者と情報交換や政治的調整などする時
には、笑顔で接する。しかし心の中では、お互いが大嫌いだ。あいつら、でき
るものならぶっ殺したいが、本気でやれば「平和」を保てない。かくて彼らは、
売国奴扱いに甘んじつつ、平和維持のために冷酷な活動を進めていく・・・。
同作者の「幼女戦記」は、まだギャグっぽいが、この作品にはそんな要素は
ない。言い換えると、救いようのないストーリーが進んでいく。その意味では、
こちらの方が作者の描く世界をより濃く味わえるのではないかと思う。
それにしても、カルロ・ゼンという人は、ホントに人が悪い(笑)。「幼女
戦記」と似ているように見えて、この作品にはまた別の嫌らしさがある。私が
思うに、彼の作風はリベラルを嘲笑することをエンタテイメントに昇華させて
いるのだが、そんなものを書けば当然リベラルからの反発も予想される。
かなりの人気作家で、多くの読者が持つ人だ。リベラル思想の持ち主で読ん
だことのある人も少なくないはず。にもかかわらず、リベラル界隈から作品批
判が行われている様子はない。その意味では、謎な作品である。
考えられる可能性としては、昔コクーン化(繭のように外界から情報を遮断
すること)と呼ばれた、自分の興味関心がない分野の情報は、最初から遮断し
ている人が多いのかとも思ったり・・・。
たとえば農薬関係で巷にあふれている最も大きなバッシングはモンサント
(現バイエル)に対して行なわれているが、彼らは農薬の知識を得る上で必要
な学問は無視するのが普通だ。
自分の意向と反する情報は得ようとはしないなら、自分とは反対の意見は見
ようとしない。それは同じことがフィクションの世界でも起きている可能性が
ある。
本が好きな人は、新しい知識を得たり、巷で信じられている常識が覆される
ような内容の本を好んで読む。自分の思い込みに沿う作品を読んでいるだけで
は、それこそ情報操作する側の思いのままになる。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
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・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
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https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
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料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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日本政府がなし崩しにウクライナへの防弾チョッキの供与を決めたそうで、
政府はぎりぎりの妥協と言っているようですが、どうなんでしょうかね?
これだけリーダーシップの無い政府が難局をうまく乗り切ったケースがあっ
たのか、歴史的に見てみたいと思いました。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<145>狩猟採集生活と漫画家と蛇の相関
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第143回 相撲と鉄道と行司のしごと
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→127 物語ることは希望
★献本読者書評のコーナー
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■トピックス
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<145>狩猟採集生活と漫画家と蛇の相関
つげ義春の、1970年代に発表された「私小説的」漫画に、漫画家としての収
入と、東京での生活にかかる家賃その他もろもろの経費を鑑みて、敢えて家賃
の高い東京で暮らすよりも、どこか田舎で暮らした方が「楽じゃないか?」と
考えた夫婦(作者自身の投影です)が、ならばいっそ、買えるものなら家を買
ってしまった方が、と、はるばる栃木県あたりまで家探しの旅に出る、という
のがあった。
今回、どの作品だっけか? と探してみたのだけど、確かに、過去に買った
作品集で呼んだはずなのだけど、どうしても見つからなかったのだが、結局、
田舎へ行っても、自分たちの収入では持ち家を買うまでの力はないと思い知ら
され、逆に晴れ晴れとした気分で東京への帰途に就く、という結末だったと記
憶する。
あれから時は流れて、以前にここで取り上げた『新白河原人』の森村大もそ
うだが、今や東京を脱出し、地方に移住する漫画家は、決して珍しくない。
昔と違って、原稿を電子送稿できてしまうインフラも、それを後押ししてい
る。
アキヤマヒデキもまた、東京から地方へ移り住んだ漫画家のひとりだが、こ
の人の場合は、ちょっと事情が違っている。
父親の経営する町工場の経営危機を救うため、人身御供のような形で、ロリ
コンでサディストな中年男のもとに嫁ぎ、夫からDVを受けながらも漫画家とし
てデビューしてしまう女子高生を描いた『おさなづま』(原作・森高夕次)で連
載デビューの後、各誌で断続的に連載を持つも、ヒットには恵まれず、収入は
不安定なまま。
さらに、奥さんが化学物質過敏症となり、経済的にも、奥さんの肉体的にも、
都会暮らしに限界を感じ、生まれ故郷の実家に身を寄せたのが、2010年頃、ら
しい。
ちなみに、奥さんの化学物質過敏症とその闘病については、『かびんのつま』
(小学館ビッグコミックス・全3巻)という漫画に仕立てられ、その中で詳しく
語られている。
故郷に帰ったアキヤマ氏は、実家の畑で野菜を作った…のは、生活費を切り
詰めるためもあったが、化学物質過敏症の妻には、市販の食品や食材に使われ
ている農薬や保存料、そして化学調味料なども有害だという事情もあった。
その畑を荒らしに来る鹿除けのネットに引っかかってもがいていた鹿を、近
所の友人の手を借りてバットで頭を叩いて「駆除」した経験から、山の動物を
狩って食材とすれば、畑だけでは心許ない食料自給率もアップするし、化学物
質過敏症の妻に安全な動物性蛋白を提供できる上に、有害動物を駆除すること
で畑も守られ、一石三鳥、と罠猟の免許を取得。
「師匠」について罠のノウハウと掛かった獲物の処理の方法を学び…って、
これがまた一筋縄ではいかないのだが、それでも試行錯誤の末に師匠以上に腕
を上げ、山中に仕掛けた罠で鹿や猪を狩っては「ジビエ」に仕立て、自家用の
みならず、レストランなどの注文にも応じるようになる。
もともとが子供の頃から釣り好きだったアキヤマ氏は、故郷の「川」にも目
をつけ、ここで川エビや蟹やスッポンを獲り、これまた自家用食材のみならず、
現金にしてゆく。
さらには、天然ウナギもまた故郷の川で獲れることを発見してしまう。
アキヤマ氏の「狩猟採集生活」は、どんどん拡大し、今や、上記のもの以外
にも、キノコや山菜、さらには養蜂にまで手を広げているらしい。
アキヤマ氏は、20歳のときに家出同然で故郷を出て東京へ行き、その後故郷
にはほとんど帰らなかった。
そんなアキヤマ氏の突然の帰郷に、当初はあまりいい顔をしなかった父親も、
やがてはこの狩猟採集に参加するようになり、立派な「戦力」となっていく。
そんな田舎暮らしの実際を現在進行形で描くのが、「ビッグコミックスペリ
オール」に連載中の『ボクらはみんな生きてゆく!』(単行本は小学館ビッグ
コミックスから現在既刊3巻)だ。
そのアキヤマヒデキ氏の故郷は、作中では「兵庫県の山中」ということのみ
が明かされている。
描かれた山の様子と、集落内の支流が合流する本川の「河口には一大工業地
帯」という記述、さらに故郷の知人に織物関連の人が多いところから、北播磨
の「西脇かな?」と見当をつけていたら、その西脇からさらに奥へ入った多可
町であるらしい。
確かに、北播磨のあの辺りでは、鹿や猪の農業被害がかなり多いと聞いたこ
とがある。
最近の雑誌連載の方では、googleマップの航空写真とストリートビューを駆
使して、自宅から車で行ける距離内で、ウナギの獲れそうな川を探すくだりが
あった。
と、アキヤマ氏が目を付けた川が、「地元からクルマで一時間ほど」の都会
で「大きな山が背後にあり目の前には海」「川の全長は数?ほど」「駅が川の
脇にあり通勤通学で人々が行きかう」「伏流水に恵まれ酒造メーカーがたくさ
ん」…って、それ、神戸? と読み進めると、実際の地名と河川名は明かされ
ずとも、コマの中に描かれた川は、やや背景がぼかされているとはいえ、どう
にも見慣れた景色である。
さらに、「川の横には日本でトップクラスの超進学校」って、それは、まさ
に神戸市東灘区を流れる、住吉川ではないですか。
アキヤマ氏は、川端を散歩する人々や灘高生たちの好奇の目にさらされなが
ら、目論み通り、この都会ど真ん中の川で、大漁ともいえるウナギ漁を成功さ
せたのだった。
確かに住吉川、夏になると子供たちが水に入って大騒ぎしてます。上流はす
ぐ山だが、その山には農薬を流すような農地もないし、神戸は、かなりな昔か
ら下水道が整備されているので、生活排水も流れ込まない。
アキヤマ氏によると、「鮎もいる」し、「直接飲んでも差し支えない」ほど
に、水もきれいなんだとか。
住吉川にウナギや鮎がいるならば、ほぼ同じ環境にあるはずの、神戸の他の
川にもいるんじゃないのか? と思ってしまった。
現在の神戸市西区に住んでいたわしの母方の祖父もまた、勤めに出ながらの
兼業農家のかたわら、狩猟もやっていて、猟銃の免許も持っていた。
冬場になると、ただいまの神戸市西区、北区、時には丹波やアキヤマさんの
「地元」である北播磨まで遠征しては、仲間と共同して主に猪を狩っていた。
愛用のダットサントラックの運転席には、「お守り」である猪の前肢を乾燥
させたものが常に2、3本ぶら下がって「かたかた」と蹄を鳴らしていた。
猪が獲れると、必ずその肉の「おすそ分け」を、猪の前肢の鳴るダットサン
で、自宅まで届けてくれた。
届けてくれるのが、兎や雉のこともあった。
祖父宅で「お腹が空いた」と言えば、「ちょっと待っとれ」と表へ出て、電
線にとまっている雀を「ボンボン」と散弾銃で撃ち落としては、熱湯につけて
羽をむしり、カンテキで醤油のつけ焼きにしてくれた。
こんがり焼けたところで、足のところを持って頭から骨ごと丸かじりするこ
れが、香ばしくて大好物だった。
川や池での釣りや籠罠を仕掛けてのウナギ漁や蟹漁も得意で、自宅の裏庭に
は、川や池で獲った獲物を活かしておく「生け簀」も備えていた。
すぐ下の川に籠を仕掛けると、大人の掌よりも大きなモクズガニが大量に獲
れて、これを茹でて食べるのも楽しみだった。
松茸山もあったので、秋には、松茸やシメジが豊富に採れた。
秋になると、祖父方から届く松茸ばかり食わされて、子供時代のわしは、だ
から松茸が大嫌いだった。
畑池の一角を、知り合いの養蜂業者に借地させてもいて、ここからは、搾り
たての新鮮な蜂蜜も届いた。
そんな経験があるので、アキヤマヒデキ氏の狩猟採集生活は、実感としてす
ごくよくわかる。
実際、「美味しいだろうな…」「いいなあ…」と想像もつくし、羨ましくも
ある。
しかし、それを自分でやろうとは、わしの場合は、絶対に思わない。
「蛇」が、その理由だ。
世の中には、2種類の人間が存在する。
「蛇が怖くない人」と「死ぬほど蛇が怖い人」だ。
わしは、後者です。
例えば夏、山道を歩いていたりして、すぐかたわらの茂みが「ガサゴソ」と
鳴ったりすると、途端に「ビクン」と反応して、思わず立ち止まってしまう。
道の真ん中に、あの長いのが横たわってたりすると、たちまち足が竦んで動
けなくなってしまう。
一度遭遇し、その後ビクビクしながら歩いていると、落ちている枯れ枝や縄
までが蛇に見えてしまって、恐る恐るでしか歩けなくなってしまったり…
NHKの「ブラタモリ」を見ていたら、奄美と沖縄の回で、タモリがロケ地
の茂みに潜んでいる「かもしれない」ハブを異常に恐れる場面があったが、あ
の気持ち、とてもよくわかる。
アキヤマ氏の場合は、子供の頃から、蛇を見つけるたびに捕まえて遊んでい
たりもしたらしく、これが全然平気であるらしい。
思えば我が祖父もまた、そうでありました。
実際、『ボクらはみんな生きてゆく!』の中には、夜、スッポンの罠を仕掛
けに行った川で、マムシに噛まれるという災難に見舞われた顛末が紹介されて
いる。
手の甲あたりに、「ポン」と木の枝が当たったような感触があり、ふと見る
とマムシが見えて、「あ、噛まれた」とアキヤマ氏、あろうことか噛まれた箇
所に口をつけて、毒を吸い出しては「ぺっ」と吐いて手当てした。
その後、別段なんの変化もなかったので、「吸い出し」が功を奏したかとア
キヤマ氏、そのまま家に帰って夕食後、風呂に入ると、噛まれた方の手がみる
みる腫れてくる。
慌てて救急車を呼んだが、数日の入院を要したらしい。
病院で、毒を吸い出したことを話すと、「それは、絶対にやってはいかん!」
と言われたそうだ。
口の中に傷でもあれば、下手すると生死に関わるらしい。
以後は、かなり注意をするようになったらしいが、そんな経験をしてもなお、
アキヤマ氏の狩猟採集への情熱は、醒めない…どころか、ますます拡大傾向に
あるようだ。
蛇が怖くないアキヤマヒデキ氏の狩猟採集生活、今後どのように展開してい
くのか楽しみでもあるが、山や川には、マムシ以外にも、危険がそこここに潜
んでもいる。
どうか安全には十分な配慮の上、その生活を漫画に描き続けてほしい、と願
ってやまない。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第143回 相撲と鉄道と行司のしごと
大相撲における行司さんの仕事のすべてを知っている人はあまりいないであ
ろう。行司さんは場所中に土俵上の勝負を仕切ることだけが仕事ではない。土
俵上での行司さんは派手な衣装を着て、大きな軍配を持ち、東西の力士を仕切
り、そして勝負の判定をする。それらはいちいちテレビに映るからみんな知っ
ている。しかし、土俵を降りた行司さんはいったい何をしているのか、しっか
り答えられる人はあまりいない。テレビに映らないし、それを説明してくれる
人も少ない。
土俵外での行司さんの仕事は、番付表に代表される相撲字を書くこと。場所
中の電光掲示板を書いているのも行司さん。それからアナウンス。取組み力士
のしこ名、出身地、所属部屋をアナウンスし、勝負がついたのち、決まり手を
アナウンスするのも行司さんである。他にも相撲協会内の総務的経理的な事務
処理を引き受けているのも行司さんなんだそうだ。
今回ご紹介する書物は、そんな行司さんの仕事の中も神経を使うことが多い
「輸送係」について書かれたものである。しかも書いたのは現役の行司さんで
輸送係の銀治郎さんなのである。
『大相撲と鉄道 きっぷも座席も行司が仕切る!?』(木村銀治郎 著)
(交通新聞社新書)(交通新聞社)(2021年2月15日 第一刷発行)
ずばり「輸送係」とは切符と座席を決める係である。本書のサブタイトル通
り。輸送係の行司さんが鉄道会社と折衝し、乗車する鉄道を決め、時間を決め、
座席の手配をする。団体旅行の幹事さんをイメージすればわかりやすい。
大相撲の本場所は、1月、5月、9月が東京両国での場所であり、3月は大
阪、7月は名古屋、11月は九州博多で本場所が開催される。場所と場所の間に
は北海道から沖縄まで地方巡業がある。東京両国で行っている年3回の場所以
外は、すべて地方廻りと思えばよい。その移動はおすもうさんだけでなく、年
寄(親方衆)、行司、床山、呼び出し、そしてトレーナーなど何百人単位とな
る。体の大きな人たちが団体行動をして鉄道で移動するさまは、壮観であろう。
しかしそれを仕切る人たちはたいへんな思いをしていることも、容易に想像で
きるのだ。大きな人たちが一斉に鉄道に乗り、移動し、下車する行為を仕切る
のは並みの苦労ではないと思う。おそらく鉄道が好きでなければ務まらない仕
事だ。いわゆる“てっちゃん”でないとこの仕事はできないのだろう。・・・
・・と思いながら本書を読み進めていけば、まったくその通りで、著者の木村
銀治郎氏の“てっちゃん”ぶりが随所に満ち満ちている。
相撲協会の輸送係は、利用する鉄道会社に気を遣い、他の乗客たちに気を遣
い、さらに乗車する相撲協会のご一行に気を遣う(利用される鉄道会社にとっ
ても相撲協会様は大得意なので、それなりに気を遣っているのだろうことも本
書の行間ににじみ出ている。つまり素も輸送係として気を遣われている、とい
うことが肌感覚でわかるのだろう。)。
おすもうさんの移動においては、いわゆる相撲列車と呼ばれている貸し切り
鉄道を編成すればいいと思うのだが、ことはそれほど簡単ではない。全国一律
に鉄道網を張り巡らせていた日本国有鉄道は、40年近く前に分割民営化された。
そして地方における赤字路線の廃線があり、また乗降客の減少によるダイヤの
減少があり、それによって車両も減少し、何百人が一度に乗れるような列車編
成も難しくなった。ならば飛行機での移動はどうかと云えば、こちらはもっと
たいへんだという。大型人類であるおすもうさんは事前に体重を申告しなくて
はならないし、危険回避のため、全員を同じ飛行機に乗せるわけにはいかない
という。もし乗った飛行機が墜落したら、横綱大関以下ほとんどのおすもうさ
んが死んでしまい、その後の興行が成り立たなくなってしまうからだ。
執筆子が感心したのは、おすもうさんたちの分散乗車の工夫である。一車両
二車両丸ごとおすもうさん専用車にすると、乗車時と下車時にたいへんなこと
になるから、まとまった少ない人数に分けて、各車両に分散させて座席を確保
し、かたまることなくスムーズに乗降ができる工夫である。始発から終点まで
乗っている列車であれば、かたまった場所の座席でかたまった乗降でも問題な
いのであろうが、途中乗車、途中下車であれば、分散して座席を確保し、分散
して乗降せざるを得ない。発車時刻が厳格に守られている日本の鉄道において、
遅れは致命的なミスになるし、その原因がおすもうさんたちの乗降に原因があ
るとなったら、社会問題になってしまう可能性すらある、というわけだ。それ
が毎年必ず行われている駅がある。7月の名古屋駅が分散下車の駅であるとい
う。名古屋場所への移動である。名古屋駅が終点となる新幹線は存在しない。
相撲協会は移動日を公開していない。それでも場所が始まる日程はわかるの
で、名古屋駅、大阪駅、博多駅では、移動日には下車するおすもうさんたち目
当てに好角家たちが新幹線のホームで待機しており、新幹線が到着しおすもう
さんたりが降りてきた時の賑やかさ華やかさは、それぞれの駅での風物詩とな
っているようだ。大阪駅と博多駅では終点なので、賑やかさの中にも穏やかさ
があるのだろうが、途中下車となる名古屋駅では限られた時間での下車になる
ので、とても張り詰めた雰囲気になるのであろう。日本の鉄道に遅れは許され
ないのだ。
もうひとつ感心したのは、団体列車の予約である。基本的に団体列車は乗車
日の9カ月前から予約が可能である。しかし、9カ月前に一編成の列車のほと
んどの席を相撲協会で予約してしまったら、1カ月前の一般予約の時に一般の
人が乗る機会を奪ってしまうことになる。したがって、一編成丸々相撲協会が
予約してはいけないと考え、いくつか発車時刻が違う列車に分散乗車して移動
するという。一般利用者に配慮した行動に感心するのだ。
さまざまなエピソードを紹介しながら、本書は進んでいく。本書は相撲と鉄
道という一見まったく違う分野のものをくっつけた好企画な図書なのだ。
著者の木村銀治郎氏は、むろん行司である。立場は幕内格行司。行司も力士
と同じく木村庄之助、式守伊之助を頂点とするヒエラルキーの中にある。
多呂さ(ロシアが自国の安全保障のために隣国のウクライナに侵攻しました。
19世紀のはなしのようですが、現在進行形の話なのです。タイムマシンにでも
乗っている感じがしてます。乗り物酔いをしている感じでもあります。)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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127 物語ることは希望
シリアに生まれ、ドイツに亡命し児童文学作家として活躍しているラフィク
・シャミの本が2月に西村書店から刊行されました。
『ぼくはただ、物語を書きたかった』
松永美穂訳 西村書店
物語ることは、常に人間的な希望と結びついている――。
母、父、きょうだいたちに二度と会えない、暮らした土地に二度と足を踏み
入れない――シャミは一九七一年三月十九日(金)に、いままでのすべてを失
い引き替えに物語る自由を獲得しました。
本書は物語ではなく、亡命するまでと亡命後のことをかいた自伝的エッセイ
集です。
人が自分の生まれたものを自分の意志で失うことの重みが、「亡命とは」で
始まる文章が繰り返されるたびにせまってきます。
先日、11年目の3月11日を前に「ふくしまを書く」という題目で福島在住の
詩人、和合亮一さんと福島県郡山出身の作家、古川日出男さんの対談が福島県
立博物館主催のもとオンラインにて開催されました。
対談の中で、古川さんは故郷、郡山を長い間封印していたという話をされた
のですが、シャミの言葉を読みながらあらためて古川さんの言葉について考え
ました。本書にも故郷がよく登場します。
本書での故郷について語る言葉はこういうものです。
---(引用)---
故郷って、なんだろう? シンプルに響くのに、これほど意味を一つに絞れ
ない単語というのも珍しい。
--------------
複数の作家の言葉を用いて、シャミは「故郷」についての自分なりの概念を
深く掘り下げます。
古川さんは、いまの自分があるのは、生まれてからが全てじゃない。それま
での先祖からの長い時間を経ていまの自分があるのだと語られました。
私自身、自分がどこからはじまっているのかについて、考えなかったわけで
はないけれど、古川さんの話は新鮮に腑に落ち、自分の中での故郷について思
いをめぐらしているタイミングで、シャミのいう故郷という言葉が自分に入っ
てきました。
愛おしく思う、過ぎ去った時間、それに密接につながる土地である故郷。
そんな場所に戻れないというのはどう表現したらいいのでしょう。
しかし、シャミは物語ることで、故郷にたびたび帰ります。「ぼくは小説に
よって、ダマスカスに戻ろうとしているのだ。そして、語ることによってのみ、
ぼくはあの町を去らず、あの町もぼくから去らなかった、と感じることができ
る。」と。
シャミは文学作品を書きたいだけでなく、口頭でも伝えたいと考え、好きな
作品を、手で書くこと、試しに読んだ作品が気に入ると、徹底的に読み込み、
暗唱することを実践しました。
「物語ることは、常に人間的な希望と結びついている。物語る人間は、希望を
抱いている。」
そう語るシャミはよく一つの場面を思い浮かべるそうです。それは、賢いお
ばあさんが暗闇をこわがる子どもにお話しを聞かせ、子どもは安心して眠ると
いう場面。
子どもは語られる物語を聞いて、暗闇の怖さがなくなり、安心を得ることが
できた、それは物語の力が子どもの心に届き寄り添ったからなのでしょう。
震災以降、絆、希望という言葉が自分に素直に入らなくなっていましたが、
本書でシャミのいう希望はすっと心に入りました。その感覚は、なにか安心を
得たことに近いものでした。
さて、もう一冊、気持ちがやわらかくなる本をご紹介します。
『けんかのたね』
ラッセル・ホーバン 作 小宮 由 訳 大野八生 絵 岩波書店
絵本から読み物を読み始める、低学年向けの本。
どのページにも絵はたっぷり。大野さんのやわらかくのびやかな線で表情豊
かに登場人物や犬、猫らの表情が描かれ、見ているだけで、やさしい気持ちに
なります。
はじまりは、お父さんがくたびれはてて家に帰ってきたところから。
ようやく家でくつろげると思っていたのに、家の中は4人の子どもたちも、
一緒に暮らしている犬と猫もケンカしていて大騒ぎ。
いったい原因はなんでしょう。
それぞれの言い訳を聞いていて、最初はこれが原因と思ったものも、実は少
し違う理由があった様子がわかってきます。
小さなできごとが、どんどんふくらんで大きなできごとになっていくのが、
あたたかな眼差しで語られるので、気持ちがほぐされる心地よさを感じました。
ぜひ読んでみてください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
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ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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発行が遅くなりました。(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #141『うたのしくみ(増補完全版)』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬真 早川書房
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#141『うたのしくみ(増補完全版)』
ひたひたと押し寄せているなー、と感じる、今日この頃。
いや、もちろんコロナのことですけどね。
周辺にも感染者が現れたり、行こうと思っていたライブがメンバーの体調不
良で前日キャンセルになったり。
そして、それ以上に、ひたひた感があるのは、まあこれはいまに始まったこ
とではないけど、この数年の衰えあれこれ。
ちょっと外出が続いただけで、妙に疲れてしまう。以前は毎日会社に行って
たのになー。
ストレッチをさぼっても、たちどころに腰の辺りに不穏な気がもやもや。
そして、人の名前が出てこない、などのボケ。
この連載も、大分長くなったこともあり、前に取り上げたことをすっかり忘
れて同じ本をまた取り上げてしまう、なんて事態にならないとも限らない。
現に今回のこの本、細馬宏通『うたのしくみ』も、実は、2018年1月、当欄
で取り上げているのです。
が、もちろんボケのせいではなく、確信犯。
昨年の三月なので、既に旧聞に属するものの、この名著の、増補完全版が出
たのですよ!
手に入れたのが十月だったので、当欄でご紹介するのが今年にずれ込んだ次
第。
それに、一度書評してるので、若干気が引けて、ちょっと迷ったこともある。
しかし、増補部分の執筆時期がコロナ以降の2020年にまたがっており、やは
り時代の証言としても欠かせないのと、その分量がなんと14万字以上、原稿用
紙にして350枚余、優に単行本一冊分、という充実ぶりとあって、むしろ続
編として扱っていいのでは、と考え、今月の登板となったわけです。
その新たに加わった部分。
これはSeason 2としてまとめられていて、核になる2つのテーマが設定され
ていますが、「はじめに」から引くと、
「一つは、「複数で歌う」ということ。デュエット、コーラス、ユニゾン、一
人で歌えばいいものを、なぜ人は誰かと声を合わせて(あるいは声をずらせて)
歌うのか。もう一つは、わたしがわたし以外になって歌う、ということ。声色、
ファルセット、ヴォコーダー、さまざまな方法を駆使して、わたしは、わたし
以外の声で歌おうとします。さらには、歌詞の中に異なる視点をいくつか持ち
込むことで、うたに複数のわたしを埋め込もうとします。この。うたにおける
わたし以外のわたしは、いったい何をしようとしているのか」
このテーマが、なんとも今日的ではないですか。
既に世界は、「分断」に向かっていて、統一の理想に燃えたEUも、イギリ
スの脱退に揺れ、ブラック・ライブズ・マターをきっかけに人種差別問題が吹
き荒れたアメリカCNNの特集が「The Divides States of America」。
さらにコロナによる「ロックダウン」も、まさに「孤立」、「断絶」。
その時代を背景に、いま「複数で歌う」ことを分析する。その意味を問う。
そこで何が行われ、何が目指されているのかを考える。
これ以上に刺激的な試みもないでしょう。
例えば、なんと昨年40年振りの新作『ヴォヤージュ』をリリースしたAB
BA。
代表曲「ダンシング・クイーン」について、著者は問題を出すのだけれど、
Q ABBAは何人でしょう?
え、4人じゃないの? と、誰しも思う。まー、ABBAを知らない世代は
わかりませんが、ともあれ、確かにメンバーは4人。
しかし、「ダンシング・クイーン」をよおく聴くと、4人では歌えないほど
たくさんの声が入っている。
つまり、多重録音なのです。
そのことは、息継ぎしないととても歌えないような箇所が、スムーズに繋が
っていることからもわかる。声の質がところどころ変っていて、それは重ねた
り、重ねなかったりするからだということからもわかる。
だから、「ダンシング・クイーン」のカバーは数あれど、一番本物に似てい
るのは、ABBAナンバーだけで構成されたミュージカル『マンマ・ミーア』
で歌われる「ダンシング・クイーン」だ、という指摘。
つまり、大勢が合唱することで、初めてあの雰囲気は出るのである。
そして、その意味を著者は、例によって周到に解読していくのです。
簡単にまとめてしまえば、本来「クイーン」は一人のはずだけど、多声にな
ることで、クイーンが増殖していく、ということ。あなたもクイーン、わたし
もクイーン。みんなが女王さま!
これを読んで連想したのは、マリー・アントワネットでした。
ブルボン絶対王朝に君臨したあの女王さまを、その座から引き摺り下ろし、
あんた一人が偉いわけじゃないんだよ、誰だって自分の人生の主役であり、ク
イーンなんだからね、と宣言したフランス革命みたいじゃないですか。
「ダンシング・クイーン」は、女王を民主化した「革命」なのだった!
もうひとつのテーマは、「人はなぜ自分の声以外の声を出したがるのか」で
した。
その事例として挙げられるのが、「ロボット声」。
人間が不思議にロボット声に憑かれ、追求してきた歴史です。
18世紀に、メルツェルの将棋差しという、チェスをする自動人形の見世物が
一世を風靡して、このことはエドガー・アラン・ポーもエッセイに書いている
ので、割に有名ですが、この時既に、ロボットの声をつくる試みがなされてい
たのは知らなかった。
そこから時代を辿って、20世紀。ヴォコーダーの発明によって、何が起き
たかと言うと、われわれの間で「ロボットの声ってこんな感じだよね」の共通
認識が獲得されたんです。
無機的で、抑揚がなく、どこか不気味なほど冷たい。
クラフトワークやYMOといったテクノが作り出したロボット声のイメージ
です。
ところが、それから時が経って21世紀になると、この印象ががらっと変わる。
そう、言うまでもなく、初音ミクやPerfumeの登場ですね。
デジタルで変調された人間の声は、むしろ可愛かったり、かっこよかったり
し始める。
テクノの頃は、「人間とは違う奇妙な声」であり、「異質な声」だったロボ
ット声が、いつの間にか「人間とは違うけど可愛い声」になり、さらには「自
分も出したい声」になってしまう。
人間が自らの声をロボット化しようとする欲望。
これが時代のポピュラーミュージックを席捲している。
その意味について、著者は深く深く掘り下げていくのです。
実に面白い!(ここ、「ガリレオ」の福山雅治調で)
しかし、やはりコロナや、「分断」に向かう時代を考えると、前者の「人は
なぜ声を増やすのか」の方が、今日的な問いでしょうね。
話は飛ぶけど、台湾にめちゃくちゃ強い首狩り族というのがいたそうで、そ
の強さの秘密が、合唱にあったというのを、昔何かで読んで驚いたんですが、
どういうことかと言うと、彼らは他部族と揉めて、戦争をするかしないかとい
う時、朝、戦士全員で合唱をする。楽器を使わないアカペラで、各自が勝手に
歌い出す。その時、一人一人の音程やリズムがばらばらの日は、戦争をやめる。
ぴったり揃って、気持ちのいいハーモニーになった日に、「よし、今日やるぞ」
と決めるのだそうです。
つまり、息がぴったり合った時、人は最強になるんだな。
むろん戦争なんてしないに越したことはないですが、この話からわかるのは、
人間が集団としての力を発揮する上で、歌がとても重要であること。
世界各地に労働歌があり、一緒に歌うことで作業のタイミングを合わせたり、
その過酷さを紛らわせたりするのも、こうした人間の本質に関わっている。
しかし、飛沫が悪者になって、ライブでも一緒に歌えないいま、人はどんな
風に声を合わせればよいのでしょうか。
コロナがまだまだ長く続くようであれば、そこにも新しい答が必要になるか
も知れません。
細馬宏通
『うたのしくみ(増補完全版)』
2021年3月22日 初版発行
ぴあ株式会社 関西支社
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
最近はギターの練習より、歌の練習が楽しい。歌と言うより、発声が面白い。
声って、持って生まれたもので、後からはどうしようもないのかと思ってまし
たが、案外テクニックや練習によって、いろいろ変わるもんです。人間の体と
いうのは、ほんとに不思議。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬真 早川書房
「戦争を生き抜いた兵士たちは、自らの精神が強靭になったのではなく戦場
と言う歪んだ空間に最適化されたのだ」
第11回、アガサ・クリスティー賞受賞作、で166回直木賞候補になった作品だ。
タイトルがベタだと批判する向きもあるが、それは本を読めていない証拠であ
ると言っていい。そう言いたいがために、冒頭の台詞を持ってきた。
戦争を描くドラマに、あまり女性は出てこない。出てきても、主人公の兵士
に恋する脇役として出てくるくらいのもの。主人公になる例は少ない。
ロシアは別である。ロシア革命前、第一次大戦の頃にはすでに女性だけの部
隊もあったし、第二次大戦中も「夜の魔女」と呼ばれドイツ軍に恐れられた588
夜間爆撃連隊などが有名だ。女スナイパー、リュドミラ・パブリチェンコに至
っては、史上に残るトップクラスの狙撃数に加えて、フランクリン・ルーズヴ
ェルト米大統領と面会し、世界的な英雄として知られるようになった。そんな
わけでロシアには女性兵士を描く映画がたくさんある。
そんなロシアの女スナイパーを日本人が描く。しかも相当面白いと聞く。こ
れは読まねばなるまい。
ドイツ軍がモスクワに迫りつつあった1942年2月。モスクワ近郊のイヤノフ
スカヤ村。セラフィマは狩りの上手な女子高生だった。村の農作物を荒らす獣
をライフルで撃つ。しかし、彼女には夢があった。外交官になりたかった。そ
のためドイツ語も勉強していて、他の成績も優秀だったから、モスクワの大学
に進学することになっていた。
村には仲の良い男友達ミハイルもいた。ミハイルは人当たりが良い好青年で、
村人はセラフィマとミハイルが将来結婚するのだとはやしたて、2人もまんざ
らでもなかった。そのミハイルは兵士としてどこかでドイツ軍と戦っている。
射撃を教えてくれた母と共に狩りから帰ると村の様子がおかしい。ドイツ軍
がやって来て、村人を虐殺しようとしている。母エカテリーナが村人を護ろう
と銃を構えたが殺された。村人は虐殺され、セラフィマも捕まり、母を撃った
スナイパーの前に連れて行かれた。そこは彼女の家だった。
兵士たちはセラフィマを陵辱しようと話し合っていたが、イェーガーと呼ば
れたスナイパーは興味なさそうにしていた。しかしセラフィマがドイツ語を解
していると分かると、こわくなって殺そうと考えた。そんな連中と一緒にされ
てたまるかとイェーガーが出て行き、いよいよ殺されるとセラフィマが覚悟を
決めた瞬間、知らせを受けてやってきた赤軍が攻撃を開始しドイツ兵は死に絶
えた・・・イェーガーを除いて。
セラフィマの窮地を救った赤軍の女スナイパーは、セラフィマに言った。
「戦いたいか、死にたいか」
「死にたいです」セラフィマが答えると、スナイパーは家の中にある食器な
どセラフィマの思い出の残るものを壊し始める。セラフィマが飛びかかるが叩
きのめされた。
「頼めば相手がやめると思うか。おまえはそうやって、ナチスにも命ごいを
したのか」そういうと、スナイパーはドイツ軍兵士もろとも村人や母エカテリ
ーナの死骸を積み上げて焼いた。
ナチスを殺す、敵を討つ。そして戦争が終われば、母の亡骸を侮辱し、焼い
たイリーナ・・・こいつも殺す!セラティマは決心し、女スナイパー、イリー
ナの狙撃訓練学校に入る。そこには、家族を殺され、ひとりになった若い女た
ちが集められ、厳しい訓練に耐えて戦場を駆け抜けた・・・・。
女狙撃兵の物語とくれば、上に挙げたパブリチェンコがモデルかと思ったが、
そうではない。少し前に話題になった「戦争は女の顔をしてない」を参考文献
にして作られたキャラのようだ。
戦場に出てみると、敵はドイツ兵(フリッツ)だけではなかった。出身差別、
民族差別、男女差別。秘密警察(チェーカー、NKVD)、裏切り者・・・味方に
も信用できない奴らが多い。クライマックスは当然。イェーガーとの対決だ。
しかし、闘い抜いたセラフィマが最後に見たものは・・・それを最も雄弁に
語るのが「戦争を生き抜いた兵士たちは、自らの精神が強靭になったのではな
く戦場と言う歪んだ空間に最適化されたのだ」という台詞である。敵はドイツ
兵だけではなかった。それは何だ?と思ったら、是非一読されたし。
私のたまたま読んだ小説がそうだっただけかもしれないが、ロシアが出てく
る日本人の小説---古くは熊谷独の「最後の逃亡者」近年だと川越宗一の「熱
源」とか、寒い土地なのに熱い小説が多いような気がする。
エンタメ小説に限らない。日本人はドストエフスキーを代表とするロシア古
典文学も好きだし、いまだにレーニンの新訳が出るような国は日本だけではな
いか。
そんなことをつらつら考えてみるに、ロシアが理想郷とは思わない。しかし
日本人作家にこれだけの熱量を持つ作品を欠かせるとは、意外と日本にはロシ
ア好きが多いのかも知れない。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
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■あとがき
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月末ぎりぎりの配信になってしまいました。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<144>就職先は冥府魔道(その4・上野着4:30の焦燥)
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→126 心に残ること
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第141回 “知りたい”という好奇心がある限り、読んで考える
★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/show-z
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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世界文化社 土肥由美子様より、下記の献本を頂戴しました。ありがとうご
ざいます!
『ゼロから分かる!マンガ落語入門』
三上 敬 (絵)稲田 和浩 (監修)
ISBN:978-4-418-21221-7
A5判 196ページ
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<144>就職先は冥府魔道(その4・上野着4:30の焦燥)
西高東低の気圧配置にて連日寒い日が続いているが、今回は、夏のお話を。
(株)スタジオ・シップには、毎年夏になると「軽井沢詣で」という慣例があ
った。
社長であり作家でもあった小池一夫氏は、例年、7月の中旬から8月中旬ま
での約1ヶ月、猛暑の東京を逃れて、軽井沢のホテルに滞在しながら執筆する
のが常だった。
ホテルは、軽井沢プリンスホテル。
マネージャー課には「チェックイン」という業務が日常的にあって、通常は、
都内のホテルに缶詰めになるに際して、執筆のための道具や資料はじめ、着替
えその他…というのが「着道楽」でもあった小池氏の場合、一番の大荷物だっ
たのだが、これをホテルに運び込み、すべて「所定の位置」に揃える、という
のがその「業務」。
この「所定の位置」を間違えると、後々大変で、一番気を遣うところでもあ
った。
都内のホテルに入るにしても、大型トランク3個ほどの大荷物だったから、
それが、1ヶ月間居続けで滞在するとなると、もう大変。
社用のワゴン車に満載した荷物は、自転車一台、着替えや10足ほどの靴を収
めたトランク数個、ゴルフバッグに仕事用の資料や道具…これを、上信越道が
まだなかった当時、関越・藤岡からは国道で、碓氷峠を超えて運び込む。
ホテルの部屋を執筆仕様に設えて、後から列車でやってくる小池氏の点検を
受け、問題がなければ初日はそこでお役御免。
「軽井沢詣で」は、その翌日から始まった。
わしの「軽井沢初体験」は、1979年だったが、当時は、電子メールはおろか、
ファクシミリすらない時代。
毎日上がってくる原稿を、マネージャー課社員が交代で、軽井沢まで受け取
りに行っていた。
時には、担当編集に直接行ってもらうこともあったが、原稿の受け渡しだけ
でなく、会社的書類なども届けて決裁を仰ぐ必要もあったので、基本的には社
員があたっていた。
数年後には、渋滞を回避する裏道を見つけたこともあって、時間の融通の利
く車が主体となったが、79年、80年あたりは、主に列車で行き来していた。
当時、上越新幹線はすでに開通していたが、軽井沢へは、上野から信越線の
特急か急行を利用するのが、一般的だった。
「朝便」の場合は、早朝に上野駅を出発する信越線で、9時か10時ころに軽
井沢に到着、夜のうちに上がった原稿を受け取って、午前または昼の便でとん
ぼ返り。
「午後便」では、軽井沢に夕方到着して、夜の便で上野へ、という二通りの
便があって、スケジュールが押すと、1日のうちに朝便、午後便の両方が出る、
ということもままあった。
軽井沢プリンスホテルは、軽井沢駅の南側すぐ、直線距離ではすぐ近くなの
だけど、当時の軽井沢駅には「南口」というのは存在せず、旧軽方面の北側に
しか出口がなかった。
なので、駅前でタクシーに乗ると、線路に沿ってず〜〜っと西に走って、よ
うやく踏切を渡るとすぐまた左折して、今度はまた駅方向に向かってず〜〜っ
と東へ走る、という実に非効率的なルートしかなく、しかも駅から踏切までの
道は絶えず渋滞していて、時間がない時など、車内で足踏みするほどやきもき
もした。
あまりに渋滞がひどくて、駅前で貸自転車を借りてホテルまで走ったことも
あった。
いろいろと大変ではあったが、ちょっとした旅行気分が味わえて、個人的に
は決して嫌いな仕事ではなかった。
先輩社員のTさんなどは、この当番にあたった日、ショートパンツにポロシ
ャツ、頭には探検隊みたいな帽子というイデタチで会社に現れ、「そのカッコ
で行くの?」と驚いたら、「だってオメー、軽井沢だぜェ! スーツにネクタ
イじゃ似合わねーだろが!」と勇んで出かけて行って、もちろん、その日のう
ちに帰ってきた。
さすがに、そこまではしなかったけど、行き帰りの列車で、横川の「釜めし」
か高崎の「だるま弁当」、変化球で軽井沢駅の「ゴルフ弁当」とか、駅弁をど
れにしようか迷うのも楽しかった。
ホテルに着いた時点でまだ原稿が上がってない、というときなどには、「下
で何か食って待っててくれ」ということも間々あり、勘定は小池社長の部屋付
けにして、ホテルのレストランで飲み食いもできた。
普段の東京のホテルでは、ンな気前のいいことは絶対に言ってくれなかった
が、やはりリゾート気分で、やや浮かれてもいたんだろうな。
当時、信越線軽井沢駅から上野へ向かう最終列車は、午後8時台の特急で、
これを逃すともう乗継便もなかった。
原稿は、遅くともこの最終に間に合うように上がってきたが、執筆が遅滞し
てこれに間に合わないという事態も、やはり時折は出来する。
軽井沢駅の「当日」の上り最終列車は、前述のように午後8時台なのだけど、
実はその後、日付が変わってからやってくる列車があった。
金沢発の夜行急行がそれで、午前1時半ころだったと思うのだけど、碓氷峠
を降るための機関車連結のため、軽井沢に停車してくれるのだった。
わしも一度だけ、この列車になったことがあった。
夜の10時ころに原稿を受け取って、駅に向かったはいいが、列車がやってく
るまでには、相当の時間がある。
腹もすいていたので駅近辺を探すと、居酒屋風のカフェ? みたいな店が、
まだ営業中だった。
中に入ってメニューを見ると、信州名物「馬刺し」がある。
未だ未体験だったそれを注文してみると、これがバカ旨で、ついついビール
も進む。
いい気分で乗り込んだ列車では、もちろんすぐさま眠りこけた。
上野到着は、午前4時半ころ、だったと思う。
半分寝たまんまで改札を出て、目についた公衆電話から、徹夜で待っている
担当者に電話をかけ、今から向かうと伝えた。
確か、小学館だったと思う。目黒の会社で受け渡しするよりも、上野駅から
なら直接向かった方が早いので、出発前にあらかじめそう打ち合わせていたの
だった。
タクシーに乗り込み、あくびを連発しながら、これから受け渡しする原稿を、
もう一度確認するか、とバッグを探ると…
これが、ないのだ。
どこを、どう探しても、ない。
嫌な汗が、全身から湧いて出た。
必死で、考えた。最後に見たのは、いつ?
あ!
と気づいた。
さっき、上野駅で電話したとき、手に持っていた。確かに、持っていた。
なんのためにそんなにしたのかは、わからない。多分、寝ぼけてたんだろう。
電話を掛けるに際して、わざわざ原稿の入った封筒をバッグから出し、それ
を見ながら「今、上野駅です」と喋っていた、確かに。
「も、戻って! 上野駅に、戻って!」
運転手に、噛みつくように怒鳴った。
原稿は、昨夜受け取ったばかりで、まだコピーも取ってないのだ。
それを「失くした」となると…
冷たい汗が、またもや全身から噴き出す。
早く、早く、と運転手さんを急かしながら、大慌てで戻った上野駅で、先ほ
ど掛けた電話ボックスを探す。
幸いにも、ボックスの場所は、改札からわりとすぐ近く、と大まかな場所を
覚えていた。
まっしぐらに、駆けつけてみると…
あった。
会社名の入った茶封筒が、ボックスの電話の上に「ぽつん」と取り残されて、
そのまま残っていてくれた。
「…ぼ…ふぁふ…へ…」
わけのわからん嘆息が、思わず口をついて出て、ボックスの中でヘナヘナと
座り込んでしまった。
その日、1979年8月の東京は、既に夜も明け、今日も旺盛な活動を今や始め
ようと、低く唸りながら鳴動し始めていたのであった。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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126 心に残ること
今年は雪が多く、除雪しないと移動がままなりません。
使っていない筋肉を使うので、腰痛が頻発しています。
腰痛はつらいので、楽しい気持ちになりたくて絵本を読みます。
子ども3人育てているときに読んできた絵本を眺めていると、読んでいた時
の子どもたちの様子が思い出されます。
子どもの本を選ぶとき、ひとつの指針は子ども文庫の会が発行している「子
どもと本」でした。
はじめての子どもを出産し、病院のベッドにいるとき、「童話屋」(現在、
書店は閉店)さんに連絡して毎月絵本を送ってもらうことにしました。はじめ
に届いた絵本は『おおきなかぶ』でした。佐藤忠良さんの絵や彫刻が大好きだ
ったので、とても嬉しく、生まれたばかりの赤ちゃんに読んで聞かせたことを
覚えています。
当時渋谷にあった「童話屋」さんに何度かうかがったこともあり、その時気
になったのが「子どもと本」でした。なにやら小さい冊子に小さい文字が書か
れている表紙で、難しそうにも感じました。「童話屋」の方に、その冊子が気
になることをお伝えすると、いつかお勧めしようと思っていたんですといわれ
たので、毎月の絵本と一緒に、数冊ずつ入れてもらうことにしました。
その冊子には子どもの本に対する愛情がみっしりつまっていて、最初に読ん
だ時から夢中になりました。ここには大事なことが書かれているとわかりまし
た。それからは、最新号と共に、バックナンバーを読むのが楽しくてしようが
ありませんでした。気になった本は、一緒に送ってもらうようにもしました。
3人目の子どもが生まれたとき、フルタイムの仕事を辞め、時間ができたの
で、念願の子ども文庫の会の初級セミナーに通うことにしました。
行き帰り半日ほどかかるので、その時間に読む本をたんまりスーツケースに
入れて通いました。
セミナーに参加されている方に「日帰りなのに大きな荷物をかかえて来られ
るのね」といわれたとき、私がこたえる前に、山本まつよ先生は「だって、行
き帰りの時間でたっぷり本が読めるものね」と代弁してくださり、わかってく
ださっていると嬉しくなりました。
セミナーが行われる部屋は通路ぎっしりに本が積まれていました。トイレに
までもです。本の背表紙をみながら、狭いトンネルのような通路を通り、セミ
ナーの机に集まるときはいつもわくわくしました。
もっとも印象に残っているのは、アイルランド童話集「隊を組んで歩く妖精
達」(イエイツ編 山宮允訳 岩波文庫)を山本先生が朗読してくださった時
間です。
「ティーグ・オケインと妖精達」は朗読すると30分以上かかるお話しです。
ゆっくり静かに読まれる語り口に引き込まれました。おおげさに誇張するこ
ともなく淡々と読まれる物語は、ひとりの若者が幸福な生き方をするまでのこ
とがらが紡がれています。愉快に好き放題に暮らしていた若者ティーグ・オケ
インがひょんなことから妖精達と関わり合ったことで、生き方に変化をもたら
すのです。
読んでくださったあと、とても幸福な気持ちを味わいました。ティーグ・オ
ケインが感じた幸福が伝わってきたのです。山本先生の朗読は物語の深いとこ
ろを余すことなく伝えてくれました。
私は自分が感じた気持ちを他の人にも伝えたいと思い、何人かの大人に同じ
ように読んでみました。大人になってから人に本を読んでもらうなんてとはじ
めは少し怪訝そうにした方も、読み進めていき物語にうねりがみえてからは夢
中になって聞いているのが伝わってきます。そして物語を最後まできいた後は、
とても満足そうでした。
心の深いところで楽しいと感じられることほど幸福なことはありません。
山本先生はよく大きな石の指輪をされていました。きれいで見とれてしまい、
「すてきな指輪ですね」というと、「こういうきれいな大きいのをつけていると
子どもたちが喜ぶのよ」と嬉しそうに教えてくださいました。
先日、ある小中学生のアートワークショップのボランティアに参加しました。
色水をつくるワークショップで、私も子どもたちと一緒に色水づくりを体験し、
黄緑色をつくりました。すると、はじめてあう子どもたちでしたが「その色、
いま着ているセーターによくあっているね。イメージカラーみたい」と言って
くれたのです。きれいな色のセーターを選んでよかったと思いました。そして
山本先生の指輪のことを思い出していたのです。
2月に入って届いた168号の「子どもと本」で山本先生の訃報を知りました。
子ども文庫の会のHPでは昨年の訃報がすぐ出ていたようなのですが、ここ数
年、家でパソコンをさわる時間がめっきり減ってしまい、全く知らず、いつも
のようにわくわくしながら封筒から冊子を取り出し、表紙を読んでびっくりし
たのでした。
168号の「子どもと本」ではゆかりのある方々の追悼文が掲載され、ひとつ
読むごとに、胸があつくなりました。
山本先生は多くのことを残してくださいました。
青木祥子さんが表紙に書かれていますように、山本先生にみせていただいた
「本の中の人、動物、風景、雰囲気、言葉などなど――」は「それを朗読して
いたその声とともにわたしたちの心の中に残していった」のです。
2006年に刊行した山本先生の訳書に『ラーマーヤナ』(エリザベス・シンガ
ー作 子ども文庫の会)があります。豊かな叙事詩であるこの本は、どの年代
の子どもでも読めるように総ルビです。
読み終わったあとの楽しい気持ちに思わず山本先生に電話して感想をお伝え
しました。先生も嬉しそうに応じてくださり、この本を手にするたびにその時
のことを思い出します。
「子どもと本」はこれからも青木祥子さんが続けてくださいますので、変わら
ず「次の号」を楽しみに待つことができます。
私もこれまでと変わらず子どもの本を楽しみ、その楽しみを伝えていきたい
と思います。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第142回 「憲法」と「憲法典」について
3年目に入ったコロナ禍。そして第6波の猛威の中、本を読むしか他にする
ことがない人は多いのか、少ないのか・・・・・。同じく考えることしか他に
することがない人は多いか、少ないか・・・・・。
本を読んで、じっくり考える人(つまり読む時間も考える時間もふんだんに
ある人)にとってはうってつけの良書を発見した。しかも身近な憲法について
である。
憲法が身近かどうかは、議論の分かれるところではある。しかしあってない
ようなふだん、意識していないこの空気や水のような存在である憲法はやはり、
空気や水のように実は身近な存在であることは否めないのである。その身近な
「憲法」について考えてみよう。
『憲法とは何か』(長谷部恭男 著)(岩波文庫)
(2006年4月20日 第一刷発行)
本書は先月小欄で紹介した、高橋源一郎氏の『たのしい知識 −ぼくらの天
皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代−』に参考文献として挙がっていた書物
である。この『たのしい知識』を読むと高橋源一郎氏は本書の著者である長谷
部恭男氏を憲法の師匠として尊敬している感じが伝わってくる。
本書の発行は2006年であり、少し古いがそこに書いてあることはまったく古
くなっていない。日本国の憲法は改正されていないから、古くなっていないこ
とは、当たり前である。そして本書は新書であるから、読みやすいだろうとい
う想いで読むと間違える。普通の人(憲法を空気や水のように感じて、意識し
ていない人)にとっては少しむずかしい。だからこそ、本書を“読んで考える”
ことができるのである。
本書が発行された2006年という年はどんな年であったか、少し思い出してみ
よう。平成18年である。小泉純一郎から安倍晋三に総理大臣が交代した年であ
った。安倍晋三の最初の内閣。就任早々に憲法改正に前のめりになっていたこ
とを思い出した。本書はそういう状況の中で書かれた書物なのである。したが
って、本書は憲法を軽々に改正することは許されない、憲法を改正するのであ
れば熟慮につぐ熟慮を重ねて議論を深めるべきである、ということを啓蒙する
書物なのである。
さて、そしてただの「憲法」と一文字付け足した「憲法典」の違いである。
以下のような記述を確認されたし。曰く「・・・憲法とは、憲法典の内容をす
べて指すわけではなく、国家の基本となる構成原理を指す。」(37頁)・・・
・・これが両者の違いであろう。ふだんわたしたちが漠然と、“憲法”と云っ
ているもの、考えているものは、実は“憲法典”なのだ。つまり文字にしたも
のが「憲法典」。国のかたち、漠然とした国の制度や国の核心に迫るものがた
だの「憲法」ということになる。
その「憲法」を改正する、とはどういうことだろう。「憲法典」の改正とは
わけが違うことなのだろうか。
「日本国憲法」に記載されている憲法の改正手続、というものはつまり、憲
法典を変えるための手続きであるが、それはやはり憲法を変えることに他なら
ず、紙に書かれた憲法典はその実態を確認できない憲法を具象化したものだか
ら、単に憲法改正と云ってもよい。・・・そういうことなのだろうか。執筆子
にはそのへんの処が少しまだ曖昧なままなのである。もう少し考える時間がほ
しい。
憲法を変える、というのは国のしくみや国民の思いを変えてしまうことであ
る。そのような大変化は近代になった日本と云う国において、過去二度ある。
封建社会が廃止された明治時代と77年前の敗戦の二度。そしてその時代の節目
において、それぞれ憲法が制定された。正確には憲法典を近代日本はふたつ持
っているといえる。
本書を読んで、著者の云うことを理解する。それが共感できるか、共感でき
ないかは別問題であるが。国の根幹を変えること変更でない限り、憲法は改正
できない、と長谷部さんは云っているのだ。
2006年当時の憲法改正議論(いま再び憲法改正議論が少しずつ喧しくなりつ
つあるが)を振り返ると、美しい日本を取り戻すために憲法第九条を改正しま
しょう。改正の手続きももっと簡略化しましょう、ということだった。しかし
ながら、その程度のことで憲法は変更できない。国の根幹は何も変わっていな
いからだ。
具体的に云えば、たとえば天皇制が廃止されるときは憲法を改正しなければ
いけないだろう。天皇制は日本国の根幹となっていることのひとつであるから。
しかし現在の九条のもとでも自衛隊が実際に存在しているいま、果たしてこの
九条を改正すべきかどうかは、少し立ち止まって考えなければなるまい。
最近、元気のよい憲法改正論者の人たちは、憲法改正を反対している人たち
を罵ることに、とても長けているように見える。憲法を改正しなくてよいと考
えている人はバカである、そしてそんなおバカは黙っていなさい、わたしたち
がこの国を導くから。と云わんばかりだ。そこには両者(改正に反対か賛成か)
が相手を尊重しながらじっくり議論する、という視点がまるで欠けている。
しかしながら一方で、考えることは誰かに任せて、自分たちは判断すること
はせず、呑気に日々を過ごせばいいじゃないか、と思っている多数の人々もい
る。
考えることは苦しい。でも考えないと誰かに後戻りできないところまで連れ
ていかれてしまって後の祭りになってしまうかもしれないのだ。
多呂さ(マスク生活が長くなると、マスクをしていない顔を思い出せなくなる
気がしてきました)
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・三上敬 絵/稲田和浩 監修『ゼロから分かる!マンガ落語入門』世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/21221.html
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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雪が降っています。どこまで積もるんでしょうか?(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #140『すべてのJ・POPはパクリである』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『「子供を殺してください」という親たち』押川剛 新潮文庫
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『やんごとなき読者』(アラン・ベネット著/市川惠里訳・白水社)
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#140『すべてのJ・POPはパクリである』
昨年は、日本初、もしかすると世界初の「笑える音楽番組」『ザ・カセット
テープ・ミュージック』の放送が終わってしまい、日曜夜の楽しみが消えてし
まいました。
レギュラー放送は上半期末で終了。年末特番として『ザ・カセットテープ・
ミュージック大賞』がオンエアされましたが、以降の予定はいまのところなし
とのこと。残念。
新年一回目は、この番組へのオマージュとして、出演者の一人マキタスポー
ツが2014年に上梓したこの名著を、うっかり当欄で取り上げ忘れていたことに
気づき、遅ればせながらの登場です。
いや、それにしても、アグレッシブなタイトルですよね。すべてのJ・PO
P関係者を敵に回しそう。よっぽど著者は、J・POPが嫌いな、ばりばりの
洋楽志向者とかと思ってしまいます。
しかし、もちろんそんなことはなくて、むしろ人一倍J・POP愛に溢れて
いることは、誰がここまでやるか、というほどの大変な手間をかけ、さまざま
な楽曲やデータを分析している以上、明らかと言えましょう。
それでは、J・POPがパクリだというのは、愛ゆえの苦言なのか?
いえいえ、それも違います。
本書の結論は、実はこれまでも言われてきたことに過ぎません。
すなわち、「日の下に新しきことなし」です。
これまでの長い音楽の歴史の中で、これだけ無数の楽曲がつくられてきて、
これ以上もう、新しいものなんてない。だから、既存のものを解釈して、つく
り直すことでしか、創造なんて不可能なのだ、ということ。
この事態を著者は、「J・POP=工業製品説」という卓抜な言葉で言い当
てています。
音楽は工業製品のように、部品を揃え、正しい手順で組み上げれば、誰にで
もつくれるものなのだ、ということ。
その「部品」とは、ひとつ「コード進行」、ふたつ「歌詞」、みっつ「楽曲
構成」。そしてそれぞれに、J・POPの名曲を分析すると見えてくる特徴が
あり、これを「ヒット曲の法則」と称するのです。
この「法則」が単なる机上の空論でないところが、凄い!
というのも、実際に著者は自身の率いるバンド・マキタ学級で、法則に則っ
てつくった楽曲「十年目のプロポーズ」をリリース。スマッシュヒットさせた、
という実績を持っているのです。
まさに、実践者の説得力!
ただし、これには続きがあります。第4法則。それは、「オリジナリティー」。
あ、なんだ、やっぱオリジナリティー、必要なんじゃん、オレ、そんなのな
いから法則に頼ろうとしてるのに、と思うわけですが、ご安心あれ。ここで言
う「オリジナリティー」とは、シンプルに「個人的なこと」に過ぎません。つ
まり、どちらかと言うと「パーソナリティー」に近いかも。
ここで著者は、植村花菜の「トイレの神様」を例にとり、あれがヒットした
のは自分のおばあちゃんのお話、という超個人的なことを歌ったからで、それ
くらいの「個人的なこと」なら誰しもあるはずだ、と言うのです。
実際、「十年目のプロポーズ」も、著者自身の実体験に基づいています。芸
歴4年目でできちゃった婚をしたため、式を挙げられなかった負い目。そこで
十年目に「十年式」を行ったというエピソードです。
これを、J・POP王道のコード進行、J・POPにありがちな「翼」だの
「桜」だの「扉」だののキーワードをふんだんにぶっ込んだ歌詞、そしてサビ
から始まり、ラップも挟んで、泣きのBメロからライブでのコール&レスポン
スを想定した大サビへいくという鉄板の楽曲構成。「ヒット曲の法則」を完璧
にクリアした「工業製品」こそ「十年目のプロポーズ」であったのです。
しかし、こんな風にネタバラシしてしまうと、なんだ、せっかくの感動が、
いいように操られちゃった感じだなー、と思われるかも知れません。
でも、著者がこの法則を明かしたのには、理由があるんです。
現代はSNSの発展で、誰もが発信者になれる時代。
しかしそれはともすると、「発信せねばならぬ」という、いわゆる同調圧力
のかかる時代でもある。
そんな中、少しでも気楽に自分を表現することができれば、みんながこの圧
力を、苦にせず生きられるのではないか。
そんな優しさがこもった名著なのですね。
コロナ以降の現在も、いろんな同調圧力が、ひしひしとわれわれの周りを取
り囲んでいます。それに屈しないためにも、未読の方はぜひ!と言うことで、
新年のご挨拶に代えさせていただきます。
本年もよろしくお願いいたします。
マキタスポーツ
『すべてのJ・POPはパクリである 現代ポップス論考』
2014年1月30日 初版第1刷発行
2014年5月10日 第3刷発行
扶桑社
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
2022年、ライブの聴き初めは、下北沢BIGMOUTHにて、シンガーソングライ
ターなかしにりくさんの弾き語りワンマンでした。しかも、ノンPA。歌もギ
ターも完全生音。正真正銘のアンプラグドという新鮮な試み。いやあ、染みま
すね、生声。ギターも凄く軽やかで、彼の音楽性にぴったり。なかにしさんの
自宅で聴かせてもらってるかのような贅沢感。今年は後3回、4月、7月、11
月に行うそうなので、興味のある方は下北沢BIGMOUTHのスケジュール、要チェ
キです。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『「子供を殺してください」という親たち』押川剛 新潮文庫
書評を書いたら、多くの人が読む気をなくしてしまいそうな内容である。タ
イトルは、何らかの挫折や精神障害によって社会生活が出来なくなり、暴力を
振るうことも多い子供の面倒を見ている親たちの多くがつぶやく言葉なのだ。
この本を元にしたコミックも出ている。
著者は、「精神障害者移送サービス」の経営者。もともと警備会社を経営し
ていたが、従業員の中に統合失調症を発症する人がいた。この人を説得して医
療機関に連れて行くことに成功したことをきっかけに、精神障害者移送サービ
スをなりわいにすることにした。また、彼らを長期間預かり、共同生活しなが
ら回復を待つような仕事もしておられるようだ。
ほとんどの場合、メンタルに問題がある人の移送は当人がいやがるため、強
制的にやることが多い。当人が暴れるから拘束して簀巻きにして移送するなん
てこともある。しかし、この方法は当人に恐怖感で心の傷がついたり、家族へ
の恨みを引き起こすことがよくあるため、後々の対応が難しくなる。
だから、当人を説得して自ら医療機関に足を向けさせなくてはならない(著
者はこれを「医療につなげる」という言い方をする)。困難な仕事だが、オレ
ならできると勉強もして、著者は自信満々に飛び込んだ初めての現場で、その
凄まじさに圧倒されてしまう。
なんとか患者を医療につなげることはできたが、「あとになって体の震えが
止まらず、これは大変な仕事だぞ・・・と実感した」しかし「私がやろうとし
ていることを必要とする家族が家族が必ずいる、という確信もあった」ので、
日々模索しながら25年で1000人を医療につなげることができたという。
第1章は著者がかかわった事例が七つ挙げられている。この本を読むのに挫
折する人は、ここが難関だ。難しいことが書いてあるわけではない。あまりに
現場が凄まじいので、目を背けたくなることがどっさり書いてある。
ひとつだけ例を挙げよう。裕福な弁護士夫婦の子供で、統合失調症での入院
歴もある荒井慎介(仮名)の移送依頼があった。親の期待に応えようと弁護士
を目指し、法学部に入るよう勉強したが法学部には入れなかった。
そこから慎介は徐々にこわれていく。大学を休学し精神に変調きたしている
のがみるからに分かったので親は心療内科に連れて行き薬をもらえるようにな
ったが慎介は薬を飲むのをいやがり、ますます精神状態がひどくなり、親は入
院させることを決意し、警備会社を読んで拘束して連れて行った。
退院すると、今度は警察沙汰をおこし、家族への敵意も膨らんできた。母親
は危険を感じて台所の包丁をタオルにまいて隠して寝るが、翌朝タオルが外さ
れた包丁が台所に置いてある。そして慎介は金属バットで飼っていたネコを撲
殺するのである。
こんな人を説得して医療につなぐのが、彼の仕事である。
しかし、医療につなぐのも大変だが、つながれた医療(機関)も大変である。
患者が連れてこられたのはいいが、往々にして患者は問題を起こすからだ。問
題を起こす患者は、すぐに退院させられてしまう。退院したところで症状が改
善しているわけではないから、家に戻そうにも戻せない。下手に家に戻したら
家族が殺されるリスクすらある。
「何かあったら警察に110番してください」と保健所や医療機関から家族に
アドバイスされることも多いようだが、体よく問題を警察に押し付けているだ
けである。
その上、病院としては三ヶ月以上入院させることを嫌う。三ヶ月以上入院さ
せると診療報酬点数が下る。すなわち病院の収入は下がるからだ。言い換えれ
は、長期戦を覚悟し、腰を据えて患者を治していこうとする病院ほど経済的に
苦しくなる構造がある。
かくて表向きは「精神科医療の範疇ではない」「治療効果が上がらない」と
いうことで、こうした患者は「グレーゾーン」として取り残される、放置され
がちになるという。そのため、中には日本で受け入れ先はないから海外に受け
入れ先を求めようとする親もいる。
最後は、そんな子供を抱えた場合に親はどうすべきかが書かれているが、こ
の部分は賛否が分かれるだろう。もとより長期戦になるし、プロの助けを得ら
れたとしてもどこまでできるか読めないところがある。著者は現場で場数を踏
んできて、親にも問題があると思えることが多いからこそ、こうした主張をさ
れるのだろうけど・・・
確実に分かっているのは、子供が社会不適応になって苦しんでいる親は少な
くないし、これまでずっと放置に近い扱いを受けてきたことだ。そしてしばら
く状況は改善しそうな見込みはない。読んでいて気が重くなる。
だからと言って、目を背けていてはならない。なんの罪もない人たちが、突
如暴漢に襲われて未来を断たれる理不尽を増やしたくなければ・・・
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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読書の愉しみを再認識できる、英国発の架空小説
『やんごとなき読者』
(アラン・ベネット著/市川惠里訳・白水社白水Uブックス)
かつて履歴書の趣味欄に「読書」と書くことの是非が問われた時代がありま
した。なぜなら読書はあたりまえの生活習慣で、わざわざ趣味と書くのはおか
しいという価値観があったんですね。あれから数十年、おばちゃま、ある日バ
ラエティ番組を見ていたら、若手芸人が「好きなのは太宰治」と言うと、周囲
が笑いの渦に巻き込まれたのを見て、「太宰が好きというだけで笑いが取れる」
とびっくらこいたというか憤慨したというか時代を感じたのでありました。
(その後、その若手芸人は芥川賞を取りました)。
だから、読書が日常生活の中に組み込まれていることが我ながら古臭く、か
すかなコンプレックスになっていた昨今であります。(趣味と聞かれたら、ボ
ルダリングとかピラティスとか言いたいじゃないの)。なのに、三つ子の魂な
んちゃらで、悩みがあれば本に頼り、時間があればスマホいじりはするけど、
本を読むクセは抜けないのよね。
そんなとき、「そうだよ、やっぱり読書は楽しいよね」と再認識させてくれ
たのがこの小説です。
主人公はイギリス女王エリザベス2世。そう、25歳で即位して70年、世界最
高齢、世界最長期間首長を務めるあのエリザベス女王様ですよ。おばちゃまは
エリザベス女王様が黄色や緑や赤の原色のスーツをお召になってにこにこご登
場なさるのが大好き! 鷹揚だけど某大国の首長が帰国した後、「あんな無礼
な国はない」みたいにハッキリ言っちゃうところもいいよねもっと言え〜!)。
さて、この物語は女王陛下がある日、犬の散歩中、犬を追って宮殿の奥に止
まっていた「ウエストミンスター区移動図書館」に紛れ込むとこから始まりま
す、すべてに礼儀を重んじる女王は何か1冊借りないと失礼になるという義務
感から本を借り、そのことから読書という新しい世界に没入していきます。読
書に夢中になった女王は、
「特に人と会うこと約束もなかったため、インフルエンザかもしれないと言っ
てベッドから出てこなかった。これは異例のことであり、しかも本当の病気で
はなく、実は本の続きを読むための口実だった」。
うむむ、おばちゃま、ランドセルを放り投げて玄関で学校図書館で借りてき
たばかりの本を夢中で読んだはるか昔の記憶がよみがえりました。小学校3年
のあの日が自我の目覚めと言ってもいいでしょう。そうだ!誰が何と言おうと
読書は人を夢中にさせるのだ!
女王様は次から次へと本にはまります。(ここで言っておきますが、これフ
ィクションですから。エリザベス2世をヒロインにした想像小説なんでそこの
とこお間違いなくお願いいたします。)
小説中には陛下がどんな本を読んだか、どう思ったかも書いてあります。つ
まりこれは女王陛下の口を借りた書評でもある小説なんですね。
英国の小説には詳しくないのでよくわからないのですが、詳しい人が読んだ
ら、ハタとひざを打ったり、「そりゃないぜ」と言ったりするのかな。
わかったのは陛下(つまり著者)はディケンズとバージニアウルフは好きだ
けど、ハリーポッターは苦手らしい。
(謁見した人がどんな本を読んでいるか聞かれて「ハリーポッター」と言うと)
「そう。私はあれば雨の日のためにとってあるのよ」とそっけなく言い、すぐ
に次の話題に移るのだった。
ははは。ハリポタに関しておばちゃま、激しく同意ですよ!
すべての人を同等に扱うけども、嫌いなものは嫌いと評価する英国女王の真
価がここに表れていますね。丁寧におもてなしはするけど、中国は嫌いという
のと同じです。最後に女王様はあり得ない重大発表をするのですがそれは読ん
でのお楽しみ。
訳者のあとがきも重要で、イギリスでは王族は読書はしないというか、知的
好奇心はないことが揶揄されているとか、そのへんの英国事情も書いてあるの
で、最初に訳者あとがきを読んでから本編を読むのもいいかもです。
中編小説ですが、なんともおかしくて女王陛下はかわいらしくて、読書中上
機嫌でいられる小説でした。読書は今やマニアックな趣味になりましたが、今
年もできるだけ本を読もうと思った次第です。本年もよろしくお願いいたしま
す。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
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ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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日本全国でまんえん防止法が拡大の方向ですね。出かけたりしないで、こも
って読書というのも、アリかもしれませんね。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<143>就職先は冥府魔道(その3・黄金の80年代へ)
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第141回 “知りたい”という好奇心がある限り、読んで考える
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→125 自分を大事にする
★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/show-z
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<143>就職先は冥府魔道(その3・黄金の80年代へ)
皆さま、明けましておめでとうございます。
2010年から続けてきた本欄も、13年目に突入いたしました。
本年もまた、相も変らぬ駄法螺話に、お付き合いのほどを、御願い奉ります。
漫画プロダクション「スタジオ・シップ」に入社したのは1979年だったが、
わしが入社して間もなく、全社的ビッグイベントを迎えることになる。
「引っ越し」なのだった。
それまでは、代官山のマンションに、各部署分散して入居していたのだが、
この年、晴れて建設中だった新社屋が完成し、全社丸ごと移転することになっ
たのだった。
初めての自社物件となる新社屋は、目黒区の柿の木坂にあって、地上三階二
棟形式のビルだった。
「建設」と書いたが、実は新築ではなくて、元は某大企業の社長邸宅だった
建物を買い取り、大幅な改築改装加えて社屋としたものだった。
およそ250坪の敷地に隣り合った二棟…元は、二世帯住宅だったものらしい
…を、それぞれ「A棟」「B棟」として、A棟には主に事務部門と小池一夫社
長の執筆室、B棟に作画や脚本の制作部門、それにその2年前から開いていた
「小池一夫劇画村塾」の教室が入ることになった。
入社したてのわしは、仕事を覚える暇もなく「荷造り担当」に任命されてし
まう。通常の業務をこなしながらの作業だから、勢い、引っ越しのための荷造
り作業その他は、一番下っ端で、まだ仕事も覚えてないし、なのでとりあえず
は居ても邪魔なだけのわしが一手に引き受ける…ことに自然と決まってしまっ
たのだった。
「当分の間は、こっちの仕事はいいから、引っ越しに専念してね」と言われ
て、それまでのスーツにネクタイから、ジーパンにトレーナー、スニーカーで
通勤するようになった。
四月、だったと思うが、引っ越し当日も、小池社長はホテルに籠って執筆を
続け、マネージャー課員もまた、わし以外は小池社長の原稿受け渡しやら編集
との連絡やらでワサワサ動いていたし、作画部もまた、直前の朝まで仕事をし
ていた。
あの状況で、いったいどうやって引っ越しができたのか、今も不思議なのだ
が、代官山の事務所からは全部の荷を運びだしたと思ったら、地下に借りてい
た倉庫に丸々荷物が残っていて、またトラックを手配したり、などもあったが、
およそ2日間をかけて、どうにか引っ越しは終了した。
柿の木坂の新社屋は、東横線都立大学駅から急いで歩いて約15分、ちんたら
歩けば20と数分と、駅からちょっと遠いのが難点で、ちょうど会社の前にバス
停もあったので、渋谷駅からのバスが、通勤の主な手段になった。
会社が新社屋に移転するのと時を同じくして、集英社が青年漫画誌を創刊す
ることになり、小池社長にも創刊号からの連載依頼が来ていた。
新雑誌は、「少年ジャンプ」で少年誌の頂点を極めた集英社が、満を持して
送り出す青年誌であり、会社全体がものすごい鼻息だった。
「ヤングジャンプ」と誌名も決まったその雑誌から、やはり鼻息荒く打ち合
わせにやってきた小池社長の担当者は、「友情マタンキ!」の流行語を生んだ
「ジャンプ」の人気漫画『トイレット博士』の「スナミ先生」こと角南攻氏そ
の人なのだった。
いや、ほんとに「そっくり」でした。
そのスナミさんが、小池社長の前に「これ、連載企画の参考にしてください」
と「どん」と置いたのは、電話帳2冊分ほどもある分厚い紙の束。
それは、「少年ジャンプ」創刊からその日まで、読者アンケートで集められ
たデータを、読者の年代別・性別・地域別等々に振り分け、そのそれぞれにわ
たって、さらに細かく趣味嗜好やタレントの好悪から学校のこと、家庭のこと、
等々を細密に集積分析したデータ集なのだった。
「ジャンプ」では、新連載を起こすにあたって、これらのデータを分析した
うえで企画を立てるのが常、とのことで、その紙の厚さを見ながら、集英社っ
てすげー…と、一同で感心してしまった。
そのスナミさんのもと、永井豪・作画で連載した『花平バズーカ』は、落ち
こぼれの高校生が、ひょんなことから悪魔を召喚してしまい、その悪魔から惚
れられる、という、今思うとその前年から「少年サンデー」で連載の始まって
いた『うる星やつら』と、ちょっと似た設定。
『うる星やつら』の高橋留美子は、劇画村塾第一期生で、同期のデビュー第
一号でもあった。
「ヤングジャンプ」創刊号の発売から数日後の夜遅く、タクシーで駆け付け
たスナミさんが、「完売!創刊号、完売です!」と小池社長に興奮した面持ち
で報告していたのを、覚えている。
確か、創刊部数は、100万部以上だったと思う。
「ヤングジャンプ」の成功を見て、その翌年くらいから各社が「ヤング○○」
という誌名の、後に「ヤング誌」とジャンルされることになる青年誌を続々と
創刊させ、漫画界は、1970年前後に続いて、青年誌の新創刊ラッシュに沸くこ
とになる。
柳の下のドジョウは、何匹も何匹も生息しているのが、漫画界…いや、当時
の出版界全体が、そうなのだった。
新しく創刊された雑誌の幾つかからは、連載の依頼もあり、小池一夫とスタ
ジオ・シップの仕事量もまた増えて、スケジュール表には、ますます余白がな
くなった。
今思うと、1980年代の10年間が、漫画プロダクションとしてのスタジオ・シ
ップの最盛期であり、続々と誕生する新雑誌から百花繚乱、様々なジャンルの
ヒット作が生み出されて、漫画界全体の最盛期でもあったと思う。
1980年には、テレビドラマ『SHOGUN』のヒットを受けて、若山富三郎主演の
映画『子連れ狼』が『Shogun Assassin』とのタイトルでアメリカで公開され、
クェンティン・タランティーノら若き映画人に、大きな影響を与えた。
映画のヒットを受けて、原作漫画の『子連れ狼』もまた、アメリカで翻訳出
版されることとなり、映画のヒットと共に、後の「サムライ」「ニンジャ」ブ
ームの火付け役となる。
後に、日本漫画は、アメリカやヨーロッパで広く翻訳出版されることになる
のだが、『子連れ狼』は、アメリカにおける、その嚆矢でもあった。
そんな狂騒的な1980年代を、わけもわからず命ぜられるまま、あっちこっち
駆けずり回っては、怒鳴られたり転んだり、嬉しがったり落ち込んだりしてい
た、二十代のわしなのでした。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第141回 “知りたい”という好奇心がある限り、読んで考える
年が明けたので、2020年は一昨年になってしまう。すでにコロナ禍(新型コ
ロナウイルス感染症パンデミック)は3年目に突入してしまった。その最中、
わたしたちが最も孤独に考える時間が与えられていた、その2020年の春から夏
にかけて、高橋源一郎氏もコロナ禍についてさまざまなことを考えた。
そして近い過去(2019年)に考えていたことと併せて一冊の本を上梓した。
『たのしい知識 −ぼくらの天皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代−』
(高橋源一郎 著)(朝日新聞出版)(2020年9月30日 第1刷発行)
本書は、高橋源一郎氏が三つの問題について、わかりやすく解説してくれる
本のようにみえるが、実はそうではない。本書は最初から最後まで高橋源一郎
氏のつぶやきである。彼の読書日記とも云えるかもしれない。そのテーマが、
「天皇」「韓国」「新型コロナウイルス感染症」という議論が沸騰する三つに
絞っている。それぞれ雑誌に発表したものだ。「天皇」が2019年の夏。「韓国」
が2019年冬。そして「新型コロナウイルス感染症」の稿は、2020年夏。これら
を一冊の本にまとめた。
日ごろからさまざまな意見が飛び交っているふたつの問題と、いままさに世
界を覆っているパンデミックの問題について高橋源一郎氏がみて、読んで、調
べたことを問わず語り的に文章化したものだ。
順番にみていきたい。
まずは天皇について。天皇については、憲法を読み込むことが不可欠である。
したがって、本書も憲法から考えはじめる。各国憲法の比較から始まり、各国
の憲法をみることで、日本国憲法が特異な形式であることを発見した。なにし
ろ第一章が「天皇」についてなのである。日本国憲法は、前文とこの第一章
(一条〜八条)とその後の第九条(戦争放棄)が特異なものである、というこ
とに気づく。他国も憲法に国の形を記載しているが、これほど長い文言を費や
すことはしていない。日本国憲法では、憲法で定めなければならない国民の権
利や義務は第一〇条から始まるのだ。そういうことがわかると、日本国憲法は
不思議なものであることに、あらためて気がつく。権利や義務はどの国も当然
に与えられたものであるが(少なくとも文言としては。権利が100%保障さ
れているかは別の問題。)、天皇という日本国だけのものと日本国だけが宣言
している戦争放棄に関しての条文が憲法の最初に記載されているのは、やはり
敗戦から得たことなのであろう。この憲法を改正する動きが喧しくなっている
が、どこを改正するのか。天皇についての条文に改正を加えることはあるのか、
さまざまな意見があると思う。この憲法が制定されてから、約70年間も国民は、
天皇についてうっちゃらかしておいたが、2016年(平成28年)8月8日の天皇
のおことば(象徴としてのお務めについて)で、天皇本人から退位が示され、
国民は天皇制について天皇ご自身から問題提起されてしまったわけである。い
ままで議論が足りなかったことに気がついた。もっともっとわたしたちはこの
天皇制と憲法について、議論しなければなるまい。それは、第九条についても
同様だ。
ふたつ目の「韓国」。本書では「汝の隣人」という標題になっている。主に
この100年間でわが国(日本)が隣国(朝鮮・韓国)になにをしたか、どう扱
ったかを、文学作品から考えている。主に植民地時代の作品を取り上げている。
そしてわたしたち(平均的な現代の日本人)は、いかに朝鮮半島でのことを知
らないかをあらためて感じさせる。高橋源一郎氏の驚きはわたしたちの驚きだ。
高橋氏は茨木のり子さんの文章を借りている。茨木さんはこんなふうに表現し
ている。「明治以降、東洋は切りすてるのが国の方針」であり、「ひとびとが
唯々諾々とそれに従って、何の疑いも持たない」と。隣国に対する大いなる無
関心は、裏を返せば、無関心を装うことによって相手から与えられる恐怖を忘
れることに他ならないのであろう。恐怖とは、いつ復讐されるかという心情で
ある。関東大震災の朝鮮人虐殺がいい例であろう。恐怖心からあのような蛮行
がまかり通った。
いずれにしても、隣の国に支配され、隣の国の言葉を強制され、隣の国の名
前に改名させられ、しかもそこここで隣の国の人たちから侮辱され続けたら、
どう思うのだろう。相手の立場になる、その想像力がわたしたち日本人には根
本的に足りないのだろうと思う。
そして「新型コロナウイルス感染症」について。本書では「コロナ時代を生
きるには」という標題である。高橋源一郎氏は本稿においてかなり興奮してい
るようである。執筆子にはそう思えるのだ。参考とした書籍からの引用は必ず
「」がついているが、高橋氏がリライトしているところがあるが、こちらには
むろん「」はついていない。したがって、どこまでが高橋氏のことばで、どこ
からが他者のリライトなのか、よくわからないのだ。それでもこの稿は、現在
進行形であり、わたしたちに直接降りかかった問題なので、すらすらと一気に
読める。
文明が感染症をもたらしたことは事実として正しい。古代文明が発祥したと
ころ(人が豊になって群れて生活していた場所)から感染症が始まり、都市と
都市を結ぶ街道がその感染症を運び、人々を危機に陥れた。これが何度も何度
も繰り返された。人類の歴史は感染症の歴史でもある。
そしていままさに猛威を振るっている新型コロナウイルスであるが、約100
年前の“スペイン風邪”について、現代を生きるわたしたちは驚くほど無知で
あり、何も知らなかった、ということにあらためて気づいている。ちょうど第
一次世界大戦と重なっているスペイン風邪は、実は戦争の戦死者の数よりも多
くの死者を出している、という事実があるにも関わらず、わたしたちはそれを
知らなかった。死者の数は4000万人である(新型コロナウイルスは、今の処550
万人。ちなみに第一次世界大戦の戦死者はおよそ1600万人)。歴史の授業でも
習わず、教科書にも記載がない。なぜなのか、なぜ史上最大のパンデミックで
あるスペイン風邪は歴史から抹殺され、見事に風化してしまったのか。高橋氏
はふたつのことが原因であろうと分析している。ひとつ目は、それを記録した
優れた文学作品がほとんどないこと。ふたつ目は災厄に見舞われ、それが去っ
た時、人々は歓喜するためにその災厄を積極的に忘れてしまおうと思うからで
ある、と。実際にアルベルト・カミュの「ペスト」では、人々が歓喜し、そし
て忘れていくさまを数行で表現して終わっている。文学者の重大な使命は記録
することだ、と高橋源一郎氏は云っているのだ。
事柄を知りたい、そして問題を考えたい。という素朴な思いが伝わる好著だ
った。考えることのとば口に立ったよき案内書である。知りたいことは無限に
ある。
残念なのは、参考文献一覧表がないこと。それぞれ本文中に書名の記載があ
るが、まとまってどこかに置いてほしかった。高橋源一郎氏の読んだ本の履歴
を。
多呂さ(3年目がやってきました。とんでもない時代を生きているということ
が実感されます)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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125 自分を大事にする
2022年。年が明けました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
1月10日は成人の日。
感染症がじわりじわりと広がっている中ではありますが、
新成人のみなさま、おめでとうございます。
しんどいことも楽しいこともひっくるめて、おもしろい未来を体験できます
ように。
さて、最初に紹介する絵本はこちら。
『みんな みんな すてきな からだ』
タイラー・フェーダー さく すぎもとえみ 訳 汐文社
表紙には女性、男性、赤ちゃんと、いろんな年代の人が水着姿で描かれてい
ます。
どの表情もエネルギーを感じられ、体はあざがあったり、まだらだったり、
体毛がたっぷりあったり、それぞれ多様です。
表題の「みんなみんなすてきなからだ」は、自分や他人のからだを尊重する
社会をめざす合い言葉」と解説にあります。
お互いに尊重しあう社会って、とってもすてきだと思いませんか。
ページを繰ると、どのページにもいろんな「みんな」がいます。
モデルのような美しい体にあこがれることもあるけれど、自分はそうじゃな
いと否定しなくてもいいのですものね。
でもでも、映像でみえてくる美しさについつい惹かれて、それに近づきたく
なる欲求がでることもあります。ただ、それはいまの自分を少しだけ残念に思
うことにもなるので、そんな時はまずは自分を丸ごと受け止めるのも大事。
小さい人も大人もこの絵本を読んで、自分も他人もみんなすてきな体をもっ
ていることに、あらためて気づけるのではないでしょうか。
からだつながりで次に紹介するのは
『中絶がわかる本』
(ロビン・スティーブンソン 塚原久美 訳 福田和子 解説
北原みのり 監修 アジュマブックス)
小さいこどもから、ティーン向けににフィクション、ノンフィクションを書
いている作家によるもので、本書はノンフィクション。カナダ、ブリティッシ
ュコロンビア州における最高の児童文学賞も受賞しているティーンエイジャー
向けの性教育と人権の本です。
こちらも、先に紹介した絵本のように、表紙の女性達の眼差しが印象的です。
日本において、避妊の知識、性と生殖の権利(リプロダクティブ・ライツ)
については、まだ広がりが弱いのかもしれません。若い人たちも、なかなか自
分達の性について語るタイミングも見つからないのかもしれません。
そういう時、本はひとりで読めるので知識を得るにはとてもいいツールです。
自分の身体についての権利を知るということは、自分の自由につながります。
性教育? 人権? なんだか難しそうと感じる方もいらっしゃるでしょうか。
読むと、これは自由について書かれているのだと腑に落ちると思います。
中絶についての歴史にはじまり、先人たちが獲得してきた人権について、女
性だけでなく、男性にも知って欲しい。
権利はだまって自分についてくるものではなく、闘って得てきた歴史がある
のですから、それは知りたいことです。
読了後、まずは一緒に暮らしている娘にすすめました。
以前ご紹介した感染症と人類の歴史全3巻の残り2巻も刊行されました。
『感染症と人類の歴史 治療と歴史』
『感染症と人類の歴史 公衆衛生』
池田光穂 監修 おおつかのりこ 文 合田洋介 絵 文研出版
今回も本の中で、読者に歴史などを案内してくれるのは、九尾のキツネ。
時空をとびまわり、各地のいろいろな時代へと誘ってくれます。
歴史を知ることは、いまを知ること。
感染症に必要以上に恐れをもたず、知識をもってするべき行動をとれるよう
にすることです。研究を重ねて治療法を獲得してきた道を知り、その道のりに
興味をもつことは、未来につながるように思います。
「治療と歴史」では、原始時代からはじまります。体の具合が悪いときに、
痛む場所に手をあててなでたり、おしたり、そういうところから、今度は、食
べると具合をよくする植物を見つけたり、動物の血や角、石、貝殻などの中に
体にいいことを学んでいったそうです。
平安時代、日本でもっとも古い医学書といわれている『医心方』に書かれて
いる治療法も興味をひきました。
例えば養生法(健康法)。「朝おきたとき、つべこべいってはいけない」
なるほど、これは今でもつかえそうです。
一読している間、そうなんだ、そうなんだといま治療できている感染症につ
いて、先人の方々による科学の力にあらためて感じ入りました。
「公衆衛生」では、人が生きていくために大事な健康的なくらしについて書
かれています。
ひとりひとり個人だけではなく、社会全体が健康になることを目指す。その
しくみが「公衆衛生」です。
それでも基本はひとりひとりの行動。
コロナの拡大をみていても、それは十分納得できます。
巻末には「感染症」と子どもの本も22冊紹介されています。
感染症がテーマになっている本だけではなく、物語の時代背景として感染症
が描かれているものもあります。
『アンネの日記』が紹介されているのは、アンネの死は、衛生状態の悪い強
制収容所で発生したチフスによるものだからです。
最後に現在最新刊が刊行されている福音館書店の「こどものとも」2月号を
ご紹介します。
「オトシブミのふむふむくん」
おのりえん 文 秋山あゆ子 絵
お正月の楽しみである年賀状も年々売上がさがっていると聞きますが、1度
にたくさんの賀状を書くのは大変でも、懐かしい人からもらえる一文添えの葉
書はうれしいものです。
1992年に創刊された月刊誌「おおきなポケット」(2011年に休刊)で「虫づ
くし」を連載していた秋山あゆ子さん。その連載をもとに、おのりえんさんが
物語を紡ぎます。
手紙のすきなオトシブミのふむふむくんが書いた手紙が、同じく手紙のすき
なオトシブミのふみふみさんに届きました。ふたりの文通がはじまります。
細かく書かれた虫たちの年中行事の愛おしさがたまりません。
宝物の一冊になりました。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
・送付先ご住所・名前:
・筆名(あれば):
・書評アップ先の媒体予定:
・コメント:
をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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*送付先が変わりました!*
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★「トピックス」
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★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #139『オンチは誰がつくるのか』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『基準値のからくり』講談社ブルーバックス 村上道夫 他3名
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ やわらかな衣をまとう人たち『源氏物語』(紫式部著)
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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(株)アストラハウスの和田様より、下記の献本を頂戴しました。ありがと
うございます!
・格非 著/関根謙 訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#139『オンチは誰がつくるのか』
ヨーロッパを襲うオミクロン株の猛威。お隣の韓国でも感染拡大の模様。
日本だけがまだ落ち着いた状況で、例のファクターXも特定されたようです
が、しかし、そのファクターを持っているのは6割程度といいますから、まだ
まだ予断は許しません。
そんな年の瀬、今年の忘年会事情やいかに。
既に仕事を辞めているので、自分としては何もありませんが、世の中的には
日常が戻って、昨年の鬱憤を晴らすべく、渋谷センター街が千鳥足の群れに占
拠されるのでしょうか。
それとも、引き続き自粛?
あるいは、リモートワークの普及で、忘年会自体が早くもすたれ始めている
のか。
ならば、二次会の定番、カラオケはどうなるのでしょう?
飛沫が問題となり、すっかり悪者の「歌」。
これを密室もいいところのボックスで歌いまくるなんてと、今年も引き続き
自粛対象なんでしょうか?
そうなると、歌好きはがっかりですが、密かに安堵の胸をなでおろしている
方々もいるはず。
そう、「オンチ」のみなさん!
好きな連中だけで行ってくれれば別に構わないけど、会社の忘年会の二次会
だと、やはりつき合わざるを得ない。それで隅っこに小さくなって、目立たな
いように手拍子なんかしていると、目敏いやつが見つけて、「あれぇ、〇〇さ
ん、まだ歌ってないじゃないですかぁ! 歌ってくださいよぉ!」とか余計な
ことを抜かしてリモコンを押しつけてくる。いや、俺は、と言っても、酔っ払
いのしつこさで後に引かない。根負けして渋々歌うと、もう聴いておらず、隣
のやつと大声で爆笑しているか、聴いたら聴いたで、「あちゃー」と露骨に、
〇〇さんに振ったの、俺のミスでした、的な顔をする。
だから断ったんじゃねぇか!
そんな「オンチ」について、人はこう言う。
「オンチって、なおりますか?」
この問いに、
「いえ、そもそもオンチは、なおるとかなおらないというものではありません」
ときっぱり答えてくれるのが、本書の著者小畑千尋。音楽教育学の准教授な
のです。
本書『オンチは誰がつくるのか オンチ克服への第一歩』は、著者が書いた
学術論文を元に、一般向けに書籍化したもの。
これを手に取ったのは、本来ならカラオケの季節である年末だから、という
こともあるけど、密かな不安があったから。
下のプロフィール欄にもある通り、アマチュアミュージシャンとして長年歌
とギターをやってきました。だから、まあ、オンチではない、と思っているわ
け。
しかし、楽器と違って歌は、道具がない。自分の体だけ。
楽器であれば、ここを押さえて、こう弾くと、「ド」の音が出る、と学んで
いく。それは目に見える。
ところが歌は違います。
まず、あまり深く考えることなく、何となく歌えてしまう。
つまり、「ド」とか「レ」とか「ミ」とか、ある音を歌う時に、体のどこを
どうやっているのか、まったくわかっていないのです。
そんなあいまいな「歌う」という行為は、何かの拍子にふっとやり方がわか
らなくなってしまうかも知れない。
自転車とか水泳の場合、いきなり自然にはできないから、練習期間というも
のがあります。そこでそれなりに努力した記憶があるから、いまは何も考えず
にできてしまっていても、もしわからなくなったら最初の練習に戻ればいいと
いう安心感があるのです。
しかし、ある高さの音を「歌う」技術は、何となくできちゃった以上のもの
ではない。
それが却って、怖い気がするんですよ。
昔のアニメで、崖から空中に歩いていって、まだ気がつかない間は浮いてい
るが、下にもう地面がないと知った瞬間に、「あれー」と落下するギャグがあ
るでしょう?
歌う時、こうやって歌っているんだ、という自覚がないのは、この空中を気
づかずに歩いている状態に近い気がする。
だから、実は下に地面がないということ、つまりどこをどうやってこの音を
出しているのか、はっきりしていないことに気づいた瞬間、歌えなくなるので
は、という怖れがあるんです。
本書は、まず歌うことが、自転車や水泳のように、きちんと学習できるもの
であることを明確にしています。
だから、練習すれば、誰でも歌えるようになる。
ところが、オンチは生得のもの、遺伝するもののような誤解がある。
だから人は「なおるか」と訊くのですね。
しかし、オンチは病気ではない。
単に子どもの頃、自然に歌えなかっただけで、それならちゃんと歌い方を習
えばよかったのに、先生も教えてくれなかったに過ぎないのです。
著者の調査では、オンチの人って、小学校の音楽の先生に、強い嫌悪感を持
っていることが多いらしい。
「お前はオンチだから、口パクしてろ」という教師の、なんと多いことか!
(ここ、『チコちゃんに叱られる』の森田美由紀アナ調で)
これ、自分の仕事を放棄しているってことですよ。
その一言が、どれだけ子どものトラウマになるか、気づいていないんでしょ
うか。
それとも、わかってはいるけど、じゃあどうやって教えたらいいのかがわか
らないのでしょうか。
ちなみに、わが小学校時代の音楽の先生は、カマキリって仇名で、嫌いでし
た(笑)。
かくして「ひょっとして俺はオンチなのかも」と思った子どもは、その後も
周囲の人たちの「オンチだなぁ」の冷たい評価にさらに萎縮してしまい、「俺
はオンチなんだ」と思い込む。
負のスパイラルです。
では、歌えるようになるためには、どんな練習をすればよいのか。
著者は「内的フィードバック」と名づけています。
元が論文なので、少々堅い言い方ではあるけれど、要は自分が出した音を、
自分できちんと聴き取って、出したい音と合っているかを検証する作業なんで
すね。
音楽の先生は、音の取れない生徒がいると、大概ピアノを鳴らして「さあ、
この音をよく聴いて」と指導するけど、そもそも「音をよく聴くって、何をど
う聴いたらいいのかがわかってない」のですよ。
これが「内的フィードバック」のできていない状態。
そこで、ピアノよりも本人の声に近い、別の人の声。例えば先生の声か、一
緒にレッスンに参加する友だちの声を使います。
そして、お手本を先に歌うのではなく、本人にまず出しやすい高さの音を長
く伸ばして歌わせます。そこに、先生か友だちが、同じ高さで声を合わせてや
るのです。
この時、物理的に「共鳴」という現象が起きます。ふたつの音の波が干渉し
合って、振動が発生する。
この僅かな共鳴を体験すると、オンチの人でも「あ、これが音が合うという
ことなのだ」と感覚的に理解できるのだそうです。
「音が合う」ということを、体で知ること。
言ってみればこれは、いわゆる認知科学に関わる問題なのでしょう。
この原理を使って、著者はさまざまなレッスン法を編み出し、実際の経験を
盛り込んで、本書を説得力に満ちたものにしています。
安心したぁ!
この先万が一、下に地面がないことに気づき、突然「あれー」と歌えない世
界に落ちたとしても、この手順でいけばまた地面の上に戻れるのです!
タイトルにある、「オンチは誰がつくるのか」
その答えは、まず理解のない教師であり、周囲の心ない人たちなのでした。
「お前はオンチ」と決めつける彼らこそが犯人であり、本人には何の罪もない
のです。
そして、オンチ克服の鍵は、「人と一緒に歌う」こと。
やはり音楽は、人と人が繋がり合うために生まれたのだと思います。
どうかオンチの方も、オンチでない方も、歌を楽しめる、よいお年をお迎え
ください。
小畑千尋
『オンチは誰がつくるのか オンチ克服の第一歩』
2015年7月4日 第1刷発行
株式会社パブラボ
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
今年初めて聴いた曲で、一番心に響いたのは、月光グリーンのボーカル・テツ
ヤさんのソロ曲「クレマ」なんですが、生憎ライブで一度披露されただけで、
音源化もされていません。なので、紹介しても聴いてもらう術がないのが残念
です。今年初めて読んだ作家で、一番感動したのは恒川光太郎さんでした。生
憎音楽と関係ないので当欄では取り上げられませんでしたが、最高の幻想文学
作家です。来年も、いい本と、いい音楽に出会いたい!
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『基準値のからくり』講談社ブルーバックス 村上道夫 他3名
農薬など危険とされる物質が「XXが基準値のYY倍検出されました」というニ
ュースが流れると、一部の人が大騒ぎするのは恒例になっている。そして公的
機関や専門家は「直ちに健康に影響はない」とコメントするのがお約束だ。
ところで、その基準値、どうやって決められているのか皆さんご存知ですか?
ということで、専門家が安全の基準値の決め方について書いた本だ。
この分野は「レギュラトリーサイエンス」と呼ばれるそうで、リスクに関し
て「どの程度の大きさのリスクを受け入れるか定めなければならない」ので、
予測・評価・判断を行って「従来型の科学で得られたデータや知見と、政治や
行政による規制・調整・政策判断などとの間にある大きなギャップを埋める
『橋渡し』の役割をする科学」のことをさす。
工学者2名、理学者、経済学者各一名の4人の共著で、前書きに「筆者たち
がそうであるように、その算定プロセスを知った読者の多くは驚愕するのでは
ないか」と書いてあって、いろんな基準値を調べた著者たちも、書いている最
中に調べている中でのけぞったことがいくつかあるようである。
前書き最初に来るのは、なぜお酒は20歳からと決まったのか?の衝撃である。
曰く、酒は成年になって責任を取れるようになってから飲むべしと決められた
から・・・ふむ、それはわかる。ではなぜ20歳が成人の基準値となったのか?
1876年の大政官布告で、欧米諸国が21歳から25歳を成年年齢としていたのを
参考に、日本人は「欧米人より精神的に成熟している」ので、成年を20歳とす
ると決められたのだ。
どんな根拠で日本人は欧米人より成熟が早いとなったのだ???
20歳成人は、生物学や医学などの知見から導き出されたのではなく、当時の
政府の思いつきで決められたのが現代まで基準値として使われているのである。
そこから第一部飲食物、第二部環境、第三部事故と我々の関心が高いであろ
う3つの分野の基準値の決め方を解説していく。けっこう驚きなのは、
1.基準値の中には、科学的知見から得られたデータだけではなく、主観的な推
定や過程の要素が含まれていることがある。
2.過去に決めた数字が、無批判に使い回されることがある。
3.一度決められると、なかなか変更されない。
4.法的にも意味はさまざまである。
ということで、我々が思っていたような科学的知見だけで決められているもの
ばかりではないらしい。しかも基準値を決める政策担当者は「市民を現実の危
険から守るだけでなく不安からも守るべく都力しなければならない」のだ。
しかし、これがなかなか難しい。厳しければ厳しいほどよいわけではない。
最近問題になった国産ハチミツからグリホサートが検出された件など、その典
型だろう。
そもそも基準である0.01ppmは、おそらくポジティブリスト制度で決められ
た数字だと思われる。ポジティブリストは毒性の強弱に関係なく一律0.01ppm
と決められる。
で、0.1ppmのグリホサートが基準オーバーと言うことで大騒ぎになったわけ
だが。基準の10倍を摂取したとしても、1gのグリホサートを摂取するには10ト
ンほどハチミツ食べないと摂取できない。10トン食べることができても、たと
えば体重50キロの人がグリホサートで害が出る量の1%にも届かない。
したがって基準値オーバーと言っても全く問題がないレベルであるのだが、
不安から国民を守ることはできなかったわけだ。
そんな基準値のあれこれがどっさり書いてあって、中には決めても守れない
ので、この値にしたと言うものもある。読んでいて、基準値を疑えと言われて
いるかのようだ。
もっとも著者の方々は、基準値を疑えといいたいわけではない。疑うのでは
なく根拠を調べて欲しいと言うことでこの本が書かれている。基準値の決め方
には科学的知見だけでなく、さまざまな角度から検討がなされている。中には
現代には不適合なものもある。そういった知識を得れば、基準値に振り回され
ることもないし、要らぬ不安にさいなまれることもなくなる・・・。
と言いたいところだが、それも実際のところは難しい。基準値は100 %の安全
を保障するものではない。たとえば10万人に1人は問題が起きるかもしれない
が。それ以外は大丈夫という感じで「受け入れられるリスク」を算定するもの
だ。
クルマのように容易に人を殺しえる道具が存在を許されているのは多くの人
にとって「受け入れられるリスク」の範囲内のリスクを持っているからだ。そ
の受け入れられるリスクがかつては年間一万人以上の死者を出すことであった。
だからそんだけ死者を出してもクルマ禁止にはならなかった。
で。猟銃やボウガンは殺人事件があってから規制が厳しくなったが、死者数は
少ないよな・・・なんて釈然としないことを考えながら読み進める。
1990年代の遺伝組み換え作物の是非の論争について、英国政府の報告書には
こう書いてあるという。
「この論争は安全性に関するものなのではない。どのような世界に生きたいか
という、はるかに大きな問題に関することだ」
そう、遺伝子組み換えの安全性など実は問題ではない。科学的な安全性評価
をすれば、間違いなく遺伝子組み換え作物を食べる社会よりも自動車を運転す
る社会の方がリスクは猛烈に高い。にもかかわらず我々の多くがクルマの存在
を認めて遺伝子組み換え作物を否定したがるのか?価値観の問題なのである。
いやはや、万人が認める基準値を作るのは不可能なのだろうな・・・そんな
現実も多くの国民に知って欲しい。それが著者の人たちの希望なのだろう。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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やわらかな衣をまとう人たち
『源氏物語』(紫式部著・小学館日本古典文学全集)
おばちゃま、今年、新生児を抱くという経験をいたしました。生まれたての
赤子の頬はピンク色でやわらかく、ぽよぽよしておりました。夏のこととて、
おばちゃま、麻のニットを着ていたのですが、ごわごわした麻だと赤ちゃんの
肌を傷つけそうで怖いと思いました。
〇萎えた衣で子育てする宮様
そこで思い出したのが「源氏物語・橋姫巻」に出てくる「宇治の八宮」とい
う人物こと。この方は皇族の生まれで帝になるかもしれないという時期もあっ
たほどのやんごとない身分でしたが、どうした運命か、帝にはなれず(光源氏
が政界に復活したため)、零落して妻とも死に別れ、都から遠く離れた宇治の
別荘に住まいして幼い娘2人を育てています。落ちぶれた宮家には侍女や乳母
も寄り付かず、宮は自分で娘の世話をすることが多いのですが、その描写がこ
れ。
君たちをかしづきたまへる心ばえに、直衣の萎えばめるを着たまひて、しどけ
なき御さまいと恥ずかしげなり。
(姫君たちをお世話するお心づかいから、直衣がやわらかになったのをお召し
になってとりつくろわれぬお姿はまことに拝するも恥じ入りたいくらいの奥ゆ
かしさである)
なんで直衣(=普段着のことです)がやわらかくなっているのでしょう。注
釈には「落剝の苦境にありながらも生得の美質を失わなず」「粗末な直衣をま
といながらも生得の気品を失わない様子」(小学館古典文学全集)とあります。
つまり、落剝しているために粗末な直衣を着ているということが描かれている
というわけです。
確かにそれもあると思いますが、一方で幼い姫君の世話をするときは、ごわ
ごわした新しい着物だと抱っこしたりするときは肌が当たって痛かったりする
ために、わざとくたびれた着物をお召になっているのだと思います。侍女がい
ないから自分でしないといけない事情もあるにせよ、落剝=萎えたる直衣とば
かりも言い切れないのではないかと、おばちゃま、赤子を抱っこしながら1000
年以上の昔に思いを馳せたのでありました。
そう、この宇治の八宮こそ、日本文学史上2番目のイクメンなのであります。
(一番は「竹取物語」の翁)紫式部自身が出産して子育てをした体感がこのよ
うな細かな部分にも表現されているのではないでしょうか。紫式部はやはり天
才ですね。
〇萎えた衣で遊びまわる10歳の少女
さて、思い起こせばもう1シーン、萎えた着物を着ている描写があります。
それは「若紫」での光源氏の運命の女性、紫の上の登場シーン。高校の古典
の教科書に必ず出てくる名場面です(源氏物語はやばい話の連続なので思春期
の高校生に読ませるにはこの場面しかないのかも)。
光源氏がマラリアになって鞍馬山に加持祈祷を受けにいって出会う少女。そ
れがのちの紫の上ですが、また小さくて、「スズメの子を捕まえてかごに入れ
てたのに女童が逃がしてしまったの。プンスカ」みたいな感じで駆け込んでく
る少女が着ているのも「白き衣、山吹などの萎えたる着て」とあります。
もうね、10歳の若紫はスズメの子を捕まえたりしてお転婆なんですね。だか
ら、何回も洗ってを繰り返してやわらかになった着物で関西弁で言うところの
ほたえ回って遊んでいるわけです。彼女も皇族の血を引くやんごとない姫君で
すが、いろんな大人の事情により山の中にいるわけですね。
つまり、本来はまるでナマケモノのようにじっとして動かない高貴な方も、
場合によっては萎えたる着ものをお召になって動き回らないといけない。それ
を零落と見るかどうか。侍女がいなくて自分で子育てしている宮家の主とか、
身分は高いのにいろんな事情で山の中にいる姫も、どっちも「萎えた服」を着
ているけれど、なんかね、それはそれで楽しそうじゃん・・・と思ってしまう
のは代々ド庶民の感覚なんでしょうか。
萎えた衣の描写はあと1つ、2人の宮様から愛されてどうしようもなくなっ
た田舎娘「浮舟」が世を捨てる直前の描写に「萎えたる衣」を顔に押し当てて
寝ているというのがあって、ここ、なんでわざわざ紫式部は「萎えたる」と書
いたのか、薄学のおばちゃまにはわかりません。今回、赤子を抱いた体験から
理解したと同じように、いつか、体感としてわかる日が来ることを願っていま
す。凡人が天才・紫式部の描写の真意を理解するには1人につき100年ぐらい
かかりそうです。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・格非 著/関根謙訳『桃源郷の幻』アストラハウス
https://astrahouse.co.jp/2021/11/1008/
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
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表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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■あとがき
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まさかの年越し配信になってしまいました。失礼しました。
ということで、本文中の「今年」は2021年と読み替えてお読みください。
旧暦?(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<142>鬼と国宝と世之介、そして昭和の残影
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第140回 心のケア=心を癒す、ということ
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→125 とびきりきれいなもの
★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/show-z
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<142>鬼と国宝と世之介、そして昭和の残影
今回は「冥府魔道」をちょいとお休みして、最近読んだ小説のことなどを。
偶然なのだけど、ふと手に取った何冊かが、いずれも「凄い」と思える小説
で、今回は、それのことを書きたくなってしまった。
まず、読み終えて本を閉じたとき、図らずも「すげー…」と声に出して唸っ
てしまったのは、井上荒野『あちらにいる鬼』。
井上荒野の小説は、以前から好きで、ほとんどの作品は読んでいた。
この『あちらにいる鬼』もまた、ずっと前から読みたかったのだけど、文庫
化を待っていたのです。
というのも、うちは狭いので、単行本だと読後の保管に場所とるし、かと言
って小説は電子版では読みたくない、ので、文庫化されたと聞いて、さっそく
買った…とその数日後、瀬戸内寂聴の死亡が報道された。
なにやら因縁めいた気もしないではないのだが、『あちらにいる鬼』は、井
上荒野が、実父・井上光晴と寂聴、そして実の母親との三角関係と、寂聴出家
後の一家ぐるみでの付き合い、という「奇妙な関係」を、赤裸々に描いたもの。
井上荒野にはこれ以前に、『ひどい感じ 父・井上光晴』という、やはり父
と自分を含めたその家族を描いたノンフィクションがあるのだが、今回の『あ
ちらにいる鬼』は、小説の形式をとっているが故か、さらに深く父親とその妻
…つまり実母と、父の愛人であった瀬戸内寂聴(作中では別名)、それぞれの
内面に寄り添いながら、家族なればこそ、と思える角度から鋭く切り込んでい
る。
小説『あちらにいる鬼』は、長内みはる、後に寂光、こと瀬戸内晴美、後の
寂聴と、白木篤郎こと井上光晴の妻・白木笙子こと井上郁子が、交互に同じ時
間の同じ事象を語る、という形式で進む。
しかも、それを書いているのが、作中の白木海里こと井上荒野…井上光晴の
実子で、なので実の娘というフィルターを通して、実の母親と父の愛人の視点
で、その三角関係が語られる…という複雑な構図。
たとえて言うなら…って、この譬えが適切かどうかわからんが、檀ふみが
『火宅の人』を書いてしまったようなもの?
しかし、そこに描かれる白木篤郎(井上光晴)のクズっぷりったら…もう
「あっぱれ!」の域と言ってもいいクズっぷりだ、これは。
「みはる(晴美)」の出家後、家族ぐるみで付き合うようになった、という
だけでも驚きだが、その過程で、篤郎(光晴)の妻と「寂光(寂聴)」が、親
友とも呼べる親密な間柄になっていく。
そこには、結婚後も、さらにみはる(晴美)と不倫関係にあった間にも、終
始変わらず女癖が悪かった夫あるいは愛人に対する「戦友」じみた共感があっ
たようだ。
そういう世間的常識とはかなりかけ離れた「事実」を次々と積み重ねながら
も、スキャンダラスな「暴露」に堕することはなく、読んでいて不快感を催す
描写も全くない。
作中に「白木海里」として登場する作者自身の、それぞれの対象に対する視
線が歪みなく「真っすぐ」なゆえかと思う。
執筆にあたっては、自身の記憶のみに頼るのではなく、家族ぐるみで親交の
あった瀬戸内寂聴のもとへ何度も通っては取材を重ね、実の母親にも取材して、
事実関係を確認したりもしたそうだ。
「洗いざらいに喋るから、何でも聞いてちょうだい」と、取材にあたって言
われたという瀬戸内寂聴は、上梓されたこの小説を絶賛したと聞く。
この小説、映画化の企画が持ち上がっているらしいが、そうなると、キャス
トがやたらと気になってくる。
ことに「寂光」役、誰になるんだろうか?気になる…
この『あちらにいる鬼』の次に読んで、またもや「凄い!」と思ってしまっ
た、吉田修一『国宝』は、「青春篇」「花道編」という上下2巻仕立て。
1950年、九州・長崎中心とした一帯に勢力を張るヤクザ一家の総領息子とし
て生まれ、その父親の壮絶なる死を経て、関西歌舞伎の名門家へ弟子入り、素
質を見込まれて部屋子となり、ついには梨園の御曹司を差し置いて大名跡を襲
名してしまい、その後人間国宝にまで上り詰める歌舞伎役者の半生記、である。
この小説もまた、発表直後からモデルがいろいろと取りざたされたらしいが、
どうやら特定のモデルは存在せず、敢えて言えば、過去から現代に及ぶ何人か
の歌舞伎役者を統合して、一人の人物像を作り上げたようだ。
「大河小説」とも呼べるこれを読み終えたとき、以前に、これと似た小説を
読んだことがあるぞ…という既視感(?)にとらわれた。
なんだったけ? と記憶の雑巾を絞って思い出したのは、ケン・フォレット
『大聖堂』だった。
一介の石工から、旅から旅の生活の中で精進を重ね、ついには歴史に残る大
聖堂の建築責任者にまで上り詰める男の半生記が描かれた『大聖堂』と、舞台
と素材は全く異なるのだが、この『国宝』、小説の構造が、実によく似ている。
主人公が志を得てそこへ向かって邁進する…のだが、禍福が、それこそ折り
重なるように次々と彼を襲い、絶望に沈んだと思ったら、すぐその直後には僥
倖が訪れ、喜びもつかの間、再び不幸が襲い来る…という連続で、まさに息を
つく間もない展開、これが両作にぴたりとあてはまる。
『国宝』は、読んでる最中にかなり「ハラハラ」させられる小説でも、あっ
た。
主人公の出自がヤクザ、つまり「反社」の家、という過去や、その出自ゆえ
に背中一面に刺青を背負っている、という事実。
その他、芸道に邁進するあまり、世間一般的な人付き合いが苦手であったり
する性格、派手な女性関係に金銭感覚、等々が、その後に待ち受けている「転
落」の伏線なのでは? と思わず知らず、主人公の行く末を案じさせられも、
してしまうのだ。
ことに吉田修一の小説では、『さよなら渓谷』や『パレード』に見られるよ
うに、小さな伏線を積み重ねた末に、結末で、それまでの物語世界を「ドンガ
ラガッシャン」とひっくり返してしまうような「卓袱台返し」がままあるので、
これもまた、「そういう結末に至るんじゃ…?」と、最後まで「ドキドキ」が
止まらない。
結果的には、卓袱台返しは起こらずに、大団円で終わってくれて、思わず
「ほっ」としたのだが、この点もまた『大聖堂』と同じだった。
『国宝』が面白かったので、同じ吉田修一で、まだ未読だった『横道世之介』
も、読んだのだ。
作者と同じ世代らしい横道世之介が、作者と同じ故郷・長崎から、これも作
者と同じ法政大学らしき大学に入学し、初めての都会暮らしに戸惑いながらも、
友を得、その後恋人も得て、学生生活を謳歌する。
ちょうどバブル期に学生時代を送っていたらしい物語の合間に、登場人物た
ちの十数年後、あるいは20年後の姿が、スポット的に挿入されるのだが、主人
公・世之介の未来だけは、描かれることがなく、「?」と思っていると、半ば
近くに至って、世之介が、20年後に亡くなる、という事実が、いきなりに知ら
される。
吉田修一得意の「卓袱台返し」が、ここでは中盤に起こってしまうのである。
それが知らされるまでは、世之介以下登場人物たちの、多少の波乱はあれ、
長閑でのほほんとした日常が延々と語られるのに、いささか退屈させられもし
ていたのだが、主人公に、あらかじめ「死」が予定されている、と知った後に
は、その「退屈な日常」が、俄然輝いて見えだすのだ。
そして、主人公・世之介の母が、その息子の学生時代の恋人だった女性に送
った手紙が全文紹介されるラストでは、思わず涙ぐんでしまったりも、するの
である。
『横道世之介』作中には、「わたせせいぞうのハートカクテル」とか、「サ
ラダ記念日」、映画の「トップガン」、テレビの「ネルトン」等の、80年代ト
レンドが各所にちりばめられ、時代を表現しているのだが、それらに囲まれて
学生生活を送る世之介に、彼より十と数年前、同じように東京で学生生活を始
めた自分とを、思わず重ねてしまったりも、した。
『横道世之介』、確か映画化されてたよな、と思い出し、DVD借りてきて
映画の方も見たのだけど、これもまた、なかなかの佳作でありました。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第140回 心のケア=心を癒す、ということ
前回の中井久夫先生の教え子で同じく阪神淡路大震災時に災害の渦中で奮闘
した精神科医のエッセーを紹介する。
・・・とは云いながらも、エッセー(随筆)という簡単なものではない。被
災地神戸で精神科医として活動をしながら、書き綴られた文章は迫力に満ちあ
ふれている。被災地の内側から、現場報告という形で書いてください、という
新聞社からの依頼を断らず、自身のやっていることや自身が感じていることを
文章にして、新聞に「被災地のカルテ」と題して不定期連載したものをまとめ
た本なのだ。まさに被災地の内側からの報告である。
『心の傷を癒すということ』(安克昌 著)(作品社)
(1996年4月 初版)(2020年1月 新増補版)
(2001年12月 文庫版 角川ソフィア文庫)
著者の安克昌(あんかつまさ)氏は神戸で精神科医をしていた1995年1月17
日に大地震に遭遇する。幸いにして自宅は損壊を免れたが、この日を境に日々
の営みは一変してしまうのは、巨大災害を経験した被災者に共通の経験である。
そして彼は自らも被災者でありながら最前線に立って被災地において心に傷を
負った被災者のケアを行っていく。それは地元の医師だけで足りるはずもなく、
全国から精神科医のボランティアが参集して彼らが一丸となり心のケアをして
いく。本書はその過程を綴った作品である。
全国的なネットワークを構築したのは、安医師の師にあたる中井久夫医師で
あり、その過程はこの稿でも以前に紹介している『災害がほんとうに襲った時』
および『復興の道なかばで』に詳細に綴られている。安医師は中井医師が構築
したネットワークによって参集したボランティア医師を束ねて被災地に散らば
る避難所や仮設住宅につなぐ役割である。現場の世話役=官房長官の役割であ
った。むろん安医師自身も被災者に向き合っている。
阪神淡路大震災は規模が違う。一時は30万人という途方もない人数が避難
所に収容されていた。ひとつの大きな町の単位であろう。
安医師の考えはこういうことだと思う。心が傷ついてしまうということは、
すなわち尊重されていないと感じるからである。災害時においては、住むとこ
ろや仕事がなくなり、自分が必要のない人間になったと感じてしまった時に、
心が傷つき病んでしまうのだろう。
それでも心に傷を負ってしまった被災者と話すことは難しい。これは執筆子
の経験で云っている。被災地の外側から被災地に入り、被災者と向き合うこと
は本当に難しい。被災地支援ボランティアとしていくつかの被災地に立った経
験である。この経験から被災地における精神科の医師の本を集中的に読んでい
るわけだ。そして自分の経験から、被災者の話をききながら、うっかり相づち
的に「わかります」と云ってしまった途端にその被災者は、話をしているこの
私(執筆子)から心を離してしまう。それがわかる。被災者からすれば、「わ
からないだろうけど、わかってほしい」と云うところなのか。・・・・・そう
感じていたら、本書において安医師もまるで同じことを云っていた。
本書を読んでいると、被災者から話を聞くことは本当に難しいことだ、と感
じるのである。被災者は大なり小なり心に傷を負っているのがわかり、わたし
たち外部の人間はそのことに怯み戸惑うのだ。しかしそう感じたからと云って、
話をやめてしまうわけにいかない。こちらから壁を作ることはしなくてもいい。
わたしたち外部の人間にできることは、ひたすら話を聞くことだ、ということ
をあらためて感じる。
安克昌医師が本書を書いたのは(新聞連載したのは)、阪神淡路大震災の同
じ年の1995年。そして彼はそのたった5年後、2000年12月に逝去する。享年39
歳であり、死の2日前に第三子を授かったという。震災における八面六臂の仕
事がまさに彼の生命の炎を消してしまったとも云える。それを知った上で本書
を読めば、本書からまた違った印象を受けるのである。
多呂さ(なぜ日本だけ新型コロナウイルスの感染が抑えられているのでしょう
か)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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125 とびきりきれいなもの
きれいな絵本が届きました。
岩崎書店「日本の神話えほん」シリーズの『いなばのしろうさぎ』です。
ふしみみさをさんが文章を書き、ポール・コックスさんが絵を描いている
シリーズ絵本。
ポール・コックスさんは、現在板橋区立美術館で展覧会も開催されています。
コロナ禍になって以来、とんと東京が外国なみに遠くなってしまいました。
それはさておき、絵本です。
ポール・コックスさんのファンにとって、新作絵本が出るたびに驚かされる
斬新な表現はたまらないものがあると思います。
今回もそうでした。
日本的な「和」の雰囲気をもちつつ、無国籍の空気もまとっている。
近しさと遠さの融合があるんです。
表紙に描かれている、しろうさぎの目をみてください。
「ほら、早くページを繰りなさいよ」といっている目。
開いてからは、すっかり古事記ワールドに入りこみます。
どのページも赤の色が印象的におかれ、
ダイナミックな構図で絵と文章が両輪で動いています。
ふしみさんは、古事記を読み込み、神様達の人間臭さを感じ取り、破天荒
さと原始的な部分に惹きこまれていったそうです。
ポールさんの古事記リサーチも念入りでした。俵屋宗達、北斎など、ポー
ルさんが敬愛する日本の画家たちの作品を大量に模写し、テクニックを試し、
日本の古い服装を丁寧にスケッチし、そういうものを全て自分におとしこん
だ上で描いた絵なのです。
おふたりの真摯な仕事の結果としてできあがった絵本は、すばらしい芸術
作品となり、小さい子どもも、大人も心から楽しめるものになっています。
そういえば、子どもが小さい時に読んだ『古事記物語』(原書房)があっ
たなと本棚を探して、久しぶりに、鈴木三重吉のものを取り出しました。
その本には、長男が小学3年生の時に読んだ感想文がはさまれていました。
学校に提出したものではなさそうで、読んだあとに、A4のコピー用紙に書い
たようです。紹介させてください。
-----
『古事記物語』ぜんぶ
この物語には、“きぼう””わらい””歌”があります。神たちは、もとも
と人間でした。「女神の死」というのが一ばん大人の話にそくりでした。さい
後のが“神”が生まれておもしろうだと思いました。そしていろいろな神がみ
がいろいろなことをして日本ができたと思いました。
「天の岩屋」それもおもしろいです。この話は天照大神と二番めの弟さまの月
読命と言う話です。つまりこのお話しは災いが一どきに起こってきます。さい
後は、そのまま下界へおいでになります。という話です。
「八俣の大蛇」というだいじゃの話です。この話は、須佐之男命は大空から追
いおろされて、出雲の国の肥の河の河上の鳥髪というところにいくお話しです。
さいごのところは、大国主神、またの名を大穴牟遅神とおっしゃるりっぱな神
さまがお生まれになったという話です。
このお話しは、大人の話みたいでした。
さいしょのお話しはたいくつだっただけで、だんだんおもしろくなってきま
した。
-----
鈴木三重吉が大正時代に再話した本書は、子どもが読むには難しい言葉もあ
あるのですが、全ルビだったので読めたのでしょうね。大人の話を読んでいる
ような気持ちになったのがうれしかったみたいです。
さて、現代の物語もご紹介いたします。
『マイロのスケッチブック』鈴木出版
マット・デ・ラ・ペーニャ作 クリスチャン・ロビンソン 絵
石津ちひろ 役
『おばあちゃんとバスにのって』(鈴木出版)でニューベリー賞、コールデ
コット賞オナーを受賞しています。その後に鈴木出版から刊行されている『カ
ルメラのねがい』も同コンビ。本書はコンビ第3作目にあたります。
マイロはスケッチブックをもって、お姉ちゃんと一緒に電車に乗ります。
電車に乗っている人たちの生活を想像しながら、マイロは絵を描きます。
描くたびにお姉ちゃんに見てもらおうとするのですが、しっかりは見てもら
えません。マイロたちはどこへ向かっているのでしょう。
出かけることは、嬉しいことでもあり緊張することでもあり、その気持ちを
落ち着かせるためにもマイロは絵を描いているようです。
マイロは描きながら、自分はどう見られているのかなとも考えます。
人はどうしたって、見かけではわからないことばかり。
どんな生活をしているのか、どんな家族がいるのか。
最後のページまで読むと、マイロたちがどこへ誰に会いにいったかがわかり、
ふたりの緊張の理由がみえてきます。
『タフィー』(サラ・クロッサン 作 三辺律子 訳 岩波書店)も緊張感
ある物語です。
岩波書店のスタンプ・ブックシリーズ。
サラ・クロッサンは散文詩で物語を紡ぎます。
父親からの暴力を、なんとかしのげば、本当は自分を大事にしてくれる、だ
って娘なのだからと思うアリソン。
しかし暴力は痛く辛く、体も心も蝕まれます。
アリソンは逃げます。
まだ学生でお金すらもっていないアリソンはどこに安寧の場所があるのでし
ょう。
最後まで緊張は続きますが、光もあります。
読んでください。
---
今回が2021年最後の記事になります。
いつも辛抱強く待ってくださる原口さんに感謝いたします。
みなさま、1年間読んでくださりありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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最近、ぽかぽかと暖かいですが、もうすぐ2021年も終わりなんですねー。実
感あまりないです。(あ)
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#138『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』
タイトルがいいね。
チャリティーソングの代名詞と、オカルト・キラーワードのミスマッチ、最
高。
近年は怪談ブームで、かつては夏の風物詩だったものが一年中ライブが開催
されている。昨年からはコロナ禍の影響でご多聞に漏れず自粛だったが、怪談
師の多くがYoutubeに流れ、かえって活況を呈している。
でも、怪談社さんのファンなので、ぜひまたライブをやってほしい、今年に
入って大分他のイベントは復活してるので、などと切に思いつつ、その怪談で
も重要なキーワードである「呪い」。
著者はミュージシャンの西寺郷太。
「ウィー・アー・ザ・ワールド」が出た1985年から数えて30年、諸説あるがロ
ックンロール第1号とされる「ロック・アラウンド・ザ・クロック」の発売か
ら数えて50年、2015年の出版である。
もちろん、ツタンカーメンの呪いとは違い、この伝説のセッションに参加し
た人が次々と謎の死を遂げているわけではない。いや、当然あれから大分経っ
ているので、マイケル初め鬼籍に入ったスターも少なくないけれども、それは
この曲とは関係がない。
本書はもっと音楽寄りのきちんとした論稿で、「ウィー・アー・ザ・ワール
ド」こそがアメリカン・ポップスの終焉だったという話だ。
前半の二章分は、アメリカ大衆音楽史のおさらい。
ここでは民謡などではなく、いわゆる商業音楽にしぼっているので、前世紀
のミンストレルショーとか、黒人奴隷のワークソングなんかは出て来ない。
いきなり映画の誕生から始まり、映像と結びつくことで音楽の本格的な商業
化が始まったと捉えている。
この観点は、なるほど、新鮮。
とはいえ、以降、「ウィー・アー・ザ・ワールド」に至るまでの経過は、洋
楽ファンには常識だろう。新書だし、若者対象なら、それなりにうまくまとま
った通史だけど、正直自分にとって、「え? そうなの?」なトピックは、僅
かに二つしかなかった。
軽い驚きの方からいくと、スティービー・ワンダーがデビューした時、その
歌唱法にミック・ジャガーからの強い影響がある、ということ。唇を強く破裂
させる発音の仕方が似ているそうだ。
著者自らボーカリストなので、さすがの慧眼(慧耳?)。
もっと驚いたのは、「ポップス」が和製英語だということ。
いやこれ、てっきりアメリカでも使われてると思ってた。
だが、考えてみれば確かに、pop musicとは言うし、まさにそういう名前の
バンドも昔いたが、popsとは言わないかも。
大体popは形容詞。人気のある、とか、大衆的な、とかいう意味で、それを
名詞のように「s」付けて複数にするのはおかしいと言えばおかしい。スペイ
ン語、フランス語などのロマンス語系は、それがかかる名詞が複数なら形容詞
も複数になるけど、英語では違う。
形容詞を勝手に名詞化して、複数にしちゃうのは、異文化の取り込みに長け
た日本文化のやりそうなことではある。
実際、このパターン、どっかで……と思ったら、そう、ルー大柴であった。
「トゥギャザーしようぜ」は、本来副詞であるtogetherを名詞のように扱い。
「トゥギャザーをしよう」と目的語化しているニュアンスがある。もちろん、
「一緒にしようぜ」の「一緒に」をそのまま英語にしただけと捉えれば副詞な
のだが、気配としては名詞として扱っているように思う。
名詞でない外来語を、名詞として扱って、日本語の構文に無理矢理接続する。
つまり、ポップスは、ルー語だったのである。
とはいえ、このことは本書の本題では、まったくない。
駆け足ながら、よくまとまっているアメリカン・ポップス通史の後、いよい
よ第3章からが本題。「ウィ・アー・ザ・ワールド」制作秘話に突入する。
アフリカの飢饉の惨状を知ったイギリスのロック・ミュージシャン、ボブ・
ゲルドフが提唱して、寄付金を募るためにチャリティーソング「ドゥ・ゼイ・
ノウ・イッツ・クリスマス?」を発売、大成功を収めた。
これを受けて、すぐにアメリカ版の企画も立ち上がる。
大西洋の反対側で最初に動いたのは、黒人スター歌手の草分け、「バナナ・
ボート」でお馴染みハリー・ベラフォンテ。彼はアメリカの芸能界で一、二を
争う大物マネージャー、ケン・クレイガンを巻き込み、プロデュースをクイン
シー・ジョーンズに依頼する。
クインシーは、まず楽曲制作者としてライオネル・リッチーとマイケル・ジ
ャクソンを選び、さらに多くのスターに出演のオファーをしていった。
断った者もいれば、当日スタジオに行けなかった者もいるが、最終的には45
人もの錚々たるメンバーが快諾する。
1985年1月28日。
この夜にはロスアンゼルスでアメリカン・ミュージック・アワードの授賞式
があり、全米からトップアーティストが集まる。そこでその式の後にレコーデ
ィングを設定すれば、無理なくスターのスケジュールを確保できる。このやり
方はさすがにうまい。
第3章では、20時にスタッフが始めた録音準備を皮切りに、深夜2時までか
かったコーラス部分の録音までを時系列で追っていく。この部分もかなり面白
い。
しかも、章の終わりに著者はなかなか魅惑的なミステリーを仕掛けてくるの
だ。
コーラスが録音されれば、ソロパートを割り振られていないアーティストは
帰ってしまうので、このタイミングで写真撮影が行われた。写っているのは、
先に書いた通り45人……のはずなのに、数えてみると43人しかいない!
え? なんで? アーティストたち自身も、子どもの頃からの憧れだった先
輩スターに初めて会えて大興奮していた記念すべき夜である。しかも、恐らく
後世まで語り継がれるであろうビッグ・プロジェクトに参加しながら、ジャケ
ット写真に写ろうとしない?
この疑問から第4章は始まり、朝8時20分にようやく終了するソロパートの
録音(映像に、ポール・サイモンが時計を見て「8時20分だよ」と言う場面が
あるので、これは確か)を追っていく。
ここでも、誰にどのパートが割り振られたのか、それはなぜなのかという謎
を、レーベルの関係や当時のそのアーティストの状況などから推理していく。
さすがに音楽プロデューサーでもある著者だけに、非常にリアルで納得性が高
い。
さらに、曲が完成して発売されるや、これもまた大ヒットするのだが、ここ
からがいよいよ、本書のタイトルと同じく「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」
と題された第5章、クライマックスである。
あまりに巨大な成功は、往々にして当事者を必ずしも幸福にしない。
ヒットチャートを詳細に分析することで、著者はこの歴史的チャリティーソ
ングにも、その「呪い」がかかっていたことを明らかにしていく。
詳細はネタバレになるので明かせないが、スリリングな謎解きの果てに、著
者はこんな主張をしている。
かつては、特にファンでなくても、何となくテレビやラジオを通じて覚えて
しまうような「国民歌」があった。
現代はインターネットの普及で、多様な音楽が気軽に聴けるようになった反
面、リスナーもまた多様化し、「国民的な大ヒット」「世界的な大ヒット」が
生まれにくくなっている。
世代を超えて、みんなが声を揃えて合唱できるアンセムの不在。
その分水嶺が、「ウィ・アー・ザ・ワールド」だったのではないか、と言う
のだ。この曲が、最後のアンセムだったのではないか、と。
いや、例えば日本で言えば、「ふるさと」とかはアンセムじゃないの、みん
な知ってるし、と言う意見もあるだろうが、それはあくまで学校で習うから知
っているのであって、その時々のヒット曲ではない。なにより、ここで言われ
ているのは「アンセムの不在」のみならず、「新しい現在進行形のアンセムは
生まれにくい」状況のことである。
その根底には、インターネットの登場やテレビの衰退など、メディアを巡る
問題がある。
しかし、それだけではない。
いま、企業でも、社会でも、大きなテーマである多様性。ジェンダーやLGBT
といった差異を、受け入れる寛容な社会はぜひとも必要だ。
しかし、多様になればなるほど、人と人を結びつける絆が喪失し、一致団結
しにくくなる側面もある。
互いの差異を認め合ったとしても、同質化するわけではない。近所にムスリ
ムが引っ越してきて、彼らの礼拝習慣を受け入れたとしても、自らが改宗する
わけではない。
それぞれが、それぞれの歌をうたうだけで、その歌声が混じり合い、ハーモ
ニーをなすことはないのである。
だからと言って、やはり多様性が大切なことも確かだ。すべての人間の価値
観を暴力的に統一する全体主義はごめんだ。
とすれば、多様でありながら、共に歌えるアンセムを持つこと。
これこそが多様性を獲得したその先にある、次の課題になるのかも知れない。
西寺郷太
『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』
2015年8月10日 第一刷発行
NHK出版新書
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
ネット・プロモーションでヒットしたAdoの「うっせぇわ」。そのサビの一節を、
御年72歳の火野正平がとある番組で口ずさんでいました。世代を越えたアンセ
ムなら、まだまだ生まれる余地もありそうです。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『ゴルゴ13』リイド社 さいとう たかを
先日亡くなられた、さいとう たかお氏の代表作にして、史上最長の連載マ
ンガである。さいとう氏はご高齢だったので、亡くなることは驚かないが、亡
くなった後にも連載が続いていくと発表されたのには心底驚いた。
連載途上に作者が亡くなると、作品は未完に終わる。これが常識だ。しかし
ゴルゴ13は、これからも続くのである。なぜそんなことができるのか?加えて、
なぜこの作品がここまで長く続いたのか?も含めて考察して、書評としたい。
私のゴルゴ13を知ったのは、記憶が定かではないが、小学生か中学生の頃で
ある。面白いよと周囲の友達に話したら、みんな否定的な評価をしていた。
「読んでもわからない。だから面白くない」という評価で一致していた。
なんでみんなゴルゴ13の面白さがわからないんだろう?・・・と、当時思っ
ていたのだが、青年期になるとだんだんと理由が分かってきた。ゴルゴ13は読
むのに国際情勢や世界各地の文化歴史などの知識が必要になる。しかしそうい
う方面に関心がある人は、案外多くない(いや、読者は多いのだけど、最も多
数派にはならないという意味で)
私の青年期に流行っていたマンガといえば、男向けでは『めぞん一刻』とか
『タッチ』とか『キャッツアイ』とか『翔んだカップル』とか男の目線から見
た恋愛の絡んだ作品が多かったように思う。言い換えると身近な舞台を扱った
作品の人気が高く、身近でない舞台を選んだ作品は人気があってもブームを作
り上げるほどには至らなかった作品が多かった。
身近な舞台を作品に選ぶと、読者は作品世界と自分の生きる世界が一致する
から、読むのに予備知識がいらない。だから、誰でも作品世界に没入できる。
しかし舞台が江戸時代とか外国といった「異世界」になると、知識がないと楽
しめないから読者を選ぶことになる。
この作品が50年以上もの間、決して最大多数にはならないが、多くの読者を
得てきたのは、主人公のゴルゴ13のキャラを含めて、ずっと「異世界」を描い
てきたからだろう。
さいとう氏は、ゴルゴ13を「もう作品は私のものではなく、読者のものにな
った」とインタビューで答えておられたことがある。もともとさいとう氏は、
ゴルゴ13は10回くらいで終わると思っていて、自分の主戦場というか、描きた
かったのは「鬼平犯科帳」に代表される時代ものだった。
作者としてのこだわりは、時代物の方が強かったろう。しかし最も人気が出
たのはゴルゴ13である。自分が作りたい作品と、自分に求められている作品は、
一致するとは限らないのですね。
ゴルゴ13がプロダクション形式で何人ものスタッフが参加し、分業で描かれ
ているのは有名だ。
そんなやり方だと、多くの人のアイディアを取り入れて描くことになるから
作家としてのこだわりは後退させざるを得ない。しかし作品は多くの人が入れ
替わり立ち替わりして参加し、作り上げていくプラットフォームになる。もう
作品は私のものではないとさいとう氏が言われるのは、こうした製作方法から
言われたのかもしれない。
結果、作品は作者の手から離れていくと同時に、作者の限界をも超えて維持
していくことが可能となった。だからこそ、さいとう氏亡き後も、連載が続け
られるのだろう。
とまで書いていて、ふと思い出した。サザエさんやルパン三世など、作者が
すでに没しても作品が継続していく作品はほかにもあった・・・そうか、長年
使っていける作品世界さえつくっておけば、作者がいなくても作品は作られて
いくのだ。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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怪しいけれどすごいね、伝統!
「日本の伝統」の正体
藤井青銅著(新潮文庫)
タイトルを見て、「そうそう、その通り」と思わず購入した文庫本です。
著者の藤井さんという人は作家・脚本家・構成作家だそうです。
そうよね、研究者なら細かくとことんを研究しちゃうからこの本は書けませ
ん。日頃、メディアで視聴者とか読者相手に「何がウケるか」に注力している
人だからこそ書けた本だと思います。
「伝統って何よ?」とおばちゃまも仕事していていつも思ってました。
特に京都を扱う仕事だと、もうね、「伝統」とか「古来から」か「歴史に彩
られた」という言葉を何回も書くのよ。(パソコンで「で」と打ったら「伝統」
が最初に変換予測されるぐらい書いてます。)でも、伝統といっても幕末にで
きたものだったりしますし、お寺だってよく調べると最初は大昔に建立されて
はいるものの、その後、移転したり宗派さえも変えているものが多い。
あと京都に限らず老舗というのも怪しい。まあ、今から100年前だと明治の
終わりだからあり得ますが、500年とかなると途中でどこかの会社が買い取っ
たりして経営している場合もあり、その途中というのが昭和だったりもするわ
けですね。買い取ったならいいけど、乗っ取ったというのも、ある(話がヤバ
い方向に行かないように注意しながら書いています)。
ですから、「老舗」といっても実態は「万世一系」ぐらいあやふやなものな
んですよ(話がヤバい方向に行かないように注意しながら書いています)。
だけども、世間の皆さんが思っているパブリックイメージとして、伝統や歴
史を尊重し、由来を重視して選択の動機にしていることもあり、それがあなが
ち間違ってはいないから、やはり、「伝統の」「古来からの」と書いてしまう
のですよ。
◎万願寺とうがらしはカリフォルニア産!
藤井さんがあげた例は、たとえば、平安神宮、明治神宮はできたのは明治時
代だとか、皇族が伊勢神宮に参拝したのも明治時代が初めてだとかで読者の目
からうろこを落としていきます。
私が知らなかったのは京野菜・万願寺とうがらし。
「京都のどこかに万願寺という由緒正しいお寺があって、大昔からそこの境
内で細々と育てられてきたに違いない」(本書より)と思うかもしれませんが、
実は舞鶴市で大正から昭和にかけて伏見系のとうがらしとカリフォルニア・ワ
ンダー系のとうがらしを交配して誕生したものだそうです。
「カリフォルニア・ワンダー?思い切りカタカナではないか」(本書より)
で、とうがらしも「唐辛子」だから中国から来たと思うかもしれませんが、
実はアメリカ大陸発見からヨーロッパに入ってきて、ポルトガル経由で南蛮船
に乗って中国経由で日本に入ってきたそうです。
でも当時の中国は「唐」ではなくて「明」なんだって。めっちゃアバウトや
ん!
そんな話がてんこ盛りのこの本。おもしろ知識を得るには最適です。
思うのです。伝統とか老舗とかは、時代の流れに従ってリニューアルを繰り
返し、その時代に合うように伝統とかの固定概念を無視して、ブランドを盾と
して、リアリティ重視でいいように変化してきたものなんだろうなあと。
最近よく言われる「皇室の品位」?とかも言わないで時代に合わせたらいい
のになあ(話がヤバい方向に行かないように注意しながら書いています)。
話はずれるかもしれませんが、この本にも掲載されている「肉じゃが」は昔
からのおふくろの味に見えて、実際の歴史は25年だそうですが、またここ10年
で「家庭的な料理を作るワタシ」という象徴として「いいね」「いや、あざと
い」「もう肉じゃがには騙されない」「なら今度は筑前煮だ」という是々非々
入り混じった女子ネタとして新しい命を得ています。
こうやって長い歴史を生きてきたのが、伝統なんだろうなと思うと、怪しい
けれどすごいな伝統!と思うのであります。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
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表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館書評献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
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す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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冬が近づき、体重がやや増加気味です。気を付けないと。(あ)
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■発行部数 2811部
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #137『高丘親王航海記』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『護られなかった者たちへ』中山七里 宝島社文庫
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 今回はお休みです
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#137『高丘親王航海記』
こうして五日ばかりすぎると、その夜はいくらか風も吹いて、波のうねりも
高まり、死んだ海がようやく生気をとりもどしたかに見えた。まだうごき出す
にはいたらないが、船はウォーミングアップでもするように小きざみにゆれて
いた。この分ならあやかしを恐れることもあるまい、もういいかげん大丈夫だ
ろうと、親王は涼みがてら春丸をさそって、ひさびさに甲板に出て船尾梯子に
腰をおろすと、雲南の若い王が贈ってくれた笛を吹きはじめた。龍笛に似たか
たちの曲もない笛だが、竹も象牙も雲南は本場だから、年月とともに飴色の光
沢をおびた、さすがにみごとな材料が使ってある。その音色も古代の霊気をお
のずから発して、冷たく冴えた。あたかも南海の温気の中に一条の冷気をなが
すにひとしい効果を与えた。
ひとしきり吹いてから、親王は虚脱したように口から笛をはなした。あんま
り一心に笛を吹くと、口からたましいが脱け出すといういいつたえがあるそう
だが、そんな感じがしなくもなかった。これはおかしい、また先夜のようなこ
とにならねばよいがと、かたわらに目をやると、春丸が身をかたくして、海の
ほうを見つめている。この子の神経質には慣れていたから、またかと思ったが、
「どうした、なにを見ている。」
きくより早く、春丸は右舷のかなたの海上を指さして、おびえたものの声で、
「あれあれ、あそこに船が……」
「なに。」
いやあ、いいなぁ。
この文体の香気。
一文は長めだが、まったくストレスなくすらすら読める。
しかも、ただ意味がわかるだけではなく、漂う不思議な情感がしっかり胸に
しみてくる。
澁澤龍彦の遺作となった、日本幻想文学のひとつの達成。
『高丘親王航海記』中の、「真珠」から引いた一節である。
達意の文章、という言葉がある。
意味がしっかり届く文章。
つまりは、読みやすく、わかりやすい。
しかし、「意」には、「意味」の他に「意図」もある。
書き手の狙い、読み手の心にざわつかせたい情感、それがしっかり伝わるこ
ともまた、達意の文章の条件だ。
澁澤龍彦が晩年に到達した文体は、まさにこのふたつの意味で「達意」と呼
ぶにふさわしい。
そして、全体に読者が感じる、透明感。
まるでクリスタルのグラスを見つめるような、山奥にひっそり眠る湖水を見
下ろすような、透き通った美の体感。
このような文体は、恐らく自然に生まれてくるもので、あれこれの策を弄し、
工夫を凝らしてもダメなのだろう。
ここまで文体が魅惑的だと、内容よりも、とにかくひたすらこの心地よさに
耽溺したい、と思ってしまう。
それは楽曲がいいとか、歌詞が響くとかではなく、とにかくこの人の声が好
きでしょうがないんだよね、という音楽の聴き方に近い。
その意味で、これは実に音楽的な小説であると思う。
冒頭に引用したのは、主人公・高丘親王の乗る船が南海を漂流し、当てどな
く流される日々の無聊と不安の中、雲南で彼の地の王から贈られた笛を奏でる
シーンである。
しかし、この小説にはここ以外に、音楽は登場しない。
せいぜいある国の博物館を訪れた時、展示物の中に楽器があった、というぐ
らいだ。
それでもこれを音楽本に入れたいのは、文体の音楽性ゆえである。
たまには、そういう音楽本があってもいいのではないか。
とはいえ、ざっと内容を紹介しておくと、平安京を開いた桓武天皇の次に皇
位についた平城天皇の皇子である高丘親王が主人公。この時代、皇位継承はさ
まざまな争いを引き起こし、多くの血が流された。そんな争いから身を遠ざけ
るには、出家する他はなく、高丘親王は弘法大師空海に私淑して高野山に籠る。
やがて仏法を学ぶ親王の心に、天竺への限りない憧憬が生まれ、師空海も入滅
した後、ついに六十七歳という、この時代にあっては相当な高齢でありながら、
冒険の旅に出る。
供はわずかに、円覚と安展という二人の僧侶に、身の回りの世話をする秋丸
のみ。唐から船に乗って東南アジアを目指し、嵐に流されるなど、紆余曲折を
経て、さまざまな国々を通る。ちなみに、冒頭の引用では「春丸」となってい
るが、間違いではなく、とある国で秋丸がなぜか姿を消し、まるで入れ替わる
ように現れた子を「春丸」と名づけ、以降、旅の供をさせるのである。
かくて親王は不可思議で、幻想的な体験を、行く先々でする。それが連作短
編の形式で綴られていく。
ひとつひとつのエピソードで、非常に絵画的な怪異が、あやしくも美しく描
かれ、そこに親王の見る夢や思い出が重なって、どんどん現実感は希薄になり、
透明な境地に達していく。そのことが、文体によって見事に掬い取られている。
地上の権力争いを避け、遥かな天竺を目指した親王の旅は、人の世の醜さに
背を向けた、孤高の魂の遍歴である。
ひるがって、現代の政界はどうだろう?
あいかわらず権力争いに終始していないか?
血こそ流れないものの、醜さはさして変わらないのではないか?
だが、平安時代の政治は貴族のもので、庶民は従うしかなかったが、いまの
日本は民主主義のはず。
政界を批判すれば、それはそのまま、そうした政治家を選んだ自分自身に返
ってくる。
だからわれわれはもう、高丘親王のように、天竺への旅に逃避するわけには
いかない。
その点だけが恐らく、あの時代との確かな違いだろう。
澁澤龍彦
『高丘親王航海記』
1990年10月10日 第一刷
文春文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
航海記すなわち旅。旅といえば、GO TO キャンペーン。最近読んだ雑誌
『仕事文脈』に、旅行パンフレットをつくる仕事をしている方の記事があって、
去年はキャンペーンの内容がころころ変わり、その度に改訂作業で忙殺された
ことが書かれていました。観光業界、旅行業界というと、旅館やホテル、旅行
代理店を思い浮かべますが、そうか、パンフレット制作の仕事もあるんですよ
ね。コロナの影響の深さ、広さには、とてもとても想像が届きません。岸田首
相の唱えるGO TO2.0は、どうなんでしょうね?
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『護られなかった者たちへ』中山七里 宝島社文庫
最近映画化された作品である。映画は見ていないが、書店で映画の予告編を
もとにしたプロモーションビデオが流れていたのを見て買った。
仙台の福祉保険事務所の課長である三雲という人の遺体が発見される。死因
は餓死。拘束されているところからして、間違いなく殺人であった。殺し方が
尋常ではないので、怨恨の可能性が考えられたが、三雲は悪く言う人がいない、
いわゆる“善人”であった。
被害者が福祉保険事務所の者だったため、捜査を行う刑事、苫篠と蓮田は三
雲の善人ぶりだけでなく、生活保護にかかわる闇の部分も知ることになる。い
わゆる生活保護の不正受給などのほかに仙台が抱える特殊事情もあった。
震災後、仕事がなくなったことで生活に困窮する人が増えた。仙台市は周囲
の市町村に先駆けて一時生活支援事業をやっていたが、それゆえに生活困窮者
は仙台市に流入してきた。
生活保護予算も削減されており、生活保護が必要な人がいても全員に支給さ
れない、支給できない。窓口では、生活保護申請者を追い返すのが仕事の一部
になっていた。
生活保護の申請を断られた人の中に容疑者はいるかも知れない・・・そんな
ことを思って捜査を続けているうちに、第2の被害者が出た。やはり拘束され、
餓死させられていた。しかも今回は県会議員、城ノ内である。事件はますます
社会の耳目を集めることになる。
調べると城ノ内と三雲には共通点があった。三雲と同様に人格者であったこ
と、そして城ノ内は県会議員になる前、福祉保険事務所の職員で気仙沼の事務
所で三雲と一緒に勤務していた時期があった。当然捜査範囲は気仙沼まで拡大
する。
その気仙沼で有力な手がかりが見つかった。ある老婆の生活保護が門前払い
されたのに異議を唱えてきた利根と言う若者がいて、異議が受け入れられなく
て事務所に放火して刑務所に入っていたのだ。その時の担当者が三雲や城ノ内
だった。
老婆が餓死していたことを知った苫篠と蓮田は、犯人が餓死を選択して意味
を悟る。福祉保険事務所内で良い人たちが本当によい人たちなのか、犯人は問
うている。
そして上崎と言う、この事件にかかわる、もう1人の人物が浮上する。定年
退職している上崎が、次の殺人のターゲットになる。しかも利根は、三雲事件
の前に刑期を終えて刑務所から出ていた。
上崎の所在突き止めた利根は、上崎がフィリビンに買春旅行に行っていたこ
とを知る。利根は上崎が帰国し仙台空港に下り立つ日を探った。捜査当局も利
根が上崎の帰国日に仙台空港に出向くと予想し、そんな捜査当局の動きを利根
もまた掴んだ。
警察の捜査員がどっさり張り込んでいるのを承知で、利根は仙台空港に行く。
利根の動きを察知した苫篠と蓮田は、第3の殺人を防げるのか?そして最後に
はミステリお約束のどんでん返しがやってくる。
社会派ミステリーはトリックなんかより、描かれているテーマの方に関心が
向く人が多いと思う。この作品の場合は、生活保護政策の理想と現実のかい離
だ。生活保護はさまざまな事情があって働けない、働いても必要な所得が得ら
れない人を救済する制度で社会的に絶対に必要なセーフティネットだ。
明らかに生活保護を受けるべきだと考えられるのに申請に二の足を踏む人も
説得して申請させないといけない人もいる。しかし、不正受給をやろうとする
人は後を絶たないし、形の上では不正でも同情してしまうようなケースもある。
何より問題なのは予算の制約だ。不正受給を試みる者は排除するのは当然だ。
しかし福祉保険事務所の諸君がいかにがんばろうとも10人分の予算しかなけれ
ば、受給させるべき人が100人申請してきたら90人は追い返さざるを得ないの
だ。作品の中でも言及されているが、実際に北九州で生活保護の受給を拒まれ
て餓死した人の事件もある。
生活保護の問題は、いわゆるロスジェネが高齢化した時にますます増えてく
ると予想されている。当然原資になるカネは不足する。そのカネはどこから引
っ張ってくるのか?あるいは引っ張ってくることなく全員給付できない状態を
看過していくのか?そんな課題をこの作品は投げかけている。
岸田総理の言う「新しい資本主義」を「新社会主義」だと批判する向きもあ
るが、資本主義でも社会主義でもよろしい。問われているのは、国家が国民を
守れるのか否か、我々がどこまで弱者を支えられるか否かなのだから。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■あとがき
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遅くなりました。もう11月間近ですねー。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<140>就職先は冥府魔道(その1)
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→123 子どもを守る言葉 自分が決めるということ
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第138回 4つの『図書館奇譚』
★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/show-z
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<140>就職先は冥府魔道(その1)
近頃、記憶に靄がかかっていることが多い。
出来事や行動の記憶はあるのだが、さてそれが「何年前?」と考えると、わ
からなくなっている。
さてまた、その出来事や行動にしても、新聞の見出しみたいにタイトルが浮
かぶだけで、ストーリーとしてのディテールが茫洋としていたり、あるいは、
どうでもいいような枝葉の記憶はあるのに、その前後の行動が連続したひとつ
ながりの記憶として残ってなかったり、というのが増えてきた。
そんなところへ持ってきて、さいとうたかを氏の訃報が伝えられた。
さいとう氏は、一昨年亡くなった我が師である小池一夫氏の師匠にあたる人
である。
またもや、「わしらの時代」の一人が亡くなった。
が、たとえさいとう氏が亡くなっても、『ゴルゴ13』や『鬼平犯科帳』は、
残されたスタッフの手で連載が継続されるのは、かねての予想通りでは、あり
ました。
両作ともに、さいとう氏の手によって、すでにキャラクターは完璧に起ち上
がっているので、脚本と作画のスタッフがいる限り、連載継続は可能なわけで
す。
訃報を伝えるニュースを見ながら、ふと一昨年に逝った小池一夫氏のことな
ども思い出し、氏の下であたふたと駆け回っていた会社員時代なども思い出し
た。
考えてみれば、わしがその会社員だった時代、すなわち1970年代末から80年
代にかけて、というのは、まさに日本の漫画文化の爛熟期。
はからずもわしは、その渦中にあって、当時の漫画制作現場に立ち会ってい
たわけだ、と思い当たったのだった。
そこで、その記憶が錆びついてしまう前に、当時のわしが見て、体験してき
たことを書き記しておくのも、日本漫画史の中では、ごくごく微力かつ些細な
貢献ではあろうが、なんらかの役にたつのでは? と考えた。
で、これから数回にわたって、その当時のことを回想してみようと思う。
もっとも、その途中で気になる漫画事象があれば、中断してそちらを語るか
もしれんが、とにかく、肩ひじ張らずに思い出せる限りに、綴ってみようと思
う。
わしが、(株)スタジオ・シップというその会社に入ったのは、1979年だっ
た。
その前年の1978年に大学4年となって、10月から就職活動を始めた。当時の
就職活動は、4年時の10月から、と決まっていたのだ。
要領のいい奴は、夏休み前には既に内定を貰っていたが、こちとら、ンな
「要領」は、まったく心得なかったので、律儀に10月から就職活動を始めた。
高校時代から漫画が好きだったので、とにかく漫画に拘れる会社を…と思っ
て、大手から中堅、およそ10社近くの出版社を受けたのだが、たいていは、一
次審査で不採用。
「ガロ」の青林堂も、当時編集部員を募集していて、これにも応募したのだ
が、一次審査の論文で、あえなく玉砕。
このときに採用されたのが、現在、青林工藝社の代表を務められる手塚能理
子さんだった…とは、後に知った。
就職が決まらないまま年を越し、1月2月と、時は無情に過ぎてゆく。
卒業式も迫ってきて、さすがにやや焦り始めたころ、たまたま新聞で見つけ
たのが、「(株)スタジオ・シップ マネージャー課社員募集」という求人広
告だった。
スタジオ・シップという会社というか、プロダクションの存在は、知ってい
た。
高校時代から愛読していた「ヤングコミック」に連載されていた『御用牙』
の、そのタイトルページには、「原作:小池一夫、作画:神田たけ志」ととも
に「スタジオ・シップ作品」とクレジットされていたし、当時は、すでに『御
用牙』の連載は終わっていたけど、同じ「ヤングコミック」に連載されていた
神江里見『ヒモ』にも、同じ社名がクレジットされていた。
他にも、「少年サンデー」や「GORO」などの雑誌で、「スタジオ・シップ作
品」とクレジットされた漫画は見かけていて、そのプロダクションを主催して
いるのが、『子連れ狼』で一世を風靡した漫画原作者の小池一夫だ、という知
識も、一応はあった。
編集ではないが、ここならば、とにかく「漫画」にはかかわっていけそうだ、
と、電話で面接を申し込んだ。
会社は、代官山の、結構大きなビルの2階にあった。一応は「マンション」
と名前があるビルだったが、芸能プロやデザイン事務所、海外の航空会社の日
本支社なども入っていて、オフィスと住居が混在しているビルだった。
通された応接室には、既に10人に近い面接者が控えていた。皆が皆、一様に
紺のリクルートスーツで、前の年、TVドラマのショーケンを真似て「BIGI」で
買った、明るいベージュのスリーピース・スーツのわしは、なんだか浮いてい
るようで、落ち着かなかった。
順番が来て別室に通されると、痩せぎすで、なにやら険しい顔した30がらみ
の男性と、その横でにこやかに笑う、こちらは40歳ほどに見える女性が座って
いた。
男性は、「マネージャー課チーフ」のKさんで、女性の方は、その上司にあ
たる総務部長のSさん、と紹介された。
面接は、もっぱらKさんが一方的に喋っては質問する、という形で、仕事の
内容は、社長である小池一夫氏と、社に所属する作家陣の管理…というより公
私にわたる「お世話」と、担当編集者との折衝が主、と聞かされた…が、こち
とら、なんの経験もなく、具体的には想像のしようもない。
「うちの所属作家って、知ってます?」との質問には、一応事前に調べても
いたので、すらすらと答えることができた。
こちらからは、とにかく「漫画好き」をアピールして、20分ほどの面接を終
えた。
面接から1週間ほどして、「二次面接をするので来てくれ」と連絡があった。
指定された時間に行ってみると、二次面接に呼ばれたのは、わしともう一人
だけだった。
一次面接を受けたのは10人以上、と聞いていたので、なんだか「選ばれた」
感で高揚したが、後に、一次面接者のほとんどが、きつい労働条件に比して待
遇が悪い、との理由で辞退した、と知った。
二次面接は、先だってのKさんと、そのKさんの部下で、もし採用されれば
直接の指導社員となるMさんという男性二人と、まず対峙した。
その後、「社長面接」があるとのことで、別室で待機した後、「社長室」に
案内された。
革張りのソファに、ゆったりと腰かけた、ジャンパー姿の小池社長は、鷹揚
な笑顔で向かいのソファを勧めてくれた。
「漫画、好きなんだって?」と尋ねられ、その中に『御用牙』『修羅雪姫』
と、小池作品を抜け目なく入れながら、好きな漫画を挙げ連ねた。
「社長面接」は、すぐに終わって、また別室で待機させられた。
Kさんからは、「正直、きつい人だよ」と聞かされていた小池社長だが、意
外に鷹揚で優しそうなおっちゃんやったな…との第一印象は、さっそくその翌
日には覆されるのだが…
「別室」で待機してしばらくすると、Kさんがやってきて、「君が採用と決
まったから」と告げられた。
それまでの数か月間に及ぶ就職活動で、初めてもらった「採用通知」で、正
直、とても嬉しかった。
…が、二人いた二次面接者のうち、わしが採用されたのは、直接の教育係と
なる予定のMさんと、同じ大学出身、というだけの理由だった、とは、当のM
さんから後に聞かされた。
そんなこととは露知らず、「いつから来られるかな?」との問いに、「はい、
今日、今からでも!」と元気アピールのつもりで言うと、「そう? じゃ、さ
っそく」と、Mさんに各部署を引き回され、挨拶してまわった。
「じゃ、とりあえずは、ここで、うちの作品読んで、覚えておいて」と、そ
の後に案内されたのは、一次面接の待機場所だった応接室で、壁一面に設えら
れた本棚には、小池一夫原作になる漫画単行本が、ずらりと並んでいた。
言われるままに、『子連れ狼』はじめ、大部の単行本を読み始めたのだが、
それから数時間経っても、なんの音沙汰もない。
時計の針が9時を回ったころ、さすがに耐えかね、「あの〜〜…」と事務所
へ顔を出した。
「あ! ごめん! まだいたんだ…」とMさん、どうやらすっかり忘れてい
たようだった。
「ごめん、ごめん、もう帰っていいよ。明日からまた、よろしくね」と言わ
れて表へ出ると、もう真っ暗。
人影もまばらな八幡通の坂道を、代官山駅に向かいながら、「大丈夫なんか
いな?」と、不安がひとすじ、心に忍び寄ってきた、1979年2月の夜なのだっ
た。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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123 子どもを守る言葉 自分が決めるということ
作者は自分の子どもに「同意」を教えたくてつくった本をご紹介します。
『子どもを守る言葉 『同意』って何?
YES, NOは自分が決める!』
レイチェル・ブライアン 作 中井はるの 訳 集英社
何事も相手や周りの同意を得て進めていきましょう、なんていう言葉は社会
人にはなじみがありすぎて、そうすることに意識もしなくなっていました。
子どもの頃だと、大人のいうことは聞かなくちゃいけないという前提のもと、
顔色をうかがうことも、お行儀のひとつとすり込まれて育った子どもも一定数
はいたでしょう。
けれど、自分の「嫌」を伝えるということがとても大事だということが、少
しずつ世の中に浸透してきているように感じています。
この本では、自分だけでなく、相手のためにも自分の意志を伝えることがい
かに大切かということが8つの章立てで、イラストも多くつかって伝えてくれ
ています。
むりやりに相手から「いいよ」を引き出してもそれはYESではないこと。
YESといってしまっても、後から自分の本当の気持ちに気づいてNOということ。
なんとなくわかっていても、ちゃんと知っておくべきことが簡潔に書かれて
いて、子どもだけでなく大人にも読んでほしいと思いました。
巻末には、SNSでのトラブルから、具体的な暴力やイジメに対処するときの
相談窓口も掲載されており、かなりの実用書のつくりです。
『夢のビッグ・アイデア カマラ・ハリスの子ども時代』
ミーナ・ハリス 文 アナ・R・コンザレス 絵 増田ユリヤ訳 西村書店
アメリカ副大統領となったカマラ・ハリスとカマラの妹、マヤの子ども時代
の話を元に、彼女らの姪にあたるミーナ・ハリスが書いたお話です。
カマラとマヤが住んでいたマンションには中庭がありました。でも遊具はな
にもなく、姉妹は中庭が遊び場になればすてきじゃないかと考えます。
母親に相談すると家主さんに聞かなくちゃねといわれ、二人は家主さんにお
願いに行きますが、望んだ返事はもらえません。そこで、どうすれば遊び場が
つくれるか、よくよく考え、考えたことをひとつずつ行動にうつします。
会社や学校で与えられた課題をこなすかのように、二人は自分たちの望んだ
遊び場を得るために考え行動していく様子は、階段を一段ずつ上るように丁寧
です。
問題解決を決して大人の上から目線ではなく、自分たちにできるところから
ゴリ押しせずに進めていく姿は、大人の私が読んでも学ぶところがあります。
何をどうしたら問題解決するのかよくわからないときの実用絵本でもありま
す。ぜひ周りの子どもたちに読んでみてください。
『エヴィーのひみつと消えた動物たち』
マット・ヘイグ 作 宮坂宏美 訳 ゆうこ絵 ほるぷ出版
このメルマガでも「クリスマスは世界を救う」シリーズなどでご紹介した作
家マット・ヘイグの作品です。
「クリスマスは世界を救う」は息子の疑問に答えて書かれ、今回は娘のリクエ
ストによるものとのこと。自分の子どもたちのリクエストで物語を紡げるのは
親としても作家としても最高なことですね。
娘さんのリクエストは動物と、動物が大好きな女の子の話です。
主人公はエヴィー。動物が大好きなだけでなく、特別な力ももっています。
けれど、その力のことは決して人に知られてはいけないと父親に厳命されて
いました。母親はエヴィーが小さいときに亡くなっているのは、その力が原因
でもあるようです。
使ってはいけない、知られてはいけない力は、問題が起きるときの原因にな
りがちですが、エヴィーもまた、予想だにしていなかった大きな事件にまきこ
まれていくのです。
たくさんの動物たちの生態も紹介されるので、そこにも興味を引かれつつ、
エヴィーがまきこまれる冒険のゴールも気になり、休憩することなくいっきに
読みました。
冒険のハラハラだけでなく、動物や人間が命でつながっている存在だという
大きなテーマも胸をうちました。動物たちのイラストもとてもすてきで印象に
残ります。
『アリスとふたりのおかしな冒険』
ナターシャ・ファラント作 ないとうふみこ訳 佐竹美穂 絵 徳間書店
主人公は11歳のアリス・ミスルスウェイト。アリスが7歳のときに母親が亡
くなってからは、父親と伯母が一緒に暮らしてアリスのことを見守っています。
アリスは、母親が亡くなって以来、屋敷にこもりがちになっているので、心
配した伯母の提案により、思いきって屋敷をはなれ寄宿学校に入ることになり
ました。
環境が変わったことで、アリスには、ジェシー、ファーガスというおもしろ
い友人ができます。そのクラスメートの男の子たちと共に、学校生活になじみ
はじめているときに、父親から手紙がきっかけで3人の冒険がはじまります。
佐竹美穂さんは、物語にとけこむような精緻なイラストを展開し、読んでい
ると、アリスやジェシー、ファーガスらが、本から出てきて目の前で会話して
いるようなリアリティを覚えました。
子どもたち3人の行動の原動力には、それぞれの家庭の背景が関わってきて
います。特にアリスと父親との関係は胸が苦しくなるものがあり、近い存在の
家族だかこそ生じてしまう、めんどうな気持ちには、なんともいえないものが
あります。そんな気持ちの整理を助けてくれたのは、物語ることでした。アリ
スの語る物語の力がどういうものなのかは、ぜひ読んで感じてください。
最後にご紹介するのは、感染症について理解を深めることができるシリーズ
第1巻です。
『感染症と人類の歴史 第1巻 移動と広がり』
池田光穂 監修 おおつかのりこ 文 合田洋介 絵 文研出版
コロナ禍の社会になってから、私たちは感染症について以前よりずっと意識
するようになってきているのではないでしょうか。
感染症とよばれる病気は、歴史の中で何度も登場しています。それらについ
て、イラストを多用し、九尾のキツネを案内役として登場させ、疑問点やポイ
ントをキツネ目線(?)でわかりやすく伝えてくれているのが本書です。
紀元前7000年頃にはじまった歴史の理解を深めるために、ページ見開き上部
に時空列車を走らせ、そのレール上で、どのあたりの「時空」にいるか一目で
わかるようになっているのもうれしい工夫です。
知らないことは不安につながります。私たちは新型コロナウィルスによって
この先どうなるのだろうという不安を感じずにはいられませんでした。ワクチ
ン接種が進み、少しずつ落ち着いてきているものの、感染症について、いまい
ちど整理して理解することは大事だと感じます。
ぜひじっくり読んでみてください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第138回 4つの『図書館奇譚』
ここ数カ月、図書館に関係する書籍を逍遥している。図書館での調べものだ
ったり、図書館の自由に関する宣言とか、被災地の図書館のこと、とか。
今月も同じ、図書館をネタにした書籍には違いないが、図書館を舞台にした
小説についてみてみようと思った。
今年もノーベル文学賞を取れなかった、村上春樹の作品である。『図書館奇
譚』。
図書館→怖い司書→沈黙→静寂→地下書庫→恐怖・・・・・というイメージ
がいつも図書館にはついて回る。本書はそれをなぞるような作品なのだ。
このものがたりは、4種類ある。それぞれ4つのバージョンである。それは
最も新しい作品のあとがきに4種類の同じものがたりがどうして成立したかの
記載がある。
『図書館奇譚 カンガルー日和』(村上春樹著)(平凡社)(1983年9月9日)
『図書館奇譚 村上春樹全作品1979〜1989』(村上春樹 著)(講談社)(1991
年1月21日)
『ふしぎな図書館』(村上春樹・佐々木マキ 著)(講談社)(2005年1月31日)
『図書館奇譚』(村上春樹 著 カット・メンシック イラスト)(新潮社)
(2014年11月25日)
以上の4作品。最後の新潮社版『図書館奇譚』のあとがきに経緯の詳細が書
かれている。
ある雑誌に5回にわたり連載したものを短編集の『カンガルー日和』に収録
し(ver1)、その後講談社の『全作品』にちょっと手を加えて収載した(ver2)。
さらに絵本化しようということで、佐々木マキの絵を添えて、ことばも少しや
さしくして『ふしぎな図書館』を発行した(ver3)。最後にドイツ語版を出版
するという企画でドイツの画家の絵を添えて出版した(ver4)。
4作品にはどんな違いがあるのか?結論を云えば表現方法が違い、また結末
がちょっと違っている。しかし大筋では同じ。主人公が図書館に囚われ、狭い
空間に閉じ込められ、そして仲間の手引きで危険な目に遭いながらも無事に脱
出し生還する、というおはなしである。そこには、村上作品でお馴染みの“羊
男”も出てくるし、謎だらけの美女もでてくる。村上ワールド全開である。
Ver1(カンガルー)とVer2(全作品)とVer4(ドイツの絵)については文章
がところどころ違う。たとえばこんな感じ。
「新月の夜は目のないいるかみたいにそっとやって来た。」(Ver2&Ver4)。
「新月の夜は盲のいるかみたいにそっとやってきた。」(Ver1)。
これは“盲”という表現の自主規制だろう。
さらに、
「そして僕は眠った。」(Ver1&Ver2)
「そして僕は眠った。苺の香りのする眠りだった。」(Ver4)
他にも細かい違いは随所に存在するが、あまり意味がないことに気がついた。
Ver4にイラストがあるということは大きな違いである。絵にはイメージを限定
する、という大きな長所と大きな欠点が表裏一体で存在する。Ver4の読者は、
このドイツ人の画家(カット・メンシック)のイラストから逃れることができ
ない。とにかく多大な影響を読者に与える。妖しく官能的なイラストであり、
夜ひとりで暗いところで読むのはかなり勇気がいる。それが図書館だったら、
なお怖い。日が暮れて外は暗くなった、閉館間際の図書館。司書たちのいるカ
ウンターから離れたところにある書架から本書を取り出して、読んでごらんな
さい。他に利用者は誰もいない。怖くて後ろを振り返ること間違いなし。Ver4
は完成度の高い図書であることの証左である。
そして、Ver3を話題にしよう。本書は、子ども向けという触れ込みであり、
絵本のように、文を書いた人と絵を描いた人が並列で著者として並んでいる。
村上春樹と佐々木マキ。
細かい表現のずいぶん違う。難しい表現がすべて簡単になり、あるいはまっ
たく別のことを表現していたりする。この文字の大きな絵本のような『ふしぎ
な図書館』は比較するに当たり、他の3冊と読み比べることをぜひ勧める。村
上春樹が選んだ表現方法の違いがとてもよくわかると思う。そしてVer3は終わ
りがもっとも違っている。他の3冊では、自宅で飼っているむくどり(むくど
りを飼うひとがいるのか、という疑問はともかく)は元気に生きているのだが、
Ver3ではいなくなっているのだ。主人公が図書館を脱出するときにむくどりが
出てくるが、このむくどりは主人公の飼っているむくどりなのかどうか、とい
う特定はできないが、Ver3でむくどりが鳥かごから消えているのを見て、主人
公は図書館で目にしたむくどりはこのむくどりだったのだ、ということを理解
する。・・・・・ちょっと言い過ぎた気がする。ものがたりでは重要になる筋
を云ってはいけないんだった。
このものがたりを客観的に俯瞰的にみたとき、その印象は“起承転結”だっ
た。ものがたりを紡ぐときの基本に忠実にものがたりが進行していく、という
のが最初の感想。
なにごともない図書館の風景が、起。レファレンスを受け、読者の予想どお
りに捕らえられてしまう処までが、承。美少女がきて脱走を使用とするところ
までが、転。危機を乗り越え、帰宅して結。
ものがたりの進行はかくあるべき、という小説のお手本だと思う。ものがた
りを書きたい人はぜひテキストにすべきだ。
いずれにしても、同じものがたりで4種類も出版できてしまう村上春樹の凄
さをあらためて感じた書物だった。村上ワールドの書物である。
多呂さ(緊急事態宣言が明けました。なんか一往来復を感じます)
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
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をご記入の上、下記までメールください。
表題【読者書評参加希望】
info@shohyoumaga.net
皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
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先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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引っ越しから続いていたリフォームがやっと完成間近になり、段ボールから
少しずつ本を出し始めています。
自分の本ですが、なんだかワクワクします笑笑(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #136『第七官界彷徨』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『赤狩り』 山本おさむ 小学館
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『東大理III 2021 合格の秘訣』(データハウス)
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■山本由紀子さん『品格の教科書』出版記念おめでトーク!
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EMSiFellowおめでトーク!とは、EMS本質行動学基礎原理コース修了生である
Fellow有志による記者会見YouTubeライブ配信です。ご興味あれば、どなたで
もリアルタイムで視聴することができます。
今回は、EMS3期生 山本由紀子さんの『品格の教科書』出版記念おめでトーク
!を開催いたします!!
イベント詳細:https://www.facebook.com/events/567112677739246
山本由紀子さんからのコメントです!
「日本の所作やマナーは長い歴史の中で人間関係を円滑にする「意味」や
「理由」があります。
形を覚えるのではなく、その本質を知ることにより忘れず応用も効きます。
それさえ外さなければむしろ形なんてどうでも良いのです。それを知って頂
きたいです。
今ならサキ読みで一章、丸ごと読めます。
生涯をかけて教わったこと、経験したことをこの本で伝えたいです。」
↓↓1章分まるまる読める「サキ読み」のご登録はこちらです。
https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=3928-3
主催:EMSiFellowおめでトーク!実行委員会
下記、公式ページにチャンネル登録いただくことで、ライブ配信に御参加い
ただくことができます。
https://www.youtube.com/c/EssentialManagementSchool
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#136『第七官界彷徨』
我が国与党の総裁選だそうだ。
事実上この総裁が次期首相になるのだが、一般国民には投票権がないので、
対岸のゴシップ。
菅総理が退陣を表明するずっと前から出馬表明をしていたフライング気味の
前のめりな先生、ワクチンの供給を任されたのにドタバタして医療現場を混乱
に陥れた(らしい)先生、毎年靖国参拝を欠かさず総裁選出馬表明でも「国家
の主権と名誉を守る」とのたまわった先生……素敵な面々が立候補していて、
これからもまだまだ名乗りを上げそうな気配。う〜ん、党員だったら迷っちゃ
うなぁ。
しかし、大体誰になっても、組閣後すぐの世論調査では割に高い支持率で、
その後凋落するのが毎度のパターンではないか。第一印象はまあまあよかった
のに、段々馬脚を現すということか。
一方、その逆もある。
第一印象はよくなかったのに、その後、あれ? と自分で意外なくらい好印
象になる。
いや、本の話ですが。
初読の時は面白くなかったのに、時を隔てて再読したら、え、こんな面白か
ったっけ、ということ。
尾崎翠「第七官界彷徨」が、まさしくそれだった。
最初に失望した理由は、はっきりしている。
女流作家だし、大正時代に僅かな作品を残して埋もれてしまった幻の作家と
いう触れ込みだったから、なんとなく「文学のめっちゃヘビーなやつ」的身構
えと、「シリアスで人生をしみじみ描いちゃったりするんだろうな」的思い込
みを持ってページを開いたせいである。
ところが読んでみると、一応の主題は恋愛であり、登場人物の生活は貧しく、
皆が揃って自身の抱える問題に苦悩はしているんだけど、非常にシュールと言
おうか、エキセントリックと言おうか、はちゃめちゃと言おうか、ある意味不
真面目なほど誇張されて描かれているため、まったくヘビーでもシリアスでも
ない。
それで、何か肩透かしを食ったような気がして、もやっとしてしまったのだ。
だが今回は、そうした身構えも思い込みもすっかり忘れていて、何気に書棚
から抜いて、ぱらぱらと読み始めたものだから、完全脱力モードであった。
それがよかったのだ。
何の先入観もなしに気楽に読んでいたら、くすっと笑っている自分に気がつ
いた。
それで、「そうか、これはコメディーなんだ」とようやく思い至ったのであ
る。
しかも、大好物のドタバタではないか!
主人公の町子は、作者の分身と思われるハイティーンのがりがりに痩せた女
の子。髪がちぢれていて、いわゆる天パーである。これは写真で見る著者自身
もそうだったようだが、現代ならいざ知らず当時の女性としては大いなるコン
プレックスだったろう。
そんな町子が、田舎から東京に出て来るのが物語の発端である。
彼女には二人の兄と一人の従兄がいる。三人は既に上京して一軒家を借り、
共同生活をしている。
三人の世話をする炊事係という名目で、町子はその家にやって来るのだが、
もちろん、彼女自身も、詩人になりたい、という漠たる野望を秘めている。
長兄の一助は、精神科医として病院に勤務しているが、担当している分裂病
患者の女性に恋をしている。だが同僚の一人もまた彼女を想っておりライバル
関係にある。これが彼の悩みだ。
次兄の二助は、肥料学者を目指す学生である。現在卒論の執筆中で、テーマ
は二十日大根の栽培実験とコケの繁殖実験。一番大きい部屋を占拠して日夜熱
狂的に取り組んでいるが、彼を実験の鬼にしたのは、失恋体験である。とても
涙もろい少女と知り合った彼は、彼女の涙が自分への溢れる想いの表れと信じ
込んだ。だが実は、少女は別の男を想って泣いていたのだ。それを知って傷心
旅行に出た彼は、旅先で荒れ地の土壌改良を志すようになり、かくていま肥料
学者にならんと勉学に励んでいるのである。しかし実験は思うように行かず、
これが彼のただいまの悩みだが、もちろん、失恋の痛手もまだ引き摺っている。
従兄の三五郎は、音大受験生。現在、一浪中。予備校に通って声楽を学んで
いるが、こちらもなかなか勉強が進まず悩む。それを借家にあるピアノが長年
調律をしておらず、調子っぱずれであるせいにしている。さらに、物語の途中
で恋の悩みも加わる。隣家に少女が越して来て、二人の間に淡い恋が芽生える
のだ。
そして主人公の町子は、三人の男たちの世話に追われながら、詩を読んだり、
書いたりしているのだが、彼女にもやはり恋する相手がいる。ただし、そのこ
とが明確には語られない。短い言葉の切れはしから、その相手がどうも三五郎
であるらしい、と感じられる程度だ。しかし、従兄であり幼なじみでもある三
五郎の方は、町子を一人前の女性として見ていない。だからかえって平気で接
吻したりする。町子の髪を男の子のように刈り上げてしまったりもする。想い
は隣家の少女にしかなく、町子は振り向いてもらえない。
かくて、四人四様に悩み、苦しむ日々なのだが、先に書いたようにまったく
深刻には感じられない。
その理由は、彼らの恋愛が、いわゆる恋に恋する段階のものだからだろう。
イメージとしての恋愛に勝手に懊悩しているだけと言ってもいい。
社会人である一助でさえ、一人の女性を挟んで同僚と対立し、ついには直接
対決までするくせに、この間、当の女性の意志は一切確認していない。つまり
コクっていない。その点は同僚の方も同じで、要は男同士が勝手に奪い合って
いるわけである。もちろん時代は、大正。男尊女卑とか、個人より家重視、結
婚を申し込む相手は当人でなく親だったという背景もあるだろうが、それでも
一助たちの恋愛は、ただ彼らの脳内だけにある。
ま、砕いて言うと、妄想ですね。
二助の失恋も、勝手に恋をして、勝手にふられている、と言っていい。
涙にくれる少女に、「なぜ泣いているの?」と訊くこともせずに、「俺を想
って泣いているのだな」と決めつけてしまうのは、これもやっぱり妄想だろう。
唯一、三五郎だけが、隣家の少女との間にコミュニケーションを持つ。
しかしそれも、両家の境にある木になったミカンを渡し合う程度に過ぎない。
初々しいと言えば初々しいが、はっきり言ってかなり幼い。いまの大学受験
生が、こんんなことしないだろう。
そして町子の三五郎への思いも、四人の中で最も子供に近い。
兄や従兄から名前ではなく「女の子」とか「うちの女の子」としか呼ばれな
いところに、彼女のポジションが暗示されている。
だが、これはこの小説の欠点ではない。むしろ優れた点である。
このような、いわばバーチャルな恋愛だからこそ、当人の苦悩がどんなに激
しくても、傍からは喜劇的に映る訳で、著者はその点を周到に踏まえ、失恋喜
劇に仕立て上げているのだと思う。
そもそも「失恋」というのはおかしな言葉だ。
辞書を見ればこれにはふたつの意味があり、ひとつは「恋人にふられること」
である。この場合は、一度は恋を得たのだから、その後失うことは出来る。
しかし、もうひとつの意味は「恋愛が成就しないこと」である。つまり相手
にもう恋人がいた、相手が自分を好きになってくれなかった、などの理由で恋
愛に至らないことである。この場合、一体人は何を「失った」のだろうか。初
めから何も「得て」いないのに、どうしたら失うことが出来るのだろうか。
そんな「失恋」という奇妙な事態が、他人から見れば喜劇的になるのは当然
である。
さて、この小説で著者は、失恋の喜劇性を描くために、音楽を有効に活用し
ている。
四人の内、誰かしらの感情が波立つと、三五郎のピアノと歌が始まるのであ
る。それに町子も和して歌う。そうした場面が度々繰り返されるのだ。
時には二助まで音痴の声を張り上げる。一助までおずおずと恥ずかしそうに
歌ったりする。
しかも伴奏は、調律をしていない調子っぱずれのピアノなのである。
実際に聴いたら、恐らく音楽の態をなしていない、単なる騒音だろう。
おまけにこうした時のレパートリーは、三五郎の予備校の課題になるような
堅苦しい声楽曲ではなく、「コミックオペラ」なのだ。
コミックオペラは普通、そのまま喜歌劇と訳され、現代でもシュトラウスの
「こうもり」などがよく上演される。
しかしここに登場するコミックオペラは、ちょっと違ったのではないかと思
う。
と言うのもこの当時の日本で、オペラは一大ムーブメントであったからだ。
1917年から1923年。
関東大震災が起こる前までの大正時代、帝都を席捲したオペラブーム。いわ
ゆる、浅草オペラである。
いまもある浅草演芸場東洋館を中心に、作曲家の佐々木紅華、ダンサーの高
木徳子、興行師の根岸吉之助らが仕掛けた「歌と踊りと芝居」を融合した総合
エンターテイメント。いまの感覚だと、オペラよりミュージカルの方が近いだ
ろう。曲もベルディーやらプッチーニではなく、国産のオリジナルで、そこか
ら当時のヒット曲も生まれた。
著者が町子たちに歌わせたコミックオペラなるものは、そうしたオペラだっ
たのではないか。
実際、尾崎翠は1896年(明治29年)の生まれで、日本女子大国文科に進学す
るため上京している。その時、一時三兄・史郎の下宿に同居した体験をもとに
この小説を書いているから、それは恐らく1914年から1918年頃だろう。浅草オ
ペラの全盛期にはまだ少し早いが、ブームの萌芽はあっただろうし、その後の
大流行の記憶がやや遡って小説に反映されたことは充分に考えられるのだ。
ところで、「第七官界」とは何か?
実は小説の中で、はっきりとは説明されていない。
五感を越えた第六感をも超えた世界だろうか?
しかし、「感」ではなく「官」なのはなぜか?
主題が恋愛である以上、「官能」を匂わせるものなのか?
それにしては、ここまで縷々書いてきたように、描かれる恋はいずれもイメ
ージでしかなく、肉体性も官能性も、ゼロに等しいのだが。
ともあれ、町子はそこに向かって努力している。そこから詩を書きたいと思
っている。
つまり、「彷徨」というと第七官界をさまよっているようだが、そうではな
く、第七官界を目指して現世をさまよっているという意味だと思われる。
果たして町子は、第七官界にたどりつけるのか。それは読んでのお楽しみ。
それにしてもこんなに面白くて笑える大傑作を、初読の時まったくスルーし
てしまった不明を恥じる。
女流文学=真面目でシリアス、という思い込みがあったとすれば、一層自分
の中の偏見に恥じ入る。
当時の文壇でこれが評価されなかったのも、尾崎翠が女性であったがゆえだ
ろうか。
尾崎翠
「第七官界彷徨」
(中野翠編 『尾崎翠集成 上』より)
二〇〇二年十月九日 第一刷発行
ちくま文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
家のすぐ近くにある、とある公共施設が、もう何年も工事中。ベランダに上が
ると、青空を背にした巨大なクレーンがいくつも見えます。クレーンは日本語
にすると鶴だけど、ブロントザウルスに見えて仕方ない。長い長い首を揺らし
ながら、のんびりと平和に過ごしている。かわいい。ティラノザウルスのいな
い、草食竜だけの世界。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『赤狩り』 山本おさむ 小学館
アメリカは極端に振れることがよくある。今年、何より驚いたのは、ツイッ
ターやフェイスブックなどネットのプラットフォーム事業者が、トランプ元大
統領のアカウントを凍結したことだ。
https://www.bbc.com/japanese/57758881
言論の自由がどうこうとか言う以前に、ついこの間まで大統領だった人物の
言論を封殺するなど異常である。鳩山由紀夫のネットでの発言を気に入らない
人は多いと思うが、だからと言ってアカウント凍結などすれば大問題になるだ
ろう。
で、アメリカが極端な反共に傾いた時代---赤狩りの時代---を描いたのがこ
のコミックである。
メインの主人公はハリウッドの脚本家ドルトン・トランボだが、大河小説
(コミック)の流儀で、たくさんのサブ主人公が出てくる。敵のメインキャ
ラは、FBIのハリウッド調査責任者、アーノルド・キビーである。
赤狩りとは、この場合1940年代から50年代にかけてアメリカで吹き荒れた反
共運動で、ハリウッドもターゲットにされた。この時、ターゲットにされた最
も重要な人たちが、「ハリウッド・テン」と呼ばれる。脚本家ドルトン・トラ
ンボも、ハリウッド・テンの1人だった。
終戦直後のアメリカで、FBI長官フーヴァーは焦燥感に打ちひしがれていた。
ソ連のスパイ、そしてその走狗となっているアメリカ共産党の暗躍を止められ
なかったのだ。何せロスアラモスの研究員が、自らの意思でソ連のスパイとな
り、原爆情報を流していたくらいである。
これはなんとかしなければならないということで、非米活動委員会(HUAC)
が作られた。ターゲットはハリウッドにたくさんいた左翼系の人たちである。
彼らの多くは、アメリカ共産党に以前入党していたが、今は離党している人が
多かった。もともと、そんなにアメリカ共産党員は多くなかったし、党内の体
質に問題があって、かつて入党した人は多かったが、党に幻滅してやめていっ
た人も多かった。そのため、破壊活動やスパイ活動などとは無縁の人たちであ
った。そりゃそうだろう。映画人は平和でないと儲けられないし、国家機密を
扱ったりすることもない。
HUACは、まず19人の容疑者をつくり、証人喚問を行う。証人喚問が行われる
と知ったハリウッドの有力者たちは、当初穏便に、やんわりと証人喚問を乗り
切ろうと考えたし、応援する人も多かった。
しかし、喚問される現場になると、容疑者たちはHUACに反発してケンカ腰に
対応してしまい、追いつめられていくことになる。HUACは盗聴などして脅すこ
とはもちろん、卑劣にもかつての仲間を売れば、映画界に残れることを示唆し
た。当然、裏切り者も出た。そんな中でも抵抗を続けた、ドルトン・トランボ
以下、ハリウッドの有力な面々は、映画界から追い出されてしまうのだ。そし
て彼らの苦闘の日々が始まる。
それにしてもすごい踏み絵である。ハンフリー・ボガード、ローレン・バコ
ールヘンリー・フォンダ、イングリット・バークマンといったスターたちが
「共産党員か?」と喚問されるのである。
もちろんジョン・ウェインのような反共のハリウッドスターもいたし、ウォ
ルト・ディズニーもガリガリの反共だった。そして映画スターとしては大成し
なかったが、反共でならして大統領にまでなったのが、かのロナルド・レーガ
ンである。
これだけビッグネームが並ぶと、いかに赤狩りがアメリカにとって大きな出
来事であったかわかる。中国の文化大革命に匹敵する大事件だったと言っても
過言ではなかろう。
迫害された人たちのいろんな生き方。そして当時作られた映画に込められた
メッセージの解析もまた興味深い。このコミックを読んでから、この作品の中
に出で来る「黒い牡牛」「栄光への脱出」「ローマの休日」「猿の惑星」など
を見ると、これまでとは違った見方ができると思う。
そして今、リアルタイムで進行しつつあるリベラルの横暴に思いをはせると
良い。赤狩りの時代ほどでは無いかも知れないが、今は逆・赤狩りみたいな時
代になりつつある危惧を私はもっている。あえて書かないが、この作品に出て
くる、チャーリー・チャップリン(赤狩りでスイスに移住した)の言葉を噛み
しめて生きていくべきなんだろうなと思う。
最後におまけについて述べておこう。1巻を除く各巻の巻末には、作品のチ
ャプターごとに、どこが創作でどこが事実かを詳細に書いてある。歴史を描く
漫画家が、こう考えてストーリーを創作しているのかがわかるので、小説やコ
ミックなどで歴史系の作品を作りたいと思う人には参考になるだろう。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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素直な気持ちで合格者をリスペクトして読むといい本です
『東大理III 2021 合格の秘訣』(データハウス)
まるで年鑑のように1年に1冊刊行される本があります。それがサブタイト
ルに「天才たちのメッセージ」とつけられた『東大理III』という本です。
毎年、東大理科三類に合格した人と連絡を取り、合格までの過程をインタビ
ューしてまとめたもの。今年はコロナ禍のため、オンラインで取材を敢行、例
年より少ない32名の合格者のインタビューが掲載されています。
東大理IIIって何なのか案外知らない人がいるんですよね。
「東大はスゴイ」と知っている、でもその中にどんな分類があって理IIIがど
ういう存在なのかは縁がないからようわからんて人が多いんですよ(私も仕事
で必要になって初めて知りました)。
理IIIは理系I(数学、物理系)理II(生物、化学系)に対してほとんどが
医学部に進学するコース。つまり、理IIIは東大医学部と言い換えてもいいの
です。合格者は100人。つまり、日本国中の受験生をずら〜っと偏差値順に並
べたとして、その上位100人が行くコースなんですな。(合格できるけども、
「医者になるのはいやだ」と理Iや理IIを志望するレアなケースもあるそうで
すが)。
この段階で、「それがどうした」「東大理IIIに何の価値があるの」という
感想を頭に浮かべたあなた、そう思うあなたこそ、偏差値序列の悪癖に陥って
いるのでは? おばちゃまも最初は内心「ケケケのケ〜」(なにそれ?ww)
という気持ちを胸に秘めて読んでいたのですが、読み進めるにつれ、「いやす
ごすぎるわ」と脱帽しました。
そして努力した受験生をリスペクトして、孫の合格を祝う気持ちで読むのが
この本の正しい読み方だと理解してからは、素直な気持ちで読めてストレスが
なくなりました。だから皆さんももし手に取ることがあれば、大切なのは「素
直に読む」ことだとご助言申し上げます。
32名の合格者は、皆さん頭がいい人たちばかりです……あたりまえのことを
言ってしまいました。が、とかく最近は「ビリギャル」とか「ドラゴン桜」と
かで下剋上受験がもてはやされていますが、それはドラマだったり漫画であっ
たり、そもそも受験科目が少なかったりするカラクリがあるからであって、や
はり東大理科三類ともなると、頭がよくなくては入れない、これはしょうがな
い事実です。
32名の方たちはだいたいが似たコースをたどってここに来てるなというのが
正直なところ。
昔から知的好奇心が強かった→中高一貫の進学校入学→鉄緑会(塾)→今こ
こ というコースが定番で、最短距離。
出身校は開成、灘、筑駒、女子学院というラインナップで、偏差値は正直や
なと思えます。
親の職業も書いてあることがありますが医師が多い。なるほどね。あと、小
さいころに病気をして医師の仕事を間近に見て「人を助ける仕事に就きたい」
と志望した人も数人いました。素質に加えて環境が人を育てるんですね。
32人の中でおもしろかった人が大検から2浪して入学したM君。小さいころ
はゲームばっかりしてて私立の中高一貫校に入学後、高校1年ですべての科目
を独学で履修して高校に毎日通うことに意味を見出せず退学、noteで合格者の
体験記を読んでそこに掲載されている参考書を見てまた独学で勉強。絶対合格
すると思った理IIIに不合格になり、翌年は1点差に泣き、私立医学部も特待
生で受かっていたけど意地で2浪したという経歴。なんだろう? 頭のいい人
ならではの紆余曲折、でも、最終的には合格するという安心感。
絶対に鬼退治に成功するとわかっている「桃太郎」を安心して読んでる感。
もう1人、読んでいてハラハラしたのがK君。最初の方で双子の弟がいると
紹介されていて、小学校のときは「弟と一緒に勉強した」と書いてあるのに中
高になると弟の話が出てこなくて、おばちゃま「弟はどした?」とハラハラで
したよ。読みながら弟君の進路の心配ばかり。「成績が上がらず別の道に?」
「ミュージシャンをめざしてドロップ?」「芸人めざしてNSC?」とかよか
らぬことばかり考えてしまいましたが、ご安心あれ、兄の話を読み終わってペ
ージをめくると、そこには同じ顔をした弟君の合格体験記が! あ〜よかった!
思うに私の頭のどこかに、東大理IIIに合格する人たちへの限りない憧憬と
ともに若干の嫉妬ってか『2人とも東大なんてあるわけないし、あってたまる
か〜』みたいな悪魔の心が宿っていたのかもしれません。でも、弟君も合格し
たと知って「あ〜よかった」と思う私にはやはり天使の心が大きな面積を占め
ていたと知ってほっとしたのでした。
一卵性双生児が合格したということは今年の定員は実質99人ということでし
ょうか。双子君たちが合格したから将来、日本の医学界をしょって立つ人生が
2倍になったともいえるし、双子君たちのために不合格になった人がどこかに
いるともいえますね。でもそれがなんだ!(言ったのはアンタや)
東大に縁のない人でもその人なりの役割を見つけて、天台宗の祖である最澄
さんがおっしゃったように社会の「一隅を照らし」、自分のocupationを全う
いたしましょう。「おばちゃまもがんばるぞ」となんだか元気が出てきました。
合格体験記を読んで元気が出たのは初めてです。
これも理IIIマジックかもしれません。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
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表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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夜はすっかり秋の気配です。(あ)
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★トピックス
→トピックス募集中です。
★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<139>「二世」漫画家は、どこにいる?
★「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
→第137回 東日本大震災のとき、被災地の図書館はどうなったのか
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→122 大人の役割をまっとうする
★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/show-z
→今回はお休みです。
★献本読者書評のコーナー
→書評を書きたい!という方は、まだまだ募集中
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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<139>「二世」漫画家は、どこにいる?
森茉莉、幸田文、青木たま、津島裕子、萩原葉子、中上紀、阿川佐和子、江
國香織、吉本ばなな、大岡玲、井上荒野…と並べた場合の共通項は、言わずと
知れたことだが、親が著名作家である、ということ。
近頃、その中でも井上荒野の小説にハマっていて、文庫になった作品は、ほ
ぼコンプリートしている。
父・井上光晴と瀬戸内寂聴、そして母親との三角関係を、三人と自分を含め
た家族をモデルとして描いた『あちらにいる鬼』も、文庫になり次第読もうと
思っている。
…ということは、今は置いといて、「二世作家」というのは、「二世政治家」
ほどではないにしろ、結構思いつくのです。
まあ、政治家は、あの人や、それからあの人やらを見てもわかるように、親
が政治家だったらば誰でも…有体に言えばバカでも務まる…実際、今の政治家
には二世どころか、三世、四世、ざらにいますもんね…が、作家は、バカでは
なれません。
バカではなれない、と言うと、これは、司馬遼太郎の本で読んだのだけど、
江戸時代の大坂。
江戸が武家の町だったのに対して、大坂は町人、中でも商人の町。
町の自治に関しても、江戸が専制君主の武家支配だったのに対して、大坂で
は、北組、天満組、南組(だっけな?)の三郷から有力商人が代表として出席
する合議制で運営され、司馬遼に言わせると、当時の日本で唯一「殿様のいな
い町」であり、いわば「共和制」とも言える体制であったとか。
家督の世襲に関しても、江戸と大坂では大きな違いがあって、江戸の武家で
は、長男であれば、それがどんなバカでも家を継ぐことが出来た。
武士の仕事というのは、突き詰めて言えば、お城に出勤して座ってるだけ…
なので、バカにも務まる。ただおとなしく座っていれば、何もせずとも禄はも
らえる。
その辺、今の代議士とよく似てますね。
ところが、商家では、こうはいかない。
たとえ長男であろうとも、そいつがバカだったら、そんな奴に家督を譲ると、
たちまち店を潰してしまう。
なので、長男の出来が悪ければ、出来のいい次男三男、それも無ければよそ
から出来のいい養子を迎え、店を継がせる、というのが慣例だったんだそうだ。
で、家督を継げなかった出来の悪い息子は…一生ただ飯を食わせるわけにも
いかないし、かと言って放り出すわけにもいかない。
なので、そういう彼らには、武家の株を買ってあげて、武士にしたんだそう
だ。
武家であればバカでも務まる。そして武家ならば、役人になれる。すなわち
禄が貰えて食いっぱぐれがない。
江戸時代の大坂、人口はほぼ50万人だったそうですが、そのうち武家は約50
00人、その大半が、こうした「元町人」だったらしくて、街を歩くときにも、
町人に遠慮しィしィ、歩いていたそうです。
…で、なんの話だっけな…あ、そうだ、「二世」。
文筆の世界では、二世作家と言うのは、そこそこ見かけるのに、漫画家の二
世、というのは、あまり聞かないな…と思っておったのです。
思っておったところに、『ド根性ガエルの娘』という漫画を、偶然見つけて
しまったのだった。
作者は、大月悠祐子、タイトルにある『ド根性ガエル』の、吉沢やすみの娘
さん。
「いるじゃん」と、なぜかハマ弁で独りごちつつ、その電子版1巻を、さっ
そくダウンロード。
面白い!
いわゆるエッセイ漫画なのだが、これ、実の娘が、その父の、デビュー作が
即連載、すぐにヒット作となりアニメ化もされ、売れっ子漫画家まっしぐら…
から、連載終了後にスランプに陥り、ギャンブルに逃げた挙句に仕事を放り出
して失踪、無事帰還したのちも、ギャンブル癖収まらず、あっちふらふら、こ
っちに彷徨、というその半生を、時々主観を交えながらも、客観的冷静に観察
して、きちんと物語に昇華してる。
実際に、連載を開始するに際しては、改めて父母に当時の経緯やらを取材し
てから始めたそうだ。
「失踪後」のくだりを読む限り、どーしよーもない父親なのだが、当時のク
ズ的行状を余すところ描きながらも、そこはかとない愛情…というか、いたわ
り、かな?…を感じさせる描写となっていて、読んでいて決して不快な感じは
ない。
吾妻ひでお『失踪日記』、あるいはかつての私小説のように、作家が、自身
の自堕落や凋落、あるいは精神的に追い詰められた経験を描いたものは多いが、
それを、実の娘の視点から描いた、というのは…あ、あるわ、萩原葉子『蕁麻
の家』も、そうだ。
『蕁麻の家』もまた、生活力皆無の父・朔太郎の、社会不適格者さながらの
行状描きながらも、やはりいたわりに近い愛情に満ちた小説でありました。
『ド根性ガエルの娘』は、2015年から「週刊アスキー」で連載が始まったも
のの、いまいち人気が出ず、その後連載媒体を白泉社のWEBサイト、さらに同
じ白泉社の漫画アプリと媒体を転々としたらしく、単行本も、当初は2巻だけ、
しかも電子媒体だけだったらしいが、徐々に人気が上がり紙版の単行本も発売、
巻数もさらに重ねて、全7巻で完結、となったらしい。
まだ1巻しか読んでないのだが、これは、全部読まねばな、と覚悟を決めた
のでありました。
単行本「1巻」巻末には、作者・大月悠祐子と、漫画家・大島永遠の対談ペ
ージがある。
大島永遠、という漫画家、わしは不覚にも知らなかったのだが、なんと、あ
の「大島やすいち」の、実の娘だという。
しかも、大島永遠は、その父親はもちろんそうだが、母親(川島れいこ)、
妹(三島弥生)と、一家4人全員が漫画家、という漫画家一家で、その家族の
生態を描いた『まんがかぞく』という作品を、すでにものしている、らしい。
同じ「漫画家の娘」で「現役漫画家」、しかも二人ともその家族を題材に作
品化している、ということで企画された「対談」ページだったようだ。
どうやら、わしが知らないだけで「二世漫画家」は、すでに結構な数で誕生
してるみたいだ。
これは、『まんがかぞく』の方も、「読んでみねば」と、読書計画を練る初
秋なのであります。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「日記をつけるように本の紹介を書く」/多呂さ
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第137回 東日本大震災のとき、被災地の図書館はどうなったのか
東日本大震災において被災地の図書館はどうなっていたのだろう、どのよう
に再開館したのだろう、という疑問が前からあった。執筆子が実際に見たのは
震災後3年経った宮城県東松島市の東松島市立図書館だけであるが、その時の
印象はとても鮮やかに覚えている。立派に復旧復興しており、震災関連の情報
の収集と保存にも力を入れている感じがとても伝わってきた。
岩手県、宮城県、福島県の被災三県の図書館員たちの手記を集めた本を探し
当てたときには、少し興奮した。こういう本を読んでみたかった。
『東日本大震災 あの時の図書館員たち』(日本図書館協会「東日本大震災
あの時の図書館員たち」編集委員会 編)(日本図書館協会)(2020年3月11日)
震災からまる9年経った日が発行日となっている。
本書は本文が大きく2編に分かれている。前半は各図書館の被害状況と復旧
状況をその図書館の司書たちがそれぞれ綴った手記。後半は本書の発行元であ
る日本図書館協会がどのように組織的に被災図書館を支援し、どう継続して支
援したかについて書かれている。できれば、後半の日本図書館協会の支援から
読み始めた方がよい。被害に直接遭遇したわけではない読者は、同じように直
接経験していない組織が紆余曲折しながらどのように支援していくのか、その
姿を辿った方が、前半の各図書館の被害についてより理解が深まると思うから
である。
その後半部分である「日本図書館協会による被災地支援」の章は、関係者の
座談会という形で始まる。その中で、特に印象的なことがいくつか語られてい
た。
被災地の図書館は、津波で所蔵している資料がすべて流されてしまった図書
館もある。図書を揃える支援はだれでもすぐに思いつくが、新聞のバックナン
バーの支援にはなかなか思い至らない。日本図書協会は日本新聞協会に渉りを
つけて、欠号になっている新聞および3月11日以降(販売店も被災しているの
で配達できない)の新聞を提供してもらうことができた。
被災した図書館の被害は、津波で資料が散逸したり、汚本で破棄しなければ
ならないことばかりではない。地震により、天井が落下し、照明機器がこなご
なになってガラス片が所蔵している資料に降りかかる。そしてそれらガラスの
破片を一冊ごと、一頁ごと取り除く、という地味で時間のかかる作業もある。
こういう被害に遭った図書館では、そのようなことになった資料をまとめて東
京の図書館協会に送った。協会では東京でボランティアを募り、それらガラス
片の資料を頁ごとに刷毛で丁寧に拭う作業をした。
また地域の歴史的資料は、その図書館にしか所蔵がない、ということが多い。
したがって、その価値ある歴史資料が被災してしまったとき、それら汚本で水
濡れ本の資料をどうにか修理復活させなければならない。瓦礫として捨てられ
る前に救出して、修理専門機関へ繋げることもしている。
いずれも素晴らしい協力なのだ。
このような支援体制が構築されているのだ、ということを理解した上で、前
半の記述である「県別状況」をみる。
数々の悲惨な状況がある。岩手県では、陸前高田市立図書館は建物ごとなく
なってしまい、館長以下図書館員全員の死亡が確認されている。また大槌町立
図書館、大船渡市立三陸公民館図書室、野田村立図書館も図書館ごとなくなっ
てしまった。宮城県では、南三陸町立図書館がなくなってしまった。福島県は、
流された図書館はなかったが、富岡町図書館、大熊町図書館、双葉町図書館、
浪江町図書館の4館が現在も休館中である。この4館は、福島第一原発事故の
警戒区域内にある。
それぞれの図書館は悲喜こもごも。みんなの支援と協力によって、ようやく
立ち直り、通常開館ができた、と喜ぶ図書館もあれば、再開館に漕ぎつけたこ
とはいいが、民間業者(指定管理)による運営のため、図書館員としてはあり
えない運営が行われてしまっている図書館もあるようだ。曰く「私たちは図書
館を失いました」。
大災害を経験したと図書館員たちの経験から出てくるさまざまな意見には、
傾聴に値するものが多い。
完全開館がすべてではなく、部分開館(外や玄関などの軒下での営業)、団
体貸出、移動図書館車の活用、避難所での出張開館など、図書館のサービスの
バリエーションを生かすことはとても大切だと思う。
また、被災した場所に建つ図書館は、災害時の資料の収集に努めた、という
図書館員の証言があった。どんなものでもいいから、発災後に紙に書かれた文
字のものをできる限り収集する。避難所に掲示された情報(食料配布、さまざ
まな品物の配給、安否確認の情報など)やボランティアの情報など、その時そ
の瞬間に役に立つものであるが、終わってしまえばただの紙切れになってしま
うようなものを収集した。これなぞは、資料の保存という観点でみれば、何年
後には、第一級の史料になるものばかりである。図書館は資料を開示するばか
りではない。資料を収集して後世に残すことも大事な任務だ、ということをあ
らためて認識させられた。
また、被災者の証言をまとめる、当時の写真をデータで保存する、など震災
のアーカイブを作ることも図書館が中心になっておこなった。素晴らしい行為
だと思う。
図書館が所蔵している資料を避難所に置くことはとても有意義なサービスだ
と思うが、置く資料に少し注意を要するようだ。死や事故を直接に表現するよ
うなものは敬遠される。むしろ苦情がくるかもしれない。百科事典や全集は避
難生活にそぐわない。また料理や編み物の本はやりたくてもできないから、誰
も手に取らなかったという。新聞、雑誌、地図、電話帳、各種パンフレット、
それから冠婚葬祭(特に葬儀関係)の資料に人気が集まった、と分析している。
本書は、まだ被災していない、災害によって被害を受けていない図書館の関
係者が読むべき本である。本書をとっかかりにして、被災した図書館員たちと
つながることが“図書館防災”につながるのだろうと考えた。
多呂さ(緊急事態宣言がまだ続いております。そして医療崩壊にもなってしま
いました。政府はこの一年、いったい何をしていたのでしょうか。すべてがむ
なしく感じられます)
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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122 大人の役割をまっとうする
本を夢中になって読むのはいい時間を過ごしている事。
本を読むのも体力気力が必要なので、加齢に伴い以前より夢中になることが
少なくなってきているので、読んでいる間中ドキドキして展開に胸躍らせる時
間は心からいいものでした。
『星天の兄弟』 菅野雪虫 東京創元社
書き下ろしの長篇ファンタジー作品。
2005年に『ソニンと燕になった王子』で第46回講談社児童文学新人賞を受賞、
翌年に『天山の巫女ソニン1 黄金の燕』と改題して刊行。それ以来、ずっと
注目している作家の新作です。
アジアを思わせるある王国の小さな村に、学者家族が住んでいました。父親
は大変高潔な人物で、権力からも距離をもつことを意識し、慎ましく生活を送
っていました。最初に結婚した妻は病気で早くに亡くなり、息子と2人で暮ら
していたのですが、いい縁があり、再婚した妻との間にも男の子が生まれ、2
人の息子と4人で暮らしていました。
ところが、気をつけていたにも関わらず、政治のいざこざに否応なく巻き込
まれてしまい、無実の罪で父親は牢に繋がれてしまいます。小さな村ゆえ、本
当はどうだったのかという事実よりも、罪人になったということが大きなこと
となり、罪人の家族となった子どもたちは、ずっと後ろ指をさされることにな
ります。
2人の息子、海石(ヘソク)と海蓮(ヘリョン)は6歳違い。賢く華のある
2人はとても仲の良い兄弟でしたが、父親が罪人となってしまってから、その
関係性が変わっていきます。
一行一行で物語がぐいぐい動き、ヘソクとヘリョンが魅力的に成長していく
まぶしさと共に、父親はどうなるのだろうという不穏が並行し、先の展開に、
目を離せません。
学者だった父親は塾を開いていて、たくさんの子弟が訪れ賑やかにすごして
いたのですが、牢に入ってしまうと、それまで仲よくしていた近所の人たちが
手のひらを返すような態度をとる様は、読んでいて辛くなります。
兄のヘソクは当時十二歳。弟や母を助けていこうと必死です。
誰かひとりだけが背負ってしまうのは重すぎても、家族の中で長男という立
場のヘソクは、自分にできることを強く意識します。けれど、その重圧は十二
歳の子どもが耐え続けるのは難しすぎました。
ヤングケアラーという言葉を思い出しました。名称がつくことで、ここ最近
新聞などでもとりあげられるようになり、本来は大人がする仕事や家事を、担
う大人が不在故、子どもが背負っている現状です。ヘソクもそうなっていまし
た。
心をやられないためには、家族から離れることも大事。賢いヘソクがどこま
で見越していたのか、彼のとる行動は後になればなるほど納得できます。
そしてヘリョン。
ヘリョンはヘソク以上に人間力を感じます。もちろん比較する必要はないの
ですが、2人だけの兄弟が6歳違いという年齢差で、それぞれの見えるものが
違うということろも、作者は細かく描きます。
兄は家に降ってきた厄災を受け止め母親と弟を支え、後に様々な尽力で家に
戻ることができた父親も受け止めます。けれど、ヘリョンは父親を丸ごと受け
止めることはできませんでした。知的で周りに慕われていた時の父親を、ヘリ
ョンは知らないからです。厳しい牢での生活ですっかり老いてしまい、心も疲
れさせた父親に、昔の面影はありません。
兄弟2人とも、親思いで賢く見目麗しい。けれど、無理な我慢はし続けなか
った。ある意味それは清々しく、それぞれに自分の進む道を切り開いていくと
ころは、読んでいるものの気持ちも鼓舞させます。
苦しい展開になっても向日性を失わないのが2人の強さ。
辛く苦しいことを理由に闇に向かわせない
人間のもつ屈託のなさを丁寧に描きます。
うーん、それにしても1冊でまとめるにはもったいない話です。
本当は3人きょうだいにしたかったけれど、ページ数の関係で2人にしたと
菅野さんがSNSで書かれていましたが、3人の話も読んでみたかった。
あとこの物語の魅力は大人がかっこいいこと。(嫌な大人もいますが)
私の推しは愛嬌(エギョン)。父親の教え子で成功した商人である斗靖(ド
ジョン)の家の使用人だったエギョンは、父親を助けて欲しいと願いに来た、
ヘソクとヘリョンに好感をもち、後に、ドギョン家を出て、ヘソクたちの家に
家政婦としてやってくるのです。それ以来、エギョンは2人をずっと支え続け
ます。
ヘリョンがあることを成し遂げるために、危険な戦いに関わることになった
時もエギョンは側で支えてくれます。いよいよ厳しい時を迎えるとき、ヘリョ
ンはエギョンに感謝の気持ちを伝えると、エギョンの返す言葉がこれです。
「そんなの、大人が子どもにする当たり前のことですよ。当たり前のことに、
お礼はいりません」
そしてエギョンは自分の意志で戦いのある危険な場所に来たのだと、誰かに
命令されたわけでないのだといいます。
(自分で生きる場所も死ぬ場所も選べるなんて幸せな女、そういませんよ)
そう心でいうエギョン。
自分ではどうすることもない運命を引き受けて生きるヘソクとヘリョンと共
にエギョン他、かっこいい大人が何人も出てくるファンタジー。
たくさんの人に読まれる物語になりますように!
続編も希望します。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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■献本読者書評のコーナー(応募要項)
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
http://www.yui-books.com/wordpress/index.php/2021/03/02/books_haiji/
参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、
・希望の書籍名:
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表題【読者書評参加希望】
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皆さんのご応募、お待ちしております。
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このコーナーの仕組みはとてもカンタンです。
1)まず、出版社の皆様より、献本を募ります。冊数は何冊でもOKです。下記
まで御自由にお送り下さい。(著者の皆様からの直接の献本はご遠慮くださ
い。かならず出版社からの献本をお願い致します。)
*送付先が変わりました!*
〒104-0061 東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5階
一般社団法人日本支援対話学会内 支援対話図書館献本係
2)このメルマガ上で、その本を読んで、書評を書きたいという方を募集します。
先着ではなく、文章執筆実績と熱意優先で選ばせていただきます。(過去に
執筆された文章などございましたら、合わせて御連絡ください。)
3)発行委員会はいただいたメールの中から、ピックアップし、献本いただいた
本を送付します。(残念ながら提供いただいた冊数に応募数が満たない場合
には、60日後に古本屋に売却します。)
4)ちなみにここでいう書評というのは、当メルマガに掲載する記事ではありま
せん。送付先御本人分のブログ、あるいはアマゾンや楽天などのオンライン
書店でも結構ですし、ブクログなど、専用のサイトでも構いません。つまり
は当メルマガではないどこかリンクのできる外部に書評をアップお願いしま
す。(あまりにも短いものは書評とは呼べませんので、文字数の条件を設け
ました。書評は500字以上でお願い致します。)
5)献本を受け取った方は、1ヵ月後のメルマガ発行日までに、どこかに書評を
掲載し、そのURLを発行委員会に送付します。(もし、本を受け取りなが
ら期日までに書評を書かない場合には、以降、送付は致しません。
6)ちょうど一ヵ月後のメルマガにて、書いていただいた書評のURLを紹介さ
せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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あとがきに書くことを考えて5分…。考えても何も出てこないので、ありの
ままを書いてみました…。(あ)
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です
★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』(佐藤愛子著 小学館刊)
★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ #135『呪い』
★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『アンブレイカブル』柳広司 KADOKAWA
★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!
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■トピックス
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■『あたらしいお金の教科書』出版記念 おめでトーーク!!
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EMSiFellowおめでトーク!とは、EMS本質行動学基礎原理コース修了生であ
るFellow有志による記者会見YouTubeライブ配信です。ご興味あれば、どなた
でもリアルタイムで視聴することができます。
3期参加、EMS講師でもあり、株式会社eumo(ユーモ)代表取締役の新井和宏
さんの新書『あたらしいお金の教科書』が出版されました!
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ありがとうの循環、共感資本社会へ向かう新井さんの目指す世界はもちろん、
その根底となる愛あるお人柄にも触れていただきたく、一人でも多くの皆様に
ご覧いただきたいと思います!
日時:2021年8月28日土曜日 21:00〜21:45
主催:EMSiFellowおめでトーク!実行委員会
参加方法:下記、公式ページにチャンネル登録いただくことで、ライブ配信
に御参加いただくことができます。
https://www.youtube.com/channel/UCddhKviJYVbSBY
イベント詳細:https://www.facebook.com/events/246797463962717
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■今回の献本読者書評のコーナー
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この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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憲兵は、今もいる
『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』
(佐藤愛子著 小学館刊)
寝る前に気楽に読める本を探して、ここはやはり佐藤愛子さんに頼りましょ
うとアマゾった本です。さらに言うなら、就寝前のスマホ三昧→寝落ちの悪し
き生活習慣を緩和する意図もありました。すみません、佐藤さん。
この本をもって断筆すると宣言した佐藤さん。
これまでも何度も、「これで店じまい」と言ってこられた気がしますが、閉
店の意志が固いことは、この本のタイトルがご自身の代表作「戦いすんで日が
暮れて」をもじっていることからわかります。
長い間、私たち読者を楽しませてくださり、共感できる怒りを描いてくださ
って本当にありがとうございました。佐藤さんの作品を読んでクスクス笑い、
「そうだそうだ」と思いを共にする時間は私たちに励ましを与えてくださいま
した。感謝無限大でございます。
読み始めるといつも通りの軽妙な文体のエッセイ。私はダメだダメだといい
ながら暮らす毎日の楽しさ、おもしろさ。
おばちゃまは大作の「血脈」も読んでいるから(自慢)、佐藤さんのこれま
での歴史も家族もだいたい知ってるの。だから知らないことがなにもないから
(近所の人か!)読みやすい読みやすい。
だけどね。
佐藤愛子をなめたらあかん。
あと、本てのは最後まで読まないとあかんで。
「ああおもしろかった」で終わるはずのエッセイが後半に向けてぐっと深くな
るんです。
それが『千代女外伝』あたりから。小学生のときに「朝顔に釣瓶取られても
らひ水」の感想を問われて答えに詰まった佐藤さん。優等生の西さんはスラス
ラと千代女のやさしさについて答えるが、隣の席の大平さんが「私は千代女は
わざとらしいから好かん」という。西さんは軍人の妻となり戦争未亡人となり、
大平さんも結婚したがすでに鬼籍に入っているという話。戦争によって人生を
変えられた身近な女性たちを描いて、ふうっ〜とため息を吐きました。
そして「釈然としない話」。
森喜朗さんの失言に端を発した思い出話から。女学生時代、電車内で「真珠
湾はだまし討ちやないの」と電車の中で大きな声で言ってたら、友達が、どこ
で誰が聞いているかわからないからやめろといい、「憲兵にひっぱられるよ」
と忠告します。(憲兵の意味が分からない方は検索してください)。
「どこに憲兵がいる?」
「どこって……どこにでもおるんよ。憲兵の服着てなくても、普通の人でも用
心せなあかん。いいつけに行きよるからね」
そしてこう述べます。
「今、憲兵はいない。非国民も国賊もいない。国家権力は弱まり、我々は自由
平等を与えられた。何をしてもいい。何をいってもいい。自分に正直ならそれ
でいい。
そう思って油断をしていたら、いきなり足もとが崩れる危険がそこいら中に
潜んでいる。そんな時代になったらしい。憲兵はいないが、それよりも厄介な
のはしたり顔のメディアが権威(のようなもの)を持つようになっていて、そ
してその背後には大衆の津波のような力が控えていて、お互いわかり合った仲
間だと思っていると、一瞬にして風向きが変って押し寄せる大波に吞み込まれ
てしまう。」
そして、「この国の知性に対して釈然としない」と結んでいます。
その通りではないでしょうか。
森さんもそうですが、金メダルかじった知事にしても、ボクシングを揶揄し
たご意見番に対しても失言は失言としても批判があまりにも長すぎ、執拗すぎ、
激しすぎ、そしてその背後には中高年男性と高齢者への嫌悪感に満ちたバッシ
ングがあるように思えます。
大衆のバッシングでいうなら、皇族女性と婚約した1人の未来ある若者が、
法律を犯したわけでもないのに、自分の責任ではないことを理由にこれほど長
期にわたって批判され続けるのもおかしいことだと思います。
佐藤愛子さんに長く楽しませていただいたお礼として、おばちゃま、これか
らは釈然としないことは釈然としないと言うことに微力を尽くす所存です。
憲兵、出てこいや!
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#135『呪い』
残暑お見舞い申し上げます。
オリンピックが終わった途端の長雨。
それが終われば、また猛暑と共にパラリンピックの8月後半、いかがお過ご
しですか?
コロナも感染爆発とかで、今年のお盆もステイホームいたしました。
しかし、その裏ではオリンピックを開催することで、みんなで盛り上がろう
ぜ、と発信したも同然。
心理学者の先生もおっしゃっていましたが、こういうのを認知的不協和と言
うそうで、つまり矛盾した命令が下されている訳です。
そうなると人間は自分にとって都合のいい方に従うらしく、だから緊急事態
宣言が効果を失っているんだとか。
似た話で、ダブルバインドというのもありましたね。長い間矛盾した状況に
さらされると、心が病んでしまうという理論。
コロナのいらいら+暑さのいらいらで、ダブルストレス。
そして、自粛+お祭りのダブルバインド。
小田急線車内でも事件がありました。
心が荒れてくると、やはり「呪い」の感情が芽生えてしまうんでしょうか。
日本では古くから丑の刻参りの呪法が有名で、深夜、神社の境内で藁人形を
五寸釘で打ち付ける女を見た、なんて怪談がお馴染み。
そう、夏と言えば怪談です。呪いなどというものは、やはりお話として楽し
むべきで、実行してはいけません。
人を呪わば穴二つとも言います。やがては自分に跳ね返るもの。
ヨーロッパにも、呪いをテーマにした小説はたくさんあります。ゴシックロ
マンなどと呼ばれていますが、あれはまさしく西洋怪談。
ところが、この西洋怪談風に始まりながら、最後に本格ミステリーになると
いう小説があるんです。
「皆川博子先生推薦」の惹句に釣られて、随分前に購入した本書、『呪い』で
す。
著者はフランスの名コンビ推理作家・ボワロ&ナルスジャック。
このお二人は何度か映画化されている『悪魔のような女』の作者でもありま
すね。
舞台はフランスの片田舎で、季節は冬ですから、荒涼と寒々しい世界観。こ
の暑さを忘れるにもちょうどいいのではないでしょうか。
主な登場人物はたったの三人。獣医のフランソワ、その妻エリアーヌ、そし
てアフリカ帰りの妖艶なる美女ミリアン。したがって物語は、当然のごとく三
角関係に発展し、『悪魔のような女』を彷彿とさせます。
しかし、同工異曲ではありませんから、ご安心を。
もう一人、重要なキャラクターが出て来ます。
いや、もう一頭か。
ミリアンがアフリカから連れ帰った、ニエテというチーターなんです。
これが実にいい芝居をいたします。
美女とチーター。そう言えば昔、カロリーメイトのCMで、満島ひかりが一
緒に歩いたのは、この動物ではなかったでしょうか。何でも、スタッフは合成
するつもりだったのに、ご本人が本物と共演するならやってもいい、と言った
とか。満島ひかり、さすがの女優魂ですね。
この小説はいわゆる書簡体小説。つまり、獣医フランソワが弁護士に宛てて
書いた手紙という体裁になっています。
そして最後に、妻エリアーヌの書いた手紙が2通。
これで全編を構成しています。
なので、当書評も今回は、手紙文体でお届けしているという次第。
さて、物語は獣医フランソワが、ミリアンの依頼でニエテの診察に訪れるこ
とから始まります。
暑いアフリカから寒いフランスへ。チーターが体調を崩しても当たり前です
よね。
こうして出会った二人ですが、もちろんフランソワはミリアンに惹かれ、関
係を持ちます。
ところがミリアンには以前夫がおり、アフリカで事故に遭い、死んでいるこ
とがわかります。
しかも、彼女は画家なのですが、その事故現場を絵に描いているばかりか、
それに目を留めたフランソワから隠してしまうんです。
いかにも怪しい。
こうしてフランソワはミリアンに得体の知れないものを感じ始め、また妻エ
リアーヌへの後ろめたさがつのってきます。
やはりこれは浮気に過ぎず、最後は妻の下に帰るんだと考え始める男の身勝
手。
それを女の本能で察知したミリアンは、いずれ離婚して一緒にアフリカで暮
らそうと迫りだす。自業自得の板挟み。
この辺りの心理をフランソワは手紙の中で冷静に自己分析します。そこまで
わかっていながら、なんで、という気もしますが、わかっちゃいるけどやめら
れない、という青島幸男の名文句にもあるように、どうにも逃れようもなく情
事の泥沼にはまっていきます。
するとフランソワの留守中、自宅にいたエリアーヌの身に不審な事故が起こ
り、危うく一命を取り留めるという事件が。しかし、ミリアンが手を下したは
ずはない。なぜなら、ここが設定のうまいところですが、彼女は本土から離れ
た小島に住んでいて、その間に干潮の時だけ道が出来るんですね。潮の流れが
強いため船ではむしろ遠回りになり、ここをクルマで駆け抜けるのが最も近道
なんです。
そしてエリアーヌが奇禍に遭った時間に、ミリアンがその場にいることは、
干潮の時刻の関係で不可能。すなわち、アリバイがある。
しかし、フランソワはミリアンに対する疑惑を拭えません。彼はそれまでに、
ミリアンの下女であるロンガの言動や、興味を惹かれて読んだアフリカ関連書
物の知識から、暗黒大陸になお生き続ける呪術の伝統があることを知っている
からです。
もしかするとミリアンは、アフリカの呪術に精通していて、かつて夫を事故
に見せかけて殺し、いままたエリアーヌを葬って自分と結婚しようと企んでい
るのではないか。
この疑惑が真実なら、本書は普通のゴシックロマンです。
でも、本格推理でもあるとするなら、やはり合理的に解決されるはず。
その解決は、もちろんネタバレですから書けませんが、しかし、本書の魅力
は結末のどんでん返しにあると言うより、そこに至るフランソワの苦悩や恐怖
の心理描写にあると思います。この辺り、近代的な心理小説の扉を開いた『ボ
バリー夫人』を産んだフランスならでは。
特にアフリカという人類発祥の地の文化や、干潮時にだけ道が通じる島とい
う特殊な地理、そしてエリアーヌに及ぶ危険が井戸や地下室がらみであること
は、すべて無意識の領域が表層意識を侵犯していることの隠喩と解釈できます。
でも、通俗的な心理学的解釈に加えて、ここでは社会学的な視点を加えてみ
たい。
と言いますのも、先日、フランスにおける人種差別問題をレポートした本を
読んだからです。
そう、アフリカはフランスにとって、植民地だった。いや、本書が出版され
たのは1961年ですから、国によってはまだ独立していません。
実際、本書でも登場人物の一人がミリアンをフランソワに紹介する時、
「奇妙な女でね……植民地で生まれたんですよ……植民地などといっても気を
悪くなさらないでしょうね」
と言っています。
つまり、現在形の植民地だったようなのです。
そしてもうひとつ重要なのは、「気を悪くする」という言葉です。
このニュアンスはややわかりにくいですが、何かしらの屈託が当時のフラン
ス人にもあったことは確かです。
そして21世紀の現在、フランスはアフリカやアラブからの移民、難民を抱え、
それが大きな社会問題になっていると同時に、人種差別感情が高まっています。
ただ、興味深いのは、フランス人は、アフリカより、アラブの移民難民に対
して冷たく、その理由はアフリカがかつて植民地だったことに後ろめたさを感
じるからだ、ということです。
宗主国の国民が植民地に抱く感情は、人種的優越感もあるでしょうが、その
裏に帝国主義への反省と罪悪感もある。そういう複雑な二重性を持っているこ
とに改めて気づかされます。
日本も昔は朝鮮という植民地を持っていました。
中国の東北地方には、満州という傀儡国家までつくりました。
だからいまも、中国人や朝鮮人に対し、複雑な感情を持っています。韓流や
華流ブームと、その対局にあるヘイト・スピーチの両端を、微妙なバランスで
振り子が揺れています。フランスの状況も、決して他人事ではありません。
帝国主義的侵略の傷跡は、侵略した側にも深い傷を残し、それはなかなか癒
えないもののようです。
植民地生まれの女が植民地的呪術をもって、自分の妻を殺すのではないか、
という主人公の怯えは、まったく非合理的です。獣医という理系の職業であり
ながら、どうして彼がこんな子どもじみた妄想に捉われるのか。
その背景には、植民地に対する両義的な感情、矛盾した感情があるからとし
か思えません。
憧れでもあり怖れでもある。蔑むと同時に崇拝もしている。
これもまた認知的不協和なのでしょうか……
ともあれ、本書において、そんな植民地アフリカの呪術文化を象徴するのが、
音楽なのです。
例えば、フランソワとミリアンの、こんなやりとり。
「「以前は黒人たちとよくつきあったのかい?」
「ええ、とても。私がごく小さかったころ家に下女がいたの……ンドゥアラと
いう……。奇妙な女だったわ。私はいつもこの女と一緒だった。父は決して家
にいなかったし、母はよく外出したのよ。だからンドゥアラは私のことを自分
の娘みたいに扱ったものよ」
「どういう点が奇妙だったの?」
「どんなことでも知っているの……ありとあらゆる種類の秘法を……たとえば
花を咲かせるとか、雨を止めさせるとか」
「本気なのかい?」
ミリアンは首筋の下で両手を組み、樅の木越しに空を見上げました。それか
ら彼女は、アラビア人の朗誦に似た奇妙な歌を口ずさみはじめました。
ヤ・ンゲ・ントジーア・シェニヤ、シェニヤ
ニ・シェニヤ・ムシェニヤ・ヌング
ニ・シェニエラ・ク・マルンドゥ
ヤ・ンゲ・ントジーア・シェニヤ、シェニヤ……
「これはね、夕べの精霊を追いはらうためなの。ンドゥアラは私のベッドのそ
ばでこの歌をうたってくれた。もう一つあるわ、浮気な婚約者の男を引き留め
る歌よ」
ムンディア、ムラ・カテマ
シルメ・シ・クワタ・ク・アングラ
ムンディア、ムラ・カテマ……」
そして物語のクライマックス。
島から本土へ、フランソワとミリアンが、クルマでひた走る場面。
カーラジオから流れるのは、ジャズです。
「不意に太鼓の音がそのリズムで空間を満たし、トランペットがわめく。ミリ
アンがラジオのスイッチを入れたのです。真鍮楽器の音、ドラムのシンコペイ
ションとともに、おだやかな夜の風景が、背の低い農家、古い風車、タマリス
の茂みがすべって行きました。ミリアンはのんびりと、頭を軽くのけぞらせて、
右手の指で音楽のリズムに合わせてハンドルを叩きながら運転していました。
彼女は幸福そうでした」
ジャズは必ずしもアフリカ由来の音楽ではありません。しかしここでミリア
ンが、特にリズムに反応していることが重要です。
ごく図式的に言うなら、ジャズはアフリカのリズムと音階が、ヨーロッパ的
な和声を取り入れ、それを大胆に敷衍することで発展した音楽です。
ミリアンが幸福を感じているのは、やはりアフリカ由来のリズムなのです。
この後、事態は劇的に展開しますが、ラジオは終始ジャズを鳴らし続けます。
この演出はむしろ映画向きで、小説ではなかなか難しいのですが、ボアロ&
ナルスジャックは描写の中でしばしばジャズに言及することで、小説として可
能な限り、読者にジャズが鳴り続けていることを思い出させています。
ミリアンとフランソワの争いが、植民地と宗主国の相克の隠喩だというのは、
牽強付会に過ぎるでしょう。
少なくとも時代的に、著者の意図はそこまでではなかったと思います。
しかし、さまざまな人種が集うオリンピックが終わり、次はパラリンピック
が始まるいまだからこそ、こんな読み方があってもいいのではないでしょうか?
末筆ながら、みなさまのご健康と、ステイホームによる、読書生活のますま
すの充実を祈念いたします。
ボアロ&ナルスジャック
大久保和郎 訳
『呪い』
1963年4月19日 初版
2000年4月14日 12版
創元推理文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
オリンピックは殆ど見ず仕舞いでしたが、今回に限ったことではなく、いつも
そう。単にスポーツに興味がないのです。でも、たまたまテレビをつけた時、
ちょうど始まったサッカー日本vs.スペイン。一試合ぐらいは見ようかなと、
チャンネルをそのままにしていました。大学の頃スペイン語を学んでいたので、
どっちを応援するか悩ましい、と思いつつ、あ、逆に言えばどっちが勝っても
嬉しいな、と思って気楽に見てたんですが、いや、素晴らしいゲームでした。
点がばんばん入るより、ゼロ点でも激しい攻防が続く試合の方が緊迫感あって
面白いんですね。特に日本側がファウルを取られて、あわやPKという時、ビ
デオアシストでファウルが取り消しになった場面、そして延長の最後の最後で
スペイン側が決めた鮮やかなゴールには感動しました。
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『アンブレイカブル』柳広司 KADOKAWA
作者の柳広司氏はいろんな時代、いろんな地域を作品舞台に選ぶ。これは、
おそらく彼の代表作のひとつになるであろう『ジョーカー・ゲーム』と同じ時
代を作品舞台に選んでいる。
この本の紹介文を引用しておく
__________________
1925年、治安維持法成立。太平洋戦争の軍靴が迫るなか、罪状捏造に走る官憲
と、信念を貫く男たちとの闘いが始まった……。
『蟹工船』の取材と執筆に熱中するプロレタリア文学の旗手・小林多喜二。
反社会的、非国民的思想犯として特高に監視される反戦川柳作家・鶴彬(つる
・あきら)同業他社の知人たちに不可思議な失踪が続き、怯える編集者・和田
喜太郎。不遇にありながら、天才的な論考を発表し続ける、稀代の哲学者・三
木清。
法の贄(にえ)となりながら、男たちは己の信念を貫いた。
__________________
これだけ読むと、小林多喜二など実在していた人物が主人公の短編集のよう
に見えるが、彼らは主人公ではない。最初の3編は小林多喜二らにかかわった
人たちが主人公で、敵はクロサキと呼ばれる内務省官僚である。そして最後の
三木清に至っては、クロサキ本人が主人公だ。
小林多喜二が『蟹工船』を書くために、かつて蟹工船に載っていた元乗組員
の2人に取材するが、その2人がクロサキに言われて張った罠を描く「雲雀」
反体制川柳作家、鶴彬がよい憲兵になると信じ、護ろうとするエリート憲兵と
クロサキの攻防を被く「叛徒」
自分の周囲から、忽然と人が消えていく恐怖に震える若き編集者、和田喜太
郎から相談された人物が、何が起きているのか分析を進めていく「虐殺」と続
いて、思想弾圧の実際を見せつける・・・この和田の件は、横浜事件として知
られる。
そして最後の「矜恃」で特高を掌握する内務官僚であるクロサキ本人が主人
公となって当時の思想弾圧をやる側の論理が語られるのだ。
治安維持法はもともと「伝家の宝刀であり、煩雑に持ちてるべきではない」
という注釈つきで成立した法律だ。そして特高警察も「過激な社会主義運動」
が取り締まりの対象でしかなかった。しかし初適用となった昭和2年の京都学
連事件から特高と治安維持法を両輪とした弾圧装置として機能していく。
この頃は、まだ弾圧の対象となる日本共産党があった。日本の赤色化を防ぐ
のは自分たちだと特高警察官たちの志気は高く、予算は出せば通る状態で成果
も出たから組織の雰囲気も明るかった。その頃から違法な取り調べは普通にあ
って、小林多喜二は昭和8年に虐殺される。
しかし昭和10年に共産党が壊滅すると、国内から弾圧の対象はほぼいなくな
った。官僚機構は肥大化することはあっても、自ら縮小することはない。その
ため、特高は言いがかりといってよいような難癖をつけて思想犯罪をでっち上
げ、取り締まるようになっていく。
取り締まりのネタは、待っていれば持ち込まれる。自分の気に入らない奴の
言説に難癖をつけて通報してくる者はいくらでもいる。小説中では、そんな通
報が年々増えて、クロサキでさえ処理に困っているのである。
そんな通報と不当な罪の捏造で捕まり、獄死した鶴彬は昭和13年没、和田喜
太郎は昭和20年2月没、三木清は昭和20年9月没(終戦一ヶ月後でも収監され
ていた)・・・その過程を追う章立てになっている。
ようは凡庸な悪が成長する過程を描いているのだ。そんなわけでジョーカー
ゲームと同様のカタルシスを得たいと思えば裏切られる。が、読んでいて思う
のは、これは決して過去の話ではないなということ。
ネットの炎上案件を見てみると良い。確かにこれは炎上しても仕方がないと
思えるようなものもあるが、なんでこれが炎上するのか、部外者にはまったく
わからないものも多い。あるいは、明らかなデマだとわかる情報発信に、熱心
な支持者が大量に存在することが可視化されてゾッとすることもある。
こうした情報発信に、もし権力が追従していけばどうなるか?間違いなく日
本は、そして世界はこの小説に描かれた世界へ逆戻りである。さすがに今の時
代は牢獄に放り込まれることはないだろうが、家に石投げられるくらいは正当
化される時代にはなるだろう。
そんな時代に『アンブレイカブル』でいるにはどうすべきか?そんな時代が
来る前に、準備くらいはしておいた方が良さそうだ。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■あとがき
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各著者は相談しているわけではないのですが、今号はなぜか奇妙に同じよう
なテーマの号となりました。
それだけ、今の日本の社会というのが怪しい空気になっている、ということ
の兆しなのかもしれません。(あ)
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★「漫画’70s主義〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
→<138>オリンピックの顔と顔
★「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
→121 人生
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→今回はお休みです。
★「人事なショヒョー〜組織とコミュニケーションを考える」/show-z
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■「漫画’70s主義 〜オッサン目線な漫画の地平〜」/太郎吉野
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<138>オリンピックの顔と顔
この稿を書いている現在、東京オリンピック「TOKYO2020」は、たけなわ…
という表現で、いいんだよね?
テレビをつければ、複数のチャンネルで、何らかの競技を中継してるし、新
聞やネットのニュースでも、メダルを取った取らないで、狂騒的にヒートアッ
プ気味だ。
が、しかし、一歩外へ出ると、オリンピックの気配はどこにもない。
ポスターもないし、オリンピック関連の、バナーやなんかの飾りつけも、い
まだに見たことがない。
先日、電車に乗ろうとすると、改札口のモニターに、「本日の阪神甲子園球
場でのプロ野球のチケットは、すべて完売いたしました」との表示。
「え?」と思ったが、オリンピックの期間中は、エキシビジョンマッチを、
やってたのね。
翌日のスポーツ新聞では、オリンピックよりも、そのエキシビジョンで佐藤
輝明が放ったホームランの方が、大きく報じられていた。
尼崎の商店街を歩けば、ここもやはり、オリンピックの気配はみじんもなく
て、あく
まで「タイガース」一本やりだ。
もっともここは、日韓共同開催のサッカーWCの時も、そうだったのだけど。
今回のオリンピックはしかし、確かに、メディアの中でこそ、劇的に盛り上
がってるようなのだが、国内で開催してる、という実感に乏しいこと夥しい。
この感じ…経験があるぞ…と、思ったら、そうなのだ。
前回のリオ大会や、その前のロンドン、などと同じく、海外で開催されてい
る大会を、テレビなどのメディア通じて視聴してた、あれと同じ感覚だ、と思
い当たった。
この「どっか他所でやってる」感、都内や、周辺に住んでいたら、また違う
のかな?
とも思うが、しかしやっぱり、都内在住でも、同じような感覚に襲われてい
る人は、少なくない、と思う。
どうでしょうか? 首都圏の皆様。
これって、コロナの影響だとか、無観客だから、ということとは関係なく、
通常に開催されていても、同じような感覚に襲われていたんじゃないか、とも
思える。
思い返せば、長野冬季大会の時も、同じような感覚を味わっていたです、実
際。
あれは、テレビの中のイベント、と。
趣味嗜好や興味の対象の多様化、ということもあるだろう。
しかし、一番大きな原因と言うのは、オリンピックという存在自体が「小さ
くなった」ことじゃなかろうか?
確かに、大会ごとに参加国や地域は増えている。同じく、大会ごとに競技も
また増えてきている。
しかし、大会規模が大きくなればなるほど、その存在感と言うのは「小さく」
なっているような気がしてならない。
オリンピックは、1980年代に一時、開催に立候補する都市が極端に少なくな
って存続が危ぶまれていたところに、1984年のロサンゼルス大会が「商売」に
大きく舵を切り、大成功を収めて後、その後の大会もすべて「商売」を前面に
押し出すことで、再び活性化した…のだけど、そもそもが、「商売」にしない
と成り立たない、ということ自体が、オリンピックという大会の存在意義が
「小さく」なった証左じゃなかろうか。
決して懐旧趣味ではないのだけど、今回のオリンピック、準備段階からあれ
やこれやでトラブルが続き、挙句の果てにコロナで延期、さらに緊急事態宣言
下で無観客での開催、となると、どうしても、1964年の東京オリンピックと比
べてしまうのだ。
日程にしても、どうせ延期するなら、前回と同じ「10月」としておけば、少
なくとも「無観客」は、免れたかもしれないのにね。
1964年には、7〜8月の東京は「スポーツができる環境にはない」として、
異例の10月開催と決まったのだ。
それを、温暖化であの頃よりもさらに暑くなってる7〜8月の東京で開催、
というのが、そもそも無茶だわ。
1964年には、わしは8歳だったが、オリンピックの記憶は、いまだに鮮烈だ。
なにせ、大会の数年前から、日本中がお祭り騒ぎ。
オリンピックに向けて、東京のみならず、日本中の街のあちこちで「都市改
造」が実施され、いたるところが「工事中」。
オリンピックに間に合うように、新幹線も開通したし、名神高速も完成した。
いまだ白黒での放映が主流だったテレビも、オリンピックがカラーで放送さ
れるとあっては、カラーテレビに買い替えるご家庭が続出…我が家は、残念な
がら、白黒のままだった…
これまた東京のみならず、日本中いたるところに、五輪マークと東京オリン
ピックのエンブレムやポスター、バナーが掲げられ、テレビ、ラジオからは毎
日のように、三波春夫の歌う「東京五輪音頭」が、実にご陽気に流れてきて、
いやがうえにも「お祭り」気分は盛り上がった。
いざ大会が始まると、お祭り気分は最高潮に達し、連日連夜の大騒ぎ。
以前にも書いたことだけど「早く帰ってお家でオリンピックを観戦しましょ
う」と、大会期間中、学校は短縮授業となった。
我が家では、オリンピック終了後に、市川崑監督の記録映画『東京オリンピ
ック』を、神戸・新開地の映画館で一家そろって鑑賞する、という「おまけ」
もついた。
1964年の東京オリンピックは、野球と相撲とプロレスばかりではなく、世の
中には様々なスポーツがある、ということを、日本人に気づかせてくれた大会
でもあった。
この大会から正式種目となり、日本チームが金メダルを獲得した女子バレー
ボールは、監督の「スパルタ」練習と、このチームがモットーとしていた「根
性」とともに、日本中にブームを巻き起こした。
少女漫画誌には、『サインはV!』『アタックNo.1』という「スポコン」漫
画が登場し、掲載紙の「週刊少女フレンド」「週刊マーガレット」というライ
バル誌の部数牽引の先兵として人気を競い、ともにドラマ化、アニメ化もされ
た。
メダルは獲得できなかったものの、水泳の代表選手だった木原光知子選手は、
後にタレントに転向するのだが、アイドル的な人気者となり、女子の競泳をモ
チーフとした漫画『金メダルへのターン』は、「木原光知子監修」と銘打ち、
その木原自身も出演したテレビドラマとのメディアミックスで、これまたブー
ムを巻き起こした。
アマチュアの「レスリング」という種目が、「プロレス」とは別にある、と
多くの日本人が気づいたのも、オリンピックがあったおかげだ。
「プロレス」が「プロ・レスリング」だから、同じようなもの…と思ってテ
レビを観ていると、なんでか「リング」はないし、変なレオタードみたいなユ
ニフォームだし、いつまで経っても「空手チョップ」も「十六文キック」も出
ないし、「?」「?」の連続だったのだけど、いくつかの階級で日本選手が金
メダルを獲得したのをきっかけに、「少年サンデー」では、レスリングに打ち
込む少年を主人公とする『アニマル1』が始まり、これもまたテレビアニメ化
された。
『アニマル1』の主人公は、貧しい家庭の育ちながら、レスリングで、東京
の次の大会、メキシコオリンピックに出場し、さらに金メダルを獲得すること
を目指していて、アニメ版の主題歌には、「がんばれアニマル1、メキシコ目
指して」と、あからさまに歌いこまれてもいた。
1964年の東京大会では、サッカー日本代表が、準々決勝敗退ながらも、予選
リーグで強豪・アルゼンチンを破る、という金星を挙げ、サッカーの人気もま
た、にわかに盛り上がった。
その後、少年誌のいくつかで、相次いでサッカー漫画の連載が立ち上げられ
たのは、やはり、オリンピックがきっかけだった。
振り返って、今回の「TOKYO2020」をきっかけとして、例えば「スケートボ
ード」がブームになったり、あるいはこれをモチーフとした漫画やアニメが立
ち上げられるか?
と言えば、「う〜〜〜ん?」としか言えない。
その存在感とともに、影響力もまた「小さくなった」と言わざるを得ない、
オリンピックなのだった。
存在感が小さくなったのと反比例するように、開会式の式典は、大会ごとに
大掛かりになっているようである。
でもねえ…
あれ、わしは、やめた方が…と思うんですがね。
やたらと過剰で冗長なパフォーマンスや演出は、見ていてしらけるばかり…
だったのは、わしだけじゃないと思う。
ダンスも「ピクトグラム」も「いらん!」と思ってしまったぞ。
聖火リレーにしても、会場に入ってからさらに、3組にわたって、延々とリ
レーさせる…あれ、要ります?
わしゃ、「さっさと火ィつけんかい!」と、思わずテレビに怒鳴ってしまっ
た。
どうせやるなら、音楽から演出から何から、1964年の東京オリンピックをま
んま「再現」してほしかった。
そしたら、開会式直前に、作曲担当を辞任させる、なんてごたごたも無くて
済んだのに。
前述の映画『東京オリンピック』で、その開会式の様子も見ることが出来る
のだけど、シンプル、これ以上ないほどシンプルな式典なんだけど、凄く感動
できることは、請け負う。
見たことない、という人は、是非ぜひ一度、お勧めいたします。
なんだかケチばかりつけてしまったが、ケチのつけついでに言わせてもらえ
ば、国立競技場もまた、新規に建設しないで、甲子園球場みたいに、元の競技
場のリニューアルに留めておけば、あの設計をめぐるゴタゴタも避けられたし、
なにより、金がかからないで済んだのに…とこれは、あのゴタゴタが起きた当
初から、思っておったことなのでした。
太郎吉野(たろう・よしの)
阪神タイガースお膝元在住。右投げ右打ち。趣味は途中下車、時々寝過ごし乗
り越し、最長不倒距離は三重県名張。
ちなみに「阪神タイガース」の「阪神」は、「兵庫県阪神地方」を指します。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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121 人生
立秋を過ぎました。
まだまだ暑いですが、すこしだけ過ごしやすく感じる時も出てきました。
とはいえ、先日打ち合わせで1時間半くらい水分をとらないでいたら、頭痛
がしてきて、急いでたっぷり水分をとり、痛みが和らぎました。
水分補給の大事さをあらためて感じた次第です。
さて今回最初にご紹介するのは、伝記です。
『寺田寅彦と物理学』 池内 了 著 玉川大学出版部
日本の伝記 知のパイオニアシリーズ第2回配本本。
(ちなみに一冊目は『岡倉天心と思想』(大久保喬樹著)です。)
本書のおもしろいところは、故人となっている寺田寅彦氏になりかわって、
著者の池内氏が語るところです。なので主語は「わたし」。
物理学のパイオニアと知られていますが、「物理学」のみならず、関東大震
災が起きたときは、その後の被害状況を詳しく調べ、人災に関連する問題点が
多かったことを指摘するなど、人々の実際の生活に有益なことを調べ上げる仕
事もされています。
また文学に造形が深いばかりでなく、音楽(バイオリンやチェロを弾く)や、
油絵を描くなど、とにかく多才な人物です。
いったいどのような人生をおくられたのか、大人の方が興味をもつかもしれ
ませんが、うれしいことに本書は小学高学年から中学生向けを想定して書かれ
ているので送り仮名もつけられ、読者層を広くしています。
大人目線で読んで興味をもったのは「厄年」です。
神社に行くと、大きく書かれている「厄年」の年齢。大人のみならず、子ど
もにもあてはまる年代があります。
一般的にいいつたえられてきた「厄年」は人生の青年期、中年期、老年期の
3つの時期にありますが、科学的根拠はないので、たんなる迷信といえば迷信
かもとしつつ、生物の成長になぞらえ、老年期については若者から中年への人
間の変態の時期という可能性があり、そのころにいだく精神的疲労と結びつい
ているのではと推測しています。
たしかに、人間の成長期それぞれの年回りに「厄年」をおいて「人びとの生
きざまにたいする警告をあたえている」のかもしれません。
「関東大震災」のくだりは、ぜひ読んでほしいところです。
「天災は忘れた頃にやってくる」というのは、「経験の記憶」が弱くなると、
人間は同じことを繰り返してしまう。それは「広い意味での”学問”が足りな
いため」、あるいは「その日暮らしの料簡で、それを気に掛けないため」では
ないかと問いかけます。
子どもの本棚に伝記本があるのはいいものです。人生の先輩について書かれ
たものを読むと、直接会っていなくても本をとおして得られるものがあるはず
です。
寺田寅彦氏に興味をもった大人の方には
雑誌「窮理」をおすすめします。
https://kyuurisha.com/about_kyuuri/
物理系の科学者が中心になって書いた随筆や評論、歴史譚などを集めた、読
み物を主とした雑誌(年間不定期刊行)で、Kindleでも読むことができます。
(Kindle Unlimited対象本 2021年8月現在)
さぁ、次は愉快な本です
『森の王さま キング・クー』
アダム・ストーワー 作 宮坂宏美訳 小峰書店
イラストたっぷりの読み物で、途中すこしマンガ形式の箇所もあり、手にと
ると一気読みするおもしろさ満載です。
翻訳された宮坂さんは、児童書におけるイラストたっぷり本の第一人者とい
っても過言ではありません。宮坂さんが訳された小峰書店さんから出ているジ
ュディ・モードとなかまたちシリーズも、ストーリーの骨格がしっかりしてい
て、イラストがキュート!春夏秋冬、季節を問わずおすすめです。
と、キング・クーに話を戻します。
表紙を飾っているのが主人公のキング・クーなのですが、男の子にみえませ
んか? ところが女の子なんです。それもひげもじゃの。
ひげもじゃの女の子がキングの名前で活躍するってそれだけでおもしろそう
です。
いじめられっ子のベンが、ある日偶然に森の中にさまよいこみ、キング・ク
ーに出会います。ふたりは協力していじめっ子に立ち向かうのですが、臭い匂
いのするものを中心に、派手なたちまわりに目が離せません。とにかく匂って
きそうな攻撃力は、小さい子どもたちが好きそうです。
小学校低学年から楽しめる、心がすかっとする読み物、ぜひぜひ。
宇宙に民間人もお金さえあれば行けるようになってきていますが、
この絵本は、お金はない宇宙好きなボーイ・ミーツ・ガール絵本です。
『おなじ星をみあげて』
ジャック・ゴールドステイン 作・絵 辻仁成 訳
発行 山烋・春陽堂書店
3人の妹がいるヤコブは、毎日妹たちを公園につれていき、自分は好きな本
読みに熱中しています。食料品店を営む父親は、ヤコブに店を継いでもらいた
いと願っていますが、ヤコブの夢は宇宙飛行士。母親はヤコブの幸せを何より
願っていますが、妹たちの世話をしている時は月の上にいるみたいにぼうっと
して欲しくないと思っています。
いつものように妹たちと公園にいたヤコブは、赤いサンダルをはいたきれい
な足の女の子に出会うのです。
ふたりは同じ本を公園で読んでいました、そう、宇宙の本です。
好きなものが同じということもあり、すぐさま仲よくなるふたり。
さて、彼らの未来は……。
繊細なペン画にのびやかな色合いの水彩がとてもきれいです。
ヤコブの宇宙に対するふかーい愛情、赤いサンダルのアイシャに惹かれてい
くところもニヤニヤしてしまいます。
空は世界につながっていて、夜空の星もそう。
近くにいない大事な人も同じ空の下にいるって考えるのは、なんだかうれし
いことですね。
次ご紹介するのも絵本です。
『ねえ、きいてみて みんなそれぞれちがうから』
ソニア・ソトマイヨール 文
ラファエル・ロペス 絵
すぎもとえみ 訳
世の中は少しずつ変わっていきます。
悪いことも、良くあろうと変化していきます。
生きている時間が短い小さい人にとっては、世界もその分小さく、知らない
ことだらけです。そんな小さい人たちに「ねえ、きいてみて」とこの絵本は語
りかけてくれます。
ソニアは友だちらと庭をつくろうとしています。
いろんな植物をうえながら、人もそれぞれ違うことを伝えます。
ソニアは糖尿病で、一日に数回、血糖値を自分で計り、自分でインスリンを
注射しなくてはいけません。
ぜんそくのラファエルは、息が苦しくなると吸入器で薬を吸います。
自分でそうしようと思っているわけではないのに、体がかってに動いたり、
声が出たりする、トゥレット症候群なのはジュリア。
いろんな人が、それぞれの違いを薬などに助けてもらい暮らしています。
初めて会う人が、たとえば自分で注射するなどしていると、その姿に不思議
に思うことがあるかもしれません。自分のことを説明するのがいやな人もいる
でしょう。
でもこの絵本は、知ることが大事ではと伝えています。
そこで「ねえ、きいてみて」なのです。
まずは知ることが理解の一歩。
長くなってきたのでここからは駆け足に紹介していきます。
『ねえ、きいてみて』の絵本を翻訳された杉本さんは、あかね書房から刊行
されているシロクマシリーズも訳されています。最新作であり最終刊『シロク
マが嵐をこえてきた!』(マリア・ファラー作 ダニエル・リエリー絵)は夏
休みのできごと。今回のミスターP(シロクマ)は誰と出会うでしょう。どの
お話でもミスターPの存在は子どもを守ってつよくしてくれます。
『サヨナラの前に、ギズモにさせてあげたい9のこと』(ベン・デイヴィス
作 杉田七重訳 小学館)は、13歳のジョージが愛犬の高齢ギズモ(犬年齢14
歳、人間でいえば78歳)にサヨナラする前に、最高の一生を送らせてあげたい
とリストをつくります。リストにのせたことを実現させるために、ジョージは
できることを精一杯します。両親の離婚、親友が自分から離れていったことな
ど、ジョージのまわりは、ギズモ以外でもいろいろ問題がおきています。けれ
ど大好きなギズモのために動くジョージのすてきなこと! 登場人物みんな深
く描かれていて、どの人のことも心に残ります。
岩波書店の新刊『くしゃみおじさん』(オルガ・カブラル作 小宮由訳 山
村浩二訳)は絵本と物語の中間くらいの本。本の形状的には物語ですが、ユー
モラスな絵が全ページたっぷり入っているので小学校低学年くらいから楽しめ
ます。
物語はくしゃみおじさんが、特大のくしゃみをして出会う動物ばかりか人間
の子どもたちにも迷惑なことを起こすというもの。くしゃみおじさんのくしゃ
み、どんな力があるのでしょう。
最後はグラフィック・ノベル『THIS ONE SUMMER』(マリコ・タマキ作 ジ
リアン・タマキ絵 三辺律子訳 岩波書店)です。
夏休みにローズは毎年両親と湖岸の別荘地で過ごします。両親の仲はあるこ
とでぎくしゃくしていますが、別荘地で毎年一緒に夏を過ごす、一歳半年下の
ウィンディと過ごすことで、なんとかいつもの楽しさが戻ってきます。
思春期に入ったローズの繊細な気持ちが、映画をみているかのようなカット
で語られていき、ひきこまれました。
最初にご紹介した寺田寅彦氏の本の中で、生物の成長になぞらえて、人間の
生涯にも昆虫の変態のような不連続的な生理的変化があるのではと書かれてい
ます。まさにローズも少女から大人になる独特な時間の中にいます。
寺田氏は漫画についても「漫画は科学と同じく「真」をえがく、あるいは漫
画には科学と同じく「普遍的要素」が見いだせなければならないといっていま
す。グラフィック・ノベルもまた「真」を描き出しているからこそ、注目され
てきているのかもしれません。
思春期の説明しにくい、なにもかもがごった煮でめんどくさいような気持ち
が視覚化されています。ご一読ください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish
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この本の書評を書きたい!という方は、応募要項を御確認の上、ご連絡くだ
さい。
・ウネリウネラ(著)『らくがき』ウネリウネラ
https://books.uneriunera.com/product/191/
・ゆうこ 著『ありがとね-ハイジだより」10年の記録』結エディット
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せていただきます。期日に間に合わない、あるいは書けないという場合、送
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■あとがき
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夏まっさかり。今回の原稿は夏休みもちらほらです。(あ)
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#134『水滸伝』
しかしまあ、なんだね。この間の都議選。
自民が過半数割れしたってぇkど、やっぱ最大党派なんだね。
都民ファーストの方は、小池都知事の個人政党みたいなもんだし、ありゃま
あ予想通り。
けど、菅さんも小池さんも、コロナや五輪関係の対応が批判されているのは
どっこいに見える割に、都民ファーストに比べりゃ、まだまだ自民は強い気が
する。
これ、一体何なんだろうね? この国は、よっぽど自民党が好きなのかい?
いや、好きってよりも、例の「他に入れたい人がいない」「野党は頼りない」
とやつ。お決まりの言い訳で選挙に行かないだけなんだろうな。
その結果、前の首相がモチロモ・カケイがどうの、桜を見る会がどうのって
散々叩かれ、いまの首相がワクチンが遅いとか、五輪の有観客になぜこだわる
とかって叩かれたって、結局政党としては自民党が勝つ。
それで、何やったって選挙には影響しねぇさって、政治家が国民をなめきっ
ていくわけだ。
いや、党ばかりじゃなく、政治家個人も、選挙違反で金ばら撒きゃともかく、
生半可なことじゃあ失脚しないね。いっ時マスコミに叩かれて姿を消しても、
暫くするとしれっと国会議事堂を闊歩してさ。アマリのことに呆れるね。
ところが、中国大衆文学の古典には、なんと、「歌」で失脚する人物が出て
くるんだ。
かの有名なる、『水滸伝』さ。
暫く前に、岩波文庫版全13巻を一気読みしたんだけどね。いやあ、面白いね
ぇ、実に。
特に訳文が素晴らしい。
もともとは、あれ、一人の作家が書いたんじゃないんだってね。講談やら民
間説話で、いろいろな人が別々に語っていた一群の口承文芸を、後からひとま
とめにしたそうだ。それが、宋代、日本で言えば、平安から鎌倉辺りの時代。
だから、主人公もいっぱい出てくるし、いろんな冒険談があるんだね。
それで、訳文も、語りの雰囲気を濃厚に演出したですます調。ところどころ
に「やい講釈師、焦らさないでとっとと言え」なんて客からの野次まで入る凝
りようなのさ。言葉遣いも俗語混じりで、生き生きとした庶民感覚が横溢して
る。素晴らしいじゃないの。
訳者は、吉川幸次郎先生。その後、清水茂先生が引き継いで、長い時間をか
けて完成させてる。労作ってのは、こういう仕事言うんだね。
ところが、吉川先生のあとがきによると、訳文が俗に過ぎるってぇ批判があ
ったってじゃねぇか。
呆れるね。『水滸伝』の成り立ちがわかってりゃあ、到底そんな見当外れの
指摘が出て来るはずねぇんだが。
恐らく、中国文学の古典なんだから、クラシックてぇのはすべからく格調高
くあらねばならぬ、なんて、固定観念がちがちの石頭がつけたいちゃもんなん
だろう。
てやんでぇ、この唐変木(中国ものだけにw)!
物語の大要はあんたも知ってらぁな。権力者やそれにおもねる小悪人どもの
ために、奸計にはまって罪をきせられたり、やむにやまれず罪を犯したりして、
お尋ね者になったあまたの豪傑たちが、梁山泊って言う、天然の要塞に立てこ
もって、領民のための義賊となるお話だ。前半は各地からそれぞれの事情で国
を追われた豪傑たちが、続々と集まってくる次第を、一人ずつ語っている。
その豪傑の一人が、宋江だ。
彼自身は色黒のちびで、武芸のたしなみはないが、書記という、下級なりと
も官吏。賄賂を取って領民をいじめることも簡単な地位にありながら、一切の
汚職をしない。
当然っちゃ当然なんだけど、現代の日本でもキャバクラで遊んだ金を政治資
金から支払う輩がいるからねぇ。
ま、『水滸伝』読んでると、庶民がやたら役人につけ届けをするんだな。ラ
テンアメリカなんかもそうだってっけど、そういう環境で清廉潔白を通すのは
並大抵じゃねぇ。あっぱれ、宋江、ってとこよ。
加えてこの旦那、「男だて」と称される、渡世人なんだが義理人情に厚くて、
武芸に秀でた連中をこよなく愛し、彼らのためなら惜しみなく世話を焼くこと
で知られてる。
それで、宋江が困難な局面に陥った時、彼を敬愛するさまざまな男たちが救
いの手を差し伸べて、やがては梁山泊を率いるリーダーに迎えるってわけさ。
しかし、本来役人だし、年老いた父親もいる孝行息子だ。自分が梁山泊の仲
間になりゃあ、ヤクザ強盗の徒党に組したことになる。当時の習いとして家族
にも累が及ぶのは必定。
ゆえに、簡単には梁山泊に飛び込めない。
それでも艱難辛苦が次々襲って、運命は徐々に彼を梁山泊に押し流していく
んだが、決定的になるのは、宋江が酔った勢いで書いた歌だったってぇのが、
音楽本として面白いところだ。
日本でも、優れた武人はまた詩歌をよくしたそうだ。
和歌を詠んだり、漢詩をつくったり。
いずれ辞世を詠むのが習わしだからなんだろうな。武芸と同じくらい、文芸
は一流の武人に必須の教養として重んじられたらしい。
中国でも、事情は似ていたようだ。
あるいは、他の豪傑たちが、みんな揃って武芸や知略に優れた戦士なのに、
宋江一人がそうした技量や知恵を持ってない。ただその人徳だけで慕われてる
って設定だから、せめて歌ぐらい才能があることにしたのかも知れないな。
ともあれ故郷を追われた彼が、風光明媚なある土地に滞在している折り、一
人楼に上がって酒を飲んだと思いねぇ。
始めの内は美酒を楽しみ、絶景に心を奪われ、気持ちよく盃を重ねていたが、
酔いが深まる内に、やがて心が憂愁に閉ざされていく。
胸を去来するのは、志を何ひとつ遂げない内に、小悪党どもの奸計で、流浪
の身となったわが身の不運。
その鬱屈が、彼を強かに酔わせたのさ。
すると、ふと「西江月の調子の小うたひとふし」が頭に浮かんだ。
恐らく、当時その地方の流行り歌なんだな、そのメロディーに合わせて、酔
いと興に任せて即興で歌詞をつくるってのは、きっとよく行われていたんだな。
部屋の壁には、既に先客たちが記した題詠が、たくさんあるって言うから。
そこで宋江、よし、自分もこれに倣おう、「万一いつか出世して、もう一度
ここをとおりかかり、讀みかえすこともあれば、この年月のよい記念、きょう
のくるしみの思い出ともなるであろう。」と、筆に硯を取り寄せ、白い壁に墨
痕淋漓と記したのは、次の詞。
幼きより曾(か)つて経史(けいし)を攻(おさ)め
長成(ひととな)りても亦(ま)た権謀あり
恰(あたか)も猛き虎荒(すさま)じき丘に臥(ふ)せるが如く
爪と牙を潜め伏(かく)しつつ忍び受(た)えぬ
幸あらずして雙(ふた)つの頬に文(いれずみ)を刺(ほ)られ
那(な)んぞ堪えん配(なが)されて江州に在るに
他(いつ)の年か若(も)し冤仇(えんきゅう)に報ゆるを得ば
血は染めん潯陽(じんよう)の江口(こうこう)
大意はこんな感じだろう。
「子どもの頃から学問を修め、賢い大人になって、虎が待ち伏せするように爪
と牙を隠して機を待っていたのに、不幸にも無実の罪人となって江州に流罪、
いつの日か仇を討つことが出来たら、きっとこの夕陽に染まる大河を、負けず
劣らすの真っ赤な復讐の血で染めてやろう」
宋江はさらにもう一篇、詩も書き加えて、ご丁寧に署名まで残して、楼を去
るんだ。
さて、後日。
偶然この部屋へ酒を飲みに訪れたのが、黄文炳という男。「ついしょう上手
のへつらいもの、度量せまくして、賢人をにくみ能者をそねむのがしごと、自
分よりえらいものはしいたげ、自分に及ばぬものはばかにするというやつ」と、
まあ散々な言われようの小悪党だが、そんな男に、戯れに書き散らした歌を読
まれたのが、運の尽き。
初めの二行は、こいつなかなかの自信家だなと、鼻で笑った黄だったが、次
の二行で、どうもおとなしからぬやつ、と警戒。次の二行で、なんと流罪人だ
ったかと驚き、最後の二行で、一体誰の仇を討つつもりなのか、と怪しむ。
さらにまずかったのは、その後に書きつけた詩。それもまた、現在の不遇を
嘆き、いつの日か志を遂げられたら、と祈る内容なんだが、その中に「黄巣」
の名を引き合いに出してしまっていたんだよ、お立合い。
もちろん黄巣と言えば、皆々様もご存知の通り、唐末、農民を指導して、中
国全土を巻き込んだ大反乱の首領だ。
ここに至って黄文炳も、びっくり仰天。「こやつ無法な、黄巣の上手を行こ
うという。謀反でなくて何とする」
早速、県知事にご注進に及んだわけだ。
話を聞いた知事は、しかし首をひねって、「たかのしれたながしものに、何
ができます。」と相手にしない。
手柄を立てて、何とかてめぇの立身出世につなげたい黄文炳、これでは困る。
知事を焚きつけてやろうと、持ち出したのが、近頃都で流行っているわらべう
ただった。
國を耗(やぶ)るは家木(かぼく)に因(よ)り
刀兵(とうへい)は水工(すいこう)を點(てん)ず
縦横(じゅうおう)三十六
亂を播(ま)くは山東に在り
実は、知事の父親は天下を統べる太閤なんだ。
その太閤が、天文台から不吉な星が出ているという報告を受け、どうも江州
に悪だくみする人間がいるらしい、万事よく気を配れ、と警告する手紙を寄越
したばかりだった。おまけに、こんなわらべうたも流行っていると、書き記し
ていたのが、このうたなんだ。
それを知っている黄文炳、さももっともらしく、
「國を耗(やぶ)るは家木(かぼく)に因(よ)り、これ国家の財政を耗(す)
りへらすものは、必ずウかんむりに木の字、これはっきりと宋の字です。第二
句、刀兵(とうへい)は水工(すいこう)を點(てん)ず、刃ものざたを起こ
すものは、さんずいに工の字、つまりこれ江の字なるにきまりました。」
と強引に解釈する。いや、曲解する。しかも、亂を播(ま)くは山東に在り、
とあるが、偶然にも山東は、宋江の出身地なのだよ。
かくて知事も納得、早速宋江を召し捕えんと、手下を派遣する。
これが元で、いよいよ宋江は梁山泊へ走ることとなるわけだ。
黄文炳の邪な企みが、謀反など考えてもいなかった宋江を、結果として叛乱
へ立ち上がらせてしまう。
権力者と、それにへつらう愚か者は、結局、自らを滅ぼすんだ。
現実にも、そうあってほしいもんだけどねぇ……
そうそう、現実と言や、宋江が書きつけたうたが、解釈によって謀反と誤解
されるのはまだしも、たまたま遠く離れた都で流行ったわらべうたの歌詞が、
宋江の名を暗示していたってぇのは、さすがに現在のリアリズムからすりゃあ
り得ねーわな。
けど、そういうつまんねぇとこに拘泥するより、「家木=宋」「水工=江」
という、漢字ならではの字解きの面白さを楽しみたいもんだ。
近代文学がリアリズムの代償に失くしちまった、奔放な物語の自在な力が、
ここには脈々とあるじゃねぇか。
吉川幸次郎・清水茂 訳
『水滸伝』
(第六冊 巻の三十九 潯陽樓に宋江は反詩を吟じ 梁山泊に戴宗は假信を傳
う より)
1957年1月25日 第1刷発行
1991年12月5日 第25刷発行
岩波文庫
おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
ワクチン1回目接種してきました。夕方から左腕が痛くなり、夜中、熱が出た
らしく、起きたらだるだる。でも、翌朝体温計で計ったら36.7度でしたか
ら、無事下がったようです。副反応が怖いというワクチン反対派の人たちが役
所に乗り込んだりして、騒がしいですが、そもそも決して強制ではないんだし、
そこは各自判断でいいんじゃないかな。自分は接種しない、というのは、ひと
つの見識として尊重しますが、社会にまで強要する必要はないのでは?
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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『「有名人になる」ということ』勝間和代 ディスカヴァー21
ここ半年ほど、YouTubeをラジオ代わりにして単純作業していることが多い。
プレミアム会員になるとCMは挟まらないし、画面をスリープ状態にしても音声
だけは聞こえてくるので聞き流しにちょうどよいのだ。
それで岡田斗司夫氏のYouTubeチャンネルを聞いていると超おすすめされて
いたのがこの本。
10年ほど前に「カツマー」を多数生んで大ブームを巻き起こした勝間和代氏。
当時は、勝間氏に関する毀誉褒貶であふれていた。中には、いくら「有名税」
であったとしても、ちょっとこれは言い過ぎ、やりすぎだろと思えるものも多
く、彼女に同情したのを覚えている。
で、岡田氏がなぜおすすめしているのかと言うと、この本を勝間版『いつま
でもデブと思うなよ』なんだと言っている。岡田氏曰くベストセラーになった
同氏の著書『いつまでもデブと思うなよ』は、やせるためのノウハウを書いて
いるようでいて、実際は自分のポジション(デブ)を別のポジション(やせ)
に変えて行く冒険談(旅行書)だという。
すなわち、この本は、勝間氏が「有名人になる」旅行記だと言うことだ。そ
うか、旅行記か・・・だったら、読んでみよう。
元々勝間氏は史上最年少の公認会計士試験合格を果たすなど能力のある人だ
ったが、女性で学生結婚して子供もいたこともあり「ビジネス社会では少数派
であり続け、解決したいさまざまな課題が見えてきてしまっていた」ことにス
トレスを感じていた。
その課題の解決方法として、SRI(社会的責任投資)のファンドをやりたい
と思った。それでまず実績作りをしようと投資顧問業を始めた。しかし会社設
立間もなくリーマンショックが発生し、顧客の多くを失うことになり、会社は
危機に陥ってしまう。
さあどうしよう・・・「わたし自身が有名になって、これまで実現できなか
った社会的責任についての発言を行える立場になればいいのだ。そして、その
活動でものすごく潤沢でなくてもいいけれども、今いる社員とその家族が困ら
ない収入を得られる道はないのか」
もともと人前に出るのが苦手な勝間氏が、そういう動機で始めた「有名人ビ
ジネス」を1年ほどで軌道に乗せたのは、なんだかんだと言っても非凡としか
言いようがないが、その最初から最後まで・・・しかも最後の章は
「オワコン」有名人としてのブームが終わる時
という章のタイトルがついている。要は彼女の有名人ビジネスの始めから終
わりまで、彼女自身がしかけた有名人ビジネスの渦中で何を考えていたのか、
あらいざらい書いているような章立てだ。これは興味深い。
第1章は有名人になるメリットとデメリット。金銭メリットはあまりないが
人脈の広がりはものすごいことになる。逆にデメリットは衆人環境の中注目さ
れて、見知らぬ人たちから批判されること。衆人環境の中で注目されるのは、
彼女が偶然ある店でメシを食っていた時に西川史子氏が入ってきて「あ、あの
有名な西川史子さんだ!」と注目せざるを得なかった自分の負い目もあって、
そういうもんだと割り切ってる。しかしネットで執拗に中傷されることについ
ては、やはり相応に傷ついていたようだ。
第二章は、ビジネス理論を駆使して実現した「有名人になる方法」ここは、
理屈はその通りだが、勝間氏が実際にこの方法で成功していなかったら、ただ
の理屈にしか見えない人がいるかも知れない。しかし、別に彼女は奇をてらっ
たことはせず正攻法でやっていたのはよくわかる。
3章は、有名人は自分一人でなろうとしてなれるものではなく、多くの協力
者がいることを書いた「有名人を作る人たち」。そして最後の第4章が先に挙
げた「『オワコン』有名人としてのブームが終わる時」とくる。
一読して思うのは、この方は決して生き方が上手な人じゃない。しかし、そ
んな彼女を理解して協力してくれる人もそれなりに多いようだ。何より人前に
出るのが苦手なオタク女子で、大学卒業時には子供もいたような人でも、本気
になればこれだけのことができる。だからみんな、自分の人生を生きようよと
背中を押すところは間違いなくある。
いわゆるカツマーは女性とロスジェネ世代がメインになっていたそうだが、
そうなった理由もよく分かった。「ビジネスの場で少数派」の人たちが見てい
るから、彼女は立ちどまることはできないし、そんな人たちからの支持がある
からがんばれるのだ・・・。
勝間氏にあまり良いイメージがない人でも一読を勧めたい。
(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)
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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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恋愛対象は身近すぎる人ばかり〜向田邦子作品の恋愛の社会学的考察〜
『思い出トランプ』(新潮文庫)
最近、合法か違法かわかりませんが(たぶん後者)、動画配信に向田邦子ド
ラマがアップされているのはなぜかと思っていたら、今年は没後40年なんです
ね。没後、折に触れて中高年向きの女性誌では「向田邦子特集」が組まれてき
ましたが、最近は見ないなと思っていたら、おばちゃまが雑誌そのものを読ま
なくなったためと、雑誌そのものが休刊相次いでいるためでした。(涙)。マ
ジ、「困ったときの向田邦子特集」は「困ったときの白洲正子特集」と並んで
女性たちの人気を得てきたのでした。
そこで読んだのがこの本。冒頭の「かわうそ」を読み返したかったのと、遠
くなりにけりな昭和を振り返りたかったからであります。
思ったのが昭和の女たちって、「家庭に閉じ込められて社会と断絶していた」
とジェンダーの方々は気の毒がりますが、小説を読む限りでは、意外に自由に
恋愛してたんだなあと思いました。(稀だから小説になったんだよということ
もあるかもですが)。
いくら社会と断絶されていたとしても、恋の炎は止められないのでありまし
ょうか? 向田邦子の小説でも独身の娘だけでなく、主婦や、出戻りの娘が今
でいうところの不倫、昔は浮気って呼んでいた恋愛をして泣いたり笑ったりし
ていたのでした。
で、気がついたのは、恋愛の相手というのが身近な人ばかりだということ。
代表作「あ・うん」での夫の親友を筆頭に、夫の同級生、出入りの店員、姉妹
の配偶者、従弟とぜんぶ、きわめて身近な人ばかり。
(同時期を描いた「ちいさなおうち」でも、ヒロインは夫の部下と恋愛する
人妻でした。)
ヨーロッパには「キューピッドの矢は遠くには飛ばない」ということわざが
あるそうで、人が身近な範囲で恋愛をするのは古今東西のあるあるだとしても、
姉妹の配偶者とかってのはやばくないですか?
で、思うのがやはり、戦前の女性は社会と疎外されていたので自然と話した
り会ったりする異性が身近に限られるということなんでしょうね。
現代なら、女性は学校にも長く行って異性の同級生もいるし、就職したら異
性の先輩同僚後輩もいる。趣味の場での出会いもあるし、なんたって今はネッ
トで知り合えちゃうんだからね〜。つまり何のしがらみもない異性と出会うこ
とが多くそこから自由に恋を選択できるというわけです。(それはそれでたい
へんですがね・笑)
そして、向田作品を読んで思ったのが、意外に今よりも家を訪れる人が多い。
つまり来客が多いってことですよね。
だって、新年には会社の上司の家に行って挨拶するんですよ。今、上司が
「正月にうちに挨拶に来いよ」なんて言ったら即刻、パワハラで訴えられます
ってば。
で、そこでお屠蘇とおせちで談笑。だから、夫の後輩の社員にほのかに思慕
を寄せる人妻なんてのが出てくるわけです。
夫の親友とプラトニックな恋をする「あ・うん」を読んでいると、いくら親
友だからといって、友達の家にこう頻繁に来ないよねと今の読者は思うと思う。
つまり、当時は今ほど、外食産業が発達してなくて居酒屋もファミレスもなか
ったので、どうしても家でおもてなしすることになるわけですね。
あと地方から来る親戚とかもビジネスホテルがないから、家に泊まることに
なる。お風呂に入る、浴衣に着替える、一緒にご飯食べる、ふすま1枚隔てた
向こうで寝る、朝起きてご飯食べる、しゃべる・・・こんな日常生活を共にす
ることから、主婦と来客が接近することになる・・・と。
法事も盛んに行われます。法事の後、家で親戚全員でご飯食べる、妻の妹が
色っぽい、義理妹がトイレに行くのと入れ違いにトイレに立つ、廊下ですれ違
う、含み笑いをする妹、それを見てキリキリする不美人の姉とかね。きわめて
スリリングです。
つまり、向田作品に描かれた恋愛は、当時の女性が家にだけいた状況と共に、
外食産業とビジネスホテルの未発達を基盤としていると判断できます。
恋愛対象は身近すぎる人ばかり。
キューピッドの矢は至近距離から飛んでくるからこそ、それることなく、ダ
イレクトにあたるのでしょうか。
ウイルス感染症拡大によって人との距離がどんどん遠くなる今、恋愛はどこ
へ行くのでしょうか? 昭和はマジ、遠くなっていくのです。
大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。
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料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。
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■あとがき
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職域なのか、知人でもワクチン打ってる人が増えてきましたが、田舎なので
私自身はまだまだ、という感じ。
ワクチンの賛否はともかく、アメリカでは、ワクチン打った人が逆に発症せ
ずにウイルスばらまいている、なんて報道も見ましたが、そこらへんのことは
考えているんでしょうかね?(あ)
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